表面波装置
【課題】高次横モードを効果的に抑圧でき、かつ回折劣化を抑制でき、通過帯域近傍の減衰特性の急峻性に優れた表面波装置を提供する。
【解決手段】表面波基板上に第1,第2のバスバー22,23と、第1及び/または第2のバスバー22,23に電気的に接続された複数本の電極指とを有するIDT21が形成されており、第1,第2のバスバー22,23が、反射係数が小さい格子領域を有する、表面波装置。
【解決手段】表面波基板上に第1,第2のバスバー22,23と、第1及び/または第2のバスバー22,23に電気的に接続された複数本の電極指とを有するIDT21が形成されており、第1,第2のバスバー22,23が、反射係数が小さい格子領域を有する、表面波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IDTが表面波基板上に形成された表面波装置に関し、より詳細には、IDTのバスバーの構造が改良された表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面波装置は、高性能、軽量及び小型であるため、携帯用移動帯通信機器などに広く利用されている。近年、急速に普及しているCDMA通信システムにおいても、中間周波フィルタとして表面波装置が用いられている。CDMA通信システムにおける中間周波フィルタでは、従来のアナログ通信システムの中間周波フィルタに比べて、通過帯域近傍の減衰特性が急峻であること、及び位相の直線性が良好であることが要求されている。
【0003】
ところで、表面波伝搬方向に対して横方向にエネルギーを閉じ込めつつ表面波が伝搬される導波路は、表面波導波路と呼ばれている。表面波導波路では、音速の遅い導波領域が、音速の速い両側の領域で挟まれている。導波領域において、表面波は一定の角度で効率良く伝搬し、この角度で伝搬する波が導波モードと呼ばれている。
【0004】
また、導波モードの条件を満たさないで伝搬する波は減衰しつつ伝搬し、この波は漏洩モードと呼ばれている。IDT(インターデジタルトランスデューサ)や反射器を伝搬する表面波では、損失や回折劣化が少ないほど好ましい。従って、IDTや反射器を伝搬する表面波としては、導波モードが利用される。
【0005】
一般に、表面波装置は、水晶やタンタル酸リチウムなどの圧電基板を用いて構成されている。圧電基板では、表面波の伝搬する方向により音速が異なる。すなわち、圧電基板は、表面波の音速に関して異方性を有する。このような異方性を有する圧電基板上に配置されたIDTにおいて、導波モードを形成する方法は、例えば、下記の非特許文献1に記載されている。すなわち、逆速度面が凸である圧電基板では、IDTの交差領域の速度をバスバー領域の速度よりも遅くすればよい。また、逆速度面が凹である圧電基板を用いる場合には、IDTの交差領域における速度を、バスバー領域の速度よりも早くすればよい。
【非特許文献1】リアライズ社、橋本研也著「弾性表面波(SAW)デバイスシミュレーション技術入門」第145頁〜第153頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、IDTや反射器を導波モードで利用した場合、利用しようとする基本モードの他に高次横モードが発生する。
【0007】
また、本願発明者は、IDTのバスバーの幅が広すぎる場合、バスバー部分にエネルギーを集中させて伝搬する伝搬モードが発生し、該伝搬モードがスプリアスとなることを見出した。この伝搬モードは高次横モードの一種と考えられるが、従来、このような伝搬モードを十分に抑制することはできなかった。
【0008】
他方、高次横モードが発生すると、中間周波フィルタなどの表面波装置を構成した場合、高次横モードの応答により通過特性が歪み、通過帯域近傍の減衰特性や位相の直線性が劣化することになる。従って、従来の表面波装置では、高次横モードの抑制が充分に行われ得なかったため、通過帯域近傍の減衰性や位相の直線性が十分でないという問題があった。
【0009】
また、IDTや反射器を導波モードではなく、漏洩モードを利用して構成したり、横モードを抑制するために開口幅を狭めたりした場合には、IDTや反射器を伝搬する表面波がIDTや反射器以外に漏洩することとなる。そのため、回折劣化により、フィルタ特性が劣化し、通過帯域近傍の減衰特性が劣化するという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、高次横モードを抑制でき、従って通過帯域近傍の減衰特性が急峻であり、かつ位相の直線性が良好な表面波装置を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、高次横モードを抑圧することができ、さらに回折劣化の抑制を図ることができ、通過帯域近傍の減衰特性が急峻であり、かつ位相の直線性が良好な表面波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の広い局面によれば、表面波基板と、前記表面波基板上に形成された導波路形成用電極とを備え、前記導波路形成用電極が、表面波伝搬方向に延び、互いに隔てられた第1,第2のバスバーと、第1及び/または第2のバスバーに電気的に接続された複数本の電極指とを有し、前記第1,第2のバスバーが、反射係数が小さい格子領域を有する、表面波装置が提供される。
【0013】
本発明のある特定の局面では、前記格子領域の音速が、第1,第2のバスバー間のグレーティング領域及び該バスバーにおける格子領域以外の領域の音速よりも速くされている。
【0014】
上記格子領域は、好ましくは、第1,第2のバスバー間のグレーティング領域に連なるように配置されている。
【0015】
本発明のさらに他の特定の局面では、上記導波路形成用電極の表面波伝搬方向の電極指配置周期に対し、上記格子領域における表面波伝搬方向に平行な配置周期が5%以上ずらされている。
【0016】
本発明においても、上記導波路形成用電極としては、IDTまたは反射器が用いられる。また、本発明に従って構成されたIDT及び反射器の双方を表面波装置が有していてもよい。
【0017】
本発明のある特定の局面では、トランスバーサル型フィルタが構成される。一般に、トランスバーサル構造の表面波フィルタは、重み付けなどにより帯域外減衰量を縦続接続せずに30dB以上確保することが要求される。このため、伝搬する表面波の強度と位相関係は厳密に管理する必要がある。回折劣化や高次横モードが発生したり、バスバー領域で反射を生じたりすると、前記表面波の強度と位相関係が著しく損なわれる。
【0018】
本発明は、回折劣化や高次横モードを抑圧し、バスバー領域の反射が小さいため、トランスバーサル構造の表面波フィルタにおいて、特に効果を発揮する。
【0019】
ここで、トランスバーサル構造の表面波フィルタとは、ダブル電極を利用して重み付けを施した構造や、一方向性電極をIDT内に分散配置した構造、そして、IDT内に一方向性電極などの反射電極を埋め込んで、反射電極による共振を利用した構造などが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、導波路形成用電極において、第1,第2のバスバーがバスバーの残りの領域に比べて反射係数が小さい格子領域を有するので、回折による劣化を抑制することができ、通過帯域近傍の減衰量特性を急峻とすることができる。従って、良好なフィルタ特性を有する表面波装置を提供することができる。
【0021】
第1,第2のバスバー間のグレーティング領域及び該バスバーにおける格子領域以外の領域よりも、格子領域の音速が速い場合には、表面波が交差領域により確実に閉じ込められ、回折劣化を確実に抑制することができる。
【0022】
上記格子領域がグレーティング領域に連なるように配置されている場合には、回折による劣化を抑制することができ、かつ高次横モードを効果的に抑制することができる。
【0023】
導波路形成用電極の表面波伝搬方向の配置周期に対して、上記格子領域の表面波伝搬方向に平行な配置周期が5%以上ずれている場合には、ブラッグ反射が起こり難く、かつ格子領域の反射係数が効果的に小さくされ得る。
【0024】
また、本発明においても、上記導波路形成用電極としては、IDTまたは反射器が用いられる。IDTとして、入力側IDT及び出力側IDTを有する場合には、本発明に従ってトランスバーサル型フィルタを構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施形態を図面を参照しつつ説明することにより、本発明を明らかにする。以下の説明においては、従来技術と対比することにより、本発明の具体的な実施形態を説明することとする。
【0026】
図2は、表面波装置のIDTの模式的平面図である。以下の説明を明確にするために、IDTの各領域を以下のように定義する。
【0027】
すなわち、IDT1では、第1,第2のバスバー2,3が表面波伝搬方向に延びており、かつ互いに所定距離を隔てて隔てられている。第1のバスバー2には、複数本の第1の電極指4が電気的に接続されており、第2のバスバー3には、複数本の第2の電極指5が電気的に接続されている。第1,第2の電極指4,5は互いに間挿し合うように配置されている。
【0028】
なお、図2では、第1,第2の電極指4,5の先端側に、相手側のバスバーに電気的に接続されたダミー電極6,7は設けられているが、ダミー電極6,7が必ずしも設けられずともよい。
【0029】
IDT1において、第1,第2のバスバー2,3間の領域を、以下、グレーティング領域とすることとする。このグレーティング領域の表面波伝搬方向と直交する方向の寸法を、開口幅と称することとする。
【0030】
また、第1,第2の電極指4,5が表面波伝搬方向において重なり合っている領域が交差領域であり、該交差領域の表面波伝搬方向と直交する方向の寸法を交差幅Kとする。また、ダミー電極6,7の長さをダミー電極長Dとする。ダミー電極6,7の長さとは、表面波伝搬方向と直交する方向のダミー電極6,7の寸法をいうものとする。
【0031】
また、第1,第2のバスバー2,3の幅方向寸法とは、表面波伝搬方向と直交する方向の寸法Wをいうものとする。
【0032】
従って、圧電基板上にIDTが形成されている構造においては、図7に略図的に示されているように、表面波伝搬方向と直交する方向において、グレーティング領域の両側に第1,第2のバスバーで構成される各バスバー領域が配置されており、バスバー領域の外側には、IDTが設けられていない自由表面領域が位置していることになる。
【0033】
表面波装置のIDTにおいて、バスバー領域外側の自由表面領域の影響が無視できると仮定し、バスバーの幅が十分に広い場合には、表面波はグレーティング領域とグレーティング領域の外側のバスバー領域に、エネルギーが閉じ込められつつ伝搬することとなる。「弾性表面波(SAW)デバイスシミュレーション技術入門(リアライズ社、橋本研也著)第145頁〜第153頁」の記載によれば、横モードはグレーティング領域とバスバー領域の音速比と、圧電基板の音速の異方性を表す異方性定数ξにより決定される。
【0034】
水晶基板上にアルミニウムを用いてIDTを形成し、IDTのバスバー領域はベタメタルで構成され、さらに水晶基板の上面においてIDTを被覆するようにZnO薄膜を形成した表面波装置を、下記の表1に示す条件で作製した。このときの導波モードの振幅レベルは図3に示す通りとなる。なお、表1において、λはIDTの電極指周期を示し、IDTの動作中心周波数におけるIDT内を伝搬する表面波の波長とほぼ等しい。
【0035】
