説明

複合体型混合導電体

【課題】酸素透過性が高く、経時劣化も起こりにくい複合体型混合導電体を提供する。
【解決手段】酸素イオン導電相がガドリニウム添加セリウム酸化物(GDC)からなり、電子導電相がスピネル型Fe複合酸化物(CFO)からなり、両相の粒径はそれぞれ1μm以下であり、両相が互いに均一に混合し、両相が各々導電ネットワークを形成している。両相は、互いに低い固溶度を有しており、かつ、両相間の化学反応が起こりにくく、また両相間で化学反応が起こっても混合導電性を阻害する異相が生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオン・電子混合導電性および酸素透過という機能を有する複合体型混合導電体に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、燃料電池の電極材料や、空気からの酸素分離またはメタンの部分酸化に供される酸素透過膜として好適に使用され得る複合体型混合導電体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン・電子混合導電体は、高い酸素イオン導電率と電子導電率を同時に有するものである。この物質を上述の分野に応用するためには、高い混合導電性が空気等の高酸素分圧から水素ガスやメタンといった極低酸素分圧に至る幅広い領域で維持され、かつ、通常使用される500〜1000℃程度の温度で化学的、機械的に安定であることが要求される。
【0003】
酸素イオン・電子混合導電体(混合導電体)には大きく分類して以下の2つの型がある。
(1)単相型混合導電体
これは、その物質自体が混合導電性を有するものであり、例としては、La−Sr−Co−Fe、およびLa−Sr−Ga−Fe系ペロブスカイト型酸化物が知られている(文献:Chem.Lett.,(1985)1743、Am.Ceram.Soc.Bull.,74(1995)71、Catal.Today,36(1997)265、SolidState Ionics,129(2000)285、Solid State Ionics,135(2000)631参照)。
(2)複合体型混合導電体
これは、単体としては、酸素イオン導電性または電子導電性のいずれか一方しか示さない物質を複合体とすることにより混合導電性を発現させるものであり、例としてはイオン導電体であるイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)と電子伝導体である金属Pdの混合体やガドリニウム添加セリウム酸化物とLa−Sr−Mn系ペロブスカイト型酸化物の混合体等がある。
単相型混合導電体の場合は高い混合導電性が得られる物質系が非常に限られているのに対し、複合体型では幅広い材料が適用対象となりうる。また、複合体型混合導電体では数種類の物質を含有することから、副次的な機能、例えば触媒機能等を付与することも可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、複合体型混合導電体にも特有の問題がある。例えば、YSZ−Pd複合体では一方がセラミックスであるのに対し他方は金属相であるため、緻密な焼結体を作製するのが困難であること、また、緻密な焼結体が得られても両相の熱膨張係数が大きく異なる場合、熱サイクル等により破壊が生じることが挙げられる。
【0005】
さらに、混合導電性を発現させるためには酸素イオン導電相と電子導電相が、各々導電ネットワークを形成する必要があるため、各相の体積分率に起因するパーコレーションの問題を考慮する必要がある。パーコレーションとは、例えば金属の粉体を絶縁体のマトリックスに混合して電気伝導性を得ようとするとき、金属粉体がある体積分率(臨界体積分率)を越えたときに絶縁体中に金属粉体のネットワークができて電気伝導性が急激に増加する現象である。
【0006】
