説明

複合セラミック体及びその製造方法

【課題】強度が高く、耐熱衝撃性に優れた複合セラミック体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】複合セラミック体1は、平均粒径0.5〜1μmのアルミナ粒子11のマトリクスに平均粒径0.3μm以下のジルコニア粒子12を分散させてなり、アルミナ粒子11とジルコニア粒子12との含有量が両者の重量%比で80:20〜95:5である。JIS R 1601に基づく4点曲げ試験を行った複合セラミック体1の破面を観察し、破壊の起点となった内部欠陥の投影面積の平方根を欠陥サイズとした場合に、その欠陥サイズが55μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ粒子にジルコニア粒子を分散させてなる複合セラミック体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の内燃機関等の排気系には、排ガス中の酸素濃度等を検出するガスセンサが設けられている。ガスセンサは、セラミック材料からなるガスセンサ素子を内蔵している。
ガスセンサ素子は、その表面に排ガスが接触するように構成されているが、内燃機関始動時等には、排ガスと共に水滴がガスセンサ素子に向かって飛来することがある。ここで、ガスセンサ素子は、高温に加熱して活性化された状態で使用される。そのため、ガスセンサ素子の表面に水滴が付着すると、その部分が局所的に冷却される。これにより、ガスセンサ素子に大きな熱衝撃が加わり、割れ(被水割れ)が生じる場合がある。
【0003】
そこで、従来から、強度を高め、耐熱衝撃性を向上させることができるセラミック材料として、アルミナ粒子のマトリクスにジルコニア粒子等の分散粒子を分散させてなるコンポジット材料が開発されている。
例えば、特許文献1には、上記コンポジット材料を用いたガスセンサ素子が開示されている。また、特許文献2には、上記コンポジット材料における特定気孔の割合を制御した複合セラミック体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−8435号公報
【特許文献2】特開2010−24128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1、2の発明では、上記コンポジット材料を用いることにより、材料自体の強度を向上させることができる。しかしながら、材料中に異物、粗大粒子、気孔等の内部欠陥が存在すると、その内部欠陥によって強度が低下し、材料本来の強度が得られない場合があった。すなわち、この内部欠陥は、応力を受けた際に破壊の起点となり易く、強度を低下させる原因となっていた。そのため、上記コンポジット材料を用いるだけでは、熱衝撃に耐え得る強度を十分に確保することができなかった。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、強度が高く、耐熱衝撃性に優れた複合セラミック体及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、平均粒径0.5〜1μmのアルミナ粒子のマトリクスに平均粒径0.3μm以下のジルコニア粒子を分散させてなり、上記アルミナ粒子と上記ジルコニア粒子との含有量が両者の重量%比で80:20〜95:5である複合セラミック体であって、
JIS R 1601に基づく4点曲げ試験を行った上記複合セラミック体の破面を観察し、破壊の起点となった内部欠陥の投影面積の平方根を欠陥サイズとした場合に、その欠陥サイズが55μm以下であることを特徴とする複合セラミック体にある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明の複合セラミック体を製造する方法であって、
上記アルミナ粒子及び上記ジルコニア粒子を含むセラミック原料に溶媒を添加し、該セラミック原料を粉砕する粉砕工程と、
上記セラミック原料に分散剤を添加し、高圧ホモジナイザを用いて混合することにより、上記アルミナ粒子及び上記ジルコニア粒子を分散させた分散スラリー材料を得る第1混合工程と、
