説明

複合成形体及びその製造方法

【課題】簡便な方法により、互いに性質の異なるポリアミド系樹脂部材と熱可塑性ポリウレタン系樹脂部材とを直接的かつ強固に接合する。
【解決手段】ポリアミド系樹脂で構成された樹脂部材と、熱可塑性ポリウレタン系樹脂で構成された樹脂部材とが直接接合した複合成形体において、前記ポリアミド系樹脂として、特定の脂肪族環を有するポリアミド成分で構成されたポリアミド系樹脂を用いる。前記脂肪族環を有するポリアミド成分は、脂環族ポリアミド系樹脂及び脂環族ポリアミドエラストマーから選択された少なくとも一種であり、かつ前記ポリアミド系樹脂を構成する全ポリアミド成分において、脂環族モノマー残基と他のモノマー残基との割合(モル比)が、前者/後者=1.2/98.8〜0.1/99.9である。前記複合成形体は、ポリアミド系樹脂及び熱可塑性ポリウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方を加熱し、両者を接合することにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族環を有するポリアミド成分で構成されたポリアミド系樹脂を含む樹脂部材と、熱可塑性ポリウレタン系樹脂を含む樹脂部材とが、接着剤を用いることなく一体に接合した複合成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
意匠性や装飾性、或いは良好な感触(例えば、ソフトな感触)を向上させたり、より高い機能性を付与するため、硬度の異なる樹脂を組み合わせた複合体(複合成形体)、例えば、樹脂成形体の少なくとも一部を熱可塑性エラストマーで被覆した複合成形体などが提案されている。このような複合体成形体は、通常、接着剤を介して、複数の成形部材を接着させることにより製造されている。例えば、特開平8−267585号公報(特許文献1)には、ポリアミド樹脂などで形成された複数の樹脂成形品が、ウレタンポリマーやウレタン系接着剤などの表面処理剤を介して溶着された溶着樹脂成形品が開示されている。しかし、このような接着剤を使用する方法は、工程が長く不経済であるばかりでなく、有機溶剤等による環境汚染も問題となる。また、接着面積が小さかったり、細かなパターンが必要な場合には、接着剤の塗布工程が極めて煩雑になるうえ、接着強度やその安定性が不充分となり、工業化が困難である。
【0003】
一方、製造工程の合理化や環境対策の観点から、複数の成形部材を直接熱融着する方法も採用されている。熱融着による複合成形体は、通常、二色成形やインサート成形などの成形法により製造される。しかし、このような成形法においては、熱融着が可能な材料の組み合わせは大きく制限されており、多くの場合同種材料間の組合せに限られている。また、十分な接合強度を得るための成形条件の設定も容易でない。そこで、熱融着と併せて、成形部材の接合部分に凹凸部分を設けて機械的に接合する方法や、コロナ放電処理など部材表面を化学的に活性化させる方法が採られることもある。しかし、このような方法では、複合成形体の屈曲性が低下し、また、製造工程では、成形部材の構造を複雑化する必要が生じたり、製造工程数が増加するなど、品質的にも経済的にも不利な点が多い。
【0004】
これらの問題を解決する方策として、複合成形体を構成する樹脂部材の材料として、それ自体比較的接合性に優れる熱可塑性ポリウレタン樹脂の利用が靴などの用途を中心に検討されて来た。例えば、特開平9−248201号公報(特許文献2)では、ガラス繊維で強化されたポリアミド樹脂からなる靴底部材をインサートし、ポリウレタン樹脂で側壁を成形したサイクリングシューズの芯体が提案されている。しかし、機械的に過酷な条件に曝される本用途においては、ポリアミド樹脂製の靴底部材に貫通孔を設けて、ポリウレタン樹脂製側壁部材と機械的に連結することが必要であることが実施例に記載されている。
【0005】
また、特開平7−308205公報(特許文献3)には、ポリウレタン樹脂より成る本底の少なくとも一部を、繊維強化ポリアミド樹脂シートで置換することにより補強した靴底が提案されている。この文献には、靴底の激しい屈曲に耐える接合性を得る為に、ポリアミド樹脂はポリオレフィン樹脂(アイオノマー)との混合物とすることが開示されている。これらの文献から明らかなように、優れた機械特性や屈曲疲労特性が求められる靴底のような用途にあっては、それ自体接合性に優れる熱可塑性ポリウレタン樹脂と、機械的強度に勝るポリアミド樹脂とを組み合わせることが注目されている。一般に熱可塑性ポリウレタン系樹脂はそれ自体ポリアミド系樹脂に対して、ある程度の接合性を有しているので、接合における材料の温度に関する条件などが十分に整えば、実用に耐える接合強度が得られる。しかし、接合面に高い耐屈曲疲労特性が求められたり、接合された部材の使用環境が極めて苛酷な場合には、もう一段高い接合強度が求められる。すなわち、熱融着において得られる両者の接合力は不充分であり、更なる工夫、改良が必要である。
【0006】
これらの靴底分野のなかでも、サッカー、野球、或いはバスケットボールなどのスポーツシューズ分野においては、靴底としてのより高い柔軟性と材料間のより強固な接合性を得ることを目的として、ポリウレタン樹脂と、高い柔軟性と靭性とを共に具備し、しかも接着性にも優れるポリアミド系エラストマー(すなわち、ポリアミド系樹脂をポリエーテル成分の導入により柔軟化したエラストマー)とを組み合わせた複合成形体が広く利用されている。
【0007】
例えば、特表平8−505333号公報(特許文献4)では、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルやポリウレタンなどの熱可塑性樹脂の成形体を型内に収納した状態で、発泡剤を含有したポリアミドエラストマーを射出成形し、熱可塑性樹脂成形体(未軽量化プラスチック)とエラストマー(軽量化熱可塑性エラストマー)とを接合させることにより、軽量化された靴底が得られることが開示されている。しかし、このようなポリアミド系エラストマーを用いた組合せにおいても接合強度はなお十分ではなく、成形条件や使用材料の条件(例えば、製造ロット等)、さらには製品(複合成形体)の使用環境の影響を大きく受け、接合強度や複合成形体としての寿命(特に接合部位の寿命)が不安定である。
【0008】
また、これらポリウレタン樹脂とポリアミド系エラストマーとの組合せは、市場の実用例においても、また、前記特許文献4の事例においても、ポリウレタン樹脂としてはポリエーテル系ポリウレタン樹脂が使用されており、ポリエステル系ポリウレタン樹脂とポリアミド系エラストマーとの複合体は事実上使用されていない。これは、ポリウレタン樹脂とポリアミド系エラストマーは、共通してその分子中に同種のポリエーテルセグメントを有するが、そのポリエーテルセグメントの含有量が、ポリエステル系ポリウレタンよりもポリエーテル系ポリウレタンの方が多いためである。即ち、ポリエーテル系ポリウレタンにおいては、その分子のより高い類似性に由来する十分な凝集力により、ポリアミド系エラストマーに対する高い接合性が確保されるのに対し、ポリエステル系ポリウレタンにおいてはそのような凝集力が不足するからと考えられる。しかし、ポリエステル系ポリウレタン樹脂は、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂に比べて、高い機械特性及び経済性を有している。従って、スポーツシューズの業界に限らず、ポリウレタン系樹脂とポリアミド系樹脂との複合体を利用する分野にあっては、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂とポリエステル系ポリウレタン樹脂とを区別することなく利用できる複合化技術の開発が、技術的にも商業的にも大きな課題である。
【0009】
さらに、特開2002−273826号公報(特許文献5)には、ラジカル発生剤で加硫した加硫ゴム部材と、軌道相互作用エネルギー係数Sが0.006以上である水素原子又は硫黄原子を一分子中に少なくとも平均2つ有する熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材との組み合わせで構成されている複合体が開示されている。しかし、この方法では、両部材を接合するために架橋剤が必要であるため、一定時間(通常、7分間以上)、加熱(通常、160℃以上)して強制的に接触しなければならない。従って、この方法は、最終複合体の形状によっては、耐熱性の低い材料、特にISO175で規定される0.45MPa荷重下での荷重たわみ温度が100℃以下である材料には事実上使用できない。また、耐熱性の比較的高い材料を用いる場合でも、高温、高圧、長時間の条件を経るために、膨張収縮などの物理現象は避けられず、高い寸法精度の複合成形物を得るのは困難である。
