説明

補強された多孔質金属箔およびその製造方法

【課題】優れた特性を有する補強された多孔質金属箔を連続生産にも適した高い生産性で安価に得ることを課題とする。
【解決手段】金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔部と、前記金属繊維を構成する金属で前記多孔部と連続的かつ一体的に構成され、前記多孔部よりも孔が少ないまたは実質的に無孔質の補強部とを備えてなる、補強された多孔質金属箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強された多孔質金属箔およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器、電気自動車、およびハイブリッド自動車用の蓄電デバイスとしてリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタが注目されている。このような蓄電デバイスの負極集電体として多孔質金属箔が使用され、あるいはその使用が検討されている。これは、多孔質とすることで、体積や重量を低減できること(それにより自動車にあっては燃費を改善できること)、孔を活用したアンカー効果により活物質の密着力を向上できること、孔を利用してリチウムイオンのプレドープ(例えば垂直プレドープ)を効率的に行えること等の利点があるためである。
【0003】
このような多孔質金属箔の公知の製造方法としては、(1)基材表面に絶縁性被膜で所望のパターンでマスキングしておきその上から電解めっきを施すことでパターン通りに孔を形成させる方法、(2)基材表面に特有の表面粗さや表面性状を付与しておきその上から電解めっきを施すことで核生成を制御する方法、(3)無孔質の金属箔をエッチングや機械加工により穿孔する方法、(4)発泡金属や不織布へめっきの手法により三次元網目構造を形成させる方法などが挙げられる。
【0004】
特に、上記(2)の方法については工程が比較的簡素で量産に適することから、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、表面粗さRzが0.8μm以下である陰極に電解めっきを施すことにより微細孔開き金属箔を製造する方法が開示されている。
特許文献2には、チタンまたはチタン合金からなるカソード体の表面に陽極酸化法により酸化被膜を形成し、カソード体の表面へ銅を電析して多孔質銅箔を形成してカソード体から剥離する方法が開示されている。特許文献3には、アルミニウム合金キャリア付孔開き金属箔を製造するために、アルミニウムをエッチングすることで均一な突出部を形成し、その突出部を電析の核として徐々に金属粒子を成長させて連ならせる方法が開示されている。また、上記(3)の方法の例として、特許文献4には、長方形の金属箔の長辺側の周辺部を除く部分に直径0.1〜3mmの多数の穴をパンチング加工した集電体が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの従来の製法にあっては、一般的に、多くの工程数を要することから製造コストが高くなる傾向にあること、さらには、パンチング等の機械加工ではバリが発生し、陽極酸化法では核発生の制御が困難であること等の理由から、安定した開孔率の箔を低コストで製造することは容易ではないのが実情である。また、長尺品の製造が難しく、陽極酸化法では連続的に剥離すると酸化被膜が破壊され、多孔質箔の剥離性と開孔率の安定性に課題があった。特に、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスの負極集電体では、高性能化に伴い、バリがなく、孔を小さくすることができる、高い開孔率の多孔質金属箔が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−195689号公報
【特許文献2】特許第3262558号公報
【特許文献3】特開2005−251429号公報
【特許文献4】特開平11−67222号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、クラックの形成されたある種の剥離層上に金属めっきを行うことにより、優れた特性を有する多孔質の金属箔を連続生産にも適した高い生産性で安価に得られるとの知見を得た。しかも、本発明者らは、金属箔の析出に先立ち、クラックの形成された剥離層の一部に接触部材を接触させて摺動させておくことで、接触箇所において多孔部よりも孔が少ないまたは実質的に無孔質の補強部が得られるとの知見も得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、優れた特性を有する補強された多孔質金属箔を連続生産にも適した高い生産性で安価に得ることにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、
金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔部と、
前記金属繊維を構成する金属で前記多孔部と連続的かつ一体的に構成され、前記多孔部よりも孔が少ないまたは実質的に無孔質の補強部と
を備えてなる、補強された多孔質金属箔が提供される。
【0010】
本発明の別の態様によれば、補強された多孔質金属箔の製造方法であって、
表面にクラックが発生した剥離層を備えた導電性基材を用意する工程と、
接触部材を前記剥離層の一部に接触させて摺動させる工程と、
前記剥離層に、前記クラックに優先的に析出可能な金属をめっきして、前記接触部材との接触が行われていない領域において前記クラックに沿って無数の金属粒子を成長させて多孔部を形成し、かつ、前記接触部材との接触が行われた領域において前記多孔部よりも密に無数の金属粒子を成長させて補強部を形成する工程と
を含んでなる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による補強された多孔質金属箔の一例の上面模式図である。
【図2】図1に示される補強された多孔質金属箔の多孔部の一例の上面模式図である。
【図3】図2に示される多孔部を構成する金属繊維の模式断面図である。
【図4】本発明による補強された多孔質金属箔の製造工程の流れを示す図である。
【図5】本発明による補強された多孔質金属箔を製造するための回転ドラム式製箔装置の一例を示す模式断面図である。
【図6】図5において吸水性材料の側から矢印A方向に見た回転ドラムを模式的に示す正面図である。
【図7】図6に示される回転ドラムを用いて製造された、本発明による補強された多孔質金属箔ロールを模式的に示す斜視図である。
【図8】例A1において、銅めっき開始直後の、多孔部となるべき非接触領域の表面を真上(傾斜角0度)から光学顕微鏡(倍率:500倍)で観察した画像である。
