説明

被覆されたヒアルロン酸粒子

本発明は全般に、被覆によって被覆または封入されているヒアルロン酸含有粒子に関する。被覆は好ましくは、粒子が水性環境(例えば、哺乳動物の皮膚の内側)に置かれたときヒアルロン酸の分解速度を低下させるポリマー、タンパク質、多糖またはそれらの組合せを含む。そのような被覆されたヒアルロン酸を含有する本発明の組成物は、軟組織を増強するのに有用であり、特に皮膚フィラーとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟組織増強のための組成物に関し、とりわけ、皮膚フィラーとして有用な組成物に関する。本発明の組成物は、水性環境と接触したときのヒアルロン酸の分解速度の低下に寄与する保護被覆によって被覆または封入されているヒアルロン酸を含む。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、結合組織、上皮組織および神経組織において人体中に広く分布する非硫酸化グリコサミノグリカンである。ヒアルロン酸はまた、皮膚の主要な成分であり、この場合、ヒアルロン酸は組織修復に関与する。皮膚が老化するにつれて、また、皮膚が日光の紫外線に繰り返しさらされると、皮膚細胞はそのヒアルロン酸産生を低下させ、ヒアルロン酸分解の速度を増大させる。同様に、老化する皮膚はコラーゲン(皮膚の若さおよび弾力性を保つために必要な別の天然物質)を失う。図1Aに示されるように、時が経つにつれて、ヒアルロン酸およびコラーゲンの喪失によって、老化する皮膚にはしわ(line、wrinkle、fold)が生じる。
【0003】
この数年間、しわや瘢痕を充填するために、また、皮膚組織を賦活させるために、例えば、唇をふっくらさせるために、ヒアルロン酸組成物が美容適用において使用されている。ヒアルロン酸は、人体に対して生来的であるので、一般に十分に忍容される、危険性がかなり低い皮膚増強物質である。
【0004】
いくつかのヒアルロン酸組成物は、ゲルに懸濁された非架橋ヒアルロン酸の粒子(またはミクロスフェア)を含有する。図1Bに示されるように、ゲルが、しわ(あるいは、瘢痕、または賦活させる皮膚組織)の位置において皮膚の表面のすぐ下に注入される。本質的には、ヒアルロン酸により、皮膚を皮膚の上部層の下側から持ち上げる。注入されたヒアルロン酸は親水性であり、時が経つにつれて、水を周囲の組織から吸収し、これにより、ヒアルロン酸が分解する。非架橋ヒアルロン酸の組成物は、注入後数ヶ月以内に分解する傾向があり、従って、その皮膚増強効果を維持するにはかなり頻繁な再注入が必要である。
【0005】
より近年では、架橋ヒアルロン酸の組成物が皮膚増強のために使用されている。いくつかのそのような架橋された組成物は、ゲルに懸濁されたかなり大きいヒアルロン酸粒子(それぞれがおよそ2mm前後)を含有する。他の組成物はヒアルロン酸のかなり均一なゲルマトリックスである。ヒアルロン酸はかなり柔軟であるので、これらの大きい粒子およびマトリックスでも依然として皮下注入のために好適である。一方、これらの組成物のヒアルロン酸は架橋され、大きくなっているので、注入後において分解するのにより長い時間がかかる。これらの架橋ヒアルロン酸組成物のいくつかは、注入後6ヶ月またはそれ以上に及ぶ寿命および増強効果を有する。これらの組成物は、より長い持続効果を有するとはいえ、依然として一般には、年におよそ2回の再注入を必要とする。
【0006】
より長く持続する皮膚フィラーに対する要望により、一部の医師および患者は、様々な合成物(例えば、ポリアクリルアミド、ポリラクチドおよびポリテトラフルオロエチレン)に関心を向けている。そのような皮膚フィラーは、より長く持続するものの、人体に対して生来的ではなく、様々な有害な反応を引き起こし得る。そのうえ、そのような合成フィラーによる皮膚増強は、自然な見かけという点では劣ることがしばしばである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、天然物(例えば、ヒアルロン酸など)から作製される皮膚用組成物であって、注入後においてより長く持続し、必要な再注入頻度が少なく、所望される皮膚増強を維持する組成物が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ヒアルロン酸を使用期間中の分解から保護するために、ヒアルロン酸が被覆または封入されている、ヒアルロン酸を含む組成物に関する。本発明の1つの態様は、軟組織増強のための組成物に関する。このような組成物は、ヒアルロン酸を分解から保護するように被覆されたヒアルロン酸粒子を含有する。被覆は、生分解性ポリマー、非分解性ポリマー、タンパク質、多糖またはこれらの組合せを含有することができる。被覆は生体適合性および生体吸収性であってもよく、ヒアルロン酸が時間とともに分解することを可能にする。しかしながら、本発明の被覆されたヒアルロン酸粒子は、非被覆の粒子よりもゆっくりと分解し、それにより、軟組織増強のための使用期間中におけるヒアルロン酸の寿命を延長させる。本発明の1つの実施形態において、これらの組成物は、哺乳動物における皮下注入のために好適である。
