説明

表面検査装置及び表面検査方法

【課題】回転ヘッドを高速回転しても精度良く検査できる表面検査装置及び表面検査方法を提供する。
【解決手段】ボア2の内部を検査するセンサー11と、センサー11を支持し、このセンサー11をボア2内に入れた状態でセンサー11とともに回転駆動される回転ヘッド21と、回転中のセンサー11とボア2の内部表面との間の距離変動を抑えるべくボア2の内部表面に向かって気体を噴出するエアノズル55とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴の内部を検査する表面検査装置及び表面検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両用エンジンは、シリンダーブロックのボアの内側表面がピストン摺動面となるため、摺動抵抗を抑えてエンジンに所望の性能を発揮させるべく、該摺動面を適切な表面粗さ及び面性状に維持する必要がある。このため、エンジンの製造工程では、シリンダーブロックのボア加工後にボアの表面検査が行われる。
この表面検査を行う表面検査装置には、被検査物の穴に挿入される回転可能な検査ヘッド(以下、回転ヘッドと言う)を備え、この回転ヘッドからボアの内側表面にレーザー光を照射し、その反射光を検出するレーザー変位センサーを用いて表面検査を行う装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−315804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の装置の回転ヘッドに渦電流センサー(ETセンサーとも言う)を支持し、渦電流センサーを用いてボアの表面検査を行う構成にした場合、渦電流センサーは、ボア内側表面に接近しなければボア表面に生じる渦電流を検知できないので、回転ヘッドの中心位置に配置することができない。
このため、回転ヘッドの重心位置が回転ヘッドの中心軸から偏心し、回転ヘッド回転時に回転モーメントが発生してしまう。この場合、回転ヘッドを高速回転すると、回転中心のずれや、このずれに伴う表面検査精度の低下が生じてしまい、高速回転化が難しかった。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、回転ヘッドを高速回転しても精度良く検査できる表面検査装置及び表面検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、被検査体が有する穴の内部を検査する表面検査装置において、前記穴の内部を検査するセンサーと、前記センサーを支持し、このセンサーを前記穴内に入れた状態でセンサーとともに回転駆動される回転ヘッドと、回転中の前記センサーと前記穴の内部表面との間の距離変動を抑えるべく前記穴の内部表面に向かって気体を噴出する気体噴出部材とを備えることを特徴とする。この構成によれば、回転中の前記センサーと前記穴の内部表面との間の距離変動を抑えるべく前記穴の内部表面に向かって気体を噴出する気体噴出部材を備えるので、回転ヘッドを高速回転しても精度良く検査できる。
【0007】
また、本発明は、被検査体が有する穴の内部表面に近接配置されて内部表面に発生する渦電流を検知する渦電流センサーを備え、この渦電流センサーにより穴の内部を検査する表面検査装置において、前記渦電流センサーを支持し、このセンサーを前記穴内に入れた状態で回転駆動される回転ヘッドと、回転中の前記渦電流センサーと前記穴の内部表面との間の距離変動を抑えるべく前記穴の内部表面に向かって気体を噴出する気体噴出部材とを備えることを特徴とする。この構成によれば、渦電流センサーで検査する構成において、回転中の前記渦電流センサーと前記穴の内部表面との間の距離変動を抑えるべく前記穴の内部表面に向かって気体を噴出する気体噴出部材とを備えるので、渦電流センサーを用いるために回転ヘッドの重心位置が偏心する構成であっても、回転ヘッドを高速回転して精度良く検査できる。
【0008】
