説明

製鋼スラグの再利用方法

【課題】 燐を含有する製鋼スラグを製鉄工程へリサイクルして再利用するに当たり、製鋼スラグに含有される燐を効率的に除去し、これにより復燐を発生させることなく、製鋼スラグに含有される鉄分及びCaO分を有効活用する。
【解決手段】 燐を含有する製鋼スラグを、冷却した後に磁力により磁着物28と非磁着物27とに分離して回収し、次いで、該非磁着物に還元剤を混合し、混合した後に加熱処理して、非磁着物に含有される燐酸化物を還元して気化除去し、燐酸化物を気化除去した後の非磁着物及び前記磁着物を製銑工程または製鋼工程にリサイクルする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑の脱珪処理、脱燐処理、脱炭処理などで発生する、燐を含有する製鋼スラグの再利用方法に関し、詳しくは、製鋼スラグに含有される燐を効率的に除去し、燐のピックアップを防止した製鋼スラグの再利用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燐は、農作物にとって欠かすことのできない元素の1つであり、肥料などの原料として用いられているが、その原料である燐鉱石は有限であり、枯渇する恐れも危惧されている。また、我が国の燐資源の供給は100%輸入に依存しており、今後、代替燐資源の確保が重要となる。
【0003】
一方、製鋼スラグは、高炉溶銑に含まれる珪素、燐、硫黄、炭素を除去するための精錬工程(脱珪処理、脱燐処理、脱硫処理、脱炭処理)で発生するものである。このうち、酸化精錬である脱燐処理及び脱炭処理で発生する製鋼スラグは、CaO、FeO、Fe23 、SiO2 を主成分とするほか、溶銑中の燐と供給した酸素との反応生成物である燐酸(P25 )を含有している。特に、燐を除去するための脱燐処理で発生するスラグでは燐含有量が高くなる。酸化精錬である脱珪処理で発生するスラグは、SiO2を主成分とするが、塩基度調整のためにCaOが一般的に添加されており、脱燐処理及び脱炭処理で発生するスラグと同様の組成になり、燐酸(P25)を含有する場合もある。還元精錬である脱硫処理で発生するスラグにはCaSの形態で硫黄が含まれる。尚、これらの製鋼スラグを精錬工程毎に区別するために、一般的に、脱珪処理で発生するスラグは脱珪スラグ、脱燐処理で発生するスラグは脱燐スラグ、脱硫処理で発生するスラグは脱硫スラグ、脱炭処理で発生するスラグは転炉スラグと呼ばれている。
【0004】
現在、製鋼スラグは道路用材料や土木工事用材料として利用されているが、これらは付加価値が低く、十分な収益性は上げられない。従って、製鋼工程で発生するスラグを低減する或いはスラグ中のFe分やCaO分を有効に利用するためには、製鉄工程へリサイクルして再利用することが有効である。しかし、製鉄工程へのリサイクルにおいては、除去した燐や硫黄がスラグから溶銑に移行する所謂「復燐」や「復硫」が発生して問題となる。特に、焼結鉱へのリサイクルなど製銑工程へのリサイクルでは、Fe分の回収やCaO分の回収は可能であるが、高炉内は鉄鉱石の還元を行う強還元性雰囲気であり、スラグ中の酸化鉄の還元と同時にスラグ中の燐酸が還元され、溶銑の燐濃度がピックアップする。その結果、製鋼工程では脱燐処理の負荷が増大してしまうという問題が生ずる。
【0005】
そこで、燐を含有する製鋼スラグの有効利用を目的として、スラグから燐を除去する技術が幾つか開示されている。例えば、特許文献1には、粉砕した転炉スラグに炭材粉を5〜30質量%混合し、この混合物を1000〜1400℃に加熱して、スラグ中の燐を還元して除去する方法が開示されている。特許文献2には、製鋼スラグに炭素系還元剤を配合し、これにマイクロ波を照射して加熱し、製鋼スラグ中の鉄分及び燐分を還元除去する方法が開示されている。特許文献3には、溶銑脱燐処理や転炉脱炭精錬、或いは溶鋼脱燐精錬で発生する溶融状態または半溶融状態のスラグに、減圧下で炭素などの還元剤を添加して燐酸化物を還元し、気化脱燐してスラグ中の燐を除去する方法が開示されている。また、特許文献4には、質量比でP25 :遊離酸化鉄:炭素=1:(0.5〜15):(0.5〜5)となるように、製鋼スラグに遊離酸化鉄を主成分とする酸化鉄源及び/または炭素源を混合し、この混合物を非酸化性雰囲気下の1100〜1300℃で焼成して燐化鉄を形成させ、焼成後、冷却して燐化鉄を磁力選別して除去する方法が開示されている。尚、遊離酸化鉄とは、特許文献4では水及び炭酸ガス以外の物質と固溶体または化合物を形成していない酸化鉄と定義している。