【0009】
本発明において使用されるヒアルロン酸は、架橋または非架橋であり得る。本発明のいくつかの実施形態では、架橋されたヒアルロン酸が好ましい。
【0010】
本発明の1つの実施形態において、ヒアルロン酸がポリ乳酸-コ-グリコール酸により被覆される。本発明の別の実施形態において、ヒアルロン酸がアルブミンにより被覆される。本発明のさらに別の実施形態において、ヒアルロン酸がアルギネートにより被覆される。
【0011】
本発明のいくつかの好ましい実施形態において、被覆されたヒアルロン酸は一般には球形である。1つの好ましい実施形態において、被覆されたヒアルロン酸はミクロスフェアの形状であり、この場合、ミクロスフェアは、平均して、直径が約10μm〜約500μmである。
【0012】
本発明はさらに、ポリマー、タンパク質、多糖またはこれらの組合せに封入されたヒアルロン酸粒子を含む組成物に関する。封入されたヒアルロン酸粒子は一般には球形である。1つの実施形態において、封入されたヒアルロン酸の組成物は、哺乳動物における皮下注入のために好適である。
【0013】
1つの好ましい実施形態において、ヒアルロン酸粒子は、水性環境におけるヒアルロン酸の持続放出を可能にするポリマー、タンパク質、多糖またはこれらの組合せに封入される。別の好ましい実施形態において、封入されたヒアルロン酸粒子は、少なくとも1つの生体適合性ポリマーと架橋されてヒドロゲルを形成する。1つのさらなる好ましい実施形態において、封入されたヒアルロン酸粒子はポリビニルアルコールと架橋される。
【0014】
本発明の別の態様は、皮膚増強のための皮膚フィラーに関する。本発明の皮膚フィラーは、生体適合性ポリマー、タンパク質または多糖により被覆されたヒアルロン酸の粒子を含む。1つの実施形態において、被覆は約10nm〜約50000nmの厚さである。別の実施形態において、被覆された粒子は一般には球状であり、平均して、直径が約50μm〜約2000μmである。さらに別の実施形態において、ヒアルロン酸は、架橋されたヒアルロン酸である。
【0015】
さらに別の態様において、本発明は、哺乳動物の軟組織を修復または増強するための方法に関する。本発明の方法は、修復または増強する哺乳動物の軟組織を選択するステップ、および、ヒアルロン酸粒子を含む注入可能な生体吸収性組成物を哺乳動物の軟組織の中に配置するステップを含む。注入組成物のヒアルロン酸粒子は、ポリマー、タンパク質または多糖で被覆される。
【0016】
本発明の前記のおよび他の態様、特徴、詳細、有用性および利点は、以下の説明および特許請求の範囲ならびに添付されている図面を参照すれば明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1Aは、哺乳動物皮膚の断面を示すものであり、表皮層、真皮層および皮下層を示し、また、そのような皮膚におけるしわを示す。図1Bは、図1Aの哺乳動物皮膚の断面を示すものであり、しわを充填するためのヒアルロン酸の注入部位を示す。
【図2】アルブミンにより被覆されているヒアルロン酸粒子の拡大画像である。
【図3】アルギネートにより被覆されているヒアルロン酸粒子の拡大画像である。
【図4】図4Aは、ポリ乳酸-コ-グリコール酸に封入されている乾燥した非架橋ヒアルロン酸粒子の拡大画像である。図4Bは、水溶液に10日間暴露後の図4Bの粒子の拡大画像である。
【図5】ポリ乳酸-コ-グリコール酸に封入されている湿潤した非架橋ヒアルロン酸の粒子の拡大画像である。
【図6】ポリ乳酸-コ-グリコール酸に封入されている架橋ヒアルロン酸の粒子の拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は全般に、ヒアルロン酸を含む粒子に関し、粒子は、粒子が水性環境(例えば、哺乳動物の皮膚の内側)に置かれたときヒアルロン酸の分解速度を低下させる被覆により、被覆または封入される。本発明の被覆された粒子は、軟組織を修復または増強するための組成物における使用が意図される。1つの好ましい実施形態において、本発明の被覆された粒子は、皮膚のしわを充填するための皮膚フィラーとしての組成物において使用される。
【0019】
本発明のヒアルロン酸は、非架橋、架橋(二重架橋を包含する)、単相または二重相のヒアルロン酸、あるいは、架橋ヒアルロン酸および非架橋ヒアルロン酸の組合せであり得る。本発明のヒアルロン酸は、鳥類または非動物を含めて、任意の供給源のものであり得る。ヒアルロン酸はさらに、他の成分(例えば、ヒプロメロースまたは生体吸収性ポリマー)と組み合わせることができ、そのような組み合わされた成分を被覆または封入して、本発明の被覆された粒子を形成することができる。
【0020】
