説明

複合誘電体用樹脂組成物および複合誘電体、該誘電体を使用した電気回路基板

【課題】
高い誘電率を保ちつつ、高容量であり、均一で所望の絶縁性を有する誘電体薄膜を得ることが可能な複合誘電体用液状組成物および誘電体ならびに複合誘電体液状組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】
無機誘電体とフッ素化芳香族ポリマーを含有する複合誘電体用液状組成物であって、液状組成物中の無機誘電体の平均粒子径Dmが700nm以下である。また、該複合誘電体用液状組成物を用いてなる複合誘電体、及び、該複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ポリマーと無機誘電体とからなる有機−無機複合誘電体用液状組成物と、該組成物を用いてなる複合誘電体、さらに、該誘電体を使用した電気回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の進行とともに、情報伝達の高速度化、これに伴う情報信号の高周波化のニーズがますます高まりつつある。これに対応するため、エレクトロニクス製品に使用される回路基板の高機能化・高密度実装が求められ、この課題を解決するため、抵抗・キャパシター・インダクターといった電子素子を回路基板の中に作りこむ技術であるEPD(Embedded Passive Device Techinology)が注目を集めている。
【0003】
一般に実装に使用されるキャパシターにはセラミック誘電体が用いられているが、EPDに使用した場合に回路基板の孔あけや切断等の後加工性や、接着性が悪いことが問題となる。そこで、後加工性や接着性に優れた誘電体として有機ポリマーと無機誘電体を複合化した有機−無機複合誘電体が提案されている。
【0004】
この有機−無機複合誘電体は、ポリフェニレンオキシド樹脂やエポキシ樹脂、フッ素含有ポリマー等に誘電率の大きい無機誘電体を分散させて成形あるいは成膜させたものである。これらの樹脂は特に高周波域での誘電率が低いため、誘電率の大きい無機誘電体をできるだけ多く配合することが必要であった。特にフッ素含有ポリマーは無機誘電体の分散性に優れ、無機誘電体の配合率の高い組成物であっても流動性等の作業性の面で優れている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】WO2005/033209号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回路基板の高機能化、高密度実装が求められる中、キャパシターのさらなる性能向上が求められている。このため、キャパシターの容量の更なる向上が求められており、誘電体をできるだけ薄く成形し、高容量化することが必要である。しかしながら、上記フッ素含有ポリマーの組成物では、誘電体を薄膜化することにより、絶縁性が保てなくなり、短絡電流が流れ、キャパシターとして機能しなくなってしまうことが問題であった。この原因としては、上記組成物中で無機誘電体が均一に分散されておらず、微細な穴や欠点が生じ、均一な誘電体薄膜が得られていないことがあげられる。
【0007】
本発明は上記のような事情に着目してなされたもので、その目的は、高い誘電率を保ちつつ、高容量であり、均一で所望の絶縁性を有する誘電体薄膜を得ることが可能な複合誘電体用液状組成物および誘電体ならびに複合誘電体液状組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明の複合誘電体液状組成物とは、液状組成物中の無機誘電体の平均粒子径Dmが700nm以下であることに特徴を有する。また、前記無機誘電体の平均粒子径Dが50nm〜300nmの範囲であることが好ましい。
【0009】
本発明には、上記複合誘電体液状組成物から得られる複合誘電体も含まれる。本発明の複合誘電体の表面粗さRaは100nm以下であるのが好ましい。また、前記複合誘電体の膜厚は30μm以下であることが好ましい。
【0010】
本発明には複合誘電体液状組成物の製造方法も含まれる。すなわち、無機誘電体とフッ素化芳香族ポリマーを複数の粒状分散媒体を用いて混合する分散処理工程を含むことを特徴とする製造方法である。
【0011】
またさらに、本発明には上記複合誘電体を構成部位として含む電子回路基板も含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所望の誘電率を保ちつつ、高容量であり、均一でかつ絶縁性に優れた誘電体薄膜を得ることができる。本発明の誘電体はキャパシタやノイズフィルターに好適に用いることができる。特に、高機能化、高密度実装に対応した素子内蔵基板(EPD)に用いられる誘電体材料として好適に用いることが期待される。
【0013】
なお、本発明の複合誘電体とは、無機誘電体を分散させた液状組成物を所定の形状に成形したものをいい、有機ポリマー中に無機誘電体が高分散された成形体および成形膜等を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の複合誘電体用液状組成物は、フッ素化芳香族ポリマーと無機誘電体を含有する。