【図9】例A1において、銅めっき開始直後の、補強部となるべき接触領域の表面を真上(傾斜角0度)から光学顕微鏡(倍率:500倍)で観察した画像である。
【図10】例A2において、本発明による補強された多孔質金属箔の多孔部の剥離層と接していなかった面を真上(傾斜角0度)から光学顕微鏡(倍率:500倍)で観察した画像である。
【図11】例A2において、本発明による補強された多孔質金属箔の補強部の剥離層と接していなかった面を真上(傾斜角0度)から光学顕微鏡(倍率:500倍)で観察した画像である。
【図12】例B2において、多孔質金属箔(多孔部)の剥離層と接していなかった面を真上(傾斜角0度)から観察したFE−SEM画像である。
【図13】例B2において、多孔質金属箔(多孔部)の剥離層と接していなかった面を斜め上方向から(傾斜角45度)から観察したFE−SEM画像である。
【図14】例B2において、多孔質金属箔(多孔部)の剥離層と接していた面を真上(傾斜角0度)から観察したFE−SEM画像である。
【図15】例B2において、多孔質金属箔(多孔部)の剥離層と接していた面を斜め上方向(傾斜角45度)から観察したFE−SEM画像である。
【図16】例B2において得られた、多孔質金属箔(多孔部)を構成する金属繊維を垂直に切断した切断面を示す傾斜角60度にて観察したSIM画像である。
【図17】例B4において行われた引張強度試験における、多孔質金属箔(多孔部)サンプルの固定治具への固定を示す模式図である。
【図18】例C2において、多孔質金属箔(多孔部)の剥離層と接していなかった面を真上(傾斜角0度)から観察したFE−SEM画像である。
【図19】例C2において、多孔質金属箔(多孔部)の剥離層と接していた面を真上(傾斜角0度)から観察したFE−SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
補強された多孔質金属箔
図1に本発明による補強された多孔質金属箔の一例の模式図を示す。図1に示されるように、本発明による補強された多孔質金属箔10は多孔部10aおよび補強部10bを備えてなる。多孔部10aは金属繊維11で構成される二次元網目構造からなる。補強部10bは、金属繊維11を構成する金属で多孔部10aと連続的かつ一体的に構成される、多孔部10aよりも孔が少ないまたは実質的に無孔質の部分である。
【0013】
多孔部10aは金属繊維11で構成される二次元網目構造からなる。図2に多孔部10aの一例の上面模式図を示す。図2に示されるように、多孔部10aは、金属繊維11で構成される二次元網目構造からなる。この多孔部10aは、好ましくは3〜80%、より好ましくは5〜60%、さらに好ましくは10〜55%、さらに一層好ましくは20〜55%という開孔率を有する。ここで、開孔率P(%)は、多孔質金属箔と同等の組成および寸法を有する無孔質金属箔の理論重量Wに占める多孔質金属箔の重量Wの比率W/Wを用いて、
P=100−[(W/W)×100]
により定義される。この理論重量Wの算出は、得られた多孔質金属箔の寸法を測定し、測定された寸法から体積(すなわち理論的な無孔質金属箔の体積)を算出し、得られた体積に、作製した多孔質金属箔の材質の密度を乗じることにより行うことができる。
【0014】
このように、多孔部10aにあっては、開孔率を高くしても、二次元網目状に張り巡らされた無数の金属繊維11によって十分な強度を確保することができる。したがって、強度低下を気にすることなく、開孔率を従来に無いレベルにまで高くすることができる。例えば、多孔部10aは、後述する測定方法により測定される引張強さを、好ましくは10N/10mm以上、さらに好ましくは15N/10mm以上とすることができ、これにより多孔質金属箔の破断を効果的に防ぐことができる。もっとも、多孔質金属箔にキャリアを付けた状態で取り扱う場合には、上記範囲より低い引張強度でも問題無い。この場合には、引張強度を気にすることなく開孔率を極限にまで高くすることが可能である。
【0015】
多孔質金属箔10は3〜40μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは3〜30μm、さらに好ましくは5〜25μm、より一層好ましくは10〜20μm、最も好ましくは10〜15μmである。この範囲内であると高開孔率と高強度のバランスに優れる。本発明の多孔質金属箔は金属繊維で構成される二次元網目構造を含んでなるため、多孔質金属箔の厚さは金属繊維の最大断面高さに相当する。このような厚さは多孔質金属箔の孔サイズよりも大きな測定子を用いた市販の膜厚測定装置によって測定するのが好ましい。
【0016】
金属繊維11は金属製の繊維であり、使用する金属は目的とする用途に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。好ましい金属は、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、錫からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなる。ここで、「含んでなる」とは、上記列挙される金属元素を主として含む金属または合金であればよく、残部として他の金属元素や不可避不純物を含むことが許容されることを意味し、より好ましくは金属ないし合金の50重量%以上が上記列挙される金属元素で構成されるとの意味であり、典型例としては上記列挙される金属元素および不可避不純物からなるものが挙げられる。これらの定義は以下に金属に関して記述される同種の表現に同様に適用されるものとする。これらの金属において、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスの負極集電体に適するものは、銅、銅合金、ニッケル、コバルト、および錫からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなるものであり、より好ましくは銅である。特に、二次元網目構造は、基材の表面に形成されたクラックに起因した不規則形状を有してなるのが好ましい。
【0017】
