説明

複合イオン伝導材料

【課題】本発明は、100℃を越える中高温領域を含む、広い温度範囲でイオン伝導性を示すイオン伝導材料を与えるイオン伝導性組成物、及び該組成物を用いてなるイオン伝導膜等のイオン伝導材料を提供する。
【解決手段】イオン伝導材料は、本発明のイオン伝導性組成物からなり、このイオン伝導性組成物は、イオン伝導性高分子と、イオン伝導性の無機固体材料とを含む。該イオン伝導性の無機固体材料は、金属元素の一部をドーピング元素(ここで、Jは長周期型周期表第3A族および第3B族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素である)で置換されてなる金属リン酸塩であることが好適である。本発明のイオン伝導性組成物よりなるイオン伝導材料は、イオン伝導膜等の燃料電池用の部材に極めて好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃料電池に用いられるイオン伝導性組成物、並びにこれを含むイオン伝導膜、電極触媒物質及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導材料は、燃料電池、リチウムイオン電池等の電解質として用いられる。特に燃料電池は次世代の内燃機関に代わるものとして大きな期待が寄せられている。特に、自動車においてはガソリンエンジンやディーゼルエンジンの排気ガスの問題も一挙に解決する意味でも重要な技術である。近年、燃料電池の電解質(イオン伝導膜等)として、イオン伝導性高分子からなるイオン伝導材料が検討されている。このイオン伝導性高分子は、含水状態でないとプロトン伝導性を発現し難いため、ほとんどの場合100℃以下の低温での使用に限られ、100℃を超える中高温領域では、ほとんどイオン伝導性を示さないという難点があった。例えば、特許文献1には、スルホン酸基を含有するブロックとスルホン酸基を含有しないブロックとを特定の重量比で有する芳香族ポリエーテルスルホンブロック共重合体が、プロトン伝導度の湿度又は温度に対する影響が低いとされているが、このような共重合体においても、中高温領域ではプロトン伝導度が著しく低下するものであった。
【0003】
燃料電池において、電解質膜等のイオン伝導材料が中高温領域で使用できれば、燃料ガス中の一酸化炭素による触媒層被毒が少なくなることから、触媒層中に含まれる貴金属触媒の含有量を少なくすることができるという利点や、排熱を有効に活用できるという利点がある。しかしながら、これまで開示されているイオン伝導材料は、前記イオン伝導性高分子の問題により、実用的に広い温度範囲において十分なイオン伝導性を発揮し得るものはほとんどないのが現状であった。
【特許文献1】特開2003−31232号公報(特許請求の範囲、段落[0009])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、これまでのイオン伝導材料においては使用が困難であった中高温領域を含む、広い温度範囲でイオン伝導性を示すイオン伝導材料を与えるイオン伝導性組成物、イオン伝導膜等のイオン伝導材料及び該イオン伝導材料を用いてなる燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討の結果、前記課題を解決し得るイオン伝導性組成物を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記[1]を提供する。
[1]イオン伝導性高分子と、イオン伝導性の無機固体材料と、を含むイオン伝導性組成物。
【0006】
さらに、本発明は前記[1]に係る好適な実施態様として、下記の[2]〜[22]を提供する。
[2]前記イオン伝導性高分子の含有重量よりも、前記イオン伝導性の無機固体材料の含有重量が多い[1]のイオン伝導性組成物。
[3]前記イオン伝導性の無機固体材料が金属リン酸塩である[1]又は[2]のイオン伝導性組成物。
[4]前記金属リン酸塩が、金属元素として長周期型周期表第4A族及び第4B族の元素からなる群より選ばれる1種以上の金属元素Mを有するリン酸塩に対して、このMの一部をドーピング元素J(ここで、Jは長周期型周期表第3A族及び第3B族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素である。)で置換されてなる金属リン酸塩である[3]のイオン伝導性組成物。
[5]前記金属元素Mを有するリン酸塩が、実質的に以下の式(1)で表されるリン酸塩である[4]のイオン伝導性組成物。
MP27 (1)
(式中、Mは長周期型周期表第4A族及び第4B族の元素からなる群より選ばれる金属族元素を表す。)
[6]前記金属リン酸塩が、実質的に以下の式(2)で表される金属リン酸塩である、[4]又は[5]のイオン伝導性組成物。
1-xx27 (2)
(ここで、式(2)中のxは、0.001以上0.3以下の範囲の値であり、M及びJは前記と同義である。)
[7]前記金属リン酸塩が、ドーピング元素Jとして、In、B、Al、Ga、Sc、Yb及びYからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する金属リン酸塩である、[4]〜[6]の何れかのイオン伝導性組成物。
[8]前記金属リン酸塩が、ドーピング元素Jとして、少なくともAlを含有する金属リン酸塩である、[4]〜[7]の何れかのイオン伝導性組成物。
[9]前記金属リン酸塩のドーピング元素JがAlである、[4]〜[8]の何れかのイオン伝導性組成物。
[10]前記金属リン酸塩の金属元素Mが、Sn、Ti、Si、Ge、Pb、Zr及びHfからなる群より選ばれる1種以上である、[4]〜[9]の何れかのイオン伝導性組成物。
[11]前記金属リン酸塩の金属元素MがSnである、[4]〜[10]の何れかのイオン伝導性組成物。
[12]粉体状のイオン伝導性高分子と、粉体状のイオン伝導性の無機固体材料とを粉砕混合してなる、[1]〜[11]の何れかのイオン伝導性組成物。
[13]さらにフッ素樹脂を含む、[1]〜[12]の何れかのイオン伝導性組成物。
[14]前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである[13]のイオン伝導性組成物。
[15]前記フッ素樹脂がポリビニリデンフルオライドである[13]のイオン伝導性組成物。
[16]前記イオン伝導性高分子のガラス転移点温度が90℃以上である[1]〜[15]の何れかのイオン伝導性組成物。
[17]前記イオン伝導性高分子が、主鎖に芳香環を有するイオン伝導性高分子である[1]〜[16]の何れかのイオン伝導性組成物。
[18]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有さないブロックとをそれぞれ有するブロック共重合体である[1]〜[17]の何れかのイオン伝導性組成物。
[19]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロックとして下記式(3)で表されるブロックを含むブロック共重合体である[18]のイオン伝導性組成物。

