説明

被覆層を有する無機蛍光体粒子及びその製造方法並びに発光装置

【課題】防湿性が向上された無機蛍光体粒子及びその製造方法並びに発光装置を提供する。
【解決手段】無機蛍光体粒子10の表面の一部または全面に、チオエポキシ樹脂の被覆層12が形成されている。チオエポキシ樹脂は、以下の構造式で表されるエピスルフィド化合物と、SH基を1分子あたり2個以上有するメルカプタン化合物との反応生成物であって、上記エピスルフィド化合物中のエピスルフィド基の総計のモル数に対する上記メルカプタン化合物中のSH基の総計のモル数の割合が0.05〜0.5となっている。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆層を有する無機蛍光体粒子及びその製造方法並びに発光装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、青色発光、紫外発光等の半導体発光素子(LED)を発光光源とし、この発光光源を封止する封止樹脂に所定の蛍光体を分散させて白色を得る白色発光装置が提案されている。例えば、下記特許文献1には、(Y、Gd)(Al、Ga)12の組成式で知られるYAG系酸化物母体格子中にCeをドープした蛍光体(YAG系蛍光体)を、青色LEDチップを包囲する封止樹脂中に分散させたものが開示されている。この場合に使用される蛍光体には種々のものがあるが、無機蛍光体は強度が高く、長時間の使用に耐えるので好適な材料といえる。
【0003】
また、蛍光体粒子の防湿性等を向上させて劣化を防止するために、蛍光体粒子の表面にコーティングを施すことが行われている。例えば、下記特許文献2には、テトラエトキシシラン(TEOS)等を使用して金属酸化物系蛍光体微粒子の表面にシリカ層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−242513号公報
【特許文献2】特開2007−284528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、白色発光装置に使用される蛍光体は、水分により劣化しやすいので、蛍光体粒子の防湿性を向上させる必要がある。この点、特許文献1では、封止樹脂中における蛍光体の分布濃度を、封止樹脂の表面側からLEDチップに向かって高くすると、水分による劣化を抑制しやすいことが記載されている。また、セリウムで付活されたガーネット構造を有するYAG系蛍光体は、水分に強いことも記載されている。しかし、蛍光体粒子の各々の表面に防湿構造をコーティングしない場合には、防湿性の向上は十分でなく、また、ガーネット構造を有する蛍光体の耐湿性も限界がある。
【0006】
そこで、上記特許文献2のように、蛍光体粒子の表面にコーティングを施して防湿性を向上させる必要がある。しかし、特許文献2に示されたTEOSを使用すると、コーティング層にクラック(ひび割れ)が生じやすく、防湿性を向上させにくいという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、防湿性が向上された無機蛍光体粒子及びその製造方法並びに発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、被覆層を有する無機蛍光体粒子であって、無機蛍光体粒子の表面の一部または全面が、架橋構造を有するチオエポキシ樹脂により被覆されたことを特徴とする。ここで、無機蛍光体粒子の表面の一部とは、無機蛍光体粒子の表面積の少なくとも30%以上を指す。また、無機蛍光体粒子の表面の一部に被覆層が形成される場合には、被覆層は無機蛍光体粒子の表面に島状に形成されてもよい。
【0009】
また、上記チオエポキシ樹脂は、以下の構造式で表されるエピスルフィド化合物と、SH基を1分子あたり2個以上有するメルカプタン化合物との反応生成物であって、前記エピスルフィド化合物中のエピスルフィド基の総計のモル数に対する前記メルカプタン化合物中のSH基の総計のモル数の割合が0.05〜0.5であることを特徴とする。
【0010】
【化1】

ここで、mは0〜4の整数であり、nは0または1の整数である。
【0011】
また、上記エピスルフィド化合物は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドまたはビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドであることを特徴とする。
【0012】
また、上記メルカプタン化合物は、メタンジチオール、メタントリチオール、1,2−ジメルカプトエタン、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチルエーテル)、ビス(2,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、1,2,3−トリメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,3−ジメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,4−ビス(メルカプトメチル)−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4,8−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、3,5−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,7−ジメルカプト−2,6−ジチアヘプタン、1,2,7−トリメルカプト−4,6−ジチアヘプタン、1,2,9−トリメルカプト−4,6,8−トリチアノナン、1,2,6,7−テトラメルカプト−4−チアヘプタン、1,2,8,9−テトラメルカプト−4,6−ジチアノナン、1,2,10,11−テトラメルカプト−4,6,8−トリチアウンデカン、1,2,12,13−テトラメルカプト−4,6,8,10−テトラチアトリデカン、エチレングリコールビス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリ(