説明

複合強化繊維束の製造方法およびそれを用いた成形材料

【課題】強化繊維束への含浸性が良好であり、かつボイドが少なく、成形時の揮発分が少ない複合強化繊維束を製造することを目的とする。また、複合強化繊維束を用いた成形材料であって、成形品中への繊維分散が良好である成形品を製造できる成形材料を提供することを目的とする。
【解決手段】強化繊維束(A)50〜87質量%に、特定の条件を満たすエポキシ樹脂(B)13〜50質量%を含浸させてなる複合強化繊維束の製造方法であって、成分(A)に成分(B)を供給し、成分(B)を100〜300℃の溶融状態で成分(A)と接触させる工程(I)と、成分(B)と接触している成分(A)を加熱して成分(B)の供給量の80〜100質量%を成分(A)に含浸させる工程(II)を有する複合強化繊維束の製造方法、およびその方法で製造される複合強化繊維束に、熱可塑性樹脂(C)が接着されている成形材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合強化繊維束の製造方法およびそれを用いた成形材料に関する。さらに詳しくは、強化繊維束への樹脂の含浸性が良好であり、かつボイドの少なく、成形時に揮発分の少ない複合強化繊維束を得ることができる複合強化繊維束の製造方法およびそれを用いた成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と熱可塑性樹脂からなる成形材料は、軽量で優れた力学特性を有するために、スポーツ用品用途、航空宇宙用途および一般産業用途に広く用いられている。これらの成形材料に使用される強化繊維は、その使用用途によって様々な形態で成形品を強化している。これらの強化繊維には、アルミニウム繊維やステンレス繊維などの金属繊維、アラミド繊維やPBO繊維などの有機繊維、およびシリコンカーバイド繊維などの無機繊維や炭素繊維などが使用されているが、比強度、比剛性および軽量性のバランスの観点から炭素繊維が好適であり、その中でもポリアクリロニトリル系炭素繊維が好適に用いられる。
【0003】
さらに、連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂をマトリックスとする成形材料として、熱可塑性のプリプレグ、ヤーン、ガラスマット(GMT)など多種多様な形態が公知である。このような成形材料は、熱可塑性樹脂の特性を活かして成形を容易にし、熱硬化性樹脂のような貯蔵の負荷を必要とせず、また得られる成形品の靭性が高く、リサイクル性に優れるといった特徴がある。とりわけ、ペレット状に加工した成形材料は、射出成形やスタンピング成形などの経済性、生産性に優れた成形法に適用でき、工業材料として有用である。
【0004】
しかしながら、成形材料を製造する過程で、連続した強化繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させるには、経済性、生産性の面で問題があり、それほど広く用いられていないのが現状である。例えば、樹脂の溶融粘度が高いほど強化繊維束への含浸は困難とされることはよく知られている。靱性や伸度などの力学特性に優れた熱可塑性樹脂は、とりわけ高分子量体であり、プロセス温度も高温を必要とするため、成形材料を容易に、生産性よく製造することには不向きであった。そこで、含浸の容易さから低分子量化合物を含浸させた複合強化繊維束を用いて、熱可塑性樹脂との混練を行う方法が用いられてきた。
【0005】
特許文献1には、スチレン・メチルメタクリレート共重合樹脂が2〜40質量%で、サイジング剤処理された金属被覆炭素繊維チョップドストランドが開示され、それを、スチレン・メチルメタクリレート共重合樹脂を溶剤に溶解させたサイジング剤の溶液中に、金属被覆炭素繊維ストランドを導入し、乾燥することで、得ることが開示されている。得られたチョップドストランドは、ドライブレンド時に繊維がばらけることなく、安定的に成形機に供給でき、かつ成形機内では繊維が容易に分散する性質を合わせ持っている。また、特許文献2には、高弾性率繊維のチョップドファイバーを熱硬化性樹脂の溶液に浸漬してチョップドファイバーに樹脂溶液を含浸させ、含浸されたチョップドファイバーを分離後、これを水媒体中で撹拌して、含浸チョップドファイバーの分散とチョップドファイバーに含浸されている樹脂溶液からの水媒体への脱溶媒を行い、次いで脱溶媒後の樹脂で被覆されているチョップドファイバーを水媒体から分離及び乾燥することにより、高弾性率繊維チョップドファイバーの被覆方法が開示されている。ここで、熱硬化性樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂が用いられている。しかしながら、特許文献1、2いずれも、溶剤に溶解させたサイジング剤を用いていることから、強化繊維束内部に溶剤が残存しやすく、強化繊維束内部のボイドが発生しやすい傾向にあり、乾燥不十分なまま成形材料として用いた場合には、成形時の揮発分が多かったり、成形品内部の欠陥となることが有り、好ましくない。また、十分な乾燥を行うためには、ライン速度を向上することが困難であり、経済性、生産性の面から劣ることがある。
【0006】
かかる状況において、強化繊維束への含浸性が良好であり、かつボイドの少ない複合強化繊維束の製造方法、および成形時の揮発分の少ない成形材料の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−322665号公報
【特許文献2】特公昭64−202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術が有する問題点に鑑み、強化繊維束への含浸性が良好であり、かつボイドが少なく、成形時の揮発分が少ない複合強化繊維束を製造することを目的とする。また、本発明は、従来技術が有する問題点に鑑み、複合強化繊維束を用いた成形材料であって、成形品中への繊維分散が良好である成形品を製造できる成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記課題を解決することができる、次の複合強化繊維束の製造方法を発明するに至った。すなわち、強化繊維束(A)50〜87質量%に、条件(1)、(2)を満たすエポキシ樹脂(B)13〜50質量%を含浸させてなる強化繊維束の製造方法であって、成分(A)に成分(B)を供給し、成分(B)を100〜300℃の溶融状態で成分(A)と接触させる工程(I)と、成分(B)と接触している成分(A)を加熱して成分(B)の供給量の80〜100質量%を成分(A)に含浸させる工程(II)を有する複合強化繊維束の製造方法である。
条件(1):成分(B)100質量部のうちグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が50〜100質量部、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂が0〜50質量部である。
条件(2):200℃における溶融粘度は0.001〜10Pa・sであり、かつ、200℃にて2時間加熱後の溶融粘度変化率が2以下である。
【0010】
また、本発明者らは、鋭意検討した結果、上記課題を解決することができる、次の成形材料を発明するに至った。すなわち、前記した方法で製造される複合強化繊維束に、熱可塑性樹脂(C)が接着されている成形材料である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合強化繊維束の製造方法により、強化繊維束への含浸性が良好であり、かつボイドの少なく、成形時の揮発分が少ない複合強化繊維束が得られる。また、本発明による成形材料を用いれば、強化繊維の成形品中への分散が良好である成形品を製造できる。本発明の成形材料を用いて成形された成形品は、電気・電子機器、OA機器、家電機器、または自動車の部品、内部部材および筐体などの各種部品・部材に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明で得られる複合強化繊維束の横断面形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の成形材料の好ましい縦断面形態の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の成形材料の好ましい縦断面形態の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の成形材料の好ましい縦断面形態の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の成形材料の好ましい縦断面形態の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の成形材料の好ましい縦断面形態の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の成形材料の好ましい横断面形態の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の成形材料の好ましい横断面形態の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の成形材料の好ましい横断面形態の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の成形材料の好ましい横断面形態の一例を示す概略図である。
