説明

複合金属多孔体およびその製造方法

【課題】多孔体の有効面積を犠牲にせず、金属多孔体の取り扱い性を向上させる。
【解決手段】三次元網目構造を有する多孔体からなるシート状の金属部11と、この金属部11の面方向に延びる樹脂部12とが一体に形成されるとともに、金属部11がチタンまたはチタン合金により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ、ガス拡散部材、放熱部材、吸水部材等に用いるのに好適な複合金属多孔体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属多孔体は、フィルタ、ガス拡散部材、放熱部材、吸水部材といった様々な用途に適用可能であり、種々の装置に備えられている。しかしながら、金属多孔体は強度が低く、変形しやすいという性質を有しているため、取り扱いにくいという問題があった。
そこで、多孔体からなるフィルタ要素をフィルタ装置に組み込む際などの取り扱い時に生じる多孔体の損傷を防止するために、例えば下記特許文献1に示されるように、フィルタ要素の端区域に異なる物質を充填して補強する技術が提案されている。
また、金属発泡体を装置に取り付ける固定用穴等を設けるために、例えば下記特許文献2に示されるように、多孔体の細孔中に金属やプラスチック等の固体を充填することにより、強度を向上させる部分を設ける技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭48−13956号公報
【特許文献2】特開平08−53723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、多孔体の表面に樹脂等を重ねることにより強度を向上させようとすると、補強部分に固定用穴を設けようとする場合に樹脂と金属とを同時に切削することになり、加工しにくく、形状付与が困難となってしまう。
また、金属多孔体は一般に製造が困難で、高価なものであるから、この多孔体を無駄なく利用してその性質を存分に発揮させることが望まれる。これに対し、表面に樹脂や金属等を塗り重ねるような補強では、多孔体の有効面積を小さくしてしまうため、結果的にコスト増大を招くことになる。
【0005】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたもので、金属多孔体の有効面積を犠牲にせず、その取り扱い性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の複合金属多孔体は、三次元網目構造を有する多孔体からなるシート状の金属部と、該金属部の面方向に延びる樹脂部とが一体に形成されるとともに、前記金属部はチタンまたはチタン合金により形成されたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の複合金属多孔体の製造方法は、前記金属部をインサート部品として、該金属部の縁部に連なるように前記樹脂部を射出成形するインサート成形を行うことにより、請求項1記載の複合金属多孔体を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合金属多孔体によれば、強度の低い前記金属部の周縁に樹脂部が設けられるので、取り扱い性のよい金属多孔体を実現することができる。また、樹脂部が金属部から張り出すように延びているから、樹脂部のみを加工することが可能となるので、装置固定用の穴等の形状を容易に付与することができる。
なお、樹脂部を設ける箇所は、金属部の全周に限らず、また外縁部にも限らず、必要に応じて部分的に設けることができる。また、複数の金属部を樹脂部で連結するような構成であってもよい。さらに、樹脂部をなす樹脂は、いわゆる合成樹脂に限らずエラストマーなどのゴム材なども含むものとする。
【0009】
また、本発明の複合金属多孔体の製造方法によれば、金属部と樹脂部との接合部分において、金属部の側部に開口する気孔中に溶融樹脂が入り込んで固化するので、アンカー効果により金属部と樹脂部とが強固に接合された複合金属多孔体を形成することができる。
【0010】
ここで、金属部と樹脂部との接合部分は、金属部の前記三次元網目構造に起因して、樹脂部が金属部の内側に入り込む深さが、金属部の外周における全域において不均一となり、狭い空間が入り組んだ構造となる。さらに、金属部の三次元網目を構成する骨部と樹脂部との接合部分を拡大してみると、部分的に接触していない隙間を形成している。このように、前記接合部分はミクロ的視野で狭い空間を多数含有する構成となっている。したがって、複合金属多孔体を例えば空気中や塩素ガス等の腐食性のガス中に置いたとき、あるいはこれらのガス等や水分が金属部を通過した際、前記接合部分においては、物質が拡散し難いことから、酸素イオンや腐食性イオンに濃度差が生じ、前記骨部に電位差が生ずることによって局部電池として作用することとなる。このため、前記接合部分における金属部にいわゆるすきま腐食が発生し、該金属部から樹脂部が剥れるおそれがある。
【0011】
しかしながら、本発明の複合金属多孔体では、このような金属部がチタンまたはチタン合金により形成されているので、例えばステンレス鋼と比べて前記すきま腐食の発生を確実に抑制することが可能になり、この複合金属多孔体の使用環境にかかわらず、金属部の耐腐食性を向上させることが可能になり、金属部と樹脂部との良好な接合を長期にわたって維持することができる。
なお、金属部を形成するチタンとは、チタンを98.0wt%以上含有する材質を意味し、チタン合金とは、チタンを98.0wt%より少ない量含有する材質、例えばTi−6Al−4VやTi−10V−2Fe−3Al等を意味している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の複合金属多孔体を示す平面図である。
【図2】図1に示す複合金属多孔体のA部拡大図である。