上記構成において、前記気体噴出部材は、前記回転ヘッドと共に回転しつつ、前記気体を噴出する気体噴出孔を備え、かつ、前記回転ヘッドを着脱自在に覆うカバーを備えるようにしてもよい。この構成によれば、上記カバーの交換で保持力を適切に調整でき、径の異なるボアの検査に容易に対応することができる。
また、上記構成において、前記気体噴出部材は、前記気体の噴出により前記回転ヘッドを回転支持する静圧流体軸受を形成するようにしてもよい。この構成によれば、静圧流体軸受の機能で回転ヘッドを高精度に回転支持できる。
【0009】
また、本発明は、上記の表面検査装置を使用して、複数種類の穴の内部を検査する表面検査方法において、前記回転ヘッドと共に回転しつつ、前記気体を噴出する気体噴出孔を備え、かつ、前記回転ヘッドを着脱自在に覆うカバーを、前記穴の内径に応じたカバーに交換すること、及び、前記気体噴出孔から噴出する気体の圧力を、前記孔の内径に応じた圧力に変更すること、の少なくともいずれかを行うようにしてもよい。この構成によれば、上記カバーの交換、及び、上記気体の圧力変更で、複数種類の穴の内部を検査する際に、回転ヘッドを高速回転しても精度良く検査できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、被検査体が有する穴の内部を検査する表面検査装置において、回転中のセンサーと穴の内部表面との間の距離変動を抑えるべく穴の内部表面に向かって気体を噴出する気体噴出部材を備えるので、回転ヘッドを高速回転しても精度良く検査できる。
また、被検査体が有する穴の内部表面に近接配置される渦電流センサーを備え、この渦電流センサーにより穴の内部を検査する表面検査装置において、回転中の渦電流センサーと穴の内部表面との間の距離変動を抑えるべく穴の内部表面に向かって気体を噴出する気体噴出部材を備えるので、渦電流センサーを用いるために回転ヘッドの重心位置が偏心する構成であっても、回転ヘッドを高速回転して精度良く検査できる。
【0011】
また、気体噴出部材は、回転ヘッドと共に回転しつつ、気体を噴出する気体噴出孔を備え、かつ、回転ヘッドを着脱自在に覆うカバーを備えるようにすれば、上記カバーの交換で保持力を適切に調整でき、径の異なるボアの検査に容易に対応することができる。
また、気体噴出部材は、気体の噴出により回転ヘッドを回転支持する静圧流体軸受を形成するようにすれば、静圧流体軸受の機能で回転ヘッドを高精度に回転支持できる。
また、回転ヘッドと共に回転しつつ、気体を噴出する気体噴出孔を備え、かつ、回転ヘッドを着脱自在に覆うカバーを、穴の内径に応じたカバーに交換すること、及び、気体噴出孔から噴出する気体の圧力を、孔の内径に応じた圧力に変更すること、の少なくともいずれかを行うようにすれば、複数種類の穴の内部を検査する際に、回転ヘッドを高速回転しても精度良く検査できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る表面検査装置を示す図である。
【図2】表面検査装置の主要部を電気的構成と共に示す図である。
【図3】回転ヘッドの斜視図である。
【図4】ヘッドカバーの斜視図である。
【図5】(A)はヘッドカバーの下面図、(B)は(A)のB−B断面図、(C)は(A)のC−C断面図である。
【図6】(A)はボア径が大の場合のヘッドカバーを装着した回転ヘッドの構造を示し、(B)は、ボア径が小の場合のヘッドカバーを装着した回転ヘッドの構造を示す図である。
【図7】(A)はボア径が大の場合のヘッドカバーを装着した場合のセンサー位置の説明に供する図であり、(A)はボア径が小の場合のヘッドカバーを装着した場合のセンサー位置の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る表面検査装置10を示す図であり、図2は、表面検査装置10の主要部を電気的構成と共に示す図である。