本発明の複合誘電体用液状組成物において、フッ素化芳香族ポリマーと無機誘電体の含有量は、フッ素化芳香族ポリマーの100質量部に対して、無機誘電体が100〜2,000質量部の範囲内であることが好ましい。無機誘電体の含有量が100質量部未満では、液状組成物からなる複合誘電体の誘電率が低くなる恐れがある。一方、無機誘電体の含有量が2,000質量部を超えると該組成物の粘度が高くなる、もしくは成形体及び成形膜の強度が低下し、取り扱い性が困難になる恐れがある。無機誘電体の含有量のより好ましい下限は、フッ素化芳香族ポリマーの100質量部に対して150質量部以上であり、400質量部以上が最も好ましい。また、無機誘電体の含有量の好ましい上限は、フッ素化芳香族ポリマーの100質量部に対して1,500質量部以下であり、1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明の複合誘電体用液状組成物は、フッ素化芳香族ポリマー及び無機誘電体をそれぞれ1種又は2種以上含有することができる。
<フッ素化芳香族ポリマー>
本発明におけるフッ素化芳香族ポリマーとしては、ガラス転移点温度が150℃以上であることが好ましい。ガラス転移点温度が150℃未満では、液状組成物からなる複合誘電体の耐熱性が低下するおそれがある。フッ素化芳香族ポリマーのガラス転移点温度は150℃〜400℃の範囲内がさらに好ましく、170℃〜300℃の範囲内が最も好ましい。ガラス転移温度は、例えば、DSC(セイコー電子工業社製、商品名「DSC6200」)を用いて、窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度の条件で測定することができる。
【0016】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーの体積抵抗値は、1.0×1013Ω・cm以上であることが好ましい。体積抵抗値が1.0×1013Ω・cm未満では、液状組成物からなる複合誘電体の絶縁性が低下する恐れがある。フッ素化芳香族ポリマーの体積抵抗値は1.0×1015Ω・cm以上の範囲内がさらに好ましい。体積抵抗値は、例えば、抵抗値測定装置(ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)製、商品名「High Resistance Meter 4329A & Resistivity Cell 16008A」)を用いて、測定電圧500Vの条件で測定することができる。
【0017】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーの平均分子量は、数平均分子量(Mn)で5,000〜500,000の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が5,000未満では液状組成物からなる複合誘電体の耐熱性もしくは強度が低下するおそれがあり、数平均分子量が500,000を超えると樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性が低下する。
【0018】
上記数平均分子量(Mn)は10,000〜200,000の範囲内がさらに好ましく、10,000〜100,000の範囲内が最も好ましい。数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析装置(GPC)(東ソー社製、商品名「HLC−8120GPC」)を用いて、カラムとしてG−5000HXL+G−5000HXL、展開溶媒としてTHF、標準として標準ポリスチレンを用い、流量1mL/分の条件で測定することができる。
【0019】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーは、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合の群より選ばれた少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位により構成された重合体であり、具体的には、例えば、フッ素原子を有するポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドエーテル、ポリアミド、ポリエーテルニトリル、ポリエステルなどが挙げられる。
【0020】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーは、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合を含む繰り返し単位を必須部位として有する重合体であることが好ましい。
さらに、本発明のフッ素化芳香族ポリマーは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むフッ素原子を有するポリアリールエーテルであることが好ましい。フッ素含有芳香族ポリマーがこのような構造を有するものであると、無機誘電体との相互作用が適度に抑制されると考えられ、複合誘電体用液状組成物作製に支障をきたす現象、例えば大幅な増粘、ゲル化、流動性の損失、凝集、分散後の再凝集等が低減される。よって、より多くの無機誘電体を配合した複合誘電体用液状組成物を作製することができ、複合誘電体としてより高い誘電率を示すものとすることができるだけでなく、粘度を低下させることができるため、複合誘電体を薄膜状に成形することが容易となる。なお、一般式(1)で表される繰り返し単位は、同一でも異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0021】
