説明

複合弁

【課題】小流量時の流量制御精度の向上と制御可能流量の増大化(圧力損失の低減化)との両立を図るべく、かつ、作動不良を引き起こし難い複合弁を提供する。
【解決手段】小流量制御用の第2弁体24のリフト量が所定量以下のときは、パイロット弁体27によりパイロット通路19が閉じられるとともに、大流量制御用の第1弁体15により第1弁口13が閉じられて、第2弁体24のリフト量に応じて流量が制御される小流量制御状態をとり、第2弁体24のリフト量が所定量を超えると、弁軸25の上昇に伴ってパイロット弁体27が上昇せしめられてパイロット通路19を開き、これに伴い第1弁体15が第1弁口13を開く大流量制御状態をとるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ式冷暖房システム等に使用するのに好適な複合弁に係り、特に、パイロット式の大流量用制御弁と小流量用制御弁とを備えた複合弁に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプ式冷暖房システムとしては、圧縮機、凝縮器、蒸発器、膨張弁及び冷媒流路反転用の四方弁を備えたものが古くから良く知られている。
【0003】
一方、車両用(例えば電気自動車用)のヒートポンプ式冷暖房システムとして、例えば特許文献1の図1に示されるように、冷媒の流れを反転させず、また冷房用膨張弁及び暖房用膨張弁を個別に備えたシステムが提案されている。
【0004】
このようなシステムでは冷媒の流れを反転させないので、例えば同文献の図1に示された暖房用膨張弁(同文献の符号24)に着目すると、この暖房用膨張弁には冷房用電磁弁(同文献の符号26)が並列に設けられ、暖房時には冷房用電磁弁を閉じて暖房用膨張弁により冷媒を絞って暖房を行い、冷房時には上記冷房用電磁弁を開として暖房用膨張弁の入出口をバイパスさせ、該膨張弁に冷媒の絞りを行わせないようなシステムとなっている。
【0005】
ところで、これらの膨張弁及びバイパス用の電磁弁をそれぞれ設けるとシステムが大型化すると共に、消費電力が大きくなる等のおそれがある。
【0006】
そこで、これらの機能を一つの電動弁で達成することが考えられる。すなわち、例えば暖房時には電動弁により冷媒を絞り、冷房時には電動弁を全開とすれば良いことになる。
【0007】
ここで、図8を用いて従来の電動弁の一例を説明する。
図示例の電動弁1’は、下部大径部25aと上部小径部25bを有する弁軸25と、弁室41を有する弁本体40と、この弁本体40にその下端部が密封接合されたキャン60と、このキャン60の内周に所定の間隙αをあけて配在されたロータ30と、このロータ30を回転駆動すべく前記キャン60に外嵌されたステータ50Aと、を備えている。
【0008】
前記弁軸25は、その下部大径部25aの下端部に特定形状(それぞれ所定の中心角を持つ二段の逆円錐台状)の弁体部44が一体に設けられており、本電動弁1’では、この弁体部44のリフト量を変化させることにより冷媒の通過流量を制御するようになっている。
【0009】
前記弁本体40の弁室41には、その下部に前記弁体部44が接離する弁口(オリフィス)43付き弁座42が設けられるとともに、その側部に第1入出口5’が開口せしめられ、また、弁本体40の下部には、前記弁口43に連なって第2入出口6’が設けられている。
【0010】
前記ステータ50Aは、ヨーク51、ボビン52、ステータコイル53、及び樹脂モールドカバー56等で構成され、前記ロータ30やステータ50A等でステッピングモータ50が構成され、該ステッピングモータ50や後述する送りねじ(雌ねじ部38、雄ねじ部48)等で前記弁口43に対する弁体部44のリフト量(=開度)を調整するための昇降駆動機構が構成される。
【0011】
前記ロータ30には、支持リング36が一体的に結合されるとともに、この支持リング36に、ガイドブッシュ46の外周に配在された下方開口で筒状の弁軸ホルダ32の上部突部が例えばかしめ固定され、これにより、ロータ30、支持リング36及び弁軸ホルダ32が一体的に連結されている。
【0012】
また、弁本体40の上部に設けられた嵌合穴49には、筒状のガイドブッシュ46の下端部が圧入固定され、このガイドブッシュ46には弁軸25(の下部大径部25a)が摺動自在に内挿されている。また、前記ロータ30の回転を利用して前記弁軸25(弁体部44)を昇降させるべく、前記ガイドブッシュ46の外周に雄ねじ部48が形成され、前記弁軸ホルダ32の内周には雌ねじ部38が形成されており、それら雄ねじ部48と雌ねじ部38とで送りねじが構成されている。
