説明

複合重合体粒子及びその製造方法

【課題】酸化チタンが分散した複合重合体粒子を簡便な方法で得ることを課題とする。
【解決手段】カルボキシル基、リン酸基又は両方を有するビニル系モノマーを含むビニル系モノマー100重量部と、下記式


(式中、nは3〜15の整数、Rはアルキル基である)で示されるポリアルコキシチタネートオリゴマー10〜120重量部と、重合開始剤とを混合してモノマー組成物を得る工程と、該モノマー組成物中の前記ビニル系モノマーを、懸濁安定剤の存在下で、水系懸濁重合させることで、前記ポリアルコキシチタネートオリゴマーに由来する酸化チタンが分散した複合重合体粒子を得る工程とからなる複合重合体粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合重合体粒子及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、簡便な方法により得ることができる、酸化チタンからなる無機粒子が微細なサイズで分散されてなる複合重合体粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から金属又はその酸化物の粉体を含有させた複合重合体粒子が、例えば電子写真用トナー等として使用されている。
【0003】
例えば、特開平8−53568号公報(特許文献1)には、酸化亜鉛のような金属酸化物粒子と、金属酸化物粒子に対し1〜50重量%のカルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、リン酸エステル、フォスフォン酸、及びこれらの塩の内から選ばれた少なくとも1種類の分散剤とを、モノマー又はモノマーと溶剤との混合体に分散させて、金属酸化物粒子の分散粒子径が0.1μm以下である分散液を調製し、この分散液を水性媒体に加え、モノマーを懸濁重合もしくは乳化重合させることで金属酸化物粒子を含有する複合樹脂粒子の製造方法が示されている。
【0004】
また、特開平8−211649号公報(特許文献2)には、磁性粉を分散させた水不溶性のモノマーに、反応性ラジカルとして磁性粉の表面に存在する化学的に結合しうるアルキル基及びアルコキシ基を有するシラン化合物(疎水性化合物)を添加して磁性粉を被覆処理したモノマー分散体を、水性媒体中で、所定の粒径で懸濁重合させることで、磁性粉を含有する電子写真用トナーを製造する方法が記載されている。
【0005】
更に、特開2003−192791号公報(特許文献3)には、チタンやジルコニア等の金属が、金属シラン縮合体(疎水性化合物)を用いて、樹脂粒子中に化学的に結合(カップリング)して含有されている複合樹脂粒子が記載されている。
【0006】
上述した公報の提案は、元来親水性である金属又はその酸化物粒子を、分散剤により、又は粒子の表面を疎水性化合物で被覆処理又は疎水性化合物とカップリングさせて親油化することにより、水不溶性のモノマーに分散させ、懸濁又は乳化重合下に、樹脂粒子中に内包させる方法である。
【0007】
【特許文献1】特開平8−53568号公報
【特許文献2】特開平8−211649号公報
【特許文献3】特開2003−192791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記いずれの技術でも金属酸化物粒子の親油化が十分でないため、モノマーへの分散が十分でなく、樹脂粒子中に効率よく内包させることが困難であった。更に、予め金属酸化物粒子の表面の処理が必要である等、工程が煩雑であるという課題があった。また、金属酸化物を親油化させるために、別途薬剤が必要であり、コストがかかるという課題もあった。
【0009】
また、金属シラン縮合体は、チタンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド等の著しく加水分解性の高い金属アルコキシドを用いて得られるが、そのような金属アルコキシドを用いて、安定して金属酸化物が粒子状に分散した樹脂粒子を得ることは容易ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、ビニル系モノマーを、特定のポリアルコキシチタネートオリゴマーの存在下、水系懸濁重合することにより、オリゴマー由来の酸化チタンが分散した複合重合体粒子が容易に得られることを見出し、本発明に至った。
【0011】
かくして本発明によれば、カルボキシル基、リン酸基又は両方を有するビニル系モノマーを含むビニル系モノマー100重量部と、下記式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、nは3〜15の整数、Rはアルキル基である)
で示されるポリアルコキシチタネートオリゴマー10〜120重量部と、重合開始剤とを混合してモノマー組成物を得る工程と、該モノマー組成物中の前記ビニル系モノマーを、懸濁安定剤の存在下で、水系懸濁重合させることで、前記ポリアルコキシチタネートオリゴマーに由来する酸化チタンが分散した複合重合体粒子を得る工程とからなる複合重合体粒子の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、上記方法により得られた複合重合体粒子が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、ポリアルコキシチタネートオリゴマーをビニル系モノマー中に分散させて、懸濁重合することからなる簡便な方法により、得られた重合体粒子内に酸化チタンを含有(又は内包)する複合球状粒子を、高効率で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明によれば、ビニル系モノマー中のカルボキシル基又はリン酸基が、ポリアルコキシチタネートオリゴマーのアルコキシド基と置換反応して化学的に結合するため、ポリアルコキシチタネートオリゴマーの加水分解性が制御でき、水系媒体中に容易にポリアルコキシチタネートオリゴマーを安定に分散させることができる。
