説明

被洗浄物の蒸気洗浄方法

【課題】被洗浄物の蒸気洗浄方法及びその装置に係るもので、被洗浄物の蒸気洗浄に於いて、溶剤ガスの外部への流出を減少し環境に与える影響が少ない安全な蒸気洗浄を可能とするとともに溶剤の消費を減少し廉価な蒸気洗浄を可能にしようとするものである。
【解決手段】洗浄液2の上部に、被洗浄物7の蒸気洗浄を行う蒸気層5を蒸気発生部11に接続して設け、この蒸気層5の厚みを、被洗浄物7の上下移動方向に於ける最大直径よりも小さい直径とすると共に、この被洗浄物7を洗浄液2側から上部側に蒸気層5を通過させながら、蒸気を被洗浄物7に接触して凝縮させることにより蒸気洗浄を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被洗浄物の蒸気洗浄方法及びその装置に係るもので、被洗浄物の蒸気洗浄に於いて、溶剤ガスの外部への流出を減少し環境に与える影響が少ない安全な蒸気洗浄を可能とするとともに溶剤の消費を減少し廉価な蒸気洗浄を可能にしようとするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被洗浄物の蒸気洗浄を行う場合は、特許文献1、2に示す如く、蒸気洗浄を行う被洗浄物を洗浄槽内に挿入し、この洗浄槽内に洗浄蒸気を導入して蒸気洗浄を行うものである。そして、蒸気洗浄部は被洗浄物よりも大きな容積に形成されている。また、他の方法では特許文献3に示す如く、上下方向の直径が大きな被洗浄物を洗浄槽の洗浄液中に浸漬し、この洗浄槽の上部から洗浄蒸気を導入するとともに洗浄槽から洗浄液を順次抜き取ることにより、上下方向の直径が大きな被洗浄物を上方から蒸気洗浄を順次行うことが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−337448号公報
【特許文献2】特開平6−99148号公報
【特許文献3】特開昭62−279877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載の発明の如く、被洗浄物を挿入した洗浄槽内に洗浄蒸気を導入して蒸気洗浄を行う方法は、洗浄蒸気は空気よりも比重が重いため被洗浄物の下側から接触して凝縮を開始し、順次上部方向に凝縮部を移行する。そして、上部方向で凝縮した凝縮液は汚液となって流下するが、被洗浄物の下方は先の凝縮により暖められ凝縮能力を失っているから凝縮を行うことができず、上方から流下する凝縮汚液によって表面にシミを作ってしまう欠点を有していた。また、最終的には被洗浄物の全体に洗浄蒸気が接触することができる蒸気層が大きな容積で形成されるため、洗浄槽内の上部に形成した被洗浄物の配置空間に存在する空気等の気体は、洗浄蒸気の導入によって大量に洗浄槽の外部に排出され、この排出に伴って溶剤蒸気も外部に排出されるものとなる。
【0005】
また、蒸気洗浄の完了により洗浄槽内への洗浄蒸気の供給をカットし、洗浄槽内の洗浄蒸気を被洗浄物や冷却パイプに凝縮させて消失させれば、その消失量に対応する外気が洗浄槽内に流入する。このように特許文献1、2に記載の発明に於いては、蒸気洗浄の1サイクル毎に洗浄槽内への外気の導入と、排出を繰り返すことになり溶剤蒸気の外部への流失が生じ環境に好ましくないとともに無駄な溶剤の消失を生じコスト的にも好ましいものではない。
【0006】
また、特許文献3に示す発明では、被洗浄物の上下方向の直径よりも小さな厚みの蒸気層を上部に形成し、洗浄液の減少にともなって蒸気層が大きくなっていくため、蒸気洗浄開始の初期に於いては、洗浄槽に洗浄蒸気の流失や外気の導入が発生することはない。しかしながら、洗浄液を全て抜き取り蒸気洗浄が完了し、洗浄槽内への洗浄蒸気の供給をカットし、洗浄槽内の洗浄蒸気を被洗浄物や冷却パイプに凝縮させて消失させれば、その消失量に対応する大量の外気が洗浄槽内に流入するものとなる。そして、次の蒸気洗浄のために洗浄槽内に、洗浄液や被洗浄物、洗浄蒸気を導入する際に、対応する量の内部気体が外部に排出されるものとなり、溶剤蒸気の流失については結果的に特許文献1、2に記載の発明と異ならないものとなる。
【0007】
そこで、本願発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、被洗浄物の蒸気洗浄に於いて、洗浄槽からの洗浄蒸気の流失および洗浄槽への外気の流入を減少し、環境に与える影響を少なくするとともに溶剤ロスを減少し、廉価な蒸気洗浄を可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は上述の如き課題を解決するため、洗浄液の上部に、被洗浄物の蒸気洗浄を行う蒸気層を蒸気発生部に接続して設け、この蒸気層の厚みを、被洗浄物の上下移動方向に於ける最大直径よりも小さい直径とする。同時に、被洗浄物を洗浄液側から上部側に蒸気層を通過させながら、洗浄蒸気を被洗浄物に接触して凝縮させることにより蒸気洗浄を行うものである。このように、蒸気層の厚みを被洗浄物の上下移動方向に於ける最大直径よりも小さい直径とするとともに被洗浄物を洗浄液側から上部側に移動しながら蒸気層を通過しながら蒸気洗浄を行うから、蒸気層の容積が小さなものとなり洗浄蒸気のカットによっても、洗浄槽の上部空間に存在する空間層の容積変化は小さなものとなる。