【0013】
また、前記ガイドブッシュ46の上部小径部46bが弁軸ホルダ32の上部に内挿されるとともに、弁軸ホルダ32の天井部中央(に形成された通し穴)に弁軸25の上部小径部25bが挿通せしめられている。弁軸25の上部小径部25bの上端部にはプッシュナット33が圧入固定されている。
【0014】
また、前記弁軸25は、該弁軸25の上部小径部25bに外挿され、かつ、弁軸ホルダ32の天井部と弁軸25における下部大径部25aの上端段丘面との間に縮装された圧縮コイルばねからなる閉弁ばね34によって、常時下方(閉弁方向)に付勢されている。弁軸ホルダ32の天井部上でプッシュナット33の外周には、弁軸25が開弁方向に移動して雌ねじ部38及び雄ねじ部48の螺合が外れた場合にこれを復帰させるためのコイルばねからなる復帰ばね35が設けられている。
【0015】
前記ガイドブッシュ46には、前記ロータ30が所定の閉弁位置まで回転下降せしめられた際、それ以上の回転下降を阻止するための回転下降ストッパ機構の一方を構成する下ストッパ体(固定ストッパ)47が固着され、弁軸ホルダ32には前記ストッパ機構の他方を構成する上ストッパ体(移動ストッパ)37が固着されている。
【0016】
なお、前記閉弁ばね34は、弁体部44が弁口43に着座する閉弁状態において所要のシール圧を得るため(漏れ防止)、及び、弁体部44が弁口43に衝接した際の衝撃を緩和するために配備されている。
【0017】
このような構成とされた電動弁1’にあっては、モータ50(ステータ50A)に第1態様で通電励磁パルスを供給することにより、弁本体40に固定されたガイドブッシュ46に対し、ロータ30及び弁軸ホルダ32が一方向に回転せしめられ、ねじ部48、38のねじ送りにより、例えば弁軸ホルダ32が下方に移動して弁体部44が弁座42に押し付けられて弁口43が閉じられる。
【0018】
弁口43が閉じられた時点では、上ストッパ体37は未だ下ストッパ体47に衝接しておらず、弁体部44が弁口43を閉じたままロータ30及び弁軸ホルダ32はさらに回転下降する。この場合、弁軸25(弁体部44)は下降しないが、弁軸ホルダ32は下降するため、閉弁ばね34が所定量圧縮せしめられ、その結果、弁体部44が弁座43に強く押し付けられるとともに、弁軸ホルダ32の回転下降により、上ストッパ体37が下ストッパ体47に衝接し、その後ステータ50Aに対するパルス供給が続行されても弁軸ホルダ32の回転下降は強制的に停止される(全閉状態)。
【0019】
一方、この全閉状態からステータ50Aに第2態様で通電励磁パルスを供給すると、弁本体40に固定されたガイドブッシュ46に対し、ロータ30及び弁軸ホルダ32が前記と逆方向に回転せしめられ、ねじ部48、38のねじ送りにより、今度は弁軸ホルダ32が上方に移動する。この場合、弁軸ホルダ32の回転上昇開始時点(パルス供給開始時点)では、閉弁ばね34が前記のように所定量圧縮せしめられているので、閉弁ばね34が前記所定量分伸長するまでは、前記弁体部44が弁座42からは離れず閉弁状態(リフト量=0)のままである。そして、閉弁ばね34が前記所定量分伸長した後、弁軸ホルダ32がさらに回転上昇せしめられると、前記弁体部24が弁座42から離れて弁口43が開かれ、冷媒が弁口43を通過する。
【0020】
この場合、ロータ30の回転量により弁体部44のリフト量、言い換えれば、弁口43の実効開口面積(=開度)を任意にきめ細かく調整することができ、ロータ30の回転量は供給パルス数により制御されるため、冷媒流量を高精度に制御することができる。
【0021】
したがって、かかる構成の電動弁1’を特許文献1に示されたような膨張弁及びバイパス弁の両機能を有する電動弁として採用する場合には、例えば冷房運転時はバイパス弁の機能を達成すべく圧力損失を可及的に低減するように最大開度(最大リフト量)とされ、例えば暖房運転時は膨張弁の機能を達成すべくその開度(リフト量)を調整し、弁開度すなわち冷媒流量をきめ細かく制御するようにされる。
【0022】
ところが、当該電動弁1’をバイパス弁として機能させるには、圧力損失を最小限とする必要があり、この場合、その弁口径を当該ヒートポンプ式冷暖房サイクルの配管径と同一又はそれ以上の弁口径とする必要がある。例えば配管径が10mmであるとすれば、それ以上の弁口径が必要である。
