説明

製鋼スラグの利用方法

【課 題】 フッ素含有量の高い製鋼スラグを高炉における製銑工程の副原料として使用することによって、フッ素含有量の低い高炉スラグを回収し、無害なものとして再利用する方法を提供する。
【解決手段】 フッ素含有量が0.10質量%以上の製鋼スラグを分別して回収し、次いで高炉に装入する副原料としてその製鋼スラグを使用する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フッ素含有量が0.10質量%以上の製鋼スラグを高炉における製銑工程の副原料として使用する製鋼スラグの利用方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、スラグ処理のコスト削減に加え、環境保護の意識の高まりから、スラグの発生量の低減技術およびスラグの再利用技術の重要性が増大している。たとえば、溶銑予備処理の導入によって発生するスラグ量を低減する技術や、製鋼工程あるいは製銑工程へリサイクルする技術が従来から知られている。
【0003】また炭酸ガスを用いて製鋼スラグを固化して、漁礁等に利用する(CAMP−ISIJ,vol.12 (1999), P141 )ことによって産業廃棄物となるスラグ量を削減する技術も提案されている。一方、環境汚染を防止する観点から、今まで規制されていなかった元素の有害性が議論されるようになってきた。特にフッ素は強い腐食性を有し、人体にも有害な元素であるため、漁礁、路盤材あるいは埋め立て材等の土木建築の用途に使用される材料のフッ素含有量は、0.10質量%以下であるべきとされている。
【0004】製鋼工程においては、滓化剤としてホタル石(すなわちCaF2 )を使用しているので、製鋼工程で発生する製鋼スラグにはフッ素が含まれる。フッ素を含有する製鋼スラグを土木建築の用途に使用すると、環境中に有害なフッ素が溶出あるいは気化等によって拡散する。溶出したフッ素を固定する方法として、CaO−Al23 −H2 O−F系化合物として固定する方法(CAMP−ISIJ,vol.12 (1999), P149 )が提案されている。しかし気化したフッ素を固定できず、環境へのフッ素の拡散は避けられなかった。
【0005】また特開平10-317070 号公報には、フッ素を 0.5〜4.0 質量%とFeOを5〜15質量%含有する製鋼スラグを全焼結原料に対して 0.1〜5.0 質量%配合して、耐還元粉化性を改善した焼結鉱の製造方法および使用方法が開示されている。この方法は、産業廃棄物低減の観点から高炉スラグ量を減少させながら、高炉スラグの流動性を改善することを目的としている。つまり、高炉スラグの再利用は考慮されておらず、高炉スラグ量を減少させることによって、産業廃棄物の低減を達成しようとするものである。
【0006】しかし上記の特開平10-317070 号公報に開示された方法では、高炉スラグ量が減少するので、高炉スラグ中のフッ素濃度は相対的に上昇する。つまり製鋼スラグのフッ素含有量は 0.5〜4.0 質量%であったのに対して、高炉スラグのフッ素含有量は 300〜4000ppm (すなわち0.03〜0.4 質量%)であるから、約10倍に希釈されたにすぎない。こうして得られた高炉スラグのフッ素含有量は最大4000ppm (すなわち 0.4質量%)であるため、この高炉スラグを土木建築の用途に使用すると、環境中にフッ素が溶出あるいは気化等によって拡散するおそれがあるという問題があった。
【0007】また上記の特開平10-317070 号公報の図1に示されているように、高炉スラグのフッ素含有量が1000ppm (すなわち 0.1質量%)以下の範囲では、高炉スラグの流動性が急激に変化する。そのため、高炉スラグのフッ素含有量を 1000ppm以下に抑えて操業すると、高炉の操業が不安定になるという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記のような問題を解消するべく、フッ素含有量の高い製鋼スラグを高炉に副原料として装入することによって、フッ素含有量の低い高炉スラグを回収し、無害なものとして再利用する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】一般に、高炉スラグの塩基度は下記の式で算出される。塩基度が高い高炉スラグは、粘性が低下し、流動性が向上する。しかし塩基度が高くなりすぎると、高炉スラグの粘性は増大して、流動性向上の効果は得られなくなる。
塩基度=CaO(質量%)/SiO2 (質量%)
高炉の操業において主原料として使用する鉄鉱石に含まれる脈石分のSiO2 に対するCaOの比率は低い。そこで、たとえばCaOを焼結原料に添加して焼結鉱を製造し、その焼結鉱を高炉に装入する等の方法を用いて、CaOを高炉に装入し、高炉スラグの塩基度を増加させる。こうして高炉スラグが適正な塩基度を有するように調整して、粘性が低く流動性の高い高炉スラグを得る必要がある。
