説明

製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法

【課題】フッ素を含有する製鋼スラグから水中へのフッ素溶出を抑制して、土壌環境基準に準拠した低フッ素溶出の製鋼スラグを製造する。
【解決手段】フッ素を含有する製鋼スラグを常温まで冷却した後、該製鋼スラグに燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加する。この水溶液中には、水溶カルシウムイオンも存在させる。この水溶液中で、燐酸イオン、カルシウムイオン及びフッ素を反応させることより、フッ素を含有するアパタイト系化合物を形成して、これにフッ素を固定して不溶出化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素を含有する製鋼スラグから水中へのフッ素溶出を抑制して、土壌環境基準に準拠した低フッ素溶出の製鋼スラグを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼転炉や製鋼電炉などから発生する製鋼スラグは、酸化珪素、酸化カルシウム、酸化鉄、酸化マグネシウム等を含むものであり、炉内では、溶融状態又は溶融物と固体が混合した状態となっている。この製鋼スラグは、冷却後に粉と塊の混合物となる。その物理的な性質や化学的な性質から、肥料、地盤改良材、セメント原料、土木資材などとして利用されている。
【0003】
製鋼スラグは、製鋼転炉から排出されるもの(転炉スラグ)、製鋼電炉から排出されるもの(電炉スラグ)、溶鋼鍋内の溶鋼上に存在するもの(溶鋼鍋内で精錬反応を行わない場合のものと、溶鋼精錬炉(レードルファーネス、粉体インジェクション、真空脱ガス炉など)で精錬する場合のものがある:溶鋼鍋スラグ)、連続鋳造機のタンディッシュ内に残留するもの(タンディッシュスラグ)、溶銑精錬時に発生するもの(溶銑スラグ)などがある。
【0004】
各々、化学成分の範囲が異なるが、一般的には、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化燐、酸化鉄、酸化マンガンを含み、また、微量元素として、酸化チタン、酸化クロム、酸化ニッケル、硫黄などを含む。
【0005】
高純度鋼や特殊合金鋼などを生産する際の特殊な処理を行う製鋼工程では、脱燐反応・脱硫反応を促進する添加物、スラグ融点を低下させる溶解促進剤、また、溶解し難い酸化物をスラグに溶解させるための溶媒として蛍石(フッ化カルシウム)が添加される場合がある。
【0006】
特に、硫黄や燐の含有率の低い鋼を製造する場合や、溶鋼鍋内の精錬を行う場合に、蛍石が添加される。この際、フッ素は、酸素などの陰イオンと置換して、製鋼スラグを構成する鉱物組成中に取り込まれる。このように、製鋼工程での製造方法によっては、製鋼スラグが、フッ素を含有する状態となる。
【0007】
このように、製鋼工程で蛍石を使用した場合は、製鋼スラグにフッ素が含有されてしまい、このフッ素が、製鋼スラグから溶出し易い場合がある。因みに、通常の製鋼スラグでは、フッ素の溶出が0.8mg/リットル以下であるが、フッ素含有製鋼スラグからの溶出フッ素濃度は1〜6mg/リットル程度になることもある。
【0008】
2001年に、フッ素溶出量の規制が土壌環境基準に追加されたことから、土壌環境中に製鋼スラグを使用する場合には、製鋼スラグからのフッ素溶出量を0.8mg/リットル以下とする必要がある。したがって、この目的から、従来からも、製鋼スラグからフッ素が溶出することを抑制する技術が提案されてきた。
【0009】
例えば、特許文献1には、鉄鋼スラグに水溶性カルシウム化合物(CaO、Ca(OH)2、CaSO4)を混合するフッ素溶出抑制方法が提案されている。この方法は、水中カルシウムイオン濃度を高めることにより、CaFの溶解を、なるべく抑制する方法である。
【0010】
また、特許文献2には、ステンレス鋼や高ニッケル鋼を製造する際の製鋼スラグに燐化合物を添加して、添加後に温熱水処理をすることで、フッ素アパタイトの形としてフッ素溶出を抑制する方法が提案されている。
【0011】
一方、製鋼スラグ中のフッ素の溶出抑制方法ではないが、特許文献3には、フッ素含有固体廃棄物に燐酸化合物とカルシウム化合物を添加して混練する方法が記載されている。
【0012】
【特許文献1】特開2005−239509号公報
【特許文献2】特開2003−226906号公報
【特許文献3】特開2002−331272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上述べたように、従来技術においても、製鋼スラグからフッ素が溶出することを抑制することがなされてきた。しかし、これらの従来技術には、下記に述べるように、技術的・経済的な問題点があった。
【0014】
まず、特許文献1に記載されている方法は、カルシウム化合物の添加によるフッ素の溶出抑制方法であるが、この方法で、水中カルシウムイオン濃度を増加させた場合には、処理後、当初は、カルシウムとフッ素が化合して、フッ化カルシウムを形成して、フッ素を固定化する。
【0015】
しかし、この方法では、フッ化カルシウムを形成するので、処理後の短い時間は、水中のフッ素濃度が低下するものの、もともとの製鋼スラグの溶出フッ素濃度が高い場合は、時間経過とともに、1〜3mg/リットルまで戻ってしまう問題があった。したがって、この方法では、長期安定的にフッ素の溶出抑制をすることは困難であった。