また、高い混合導電性が得られる場合でも、高温での使用時に両相が化学反応を引き起こし、界面に混合導電性を阻害する異相が形成されることによる経時劣化が起こりやすいことが、ガドリニウム添加セリウム酸化物とLa−Sr−Mn系ペロブスカイト型酸化物の混合体において指摘されている(文献:SolidState Ionics 146(2002)163、及びJ.Eur.Ceram.Soc.21(2001)1763参照)。
【0007】
上記課題に鑑み、本発明は、酸素イオン導電相と電子導電相とが均一に混合すると共に熱膨張係数の違いによって破壊せず、酸素イオン導電相と電子導電相が各々導電ネットワークを形成し、両相が反応しても異相が形成されない、従って、酸素透過性が高く、経時劣化も起こりにくい複合体型混合導電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の複合体型混合導電体は、酸素イオン導電相及び電子導電相の各相が相互に混合されてなり、酸素イオン導電相がプラセオジム添加セリウム酸化物(組成式:Ce1−xPr2−x/2、ただし0<x<0.5)からなり、電子導電相がスピネル型Fe複合酸化物(組成式:MFe、ただし、M=Mn,Fe,Co又はNi)からなる。
また、本発明の複合体混合導電体は、酸素イオン導電相及び電子導電相の各相が相互に混合されてなり、酸素イオン導電相がプラセオジム添加セリウム酸化物(組成式:Ce1−xPr2−x/2、ただし0<x<0.5)からなり、電子導電相がスピネル型Fe複合酸化物(組成式:MFe、ただし、M=Mn,Fe,Co又はNi)からなる。
本発明の複合体混合導電体において、酸素イオン導電相は、酸素ガスの酸素イオン化及び酸素イオンの酸素化を促進する触媒を含有しているか、上記触媒が塗布されているか、または上記触媒を含有しかつ上記触媒が表面に塗布されている。ここで、触媒は、RuまたはNi、またはこれらの組み合わせである。
本発明の複合体混合導電体において、酸素イオン導電相及び電子導電相は、それぞれ1μm以下の微細粒径を有し、各々の相が互いに均一に混合し、各相がそれぞれ導電ネットワークを形成している。
本発明の複合体混合導電体において、電子導電相の酸素イオン導電相に対する体積組成は、5%から40%である。
【0009】
この構成によれば、酸素イオン導電相と電子導電相が互いに低い固溶度を有しており両相間の化学反応が起こりにくく、また両相間で化学反応が起こっても混合導電性を阻害する異相が生じない。また、粒径が極めて微細で均一に混合しているから、酸素イオン導電相と電子導電相とが熱膨張係数の違いによって破壊せず、また、電子導電相の酸素イオン導電相に対する体積組成が5%から40%であるので、電子導電相と酸素イオン導電相が各々導電ネットワークを形成する。また、酸素ガスの酸素イオン化及び酸素イオンの酸素化を促進する触媒を含有、または表面に塗布されているので、酸素イオン及び酸素の生成速度が大きい。従って、酸素透過性が高く、経時劣化も起こりにくい複合体型混合導電体を提供することができる。
【0010】
本発明の複合体型混合導電体の作製の概要は以下のとおりである。
ガドリニウム添加セリウム酸化物を構成する金属の塩と、スピネル型Fe複合酸化物を構成する金属の塩と、酸素ガスの酸素イオン化及び酸素イオンの酸素化を促進する触媒と、キレート錯体と、キレート重合剤とを混合して高分子化し、この高分子化した混合相を炭化し、この炭化した混合相の炭素を酸化脱離して上記金属の酸化物を作製し、この酸化物を粉砕し、この粉砕した酸化物を加圧焼成して作製する。
前記触媒は、加圧焼成後に塗布しても良い。ガドリニウム添加セリウム酸化物を構成する金属の塩は、好ましくは、Ce(NO・6HO及びGd(NO・5HO、またはCe(NO・6HO及びGd(OH)であり、スピネル型Fe複合酸化物相を構成する金属の塩は、Fe(NO・9HO、Co(NO・6HO、Ni(NO・6HO、または、Mn(NO・6HOのいずれか1つ、またはこれらの組み合わせであり、触媒はRuまたはNi、またはこれらの組み合わせであり、キレート錯体は無水クエン酸であり、キレート重合剤はエチレングリコールである。
【0011】