被覆は、水性環境におけるヒアルロン酸の分解を遅らせる、いずれかのタイプの生体適合性の被覆物質であり得る。好ましくは、被覆は、ポリマー、タンパク質、多糖またはこれらの組合せから作製される。代表的な合成ポリマーには、ポリ(ヒドロキシ酸)(例えば、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)およびポリ(乳酸-コ-グリコール酸))、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリアミド、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリ(エチレングリコール))、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリ(エチレンオキシド))、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート))、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド(例えば、ポリ(塩化ビニル))、ポリビニルピロリドン、ポリシロキサン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリウレタンおよびそれらのコポリマー、アクリル酸ポリマー、メタクリル酸ポリマーまたはそれらのコポリマーもしくは誘導体、例えばエステル、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)およびポリ(アクリル酸オクタデシル)(これらはまとめて本書では「ポリアクリル酸」と称される)、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、ならびに、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)、それらのコポリマーおよびブレンドが含まれる。
【0021】
代表的なタンパク質には、アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、および、ゼインのようなプロラミンが含まれる。代表的な多糖には、アルギネート、セルロース誘導体(例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシエチルセルロースおよび三酢酸セルロース)、ならびに、ポリヒドロキシブチレートおよびポリヒドロキシブチレート−バレレートのようなポリヒドロキシアルカノエートが含まれる。
【0022】
本書において、「誘導体」には、当業者によって日常的に行われる様々な置換、様々な化学基の付加、および、他の修飾を有するポリマーが含まれる。
【0023】
1つの好ましい実施形態において、被覆は、粒子からのヒアルロン酸の持続した放出を可能にするポリマー(例えば、ポリラクチド-コ-グリコリド)から作製される。被覆は、当業者に知られている多くの様式のいずれかでヒアルロン酸に適用することができる。下記の実施例により、本発明の被覆された粒子のいくつかを作製するための非限定的方法がいくつか示される。本発明の被覆された粒子はさらに、ポリマー(例えば、ポリビニルアルコール)と架橋して、ゲルまたはマトリックスとすることができる。
【0024】
被覆は、ヒアルロン酸の分解を遅らせるために十分に、ヒアルロン酸粒子を完全に被覆もしくは封入することができ、または、ヒアルロン酸粒子を実質的に被覆することができる。1つの好ましい実施形態において、被覆は連続しており、かつ、実質的に均一である。
【0025】
被覆はまた、使用される被覆に依存して、任意の所望される厚さとすることができる。例えば、ポリマー(例えば、ポリエチレングリコールまたはポロキサミン)の被覆を、わずか数ナノメートルの厚さの被覆を作製するように、物理的に、例えば、ヒアルロン酸への交互積層によって、または、化学的に、例えば、ヒアルロン酸との化学的コンジュゲーションによって、作製することができる。
【0026】
本発明の被覆または封入された粒子の好ましいサイズは、使用されるヒアルロン酸のタイプ、ならびに、被覆のタイプおよび厚さに依存して変化する。非常に柔軟な被覆が使用されるならば、得られる被覆された粒子は、例えば、皮下注入のための標準的なニードルをうまく通り抜けるために、より容易に変形可能であるので、粒子サイズをより大きくすることができる。あまり柔軟でない被覆が適用されるならば、より小さい粒子サイズが必要となる場合がある。粒子サイズが小さい場合、被覆された粒子の寿命をさらに改善するために、架橋されたヒアルロン酸が好ましい場合がある。
【0027】
本発明の皮膚フィラー実施形態のためには、被覆された粒子は、皮下注入のために好適となるサイズおよび柔軟性を有するものでなければならない。そのような粒子は一般には、直径が最大でも約2mmでなければならない。1つのさらなる好ましい実施形態において、本発明の被覆された粒子は、平均して、直径が最小でも約10μmでなければならず、かつ、直径が最大でも約1000μmでなければならない。別の好ましい実施形態において、被覆された粒子は、直径が約100μm〜約500μmである。
【0028】
実施例
下記の実施例は、本発明の実施形態のいくつかに関してさらに詳述するものである。