【0016】
また、特許文献2に記載されている方法は、フッ素を、フルオロアパタイトで固定化するものであるが、反応を確実にするために、加熱処理を必要とする。したがって、エネルギー効率が低く、処理費用が高い欠点があった。また、上記方法は、ステンレス鋼、Fe−Ni合金鋼やNi基合金を電炉で製造する際の生成スラグから、フッ素溶出を抑制する方法である。
【0017】
その具体的な技術内容は、スラグの化学組成と燐酸添加量の関係を定量的に示すものである。この種のスラグは、特許文献2の段落〔0028〕及び〔0029〕の表1に記載されているように、塩基度((CaO質量%)/(SiO2質量%))が、主として2〜3、最大でも3.5と、比較的低塩基度のスラグである。また、特殊鋼成分起因のクロム酸化物やニッケル酸化物を、ある程度以上含むものである。
【0018】
ステンレス鋼の製鋼スラグは、例えば、日本鉄鋼協会編の鉄鋼便覧第3版II製銑・製鋼分冊のp696の図13・79及びp699の図13・85に記載されているように、酸化鉄含有率が3質量%以下、酸化クロム含有率が3.5質量%以上のものである。普通鋼の製鋼スラグと比較すると、大幅に酸化鉄比率が低く、酸化クロム比率が高い。
【0019】
酸化鉄と酸化クロムは、燐酸イオンとの相互作用がある。特に、酸化クロムは、燐酸イオンの反応と競合するクロム酸イオンを形成するため、その製鋼スラグ中濃度が異なると、アパタイト化合物の生成条件が異なることになる。また、酸化鉄についても、水中の鉄イオンと燐酸イオンとの反応が、アパタイト化合物の生成に影響する。
【0020】
このように、特許文献2の処理技術は、一般的な製鋼スラグとは化学組成が異なり、フッ素溶出を抑制する際の条件も異なることから、普通鋼を製造する際に発生する一般的な製鋼スラグに適用できる技術ではなかった。
【0021】
また、特許文献3に記載されている方法は、フッ素を含有している廃棄物に燐酸とカルシウムイオンを反応させて、アパタイト系無機物を形成し、これに、フッ素を取り込んで、フッ素溶出を抑制する方法であるが、これは、一般的な廃棄物処理技術である。燐酸の添加量も、0.5〜20質量%(対廃棄物)にする条件しか規定されておらず、経済的な添加量についての技術が確立されていなかった。
【0022】
さらに、この技術を製鋼スラグのような高塩基性の物質へ適用することが考えられておらず、製鋼スラグ中フッ素を、適切かつ経済的に溶出抑制する方法は確立されていなかった。つまり、製鋼スラグは、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素などを含み、カルシウムイオンやマグネシウムイオン、アルミン酸イオンなどを水中に溶出する物質であり、その溶出pHは10以上となる。その結果、一般的な物質のフッ素溶出とは、水性化学反応性に差がある。
【0023】
したがって、製鋼スラグのフッ素溶出を抑制する場合には、通常物質のフッ素溶出抑制方法とは異なる処理条件が必要であるが、これを考慮した方法は確立されていなかった。この結果、処理が不完全で、フッ素溶出を効果的に抑制できないことや、処理剤量が多すぎて、処理コストが多くかかるなどの問題があった。
【0024】
以上述べたように、いずれの従来技術においても、フッ素を含有する製鋼スラグのフッ素溶出を、効果的・経済的に抑制する方法は存在していなかった。したがって、これらの従来技術の欠点を克服して、安価な処理で、確実にフッ素溶出を抑制するための新しい技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、これらの従来技術が有する問題点を解決するためになされた発明であり、その要旨とするところは、以下の(1)〜(12)に示す通りである。
【0026】
(1)フッ素を含有する製鋼スラグを常温まで冷却して固化した後に、該製鋼スラグに燐酸又は燐酸塩を添加する。この場合に、製鋼スラグとしては、水に浸した際の溶出pHが11以上のものを使用する。この処理には、燐酸イオンを含んだ水溶液を用いて、その水溶液中には、製鋼スラグから溶出する水溶カルシウムイオンも存在させる。この水溶液中で、燐酸イオン、カルシウムイオン及びフッ素を反応させることより、フッ素を含有するアパタイト系化合物を形成して、これにフッ素を固定して不溶出化する。
【0027】
(2)フッ素を含有する製鋼スラグを常温まで冷却して固化した後に、該製鋼スラグに燐酸又は燐酸塩を添加する。この場合に、製鋼スラグとしては、水に浸した際の溶出pHが11未満のものを使用する。この処理には、燐酸イオンを含んだ水溶液を用いて、その水溶液中に、カルシウム化合物を添加して、該カルシウム化合物と製鋼スラグから、水溶カルシウムイオンを溶出させる。この水溶液中で、燐酸イオン、カルシウムイオン及びフッ素イオンを反応させることより、フッ素を含有するアパタイト系化合物を形成して、これにフッ素を固定して不溶出化する。
【0028】
(3)前記(1)又は(2)の方法において、水溶カルシウムイオンが水中に存在する量を(酸化カルシウム換算質量/燐酸質量)の比率で0.95倍以上とする。