この方法によれば、1μm以下の微細粒径を有するガドリニウム添加セリウム酸化物からなる酸素イオン導電相、及びスピネル型Fe複合酸化物からなる電子導電相が形成され、酸素ガスの酸素イオン化及び酸素イオンの酸素化を促進する触媒を有し、これらの相が互いに微細に混合して各々の相が導電ネットワークを形成した複合体型混合導電体を作製することができる。
【0012】
また、本発明の複合体型混合導電体の作製方法の別の概要は以下のとおりである。
プラセオジム添加セリウム酸化物を構成する金属の塩と、スピネル型Fe複合酸化物を構成する金属の塩と、酸素ガスの酸素イオン化及び酸素イオンの酸素化を促進する触媒と、キレート錯体と、キレート重合剤とを混合して高分子化し、この高分子化した混合相を炭化し、この炭化した混合相の炭素を酸化脱離して上記金属の酸化物を作製し、この酸化物を粉砕し、粉砕した酸化物を加圧焼成して作製する。
前記触媒は、加圧焼成後に塗布しても良い。プラセオジム添加セリウム酸化物を構成する金属の塩は、好ましくは、Ce(NO・6HO及びPr(NO・5HO、またはCe(NO・6HO及びPr(OH)であり、スピネル型Fe複合酸化物相を構成する金属の塩は、Fe(NO・9HO、Co(NO・6HO、Ni(NO・6HO、または、Mn(NO・6HOのいずれか1つ、またはこれらの組み合わせであり、触媒はRuまたはNi、またはこれらの組み合わせであり、キレート錯体は無水クエン酸であり、キレート重合剤はエチレングリコールである。
【0013】
この方法によれば、1μm以下の微細粒径を有するプラセオジム添加セリウム酸化物からなる酸素イオン導電相、及びスピネル型Fe複合酸化物からなる電子導電相が形成され、酸素ガスの酸素イオン化及び酸素イオンの酸素化を促進する触媒を有し、これらの相が互いに微細に混合して各々の相が導電ネットワークを形成した複合体型混合導電体を作製することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸素透過性が高く、経時劣化も起こりにくい複合体型混合導電体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は以下の詳細な説明及び本発明の実施例を示す添付図面によって、よりよく理解されるものとなろう。なお、添付図面に示す実施例は本発明を限定することを意図するものではなく、単に本発明の説明及び理解を容易とするためのものである。以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。
【0016】
初めに、本発明の作製方法を説明する。
本発明の作製方法は、液相混合法、別名、Pechini法、あるいは錯体重合法を使用することを特徴としている。この方法によれば、単なる液体状態の混合ではなく、種々の金属元素を重合体の中に閉じ込めることによる原子レベルでの混合状態を得て、引き続く焼成において均一な組成を有する試料を作製することができる。単に硝酸塩や塩化物を水に溶かしただけでは、液体の状態では原子レベルで混合されるが、蒸発に伴い各塩が粒として析出してしまう。液相混合法では錯体(ポリマー)の中に金属元素が閉じ込められるので、液相から固相になっても均一な混合状態が保たれる。本発明では、イオン導電体と電子伝導体を均一にかつ微細に混合する必要があるため、液相混合法を使用する。また、その均一混合性が良いために、一般に、両相が予期しない副次的な反応を引き起こすものであるが、本発明の、ガドリニウム添加セリウム酸化物(組成式:Ce1−xGd2−x/2)相とスピネル型Fe複合酸化物(組成式:MFe、ただし、M=Mn,Fe,Co又はNi)相、または、プラセオジム添加セリウム酸化物(組成式:Ce1−xPr2−x/2)相とスピネル型Fe複合酸化物相では、このような好ましくない副次的な反応が極めて少ない。
【0017】
次に、本発明の作製方法を、M=Coの場合を例にとって詳細に説明する。液相混合法における溶液原料には、キレート錯体配位子として無水クエン酸(Aldrich社製,純度99.5%)、キレート重合剤としてエチレングリコール(Aldrich社製,純度99%)を用いた。また、金属元素としては、Ce(NO・6HO(高純度化学社製,純度99.9%)、Gd(NO・5HO(高純度化学社製,純度99.9%)、Fe(NO・9HO(高純度化学社製,純度99.9%)、Co(NO・6HO(高純度化学社製,純度99.9%)を使用した。