【図11】本発明の成形材料の好ましい横断面形態の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、強化繊維束(A)、特定条件を満たすエポキシ樹脂(B)からなる複合強化繊維束の製造方法である。まず、これらの構成要素について説明する。なお、本発明において、複合強化繊維束とは、強化繊維束に、熱可塑性樹脂との親和性を有する化合物またはそれらの混合物(以下、被含浸剤ともいう)を含浸させてなるものをいい、熱可塑性樹脂と組み合わせて好適に用いられる。
【0014】
本発明に用いられる成分(A)を構成する強化繊維としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が力学特性の向上、成形品の軽量化効果の観点から好ましく、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。また、導電性を付与する目的では、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0015】
さらに炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が0.05〜0.5であるものが好ましく、より好ましくは0.08〜0.4であり、さらに好ましくは0.1〜0.3である。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の官能基量を確保でき、熱可塑性樹脂とより強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取扱い性、生産性のバランスから一般的に0.5以下とすることが例示できる。
【0016】
炭素繊維の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めるものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0017】
ここで、表面酸素濃度比とは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用いる場合には、感度補正値を1.74とする。
【0018】
表面酸素濃度比[O/C]を0.05〜0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法をとることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
【0019】
また、強化繊維の平均繊維径は特に限定されないが、得られる成形品の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。
【0020】
強化繊維束の単繊維数には、特に制限はなく、100〜350,000本の範囲内で使用することができ、とりわけ1,000〜250,000本の範囲内で使用することが好ましい。また、本発明によれば、単繊維数が多い強化繊維束であっても、十分に含浸された複合強化繊維束を得ることができるため、20,000〜100,000本の範囲で使用することが、生産性の観点からも好ましい。
【0021】
また、成分(A)はサイジング剤が付与されてなることが、集束性、耐屈曲性や耐擦過性を改良し、高次加工工程において、毛羽、糸切れの発生を抑制でき、いわゆる糊剤、集束剤として高次加工性を向上させることもでき、好ましい。特に、炭素繊維の場合、サイジング剤を付与することで、炭素繊維表面の官能基等の表面特性に適合させて接着性およびコンポジット総合特性を向上させることができる。
【0022】
サイジング剤の付着量は、特に限定しないが、強化繊維のみの質量に対して、0.01〜10質量%以下が好ましく、0.05〜5質量%以下がより好ましく、0.1〜2質量%以下付与することがさらに好ましい。0.01質量%未満では接着性向上効果が現れにくく、10質量%を越える付着量では、マトリックス樹脂の物性を低下させることがある。
【0023】
さらに、成分(A)がサイジング剤が付与されてなる場合、サイジング剤と成分(B)との質量比が0.001〜0.5/1であることが好ましい。より好ましくは、0.005〜0.1/1であり、さらに好ましくは、0.01〜0.05/1である。各成分を範囲内で用いることで、界面接着性、繊維分散性、機械特性をバランス良く向上することができるため好ましい。
【0024】
また、サイジング剤としては、エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル、乳化剤あるいは界面活性剤などが挙げられる。また、これらは1種または2種以上を併用してもよい。
【0025】
また、サイジング剤のエポキシ当量は、成分(B)のエポキシ当量よりも小さいことが好ましい。ここでエポキシ当量が小さいとは、分子量あたりのエポキシ基の数が多いことを示す。サイジング剤のエポキシ当量は、成分(B)のエポキシ当量よりも小さくすることで、界面接着性、繊維分散性、機械特性をバランス良く向上することができる。
【0026】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、マトリックス樹脂との接着性を発揮しやすい脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。通常、エポキシ樹脂はエポキシ基を多数有すると、架橋反応後の架橋密度が高くなるために、靭性の低い構造になりやすい傾向にあり、強化繊維とマトリックス樹脂間に存在させても、もろいために剥離しやすく、繊維強化複合材料の強度発現しないことがある。一方、脂肪族エポキシ樹脂は、柔軟な骨格のため、架橋密度が高くとも靭性の高い構造になりやすい。強化繊維とマトリックス樹脂間に存在させた場合、柔軟で剥離しにくくさせるため、繊維強化複合材料の強度を向上しやすく好ましい。
【0027】
脂肪族エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物では、エチレングリコールジグリシジルエーテル及び、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及び、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物では、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、アラビトールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパングリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類等が挙げられる。
【0028】
脂肪族エポキシ樹脂の中でも、3官能以上の多官能脂肪族エポキシ樹脂を用いるのが良く、さらには、反応性の高いグリシジル基を3個以上有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物を用いるのがより好ましい。この中でも、さらに好ましくは、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類が好ましい。脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物は、柔軟性、架橋密度、マトリックス樹脂との相溶性のバランスがよく、効果的に接着性を向上させることから好ましい。
【0029】
サイジング剤の付与手段としては特に限定されるものではないが、例えばローラーを介してサイジング液に浸漬する方法、サイジング液の付着したローラーに接する方法、サイジング液を霧状にして吹き付ける方法などがある。また、バッチ式、連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましい。この際、炭素繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング液濃度、温度、糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に炭素繊維を超音波で加振させることはより好ましい。
【0030】
乾燥温度と乾燥時間は化合物の付着量によって調整すべきであるが、サイジング剤の付与に用いる溶媒の完全な除去、乾燥に要する時間を短くし、一方、サイジング剤の熱劣化を防止し、サイジング処理された炭素繊維で形成された成分(A)が固くなって束の拡がり性が悪化するのを防止する観点から、乾燥温度は、150℃以上350℃以下であることがこのましく、180℃以上250℃以下であることがより好ましい。
【0031】