上記分散スラリー材料にバインダを添加し、高圧ホモジナイザを用いて混合することにより、成形用スラリー材料を得る第2混合工程と、
上記成形用スラリー材料をろ過するろ過工程と、
ろ過した上記成形用スラリー材料を成形することにより、成形体を得る成形工程と、
上記成形体を焼成することにより、上記複合セラミック体を得る焼成工程とを有することを特徴とする複合セラミック体の製造方法にある(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
上記第1の発明の複合セラミック体は、アルミナ粒子のマトリクス(粒界、粒内等)にジルコニア粒子を分散させてなる。
そして、分散させたジルコニア粒子がアルミナ粒子の粒界に存在することにより、アルミナ粒子の粒界が補強される。また、アルミナ粒子の粒成長を抑制し、アルミナ粒子の微細化を図ることができる。そのため、複合セラミック体全体の強度を向上させることができる。
【0010】
また、分散させたジルコニア粒子がアルミナ粒子の粒内に存在することにより、アルミナ粒子とジルコニア粒子との間の熱膨張係数差に起因する圧縮残留応力が生じる。そのため、複合セラミック体全体の強度を向上させることができる。
また、ジルコニア粒子が分散して配置されているため、アルミナ粒子の粒界において生じた亀裂等がジルコニア粒子の存在している位置付近において偏向し、あるいは止まる。そのため、複合セラミック体に大きな亀裂が入り難くなり、全体の強度を向上させることができる。
【0011】
また、本発明者は、上記複合セラミック体の強度を十分に確保するために、複合セラミック体内に存在する内部欠陥に着目した。この内部欠陥は、複合セラミック体内に存在する異物、粗大粒子、気孔等であり、応力を受けた際に破壊の起点となり易く、強度を低減させる原因となる。
そして、本発明者は、この内部欠陥の大きさを制御することにより、上記特定の複合セラミック体において、実用上必要とされる強度を十分に確保することができることを見出した。
【0012】
具体的には、本発明者は、鋭意研究の結果、上記複合セラミック体の強度に最も影響を与えるものが、内部欠陥の数や割合等ではなく、内部欠陥のうちの破壊の起点となる内部欠陥のサイズ(欠陥サイズ)であることを見出した。
そして、上記特定の範囲の粒径及び割合のアルミナ粒子のマトリクスに上記特定の範囲の粒径及び割合のジルコニア粒子を分散させてなる複合セラミック体において、上記特定の試験を行って求めることのできる欠陥サイズが一定の値(55μm)を超えると、内部欠陥によって材料本来の強度を得ることができないことを見出した。
【0013】
このようなことから、上記複合セラミック体は、十分な強度を確保することができるように、上記欠陥サイズを55μm以下としている。
これにより、複合セラミック体は、実用上必要とされる強度(例えば、600MPa以上)を十分に確保することができる。そして、被水による熱衝撃に耐え得ることのできる、耐熱衝撃性に優れたものとなる。
【0014】
上記第2の発明の複合セラミック体の製造方法では、上記のごとく、粉砕工程、第1混合工程、第2混合工程、ろ過工程、成形工程及び焼成工程を行う。
ここで、上記粉砕工程では、アルミナ粒子及びジルコニア粒子を含むセラミック原料を粉砕する。これにより、内部欠陥のもととなるセラミック原料中の粗大粒子の低減を図ることができる。
【0015】
また、上記第1混合工程では、セラミック原料に分散剤を添加し、高圧ホモジナイザを用いて混合する。高圧ホモジナイザによるせん断力を利用した混合により、分散剤の高分子を破壊することなく、アルミナ粒子及びジルコニア粒子を良好に分散させることができる。これにより、アルミナ粒子及びジルコニア粒子を一次粒子レベルで均一に分散させた分散スラリー材料を得ることができる。
【0016】
また、上記第2混合工程では、分散スラリー材料にバインダを添加し、高圧ホモジナイザを用いて混合する。ここでも、高圧ホモジナイザによるせん断力を利用した混合により、アルミナ粒子及びジルコニア粒子の分散状態を保ったまま、バインダの高分子を破壊することなく、これらを良好に混合した成形用スラリー材料を得ることができる。