【0029】
A.タンパク質被覆
本発明のヒアルロン酸は任意のタイプのタンパク質により被覆することができる。例えば、コラーゲンおよび/またはアルブミンを、ヒアルロン酸の粒子を被覆するために、または、ヒアルロン酸マトリックスを作製するために使用することができる。好ましくは、ヒアルロン酸を被覆するために使用されるタンパク質は、被覆されたヒアルロン酸の改善されたインビボ寿命を可能にしながら、一般に容易に生体吸収性であることがこの技術分野において知られているタンパク質でなければならない。
【0030】
下記の実施例1に開示されるように、本発明の1つの好ましい実施形態において、ヒアルロン酸を架橋アルブミンで被覆または封入して、アルブミンにより被覆されたヒアルロン酸ミクロスフェアを作製する。アルブミンは主要な血漿タンパク質であり、従って、生体適合性であり、生分解性であり、かつ、一般には非免疫原性である。同時に、アルブミンは保護被覆をヒアルロン酸に提供し、これにより、被覆された粒子に、非被覆ヒアルロン酸粒子よりも一般には長い寿命を与える。
【実施例1】
【0031】
最初に、架橋ヒアルロン酸(Hylaform)をおよそ2000rpmで20分間混合した。次いで、Hylaformを、水およびウシ血清アルブミン(BSA)とともに、BSAが溶解するまでボルテックスした。得られたHylaform/BSA溶液を、およそ800rpmでの撹拌を行いながら鉱油に加えた。次いで、ミキサーの速度をおよそ900rpmに上げ、同時に、8%グルタルアルデヒドの溶液を加えた。溶液を、BSAの効果的な架橋を可能にするために数時間撹拌した。得られた混合物をエチルエーテルにより洗浄して、鉱油を除き、被覆された粒子を水により洗浄した。
【0032】
図2は、得られたアルブミン被覆されたヒアルロン酸粒子を示す。被覆された粒子のサイズは、使用されるHylaform粒子のサイズを調節することによって、また、被覆プロセスにおける撹拌速度を調節することによって、調節することができる。アルブミン被覆の分解速度は、グルタルアルデヒド濃度、および、アルブミンのグルタルアルデヒド暴露時間の調節により、アルブミン被覆の架橋密度を調節することによって、制御することができる。1つの好ましい実施形態において、アルブミンにより被覆された粒子は直径が約10μm〜約1000μmである。さらなる好ましい実施形態において、アルブミンにより被覆された粒子は直径が約50μm〜100μmである。
【0033】
B.多糖被覆
本発明のヒアルロン酸は任意のタイプの多糖により被覆することができる。例えば、デンプン、セルロースおよびその誘導体(アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシエチルセルロースおよび三酢酸セルロースを含む)、および/または、アルギネートを、ヒアルロン酸粒子を被覆するために、または、ヒアルロン酸マトリックスを作製するために使用することができる。好ましくは、ヒアルロン酸を被覆するために使用される多糖は、被覆されたヒアルロン酸の改善されたインビボ寿命を可能にしながら、一般に容易に生体吸収性であることがこの技術分野において知られている多糖でなければならない。
【0034】
下記の実施例2に開示されるように、本発明の1つの好ましい実施形態において、ヒアルロン酸をアルギネートで被覆または封入して、アルギネートにより被覆されたヒアルロン酸粒子を作製する。アルギネートは、グルクロン酸およびマンヌロン酸のコポリマーであり、容易に入手することができる。アルギネートは親水性で、コロイド状であり、様々な医療適用において使用される非毒性物質である。
【実施例2】
【0035】
アルギン酸ナトリウムを水に溶解し、その後、Hylaformを超音波処理およびボルテックス処理によって加えた。得られたアルギネート/HA混合物を、撹拌を行いながら、0.1MのCaCl2溶液に小直径のニードルを通して加えた。
【0036】
図3は、得られた被覆粒子を示す。アルギネートにより被覆された粒子は柔軟であり、したがって、注入のために比較的好適である。アルギネートにより被覆された粒子はまた、水の存在下で膨潤する。被覆された粒子のサイズは、使用されるHylaform粒子のサイズを調節することによって、また、使用されるアルギネートの濃度調節により、得られる被覆の厚さを調節することによって、調節することができる。1つの好ましい実施形態において、アルギネートにより被覆された粒子は直径が約500μm〜約2000μmである。さらなる好ましい実施形態において、アルブミンにより被覆された粒子は直径が約500μm〜約1000μmである。被覆の分解速度は、アルギネートの架橋密度を調節することによって、および/または、粒子を別のタンパク質(例えば、ポリ-L-リジン)とさらに架橋することによって、制御することができる。
【0037】
C.ポリマー被覆
