説明

複合材製造方法

【課題】高強度の複合材が得られる複合材製造方法を提供する。
【解決手段】凹部10を有する成形型1に強化繊維基材2を載置し、凹部10を挟んで配置される少なくとも一対の固定部材4によって強化繊維基材2を成形型1に固定する。このとき、強化繊維基材2と成形型1の凹部10の底面12との間に間隙が設けられた状態で、強化繊維基材2を固定部材4によって成形型1に固定する。この後、成形型1に固定された強化繊維基材2をバッグフィルム20で覆い、成形型1とバッグフィルム20との間に形成された成形空間内を減圧して、減圧された成形空間内でマトリックス樹脂を流動させる。そして、強化繊維基材2とマトリックス樹脂とが一体的に成形された複合材28が得られるように、マトリックス樹脂を固化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば風車ブレード、航空機、自動車、船舶、鉄道車両等の部材として用いられる複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マトリックス樹脂を繊維によって強化した樹脂系複合材(以下、単に「複合材」という。)は、軽量化メリットが大きいことから、風車ブレード、航空機、自動車、船舶、鉄道車両等の部材への適用が急速に進みつつある。
【0003】
複合材の製造方法として、積層された複数枚のプリプレグ材にバッグフィルムを被せて真空吸引により加圧成形し、オートクレーブでさらに加圧するとともに加熱硬化するオートクレーブ成形法が知られている。
例えば、特許文献1には、一方向繊維プリプレグに張力を付与しながら成形を行うことで、複合材のシワ及びうねりの発生を防止するオートクレーブ成形法が記載されている。この成形法は、複数枚の一方向繊維プリプレグを成形用下型の上に積層し、プリプレグの上に成形用上型板を重ね、一方向繊維プリプレグの端部を成形用下型に固定された張力板とこの張力板の上に載置されてプリプレグを押圧する拘止板によって拘止し、成形用上型板の上に通気用織物及びバッグフィルムを重ね、バッグフィルムの内側を真空引きしてプリプレグを加圧した状態で、加熱して硬化させるというものである。
【0004】
ところが、オートクレーブ成形法は、オートクレーブにより加圧しながら焼き固めるため強靭な複合材が得られるものの、オートクレーブという大掛かりな設備が必要であり、コスト高となり量産には向かない。特に、風車ブレードや航空機の翼のような大型構造部材に用いられる複合材は、引張強度及び疲労強度などの材料物性や長期耐久性はもちろんのこと、高品質な製品を高い生産性で製造することが大きな課題となる。
【0005】
そこで、大掛かりな設備を必要としない真空含浸工法(VaRTM:Vacuum assisted Resin Transfer Molding)が脚光を浴びている。真空含浸工法は、成形型上に載置した繊維強化基材をバッグフィルムで覆い、バッグフィルムの内側を真空吸引し、バッグフィルムの内部に液状樹脂を注入して硬化させるというものである。
例えば、特許文献2には、バッグフィルムとして再利用可能かつ透明なシリコーンシートを用いた真空含浸工法が開示されている。この工法では、バッグフィルムとして薄肉化した透明なシリコーンシートが用いられているため、バッグフィルムの重量が軽量化され、かつ、透明化により内部を流れる液状樹脂の状態が可視化される。よって、バッグフィルムのハンドリングが容易になるとともに、樹脂の含浸状況を目視で確認することが可能となり、複合材製造時の作業性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−296864号公報
【特許文献2】特開2010−115837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、風車、航空機、自動車、船舶、鉄道車両等の最終製品の進化に伴って、これら最終製品の部材として用いられる複合材はより一層の強度の向上が期待されており、特許文献2のような従来の真空含浸工法では、複合材の強度が十分とはいえなくなりつつある。
【0008】
例えば、風車ブレードのような構造部材では、静的強度設計に圧縮強度が用いられるため、複合材の圧縮強度の向上が望まれる。この点、特許文献2のような従来の真空含浸工法では、成形時の繊維には張力が加わっていないため、繊維の伸直度が小さく、高圧縮強度の複合材を得ることは難しい。
【0009】