【特許文献1】特開平8−267585号公報
【特許文献2】特開平9−248201号公報
【特許文献3】特開平7−308205号公報
【特許文献4】特表平8−505333号公報
【特許文献5】特開2002−273826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、ポリアミド系樹脂部材と熱可塑性ポリウレタン系樹脂部材とで構成された複合体において、両者の接合強度を大幅に向上した複合体及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、ポリアミド系樹脂部材と熱可塑性ポリウレタン系樹脂部材とで構成された複合体において、使用する熱可塑性ポリウレタン系樹脂の種類に関係なく、両者が強固に接合した複合体及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、短時間で、かつ複雑な製造工程を経ることなく、簡便な方法で、ポリアミド系樹脂部材と熱可塑性ポリウレタン系樹脂部材とが強固に熱融着した複合成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリアミド系樹脂を構成するポリアミド成分の少なくとも一部に脂肪族環を導入すると、一般的な脂肪族アミド成分で構成されたポリアミド系樹脂に比べて、熱可塑性ポリウレタン系樹脂に対し極めて高い接合強度を発揮し、且つポリウレタン系樹脂の種類に関係なく、ポリエステル系ポリウレタン樹脂に対しても、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂と同様に強固な接合が可能となることを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の複合成形体は、ポリアミド系樹脂で構成された樹脂部材と、熱可塑性ポリウレタン系樹脂で構成された樹脂部材とが直接接合した複合成形体であって、
前記ポリアミド系樹脂が、ジアミン成分として、ジアミノシクロアルカン、ジアミノシクロアルケン、ビス(アミノシクロアルキル)アルカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)シクロアルカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)ケトン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)スルホキシド、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルエーテル、ジ又はトリシクロC7−10アルカン−ジアミン、及びジ又はトリシクロC7−10アルケン−ジアミンからなる群から選択された少なくとも一種を含むジアミンを用いて得られた脂肪族環を有するポリアミド成分を含み、
前記脂肪族環を有するポリアミド成分が、脂環族ポリアミド系樹脂及び脂環族ポリアミドエラストマーから選択された少なくとも一種であり、かつ
前記ポリアミド系樹脂を構成する全ポリアミド成分において、脂環族モノマー残基と他のモノマー残基との割合(モル比)が、前者/後者=1.2/98.8〜0.1/99.9である。
【0015】
前記ポリアミド系樹脂は、10mmol/kg以上のアミノ基を有していてもよい。前記熱可塑性ポリウレタン系樹脂はポリエステルウレタンエラストマーやポリエーテルウレタンエラストマーなど(特にポリエステルウレタンエラストマー)であってもよい。
【0016】
本発明の複合成形体は、靴や機械部品(ロールなど)の構成部材などに適している。
【0017】
このような複合成形品は、前記ポリアミド系樹脂及び熱可塑性ポリウレタン系樹脂のうち少なくとも一方を加熱して、前記ポリアミド系樹脂と前記熱可塑性ポリウレタン系樹脂とを接合させることにより製造できる。例えば、前記ポリアミド系樹脂及び熱可塑性ポリウレタン系樹脂のうち少なくとも一方を加熱溶融して、少なくとも一方が溶融状態で接触させて接合させてもよい。また、熱成形、射出成形、押出成形及びブロー成形から選択された成形方法により前記ポリアミド系樹脂と熱可塑性ポリウレタン系樹脂とを成形過程で接合させてもよい。
【0018】
なお、本明細書において、「樹脂」とは、「樹脂組成物」を含む意味に用いる。また、本明細書において「接着」とは、接着剤を介して複数の部材を複合化させる技術を意味し、「接合」とは、接着剤を介することなく、複数の部材を複合化させる技術を意味し、両者を区別している。(熱)融着は接合の一形態である。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、ポリウレタン系樹脂部材とポリアミド系樹脂部材とで構成された複合体において、両者の接合強度を大幅に向上することができる。また、使用する熱可塑性ポリウレタン系樹脂の種類に関係なく、両者を強固に接合できる。従って、例えば、高い機械的特性を有するポリウレタン系樹脂部材とポリアミド系エラストマー部材との複合体などのように、複合体全体としての柔軟性が求められるスポーツシューズの分野においても有用である。さらに、本発明によれば、短時間で、かつ複雑な製造工程を経ることなく、簡便な方法で、ポリアミド系樹脂部材と熱可塑性ポリウレタン系樹脂部材とが強固に熱融着した複合成形体を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[複合成形体]
本発明の複合成形体は、脂肪族環を有するポリアミド成分で構成された樹脂部材と、このポリアミド系樹脂部材に直接接合し、かつ熱可塑性ポリウレタン系樹脂で構成された樹脂部材とで構成されている。
【0021】
(ポリアミド系樹脂)
本発明におけるポリアミド系樹脂は、脂肪族環を有するポリアミド成分で構成されている。このようなポリアミド成分としては、例えば、(1)脂環族ポリアミド系樹脂や脂環族ポリアミドエラストマーなどの脂環族ポリアミド成分単独又はこれらのアロイやブレンド、(2)脂環族ポリアミド系樹脂、脂環族ポリアミドエラストマー、脂環族ポリアミドオリゴマーなどの脂環族ポリアミド成分と、脂肪族ポリアミド系樹脂や芳香族ポリアミド系樹脂などの非脂環族ポリアミド成分とで構成されたポリアミド系樹脂組成物が例示できる。
【0022】
(1)脂環族ポリアミド成分単独又はこれらの組み合わせ
脂環族ポリアミド成分は、脂環族ポリアミド系樹脂又はエラストマーの単独成分であってもよく、脂環族ポリアミド系樹脂と脂環族ポリアミドエラストマーとを組み合わせたアロイ又はブレンド成分であってもよい。
【0023】
脂環族ポリアミド系樹脂は、脂肪族環を分子の主鎖や側鎖に有する脂環族ポリアミド系樹脂であり、通常、主鎖に脂肪族環を有している。脂環族ポリアミド系樹脂としては、例えば、モノマー成分として、脂環族ジアミン及び脂環族ジカルボン酸から選択された少なくとも一種の脂環族モノマーを用いることにより得られる脂環族ポリアミドなどが使用できる。脂環族ポリアミドは、ホモポリアミド及びコポリアミドのいずれでもよい。
【0024】
脂環族ポリアミド系樹脂は、前記脂環族モノマー同士を重合させて得られるポリアミドであってもよいが、他の共重合性モノマーと重合させてもよい。他の共重合性モノマーとしては、芳香族ジアミンや芳香族ジカルボン酸などの芳香族モノマーであってもよいが、柔軟性の点から、脂肪族ジアミン及び/又は脂肪族ジカルボン酸などの脂肪族モノマーが好ましい。さらに、接合性の点から、脂環族モノマーとしては、脂環族ジアミンを用いるのが好ましく、脂環族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸との組み合わせが特に好ましい。前記脂環族モノマーと共に、脂肪族モノマーを併用した脂環族ポリアミド系樹脂は、透明性が高く、いわゆる透明ポリアミドとして知られている。
【0025】