本発明のヒアルロン酸は、任意のタイプの生体吸収性または生分解性ポリマーあるいはある種の非分解性ポリマーにより被覆することができる。例えば、ポリ(ヒドロキシ酸)(例えば、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)およびポリ(乳酸-コ-グリコール酸))、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリアミド、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリ(エチレングリコール))、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリ(エチレンオキシド))、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート))、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド(例えば、ポリ(塩化ビニル))、ポリビニルピロリドン、ポリシロキサン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリウレタンおよびそれらのコポリマー、アクリル酸ポリマー、メタクリル酸ポリマーまたはそれらのコポリマーもしくは誘導体、例えばエステル、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)およびポリ(アクリル酸オクタデシル)(これらはまとめて本書では「ポリアクリル酸」と称される)、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、ならびに、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)、それらのコポリマーおよびブレンドをはじめとする様々なポリマーを、ヒアルロン酸の粒子を被覆するために、または、ヒアルロン酸マトリックスを作製するために使用することができる。そのようなポリマーを、交互積層、化学的コンジュゲート化、乳化、または、この技術分野において知られている様々な被覆方法のいずれかにより、ヒアルロン酸上に被覆することができる。被覆の厚さは、ヒアルロン酸の大きい架橋粒子が使用でき、かつ、注入のために好適な被覆粒子が得られるように、ほんの数ナノメートルの非常に薄い被覆を作製するために改変することができる。あるいは、被覆は、インビボでのヒアルロン酸の寿命を改善するために、より厚くすることができる。
【0038】
下記の実施例3、実施例4および実施例5に開示されるように、本発明の1つの好ましい実施形態において、ヒアルロン酸を、PLGAで被覆または封入して、PLGAにより被覆されたヒアルロン酸ミクロスフェアを作製する。PLGAは生分解性で、生体適合性であり、いくつかの製造物における使用について食品医薬品局によって承認されている。PLGAは、人体によって排泄される乳酸およびグリコール酸に生分解される。加えて、PLGAは容易に水に溶解しない。
【実施例3】
【0039】
PLGA(50:50)をギ酸エチルに溶解した。乾燥し、粉砕した非架橋ヒアルロン酸を、ボルテックス処理および超音波処理によってPLGA溶液に加えた。得られたPLGA/HA溶液を、撹拌を行いながら、水および界面活性剤(Pluronic F-68)の溶液に加えた。混合物を、ギ酸エチルのほとんどが混合物から蒸発するまで撹拌した。
【0040】
図4は、得られたPLGA被覆粒子を示す。この実施形態のPLGA被覆ヒアルロン酸粒子の1つの利点は、その膨潤特性および遅い浸透特性である。具体的には、PLGAは膜のように作用し、これにより、被覆された粒子の内部のヒアルロン酸への、遅い水の浸透を可能にする。ヒアルロン酸が水の存在下で膨潤し、これにより、粒子全体の膨潤が起こる。時間とともに、PLGA被覆は生分解され、これにより、ヒアルロン酸がミクロスフェアから放出される。膨潤性粒子のサイズは、元のヒアルロン酸粒子のサイズ、および、PLGA被覆の厚さを調節することによって、制御することができる。1つの好ましい実施形態において、PLGAにより被覆された粒子は直径が約10μm〜約500μmである。さらなる好ましい実施形態において、PLGAにより被覆された粒子は直径が約100μm〜約500μmである。粒子の膨潤およびヒアルロン酸放出を、PLGA被覆の厚さ、および、被覆を作製するために使用されるPLGAにおける乳酸の濃度によって、制御することができる。
【実施例4】
【0041】
非架橋ヒアルロン酸を水に溶解した。別に、PLGAをギ酸エチルに溶解した。これらの溶液を一緒にし、およそ2000rpmで数分間混合した。得られたHA/PLGAエマルションを、およそ900rpmでの撹拌を行いながら、水およびPluronic F-68の溶液に加えた。得られた二次エマルションを、撹拌を行いながら、別の水およびPluronic F-68の溶液に注いだ。撹拌を、ギ酸エチルのほとんどが蒸発するまで続けた。
【0042】
図5は、得られたPLGA粒子を示す。これらの粒子のサイズおよび多分散性を、撹拌パラメータを制御することによって制御することができる。これらの粒子は、実施例3に記載されるPLGA被覆粒子と同じ膨潤特性は示さなかった。