また、特許文献2のような従来の真空含浸工法では、成形時における繊維には繊維長さ方向に力が加わっていないため、繊維にシワが生じやすく、複合材の強度低下を招く要因となる場合がある。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、高強度の複合材が得られる複合材製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る複合材製造方法は、マトリックス樹脂が繊維で強化された複合材を真空含浸工法により製造する複合材製造方法であって、凹部を有する成形型に強化繊維基材を載置し、前記凹部を挟んで配置される少なくとも一対の固定部材によって前記強化繊維基材を前記成形型に固定する固定工程と、前記成形型に固定された前記強化繊維基材をバッグフィルムで覆う被覆工程と、前記成形型と前記バッグフィルムとの間に形成された成形空間内を減圧する減圧工程と、減圧された前記成形空間内でマトリックス樹脂を流動させる流動工程と、前記強化繊維基材と前記マトリックス樹脂とが一体的に成形された複合材が得られるように、前記マトリックス樹脂を固化する固化工程とを備え、前記固定工程では、前記強化繊維基材と前記成形型の凹部の底面との間に間隙が設けられた状態で、前記強化繊維基材が前記固定部材によって前記成形型に固定されることを特徴とする。
【0012】
この複合材製造方法では、繊維強化基材と成形型の凹部底面との間に間隙が設けられた状態で、凹部を挟んで配置される少なくとも一対の固定部材によって強化繊維基材を成形型に固定した後、成形空間内を減圧する。このため、成形空間内の減圧時に、大気圧と成形空間内の圧力との差圧によって強化繊維基材が成形型の凹部に押圧される。この際、強化繊維基材は固定部材によって固定されているから、固定部材間の強化繊維基材に張力が付与される。したがって、強化繊維基材を構成する繊維の伸直度が高くなり、複合材の圧縮強度が向上する。また、強化繊維基材に張力が付与されることから、強化繊維基材を構成する繊維のシワが低減され、繊維のシワに起因する複合材の強度低下を抑制できる。
また、成形時に強化繊維基材に付与される張力は、真空含浸工法において成形時に行う減圧工程を利用して発生させるから、強化繊維基材への張力付与のための機構を別途設ける必要がない。よって、設備コストの増加を抑えることができる。
【0013】
なお、上記複合材製造方法において、「強化繊維基材」は、樹脂が含浸されていないドライな繊維からなる基材であってもよいし、樹脂が繊維に含浸されたプリプレグであってもよい。
【0014】
上記複合材製造方法において、前記成形型の凹部は、複合材の製品エリア全面に亘って設けられていることが好ましい。
【0015】
これにより、強化繊維基材を成形型の凹部に押し付けようとする圧力(大気圧と成形空間内圧力との差圧)が作用する面積が大きくなり、成形時に強化繊維基材に大きな張力が付与される。よって、強化繊維基材を構成する繊維の伸直度を飛躍的に高めて、複合材の圧縮強度を大幅に向上させるとともに、強化繊維基材を構成する繊維のシワを確実に低減して、繊維のシワに起因する複合材の強度低下をより一層抑制できる。
【0016】
あるいは、上記複合材製造方法において、前記成形型の凹部は、複合材の製品エリア外にのみ設けられていてもよい。
【0017】
上記複合材製造方法において、前記被覆工程では、前記成形型に設けられた凹部の上方において、前記バッグフィルムと前記強化繊維基材との間に加圧用治具を介在させてもよい。
【0018】
このように、成形型の凹部の上方において、加圧用治具をバッグフィルムと強化繊維基材との間に設けることで、成形時における大気圧と成形空間内圧力との差圧によって加圧用治具が下方に移動しようとするので、成形型の凹部に強化繊維基材がより強く押し付けられる。よって、強化繊維基材を構成する繊維の伸直度を飛躍的に高めて、複合材の圧縮強度を大幅に向上させるとともに、強化繊維基材を構成する繊維のシワを確実に低減して、繊維のシワに起因する複合材の強度低下をより一層抑制できる。
【0019】
上記複合材製造方法において、前記固定部材は、前記強化繊維基材に設けられた貫通穴に挿通された固定用ボルトを含み、前記貫通穴は、複合材の製品エリア外に設けられることが好ましい。
【0020】
