説明

製鉄用容器の耐火物ライニング構造

【課題】 高炉から出湯される溶銑を受銑して保持し、保持した溶銑を搬送する或いは保持した溶銑に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造において、施工が容易であって施工工数を抑えることができるとともに、長期間にわたって断熱効果を十分に発揮することのできる、製鉄用容器の耐火物ライニング構造を提供する。
【解決手段】 本発明に係る製鉄用容器の耐火物ライニング構造は、高炉から出湯される溶銑を受銑して保持し、保持した溶銑を搬送する或いは保持した溶銑に精錬処理を実施するための製鉄用容器1の耐火物ライニング構造であって、製鉄用容器の外側から、鉄皮2、永久耐火物層3、ワーク耐火物層4をこの順に有し、製鉄用容器の側壁部位においては、前記永久耐火物層は、厚みが30mm以上65mm以下の成形煉瓦の2層以上の煉瓦層からなり、且つ、前記鉄皮と前記永久耐火物層との間に、断熱材5を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉から出湯される溶銑を受銑して保持し、保持した溶銑を搬送する或いは保持した溶銑に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、地球環境保全のために、全世界的規模でCO2排出量の削減活動がなされている。製鉄業においても、多量の炭素源を使用することから、特に製銑分野及び製鋼分野においては、CO2排出量削減への取り組みが急務となっており、高炉での還元剤比の低減、熱ロスの低減、熱の有効利用化などの熱余裕度創出技術が研究・開発されている。また、熱余裕度の創出は、転炉におけるフェロシリコンなどの発熱剤原単位の削減が見込めるため、製鉄コスト合理化の面からも技術開発が重要である。
【0003】
製鉄プロセスにおいては、一般に、高炉で製造されて高炉から出湯される溶銑は、トピードカーまたは溶銑鍋に代表される容器で受銑され、次工程の製鋼工程へと輸送される。また、製鋼工程の転炉或いは電気炉で溶製された溶鋼は、取鍋などの容器に出湯され、二次精錬工程や連続鋳造工程などの次工程へと輸送される。これらの製鉄用容器は、一般的には、稼働面(溶湯との接触面)側から順に、ワーク耐火物層、永久耐火物層、鉄皮の3層から形成されるライニング構造である。ワーク耐火物層及び永久耐火物層は、ともに成形煉瓦(定形耐火物)または不定形耐火物で構成され、成形煉瓦で構成されるときには、ワーク煉瓦層及び永久煉瓦層とも呼ばれる。尚、本発明においては、溶銑及び溶鋼を受けるための容器をまとめて製鉄用容器と称する。
【0004】
溶銑或いは溶鋼を次工程へ輸送する場合、その経過時間(以下、「リードタイム」と記す)が長くなると、溶銑或いは溶鋼の熱が耐火物層を伝達し、鉄皮から外気に放出する熱量が増大し、溶銑或いは溶鋼の温度降下量が増大するという問題が発生する。また、リードタイムが長くなると、最外殻である鉄皮の温度が上昇し、鉄皮のクリープ変形や亀裂発生を引き起こす恐れがある。そこで、これらの問題を解決する手段の一つとして、製鉄用容器ライニング構造の断熱化に関する技術が幾つか提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、鉄皮に断熱ボード及びワーク煉瓦をこの順に施工してなる取鍋において、断熱ボードとワーク煉瓦との間にロー石煉瓦などの断熱煉瓦を設けた断熱ライニング構造が提案されている。そして、特に、断熱煉瓦層厚みは60mm以上、ワーク煉瓦層厚みは30mm以下が望ましいとしている。
【0006】
しかしながら、溶銑を受銑する溶銑鍋に対して、特許文献1に記載されている技術を適用した場合には、断熱煉瓦の厚みが大きく、容積が低下するという問題点がある。また、断熱煉瓦の厚みが大きいことから断熱煉瓦内の温度勾配が大きくなり、断熱煉瓦内に亀裂が発生して耐火物寿命が低下する恐れもある。また更に、ワーク煉瓦厚みを30mm以下にすると、断熱煉瓦の稼働面側温度が高温になることから、それに応じて熱伝達量が増加し、結果的に断熱性能が低下するという懸念もある。