また、混合工程を2段階に分け、先の上記第1混合工程において分散剤だけを予め混合することにより、アルミナ粒子及びジルコニア粒子を均一に分散させるという分散剤の効果をより有効に発揮することができる。
【0017】
また、上記ろ過工程では、成形用スラリー材料をろ過することにより、内部欠陥のもととなる成形用スラリー材料中の異物、粗大粒子、凝集粒子、バインダの未溶解物等を除去することができる。
また、上記ろ過工程を上記成形工程直前に行うことにより、内部欠陥のもととなる異物等の残留を抑制する効果をより一層高めることができる。
【0018】
そして、上記の粉砕工程、第1混合工程、第2混合工程及びろ過工程を行った後、上記成形工程及び上記焼成工程を行うことにより、上記第1の発明の複合セラミック体、すなわち上記欠陥サイズが小さく、該欠陥サイズが55μm以下の複合セラミック体を得ることができる。また、この複合セラミック体は、上述したような強度が高く、耐熱衝撃性に優れたものとなる。
【0019】
このように、本発明によれば、強度が高く、耐熱衝撃性に優れた複合セラミック体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1における、複合セラミック体を模式的に示す説明図。
【図2】実施例1における、複合セラミック体の4点曲げ試験方法を示す説明図。
【図3】実施例1における、複合セラミック体の破面を示すSEM写真。
【図4】実施例1における、複合セラミック体の破壊の起点となった内部欠陥を示すSEM写真。
【図5】実施例1における、投影した内部欠陥を示す説明図。
【図6】実施例1における、欠陥サイズと欠陥位置での強度との関係を示すグラフ。
【図7】実施例2における、ガスセンサの構造を示す説明図。
【図8】実施例2における、ガスセンサ素子の構造を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上記第1の発明において、上記複合セラミック体は、平均粒径0.5〜1μmのアルミナ粒子のマトリクスに平均粒径0.3μm以下のジルコニア粒子を分散させてなる。
アルミナ粒子の平均粒径が0.5μm未満の場合には、焼成温度が低くなり、相対密度を高く維持することが困難となるため、複合セラミック体の強度が低下するおそれがある。一方、アルミナ粒子の平均粒径が1μmを超える場合には、アルミナ粒子の粒成長を抑制することが困難となり、複合セラミック体の強度が低下するおそれがある。
また、ジルコニア粒子の平均粒径が0.3μmを超える場合には、ジルコニア粒子を存在する部分に応力が発生し、亀裂等の起点となり、複合セラミック体の強度が低下するおそれがある。
【0022】
また、上記複合セラミック体は、アルミナ粒子とジルコニア粒子の重量割合は、95:5〜80:20である。
上記重量割合を超えてジルコニアの重量割合が大きくなると、ジルコニア粒子が凝集しやすくなり、粒径の大きいジルコニア粒子がアルミナ粒子のマトリクス内に欠陥として存在することとなって、複合セラミック体の強度が低下するおそれがある。一方、上記重量割合を超えてジルコニアの重量割合が小さくなると、アルミナ粒子の粒界の強度が低下すると共に、アルミナ粒子の粒成長を抑制することが困難となり、複合セラミック体の強度が低下するおそれがある。
【0023】
また、上記複合セラミック体は、JIS R 1601に基づく4点曲げ試験を行った複合セラミック体の破面を観察し、破壊の起点となった内部欠陥の投影面積の平方根を欠陥サイズとした場合に、その欠陥サイズが55μm以下である。
上記欠陥サイズが55μmを超える場合には、内部欠陥によって材料本来の強度を得ることができないおそれがある。すなわち、十分な強度を確保することができないおそれがある。
【0024】
また、上記欠陥サイズは、例えば、次のようにして求めることができる。
すなわち、上記複合セラミック体の試験体に対してJIS R 1601に基づく4点曲げ試験を行う。次いで、4点曲げ試験を行った後の試験体の破面(破断面)をSEM(走査型電子顕微鏡)等で観察する。次いで、破壊の起点となった内部欠陥を特定する。ここで、内部欠陥とは、複合セラミック体内に存在する異物、粗大粒子、気孔等のことである。次いで、特定した内部欠陥の投影面積Aを求め、この投影面積Aから欠陥サイズBを求める。なお、欠陥サイズBは、投影面積Aの平方根√Aである。