【0023】
この結果、駆動用アクチュエータに大きなトルクを要することになり、当該電動弁が大型化すると共に、消費電力が大きくなる。
【0024】
一方で、当該電動弁1’を膨張弁として機能させるためには、その流量制御の分解能を上げる必要があるが、この場合、暖房運転時の微小流量制御状態から全開(流路バイパス状態)に至るまでに長時間がかかり、また、小流量制御時の開口隙間(弁体部と弁口との間の隙間)が非常に狭くなってその隙間に異物等が噛み込む恐れもある。
【0025】
そこで、小流量時の流量制御精度の向上と制御可能流量の増大化(圧力損失の低減化)との両立、及び小流量時から最大開度へ至るまでの時間の短縮を図るべく、下記特許文献2には、パイロット式の大流量用第1制御弁(第1弁体、第1弁口)と小流量用第2制御弁(第2弁体、第2弁口)を設けること、より詳細には、ピストン型の第1弁体により大口径の第1弁口を開閉し、該第1弁体とは別体の、弁軸の下部に設けられたニードル型の第2弁体により小口径の第2弁口を開閉するようになし、かつ、前記小流量用第2制御弁を大流量用第1制御弁のパイロット弁としても働かせるようにした複合弁が開示されている。
【0026】
この複合弁では、前記弁軸(第2弁体)のリフト量が所定量以下のとき(第2制御弁開度が所定値以下のとき)は、第1弁体が第1弁口を閉じ、第2弁体により小流量用第2制御弁開度が制御される小流量制御状態となる。このときは、第2弁体のリフト量(第2制御弁開度)に応じた量の冷媒が、流入口→第1弁室→第1弁体外周面と第1弁室壁面との間に形成される摺動面間隙→背圧室→パイロット通路→第2弁室→第2弁口→流出通路→流出口へと流れる。そして、前記弁軸(第2弁体)のリフト量が前記所定量を超えると、背圧室から第2弁口を介して流出する冷媒量が小流量制御時より増加し、背圧室の圧力が下がり、やがて第1弁体に作用する閉弁力より開弁力の方が大きくなって第1弁体が第1弁口を開き、冷媒が流入口→第1弁室→第1弁口→流出口へと流れる大流量制御状態となる。
【0027】
このように、第1弁体により大口径の第1弁口を開閉し、第2弁体により小口径の第2弁口を開閉するようになし、かつ、第2弁体を大流量用第1制御弁のパイロット弁としても働かせるようにすることにより、小流量時の流量制御精度の向上と制御可能流量の増大化(圧力損失の低減化)との両立、及び低消費電力を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特許第3799732号公報
【特許文献2】特許第4416528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかしながら、前記特許文献2に所載の複合弁では、単一の小流量用第2制御弁に小流量時用の制御弁と大流量用第1制御弁に対するパイロット弁の役目を担わせているため、次のような改善すべき課題があった。すなわち、小流量制御から大流量制御に切り換えるには、小流量用第2制御弁を通過する冷媒流量を小流量制御時より大幅に増大させる必要があるため、第2弁口の口径(実効開口面積)等を、小流量制御に必要とされる口径等よりも相当大きく設定する必要がある。そのため、動作負荷の増大、駆動部(モータ部分)や弁本体の大型化を招きやすくなり、また、小流量用第2制御弁の寸法形状等を小流量制御に最適なものに設定できず、小流量制御時の流量制御精度をさほど高くすることができない等の問題があった。
【0030】
さらに、大流量用第1制御弁の開閉が、微妙に変化する第2弁体のリフト量に依存しているため、大流量用第1制御弁の開閉が所望のタイミングで行われないことが少なからずあり、また、小流量制御時においては、冷媒が第1弁体の摺動面間隙→背圧室→パイロット通路を介して流されるので、冷媒中に混入した微小異物による作動不良(例えば前記摺動面間隙に微小異物を噛み込んで第1弁体がロックしてしまうこと等)を引き起こやすいといった問題もある。