【0029】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかの方法において、製鋼スラグに含まれるフリーCaOと、添加するカルシウムイオン源の合計の製鋼スラグ量に対する質量比率を2質量%(CaO換算)以上として、該製鋼スラグに、燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加して、フッ素を不溶出化する。
【0030】
(5)前記(1)〜(3)のいずれかの方法において、製鋼スラグに含まれるフリーCaOの製鋼スラグ量に対する質量比率が2質量%以上の製鋼スラグに、燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加して、フッ素を不溶出化する。
【0031】
(6)前記(1)〜(3)のいずれかの方法において、塩基性の高い製鋼スラグを使用する。製鋼スラグのうち、転炉スラグ又は電炉スラグを使用する際には、〔(CaO質量%)+(MgO質量%)〕/(SiO2質量%)を塩基性の指標として用い、この値が3.7以上の製鋼スラグに、燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加して、フッ素を不溶出化する。
【0032】
(7)前記(1)〜(3)のいずれかの方法において、塩基性の高い製鋼スラグを使用する。溶鋼鍋内から排出された製鋼スラグ、又は、連続鋳造装置のタンディッシュから排出された製鋼スラグを用いる場合は、製鋼スラグとして、〔(CaO質量%)+(Al23質量%)〕/(SiO2質量%)を塩基性の指標として、この値が4以上である製鋼スラグを用いて、該製鋼スラグに、燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加して、フッ素を不溶出化する。
【0033】
(8)前記(1)〜(7)のいずれかの方法において、製鋼スラグが浸漬している水に溶出しているフッ素濃度を、予め測定する。このフッ素濃度と水量から計算されるフッ素総量をフルオロアパタイトにするために必要な燐酸量の20倍以上の燐酸を含む、酸化燐含有化合物を添加して、水のフッ素濃度を0.8mg/リットル以下にする。
【0034】
(9)前記(1)〜(7)のいずれかの方法において、まず、予め実験によって、フッ素の平衡濃度値と製鋼スラグに添加すべき最低燐酸量との関係を求めておく。次に、製鋼スラグから水中に溶出して達するフッ素の平衡濃度値を、予め測定する。また、この両者を基に、添加すべき最低燐酸量を決定する。最低燐酸量よりも多い燐酸を含む水溶液を製鋼スラグに散布して、水溶液中及び製鋼スラグ表面で、燐酸、カルシウムイオン及びフッ素を反応させることで、フッ素溶出を抑制する。
【0035】
(10)前記(1)〜(7)のいずれかの方法において、まず、予め実験によって、フッ素の平衡濃度値と製鋼スラグに添加すべき最低燐酸量との関係を求めておく。次に、製鋼スラグから水中に溶出して達するフッ素の平衡濃度値とpHを、予め測定する。また、この両者を基に、添加すべき最低燐酸量を決定する。最低燐酸量よりも多い燐酸を含む水溶液を製鋼スラグに散布し、さらに、カルシウム化合物を添加して、水溶液中及び製鋼スラグ表面で、燐酸、カルシウムイオン及びフッ素を反応させることで、フッ素溶出を抑制する。
【0036】
(11)前記(9)の方法において、まず、製鋼スラグから溶出して達するフッ素の平衡濃度値とpHを測定する。測定されたpHが11以上の場合は、フッ素の平衡濃度値と製鋼スラグに添加すべき最低燐酸量との関係として、下記式(1)を用いる。
(対製鋼スラグ燐酸添加比率(質量%))=0.037(フッ素平衡濃度値(mg/l))2+0.079(フッ素平衡濃度値(mg/l))−0.0866‥‥(1)
平衡濃度値を(1)式に代入することで、添加すべき最低燐酸量を決定する。最低燐酸量の1倍以上の燐酸量を含む水溶液を製鋼スラグに散布し、水溶液中及び製鋼スラグ表面で、燐酸、カルシウムイオン及びフッ素を反応させて、フッ素溶出を抑制し、到達フッ素濃度を0.8mg/リットル以下にする。
【0037】
(12)前記(9)又は(10)の方法において、燐酸又は燐酸塩を含む水溶液を加えた後、2日間以上、製鋼スラグの付着水分を3質量%以上に保持する。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、フッ素溶出濃度が0.8mg/リットル以上の製鋼スラグのフッ素溶出を抑制することができる。この結果、従来、土壌に埋め込まれる用途に使用することが制限されていた、この種の製鋼スラグを、地盤改良用土砂代替品、砂杭材料、路盤材、重機侵入路の盛り土などの土木用途一般に使用することができる。また、本発明を実施することにより、少ない薬剤で処理することができるので、安価かつ安定的に、製鋼スラグのフッ素溶出を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明に用いる製鋼スラグは、普通鋼を製造する際に発生するものである。製鋼スラグには、転炉スラグ、電炉スラグ、溶鋼鍋スラグ、タンディッシュスラグ、溶銑スラグなどがある。一般的に、これらのスラグは、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化燐、酸化鉄、酸化マンガンを含み、また、微量元素として、酸化チタン、酸化クロム、酸化ニオブ、硫黄などを含む。
【0040】