【0007】
一方、特許文献2及び特許文献3には、熱伝導率の範囲を規定した断熱材を、永久耐火物と鉄皮との間に配置し、稼働面側から、ワーク耐火物、永久耐火物、断熱材、鉄皮からなる4層構造の製鉄用容器のライニング構造が提案されている。そして、特に、断熱材は、厚みを30mm以内とし、3〜100nmの細孔を有するものが望ましいとしている。
【0008】
特許文献2及び特許文献3に開示される技術は、一見、断熱性の効果が得られるように見える。しかしながら、特許文献2及び特許文献3に開示される技術を溶銑鍋において適用した場合、各部位のライニング厚みによっては断熱材の適用温度範囲を超える可能性もあり、長期間にわたって断熱効果を得るためには十分な技術とはいえない。断熱材は一般的な耐火物に比較して耐熱性は低く、通常、1000℃程度が断熱材使用の上限温度であり、それ以上の温度では変質し、断熱性能を劣化させる。また更に、細孔を有する断熱材を使用した場合には、耐火物施工時に断熱材と水分とが反応し、その結果、断熱性能が損なわれるという問題が生じる。
【0009】
この耐火物施工時での断熱性能の劣化を防止するために、特許文献4では、ワーク耐火物と永久耐火物との間に保護板を配置する技術を提案している。しかし、この方法では耐火物施工時に保護板を施工する工程が増えるため、耐火物施工費が増大するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−50256号公報
【特許文献2】特開2000−104110号公報
【特許文献3】特開2000−226611号公報
【特許文献4】特開2003−42667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
溶銑鍋のような製鉄用容器のライニング構造を断熱化して、溶湯温度降下量の低減及び鉄皮変形の低減などを図るには、断熱材の配置位置、耐火物層の層数、厚み、材質を十分に考慮した上で、しかも、施工工数を抑えることのできる耐火物ライニング構造とする必要がある。これらの観点から上記従来技術を検証すれば、未だ改善すべき点が多々あるのが実情である。
【0012】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、高炉から出湯される溶銑を受銑して保持し、保持した溶銑を搬送する或いは保持した溶銑に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造において、施工が容易であって施工工数を抑えることができるとともに、長期間にわたって断熱効果を十分に発揮することのできる、製鉄用容器の耐火物ライニング構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための第1の発明に係る製鉄用容器の耐火物ライニング構造は、高炉から出湯される溶銑を受銑して保持し、保持した溶銑を搬送する或いは保持した溶銑に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造であって、製鉄用容器の外側から、鉄皮、永久耐火物層、ワーク耐火物層をこの順に有し、製鉄用容器の側壁部位においては、前記永久耐火物層は、厚みが30mm以上65mm以下の成形煉瓦の2層以上の煉瓦層からなり、且つ、前記鉄皮と前記永久耐火物層との間に、断熱材を有することを特徴とするものである。
【0014】
第2の発明に係る製鉄用容器の耐火物ライニング構造は、第1の発明において、前記製鉄用容器の底部においては、前記永久耐火物層は、厚みが30mm以上65mm以下の成形煉瓦の3層以上の煉瓦層からなり、且つ、前記鉄皮と前記永久耐火物層との間に、断熱材を有することを特徴とするものである。
【0015】
第3の発明に係る製鉄用容器の耐火物ライニング構造は、第1または第2の発明において、前記ワーク耐火物層は、施工時の厚みが120mm以上であることを特徴とするものである。