(式中、mは5以上の整数を表す。)
[20]前記イオン伝導性高分子のイオン交換基が、塩基性のイオン交換基である、[1]〜[18]の何れかのイオン伝導性組成物。
[21]前記塩基性のイオン交換基が、窒素原子を含むイオン交換基である、[20]のイオン伝導性組成物。
[22]イオン伝導性の無機固体材料として金属リン酸塩を含有しており、且つ、酸を更に含有している、[20]又は[21]のイオン伝導性組成物。
【0007】
また、本発明は前記何れかのイオン伝導性組成物を用いてなる、下記の[23]〜[26]を提供する。
[23]前記[1]〜[22]の何れかのイオン伝導性組成物から得られるイオン伝導膜。
[24]前記[1]〜[22]の何れかのイオン伝導性組成物と触媒物質を含有する電極触媒組成物。
[25][23]のイオン伝導膜及び/又は[24]の電極触媒組成物から得られる触媒層を含む膜電極接合体。
[26][25]の膜電極接合体を含む燃料電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明のイオン伝導性組成物を用いてなるイオン伝導材料は、広い温度範囲でイオン伝導性を発現することができる。すなわち、本発明のイオン伝導性組成物は、これまでのイオン伝導性高分子を用いてなるイオン伝導材料では、ほとんどイオン伝導性を発現できないような中高温領域においても、イオン伝導性を発現するという優れた効果を奏する。また、これをイオン伝導膜等の電解質とする燃料電池は、触媒層に含まれる白金等の貴金属触媒の使用量を低減することが可能であり、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施態様について詳述する。
【0010】
本発明のイオン伝導性組成物は、少なくとも1種のイオン伝導性高分子と、少なくとも1種のイオン伝導性の無機固体材料とを含む。ここで、「無機固体材料」の定義は、常温(25℃程度)で固体状態である無機物質である。好適な無機固体材料は、イオン伝導性セラミクスである。このイオン伝導性セラミクスには中高温でのイオン伝導度、好ましくはプロトン伝導度が高く、かつ安定な材料が用いられる。このようなセラミクスとしては当該分野で公知のプロトン伝導性のセラミクスを適宜選択して用いることができる。好ましくは、金属リン酸塩、イットリア安定化ジルコニア、セリア系セラミックス等が挙げられる。特に、本発明者等は、常温でのプロトン伝導性がより高いという点で、金属リン酸塩が好適であることを見出した。
【0011】
<金属リン酸塩>
本発明に適用する金属リン酸塩とは、金属元素と、亜リン酸イオン、リン酸イオン、ポリリン酸イオンの何れかとからなるものであり、イオン伝導性、好ましくはプロトン伝導性を有するものである。
【0012】
好ましい金属リン酸塩をさらに詳しく説明する。好適な金属リン酸塩は、金属元素として長周期型周期表第4A族及び第4B族の元素からなる群より選ばれる1種以上の金属元素Mを有するリン酸塩に対して、このMの一部をドーピング元素J(ここで、Jは長周期型周期表第3A族及び第3B族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素である。)で置換されてなる金属リン酸塩である。
【0013】
この金属リン酸塩を誘導する前記リン酸塩としては、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩などの化合物を挙げることができ、具体的には、リン酸スズ、リン酸チタン、リン酸シリコン、リン酸ゲルマニウム、リン酸ジルコニウムなどを挙げることができる。
前記に例示したリン酸塩の中でもピロリン酸塩が好ましく用いられる。なお、ピロリン酸塩は実質的に以下の式(1)で表される。
MP27 (1)
(式中、Mは前記と同義である。)
【0014】
前記式(1)で表されるリン酸塩から誘導される、好適な金属リン酸塩は、実質的に以下の式(2)で表されるものである。
1-xx27 (2)
(式中、xは0.001以上0.3以下の範囲の値であり、M及びJは前記と同義である。)
【0015】
なお、実質的に式(2)で表されるとは、式(2)の組成比、すなわちM:J:P(リン原子):O(酸素原子)のモル比[(1−x):x:2:7]において、イオン伝導性を阻害しない範囲で、P及びOの成分のそれぞれが、2及び7のそれぞれのモル比に対して若干の割合増減されていてもよいことを意味する。若干の割合とは、用いるM又はJの種類にもよるが、通常10%程度以内である。この割合は、小さいことが好ましい。
【0016】
式(2)におけるxは、ドーパント元素Jの置換割合に相当し、Mの種類にもよるが、0.001以上0.3以下の範囲の値であり、0.02以上0.2以下の範囲の値であることが好ましい。MがSn(スズ原子)で、且つJがAl(アルミニウム原子)の場合においては、より高いプロトン伝導度を示す範囲として、xは0.01以上0.1以下であることが好ましく、0.02以上0.08以下がより好ましく、さらに好ましくは0.03以上0.07以下である。
【0017】
式(1)で表されるリン酸塩、式(2)で表される金属リン酸塩における金属元素Mは長周期型周期表第4A族及び第4B族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素であり、Sn(スズ原子)、Ti(チタン原子)、Si(ケイ素原子)、Ge(ゲルマニウム原子)、Pb(鉛原子)、Zr(ジルコニウム原子)及びHf(ハフニウム原子)からなる群より選ばれる1種以上の元素が好ましく用いられる。金属リン酸塩自体の安定性と、高水準のプロトン伝導性が得られる観点から、Mは、Sn、Ti及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属元素がより好ましく、さらに好ましくはSn及び/又はTiであり、特に好ましくはSnである。
【0018】
また、ドーピング元素Jは長周期型周期表第3A族及び第3B族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素であり、少なくとも、In(インジウム原子)、B(ホウ素原子)、Al(アルミニウム原子)、Ga(ガリウム原子)、Sc(スカンジウム原子)、Yb(イッテルビウム原子)及びY(イットリウム原子)から選ばれる元素を含有すると好ましい。より好ましいドーピング元素Jとしては、Mの種類によって最適化できるが、In、Al、Ga、Sc及びYbから選ばれる1種以上の元素である。金属リン酸塩の安定性と、高水準のプロトン伝導性が得られる観点で、MがSnを含有する場合を考慮すると、ドーパント元素Jは、Al及び/又はGaがさらに好ましく、特に好ましくはAlである。
【0019】
このように、金属元素Mの一部がドーピング元素Jに置き換えられてなる金属リン酸塩の製造方法としては、公知の方法を適宜選択して用いることができる。一例を挙げると、原料として、Mを含有する化合物と、Jを含有する化合物と、リン化合物を用い、以下の(a)及び(b)の工程を、この順で含むようにして金属リン酸塩を製造することができる。
(a)Mを含有する化合物とJの水酸化物とリン酸とを反応させ、反応物を得る工程
(b)(a)で得られた反応物を熱処理する工程
【0020】
Mを含有する化合物としては、Mの種類により適宜選択すればよいが、酸化物を用いるか、又は水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩など、高温で分解するか、高温で酸化して酸化物になり得るものを用いることが好ましい。例えば、MとしてSnを用いる場合、各種の酸化スズ及び/又はその水和物を用いることができ、好ましくは、二酸化スズ又はその水和物を用いればよい。
【0021】
リン化合物としては、リン酸、ホスホン酸などが挙げられ、反応性の観点から、リン酸が好ましい。リン酸としては、通常50重量%以上の濃リン酸水溶液を用いればよく、操作性の観点から、80〜90重量%の濃リン酸水溶液が好ましい。
【0022】
工程(a)において、反応温度は、合成する金属リン酸塩の組成によって適宜選択できるが、通常200〜400℃の範囲の温度で行うことが好ましい。たとえば、Snを含有する化合物を用いる場合は、250〜350℃の範囲の温度で行うことが好ましく、270〜330℃がより好ましい。また反応時においては、攪拌することにより混合を十分に行うのがよい。得られる反応物の操作性が良好となる観点では、反応物の適切な粘度を維持し固化を防ぐ意味で、反応時に適量の水を添加することが有効な場合もある。反応時間は、合成する金属リン酸塩の組成によって適宜選択できるが、可能な限り長時間であると好ましい。ただし生産性を考慮すると反応時間としては1〜20時間の範囲であることが好ましい。かくして、工程(a)を経て得られる反応物は、通常ペースト状のものである。
【0023】
次に、工程(b)において、工程(a)で得られた反応物を熱処理することで、金属リン酸塩を得ることができる。該熱処理の温度としては、前記のように、Snを含有する化合物を適用する場合には500〜800℃の範囲で行うことが好ましく、600〜700℃の範囲がより好ましく、630〜680℃の範囲がさらにより好ましい。熱処理に要する時間は、通常1〜20時間の範囲であり、1〜5時間の範囲が好ましく、2〜5時間の範囲がより好ましい。
【0024】
<イオン伝導性高分子>
次に、本発明で使用するイオン伝導性高分子について説明する。
このようなイオン伝導性高分子としては当業分野で公知のイオン伝導性高分子を適宜選択して用いることができるが、中高温領域(100〜300℃)でも比較的安定で分解しないものを用いることが必要がある。また変形も支障をきたすので、中高温で軟化の少ない材料が好ましい。より具体的には、イオン伝導性高分子のガラス転移点温度(Tg)が90℃以上であるものが好ましく、120℃以上であるものがより好ましく、150℃以上であるものがさらに好ましく、180℃以上であるものが特に好ましい。また、2種以上のイオン伝導性高分子を混合して使用してもよい。
【0025】
具体的には、各種のパーフルオロスルホン酸系高分子、スルホン化芳香族系高分子などが挙げられるが、中でも、中高温領域での安定性が良好であることからスルホン化芳香族系高分子が好ましい。具体的には、例えば文献(「燃料電池と高分子」、高分子先端材料ワンポイント7、高分子学会編、共立出版、37頁〜79頁(2005))に記載されているイオン伝導性高分子を例示することができる。
【0026】
より好ましくは、強酸性基を有するイオン伝導性高分子であり、該強酸性基としては、スルホン酸基(-SO3H)、スルホンアミド基(-SO2-NH2)、スルホニルイミド基(-SO2-NH-SO2-)、硫酸基(-OSO3H)、フルオロアルキレンスルホン酸基(例えば、-CF2SO3Hを挙げることができる。)、下記式(7)で示されるオキソカーボン基が挙げられ、特にスルホン酸基が好ましい。