転炉スラグは、酸化珪素を10〜25質量%、酸化カルシウムを35〜50質量%、酸化マグネシウムを2〜8質量%、酸化鉄を、T.Fe換算で、10〜25質量%程度含む。電炉スラグは、酸化珪素を10〜25質量%、酸化カルシウムを25〜40質量%、酸化マグネシウムを1〜8質量%、酸化鉄を、T.Fe換算で、5〜15質量%程度含む。
【0041】
溶鋼鍋スラグとタンディッシュスラグは、化学的に類似なものであり、酸化珪素を8〜25質量%、酸化カルシウムを30〜45質量%、酸化マグネシウムを1〜4質量%、酸化アルミニウムを10〜45質量%程度含む。溶銑スラグは、酸化珪素を10〜25質量%、酸化カルシウムを25〜40質量%、酸化鉄を、T.Fe換算で、2〜5質量%程度含む。
【0042】
なお、ここで普通鋼とは、ステンレス鋼(ニッケル、クロムを多く含む)、工具鋼(モリブデン、クロム等を多く含む)のように、鉄に近い性質の金属(ニッケル、クロム)を合計で5%以上含む鋼を除くものである。その製鋼スラグ成分も異なり、例えば、ステンレス鋼の製鋼スラグは、酸化鉄含有率が、T.Fe換算で、3質量%以下、酸化クロム含有率が3.5質量%以上であり、普通鋼の製鋼スラグと比較すると、大幅に酸化鉄比率が低く、酸化クロム比率が高いものである。
【0043】
本発明においては、酸化クロムが、燐酸イオンの反応と競合するクロム酸イオンを形成するため、その製鋼スラグ中濃度が異なると、アパタイト化合物の生成条件が大きく異なることが判明した。また、酸化鉄についても、水中の鉄イオンと燐酸イオンとの反応が、アパタイト化合物の生成に影響することが判明した。このことから、特に、酸化クロム濃度が高い場合は、本発明の処理条件と必ずしも一致しないことがある。
【0044】
製鋼工程では、脱燐反応・脱硫反応を促進する添加物、スラグ融点を低下させる溶解促進剤、また、溶解し難い酸化物をスラグに溶解させるための溶媒として蛍石(フッ化カルシウム)が用いられる場合がある。特に、硫黄や燐の含有率の低い鋼を製造する場合や、溶鋼鍋内で精錬を行う場合に添加される。このフッ素は、酸素などの陰イオンと置換して、製鋼スラグを構成する鉱物組成中に取り込まれる。場合により、製鋼スラグ内に含有された浸漬水中に、フッ素0.8mg/リットル以上の濃度まで溶出することがある。
【0045】
本発明では、このような、フッ素溶出が0.8mg/リットル以上の製鋼スラグを用いる。なお、溶融状態又は固化してからの製鋼スラグ成分を化学的に分析しておく。まず、製鋼スラグを常温(80℃程度以下)として、これを、30mm以下のサイズまで破砕・分級する。この操作により、製鋼スラグの50%以上は5mm以下となる。
【0046】
この製鋼スラグの一部をサンプリングして、JIS規格K0058に準拠する方法で水に浸して、フッ素溶出濃度を測定する。ただし、迅速な分析が必要な場合には、粉砕した製鋼スラグを5〜10倍質量の水に浸漬して、この水のフッ素濃度を、イオンメーターや簡易比色分析キットや比色計等を使用して測定する。
【0047】
また、この水のpHも計測するとよい。水への溶出pHの測定方法としては、幾つかある。簡便には、製鋼スラグを、そのまま2〜10倍程度の質量の水に浸漬し、十分な時間が経ってから、pHメーターなどで測定する方法がある。しかし、正確を期する場合は、平成3年の環境省告示46号付表に記載された方法で作成された検液のpH値を測定するのがよい。
【0048】
なお、処理効率をいっそう向上させたい場合は、この製鋼スラグのフリーCaO比率を測定する。フリーCaO比率とは、常温の製鋼スラグに含まれる酸化カルシウムのうち、他の鉱物組成に含まれずに存在する酸化カルシウム又は水酸化カルシウムの形態であるものの比率(CaO換算)である。
【0049】
製鋼スラグのフッ素溶出を抑制するために、燐酸イオンとカルシウムイオンを含有する水で製鋼スラグを処理する。なお、ここで、添加する燐酸イオンの形態は、燐酸又は燐酸塩がよい。ここで、燐酸塩とは、燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、燐酸アンモニウムなどの燐酸と正イオンとの化合物であり、燐酸を含む重合物も含む。
【0050】
製鋼スラグのフッ素の溶出を抑制するために必要な燐酸量は、原理的には、製鋼スラグが含有するフッ素量に対応する量である。この場合の量は、カルシウムイオン、燐酸イオン及びフッ素イオンからフルオロアパタイトを形成する反応式(1)にしたがって決まる量である。
5Ca2++3PO43++F = Ca5(PO43F ‥‥反応式(1)
【0051】
ただし、本発明では、反応式(1)で生成したフルオロアパタイト中にフッ素イオンが安定に存在するための条件は、水酸基を持つ分子:Ca5(PO43OHと共存することである。
【0052】
一般的には、フッ素基を持つ分子と水酸基を持つ分子が、最大で1対1前後となることもある。この条件を満足するような燐酸添加比率は、製鋼スラグのフッ素含有率(質量%)の30倍程度となる。これは、フッ素含有率0.5質量%の場合において、燐酸添加率15質量%以上と消石灰添加率15質量%以上と、非常に大量になる欠点がある。
【0053】
そこで、本発明者らは、製鋼スラグからの溶出フッ素量と添加すべき燐酸量(フッ素0.8mg/リット以下までの低下に必要な量)の関係を調査した。この結果、まず、溶出フッ素量は、製鋼スラグ含有フッ素量の数%から30%程度であることが判明した。また、析出する結晶のCa5(PO43FとCa5(PO43OHの比率を調査したところ、この比率は、水のpHに影響されていることが判明した。