【0006】
上記特許文献1〜4の方法は、何れも製鋼スラグと還元剤とを混合し、この混合物を加熱してスラグ中の燐酸化物を還元し、スラグから除去するという方法である。一方、製鋼スラグ中の鉄分は、スラグを冷却した後に破砕し、次いで磁力選別処理して磁着物として回収されることが一般的である(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献1】特開昭56−75507号公報
【特許文献2】特開平11−246918号公報
【特許文献3】特開昭61−197451号公報
【特許文献4】特開平7−3345号公報
【特許文献5】特開昭62−171951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、鉄酸化物及び燐酸化物を含有する製鋼スラグを炭材などの還元剤と混合して加熱処理を行った場合、鉄酸化物は固体の鉄(Fe)に還元され、燐酸化物は気体の燐ガス(P2 ガス)に還元されるが、発生した燐ガス(P2 ガス)と生成される鉄(Fe)とが反応して燐化鉄(FeP)を形成し、その結果、高濃度の燐を含有する鉄が生成される。
【0008】
即ち、従来のスラグから燐を除去する技術では、燐除去処理後に磁力選別などによって鉄分を分離することにより、CaO分をリサイクルすることは可能であるが、分離した鉄分をリサイクル使用すると、燐のピックアップが発生する結果となり、再利用は困難であった。当然ながら、鉄分を分離しないでリサイクルした場合には、燐のピックアップが発生する。つまり、スラグ中の鉄分及びCaO分をともにリサイクル使用するという観点からみると、従来の燐酸化物を還元する方法は不十分であった。
【0009】
また、従来のスラグを磁力選別する方法も、鉄分の回収は可能であるが、スラグ中のCaOの有効利用という点では不十分であった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶銑の脱珪処理、脱燐処理、脱炭処理などで発生する、燐を含有する製鋼スラグを製鉄工程へリサイクルして再利用するに当たり、製鋼スラグに含有される燐を効率的に除去し、これにより復燐を発生させることなく、製鋼スラグに含有される鉄分及びCaO分を有効活用することのできる、製鋼スラグの再利用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための第1の発明に係る製鋼スラグの再利用方法は、燐を含有する製鋼スラグを、冷却した後に磁力により磁着物と非磁着物とに分離して回収し、次いで、該非磁着物に還元剤を混合し、混合した後に加熱処理して、非磁着物に含有される燐酸化物を還元して気化除去し、燐酸化物を気化除去した後の非磁着物及び前記磁着物を製銑工程または製鋼工程にリサイクルすることを特徴とするものである。
【0012】
第2の発明に係る製鋼スラグの再利用方法は、第1の発明において、前記磁着物は、回収されたままの状態で鉄源としてリサイクルされることを特徴とするものである。
【0013】
第3の発明に係る製鋼スラグの再利用方法は、第1または第2の発明において、前記非磁着物の加熱処理で発生する排ガスから黄燐を回収することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、製鋼スラグ中の鉄分(金属鉄及び鉄酸化物)を予め磁力により除去し、その後に燐酸化物の還元処理を実施するので、還元処理によって生成する燐ガス(P2 ガス)の近傍には鉄が殆んど存在せず、燐ガス(P2 ガス)と鉄との反応が抑制され、燐ガス(P2ガス)はCOガスなどの排ガスに混入してスラグから除去される。その結果、還元処理後のスラグは燐含有量が少なく、復燐を生ずることなく、製鋼スラグ中のCaO分を製銑工程または製鋼工程に造滓剤のCaO源としてリサイクルすることができる。また、磁力選別により回収された鉄分の燐含有量は従来と同様に低いので、従って、復燐を生ずることなく、製鋼スラグ中の鉄分を鉄源として製銑工程または製鋼工程にリサイクルすることができる。これにより、鉄歩留りの向上、造滓剤である生石灰(CaO)の削減、スラグ発生量の低減などが可能となり、工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0016】
