説明

複合マグナス翼

【課題】
従来の固定翼は高風速域では揚力が大きいが、低・中風速域での揚力は小さい。一方、マグナス効果による揚力は低・中風速領域では大きいが、高風速域ではマグナス円筒が空気抵抗となる。このため、低〜高風速域にかけて揚力を発生できる翼形状を開発し、風力発電機や航空機の揚力の改善を図る。
【解決手段】
本発明は、自転するマグナス円筒を固定翼の中間に取り付けることにより、固定翼の揚力とマグナス力を発生する複合マグナス型翼である。この複合翼は低風速域ではマグナス力による揚力、高風速域では固定翼による揚力により、低風速域から高風速域の広い範囲で揚力の発生が可能となる。風力発電機の回転翼に採用してマグナス翼の自転数制御により、従来よりも幅広い風速域での発電が可能となる。航空機の翼に採用すれば短い固定翼となり、短距離での離着陸が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転するマグナス円筒が発生するマグナス力と固定翼が発生する揚力との複合力を、発電機回転用モーメントとして使用する風力発電機や、揚力として利用する航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行装置に使用されている揚力発生装置としてはジェット機やプロペラ機等に使用されている固定翼によるものが主流である。航空機の固定翼の代わりにマグナス効果の円筒を適用した例として下記の文献がある。
【特許文献1】特開昭61-113595
【特許文献2】特開昭61-105299
【0003】
現在、低風速域から高速域までの幅広い風速領域に適した設備としてマグナス効果を利用したマグナス型風力発電機として下記の文献がある。
【特許文献3】ロシア連邦特許219494C2
【特許文献4】ロシア連邦特許2118699
【特許文献5】米国特許4366386
【特許文献6】特開2005-256605
【特許文献7】特開2005-256606
【0004】
特にメカロ秋田の開発した特開2005-256606に示されている風力発電機では、同径円筒状のマグナス円筒にスパイラル状にフィンを巻きつけ、従来のマグナス円筒型発電機から大幅に効率向上を図れることが実証されている。このスパイラル円筒型マグナス型風力発電機の性能はプロペラ型風力発電機と同等あるいはそれよりも優れたものになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マグナス円筒による揚力発生原理は、円筒の自転数を制御することにより発生揚力を制御できる特徴があり、低・中風速域では揚力発生が大きいが、高速域では大きい断面積を持つためにマグナス円筒の空気抵抗が大きくなる短所がある。一方、固定翼は低・中風速域での発生揚力は小さいが、高速域での発生揚力は大きい特徴がある。本発明は、固定翼とマグナス円筒を複合化することにより、低速域から高速域の広い範囲で大きい揚力を発生できる新しい揚力発生装置を提供するものである。
【0006】
プロペラ型風力発電機では低風速域での発電ができないため、年間の設備利用率や発電電力量の向上ができず、低風速域の時間帯が多い地域では風力発電機を設置できない課題があった。また、強風時にはプロペラ型風力発電機は、過回転によるプロペラの損傷を防止するために、カットアウト風速以上になると発電をしないようにプロペラのピッチを変更して発電を中止している。本発明は、複合マグナス翼を持つ風力発電機を採用することにより、低風速域から強風速域の広い範囲での発電を可能とするものである。
【0007】
従来の航空機の固定翼の発生する揚力は、高風速域では大きい揚力を発生するが、低風速域では発生揚力が小さい課題がある。このため、現在の航空機は大きく長い固定翼と、離着陸のための長い滑走路を必要としている。本発明は複合マグナス翼を採用することにより以上の課題を解決し、航空機の固定翼の小型化と短距離での離着陸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
風の流れの方向に対して、円筒の自転軸が直交するように置かれたマグナス円筒において、マグナス円筒の前後に固定翼を取り付け、風速中でマグナス円筒が自転する際に発生するマグナス力による揚力と固定翼による揚力との複合化した揚力を得ることを特徴とする複合マグナス翼型揚力発生装置(請求項1)