【0054】
さらに、高pHの場合は、Ca5(PO43Fがより安定化し易いことが判明した。この結果、高pH条件では、燐酸とカルシウムイオン源の添加量を抑制することができる。さらに、高pH条件では、水中のカルシウムイオン存在濃度が増加する効果もある。
【0055】
pHが11以上、さらに望ましくは、pHが12以上であれば、フッ素溶出抑制を安定して行えるだけの水溶カルシウムイオンが安定して存在する。したがって、本発明におけるよりよい処理条件は、処理時の燐酸水溶液のpHを11以上、望ましくは、12以上とすることである。なお、詳細理由は、後述する。
【0056】
この条件では、添加すべき燐酸質量は、水に溶出して到達するフッ素濃度の測定値の量をフルオロアパタイトにするための化学量論的な量(必要燐酸量)の比率に対して20倍以上がよいことが判明した。つまり、製鋼スラグが水に浸漬している状態では、溶出フッ素に対する必要燐酸量の18倍の燐酸を添加すればよいことになる。
【0057】
一方、これよりも低pHの条件では、添加すべき燐酸質量は、水に溶出して到達するフッ素濃度の測定値に対して20倍以上が必要である。したがって、全ての条件で、水中フッ素濃度を0.8mg/リットル以下とするには、必要燐酸量の20倍に相当する燐酸を添加すればよい。
【0058】
また、水中に存在すべきカルシウムイオンの量は、フルオロアパタイトの形成に際しては、過剰に存在していることがよく、反応式(1)のマスバランスの化学当量に相当する以上のカルシウムイオンが存在していることが必要である。つまり、燐酸のモル数の5/3倍以上が必要であり、これは、分子量で計算すると、燐酸の0.95倍(酸化カルシウム換算)以上の質量となる。
【0059】
このような高pH条件では、水中のカルシウムイオン濃度が高いことが、フルオロアパタイトの生成に好条件である。図2に示すように、pH11未満では、水中のカルシウムイオン濃度が低位であるのに対して、pH11以上では、カルシウムイオン濃度が増加する。このような高カルシウムイオン濃度の水中では、燐酸とカルシウムイオンの反応が迅速であり、比較的短時間(数時間〜2日程度)でアパタイト系化合物の析出が完了する。
【0060】
したがって、pHが11以上であれば、フッ素溶出抑制が短時間で完了する。また、pHが12以上である場合は、カルシウムイオン濃度は150mg/リットル以上となり、反応速度は、さらに良好となる。このpHとカルシウムイオンとの関係から、pHが11以上であれば、追加のカルシウムイオン源は、必ずしも必要でない。
【0061】
一方、pHが11未満であれば、水中に、追加的にカルシウムイオンを加える必要がある。この際には、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム等の水溶性カルシウム化合物を添加することで、pH11以上の場合と同様の反応条件を作ることができる。
【0062】
次に、本発明者らは、燐酸とカルシウムイオンを含む水溶液を製鋼スラグに散布して、フッ素溶出抑制を行なう実験を行い、フッ素溶出抑制に必要な燐酸添加量を決定した。この実験では、燐酸とカルシウムイオン添加前のフッ素溶出濃度と、燐酸とカルシウムイオン添加後にフッ素溶出値が0.8mg/リットルとなる時の燐酸添加比率(製鋼スラグに対する質量比率)を調査した。
【0063】
なお、実験の条件は、溶出水のpHが11〜13の条件であった。この結果は、図1に記載されるような関係となる。この関係を重回帰して、数式でまとめると、
(対製鋼スラグ燐酸添加比率(質量%))
=0.037(F溶出(mg/l))2+0.079(F溶出(mg/l))
−0.0866 ‥‥(1)式
となる。したがって、(1)式で計算される添加量以上の燐酸を添加すれば、0.8mg/リットルまで、フッ素溶出を抑制できる。
【0064】
また、(1)式で求められる量に対して、4倍まで燐酸添加量を増加させれば、フッ素溶出が0.3〜0.5mg/リットルとなる。また、(1)式の10倍の燐酸添加量であれば、フッ素溶出を0.3mg/リットル以下にできる。したがって、燐酸添加量を(1)式で求められる量の1倍以上とすることがよい。
【0065】
しかし、この範囲の添加量以上に、大量に、燐酸とカルシウムイオンを添加しても、フッ素溶出濃度の低下が少ないことから、特殊な場合を除いては、大量に添加することは望ましくない。
【0066】
次に、カルシウムイオンの添加方法について説明する。この水溶液中には、カルシウムイオンを存在させる。前述したように、水に溶解しているカルシウムイオンの量は、燐酸質量の0.95倍(CaO換算)以上がよい。カルシウムイオンの量の上限に、制約はないが、一般的には、燐酸量の2倍以内がよい。カルシウムイオンは、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウムなどの水溶性のカルシウム化合物を用いる。
【0067】
本発明のよりよい条件である高pHでの処理を実施するためには、水酸化カルシウムか酸化カルシウムを用いることがよい。さらに、コストの面などからも、これらを使用することがよい。
【0068】