この表面検査装置10は、被検査体であるシリンダーブロック1(図2参照)のボア2の内部を検査する表面検査装置である。すなわち、自動車用エンジンの製造工程には、金型鋳造されたシリンダーブロック1のボア(シリンダーボアとも言う)2にボーリング加工やボア内壁面2Aを研磨するホーニング加工を行った後、ボア内壁面2Aに傷や巣がないか否かを検査するボア検査工程があり、このボア検査工程で本表面検査装置10が使用される。
【0014】
シリンダーブロック1は、自動車用4サイクルエンジンのシリンダーブロックであり、ボア2となる断面円形の貫通孔を備えた筒状のワーク(筒ワーク)である。このシリンダーブロック1は、アルミニウム合金や鋳鉄などの金属材で形成され、エンジンの気筒数や配列に応じて複数のボア2が間隔を空けて形成される。
シリンダーブロック1のボア2は、エンジンのピストン(不図示)が摺動するピストン摺動面となるため、適切なボア径、表面粗さ及び面性状を得るべくボーリング加工及びホーニング加工が施される。
このボーリング加工では、回転軸に設けたボーリングヘッドに切削バイトを径方向に突設し、該ボーリングヘッドを回転させながら筒ワークとしてのシリンダーブロック1に対して進退させてボア径を予め設定された目標ボア径まで切削する。このボーリング加工により、ボア内壁面2Aには、方向性を有する螺旋状の切削痕ができる。その後、ボア内壁面2Aに対して、螺旋状の切削痕をエンジンオイルの通り道(オイルピット)として利用可能な程度だけ残しつつ、エンジンの所望の性能を発揮可能な表面粗さ及び面性状を得るべく、ホーニング用砥石を配設した加工ヘッドを用いてホーニング加工が施される。
【0015】
シリンダーブロック1は、仕上げ工程であるホーニング加工を経た後に図示せぬ搬送機構により搬送され、ボア検査工程のエリアへと運ばれる。この場合、シリンダーブロック1は、車両搭載時と略同じ姿勢、つまり、ボア開口を上方に向けた姿勢でボア検査工程へ搬送され、この状態でボア2の内在物を除去する内在物除去処理を行った後にボア2の表面検査が行われる。以下に示す上下方向などの各方向は、図1に示す方向に従うものとする。
【0016】
表面検査装置10は、非接触式の検査用センサーとして単一の渦電流センサー(ETセンサーとも言う)11を備え、この渦電流センサー11でボア内壁面2Aを走査することによってボア2の表面形状を非接触で検査可能に構成されている。すなわち、ボア内壁面2Aを渦電流センサー11で走査しながら渦電流センサー11が備える励磁コイルに高周波電流を供給し、導電体からなるシリンダーブロック1の表層部に電磁誘導作用によって渦電流を発生させ、傷や巣などの形状変化がある部分での渦電流の乱れを、渦電流センサー11が備える検出コイルで検出することにより、欠陥の有無などを非接触で検出することができる。
この表面検査装置10は、大別すると、渦電流センサー11を支持し、シリンダーブロック1のボア2内を進退自在でボア2内で回転する回転ヘッド21と、この回転ヘッド21が着脱自在に装着される装置本体31と、表面検査装置10の各部を制御する制御装置101とを備えている。
【0017】
装置本体31は、回転ヘッド21を着脱自在なヘッド装着部32(図1、図2参照)と、回転ヘッド21を駆動する駆動機構33(図2参照)とを備えている。この駆動機構33は、回転ヘッドを回転駆動する回転駆動機構34と、回転ヘッド21を上下方向及び左右方向に移動駆動する移動駆動機構35とを備えている。
図1に示すように、装置本体31は、先端(下端)にヘッド装着部32が連結されて上方向に直線的に延びる主軸36と、移動駆動機構35によって上下方向及び左右方向に移動駆動される矩形状の移動台37とを備えている。この移動台37には、主軸36を回転自在に支持する軸受を収容する軸受ハウジング(軸受箱とも言う)38と、この主軸36に回転伝達機構(本実施形態ではギア伝達機構)39を介して連結される回転駆動モータ40とが固定されている。
【0018】