【0009】
発電機の水平回転軸に、各個独立に自転用の駆動部を設けて自転するマグナス円筒を複数個放射状に軸支して配置したマグナス型風力発電機において、前記の各個独立に自転するマグナス円筒には請求項1の複合マグナス翼を使用していることを特徴とする複合マグナス翼型風力発電機(請求項2)
【0010】
複合マグナス翼の円筒の自転数や自転方向を制御することにより風力発電機の回転数を制御する制御機構を持つことを特徴とする請求項2に示す複合マグナス翼型風力発電機(請求項3)
【0011】
航空機の飛行装置の揚力発生において、
飛行に必要な揚力の発生を、各個独立に自転するマグナス円筒を航空機の固定翼に単数あるいは複数個取り付けて、複合マグナス翼の原理により揚力を得ることを特徴とするマグナス翼型航空機(請求項4)
【0012】
胴体の前後・左右に各個独立に自転するマグナス翼を持つマグナス型航空機において、離着陸時の揚力の発生左右のマグナス翼の自転数や自転方向を制御することにより行い、前後・左右の揚力に差を生じさせて上昇・下降や旋回を行う制御機構を持つことを特徴とする、請求項4に記載するマグナス翼型航空機(請求項5)
【0013】
請求項1に示す複合マグナス翼型揚力発生装置において、マグナス円筒の前・後の固定翼は軸風の方向に対して自由に角度を変更することができる機構を持ち、風速中でマグナス円筒が自転する際に発生するマグナス力による揚力と前・後の固定翼による揚力との合成揚力を最適化して制御できる装置を持つことを特徴とする複合マグナス翼型揚力発生装置(請求項6)
【0014】
請求項2〜5の複合マグナス翼型揚力発生装置を用いた複合マグナス翼型風力発電機やマグナス翼型航空機において、複合マグナス翼を請求項6の複合マグナス翼型揚力発生装置を用いて、マグナス円筒の自転数と前・後の固定翼角度とともに制御することにより複合マグナス翼の揚力を制御することを特徴とする複合マグナス翼型風力発電機およびマグナス翼型航空機(請求項7,8)
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載した複合マグナス翼においては、固定翼の発生する揚力とマグナス円筒の発生すマグナス力が生じ、固定翼の揚力とマグナス力による揚力の合計が揚力となる。さらに、固定翼上面で加速された流れは周囲流れよりも速くなり、発生するマグナス力は、固定翼がない場合のマグナス力よりも大きくなる。このため、固定翼やマグナス円筒をそれぞれ単独で使用する場合よりも相乗効果が発生し、揚力全体が増加する効果がある。
【0016】
請求項2に記載した複合マグナス翼を採用した複合マグナス翼型風力発電機においては、プロペラ翼とマグナス円筒の複合した回転モ―メントが利用可能となり、低風速域から高風速域の広い範囲で風速を有効利用できるために、年間での風力発電機電力量が増加する効果がある。また、同一発電出力ならば複合マグナス翼型風力発電機では回転翼の直径が短くなり、小型化の効果がある。
【0017】
請求項3に記載した複合マグナス翼を採用したマグナス翼型風力発電機においては、マグナス円筒の自転により発生するマグナス力を調整することにより風力発電機の回転数制御が可能となる。さらに強風時にはマグナス円筒を逆方向に自転させることにより発生する回転モーメントを少なくして、風力発電機が過回転するのを防止することが可能となり、カットアウト風速を高くすることができる。このため、風力発電機の発電可能な風速域が拡大し、年間での発電電力量が増加する効果がある。
【0018】
請求項4に記載した複合マグナス翼を採用した航空機においては、固定翼揚力とマグナス円筒の揚力を複合して得ることにより離着陸の揚力を得ることができ、巡航飛行中はマグナス円筒は停止して固定翼の揚力のみで飛行するために、必要な固定翼の面積や翼長を減少することが可能となる。この結果、複合マグナス翼では翼長の短縮が可能となり、航空機がコンパクトとなる効果がある。
【0019】