【0025】
また、破壊の起点となった内部欠陥の特定は、まず、試験体の破面の模様の流れ等から、破壊の起点となった部分を特定する。例えば、破面のある部分から放射状に模様が形成されていれば、その部分が破壊の起点であると推定することができる。次いで、破壊の起点となった部分に存在する内部欠陥を確認し、これを破壊の起点となった内部欠陥として特定する。
【0026】
また、上記内部欠陥の大きさが25μm以下であることが好ましい(請求項2)。
この場合には、複合セラミック体は、より強度が高く、より耐熱衝撃性に優れたものとなる。
【0027】
また、上記複合セラミック体は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ素子の一部を構成することが好ましい(請求項3)。
すなわち、複合セラミック体は、強度が高く、耐熱衝撃性に優れている。そのため、ガスセンサ素子を構成するセラミック材料として用いた場合には、ガスセンサ素子の被水割れを防止することができる。
【0028】
上記第2の発明において、上記粉砕工程では、ボールミル等によりセラミック原料の粉砕を行うことができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる複合セラミック体及びその製造方法について、図を用いて説明する。
本例では、本発明の実施例として、5つの複合セラミック体(試料E1〜E5)を作製すると共に、本発明の比較例として、2つの複合セラミック体(試料C1、C2)を作製した。そして、これらの複合セラミック体について、強度特性を評価した。
以下、これを詳説する。
【0030】
実施例の複合セラミック体(試料E1〜E5)は、図1に示すごとく、平均粒径0.5〜1μmのアルミナ粒子11のマトリクスに粒径0.3μm以下のジルコニア粒子12を分散させてなり、アルミナ粒子11とジルコニア粒子12との含有量が両者の重量%比で80:20〜95:5である複合セラミック体1である。
そして、JIS R 1601に基づく4点曲げ試験を行った複合セラミック体1の破面を観察し、破壊の起点となった内部欠陥の投影面積の平方根を欠陥サイズとした場合に、その欠陥サイズが55μm以下である。
【0031】
一方、比較例の複合セラミック体(試料C1、C2)は、実施例の複合セラミック体(試料E1〜E5)とは基本的な構成が同じであり、欠陥サイズが55μmを超えるという点で異なるものである。
【0032】
次に、実施例の複合セラミック体(試料E1〜E5)の製造方法について説明する。
実施例の複合セラミック体は、粉砕工程、第1混合工程、第2混合工程、ろ過工程、成形工程及び焼成工程を有する以下の製造方法により作製した。
【0033】
粉砕工程では、アルミナ粒子及びジルコニア粒子を含むセラミック原料に溶媒を添加し、セラミック原料の粗大粒子を粉砕する。
第1混合工程では、セラミック原料に分散剤を添加し、高圧ホモジナイザを用いて混合することにより、アルミナ粒子及びジルコニア粒子を分散させた分散スラリー材料を得る。
第2混合工程では、分散スラリー材料にバインダを添加し、高圧ホモジナイザを用いて混合することにより、成形用スラリー材料を得る。
ろ過工程では、成形用スラリー材料をろ過する。
成形工程では、ろ過した成形用スラリー材料を成形することにより、成形体を得る。
焼成工程では、成形体を焼成することにより、複合セラミック体を得る。
【0034】
具体的には、粉砕工程では、アルミナ原料(AKP−53:住友化学製)及びジルコニア原料(KZ−0Y−LSF:共立マテリアル製)を所定の重量%比(80:20〜95:5)で含むセラミック原料に、溶媒としてのエタノール等を添加する。そして、セラミック原料の粗大粒子を粉砕するため、ボールミルを用いて24時間粉砕する。
【0035】
次いで、第1混合工程では、目開き200μmのフィルタでポットカス等の異物を除去した後、セラミック原料に分散剤(フローレンWK−13E:共栄社化学製)を添加する。分散剤は、セラミック原料100重量%に対して2重量%添加する。そして、高圧ホモジナイザを用いて10分混合することにより、アルミナ粒子及びジルコニア粒子を一次粒子レベルで分散させた分散スラリー材料を得る。