【0010】高炉スラグの塩基度を調整するためのCaO源として、通常、焼石灰や石灰石などを使用している。一方、製鋼スラグはCaO含有量が高いので、高炉の操業で使用される焼石灰や石灰石の代替品として製鋼スラグを利用できる。本発明は、フッ素含有量が0.10質量%以上の製鋼スラグを、高炉における製銑工程の副原料として使用する製鋼スラグの利用方法である。
【0011】前記した発明においては、第1の好適態様として、製鋼スラグとして、溶銑脱珪スラグ、溶銑脱硫スラグ、溶銑脱燐スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ、2次精錬スラグのうちの1種または2種以上を使用することが好ましい。また第2の好適態様として、製鋼スラグを添加して焼結鉱および/またはペレットを製造し、その焼結鉱および/またはペレットを前記高炉に装入することが好ましい。
【0012】また第3の好適態様として、製鋼スラグを、羽口および/または炉頂から高炉に装入することが好ましい。また第4の好適態様として、高炉における製銑工程で発生するフッ素含有量が0.10質量%以下の高炉スラグを回収することが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】フッ素含有量0.10質量%以上の製鋼スラグを高炉における製銑工程の副原料として使用する場合は、高炉スラグの流動性を維持する上で適正な量を使用する。すなわち副原料として高炉に装入された製鋼スラグ中のフッ素が、高炉内で鉄鉱石の脈石分の Al23 ,SiO2 あるいは焼石灰や石灰石のCaOによって希釈され、その結果、生成する高炉スラグのフッ素含有量が0.10質量%未満となるように製鋼スラグの使用量を決定する。
【0014】本発明では製鋼工程で発生する製鋼スラグを、フッ素含有量が0.10質量%以上の製鋼スラグと、フッ素含有量が0.10質量%未満の製鋼スラグとに分別して回収する。製鉄所で生成する製鋼スラグの内、フッ素を 0.1質量%以上含有する可能性があるものとしては、溶銑脱珪スラグ,溶銑脱硫スラグ,溶銑脱燐スラグ,転炉スラグ,電気炉スラグ,2次精錬スラグ等がある。しかし、これらの全てのスラグがフッ素を 0.1質量%以上含有するわけではないので、ロット毎にフッ素含有量を測定して分別する。
【0015】フッ素含有量が0.10質量%未満の製鋼スラグは、土木建築の用途に使用してもフッ素が環境中に溶出あるいは気化等によって拡散するという問題はない。よってフッ素含有量が0.10質量%未満の製鋼スラグは、そのままエージング処理あるいは固化処理を行なって使用すれば良い。しかしフッ素含有量が0.10質量%以上の製鋼スラグは、フッ素が溶出あるいは気化等によって環境中に拡散するので土木建築の用途に使用できない。そこで本発明では、フッ素含有量が0.10質量%以上の製鋼スラグを分別して回収し、これを高炉における製銑工程の副原料として使用する。
【0016】前述の分別して回収されたフッ素含有量0.10質量%以上の製鋼スラグを、高炉に装入する副原料として使用する際には、焼結原料あるいはペレット原料に製鋼スラグを添加して、焼結鉱あるいはペレットを製造し、その焼結鉱あるいはペレットを炉頂から高炉に装入する。またフッ素含有量0.10質量%以上の製鋼スラグを焼結鉱あるいはペレットに添加せず、製鋼スラグを高炉の羽口あるいは炉頂から装入しても良い。
【0017】
【実施例】トピードカーにてCaO−SiO2 −FeO系フラックスを用いて溶銑の脱燐処理を行ない、さらに溶銑鍋にてCaO−CaF2 系フラックスを用いて脱硫処理を行なった。生成した脱燐スラグおよび脱硫スラグのフッ素含有量を測定した。0.10質量%以上含有する製鋼スラグを分別して回収し、焼結原料に配合して焼結鉱を製造した。その焼結鉱を高炉に装入して、生成した高炉スラグのフッ素含有量を測定した。その結果を表1に示す。
【0018】また、ホタル石(すなわちCaF2 )を用いて脱燐処理を行なった場合の結果、および製鋼スラグを高炉炉頂から他の原料とともに投入した場合の結果も併せて表1に示す。
【0019】
【表1】


【0020】発明例1は、CaO−SiO2 −FeO系フラックスを用いて溶銑の脱燐処理を行ない、さらにCaO−CaF2 系フラックスを用いて脱硫処理を行なった例である。脱燐スラグと脱硫スラグを分離して回収し、脱燐スラグと脱硫スラグのフッ素含有量をそれぞれ測定した。脱燐スラグのフッ素含有量は0.06質量%であるから、そのままエージング処理あるいは固化処理を行なって、土木建築の用途に使用しても問題はない。