移動駆動機構35は、上下駆動用の送りねじ機構と左右駆動用の送りねじ機構とで構成されており、上記移動台37を上下方向及び左右方向に移動することによって、主軸36、軸受ハウジング38及び回転駆動モータ40を上下左右に移動する。この主軸36の上下移動により回転ヘッド21がボア2内を進退し、主軸36の左右移動により回転ヘッド21の左右位置が調整され、或いは、回転ヘッド21が隣のボア2側へと移動される。なお、移動駆動機構35は送りねじ機構に限らず、公知の他の機構を用いてもよい。
また、上記回転駆動モータ40及び回転伝達機構39は、回転駆動機構34を構成し、回転駆動モータ40を駆動することにより主軸36が回転駆動されて回転ヘッド21が回転する。なお、回転伝達機構39はギア伝達機構以外を用いてもよい。これらの回転駆動機構34及び移動駆動機構35は、制御装置101の位置制御部102によって制御される。
【0019】
上記主軸36の後端(上端)には、主軸36と同軸で上方向に直線的に延びるサブ軸42が連結されており、このサブ軸42は、移動台37において、主軸用の軸受ハウジング38の上方向に間隔を空けて設けられた軸受ハウジング(軸受箱とも言う)43内に収容された軸受に回転自在に支持される。
この軸受ハウジング43には、エアカプラ44が設けられており、このエアカプラ44は、サブ軸42内を通って主軸36に向かって延びるエア通路(以下、サブ軸側エア通路と言う)51に連通する。
上記エアカプラ44には、不図示のエアホースが接続され、このエアホースから高圧のエアが供給されることによって、高圧のエアがエアカプラ44を介してサブ軸側エア通路51に供給されるように構成されている。
【0020】
上記主軸36には、上記サブ軸側エア通路51に連通するエア通路(以下、主軸側エア通路と言う)52が設けられており、この主軸側エア通路52の出口52Aは、ヘッド装着部32の下方に開口する。これによって、本構成では、回転体である主軸36内にエアが通される。
ここで、このエアカプラ44にエアを供給するか否かは、制御装置101内のエア制御部103が制御する。このエア制御部103は、不図示の開閉弁の開閉制御を行うことによって、エアカプラ44へのエア供給/エア供給停止を切り替える。
【0021】
制御装置101の情報処理部104は、位置制御部102の制御の下、駆動機構33によって渦電流センサー11をボア内壁面2Aの検査範囲全体(例えば、ピストン摺動範囲)に渡って走査する間、渦電流センサー11を駆動させて渦電流センサー11の検出信号を入力し、この検出信号に基づいてボア内壁面2Aに傷や巣などの欠陥がないか否かを判定し、判定結果を出力する。この判定結果を得るための処理は公知の方法を適用すればよく、この判定結果は、例えば表示装置、印刷装置又は外部端末などの出力先の装置に出力され、作業者に通知される。
【0022】
図3は回転ヘッド21の斜視図である。図3中、符号11Aは、渦電流センサー11のセンサーヘッドである。
回転ヘッド21は、渦電流センサー11を横向きで支持してセンサーヘッド11Aをボア内壁面2Aに向けて支持する略筒状のヘッド本体22と、ヘッド本体22の上部に設けられた凸条の係合部23とを一体に備えている。この回転ヘッド21は、上記係合部23をヘッド装着部32(図2参照)に設けられた凹溝32A(図2参照)に挿入した状態でヘッド装着部32に装着され、これによって、ヘッド装着部32に位置決め固定される。ここで、図3中、符号53は、主軸側エア通路52の出口52Aに連通するエア通路(ヘッド側エア通路)であり、符号23Aは、回転ヘッド21をヘッド装着部32に固定するための不図示の固定用部材を挿通するヘッド固定用孔である。
また、このヘッド本体22の周壁部22Aには、渦電流センサー11が入る切り欠き部22Bが設けられており、この渦電流センサー11は、切り欠き部22Bに嵌るように支持され、ヘッド本体22に設けられたスライド機構25を介して回転ヘッド21の径方向に移動自在に支持される。
【0023】
ところで、検査を短時間で行うには回転ヘッド21を高速回転することが臨まれる。しかし、回転ヘッド21を高速回転するほど、回転ヘッド21の重心位置と回転中心とのずれの影響が大きくなり、大きな回転モーメントの発生により回転中心がずれてしまう。