【0016】
第4の発明に係る製鉄用容器の耐火物ライニング構造は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記断熱材は、厚みが5mm以下であることを特徴とするものである。
【0017】
第5の発明に係る製鉄用容器の耐火物ライニング構造は、第1ないし第4の発明の何れかにおいて、前記断熱材は、その熱伝導率が0.1W/m・K以下であることを特徴とするものである。
【0018】
第6の発明に係る製鉄用容器の耐火物ライニング構造は、第1ないし第5の発明の何れかにおいて、前記ワーク耐火物層は、熱伝導率が35W/m・K以下の成形煉瓦または不定形耐火物からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、断熱材の設置位置を最適化するとともに、断熱材よりも稼働面側の永久耐火物層の構成を適正化することによって、溶銑鍋のような製鉄用容器の耐火物ライニング構造を断熱化するので、施工が容易であり、施工工数を増加させることなく、長期間にわたって十分な断熱効果を得ることができる。その結果、溶銑の熱余裕度の創出が実現でき、転炉におけるフェロシリコンなどの発熱剤原単位の削減などが可能になる。また、熱余裕度の創出により鉄スクラップの使用量の増加が見込めるため、高炉での還元剤比の低減、即ちCO2の削減が可能になり、環境に配慮した製鉄プロセスが可能になる。更に、鉄皮の温度が低減するので、鉄皮における亀裂や変形が抑制され、製鉄用容器の長寿命化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】耐火物ライニングのモデル構造を示す概略図である。
【図2】断熱材の施工位置を変えたときの断熱効果の算出結果を示す図である。
【図3】断熱材の厚みを変化させたときの断熱材内面側の温度変化の算出結果を示す図である。
【図4】断熱効果を確認するための実験装置の概略図である。
【図5】実験装置により得られた熱流束の測定結果を示す図である。
【図6】本発明に係るライニング構造で施工された溶銑鍋の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
溶銑鍋に代表される取鍋型形状の製鉄用容器の場合、その抜熱形態は、(a)耐火物層を通じた鉄皮から外気への放熱、(b)開口部から外気への放熱の2通りが挙げられる。これらの放熱は何れも、放熱面から外気への輻射伝熱及び放熱面からの対流伝熱による2種の伝熱機構で抜熱されると考えられる。
【0023】
下記の(1)式に輻射伝熱による放熱量を示す。但し、(1)式において、QRは輻射伝熱による放熱量(J/s)、σはステファン−ボルツマン定数(=5.67×10-8J/m2・s・K4)、εは輻射率(−)、Snは伝熱面面積(m2)、Tは物体表面温度(K)、T0は外気温度(K)である。
【0024】
【数1】

【0025】
また、下記の(2)式に対流伝熱による放熱量を示す。但し、(2)式において、QCは対流伝熱による放熱量(J/s)、hCは自然対流熱伝達係数(J/m2・s・K)、Snは伝熱面面積(m2)、Tは物体表面温度(K)、T0は外気温度(K)である。
【0026】
【数2】

【0027】
本発明者らは、事前検討として、実機溶銑鍋の抜熱量とその内訳を調査した。その結果を表1に示す。表1に示すように、上記(a)の「鉄皮からの抜熱」が全体の約40%、上記(b)の「開口部からの放熱」が全体の約60%であることが判明した。
【0028】
【表1】

【0029】
開口部からの抜熱を低減することに関しては、取鍋において一般的に適用されている蓋の設置が考えられるが、着脱に大規模な設備を要すること、及び、溶銑予備処理を実施する際の地金付着による着脱不能などの懸念事項が多く、現実的ではない。しかし、今回の調査により、鉄皮からの抜熱が4割もあることから、ライニング構造の断熱化による抜熱量低減は十分に可能であることが分かった。そこで、本発明者らは、溶銑鍋の最適ライニングについて種々検討を行った。