金属繊維11の線径は5〜80μmであるのが好ましく、より好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは8〜30μm、最も好ましくは10〜20μmである。なお、「線径」は、多孔質金属箔を真上から見た場合の繊維11の幅(太さ)として定義され、光学顕微鏡電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)、走査イオン顕微鏡(SIM)等を用いて測定することができる。この範囲内であると高開孔率と高強度のバランスに優れる。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、図2に示されるように、金属繊維11は分枝状繊維であり、分枝状繊維が不規則に張り巡らされることで多孔部10aが構成される。繊維11は、後述する剥離層のクラックに沿った核生成に起因して、無数の金属粒子が連結されてなることにより形成されたものであるが、金属繊維を構成するためには粒子成長によって隣接する金属粒子同士が緊密に結合することが望ましいことから金属繊維を構成する金属粒子はもはや完全な粒子形状を有しなくてよい。また、図3に示されるように、金属繊維11を構成する金属粒子は、典型的には、球状部11aと底部11bとを有する半球状の形態を有し、全ての金属粒子の底部11bが同一基底面上に位置し、全ての金属粒子の球状部11aが基底面を基準として同じ側に位置する。この場合、基底面に沿った底部11bの幅Dが線径となり、球状部11aの最大断面高さHが多孔質金属箔の厚さに相当する。この基底面およびその上に位置する底部11bは、製造時に用いられる剥離層の平面形状が反映されたものであり、他の製法により製造された場合にはこの形状に限定されるものではない。本発明者らの経験によれば、繊維11において、最大断面高さHの線径Dに対する平均比率は、特に限定されるものではないが、典型的には0.30〜0.70であり、より典型的には0.40〜0.60であり、より一層典型的には0.45〜0.55、最も典型的には約0.50であり、この平均比率はめっき条件等を適宜変えることによって調整することができる。また、本発明者らの経験によれば、多孔部10aにおける孔の平均面積は、特に限定されるものではないが、典型的には3〜5000μm、より典型的には3〜3000μm、さらに典型的には3〜2000μmである。さらに、本発明者らの経験によれば、多孔部10aにおいて、孔の全個数に占める、最大の孔の面積の1/2以下の面積を有する孔の個数の割合は、特に限定されるものではないが、典型的には60%以上であり、より典型的には70%以上であり、さらに典型的には80%以上である。
【0019】
補強部10bは、金属繊維11を構成する金属で多孔部10aと連続的かつ一体的に構成される、多孔部10aよりも孔が少ないまたは実質的に無孔質の部分である。すなわち、補強部10bは、多孔部10aと同じ材料によって一体的に形成されており、多孔部10aと連続した形状を有する。これは、多孔部10aおよび補強部10bが別個に製造され、その後結合された複合物は本発明の補強された多孔質金属箔には包含されないことを意味する。したがって、多孔部10aおよび補強部10bは孔の多少または有無によって区別されるべきものであり、構成材料や孔以外の形状(例えば厚さ)によって区別されるべきものではない。このため、典型的には多孔部10aおよび補強部10bは同様または近い厚さを有するが、必要に応じて、厚さの調整を、電流密度、めっき液、めっき液流量、マスキング等の条件を制御することにより行うことができる。このような補強部10bの存在により多孔質金属箔が破損しにくくなるため、多孔質金属箔を用いた製造ラインにおける搬送を容易化することができる。また、多孔質金属箔を集電体として蓄電デバイスに用いる場合において、補強部をタブリードとして用いることができ、タブリード接続の信頼性を向上することができる。
【0020】
補強部10bは、金属箔10の外縁の少なくとも一部に設けられるのが好ましい。多孔質金属箔の外縁は、無孔質金属箔の外縁と比べて、裂け、ちぎれ等の破損が生じやすいことから、このような部分を補強部で構成することで、外縁の破損を効果的に抑制して薄い多孔質金属箔の製造を容易化することができる。例えば、金属箔10が長尺形状を有する場合にあっては、金属箔10の長尺方向に沿った外縁を補強部10bで構成するのが好ましい。
【0021】
補強部10bは、金属箔10の長尺方向に沿った外縁から離れて、かつ、外縁と平行に設けられてもよい。このような外縁から離れた位置において金属箔を長尺方向に(例えば等間隔で)スリット切断して分割された複数の金属箔長片を得ることができるが、多孔質金属箔は、無孔質金属箔と比べて、スリット切断時の切り屑、切り粉等の破片が発生しやすい。そこで、このスリット切断部分を補強部で構成することにより、スリット切断時の切り屑、切り粉等の破片の発生を抑制することができる。例えば、図1に示される金属箔10のように、補強部10bが、金属箔10の長尺方向に沿った外縁に設けられると同時に、金属箔10の長尺方向に沿った外縁から離れた、外縁と平行な線上にも設けられるのが好ましい。
【0022】
補強部10bが実質的に無孔質であるのが補強効率の観点から好ましく、理想的には無孔質である。ここで、「実質的に」とはピンホール等の製造工程において不可避的に発生しうる意図しない孔の存在を許容する趣旨である。もっとも、補強部としての破損や破片の発生を抑制できるかぎり、補強部は多孔部よりも少ない孔を有していれば十分であり、必ずしも無孔質または実質的に無孔質である必要はない。
【0023】
製造方法
本発明による補強された多孔質金属箔の製造方法の一例を以下に説明するが、本発明による多孔質金属箔は、この製造方法に限定されず、異なる方法により製造されたものも包含する。
【0024】
図4に本発明による補強された多孔質金属箔の製造工程の流れを示す。本発明の製造方法にあっては、まず、多孔質金属箔を製造するための支持体として、表面にクラックが発生した剥離層13を備えた導電性基材12を用意する。剥離層13が形成されるべき導電性基材12はめっきされることができる程度の導電性を有する基材であればよく、無機材料、有機材料、積層体、および表面を金属とした材料のいずれも使用可能であるが、好ましくは金属である。そのような金属の好ましい例としては、銅、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、錫、亜鉛、インジウム、銀、金、アルミニウム、およびチタン等の金属、ならびにこれらの金属元素の少なくとも一種を含む合金が挙げられ、より好ましくは銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、およびステンレスである。導電性基材の形態も限定されず、箔、板、ドラム等の様々な形態の基材が使用可能である。ドラムの場合は、ドラム本体に導電性金属板を巻き付けて使用してもよく、この場合の導電性金属板の厚さは1〜20mmとするのが好ましい。導電性基材は、製造された多孔質金属箔をその加工中に、あるいはさらにその使用の直前まで支持しておき、多孔質金属箔の取り扱い性を向上させる。特に、金属箔を導電性基材として用いるのが、多孔質金属箔の製造後に導電性基材としての金属箔をそのまま再利用、または溶解および製箔してリサイクルできるという利点があるため好ましい。その場合、金属箔の厚さを10μm〜1mmとするのが、金属箔の製造工程およびその後の加工・搬送工程等においてヨレ等が生じないような強度を確保できることから好ましい。