脂環族ジアミンとしては、例えば、飽和脂環族ジアミン[ジアミノシクロペンタン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、ジアミノシクロヘプタン、水添ナフタレンジアミンなどのジアミノシクロアルカン(好ましくはジアミノC5−12シクロアルカン)など]、不飽和脂環族ジアミン[1,2−ジアミノシクロヘキセン、1,3−ジアミノシクロヘキセンなどのジアミノシクロアルケン(好ましくはC5−12シクロアルケン)など]、水添ジフェニル系ジアミン類[4,4′−ジアミノ水添ビフェニル、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−2−メチルシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパンなどのビス(アミノシクロアルキル)アルカン(好ましくはビス(アミノC5−8シクロアルキル)C1−6アルカン)、ビス(4−アミノシクロヘキシル)シクロヘキサンなどのビス(4−アミノシクロヘキシル)シクロアルカン(好ましくはビス(アミノC5−8シクロアルキル)C5−12シクロアルカン)、ビス(4−アミノシクロヘキシル)ケトン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)スルホキシド、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルエーテルなど]、橋架環式アルカンジアミン類(ボルナンジアミン、ノルボルナンジアミン、アダマンタンジアミンなどのジ又はトリシクロC7−10アルカン−ジアミンなど)、橋架環式アルケンジアミン類(ボルネンジアミン、ノルボルネンジアミンなどのジ又はトリシクロC7−10アルケン−ジアミンなど)などが挙げられる。これらの脂環族ジアミンは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの脂環族ジアミンのうち、アミノC5−10シクロアルカンを含むジアミン、特にC6−8シクロアルカンジアミンや、ビス(C6−8シクロアルキル)C1−4アルカンジアミンが好ましい。
【0026】
ジアミン成分には、脂肪族ジアミンや芳香族ジアミンも含まれる。脂肪族ジアミンとしては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ドデカンジアミンなどのC4−16アルキレンジアミン(好ましくはC4−14アルキレンジアミン、特にC6−12アルキレンジアミン)などが挙げられる。芳香族ジアミンとしては、例えば、メタキシリレンジアミンやフェニレンジアミンなどが挙げられる。これらのジアミン成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのジアミン成分のうち、柔軟性の点から、脂肪族ジアミンが好ましい。
【0027】
脂環族ジカルボン酸としては、例えば、飽和脂環族ジカルボン酸[シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸などのシクロアルカンジカルボン酸(好ましくはC5−12シクロアルカン−ジカルボン酸)など]、不飽和脂環族ジカルボン酸[シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シクロヘキセン−1,3−ジカルボン酸などのシクロアルケンジカルボン酸(好ましくはC5−12シクロアルケン−ジカルボン酸)など]、水添ジフェニル系ジカルボン酸類[水添ビフェニル−4,4′−ジカルボン酸、ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)メタン、ビス(4−カルボキシ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−カルボキシ−2−メチルシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)プロパンなどのビス(カルボキシシクロアルキル)アルカン(好ましくはビス(カルボキシC5−8シクロアルキル)C1−6アルカン)、ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)ケトン、ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)スルホキシド、4,4′−ジカルボキシジシクロヘキシルエーテルなど]、橋架環式アルカンジカルボン酸類(ボルナンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7−10アルカン−ジカルボン酸)、橋架環式アルケンジカルボン酸類(ボルネンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7−10アルケン−ジカルボン酸)などが例示できる。これらの脂環族ジカルボン酸のうち、C5−10シクロアルカンを含むジカルボン酸、特にC6−8シクロアルカンジカルボン酸や、ビス(C6−8シクロアルキル)C1−4アルカンジカルボン酸が好ましい。
【0028】
ジカルボン酸成分には、脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸も含まれる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、コルク酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの炭素数4〜20程度のアルカンジカルボン酸(好ましくはC4−16アルカンジカルボン酸、特にC6−14アルカンジカルボン酸)などが挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのジカルボン酸成分のうち、柔軟性の点から、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0029】
脂環族ポリアミド系樹脂において、脂環族モノマー残基と他の共重合性モノマー残基との割合(モル比)は、脂環族モノマー残基/共重合性モノマー残基=100/0〜0.1/99.9、好ましくは90/10〜0.5/99.5(例えば、70/30〜1/99)、さらに好ましくは60/40〜3/97(特に50/50〜5/95)程度である。脂環族モノマー残基の割合は、接合力の点からは多い方が好ましいものの、柔軟性の点からは少ない方が好ましく、用途に応じて適宜選択するのが好ましい。
【0030】
また、ポリマーの末端のみに脂環族モノマーを付加してもよく、その方法としては、例えば、後述の脂肪族ポリアミドや芳香族ポリアミドなどの末端をカルボキシ封鎖した後、末端カルボキシル基に脂肪族ジアミンを付加させる方法や、少量のジカルボン酸成分の存在下で炭素数4〜20程度のラクタム(カプロラクタムやラウリルラクタムなど)を重合後、末端カルボキシル基に脂環族ジアミンを付加させる方法などが挙げられる。
【0031】
これらの脂環族ポリアミド系樹脂のうち、前述の如く、接合性及び柔軟性の点から、脂環族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とから得られた脂環族ポリアミド系樹脂が好ましく、例えば、アミノC5−10シクロアルカンを含むジアミン[例えば、ジアミノシクロヘキサンなどのC6−8シクロアルカンジアミンや、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−2−メチルシクロヘキシル)メタンなどのビス(アミノC6−8シクロアルキル)C1−4アルカン]と、炭素数4〜20程度のアルカンジカルボン酸(例えば、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などのC6−14アルカンジカルボン酸など)とから得られた脂環族ポリアミド系樹脂が特に好ましい。
【0032】
これらの脂環族ポリアミド系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの脂環族ポリアミド系樹脂のうち、前記脂肪族ジカルボン酸と脂環族ジアミンとの縮合体(ホモ又はコポリアミド)などが好ましい。
【0033】
脂環族ポリアミド系樹脂の数平均分子量は、6,000〜100,000、好ましくは8,000〜50,000、さらに好ましくは10,000〜30,000程度である。この分子量は、重合において、計算量よりも過剰の脂肪族ジアミン及び/又は脂環族ジアミンを使用することによって調整してもよい。
【0034】