【0030】
先ず、断熱材の施工部位について、非定常伝熱計算を用いて総括的に検討した。計算に用いた耐火物ライニングのモデル構造の概略図を図1に示す。ここでは、永久耐火物層3は2層の成形煉瓦を仮定した。断熱材の施工部位を、それぞれ、ワーク耐火物層4と永久耐火物層3との間、永久耐火物層3を構成する2層の成形煉瓦3aと成形煉瓦3bとの間、永久耐火物層3と鉄皮2との間とし、断熱材の厚みを変化させた場合の抜熱量(溶融メタルの温度降下量)を算出した。尚、図1では、永久耐火物層3を構成する2層の成形煉瓦を3a及び3bで表示しており、一方、断熱材は表示していない。また、図1に示す●印は温度分布を表している。
【0031】
計算結果を図2に示す。図2の縦軸は、断熱材を設置しないときを基準とし、断熱材を配置したときの溶銑温度の上昇を負の数値で表示しており、負の数値が大きくなるほど、断熱効果が大きいことを示している。図2に示すように、断熱材を上記の三箇所の何れかに設置した場合、ワーク耐火物層4と永久耐火物層3との間に断熱材を施工した場合に最も抜熱量が大きく、一方、永久耐火物層3と鉄皮2との間に断熱材を施工した場合に最も抜熱量が抑制されることが分かった。つまり、永久耐火物層3と鉄皮2との間に断熱材を施工した場合に最も断熱効果が高くなることが分かった。また、断熱材厚みが5mmを超える場合には抜熱量の変化割合が小さくなることも分かった。
【0032】
また、断熱材を前述したそれぞれの部位に施工した場合において、断熱材の厚みを変化させたときの断熱材の内面側(=稼動面側)の温度変化を算出した結果を図3に示す。図3に示すように、断熱材を永久耐火物層3と鉄皮2との間に施工した、断熱効果が最も高い場合であっても、断熱材の厚みが5mmを超えると、断熱材の内側温度は1000℃を超えることが分かった。また、断熱材の厚みが5mmを超えると断熱材厚みに対する温度変化の割合は低下することが分かった。
【0033】
図2及び図3の結果から、断熱材厚みを5mmよりも大きくしても、抜熱量の変化は単純には増大せず、抜熱量の変化割合は徐々に停滞することが判明した。尚、市販の断熱材は1000℃を超える高温では、断熱材自身の熱による収縮が起こり、その熱伝導率が増大することが起こり得るため、断熱材の変質を避けるためにも断熱材の温度を1000℃以下に抑えることが好ましい。
【0034】
本発明者らは、上記の計算結果を実証するために実験室にて実験を行った。実験装置の概略図を図4に示す。電気抵抗加熱炉の側壁部に実機溶銑鍋の耐火物ライニングを模擬したライニング層を設置し、電気抵抗加熱炉の内部温度を一定温度(=1300℃)に保持し、そのときの鉄皮表面の熱流束を測定した。断熱材は、それぞれ、ワーク耐火物層4と永久耐火物層3との間、永久耐火物層3の2層の成形煉瓦3a及び成形煉瓦3bとの間、永久耐火物層3と鉄皮2との間に配置し、断熱材の厚みを、それぞれ、1mm、3mm、5mm、7mm、10mmと変化させた。
【0035】
熱流束の測定結果を図5に示す。断熱材を永久耐火物層3と鉄皮2の間に施工した条件において、最も熱流束が低位となった。また、各条件で断熱材厚みが5mmまでは断熱材厚みが増加するほど熱流束は低位となったが、5mmから10mmへと変化しても熱流束の増加は見られなかった。この実験結果から、上記計算結果の妥当性が確認できた。
【0036】
更に、溶銑鍋において、永久耐火物層3の成形煉瓦の層数を、1層の場合、2層の場合、3層の場合と変更したときの永久耐火物層3の背面側、つまり断熱材の内面側の温度を調査したところ、永久耐火物層3を2層以上の成形煉瓦とした場合において、前記温度が低位になることが分かった。これは2枚の成形煉瓦間にモルタルなどの接着面が存在することにより、温度ギャップが生じるためである。モルタルが存在しない、所謂「カラ目地」の場合でも、空気層による温度ギャップが生じることから、永久耐火物層3を2層以上の成形煉瓦とすることは有効である。また、永久耐火物層3を2層以上の成形煉瓦とすることは、煉瓦の加熱による熱応力の吸収代を形成する意味でも有効である。