【実施例5】
【0043】
PLGAをギ酸エチルに溶解した。乾燥Hylaformを、ボルテックス処理および超音波処理によってPLGA溶液に加えた。得られたPLGA/HA溶液を、撹拌を行いながら、水およびPluronic F-68の溶液に加えた。混合物を、ギ酸エチルのほとんどが混合物から蒸発するまで撹拌した。
【0044】
図6は、得られたPLGA被覆粒子を示す。これらの粒子は一般に、実施例3のPLGA被覆粒子と比較して、均一性が低く、また、大きかった。これらの粒子はまた、実施例3のPLGA被覆粒子と比較して、短時間で、また、低い均一性で膨潤した。
【0045】
本発明のほんの少数の実施形態を、ある程度の具体性をもって説明したが、当業者は、本発明の精神または範囲から逸脱することなく、開示された実施形態に対して数多くの変更を加えることができる。上記の説明に含まれるか、または、添付の図面に示される事項はいずれも、限定としてではなく、例示としてのみ解釈されなければならないことが意図される。細部における様々な変化を、特許請求の範囲において定義されるような本発明の精神から逸脱することなく加えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟組織増強のための組成物であって、
被覆されたヒアルロン酸を形成するように被覆で被覆されたヒアルロン酸を含み、被覆は、生分解性ポリマー、非分解性ポリマー、タンパク質、多糖またはこれらの組合せを含み、
哺乳動物における皮下注入のために好適である組成物。
【請求項2】
ヒアルロン酸が、架橋されたヒアルロン酸の粒子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
被覆が、ポリ乳酸-コ-グリコール酸、アルブミンまたはアルギネートである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
被覆されたヒアルロン酸が、通例球形である、ミクロスフェアの形状である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
持続型ミクロスフェアは、平均して、直径が約10μm〜約2000μmである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ヒアルロン酸粒子を含む組成物であって、
ヒアルロン酸粒子が、封入されたヒアルロン酸粒子を形成するように、ポリマー、タンパク質、多糖またはこれらの組合せに封入され、
封入されたヒアルロン酸粒子は通例球形である組成物。
【請求項7】
哺乳動物における皮下注入のために好適である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
ヒアルロン酸粒子が、水性環境におけるヒアルロン酸の持続放出を可能にするポリマー、タンパク質または多糖に封入される、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの生体適合性ポリマーと架橋された封入ヒアルロン酸粒子のヒドロゲルを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
生体適合性ポリマーがポリビニルアルコールである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
被覆されたヒアルロン酸粒子を含む、皮膚増強のための皮膚フィラーであって、被覆されたヒアルロン酸粒子は、水性環境における該ヒアルロン酸の分解速度を低下させる被覆を含む皮膚フィラー。
【請求項12】
被覆されたヒアルロン酸粒子は、通例球状であり、平均して、直径が約10μm〜約2000μmである、請求項11に記載の皮膚フィラー。
【請求項13】
被覆されたヒアルロン酸粒子のヒアルロン酸が、架橋されたヒアルロン酸である、請求項12に記載の皮膚フィラー。
【請求項14】
被覆が約10nm〜50000nmの厚さである、請求項12に記載の皮膚フィラー。
【請求項15】
哺乳動物の軟組織を修復または増強するための方法であって、修復または増強する哺乳動物軟組織を選択するステップ、および、ポリマー、タンパク質または多糖で被覆されたヒアルロン酸粒子を含む注入可能な生体吸収性組成物を該哺乳動物軟組織の中に配置するステップを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−528039(P2010−528039A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509527(P2010−509527)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/064378
【国際公開番号】WO2008/147817
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】