サイジング剤に使用する溶媒は、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメリルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、取扱いが容易で防災の観点から水が好ましい。従って、水に不溶、若しくは難溶の化合物をサイジング剤として用いる場合には、乳化剤、界面活性剤を添加し、水分散して用いるのが良い。具体的には、乳化剤、界面活性剤としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体、オレフィン−無水マレイン酸共重合体、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリアクリル酸ソーダ等のアニオン系乳化剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン等のカチオン系乳化剤、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテルエステル共重合体、ソルビタンエステルエチルオキサイド付加物等のノニオン系乳化剤等を用いることができるが、相互作用の小さいノニオン系乳化剤が多官能化合物の接着性効果を阻害しにくく好ましい。
【0032】
このような強化繊維束(A)に、特定条件を満たすエポキシ樹脂(B)を、被含浸剤として含浸させて複合強化繊維束となす。
【0033】
ここでいう、エポキシ樹脂とは、グリシジル基を有する化合物である。グリシジル基を有することで、強化繊維束と相互作用しやすくなり、含浸時に強化繊維と馴染みやすく、含浸しやすい。また、成形加工時の繊維分散性が良くなる。
【0034】
成分(B)が満たしている条件の先ず一つは次の条件(1)である。
条件(1):成分(B)100質量部のうちグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が50〜100質量部、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂が0〜50質量部である。
【0035】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が50質量部未満だと、後述する溶融粘度変化率が2を超える、もしくは、耐熱性が劣ることがある。粘度、耐熱性のバランスを保つ範囲内でその他のエポキシ樹脂を添加することができる。
【0036】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0037】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0038】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0039】
脂環式エポキシ樹脂としては、3,4エポキシ−6メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独でも2種以上の混合物でも良い。
【0040】
中でも、粘度と耐熱性のバランスに優れるため、条件(1)において、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、ノボラック型エポキシ樹脂が、50〜100質量%を占めることが好ましい。また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂は接着性に優れるため用いることが好ましく、条件(1)において、成分(B)100質量部のうちグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が80〜99質量部、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が1〜20質量部であることが好ましい。グリシジルアミン型エポキシ樹脂が20質量部を超える場合では、後述する溶融粘度変化率が2を超えることがある。
【0041】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、添加剤を成分(B)と混合しても良い。添加剤の例としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、または、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
【0042】
本発明において、成分(B)が満たしている条件のもう一つは次の条件(2)である。
条件(2):200℃において溶融粘度が0.001〜10Pa・sであり、かつ、200℃にて2時間加熱後の溶融粘度変化率が2以下である。
【0043】
200℃における溶融粘度は、好ましくは0.01〜5Pa・sであり、より好ましくは0.1〜2Pa・sである。200℃における溶融粘度が0.001Pa・s未満では、成分(B)の機械強度が低いために、成形品の機械特性を損ねるし、10Pa・sを越える場合では、成分(B)の粘度が高く、成分(A)の内部まで含浸できない。本発明で得られる複合強化繊維束を用いて成形加工や混練などを行う際に、成分(B)の溶融粘度を低くすることで、成分(B)が成分(A)、成分(B)および成分(C)の混合物内を流動し、移動しやすくなる。
【0044】
200℃にて2時間加熱後の溶融粘度変化率は、好ましくは、1.5以下であり、より好ましくは、1.3以下である。200℃にて2時間加熱後の溶融粘度変化率が2を越える場合では、長時間にわたり複合強化繊維束を製造した場合に、製造安定性を確保できず、付着むらが発生する。かかる溶融粘度変化率を2以下にすることで、複合強化繊維束の安定した製造を確保できる。
【0045】
ここで、200℃にて2時間加熱後の溶融粘度変化率とは、次式から得られる。
粘度変化率=200℃にて2時間加熱後の200℃における溶融粘度/200℃にて2時間加熱前の200℃における溶融粘度
【0046】
また、成分(B)は、10℃/min昇温(空気中)の300℃における加熱減量が5%以下であることが好ましい。より好ましくは、3%以下である。かかる加熱減量が5%を越える場合では、含浸時に分解ガスが発生し易く、強化繊維束内部のボイドとなることがある。また、得られた複合強化繊維束を用いた成形時の揮発分が多く、成形品内部の欠陥となることがある。
【0047】
また、成分(B)のエポキシ当量が100〜2500g/eqであることが好ましい。ここでいうエポキシ当量とは、成分(B)に含まれるエポキシ化合物全体のエポキシ当量をいう。より好ましくは、300〜2000g/eqであり、さらに好ましくは、500〜1500g/eqである。エポキシ当量が100g/eq未満では、反応性が高く、成形加工時に自己反応や強化繊維、マトリックス樹脂との反応が起こるため、繊維分散性を妨げる可能性がある。また、エポキシ当量が2500g/eqを越える場合では、強化繊維束との相互作用が小さいために、含浸時に強化繊維と馴染みにくく、含浸しにくいだけでなく、成形加工時に繊維分散が不十分になる可能性がある。エポキシ当量が100〜2500g/eqであることで、成形加工時の繊維分散性を十分に確保できる。
【0048】
また、成分(B)の数平均分子量は、500〜3000であることが好ましい。より好ましくは、800〜2500であり、さらに好ましくは、1000〜2000である。数平均分子量が500未満では、成分(B)の機械強度が低いために、成形品の機械特性を損ねることがある。また、3000を越える場合では成分(B)の粘度が上がり、含浸性を向上できないことがある。本発明による複合強化繊維束を用いて成形加工や混練などを行う際に、成分(B)の数平均分子量を500〜3000にすることで、成分(B)が成分(A)、(B)および(C)の混合物内を最も流動し、移動しやすくなる。
【0049】
なお数平均分子量の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0050】
また、成分(B)の軟化点は特に制限されないが、50〜150℃であることが好ましい。より好ましくは、60〜140℃であり、さらに好ましくは、70〜130℃である。軟化点が50℃未満では、室温で強化繊維束がばらけやすく、取り扱い性が悪くなることがある。また、軟化点が150℃以上であると、成分(B)の粘度が上がり、含浸性を向上できないことがある。成分(B)の軟化点が50〜150℃にすることで、強化繊維束の取り扱い性、および成分(B)の成分(A)への含浸性を両立できる。
【0051】
ここで、本発明で複合強化繊維束の製造方法では、成分(A)に成分(B)を供給し、成分(B)を100〜300℃の溶融状態で成分(A)と接触させる工程(I)と、成分(B)と接触している成分(A)を加熱して成分(B)の供給量の80〜100質量%を成分(A)に含浸させる工程(II)を有する。
【0052】
工程(I)とは、特に限定されないが、繊維束に油剤、サイジング剤、マトリックス樹脂を付与するような公知の製造方法を用いることができ、中でも、ディッピング、もしくは、コーティングが好ましく、具体的なコーティングとしては、リバースロール、正回転ロール、キスロール、スプレイ、カーテンが好ましく用いられる。