特に、渦電流センサー11の場合、ボア内壁面2Aに近接して配置する必要があるため、センサー11を装着した回転ヘッド21の重心位置が軸中心から偏心しており、回転ヘッド21の偏心回転時には渦電流センサー11とボア内壁面2Aとの距離変動により検出信号に変動が生じ、回転ヘッド21の高速化が難しい。
そこで、本実施形態では、図3に示すように、エアをボア内壁面2Aに向けて噴出する気体噴出部材として機能するヘッドカバー71を設けている。
【0024】
図4はヘッドカバー71の斜視図である。また、図5(A)(B)(C)はヘッドカバー71を示す図であり、具体的には、図5(A)はヘッドカバー71の下面図、図5(B)は図5(A)のB−B断面図、図5(C)は図5(A)のC−C断面図である。また、このヘッドカバー71は、ボア内壁面2Aとの間の距離M(図2参照)が予め定めた距離となる外径に形成され、つまり、シリンダーブロック1のボア径に応じて交換される交換部品である。
ここで、図6(A)は、ボア径D1が大の場合に対応する大型のヘッドカバー71を装着した回転ヘッド21の構造を示し、図6(B)は、ボア径D2が小の場合に対応する小型のヘッドカバー71を装着した回転ヘッド21の構造を示している(D1>D2)。なお、図6中、符号Rは、回転ヘッド21の回転方向を示している。また、符号61は、渦電流センサー11を回転ヘッド21に取り付けるためのボルト(締結部材)である。
【0025】
図3及び図4に示すように、このヘッドカバー71は、回転ヘッド21の周囲を覆う円筒形状の覆い部72と、この覆い部72の下縁から内周側に延在する環状板部73とを一体に備え、全体が金属材で形成されている。なお、金属材に限らず、樹脂材などの金属材以外の剛性を有する剛性材で形成してもよい。
このヘッドカバー71の覆い部72には、渦電流センサー11のセンサーヘッド11Aを露出させる円形の窓部74Aが形成されると共に、この窓部74に対しヘッドカバー71の軸対称位置にも同形状の窓部74Bが形成される。これによって、ヘッドカバー71の左右バランスが揃うと共に、いずれの窓部74A、74Bからもセンサーヘッド11Aを露出させることができ、渦電流センサー11の取付自由度が向上する。
【0026】
ヘッドカバー71の環状板部73は、図4及び図5(A)に示すように、回転ヘッド21のヘッド本体22の下方を覆うように環状に延びている。このため、環状板部73は中央に貫通穴を有し、ヘッドカバー71が軽量化される。
この環状板部73には、周方向に間隔を空けて、ヘッド本体22の下面にボルト締結するための第1貫通孔75と、渦電流センサー11を位置決めするための位置決めピン81(図2、図6(A)(B)参照)を通す第2貫通孔76と、ヘッド本体22とヘッドカバー71とを位置決めするための位置決めピン(不図示)を通す第3貫通孔77とが形成される。
【0027】
これら第1〜第3貫通孔75〜77の位置は、ボア径に応じて外径が異なるヘッドカバー71で全て共通に形成される。このため、図6(A)(B)に示すように、ヘッドカバー71の第1貫通孔75に下方からボルト82を挿通し、このボルト82をヘッド本体22に締結することによって、いずれのヘッドカバー71も同一の回転ヘッド21に固定することができる。
また、環状板部73と覆い部72とが連結される連結部分80は、環状板部73よりも肉厚に形成されて上方に環状に出っ張り、ヘッド本体22の先端部が嵌って位置決めする位置決め穴としても機能する。これによって、連結強度が十分に確保されると共に、ヘッド本体22の先端部にヘッドカバー71を位置決めできる。
【0028】
また、回転ヘッド21へ固定する際、図7(A)(B)に示すように、スライド機構25によって渦電流センサー11の位置を調整しておき、第2貫通孔76に通した位置決めピン81を渦電流センサー11に設けられた穴部に挿入する構成を具備するので、ヘッドカバー71毎に渦電流センサー11を一意の位置に位置決めできる。