【0016】
本発明に使用できる上記ビニル系モノマーとしては、カルボキシル基、リン酸基又は両方を有していれば特に限定されない。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート等が挙げられる。中でも、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェートが好ましい。これらビニル系モノマーは、1種もしくは2種以上組み合わせて使用できる。
【0017】
更に、上記以外の他のビニル系モノマーを、本発明の効果を阻害しない範囲で使用してもよい。他のビニル系モノマーとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン等のスチレン及びその誘導体、
【0018】
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類、
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル、α−クロルアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のα−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類、
【0019】
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のアクリル酸もしくはメタクリル酸誘導体、
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類、
N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物、ビニルナフタリン塩等が挙げられる。これら他のビニル系モノマーは、1種もしくは2種以上組み合わせて使用できる。
他のビニル系モノマー中でも、安価なスチレンやメタクリル酸メチル等が好ましい。
【0020】
また、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン等の2つ以上の官能基を持つモノマーを使用することで、架橋した重合体粒子を得ることも可能である。
【0021】
なお、他のビニル系モノマーは、カルボキシル基、リン酸基又は両方を有するビニル系モノマー100重量部に対して、0〜1500重量部使用されることが好ましく、100〜1000重量部使用されることがより好ましい。
次に、ポリアルコキシチタンネートオリゴマーは、以下に示すような構造式のものが使用できる。
【0022】
【化2】

【0023】
上記式中、nは3〜15の整数であり、好ましくは3〜10の整数である。ここで、nが2以下の低分子量アルコキシチタネートは、官能基の加水分解が非常に高いために、モノマー滴中に安定に存在させることが難しく、また懸濁重合時に水系媒体に安定に懸濁できないので好ましくない。一方、nが16以上の場合、アルコキシチタネートの粘度が高く、懸濁重合時に水系媒体中に安定に懸濁し難いので好ましくない。
【0024】
Rはアルキル基であり、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチルが挙げられる。また、Rは同一又は異なっていてもよい。
【0025】
ポリアルコキシチタネートオリゴマーの具体例として、ポリメトキシチタネート、ポリエトキシチタネート、ポリプロポキシチタネート、ポリブトキシチタネート等のオリゴマーが挙げられる。これらの中でも、加水分解性が緩やかで、樹脂との相分離が良好であるポリプロポキシチタネートオリゴマー、ポリブトキシチタネートオリゴマーが好ましい。特に好ましいものは、n=3〜10のポリメトキシチタネートオリゴマー、ポリブトキシチタネートオリゴマーである。
【0026】
ポリアルコキシチタネートオリゴマーは、n、R又は両方の異なるものを複数種混合して用いてもよい。
【0027】
ポリアルコキシチタネートオリゴマーの添加量は、ビニル系モノマー100重量部に対して、10〜120重量部が好ましく、更に好ましくは10〜100重量部である。10重量部未満の場合、酸化チタンを重合体粒子に含有させて得られる効果が乏しいため好ましくなく、また120重量部より多い場合、複合重合体粒子を安定に得ることができないため好ましくない。
【0028】
また別の観点から、ビニル系モノマーの使用量は、ポリアルコキシチタネートオリゴマーのモル数に対し、2〜20倍モルであることが好ましく、2〜10倍モルであることが更に好ましい。より詳細には、例えば、上記の式(1)におけるn=10のポリブトキシチタネートオリゴマー1g(分子量2069)に対し、ビニル系モノマーが2−メタクリロイロキシエチルコハク酸(分子量230)の場合には、モノマーの使用量は、好ましくは0.22〜2.2g、更に好ましくは0.22〜1.1gとなる。ポリアルコキシチタネートオリゴマーのモル数に対し、2倍モルより少ないと、ポリアルコキシチタネートオリゴマーの加水分解性を制御する効果が小さく、水系媒体中に分散させることが困難である。20倍モルより多くても更なる効果は認められないため好ましくない。