脂環族ポリアミドエラストマー(脂環族ポリアミドブロック共重合体)には、脂環族ポリアミド−ポリエーテルブロック共重合体[ポリC2−4アルキレンオキサイド(ポリテトラメチレンオキサイド(PTMG)、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなど)などのポリエーテルセグメント又はブロックをソフトセグメントとして含む脂環族ポリアミド−ポリエーテルブロック共重合体など]などの脂環族ポリアミドエラストマーなどが含まれる。脂環族ポリアミドブロックとしては、前記脂環族ポリアミド系樹脂を構成するポリアミドブロック単位が使用できる。脂環族ポリエラストマーは、脂環族ポリアミドブロック及びポリエーテルブロックの少なくとも一方において、異種のブロックを組み合わせたコポリエラストマーであってもよい。また、脂環族ポリアミドブロック及びポリエーテルブロックは、それぞれ、コポリアミドブロック、コポリエーテルブロックであってもよい。
【0035】
脂環族ポリアミド−ポリエーテルブロック共重合体としては、反応性末端基を有する脂環族ポリアミドブロックと反応性末端基を有するポリエーテルブロックとの共重縮合により得られるブロック共重合体、特に、脂環族ポリエーテルアミド(例えば、ジカルボキシル末端を有する脂環族ポリアミドブロックとジアミン末端を有するポリオキシアルキレンブロックとのブロック共重合体など)、ポリエーテルエステルアミド(ジカルボキシル末端を有する脂環族ポリアミドブロックとジヒドロキシ末端を有するポリオキシアルキレンブロックとのブロック共重合体、ジアミン末端を有する脂環族ポリアミドブロックとジカルボキシル末端を有するポリオキシアルキレンブロック(末端をジカルボン酸でエステル化したポリオキシアルキレンブロック)とのブロック共重合体など)などが挙げられる。
【0036】
脂環族ポリアミドエラストマーを構成する脂環族モノマーの割合については、前記脂環族ポリアミド系樹脂と同様である。これらの脂環族ポリアミドエラストマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0037】
脂環族ポリアミドエラストマーは、接合性の点から、前記脂環族ポリアミド系樹脂と組み合わせて使用するのが好ましい。脂環族ポリアミド系樹脂と脂環族ポリアミドエラストマーとを組み合わせる場合、両者の割合(重量比)は、脂環族ポリアミド系樹脂/脂環族ポリアミド系エラストマー=99/1〜30/70、好ましくは97/3〜50/50、さらに好ましくは95/5〜60/40程度である。
【0038】
(2)脂環族ポリアミド成分と非脂環族ポリアミド成分との組成物
脂肪族環を有するポリアミド成分は、脂環族ポリアミド成分と非脂環族ポリアミド成分との組成物であってもよい。
【0039】
脂環族ポリアミド成分は、前記脂環族ポリアミド系樹脂及び脂環族ポリアミドエラストマーの他、脂環族ポリアミドオリゴマーであってもよい。これらの脂環族ポリアミド成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
脂環族ポリアミドオリゴマーとしては、慣用の方法、例えば、前記例示の脂環族ポリアミド成分を用いて、重縮合条件などを調整することなどにより得られる比較的分子量の低い脂環族ポリアミドなどが使用できる。例えば、原料のポリアミド成分として、前記例示のジアミンとジカルボン酸との組み合わせ、前記ジアミン及び/又はジカルボン酸とラクタム(ω−ラウロラクタムなどの炭素数4〜20程度のラクタムなど)との組み合わせなどを用いてもよい。脂環族ポリアミドオリゴマーは、例えば、加圧下、前記ラクタムと脂環族ジアミンとを加熱撹拌して、重合させることにより得ることができる。
【0041】
脂環族ポリアミドオリゴマーの数平均分子量は、例えば、500〜10,000、好ましくは1000〜10,000(例えば、2,000〜9,000)、さらに好ましくは3,000〜8,000(例えば、3,000〜6,000)程度の比較的分子量の大きなオリゴマーを用いると、熱可塑性ポリウレタンとの接合性を改善することもできる。この分子量は、重合において、計算量よりも過剰の脂肪族ジアミン及び/又は脂環族ジアミンを使用することによって調整してもよい。
【0042】
これらの脂環族ポリアミド成分のうち、接合性の点から、脂環族ポリアミド系樹脂や脂環族ポリアミドオリゴマー、特に脂環族ポリアミド系樹脂が好ましい。また、脂環族ポリアミド成分としても、接合性の点から、ジアミン成分として、脂環族ジアミン(例えば、アミノC5−10シクロアルカンを含むジアミンなど)を用いて得られたポリアミド成分が好ましい。
【0043】
非脂環族ポリアミド成分としては、脂肪族ポリアミド系樹脂や芳香族ポリアミド系樹脂などが挙げられ、各種ホモポリアミド及びコポリアミドなどが使用できる。
【0044】
脂肪族ポリアミド系樹脂のうち、ホモポリアミドとしては、前記脂肪族ジアミン成分と前記脂肪族ジカルボン酸成分との縮合物(例えば、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010など)、ラクタム[ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどの炭素数4〜20(好ましくは炭素数4〜16)程度のラクタムなど]又はアミノカルボン酸[ω−アミノウンデカン酸などの炭素数4〜20(好ましくは炭素数4〜16)程度のアミノカルボン酸など]のホモポリアミド(例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12など)などが例示できる。また、コポリアミドとしては、前記脂肪族ジアミン成分、脂肪族ジカルボン酸成分、ラクタム及びアミノカルボン酸などのポリアミドを構成し得るモノマー成分が共重合したコポリアミド、例えば、6−アミノカプロン酸と12−アミノドデカン酸との共重合体;6−アミノカプロン酸、12−アミノドデカン酸、ヘキサメチレンジアミン及びアジピン酸の共重合体;ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸、水添ダイマー酸及び12−アミノドデカン酸の共重合体;ポリアミド6/11,ポリアミド6/12,ポリアミド66/11,ポリアミド66/12などが挙げられる。これらの脂肪族ポリアミド系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0045】
芳香族ポリアミド系樹脂には、前記脂肪族ジアミン成分及び脂肪族ジカルボン酸成分のうち少なくとも一方の成分が芳香族成分であるポリアミド、例えば、ジアミン成分が芳香族成分であるポリアミド[MXD−6などの芳香族ジアミン(メタキシリレンジアミンなど)と脂肪族ジカルボン酸との縮合体など]、ジカルボン酸成分が芳香族成分であるポリアミド[脂肪族ジアミン(トリメチルヘキサメチレンジアミンなど)と芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸など)との縮合体など]などが含まれる。これらの芳香族ポリアミド系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0046】
なお、非脂環族ポリアミド成分には、ジアミン成分及びジカルボン酸成分が芳香族成分であるポリアミド[ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)など]の全芳香族ポリアミド(アラミド)などを併用してもよい。
【0047】
非脂環族ポリアミド成分には、さらに、ダイマー酸をジカルボン酸成分とするポリアミド、少量の多官能性ポリアミン及び/又はポリカルボン酸成分を用い、分岐鎖構造を導入したポリアミド、変性ポリアミド(N−アルコキシメチルポリアミドなど)、脂肪族又は芳香族ポリアミドブロック共重合体なども含まれる。
【0048】
これらの非脂環族ポリアミド成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、柔軟性の点から、脂肪族ポリアミド系樹脂や脂肪族ポリアミドブロック共重合体、特に脂肪族ポリアミド系樹脂が好ましく用いられる。
【0049】