【0018】
まず、所定の組成比となるようにそれぞれの溶液を秤量し、スターラーで混合した。徐々に温度を200℃程度まで上げながら4〜5時間程度攪拌し、高分子化させた。十分に粘性が高くなった段階で、電気炉にて400℃で完全に炭化させた。すなわち、C−C鎖またはC−H鎖を切った。その後、メノウ乳鉢でこれを軽く粉砕し、再び電気炉で700℃にて仮焼し、酸化物相を得た。得られた粉末は油圧式ハンドプレスにてφ20mm×約1mmのペレット状に成型し、その後300MPaにて冷間静水圧プレスした。焼成条件は1300℃、2時間、大気中とした。また、試料としてRu,Niを含有するもの、および表面にNi触媒を塗布したものも作製した。
【0019】
なお、上記説明では、酸素イオン導電相がガドリニウム添加セリウム酸化物相からなる場合の製造方法を説明したが、酸素イオン導電相がプラセオジム添加セリウム酸化物からなる場合の製造方法は、上記のGd硝酸塩にかえて、Pr硝酸塩等を用いればよい。
【0020】
次に、上記製造方法で製造した本発明の複合体型混合導電体の構造について説明する。なお、以後の説明を簡潔にするために、(CeGd1−x)O2−0.5xをGDCと呼び、CoFeをCFOと呼び、GDCに対するCFOの体積組成(体積分率)をxで表す。また、x・vol%のスピネル型酸化物(CFO)を含有する試料をGDC−xCFOと呼ぶ。
【0021】
図1および図2は、1300℃で焼成されたGDC−17CFOの透過電子顕微鏡像を示す図である。GDCの組成は(Ce0.8Gd0.2)O1.9である。
図1において、白い部分が酸素イオン導電相のGDC、黒い部分が電子導電相のCFOである(微少領域組成解析装置により確認した)。GDC、CFOともに0.2〜0.5μmの結晶粒径となっていることがわかる。また、図2において顕著にみられるように、粒子の粒界領域に、約50nmの幅をもつ粒界相の存在が確認される。通常の複合体型混合導電体ではこのような粒界相の生成が混合導電性を阻害するが、本試料においては、この部分は各々10nm程度の超微細なGDCとCFOの混合状態となっていることが確認された。
【0022】
図3はGDC−xCFOの粉末X線回折像を示す図である。
x=16.7,31.4,64.6vol%の三種類の試料の粉末X線回折像を示している。図において、○はCeGd1−x固溶体に起因する回折ピークであり、▼はCoFe(Feスピネル酸化物)に起因する回折ピークである。粉末X線回折の結果から、GDCはCeGd1−x固溶体であり、CFOはCoFe(Feスピネル酸化物)であることが確認された。
なお、1000℃で長時間、空気からの酸素分離またはメタンの部分酸化に使用した後に、GdFeOペロブスカイト型酸化物の微弱な回折ピークが観測されたが、酸素分離またはメタンの部分酸化能力に変化がないことから、この酸化物は混合導電性を阻害しない。
【0023】
次に、試料の電気的特性、及び酸素透過特性を説明する。
電気的特性は、一定酸素分圧中、一定温度中に試料を固定し、試料から電極を引き出して4端子法で測定した。試料の電気特性は、酸素分圧が1〜10−6atmの範囲においてはp型ホール伝導が優勢であり、また、酸素分圧が10−6atm以下の範囲においてはn型電子伝導が優勢である混合導電体であることが確認された。
【0024】
図4は、酸素透過特性の測定に用いた測定系を示す図である。透明石英管1の底部にソーダガラスのリング2を介して、穴を有するセラミックス板3を密封して固定した透過酸素測定部4と、透明石英管1の底部に穴を有するセラミックス板3を固定した大気圧印加部5とを用意し、この両方のセラミックス板3の間に金リング6を介して試料7を固定する。大気圧印加部5側から、アルミナ管8を介して高温の空気を送り込む。アルミナ管8の出口の温度を熱電対9で測定して試料温度とした。Heガス、またはHとArの混合ガスをアルミナ管10を介して導入する。Heを導入した場合は、Heガス流に空気側から試料を透過し混合された酸素量をガスクロマト装置、及び4重極型ガス質量分析装置により分析し、単位時間当たり単位面積当たりの透過酸素分子数、すなわち、酸素透過速度jOを求める。また、HとArの混合ガスを導入した場合は、透過した酸素がHと反応して水になるので、Hの減少量の半分を酸素透過速度jOとした。