【0029】
なお、チタン系以外の加水分解性アルコキシ金属化合物をビニル系モノマーに添加してもよい。具体的には、ポリアルコキシシランオリゴマー、ジルコニウムアルコキシド等が挙げられる。
【0030】
ビニル系モノマーの重合には、重合開始剤が使用される。重合開始剤としては、通常、水系懸濁重合に用いられる油溶性の過酸化物系重合開始剤又はアゾ系重合開始剤が挙げられる。具体的には、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、キュメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の過酸化物系重合開始剤、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−イソプロピルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、(2−カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ系開始剤が挙げられる。
【0031】
この中でも、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等が、重合開始剤の分解速度等の点で好ましい。
【0032】
重合開始剤は、全ビニル系モノマー100重量部に対して、0.01〜10重量部用いるのが好ましく、更に好ましくは0.1〜5.0重量部である。重合開始剤が0.01重量部未満では、重合開始の機能を果たし難いので好ましくない。また、10重量部を超えて用いる場合は、コスト的に不経済的であるため好ましくない。
【0033】
上記ビニル系モノマーと、ポリアルコキシチタネートオリゴマーと、重合開始剤と、その他の成分は、公知の方法により混合されてモノマー組成物とされる。
【0034】
次に、モノマー組成物を水系懸濁重合させるための水性媒体としては、水、又は水とアルコールのような水溶性溶媒との混合媒体が挙げられる。水性媒体の使用量は、懸濁粒子の安定化を図るために、通常、ビニル系モノマー及びポリアルコキシチタネートオリゴマーの合計100重量部に対して、100〜1000重量部である。
【0035】
また、水系での乳化粒子の発生を抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。
【0036】
更に、必要に応じて水性媒体に懸濁安定剤を添加してもよい。懸濁安定剤としては、例えば、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛等のリン酸塩、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸亜鉛等のピロリン酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、コロイダルシリカ等難水溶性無機化合物が挙げられる。この中でも第三リン酸カルシウムや複分解生成法によるピロリン酸マグネシウムやピロリン酸カルシウム、コロイダルシリカは、重合体粒子を安定して得ることが可能であるため好ましい。
【0037】
懸濁安定剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよいが、得られる重合体粒子の粒子径と重合時の分散安定性を考慮して、その種類の選択や使用量を適宜調整して使用される。通常、懸濁安定剤の添加量は、重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.5〜15重量部である。
【0038】
また、上記懸濁安定剤と、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の界面活性剤とを併用することも可能である。
【0039】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0040】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0041】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0042】
両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミンオキサイドや、リン酸エステル系又は亜リン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
【0043】
界面活性剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよいが、得られる重合体粒子の粒子径と重合時の分散安定性を考慮して、その種類の選択や使用量を適宜調整して使用される。通常、界面活性剤の添加量は、水性媒体100重量部に対して0.001〜0.1重量部である。
このようにして調整された水性媒体にモノマー組成物を添加して、水系懸濁重合を行う。
【0044】
モノマー組成物の分散方法として、例えば、水性媒体中にモノマー組成物を直接添加し、プロペラ翼等の攪拌力によりモノマー滴として水性媒体に分散させる方法、ローターとステーターから構成される高せん断力を利用する分散機であるホモミキサー、もしくは超音波分散機等を用いて分散させる方法等が挙げられる。この内、マイクロフルイダイザー、ナノマイザー等のモノマー液滴同士の衝突や機壁への衝突力を利用した高圧型分散機やMPG(マイクロポーラスガラス)多孔膜を通してモノマー組成物を水性媒体中に圧入させる等の方法によって分散させれば、粒子径をより均一にそろえられるので好ましい。