ZnO/IDT/水晶基板では、グレーティング領域における音速と、バスバー領域の音速とが近接している。従って、電極指のデューティー比や膜厚、並びにZnO薄膜の膜厚により、グレーティング領域の音速及びバスバー領域の音速のいずれが高速となるかが左右される。グレーティング領域の音速をVg、バスバー領域の音速をVmとしたとき、下記の表1に示す条件では、音速比Vg/Vmは0.99662となる。また、圧電基板の異方性定数ξは正となる。
【0036】
なお、図3は表1に示す条件でIDTの開口幅を種々変化させた場合のモード振幅比の変化を示す図である。ここで、モード振幅とは、グレーティング領域のモード振幅の積分値を、全体のモード振幅の積分値で除算した値であり、それぞれのモードにおけるIDTの電気音響変換効率を表す。図3における各モードの振幅比とは、各モードのモード振幅を、基本モードS0のモード振幅で除算した値である。
【0037】
【表1】
【0038】
図3から明らかなように、音速比Vg/Vm=0.99662の場合には、開口幅を13λ以下とすれば、高次横モードS1,S2(高次横モードS3は図3では表れていない)をカットオフすることができ、基本モードS0のみを導波させ得ることがわかる。
【0039】
図4は、上記音速比Vg/Vmを0.99000としたことを除いては、上記と同様にして構成された表面波装置におけるモード振幅比と開口幅との関係を示し、図5は、音速比Vg/Vmを0.9975としたことを除いては、上記と同様にして表面波装置を構成した場合のモード振幅比と開口幅との関係を示す図である。
【0040】
図4から明らかなように、Vg/Vm=0.9900の場合においては、開口幅を16λ以下とすれば、高次横モードであるモードS1〜S3をカットオフすることができる。また、Vg/Vmが0.9975の場合には、開口幅8λ以下とすれば、高次横モードを抑圧し得ることが図5よりわかる。
【0041】
なお、IDT内を伝搬するモードとしては、IDTの開口中心に対して対称の振幅分布を持つ対称モードと、反対称の振幅分布を持つ反対称モードとが存在する。もっとも、IDTが開口の中心に対称に構成されている場合には、反対称モードは励振されない。従って、本明細書においては、IDTが開口幅方向に対称である構成を例にとり説明するため、対称モードの基本モードS0、及び対称モードの高次横モードS1〜Snについて説明する。もっとも、IDTが開口の中心に対称でない場合には、反対称モードが励振され、その場合には反対称モードを利用することができ、本発明は、反対称モードを利用したものも含むものとする。
【0042】
図3に示したように、表1に示した条件では開口幅を13λ以下とすれば、基本導波モードS0に対する高次横導波モードS1〜Snを全てカットオフし得ると考えられる。
【0043】
そこで、本願発明者は、IDTの開口幅を10λ、第1,第2のバスバーの幅方向寸法を13λ、IDTを被覆しているZnO薄膜の幅(表面波伝搬方向と直交する方向の寸法)を23λとし、一対のIDTを表面波伝搬方向において所定距離を隔てて配置したトランスバーサル型の表面波フィルタを作製した。
【0044】
なお、各IDT内には、同電位に接続される一対の電極指により構成されるダブル電極と、一方向性電極とを分散配置させた。ここで、一方向性電極としては、後述の図1に示されている非対称ダブル電極16を用いた。上記ダブル電極と非対称ダブル電極をIDT内に分散配置し、間引き重み付けを行うことにより、入力側IDT及び出力側IDTを構成した。このようにして構成された表面波装置の減衰量周波数特性を図6に示す。
【0045】
なお、非対称ダブル電極としては、例えば、Hanma、「A TRIPLE TRANSIT SUPPRESSION TECHNIC」1976,IEEE Ultrasonics Symposium Procedinges,pp.328−331により提案されている構造などを用いることができる。幅1/16λの電極指幅、幅2/16λの電極指間ギャップ、幅3/16λの電極指幅、幅2/16λの電極指間ギャップで構成された半波長区間を基本区間とし、該基本区間が反復配置されており、さらに隣接する基本区間の極性が反転するように構成されている。もっとも、非対称ダブル電極の構造はこれに限定されるものではない。上記非対称ダブル電極は、以下の比較例及び実施例において用いた非対称ダブル電極と同様に、Hanmaにより提案された非対称ダブル電極のストリップの幅とギャップの幅を微調整し、ダブル電極と同等の音速となるように構成されている。
【0046】
図6から明らかなように、矢印Aで示すスプリアス応答が生じていることがわかる。すなわち、開口幅を10λとしたにもかかわらず、スプリアスAが生じた。
【0047】
図6に示した結果から明らかなように、開口幅を13λ以下とした場合であっても、矢印Aで示すスプリアスが表れることに鑑み、本願発明者は、このようなスプリアスAの抑圧を図るべく検討した。すなわち、高次横モードを抑制する従来法では、IDTの設けられている領域の外側の自由表面領域が考慮されていない点に着目した。図7に略図的に示すように、ZnO/IDT/水晶基板で構成されている表面波装置では、グレーティング領域の両側にバスバー領域が存在し、バスバー領域の外側に自由表面領域が存在する。ここで、グレーティング領域の積層構造は、ZnO/電極指/水晶であり、バスバー領域の積層構造は、ZnO/バスバー/水晶であり、自由表面領域の積層構造は、ZnO/水晶である。
【0048】
自由表面領域の音速により、各領域の音速を規格化すると、上述した表1の条件では、自由表面領域の音速は1.0000、バスバー領域の音速は0.9908、グレーティング領域の音速は0.9874となる。
【0049】
図8は、IDTの開口幅を10λとし、第1,第2のバスバーの幅を等しくした場合のバスバー幅と、対称モードS0〜S6の基本モードS0に対するモード振幅比の関係を示す。
【0050】
また、図9は、バスバー幅と、対称モードS0〜S6及び反対称モードA0〜A6の自由表面領域の音速に対するモード音速比との関係を示す。
【0051】
なお、IDTは開口幅方向に対称であるため、反対称モードは伝搬され得るものの、励振はされない。
【0052】
図9から明らかなように、基本モードS0では、バスバーの幅の変化に対する音速の変化が小さい。また、S1以上の高次モードでは、バスバー幅の変化に対する音速の変化が大きいことがわかる。すなわち、より高次のモードになるほど、バスバー幅の変化に対する音速の変化が大きいことがわかる。
【0053】
さらに、バスバー幅が50λ以上の場合には、図8から明らかなように、高次モードのモード振幅比が0を超えていることがわかる。S1以上の高次モードでは、バスバー幅を広げるとともに、伝搬する表面波のエネルギーがバスバー領域に移行するためと考えられる。
【0054】
図9から、バスバー幅が13λで励振されるモードは、モードS0〜S4であることがわかる。また、IDTを伝搬する表面波が励振される周波数は、周波数をF、音速をV、IDTの電極指の周期をλとした場合、F=V/λである。従って、高次モードS1〜S4は、基本モードS0の励振周波数に対し、1.004〜1.010の周波数で励振されることになる。
【0055】
図6に示した周波数特性では、基本モードS0の励振周波数に対し、表れているスプリアスAは1.005〜1.009倍の周波数に発生している。従って、スプリアスAは、高次横モードに起因するスプリアスであることがわかる。
【0056】
図8より、高次横モードS1はバスバー幅が3λ付近に、高次横モードS2はバスバー幅が10λ付近に、基本モードS0に対する振幅比の極小点を有し、高次横モードS3以上の高次モードはバスバー幅が6λ以下でカットオフされ得ることがわかる。
【0057】
また、図10〜図12は、それぞれ、バスバー幅が3λ、7λ及び10λの場合の開口幅方向の各モードの振幅分布を示す。上記極小点は、モード振幅が開口幅方向において位相反転するために、表面波から変換された電気信号が打ち消し合うことにより生じる。すなわち、図10に示すバスバー幅3λの場合には、高次横モードS1において、グレーティング領域でモード振幅が開口方向に沿って位相反転され、表面波から変換された電気信号が打ち消し合い、それによって高次横モードS1が励振されないことがわかる。同様に、図12に示すバスバー幅が10λの場合、高次横モードS1及び高次横モードS2が励振されないことがわかる。上述した検討の結果、本願発明者は、バスバー幅を調整することにより、高次横モードを抑制し得ることを見出した。
【0058】
以下、本発明の第1〜第3の実施例を説明する。
【0059】
図1は、第1〜第3の実施例が適用される表面波装置としてのトランスバーサル型の表面波フィルタの模式的平面図である。
【0060】
表面波装置11は、圧電基板12を有する。圧電基板12は、本実施例では、水晶により構成されているが、タンタル酸リチウムなどの他の圧電単結晶により構成されていてもよい。
【0061】
圧電基板12上に、入力側IDT13及び出力側IDT14が構成されている。IDT13,14は、前述した実験例と同様に、ダブル電極15と非対称ダブル電極16とを表面波伝搬方向においてIDT内に分散配置した構造を有する。また、上述した実験例と同様に、ダブル電極及び非対称ダブル電極のストリップ幅及びギャップの幅を微調整することにより、非対称ダブル電極の音速はダブル電極と同等の音速となるように構成されている。
【0062】
さらに、表面波装置11では、図1で一点鎖線Bで囲まれた領域で、IDT13,14を覆うようにZnO薄膜が形成されている。すなわち、ZnO薄膜は、バスバーの外側端縁の外側に至るように形成されている。
【0063】
(第1の実施例)
第1の実施例では、前述した表1に従って、上記表面波装置11を作製した。ここで、IDTの開口幅は10λとした。第1の実施例の特徴は、入力側IDT及び出力側IDT13,14のバスバーの幅が開口幅の17〜45%とされていることにある。その他の点については、表1に示した条件で構成された表面波装置と同様とされている。
【0064】
すなわち、前述した図8の結果から明らかなように、高次横モードS1を抑制するには、バスバー幅を1.7λ〜4.5λとすればよいことがわかる。言い換えれば、バスバー幅を開口幅の17〜45%とすることにより、高次横モードS1を十分に抑制することができる。高次横モードには、高次横モードS1の他、より高次の横モードS2〜Sn(n:整数、n≧0)が存在するが、周波数特性において最も大きく表れるのは、高次横モードS1である。従って、図8の結果から明らかなように、バスバー幅を開口幅の17〜45%の範囲とすることにより、スプリアスAの大きな原因となる高次横モードS1を抑制することができる。好ましくは、図8より、バスバー幅を開口幅の28%とすれば、高次横モードS1をより効果的に抑制することができる。
【0065】
また、図8より、高次モードS2を抑制するには、バスバー幅を8λ〜16λ、言い換えれば開口幅の80〜160%とすればよく、より好ましく105%とすればよいことがわかる。
【0066】
なお、第1の実施例において、バスバー幅の調整は、入力側IDT13及び出力側IDT14のいずれか一方であってもよい。
【0067】
(第2の実施例)
第2の実施例では、表面波装置11において、入力側IDT13のバスバー幅が、ある1つのモードの応答が極小付近となるバスバー幅とされており、出力側IDT14のバスバー幅が、他のモードの応答が極小付近となるバスバー幅とされる。このように、IDT13のバスバー幅とIDT14のバスバー幅とを異ならせることにより、2つのモードを抑制することができる。
【0068】