【0037】
また、永久耐火物層3を構成する、2層の成形煉瓦の厚みを変更したときの放熱量、断熱材内面側温度を調査したところ、厚みが30mm以上の場合において、放熱量が低位になることが判明した。よって、十分な断熱性能を得るためには成形煉瓦の厚みは30mm以上確保することが必要である。一方上限については、断熱性の面からは特に上限値は定めないが、容器の容積確保の面及び施工性の面から65mm以下とすることが必要である。尚、永久耐火物層3を構成する成形煉瓦の材質には、MgO質煉瓦、高アルミナ質煉瓦、ロー石質煉瓦などの各種煉瓦を使用することができる。
【0038】
本発明は上記検討結果に基づきなされたもので、発明に係る製鉄用容器の耐火物ライニング構造は、高炉から出湯される溶銑を受銑して保持し、保持した溶銑を搬送する或いは保持した溶銑に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造であって、製鉄用容器の外側から、鉄皮、永久耐火物層、ワーク耐火物層をこの順に有し、製鉄用容器の側壁部位においては、前記永久耐火物層は、厚みが30mm以上65mm以下の成形煉瓦の2層以上の煉瓦層からなり、且つ、前記鉄皮と前記永久耐火物層との間には、断熱材を有することを特徴とする。
【0039】
一方、溶銑鍋の炉部においては、漏銑防止、更なる保熱性、溶銑による発生応力緩和の観点から、永久耐火物層3を構成する成形煉瓦の層を3層以上とすることが望ましい。この場合でも1層あたりの煉瓦厚みは、上記の理由から30mm以上65mm以下とする必要がある。
【0040】
ワーク耐火物層の厚みに関しては120mm以上確保するのが好ましい。通常、溶銑鍋は長期間使用され、ワーク耐火物層はスポーリングやスラグとの反応により徐々に損傷する。耐火物張替えの日数及びコストを削減するためには最低でも半年に1回の頻度でのワーク耐火物層の張替えにとどめたい。溶銑鍋の長期間使用によりワーク耐火物層が損傷するが、その厚みが稼働開始から半年間経過後に1/4まで低減した場合でも最低30mmを確保するためには、ワーク耐火物層の厚みは施工時の厚みを120mm以上確保することが好ましい。
【0041】
また、ワーク耐火物層は成形煉瓦または不定形耐火物の何れでも構わないが、ワーク耐火物層を構成する成形煉瓦または不定形耐火物は、断熱性の観点からはなるべく低熱伝導率のものを使用すべきであり、その熱伝導率の上限値を35W/m・K以下とすることが好ましい。熱伝導率が35W/m・Kを越える耐火物では断熱材内面側の温度が1000℃を超えてしまい、断熱材の性能が劣化するからである。尚、ワーク耐火物層を構成する耐火物の材質としては、MgO−C煉瓦、Al23−C系、Al23−SiC系、Al23−SiC−C系煉瓦などの各種煉瓦を使用することができる。
【0042】
本発明で使用する断熱材としては、その材質は、SiO2系、Al23系などの各種材質を使用することができ、特に制限されない。しかし、断熱材の熱伝導率は、抜熱量低減の効果を得る観点から、0.1W/m・K以下とすることが望ましい。0.1W/m・Kを超えると、放熱量が増大し、期待される断熱効果が得られない。尚、市販の断熱材は1000℃を超える高温では、断熱材自身の収縮が起こり、熱伝導率の増大が起こり得るため、その使用温度は1000℃以下にすることが好ましい。また、断熱材の施工に関しては、断熱材への水分吸収を避けるような施工方法を採ることが望ましい。
【0043】
このような構成の本発明によれば、断熱材の設置位置を最適化するとともに、断熱材よりも稼働面側の永久耐火物層の構成を適正化することによって、溶銑鍋のような製鉄用容器の耐火物ライニング構造を断熱化するので、施工が容易であり、施工工数を増加させることなく、長期間にわたって十分な断熱効果を得ることができる。特に、断熱材の厚みを5mm以下にした場合には、断熱材は1000℃を超える温度に曝されることがなく、断熱材の変質が防止されて、長期間にわたって高い断熱効果を得ることが可能となる。