【0025】
図5は、本発明のGDC−CFO複合体型混合導電体と従来の複合体型混合導電体との酸素透過特性の比較を示す図である。図において、複合体型混合導電体の種類を、GDCに対するCFOの体積組成と添加触媒の種類で示しており、測定温度は1000℃である。また、図の下段には、従来の複合体型混合導電体の酸素透過特性を示す。
図から明らかなように、本発明のGDC−CFO複合体型混合導電体の酸素透過特性は、従来のものと同等もしくはそれ以上の酸素透過特性を示している。
また、触媒としてNiおよびRuを含有させ、表面にNi触媒を塗布したもの(24CFO−Niおよび24CFO−Ru)はさらに高い酸素透過特性を示した。これに加えて特筆すべきことは、24CFO−Ru試料において、キャリアガスをAr−Hとした場合、酸素透過速度が1.26μmol・cm−2・s−1と、単相型混合導電体に匹敵する酸素透過特性を示した点である。この24CFO−Ru試料は、Ar−H下での酸素透過実験中も化学的・機械的に安定であった。以上のことから、本発明のGDC−CFO複合体は新規な高性能混合導電体・酸素透過膜であることがわかる。
なお、図5において、比較に用いた25GCCとは、酸素イオン導電相GDCに、組成式(Gd1−xCa)CoOで表される電子導電相GCCを体積比で25%混合した複合型混合導電体である。また、25LSMとは、酸素イオン導電相GDCに、組成式(La1−xSr)MnOで表される電子導電相LSMを体積比で25%混合した複合型混合導電体である。
【0026】
図6は本発明の複合体型混合導電体の酸素透過係数を示す図である。ここで用いる酸素透過係数とは、酸素透過流速密度に試料の厚さLを乗算した値であり、膜厚に依存しない透過特性の指標の一つである。用いた試料は、(Ce0.8Gd0.2)O1.9−15vol%MnFeと、(Ce0.8Pr0.2)O1.9−15vol%MnFeである。図において、縦軸は酸素透過係数を示し、横軸は温度を示す。△は(Ce0.8Gd0.2)O1.9−15MnFeの酸素透過係数を示し、○は(Ce0.8Pr0.2)O1.9−15MnFeの酸素透過係数を示す。
【0027】
この図から、プラセオジム添加セリウム酸化物をイオン導電相とする複合体型混合導電体は、ガドリニウム添加セリウム酸化物をイオン導電相とする複合体型混合導電体よりも酸素透過係数が大きいことがわかる。なお、PrはGdよりもコストが低いのでプラセオジム添加セリウム酸化物をイオン導電相とする複合体型混合導電体は実用化上極めて有用である。
【0028】
次に、電子導電相の酸素イオン導電相に対する体積組成について説明する。
図7は本発明の複合体型混合導電体の酸素透過係数の、電子導電相の酸素イオン導電相に対する体積組成依存性を示す図である。測定に用いた試料は、酸素イオン導電相がGDC、電子導電相がMnFeである。横軸は、MnFe相のGDC相に対する体積分率xを示し、縦軸は酸素透過係数を示す。測定温度は800℃、900℃及び1000℃である。
図からわかるように、x=5%から実用可能な酸素透過係数を有しており、1000℃のグラフに見られるようにx=40%を越えると酸素透過係数が急激に小さくなる。従って、電子導電相の酸素イオン導電相に対する好ましい体積組成は5%〜40%の範囲である。
【0029】
次に、本発明の複合体型混合導電体をメタンの部分酸化改質に応用した実施例を示す。初めに、複合体型混合導電体によるメタンの部分酸化改質の有用性について説明する。メタンからの水素製造方法としては、従来技術として水蒸気改質法がある。この反応は次式で与えられる。

【0030】