このように、シリンダーブロック1のボア径D1、D2に応じて交換されるヘッドカバー71毎に、渦電流センサー11の位置を簡易に位置決めできるので、ボア内壁面2Aとセンサーヘッド11Aとの距離M(図2参照)をボア内壁面2Aに近接した一定距離に調整することができる。
【0029】
ヘッドカバー71には、図5(A)(C)に示すように、回転ヘッド21に設けられたヘッド側エア通路53(図6(A)(B))に連通するエア通路(以下、ヘッドカバー側エア通路と言う)54が形成されている。
ここで、図6(A)(B)に示すように、ヘッド側エア通路53は、単一のエア入口(ヘッド側エア入り口)53Aから分岐して周方向に間隔を空けて複数に分岐している。
まず、ヘッド側エア通路53について詳述すると、ヘッド側エア通路53は、回転ヘッド21の係合部23内を上下に延びてヘッド本体22内へ延びる単一のヘッド側エア入口53Aと、このエア入口53Aの下端から分岐し、ヘッド本体22内を周方向に間隔(本例では90度間隔)を空けて略水平に外周側に延びる複数(本例では4本)のヘッド側分岐エア通路53Bと、ヘッド側分岐エア通路53Bの外周側端部からヘッド本体22内を下方に延びて下端が開口する複数本(4本)のヘッド側エア出口53Cとを備えている。なお、図6(A)(B)中、符号85は、ヘッド側エア通路53及びヘッドカバー側エア通路54の途中からエアが漏れないようにするための埋め材である。
【0030】
次にヘッドカバー側エア通路54について詳述する。ヘッドカバー側エア通路54は、図5(A)〜(C)に示すように、上記複数のヘッド側エア出口53Cに各々連通するように等角度間隔(90度間隔)で環状板部73に形成されたエア入口(ヘッドカバー側エア入口)54Aと、各々のエア入口54Aから2つに分岐して略水平に外周側に各々延びるカバー側第1エア通路54Bと、各カバー側第1エア通路54Bの外周側端部から上方に延出するようにヘッドカバー71の覆い部72内に形成されたカバー側第2エア通路54Cとを備えている。
【0031】
また、ヘッドカバー71の覆い部72には、この覆い部72内に設けられた複数のカバー側第2エア通路54C内のエアを、ボア内壁面2Aに向けて噴出させる上下一対のエアノズル(気体噴出孔)55が設けられている。
ボア径に応じて異なるヘッドカバー71は、図6(A)(B)に示すように、ヘッドカバー71外径の変化に応じて覆い部72の径とヘッドカバー側エア通路54の上記カバー側第1エア通路54Bの長さとが変更される点を除いて、同形状に形成されるようになっている。
【0032】
上記エアノズル55は、他のエア通路54A〜54Cなどに比して小径に形成され、このエアノズル55に供給されるエアの流速を高めてエアを高速噴射する。ここで、図6(A)(B)には、エアノズル55からのエアの流れを矢印で示している。
このようにして、ヘッドカバー71には、上下一対のエアノズル55が周方向に間隔(90度間隔)を空けて形成され、全体として16個のエアノズル55が設けられる。本構成では、回転ヘッド21側からボア内壁面2Aに向かってエアを噴出するエアノズル55が設けられるので、エアノズル55から噴出された高圧のエアが、ヘッドカバー71とボア内壁面2Aとの間の隙間に強制的に供給され、ヘッドカバー71を介して回転ヘッド21の回転中心のずれを抑える保持力が生じるようになっている。
【0033】
この保持力は、エアノズル55の径、形状、個数、エア圧及びヘッドカバー71とボア内壁面2Aとの間の距離などによって変動するが、本構成では、エアノズル55の径、形状及び個数を予め設定しておくことで、回転中の渦電流センサー11とボア内壁面2Aとの間の距離Mの変動量を予め設定した許容範囲内に抑える保持力に調整されている。
なお、エアノズル55の長さはヘッドカバー71の外径が変化しても同一になるように形成されており、これにより、エアノズル特性(エア噴出速度やエア噴出位置など)が揃うように構成されている。また、上記エアノズル55の長さが同じになるようにヘッドカバー71の覆い部72の肉厚も一定値に揃えられている。