本発明者らは、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムを用いて、カルシウムイオンを溶解させる場合は、図2に示すような、pHとカルシウムイオン溶出濃度の関係があることを解明した。一方、本発明が対象とする高アルカリの製鋼スラグの溶出フッ素濃度は、0.8〜8mg/リットル程度である。なぜならば、8mg/リットルは、フッ化カルシウムの(Ca2++2F-→CaF)平衡値であり、この値がフリーCaOを含む高アルカリ製鋼スラグのフッ素溶出上限値だからである。
【0069】
この両方の関係を結びつければ、例えば、フッ素溶出濃度が1mg/リットルの場合のカルシウムイオン必要量(Ca5(PO43Fを形成するための最低量)は、10mg/リットル(カルシウムイオン質量換算)であり、また、8mg/リットルのフッ素濃度の場合は、カルシウムイオン必要量は、約100mg/リットルとなる。
【0070】
水酸基を持つ分子の形成比率等を考慮すると、カルシウムイオン濃度は、さらに高いものが必要になる。そこで、実験を行った結果、燐酸を添加した際に、カルシウムイオンが豊富に存在する場合は、添加した燐酸イオンとカルシウムイオンが迅速に反応して、早急にフッ素を固定化することが判明した。
【0071】
100mg/リットル程度以上のカルシウムイオンが存在し、かつ、未溶解の水酸化カルシウム等が水中に存在している状態で、水に燐酸を添加すると、燐酸がカルシウムイオンと迅速に反応するとともに、反応により固体中に固定されて減少した水中カルシウムイオンを補うために、水酸化カルシウム等が溶解し、順次、アパタイトの生成が継続する。
【0072】
この結果、反応前の水中カルシウムイオンが100mg/リットル程度以上あり、かつ、水中に水酸化カルシウム等が存在する条件であれば、反応速度が速いため、製鋼スラグ共存下の条件では、pHを11以上にすればよく、また、11.5以上であれば、さらに確実な反応を期待することができる。
【0073】
製鋼スラグの塩基性が高くなると、浸漬水のpHが高くなり、かつ、製鋼スラグからのカルシウムイオン溶出量が多くなる。したがって、フッ素の溶出抑制反応を安定化させる効果と、添加する酸化カルシウムや水酸化カルシウムの量が減少する効果とを、同時に得ることができる。したがって、高塩基性の製鋼スラグのフッ素溶出抑制処理条件は、他の物質の場合とは異なり、効率的に実施する条件がある。
【0074】
ここで、製鋼スラグのアルカリ性を示す指標として、塩基性物質と酸性物質の比を採用すると、カルシウムイオン添加量を推定するのによい。種々の実験の結果、製鋼スラグからの溶出pHを決定する要因としての塩基度は、以下の値を用いることがよいことを、本発明者らは見出した。
【0075】
比較的、酸化カルシウムと酸化マグネシウムの比率が高く、かつ、酸化アルミニウムの比率が低い、転炉スラグと電炉スラグに対しては、
〔(CaO質量%)+(MgO質量%)〕/(SiO2質量%)‥‥(塩基度1)
を、また、比較的、酸化アルミニウムの比率が高い溶鋼鍋スラグとタンディッシュスラグでは、
〔(CaO質量%)+(Al23質量%)〕/(SiO2質量%)‥‥(塩基度2)
を用いるのがよい。
【0076】
転炉スラグ・電炉スラグの場合は、塩基度1が3.7以上であれば、溶出pHは、確実に11以上となり、また、塩基度1が3.9以上であれば、溶出pHは、確実に12以上となる。一方、溶鋼鍋スラグとタンディッシュスラグでは、塩基度2が4以上であれば、溶出pHは、確実に11以上となり、また、塩基度1が4.5以上であれば、溶出pHは、確実に12以上となる。
【0077】
したがって、これらの製鋼スラグの塩基度1又は塩基度2を上記以上の値とすることで、安定した高pH条件を達成することができる。
【0078】
製鋼スラグに含まれるフリーCaOは、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムの形態であり、水と触れると水溶カルシウムイオンとなるため、フローCaOが多い製鋼スラグを使用する場合は、酸化カルシウムや水酸化カルシウムなどの添加量を削減できる効果がある。本発明者らの実験では、酸化カルシウム換算で2質量%のカルシウムイオン源があれば、フッ素の溶出を抑制するために必要なカルシウムイオンの全量を供給できる。したがって、この場合は、追加のカルシウムイオン源の添加は不要となる。
【0079】
酸化カルシウムや水酸化カルシウムなどの添加量は、フリーCaOとの合計が2質量%(CaO換算)以上となるように計算して、その比率を添加する。なお、フリーCaOが2質量%以上の場合は、追加のカルシウムイオン源を添加する必要はない。また、製鋼スラグの塩基度条件として、転炉スラグ・電炉スラグで、塩基度1が3.7以上、また、溶鋼鍋スラグ・タンディッシュスラグで、塩基度2が4以上であるならば、フリーCaOが2質量%以上となるので、その面でも、このような高塩基度条件が望ましい。
【0080】
水溶液の燐酸濃度は0.3〜8質量%とするとよい。これは、0.3質量%以下の場合は、製鋼スラグ表面での反応率が低下するからである。また、8質量%以上の場合は、燐酸濃度が高い(応じて、カルシウムイオンカルシウムが高い)ため、フッ素を取り込む反応と関係ないアパタイト形成の比率が増加するからである。
【0081】