航空機は離着陸時に非常に大きい揚力を必要とすることから、複合マグナス翼は短距離離着陸に適した航空機の翼となる。例えば、従来の固定翼の航空機は、離陸着陸のために通常飛行時には不必要な大きい翼を持っているが、この大きい固定翼は通常飛行時には抵抗として働くのみであり、経済性改善の課題になっている。大きい翼は着陸後の空港での移動、駐機時にも過大なスペースを要し、航空機の翼小型化は航空機発達上重要な課題である。複合マグナス翼の航空機は小型化できるために、空港の過密化防止、空港サイトの小面積化の効果がある。
【0020】
従来の航空機では左右への旋回や上昇下降等の姿勢制御は垂直尾翼やフラップの機能によっていたが、請求項5のマグナス翼を採用した航空機においては、マグナス円筒の自転数や自転方向を調整することにより姿勢制御が可能となる効果がある。複合マグナス翼方式による姿勢制御は低速度域でも可能なために、従来の航空機とは異なる飛行特性を持つ航空機の開発の可能性が期待される。
【0021】
請求項6は、複合マグナス翼の前・後の固定翼の角度を風速方向により最適な角度に変えることにより、風速に対してマグナス力による揚力と前・後の固定翼の揚力が最大になるように制御し、幅広い風速領域で大きい揚力を得ることが可能となる。
【0022】
請求項7,8は、請求項6の複合マグナス翼を風力発電機や航空機に利用した場合、固定翼の揚力とマグナス力による揚力を最適化することができるために、最も効率的な制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
従来の固定翼とマグナス円筒とでは揚力発生の風速域が異なっており、互いに補完的に使用することにより広い風速域での揚力発生が可能となる。このような従来の固定翼とマグナス円筒を複合化させた複合マグナス翼は風力発電設備や航空機の翼として利用することが可能であり、以下のその原理と具体的な実施例を示す。実施例は、一例であり、この例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
図7(a)に、従来の固定翼での揚力発生機構を図示する。風の流れは固定翼に当たり、翼前縁で流れは上部と下部に分かれる。翼上部では固定翼の曲率に沿って速度を早めて後縁にいたる。一方、下部では流れは遅くなり後縁いたる。揚力発生の原理はベルヌーイの定理で説明されている。
空気密度ρ、上部風速V、上部の静圧をp、下部風速V、下部の静圧をpとするとベルヌーイの定理より式(1)のように現せる。
1/2ρ(V)+p=1/2ρ(V)+p 式(1)
固定翼に発生する単位面積あたりの揚力L
=p−p=1/2ρ(V)−1/2ρ(V) 式(2)
上部風速V、下部風速Vは固定翼の断面形状により決まるために、周囲風速をVとし、翼断面形状毎に揚力係数αを求めて式(3)のようにも現せる。
=1/2ραV 式(3)
【0025】
図7(b)に円筒に発生するマグナス力による揚力Lを示す。
空気密度ρ、風速V、上部の静圧をp1m、下部の静圧をp2m、マグナス円筒の周速度uとするとベルヌーイの定理より下記のように現せる。
1/2ρ(V+u)+p1m=1/2ρ(V−u)+p2m 式(4)
マグナス力L
=p2m−p1m=1/2ρ(V+u)−1/2ρ(V−u) 式(5)
円筒自転角速度ω、円筒直径dとすると
u=ωd/2 式(6)
=1/2ρ[ (V+ω・d/2)−(V−ω・d/2)]=ρVωd 式(7)
となり、風速V、円筒自転角速度ω、円筒直径dに比例する。
【0026】
図1に固定翼とマグナス翼を複合化させた場合の複合マグナス翼を示す。以下、そのメカニズムについて説明する。風の流れVは前部固定翼に当たり、前縁で流れは上部と下部に分かれる。固定翼上部では翼の曲率に沿って速度を速めてV、上部マグナス円筒の前端にいたる。流れはマグナスの自転でさらに加速されて後縁いたる。一方、下部では流れVと遅くなりマグナス円筒の下部前端にいたる。流速はマグナスの自転でさらに減速されて後部固定翼に、その後、後縁にいたる。
複合マグナス翼のマグナス力LmH
mH=p2H−p1H=1/2ρ(V+u)−1/2ρ(V−u) 式(8)
となり、V>V>Vの関係よりマグナス力LmH>Lとなり、固定翼とマグナス円筒をそれぞれ単独で使用したものを単純に加算した(L+L)よりも大きい揚力(L+LmH)が発生し、複合効果が得られる。