【0034】
これにより、ヘッドカバー71が、回転ヘッド21を覆って保護する保護カバーとして機能するだけでなく、回転中の渦電流センサー11とボア内壁面2Aとの間の距離変動を抑える保持力を得る保持力形成体として機能し、言い換えれば、回転ヘッド21を回転支持する静圧流体軸受を形成する機能部材として機能する。このため、静圧流体軸受の機能を具備し、例えば、軸と軸受の間に形成される潤滑流体膜が比較的厚く,軸と軸受面の形状誤差の影響を緩和して滑らかな運動を実現し、運動精度,回転精度に関して優れた特性を有するなどの効果を得ることができる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態によれば、回転中の渦電流センサー11とボア内壁面2Aとの間の距離変動を抑えるべくボア内壁面2Aに向かってエアを噴出するエアノズル55を設けたので、渦電流センサー11を用いるために回転ヘッド21の重心位置が回転ヘッド21の中心軸L1から偏心する構成であっても、高速回転時の回転ヘッド21の振れを抑えて渦電流センサー11とボア内壁面2Aとの間の距離Mを略一定にできる。このため、高速回転しても高精度かつ迅速に表面の検査をすることができる。
しかも、本構成では、エアノズル55が、周方向に間隔を空けて複数形成されるので、ボア内壁面2Aの全周に渡ってエアを効率よく送ることができ、回転ヘッド21の回転時の保持力を適切に確保できる。さらに、エアノズル55は、図6(A)(B)に示すように、渦電流センサー11のセンサーヘッド11Aを通る水平面L2に対して上下の位置であって、上側が水平面L2近傍、下側が回転ヘッド21先端部に配置されるので、センサーヘッド11A部分の振れを効率よく抑えることができる。
【0036】
また、本構成では、回転体である主軸36、回転ヘッド21及びヘッドカバー71の中にエアを通して回転体を回転支持する保持力を得るので、回転体の周囲に配置される周囲部品からエアなどの流体を出して回転体を回転支持する一般的な静圧軸受とは構成が異なる。この構成の違いにより、回転体の周囲部品にエアなどの流体を吹き出す構成が不要となり、回転体の周囲部品を簡素化でき、全体としてスリム化できる。このため、シリンダーブロック1の小径のボア2内の検査に好適な表面検査装置10を構成することが可能になる。また、回転体の回転モーメントを、高強度のシリンダーブロック1のボア内壁面2Aで受けるので、回転体を安定支持する支持力を適切に得ることができ、高精度かつ迅速に表面の検査を行うことができる。
【0037】
また、本構成では、回転ヘッド21と共に回転しつつ、エアノズル55を備え、かつ、回転ヘッド21を着脱自在に覆うヘッドカバー71を備えるので、ヘッドカバー71を交換してヘッドカバー71とボア2との隙間を変更することで、複数種類のボア径に対する保持力を各々調整できる。このため、このヘッドカバー71の交換で保持力を適切に調整でき、径の異なるボア2の検査にヘッドカバー71の交換だけで対応できるので、検査前の準備作業も簡易である。また、回転ヘッド21を高速回転させるための機能部材(気体噴出部材)に回転ヘッド21を保護する保護機能を持たせることができ、別々に設ける場合に比して、部品点数の増加も回避できる。
【0038】
さらに、本構成では、ヘッドカバー71をシリンダーブロック1のボア径に応じて交換して複数種類のボアの検査に対応する場合を説明したが、これに代えて、或いは、これに加えて、エアノズル55から噴出するエアの圧力を、ボア径に応じた圧力に変更することによって十分な保持力を得るようにし、複数種類のボアの検査に対応するようにしてもよい。この場合、ボア径が大きくなるほど供給エアの圧力を高め、ボア径が小さくなるほど供給エアの圧力を弱めればよい。このようにすれば、ヘッドカバー71の種類を低減することが可能になる。
【0039】