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトブタノエート)、トリメチロールプロパントリ(3−メルカプトブタノエート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブタノエート)、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、テトラキス(4−メルカプト−2−チアブチル)メタン、テトラキス(7−メルカプト−2,5−ジチアヘプチル)メタン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテルまたはビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィドのいずれかであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、被覆層を有する無機蛍光体粒子の製造方法であって、無機蛍光体粒子とチオエポキシ樹脂と硬化促進剤とを溶媒中に投入し、前記無機蛍光体粒子とチオエポキシ樹脂と硬化促進剤と溶媒とを加熱しながら攪拌し、前記無機蛍光体粒子の表面でチオエポキシ樹脂を硬化させる、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、発光装置であって、半導体発光素子により構成された発光光源と、上記各被覆層を有する無機蛍光体粒子が分散され、前記発光光源を封止する封止樹脂と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無機蛍光体粒子の表面の一部または全面が架橋構造を有するチオエポキシ樹脂層により被覆されることにより、無機蛍光体粒子の防湿性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態にかかる被覆層を有する無機蛍光体粒子の断面図の一例である。
【図2】実施形態にかかる発光装置の構成例を示す図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0018】
図1には、実施形態にかかる被覆層を有する無機蛍光体粒子の断面図が示される。図1において、無機蛍光体粒子10の表面には、その全面にチオエポキシ樹脂の被覆層12が形成されている。また、別の実施形態において、無機蛍光体粒子10の表面の一部に、チオエポキシ樹脂の被覆層12が形成されてもよい(図面を省略)。
【0019】
無機蛍光体粒子10の表面の一部または全面にチオエポキシ樹脂の被覆層12が形成された時の膜厚は、好ましくは0.1μm〜100μmの範囲が良く、さらに好ましくは0.3μm〜50μmの範囲が良い。被覆層12の膜厚が0.1μm未満である場合には、被覆層による防湿性が低下してしまう。一方、被覆層12の膜厚が100μmを越える場合には、防湿性が向上するものの発光効率が低下する恐れがある。
【0020】
チオエポキシ樹脂は緻密な層を形成することができるので、無機蛍光体粒子10に水分が接触することを防止でき、無機蛍光体粒子10の劣化を抑制することができる。また、表面にチオエポキシ樹脂層を被覆することにより、粒子の凝集を防止することができる。このため、無機蛍光体粒子10の凝集による発光性能の低下を抑制することができる。なお、図1の例では、無機蛍光体粒子10を球形に表現しているが、無機蛍光体粒子10の形状は球形には限らない。ここで、上記無機蛍光体粒子10は、酸化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体をはじめとする無機物であり、LED用途としては、YAG系蛍光体、シリケート系蛍光体、サイアロン蛍光体などがよく知られている。また、化合物半導体をナノ粒子化することで発光波長を制御する量子ドット系蛍光体も含まれる。例えば酸化物蛍光体として(1)YAG蛍光体である (Y,Gd)Al12:Ce、(2)シリケート蛍光体である(Ba,Sr)SiO:Eu、(3)硫化物蛍光体として(Zn,Cd)S:Eu、(4)酸硫化物蛍光体としてLaS:Eu、(5)窒化物蛍光体としてCaAlSiN:Eu、(6)酸窒化物蛍光体としてα−サイアロン蛍光体であるSi12−(m+n)Al(m+n)(16−n):Eu、(7)ハロゲン化物蛍光体としてKSiF:Mn、等が挙げられ、また量子ドット蛍光体としてはCdSe系量子ドット蛍光体やInP系量子ドット蛍光体が挙げられるが、これらの例示した蛍光体に限定されるものではない。また、これらの蛍光体は単独で使用することもできるし、複数を組み合わせて使用することもできる。
【0021】
上記チオエポキシ樹脂の例としては、以下の構造式(1)で表されるエピスルフィド化合物と、SH基を1分子あたり2個以上有するメルカプタン化合物との反応生成物であって、上記エピスルフィド化合物中のエピスルフィド基の総計のモル数に対する上記メルカプタン化合物中のSH基の総計のモル数の割合が0.05〜0.5となっているものが挙げられる。上記割合が0.05を下回ると硬化速度が遅くなり望ましくない。また、0.5を超えると架橋密度が減少し、硬化樹脂が柔らなくなるので好ましくない。
【0022】
【化1】

ここで、mは0〜4の整数であり、nは0または1の整数である。
【0023】
実施形態にかかるチオエポキシ樹脂では、上記のようにmの値が0〜4の整数であるので、チオエポキシ樹脂の架橋点距離を短くすることができ、この結果、架橋密度を高くすることができる。
【0024】
上記エピスルフィド化合物とSH基を1分子あたり2個以上有するメルカプタン化合物とを共重合させると、架橋構造が生成して硬化し、緻密な膜を形成できる。この結果、被覆層12のガス透過性、透湿性(水蒸気透過性)を低くすることができる。
【0025】
上記エピスルフィド化合物の例としては、例えばビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(n=0)またはビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(n=1、m=0)等がある。
【0026】