例えば、入力側IDT13のバスバー幅を、高次横モードS1の応答が極小付近となるバスバー幅とし、出力側IDT14のバスバー幅を高次横モードS2の応答が極小付近となるバスバー幅とすれば、高次横モードS1,S2の双方を効果的に抑圧することができる。
【0069】
(第3の実施例)
第3の実施例では、第1,第2の実施例よりも高次モードをより効果的に抑圧することができる。第3の実施例では、第2の実施例の条件に加えて、さらに、より一層高次のモードを抑圧するために、IDT13,14のうちの一方のIDTのバスバー幅が、より高次のモードをカットオフし得るバスバー幅以下とされる。
【0070】
すなわち、表1に記載した条件でIDTの開口幅を10λとして、かつ表面波装置を構成した場合、入力側IDT13のバスバー幅を開口幅の17〜45%とすることにより高次横モードS1を抑制でき、高次横モードS3以上の高次モードを全てカットオフでき、さらに出力側IDT14のバスバー幅を開口幅の80〜160%として高次横モードS2を抑制することができる。
【0071】
図8に示したように、上記第2,第3の実施例では、入出力側IDT13,14で励振される基本モードS0の音速はほぼ等しくなる。従って、入力側IDT13及び出力側IDT14で励振された信号の周波数がほぼ一致するので、該信号は効率良く送受信される。さらに、高次横モードS1〜Snの音速は基本モードとは異なるため、入出力側IDT13,14で励振される信号の周波数がずれ、送受信効率は低下する。これによっても、基本モードの特性を劣化させずに、高次横モードS1〜Snを効果的に抑圧することができる。
【0072】
なお、上記第1〜第3の実施例では、ZnO薄膜が形成されていたが、本発明においては、ZnO薄膜は形成されずともよい。
【0073】
さらに、上記第1〜第3の実施例では、圧電基板の異方性を表す定数ξが正であり、自由表面領域の音速が、内側の他の領域の音速よりも大きいため、バスバーの外側の自由表面領域で高次モードが閉じ込められると考えられる。従って、基板の異方性を表す異方性定数ξが負の場合には、自由表面領域の音速が、グレーティング領域及びバスバーの音速よりも小さい場合に、バスバーの外側で高次モードが閉じ込められる現象が生じ、基板の異方性を表す異方性定数ξが正の場合と同様にフィルタ特性を劣化させると考えられる。この場合においても、上述した第1〜第3の実施例を採用することにより、同様に高次モードによる劣化を確実に抑制することができる。
【0074】
なお、第1〜第3の実施例において、バスバーの幅はIDT全体で必ずしも同一である必要はない。例えば、ワイヤーボンディングを行うためにバスバーの一部を広げたり、あるいはバスバーの一部を狭めてもよい。少なくともバスバーの表面波伝搬方向に沿う長さの50%以上が、第1〜第3の実施例に従って高次モードを抑制し得るバスバー幅とされれば、高次モードを抑制する効果が得られる。
【0075】
また、ZnO薄膜が圧電基板の上面の全面に形成されていない場合には、ZnO薄膜の表面波伝搬方向と直交する方向の端部において、閉じ込められた表面波が高次モードとして発生する可能性がある。この場合には、ZnO薄膜の表面波伝搬方向に直交する方向両側に位置する端縁をバスバーの外側端縁よりも内側に位置すればよく、それによって高次モードの発生を抑制することができる。
【0076】
なおここで内側とは、表面波伝搬方向と直交する方向において、開口の中心側をいうものとする。
【0077】
また、上記第1〜第3の実施例では、表面波がバスバー領域に浸み出しながら伝搬する場合に効果が生じる。従って、バスバー領域に表面波が浸み出しながら伝搬しやすい条件、すなわち、グレーティング領域とバスバー領域との音速差が近接している場合に、特に有効である。よって、圧電基板の異方性を表す異方性定数ξが正の場合には、バスバーの音速Vmに対するグレーティング領域の音速Vgの比Vg/Vmは0.99以上、異方性定数ξが負の場合には、Vg/Vmが1.01以下である場合に、特に有効である。
【0078】
次に、下記の表2の条件に従って図1に示した表面波装置11を作製した。なお、入力側IDTは同一とし、IDTの開口幅は15λ、バスバーの幅は14λ、ZnO膜の幅は40λとした。但し、ZnO薄膜は図1の一点鎖線Baで囲まれた領域を覆うように形成されており、バスバーの外側端縁と内側端縁との間に位置している。このようにして得られた表面波装置の通過帯域における減衰量周波数特性及び位相直線性を図13に、減衰量周波数特性を図14に示す。
【0079】
通過帯域の高周波側における近傍減衰特性が劣化しており、かつ通過帯域の低周波側の近傍減衰特性も劣化していることがわかる。圧電基板の異方性を表す異方性定数ξが正の場合、図9に示したように、高次モードは、基本モードS0よりも高速で伝搬する。従って、高次モードによるフィルタ特性の劣化は、高周波数側で生じ、図14に示されている低周波数側の通過帯域近傍の減衰特性の劣化は、別の原因によるものと考えられる。
【0080】
表2の条件では、前述した表1の条件に比べて、電極を構成するアルミニウムの膜厚が薄く、かつZnO薄膜の厚みが厚くされている。従って、バスバー領域とグレーティング領域の音速差は小さい。そのため、表2の条件で作製された表面波装置では、グレーティング領域への表面波の閉じ込めが弱くなり、回折劣化が生じやすい。
【0081】
回折による劣化が生じた場合に、通過帯域の高域側及び低域側の双方の減衰特性が劣化することが知られている(例えば、リアライズ社、橋本研也著「弾性表面波(SAW)デバイスシミュレーション技術入門」第116頁〜第121頁に示されている)。従って、低周波数側の近傍減衰特性の劣化は、回折による劣化であると考えられる。
【0082】
【表2】
【0083】
前述した「弾性表面波(SAW)デバイスシミュレーション入門(リアライズ社)」には、交差幅方向に表面波を閉じ込めて伝搬させるには、(1)逆速度面が1つの基板(異方性定数ξが正の場合)ではグレーティング領域の速度をバスバー領域の速度よりも遅くし、(2)逆速度面が凹である基板(異方性定数ξが負の場合)では、グレーティング領域の速度をバスバー領域の速度よりも速くすればよいことが記載されている。従って、バスバー領域の音速を高速化すれば、回折劣化を抑制し得ると考えられる。
【0084】
ところで、グレーティング領域の外側で音速を高速化する方法は、従来より種々提案されている。例えば、特開平6−164297号公報には、電極指の先端側に配置されたダミー電極の幅を、波長の1.5倍以上の長さにわたり狭くし、かつ交差領域の外側に、メタル部分よりも音速が遅く交差領域よりも速い領域を形成すれば、表面波のエネルギー分布の乱れが抑制されることが記載されている。また、同様の方法は、特開平10−145173号公報にも開示されており、バスバー領域にスリットを形成することにより、バスバーのスリットが形成されていない外側の領域と、グレーティング領域との間にスリットを設けることにより中間の音速を有する領域が構成され、それによって高次横モードが抑制されるとされている。
【0085】
そこで、従来技術に従って、グレーティング領域に、図2に示したダミー電極を配置し、ダミー電極領域のデューティー比を0.3とし、ダミー電極領域の音速を、交差領域よりも高速化したことを除いては、表2の条件に従って表面波装置を作製した。なお、IDTの開口幅は15λ、バスバー幅は5λとした。また、ZnO薄膜は、バスバーの外側端縁よりも外側に至るように形成されている。この表面波装置の通過帯域の減衰量周波数特性及び位相直線性を図15に、減衰量周波数特性を図16に示す。
【0086】
図15及び図16から明らかなように、通過帯域の低周波側近傍における減衰特性は改善されたものの、改善度は十分でなかった。加えて、通過帯域に鋭いリップルCが生じている。このリップルCは、ダミー電極領域の配置周期がIDTの電極指の配置周期と等しいため、ダミー電極領域に漏れ出した表面波がダミー電極領域内で多重反射し、該多重反射により位相ずれを生じた表面波が再度グレーティング領域に進入したためと考えられる。
【0087】
上記のように、一般に知られている導波路理論を表面波のIDTに適用する場合には、単にグレーティング領域周囲のバスバー領域の音速を調整するだけでなく、バスバー領域を伝搬した表面波がグレーティング領域すなわち導波路領域に再度進入する際の位相ずれを防止する必要がある。
【0088】
また、近傍減衰特性の不足は、ダミー電極領域の高音速化が不十分であり、それによって回折劣化が生じているものと考えられる。
【0089】
バスバー領域の音速を高速化するには、ダミー電極におけるデューティー比を小さくする必要があるが、デューティー比を小さくすると、バスバー領域の電気抵抗が増大し、損失が大きくなる。また、ダミー電極領域の音速は、ダミー電極端縁部分でのエネルギー蓄積効果により、グレーティング領域の音速に近くなることとなる。
【0090】
(第4の実施例)
第4の実施例は、本発明の実施例であり、上述したエネルギー蓄積効果を生じさせず、かつバスバー領域における反射を抑制するようにIDTを構成したことに特徴を有する。
【0091】
図17及び図18は、第4の実施例で用いられるIDTの模式的平面図及びその拡大平面図である。なお、図17ではグレーティング領域の電極指は正規型IDTであるように略図的に示されているが、実際には、図18に示すように、ダブル電極と、非対称ダブル電極を組み合わせた。
【0092】
本実施例では、図1に示した表面波装置11の入力側IDT13及び出力側IDT14の少なくとも一方に、図17及び図18に示す、格子領域を有するIDT21が用いられている。なお、ZnO薄膜は図1の一点鎖線Bで囲まれた領域を覆うように、すなわち、第1〜第3の実施例と同様に、バスバーの外側端縁よりも外側に至るように形成した。
【0093】
IDT21は、第1,第2のバスバー22,23を有する。第1のバスバー22に、複数本の第1の電極指24が、第2のバスバー23に複数本の第2の電極指25が電気的に接続されている。第1,第2の電極指24,25は互いに間挿し合うように配置されている。
【0094】
IDT21の特徴は、バスバー22,23において、格子領域22a,22bが形成されていることにある。格子領域22a,23aでは、表面波伝搬方向に斜めに交差するように枡目が形成されており、すなわち斜め格子領域となるように金属膜がパターニングされている。格子領域22a,23aの表面波伝搬方向外側には、金属膜領域22b,23bが配置されている。バスバー22,23は、格子領域22a,23a及び金属膜領域22b,23bを有する。
【0095】
上記斜め格子で構成されている格子領域22a,23aでは、格子領域における表面波の反射を低減するために、その配置周期は基本モードや高次モードがブラッグ反射を生じない周期とすればよい。ここで、斜め格子の表面波伝搬方向の配置周期とは、図17における斜め格子領域22a,23aの格子点間の距離Qである。
【0096】
また、上記斜め格子の配置周期は、グレーティング領域における電極指配置周期に対して5%以上ずらせればよい。
【0097】
表面波はIDT内を伝搬方向に対して平行にのみ伝搬するわけではない。すなわち、表面波伝搬方向に対して一定の角度で伝搬し、高次モードになるほどその角度は大きくなることが知られている。従って、上記格子の配置周期Qは、IDTの配置周期とずらされているだけでなく、斜め格子の格子を構成している金属ストリップの延びる斜め方向と直交している方向の周期Rに対して、図17に示す斜めに見たIDTの周期Tと5%以上ずらされていることが望ましい。このように配置することにより、斜め格子の該斜め方向と偶然に一致して伝搬する高次モードの反射によるフィルタ特性の劣化が回避され得る。
【0098】