(式中、X11及びX12は、それぞれ独立に酸素原子、硫黄原子又は−NQ1−、Z11はカルボニル基、チオカルボニル基、−C(NQ2)−、置換基を有していてもよいアルキレン基又は置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。また、Q1及びQ2は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。pは繰り返しの数を表わし、0〜10の整数である。なお、pが2以上の場合、複数あるZ11はそれぞれ同一であって異なっていてもよい。

【0027】
本発明に用いる好適なイオン伝導性高分子としては、強酸性基を有するイオン伝導性高分子であって、そのプロトン伝導度が通常、1×10-4S/cm以上のものであり、1×10-3〜1S/cm程度のものが好ましく使用される。
【0028】
より具体的にイオン伝導性高分子を例示すると、
(A)主鎖が脂肪族炭化水素からなる高分子であり、この主鎖に強酸性基が直接もしくは適当な原子又は原子団を介して結合している形態のイオン伝導性高分子;
(B)主鎖の一部または全部の水素原子がフッ素で置換された脂肪族炭化水素からなる高分子であり、この主鎖に強酸性基が直接もしくは適当な原子又は原子団を介して結合しているイオン伝導性高分子;
(C)主鎖が芳香環を有する高分子であり、この主鎖に強酸性基が直接もしくは適当な原子又は原子団を介して結合している形態のイオン伝導性高分子;
(D)主鎖に実質的に炭素原子を含まないポリシロキサン、ポリフォスファゼンなどの無機系高分子であり、この主鎖に強酸性基が直接もしくは適当な原子又は原子団を介して結合している形態のイオン伝導性高分子;
(E)(A)〜(D)の強酸基導入前の高分子を構成する繰り返し単位から選ばれる何れか2種以上の繰り返し単位からなる共重合体に強酸性基が直接もしくは適当な原子又は原子団を介して結合している形態のイオン伝導性高分子;
が挙げられる。
【0029】
前記(A)のイオン伝導性高分子としては、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(α−メチルスチレン)スルホン酸、等が挙げられる。
【0030】
前記(B)のイオン伝導性高分子としては、炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合によって作られた主鎖と、スルホン酸基を有する炭化水素系側鎖とから構成されるスルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE、例えば特開平9−102322号公報)や、炭化フッ素系ビニルモノマと炭化水素系ビニルモノマとの共重合体に、α,β,β-トリフルオロスチレンをグラフト重合させ、これにスルホン酸基を導入したスルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ポリトリフルオロエチレン(例えば、米国特許第4,012,303号及び米国特許第4,605,685号)等が挙げられる。
【0031】
前記(C)のイオン伝導性高分子としては、主鎖が酸素原子等のヘテロ原子を有するものであってもよく、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレン・エーテル)、ポリイミド、ポリ((4-フェノキシベンゾイル)-1,4-フェニレン)、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン等の単独重合体のそれぞれにスルホン酸基が導入されたもの、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0032】
前記(D)のイオン伝導性高分子としては例えば、ポリフォスファゼンにスルホン酸基が導入された樹脂等が挙げられる。
【0033】
前記(E)のイオン伝導性高分子としては、ランダム共重合体に強酸性基が導入された形態のものでも、交互共重合体に強酸性基が導入された形態のものでも、ブロック共重合体に強酸性基が導入された形態のものでもよい。強酸性基としてスルホン酸基を有するイオン伝導性高分子を例示すると例えば、ランダム共重合体にスルホン酸基が導入されたものとしては、特開平11−116679号公報のスルホン化ポリエーテルスルホン-ジヒドロキシビフェニル共縮合体を挙げることができる。
【0034】
本発明の好ましいイオン伝導性高分子は、好適なガラス転移点温度を示す程度の耐熱性を有する点で、前記(C)に例示される主鎖が芳香環を有する高分子に強酸性基を有しているイオン伝導性高分子であり、具体的には、下記式(8)で示される構造単位を有し、且つ該構造単位の少なくとも一部に上記の強酸性基を有するイオン伝導性高分子が挙げられる。当該強酸性基としては、スルホン酸基が好適である。

式中、Ar11は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基又は炭素数6〜10のアリールオキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を表し、R11は、直接結合、オキシ基(−O−)、チオキシ基(−S−)、カルボニル基(−CO−)、スルフィニル基(−SO−)又はスルホニル基(−SO2−)を示す。
【0035】
前記式(8)において、Ar11で表される基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環式芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮合環式芳香族基、3,3’−ビフェニリレン、3,4’−ビフェニリレン、4,4’−ビフェニリレン、ジフェニルメタン−4’,4’−ジイル、2,2−ジフェニルプロパン−4’,4’’−ジイル、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ジフェニルプロパン−4’,4’’−ジイル等の、2価の複数の芳香環を有する芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等の複素環式芳香族基等が挙げられる。なかでも、2価の単環式芳香族基が好ましい。
【0036】
また、これらの芳香族基は、上述の如く、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基で置換されていてもよい。ここで、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜10のアルキル基や、これらのアルキル基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子や、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、フェノキシ基等が置換し、かかる置換基を含み全炭素数が1〜10であるアルキル基等が挙げられる。
【0037】
アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基や、これらのアルコキシ基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子や、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、フェノキシ基等が置換し、この置換基を含み全炭素数が1〜10であるアルコキシ基等が挙げられる。
【0038】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基や、これらのアリール基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子や、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、フェノキシ基等が置換し、この置換基を含み全炭素数が6〜10であるアリール基等が挙げられる。
【0039】
また、アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数6〜10のアリールオキシ基や、これらのアリールオキシ基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子や、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、フェノキシ基等が置換し、この置換基を含み全炭素数が6〜10であるアリールオキシ基等が挙げられる。
【0040】
上記式(8)で示される構造単位にスルホン酸基を導入した構造単位の典型的な例としては、下記の10−1〜10−16が挙げられる。