また、SH基を1分子あたり2個以上有するメルカプタン化合物の例としては、メタンジチオール、メタントリチオール、1,2−ジメルカプトエタン、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチルエーテル)、ビス(2,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、1,2,3−トリメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,3−ジメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,4−ビス(メルカプトメチル)−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4,8−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、3,5−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,7−ジメルカプト−2,6−ジチアヘプタン、1,2,7−トリメルカプト−4,6−ジチアヘプタン、1,2,9−トリメルカプト−4,6,8−トリチアノナン、1,2,6,7−テトラメルカプト−4−チアヘプタン、1,2,8,9−テトラメルカプト−4,6−ジチアノナン、1,2,10,11−テトラメルカプト−4,6,8−トリチアウンデカン、1,2,12,13−テトラメルカプト−4,6,8,10−テトラチアトリデカン、エチレングリコールビス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリ(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトブタノエート)、トリメチロールプロパントリ(3−メルカプトブタノエート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブタノエート)、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、テトラキス(4−メルカプト−2−チアブチル)メタン、テトラキス(7−メルカプト−2,5−ジチアヘプチル)メタン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィド等が挙げられる。これらのうち、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリ(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリ(3−メルカプトブタノエート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブタノエート)が特に好ましい。
【0027】
なお、上記チオエポキシ樹脂を一部補完する目的でエポキシ化合物を用いることも出来る。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名jER808、828、834、1002、1004等のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名jER806、807、4005P、東都化成株式会社製の商品名YDF−170等のビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名jERYX−8000、YX−8034等の水添エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名jER152、154、日本化薬株式会社製の商品名EPPN−201、ダウケミカル社製の商品名DEN−438等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬株式会社製の商品名EOCN−125S、103S、104S等のo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名jERYX−4000,YL−6640等のビフェニル型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名jER1031S、ナガセ化成株式会社製の商品名デナコールEX−611、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、E−411、EX−321等の多官能エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名jER604、東都化成株式会社製の商品名YH−434、三菱ガス化学株式会社製の商品名TETRAD−X、TETRAD−C、日本化薬株式会社製の商品名GAN、住友化学株式会社製の商品名ELM−120等のアミン型エポキシ樹脂、ダイセル化学工業株式会社製のセロキサイド2021P等の脂環式エポキシ樹脂などが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
ただし、これらのエポキシ樹脂は一般にチオエポキシ樹脂より安価であり、またガラス転移温度を上げる効果もあるが、使用量を多くすると水蒸気、酸素、硫化水素ガス等の透過性が高くなる。このため、エポキシ樹脂の配合割合を、チオエポキシ樹脂とエポキシ樹脂との総量に対して、好ましくは50質量%以下、更に好ましくは20質量%以下とする。
【0029】
また、上記構造式(1)のmが4を超えると可撓性が低下するので好ましくなく、nが1を超えるとガラス転移温度が低下するので好ましくない。
【0030】
以上に述べたチオエポキシ樹脂は、無機蛍光体粒子10及び硬化促進剤とともに溶媒中で加熱しながら攪拌し、硬化させて無機蛍光体粒子10の表面に被覆層12を形成する。被覆層12が形成された無機蛍光体粒子10は、濾過により溶媒と分離し、加熱減圧乾燥して本実施形態の被覆層を有する無機蛍光体粒子を得る。ここで、上記溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、シクロへキサノール等の一価のアルコール溶媒、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等の多価アルコール溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系溶媒が例示される。また、硬化促進剤としては、ルミプラスSB−A(三菱ガス化学株式会社製)が使用できる。