この水蒸気改質では式(2)で表されるシフト反応を利用することにより1モルのメタンから4モルの水素を製造することが可能であり、現在開発が進められている家庭用固体高分子型燃料電池はこの方式を用いている。しかし、この水蒸気改質法は200kJ/mol程度の大きな吸熱反応であるため、起動性が悪く、反応を維持するために大量の熱を供給する必要がある。これに対し次式(3)で示される部分酸化法は発熱反応であるため、エネルギーミニマムの観点から現在注目されているメタン改質方法である。

【0031】
この方法では、水蒸気改質と同様にシフト反応を用いることにより1モルのメタンから3モルの水素を製造することが可能である。この反応は36kJ/mol程度の発熱反応であり、エネルギー効率、起動性の観点から好ましい改質方法である。しかし、この方法がこれまで水蒸気改質に比べて注目されていなかった理由としては、1)酸化剤として空気を用いると、生成した水素は窒素との混合ガスとなるので水素濃度が低くなること、2)純酸素を酸化剤に利用すると上記1)の問題は改善されるが、純酸素を深冷法などで生成するコストは極めて高いこと、3)メタンと酸化剤を同時に供給するのでその制御が難しく、安全性の観点からも問題があることが挙げられる。これらの従来の部分酸化法の欠点を克服する方法が、酸素透過性膜を用いたメタン部分酸化法である。
【0032】
この方法の概略を図8に示す。このシステムでは空気とメタンを酸素透過性セラミックス(酸素イオンと電子のみが伝導できる混合導電体;酸素イオン・電子混合導電体)を挟んで両側に供給することにより、純酸素がメタン側に供給され、メタン側で部分酸化反応が引き起こされる。特徴としては、1)発熱反応であることに加えて、2)酸素透過性セラミックス膜には電極材料やインターコネクタを必要とせずシステムが単純であること、3)空気から改質に必要な量だけの純酸素が自動的に分離されメタン側に供給されること、さらに、4)酸素透過性セラミックス膜がメタンと空気の隔壁となることが挙げられる。
【0033】
本実施例では、この酸素透過膜に本発明の複合体型混合導電体を用いた。Ar−10%CHガスを供給してメタン部分酸化を行った。用いた本発明の複合体型混合導電体はGDC−15MnFeである。
図9は本発明の複合体型混合導電体によるメタン部分酸化特性を示し、(a)はメタン部分酸化中のCH、H及びCOの濃度変化を示す図であり、横軸はメタン部分酸化時間を示しており、左の縦軸はCH、H及びCOの濃度を示し、右の縦軸は酸素透過速度jOを示す。なお、メタン部分酸化は図中に示しているように、温度を800℃から1000℃まで段階的に上昇させて行った。図9(b)は上記のメタン部分酸化中におけるH/CO濃度比及びH、COの選択率(Selectivity)を示す図である。左の縦軸はH/CO濃度比を示し、右の縦軸は選択率を示す。
【0034】
図9(a)より、本発明のGDC−15MnFe複合体型混合導電体は、1000℃において既存材料中で最高の酸素透過速度を示すLa−Sr−Ga−Fe系ペロブスカイト型酸化物に匹敵する7μmol・cm−−1の高い酸素透過量を示し、800℃においても2μmol・cm−2−1と良好な特性を示していることがわかる。この1000℃における酸素透過量流束密度は電流密度に換算すると2.7A/cmに達する。また、図9(b)のH/CO比、及びHとCOの選択率がいずれも90%を越えることから上記式(3)で示したメタン部分酸化反応が主に生じていることがわかる。また、H/CO比が理論値の2より高く2.3〜2.4を示すことから、式(3)に示した部分酸化反応に加えて、上記式(2)で示したシフト反応も生じていると考えられる。
また、本実施例は上図から明らかなように、800〜1000℃において約1時間連続して動作させたが、動作中及び動作後において特性の劣化が見られず、また、相の分解やクラックも発生しなかった。このことから、本発明の複合体型混合導電体は、化学的・熱的にも十分な安定性を有しており、劣化が生じない複合体型混合導電体である。
【0035】