【0031】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、小流量時の流量制御精度の向上と制御可能流量の増大化(圧力損失の低減化)との両立を図るべく、パイロット式の大流量用第1制御弁と小流量用第2制御弁とを備え、小流量用第2制御弁の寸法形状等を小流量制御に最適なものに設定することができるとともに、大流量用第1制御弁の開閉を所望のタイミングで確実に行うことができ、かつ、作動不良を引き起こし難い複合弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0032】
前記の目的を達成すべく、本発明に係る複合弁は、基本的には、ピストン型の第1弁体と、ニードル型の第2弁体が設けられた弁軸と、該弁軸を昇降させるための昇降駆動手段と、前記弁軸の昇降動作を利用して開閉駆動される大流量用第1制御弁用パイロット弁体と、流入口及び流出口が設けられた弁本体と、を備え、前記弁本体における前記流入口と流出口との間に、前記第1弁体が摺動自在に嵌挿されるとともに、該第1弁体により背圧室と第1弁室とに仕切られた嵌挿室と、前記第1弁室に開口する第1弁口と、前記パイロット弁体及び第2弁体が昇降可能に配在された第2弁室と、前記流入口ないし第1弁室と前記第2弁室とを連通する第2弁口と、前記背圧室と前記第2弁室とを連通するパイロット通路と、が設けられ、前記第2弁体のリフト量が所定量以下のときは、前記パイロット弁体により前記パイロット通路が閉じられるとともに、前記第1弁体により前記第1弁口が閉じられ、前記第2弁体のリフト量に応じて流量が制御される小流量制御状態をとり、前記第2弁体のリフト量が前記所定量を超えると、前記弁軸の上昇に伴って前記パイロット弁体が上昇せしめられて前記パイロット通路を開き、これに伴い前記第1弁体が前記第1弁口を開く大流量制御状態をとるように構成される。
【0033】
好ましい態様では、前記パイロット弁体は、前記弁軸における前記第2弁体より上側に摺動自在に外挿されるとともに、前記パイロット通路を閉じるべくばね部材により下方に付勢され、かつ、前記第2弁体のリフト量が前記所定量からさらに増大せしめられると、前記弁軸に設けられた引っ掛け部により前記ばね部材の付勢力に抗して引き上げられるようにされる。
【0034】
他の好ましい態様では、前記第1弁体に、前記第1弁室と前記背圧室とを連通する均圧孔が設けられる。
【0035】
他の好ましい態様では、前記第1弁体と前記第2弁体とは共に縦向きに配在されるとともに、相互に所定距離だけ横方向に離隔せしめられる。
【0036】
他の好ましい態様では、前記第1弁体は横向き、前記第2弁体は縦向きに配在される。
他の好ましい態様では、前記弁軸と前記第2弁体と前記第1弁体とが同一軸線上に配在される。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る複合弁では、大流量用第1制御弁(第1弁体、第1弁口)と小流量用第2制御弁(第2弁体、第2弁口)とに加えて、第2弁体とは別体のパイロット弁体を備え、このパイロット弁体を弁軸の昇降動作を利用して開閉駆動するようにされているので、小流量用第2制御弁(第2弁体、第2弁口)の寸法形状等を小流量制御に最適なものに設定することができるとともに、大流量用第1制御弁の開閉を所望のタイミングで確実に行うことができ、さらに、小流量制御時には、冷媒を従来のもののように摺動面間隙等の狭小部分を通すことなく流すようにされているので作動不良を引き起こし難くでき、その結果、動作負荷の増大、駆動部(モータ部分)や弁本体の大型化を招くことなく、小流量時の流量制御精度の向上と制御可能流量の増大化(圧力損失の低減化)との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る複合弁の第1実施例における第1の動作状態(全閉状態)を示す主要部縦断面図。
【図2】本発明に係る複合弁の第1実施例における第2の動作状態(小流量制御状態)を示す主要部縦断面図。
【図3】本発明に係る複合弁の第1実施例における第3の動作状態(小流量制御から大流量制御への切り換え直前状態)を示す主要部縦断面図。
【図4】本発明に係る複合弁の第1実施例における第4の動作状態(大流量制御状態)を示す主要部縦断面図。
【図5】本発明に係る複合弁の第2実施例における全閉状態を示す主要部縦断面図。
【図6】図5のX−X断面図。
【図7】本発明に係る複合弁の第3実施例における全閉状態を示す主要部縦断面図。
【図8】従来の電動弁の一例を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0040】