このように、貫通穴に挿通された固定用ボルトで強化繊維基材を成形型に固定することで、強化繊維基材を堅固に固定して、強化繊維基材を構成する繊維に張力を確実に付与することができる。なお、貫通穴が複合材の製品エリア外に設けることで、強化繊維基材に設けた貫通穴が複合材の品質に影響を及ぼすことはない。
【0021】
上記複合材製造方法において、前記強化繊維基材は、繊維束が一方向に配列した基材であり、前記固定部材は、前記強化繊維基材の繊維束の配列方向における前記成形型の凹部の両側に配置されてもよい。
【0022】
繊維束が一方向に配列した強化繊維基材を用いる場合、繊維束の配列方向に張力を付与することが複合材の強度向上に有効である。そこで、上述のように、固定部材を繊維束の配列方向における成形型の凹部の両側に固定部材を設けて、該固定部材によって強化繊維基材を成形型に固定することで、強化繊維基材を構成する繊維に繊維束の長さ方向に沿った張力を付与して、複合材の強度を効果的に向上させることができる。
【0023】
上記複合材製造方法において、前記強化繊維基材が炭素繊維からなっていてもよい。
【0024】
複合材が炭素繊維強化プラスチック(CFRP)である場合、炭素繊維の伸直度が圧縮強度に与える影響が大きい。この点、上記複合材製造方法では、成形時に強化繊維基材(炭素繊維)が成形型の凹部に押圧されて炭素繊維に張力が付与されるから、炭素繊維の伸直度が高くなり、炭素繊維強化プラスチックの圧縮強度を大幅に向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、繊維強化基材と成形型の凹部底面との間に間隙が設けられた状態で、凹部を挟んで配置される少なくとも一対の固定部材によって強化繊維基材を成形型に固定した後、成形空間内の減圧を行うようにしたので、大気圧と成形空間内圧力との差圧によって強化繊維基材が成形型の凹部に押し付けられて、固定部材間の強化繊維基材に張力が付与される。したがって、強化繊維基材を構成する繊維の伸直度が高くなり、複合材の圧縮強度が向上する。また、強化繊維基材に張力が付与されることから、強化繊維基材を構成する繊維のシワを低減し、繊維のシワに起因する複合材の強度低下を抑制できる。
また、成形時に強化繊維基材に付与される張力は、真空含浸工法において成形時に行う減圧工程を利用して発生させるから、強化繊維基材への張力付与のための機構を別途設ける必要がない。よって、設備コストの増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態の複合材製造方法の手順を示す図である。
【図2】第1実施形態で用いる成形型の凹部と複合材の製品エリアとの関係を示す上面図である。
【図3】第2実施形態の複合材製造方法の手順を示す図である。
【図4】第2実施形態で用いる成形型の凹部と複合材の製品エリアとの関係の一例を示す上面図である。
【図5】第2実施形態で用いる成形型の凹部と複合材の製品エリアとの関係の他の例を示す上面図である。
【図6】プリプレグからなる強化繊維基材を用いて複合材を製造する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0028】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る複合材製造方法について説明する。図1は、第1実施形態の複合材製造方法の手順を示す図である。図2は、第1実施形態で用いる成形型の凹部と複合材の製品エリアとの関係を示す上面図である。
【0029】
最初に、図1(a)に示すように、樹脂が含浸されていないドライな繊維からなる基材である強化繊維基材2を成形型1上に載置し、複数の固定部材4によって強化繊維基材2を成形型1に固定する。ここで、固定部材4の個数は、少なくとも一対ある限り特に限定されず、強化繊維基材2のサイズや成形型1の凹部10の面積等に応じて適宜設定することができる。
なお、このとき、強化繊維基材2の上に、剥離シート(ピールプライ)6及び樹脂拡散用網状シート(フローメディア)8をこの順で配置しておくことが好ましい。剥離シート6は、成形後の複合材28(図1(c)参照)の取外しを容易にするためのものである。また、樹脂拡散用網状シート8は、後述のマトリックス樹脂の強化繊維基材2への浸透を促進するためのものである。
【0030】
成形型1は、一対の固定部材4の間に凹部10を有する。そして、強化繊維基材2は、強化繊維基材2と成形型1の凹部10の底面12との間に間隙が設けられた状態で、固定部材4によって成形型1に固定される。このとき、強化繊維基材2を弛ませないように、強化繊維基材2の両端を引っ張りながら成形型1に固定することが好ましい。