【0027】
固定翼による揚力Lとマグナス力Lとは異なった揚力発生特性を持っている。図3に固定翼の揚力Lとマグナス力Lを縦軸、風速Vを横軸とし式(3)と式(7)の関係を示す。揚力Lは風速Vの自乗に比例するために、風速Vが小さいときは揚力Lも小さく、風速が大きくなると揚力Lは非常に大きくなる。一方、マグナス力Lは風速Vに比例するために直線的に増加する。このため、低・中風速域では固定翼による揚力Lよりも大きくすることができる。
風速Vaでの固定翼揚力Lwa,マグナス力Lmaとすると、複合した揚力はLwa+Lmaに相乗効果分を加算した大きさになる。低・中風速域でマグナス円筒の自転の角速度をωから2ωへと2倍にすると、発生するマグナス力Lmaaも原理的には2倍になる。ただし、実用上ではマグナス円筒による空気乱れによる抵抗が増加するために2倍よりは低い値になり、またマグナス円筒の自転数には最適点があることを考慮する必要がある。しかし、一般的には低・中風速域ではマグナス円筒の自転数を早くすることにより、従来の固定翼よりも高い揚力を得ることが可能となる。
【実施例2】
【0028】
従来のマグナス型風力発電機の構造について図8に基づいて説明する。地上の基礎24に固定された支柱22の上端にナセル20がある。ナセル20は軸50を回転軸として風の方向に自由に向くようになっている。ナセル20の中には発電機30が水平方向に設置されており、発電機の回転軸の延長に軸駆動のため複数のマグナス翼36,38,40が放射状に取り付けられている。マグナス翼の数は3枚に限定されるものではなく、単数でも複数でもよい。
各マグナス円筒の取り付け部44には電動機等の駆動機34があり、風(WIND)の中で、各円筒型マグナス翼36,38,40を矢印イのように自転させることにより、円筒型マグナス翼36,38,40に矢印ロ方向への回転力が発生する。この力はマグナス力による回転力であり、マグナス力と回転軸からの半径の積が回転モーメントとなり風力発電機30を回転させる力となる。従来のマグナス型風力発電機のマグナス円筒は図8に示すような単純な円筒状のもので、マグナス効果も小さく、発電効率も低いものであった。
【0029】
近年図9に示すような円筒にスパイラル状のフィン46を巻いたマグナス円筒(スパイラルフィン型マグナス翼47と呼ぶ)が開発され、従来の単純円筒のマグナス翼をはるかに凌ぐ効率が得られている。このスパイラルフィン型マグナス翼47を採用した風力発電機は現在試験中であり、マグナス翼単体ではプロペラ型の3.8倍の揚力を発生したとの報告もあり、汎用のプロペラ型風力発電機と同等以上の高い効率を発揮していると発表されている。
【0030】
図2に今回の複合マグナス翼を風力発電機に適用した場合を示す。この発明は従来のプロペラ型風力発電機と円筒型マグナス翼風力発電機の持つ特徴を併せ持っているので、低風速から高風速の広い風速領域で高効率を発揮できる風力発電機である。地上の基礎24に固定された支柱22の上端にナセル20がある。ナセル20は軸50を回転軸として風の方向に自由に向くようになっている。ナセル20の中には発電機30が水平方向に設置されており、発電機の回転軸の延長に、軸駆動のための複数の複合マグナス翼51,52,53,54が放射状に取り付けられている。複合マグナス翼の数は4枚に限定されるものではなく、単数でも複数でもよい。
各複合マグナス翼51,52,53,54の取り付け部44には電動機等の駆動機34があり、風(WIND)の中で、各マグナス円筒51a,52a,53a,54aを矢印イのように自転させることにより、複合マグナス翼51,52,53,54に矢印ロ方向への回転力が発生する。また、固定翼も風を受けて矢印ロ方向への回転力が発生する。この複合した回転力と回転軸からの半径の積が回転モーメントとなり風力発電機30を回転させる。
【0031】
図4に複合マグナス翼の平面図と断面図を示す。平面図は発電機回転軸31に複合マグナス翼51を取り付けた構造を示す。翼51cは固定式でも可変ピッチ制御を行ってもよい。マグナス円筒51aは自転軸51bを軸として駆動機34により自転し、軸受51d,51eで固定翼51cに固定されている。マグナス円筒51aと固定翼51cとは接触しないような隙間を設けているが、この隙間は空気の損失の原因となるので接触しない程度までに狭くする必要がある。断面図はイ矢指からの断面を示す。図5に複合マグナス翼の投影図を示す。