図1〜図4は、本発明に係る複合弁の第1実施例を示す主要部拡大断面図であり、各図は異なる動作状態を示している。図示実施例の複合弁1のステッピングモータ50部分は、図8に示される従来の電動弁1’のものとほぼ同じであるので、該部分は省略している。
【0041】
図示第1実施例の複合弁1は、小流量時の流量制御精度の向上と制御可能流量の増大化(圧力損失の低減化)との両立を図るべく、直方体状の弁本体10と、パイロット式の大流量用第1制御弁4A(第1弁体15、第1弁口13)と、小流量用第2制御弁4B(第2弁体24、第2弁口23)と、大流量用第1制御弁4Aに対するパイロット弁4C(パイロット弁体27、パイロット通路19)を備え、大流量用第1制御弁4Aと小流量用第2制御弁4Bとは共に縦向きに配在されるとともに、相互に所定距離だけ横方向に離隔せしめられている。
【0042】
詳細には、弁本体10は、一側中央付近に流入口5が設けられるとともに、他側下部に流出口6が設けられ、上部やや右寄りには上面開口の段付き凹穴7が設けられ、該凹穴7の下側で前記流入口5の右隣には下面開口の段付き下向き縦穴8が設けられている。
【0043】
前記段付き凹穴7の上半部には、図8に示された前記従来の電動弁1’における弁本体40の上部に相当するブッシュ保持体28が例えば螺合により固定され、凹穴7におけるブッシュ保持体28の下半部に設けられた天井面付き円筒部28bより下側には第2弁室21が画成され、また、凹穴7の底部中央には、前記モータ50により昇降駆動される弁軸25の下部に設けられた第2弁体24が接離する、小口径の第2弁口23付き第2弁座22が設けられている。第2弁口23は縦方向に延設され、その下部が後述する第1弁室11に合体されている。また、凹穴7の底部には、第2弁室21と流出口6とを連通する流出通路29の上端が開口せしめられている。
【0044】
また、前記弁軸25における前記第2弁体24より上側には、小径円筒部27aと大径円筒部27bを有しその下面が開口したパイロット弁体27(の上辺部27c)が摺動自在に外挿されている。このパイロット弁体27は、後述する第1弁体15を開閉方向に移動させるべく、その大径円筒部27の円環状下端面により、前記下向き縦穴8(後述する背圧室16)と前記第2弁室21とを連通するパイロット通路19を開閉するもので、ブッシュ保持体28の円筒部28bの天井面と大径円筒部27bとの間に縮装された圧縮コイルばねからなるパイロット閉弁ばね26により下方に付勢され、かつ、前記弁軸25のリフト量が所定量Tcを超えると、弁軸25に設けられた鍔状引っ掛け部25gにより前記パイロット閉弁ばね26の付勢力に抗して引き上げられて前記パイロット通路19を開くようにされている。言い換えれば、パイロット弁体27は弁軸25の昇降動作を利用して開閉駆動されるようになっている。
【0045】
前記段付き下向き縦穴8における流入口5より若干下側には、大口径の第1弁口13付き弁座12を有する弁座部材12Aが螺合、あるいはその他の適宜の手法により固定されている。また、下向き縦穴8の下部は前記流出口6が開口せしめられ、その下端部は盲蓋9で閉塞されている。
【0046】
前記下向き縦穴8における弁座部材12Aより上側は、ピストン型の第1弁体15(の大径部15a)が摺動自在に嵌挿される天井面14a付き嵌挿室14とされ、この嵌挿室14における第1弁体15(の大径部15a)より上側に背圧室16が画成されるとともに、第1弁体15(の大径部15a)より下側に第1弁室11が画成されている。
【0047】
第1弁体15は、大径部15aと小径部15bとを有する断面ボビン状外形を有し、その下端部に大流量用第1制御弁座12に離接して第1弁口13を開閉する、ゴムあるいはテフロン(登録商標)等からなる円環状のシール材15cがかしめ等の適宜の手法により固定され、その上端面部には、嵌挿室14の天井面に接当して第1弁体15の上方移動限界を定める短円筒状の横孔15i付きストッパ15dが突設され、また、大径部15aの外周にはシール材(ピストンリング)15fが装着されている。
【0048】
また、第1弁体15を下方(閉弁方向)に付勢すべく、第1弁体15の上部中央に設けられたばね受け穴15hの底面と嵌挿室14の天井面14aとの間に圧縮コイルばねからなる第1閉弁ばね18が縮装されている。
【0049】
さらに、第1弁体15の小径部15bには横貫通路15gが設けられるとともに、その中央部には、横貫通路15gを介して第1弁室11と背圧室16とを連通するための均圧孔17が設けられている。