【化1】

(式中、Rは同一又は異なる炭素数1〜150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。また、Zは2価の鎖又は直接結合を表す。m及びm'は0以上の整数であり、m+m'=1〜8を満たし、同一又は異なって芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。nは、重合度を表わし、5〜600の範囲内が好ましく、12〜250の範囲内がさらに好ましい。)
上記一般式(1)において、m+m'は2〜8の範囲内が好ましく、4〜8の範囲内がさらに好ましい。
【0022】
上記一般式(1)において、エーテル構造部分(−O−R−O−)が芳香環に結合している位置については、Zに対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0023】
上記一般式(1)において、Rは2価の有機鎖であるが、下記の構造式群(2)で表されるいずれか一つ、あるいは、その組み合わせの有機鎖であることが好ましい。
【0024】
【化2】

(式中、Y1〜Y4は、同一又は異なって水素基または置換基を表し、該置換基は、アルキル基、アルコキシル基を表す。)
上記Rのより好ましい、具体例としては、下記の構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられる。
【0025】
【化3】

上記一般式(1)において、Zは、2価の鎖又は直接結合していることを表す。該2価の鎖としては、例えば、下記構造式群(4)で表される鎖であることが好ましい。
(式中、Xは、炭素数1〜50の2価の有機鎖である。)

上記Xは、例えば、構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられ、その中でもジフェニルエーテル鎖、ビスフェノールA鎖、ビスフェノールF鎖、フルオレン鎖が好ましい。
<フッ素化芳香族ポリマーの製造方法>
本発明のフッ素化芳香族ポリマーの合成方法としては、一般的な重合反応を用いればよく、例えば、縮合重合、付加重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられる。上記重合反応の際の反応温度や反応時間等の反応条件は適宜設定すればよい。また、上記重合反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0026】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーの合成方法としては、脱塩重縮合による重合反応が好ましい。脱塩重縮合は、例えば、2個以上のハロゲン元素を置換基として有する化合物と、2個以上の水酸基を有する化合物からハロゲン化水素が脱離してエーテル系重合体が得られる反応等が挙げられる。この反応に用いられる単量体は、1種であっても2種以上であっても良い。
【0027】
上記脱塩重縮合においては、触媒を用いてもよい。触媒として、生成する酸を捕集することにより反応を促進するものが好適であり、例えば炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム、フッ化カリウム等が挙げられる。
【0028】
例えば、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むフッ素原子を有するポリアリールエーテルの合成方法を挙げると、Zが上記構造式群(4)のうちの(4−6)であり、さらに、Xがジフェニルエーテル鎖であるフッ素原子を有するポリアリールエーテルを得る場合、有機溶媒中、塩基性化合物の存在下で、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(以下、「BPDE」という)と2価のフェノール化合物を加熱する方法等が挙げられる。
【0029】
上記の合成方法における反応温度としては、20℃〜150℃の範囲内が好ましく、50℃〜120℃の範囲内がさらに好ましい。
【0030】
上記の合成方法で使用される有機溶媒としては、非プロトン性極性溶媒が好ましい。例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0031】
上記の合成方法で使用される塩基性化合物としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0032】