【0031】
凹部10は、図2に示すように、複合材の製品エリアAの全面に亘って延在するように設けられている。これにより、強化繊維基材2を成形型1の凹部10に押し付けようとする圧力(大気圧と成形空間内圧力との差圧)が作用する面積が大きくなり、成形時に強化繊維基材2に大きな張力を付与できる。
なお、成形型1の凹部10が複合材の製品エリアAの全面に亘って設ける場合、成形型1の凹部10の形状を適宜調整すれば、複合材28(図1(c)参照)の所望の形状を得ることができる。例えば、後述の成形空間内の減圧時に強化繊維基材2の下面が凹部10の底面12に接触するように成形型1の凹部10の深さを決定するとともに、凹部10の底面12を最終的に得たい複合材28の形状の反転形状としてもよい。
【0032】
強化繊維基材2を構成する繊維には、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等の公知の繊維を用いることができる。なお、強化繊維基材2が炭素繊維からなる場合、炭素繊維の伸直度が圧縮強度に与える影響が大きいから、本実施形態の複合材製造方法の採用により、複合材(CFRP)の圧縮強度改善の大きな効果を享受できる。
【0033】
固定部材4は、強化繊維基材2を固定しうる限り特に限定されないが、強化繊維基材2に設けられた貫通穴に挿通される固定用ボルトを用いてもよい。
なお、強化繊維基材2の貫通穴に挿通される固定用ボルトを固定部材4として用いる場合、図2に示すように、固定部材4は複合材の製品エリアA外に配置する。このため、固定部材4が挿通される強化繊維基材2の貫通穴も製品エリアA外に設けられる。よって、強化繊維基材2に設けた貫通穴が複合材28(図1(c)参照)の品質に影響を及ぼすことはない。
【0034】
例えば、固定部材4は、図1(a)に示すように、スタッドボルト4A、ナット4B及び押え板4Cにより構成してもよい。スタッドボルト4Aは、一端部が成形型1に螺着され、中央部が強化繊維基材2、剥離シート6及び樹脂拡散用網状シート8に設けられた貫通穴に挿通され、他端部にナット4Bが螺着される。ナット4Bと樹脂拡散用網状シート8との間には押え板4Cが設けられ、ナット4Bによる締結力が押え板4Cを介して強化繊維基材2に伝わり、強化繊維基材2を堅固に固定できるようになっている。よって、強化繊維材2を構成する繊維に張力を確実に付与できる。
【0035】
なお、図1(a)に示す例では、スタッドボルト4Aを成形型1に取り付けた後、強化繊維基材2を構成する各繊維シートに予め設けられた貫通穴にスタッドボルト4Aを通しながら、各繊維シートを積層して強化繊維基材2を形成し、さらに剥離シート6及び樹脂拡散用網状シート8に設けられた貫通穴にスタッドボルト4Aを通して、通し板4Cを介してナット4Bで締付けることで、強化繊維基材2が成形型1に固定される。
【0036】
また、強化繊維基材2の繊維束が一方向に配列している場合、固定部材4は、強化繊維基材2の繊維束の配列方向における凹部10の両側に配置することが好ましい。固定部材4を繊維束の配列方向における成形型1の凹部10の両側に固定部材4を設けて、該固定部材4によって強化繊維基材2を成形型1に固定することで、強化繊維基材2を構成する繊維に繊維束の長さ方向に沿った張力を付与して、複合材の強度を効果的に向上させることができる。
【0037】
強化繊維基材2を固定部材4で成形型1に固定した後、図1(b)に示すように、強化繊維基材2をバッグフィルム20で覆い、バッグフィルム20内を減圧し、バッグフィルム20内に液状のマトリックス樹脂を注入する。
具体的には、吸引口22及び注入口24が設けられたバッグフィルム20を強化繊維基材2に被せ、シール部材26によって、バッグフィルム20と成形型1とで囲まれる空間(成形空間)を密封する。そして、吸引口22に真空ポンプが接続され、この真空ポンプにより成形空間内が減圧される。さらに、注入口24を介して減圧下の成形空間内に液状のマトリックス樹脂が注入される。なお、図1(b)における符号27は、強化繊維基材2へのマトリックス樹脂の浸透領域を示している。
【0038】
成形空間内が減圧されると、大気圧と成形空間内圧力との差圧Pによって強化繊維基材2が成形型1の凹部10に押圧される。この際、強化繊維基材2は固定部材4によって固定されているから、図1(b)における矢印方向の張力が固定部材4間の強化繊維基材2に付与される。したがって、マトリックス樹脂の注入時に、強化繊維基材2を構成する繊維は、伸直度が高くなり、シワが低減された状態になっている。