【0025】
導電性基材の材質や粗さによって剥離層におけるクラックの形状が異なり、それによって多孔質金属箔の開孔率等の特性が変化しうる。一方、金属めっきの種類やめっき条件によっても多孔質金属箔の形状は当然変化しうる。これらを考慮して所望の多孔質金属箔が得られるように、導電性基材の選択、剥離層の形成条件および/またはめっき条件の設定を必要に応じて適宜行えばよい。
【0026】
そして、導電性基材12に剥離層13を形成し、その際、剥離層13にクラック13aを発生させる。なお、剥離層13の形成に先立ち、導電性基材12に酸洗浄、脱脂等の前処理を施してその表面を清浄にしておくことが好ましい。剥離層13はその上に形成されることになる多孔質金属箔10の剥離を容易とするための層であり、クラック13aを発生可能で、かつ、クラック13aでめっきされやすく、クラックの無い部分13bでめっきされにくい性質を有する材料が用いられる。すなわち、発生したクラック13aにある種の金属をめっきにより優先的に析出可能な材料が剥離層13として用いられる。また、この剥離層は多層に形成されていてもよく、この場合、上層のみにクラックが形成されるものであってもよいし、上層のみならずそれより下の層にもクラックが形成されるものであってよい。また、剥離層の表面には、陽極酸化法等により酸化被膜が形成されていてもよいし、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)等が存在していてもよい。クラック13aは、剥離層13の応力によって自然に発生するように制御することが好ましく、成膜と同時に形成される必要はなく、その後の洗浄および乾燥工程、機械加工等において発生するものであってよい。クラックは、通常は望ましくないものであるが、本発明の製造方法ではむしろそれを積極的に活用することを特徴としている。特に、クラックは、通常、枝分かれした線が二次元網目状に張り巡らされるように形成される特性があるため、このクラックに沿って金属繊維を形成させることで高い開孔率および高い強度の多孔質金属箔を得ることができる。なお、クラックについては通常の成膜プロセスにおいてその発生が常に懸念されていることから、その発生条件は成膜に従事する当業者が経験的に熟知しており、その経験および知識の範囲内で容易に選択可能である。例えば、めっき浴等の組成制御、剥離層の厚さ、電流密度の条件、浴温度、攪拌条件、後熱処理を工夫したりすること等により行えばよい。
【0027】
剥離層13は、クロム、チタン、タンタル、ニオブ、ニッケル、およびタングステンからなる群から選択される少なくとも一種を含んでなるか、または有機物(例えば樹脂類)からなるのが好ましく、連続剥離性、耐久性および耐食性の観点から、硬度の高いクロム、チタン、およびニッケルからなる群からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなるのがより好ましく、クロムおよびチタンからなる群から選択される少なくとも一種を含んでなるのがさらに好ましく、不動態の形成により剥離しやすい点でクロム、クロム合金またはクロム酸化物からなるのが最も好ましい。剥離層13の厚さは1nm〜100μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜50μm、さらに好ましくは1〜30μm、最も好ましくは2〜15μmである。このような組成および厚さとすることで、クラックの発生を可能としながら、導電性基材に対して剥離層を高抵抗とすることで層上に形成されることになる多孔質金属箔10を成膜および剥離しやすくなる。従って、剥離層としては導電性基材よりも高抵抗な素材を選択することが望まれる。
【0028】
剥離層13の形成方法は、特に限定されず、電解めっき、無電解めっき、スパッタリング法、物理気相蒸着法(PCD)、化学気相蒸着法(CVD)、ゾルゲル法、イオンプレーティング法等の種々の成膜方法が採用可能である。製造効率等の観点から、剥離層13も電解めっきで形成されるのが好ましい。剥離層13には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて熱処理および/または研磨がさらに施されてもよい。すなわち、研磨は、表面を洗浄する程度のものは許容されるが、クラックを潰すほど過度に行われるべきでないことは勿論である。こうして得られた剥離層13には水等による洗浄および乾燥が行われるのが好ましい。
【0029】
クロム電解めっきを行う場合、好ましいクロムめっき液としては、サージェント浴および硬質クロムめっき浴が挙げられ、より好ましくは硬質クロムめっき浴である。市販の硬質クロムめっき浴の好ましい例としては、メルテックス社製のアンカー1127、アトテック社製のHEEF−25、および日本マクダーミッド社製のマック・1が挙げられる。これらのクロムめっき液の浴組成および電着条件は以下のとおりであるが、所望の多孔質金属箔が得られる限りに以下に示される範囲から外れてもよい。
【表1】

【0030】
なお、安定したクロムめっき浴は、典型的には、少量の3価クロムが存在しており、その量は2〜6g/L程度である。また、硬質クロムめっき浴には有機スルホン酸などの触媒を添加してもよい。無水クロム酸の濃度はボーメ度により管理することができる。さらに、鉄、銅、塩化物イオン等の不純物はめっきの状態に影響を与えるので、不純物の溶解量の上限管理には注意が必要である。クロムめっきに用いられるアノードとしては、チタンに酸化鉛やPb−Sn合金をコーティングしたものを好ましく用いることができ、そのようなアノードの代表的な市販品として、SPF社のTi−Pb電極(Sn:5%)や日本カーリット社製のエクセロードLDが挙げられる。
【0031】
次に、金属箔の析出に先立ち、接触部材をクラックの形成された剥離層13の一部に接触させて摺動させる前処理を行う。この前処理により、後続のめっき工程において、接触箇所において多孔部よりも孔が少ないまたは実質的に無孔質の補強部が得られる。すなわち、補強部を設けたい箇所に前処理を施しておくことで、多孔質金属箔の所望の部分に補強部を容易に形成することができる。接触部材を接触させた部分で孔が少ない金属箔が形成される現象については種々の要因が考えられるが、一つの要因としては、不動態被膜が薄くなることにより接触箇所における水接触角が小さくなり、後続のめっき工程におけるめっきの濡れ性が増大し、クラックの形状によらず全面にわたってめっきが形成されることが考えられる。しかし、その他の要因も可能性として考えられることから本発明はこの理論に限定されるべきではない。
【0032】