上記の合成方法において、2価のフェノール化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(以下、「6FBA」という)、ビスフェノールA(以下、「BA」という)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下、「HF」という)、ビスフェノールF、ハイドロキノン、レゾルシノール等が挙げられる。2価のフェノール化合物としては、6FBA、BA、HFが好ましい。特に好ましくはHFである。
【0033】
上記2価のフェノール化合物の使用量は、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル1モルに対して、0.8〜1.2モルの範囲内が好ましく、0.9〜1.1モルの範囲内がさらに好ましい。
【0034】
上記の合成方法においては、反応終了後に、反応溶液より溶媒除去を行ない、必要により留去物を洗浄することにより、フッ素化芳香族ポリマーが得られる。また、反応溶液にフッ素化芳香族ポリマーの溶解度の低い溶媒中に加えることにより、該ポリマーを沈殿させ、沈殿物を濾過により分離することにより得ることもできる。
<無機誘電体>
本発明における無機誘電体としては、ペルブスカイト結晶構造を有するABO3型の誘電体およびこの2元系または3元系の複合ペルブスカイト系誘電体が好ましく、その他、酸化チタンも用いることができる。
【0035】
上記ABO3型の誘電体としては、例えば、チタン酸鉛PbTiO3、タングステン酸鉛PbWO3、亜鉛酸鉛PbZnO3、鉄酸鉛PbFeO3、マグネシウム酸鉛PbMgO3、ニオブ酸鉛PbZbO3、ニッケル酸鉛PbNiO3、ジルコン酸鉛PbZrO3、チタン酸バリウムBaTiO3、チタン酸ストロンチウムSrTiO3、ジルコン酸カルシウムCaZrO3、チタン酸カルシウムCaTiO3、チタン酸亜鉛ZnTiO3、チタン酸マグネシウムMgTiO3、ジルコン酸バリウムBaZrO3、ジルコン酸マグネシウムMgZrO3、ジルコン酸亜鉛ZnZrO3等が挙げられる。
【0036】
上記2元系または3元系の複合ペルブスカイト系誘電体としては、例えば、(BaxSr(1−x))(SnyTi(1−y))O3、Ba(TixSn(1−x))O3、BaxSr(1−x)TiO3、BaTiO3−CaZrO3、BaTiO3−Bi4Ti3O12、(BaxCa(1−x))(ZryTiO(1−y))O3等が挙げられる。本発明の無機誘電体としては、特に高い誘電率を示すことからチタン酸バリウムが好ましい。
【0037】
本発明の無機誘電体の形状としては、粒子状、繊維状、燐片状、円錐状、微粉状、破砕片状等が挙げられる。複合誘電体液状組成物の分散性を向上するためには、一次粒子化可能な形状であることが好ましい。一次粒子化可能な形状とは、複合誘電体液状組成物中の平均粒子径(後述するDm)がより小さくなる形状であれば特に限定されないが、誘電率向上のため結晶性の高い形状が好ましい。
【0038】
本発明の無機誘電体の平均粒子径Dは、液状組成物を用いてなる複合誘電体の厚みを考慮して適宜選択されるが、粉体の一次粒子径を示し、無機誘電体の比表面積を測定し計算によりで測定して得られる値である。或いは、電子顕微鏡により平均粒子径を測定することができる。Dは50〜300nmであることが好ましく、70〜280nmであるのがより好ましい。さらに好ましくは80〜270nmである。また、無機誘電体の体積当たりの比表面積は、2〜50m2/gの範囲内が好ましく、3〜30m2/gの範囲内がさらに好ましく、3.5〜20m2/gの範囲内が最も好ましい。
<複合誘電体液状組成物>
本発明の複合誘電体用液状組成物には、成形性や成膜性を向上し、粘度調節を目的として、溶剤を配合することが好ましい。
【0039】
上記溶剤としては、例えば、トルエン、等の芳香族系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、等のケトン系溶媒、酢酸エチル、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)アセトニトリル等が挙げられる。また、複合誘電体用液状組成物の安定性を高める、もしくは乾燥性を調整する、もしくは成形物・成形膜の物性を高めるために、いくつかの溶媒を併用した混合溶媒を用いてもよい。
【0040】
上記溶剤の配合量は、液状組成物中20質量%〜95質量%の範囲内が好ましい。溶剤の配合量が20質量%未満では、液状組成物の粘度低減が十分でなく成形性が低下するおそれがある。また、95質量%を超えると得られた液状組成物の安定性が低下するおそれがある。溶剤の配合量は、30質量%〜90質量%の範囲内がさらに好ましく、60質量%〜90質量%の範囲内が最も好ましい。
【0041】
本発明の複合誘電体液状組成物においては、液状組成物中の無機誘電体の平均粒子系Dmが700nm以下であることが好ましい。前記無機誘電体の平均粒子径Dmは、前記液状組成物中での無機誘電体の平均粒子径(分散状態での平均粒子径)を示しており、パーティクルサイズアナライザー(例えば、堀場製作所製LA−700、LA−910など)の測定により得られる。無機誘電体粒子は、液状組成物中では通常一次凝集、二次凝集等の状態を取り、粉体として取り出しているときと比べ、粒子径が増大していることが多い。本発明者らは、この液状組成物中での平均粒子径を所望の範囲にすることにより、得られる複合誘電体の欠陥をなくし絶縁性を保ったまま(ショートさせることなく)薄膜化できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0042】