【0053】
ここで、ディッピングとは、ポンプにて成分(B)を溶融バスに供給し、該溶融バス内で成分(A)を通過させる方法をいう。成分(A)を成分(B)の溶融バスに浸すことで、確実に成分(B)を成分(A)に付着させることができる。また、リバースロール、正回転ロール、キスロールとは、ポンプで溶融させた成分(B)をロールに供給し、成分(A)に成分(B)の溶融物を塗布する方法をいう。さらに、リバースロールは、2本のロールが互いに逆方向に回転し、ロール上に溶融した成分(B)を塗布する方法であり、正回転ロールは、2本のロールが同じ方向に回転し、ロール上に溶融した成分(B)を塗布する方法である。通常、リバースロール、正回転ロールでは、成分(A)を挟み、さらにロールを設置し、成分(B)を確実に付着させる方法が用いられる。一方で、キスロールは、成分(A)とロールが接触しているだけで、成分(B)を付着させる方法である。そのため、キスロールは比較的粘度の低い場合の使用が好ましいが、いずれのロールの方法を用いても、加熱溶融した成分(B)の所定量を塗布させ、成分(A)を接着させながら走らせることで、繊維束の単位長さ当たりに所定量の成分(B)を付着させることができる。スプレイは、霧吹きの原理を利用したもので、溶融した成分(B)を霧状にして成分(A)に吹き付ける方法であり、カーテンは、溶融した成分(B)を小孔から自然落下させ塗布する方法、または溶融槽からオーバーフローさせ塗布する方法である。塗布に必要な量を調節しやすいため、成分(B)の損失を少なくできる。
【0054】
また、成分(B)を供給する際の溶融温度としては、100〜300℃が好ましい。より好ましくは、150〜250℃である。100℃未満では、成分(B)の粘度が高くなり、供給する際に、付着むらが発生することがある。また、300℃を越えると、長時間にわたり製造した場合に、成分(B)が熱分解する可能性がある。100〜300℃の溶融状態で成分(A)と接触させることで、成分(B)を安定して供給することができる。
【0055】
次いで、工程(II)として、工程(I)で得られた、成分(B)と接触した状態の成分(A)を、加熱して成分(B)の供給量の80〜100質量%を成分(A)に含浸させる。具体的には、成分(B)と接触した状態の成分(A)に対して、成分(B)が溶融する温度において、ロールやバーで張力をかける、拡幅、集束を繰り返す、圧力や振動を加えるなどの操作で成分(B)を成分(A)の内部まで含浸するようにする工程である。より具体的な例として、加熱された複数のロールやバーの表面に繊維束を接触するように通して拡幅などを行う方法を挙げることができ、中でも、絞り口金、絞りロール、ロールプレス、ダブルベルトプレスを用いて含浸させる方法が好適に用いられる。ここで、絞り口金とは、進行方向に向かって、口金径の狭まる口金のことであり、強化繊維束を集束させながら、余分に付着した成分(B)を掻き取ると同時に、含浸を促す口金である。また、絞りロールとは、ローラーで強化繊維束に張力をかけることで、余分に付着した成分(B)を掻き取ると同時に、含浸を促すローラーのことである。また、ロールプレスは、2つのロール間の圧力で連続的に強化繊維束内部の空気を除去するのと同時に、含浸を促す装置であり、ダブルベルトプレスとは、強化繊維束の上下からベルトを介してプレスすることで、含浸を促す装置である。
【0056】
また、工程(II)において、成分(B)の供給量の80〜100質量%が成分(A)に含浸されていることが必要である。収率に直接影響するため、経済性、生産性の観点から高いほど好ましい。より好ましくは、85〜100質量%であり、さらに好ましくは90〜100質量%である。また、80質量%未満では、経済性の観点からだけでなく、成分(B)が工程(II)において、揮発成分を発生させている可能性があり、成分(A)内部にボイドが残存する。
【0057】
また、工程(II)において、成分(B)の最高温度が150〜400℃であることが好ましい。好ましくは180〜380℃であり、より好ましくは200℃〜350℃である。150℃未満では、成分(B)を十分に溶融できず、含浸不足の強化繊維束になる可能性があり、400℃以上では、成分(B)の分解反応を起こすなどの好ましくない副反応が生じる場合がある。
【0058】
工程(II)における加熱方法としては、特に限定しないが、具体的には、加熱したチャンバーを用いる方法や、ホットローラーを用いて加熱と加圧を同時に行う方法が例示できる。
【0059】
また、成分(B)の架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制する観点から、非酸化性雰囲気下で加熱することが好ましい。ここで、非酸化性雰囲気とは酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を含有しない雰囲気、すなわち、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取り扱いの容易さの面から、窒素雰囲気が好ましい。
【0060】
また、複合強化繊維束の引取速度は、工程速度に直接影響するため、経済性、生産性の観点から高いほど好ましい。具体的には、引取速度としては、10〜100m/分が好ましい。より好ましくは、20〜100m/分であり、さらに好ましくは30〜100m/分である。引取方法としては、ニップローラーで引き出す方法や、ドラムワインダーで巻き取る方法や、直接ストランドカッターなどで、一定長に切断しながら複合強化繊維束を引き取る方法が挙げられる。
【0061】
また、前記工程(I)、(II)の前段階で、成分(A)を予め開繊してもよい。開繊とは収束された成分(A)を分繊させる操作であり、成分(B)の含浸性をさらに高める効果が期待できる。開繊により、成分(A)の厚みは薄くなり、開繊前の成分(A)の幅をb1(mm)、厚みをa1(μm)、開繊後の成分(A)の幅をb2(mm)、厚みをa2(μm)とした場合、開繊比=(b2/a2)/(b1/a1)を2.0以上とするのが好ましく、2.5以上とするのがさらに好ましい。
【0062】
成分(A)の開繊方法としては、特に制限はなく、例えば凹凸ロールを交互に通過させる方法、太鼓型ロールを使用する方法、軸方向振動に張力変動を加える方法、垂直に往復運動する2個の摩擦体による成分(A)の張力を変動させる方法、成分(A)にエアを吹き付ける方法を利用できる。
【0063】
図1は、本発明で得られる複合強化繊維束の横断面形態の一例を示す概略図である。なお、本発明において、横断面とは、軸心方向に直交する面での断面を意味する。工程(I)、(II)から得られる複合強化繊維束は、成分(A)に成分(B)を塗布、含浸せしめた複合体として形成されている(以下、複合強化繊維束を複合体とも称す)。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、成分(A)の各単繊維間に成分(B)が満たされている。すなわち、成分(B)の海に、成分(A)の各単繊維が島のように分散している状態である。
【0064】
上記複合体において、成分(B)が成分(A)に良好に含浸した複合体とすることで、例えば、熱可塑性樹脂(C)と共に射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練された、成分(B)が、成分(C)に拡散し、成分(A)が成分(C)に分散することを助け、同時に成分(C)が成分(A)に置換、含浸することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。
【0065】
上記複合体の質量当たり、成分(A)は、50〜87質量%であることが好ましい。より好ましくは60〜85質量%であり、さらに好ましくは、70〜83質量%である。成分(A)が50質量%未満では、得られる成形品の力学特性が不十分となる場合があり、87質量%を超えると射出成形などの成形加工の際に流動性が低下する場合がある。
【0066】
また、複合体の質量当たり、成分(B)は13〜50質量%であることが好ましい。より好ましくは15〜40質量%であり、さらに好ましくは17〜30質量%である。成分(B)が13質量%未満では、成分(A)の内部までの含浸性が不十分となる場合があり、50質量%を超えると、成形品の力学特性を低下させる場合がある。
【0067】
また、複合体においては、成分(A)が成分(B)によって完全に含浸されていることが望ましいが、現実的にそれは困難であり、複合体にはある程度の空隙(成分(A)も成分(B)も存在しない部分)が存在する。特に成分(A)の含有率が大きい場合には空隙が多くなるが、ある程度の空隙が存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は示される。ただし空隙率が40%を超えると顕著に含浸・繊維分散促進の効果が小さくなるので、空隙率は40%未満が好ましい。より好ましい空隙率の範囲は20%以下である。空隙率は、複合体をASTM D2734(1997)試験法により測定するか、または複合体の横断面において、成分(A)と成分(B)により形成される複合部の全面積と空隙部の全面積とから次式を用いて算出することができる。