【0036】
次いで、第2混合工程では、分散スラリー材料にバインダ(PVB:電気化学工業製)及び可塑剤(フラル酸ベンジルブチル:和光純薬工業製)を添加する。バインダ及び可塑剤は、セラミック原料100重量%に対してそれぞれ9重量%、5.5重量%添加する。また、バインダ及び可塑剤は、予め溶媒としてのエタノール等に溶解しておき、これを分散スラリー材料に添加する。そして、高圧ホモジナイザを用いて10分混合することにより、成形用スラリー材料を得る。その後、減圧雰囲気中で成形用スラリー材料を撹拌しながら、溶媒の一部を蒸発させ、所定のスラリー粘度(7〜10Pa・s)に調整する。
【0037】
次いで、ろ過工程では、成形用スラリー材料をろ過する。このとき、ろ過後の粒径が10μm以下となるようなフィルタを用い、そのフィルタに成形用スラリー材料を通過させてろ過を行う。これにより、成形用スラリー材料中の異物、粗大粒子、凝集粒子、バインダの未溶解物等を除去する。
【0038】
次いで、成形工程では、成形用スラリー材料を用いて、ドクターブレード法によりシート成形し、乾燥させる。これにより、アルミナシート(成形体)を得る。
次いで、焼成工程では、得られたアルミナシートを複数積層し、85℃、50MPaの条件で冷間等方圧プレス(CIP)により圧着した後、所定の寸法にカットする。そして、500℃、25時間の条件で脱脂を行う。このとき、500℃までの昇温には5日程度かける。その後、電気炉(大気雰囲気)で所定の温度まで150℃/時間で昇温し、1時間保持することにより、焼成を行う。
以上により、実施例の複合セラミック体(試料E1〜E5)を得る。
【0039】
次に、比較例の複合セラミック体(試料C1、C2)の製造方法について説明する。
比較例の複合セラミック体は、以下の製造方法により作製した。
【0040】
具体的には、まず、アルミナ原料(AKP−53:住友化学製)及びジルコニア原料(KZ−0Y−LSF:共立マテリアル製)を所定の重量%比(80:20〜95:5)で含むセラミック原料に、溶媒としてのエタノール等を添加する。また、分散剤(フローレンWK−13E:共栄社化学製)をセラミック原料100重量%に対して2重量%添加する。
【0041】
さらに、バインダ(PVB:電気化学工業製)及び可塑剤(フラル酸ベンジルブチル:和光純薬工業製)をセラミック原料100重量%に対してそれぞれ9重量%、5.5重量%添加する。バインダ及び可塑剤は、予め溶媒としてのエタノール等に溶解しておき、これを添加する。そして、ボールミルを用いて24時間粉砕・混合することにより、成形用スラリー材料を得る。
【0042】
次いで、目開き200μmのフィルタでポットカス等の異物を除去した後、減圧雰囲気中で成形用スラリー材料を撹拌しながら、溶媒の一部を蒸発させ、所定のスラリー粘度(7〜10Pa・s)に調整する。
その後は、実施例の複合セラミック体の製造方法において説明したろ過工程、成形工程及び焼成工程と同様の工程を行う。
以上により、比較例の複合セラミック体(試料C1、C2)を得る。
【0043】
次に、作製した複合セラミック体(試料E1〜E5、試料C1、C2)について、強度特性を評価した。
具体的には、まず、複合セラミック体の試験体に対して曲げ強度試験を行い、その曲げ強度試験を行った試験体を用いて、欠陥サイズ及び欠陥位置での強度を測定した。
【0044】
<曲げ強度試験>
曲げ強度試験は、JIS R 1601の曲げ強さ試験方法にしたがって4点曲げ試験を行った。そして、破壊した際の荷重を測定し、その荷重から4点曲げ強度を求めた。
なお、曲げ強度試験では、図2に示すごとく、長さ40.0mm、幅4.0mm、厚さ3.0mmに加工した試験体2を用いた。また、支点31間の距離(支点間距離)は、上側の支点間距離D1を10.0mm、下側の支点間距離D2を30.0mmとし、上側の支点31に荷重Fを負荷した。
【0045】
<欠陥サイズの測定>
まず、曲げ強度試験を行った試験体の破面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、破壊の起点となった内部欠陥を特定する。