【0021】脱硫スラグのフッ素含有量は2.50質量%(すなわち0.10質量%以上)であるから、この脱硫スラグを焼結原料に配合して焼結鉱を製造し、その焼結鉱を高炉に装入した。こうして生成した高炉スラグのフッ素含有量は0.09質量%である。したがって、この高炉スラグを土木建築の用途に使用しても問題はない。なお脱硫スラグのフッ素含有量は2.50質量%であるのに対して、高炉スラグのフッ素含有量は0.09質量%であり、約25倍に希釈されている。
【0022】発明例2は、発明例1と同様に、CaO−SiO2 −FeO系フラックスを用いて溶銑の脱燐処理を行ない、さらにCaO−CaF2 系フラックスを用いて脱硫処理を行なった例である。脱燐スラグと脱硫スラグを分離せず、両スラグを混合して回収した。この混合スラグのフッ素含有量は0.25質量%(すなわち0.10質量%以上)であるから、この混合スラグを焼結原料に配合して焼結鉱を製造し、その焼結鉱を高炉に装入した。こうして生成した高炉スラグのフッ素含有量は0.08質量%であるから、この高炉スラグを土木建築の用途に使用しても問題はない。
【0023】なお脱燐スラグと脱硫スラグを回収する際に、両スラグを混合することによって、脱硫スラグ中のフッ素は希釈される。その結果、混合スラグのフッ素含有量は0.25質量%であった。高炉スラグのフッ素含有量は0.08質量%であるから、見掛け上約3倍に希釈されたことになる。発明例3は、ホタル石(すなわちCaF2 )を用いて溶銑の脱燐処理を行なった例である。この脱燐スラグのフッ素含有量は0.40質量%(すなわち0.10質量%以上)であるから、この脱燐スラグを焼結原料に配合して焼結鉱を製造し、その焼結鉱を高炉に装入した。こうして生成した高炉スラグのフッ素含有量は0.07質量%であるから、この高炉スラグを土木建築の用途に使用しても問題はない。
【0024】発明例4は、発明例2の混合スラグを高炉炉頂から他の高炉原料とともに投入した例である。こうして生成した高炉スラグのフッ素含有量は0.08質量%であるから、この高炉スラグを土木建築の用途に使用しても問題はない。以上のように、製鋼スラグのフッ素含有量を測定し、フッ素含有量が0.10質量%以上の製鋼スラグを分別して回収し、その0.10質量%以上のフッ素を含有する製鋼スラグを焼結鉱に添加するなどして、高炉に装入する副原料として使用すると、生成する高炉スラグのフッ素含有量は0.10質量%未満となる。したがって、この高炉スラグを土木建築の用途に使用しても、フッ素が環境中に溶出あるいは気化等によって拡散することはない。
【0025】フッ素を0.10質量%以上含有する製鋼スラグは、全製鋼スラグ量の約60%を占める。この0.10質量%以上のフッ素を含有する製鋼スラグを、高炉における製銑工程の副原料として使用することによって、フッ素を環境中に溶出あるいは気化等によって拡散させずに製鋼スラグを再利用できる上に、生成する高炉スラグを土木建築の用途に使用できる。
【0026】
【発明の効果】本発明では、フッ素含有量が0.10質量%以上の製鋼スラグを高炉における製銑工程の副原料として使用することによって、産業廃棄物となる製鋼スラグ量を低減するとともに、高炉操業の原料コストを削減できる。また、生成した高炉スラグのフッ素含有量は0.10質量%未満であるから、この高炉スラグを土木建築の用途に使用しても問題はない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フッ素含有量が0.10質量%以上の製鋼スラグを、高炉における製銑工程の副原料として使用することを特徴とする製鋼スラグの利用方法。
【請求項2】 前記製鋼スラグとして、溶銑脱珪スラグ、溶銑脱硫スラグ、溶銑脱燐スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ、2次精錬スラグのうちの1種または2種以上を使用することを特徴とする請求項1に記載の製鋼スラグの利用方法。
【請求項3】 前記製鋼スラグを添加して焼結鉱および/またはペレットを製造し、前記焼結鉱および/またはペレットを前記高炉に装入することを特徴とする請求項1または2に記載の製鋼スラグの利用方法。
【請求項4】 前記製鋼スラグを、羽口および/または炉頂から前記高炉に装入することを特徴とする請求項1、2または3に記載の製鋼スラグの利用方法。
【請求項5】 前記高炉における製銑工程で発生するフッ素含有量が0.10質量%以下の高炉スラグを回収することを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の製鋼スラグの利用方法。

【公開番号】特開2001−131615(P2001−131615A)
【公開日】平成13年5月15日(2001.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−310583
【出願日】平成11年11月1日(1999.11.1)
【出願人】(000001258)川崎製鉄株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】