【0031】
図2(a),(b)には、実施形態にかかる発光装置の構成例が示される。図2(a)が平面図であり、図2(b)が図2(a)のB−B断面図である。図2(a),(b)において、発光装置14は、LEDチップ16(半導体発光素子)、ケース部18、アウターリード20,22等を備え、LEDチップ16は、ケース部18の凹部24に収容されている。また、アウターリード20,22は、凹部24の底部においてLEDチップ16とそれぞれ電気的に導通され、ケース部18の外に延出している。なお、上記LEDチップ16の実装は、ワイヤボンドタイプであるが、フリップチップタイプであってもよい。
【0032】
上記凹部24には、封止樹脂26が収容され、LEDチップ16を封止している。この封止樹脂26には、図1に示される被覆層12を有する無機蛍光体粒子10が分散されている。
【0033】
なお、無機蛍光体粒子10の表面の一部または全面にチオエポキシ樹脂の被覆層12が形成された際の膜厚の測定方法としては、従来公知な分析手段で決定することができる。例えば、顕微FT−IR解析法、透過型分析電子顕微鏡(TEM)、X線マイクロアナライザー(EPMA)、電界放射型走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置(SEM−EDX)などの各種方法が採用される。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の具体例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
以下に示す手順により蛍光体粒子表面への被覆層の形成を行い、これを使用して発光装置を構成して動作試験を行った。
【0036】
シリケート系の蛍光体(BaSrMg)Si0(Intematex社製Y−406)2質量部と、チオエポキシ樹脂(ルミプラスLPH1101 三菱ガス化学株式会社製)1質量部、硬化促進剤としてルミプラスSB−A(三菱ガス化学株式会社製)0.02質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート20質量部を添加して、100ミリリットルフラスコ中で激しく攪拌しながら、160℃のオイルバスで3時間反応させた。なお、上記チオエポキシ樹脂は、以下の構造式で表されるエピスルフィド化合物と、SH基を1分子あたり2個以上有するメルカプタン化合物との反応生成物であって、上記エピスルフィド化合物中のエピスルフィド基の総計のモル数に対する上記メルカプタン化合物中のSH基の総計のモル数の割合が0.05〜0.5となっている。
【0037】
【化1】

【0038】
また、上記硬化促進剤により上記チオエポキシ樹脂の架橋反応が促進され、樹脂の硬度及び緻密性を向上することができる。
【0039】
反応終了後、濾過により蛍光体を回収し、80℃で減圧乾燥機により乾燥した。これにより、チオエポキシ樹脂により表面の全面が被覆された蛍光体粒子を得た。得られた蛍光体粒子を電子顕微鏡用、光学顕微鏡用包埋剤エポック812(応研商事株式会社より入手)を使用(エポック812/DDSA=1/1)して封止後切断し、断面をSEM−EDXで測定した結果、被覆層の膜厚は25μm(5点平均値)であった。なお、SEMは株式会社日立製作所製S−4800、EDXは株式会社堀場製作所製EMAX ENERGY EX−250を使用した。
【0040】
得られたチオエポキシ樹脂で被覆された蛍光体粒子をシリコーン系の封止樹脂SCR−1011(信越化学株式会社製)に15質量%混合し、ハイシェアミキサー(テクノサポート社製L4RT)を用いてよく混合した後、簡易ディスペンサーを用いてLEDチップ上に成型し、オーブン中で30℃で7時間、100℃で1時間かけて硬化した。
【0041】
上述した封止樹脂により封止されたLEDチップを使用して、図2(a),(b)に示された発光装置14を製作し、この発光装置14に対して、定格通電電流20mAを流したところ、発光出力は17〜20mWの範囲を示した。
【0042】
上記発光装置14は、例えば以下の手順により製造することができる。まず、LEDチップ16を製造する。すなわち、基板上に、n型半導体層と発光層とp型半導体層とを、スパッタリング法、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、HVPE(ハイドライド気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)などを用いて形成することにより半導体発光層を形成し、得られた半導体発光層の上に、フォトリソグラフィー技術及びリフトオフ技術を用いて、p電極とn電極とを形成することによりLEDチップ16とする。
【0043】
次に、アウターリード20,22の製造方法について説明する。金属板を打ち抜くことにより、一方のアウターリード20と他方のアウターリード22の形状を有する部分が複数個形成された50mm×144mm×厚さ0.15mmのリードフレームを形成する。このリードフレームに絶縁性構造体、ケース部18となる樹脂材料をモールド形成して、凹部24を有するケース部18、一方のアウターリード20及び他方のアウターリード22が形成されたモールドリードフレームを形成する。
【0044】
次に、モールドリードフレームの凹部24から露出する一方のアウターリード22の素子載置部に、LEDチップ16を樹脂製接着剤にて実装する。
【0045】
次に、ワイヤボンディングにより、一方のアウターリード20寄りに配置されたLEDチップ16のp電極とアウターリード20とを、ボンディングワイヤによって導電接続するとともに、LEDチップ16のn電極と他方のアウターリード22とを、ボンディングワイヤによって導電接続する。
【0046】
その後、凹部24内に、本実施例の被覆層を有する無機蛍光体粒子が分散された封止樹脂26を充填し、加熱硬化してLEDパッケージとする。LEDパッケージはリードフレームから個片に分断されることにより、本実施例の発光装置14が得られる。