【0045】
次いで、モノマー組成物が球状のモノマー滴として分散された水性媒体を、加熱することにより懸濁重合を開始させる。重合反応中は、水性媒体を攪拌するのが好ましく、その攪拌は例えば、モノマー滴の浮上や重合後の粒子の沈降を防止できる程度に緩く行えばよい。
【0046】
懸濁重合において、重合温度は30〜100℃程度にするのが好ましく、更に好ましくは、40〜80℃程度である。そしてこの重合温度を保持する時間としては、0.1〜20時間程度が好ましい。
【0047】
ポリアルコキシチタネートオリゴマーは、水系懸濁重合時に縮合して酸化チタンに変換され、重合体粒子の内部で微細かつ均一に分散される。その結果、本発明の複合重合体粒子を得ることができる。
【0048】
更に、重合反応後、ポリアルコキシチタネートオリゴマーが残存する場合は、その縮合を、酸触媒や塩基触媒を水性媒体に添加することで促進させてもよい。
【0049】
酸触媒及び塩基触媒としては、塩酸、硫酸、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硝酸アンモニウム等を用いることができる。なお、製造容器が鋼製やステンレス製である場合、腐食等の面から、塩基性の水酸化ナトリウムやアンモニア等が好ましい。触媒の添加量は、ポリアルコキシチタネートオリゴマー100重量部に対して、0.01〜30重量部が好ましく、より好ましくは1〜15重量部である。
【0050】
懸濁重合及び、更に必要に応じて酸触媒又は塩基性触媒による縮合工程を経た後、懸濁安定剤を塩酸等により分解し、無機複合重合体粒子を吸引ろ過、遠心脱水、遠心分離、加圧脱水等の方法により含水ケーキとして分離し、更に、得られた含水ケーキを水洗し、乾燥して複合重合体粒子を単離してもよい。
【0051】
本発明の複合重合体粒子は、大きさ及び形状は特に限定されない。上記方法によれば、例えば、1〜100μmの平均粒子直径の粒子を得ることができる。なお、平均粒子直径の調整は、モノマー組成物と水との混合条件、懸濁安定剤や界面活性剤等の添加量及び上記攪拌機の攪拌条件、分散条件を調整することで可能である。
【0052】
本発明によれば、粒子の内部に、例えば、0.1μm以下の粒子径の酸化チタンが分散した複合重合体粒子を得ることができる。また、粒子内部で酸化チタンが微分散しているので、高い透明性を有し、光の透過性が高いという性質を有している。そのため、LCDスペーサー・銀塩フィルム用表面改質剤・磁気テープ用フィルム改質剤・感熱紙走行安定剤等の電子工業分野、レオロジーコントロール剤・艶消し剤等の塗料・インク・接着剤等の化学分野、抗原抗体反応検査用粒子等の医療分野、滑り剤・体質顔料等の化粧品分野、紙、歯科材料、アンチブロッキング剤、光拡散剤、樹脂改質剤等の一般工業分野への使用が可能である。
【実施例】
【0053】
次に、実施例によって本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの記載によって拘束されるものではない。
複合重合体粒子の平均粒子直径、無機粒子の含有率、複合重合体粒子内での無機粒子の分散状態については以下の方法で測定した。
【0054】
(平均粒子直径の測定方法)
孔径50〜280μmの細孔に電解質溶液を満たし、当該電解質溶液を粒子が通過する際の電界質溶液の導電率変化から体積を求め、平均粒子直径を計算する。具体的には、測定した平均粒子直径は、ベックマンコールター社製のコールターマルチザイザーIIによって測定した体積平均粒子径である。なお、測定に際してはCoulter Electronics Limited発行のREFERENCE MANUAL FOR THE COULTER MULTISIZER(1987)に従って、測定する粒子の粒子径に適合したアパチャーを用いてキャリブレーションを行い測定する。
【0055】
具体的には、市販のガラス製の試験管に粒子0.1gと0.1%ノニオン系界面活性剤溶液10mlを投入し、ヤマト科学社製タッチミキサー TOUCHMIXER MT−31で2秒間混合した後試験管を市販の超音洗浄機であるヴェルヴォクリーア社製ULTRASONIC CLEANER VS−150を用いて10秒間予備分散させ、これを本体備え付けの、ISOTON2(ベックマンコールター社製:測定用電解液)を満たしたビーカー中に、緩く攪拌しながらスポイドで滴下して、本体画面の濃度計の示度を10%前後に合わせる。次にマルチサイザー2本体にアパチャーサイズ、Current,Gain,PolarityをCoulterElectronics Limited発行のREFERENCE MANUAL FOR THE COULTER MULTISIZER(1987)に従って入力し、manualで測定する。測定中はビーカー内を気泡が入らない程度に緩く攪拌しておき、粒子を10万個測定した点で測定を終了する。
【0056】
(無機粒子の含有率)
TG/DTA6200(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、アルミ製オーブン容器(セイコーインスツルメンツ社製)に試料を約0.02g秤量し、TG/DTA6200のオートサンプラーにセットした。5℃/分で昇温を行い、空気雰囲気下、室温(約25℃)から500℃までの示差熱分析を行った。上記操作により得られたグラフ(縦軸:温度、横軸:時間)より、500℃にて、残存する重量を粒子が含有する無機粒子の量とする。