具体的には、図3に示すごとく、試験体2の破面20全体を観察し、破面20の模様の流れ等から、破壊の起点となった部分を特定する。ここで、4点曲げ試験では、図2に示すごとく、厚さ方向の一方側の面(圧縮面201)には圧縮応力、他方側の面(引張面202)には引張応力が作用する。セラミックは、一般的に引張応力に弱いため、破壊の起点は引張応力が作用する側(引張面202側)に存在する。図3では、破面20における引張面202側のP部分から放射状に模様が形成されていることから、このP部分を破壊の起点となった部分として特定する。
【0046】
次いで、図4に示すごとく、破壊の起点として特定した部分(図3のP部分)を拡大観察し、異物、粗大粒子、気孔等の内部欠陥21を確認し、これを破壊の起点となった内部欠陥21として特定する。
次いで、図5に示すごとく、特定した内部欠陥21部分だけを投影し、その投影面積Aを求める。そして、投影面積Aから欠陥サイズB(=√A)を求める。
【0047】
<欠陥位置での強度>
曲げ強度試験を行った試験体において、厚さ方向の中間位置で作用する応力は0である。よって、破壊の起点となった内部欠陥から試験体の厚さ方向の中間位置までの距離をL(図3)、曲げ強度試験において測定した4点曲げ強度をσとした場合、破壊の起点となった内部欠陥の位置での強度、すなわち欠陥位置での強度σkを以下の式から求めることができる。これにより、欠陥位置での強度σkを求める。
σk=σ(L/1.5)
【0048】
次に、強度特性の評価結果を図6に示す。同図は、横軸を欠陥サイズ(μm)、縦軸を欠陥位置での強度(MPa)としている。
同図からわかるように、実施例の試料E1〜E5は、いずれも欠陥サイズが55μm以下であり、欠陥位置での強度が600MPa以上であった。一方、比較例の試料C1、C2は、いずれも欠陥サイズが55μmを超えており、欠陥位置での強度も600MPa未満であった。
【0049】
この結果から、本発明の複合セラミック体は、強度が高く、耐熱衝撃性に優れていることがわかる。
また、複合セラミック体をガスセンサ素子等に適用する場合に必要とされる曲げ強度が600MPa以上であることから、欠陥サイズを55μm以下とすることにより、実用上必要とされる強度を十分に確保することができることがわかる。
【0050】
また、同図から、欠陥サイズが大きくなるにしたがって強度が低下する領域と、欠陥サイズによらないでほぼ一定の強度を示す領域とがあることがわかる。この境界は、欠陥サイズが25μm付近である。したがって、実用上必要とされる強度をより確実に得ようとするためには、欠陥サイズを25μm以下とすることが好ましいことがわかる。
【0051】
(実施例2)
本例は、図7、図8に示すごとく、ガスセンサ8に内蔵されるガスセンサ素子7の一部に、本発明の複合セラミック体を適用した例である。
図7に示すごとく、ガスセンサ素子7は、被測定ガス(排ガス)中の特定ガス濃度(酸素濃度)を検出するためのガスセンサ8に内蔵されるものである。
【0052】
ガスセンサ8は、ガスセンサ素子7と、ガスセンサ素子7を内側に挿通保持する絶縁碍子81と、絶縁碍子81を内側に挿通保持するハウジング82と、ハウジング82の基端側に配設された大気側カバー83と、ハウジング82の先端側に配設されると共にガスセンサ素子7を保護する素子カバー84とを有する。
素子カバー84は、外側カバー841と内側カバー842とからなる二重構造のカバーにより構成されており、被測定ガスを導通させるための導通孔843が設けられている。
【0053】
図8に示すごとく、ガスセンサ素子7は、ジルコニアからなる酸素イオン伝導性の固体電解質体71を有する。固体電解質体71の一方の面には、白金からなる被測定ガス側電極72が設けられている。また、固体電解質体71の他方の面には、白金からなる基準ガス側電極73が設けられている。
【0054】
固体電解質体71の他方の面には、基準ガス室形成層74が積層されている。基準ガス室形成層74には、溝部741が設けられており、この溝部741によって基準ガス室740が形成されている。基準ガス室740は、基準ガス(大気)を導入することができるよう構成されている。
【0055】