グレーティング領域を構成する電極指の配置周期と、上記格子領域の格子配置周期をずらすことにより、斜め格子領域を伝搬する表面波、エネルギー蓄積効果による音速の低下をほとんど生じず、従って、格子領域を伝搬する表面波の音速は、自由表面領域における音速と、金属膜領域の音速の間の音速となると考えられる。よって、グレーティング領域の音速に近いダミー電極領域よりも、格子領域の音速を高音速とすることができる。なお、格子領域の音速は、格子のデューティーを調整することにより容易に調整することができる。
【0099】
なお、特開平11−261370号公報には、表面波装置のIDTにおいて、バスバーに格子領域が設けられているが、この先行技術に記載の格子領域は、IDTと格子の周期が一致されている。すなわち、この先行技術に記載の格子領域は、反射格子を構成するものであり、第4の実施例における格子領域とはその機能及び構成において異なるものであることを指摘しておく。
【0100】
(具体的な実験例)
以下に、本発明の具体的な実施例としての実験例1〜3を説明する。
【0101】
(実験例1)
以下の構成を除いては表1の条件に従って前述した第4の実施例の表面波装置1を作製した。入力側IDT及び出力側IDTは同一とした。IDTの開口幅は10λとし、IDTに近接させて表面波伝搬方向に直交する方向の寸法が3λであり、格子配置周期が表面波伝搬方向において2λであり、格子のデューティー比が0.5である格子領域22a,23aをバスバーに形成した。なお、バスバー22,23において、格子領域の外側には、表面波伝搬方向と直交する方向である幅方向寸法が2λの金属膜領域22b,23bを形成した。また、ZnO薄膜の表面波伝搬方向と直交する方向の寸法、すなわち幅方向寸法は18λとした。従って、バスバーの幅は4λである。圧電基板の幅方向寸法は70λである。ZnO薄膜は図1の一点鎖線Baで囲まれた領域を覆っており、ZnO薄膜の外側端縁は、バスバーの外側端縁と内側端縁との間に位置している。
【0102】
IDTの電極指は、前述した実施例と同様に、ダブル電極と一方向性電極とを使用し、一方向性電極は前述した非対称ダブル電極とした。ダブル電極と非対称ダブル電極をIDT内に分散配置し、間引き重み付けを行い、IDTを構成した。図19はこのようにして得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す。
【0103】
図19から明らかなように、バスバー幅を上記のように設定し、かつ格子領域を設けることにより、低周波側及び高周波側のいずれの近傍減衰特性も改善しており、通過帯域に鋭いリップルが生じていないことがわかる。すなわち、第4の実施例では、上記格子領域22a,23aの形成により、高次モードによる特性劣化を防止することができ、かつ回折による特性劣化も抑制し得ることがわかる。
【0104】
(実験例2)
以下の構成を除いては表1の条件に従って本発明の実施例としての表面波装置1を作製した。実験例2では、入力側IDTと出力側IDTのバスバー幅を異ならせた。
【0105】
入力側IDTの構成…IDTの開口幅は10λとした。また入力側IDTに近接させて、表面波伝搬方向に直交する方向の寸法が3λであり、格子配置周期が表面波伝搬方向において2λであり、格子のデューティー比が0.5である格子領域22a,23aをバスバーに形成した。なお、バスバー22,23において、格子領域の外側には、表面波伝搬方向と直交する方向である幅方向寸法が2λの金属膜領域22b,23bを形成した。また、入力側IDTを覆うZnO薄膜の表面波伝搬方向と直交する方向の寸法、すなわち幅方向寸法は18λとした。従って、バスバーの幅は4λである。
【0106】
出力側IDTの構成…出力側IDTでは、格子領域の幅を8λとし、格子領域の外側に2λの金属膜領域を形成した。また、出力側IDTを覆うZnO薄膜の幅は28λとした。従って、バスバー幅はZnO薄膜の幅を考慮して9λとされている。
【0107】
なお、圧電基板の幅方向寸法は70λである。また、ZnO薄膜は図1の一点鎖線Baに相当する領域を覆うように形成されている。
【0108】
入力側及び出力側IDTの電極指は、前述した実施例と同様に、ダブル電極と一方向性電極とを使用し、一方向性電極は前述した非対称ダブル電極とした。ダブル電極と非対称ダブル電極をIDT内に分散配置し、間引き重み付けを行い、IDTを構成した。図20はこのようにして得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す。
【0109】
図20から明らかなように、バスバー幅を上記のように設定し、かつ格子領域を設けることにより、通過帯域近傍の減衰特性に優れており、かつ回折による劣化も生じていない、良好なフィルタ特性を実現し得ることがわかる。
【0110】
(実験例3)
以下の構成を除いては表2の条件に従って、本発明の実施例としての表面波装置1を作製した。入力側IDT及び出力側IDTは同じように構成した。IDTの開口幅は15λとし、IDTに近接させて表面波伝搬方向に直交する方向の寸法が5λであり、格子配置周期が表面波伝搬方向において2λであり、格子のデューティー比が0.5である格子領域22a,23aをバスバーに形成した。なお、バスバー22,23において、格子領域の外側には、表面波伝搬方向と直交する方向である幅方向寸法が2λの金属膜領域22b,23bを形成した。また、ZnO薄膜の表面波伝搬方向と直交する方向の寸法、すなわち幅方向寸法は40λとした。圧電基板の幅方向寸法は140λである。ZnO薄膜は図1の一点鎖線Bで囲まれた領域を被覆している。
【0111】
IDTの電極指は、前述した実施例と同様に、ダブル電極と一方向性電極とを使用し、一方向性電極は前述した非対称ダブル電極とした。ダブル電極と非対称ダブル電極をIDT内に分散配置し、間引き重み付けを行い、IDTを構成した。図21,22はこのようにして得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す。
【0112】
図21,22から明らかなように、バスバー幅を上記のように設定し、かつ格子領域を設けることにより、通過帯域近傍の減衰特性に優れており、かつ回折による劣化も生じていない、良好なフィルタ特性を実現し得ることがわかる。
【0113】
上述してきた実施例は、一方向性電極を用いたトランスバーサル型フィルタのIDTを有する。しかし、第1の発明はバスバーの幅により高次横モードを抑制するものであるので、本発明の効果はトランスバーサル型フィルタに限定されず、1ポート共振子や2ポート共振子、共振器型フィルタにも適用可能である。さらに、反射器も導波路として捉え得ることから、IDTの場合と同様に、反射器においても本発明により高次横モードを抑制できることが論理的に推察される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明により構成される表面波装置の一例を説明するための模式的平面図。
【図2】IDTの交差領域、グレーティング領域を説明するための模式的平面図。
【図3】グレーティング領域の音速比が0.99662の場合のモード振幅比と開口幅との関係を示す図。
【図4】グレーティング領域の音速比が0.9900の場合のモード振幅比と開口幅との関係を示す図。
【図5】グレーティング領域の音速比が0.9975の場合のモード振幅比と開口幅との関係を示す図。
【図6】従来の表面波装置において通過帯域の高域側に表れるスプリアスを説明するための減衰量周波数特性を示す図。
【図7】IDTの各領域及び各領域の積層構造を説明するための模式図。
【図8】IDTのバスバー幅と、モード振幅比との関係を示す図。
【図9】IDTのバスバー幅と、モード音速比との関係を示す図。
【図10】バスバー幅が3λの場合の基本モードS0及び高次モードS1,S2のモード振幅分布を示す図。
【図11】バスバー幅が7λの場合の基本モードS0及び高次モードS1,S2のモード振幅分布を示す図。
【図12】バスバー幅が10λの場合の基本モードS0及び高次モードS1,S2のモード振幅分布を示す図。
【図13】IDTの開口幅が15λであり、バスバーの幅が14λである表面波装置の減衰量周波数特性及び位相直線性を示す図。
【図14】IDTの開口幅が15λであり、バスバーの幅が14λである表面波装置の減衰量周波数特性を示す図。
【図15】ダミー電極を有し、IDTの開口幅が15λであり、バスバーの幅が5λの場合の表面波装置の減衰量及び位相直線性を示す図。
【図16】ダミー電極を有し、IDTの開口幅が15λであり、バスバーの幅が5λの場合の表面波装置の減衰量周波数特性を示す図。
【図17】第4の実施例の表面波装置で用いられるIDTを説明するための模式図。
【図18】図19に示したIDTを拡大して示す部分切欠模式図。
【図19】実験例1で得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す図。
【図20】実験例2で得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す図。
【図21】実験例3で得られた表面波装置の減衰量及び位相−周波数特性を示す図。
【図22】実験例3で得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す図。
【符号の説明】
【0115】
1…IDT
2,3…第1,第2のバスバー
4,5…第1,第2の電極指
6,7…ダミー電極
11…表面波装置
12…表面波基板としての圧電基板
13,14…第1,第2のバスバー
21…IDT
22,23…第1,第2のバスバー
22a,23a…格子領域
22b,23b…金属膜領域
24,25…第1,第2の電極指
【技術分野】
【0001】
本発明は、IDTが表面波基板上に形成された表面波装置に関し、より詳細には、IDTのバスバーの構造が改良された表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面波装置は、高性能、軽量及び小型であるため、携帯用移動帯通信機器などに広く利用されている。近年、急速に普及しているCDMA通信システムにおいても、中間周波フィルタとして表面波装置が用いられている。CDMA通信システムにおける中間周波フィルタでは、従来のアナログ通信システムの中間周波フィルタに比べて、通過帯域近傍の減衰特性が急峻であること、及び位相の直線性が良好であることが要求されている。
【0003】
ところで、表面波伝搬方向に対して横方向にエネルギーを閉じ込めつつ表面波が伝搬される導波路は、表面波導波路と呼ばれている。表面波導波路では、音速の遅い導波領域が、音速の速い両側の領域で挟まれている。導波領域において、表面波は一定の角度で効率良く伝搬し、この角度で伝搬する波が導波モードと呼ばれている。
【0004】
また、導波モードの条件を満たさないで伝搬する波は減衰しつつ伝搬し、この波は漏洩モードと呼ばれている。IDT(インターデジタルトランスデューサ)や反射器を伝搬する表面波では、損失や回折劣化が少ないほど好ましい。従って、IDTや反射器を伝搬する表面波としては、導波モードが利用される。
【0005】
一般に、表面波装置は、水晶やタンタル酸リチウムなどの圧電基板を用いて構成されている。圧電基板では、表面波の伝搬する方向により音速が異なる。すなわち、圧電基板は、表面波の音速に関して異方性を有する。このような異方性を有する圧電基板上に配置されたIDTにおいて、導波モードを形成する方法は、例えば、下記の非特許文献1に記載されている。すなわち、逆速度面が凸である圧電基板では、IDTの交差領域の速度をバスバー領域の速度よりも遅くすればよい。また、逆速度面が凹である圧電基板を用いる場合には、IDTの交差領域における速度を、バスバー領域の速度よりも早くすればよい。