上述の構造単位の中でも、より機械強度に優れる高分子電解質を得る観点からは、10−1、10−9又は10−13が好ましい。
【0041】
また、前記式(8)で示される構造単位を有する高分子電解質は、例えば、下記式(8a)、(8b)又は(8c)で表される構造単位を有していると好ましい。

式中、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24、Ar25、Ar26及びAr27(以下、「Ar21〜Ar27」のように表記する。)は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基又は炭素数6〜10のアリールオキシ基を有していてもよい2価の芳香族基を示し、Q21、Q22、Q23及びQ24(以下、「Q21〜Q24」のように表記する。)は、それぞれ独立に、オキシ基又はチオキシ基を示し、R21、R22及びR23は、それぞれ独立に、カルボニル基又はスルホニル基を示す。
【0042】
前記の式(8a)、(8b)及び(8c)において、Ar21〜Ar27で表される基としては、前記Ar11と同等の基が例示される。
そして、式(8a)で表される構造単位は、Ar21及び/又はAr22に、式(8b)で表される構造単位は、Ar23〜Ar25の何れか1つ以上に、式(8c)で表される構造単位は、Ar26及び/又はAr27に強酸性基を有している。
【0043】
ここで、前記式(8a)で表される構造単位にスルホン酸基を有している構造単位としては、例えば、下記の11−1〜11−7で表される構造単位が例示できる。

【0044】
また、前記式(8b)で表される構造単位にスルホン酸基を有している構造単位としては、例えば、下記の12−1〜12−15で表される構造単位が例示できる。

【0045】
上述したなかでも、前記式(8b)で表される構造単位を有する高分子電解質は、下記式(9)で表される構造単位を有していると好ましい。


式中、R31は、カルボニル基又はスルホニル基を示し、w1及びw2は、それぞれ独立に0又は1であって少なくともいずれか一方が1であり、w3は0、1又は2であり、v1は1又は2である。
【0046】
また、前記式(8c)で表される構造単位にスルホン酸基を有している構造単位としては、例えば、下記の13−1〜13−6で表される構造単位が例示できる。

【0047】
さらに、本発明に適用する好適なイオン伝導性高分子は、前記の式(8)に示す構造単位に加え、置換されていてもよいアルキレン基又は置換されていてもよいフルオロアルキレン基を有する構造単位を含んでいてもよく、具体的には、以下に示す構造単位が挙げられる。

なお、kは0,1又は2であり、同一の構造単位にある複数のkは互いに同一でも異なっていてもよいが、同一の構造単位に少なくも1つのスルホン酸基がある。
【0048】
また、本発明に適用するイオン伝導性高分子は、前記のようにスルホン酸基を強酸性基として有する構造単位からなる高分子化合物、又は前記(E)に記載のとおり、これらの構造単位からなる共重合体であってもよく、さらに共重合成分として、プロトン伝導に係わるイオン交換基を有さないような構造単位を含んでいてもよい。
【0049】
このようなイオン交換基を有さない構造単位についても、耐熱性等の点で芳香環を有する構造単位が好ましく、より具体的には、下記式(14)で表される構造単位が挙げられる。

式中、Ar41は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基又は炭素数6〜10のアリールオキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を表し、R41は、直接結合、オキシ基、チオキシ基、カルボニル基、スルフィニル基又はスルホニル基を示す。
【0050】
前記式(14)で示される構造単位の中でも、下記式(15)で表される構造単位が好適である。


式中、Ar51、Ar52及びAr53(以下、「Ar51〜Ar53」と表すこともある)は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基又は炭素数6〜10のアリールオキシ基を有していてもよい2価の芳香族基を示し、Q51及びQ52は、それぞれ独立に、オキシ基又はチオキシ基を示し、R51は、カルボニル基又はスルホニル基を示す。
【0051】
前記式(15)で表される構造単位において、Ar51〜Ar53で表される基として
は、上記Ar11で表される基と同様のものが挙げられ、なかでも、フェニレン基が好ましい。また、Q51及びQ52としては、オキシ基が好ましい。なお、上記式(15)で表される構造単位において、Ar51〜Ar53、Q51及びQ52又はR51で表される基は、構造単位ごとに異なっていてもよく、同じであってもよい。
【0052】
前記イオン交換基を有さない構造単位として好ましいものの一つは、下記式(16)で表される構造単位である。

式中、Ar61は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基又は炭素数6〜10のアリールオキシ基を有していてもよい2価の芳香族基を示し、Q61及びQ62は、それぞれ独立にオキシ基又はチオキシ基を示し、T61及びT62は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基又は炭素数6〜10のアリールオキシ基を示し、R61は、カルボニル基又はスルホニル基を示し、i及びjは、それぞれ独立に、0〜4の整数である。
【0053】
式中、Ar61、Q61、Q62及びR61としては、それぞれ上記のAr53、Q51、Q52及びR51と同様の基が好ましく、なかでも、Ar61としては、フェニレン基又はビフェニレン基が好ましい。さらに、T61及びT62としては、上述したAr21〜Ar27に置換していてもよい基と同様の置換基が挙げられる。また、上記のi及びjは0であることが特に好ましい。
【0054】
より具体的には、前記イオン交換基を有さない構造単位としては、例えば、下記式17−1〜17−17で表される構造単位を有するものが例示できる。

【0055】

【0056】
なかでも、前記イオン交換基を有さない構造単位としては、前記式(16)で表される構造単位であると好ましく、前記の17−1〜10及び17−15〜18で表される構造単位の少なくとも1種が好ましく、17−1、17−3、17−5〜7及び17−15〜18で表される構造単位の少なくとも1種がより好ましく、上記17−1又は17−15〜18が特に好ましい。
【0057】
また、前記イオン交換基を有さない構造単位として、前記の式(14)に示す構造単位に加え、置換されていてもよいアルキレン基又は置換されていてもよいフルオロアルキレン基を有する構造単位を含んでいてもよく、具体的には、以下に示す構造単位が挙げられる。