空隙率(%)=空隙部の全面積/(複合部の全面積+空隙部の全面積)×100。
【0068】
さらに、得られた複合体の揮発分が少ないほど、成形時の揮発分が少なく、好ましい。200℃にて2時間乾燥させた後の重量減少が5%未満であることが好ましく、より好ましくは、3%未満であり、さらに好ましくは1%未満である。
【0069】
上記複合体は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断されて構成されていても良い。前記の長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断されてなる複合強化繊維束としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用のチョップドストランドが例示できる。成分(B)により、成分(A)が集束されているため、熱可塑性樹脂(C)とコンパウンドして用いても良いし、ドライブレンドして直接射出成形して使用することも可能である。また、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。
【0070】
本発明で用いられる成分(C)としては、特に制限されるものではないが、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、スチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、液晶ポリエステル、ポリアリーレート、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)などのアクリル樹脂、塩化ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、さらにはエチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/ジエン共重合体、エチレン/一酸化炭素/ジエン共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレン/酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルエーテルエラストマー、ポリエーテルエステルアミドエラストマー、ポリエステルアミドエラストマー、ポリエステルエステルエラストマーなどの各種エラストマー類などが挙げられ、これらの1種または2種以上を併用しても良い。特に汎用性の高い、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂が好ましい。中でも耐熱性、耐衝撃性の観点から、ポリカーボネート系樹脂が好ましい。
【0071】
また、成分(C)は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
【0072】
本発明の成形材料は、上記のようにして得られた複合体に成分(C)が接着されて構成される。なお、本発明において、成形材料とは、成形品を射出成形などで成形する際に用いる原材料を意味する。
【0073】
本発明の成形材料は、複合体と成分(C)とが適宜配置されて接着されているが、その配置工程としては、溶融した成分(C)を複合体に接するように配置する。特に限定されないが、より具体的には、押出機と電線被覆法用のコーティングダイを用いて、連続的に複合体の周囲に成分(C)を被覆するように配置していく方法や、ロール等で扁平化した複合体の片面あるいは両面から押出機とTダイを用いて溶融したフィルム状の成分(C)を配置し、ロール等で一体化させる方法を挙げることができる。
【0074】
図2は、本発明の成形材料の好ましい縦断面形態の一例を示す概略図である。なお、本発明において、縦断面とは、軸心方向を含む面での断面を意味する。本発明の成形材料の一例は、図2に示すように、成分(A)が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ成分(A)の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
【0075】
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、成分(A)の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれが、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で成分(A)が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い成分(A)が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い成分(A)の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの成分(A)の含有量が30質量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い成分(A)が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの成分(A)の含有量は20質量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の成分(A)配向方向の長さである。成分(A)が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
【0076】
図3〜6はそれぞれ、本発明の成形材料の縦断面形態の一例を模式的に表したものであり、図7〜11はそれぞれ、本発明の成形材料の横断面形態の一例を模式的に表したものである。
【0077】
成形材料の断面形態は、成分(A)と成分(B)からなる複合体に、成分(C)が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは図3〜5に示されるように、複合体が芯材となり成分(C)で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
【0078】
また図7〜9に示されるように、複合体を芯構造として、その周囲を成分(C)が被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。また、図11に示されるような複数の複合体を成分(C)が被覆するように配置する場合、複合体の数は2〜6程度が望ましい。
【0079】
複合体と成分(C)の境界は接着され、境界付近で部分的に成分(C)が複合体の一部に入り込み、複合体を構成する成分(B)と相溶しているような状態、あるいは強化繊維に含浸しているような状態になっていてもよい。
【0080】
本発明の成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により混練されて最終的な成形品となる。成形材料の取扱性の点から、複合体と成分(C)は成形が行われるまでは接着されたまま分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。複合体と成分(C)では、形状(サイズ、アスペクト比)、比重、質量が全く異なるため、成形までの材料の運搬、取り扱い時、成形工程での材料移送時に分級し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングする場合がある。
【0081】
かかる観点から、前記したような、図7〜9に例示されるような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。このような配置であれば、成分(C)が複合体を拘束し、より強固な複合化ができる。また、図7〜9に例示されるような芯鞘構造にするか、図10に例示されるような層状配置とするか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、芯鞘構造とすることがより好ましい。
【0082】
本発明の成形材料は、その軸心方向には、ほぼ同一の断面形状を保っていれば、連続であってもよいし、成形方法によっては連続のものをある長さに切断されてなっていてもよい。好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断されてなっているのが良い。この長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断されてなる成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
【0083】
また、本発明の成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、連続のまま、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、軽量性、高強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば自動車部材などに適用が可能である。