【0032】
本発明の複合マグナス翼を採用した風力発電機は、より広い風速領域において風の有効利用が可能となる。これは、プロペラ型は式3に示すように風速Vの自乗に比例するために、風速が早くなると回転力も大きくなる。一方、マグナス翼は風速Vとマグナス翼の自転角速度ωの積に比例するために、低風速領域でも自転角速度ωを早くすることによりマグナス力により必要な回転力を得ることが可能となる。この結果、複合マグナス翼を採用した風力発電機は、プロペラ型風力発電機よりも低・中風速域でも効率が良い発電機となる。また、マグナス翼の回転直径を短くできるので小型化も可能となる。
【実施例3】
【0033】
風力発電機は、発電機で発生する電力周波数を一定値に維持するために発電機の回転数を一定回転数に制御する方式がある。複合マグナス翼を採用した場合、マグナス円筒の自転数制御を行うことにより複合マグナス翼発電機の回転数が一定になるように制御できる。図6(a)に発電機の回転数制御の方法を示す。制御値回転数に対して実測値回転数が大きい場合は、回転力を少なくさせるためにマグナス円筒の自転数を減少させる。反対に、制御値回転数よりも実測値回転数が少ない場合には、回転力を増加させるためにマグナス円筒の自転数を増加させる。
【0034】
複合マグナス翼を採用した風力発電機は強風や台風に強い設備となる。これは、マグナス自転軸がプロペラ翼を支持し、構造的強度が増加するのみでなく、プロペラ翼の長さを短くできる面からも言える。さらに、強風により発電機回転数が制限値を超えそうになればマグナス円筒を逆方向に自転させることにより複合マグナス翼の合計の回転力を減じて、発電機回転数を抑制することによっても可能となる。図6(b)にその制御方法を示す。
【0035】
図3に基づきその制御方法の説明をする。プロペラ翼のカット・アウト風速領域をVS1とする。この速度を超えると風力発電機のプロペラ翼はストール角度(仕事をしない角度)にして風速を利用せずに逃がしてプロペラ翼の過回転を防止する。複合マグナス翼の場合は、マグナス円筒を逆方向に自転させることによりプロペラの翼の揚力を実線から一点鎖線のように減少させることが可能となる。これに伴い、プロペラ翼のカット・アウト風速VC1がVC2に移動するために、広い風速域での発電が可能となる。具体的な制御方法は図6(b)の強風時発電機回転数制御に示す。この方法はプロペラ型風力発電機のピッチ角制御と併用することも可能であり、その結果、従来以上の幅広い柔軟な制御が可能となる。
【実施例4】
【0036】
図10は複合マグナス翼を航空機の主翼に組み込んだ場合の一例である。胴体100の両側に主翼101があり、主翼101の中にマグナス円筒102が組み込まれている。エンジン104の先端にはプロペラ105が装着されて駆動される。エンジン104から回転軸を延長し、回転数調速装置106によりマグナス円筒を自転させる。左右のマグナス円筒の自転数調整装置103は左右のマグナス円筒の自転数を一致させたり、自転数に差を発生させたりして飛行機の姿勢制御を行う装置である。図10の飛行機の場合、左右への旋回はマグナス円筒の自転の差を利用したり、垂直尾翼108により行う。右旋回の場合は右翼のマグナス円筒の自転数を低くし、左翼のマグナス円筒の自転数を高くするとともに垂直尾翼108により行う。上昇・下降は左右のマグナス円筒の自転数の増減と従来の水平尾翼107により行う。上昇時は左・右のマグナス円筒の自転数を速くし、下降時にはマグナス円筒の自転数を遅くするか、自転方向を反対向きにしてもよい。
【0037】
図11は従来の垂直尾翼、水平尾翼をなくして、複合マグナス翼垂直尾翼111と複合マグナス翼水平尾翼110により左・右旋回と上昇・下降の姿勢制御を行う航空機を示す。左・右への旋回は垂直に立てた複合マグナス翼垂直尾翼111の円筒の自転方向を制御することにより旋回する。例えば、矢印(イ)の方向に自転することにより⇒(ロ)の方向へ航空機の尾翼を押す力が発生するので航空機としては左旋回をすることになる。右旋回には逆方向に自転させればよい。