前記脂環族ポリアミド成分と、非脂環族ポリアミド成分との割合(重量比)は、脂環族ポリアミド成分中の脂肪族環の割合に応じて、前者/後者=99/1〜1/99程度の範囲から選択でき、接合性の点から、例えば、前者/後者=98/2〜30/70、好ましくは97/3〜50/50、さらに好ましくは95/5〜70/30程度であってもよい。また、脂環族ポリアミド成分が脂環族ポリアミドオリゴマーの場合には、その割合が少なくても充分な接合力を発揮できるため、柔軟性などの点から、両者の割合は、例えば、前者/後者=50/50〜0.1/99.9、好ましくは40/60〜3/97、さらに好ましくは30/70〜5/95(特に20/80〜5/95)程度であってもよい。
【0050】
これらの脂肪族環を有するポリアミド成分の中では、接合性などの点から、脂環族ポリアミド系樹脂を含む成分、特に脂環族ポリアミド系樹脂、脂環族ポリアミド系樹脂と脂環族ポリアミドエラストマーとの組み合わせ、脂環族ポリアミド系樹脂と脂肪族ポリアミド系樹脂との組み合わせが好ましい。
【0051】
本発明において、脂肪族環を有するポリアミド成分は、特定の濃度でアミノ基を有していてもよい。このアミノ基は、通常、ポリアミド系樹脂の主鎖に含まれるアミド結合や、尿素結合、ウレタン結合などに由来する−NH−(イミノ)基や−N<基などは含まず、通常、遊離アミノ基(−NH基)を示す。ポリアミド系樹脂は、この遊離アミノ基を樹脂の分岐鎖に有していてもよく、主鎖の末端に有していてもよい。
【0052】
脂肪族環を有するポリアミド系樹脂のアミノ基の含有量(又は濃度)は、ポリアミド系樹脂1kgに対して、10mmol以上(例えば、10〜300mmol程度)、好ましくは15mmol以上(例えば、15〜200mmol程度)、さらに好ましくは20mmol以上(例えば、20〜150mmol程度)、特に30mmol以上(例えば、30〜100mmol程度)である。
【0053】
前記ポリアミド系樹脂は、前記範囲にあるアミノ基を特に末端アミノ基として含有するのが好ましく、末端アミノ基の一部又は全部が脂環式アミノ基であってもよい。また、アミノ基の含有量を調整するために、アミン化合物[ジアミン類(前記例示の脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン及び芳香族ジアミンなど)の他、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリアルキレンポリアミン(ポリC2−3アルキレンポリアミンなど)などの脂肪族ポリアミンなどのポリアミン類など]などを添加してもよい。
【0054】
本発明では、アミノ基は、特に、脂環族ジアミンを用いることにより、脂環族ジアミンに由来する脂環式アミノ基(シクロアルキルアミノ基など)とするのが好ましい。脂環族ジアミンに由来する脂環式アミノ基を有するポリアミド成分を用いることにより、熱可塑性ポリウレタン系樹脂部材との接合力が向上する。
【0055】
なお、脂肪族環を有するポリアミド成分のカルボキシル基濃度は、特に制限されず、例えば、0.1〜200mmol/kg、好ましくは0.5〜150mmol/kg、さらに好ましくは1〜100mmol/kg程度である。
【0056】
本発明では、ポリアミド系樹脂を構成する全ポリアミド成分において、脂環族モノマー残基と他のモノマー残基との割合(モル比)は、前者/後者=100/0〜0.1/99.9、好ましくは90/10〜0.5/99.5、さらに好ましくは70/30〜1/99程度である。
【0057】
ポリアミド系樹脂部材は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂(ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ハロゲン含有ビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂など)、各種添加剤、例えば、フィラー又は補強剤(強化繊維など)、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤など)、着色剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。
【0058】
なお、本発明の複合成形体の製造に伴って、樹脂部材間の成形収縮率の差異により、製品に「反り」が発生する場合があり、反り矯正の程度が大きい場合、接合部が破断したり、各樹脂部材にストレスクラックが発生する原因になるおそれがある。そのため、脂肪族環を有するポリアミド系樹脂は、結晶性が低い方が好ましく、このポリアミド系樹脂の到達結晶化度(平均的な到達結晶化度)は、50%以下(例えば、5〜50%程度)、好ましくは40%以下(例えば、5〜40%程度)、さらに好ましくは30%以下(例えば、10〜30%程度)であるのが有利である。
【0059】
なお、到達結晶化度の点だけを考慮すると、ホモポリマーよりコポリマーが有利である。さらに、コポリマーは、一般にホモポリマーより柔軟性に優れる点においても、有利である。
【0060】
ポリアミドホモポリマーをハードセグメントとし、ポリエーテルをソフトセグメントとするポリアミドブロック共重合体(ポリアミドエラストマー)の場合は、ハードセグメントとソフトセグメントとの存在比率により到達結晶化度を調整できる。ポリアミドブロック共重合体の到達結晶化度を、40%以下(例えば、5〜40%程度)、好ましくは35%以下(例えば、5〜35%程度)、さらに好ましくは30%以下(例えば、10〜30%程度)に調整すると、熱可塑性ポリウレタン系樹脂部材との組み合わせにおいて反りが発生しにくく有利であり、また、熱可塑性ポリウレタン系樹脂の柔軟性に近似させることもできる。
【0061】
なお、「到達結晶化度」とは、精密熱プレス装置を用い、試料樹脂をこの樹脂の融点より20℃高い温度まで加熱し、次いで、3℃/分の冷却速度で室温まで冷却して、厚み1mmの平板を作製し、この平板を用いてX線回折分析により測定される結晶化度をいう。前記樹脂の融点は、JIS K7122に従って、DSC装置(示差走査熱量分析装置)により測定した融点である。
【0062】
(ポリウレタン系樹脂)
熱可塑性ポリウレタン系樹脂は、ジイソシアネート類とジオール類と必要により鎖伸長剤との反応により得ることができる。
【0063】
ジイソシアネート類としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロアルキルメタン−4,4′−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)などの脂環族ジイソシアネート類;フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート(MDI)などの芳香族ジイソシアネート類、キシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ジイソシアネート類などが例示できる。ジイソシアネート類として、アルキル基(例えば、メチル基)が主鎖又は環に置換した化合物を使用してもよい。ジイソシアネート類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0064】
ジオール類としては、ポリエステルジオール[脂肪族ジカルボン酸成分(アジピン酸などのC4−12脂肪族ジカルボン酸など)、脂肪族ジオール成分(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2−12脂肪族ジオールなど)、ラクトン成分(ε−カプロラクトンなどのC4−12ラクトンなど)などから得られるポリエステルジオール(脂肪族ポリエステルジオール)、例えば、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(1,4−ブチレンアジペート)、ポリ(1,6−ヘキサンアジペート)、ポリ−ε−カプロラクトンなど]、ポリエーテルジオール[脂肪族ポリエーテルジオール、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシトリメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールなどのポリオキシC2−4アルキレングリコール類、これらのポリオキシアルキレングリコール類のブロック共重合体(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体など);芳香族ポリエーテルジオール、例えば、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加体などの芳香族ジオールのアルキレンオキサイド付加体(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのC2−4アルキレンオキサイド付加体など)など];ポリエステルエーテルジオール(ジオール成分の一部として上記ポリエーテルジオールを用いたポリエステルジオール)などが利用できる。これらのジオール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのジオール類のうち、ポリエステルジオールや、ポリエーテルジオール(ポリテトラメチレンエーテルグリコールなど)を用いる場合が多い。