【0039】
なお、マトリックス樹脂は、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂であってもよいし、ポリブチレンテレフタレートに代表される熱可塑性樹脂であってもよい。なお、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合、マトリックス樹脂を溶融させて、成形空間内に注入して強化繊維基材2に浸透させる。
【0040】
続いて、図1(c)に示すように、強化繊維基材2とマトリックス樹脂とが一体的に成形された複合材28が得られるように、マトリックス樹脂を固化する。具体的には、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であれば、加熱条件下または室温条件下で反応によりマトリックス樹脂を硬化させる。一方、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂であれば、溶融したマトリックス樹脂を冷却固化する。
この後、複合材28は、成形型1から取り外され、製品エリアAの大きさに裁断される。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係る複合材製造方法は、凹部10を有する成形型1に強化繊維基材2を載置し、凹部10を挟んで配置される少なくとも一対の固定部材4によって強化繊維基材2を成形型1に固定する固定工程と、成形型1に固定された強化繊維基材2をバッグフィルム20で覆う被覆工程と、成形型1とバッグフィルム20との間に形成された成形空間内を減圧する減圧工程と、減圧された成形空間内でマトリックス樹脂を流動させる流動工程と、強化繊維基材2とマトリックス樹脂とが一体的に成形された複合材28が得られるように、マトリックス樹脂を固化する固化工程とを備え、前記固定工程では、強化繊維基材2と成形型1の凹部10の底面12との間に間隙が設けられた状態で、強化繊維基材2が固定部材4によって成形型1に固定されることを特徴とする。
【0042】
本実施形態によれば、繊維強化基材2と成形型1の凹部10の底面12との間に間隙が設けられた状態で、凹部10を挟んで配置される少なくとも一対の固定部材4によって強化繊維基材2を成形型1に固定した後、成形空間内の減圧を行うようにしたので、大気圧と成形空間内圧力との差圧Pによって強化繊維基材2が成形型1の凹部10に押し付けられて、固定部材4間の強化繊維基材2に張力が付与される。したがって、強化繊維基材2を構成する繊維の伸直度が高くなり、複合材28の圧縮強度が向上する。また、強化繊維基材2に張力が付与されることから、強化繊維基材2を構成する繊維のシワが低減され、繊維のシワに起因する複合材28の強度低下を抑制できる。
また、成形時に強化繊維基材2に付与される張力は、真空含浸工法において成形時に行う減圧工程を利用して発生させるから、強化繊維基材2への張力付与のための機構を別途設ける必要がない。よって、設備コストの増加を抑えることができる。
【0043】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る複合材製造方法について説明する。図3は、第2実施形態の複合材製造方法の手順を示す図である。図4は、第2実施形態で用いる成形型の凹部と複合材の製品エリアとの関係の一例を示す上面図である。図5は、成形型の凹部と複合材の製品エリアとの関係の他の例を示す上面図である。
なお、本実施形態に係る複合材製造方法は、成形型1の凹部10を複合材の製品エリア外に設けた点と、加圧用治具を設けた点とを除けば、第1実施形態と同様である。したがって、ここでは第1実施形態と共通する部材に同一の符号を付して、第1実施形態と共通する内容については説明を省略し、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0044】
最初に、図3(a)に示すように、成形型1上に強化繊維基材2を載置し、複数の固定部材4によって強化繊維基材2を成形型1に固定する。このとき、強化繊維基材2と成形型1の凹部10の底面12との間に間隙を設けておく。