【0050】
なお、横貫通路15gは必ずしも必要ではなく(第1弁室11が狭い場合は有効)、均圧孔17を例えば小径部15bの側面とばね受穴15hに開口するように設け、これで直接第1弁室11と背圧室16とを連通させるようにしてもよい。
【0051】
ここで、本実施例の複合弁1において、第1弁室11の圧力をP1、背圧室16の圧力をP2、第1弁口13の圧力をP3、背圧室16の水平断面積(第1弁体15の受圧面積)をAp、第1弁口13の水平断面積をAv、第1開弁ばね18の付勢力をPfとし、第1弁体15を押し上げる力を開弁力、第1弁体15を押し下げる力を閉弁力とすれば、大流量用第1制御弁の開弁条件は、
閉弁力=P2×Ap+Pf < 開弁力=P1×(Ap−Av)+P3×Av
となる。
【0052】
このような構成とされた複合弁1においては、図1に示される如くに、第1弁体15、第2弁体24及びパイロット弁体27が共に閉状態にあるときには、流入口5から第1弁室11に導入された高圧の冷媒は、横貫通路15g及び均圧孔17を介して背圧室16に導入され、背圧室16の圧力が高圧となるので、第1弁体15が第1弁座12に強く押し付けられる。
【0053】
この状態から、モータ50にパルス供給を行って弁軸25すなわち第2弁体24を上昇させると、図2、図3に示される如くに、第2弁口23が開かれる。この場合、第2弁体24のリフト量が所定量Tc以下のときは、パイロット弁体27によりパイロット通路19が閉じられるとともに、第1弁体15により第1弁口13が閉じられており、第2弁体24のリフト量に応じて冷媒流量(第2制御弁開度)が制御される小流量制御状態となる。この小流量制御状態では、第2弁体24のリフト量に応じた量の冷媒が、流入口5→第1弁室11→第2弁口23→第2弁室21(パイロット弁4Cの内側)→流出通路29→流出口6へと流れる。
【0054】
そして、前記第2弁体24のリフト量が前記所定量Tcを超えると、図4に示される如くに、パイロット弁体27が弁軸25に設けられた鍔状引っ掛け部25gにより閉弁ばね26の付勢力に抗して引き上げられ、これによって、パイロット通路19が開かれ、背圧室16から冷媒がパイロット通路19を介して第2弁室21に導入され、ここから流出通路29を介して流出口6に導かれる。これにより、背圧室16の圧力が下がり、やがて第1弁体15に作用する閉弁力より開弁力の方が大きくなって第1弁体15が第1弁口13を開き、冷媒が流入口5→第1弁室11→第1弁口13→流出口6へと流れる大流量制御状態となる。
【0055】
以上の説明から理解されるように、本実施例の複合弁1では、大流量用第1制御弁4A(第1弁体15、第1弁口13)と小流量用第2制御弁4B(第2弁体24、第2弁口23)とに加えて、第2弁体24とは別体のパイロット弁体27を備え、このパイロット弁体27を弁軸25の昇降動作を利用して開閉駆動するようにされているので、小流量用第2制御弁4B(第2弁体24、第2弁口23)の寸法形状等を小流量制御に最適なものに設定することができるとともに、大流量用第1制御弁4Aの開閉を所望のタイミングで確実に行うことができ、さらに、小流量制御時には、冷媒を従来のもののように摺動面間隙等の狭小部分を通すことなく流すようにされているので作動不良を引き起こし難くでき、その結果、動作負荷の増大、駆動部(モータ部分)や弁本体の大型化を招くことなく、小流量時の流量制御精度の向上と制御可能流量の増大化(圧力損失の低減化)との両立を図ることができる。
【0056】
なお、本発明に係る複合弁は、上記した第1実施例の複合弁1の構成に限られないことは勿論であり、様々な変更を加えることができる。
【0057】
例えば、上記実施例においては、第1弁室11と背圧室16とを連通させるために、第1弁体15に均圧孔17が設けられるものとして説明したが、本発明はこれのみに限定されることはなく、第1弁体15の大径部15a外周に設けられたピストンリング15fと嵌挿室14との間に微少な隙間を設け、この隙間を介して第1弁室11内の冷媒を背圧室16に導入するようにしても良い。
【0058】