【0065】
鎖伸長剤としては、グリコール類[短鎖グリコール類、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのC2−10アルキレンジオール;ビスヒドロキシエトキシベンゼン(BHEB)など]の他、ジアミン類[エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC2−10アルキレンジアミンなどの脂肪族ジアミン類;イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミン;フェニレンジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン類など]も使用できる。鎖伸長剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0066】
熱可塑性ポリウレタン系樹脂には、ジオール類とジイソシアネート類とを実質的に当量の割合で用いて得られた完全熱可塑性ポリウレタンの他、ジオール類に対して少過剰のジイソシアネート類を用いて得られた遊離(未反応)のイソシアネートが少量残存している不完全又は末端イソシアネート基含有熱可塑性ポリウレタン、ジイソシアネート類に対して少過剰のジオール類を用いて得られた末端ヒドロキシル基含有熱可塑性ポリウレタンも含まれる。
【0067】
熱可塑性ポリウレタン系樹脂のうち、特に、ジオール類(ポリエステル単位やポリエーテル単位を有するジオール類など)と、ジイソシアネート類と、鎖伸長剤としてのグリコール類(短鎖グリコール類など)とを用いて得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましい。この熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、グリコール類とジイソシアネート類とのポリウレタンで構成されたハードセグメント(ハードブロック)と、脂肪族ポリエーテルジオール(ポリ(オキシエチレン)グリコールなど)、脂肪族ポリエステルジオールなどで構成されたソフトセグメント(ソフトブロック)とを含んでいる。ポリウレタンエラストマーには、ソフトセグメントの種類に応じて、ポリエステルウレタンエラストマー、ポリエーテルウレタンエラストマーなどが含まれる。
【0068】
これらの熱可塑性ポリウレタン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0069】
熱可塑性ポリウレタン系樹脂部材は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂(熱可塑性樹脂、特に、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマーなど)、安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤など)、可塑剤、滑剤、充填剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。
【0070】
このような複合成形体は、ポリアミド系樹脂が脂肪族環有しているので、接着剤を用いることなく、前記ポリアミド系樹脂と熱可塑性ポリウレタン系樹脂とが強固に接合している。接合強度は、通常、30N/cm以上であり、ポリアミド系樹脂部材(例えば、硬質樹脂部材)と熱可塑性ポリウレタン系樹脂部材(例えば、軟質樹脂部材)との剥離に伴って、凝集破壊する場合がある。このような複合成形体の接合強度は、通常、30N/cm〜凝集破壊、好ましくは40N/cm以上、特に50N/cm以上(50N/cm以上〜凝集破壊)である。
【0071】
[複合成形体の製造方法]
本発明の複合成形体は、加熱下、ポリアミド系樹脂と熱可塑性ポリウレタン系樹脂とを接合することにより製造できる。通常、ポリアミド系樹脂及び熱可塑性ポリウレタン系樹脂のうち少なくとも一方を加熱、溶融し、両樹脂を接触させることにより接合できる。このような複合成形体は、例えば、熱成形(熱プレス成形、インジェクションプレス成形など)、射出成形(インサート射出成形、二色射出成形、コアバック射出成形、サンドイッチ射出成形など)、押出成形(共押出成形、Tダイラミネート成形など)、ブロー成形などの慣用の成形法により成形過程でポリアミド系樹脂と熱可塑性ポリウレタン系樹脂とを接合させることにより製造できる。
【0072】
例えば、インサート成形、インジェクションプレス成形などの成形法では、熱可塑性ポリウレタン系樹脂を加熱溶融し、この溶融状態の熱可塑性ポリウレタン系樹脂を、ポリアミド系樹脂で構成された樹脂部材の少なくとも一部と接触させながら成形し、両者を接合させてもよく、ポリアミド系樹脂を加熱溶融し、この溶融状態のポリアミド系樹脂を、熱可塑性ポリウレタン系樹脂で構成された樹脂部材の少なくとも一部と接触させながら成形し、両者を接合させてもよい。また、二色射出成形、共押出成形などの成形法では、ポリアミド系樹脂及び熱可塑性ポリウレタン系樹脂をそれぞれ加熱溶融し、溶融状態のポリアミド系樹脂と溶融状態の熱可塑性ポリウレタン系樹脂とを接触させながら成形し、両者を接合させてもよい。少なくともいずれか一方の樹脂を溶融させて、ポリアミド系樹脂と熱可塑性ポリウレタン系樹脂とを接触させ、接合させた後、通常、冷却することにより、ポリアミド系樹脂部材とポリウレタン系樹脂部材とが強固に接合した複合成形体を得ることができる。また、目的、用途などに応じて、ポリアミド系樹脂部材と熱可塑性ポリウレタン系樹脂部材とは、少なくとも一部で接合していればよい。
【0073】
なお、樹脂は、樹脂の融点以上の温度に加熱することにより溶融させることができるが、実質的に結晶化しない樹脂の場合には、樹脂のガラス転移点(Tg)以上の温度に加熱することにより、溶融させることができる。
【0074】
本発明では、ポリアミド系樹脂が脂肪族環を含有し、この脂肪族環が熱可塑性ポリウレタン系樹脂に作用するため、異種材料を用いた複合成形体であっても、接合強度を大幅に改善でき、単に熱融着による物理的作用では得られない高い接合強度が得られる。従って、ポリウレタン系樹脂の種類についても自由度が高く、例えば、ポリエーテル系ポリウレタンとポリエステル系ポリウレタンとを区別することなく選択することができる。
【0075】
上記のように、ポリアミド系樹脂とポリウレタン系樹脂の何れの樹脂を溶融させるかは特に制限されず、一般に融点又はガラス転移点(Tg)のより低い軟質樹脂(ポリウレタン系樹脂)を加熱し、この軟質樹脂と融点又はTgのより高い硬質樹脂(ポリアミド系樹脂)で構成された硬質樹脂部材とを接合させてもよく、また、一般に融点又はTgのより高い硬質樹脂(ポリアミド系樹脂)を加熱し、この硬質樹脂と融点又はTgのより低い軟質樹脂(ポリウレタン系樹脂)で構成された軟質樹脂部材とを接合させてもよい。
【0076】
これらの方法のうち、特に、前者の方法において、本発明の効果を特徴的かつ有効に発揮でき、既存技術に比べて有利である。単なる物理的な熱融着による既存技術では、先に成形されたポリアミド系樹脂部材と、後に成形されるポリウレタン系樹脂を接合させる場合、ポリウレタン系樹脂の成形温度は、先に成形されたポリアミド系樹脂の融点より低くなる場合が多く熱融着は進行しにくい。また、ポリウレタン系樹脂の成形温度が、ポリアミド系樹脂の融点より高い場合であっても、ポリアミド系樹脂部材の表面を融解させるには熱量が不足する場合が多い。そのため、既存技術では、通常、ポリウレタン系樹脂の成形に先行して、ポリアミド系樹脂部材を成形する方法は取り得ない。しかし、このような場合であっても、本発明によれば、ポリアミド系樹脂に含まれるアミノ基の作用により、ポリアミド系樹脂部材と熱可塑性ポリウレタン系樹脂とをより容易に接合させることができるため、複合体の製造工程の自由度を高めることができ、製造工程を大幅に合理化することもできる。また、ポリウレタン樹脂についても、ポリエーテル系とポリエステル系とを区別なく選択できるため、材料コストの低減にも極めて有利である。