溶銑の脱燐工程では、溶銑中の燐を酸化除去するために脱燐用精錬剤であるスラグ中に鉄酸化物を含有させる。また、生成した燐酸化物がスラグ中に移行する。このスラグを還元剤として炭素を用いて加熱して還元すると、下記の(1)式及び(2)式に示す鉄酸化物及び燐酸化物の還元反応が進行する。鉄酸化物及び燐酸化物の酸素に対する親和力は同程度であることから、(1)式及び(2)式に示す反応が同時に進行する。ここで、(1)式及び(2)式の反応生成物である鉄(Fe)と燐ガス(P2 ガス)とは親和力が強く、(1)式及び(2)式の反応と同時に、下記の(3)式に示す反応が進行する。つまり、加熱処理によって還元された燐は、気化してスラグから分離することなく、燐化鉄(FeP)の形態でスラグ中の鉄に固定される。
【0017】
【数1】

【0018】
製鋼スラグのリサイクルは、スラグ中の鉄分の回収及びスラグ中のCaO分の再利用を目的としており、加熱処理つまり還元処理によって鉄中に燐が吸収されて燐濃度の高い鉄が生成した場合には、復燐の問題からこの鉄の再利用は却ってコスト高となり、リサイクルできないことになる。
【0019】
本発明者等は、この問題を解決すべく種々検討した結果、燐を含有するスラグから予め鉄分(金属鉄及び鉄酸化物)を除去しておけば、加熱処理において燐化鉄(FeP)の生成が抑制されて、燐の気化除去が促進されるのではないかとの結論を得た。
【0020】
そこで、先ず、鉄及び燐がスラグ中でどのような形態で存在するかを把握するために、スラグの鉱物相を調査した。その結果、燐はP25 の形態をとり、このP25 は主に2CaO・SiO2 相または3CaO・SiO2 相とともに存在し、一方、鉄は主にCaOフェライト(CaO・FeO、CaO・Fe23 )、或いはマグネタイト(Fe34 )として存在していることが分かった。この結果から、燐を含有するスラグを磁力選別することで、スラグ中の鉄分と燐分とを分離可能であることが分かった。
【0021】
燐を含有する製鋼スラグを50μm以下まで粉砕し、粉砕したスラグを0.3Tの磁力で分離する試験を実施した。用いた実験装置の概略図を図1に示す。図1において、1は磁力分離試験装置、2は電磁石、3は合成樹脂管、4は磁着物、5は非磁着物であり、粉砕したスラグを合成樹脂管3の上部から合成樹脂管3の内部に供給し、電磁石2に磁着物4を付着させ、非磁着物5は分岐した合成樹脂管3の下部から排出させるという装置である。磁着物4は電磁石2を脱磁することで合成樹脂管3の他の下端から排出させた。
【0022】
磁力選別後、磁着物4及び非磁着物5の鉄酸化物濃度及び燐酸化物濃度を分析した。分析結果を表1に示す。表1に示すように、非磁着物にP25 が4.5質量%まで濃縮され、T.Fe(トータル鉄)は5.0質量%に減少した。一方、磁着物はT.Feが約30質量%に濃縮され、P25 は約1%に減少した。尚、T.Feとはスラグ中の全ての鉄酸化物(FeO、Fe23 、Fe34 )の鉄分の合計値である。
【0023】
【表1】

【0024】
次に、試験で得られた非磁着物を用いてスラグの加熱還元試験を実施した。用いた実験装置の概略図を図2に示す。図2において、6はスラグ還元実験装置、7は加熱チャンバー、8は誘導コイル、9は黒鉛製ルツボ、10はガス供給管、11はガス排出管、12は非磁着物と炭材粉とからなるペレットであり、ペレット12を黒鉛製ルツボ9に入れ、誘導コイル8に通電して黒鉛製ルツボ9を加熱し、この熱によってペレット12を加熱するという装置である。ガス供給管10からはArガスなどの不活性ガスやプロパンガスなどの還元性ガスを供給可能であり、ガス排出管11は真空ポンプ(図示せず)に連結されていて、加熱チャンバー7の内部の圧力を減圧するなどの調整可能になっている。
【0025】
炭材粉の添加量は、非磁着物中のP25 及び酸化鉄を還元するために必要な当量の2.0倍とした。加熱温度は1500℃、加熱チャンバー7の雰囲気は1気圧のArガスとした。その他の試験条件を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
また比較のために、磁力選別を実施しないスラグ(比較スラグ)を上記と同一の条件で加熱し還元する試験も実施した。これらの試験結果を表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