【非特許文献1】リアライズ社、橋本研也著「弾性表面波(SAW)デバイスシミュレーション技術入門」第145頁〜第153頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、IDTや反射器を導波モードで利用した場合、利用しようとする基本モードの他に高次横モードが発生する。
【0007】
また、本願発明者は、IDTのバスバーの幅が広すぎる場合、バスバー部分にエネルギーを集中させて伝搬する伝搬モードが発生し、該伝搬モードがスプリアスとなることを見出した。この伝搬モードは高次横モードの一種と考えられるが、従来、このような伝搬モードを十分に抑制することはできなかった。
【0008】
他方、高次横モードが発生すると、中間周波フィルタなどの表面波装置を構成した場合、高次横モードの応答により通過特性が歪み、通過帯域近傍の減衰特性や位相の直線性が劣化することになる。従って、従来の表面波装置では、高次横モードの抑制が充分に行われ得なかったため、通過帯域近傍の減衰性や位相の直線性が十分でないという問題があった。
【0009】
また、IDTや反射器を導波モードではなく、漏洩モードを利用して構成したり、横モードを抑制するために開口幅を狭めたりした場合には、IDTや反射器を伝搬する表面波がIDTや反射器以外に漏洩することとなる。そのため、回折劣化により、フィルタ特性が劣化し、通過帯域近傍の減衰特性が劣化するという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、高次横モードを抑制でき、従って通過帯域近傍の減衰特性が急峻であり、かつ位相の直線性が良好な表面波装置を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、高次横モードを抑圧することができ、さらに回折劣化の抑制を図ることができ、通過帯域近傍の減衰特性が急峻であり、かつ位相の直線性が良好な表面波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の広い局面によれば、表面波基板と、前記表面波基板上に形成された導波路形成用電極とを備え、前記導波路形成用電極が、表面波伝搬方向に延び、互いに隔てられた第1,第2のバスバーと、第1及び/または第2のバスバーに電気的に接続された複数本の電極指とを有し、前記第1,第2のバスバーが、反射係数が小さい格子領域を有する、表面波装置が提供される。
【0013】
本発明のある特定の局面では、前記格子領域の音速が、第1,第2のバスバー間のグレーティング領域及び該バスバーにおける格子領域以外の領域の音速よりも速くされている。
【0014】
上記格子領域は、好ましくは、第1,第2のバスバー間のグレーティング領域に連なるように配置されている。
【0015】
本発明のさらに他の特定の局面では、上記導波路形成用電極の表面波伝搬方向の電極指配置周期に対し、上記格子領域における表面波伝搬方向に平行な配置周期が5%以上ずらされている。
【0016】
本発明においても、上記導波路形成用電極としては、IDTまたは反射器が用いられる。また、本発明に従って構成されたIDT及び反射器の双方を表面波装置が有していてもよい。
【0017】
本発明のある特定の局面では、トランスバーサル型フィルタが構成される。一般に、トランスバーサル構造の表面波フィルタは、重み付けなどにより帯域外減衰量を縦続接続せずに30dB以上確保することが要求される。このため、伝搬する表面波の強度と位相関係は厳密に管理する必要がある。回折劣化や高次横モードが発生したり、バスバー領域で反射を生じたりすると、前記表面波の強度と位相関係が著しく損なわれる。
【0018】
本発明は、回折劣化や高次横モードを抑圧し、バスバー領域の反射が小さいため、トランスバーサル構造の表面波フィルタにおいて、特に効果を発揮する。
【0019】
ここで、トランスバーサル構造の表面波フィルタとは、ダブル電極を利用して重み付けを施した構造や、一方向性電極をIDT内に分散配置した構造、そして、IDT内に一方向性電極などの反射電極を埋め込んで、反射電極による共振を利用した構造などが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、導波路形成用電極において、第1,第2のバスバーがバスバーの残りの領域に比べて反射係数が小さい格子領域を有するので、回折による劣化を抑制することができ、通過帯域近傍の減衰量特性を急峻とすることができる。従って、良好なフィルタ特性を有する表面波装置を提供することができる。
【0021】
第1,第2のバスバー間のグレーティング領域及び該バスバーにおける格子領域以外の領域よりも、格子領域の音速が速い場合には、表面波が交差領域により確実に閉じ込められ、回折劣化を確実に抑制することができる。
【0022】
上記格子領域がグレーティング領域に連なるように配置されている場合には、回折による劣化を抑制することができ、かつ高次横モードを効果的に抑制することができる。
【0023】
導波路形成用電極の表面波伝搬方向の配置周期に対して、上記格子領域の表面波伝搬方向に平行な配置周期が5%以上ずれている場合には、ブラッグ反射が起こり難く、かつ格子領域の反射係数が効果的に小さくされ得る。
【0024】
また、本発明においても、上記導波路形成用電極としては、IDTまたは反射器が用いられる。IDTとして、入力側IDT及び出力側IDTを有する場合には、本発明に従ってトランスバーサル型フィルタを構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施形態を図面を参照しつつ説明することにより、本発明を明らかにする。以下の説明においては、従来技術と対比することにより、本発明の具体的な実施形態を説明することとする。
【0026】
図2は、表面波装置のIDTの模式的平面図である。以下の説明を明確にするために、IDTの各領域を以下のように定義する。
【0027】
すなわち、IDT1では、第1,第2のバスバー2,3が表面波伝搬方向に延びており、かつ互いに所定距離を隔てて隔てられている。第1のバスバー2には、複数本の第1の電極指4が電気的に接続されており、第2のバスバー3には、複数本の第2の電極指5が電気的に接続されている。第1,第2の電極指4,5は互いに間挿し合うように配置されている。
【0028】
なお、図2では、第1,第2の電極指4,5の先端側に、相手側のバスバーに電気的に接続されたダミー電極6,7は設けられているが、ダミー電極6,7が必ずしも設けられずともよい。
【0029】
IDT1において、第1,第2のバスバー2,3間の領域を、以下、グレーティング領域とすることとする。このグレーティング領域の表面波伝搬方向と直交する方向の寸法を、開口幅と称することとする。
【0030】
また、第1,第2の電極指4,5が表面波伝搬方向において重なり合っている領域が交差領域であり、該交差領域の表面波伝搬方向と直交する方向の寸法を交差幅Kとする。また、ダミー電極6,7の長さをダミー電極長Dとする。ダミー電極6,7の長さとは、表面波伝搬方向と直交する方向のダミー電極6,7の寸法をいうものとする。
【0031】
また、第1,第2のバスバー2,3の幅方向寸法とは、表面波伝搬方向と直交する方向の寸法Wをいうものとする。
【0032】
従って、圧電基板上にIDTが形成されている構造においては、図7に略図的に示されているように、表面波伝搬方向と直交する方向において、グレーティング領域の両側に第1,第2のバスバーで構成される各バスバー領域が配置されており、バスバー領域の外側には、IDTが設けられていない自由表面領域が位置していることになる。
【0033】
表面波装置のIDTにおいて、バスバー領域外側の自由表面領域の影響が無視できると仮定し、バスバーの幅が十分に広い場合には、表面波はグレーティング領域とグレーティング領域の外側のバスバー領域に、エネルギーが閉じ込められつつ伝搬することとなる。「弾性表面波(SAW)デバイスシミュレーション技術入門(リアライズ社、橋本研也著)第145頁〜第153頁」の記載によれば、横モードはグレーティング領域とバスバー領域の音速比と、圧電基板の音速の異方性を表す異方性定数ξにより決定される。
【0034】
水晶基板上にアルミニウムを用いてIDTを形成し、IDTのバスバー領域はベタメタルで構成され、さらに水晶基板の上面においてIDTを被覆するようにZnO薄膜を形成した表面波装置を、下記の表1に示す条件で作製した。このときの導波モードの振幅レベルは図3に示す通りとなる。なお、表1において、λはIDTの電極指周期を示し、IDTの動作中心周波数におけるIDT内を伝搬する表面波の波長とほぼ等しい。
【0035】
ZnO/IDT/水晶基板では、グレーティング領域における音速と、バスバー領域の音速とが近接している。従って、電極指のデューティー比や膜厚、並びにZnO薄膜の膜厚により、グレーティング領域の音速及びバスバー領域の音速のいずれが高速となるかが左右される。グレーティング領域の音速をVg、バスバー領域の音速をVmとしたとき、下記の表1に示す条件では、音速比Vg/Vmは0.99662となる。また、圧電基板の異方性定数ξは正となる。
【0036】
なお、図3は表1に示す条件でIDTの開口幅を種々変化させた場合のモード振幅比の変化を示す図である。ここで、モード振幅とは、グレーティング領域のモード振幅の積分値を、全体のモード振幅の積分値で除算した値であり、それぞれのモードにおけるIDTの電気音響変換効率を表す。図3における各モードの振幅比とは、各モードのモード振幅を、基本モードS0のモード振幅で除算した値である。
【0037】
【表1】
【0038】
図3から明らかなように、音速比Vg/Vm=0.99662の場合には、開口幅を13λ以下とすれば、高次横モードS1,S2(高次横モードS3は図3では表れていない)をカットオフすることができ、基本モードS0のみを導波させ得ることがわかる。
【0039】
図4は、上記音速比Vg/Vmを0.99000としたことを除いては、上記と同様にして構成された表面波装置におけるモード振幅比と開口幅との関係を示し、図5は、音速比Vg/Vmを0.9975としたことを除いては、上記と同様にして表面波装置を構成した場合のモード振幅比と開口幅との関係を示す図である。
【0040】
図4から明らかなように、Vg/Vm=0.9900の場合においては、開口幅を16λ以下とすれば、高次横モードであるモードS1〜S3をカットオフすることができる。また、Vg/Vmが0.9975の場合には、開口幅8λ以下とすれば、高次横モードを抑圧し得ることが図5よりわかる。
【0041】
なお、IDT内を伝搬するモードとしては、IDTの開口中心に対して対称の振幅分布を持つ対称モードと、反対称の振幅分布を持つ反対称モードとが存在する。もっとも、IDTが開口の中心に対称に構成されている場合には、反対称モードは励振されない。従って、本明細書においては、IDTが開口幅方向に対称である構成を例にとり説明するため、対称モードの基本モードS0、及び対称モードの高次横モードS1〜Snについて説明する。もっとも、IDTが開口の中心に対称でない場合には、反対称モードが励振され、その場合には反対称モードを利用することができ、本発明は、反対称モードを利用したものも含むものとする。
【0042】
図3に示したように、表1に示した条件では開口幅を13λ以下とすれば、基本導波モードS0に対する高次横導波モードS1〜Snを全てカットオフし得ると考えられる。
【0043】