【0057】
(複合重合体粒子内での無機粒子の分散状態)
エポキシ樹脂に本発明により得られた複合重合体粒子を埋設し、超薄切片を作成しTEM(透過型電子顕微鏡)にて、断面を観察した。
【0058】
実施例1
水200gに対し、懸濁安定剤として複分解法によるピロリン酸マグネシウム5gを混合させた分散媒を、500mlセパラブルフラスコに入れ、界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム0.04g、水溶性重合禁止剤として亜硝酸ナトリウム0.02gを前記分散媒に溶解させて水系媒体を調製した。
【0059】
別途、単官能性のビニル系モノマーとしてメタクリル酸メチル35g、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸5g、ポリアルコキシチタネートオリゴマー(日本曹達社製 有機チタネート 商品名B−10:上記構造式中RはC49、n=10、分子量2069)10g、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.25gを均一に溶解してなるモノマー組成物を調製した。
【0060】
ポリアルコキシチタネートオリゴマーのモル数は、4.8×10-3であり、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸のモル数は、2.17×10-2であった。
【0061】
このモノマー組成物を上記水系媒体に加えて、ホモミキサー(IKA社製:ULTRA TURRAX T−25)にて8000rpmで約10秒間攪拌して、モノマー組成物を微分散した。セパラブルフラスコに撹拌翼、温度計及び還流冷却器を取り付け、窒素置換後、60℃の恒温水槽(ウォーターバス)中に設置した。セパラブルフラスコ内を撹拌速度200rpmで攪拌を継続させ、セパラブルフラスコ内のモノマー組成物を加えた分散媒の温度が60℃になってから10時間懸濁重合を行うことで重合性ビニル系モノマーを重合させ、次いで80℃にて8時間反応を継続した。
【0062】
次いで、セパラブルフラスコを恒温水槽より取り出し、セパラブルフラスコ内を攪拌しながらセパラブルフラスコ内の反応液を室温まで冷却し、スラリーのpHが2程度になるまで塩酸を添加して懸濁安定剤を分解し、複合重合体粒子を得た。
【0063】
得られた粒子を、濾紙を用いたブフナー漏斗で吸引濾過し、5Lのイオン交換水で洗浄し懸濁安定剤を除去し、乾燥させることで目的の粒子を取り出した。
【0064】
得られた複合重合体粒子の平均粒子直径は5.8μm、無機物の含有率は7.8重量%であった。また、この粒子のTEM写真を図1及び2に示す。図2は、図1の拡大写真である。図1及び2により、無機粒子は複合重合体粒子内部に均一に分散され、その粒子径は0.1μmよりも小さいことが観察できた。
【0065】
実施例2
実施例1において、メタクリル酸メチルを25g、ポリアルコキシチタネートオリゴマーを20g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を0.15gに変更したこと以外は同様の方法で複合重合体粒子を得た。
【0066】
ポリアルコキシチタネートオリゴマーのモル数は、9.67×10-3であり、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸のモル数は、2.17×10-2であった。
【0067】
得られた複合重合体粒子の平均粒子直径は16.3μm、無機粒子の含有率は18.7%であった。また、この粒子のTEM観察により、実施例1と同様に無機粒子は粒子内部に均一に分散され、その粒子径は0.1μmよりも小さいことが観察できた。
【0068】
実施例3
ポリアルコキシチタネートオリゴマーとして有機チタネート(商品名B−4 日本曹達社製:上記構造式中RはC49、n=7、分子量906)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で複合重合体粒子を得た。
【0069】
ポリアルコキシチタネートオリゴマーのモル数は、5.52×10-3であり、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸のモル数は、2.17×10-2であった。
【0070】
得られた無機複合重合体粒子の平均粒子直径は6.4μm、無機粒子の含有率は7.1%であった。また、この粒子のTEM観察により、実施例1と同様に無機粒子は粒子内部に均一に分散され、その粒子径は0.1μmよりも小さいことが観察できた。
【0071】
実施例4
2−メタクリロイロキシエチルコハク酸にかえ、2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート(分子量186)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で複合重合体粒子を得た。
【0072】
ポリアルコキシチタネートオリゴマーのモル数は、5.52×10-3であり、2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェートのモル数は、2.69×10-2であった。
【0073】