【0058】
イオン交換基を有する構造単位とイオン交換基を有さない構造単位は高分子鎖中で、ランダム共重合していてもよく、高分子鎖が分岐状になったグラフト共重合体であってもよい。
【0059】
好ましいイオン伝導性高分子としては、前記式(8)に示したようなイオン交換基(好適にはスルホン酸基に代表される強酸性基)を有する構造単位を主として含むブロック(以下、「イオン伝導性高分子ブロック」と呼ぶ。)と、前記式(14)に例示されるイオン交換基を有さない構造単位を主として含むブロック(以下、非イオン伝導性高分子ブロックと呼ぶ)を各々1つ以上有するブロック共重合体が挙げられる。なお、イオン伝導性高分子ブロックとは、該ブロックを構成する構造単位1個当たり、平均0.5個以上の強酸性基(好適にはスルホン酸基)があるブロックを意味し、1個以上のイオン交換基があるとより好ましい。非イオン伝導性高分子ブロックとは、当該ブロックを構成する構造単位1個当たり、イオン交換基が平均0.1個以下のブロックを意味し、0.05個以下であるとより好ましい。
【0060】
このような好ましいイオン伝導性高分子の一つとしては、例えば前記イオン伝導性高分子ブロックとして、下記式(4)で表される構造単位からなるブロックを有してなるポリアリーレン系ブロック共重合体を挙げることができる。

−Ar1− (4)
式中、Ar1は2価の芳香族基を表し、ここで2価の芳香族基は、フッ素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基または炭素数2〜20のアシル基で置換されていても良い。Ar1は主鎖を構成する芳香環に少なくとも一つのイオン交換基を有する。
また、このようなイオン交換基を有するブロックにおいて、好ましい構造の一つは下記式(3)で表されるブロックである。

(式中、mは5以上の整数を表す。)
【0061】
ここで、非イオン伝導性高分子ブロックの好ましい構造の一つは下記式(5)で表されるブロックである。

式中、a、b、cはそれぞれ独立に0か1を表し、nは5以上の整数を表す。Ar2、Ar3、Ar4、Ar5はそれぞれ独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基または炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。X、X'は、互いに独立に直接結合又は2価の基を表す。Y、Y'は、互いに独立にオキシ基又はチオキシ基を表す。
【0062】
このようなイオン伝導性高分子ブロックと非イオン伝導性高分子ブロックとを有するブロック共重合体をイオン伝導性高分子として用いると、得られるイオン伝導材料において、イオン伝導性高分子ブロックがイオン伝導性の無機固体材料の結着性を良好にする傾向があり、非イオン伝導性高分子ブロックが該イオン伝導材料に適度な機械強度を与える傾向があるので好ましい。
【0063】
このようなブロック共重合体の製造方法としては、例えば、
I.イオン伝導性高分子ブロックとなりうる高分子化合物1と、非イオン伝導性高分子ブロックになりうる高分子化合物2を各々別に製造し、次いでこの高分子化合物1と高分子化合物2をカップリングさせる方法、
II.イオン伝導性高分子ブロックとなりうる高分子化合物1を予め製造し、該高分子化合物1と非イオン伝導性高分子ブロックになりうるモノマーとを共重合させる製造方法、
III.非イオン伝導性高分子ブロックとなりうる高分子化合物2を予め製造し、該高分子化合物2とイオン伝導性高分子ブロックになりうるモノマーとを共重合させる製造方法、等が挙げられる。
【0064】
本発明で用いられるイオン伝導性高分子は上記に述べたような酸性基を有するものの他に、塩基性基を有するイオン伝導性高分子も使用することができる。このような高分子としては、公知のものが適宜選択して使用できるが、例えば、主鎖又は側鎖に塩基性基として、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、1,2,3−オキサジアゾール環、1,2,3−トリアゾール環、1,2,4−トリアゾール環、1,3,4−チアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、インドール環、ベンズイミダゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、プリン環、キノリン環、イソキノリン環、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン環、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェノチアジン環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、アミノ基等を有する高分子が挙げられる。これらの中でも好ましくは主鎖又は側鎖に塩基性基として、イミダゾール環、ピラゾール環、ベンズイミダゾール環、アミノ基、ピリジン環を有する高分子であり、さらに好ましくは主鎖又は側鎖に塩基性基として、ベンズイミダゾール環、アミノ基、ピリジン環を有する高分子であり、特に好ましくは主鎖または側鎖に塩基性基として、ベンズイミダゾール環、ピリジン環を有する高分子であり、最も好ましくは主鎖または側鎖に塩基性基として、ベンズイミダゾール環を有する高分子である。これらの高分子は任意の置換基を有していてもよい。
【0065】
ベンズイミダゾール環を有する高分子の具体例としては、ポリベンズイミダゾール等、イミダゾール環を有する高分子としてはポリ(ビニルイミダゾール)、オキサゾール環を有する高分子としてはポリ(ビニルオキサゾール)、チアゾール環を有する高分子としてはポリ(ビニルチアゾール)、ピリジン環を有する高分子としてはポリピリジン、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(2−ビニルピリジン)等、アミン類を有する高分子としてはポリエチレンイミン、ポリビニルアミン等、ピロール環を有する高分子としてはポリピロール、ベンズオキサゾール環を有する高分子としてはポリベンズオキサゾール等が挙げられる。
【0066】
本発明のイオン伝導性組成物は、前記に例示したイオン伝導性の無機固体材料(イオン伝導性無機固体材料)、好ましくは金属リン酸塩と、イオン伝導性高分子とを混合して製造することができる。その配合割合は、イオン伝導性無機固体材料の含有重量が、イオン伝導性高分子の含有重量よりも多く含有するように混合することが好ましく、このようにすると、より一層中高温領域でのイオン伝導性を向上し得る。具体的には、イオン伝導性無機固体材料とイオン伝導性高分子の合計重量を100重量部としたときに、イオン伝導性無機固体材料が66〜99.9重量部であると好ましく、90〜99.9重量部であるとさらに好ましい。なお、イオン伝導性無機固体材料の配合割合は、適用するイオン伝導性無機固体材料の種類により適宜最適化できるが、後述の燃料電池用部材に成形する観点から前記の範囲が好ましい。
【0067】
また、イオン伝導性高分子として、前記のような塩基性基を有するイオン伝導性高分子を用いる場合には、本発明のイオン伝導性組成物は、さらに酸を含むことが好ましい。酸としては、公知の酸から選択して使用することができるが、例えば、リン酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられ、好ましくはリン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸であり、特に好ましくはリン酸である。
【0068】
さらに本発明のイオン伝導性組成物は、少なくとも1種以上のフッ素樹脂を含むことが好ましい。このようなフッ素樹脂は、公知のフッ素樹脂から適宜選択して用いることができるが、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン及びそれを含む共重合体〔テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、等〕、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、等、が挙げられる。これらの中ではポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライドが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンが特に好ましい。また、フッ素樹脂は適宜選択して複数種を用いてもよい。このようなフッ素樹脂を含むようにすると、本発明のイオン伝導性組成物を種々の部材に成型する上で、その成型性が向上するといった利点がある。
【0069】
また、有機珪素化合物を添加剤として含んでいてもよい。このような有機珪素化合物は、あらかじめ本発明のイオン伝導性組成物に有機珪素化合物の原料となるモノマー(有機シラン化合物)を加えることによって、複合イオン伝導材料に含有させることができる。このような原料となるモノマーは、公知の有機シラン化合物から適宜選択して用いることができるが、具体的には、ビニルシラン類〔アリルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、等〕、アミノシラン類、アルキルシラン類〔1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタン、n−オクチルトリエトキシシラン〕、3−(トリヒドロキシシリル)−1−プロパンスルホン酸、等が挙げられる。これらの中で好ましいものの一つは、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタン、等の末端に複数のシリル基を有するアルキルシラン類である。また、ここで有機シラン化合物は適宜選択して複数を用いてもよい。
【0070】
前記有機シラン化合物としては、一般には少なくともその一部が、本発明のイオン伝導性組成物の中で水等と化学的に反応して他の有機珪素化合物に変化するような有機シラン化合物が好ましい。このような有機珪素化合物の構造は正確には把握できないが、一般に用いた有機シラン化合物の構造からその部分構造が定まる。たとえば前記に例示した中で、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン等の末端シリルアルカン化合物を使用した場合、反応しない1,8−ビスシリルオクタンが部分構造として複合イオン伝導材料中に含まれることになる。このように末端シリルアルカン化合物を有機シラン化合物として用いると、該複合イオン伝導材料中に、式(10)の部分構造を含む有機珪素化合物を含有させることができる。