前処理に用いる接触部材は、剥離層に望ましくない汚損を与えるものでないかぎり、剥離層に接触可能な種々の部材が使用可能である。もっとも、回転ドラム等による連続生産に適用するためには、接触部材との接触による剥離層の摩耗が少ないことが望まれる。このため、接触部材としては、一般的な吸水性材料のような研磨性が無いか又は非常に乏しい部材および目の細かい耐水研磨紙のような研磨性の低い部材が好ましく、より好ましくは一般的な吸水性材料のような研磨性が無いか又は非常に乏しい部材である。接触部材は、水または水性液体を含んだ状態であるのが特に好ましい。吸水性材料は、水または水性液体を含むことができる公知の種々の材料であることができる。そのような吸水性材料の例としては、スポンジ、バフ、スポンジバフ、クリーニングバフ、布、織布、不織布、ウエス、脱脂綿、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、好ましくはクリーニングバフである。吸水性材料に含ませることができる液体は、水であってもよいし、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において任意の成分が水に溶解ないし分散された水溶液等の水性液体であってもよい。この水性液体は研磨剤を含まないのが好ましい。吸水性材料に含ませる水または水性液体の量は限定されず、所望の効果が得られるのであれば、吸水性材料は水および水性液体を含まなくてもよい。
【0033】
こうして前処理された剥離層13に、クラック13aに優先的に析出可能な金属をめっきして、接触部材との接触が行われていない領域(以下、非接触領域という)においてクラック13aに沿って無数の金属粒子を成長させて多孔部10aを形成し、かつ、接触部材との接触が行われた領域(以下、接触領域という)において多孔部よりも密に無数の金属粒子を成長させて補強部10bを形成する。前述したように、剥離層13の非接触領域は、めっきされやすい性質を有するクラック13aと、めっきされにくい性質を有するクラックの無い表面部分13bを有する。クラック13aでめっきされやすくなるのは、クラック13aのある部分の方が、それらの無い部分13bよりも電流が流れやすいことから、核生成およびその成長がクラック13aで優先的に起こるためである。クラック13aに優先的に析出可能な金属は、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、および錫からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなるのが好ましく、より好ましくは銅、金、銀、ニッケル、コバルト、および錫からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなり、さらに好ましくは銅、銀、および金からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなり、最も好ましくは銅である。
【0034】
多孔質金属箔の形成方法は、めっきであれば特に限定されず、電解めっき、無電解めっきが挙げられるが、電解めっきがクラック13aに効率良く金属を析出できることから好ましい。めっきの条件は、公知の方法に従って行えばよく特に限定されない。例えば銅めっきを行なう場合には、硫酸銅めっき浴によって行なわれるのが好ましい。銅めっきを行う場合、好ましいめっき浴の組成および電着条件は、硫酸銅5水和物濃度:120〜350g/L、硫酸濃度:50〜200g/L、カソード電流密度:10〜80A/dm、浴温:40〜60℃であるが、これに限定されない。
【0035】
めっき液には、添加剤を適宜加えて金属箔の特性の向上を図ってもよい。例えば銅箔の場合、そのような添加剤の好ましい例としては、膠、ゼラチン、塩素、チオ尿素等の含硫黄化合物、ポリエチレングリコール等の合成系添加剤が挙げられる。これらの好ましい添加剤を用いることで、金属箔の力学的特性や表面状態をコントロールすることができる。添加剤の濃度は限定されないが、通常1〜300ppmである。
【0036】
最後に、補強された多孔質金属箔を、剥離層を有する導電性基材から剥離して、単体の補強された多孔質金属箔を得ることができる。剥離後、接着層付きのフィルム等の別基材に転写してもよいし、防錆処理等の表面処理を施してもよい。もっとも、この剥離工程は必須ではなく、剥離層を介して基材が付けられたまま多孔質金属箔製品として取り扱われ、かつ、使用時に初めて剥離される構成としてもよく、この場合、多孔質金属箔の取り扱い性が向上するだけでなく、基材により支持されるためそれほど高い強度は要求されないことから極めて高い開孔率あるいは極めて薄い膜厚とすることも可能となる。
【0037】
剥離層は、その表面に依然としてクラックが残存しているため、再び接触部材との接触工程に付して再利用することも可能である。しかし、このような再利用を繰り返していくにつれ、非接触領域におけるめっきのクラック選択性が低下していき、所望の多孔部が得られにくくなることがある。そこで、剥離層を乾燥する工程を行い、めっきのクラック選択性を回復または維持するのが好ましい。すなわち、剥離工程後の導電性基材の表面にはクラックが発生した剥離層が残存することから、剥離層を備えた導電性基材は接触工程、めっき工程、剥離工程を含む一連の工程に再利用することができるが、この再利用に伴うめっきのクラック選択性の低下を乾燥工程により効果的に防止することができる。乾燥工程の条件は特に限定されないが、25〜250℃の温度で行われるのが好ましく、自然乾燥であってもよい。
【0038】
本発明の好ましい態様によれば、剥離層を備えた導電性基材が回転ドラム状に構成され、接触工程、めっき工程、剥離工程、および乾燥工程が導電性基材の回転によって順次繰り返されてもよい。このような回転ドラム式製箔装置の一例の模式断面図を図5に示す。図5に示される製箔装置20は、表面にクラックが発生した剥離層(例えばクロムめっき層)を備えた導電性基材製の回転ドラム21(例えばステンレス製ドラム)と、回転ドラム21の下方がめっき液に浸漬される電解めっき槽22と、回転ドラム上の剥離層の一部に接触可能に配置される吸水性材料23と、吸水性材料から滴る水を受けるための水受け24と、回転ドラムから多孔質金属箔10を剥離して搬送するための剥離ロール25とを備えてなる。図5において吸水性材料23の側から矢印A方向に見た回転ドラム21を模式的に示す正面図が図6に示される。図6に示されるように、複数個の吸水性材料23およびそのための水受け24を、回転ドラム21の回転軸方向に等間隔に配置してもよい。また、製箔装置20は、吸水性材料23に水Wを供給するための水供給手段を備えていてもよいし、予め水を含ませた吸水性材料を使用する構成としてもよい。この製箔装置20において回転ドラム21を回転させると、図6および7に示されるように、吸水性材料23が回転ドラム21の表面(すなわち剥離層)に接触して摺動する状態となり、吸水性材料23が接触した領域21bが長尺状に形成され、その領域21bを経て製箔された部分が補強部10bを形成する。一方、吸水性材料23が接触しなかった領域21aを経て製箔された部分が多孔部10aを形成する。剥離後の回転ドラムは、所望により水洗した後、乾燥工程に付される。製箔装置20は自然乾燥により乾燥を行う構成であるが、加熱手段を別途設けて乾燥を人為的に行ってもよい。いずれにしても、乾燥工程を経た回転ドラムは回転によって再度接触工程に付され、めっき工程、剥離工程、および乾燥工程が引き続き行われる。このような態様によれば、回転ドラム式製箔装置を用いて、ロール状の補強された多孔質金属箔を極めて効率的に量産することが可能となる。