【0077】
本発明において、通常、硬質樹脂が脂肪族環を有するポリアミド系樹脂であり、軟質樹脂が熱可塑性ポリウレタン系樹脂である場合が多いが、硬質樹脂が熱可塑性ポリウレタン系樹脂であり、軟質樹脂が前記ポリアミド系樹脂であってもよい。また、前記ポリアミド系樹脂と熱可塑性ポリウレタン系樹脂の硬さが同程度であってもよい。
【0078】
より具体的には、前記熱プレス成形では、硬質樹脂(又は組成物)及び軟質樹脂(又は組成物)のうち、少なくとも一方をプレス成形の金型内で溶融させ、双方を接触させて加圧し、接合させて複合成形体を製造できる。熱プレス成形において、硬質樹脂及び/又は軟質樹脂は、ペレット状や粉状などの形状で金型に充填してもよく、予め他の成形方法で賦形した成形品として金型に装着してもよい。
【0079】
インサート射出成形法では、硬質樹脂(又は樹脂組成物)及び軟質樹脂(又は樹脂組成物)のうち、いずれか一方を射出成形、押出成形、シート成形、フィルム成形などの成形法により成形し、賦形された成形品を金型内に収納した後、この成形品と金型との間の空隙に他方を射出成形することにより複合成形体を製造できる。インサート射出成形においては、金型内に収納する成形品を予熱しておくことが好ましい。
【0080】
二色射出成形法では、二台以上の射出成形機を用いて、硬質樹脂(又は樹脂組成物)及び軟質樹脂(又は樹脂組成物)のいずれか一方の成分を金型に射出成形し、金型の回転又は移動により、金型のキャビティを交換し、得られた成形品と金型との間に形成された空隙に他方の成分を射出成形することにより複合成形体を製造できる。
【0081】
コアバック射出成形法では、硬質樹脂(又は樹脂組成物)及び軟質樹脂(又は樹脂組成物)のうち、いずれか一方の成分を金型に射出成形し、金型のキャビティー容積を拡大させ、得られた成形品と金型との間に形成された空隙に他方の成分を射出成形することにより複合成形体を製造できる。
【0082】
これらの成形方法のうち、特に、量産性などの点から、インジェクションプレス成形法などの熱プレス成形法、射出成形法(インサート射出成形法、二色射出成形法、コアバック射出成形法、サンドイッチ射出成形法など)などが適している。
【0083】
熱融着において、硬質樹脂及び/又は軟質樹脂の溶融温度(又は熱融着温度)は、両樹脂(又は樹脂組成物)の種類に応じて選択でき、例えば、100〜250℃、好ましくは120〜230℃、さらに好ましくは150〜220℃程度であってもよい。
【0084】
複合成形体の構造及び形状は、特に限定されないが、意匠性、装飾性、感触性などに適した構造、例えば、軟質樹脂部材の一部又は全部を硬質樹脂部材で被覆又はラミネートした構造であってもよいが、通常、硬質樹脂部材の一部又は全部を軟質樹脂部材で被覆又はラミネートした構造(例えば、硬質樹脂部材と人体(手など)との接触部分を軟質樹脂部材で被覆した構造など)などが好ましい。また、具体的な構造には、例えば、二次元的構造(シート状、板状など)、三次元的構造(例えば、棒状、チューブ状、ケーシング、ハウジングなど)などが挙げられる。
【0085】
本発明では、複雑な製造工程(複合部分に凹凸部分を設ける工程、接着剤の塗布工程など)を経ることなく、熱融着により、硬質樹脂と軟質樹脂とを直接的かつ強固に接合できるため、意匠性、装飾性、良好な感触(ソフトな感触、柔軟性など)などの性質に優れるとともに、軽量で、強靱な複合成形体を簡便に得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の複合成形体は、各種工業部品、例えば、自動車用部品(インストルメントパネル、センターパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラー、アシストグリップ、ハンドル、エアバッグカバーなどの自動車内装部品;モール、バンパー等の自動車外装部品;ラックアンドピニオンブーツ、サスペンションブーツ、等速ジョイントブーツなどの自動車機能部品など)、家電用部品(掃除機バンパー、リモコンスイッチ、OA機器のキートップなど)、水中使用製品(水中眼鏡、水中カメラカバーなど)、工業用部品(カバー部品;密閉性、防水性、防音性、防振性等を目的とした各種パッキン付き工業用部品;工業用ゴムローラー類など)、電気・電子用部品(カールコード電線被覆、ベルト、ホース、チューブ、消音ギアなど)、スポーツ用品、靴用部品(運動靴、靴底など)、意匠性や装飾性を要する部品(例えば、サングラス、メガネなど)などに使用できる。
【0087】
これらのうち、前記複合成形体は、特に靴やロール(ゴムローラーなど)などの機械部品の構成部材などに適している。靴の構成部材としては、靴底(ソール)などが挙げられ、また、複合成形体で、運動靴、作業用靴(長靴、雨靴、ガーデニング用シューズなど)などを形成してもよい。このような靴用途では、従来困難であった硬質又はガラス繊維で強化されたポリアミド系樹脂と軟質のポリウレタン系樹脂との組合せも容易となり、靴のデザイン性や機能性の向上に大きく寄与できる。
【0088】
また、ロール(ゴムローラーなど)用途では、例えば、少なくとも表面層がポリアミド系樹脂で構成された軸(シャフト)と、この軸の周面に形成された熱可塑性ポリウレタン系樹脂層とで構成してもよい。軸は、金属シャフトの表面にポリアミド系樹脂層が形成されていてもよく、ポリアミド系樹脂で構成された軸であってもよい。このようなローラー用途では、シャフト精度を得るための切削仕上げ及び熱可塑性ポリウレタン系樹脂の表面仕上げを同一の研磨機により一工程で仕上げることができるため、ローラーの製造工程を大幅に短縮でき、コストを飛躍的に削減することができる。
【実施例】
【0089】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0090】
(熱融着性の評価)
実施例で得られた複合成形体を、幅20mm及び長さ100mmの大きさに切り出し、掴み代を180℃方向に引張速度20mm/分で引張ることにより、引張試験を行い、融着界面における剥離強度を測定し、この剥離強度によりポリアミド部材とポリウレタンエラストマー部材との熱融着性(接着力)を評価した。
【0091】
なお、接着力に関して、一般的に、剥離強度が50N/cmに満たない場合は、通常、剥離は界面剥離であり、手による剥離が可能であって、多くの用途において接着不良と判定される。剥離強度が50N/cmを超えると剥離は凝集破壊を含む領域に入る。すなわち、手での剥離は殆ど不可能となり、工業的にも十分利用できる接着強度である。剥離強度が80N/cmを超えて100N/cmに至ると、剥離は全面に及ぶ凝集破壊となり、スポーツシューズをはじめ、過酷な屈曲疲労に耐えることが求められる用途にも適する。
【0092】
参考例1
窒素置換したオートクレーブ中で、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタンとドデカンジカルボン酸との塩1000gを、加圧(1.7MPa)下、加熱(220℃)し、4時間かけて、窒素ガスと共に系内の水分を系外に排出した。その後ゆっくりと275℃まで昇温し、残りの水分を系外に完全に排除した後、オートクレーブの内圧を常圧に戻した。冷却後、数平均分子量約23000、末端アミノ基濃度が43mmol/kgの透明ポリアミド(ポリマー1)を得た。ポリマー1に含まれる脂環式アミノ基を有するモノマー残基とそれ以外のモノマー残基の比率(以下「MR値」と称する)は、前者/後者=50/50と計算された。
【0093】
このポリマー1を、射出成形により100mm角、厚み2mmの平板を作成した。次いで、100mm角、深さ4mmの平板金型に、約1/5面積(平板の片端約20mm)をアルミホイルで覆った前記ポリアミド成形体を収納し、空隙部に熱可塑性ポリウレタン樹脂を射出成形した。ポリウレタン樹脂の射出成形は、シリンダー温度205℃及び金型温度60℃の条件で行った。使用したポリウレタン樹脂はポリエーテル系ポリウレタン樹脂(BASF(株)製、エラストラン1195ATR)及びポリエステル系ポリウレタン樹脂(BASF(株)製、エラストランET195)の2種類とし、それぞれについて得られた複合成形体を20mm幅に切り出して、アルミホイルで覆った部分を掴み代として剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0094】