また例えば、上記第1実施例では、第1弁体15と第2弁体24とは共に縦向きに配在されるとともに、相互に所定距離だけ横方向に離隔せしめられているが、図5、図6に示される第2実施例の複合弁2のように、第1弁体15を横向き、第2弁体24を縦向きに配在してもよく、また、図7に示される第3実施例の複合弁3のように、弁軸25と第2弁体24と第1弁体15とを同一軸線(弁軸25の回転軸線O)上に配在してもよい。
【0059】
なお、図5、図6に示される第2実施例の複合弁2並びに図7に示される第3実施例の複合弁3において、図1〜図4に示される第1実施例の複合弁1の各部に対応する部分には同一の符号が付されている。この場合、第2実施例の複合弁2においては、第1実施例の複合弁1における下向き縦穴8が右向き横穴8’となっており、また、弁座部材12A’と盲蓋9’とは一体化されている。
【0060】
また、本発明の複合弁は、ヒートポンプ式冷暖房システムに適用されるだけでなく、いかなるシステムのいかなる用途に適用されても良いことは当然である。
【符号の説明】
【0061】
1、2、3 複合弁
4A 大流量用第1制御弁
4B 小流量用第2制御弁
4C パイロット弁
5 流入口
6 流出口
10 弁本体
11 第1弁室
13 第1弁口
14 嵌挿室
15 第1弁体
16 背圧室
17 均圧孔
18 第1閉弁ばね
19 パイロット通路
21 第2弁室
23 第2弁口
24 第2弁体
25 弁軸
25g 鍔状引っ掛け部
26 第2閉弁ばね
27 パイロット弁体
30 ロータ
50 ステッピングモータ
50A ステータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン型の第1弁体と、ニードル型の第2弁体が設けられた弁軸と、該弁軸を昇降させるための昇降駆動手段と、前記弁軸の昇降動作を利用して開閉駆動されるパイロット弁体と、流入口及び流出口が設けられた弁本体と、を備え、
前記弁本体における前記流入口と流出口との間に、前記第1弁体が摺動自在に嵌挿されるとともに、該第1弁体により背圧室と第1弁室とに仕切られた嵌挿室と、前記第1弁室に開口する第1弁口と、前記パイロット弁体及び第2弁体が昇降可能に配在された第2弁室と、前記流入口ないし第1弁室と前記第2弁室とを連通する第2弁口と、前記背圧室と前記第2弁室とを連通するパイロット通路と、が設けられ、
前記第2弁体のリフト量が所定量以下のときは、前記パイロット弁体により前記パイロット通路が閉じられるとともに、前記第1弁体により前記第1弁口が閉じられ、前記第2弁体のリフト量に応じて流量が制御される小流量制御状態をとり、前記第2弁体のリフト量が前記所定量を超えると、前記弁軸の上昇に伴って前記パイロット弁体が上昇せしめられて前記パイロット通路を開き、これに伴い前記第1弁体が前記第1弁口を開く大流量制御状態をとるように構成された複合弁。
【請求項2】
前記パイロット弁体は、前記弁軸における前記第2弁体より上側に摺動自在に外挿されるとともに、前記パイロット通路を閉じるべくばね部材により下方に付勢され、かつ、前記第2弁体のリフト量が前記所定量からさらに増大せしめられると、前記弁軸に設けられた引っ掛け部により前記ばね部材の付勢力に抗して引き上げられるようにされていることを特徴とする請求項1に記載の複合弁。
【請求項3】
前記第1弁体に、前記第1弁室と前記背圧室とを連通する均圧孔が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合弁。
【請求項4】
前記第1弁体と前記第2弁体とは共に縦向きに配在されるとともに、相互に所定距離だけ横方向に離隔せしめられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合弁。
【請求項5】
前記第1弁体は横向き、前記第2弁体は縦向きに配在されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合弁。
【請求項6】
前記弁軸と前記第2弁体と前記第1弁体とが同一軸線上に配在されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−202499(P2012−202499A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68451(P2011−68451)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(391002166)株式会社不二工機 (451)
【Fターム(参考)】