得られた無機複合重合体粒子の平均粒子直径は28.9μm、無機粒子の含有率は7.9%であった。また、この粒子のTEM観察により、実施例1と同様に無機粒子は粒子内部に均一に分散され、その粒子径は0.1μmよりも小さいことが観察できた。
【0074】
比較例1
ポリアルコキシチタネートオリゴマーの代わりに、テトラプロポキシチタネートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で粒子の試作を検討したが、モノマー組成物を水200gに対し、懸濁安定剤として複分解法によるピロリン酸マグネシウム5gを混合させた分散媒に懸濁させた段階で、テトラプロポキシチタネートの加水分解によるオイル状物が生成し、油滴を分散させることができず微粒子化が不可能であった。
【0075】
比較例2
実施例1において、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸を使用しないこと以外は同様の条件にて、微粒子化を検討したが、モノマー混合物を、水200gに対し懸濁安定剤として複分解法によるピロリン酸マグネシウム5gを混合させた分散媒に懸濁させた段階で、テトラプロポキシチタネートの加水分解によるオイル状物が生成し、油滴を分散させることができず微粒子化が不可能であった。
【0076】
比較例3
水200gに対し、懸濁安定剤として複分解法によるピロリン酸マグネシウム5gを混合させた分散媒を、500mlセパラブルフラスコに入れ、界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム0.04g、水溶性重合禁止剤として亜硝酸ナトリウム0.02gを前記分散媒に溶解させて水系媒体を調製した。
【0077】
別途、単官能性のビニル系モノマーとしてメタクリル酸メチル35g、エチレングリコールジメタクリレート5g、表面を疎水化処理した二酸化チタン10g(粒子径0.3μm)、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.25gを均一に溶解してなるモノマー組成物を調製した。
【0078】
このモノマー組成物を実施例1と同様にして懸濁重合させ複合重合体粒子を得た。
得られた複合重合体粒子の平均粒子直径は7.8μm、無機粒子の含有率は20重量%であった。
【0079】
実施例5
実施例1及び比較例3で得られた複合重合体粒子、無機粒子を含まない市販のアクリル系球状微粒子(積水化成品工業社製:商品名テクポリマーMBX−8、平均粒子径8μm)3重量部を、メタクリル酸メチル樹脂(住友化学社製MG−5)100重量部にそれぞれ添加し、混練後、押出機に供給してマスターペレットを得た。
【0080】
得られたペレットを射出成形機に供給して成形することで、長さ100mm、幅50mm、厚さ2mmの成形品を得た。得られた成形体の全光線透過率及びヘイズを日本電色社製濁度計(商品名NDH200、規格JIS K7316)により測定した。得られた結果を表1に示した。
【0081】
【表1】

【0082】
表1より、本発明の複合重合体粒子は、無機粒子が重合体粒子中に分散しているため、光の透過性が高いことがわかる。そのため、透明樹脂に分散させれば、樹脂に光拡散性を付与できる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の複合重合体粒子は、LCDスペーサー・銀塩フィルム用表面改質剤・磁気テープ用フィルム改質剤・感熱紙走行安定剤等の電子工業分野、レオロジーコントロール剤・艶消し剤等の塗料・インク・接着剤等の化学分野、抗原抗体反応検査用粒子等の医療分野、滑り剤・体質顔料等の化粧品分野、紙、歯科材料、アンチブロッキング剤、光拡散剤、樹脂改質剤等の一般工業分野へ使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例1の複合重合体粒子のTEM写真である。
【図2】図1の拡大写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基、リン酸基又は両方を有するビニル系モノマーを含むビニル系モノマー100重量部と、下記式(1)
【化1】

(式中、nは3〜15の整数、Rはアルキル基である)
で示されるポリアルコキシチタネートオリゴマー10〜120重量部と、重合開始剤とを混合してモノマー組成物を得る工程と、該モノマー組成物中の前記ビニル系モノマーを、懸濁安定剤の存在下で、水系懸濁重合させることで、前記ポリアルコキシチタネートオリゴマーに由来する酸化チタンが分散した複合重合体粒子を得る工程とからなる複合重合体粒子の製造方法。
【請求項2】
前記nが3〜10の整数であり、前記RがC1〜C10のアルキル基である請求項1に記載の複合重合体粒子の製造方法。
【請求項3】
前記ビニル系モノマーが、前記ポリアルコキシチタネートオリゴマーに対し、2〜10倍モル使用される請求項1又は2に記載の複合重合体粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法により得られた複合重合体粒子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−265352(P2006−265352A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84296(P2005−84296)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】