上昇・下降については水平尾翼110のマグナス円筒の自転を矢印(ハ)の方向に自転すると尾翼に上向きの揚力が発生するので航空機としては機首が下がり降下姿勢になる。反対の方向に自転すると尾翼に下向きの揚力が発生するので航空機としては機首が上がり、上昇姿勢になる。
【実施例5】
【0038】
図12は複数のマグナス円筒を使用するマグナス翼を示したものである。マグナス効果による揚力は式(7)に示すように円筒直径に比例する。このため、円筒直径を大きくすればよいが、単純に直径を大型化させると空気抵抗も大きくなり、航空機では通常飛行中の空気抵抗を減少させるためには不必要に円筒直径を大きくすることはできない。このため、マグナス円筒を数段にして設置することにより、円筒直径を増加したのと同じ揚力を得ることが可能である。複数段のマグナス円筒を設けた場合、前段のマグナス円筒での風速度の増減効果を次段のマグナス円筒でさらに利用することが可能となる。マグナス円筒部での微小な抵抗損失を無視すれば、一段のマグナス円筒上面の風速はV+u、二段マグナス円筒上面の風速はV+u+uとなり、一方、一段のマグナス円筒下面の風速はV−u、二段マグナス円筒下面の風速はV−u−uとなり、発生するマグナス力Fm1<Fm2は段々と大きくなる。このように、小口径の複数のマグナス円筒により揚力を発生させることが可能である。
【0039】
小口径の複数のマグナス円筒は通常飛行中は翼内に収納可能とし、離・着陸時の必要とするときに、翼上面や翼下面に出して揚力発生装置として機能させることができる。これは、航空機は離・着陸時にのみ大きい揚力を必要とし、通常飛行中に必要な翼は小さくてよので、離・着陸時のみマグナス円筒を引き出して揚力を発生させ、不要なときは収納することにより、通常飛行中の空気抵抗を減少できる効果がある。
【実施例6】
【0040】
図13に複合マグナス翼により制御可能な航空機の一例を示す。この機体は固定翼に取り付けられたエンジンを固定翼と共に角度を変えて垂直離着陸や短距離離着陸を行う航空機で、ティルト・ロータ方式と呼ばれている。垂直離陸時には固定翼とエンジンを垂直にしてヘリコプターのように垂直に離陸し、その後、固定翼とエンジンを水平に変更して水平飛行に移る垂直離着陸機(VTOL機)として運用する。また、固定翼とエンジンを一定の迎角にして短距離の滑走により離着陸を行う短距離離着陸機(STOL機)とて使用すると人員や貨物の積載量をVTOL機より大幅に増加することができる。
【0041】
ティルト・ロータ方式の航空機に複合マグナス翼を採用することにより航空機の離着陸性能を向上させるとともに、従来とは異なった飛行特性を得ることができる。図13(a)に示す垂直離陸時には、マグナス円筒はイ方向の自転により後方向のマグナス力が発生し、ロ方向の自転により前方向のマグナス力が発生する。これを利用すると、固定翼とエンジンを垂直状態のままにして垂直離陸しながら、同時に前・後の水平方向への移動が可能となる。
図13(b)に示すように、固定翼とエンジンを一定の迎角を持たせた状態でマグナス円筒をイ方向に自転させることにより、航空機にはプロペラによる推力Lとマグナス円筒による揚力Lの合成揚力Lwmが発生する。この揚力は固定翼のエンジンを垂直にしたときの揚力Lよりも大きくなり、短距離離着陸機(STOL機)として使用すると、人員や貨物の積載量が増加する。前進や後退は固定翼のエンジンの角度を変えたり、マグナス円筒の自転数を変えることにより合成揚力Lwmの向きを変化させて、水平方向の推力を調整することにより可能である。
このように、複合マグナス翼を採用した航空機は垂直離着陸機(VTOL機)あるいは短距離離着陸機(STOL機)として最適である。離陸時にはプロペラの作る風速と複合マグナス翼により、飛行機はあまり滑走することなく大きい揚力が発生し、離陸することができる。
【0042】