【0084】
また、上記成形材料に占める成分(C)の割合は5〜98.98質量%、好ましくは25〜94質量%、より好ましくは50〜88質量%であり、この範囲内で用いることで、力学特性に優れる成形品を得ることができる。
【0085】
本発明で得られる成形材料の成形方法としては、特に限定しないが、射出成形、オートクレーブ成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、スタンピング成形などの生産性に優れた成形方法に適用でき、これらを組み合わせて用いることもできる。また、インサート成形、アウトサート成形などの一体化成形も容易に実施できる。さらに、成形後にも加熱による矯正処置や、熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの生産性に優れた接着工法を活用することもできる。
【0086】
上記成形方法により得られる成形品としては、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、部材および外板、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、モンキー、レンチ等の工具類、さらに電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品も挙げられる。またパーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材も挙げられる。本発明において、成分(A)として、導電性を有する炭素繊維束を使用した場合、このような電気・電子機器用部材では、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
【実施例】
【0087】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0088】
まず、本実施例で用いる各種特性の測定方法について説明する。
【0089】
(1)数平均分子量測定
被測定試料をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定した。GPCカラムにはポリスチレン架橋ゲルを充填したものを用いた。溶媒にクロロホルムを用い、150℃にて測定した。分子量は標準ポリスチレン換算にて算出した。
【0090】
(2)溶融粘度測定、粘度変化率測定
被測定試料を粘弾性測定器にて測定した。40mmのパラレルプレートを用い、0.5Hzにて、200℃における溶融粘度測定をした。また、同様に被測定試料を200℃の熱風乾燥機に2時間放置後の粘度測定を行い、粘度変化率を算出した。
【0091】
(3)重量減少測定
被測定試料を熱重量分析(TGA)にて測定した。白金サンプルパンを用いて、空気雰囲気下、10℃/分昇温にて測定し、300℃における重量減少率を測定した。
【0092】
(4)エポキシ当量測定
エポキシ当量は、JIS K7236(2004)試験法に準拠して、測定した。
【0093】
(5)複合体の空隙率
ASTM D2734(1997)試験法に準拠して、複合体の空隙率(%)を算出した。
複合体の空隙率の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
A:0〜5%未満
B:5%以上20%未満
C:20%以上40%未満
D:40%以上
【0094】
(6)複合体の揮発分評価
測定すべき複合体について、200℃の熱風乾燥機に2時間放置前後の重量を測定し、重量減少分を、揮発分とした。また、判定は以下の基準でおこない、Aを合格とした。
A:0〜5%未満
B:5%以上10%未満
C:10%以上
【0095】
(7)成形品の繊維分散性
100mm×100mm×2mmの成形品を成形し、表裏それぞれの面に存在する未分散CF束の個数を目視でカウントした。評価は50枚の成形品についておこない、その合計個数について繊維分散性の判定を以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
A:未分散CF束が1個以下
B:未分散CF束が1個以上5個未満
C:未分散CF束が5個以上10個未満
D:未分散CF束が10個以上。
【0096】
参考例1.炭素繊維−1
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単繊維数24,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:1.6g/m
比重:1.8
表面酸素濃度比 [O/C]:0.06
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa。
【0097】
ここで、表面酸素濃度比は、表面酸化処理を行ったあとの炭素繊維を用いて、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めた。まず、炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10Torrに保った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせた。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出した。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とした。
【0098】
参考例2.炭素繊維−2
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単繊維数48,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:1.6g/m
比重:1.8
表面酸素濃度比 [O/C]:0.12
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa。
【0099】
参考例3.サイジング剤の付与
サイジング剤を水に溶解、または分散させたサイジング剤母液を調整し、ローラーを介して、サイジング剤母液に浸漬する方法により強化繊維にサイジング剤を付与し、230℃で乾燥を行った。
【0100】
参考例4.複合体
塗布温度に加熱されたロール上に、被含浸剤を加熱溶融した液体の被膜を形成させた。ロール上に一定した厚みの被膜を形成するためリバースロールを用いた。このロール上を連続した成分(A)を接触させながら通過させて被含浸剤を付着させた。次に、含浸温度に加熱されたチャンバー内にて、5組の直径50mmのロールプレス間を通過させた。この操作により、被含浸剤を繊維束の内部まで含浸させ、所定の配合量とした複合体を形成した。
【0101】
参考例5.直接射出成形
参考例4.で得られた複合体を冷却後、カッターで切断して7mmのチョップドストランドとし、チョップドストランドと成分(C)をドライブレンドし、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、所定のシリンダー温度、および金型温度で特性評価用試験片(成形品)を成形した。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の複合体および成分(C)を加熱溶融する部分を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型の温度を示す。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片(成形品)を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。
【0102】
参考例6.成形材料
参考例4.で得られた複合体を、日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通し、押出機からダイ内に溶融させた成分(C)を吐出させて、複合体の周囲を被覆するように連続的に配置した。この際、所望の強化繊維含有率になるように、複合体量と成分(C)量を調整した。得られた連続状の成形材料を冷却後、カッターで切断して7mmの長繊維ペレット状の成形材料とした。次に得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、所定のシリンダー温度、および金型温度で特性評価用試験片(成形品)を成形した。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型を示す。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片(成形品)を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。
【0103】
実施例1