以上、本発明の例示的な実施例について説明したが、本発明の要旨及び範囲を逸脱することなく、実施例での種々の変更、省略、追加が可能である。従って、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された要素によって規定される範囲及びその均等範囲を包含するものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
上記説明から理解されるように、本発明の複合体型混合導電体は高い酸素透過特性を有し、また経時劣化も起こりにくいので、メタン改質による水素製造に加えて、固体電解質型燃料電池の電極材料にも応用することができる。また、空気側を加圧することにより酸素分圧勾配を付与すれば、空気からの酸素分離が可能であることから純酸素や酸素冨化ガスの生成装置に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のGDC−CFO複合体型混合導電体の透過電子顕微鏡像を示す図である。
【図2】本発明のGDC−CFO複合体型混合導電体の透過電子顕微鏡像を示す図である(高倍率)。
【図3】GDC−xCFOの粉末X線回折像を示す図である。
【図4】酸素透過特性の測定に用いた測定系を示す図である。
【図5】本発明の複合体型混合導電体の酸素透過特性を示す図である。
【図6】本発明の複合体型混合導電体の酸素透過係数を示す図である。
【図7】本発明の複合体型混合導電体の酸素透過係数の、電子導電相の酸素イオン導電相に対する体積組成依存性を示す図である。
【図8】メタン部分酸化法の概略を示す図である。
【図9】本発明の複合体型混合導電体によるメタン部分酸化特性を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1:透明石英管
2:ソーダガラスのリング
3:セラミック板
4:透過酸素測定部
5:大気圧印加部
6:金リング
7:試料
8:アルミナ管
9:熱電対
10:アルミナ管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン導電相及び電子導電相の各相が相互に混合されてなり、
上記酸素イオン導電相がガドリニウム添加セリウム酸化物(組成式:Ce1−xCd2−x/2、ただし0<x<0.5)からなり、
上記電子導電相がスピネル型Fe複合酸化物(組成式:MFe、ただし、M=Mn,Fe,Co又はNi)からなる、複合体混合導電体。
【請求項2】
酸素イオン導電相及び電子導電相の各相が相互に混合されてなり、
酸素イオン導電相がプラセオジム添加セリウム酸化物(組成式:Ce1−xPr2−x/2、ただし0<x<0.5)からなり、電子導電相がスピネル型Fe複合酸化物(組成式:MFe、ただし、M=Mn,Fe,Co又はNi)からなる、複合体型混合導電体。
【請求項3】
前記酸素イオン導電相は、酸素ガスの酸素イオン化及び酸素イオンの酸素化を促進する触媒を含有しているか、上記触媒が塗布されているか、または上記触媒を含有しかつ上記触媒が表面に塗布されている、請求項1又は2に記載の複合体型混合導電体。
【請求項4】
前記触媒は、RuまたはNi、またはこれらの組み合わせである、請求項3に記載の複合体型混合導電体。
【請求項5】
前記酸素イオン導電相及び電子導電相は、それぞれ1μm以下の微細粒径を有し、上記各々の相が互いに均一に混合し、上記各相がそれぞれ導電ネットワークを形成している、請求項1〜4のいずれかに記載の複合体型混合導電体。
【請求項6】
前記電子導電相の酸素イオン導電相に対する体積組成は、5%から40%である、請求項1〜5のいずれかに記載の複合体型混合導電体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−87944(P2009−87944A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292866(P2008−292866)
【出願日】平成20年11月15日(2008.11.15)
【分割の表示】特願2003−582095(P2003−582095)の分割
【原出願日】平成15年4月8日(2003.4.8)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】