ここで、本実施形態で用いる成形型1は、一対の固定部材4の間に凹部10を有する点は第1実施形態と同様であるが、図4に示すように、複合材の製品エリアA外に凹部10が設けられる点で第1実施形態と異なる。なお、強化繊維基材2により大きな張力を付与する観点から、図5に示すように、複合材の製品エリアAの両側に凹部10を設けてもよい。
【0045】
また、成形型1に設けられた凹部10の上方において、樹脂拡散用網状シート8の上に加圧用治具30が載置される。
加圧用治具30は、例えば、アルミニウム、鉄、鋼、木材、樹脂等の任意の材質のものを用いることができる。加圧用治具30は、基本的には、成形時における大気圧と成形空間内圧力との差圧によって下方に移動することで、成形型1の凹部10に強化繊維基材2を押し付けるものであるが、加熱用治具30を重量物で構成し、上記差圧に加えて加熱用治具30の自重によって強化繊維基材2を凹部10に押し付けてもよい。加熱用治具30を重量物で構成する場合、加熱用治具30の周辺の強化繊維基材2へのマトリックス樹脂の浸透を妨げないように加熱用治具30の重量を調節することが好ましい。
【0046】
続いて、図3(b)に示すように、強化繊維基材2をバッグフィルム20で覆い、バッグフィルム20内を減圧し、バッグフィルム20内に液状のマトリックス樹脂を注入する。このとき、成形型1に設けられた凹部10の上方において、バッグフィルム20と強化繊維基材2との間に加圧用治具30が介在させる。
【0047】
このように、成形型1の凹部10の上方において、加圧用治具30をバッグフィルム20と強化繊維基材2との間に介在させることで、成形時における大気圧と成形空間内圧力との差圧によって加圧用治具30が下方に移動しようとするので、成形型1の凹部10に強化繊維基材2がより強く押し付けられる。
したがって、成形型1の凹部10の面積が小さい場合であっても、図3(b)における矢印方向の大きな張力を強化繊維基材2に付与できる。よって、強化繊維基材2を構成する繊維の伸直度を飛躍的に高めて、複合材28(図3(c)参照)の圧縮強度を大幅に向上させるとともに、強化繊維基材2を構成する繊維のシワを確実に低減して、繊維のシワに起因する複合材28の強度低下をより一層抑制できる。
特に、本実施形態では成形型1の凹部10を複合材の製品エリアA外に設けるから、加圧用治具30を用いて、小さな面積の凹部10で大きな張力を強化繊維基材2に付与するようにすれば、材料費を削減できるだけでなく、成形装置(成形型1など)を小型化できる。
【0048】
この後、図3(c)に示すように、強化繊維基材2とマトリックス樹脂とが一体的に成形された複合材28が得られるようにマトリックス樹脂を固化し、得られた複合材28を成形型1から取り外して製品エリアAの大きさに裁断する。
【0049】
なお、加圧用治具30は、マトリックス樹脂が注入される注入口24から離して設けることが好ましい。これは、加圧用治具30と注入口24との距離が小さすぎると、注入口24からのマトリックス樹脂の注入により加圧用治具30周辺の成形空間内の圧力が上昇し、大気圧と成形空間内圧力との差圧が小さくなり、強化繊維基材2に十分な張力を付与できない場合があるためである。
【0050】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る複合材製造方法について説明する。本実施形態に係る複合材製造方法は、樹脂が繊維に含浸されたプリプレグを強化繊維基材2として用いる点を除けば、第1実施形態と同様である。したがって、ここでは第1実施形態と共通する内容については説明を省略し、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0051】
図6は、プリプレグからなる強化繊維基材2を用いて複合材を製造する様子を示す図である。同図に示すように、バッグフィルム20の吸引口22に接続した真空ポンプ(不図示)により成形空間内を減圧しながら、強化繊維基材(プリプレグ)2を加熱して樹脂を流動化させる。
なお、本実施形態では、プリプレグからなる強化繊維基材2を用いるためマトリックス樹脂の注入は行わない。このため、バッグフィルム20には樹脂注入用の注入口は設けられていない。また、マトリックス樹脂の強化繊維基材2への浸透を促進するための樹脂拡散用網状シート8に替えて、ブリーザー(通気用繊維)32(図6参照)が設けられる。
【0052】