【0039】
用途
本発明による多孔質金属箔の代表的な用途としては、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスの負極集電体が挙げられるが、それ以外にも、微粉分級用または固液分離処理用のスクリーン装置、触媒の担持体、微生物の保管用容器の酸素供給口に使用されるネット、クリーンルーム用防塵フィルタ、液体抗菌フィルタ、液体改質用フィルタ、電磁波シールド、磁性用材料、導電用材料、装飾シート等の各種用途に使用可能である。例えば、多孔質金属箔を導電性材料等としてプリント基板の内層に使用することで、孔から樹脂や溶剤等に由来するガスを逃がすことができ、それによりブリスタ(膨れ)の発生を抑制することができる。また、多孔質金属箔を導電性材料等として回路形成に使用することで、金属使用量の低減による軽量化を図ることができる。
【実施例】
【0040】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。
【0041】
例A1:補強された多孔質金属箔の作製
導電性基材として厚さ1mmのステンレス鋼板(SUS316)を用意した。このステンレス鋼板に剥離層としてクロムめっきを以下の手順で行った。まず、前処理として、エンドックス114(メルテックス社製のアルカリ脱錆剤)を用いて、電流密度:10A/dm、電解時間:10分間、アノード:寸法安定性電極(DSE)の条件でアルカリ電解脱脂を行うことにより、電極表面を洗浄した。水洗後脱脂されたステンレス鋼板を50ml/Lの硫酸に1分間浸漬することにより、酸活性化した。水洗後酸活性化したステンレス鋼板を、250g/Lの無水クロム酸、3g/Lの硫酸、HEEF25C(アトテック社製)22m/Lを溶解させたクロムめっき浴(HEEF25、アトテック社製)に浸漬させ、液温:55℃、電流密度:30A/dm、電解時間:17分間の条件でクロムめっきを行った。このとき、陽極としては、Ti−Pb電極(Pb−Sn5%、SPF社製)を用いた。クロムめっきが形成されたステンレス鋼板を水洗および乾燥した。得られたクロムめっきの表面には、めっき応力により発生したとみられる無数のクラックが確認された。
【0042】
このクラックが発生したクロムめっき上の一部分に、水を含浸させたクリーニングバフ(角田ブラシ製作所製、製品名:NAクリーニングバフ、無砥粒バフ・ポリプロピレン不織布)を接触させ、そのまま軽く摺動させた。こうして前処理されたクロムめっき表面上の水接触角を測定したところ、クリーニングバフを接触させた部分(以下、接触領域という)では25.8度であり、クリーニングバフを接触させなかった部分(以下、非接触領域という)では69.3度であった。このことからクリーニングバフを接触させた部分は親水化されたことが確認された。なお、水接触角は、固体表面における水滴の接線と固体表面とのなす角度θとして定義されるものであり、接触角測定器(協和界面科学株式会社製、接触角計)を用いて滴下後10秒後の水との接触角を測定することにより評価した。
【0043】
このクラックが発生し、かつ、局所的に前処理が施されたクロムめっき上に硫酸銅めっきを行った。この硫酸銅めっきは、250g/Lの硫酸銅五水和物(銅濃度で約64g/L)および硫酸80g/Lが溶解された硫酸銅めっき浴に、クロムめっきが施された銅箔を浸漬させ、電流密度:20A/dm、めっき時間:150秒間、アノード:DSE(寸法安定性電極)、浴温:40℃の条件で行った。銅めっき開始直後の非接触領域および接触領域を光学顕微鏡(倍率:500倍)で観察したところ、それぞれ図8および9に示される画像が得られた。図8からも分かるように、非接触領域では、クロムめっきの最表面よりもクラック部分の方で電流が流れやすいことから、銅の粒子がクラックを起点として成長した。一方、図9からも分かるように、接触領域では、クラック部分における銅粒子の選択的析出が行われずに全面にわたって銅粒子が析出した。その結果、非接触領域に起因するクロムめっき上に銅繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔部と、接触領域に起因する無孔質の補強部とを備えた金属箔が形成された。最後に、多孔質金属箔をクロムめっきから物理的に剥離して、補強された多孔質金属箔を得た。また、得られた銅箔の厚さは15μmであり、重量開孔率は34%であった。
【0044】
例A2:補強された多孔質金属箔の観察
例A1で得られた補強された多孔質金属箔を、光学顕微鏡(倍率:500倍)で観察した。まず、多孔質金属箔の多孔部の剥離層と接していなかった面(以下、成長面という)を真上(傾斜角0度)から観察したところ、図10に示される画像が得られた。また、多孔質金属箔の補強部の剥離層と接していなかった面(以下、成長面という)を真上(傾斜角0度)から観察したところ、図11に示される画像が得られた。これらの図から明らかなように、多孔部には金属繊維で構成される二次元網目構造が観察されたに対して、補強部には孔は一切観察されず、無孔質の金属箔部分が確認された。
【0045】
例B1:多孔質金属箔(多孔部)の作製
導電性基材として厚さ35μmの銅箔を用意した。この銅箔に剥離層としてクロムめっきを以下の手順で行った。まず、水を添加して120ml/Lに調整されたプリント配線板用酸性クリーナ(ムラタ社製、PAC−200)に銅箔を40℃で2分間浸漬した。こうして洗浄された銅箔を50ml/Lの硫酸に室温で1分間浸漬することにより、酸活性化した。酸活性化した銅箔を、180g/Lのエコノクロム300(メルテックス社製)および1g/Lの精製濃硫酸を溶解させたクロムめっき浴に浸漬させ、温度:45℃、電流密度:20A/dmの条件で15分間クロムめっきを行った。クロムめっきが形成された銅箔を水洗および乾燥した。得られたクロムめっきの厚さをXRF(蛍光X線分析)により測定したところ約2μmであり、クロムめっきの表面には、めっき応力により発生したとみられる無数のクラックが確認された。