【0047】
以上のようにして製造した発光装置14の環境試験として、10個の発光装置14と被覆層を有さない無機蛍光体粒子を用いた10個の発光装置(比較例)をエージングボードに実装し、85℃、85%RH(相対湿度)の環境下で20mA通電試験を500時間行い、0時間に対する500時間後の発光出力の変化率を測定した。環境試験の結果、実施例の試験素子は発光出力の低下がなかった。一方、被覆層を有さない無機蛍光体粒子を用いた発光装置では、ほぼ50%の発光出力の低下があった。
【0048】
また、従来公知のゾルゲル法によりTEOS(テトラエトキシシラン)を使用してシリケート系の蛍光体の表面にシリカ層を形成し、この蛍光体を使用して上記と同様に10個の発光装置を製造して環境試験を行った。この結果、3個の発光装置では、500時間後の発光出力の低下がなかったが、残り7個の発光装置では、ほぼ50%の発光出力の低下があった。これは、TEOS由来のシリカ層の場合、クラックが生じやすいためである。
【符号の説明】
【0049】
10 無機蛍光体粒子、12 被覆層、14 発光装置、16 LEDチップ、18 ケース部、20,22 アウターリード、24 凹部、26 封止樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機蛍光体粒子の表面の一部または全面が、架橋構造を有するチオエポキシ樹脂により被覆されたことを特徴とする被覆層を有する無機蛍光体粒子。
【請求項2】
前記チオエポキシ樹脂は、以下の構造式で表されるエピスルフィド化合物と、SH基を1分子あたり2個以上有するメルカプタン化合物との反応生成物であって、前記エピスルフィド化合物中のエピスルフィド基の総計のモル数に対する前記メルカプタン化合物中のSH基の総計のモル数の割合が0.05〜0.5であることを特徴とする請求項1記載の被覆層を有する無機蛍光体粒子。
【化1】

ここで、mは0〜4の整数であり、nは0または1の整数である。
【請求項3】
前記エピスルフィド化合物は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドまたはビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドであることを特徴とする請求項2に記載の被覆層を有する無機蛍光体粒子。
【請求項4】
前記メルカプタン化合物は、メタンジチオール、メタントリチオール、1,2−ジメルカプトエタン、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチルエーテル)、ビス(2,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、1,2,3−トリメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,3−ジメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,4−ビス(メルカプトメチル)−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4,8−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、3,5−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,7−ジメルカプト−2,6−ジチアヘプタン、1,2,7−トリメルカプト−4,6−ジチアヘプタン、1,2,9−トリメルカプト−4,6,8−トリチアノナン、1,2,6,7−テトラメルカプト−4−チアヘプタン、1,2,8,9−テトラメルカプト−4,6−ジチアノナン、1,2,10,11−テトラメルカプト−4,6,8−トリチアウンデカン、1,2,12,13−テトラメルカプト−4,6,8,10−テトラチアトリデカン、エチレングリコールビス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリ(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトブタノエート)、トリメチロールプロパントリ(3−メルカプトブタノエート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブタノエート)、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、テトラキス(4−メルカプト−2−チアブチル)メタン、テトラキス(7−メルカプト−2,5−ジチアヘプチル)メタン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテルまたはビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィドのいずれかであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の被覆層を有する無機蛍光体粒子。
【請求項5】
無機蛍光体粒子とチオエポキシ樹脂と硬化促進剤とを溶媒中に投入し、
前記無機蛍光体粒子とチオエポキシ樹脂と硬化促進剤と溶媒とを加熱しながら攪拌し、前記無機蛍光体粒子の表面でチオエポキシ樹脂を硬化させる、
ことを特徴とする被覆層を有する無機蛍光体粒子の製造方法。
【請求項6】
半導体発光素子により構成された発光光源と、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の被覆層を有する無機蛍光体粒子が分散され、前記発光光源を封止する封止樹脂と、
を備えることを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−174053(P2011−174053A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11022(P2011−11022)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】