比較例1
ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンに代えてヘキサメチレンジアミンを用いる以外は実施例1と同様にして重合を行った。得られたポリアミド612(ポリマー2)の数平均分子量は約20000、末端アミノ基の濃度は51mmolであった。このポリアミド612(ポリマー2)のMR値は0/100である。ポリマー2とポリウレタン樹脂との剥離試験を参考例1と同様にして行なった結果を表1に示す。
【0095】
実施例1
窒素置換したオートクレーブ中で、ω−ラウリルラクタム1000g、ドデカンジカルボン酸15g、及び少量のリン酸を、加圧(1.8MPa)下、加熱(250℃)し、攪拌を行った。4時間攪拌後、得られた混合物に、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンを添加し、さらに280℃で反応を継続した。0.5時間後、冷却を開始し、末端にシクロヘキシルアミノ基を有するポリアミド12(ポリマー3)を得た。このポリアミド12(ポリマー3)は数平均分子量は約15000、末端アミノ基濃度は60mmol/kgであり、MR値は1.2/98.8と計算された。このポリマー3とポリウレタン樹脂との剥離試験を参考例1と同様にして行なった結果を表1に示す。
【0096】
比較例2
窒素置換したオートクレーブ中で、ω−ラウリルラクタム1000g、ドデカンジカルボン酸15g、及び少量のリン酸を、加圧(1.8MPa)下、加熱(250℃)し、4時間かけて、攪拌しながら窒素ガスと共に系内の水分を系外に排出した。その後ゆっくりと275℃まで昇温し、残りの水分を系外に完全に排除した後、オートクレーブの内圧を常圧に戻した。冷却後、数平均分子量約15000のポリアミド12(ポリマー4)を得た。このポリアミド12(ポリマー4)の末端アミノ基は脂肪族鎖式アミノ基で、その濃度は7mmolであった。MR値は0/100である。このポリマー4とポリウレタン樹脂との剥離試験を参考例1と同様にして行なった結果を表1に示す。
【0097】
参考例2
参考例1で得られた透明ポリアミド(ポリマー1)を60重量部、比較例2で得られたポリアミド12(ポリマー4)を40重量部、2軸押出し機を用いて混合及び混練し、ポリアミドアロイ(ポリマー5)を得た。このポリアミドアロイ(ポリマー5)の末端アミノ基濃度は29mmol、MR値は29/71と計算された。このポリマー5とポリウレタン樹脂との剥離試験を参考例1と同様にして行なった結果を表1に示す。
【0098】
参考例3
実施例1で得られた脂環式アミノ基を有するポリアミド12(ポリマー3)40重量部と、比較例2で得られた脂環式アミノ基を有さないポリアミド12(ポリマー4)60重量部とを、2軸押出し機を用いて混合及び混練し、混合ポリアミド12(ポリマー6)を得た。この混合ポリアミド12(ポリマー6)の末端アミノ基濃度は28mmol、MR値は0.4/99.6と計算された。このポリマー6とポリウレタン樹脂との剥離試験を参考例1と同様にして行なった結果を表1に示す。
【0099】
参考例4
ポリアミドエラストマー(デグサ(Degussa)社製、Vestamid E47S3)を80重量部と、実施例2で得られたポリアミド12(ポリマー3)20重量部を2軸押出機を用いて混合及び混練し、混合ポリアミドエラストマー(ポリマー7)を得た。この混合ポリアミドエラストマー(ポリマー7)の末端アミノ基濃度は15mmol、MR値は0.14/99.86と計算された。このポリマー7とポリウレタン樹脂との剥離試験を、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂及びポリエステル系ポリウレタン樹脂として、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂(BASF(株)製、エラストランET880)及びポリエステル系ポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン工業(株)製、ミラストランE585)を用いる以外は参考例1と同様にして行なった結果を表1に示す。
【0100】
比較例3
ポリアミドエラストマー(デグサ(Degussa)社製、Vestamid E47S3)とポリウレタン樹脂との剥離試験を、参考例4と同様にして行なった結果を表1に示す。ここで使用したポリアミドエラストマーの末端アミノ基濃度は4mmol、MR値は0/100である。
【0101】
【表1】

【0102】
表1の結果より、実施例の複合体は、ポリウレタンの種類に関係なく、高い剥離強度を示している。これに対して、比較例1及び2の複合体は、剥離強度が低く、比較例3のシートでは、ポリエステル系ポリウレタンに対する剥離強度が低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂で構成された樹脂部材と、熱可塑性ポリウレタン系樹脂で構成された樹脂部材とが直接接合した複合成形体であって、
前記ポリアミド系樹脂が、ジアミン成分として、ジアミノシクロアルカン、ジアミノシクロアルケン、ビス(アミノシクロアルキル)アルカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)シクロアルカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)ケトン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)スルホキシド、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルエーテル、ジ又はトリシクロC7−10アルカン−ジアミン、及びジ又はトリシクロC7−10アルケン−ジアミンからなる群から選択された少なくとも一種を含むジアミンを用いて得られた脂肪族環を有するポリアミド成分を含み、
前記脂肪族環を有するポリアミド成分が、脂環族ポリアミド系樹脂及び脂環族ポリアミドエラストマーから選択された少なくとも一種であり、かつ
前記ポリアミド系樹脂を構成する全ポリアミド成分において、脂環族モノマー残基と他のモノマー残基との割合(モル比)が、前者/後者=1.2/98.8〜0.1/99.9であることを特徴とする複合成形体。
【請求項2】
ポリアミド系樹脂が、10mmol/kg以上のアミノ基を有する請求項1記載の複合成形体。
【請求項3】
熱可塑性ポリウレタン系樹脂が、ポリエステルウレタンエラストマー及びポリエーテルウレタンエラストマーから選択された少なくとも一種である請求項1記載の複合成形体。
【請求項4】
熱可塑性ポリウレタン系樹脂が、ポリエステルウレタンエラストマーである請求項1記載の複合成形体。
【請求項5】
靴又は機械部品の構成部材である請求項1記載の複合成形体。
【請求項6】
請求項1記載のポリアミド系樹脂及び熱可塑性ポリウレタン系樹脂のうち少なくとも一方を加熱して、前記ポリアミド系樹脂と前記熱可塑性ポリウレタン系樹脂とを接合させ、請求項1記載の複合成形体を製造する方法。
【請求項7】
ポリアミド系樹脂及び熱可塑性ポリウレタン系樹脂のうち少なくとも一方を加熱溶融して、少なくとも一方を溶融状態で接触させて接合する請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
熱成形、射出成形、押出成形及びブロー成形から選択された成形方法によりポリアミド系樹脂と熱可塑性ポリウレタン系樹脂とを成形過程で接合させる請求項6記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−107350(P2009−107350A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325789(P2008−325789)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【分割の表示】特願2003−345297(P2003−345297)の分割
【原出願日】平成15年10月3日(2003.10.3)
【出願人】(000108982)ダイセル・エボニック株式会社 (31)
【Fターム(参考)】