【0046】
このクラックが発生したクロムめっき上に硫酸銅めっきを行った。この硫酸銅めっきは、250g/Lの硫酸銅五水和物(銅濃度で約64g/L)および硫酸80g/Lが溶解された硫酸銅めっき浴に、クロムめっきが施された銅箔を浸漬させ、電流密度:20A/dm、めっき時間:150秒間、アノード:DSE(寸法安定性電極)、浴温:40℃の条件で行った。このとき、クロムめっきの最表面よりもクラック部分の方で電流が流れやすいことから、銅の粒子がクラックを起点として成長した。その結果、クロムめっき上に銅繊維で構成される二次元網目構造が多孔質金属箔として形成された。最後に、多孔質金属箔をクロムめっきから物理的に剥離して、分離された多孔質金属箔(多孔部)を得た。
【0047】
例B2:多孔質金属箔(多孔部)の観察
例B1で得られた多孔質金属箔を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で種々の角度から観察した。まず、多孔質金属箔の剥離層と接していなかった面(以下、成長面という)を真上(傾斜角0度)および斜め上方向(傾斜角45度)から観察したところ、それぞれ図12および13に示される画像が得られた。また、多孔質金属箔を裏返して、多孔質金属箔の剥離層と接していた面(以下、剥離面という)を真上(傾斜角0度)および斜め上方向(傾斜角45度)から観察したところ、それぞれ図14および15に示される画像が得られた。これらの図から明らかなように、成長面には金属粒子の球状部に起因する数珠状の凹凸が観察されるのに対して、剥離面では金属粒子の底部に起因する平面およびクラックに沿って形成された中心線が観察された。
【0048】
さらに、多孔質金属箔の金属繊維の断面を、集束イオンビーム加工装置(FIB)を用いて加工後、走査イオン顕微鏡(SIM)を用いて観察したところ、図16に示される画像が得られた。この図に示されるように、金属繊維の断面組織はクラックを起点として放射状に析出しており、金属繊維の断面形状は球状部と平面状底面とを含む半月状であることが観察された。これらの図に示されるスケールから金属繊維の線径(太さ)を算出したところ、30μmであった。金属繊維断面における最大断面高さHの線径Dに対する比率を算出したところ、約0.50であった。また、単位面積当たりの孔の個数は約300個/mmであった。また、観察された最大の孔の面積は約4700μmであり、孔の全個数に占める、最大の孔の面積の1/2以下の面積(すなわち約2350μm以下)を有する孔の個数の割合は約90%であった。
【0049】
例B3:開孔率の測定
例B1で得られた多孔質金属箔の開孔率を重量法により以下の通り測定した。まず、多孔質金属箔の膜厚をデジタル測長機(デジマイクロMH−15M、ニコン社製)で測定したところ、14.7μmであった。このとき、測定スタンドとしてはMS−5C(ニコン社製)を使用し、測定子としてはデジマイクロMH−15Mの標準装備測定子を使用した。また、100mm×100mm平方の単位重量を測定したところ、0.94gであった。一方、膜厚14.7μm、100mm×100mm平方の無孔質銅箔の理論重量を、銅の密度を8.92g/cmとして計算により求めたところ、1.31gであった。これらの値を用いて、多孔質金属箔の開孔率を以下の通りにして計算したところ、28%と算出された。
(開孔率)=100−[(サンプルの単位重量)/(無孔質銅箔の理論重量)]×100
=100−[(0.94)/(1.31)]×100
=28%
【0050】
例B4:引張強度の測定
例B1で得られた多孔質金属箔の引張強度をJIS C6511−1992に準拠した方法により以下の通り測定した。まず、多孔質金属箔から10mm×100mmの試験片を切り取った。図17に示されるように、この試験片30の両端を引張強度測定機(オートグラフ、島津製作所製)の上下2つの固定治具31,31に50mmの間隔を空けるように挟んで固定した後、50mm/分の引張り速さで引っ張ることにより、引張強度を測定した。このとき、引張強度測定機において1kNのロードセルを使用した。その結果、引張強度は15N/10mm幅であった。また、その際の試験片の伸び率は0.8%であった。この結果から、本発明に係る多孔質金属箔は実用性に耐えうる強度を有していると考えられる。
【0051】
例C1:多孔質金属箔(多孔部)の作製
導電性基材としてSUS304からなるステンレス鋼板を用意した。このステンレス鋼箔に剥離層として厚さ2μmのクロムめっきを以下の手順で行った。まず、水を添加して120ml/Lに調整されたプリント配線板用酸性クリーナ(ムラタ社製、PAC−200)にステンレス鋼板を40℃で2分間浸漬した。こうして洗浄されたステンレス鋼板を50ml/Lの硫酸に室温で1分間浸漬することにより、酸活性化した。酸活性化したステンレス鋼板を、市販の硬質クロムめっき浴(HEEF−25、アトテック社製)に浸漬させ、カソード電流密度:20A/dm、電解時間:400秒、浴温:45℃、クーロン量:8000C/dm、電極面積:1.2dm、極間距離:90mmの条件でクロムめっきを行った。クロムめっきが形成されたステンレス鋼板を水洗および乾燥した。得られたクロムめっきの厚さをXRF(蛍光X線分析)により測定したところ約2μmであり、クロムめっきの表面には、めっき応力により発生したとみられる無数のクラックが確認された。
【0052】
このクラックが発生したクロムめっき上に銀めっきを行った。この銀めっきは、シアン化カリウム25g/L、シアン化銀カリウム(Agとして50g/L)および燐酸塩等が溶解された市販の銀めっき浴(セレナブライトC、日本高純度化学社製)に、クロムめっきが施されたステンレス鋼板を浸漬させ、陰極電流密度:1.0A/dm、電解時間:469秒間、浴温:40℃の条件で行った。このとき、クロムめっきの最表面よりもクラック部分の方で電流が流れやすいことから、銀の粒子がクラックを起点として成長した。その結果、クロムめっき上に銀繊維で構成される二次元網目構造が多孔質金属箔として形成された。最後に、多孔質金属箔をクロムめっきから物理的に剥離して、分離された多孔質金属箔(多孔部)を得た。
【0053】
例C2:多孔質金属箔(多孔部)の観察