前記液状組成物中の無機誘電体の平均粒子径Dmは、700nm以下であることが好ましく、650nm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは400nm以下である。Dmが700nm以上であると、液状組成物中で無機誘電体が均一に分散されておらず、凝集した粒子が多数存在するため、複合誘電体を成形した際に微細な穴や欠点が生じやすく、絶縁性が不十分な複合誘電体となる恐れがある。
【0043】
また、Dmの下限に関しては、前述の無機誘電体Dの平均粒子径より大きければよく、10nm以上であれば好ましい。より好ましくは50nm以上である。
【0044】
さらに、本発明者らは、液状組成物中での無機誘電体の平均粒子径Dmと、無機誘電体の平均粒子径Dとの比(Dm/D)が4未満であれば液状組成物中の分散性が良好であり、複合誘電体薄膜として有効に機能することを見出し、本発明に至ったものである。
【0045】
無機誘電体の平均粒子径Dは、前述した通り、粉体の一次粒子径を示し、無機誘電体の比表面積を測定し計算により得られる値である。或いは、電子顕微鏡により平均粒子径を測定することができる。Dは50〜300nmであることが好ましく、70〜280nmであるのがより好ましい。さらに好ましくは80〜270nmである。
【0046】
液状組成物中での無機誘電体の平均粒子径Dmと無機誘電体の平均粒子径Dとの比(Dm/D)は、4未満であることが好ましく、さらに好ましくは3以下である。より好ましくは、2.5以下である。Dm/Dの下限としては、0.8以上が好ましい。Dm/Dが4以上の場合は、液状組成物中の無機誘電体の分散が不十分で、複合誘電体がショートしてしまう恐れがある。Dm/Dが0.8未満の場合には、無機誘電体の1次粒子が破砕され結晶性が低下する恐れがある。
【0047】
本発明の複合誘電体用液状組成物には、必要に応じて、その他の化合物や副資材を含んでもよい。該その他の化合物や副資材としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂等の樹脂、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、ガラス、黒鉛等の無機充填材、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、分散剤等が挙げられる。
【0048】
本発明の複合誘電体用液状組成物における、上記その他の化合物や副資材の配合量は、発明の効果を損なわない範囲であればよく、該組成物100質量部に対して、0.001質量部〜500質量部の範囲内が好ましい。
<複合誘電体用液状組成物の製造方法>
本発明の複合誘電体用液状組成物の製造方法としては、無機誘電体を液状組成物中に均一に分散させることができれば特に限定されないが、複数の粒状分散媒体を用いて混合する分散処理工程を含むことが好ましい。
【0049】
前記分散処理工程において、十分に均一に分散した複合誘電体用液状組成物を得るためには、無機誘電体に適度に剪断応力をかけて攪拌することが好ましい。
【0050】
このような適当な剪断応力を加えながら分散処理するために、本発明においては、この分散処理は、好ましくは、この反応容器内部において回転する攪拌子、反応容器内部に収容された複数の粒状分散媒体を用いて攪拌する工程を有することが好ましい。
【0051】
前記粒状分散媒体としては、処理される無機誘電体粒子、フッ素化芳香族ポリマーの種類、粘度、組成、反応容器ないし攪拌子の形態等に応じて、適宜変更可能であるが、アルミナ、ジルコニア、ステアタイト、窒化珪素、炭化珪素、タングステンカーバイドなどの各種セラミックス、各種ガラス、鋼、クロム鋼、ハステロイ等のニッケル系合金などの各種金属から構成される球状、円筒状、回転楕円体状等の形状のものが用いられ得る。このうち、特にアルミナ、ジルコニア、鋼およびクロム鋼などの材質から構成されることが好ましい。粒状分散媒体の形状としては球状のビーズであることが好ましい。直径としては0.05〜20mm程度、より好ましくは0.1〜10mm、さらに好ましくは0.2〜5mmのものが望ましい。また、これらの粒状分散媒体の反応容器への充填割合は、反応容器ないし攪拌子の形態等によっても左右されるものであるため、限定されるものではないが、例えば反応容器の有効容積の20〜90%、より好ましくは30〜80%とされる。粒状分散媒体の充填割合が極端に少ないと、二次凝集状態にある無機誘電体粒子の十分な解砕、および液状組成物中への分散等が不十分なものとはなり、一方充填割合が極端に多いと分散媒体の磨耗によるコンタミネーションの増大を引き起こす虞れがある。
【0052】
前記分散処理工程における加熱温度は、使用されるフッ素化芳香族ポリマーの種類等によっても左右されるため、一概には規定できないが、10〜250℃、好ましくは10〜100℃、より好ましくは10〜60℃程度が適当である。
【0053】