そこで、本願発明者は、IDTの開口幅を10λ、第1,第2のバスバーの幅方向寸法を13λ、IDTを被覆しているZnO薄膜の幅(表面波伝搬方向と直交する方向の寸法)を23λとし、一対のIDTを表面波伝搬方向において所定距離を隔てて配置したトランスバーサル型の表面波フィルタを作製した。
【0044】
なお、各IDT内には、同電位に接続される一対の電極指により構成されるダブル電極と、一方向性電極とを分散配置させた。ここで、一方向性電極としては、後述の図1に示されている非対称ダブル電極16を用いた。上記ダブル電極と非対称ダブル電極をIDT内に分散配置し、間引き重み付けを行うことにより、入力側IDT及び出力側IDTを構成した。このようにして構成された表面波装置の減衰量周波数特性を図6に示す。
【0045】
なお、非対称ダブル電極としては、例えば、Hanma、「A TRIPLE TRANSIT SUPPRESSION TECHNIC」1976,IEEE Ultrasonics Symposium Procedinges,pp.328−331により提案されている構造などを用いることができる。幅1/16λの電極指幅、幅2/16λの電極指間ギャップ、幅3/16λの電極指幅、幅2/16λの電極指間ギャップで構成された半波長区間を基本区間とし、該基本区間が反復配置されており、さらに隣接する基本区間の極性が反転するように構成されている。もっとも、非対称ダブル電極の構造はこれに限定されるものではない。上記非対称ダブル電極は、以下の比較例及び実施例において用いた非対称ダブル電極と同様に、Hanmaにより提案された非対称ダブル電極のストリップの幅とギャップの幅を微調整し、ダブル電極と同等の音速となるように構成されている。
【0046】
図6から明らかなように、矢印Aで示すスプリアス応答が生じていることがわかる。すなわち、開口幅を10λとしたにもかかわらず、スプリアスAが生じた。
【0047】
図6に示した結果から明らかなように、開口幅を13λ以下とした場合であっても、矢印Aで示すスプリアスが表れることに鑑み、本願発明者は、このようなスプリアスAの抑圧を図るべく検討した。すなわち、高次横モードを抑制する従来法では、IDTの設けられている領域の外側の自由表面領域が考慮されていない点に着目した。図7に略図的に示すように、ZnO/IDT/水晶基板で構成されている表面波装置では、グレーティング領域の両側にバスバー領域が存在し、バスバー領域の外側に自由表面領域が存在する。ここで、グレーティング領域の積層構造は、ZnO/電極指/水晶であり、バスバー領域の積層構造は、ZnO/バスバー/水晶であり、自由表面領域の積層構造は、ZnO/水晶である。
【0048】
自由表面領域の音速により、各領域の音速を規格化すると、上述した表1の条件では、自由表面領域の音速は1.0000、バスバー領域の音速は0.9908、グレーティング領域の音速は0.9874となる。
【0049】
図8は、IDTの開口幅を10λとし、第1,第2のバスバーの幅を等しくした場合のバスバー幅と、対称モードS0〜S6の基本モードS0に対するモード振幅比の関係を示す。
【0050】
また、図9は、バスバー幅と、対称モードS0〜S6及び反対称モードA0〜A6の自由表面領域の音速に対するモード音速比との関係を示す。
【0051】
なお、IDTは開口幅方向に対称であるため、反対称モードは伝搬され得るものの、励振はされない。
【0052】
図9から明らかなように、基本モードS0では、バスバーの幅の変化に対する音速の変化が小さい。また、S1以上の高次モードでは、バスバー幅の変化に対する音速の変化が大きいことがわかる。すなわち、より高次のモードになるほど、バスバー幅の変化に対する音速の変化が大きいことがわかる。
【0053】
さらに、バスバー幅が50λ以上の場合には、図8から明らかなように、高次モードのモード振幅比が0を超えていることがわかる。S1以上の高次モードでは、バスバー幅を広げるとともに、伝搬する表面波のエネルギーがバスバー領域に移行するためと考えられる。
【0054】
図9から、バスバー幅が13λで励振されるモードは、モードS0〜S4であることがわかる。また、IDTを伝搬する表面波が励振される周波数は、周波数をF、音速をV、IDTの電極指の周期をλとした場合、F=V/λである。従って、高次モードS1〜S4は、基本モードS0の励振周波数に対し、1.004〜1.010の周波数で励振されることになる。
【0055】
図6に示した周波数特性では、基本モードS0の励振周波数に対し、表れているスプリアスAは1.005〜1.009倍の周波数に発生している。従って、スプリアスAは、高次横モードに起因するスプリアスであることがわかる。
【0056】
図8より、高次横モードS1はバスバー幅が3λ付近に、高次横モードS2はバスバー幅が10λ付近に、基本モードS0に対する振幅比の極小点を有し、高次横モードS3以上の高次モードはバスバー幅が6λ以下でカットオフされ得ることがわかる。
【0057】
また、図10〜図12は、それぞれ、バスバー幅が3λ、7λ及び10λの場合の開口幅方向の各モードの振幅分布を示す。上記極小点は、モード振幅が開口幅方向において位相反転するために、表面波から変換された電気信号が打ち消し合うことにより生じる。すなわち、図10に示すバスバー幅3λの場合には、高次横モードS1において、グレーティング領域でモード振幅が開口方向に沿って位相反転され、表面波から変換された電気信号が打ち消し合い、それによって高次横モードS1が励振されないことがわかる。同様に、図12に示すバスバー幅が10λの場合、高次横モードS1及び高次横モードS2が励振されないことがわかる。上述した検討の結果、本願発明者は、バスバー幅を調整することにより、高次横モードを抑制し得ることを見出した。
【0058】
以下、本発明の第1〜第3の実施例を説明する。
【0059】
図1は、第1〜第3の実施例が適用される表面波装置としてのトランスバーサル型の表面波フィルタの模式的平面図である。
【0060】
表面波装置11は、圧電基板12を有する。圧電基板12は、本実施例では、水晶により構成されているが、タンタル酸リチウムなどの他の圧電単結晶により構成されていてもよい。
【0061】
圧電基板12上に、入力側IDT13及び出力側IDT14が構成されている。IDT13,14は、前述した実験例と同様に、ダブル電極15と非対称ダブル電極16とを表面波伝搬方向においてIDT内に分散配置した構造を有する。また、上述した実験例と同様に、ダブル電極及び非対称ダブル電極のストリップ幅及びギャップの幅を微調整することにより、非対称ダブル電極の音速はダブル電極と同等の音速となるように構成されている。
【0062】
さらに、表面波装置11では、図1で一点鎖線Bで囲まれた領域で、IDT13,14を覆うようにZnO薄膜が形成されている。すなわち、ZnO薄膜は、バスバーの外側端縁の外側に至るように形成されている。
【0063】
(第1の実施例)
第1の実施例では、前述した表1に従って、上記表面波装置11を作製した。ここで、IDTの開口幅は10λとした。第1の実施例の特徴は、入力側IDT及び出力側IDT13,14のバスバーの幅が開口幅の17〜45%とされていることにある。その他の点については、表1に示した条件で構成された表面波装置と同様とされている。
【0064】
すなわち、前述した図8の結果から明らかなように、高次横モードS1を抑制するには、バスバー幅を1.7λ〜4.5λとすればよいことがわかる。言い換えれば、バスバー幅を開口幅の17〜45%とすることにより、高次横モードS1を十分に抑制することができる。高次横モードには、高次横モードS1の他、より高次の横モードS2〜Sn(n:整数、n≧0)が存在するが、周波数特性において最も大きく表れるのは、高次横モードS1である。従って、図8の結果から明らかなように、バスバー幅を開口幅の17〜45%の範囲とすることにより、スプリアスAの大きな原因となる高次横モードS1を抑制することができる。好ましくは、図8より、バスバー幅を開口幅の28%とすれば、高次横モードS1をより効果的に抑制することができる。
【0065】
また、図8より、高次モードS2を抑制するには、バスバー幅を8λ〜16λ、言い換えれば開口幅の80〜160%とすればよく、より好ましく105%とすればよいことがわかる。
【0066】
なお、第1の実施例において、バスバー幅の調整は、入力側IDT13及び出力側IDT14のいずれか一方であってもよい。
【0067】
(第2の実施例)
第2の実施例では、表面波装置11において、入力側IDT13のバスバー幅が、ある1つのモードの応答が極小付近となるバスバー幅とされており、出力側IDT14のバスバー幅が、他のモードの応答が極小付近となるバスバー幅とされる。このように、IDT13のバスバー幅とIDT14のバスバー幅とを異ならせることにより、2つのモードを抑制することができる。
【0068】
例えば、入力側IDT13のバスバー幅を、高次横モードS1の応答が極小付近となるバスバー幅とし、出力側IDT14のバスバー幅を高次横モードS2の応答が極小付近となるバスバー幅とすれば、高次横モードS1,S2の双方を効果的に抑圧することができる。
【0069】
(第3の実施例)
第3の実施例では、第1,第2の実施例よりも高次モードをより効果的に抑圧することができる。第3の実施例では、第2の実施例の条件に加えて、さらに、より一層高次のモードを抑圧するために、IDT13,14のうちの一方のIDTのバスバー幅が、より高次のモードをカットオフし得るバスバー幅以下とされる。
【0070】
すなわち、表1に記載した条件でIDTの開口幅を10λとして、かつ表面波装置を構成した場合、入力側IDT13のバスバー幅を開口幅の17〜45%とすることにより高次横モードS1を抑制でき、高次横モードS3以上の高次モードを全てカットオフでき、さらに出力側IDT14のバスバー幅を開口幅の80〜160%として高次横モードS2を抑制することができる。
【0071】
図8に示したように、上記第2,第3の実施例では、入出力側IDT13,14で励振される基本モードS0の音速はほぼ等しくなる。従って、入力側IDT13及び出力側IDT14で励振された信号の周波数がほぼ一致するので、該信号は効率良く送受信される。さらに、高次横モードS1〜Snの音速は基本モードとは異なるため、入出力側IDT13,14で励振される信号の周波数がずれ、送受信効率は低下する。これによっても、基本モードの特性を劣化させずに、高次横モードS1〜Snを効果的に抑圧することができる。
【0072】
なお、上記第1〜第3の実施例では、ZnO薄膜が形成されていたが、本発明においては、ZnO薄膜は形成されずともよい。
【0073】
さらに、上記第1〜第3の実施例では、圧電基板の異方性を表す定数ξが正であり、自由表面領域の音速が、内側の他の領域の音速よりも大きいため、バスバーの外側の自由表面領域で高次モードが閉じ込められると考えられる。従って、基板の異方性を表す異方性定数ξが負の場合には、自由表面領域の音速が、グレーティング領域及びバスバーの音速よりも小さい場合に、バスバーの外側で高次モードが閉じ込められる現象が生じ、基板の異方性を表す異方性定数ξが正の場合と同様にフィルタ特性を劣化させると考えられる。この場合においても、上述した第1〜第3の実施例を採用することにより、同様に高次モードによる劣化を確実に抑制することができる。
【0074】
なお、第1〜第3の実施例において、バスバーの幅はIDT全体で必ずしも同一である必要はない。例えば、ワイヤーボンディングを行うためにバスバーの一部を広げたり、あるいはバスバーの一部を狭めてもよい。少なくともバスバーの表面波伝搬方向に沿う長さの50%以上が、第1〜第3の実施例に従って高次モードを抑制し得るバスバー幅とされれば、高次モードを抑制する効果が得られる。