【0009】
また、上記方法を実施するための装置は、洗浄液を充填し被洗浄物の浸漬洗浄を行う浸漬洗浄部と、この浸漬洗浄部の洗浄液の上部に蒸気発生部を接続し、洗浄液の上部に、被洗浄物の上下移動方向の最大直径よりも小さい直径の厚みに形成した蒸気層と、この蒸気層の上部に形成した被洗浄物の移動空間とにより洗浄槽を形成する。そして、この洗浄槽内で被洗浄物を洗浄液側から蒸気層を介して移動空間まで通過させながら、洗浄蒸気を被洗浄物に接触して凝縮させることにより蒸気洗浄を行うものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述の如く構成したものであり、被洗浄物と接触する蒸気層の厚みを、被洗浄物の上下移動方向に於ける最大直径よりも小さい直径とするものであるから、蒸気層の容積を小さなものとすることができる。そのため、蒸気発生部からの導入による蒸気層の形成、供給カットによる蒸気層の消失によっても、洗浄槽の上部に形成される空間層が占める容積の変化は少なく、洗浄槽からの洗浄蒸気の流失や外気の流入は少ないものとなり、環境に与える影響や溶剤の消失を最小限とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明における被洗浄物の浸漬洗浄状態を示す断面図。
【図2】本発明における被洗浄物の浸漬洗浄および蒸気洗浄開始状態を示す断面図。
【図3】本発明における被洗浄物の浸漬および蒸気洗浄並びに乾燥開始状態を示す断面図。
【図4】本発明における被洗浄物の蒸気洗浄並びに乾燥状態を示す断面図。
【図5】本発明における被洗浄物の乾燥状態を示す断面図。
【図6】本発明における被洗浄物の洗浄完了状態を示す断面図。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施例を図1〜図6に於いて説明すると、(1)は洗浄槽で、下方向にフッ素系溶剤、塩素系溶剤、アルコール系溶剤、石油系溶剤等から成る洗浄液(2)を充填した浸漬洗浄部(3)を設け、この浸漬洗浄部(3)に適宜の冷却機構と接続する冷却部(4)を設け、洗浄液(2)の冷却を可能としている。また、この浸漬洗浄部(3)の上部に蒸気洗浄用の蒸気層(5)、この蒸気層(5)の上部に冷却コイル(6)により冷却した被洗浄物(7)の移動空間(8)を形成し、上端を蓋体(10)にて開閉可能に密閉している。
【0013】
また、洗浄槽(1)には蒸気発生部(11)を接続している。この蒸気発生部(11)は、内部に充填した洗浄液(2)を加熱して洗浄蒸気(12)を発生させるヒーター(13)を配置するとともに、このヒーター(13)の加熱によって生じた洗浄蒸気(12)を洗浄槽(1)に供給するための供給口(14)を、洗浄液(2)の液面上部に接続している。この供給口(14)からの洗浄蒸気(12)を供給することによって、洗浄液(2)の液面上部には被洗浄物(7)の蒸気洗浄を行う蒸気層(5)を形成している。
【0014】
この蒸気層(5)は、洗浄液(2)の液面と移動空間(8)の内周に巻き回した冷却コイル(6)の冷気が及ばない範囲に形成される。例えば、図1に示す如く冷却コイル(6)の下端を断面L字型の環状樋(15)により被覆した場合は、環状樋(15)の上端縁まで蒸気層(5)が形成され、この上端縁よりも上方では、洗浄蒸気の比重が空気よりも重いことと相俟って、冷却コイル(6)よって凝縮されてしまうため蒸気層(5)を形成することはない。また、環状樋(15)を形成しない場合は、冷却コイル(6)の下端まで蒸気層(5)が形成される。また、更に蒸気層(5)の厚みを大きくしようとする場合は、環状樋(15)の上端を目的とする高さ位置まで形成すればよい。このように、蒸気層(5)の厚みは任意に決定できるが、本発明に於いては、被洗浄物(7)の上下移動方向の最大直径よりも小さい直径とする。
【0015】
そして、上記の蒸気層(5)は、被洗浄物の上下移動方向の最大直径よりも小さい直径の厚みとするものである。ここで被洗浄物(7)とは、洗浄目的物である被洗浄物(7)のみならず、洗浄目的物である被洗浄物(7)を収納した洗浄籠、洗浄目的物である被洗浄物(7)を保持した洗浄治具をも含む概念で用いている。そして、この蒸気層(5)の厚みは、被洗浄物(7)の上下移動方向の最大直径よりも小さい直径の厚みとするものであれば良いが、蒸気洗浄に支障のない限り出来るだけ薄く形成するのが、移動空間の容積の変動を防止するために好ましものであって、20mm〜100mmの範囲に蒸気層(5)の厚み形成する。また、この蒸気層(5)の厚みは、好ましくは30mm〜50mmに形成する。