非磁着物に含まれる鉄分(T.Fe)は5質量%程度であるため、(1)式による反応生成物は少なく、(3)式による反応も低減された。その結果、(2)式に示す反応が進行した。即ち、スラグ中の燐酸化物は還元されて気化し、スラグから分離した。一方、磁力選別を行わなかったスラグは、還元処理後、スラグ表面に細かい鉄粒子が観察された。この鉄粒子は細かすぎることから、仮に、還元処理後に磁力選別を行っても、除去することは困難である。磁力選別を行わなかったスラグでは、燐は(3)式にしたがって鉄メタル中に濃縮したため、スラグからの脱燐率は高い値にはならなかった。
【0030】
燐の還元除去時に発生する排ガスには、燐蒸気(P2 ガス)が含有されている。燐の常温における安定相は固体であるので、発生したガスを冷却して凝集させることで黄燐(P2)を回収できる可能性がある。
【0031】
そこで、前述した図2に示すスラグ還元実験装置から排出される排ガスを回収し、燐を凝縮させる試験を実施した。用いた燐回収装置の概略図を図3に示す。図3において、13は燐回収装置、14は凝縮塔、15はガス導入管、16はガス排出管、17は循環式の水噴霧装置、18は黄燐、19は冷却水であり、冷却水19を循環式水噴霧装置17によりガス導入管15を介して凝縮塔14に導入される排ガスに噴霧し、排ガスを冷却して黄燐18を凝縮させる装置である。冷却された排ガスはガス排出管16から排出される。非磁着物を還元処理したときの試験結果を表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
表4に示すように、黄燐回収率は93.9%になり、還元処理時に発生する排ガスを冷却することで、排ガス中に存在する燐蒸気を固体の黄燐として回収可能であることが分かった。また、この試験結果から、予め磁力選別によってスラグ中の鉄分を除去しておくことにより、スラグからの燐の還元除去処理が効率的に行われることが分かった。
【0034】
本発明は、これらの試験結果に基づくもので、燐を含有する製鋼スラグを、冷却した後に磁力により磁着物と非磁着物とに分離して回収し、次いで、該非磁着物に還元剤を混合し、混合した後に加熱処理して、非磁着物に含有される燐酸化物を還元して気化除去し、燐酸化物を気化除去した後の非磁着物及び前記磁着物を製銑工程または製鋼工程にリサイクルすることを特徴とする。
【0035】
ここで、燐を含有する製鋼スラグとは、溶銑の脱燐処理で発生する脱燐スラグ、及び転炉における溶銑の脱炭精錬で発生する転炉スラグが主であるが、溶銑の脱珪処理において燐も珪素と同時に除去される場合には脱珪スラグも含み、また、溶鋼の脱燐処理で発生するスラグも、本発明でいう燐を含有する製鋼スラグに含まれるものとする。但し、燐を含有していても燐含有量が少ない場合には、復燐は少なく考慮する必要はないので、燐をP25 に換算して1.5質量%以上含有する製鋼スラグを本発明の対象とする。
【0036】
スラグ中の鉄分(金属鉄及び鉄酸化物)を効率良く分離するためには、磁力選別の前に、これらの製鋼スラグを破砕し更には粉砕することが好ましい。粉砕後のサイズが小さいほど鉄分は分離されるので、500μm以下、好ましくは100μm以下に粉砕する。磁力選別で回収される磁着物はそのほとんどが鉄分(金属鉄及び鉄酸化物)であるので、つまり、磁着物は鉄分が濃縮された高塩基度組成であるので、回収したままの状態で製銑工程や製鋼工程に鉄源としてリサイクルが可能である。また、燐を還元除去した後のスラグはそのほとんどがCaOやカルシウム・シリケート相であるので、製銑工程及び製鋼工程で生石灰源としてリサイクルしても燐のピックアップは、極めて少なく実質的に無視できる。
【0037】
また、排ガスから黄燐を回収した場合には、回収した黄燐は燐資源の代替として活用することができる。燐は、前述したように、農作物にとって欠かすことのできない元素であり、我が国の燐資源が100%輸入に依存していることから、代替燐資源として十分に期待できる。
【0038】