成分(A)として、参考例1に従い得られる炭素繊維−1を用い、被含浸剤として、成分(B)である(B)−1(DIC(株)製フェノールノボラック型エポキシ樹脂、EPICLON(登録商標)N−775)を用いて、塗布温度150℃、含浸温度250℃、引取速度30m/分にて、参考例4に従い複合体を得た。この際、炭素繊維−1が80質量%、(B)−1が20質量%になるように調整した(被含浸剤の配合量20質量%)。次いで、参考例5に従い、成分(C)として、PC(出光(株)製ポリカーボネート樹脂、A1900)を用いて、前記複合体30質量%、PC70質量%にて、シリンダー温度:280℃、金型温度:120℃にて特性評価用試験片(成形品)を直接射出成形した。評価結果を、まとめて表1に示した。
【0104】
実施例2
被含浸剤として、成分(B)である(B)−2(三菱化学(株)製フェノールノボラック型エポキシ樹脂、jER(登録商標)154)を用い、成分(C)として、PPS(東レ(株)製、ポリフェニレンスルフィド樹脂、M2588)を用い、シリンダー温度:320℃、金型温度:150℃に変更した以外は実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0105】
実施例3
被含浸剤として、成分(B)である(B)−3(DIC(株)製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、EPICLON(登録商標)N−660)を用い、成分(C)として、PA66(東レ(株)製ポリアミド樹脂、CM3007)を用いた以外は実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0106】
実施例4
成分(A)として、参考例1に従い得られる炭素繊維−1を用い、被含浸剤として、成分(B)である(B)−4(DIC(株)製フェノールノボラック型エポキシ樹脂、EPICLON(登録商標)N−775を50質量部と、三菱化学(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、jER(登録商標)1055を50質量部の混合物)を用いて、塗布温度150℃、含浸温度250℃、引取速度30m/分にて、参考例4に従い複合体を得た。この際、炭素繊維−1が80質量%、(B)−4が20質量%になるように調整した(被含浸剤の配合量20質量%)。次いで、参考例6に従い、成分(C)として、PPS(東レ(株)製、ポリフェニレンスルフィド樹脂、M2588)を用いて、ダイ内を320℃にて、長繊維ペレット状の成形材料を製造し、複合体量30質量%、PPS量70質量%になるように調整した。得られた長繊維ペレットを、シリンダー温度:320℃、金型温度:150℃にて特性評価用試験片(成形品)を射出成形した。評価結果を、まとめて表1に示した。
【0107】
実施例5
成分(A)として、参考例1に従い得られる炭素繊維−1を用い、被含浸剤として、成分(B)である(B)−5(DIC(株)製フェノールノボラック型エポキシ樹脂、EPICLON(登録商標)N−775を50質量部と、三菱化学(株)製ビスフェノールF型エポキシ樹脂、jER(登録商標)4005Pを50質量部の混合物)を用いて、塗布温度150℃、含浸温度250℃、引取速度30m/分にて、参考例4に従い複合体を得た。この際、炭素繊維−1が80質量%、(B)−4が20質量%になるように調整した(被含浸剤の配合量20質量%)。次いで、参考例6に従い、成分(C)として、PC(出光(株)製ポリカーボネート樹脂、A1900)を用いて、ダイ内を280℃にて、長繊維ペレット状の成形材料を製造し、複合体量30質量%、PC量70質量%になるように調整した。得られた長繊維ペレットを、シリンダー温度:280℃、金型温度:120℃にて特性評価用試験片(成形品)を射出成形した。評価結果を、まとめて表1に示した。
【0108】
実施例6
成分(A)を、サイジング剤として、グリセロールトリグリシジルエーテル(以下、(a)−1と記載)を用いて、参考例3に従い、炭素繊維−1に付着量1.0質量%で付着させた強化繊維束に変更し、被含浸剤として、成分(B)である(B)−6(DIC(株)製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、EPICLON(登録商標)N−660を50質量部と、日本化薬(株)製ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、NC−3000を50質量部の混合物)を用い、(B)−6の配合量が45質量%になるように調整し、引取速度50m/分に変更した以外は実施例5と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0109】
実施例7
被含浸剤として、成分(B)である(B)−7(三菱化学(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、jER(登録商標)1007を80質量部と、チバガイギー社製脂環式エポキシ樹脂、アラルダイト(登録商標)CY179を20質量部の混合物)を用い、(B)−7の配合量が15質量%になるように調整した以外は実施例6と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0110】
実施例8
被含浸剤として、成分(B)である(B)−8(DIC(株)製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、EPICLON(登録商標)N−660を80質量部と、三菱化学(株)製グリシジルエステル型エポキシ樹脂、jER(登録商標)191Pを20質量部の混合物)を用い、(B)−8の配合量を20質量%に変更し、塗布温度250℃、含浸温度350℃、引取速度80m/分に変更した以外は実施例6と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表2に記載した。
【0111】
実施例9
成分(A)におけるサイジング剤の付着量を0.4質量%に変更し、被含浸剤として、成分(B)である(B)−9(DIC(株)製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、EPICLON(登録商標)N−660を80質量部と、住友化学工業(株)製テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、スミエポキシ(登録商標)ELM−434を20質量部の混合物)を用い、(B)−9の配合量を20質量%に変更し、引取速度30m/分に変更し、長繊維ペレット(成形材料)における複合体量を20質量%、PC量を80質量%に調整した以外は実施例6と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表2に記載した。
【0112】
実施例10
成分(A)を、サイジング剤として、(a)−1を用いて、参考例3に従い、炭素繊維−2に付着量2.0質量%で付着させた強化繊維束に変更し、被含浸剤として、成分(B)である(B)−10(三菱化学(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、jER(登録商標)1055を40質量部と、三菱化学(株)製フェノールノボラック型エポキシ樹脂、jER(登録商標)154を50質量部と、住友化学工業(株)製テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、スミエポキシ(登録商標)ELM−434を10質量部の混合物)を用い、(B)−10の配合量を20質量%に変更し、引取速度30m/分に変更し、長繊維ペレットにおける複合体量を60質量%、PC量を40質量%に調整した以外は実施例6と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表2に記載した。
【0113】
実施例11
含浸温度を100℃に変更した以外は実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表2に記載した。
【0114】
実施例12
含浸温度を450℃に変更した以外は実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表2に記載した。
【0115】
実施例13
引取速度を5m/分に変更した以外は実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表2に記載した。
【0116】
実施例14
被含浸剤として、成分(B)である(B)−11(三菱化学(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂の混合物、jER(登録商標)828/jER(登録商標)1001=90/10)を用いた以外は実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表2に記載した。
【0117】
比較例1