図14にスペースシャトルのような地球・宇宙往還機の飛行装置の揚力発生装置として適用した例を示す。宇宙往還機においては、揚力の発生をリフディング・ボディー(揚力発生胴体)に依存し、グライダーのように滑空して帰還している。しかし、リフディング・ボディーは揚力が小さく、グライダーのように自由には飛行できないために着陸時の制約条件が大きく、着陸地点を自由に選定できない面がある。しかし、複合マグナス翼を採用し、離着陸時の揚力を複合マグナス円筒により発生させ、通常飛行中の揚力は揚力発生胴体により発生させて飛行可能とする無翼型航空機とすることにより、幅広い着陸地点が選定可能となる。打ち上げや地球への再突入時には空気との摩擦により機体表面は非常に高温度にさらされるために、マグナス円筒は胴体の中に収納して熱の影響を受けないようにしておくとよい。また、マグナス円筒内部は燃料や搭乗員の空気等の格納容器等に使用すれば、マグナス円筒のスペースを有効に活用することができる。
【0043】
複合マグナス翼の制御形態としては、下記の3方式がある。
1.固定翼にマグナス円筒を組み込み、マグナス円筒の自転数や自転方向を制御する方式
2.固定翼にマグナス円筒を組み込み、マグナス円筒の自転数や自転方向を制御するとともに、風速に応じて固定翼のピッチ角を制御する方式
3.マグナス円筒の前後に固定翼を設け、マグナス円筒の前・後翼は風速に対して角度を調整できる機構を持ち、マグナス円筒の自転数や自転方向を制御するとともに、風速に応じて前・後翼の風速方向に対する角度を調整する方式
【0044】
図15に複合マグナス翼の前・後の固定翼の角度を風の方向により変える例を示す。マグナス円筒51aの前に前翼200、後ろに後翼201を取り付け、前翼回転軸200a,後翼回転軸201aを軸として固定翼の角度を変更することが可能である。低風速時には図15(b)に示すように、前・後の固定翼の角度α,βを大きくすることにより翼としての揚力を大きくする。高風速時には図15(a)に示すように前・後の固定翼の角度α,βを小さくすることにより空気抵抗を小さくし、固定翼とマグナス力による合計揚力が風速に対して最適になるように制御するものである。前・後の固定翼の角度の変更の軸は夫々別に持っても良いし、マグナス円筒の自転軸から取っても良い。
【0045】
図16に、上記の方式を風力発電機の複合マグナス翼に適応した場合の例を示す。マグナス円筒51aは軸受51d,51eを介し、自転しない固定軸51bの周囲を自転する。自転力は駆動機34から歯車31a,51fを介して伝えられる。前翼200、後翼202は固定軸51bを支点として、支持軸200b,201bにより風に対する角度を制御する。制御器や制御の駆動機は内側固定翼202や外側固定翼203の内部に取り付ける。このような方式では風速に対してマグナス力による揚力と前・後の固定翼の揚力が最大になるように制御し、広い風速領域で大きい揚力を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の複合マグナス翼(その1)である。
【図2】本発明の複合マグナス翼を使用した風力発電設備の正面図、側面図である。
【図3】固定翼とマグナス効果の揚力と風速の関係図である。
【図4】本発明の風力発電設備用の複合マグナス翼の平面図、断面図である。
【図5】本発明の風力発電機用複合マグナス翼の模式図(その1)である。
【図6】本発明の風力発電設備のマグナス翼制御方式である。
【図7】固定翼とマグナス効果の揚力原理である。
【図8】従来のマグナス型風力発電設備(米国特許4366386から引用)である。
【図9】風力発電設備用のスパイラルフィン円筒型マグナス翼(メカロ秋田の開発。特開2005-256605、2005-256606)である。
【図10】本発明の複合マグナス翼を採用した航空機(その1)である。
【図11】本発明の複合マグナス翼を採用した航空機(その2)である。
【図12】本発明の複合マグナス翼(その2)である。
【図13】本発明の複合マグナス翼を採用した航空機(その3)である。
【図14】本発明の複合マグナス翼を採用した航空機(その4)である。
【図15】本発明の複合マグナス翼(その3)である。
【図16】本発明の風力発電機用複合マグナス翼の模式図(その2)である。
【符号の説明】
【0047】
20 ナセル
22 支柱
24 基礎
28 カバー
30 発電機
31 発電機回転軸
32 スピンナー
34 マグナス翼自転用駆動機
36 円筒型マグナス翼1
38 円筒型マグナス翼2
40 円筒型マグナス翼3
44 マグナス翼摺動部(a〜d)
46 スパイラルフィン