成形空間内が減圧されると、大気圧と成形空間内圧力との差圧Pによって強化繊維基材2が成形型1の凹部10に押圧される。この際、強化繊維基材2は固定部材4によって固定されているから、図5における矢印方向の張力が固定部材4間の強化繊維基材2に付与される。したがって、強化繊維基材(プリプレグ)2の加熱時に、強化繊維基材2を構成する繊維は、伸直度が高くなり、シワが低減された状態になっている。よって、オートクレーブを用いることなく、複合材の圧縮強度を向上させるとともに、繊維のシワに起因する複合材28の強度低下を抑制できる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。
【0054】
例えば、上述の実施形態では、複合材28が平板状である例について説明したが、複合材28は湾曲形状を含む任意の形状であってもよい。
【0055】
また上述の実施形態は、適宜組み合わせてもよい。例えば、第1実施形態及び第3実施形態のように、凹部10を複合材28の製品エリアAの全面に亘って設ける場合にも、強化繊維基材2により大きな張力を付与する観点から、成形型1の凹部10の上方において、加圧用治具30をバッグフィルム20と強化繊維基材2との間に介在させてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 成形型
2 強化繊維基材
4 固定部材
4A スタッドボルト
4B ナット
4C 押え板
6 剥離シート
8 樹脂拡散用網状シート
10 凹部
12 底面
20 バッグフィルム
22 吸引口
24 注入口
26 シール部材
27 浸透領域
28 複合材
30 加圧用治具
32 ブリーザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂が繊維で強化された複合材を真空含浸工法により製造する複合材製造方法であって、
凹部を有する成形型に強化繊維基材を載置し、前記凹部を挟んで配置される少なくとも一対の固定部材によって前記強化繊維基材を前記成形型に固定する固定工程と、
前記成形型に固定された前記強化繊維基材をバッグフィルムで覆う被覆工程と、
前記成形型と前記バッグフィルムとの間に形成された成形空間内を減圧する減圧工程と、
減圧された前記成形空間内でマトリックス樹脂を流動させる流動工程と、
前記強化繊維基材と前記マトリックス樹脂とが一体的に成形された複合材が得られるように、前記マトリックス樹脂を固化する固化工程とを備え、
前記固定工程では、前記強化繊維基材と前記成形型の凹部の底面との間に間隙が設けられた状態で、前記強化繊維基材が前記固定部材によって前記成形型に固定されることを特徴とする複合材製造方法。
【請求項2】
前記成形型の凹部は、複合材の製品エリア全面に亘って設けられていることを特徴とする請求項1に記載の複合材製造方法。
【請求項3】
前記成形型の凹部は、複合材の製品エリア外にのみ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の複合材製造方法。
【請求項4】
前記被覆工程では、前記成形型に設けられた凹部の上方において、前記バッグフィルムと前記強化繊維基材との間に加圧用治具を介在させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の複合材製造方法。
【請求項5】
前記固定部材は、前記強化繊維基材に設けられた貫通穴に挿通された固定用ボルトを含み、
前記貫通穴は、複合材の製品エリア外に設けられることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の複合材製造方法。
【請求項6】
前記強化繊維基材は、繊維束が一方向に配列した基材であり、
前記固定部材は、前記強化繊維基材の繊維束の配列方向における前記成形型の凹部の両側に配置されること特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の複合材製造方法。
【請求項7】
前記強化繊維基材が炭素繊維からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の複合材製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−121227(P2012−121227A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273641(P2010−273641)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】