【0075】
また、ZnO薄膜が圧電基板の上面の全面に形成されていない場合には、ZnO薄膜の表面波伝搬方向と直交する方向の端部において、閉じ込められた表面波が高次モードとして発生する可能性がある。この場合には、ZnO薄膜の表面波伝搬方向に直交する方向両側に位置する端縁をバスバーの外側端縁よりも内側に位置すればよく、それによって高次モードの発生を抑制することができる。
【0076】
なおここで内側とは、表面波伝搬方向と直交する方向において、開口の中心側をいうものとする。
【0077】
また、上記第1〜第3の実施例では、表面波がバスバー領域に浸み出しながら伝搬する場合に効果が生じる。従って、バスバー領域に表面波が浸み出しながら伝搬しやすい条件、すなわち、グレーティング領域とバスバー領域との音速差が近接している場合に、特に有効である。よって、圧電基板の異方性を表す異方性定数ξが正の場合には、バスバーの音速Vmに対するグレーティング領域の音速Vgの比Vg/Vmは0.99以上、異方性定数ξが負の場合には、Vg/Vmが1.01以下である場合に、特に有効である。
【0078】
次に、下記の表2の条件に従って図1に示した表面波装置11を作製した。なお、入力側IDTは同一とし、IDTの開口幅は15λ、バスバーの幅は14λ、ZnO膜の幅は40λとした。但し、ZnO薄膜は図1の一点鎖線Baで囲まれた領域を覆うように形成されており、バスバーの外側端縁と内側端縁との間に位置している。このようにして得られた表面波装置の通過帯域における減衰量周波数特性及び位相直線性を図13に、減衰量周波数特性を図14に示す。
【0079】
通過帯域の高周波側における近傍減衰特性が劣化しており、かつ通過帯域の低周波側の近傍減衰特性も劣化していることがわかる。圧電基板の異方性を表す異方性定数ξが正の場合、図9に示したように、高次モードは、基本モードS0よりも高速で伝搬する。従って、高次モードによるフィルタ特性の劣化は、高周波数側で生じ、図14に示されている低周波数側の通過帯域近傍の減衰特性の劣化は、別の原因によるものと考えられる。
【0080】
表2の条件では、前述した表1の条件に比べて、電極を構成するアルミニウムの膜厚が薄く、かつZnO薄膜の厚みが厚くされている。従って、バスバー領域とグレーティング領域の音速差は小さい。そのため、表2の条件で作製された表面波装置では、グレーティング領域への表面波の閉じ込めが弱くなり、回折劣化が生じやすい。
【0081】
回折による劣化が生じた場合に、通過帯域の高域側及び低域側の双方の減衰特性が劣化することが知られている(例えば、リアライズ社、橋本研也著「弾性表面波(SAW)デバイスシミュレーション技術入門」第116頁〜第121頁に示されている)。従って、低周波数側の近傍減衰特性の劣化は、回折による劣化であると考えられる。
【0082】
【表2】
【0083】
前述した「弾性表面波(SAW)デバイスシミュレーション入門(リアライズ社)」には、交差幅方向に表面波を閉じ込めて伝搬させるには、(1)逆速度面が1つの基板(異方性定数ξが正の場合)ではグレーティング領域の速度をバスバー領域の速度よりも遅くし、(2)逆速度面が凹である基板(異方性定数ξが負の場合)では、グレーティング領域の速度をバスバー領域の速度よりも速くすればよいことが記載されている。従って、バスバー領域の音速を高速化すれば、回折劣化を抑制し得ると考えられる。
【0084】
ところで、グレーティング領域の外側で音速を高速化する方法は、従来より種々提案されている。例えば、特開平6−164297号公報には、電極指の先端側に配置されたダミー電極の幅を、波長の1.5倍以上の長さにわたり狭くし、かつ交差領域の外側に、メタル部分よりも音速が遅く交差領域よりも速い領域を形成すれば、表面波のエネルギー分布の乱れが抑制されることが記載されている。また、同様の方法は、特開平10−145173号公報にも開示されており、バスバー領域にスリットを形成することにより、バスバーのスリットが形成されていない外側の領域と、グレーティング領域との間にスリットを設けることにより中間の音速を有する領域が構成され、それによって高次横モードが抑制されるとされている。
【0085】
そこで、従来技術に従って、グレーティング領域に、図2に示したダミー電極を配置し、ダミー電極領域のデューティー比を0.3とし、ダミー電極領域の音速を、交差領域よりも高速化したことを除いては、表2の条件に従って表面波装置を作製した。なお、IDTの開口幅は15λ、バスバー幅は5λとした。また、ZnO薄膜は、バスバーの外側端縁よりも外側に至るように形成されている。この表面波装置の通過帯域の減衰量周波数特性及び位相直線性を図15に、減衰量周波数特性を図16に示す。
【0086】
図15及び図16から明らかなように、通過帯域の低周波側近傍における減衰特性は改善されたものの、改善度は十分でなかった。加えて、通過帯域に鋭いリップルCが生じている。このリップルCは、ダミー電極領域の配置周期がIDTの電極指の配置周期と等しいため、ダミー電極領域に漏れ出した表面波がダミー電極領域内で多重反射し、該多重反射により位相ずれを生じた表面波が再度グレーティング領域に進入したためと考えられる。
【0087】
上記のように、一般に知られている導波路理論を表面波のIDTに適用する場合には、単にグレーティング領域周囲のバスバー領域の音速を調整するだけでなく、バスバー領域を伝搬した表面波がグレーティング領域すなわち導波路領域に再度進入する際の位相ずれを防止する必要がある。
【0088】
また、近傍減衰特性の不足は、ダミー電極領域の高音速化が不十分であり、それによって回折劣化が生じているものと考えられる。
【0089】
バスバー領域の音速を高速化するには、ダミー電極におけるデューティー比を小さくする必要があるが、デューティー比を小さくすると、バスバー領域の電気抵抗が増大し、損失が大きくなる。また、ダミー電極領域の音速は、ダミー電極端縁部分でのエネルギー蓄積効果により、グレーティング領域の音速に近くなることとなる。
【0090】
(第4の実施例)
第4の実施例は、本発明の実施例であり、上述したエネルギー蓄積効果を生じさせず、かつバスバー領域における反射を抑制するようにIDTを構成したことに特徴を有する。
【0091】
図17及び図18は、第4の実施例で用いられるIDTの模式的平面図及びその拡大平面図である。なお、図17ではグレーティング領域の電極指は正規型IDTであるように略図的に示されているが、実際には、図18に示すように、ダブル電極と、非対称ダブル電極を組み合わせた。
【0092】
本実施例では、図1に示した表面波装置11の入力側IDT13及び出力側IDT14の少なくとも一方に、図17及び図18に示す、格子領域を有するIDT21が用いられている。なお、ZnO薄膜は図1の一点鎖線Bで囲まれた領域を覆うように、すなわち、第1〜第3の実施例と同様に、バスバーの外側端縁よりも外側に至るように形成した。
【0093】
IDT21は、第1,第2のバスバー22,23を有する。第1のバスバー22に、複数本の第1の電極指24が、第2のバスバー23に複数本の第2の電極指25が電気的に接続されている。第1,第2の電極指24,25は互いに間挿し合うように配置されている。
【0094】
IDT21の特徴は、バスバー22,23において、格子領域22a,22bが形成されていることにある。格子領域22a,23aでは、表面波伝搬方向に斜めに交差するように枡目が形成されており、すなわち斜め格子領域となるように金属膜がパターニングされている。格子領域22a,23aの表面波伝搬方向外側には、金属膜領域22b,23bが配置されている。バスバー22,23は、格子領域22a,23a及び金属膜領域22b,23bを有する。
【0095】
上記斜め格子で構成されている格子領域22a,23aでは、格子領域における表面波の反射を低減するために、その配置周期は基本モードや高次モードがブラッグ反射を生じない周期とすればよい。ここで、斜め格子の表面波伝搬方向の配置周期とは、図17における斜め格子領域22a,23aの格子点間の距離Qである。
【0096】
また、上記斜め格子の配置周期は、グレーティング領域における電極指配置周期に対して5%以上ずらせればよい。
【0097】
表面波はIDT内を伝搬方向に対して平行にのみ伝搬するわけではない。すなわち、表面波伝搬方向に対して一定の角度で伝搬し、高次モードになるほどその角度は大きくなることが知られている。従って、上記格子の配置周期Qは、IDTの配置周期とずらされているだけでなく、斜め格子の格子を構成している金属ストリップの延びる斜め方向と直交している方向の周期Rに対して、図17に示す斜めに見たIDTの周期Tと5%以上ずらされていることが望ましい。このように配置することにより、斜め格子の該斜め方向と偶然に一致して伝搬する高次モードの反射によるフィルタ特性の劣化が回避され得る。
【0098】
グレーティング領域を構成する電極指の配置周期と、上記格子領域の格子配置周期をずらすことにより、斜め格子領域を伝搬する表面波、エネルギー蓄積効果による音速の低下をほとんど生じず、従って、格子領域を伝搬する表面波の音速は、自由表面領域における音速と、金属膜領域の音速の間の音速となると考えられる。よって、グレーティング領域の音速に近いダミー電極領域よりも、格子領域の音速を高音速とすることができる。なお、格子領域の音速は、格子のデューティーを調整することにより容易に調整することができる。
【0099】
なお、特開平11−261370号公報には、表面波装置のIDTにおいて、バスバーに格子領域が設けられているが、この先行技術に記載の格子領域は、IDTと格子の周期が一致されている。すなわち、この先行技術に記載の格子領域は、反射格子を構成するものであり、第4の実施例における格子領域とはその機能及び構成において異なるものであることを指摘しておく。
【0100】
(具体的な実験例)
以下に、本発明の具体的な実施例としての実験例1〜3を説明する。
【0101】
(実験例1)
以下の構成を除いては表1の条件に従って前述した第4の実施例の表面波装置1を作製した。入力側IDT及び出力側IDTは同一とした。IDTの開口幅は10λとし、IDTに近接させて表面波伝搬方向に直交する方向の寸法が3λであり、格子配置周期が表面波伝搬方向において2λであり、格子のデューティー比が0.5である格子領域22a,23aをバスバーに形成した。なお、バスバー22,23において、格子領域の外側には、表面波伝搬方向と直交する方向である幅方向寸法が2λの金属膜領域22b,23bを形成した。また、ZnO薄膜の表面波伝搬方向と直交する方向の寸法、すなわち幅方向寸法は18λとした。従って、バスバーの幅は4λである。圧電基板の幅方向寸法は70λである。ZnO薄膜は図1の一点鎖線Baで囲まれた領域を覆っており、ZnO薄膜の外側端縁は、バスバーの外側端縁と内側端縁との間に位置している。
【0102】
IDTの電極指は、前述した実施例と同様に、ダブル電極と一方向性電極とを使用し、一方向性電極は前述した非対称ダブル電極とした。ダブル電極と非対称ダブル電極をIDT内に分散配置し、間引き重み付けを行い、IDTを構成した。図19はこのようにして得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す。
【0103】
図19から明らかなように、バスバー幅を上記のように設定し、かつ格子領域を設けることにより、低周波側及び高周波側のいずれの近傍減衰特性も改善しており、通過帯域に鋭いリップルが生じていないことがわかる。すなわち、第4の実施例では、上記格子領域22a,23aの形成により、高次モードによる特性劣化を防止することができ、かつ回折による特性劣化も抑制し得ることがわかる。