尚、前述した(2)式の反応は還元反応であり且つ反応生成物が気体であることから、処理雰囲気の酸素ポテンシャルを低下させる、或いは、処理雰囲気の圧力を低下させることで反応が促進され、燐の除去がより効率的に行われる。雰囲気の酸素ポテンシャルを低下するには、不活性ガス雰囲気で行ってもよいが、還元性のガスを添加することがより好ましい。還元性ガスとしては、炭化水素ガスを使用することができる。炭化水素ガスは下記の(4)式に示すように炭素(C)と水素ガス(H2 ガス)とに分解する。この炭素及び水素ガスにより、強還元性となり、(2)式の反応が促進される。
【0039】
【数2】

【0040】
還元性ガスとしては、上記の炭化水素ガスの他に、水素ガス或いはコークス炉ガスなど製鉄プラントにて生成されるガスを使用してもよい。また、ガス化した炭化水素ガスを発生するプラスチックなどの固体を使用してもよい。加熱手段としては、上方からのバーナー加熱などを使用することができる。更に、スラグの還元剤として、炭材などの他に、金属Al、金属Siなどの金属を使用することもできる。
【実施例1】
【0041】
CaO:44.9質量%、SiO2 :10.9質量%、T.Fe:19.5質量%、MnO:3.3質量%、P25 :2.7質量%、Al23 :3.7質量%、MgO:6.3質量%、S:0.030質量%の製鋼スラグを用いて本発明(発明例1〜3)を実施した。また、比較のために同一組成の製鋼スラグを用いて、磁力選別のみ実施した操業(比較例1)及び脱燐のための還元処理のみ実施した操業(比較例2)も実施した。これらの処理条件を表5に示す。
【0042】
【表5】

【0043】
表5に示すように、発明例1では、スラグを粉砕した後、第1工程として、図4に示す磁力選別装置を用いてスラグから鉄分を除去した後、第2工程として、図5に示すスラグ還元処理装置を用いてスラグに還元処理を実施した。還元処理は、スラグと炭材粉とを混合・成形したペレットをプロパンバーナーで加熱する方法で実施した。そして、第1工程で回収した磁着物及び第2工程で還元処理した後のスラグを製銑工程へリサイクルした。
【0044】
尚、図4は、磁力選別装置の概略図であり、図4において、20は磁力選別装置、21はホッパー、22は切り出し装置、23はドラム式磁選機、24はドラム、25は電磁石、26はコンベア、27は非磁着物、28は磁着物であり、ホッパー21に製鋼スラグを収容し、切り出し装置22で切り出した製鋼スラグをドラム式磁選機23で非磁着物27と磁着物28とに分離する装置である。製鋼スラグ中の磁着物は回転するドラム24の外周に付着し、電磁石25の設置されていない場所でドラム24から剥離してベルトコンベア26に落下し、ベルトコンベア26で搬送される。また、図5は、スラグ還元処理装置の概略図であり、図5において、29はスラグ還元処理装置、30は加熱室、31はスラグ装入口、32はスラグ排出口、33はガス排出管、34は圧力調整弁、35はプロパンバーナー、36はスラグと炭材粉とからなるペレットであり、ペレット36をスラグ装入口31から加熱室30に装入し、所定時間プロパンバーナー35により加熱する。加熱後はスラグ排出口32から排出する。排ガスはガス排出管33から外部に排出されるが、圧力調整弁34により加熱室30の内部の雰囲気圧力が調整できるようになっている。
【0045】
発明例2では、発明例1と同様に、第1工程で磁力選別を実施し、第2工程で還元処理を実施した。この還元処理では、図6に示す黄燐回収設備を用いて、排ガス中の燐を凝集させて回収した。そして、第1工程で回収した磁着物及び第2工程で還元処理した後のスラグを製銑工程へリサイクルした。
【0046】
尚、図6は、黄燐回収設備の概略図であり、図6において、37は黄燐回収設備、38は燐回収装置、39は排ガス燃焼塔、40はガス排出管、41は排ガス洗浄塔、42は黄燐、43は冷却水である。黄燐回収設備37は、燐回収装置38と排ガス燃焼塔39と排ガス洗浄塔41とで構成されており、排ガス燃焼塔39は還元処理された後の排ガスを燃焼させる装置、排ガス洗浄塔41は燃焼させた排ガスを洗浄する装置である。燐回収装置38は、前述した図3の燐回収装置13と同一の機能を有しており、同一機能の部位は図3の燐回収装置13と同一符号で示し、その説明を省略する。
【0047】
発明例3では、発明例2と同様に、第1工程で磁力選別を実施し、第2工程で還元処理を実施し、この還元処理では、排ガス中の燐を凝集させて回収した。但し、発明例2では加熱室30の雰囲気圧力が1013hPaであったが、発明例3では400hPaで実施した。そして、第1工程で回収した磁着物及び第2工程で還元処理した後のスラグを製銑工程へリサイクルした。