【実施例】
【0044】
製鉄用容器として、ヒートサイズが300tである、図6に示す溶銑鍋を取り上げ、この溶銑鍋の側壁部及び底部に種々の施工方法で、ワーク耐火物層、永久耐火物層及び断熱材を施工した。本発明例及び比較例の施工条件を表2に示す。尚、図6において、符号1は溶銑鍋、2は鉄皮、3は永久耐火物層、4はワーク耐火物層、5は断熱材であり、図6は、本発明例1の例を示している。
【0045】
【表2】

【0046】
本発明例1では、永久耐火物層を成形煉瓦の2層とし、1層あたりの厚みを30mmとした。ワーク耐火物層は厚み100mm、1000℃における熱伝導率が35W/m・Kのものを使用した。断熱材は永久耐火物層と鉄皮との間に厚み5mmのものを施工した。使用した断熱材の熱伝導率は0.1W/m・Kである。
【0047】
本発明例2では、永久耐火物層を成形煉瓦の2層とし、1層あたりの厚みを30mmとした。ワーク耐火物層は厚み160mm、1000℃における熱伝導率が15W/m・Kのものを使用した。断熱材は永久耐火物層と鉄皮との間に厚み5mmのものを施工した。使用した断熱材の熱伝導率は0.02W/m・Kである。
【0048】
これに対して、比較例1では、永久耐火物層を成形煉瓦の1層とし、1層あたりの厚みを60mmとした。ワーク耐火物層は厚み100mm、1000℃における熱伝導率が35W/m・Kのものを使用した。断熱材は施工しなかった。比較例2では、永久耐火物層を成形煉瓦の2層とし、1層あたりの厚みを30mmとした。ワーク耐火物層は厚み100mm、1000℃における熱伝導率が35W/m・Kのものを使用した。断熱材は施工しなかった。比較例3では、永久耐火物層を成形煉瓦の1層とし、1層あたりの厚みを60mmとした。ワーク耐火物層は厚み100mm、1000℃における熱伝導率が35W/m・Kのものを使用した。断熱材は永久耐火物層と鉄皮との間に厚み5mmのものを施工した。使用した断熱材の熱伝導率は0.1W/m・Kである。
【0049】
また、比較例4では、永久耐火物層を成形煉瓦の2層とし、1層あたりの厚みを30mmとした。ワーク耐火物層は厚み160mm、1000℃における熱伝導率が15W/m・Kのものを使用した。断熱材はワーク耐火物層と永久耐火物層との間に厚み5mmのものを施工した。使用した断熱材の熱伝導率は0.02W/m・Kである。比較例5では、永久耐火物層を成形煉瓦の2層とし、1層あたりの厚みを30mmとした。ワーク耐火物層は厚み160mm、1000℃における熱伝導率が15W/m・Kのものを使用した。断熱材は永久耐火物層を構成する2層の成形煉瓦の間に厚み5mmのものを施工した。使用した断熱材の熱伝導率は0.02W/m・Kである。比較例6では、永久耐火物層を成形煉瓦の2層とし、1層あたりの厚みを70mmとした。ワーク耐火物層は厚み180mm、1000℃における熱伝導率が15W/m・Kのものを使用した。断熱材は永久耐火物層と鉄皮との間に厚み5mmのものを施工した。使用した断熱材の熱伝導率は0.02W/m・Kである。
【0050】
本発明例及び比較例の施工条件の溶銑鍋を用いて高炉から出湯される約300tの溶銑を受銑し、受銑から溶銑払出しの期間における溶銑温度の降下量(ΔT(℃))を調査した。また、それぞれ耐火物ライニング構造が異なることから、各溶銑鍋での平均受銑量を調査した。また更に、赤外線温度計を用いて鉄皮温度を測定し、各条件での最高鉄皮温度を比較した。尚、全ての調査において、受銑から溶銑払出までの間は溶銑処理がない条件、つまり、途中で昇温処理工程或いは降温処理工程がない条件で調査を行った。調査結果を、表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