【0016】
また、蒸気層(5)の上部には、蒸気層(5)を通過する被洗浄物(7)が移動するための移動空間(8)を形成し、この移動空間(8)の外周に相当する洗浄槽(1)の内壁には、前述した冷却コイル(6)を巻き回し、移動空間(8)を冷却することにより被洗浄物(7)の冷却乾燥を可能としている。
【0017】
上述の如く構成したものに於いて、被洗浄物(7)の洗浄を行うには、図6に示す如く、洗浄槽(1)の蓋体(10)を開放し、被洗浄物(7)を洗浄槽(1)内に適宜の移動機構(図示せず)により導入して、図1に示す如く洗浄液(2)中に浸漬して浸漬洗浄を行う。この浸漬洗浄は、洗浄液(2)が冷却部(4)により冷却されているから被洗浄物(7)を洗浄とともに十分に冷却する。
【0018】
被洗浄物(7)の浸漬洗浄が完了した後は、図2に示す如く被洗浄物(7)をゆっくりと上昇させ、被洗浄物(7)の上部を蒸気層(5)と接触し、蒸気層(5)の洗浄蒸気(12)を凝縮することにより蒸気洗浄を行う。この蒸気洗浄は被洗浄物(7)の上昇とともに行われるが、図3に示す如く被洗浄物(7)の上昇が相当程度進んだ状態でも、被洗浄物(7)と冷却された洗浄液(2)とは接触が保たれているため、被洗浄物(7)は冷却状態を維持することができる。そのため、薄肉の板状物等の如く蓄熱量の少ない被洗浄物(7)であっても、洗浄液(2)と接触が保たれている限り、洗浄蒸気(12)の凝縮が可能となり、確実な蒸気洗浄効果を得ることができる。
【0019】
また、特許文献1、2に示す如く被洗浄物(7)の下方から凝縮を行うものではなく、被洗浄物(7)を蒸気層(5)内に洗浄液(2)側から挿入し、被洗浄物(7)の上部から凝縮を行い、最後に下端を凝縮して洗浄するものであるから汚液によるシミの発生は生じないものである。
【0020】
以上の通り本願発明は被洗浄物(7)の蒸気洗浄を行う蒸気層(5)の厚みを、被洗浄物(7)の上下移動方向に於ける最大直径よりも小さい直径とするから、蒸気層(5)の容積が従来技術に比較し小さなものとなり、洗浄槽(1)への洗浄蒸気(12)の供給または供給カットが行われた場合にも、洗浄槽(1)の上部に形成される空間層が占める容積の変化は少なく、洗浄槽(1)からの洗浄蒸気(12)の流出や外気の流入は少ないものとなり、環境に与える影響や溶剤の消失を最小限とすることが可能となる。この目的達成のためにも、蒸気層(5)は可能な限り薄く形成するのが好ましいとともに被洗浄物(7)を洗浄液(2)から蒸気層(5)を介して移動空間(8)まで移動する被洗浄物(7)の移動機構(図示せず)も、被洗浄物(7)と蒸気層(5)の接触を十分行うことができるよう被洗浄物(7)の上昇移動速度を任意に調整し得るものが好ましい。
【符号の説明】
【0021】
1 洗浄槽
2 洗浄液
3 浸漬洗浄部
5 蒸気層
7 被洗浄物
8 移動空間
11 蒸気発生部
12 洗浄蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液の上部に、被洗浄物の蒸気洗浄を行う蒸気層を蒸気発生部に接続して設け、この蒸気層の厚みを、被洗浄物の上下移動方向に於ける最大直径よりも小さい直径とすると共に、この被洗浄物を洗浄液側から上部側に蒸気層を通過させながら、洗浄蒸気を被洗浄物に接触して凝縮させることにより蒸気洗浄を行うことを特徴とする被洗浄物の蒸気洗浄方法。
【請求項2】
洗浄液を充填し被洗浄物の浸漬洗浄を行う浸漬洗浄部と、この浸漬洗浄部の洗浄液の上部に蒸気発生部を接続し、洗浄液の上部に、被洗浄物の上下移動方向の最大直径よりも小さい直径の厚みに形成した蒸気層と、この蒸気層の上部に形成する被洗浄物の移動空間とにより洗浄槽を形成し、この洗浄槽内で被洗浄物を洗浄液側から蒸気層を介して移動空間まで通過させながら、洗浄蒸気を被洗浄物に接触して凝縮させることにより蒸気洗浄を行うことを特徴とする被洗浄物の蒸気洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−86190(P2012−86190A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236750(P2010−236750)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【特許番号】特許第4737700号(P4737700)
【特許公報発行日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(390019884)ジャパン・フィールド株式会社 (28)
【Fターム(参考)】