(n’は4以上30以下の整数を表し、*は結合手を表す。)
【0071】
このように、前記のフッ素樹脂又は有機珪素化合物のように、中高温領域での化学的安定性に影響が無いようなものであれば、各種の添加剤を本発明のイオン伝導性組成物に含有させることができる。ただし、これらの添加剤成分が、前記の金属リン酸塩又はイオン伝導性高分子よりも多くなるとイオン伝導性に影響するので、通常添加剤成分の合計重量が、イオン伝導性組成物全体に対して50重量%以下であり、特に30重量%以下が好ましい。
【0072】
次に本発明のイオン伝導性組成物の製造方法を説明する。前記のイオン伝導性無機固体材料と、イオン伝導性高分子と、必用に応じて添加される添加剤成分を十分に混合することが必要である。該イオン伝導性組成物の製造方法としては、イオン伝導性高分子と有機溶媒とを含むイオン伝導性高分子溶液にイオン伝導性無機固体材料を混合し、混合物をキャスティング、その後、乾燥により溶媒を除去するといった製造方法、イオン伝導性無機固体材料をペレット状に成型し、得られたペレットを、イオン伝導性高分子と有機溶媒とからなるイオン伝導性高分子溶液に浸漬し、その後、乾燥により溶媒を除去するといった製造方法などが挙がられる。また、好適には、これらの成分を全て粉末状で準備し、それを乳鉢上で粉砕しながら、十分に混合する方法が挙げられる。その際、特に好適なイオン伝導性無機固体材料である金属リン酸塩を用いる場合、該金属リン酸塩は脱水させておくと好ましい。なお、金属リン酸塩の脱水には、例えば水蒸気を含まないアルゴン等の不活性ガス中で加熱する方法が挙げられる。各成分を混合する際には、さらに溶媒を加えて成型等に適切なペースト状にしてもよい。このような溶媒としては公知の有機溶媒を適宜選択して用いることができるが、具体的にはアルコール類〔メタノール、エタノール、n-プロパノール、等〕、アルカン類〔n-ヘキサン、シクロヘキサン、等〕、芳香族炭化水素類〔ベンゼン、トルエン、キシレン、等〕、ケトン類〔アセトン、シクロヘキサノン、等〕、ハロゲン化炭化水素類〔クロロホルム、ジクロロエタン、等〕等が好適である。
【0073】
また、前記のような塩基性を有するイオン伝導性高分子を用い、かつリン酸を含有させる方法としては、イオン伝導性高分子溶液とイオン伝導性無機固体材料を混合する際に、リン酸を添加するなど、さまざまな方法が使用できる。イオン伝導性無機固体材料が金属リン酸塩の場合、例えば、金属リン酸塩を製造する際に燐酸を過剰に用いる等、該金属リン酸塩にあらかじめリン酸を過剰に含ませる方法を好適に用いることができる。
【0074】
このようにして得られたイオン伝導性組成物を、さらに成型することによって、複合イオン伝導材料に係る好適な実施態様の一つであるイオン伝導膜を得ることができる。成型の方法は各種の公知の方法を適宜選択して用いることができるが、このような方法としてたとえばキャスティング、ブレードコート、バーコート、圧延、ロール圧延等が挙げられる。また、前記のような混合時や膜成型時の雰囲気は適度に除湿しておくことが好ましい。なお、本発明のイオン伝導性組成物によれば、前記に例示したような簡便な手段によっても、燃料電池のイオン伝導膜として好適な膜厚のものを得ることを可能とする。
【0075】
上記の成型体、好ましくはイオン伝導膜を燃料電池の固体電解質として用いることにより、燃料電池を得ることができる。すなわち典型的にはアノードとカソードとの間に固体電解質として本発明のイオン伝導性組成物を用いてなるイオン伝導材料を用い、燃料電池を得ることができる。
【0076】
また、燃料電池の他の構成部材(例えば、触媒組成物、燃料供給部、空気供給部等)は公知の技術を適宜選択して使用することができるが、本発明のイオン伝導性組成物から得られる複合イオン伝導性材料を触媒層用電解質として用いることが好ましく、換言すると、本発明のイオン伝導性組成物と、触媒成分とを含む電極触媒組成物を製造し、該電極触媒組成物から燃料電池の触媒層を製造することが好ましい。
【0077】
このようにして得られる燃料電池は、従来のイオン伝導性高分子からなるイオン伝導材料を有する燃料電池では極めて困難であった中高温領域での作動においても、本発明のイオン伝導性組成物からなるイオン伝導性材料がイオン伝導性を発現して、良好な発電性能を有するものとなる。
【実施例】
【0078】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されない。
【0079】
プロトン伝導度測定(膜厚方向)
イオン伝導膜を2枚の白金箔電極で挟み、交流法により膜厚方向のインピーダンスを測定した。なお、このプロトン伝導度測定は、25℃、50℃、80℃、110℃、140℃、200℃のように温度を変更して行った。各温度条件において、実質的に無加湿で測定を行った。
【0080】
プロトン伝導度測定(膜面方向)
イオン伝導膜を2枚の白金板電極で挟み、交流法により膜面方向のインピーダンスを測定した。このとき、2枚の白金板電極が1cmの距離をあけた状態で平行になるようにした。このプロトン伝導度測定は、実施例1〜5は25℃、50℃、80℃、110℃、130℃、実施例6〜12は120℃、140℃、160℃、180℃のように温度を変更して行った。比較例1はすべての温度条件で測定を行った。その際、測定温度25℃、50℃又は80℃の場合は相対湿度90%とし、100℃以上の場合は実質的に無加湿で測定を行った。
【0081】
製造例1(金属リン酸塩の合成)
SnO2(和光純薬製)7.158g、Al(OH)3(和光純薬製)0.195g、H3PO4(和光純薬製、85%)16.141gを300mLビーカーに仕込み、マグネチックスターラーで攪拌しながらホットプレートで300℃に加熱した。加熱中粘度を調整する為に適宜イオン交換水100mLを添加した。1時間加熱して得られた粘ちょうなペーストを全量アルミナ製ルツボに仕込み、電気炉中で1.5時間かけて650℃まで昇温し、2.5時間保持した後、1.5時間で室温まで冷却し、金属リン酸塩を得た。蛍光X線測定から、得られた金属リン酸の元素モル比はAl0.05Sn0.9527であった。以下、この金属リン酸塩を金属リン酸塩1とする。
【0082】
製造例2(イオン伝導性高分子の合成)
国際公開2006−095919号公報の実施例1に記載された方法に準拠し、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウムと末端クロロ型であるポリエーテルスルホン(住友化学製スミカエクセルPES5200P)を2,2’−ビピリジル存在下ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)を用いて重合し、下記ポリアリーレン系ブロック共重合体を得た。(式中のnおよびmは各構造単位の重合度を表す。)