前記分散処理工程における攪拌時間は、1時間以上、8時間以内であることが好ましい。攪拌時間が8時間以上になると作業性の面で問題となる恐れがある。1時間より攪拌時間が短いと、液状組成物への分散が不十分となり、所望の性能の無機誘電体が得られなくなる恐れがある。
<複合誘電体>
本発明の複合誘電体用液状組成物を用いてなる複合誘電体の成形方法は、求められる複合誘電体の形状により適宜選択される。
【0054】
例えば、複合誘電体を薄層(薄膜)として用いる場合には、フイルムや基板、金属箔上に液状組成物をキャスティング、ディッピングコート、スピンコート、ロールコート、スプレイコート、バーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の方法により塗布して塗膜を形成した後、溶剤を乾燥して、薄層を形成する。
【0055】
本発明の複合誘電体の比誘電率は、10〜150の範囲内であることが好ましい。該比誘電率が10未満では、誘電体のキャパシターとしての性能が低くなる恐れがある。複合誘電体の比誘電率は、20〜120の範囲内がさらに好ましく、30〜100の範囲内が最も好ましい。
【0056】
本発明の複合誘電体の容量は3pF/mm〜10nF/mmの範囲内であることが好ましい。該容量が3pF/mm未満であると、誘電体のキャパシターとしての性能が低くなる恐れがある。複合誘電体の容量は、10pF/mm〜1nF/mmが好ましく、20pF/mm〜1nF/mmがさらに好ましい。比誘電率・容量は、誘電正接と共に、例えば、インピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)製、商品名「HP4294A」)を用いて測定することができる。
【0057】
また、本発明の複合誘電体は、一般的な基板素子として必要な特性を備えることが必要であるが、TG−DTA分析における300℃までの熱減量率が5.0質量%以下であることが好ましく、プレッシャークッカー試験(PCT試験、135℃、3気圧、2時間)での吸湿率が1.0質量%以下であることが好ましい。TG−DTA分析は、例えば、サーマルアナライザ(TG−DTA)(島津製作所社製、商品名「島津示差熱熱重量同時測定装置」)を用いて窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で室温から300℃までの重量減少を測定することにより行うことができる。また、PCT試験は、例えば、乾燥したサンプルをプレッシャークッカー(ヒラヤマ(HIRAYAMA)社製、商品名「PC−242HSプレッシャークッカー」)を用い、135℃、3気圧、2時間の条件にさらした後、吸湿率を測定することにより行うことができる。
【0058】
本発明の複合誘電体を薄層(薄膜)として用いる場合の厚みは、0.1μm〜30μmの範囲内が好ましく、0.5μm〜12μmの範囲内がさらに好ましい。さらに好ましくは0.5μm〜5μmであり、0.5μmから2μmが最も好ましい。
【0059】
本発明の複合誘電体の表面粗さRaは100nm以下であることが好ましい。表面粗さRaが100nm以上であると薄層(薄膜)に欠陥が生じショート等の不具合を生じる恐れがある。より好ましくは60nm以下である。前記表面粗さRaは、例えば、表面粗さ計(日本真空技術製、DIKTAK IIA)を用いて測定することができる。
【0060】
本発明の複合誘電体の用途・機能としては、例えば、バイパスコンデンサー、充電素子、微分素子、終端負荷素子、フィルター、アンテナ、ノイズカット等が挙げられる。
【0061】
本発明の複合誘電体は、充電素子、微分素子、終端負荷素子等に用いることができるものであることから、電気回路基板を構成する部品として好適に用いることができる。このような本発明の複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板もまた、本発明の1つである。本発明の複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板は、複合誘電体から形成される基板素子を基板の外部に設置したビルドアップ基板であってもよく、基板の内部に作り込んだ埋め込み受動素子基板(EPD基板)であってもよい。また、フィルム状基板(フレキシブル基板)上に本発明の複合誘電体から形成される基板素子や、その他の各種素子を薄膜で形成し、これらを積層、電気接続して3次元的に回路を形成した薄型多層フレキシブルシートデバイスであってもよい。本発明の電気回路基板には、各種電子素子の他、配線、端子、孔等のその他の要素が含まれていてもよく、基板に含まれる各種電子素子やその他の要素の種類、及び、基板中における各種電子素子や電極の位置、形状、配線や孔の位置等は、電気回路基板の用途や機能等に応じて適宜選択されることになる。本発明の電気回路基板は、例えばWO2005/033209号パンフレットに開示されている方法で製造することができる。
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下ことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0063】
合成例1