例C1で得られた多孔質金属箔を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で種々の角度から観察した。まず、多孔質金属箔の剥離層と接していなかった面(以下、成長面という)を真上(傾斜角0度)から観察したところ、図18に示される画像が得られた。また、多孔質金属箔を裏返して、多孔質金属箔の剥離層と接していた面(以下、剥離面という)を真上(傾斜角0度)から観察したところ、図19に示される画像が得られた。これらの図から明らかなように、成長面には金属粒子の球状部に起因する数珠状の凹凸が観察されるのに対して、剥離面では金属粒子の底部に起因する平面およびクラックに沿って形成された中心線が観察された。これらの図に示されるスケールから金属繊維の線径(太さ)を算出したところ、11μmであった。金属繊維断面における最大断面高さHの線径Dに対する比率を算出したところ、約0.50であった。また、単位面積当たりの孔の個数は約2000個/mmであった。また、観察された最大の孔の面積は約462μmであり、孔の全個数に占める、最大の孔の面積の1/2以下の面積(すなわち約231μm以下)を有する孔の個数の割合は約97%であった。
【0054】
例C3:開孔率の測定
例C1で得られた多孔質金属箔の開孔率を重量法により以下の通り測定した。まず、多孔質金属箔の膜厚をデジタル測長機(デジマイクロMH−15M、ニコン社製)で測定したところ、6.4μmであった。このとき、測定スタンドとしてはMS−5C(ニコン社製)を使用し、測定子としてはデジマイクロMH−15Mの標準装備測定子を使用した。また、100mm×100mm平方の単位重量を測定したところ、0.450gであった。一方、膜厚6.4μm、100mm×100mm平方の無孔質銀箔の理論重量を、銀の密度を10.49g/cmとして計算により求めたところ、0.672gであった。これらの値を用いて、多孔質金属箔の開孔率を以下の通りにして計算したところ、33%と算出された。
(開孔率)=100−[(サンプルの単位重量)/(無孔質銀箔の理論重量)]×100
=100−[(0.450)/(0.672)]×100
=33%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔部と、
前記金属繊維を構成する金属で前記多孔部と連続的かつ一体的に構成され、前記多孔部よりも孔が少ないまたは実質的に無孔質の補強部と
を備えてなる、補強された多孔質金属箔。
【請求項2】
前記補強部が前記金属箔の外縁の少なくとも一部に設けられる、請求項1に記載の金属箔。
【請求項3】
前記金属箔が長尺形状を有し、前記補強部が、前記金属箔の長尺方向に沿った外縁に設けられてなる、請求項1または2に記載の金属箔。
【請求項4】
前記金属箔が長尺形状を有し、前記補強部が、前記金属箔の長尺方向に沿った外縁から離れて、かつ、前記外縁と平行に設けられてなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項5】
前記補強部が実質的に無孔質である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項6】
前記多孔部が3〜80%の開孔率を有し、前記開孔率が、前記多孔部と同等の組成および寸法を有する無孔質金属箔の理論重量Wに占める前記多孔部の重量Wの比率W/Wを用いて、
P=100−[(W/W)×100]
により定義される開孔率Pである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項7】
前記金属繊維が、5〜80μmの線径を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項8】
前記金属繊維が分枝状繊維であり、該分枝状繊維が不規則に張り巡らされてなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項9】
前記金属繊維が、無数の金属粒子が連結されてなるものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項10】
前記金属粒子が球状部と底部とを有する半球状の形態を有し、全ての前記金属粒子の底部が同一基底面上に位置し、全ての前記金属粒子の球状部が前記基底面を基準として同じ側に位置する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項11】
3〜40μmの厚さを有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項12】
前記二次元網目構造が、基材の表面に形成されたクラックに起因した不規則形状を有してなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項13】
前記金属繊維が、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、錫からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項14】
補強された多孔質金属箔の製造方法であって、
表面にクラックが発生した剥離層を備えた導電性基材を用意する工程と、
接触部材を前記剥離層の一部に接触させて摺動させる工程と、
前記剥離層に、前記クラックに優先的に析出可能な金属をめっきして、前記接触部材との接触が行われていない領域において前記クラックに沿って無数の金属粒子を成長させて多孔部を形成し、かつ、前記接触部材との接触が行われた領域において前記多孔部よりも密に無数の金属粒子を成長させて補強部を形成する工程と
を含んでなる方法。
【請求項15】
前記接触部材が、水または水性液体を含んだ吸水性材料である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記多孔質金属箔を前記剥離層から剥離する工程をさらに含んでなる、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記剥離工程後の前記剥離層を乾燥する工程をさらに含んでなり、前記乾燥された剥離層が再び前記接触工程に付される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記剥離層を備えた導電性基材が回転ドラム状に構成され、前記接触工程、前記めっき工程、前記剥離工程、および前記乾燥工程が前記導電性基材の回転によって順次繰り返される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記剥離層が、クロムおよびチタンからなる群から選択される少なくとも一種を含んでなる金属または合金からなるか、または有機物からなる、請求項14〜18のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図17】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−144790(P2012−144790A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5111(P2011−5111)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】