燐酸を含む水溶液量は、製鋼スラグ質量の5〜40%とする。製鋼スラグと水溶液とを接した状態とする。具体的には、製鋼スラグと水溶液と接した状態として、製鋼スラグの付着水分が3質量%以上の状態を2日間以上、望ましくは4日以上維持して、養生する。つまり、製鋼スラグの過度の乾燥を抑制する。この時の養生温度は、常温でよい。
【0082】
なお、水蒸気加熱などの方法で80℃以上に保持することは、さらに良い結果を生むが、必ずしも、その必要はない。これが、本発明の特徴であり、特許文献2や特許文献3に記載されているような処理では、フルオロアパタイトの生成速度が遅いため、加熱処理が必要となることが多いが、本発明では、その必要がないことが利点であり、熱利用効率を向上する効果がある。
【0083】
以上の手順で、含有フッ素の溶出を抑制した製鋼スラグを製品として出荷する。出荷に際しては、処理を行った製鋼スラグ単独での販売と、高炉スラグやコンクリート破砕物との混合品での販売とがある。これらの用途としては、地盤改良用土砂代替品、砂杭(サンドコンパクション等)の材料、路盤材、重機侵入路の盛り土などの土木用途一般である。
【実施例1】
【0084】
各種の製鋼スラグに、燐酸とカルシウムイオンの入った水を散布したフッ素溶出抑制処理の結果を、表1と表2に示す。使用した製鋼スラグは、転炉スラグ、電炉スラグ、溶銑スラグ、溶鋼鍋スラグ、及び、タンディッシュスラグであった。なお、表1に記載されている塩基度のうち、製鋼スラグの銘柄により、採用する塩基度の計算が異なるが、太枠で囲われた方の塩基度が、その製鋼スラグの性質を現す塩基度である。なお、本実施例に使われた製鋼スラグの酸化クロム濃度は、いずれも3質量%以下であった。
【表1】

【表2】

【0085】
実施例1でのフッ素溶出抑制方法としては、製鋼スラグに、燐酸を含む水溶液を散布して、製鋼スラグのフッ素溶出を抑制するものであった。製鋼スラグの化学成分、塩基度、及び、溶出pHのデータを表1に示す。また、燐酸とカルシウムイオンを用いたフッ素溶出抑制処理結果を表2に示す。
【0086】
スラグ1からスラグ10の燐酸添加処理では、いずれも、0.8mg/リットル以下の溶出濃度に低下している。ただし、スラグ5とスラグ7は、塩基度1又は塩基度2が高い条件ではなかったため、溶出pHがやや低く、燐酸添加量の多い条件であった。一方、それ以外のスラグの処理においては、(1)式で求められる比率の1〜4倍程度の燐酸添加比率で、0.8mg/リットルを達成できている。
【0087】
また、フリーCaOが2質量%以上の場合には、カルシウムイオンのCaO換算比率がフリーCaOと同じであり、追加のカルシウムイオン源を添加せずに、フッ素溶出抑制を行うことができた。したがって、高塩基度の条件でのフッ素溶出抑制処理では、燐酸添加量も少なく、カルシウムイオン添加もほとんどない条件であっても、フッ素溶出を抑制することができた。
【実施例2】
【0088】
各種の製鋼スラグが浸漬した水のフッ素濃度低減処理の結果を表3と表4に示す。表3に示すように、使用した製鋼スラグは、転炉スラグ、電炉スラグ、溶鋼鍋スラグ、及び、タンディッシュスラグであった。製鋼スラグの化学成分、塩基度、及び、溶出pHのデータを表3に示す。また、燐酸とカルシウムイオンを用いたフッ素溶出抑制の処理結果を表4に示す。添加した燐酸量は、水中の溶解フッ素量での燐酸必要量の45〜66倍であった。
【0089】
この処理で用いた製鋼スラグの溶出pHは、11.6〜12.5であり、燐酸量に対して十分又は余剰のカルシウムイオンが存在している条件であったため、追加のカルシウムイオン添加は行わなかった。したがって、燐酸添加量が少なく、また、カルシウムイオン添加がなかったため、経済的な処理を行うことができた。
【表3】

【表4】

【産業上の利用可能性】
【0090】
前述したように、本発明により、フッ素溶出濃度が0.8mg/リットル以上の製鋼スラグのフッ素溶出を抑制することができる。この結果、従来、土壌に埋め込まれる用途に使用することが制限されていた、この種の製鋼スラグを、地盤改良用土砂代替品、砂杭材料、路盤材、重機侵入路の盛り土などの土木用途一般に使用することができる。また、本発明を実施することにより、少ない薬剤で処理することができるので、安価かつ安定的に、製鋼スラグのフッ素溶出を抑制することができる。したがって、本発明は、スラグ処理産業及びスラグ活用産業において利用可能性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】水のpHが11以上の条件で、製鋼スラグから溶出するフッ素の到達濃度と、溶出フッ素濃度を0.8mg/リットルに抑制するために必要な燐酸添加量(対製鋼スラグ質量%)の関係を示す図である。
【図2】製鋼スラグが浸漬している水のpHとカルシウムイオン濃度の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸漬した水の到達pH値が11以上である製鋼スラグに、燐酸又は燐酸塩を添加して、燐酸、水溶カルシウムイオン及びフッ素の反応により、フッ素を不溶出化することを特徴とする製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。
【請求項2】