基準ガス室形成層74における固体電解質体71とは反対側の面には、ヒータ層75が積層されている。ヒータ層75には、通電により発熱する発熱体(ヒータ)751が基準ガス室形成層74と対面するよう設けられている。発熱体751は、通電によって発熱させることにより、ガスセンサ素子7を活性温度まで加熱することができるよう構成されている。
【0056】
固体電解質体71の一方の面には、開口部761を有する絶縁層76が積層されている。また、絶縁層76における固体電解質体71とは反対側の面には、ガス透過性の多孔質の拡散抵抗層77が積層されている。また、固体電解質体71と絶縁層76の開口部761と拡散抵抗層77とにより覆われた場所には、被測定ガス室760が形成されている。被測定ガス室760は、被測定ガス(排ガス)を拡散抵抗層77から導入することができるよう構成されている。
拡散抵抗層77における絶縁層76とは反対側の面には、遮蔽層78が積層されている。
【0057】
そして、本例では、ガスセンサ素子7のうち、ヒータ層75、基準ガス室形成層74、絶縁層76、拡散抵抗層77及び遮蔽層78は、本発明の複合セラミック体により構成されている。
すなわち、これらの層は、アルミナ粒子のマトリクスにジルコニア粒子を分散させてなる本発明の複合セラミック体である。
【0058】
次に、本例の作用効果について説明する。
本例の場合、複合セラミック体は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ素子7の一部を構成している。そして、複合セラミック体は、強度が高く、耐熱衝撃性に優れたものである。これにより、ガスセンサ素子7の被水割れを防止することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 複合セラミック体
11 アルミナ粒子
12 ジルコニア粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径0.5〜1μmのアルミナ粒子のマトリクスに粒径0.3μm以下のジルコニア粒子を分散させてなり、上記アルミナ粒子と上記ジルコニア粒子との含有量が両者の重量%比で80:20〜95:5である複合セラミック体であって、
JIS R 1601に基づく4点曲げ試験を行った上記複合セラミック体の破面を観察し、破壊の起点となった内部欠陥の投影面積の平方根を欠陥サイズとした場合に、その欠陥サイズが55μm以下であることを特徴とする複合セラミック体。
【請求項2】
請求項1に記載の複合セラミック体において、上記欠陥サイズが25μm以下であることを特徴とする複合セラミック体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合セラミック体において、該複合セラミック体は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ素子の一部を構成することを特徴とする複合セラミック体。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の複合セラミック体を製造する方法であって、
上記アルミナ粒子及び上記ジルコニア粒子を含むセラミック原料に溶媒を添加し、該セラミック原料の粗大粒子を粉砕する粉砕工程と、
上記セラミック原料に分散剤を添加し、高圧ホモジナイザを用いて混合することにより、上記アルミナ粒子及び上記ジルコニア粒子を分散させた分散スラリー材料を得る第1混合工程と、
上記分散スラリー材料にバインダを添加し、高圧ホモジナイザを用いて混合することにより、成形用スラリー材料を得る第2混合工程と、
上記成形用スラリー材料をろ過するろ過工程と、
ろ過した上記成形用スラリー材料を成形することにより、成形体を得る成形工程と、
上記成形体を焼成することにより、上記複合セラミック体を得る焼成工程とを有することを特徴とする複合セラミック体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−166987(P2012−166987A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29376(P2011−29376)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】