成分(A)として、参考例1に従い炭素繊維−1を用い、被含浸剤を用いずに、カッターで切断して7mmのチョップドストランドを製造したが、集束が少ないために、直接射出成形ができなかった。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0118】
比較例2
被含浸剤として、(B)−1の代わりに、(D)−1(新日鐵化学(株)製フェノキシ樹脂、YP−50)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0119】
比較例3
被含浸剤として、(B)−1の代わりに、(D)−2((D)−1の50質量%NMP溶液)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0120】
比較例4
(B)−1の配合量が5質量%になるように調整した以外は実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0121】
比較例5
塗布温度を80℃に調整した以外は実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0122】
比較例6
被含浸剤として、(B)−1の代わりに、(D)−3(三菱化学(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、jER(登録商標)828を100質量部と、三菱化学(株)製ジシアンジアミド、DICY7Tを15質量部と、保土ヶ谷化学社製3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、DCMU99を2質量部との混合物)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0123】
比較例7
被含浸剤として、(B)−1の代わりに、(D)−4(住友化学工業(株)製テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、スミエポキシ(登録商標)ELM−434)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複合体、成形材料、成形品を得た。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【0126】
【表3】

【0127】
以上のように、実施例1〜14においては、本発明における複合強化繊維束の製造方法により、含浸性が良好であり、かつボイドの少ない複合強化繊維束が得られる。また、得られた複合強化繊維束を用いた成形材料は、成形時に揮発分が少なく、強化繊維の成形品中への分散が良好である成形材料を得ることができた。
【0128】
一方比較例1〜7においては、含浸不足な強化繊維束、または、含浸が十分であっても成形時の揮発分が多く、良好な成形材料は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の複合強化繊維束の製造方法は、特定条件を満たすエポキシ樹脂を加熱溶融し含浸せしめることで、強化繊維束への含浸性が良好であり、かつボイドの少なく、成形時の揮発分が少ない複合強化繊維束が得られ、得られた複合強化繊維束を用いた成形材料は、強化繊維の成形品中への分散に優れた成形品を得ることが可能であり、種々の用途に展開できる。特に自動車部品、電気・電子部品、家庭・事務電気製品部品に好適である。
【符号の説明】
【0130】
1 強化繊維の単繊維
2 被含浸剤
3 複合強化繊維束
4 熱可塑性樹脂(C)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維束(A)50〜87質量%に、条件(1)、(2)を満たすエポキシ樹脂(B)13〜50質量%を含浸させてなる複合強化繊維束の製造方法であって、成分(A)に成分(B)を供給し、成分(B)を100〜300℃の溶融状態で当該成分(A)と接触させる工程(I)と、成分(B)と接触している成分(A)を加熱して成分(B)の供給量の80〜100質量%を成分(A)に含浸させる工程(II)を有する複合強化繊維束の製造方法。
条件(1):成分(B)100質量部のうちグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が50〜100質量部、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂が0〜50質量部である。
条件(2):200℃における溶融粘度は0.001〜10Pa・sであり、かつ、200℃にて2時間加熱後の溶融粘度変化率が2以下である。
【請求項2】
工程(I)において、成分(B)の供給に、ディッピング、リバースロール、正回転ロール、キスロール、スプレイ、カーテンから選択される1種を用いる請求項1に記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項3】
工程(II)において、成分(B)の含浸に、絞り口金、絞りロール、ロールプレス、ダブルベルトプレスから選択される1種を用いる請求項1または2に記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項4】
工程(II)において、成分(B)の最高温度が150〜400℃である請求項1〜3いずれかに記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項5】
複合強化繊維束の引取速度が10〜100m/分である請求項1〜4いずれかに記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項6】
条件(1)において、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、ノボラック型エポキシ樹脂が50〜100質量%を占める請求項1〜5いずれかに記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項7】
成分(B)は、10℃/分昇温(空気中)の300℃における加熱減量が5%以下である請求項1〜6いずれかに記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項8】
成分(B)は、エポキシ当量が100〜2500g/eqである請求項1〜7いずれかに記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項9】
成分(B)は、数平均分子量が500〜3000である請求項1〜8いずれかに記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項10】
条件(1)において、成分(B)100質量部のうちグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が80〜99質量部、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が1〜20質量部である請求項1〜9いずれかに記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項11】
成分(A)は、サイジング剤が付与されてなる請求項1〜10いずれかに記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項12】
サイジング剤と成分(B)の質量比が、0.001〜0.5/1である請求項11に記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項13】
強化繊維束が炭素繊維である、請求項1〜12いずれかに記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項14】
炭素繊維束のフィラメント数が20,000〜100,000本である請求項13に記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項15】
前記サイジング剤が3官能以上の多官能脂肪族エポキシである請求項11〜14いずれかに記載の複合強化繊維束の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜15いずれかに記載の方法で製造される複合強化繊維束に、熱可塑性樹脂(C)が接着されている成形材料。
【請求項17】
複合強化繊維束が芯構造であり、その周囲を成分(C)が被覆した芯鞘構造である請求項16に記載の成形材料。
【請求項18】
長さ1〜50mmに切断されてなる請求項16または17に記載の成形材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−57277(P2012−57277A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202955(P2010−202955)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】