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形可能である。例えば、上述の実施形態では、エアノズル55を有する気体噴出部材を、ヘッドカバー71で構成する場合を説明したが、これに限らない。要は、回転中の渦電流センサー11とボア内壁面2Aとの間の距離変動を抑える位置にエアノズル55を配置すればよく、気体噴出部材をエアノズル55だけで構成してもよい。
また、上述の実施形態では、エアを吹き出す構成を説明したが、エア以外の気体(流体)を吹き出す構成にしてもよい。また、上述の実施形態では、自動車用エンジンのシリンダーブロックのボアを検査する表面検査装置に本発明を適用する場合について説明したが、これに限らず、自動二輪車用エンジンなどのレシプロエンジンのボアを検査する検査装置や、シリンダーブロック以外の被検査体が有する穴を検査する検査装置に本発明を適用することができる。また、この検査装置が備えるセンサーも渦電流センサーに限らず、他のセンサーでも本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 シリンダーブロック(被検査体)
2 ボア(穴)
2A ボア内壁面
10 表面検査装置
11 渦電流センサー
21 回転ヘッド
33 駆動機構
34 回転駆動機構
35 移動駆動機構
44 エアカプラ
52 主軸側エア通路
53 ヘッド側エア通路
54 ヘッドカバー側エア通路
55 エアノズル
71 ヘッドカバー(気体噴出部材)
101 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体が有する穴の内部を検査する表面検査装置において、
前記穴の内部を検査するセンサーと、
前記センサーを支持し、このセンサーを前記穴内に入れた状態でセンサーとともに回転駆動される回転ヘッドと、
回転中の前記センサーと前記穴の内部表面との間の距離変動を抑えるべく前記穴の内部表面に向かって気体を噴出する気体噴出部材と
を備えることを特徴とする表面検査装置。
【請求項2】
被検査体が有する穴の内部表面に近接配置されて内部表面に発生する渦電流を検知する渦電流センサーを備え、この渦電流センサーにより穴の内部を検査する表面検査装置において、
前記渦電流センサーを支持し、このセンサーを前記穴内に入れた状態で回転駆動される回転ヘッドと、
回転中の前記渦電流センサーと前記穴の内部表面との間の距離変動を抑えるべく前記穴の内部表面に向かって気体を噴出する気体噴出部材と
を備えることを特徴とする表面検査装置。
【請求項3】
前記気体噴出部材は、前記回転ヘッドと共に回転しつつ、前記気体を噴出する気体噴出孔を備え、かつ、前記回転ヘッドを着脱自在に覆うカバーを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面検査装置。
【請求項4】
前記気体噴出部材は、前記気体の噴出により前記回転ヘッドを回転支持する静圧流体軸受を形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表面検査装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表面検査装置を使用して、複数種類の穴の内部を検査する表面検査方法において、
前記回転ヘッドと共に回転しつつ、前記気体を噴出する気体噴出孔を備え、かつ、前記回転ヘッドを着脱自在に覆うカバーを、前記穴の内径に応じたカバーに交換すること、及び、前記気体噴出孔から噴出する気体の圧力を、前記孔の内径に応じた圧力に変更すること、の少なくともいずれかを行うことを特徴とする表面検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−95100(P2011−95100A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249336(P2009−249336)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】