47 スパイラルフィン型マグナス翼
【0048】
51 複合マグナス翼1
51a マグナス円筒
51b マグナス円筒自転軸
51c 固定翼
51d マグナス円筒軸受1
51e マグナス円筒軸受2
52 複合マグナス翼2
52a〜52e 51と同様
53 複合マグナス翼3
53a〜53e 51と同様
54 複合マグナス翼4
54a〜54e 51と同様
【0049】
100 胴体
101 主翼
102 マグナス円筒
102a マグナス円筒自転軸
102b マグナス円筒支持軸受
103 マグナス円筒
104 エンジン
105 プロペラ
106 自転用回転数調速装置
107 水平尾翼
108 垂直尾翼
109 駆動軸
110 複合マグナス翼水平尾翼
111 複合マグナス翼垂直尾翼
【0050】
200 前翼
200a 前翼回転軸
200b 前翼支持軸
201 後翼
201a 後翼回転軸
201b 後翼支持軸
202 内側固定翼
203 外側固定翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風の流れの方向に対して、回転(以下自転と呼ぶ)する円筒軸が直交するように置かれたマグナス円筒において、
マグナス円筒の前・後に固定翼を取り付け、風速中でマグナス円筒が自転する際に発生するマグナス力による揚力と、風速による固定翼の揚力との複合化した揚力を得ることを特徴とする複合マグナス翼型揚力発生装置
【請求項2】
発電機の水平回転軸に、各個独立に自転用の駆動部を設けて自転するマグナス円筒を複数個放射状に軸支して配置したマグナス型風力発電機において、
各個独立に自転するマグナス円筒には請求項1の複合マグナス翼を使用していることを特徴とする複合マグナス翼型風力発電機
【請求項3】
前記複合マグナス翼型風力発電機において、
複合マグナス翼円筒の自転数や自転方向を制御することにより、風力発電機の回転数制御をする制御機構を持つことを特徴とする請求項2に示す複合マグナス翼型風力発電機
【請求項4】
航空機の揚力発生装置において、
飛行に必要な揚力の発生を各個自転するマグナス円筒を、航空機の固定翼に単数あるいは複数個取り付けた複合マグナス翼により、マグナス力と固定翼の複合化した揚力を得て飛行することを特徴とするマグナス翼型航空機
【請求項5】
胴体の前後・左右に各個独立に自転するマグナス翼を持つマグナス型航空機において、
離着陸時の揚力の発生を左右のマグナス翼の自転数や自転方向を制御することにより行い、前後・左右の揚力に差を生じさせて上昇・下降や旋回ができるようにする制御機構を持つことを特徴とする、請求項4に記載するマグナス翼型航空機
【請求項6】
請求項1に示す複合マグナス翼型揚力発生装置において、
マグナス円筒の前・後の固定翼は風の方向に対して自由に仰角を変更することができる機構を持ち、風速中でマグナス円筒が自転する際に発生するマグナス力による揚力と前・後の固定翼による揚力との合成揚力を最適化して制御できる制御装置を持つことを特徴とする複合マグナス翼型揚力発生装置
【請求項7】
複合マグナス翼型揚力発生装置を用いた複合マグナス翼型風力発電機において、
複合マグナス翼には請求項6の複合マグナス翼型揚力発生装置を用い、マグナス円筒の自転数と前・後の固定翼仰角をともに制御することにより複合マグナス翼の合成揚力を最適制御する制御装置を持つことを特徴とする請求項2,3の複合マグナス翼型風力発電機
【請求項8】
複合マグナス翼型揚力発生装置を用いたマグナス翼型航空機において、
複合マグナス翼には請求項6の複合マグナス翼型揚力発生装置を用い、マグナス円筒の自転数と前・後の固定翼仰角をともに制御することにより複合マグナス翼の合成揚力を最適制御する制御装置を持つことを特徴とする請求項4,5のマグナス翼型航空機

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−106619(P2008−106619A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287514(P2006−287514)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】