浸漬した水の到達pH値が11未満である製鋼スラグに、燐酸又は燐酸塩及びカルシウム化合物を添加して、燐酸、水溶カルシウムイオン及びフッ素の反応により、フッ素を不溶出化することを特徴とする製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。
【請求項3】
前記水溶カルシウムイオンが水中に存在する量を(酸化カルシウム換算質量/燐酸質量)の比率で0.95倍以上とするように、燐酸又は燐酸塩、必要に応じてカルシウム化合物も添加して、フッ素を不溶出化することを特徴とする請求項1又は2記載の製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。
【請求項4】
前記製鋼スラグに含まれるフリーCaOと、添加するカルシウムイオン源の合計の製鋼スラグ量に対する質量比率を2質量%(CaO換算)以上として、該製鋼スラグに、燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加して、フッ素を不溶出化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。
【請求項5】
前記製鋼スラグに含まれるフリーCaOの製鋼スラグ量に対する質量比率が2質量%以上の製鋼スラグに、燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加して、フッ素を不溶出化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。
【請求項6】
前記製鋼スラグとして、〔(CaO質量%)+(MgO質量%)〕/(SiO2質量%)が3.7以上の転炉スラグ又は電炉スラグを用いて、該製鋼スラグに、燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加して、フッ素を不溶出化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。
【請求項7】
前記製鋼スラグとして、〔(CaO質量%)+(Al23質量%)〕/(SiO2質量%)が4以上である、溶鋼鍋内から排出された製鋼スラグ、又は、連続鋳造装置のタンディッシュから排出された製鋼スラグを用いて、該製鋼スラグに、燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加して、フッ素を不溶出化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。
【請求項8】
予め、前記製鋼スラグと接している水に溶出しているフッ素濃度を測定して、該フッ素濃度から計算されるフッ素総量をフルオロアパタイトにするために必要な燐酸量の20倍以上の燐酸を含む、酸化燐含有化合物を添加して、フッ素を溶出抑制することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。
【請求項9】
前記製鋼スラグを水に浸漬した際、該水に溶出して到達するフッ素の平衡濃度値を測定し、予め求めていたフッ素の平衡濃度値と製鋼スラグに添加すべき最低燐酸量との関係、及び、該平衡濃度値から、添加すべき最低燐酸量を決定し、最低燐酸量の1倍以上の燐酸を含む水溶液を、製鋼スラグに散布して、水溶液中及び製鋼スラグ表面で、燐酸、カルシウムイオン及びフッ素を反応させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。
【請求項10】
前記製鋼スラグを水に浸漬した際、該水に溶出して到達するのフッ素の平衡濃度及びpH値を測定し、予め求めていたフッ素の平衡濃度値と製鋼スラグに添加すべき最低燐酸量との関係、及び、該平衡濃度値から、添加すべき最低燐酸量を決定し、最低燐酸量の1倍以上の燐酸を含む水溶液を製鋼スラグに散布して、水溶液中及び製鋼スラグ表面で、燐酸、カルシウムイオン及びフッ素を反応させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。
【請求項11】
浸漬した水の到達pH値が11以上である前記製鋼スラグに含まれるフッ素を溶出抑制する方法において、予め、製鋼スラグから溶出して達するフッ素の平衡濃度値を測定し、
(対製鋼スラグ燐酸添加比率(質量%))=0.037(フッ素平衡濃度値(mg/l))2+0.079(フッ素平衡濃度値(mg/l))−0.0866
の式に該平衡濃度値を代入して、添加すべき最低燐酸量を決定し、該最低燐酸量の1倍以上の燐酸を含む水溶液を上記製鋼スラグに散布して、水溶液中及び製鋼スラグ表面で、燐酸、カルシウムイオン及びフッ素を反応させることを特徴とする請求項9に記載の製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。
【請求項12】
前記燐酸又は燐酸塩を含む水溶液を加えた後、2日間以上、製鋼スラグの付着水分を3質量%以上に保持することを特徴とする請求項9又は10に記載の製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−49327(P2008−49327A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338977(P2006−338977)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】