【0104】
(実験例2)
以下の構成を除いては表1の条件に従って本発明の実施例としての表面波装置1を作製した。実験例2では、入力側IDTと出力側IDTのバスバー幅を異ならせた。
【0105】
入力側IDTの構成…IDTの開口幅は10λとした。また入力側IDTに近接させて、表面波伝搬方向に直交する方向の寸法が3λであり、格子配置周期が表面波伝搬方向において2λであり、格子のデューティー比が0.5である格子領域22a,23aをバスバーに形成した。なお、バスバー22,23において、格子領域の外側には、表面波伝搬方向と直交する方向である幅方向寸法が2λの金属膜領域22b,23bを形成した。また、入力側IDTを覆うZnO薄膜の表面波伝搬方向と直交する方向の寸法、すなわち幅方向寸法は18λとした。従って、バスバーの幅は4λである。
【0106】
出力側IDTの構成…出力側IDTでは、格子領域の幅を8λとし、格子領域の外側に2λの金属膜領域を形成した。また、出力側IDTを覆うZnO薄膜の幅は28λとした。従って、バスバー幅はZnO薄膜の幅を考慮して9λとされている。
【0107】
なお、圧電基板の幅方向寸法は70λである。また、ZnO薄膜は図1の一点鎖線Baに相当する領域を覆うように形成されている。
【0108】
入力側及び出力側IDTの電極指は、前述した実施例と同様に、ダブル電極と一方向性電極とを使用し、一方向性電極は前述した非対称ダブル電極とした。ダブル電極と非対称ダブル電極をIDT内に分散配置し、間引き重み付けを行い、IDTを構成した。図20はこのようにして得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す。
【0109】
図20から明らかなように、バスバー幅を上記のように設定し、かつ格子領域を設けることにより、通過帯域近傍の減衰特性に優れており、かつ回折による劣化も生じていない、良好なフィルタ特性を実現し得ることがわかる。
【0110】
(実験例3)
以下の構成を除いては表2の条件に従って、本発明の実施例としての表面波装置1を作製した。入力側IDT及び出力側IDTは同じように構成した。IDTの開口幅は15λとし、IDTに近接させて表面波伝搬方向に直交する方向の寸法が5λであり、格子配置周期が表面波伝搬方向において2λであり、格子のデューティー比が0.5である格子領域22a,23aをバスバーに形成した。なお、バスバー22,23において、格子領域の外側には、表面波伝搬方向と直交する方向である幅方向寸法が2λの金属膜領域22b,23bを形成した。また、ZnO薄膜の表面波伝搬方向と直交する方向の寸法、すなわち幅方向寸法は40λとした。圧電基板の幅方向寸法は140λである。ZnO薄膜は図1の一点鎖線Bで囲まれた領域を被覆している。
【0111】
IDTの電極指は、前述した実施例と同様に、ダブル電極と一方向性電極とを使用し、一方向性電極は前述した非対称ダブル電極とした。ダブル電極と非対称ダブル電極をIDT内に分散配置し、間引き重み付けを行い、IDTを構成した。図21,22はこのようにして得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す。
【0112】
図21,22から明らかなように、バスバー幅を上記のように設定し、かつ格子領域を設けることにより、通過帯域近傍の減衰特性に優れており、かつ回折による劣化も生じていない、良好なフィルタ特性を実現し得ることがわかる。
【0113】
上述してきた実施例は、一方向性電極を用いたトランスバーサル型フィルタのIDTを有する。しかし、第1の発明はバスバーの幅により高次横モードを抑制するものであるので、本発明の効果はトランスバーサル型フィルタに限定されず、1ポート共振子や2ポート共振子、共振器型フィルタにも適用可能である。さらに、反射器も導波路として捉え得ることから、IDTの場合と同様に、反射器においても本発明により高次横モードを抑制できることが論理的に推察される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明により構成される表面波装置の一例を説明するための模式的平面図。
【図2】IDTの交差領域、グレーティング領域を説明するための模式的平面図。
【図3】グレーティング領域の音速比が0.99662の場合のモード振幅比と開口幅との関係を示す図。
【図4】グレーティング領域の音速比が0.9900の場合のモード振幅比と開口幅との関係を示す図。
【図5】グレーティング領域の音速比が0.9975の場合のモード振幅比と開口幅との関係を示す図。
【図6】従来の表面波装置において通過帯域の高域側に表れるスプリアスを説明するための減衰量周波数特性を示す図。
【図7】IDTの各領域及び各領域の積層構造を説明するための模式図。
【図8】IDTのバスバー幅と、モード振幅比との関係を示す図。
【図9】IDTのバスバー幅と、モード音速比との関係を示す図。
【図10】バスバー幅が3λの場合の基本モードS0及び高次モードS1,S2のモード振幅分布を示す図。
【図11】バスバー幅が7λの場合の基本モードS0及び高次モードS1,S2のモード振幅分布を示す図。
【図12】バスバー幅が10λの場合の基本モードS0及び高次モードS1,S2のモード振幅分布を示す図。
【図13】IDTの開口幅が15λであり、バスバーの幅が14λである表面波装置の減衰量周波数特性及び位相直線性を示す図。
【図14】IDTの開口幅が15λであり、バスバーの幅が14λである表面波装置の減衰量周波数特性を示す図。
【図15】ダミー電極を有し、IDTの開口幅が15λであり、バスバーの幅が5λの場合の表面波装置の減衰量及び位相直線性を示す図。
【図16】ダミー電極を有し、IDTの開口幅が15λであり、バスバーの幅が5λの場合の表面波装置の減衰量周波数特性を示す図。
【図17】第4の実施例の表面波装置で用いられるIDTを説明するための模式図。
【図18】図19に示したIDTを拡大して示す部分切欠模式図。
【図19】実験例1で得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す図。
【図20】実験例2で得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す図。
【図21】実験例3で得られた表面波装置の減衰量及び位相−周波数特性を示す図。
【図22】実験例3で得られた表面波装置の減衰量周波数特性を示す図。
【符号の説明】
【0115】
1…IDT
2,3…第1,第2のバスバー
4,5…第1,第2の電極指
6,7…ダミー電極
11…表面波装置
12…表面波基板としての圧電基板
13,14…第1,第2のバスバー
21…IDT
22,23…第1,第2のバスバー
22a,23a…格子領域
22b,23b…金属膜領域
24,25…第1,第2の電極指
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面波基板と、前記表面波基板上に形成された導波路形成用電極とを備え、前記導波路形成用電極が、表面波伝搬方向に延び、互いに隔てられた第1,第2のバスバーと、第1及び/または第2のバスバーに電気的に接続された複数本の電極指とを有し、
前記第1,第2のバスバーが、反射係数が小さい格子領域を有する、表面波装置。
【請求項2】
前記格子領域の音速が、第1,第2のバスバー間のグレーティング領域及び該バスバーにおける格子領域以外の領域の音速よりも速いことを特徴とする、請求項1に記載の表面波装置。
【請求項3】
前記格子領域が、第1,第2のバスバー間のグレーティング領域に連なるように配置されている、請求項1または2に記載の表面波装置。
【請求項4】
前記導波路形成用電極における電極指の表面波伝搬方向の配置周期に対し、前記格子領域の表面波伝搬方向に平行な配置周期が5%以上ずれていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面波装置。
【請求項5】
前記導波路形成用電極がIDTである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面波装置。
【請求項6】
前記導波路形成用電極が反射器である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面波装置。
【請求項7】
前記IDTとして、入力側IDTと、入力側IDTに対して表面波伝搬方向に隔てられた出力側IDTとを有する、請求項5に記載の表面波装置。
【請求項8】
トランスバーサル型表面波フィルタである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の表面波装置。
【請求項1】
表面波基板と、前記表面波基板上に形成された導波路形成用電極とを備え、前記導波路形成用電極が、表面波伝搬方向に延び、互いに隔てられた第1,第2のバスバーと、第1及び/または第2のバスバーに電気的に接続された複数本の電極指とを有し、
前記第1,第2のバスバーが、反射係数が小さい格子領域を有する、表面波装置。
【請求項2】
前記格子領域の音速が、第1,第2のバスバー間のグレーティング領域及び該バスバーにおける格子領域以外の領域の音速よりも速いことを特徴とする、請求項1に記載の表面波装置。
【請求項3】
前記格子領域が、第1,第2のバスバー間のグレーティング領域に連なるように配置されている、請求項1または2に記載の表面波装置。
【請求項4】
前記導波路形成用電極における電極指の表面波伝搬方向の配置周期に対し、前記格子領域の表面波伝搬方向に平行な配置周期が5%以上ずれていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面波装置。
【請求項5】
前記導波路形成用電極がIDTである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面波装置。
【請求項6】
前記導波路形成用電極が反射器である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面波装置。
【請求項7】
前記IDTとして、入力側IDTと、入力側IDTに対して表面波伝搬方向に隔てられた出力側IDTとを有する、請求項5に記載の表面波装置。
【請求項8】
トランスバーサル型表面波フィルタである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の表面波装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2006−246510(P2006−246510A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104196(P2006−104196)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【分割の表示】特願2001−384931(P2001−384931)の分割
【原出願日】平成13年12月18日(2001.12.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【分割の表示】特願2001−384931(P2001−384931)の分割
【原出願日】平成13年12月18日(2001.12.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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