BPDE16.74部、HF10.5部、炭酸カリウム4.34部、DMAc90部を反応容器に仕込み、60℃で8時間反応することによりフッ素化芳香族ポリマー(2)を得た。該ポリマーのガラス転移点温度(Tg)は242℃、数平均分子量(Mn)が70,770、体積抵抗値は1.0×1016Ω・cm以上であった。
【0064】
合成例2
BPDE16.74部、BA5.88部、炭酸カリウム4.34部、DMAc90部を反応容器に仕込み、合成例1と同様にして、フッ素化芳香族ポリマー(3)を得た。該ポリマーのガラス転移点温度(Tg)は180℃、数平均分子量(Mn)が62,750、体積抵抗値は1.0×1016Ω・cm以上であった。
【0065】
実施例1〜9
フッ素含有ポリマー、無機誘電体、複合誘電体用液状組成物の混合比率は表1に示した。溶剤にフッ素含有ポリマー、湿潤剤を溶解させた後、無機誘電フィラーを混合し、攪拌翼とビーズを用いて表1に記載の分散条件下分散を行い、複合誘電体用液状組成物を得た。
【0066】
複合誘電体用液状組成物をガラス板もしくは銅箔上に塗工し、100℃1時間、150℃1時間、200℃1時間焼成することにより複合誘電体を得た。複合誘電体用液状組成物の分散結果(液状組成物中の平均粒子径:Dm)、複合誘電体の膜厚、面粗さ測定結果を表1に示した。
【0067】
複合誘電体の表面、もしくは表面裏面に金蒸着を行い、評価用電極を作製した。インピーダンスアナライザにて誘電率、容量を測定し表1に示した。
【0068】
比較例1〜4
ケミスターラーまたは攪拌翼を用いて分散を行った以外は、実施例と同様にして複合誘電体用液状組成物を得、複合誘電体を作製した。フッ素含有ポリマー、無機誘電体、複合誘電体用液状組成物の混合比率、分散方法、結果を表2に示した。
HP−9DX:平均粒子径250nm、比表面積3.9m2/g
BT−01:平均粒子100nm、比表面積11.6m2/g
BYK W9010:商品名、ビックケミージャパン社製
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

表1が示すように、実施例1〜9の複合誘電体用液状組成物は、液状組成物中の平均粒子径Dmが700nm以下と小さく、優れた分散状態にあることが分かる。使用した無機誘電体の粒子径Dに対する値(Dm/D)も4以下となっており、無機誘電体が十分に分散できていることが明らかである。
【0071】
実施例1〜9で作製した複合誘電体は、いずれも面粗さが100nm以下の平滑な塗膜となり、2μmまで薄膜化してもショートすることがなく、均一で高い絶縁性を有することが分かった。また、高い誘電率を保ちつつ薄膜化可能となったことで、大幅な高容量化を達成することができた。
【0072】
従来の分散方法を用いた比較例1〜4の複合誘電体用液状組成物は、液状組成物中の平均粒子径Dmが大きく、液中に凝集物が多いことが分かる。使用した無機誘電体の粒子径Dに対する値(Dm/D)も大きく、無機誘電体の分散が不十分である。
【0073】
比較例1〜4で作製した複合誘電体は、いずれも面粗さが大きく平滑性に乏しいことが分かる。比較例1では、ショートせずに誘電率・容量の測定ができたが、比較例2〜4ではいずれもショートしてしまった。凝集粒子により塗膜に欠陥が発生したためあると考えられ、薄膜化することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機誘電体とフッ素化芳香族ポリマーを含有することを特徴とする複合誘電体用液状組成物であって、液状組成物中の無機誘電体の平均粒子径Dmが700nm以下であることを特徴とする複合誘電体用液状組成物
【請求項2】
前記無機誘電体の平均粒子径Dが50nm〜300nmの範囲にある請求項1記載の複合誘電体用液状組成物
【請求項3】
液状組成物中の無機誘電体の平均粒子径Dmと無機誘電体の平均粒子径Dの比(Dm/D)が、4未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合誘電体樹脂組成物
【請求項4】
無機誘電体とフッ素化芳香族ポリマーを複数の粒状分散媒体を用いて混合する分散処理工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合誘電体液状組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の複合誘電体液状組成物を用いてなる複合誘電体
【請求項6】
前記複合誘電体の表面粗さRaが100nm以下であることを特徴とする請求項5に記載の複合誘電体
【請求項7】
前記複合誘電体の膜厚が30μm以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載の複合誘電体
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板

【公開番号】特開2009−16169(P2009−16169A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176295(P2007−176295)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】