得られたポリマーのイオン交換容量は2.2meq/gであった。以下、このイオン伝導性高分子をイオン伝導性高分子1とする。
【0083】
製造例3(イオン伝導性高分子の合成)
WO2005−063854号公報の実施例2に記載された方法に準拠し、下記スルホン化ポリアリーレンエーテル系ブロック共重合体を得た。(式中のnおよびmは各構造単位の重合度を表す。)


得られたポリマーのイオン交換容量は2.1meq/gであった。以下、このイオン伝導性高分子をイオン伝導性高分子2とする。
【0084】
製造例4(イオン伝導性高分子の合成)
米国特許第3313783号公報実施例1に記載の方法に準じ、以下の構造単位からなるイオン伝導性高分子を得た。これをイオン伝導性高分子3とする。

【0085】
実施例1
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.450g)、イオン伝導性高分子1(0.050g)、ポリテトラフルオロエチレン(0.015g、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J))を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。得られた膜の厚みは0.120mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜厚方向)及びプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を図1および表1に示す。
【0086】
実施例2
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.475g)、イオン伝導性高分子1(0.025g)、ポリテトラフルオロエチレン(0.015g、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J))を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。得られた膜の厚みは0.124mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
実施例3
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.485g)、イオン伝導性高分子1(0.015g)、ポリテトラフルオロエチレン(0.015g、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J))を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することで複合イオン伝導性膜を得た。得られた膜の厚みは0.113mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
実施例4
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.490g)、イオン伝導性高分子1(0.010g)、ポリテトラフルオロエチレン(0.015g、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J))を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。得られた膜の厚みは0.135mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
実施例5
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.495g)、イオン伝導性高分子1(0.005g)、ポリテトラフルオロエチレン(0.015g、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J))を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。得られた膜の厚みは0.135mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
実施例6
5mmφジルコニアボール77gが入った容器に金属リン酸塩1(0.450g)を入れてフリッチュジャパン製遊星型ボールミル(形式番号:07.301)で3分間粉砕を行い、これにイオン伝導性高分子1(0.050g)を入れてさらに同装置で3分間粉砕混合し、さらにこれにポリテトラフルオロエチレン(0.015g、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J))を入れてさらに同装置で3分間粉砕混合して粘土状の組成物を得た。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。得られた膜の厚みは0.192mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を表2に示す。
【0091】
実施例7
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.450g)、イオン伝導性高分子1(0.050g)、ポリビニリデンフルオリド(0.015g、アルドリッチ社性)を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。得られた膜の厚みは0.252mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を表2に示す。
【0092】
実施例8
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.450g)、イオン伝導性高分子2(0.050g)、ポリテトラフルオロエチレン(0.015g、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J))を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。得られた膜の厚みは0.228mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を表2に示す。
【0093】
実施例9
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.400g)、パーフルオロアルカンスルホン酸系イオン伝導性高分子であるNafion(デュポン製・EW=1100、0.100g)、ポリテトラフルオロエチレン(0.015g、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J))を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。得られた膜の厚みは0.308mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を表2に示す。
【0094】
実施例10
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.450g)、パーフルオロアルカンスルホン酸系イオン伝導性高分子であるNafion(デュポン製・EW=1100、0.050g)、イオン伝導性高分子3(0.010g)、ポリテトラフルオロエチレン(0.050g、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J)を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。得られた膜の厚みは0.256mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を表2に示す。
【0095】
実施例11
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.450g)、Nafion(デュポン製、EW=1100、0.025g)、イオン伝導性高分子3(0.001g)、ポリテトラフルオロエチレン(0.050g、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J))を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。得られた膜の厚みは0.203mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を表2に示す。
【0096】
実施例12
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.450g)、イオン伝導性高分子3(0.015g)、ポリテトラフルオロエチレン(0.015g、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J))を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。得られた膜の厚みは0.203mmであった。この膜についてプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を表2に示す。
【0097】
比較例1
イオン伝導性高分子1をジメチルスルホキシドに溶解させ、イオン伝導性高分子の濃度が10重量%となる溶液を調製した。得られた溶液をガラス板上に塗り広げ、溶媒を乾燥させ、イオン伝導性高分子膜を得た。このイオン伝導性高分子膜についてプロトン伝導度(膜厚方向)およびプロトン伝導度(膜面方向)を測定した。結果を図1および表1に示す。
【0098】
比較例2
乳鉢に、金属リン酸塩1(0.50g)、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製ポリテトラフルオロエチレンPTFE30−J(0.015g)を入れ、乳鉢で混練したが、成型性がなく、膜状にすることが出来なかった。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
[実施例13]
(発電性能評価)
実施例2のイオン伝導膜について膜電極接合体を作成し、発電性能を評価した。
【0102】
まず、市販の5重量%ナフィオン溶液(溶媒:水と低級アルコールの混合物)6mLに50重量%白金が担持された白金担持カーボン(SA50BK、エヌ・イー・ケムキャット製)を0.83g投入し、さらにエタノールを13.2mL加えた。得られた混合物を1時間超音波処理したのち、スターラーで5時間攪拌し、触媒インクを得た。
【0103】
得られた触媒インクをガス拡散層の中央部2.2cm角の領域に塗布した。吐出口から膜までの距離は6cm、ステージ温度は75℃に設定した。8回の重ね塗りをした後、ステージ上に15分間放置して、溶媒を除去し、触媒層を製膜した。
【0104】
さらに、市販の財団法人日本自動車研究所(JARI)製標準セルを用いて燃料電池セルを製造した。すなわち、実施例2のイオン伝導膜について、これを挟むように、触媒インクを塗布したガス拡散層およびガスケットを配した。その際、ガス拡散層は、塗布した面が膜に接するように配した。さらにその外側に集電体及びエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締め付けることによって、有効膜面積4.84cm2の燃料電池セルを組み立てた。
【0105】
得られた燃料電池セルを80℃に保ちながら、アノードに無加湿水素、カソードに無加湿空気をそれぞれ供給して、80℃における発電性能を評価した。この際、セルのガス出口における背圧が0.1MPaGとなるようにした。水素のガス流量は529mL/min、空気のガス流量は1665mL/minとした。表3に評価結果を示す。
【0106】
(実施例14)
さらに、燃料電池セルを110℃に保ちながら、アノードに無加湿水素、カソードに無加湿空気をそれぞれ供給して、110℃における発電性能を評価した。この際、セルのガス出口における背圧が0.1MPaGとなるようにした。水素のガス流量は529mL/min、空気のガス流量は1665mL/minとした。表3に評価結果を示す。
【0107】
【表3】