本発明の条件を満たす本発明例1及び本発明例2では、比較例1〜5の何れと比較しても、最高鉄皮温度及び溶銑温度降下量ともに低位であり、断熱の効果が有効に得られている。
【0053】
特に、ワーク耐火物層及び永久耐火物層の施工条件が同一で、断熱材の有無のみが異なる本発明例1と比較例2とを比べると、本発明例1の方が最高鉄皮温度及び溶銑温度降下量ともに低位であった。また、永久耐火物層が1層で断熱材のない比較例1、及び、断熱材は設置されるものの、永久耐火物層が1層である比較例3と本発明例1とを比べても、本発明例1の方が断熱性に優位であることが確認できた。
【0054】
また、ワーク耐火物層及び永久耐火物層の施工条件が同一で、断熱材の施工部位が異なる本発明例2と比較例4及び比較例5とを比べると、永久耐火物層と鉄皮との間に断熱材を施工した本発明例2が最も良好な断熱効果が得られた。
【0055】
また、ワーク耐火物層及び永久耐火物層の厚みが大きい比較例6は、溶銑温度降下については最も優れていたが、内容積が低下し、平均受銑量は他の条件に比べ減少し、溶銑鍋の配置数を増やす必要があり、この点で実操業には不適であった。
【0056】
また、溶銑を払いだした後の空の溶銑鍋での地金付着状況を観察した結果、本発明例1,2の溶銑鍋では地金付着は観察されなかったが、断熱材を施工していない比較例1,2では多量の地金付着が観察された。また、比較例3〜5でも、比較例1,2ほどではないが地金付着が観察された。比較例6では、地金付着は観察されなかった。
【0057】
以上の結果から、断熱条件を的確に規定した本発明の優位性が確認できた。
【符号の説明】
【0058】
1 溶銑鍋
2 鉄皮
3 永久耐火物層
4 ワーク耐火物層
5 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉から出湯される溶銑を受銑して保持し、保持した溶銑を搬送する或いは保持した溶銑に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造であって、製鉄用容器の外側から、鉄皮、永久耐火物層、ワーク耐火物層をこの順に有し、製鉄用容器の側壁部位においては、前記永久耐火物層は、厚みが30mm以上65mm以下の成形煉瓦の2層以上の煉瓦層からなり、且つ、前記鉄皮と前記永久耐火物層との間に、断熱材を有することを特徴とする、製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【請求項2】
前記製鉄用容器の底部においては、前記永久耐火物層は、厚みが30mm以上65mm以下の成形煉瓦の3層以上の煉瓦層からなり、且つ、前記鉄皮と前記永久耐火物層との間に、断熱材を有することを特徴とする、請求項1に記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【請求項3】
前記ワーク耐火物層は、施工時の厚みが120mm以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【請求項4】
前記断熱材は、厚みが5mm以下であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【請求項5】
前記断熱材は、その熱伝導率が0.1W/m・K以下であることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【請求項6】
前記ワーク耐火物層は、熱伝導率が35W/m・K以下の成形煉瓦または不定形耐火物からなることを特徴とする、請求項1ないし請求項5の何れか1つに記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−266103(P2010−266103A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117111(P2009−117111)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】