【0048】
これに対して比較例1では、磁力選別のみを実施し、還元処理を実施せずに磁着物及び非磁着物を製銑工程にリサイクルした。比較例2は、磁力選別を実施せずに、還元処理のみを実施して、還元処理後のスラグを製銑工程にリサイクルした。
【0049】
発明例及び比較例ともに磁力選別後のスラグ組成、還元処理時の脱燐率、及びリサイクル実施時の溶銑の燐濃度、製鋼工程における生石灰使用量を調査した。結果は以下の通りであった。先ず、磁力選別処理後のスラグ組成を表6に示す。
【0050】
【表6】

【0051】
表6に示すように、磁力選別を実施することにより、非磁着物にP25 が4.5質量%程度濃縮され、逆に、鉄分は5質量%程度まで減少していた。一方、磁着物は、鉄分が30質量%程度に濃縮され、P25 は約1質量%まで減少した。
【0052】
次に、第2工程の還元処理における脱燐率の結果、製銑工程へのリサイクル後の結果及び黄燐回収率の結果を表7に示す。
【0053】
【表7】

【0054】
表7に示すように、予め磁力選別を実施した発明例1では、比較例2に比べて脱燐率が向上し、その結果、磁着物及びスラグの製銑工程へのリサイクル後の溶銑燐濃度も比較例1,2に対して低位となり、製鋼工程における生石灰原単位も比較例1,2に対して低位となった。また、発明例2では、発明例1の効果に加えて更に還元処理時に発生する排ガス中の燐を90%も回収することができ、産業用燐の原料として十分活用可能な品質の黄燐を得ることができた。更に、還元処理時に加熱室の雰囲気圧力を400hPaで実施した発明例3では、発明例2に比べて脱燐率が更に向上し、リサイクル後の溶銑中燐濃度もより低位になるとともに黄燐回収率も向上した。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】分離試験装置の概略図である。
【図2】スラグ還元実験装置の概略図である。
【図3】燐回収装置の概略図である。
【図4】実施例で用いた磁力選別装置の概略図である。
【図5】実施例で用いたスラグ還元処理装置の概略図である。
【図6】実施例で用いた黄燐回収設備の概略図である。
【符号の説明】
【0056】
1 磁力分離試験装置
2 電磁石
3合成樹脂管
4 磁着物
5 非磁着物
6 スラグ還元実験装置
7 加熱チャンバー
8 誘導コイル
9 黒鉛製ルツボ
10 ガス供給管
11 ガス排出管
12 ペレット
13 燐回収装置
14 凝縮塔
15 ガス導入管
16 ガス排出管
17 水噴霧装置
18 黄燐
19 冷却水
20 磁力選別装置
21 ホッパー
22 切り出し装置
23 ドラム式磁選機
24 ドラム
25 電磁石
26 コンベア
27 非磁着物
28 磁着物
29 スラグ還元処理装置
30 加熱室
31 スラグ装入口
32 スラグ排出口
33 ガス排出管
34 圧力調整弁
35 プロパンバーナー
36 ペレット
37 黄燐回収設備
38 燐回収装置
39 排ガス燃焼塔
40 ガス排出管
41 排ガス洗浄塔
42 黄燐
43 冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燐を含有する製鋼スラグを、冷却した後に磁力により磁着物と非磁着物とに分離して回収し、次いで、該非磁着物に還元剤を混合し、混合した後に加熱処理して、非磁着物に含有される燐酸化物を還元して気化除去し、燐酸化物を気化除去した後の非磁着物及び前記磁着物を製銑工程または製鋼工程にリサイクルすることを特徴とする、製鋼スラグの再利用方法。
【請求項2】
前記磁着物は、回収されたままの状態で鉄源としてリサイクルされることを特徴とする、請求項1に記載の製鋼スラグの再利用方法。
【請求項3】
前記非磁着物の加熱処理で発生する排ガスから黄燐を回収することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の製鋼スラグの再利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−204782(P2007−204782A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22384(P2006−22384)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】