【0108】
図1から、本発明のイオン伝導性組成物からなるイオン伝導材料(イオン伝導膜)は広い温度域でプロトン伝導性を発現することが明らかとなった。また、実施例13及び14から、本発明のイオン伝導性組成物からなるイオン伝導材料(イオン伝導膜)を用いた燃料電池は、高温無加湿条件下でも良好に発電することが判明した。このイオン伝導膜を用いた燃料電池は広い温度域で作動するため、100℃以下の低温からの起動性が高いことに加え、起動後は100℃を越える中高温領域で作動させることができるため、一酸化炭素による触媒被毒が少ない、排熱を有効に活用できる、等の利点を有する。また、本発明のイオン伝導性組成物からなるイオン伝導膜は成型性が良いため、大面積化が可能であり、さらに該燃料電池はスタック化が可能であるため、高出力の燃料電池を得ることができる。
【0109】
(実施例15)
乳鉢に、金属リン酸塩1、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリテトラフルオロエチレン(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PTFE30−J))を入れ、粘土状になるまで乳鉢で混練した。得られた混合物を圧延することでイオン伝導膜を得た。この膜は、100℃以上の実質的に無加湿の条件下(以下の実施例では、「無加湿条件下」と略記する。)でもプロトン伝導度を有する。
【0110】
(実施例16〜20)
実施例1〜5においてイオン伝導性高分子1の代わりにポリビニルピロリドンを用いること以外は同様に操作することによって、無加湿条件下でもプロトン伝導度の高い組成物が得られる。
【0111】
(実施例21〜25)
実施例1〜5においてイオン伝導性高分子1の代わりにポリエチレンイミンを用いること以外は同様に操作することによって、無加湿条件下でもプロトン伝導度の高い組成物が得られる。
【0112】
(実施例26〜30)
実施例1〜5においてイオン伝導性高分子1の代わりにポリビニルアミンを用いること以外は同様に操作することによって、無加湿条件下でもプロトン伝導度の高い組成物が得られる。
【0113】
(実施例31〜35)
実施例1〜5においてイオン伝導性高分子1の代わりにポリピロールを用いること以外は同様に操作することによって、無加湿条件下でもプロトン伝導度の高い組成物が得られる。
【0114】
(実施例36〜40)
実施例1〜5においてイオン伝導性高分子1の代わりにポリピリジンを用いること以外は同様に操作することによって、無加湿条件下でもプロトン伝導度の高い組成物が得られる。
【0115】
(実施例41〜45)
実施例1〜5においてイオン伝導性高分子1の代わりにポリベンズオキサゾールを用いること以外は同様に操作することによって、無加湿条件下でもプロトン伝導度の高い組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】実施例1、比較例1の温度に対するプロトン伝導度(膜厚方向)を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性高分子と、イオン伝導性の無機固体材料と、を含むことを特徴とするイオン伝導性組成物。
【請求項2】
前記イオン伝導性高分子の含有重量よりも、前記イオン伝導性の無機固体材料の含有重量が多いことを特徴とする、請求項1記載のイオン伝導性組成物。
【請求項3】
前記イオン伝導性の無機固体材料が金属リン酸塩であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のイオン伝導性組成物。
【請求項4】
前記金属リン酸塩が、金属元素として長周期型周期表第4A族及び第4B族の元素からなる群より選ばれる1種以上の金属元素Mを有するリン酸塩に対して、このMの一部をドーピング元素J(ここで、Jは長周期型周期表第3A族及び第3B族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素である。)で置換されてなる金属リン酸塩であることを特徴とする、請求項3記載のイオン伝導性組成物。
【請求項5】
前記金属元素Mを有するリン酸塩が、実質的に以下の式(1)で表されるリン酸塩であることを特徴とする、請求項4記載のイオン伝導性組成物。
MP27 (1)
(式中、Mは長周期型周期表第4A族及び第4B族の元素からなる群より選ばれる元素を表す。)
【請求項6】
前記金属リン酸塩が、実質的に以下の式(2)で表される金属リン酸塩であることを特徴とする、請求項4又は5に記載のイオン伝導性組成物。
1-xx27 (2)
(式中、xは0.001以上0.3以下の範囲の値であり、M及びJは前記と同義である。)
【請求項7】
前記金属リン酸塩が、ドーピング元素Jとして、In、B、Al、Ga、Sc、Yb及びYからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する金属リン酸塩であることを特徴とする、請求項4〜6の何れかに記載のイオン伝導性組成物。
【請求項8】
前記金属リン酸塩が、ドーピング元素Jとして、少なくともAlを含有する金属リン酸塩であることを特徴とする、請求項4〜7の何れかに記載のイオン伝導性組成物。
【請求項9】
前記金属リン酸塩のドーピング元素JがAlであることを特徴とする、請求項4〜8の何れかに記載のイオン伝導性組成物。
【請求項10】
前記金属リン酸塩の金属元素Mが、Sn、Ti、Si、Ge、Pb、Zr及びHfからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項4〜9の何れかに記載のイオン伝導性組成物。
【請求項11】
前記金属リン酸塩の金属元素MがSnであることを特徴とする、請求項4〜10の何れかに記載のイオン伝導性組成物。
【請求項12】
粉体状のイオン伝導性高分子と、粉体状のイオン伝導性の無機固体材料とを粉砕混合してなることを特徴とする、請求項1〜11の何れかに記載のイオン伝導性組成物。
【請求項13】
さらにフッ素樹脂を含むことを特徴とする、請求項1〜12の何れかに記載のイオン伝導性組成物。
【請求項14】
前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする、請求項13記載のイオン伝導性組成物。
【請求項15】
前記フッ素樹脂がポリビニリデンフルオライドであることを特徴とする、請求項13記載のイオン伝導性組成物。
【請求項16】
前記イオン伝導性高分子のガラス転移点温度が90℃以上であることを特徴とする、請求項1〜15の何れかに記載のイオン伝導性組成物。
【請求項17】
前記イオン伝導性高分子が、主鎖に芳香環を有するイオン伝導性高分子であることを特徴とする、請求項1〜16の何れかに記載のイオン伝導性組成物。
【請求項18】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有さないブロックと、を有するブロック共重合体であることを特徴とする、請求項1〜17の何れかに記載のイオン伝導性組成物。
【請求項19】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロックとして下記式(3)で表されるブロックを含むブロック共重合体であることを特徴とする、請求項18記載のイオン伝導性組成物。

(式中、mは5以上の整数を表す。)
【請求項20】
前記イオン伝導性高分子のイオン交換基が、塩基性のイオン交換基であることを特徴とする、請求項1〜18の何れかに記載のイオン伝導性組成物。
【請求項21】
前記塩基性のイオン交換基が、窒素原子を含むイオン交換基であることを特徴とする、請求項20記載のイオン伝導性組成物。
【請求項22】
イオン伝導性の無機固体材料として金属リン酸塩を含有しており、且つ、酸を更に含有していることを特徴とする、請求項20又は21に記載のイオン伝導性組成物。
【請求項23】
請求項1〜22の何れかに記載のイオン伝導性組成物から得られることを特徴とする、イオン伝導膜。
【請求項24】
請求項1〜22の何れかに記載のイオン伝導性組成物と、触媒物質と、を含有することを特徴とする、電極触媒組成物。
【請求項25】
請求項23記載のイオン伝導膜及び/又は請求項24記載の電極触媒組成物から得られる触媒層を含む膜電極接合体。
【請求項26】
請求項25記載の膜電極接合体を含むことを特徴とする、燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−218408(P2008−218408A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27328(P2008−27328)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】