【図3】複合金属多孔体の金属部を製造する方法の一例を示す模式図である。
【図4】図1に示す複合金属多孔体を製造するインサート射出成形用金型の要部を示す断面図である。
【図5】空気清浄機のフィルタとして用いた本発明の複合金属多孔体の例を示す斜視分解図である。
【図6】充填塔の充填物支持板として用いた本発明の複合金属多孔体の例を示す模式図である。
【図7】加湿器の吸水部材として用いた本発明の複合金属多孔体の例を示す模式図である。
【図8】電気集塵装置の電極および集塵フィルタとして用いた本発明の複合金属多孔体の例を示す模式図である。
【図9】CPUクーラのヒートシンクに用いた本発明の複合金属多孔体の例を示す模式図である。
【図10】燃料電池のガス拡散電極として用いた本発明の複合金属多孔体の例を示す斜視図である。
【図11】図10に示すガス拡散電極を備えた燃料電池において、燃料供給部を一体化した例を示す模式図である。
【図12】本発明の複合金属多孔体をガス拡散電極として用いた燃料電池の一例を示す斜視図である。
【図13】本発明の複合金属多孔体をガス拡散電極として用いた燃料電池の他の例を示す斜視図である。
【図14】本発明の複合金属多孔体をガス拡散電極として用いたスタック型の燃料電池の例を示す断面図である。
【図15】図14に示す燃料電池を構成する複合金属多孔体(燃料極)を示す平面図である。
【図16】図14に示す燃料電池を構成する複合金属多孔体(空気極)を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
本発明の複合金属多孔体10は、図1に示すように、シート状の金属部11と、この金属部11の面方向に延びる樹脂部12とが一体に形成された矩形薄板状とされている。
【0014】
金属部11は、三次元網目構造を有する多孔体からなる矩形の薄板とされ、側部に開口する気孔が各方向に連通していることにより通気性、吸水性を有し、軽量で表面積が大きいという特性を有している。そして、この金属部11は、チタンまたはチタン合金により形成され、具体的には、チタンを98.0wt%以上含有する材質、またはチタンを98.0%より少ない量含有する材質であって、例えばTi−6Al−4VやTi−10V−2Fe−3Al等により形成されている。
【0015】
樹脂部12は、金属部11の外周縁部に連なる薄板状とされ、金属部11と略同じ厚さで段差なく形成されている。
これらの金属部11と樹脂部12とが一体に形成された複合金属多孔体10は、全体として1枚の薄板部材をなしており、樹脂部12が固定あるいは挟持される等して装置に取り付けられ、フィルタ、吸水部材、あるいは放熱体等として用いられるようになっている。
【0016】
ここで、金属部11と樹脂部12との接合部分は、金属部11の前記三次元網目構造に起因して、樹脂部12が金属部11の内側に入り込む深さが、金属部11の外周における全域において不均一となり、狭い空間が入り組んだ構造となる。さらに、図2に示すように、金属部11の三次元網目を構成する骨部11aと樹脂部12との接合部分を拡大してみると、部分的に接触していない隙間10aを形成している。このように、前記接合部分はミクロ的視野で狭い空間10aを多数含有する構成となっている。
【0017】
次に、以上のように構成された複合金属多孔体10の製造方法について説明する。まず、金属多孔体である金属部11の製造方法について図3に従い説明する。この金属多孔体は、各種方法により製造することができるが、本実施形態では、金属粉末を含むスラリーSを、薄く成形して乾燥させたグリーンシートGを焼成することにより製造する方法を説明する。
まず、スラリーSは、例えば水素化粉砕されたチタン粉末、若しくはガスアトマイズ法により作製したチタン合金粉末等の金属粉末、有機バインダ(例えばメチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロース)、および溶媒(水)を含有する混合物とされ、必要に応じて、該混合物に加熱処理により昇華あるいは気化する発泡剤(例えば炭素数5〜8の非水溶性炭化水素系有機溶剤(例えばネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン))や消泡剤(エタノール)等が添加される。
【0018】
このようなスラリーSは、グリーンシート製造装置30のホッパ31に貯蔵された後に、該ホッパ31から、ローラ32によって搬送されるキャリアシート33上に供給される。キャリアシート33上のスラリーSは、移動するキャリアシート33とドクターブレード34との間で延ばされ、所要の厚さに成形される。成形されたスラリーSは、さらにキャリアシート33によって搬送され、加熱炉35を通過する。そして、加熱炉35中で乾燥されることにより、前記金属粉末が有機バインダによって接合された状態のグリーンシートGが形成される。
【0019】
なお、スラリーSに発泡剤が含まれる場合、キャリアシート33上に延ばされた状態のスラリーSを、乾燥前に、高湿度雰囲気下にて加熱処理し、発泡剤を発泡させて発泡スラリーとしてから、乾燥処理を行ってグリーンシートGを形成する。
このグリーンシートGは、キャリアシート33から取り外された後、図示しない真空炉にて脱脂、焼成されることにより、有機バインダが取り除かれ、金属粉末同士が焼結した金属多孔体(金属部11)となる。ここで、有機バインダにはカーボンが含有され、このカーボンは前記焼成によっても取り除くことができず、金属部11に残存する場合がある。具体的には、カーボンが金属部11中に0.6wt%以下含まれる場合がある。
【0020】
次に、以上のように形成された金属部11を用いて複合金属多孔体10を形成する方法について図4に従い説明する。この複合金属多孔体10は、例えば既に固化している熱可塑性樹脂からなる樹脂部12を加熱状態で金属部11に圧着することによって形成することも可能であるが、本実施形態では、金属部11をインサート部品としたインサート成形により樹脂部12を一体に備えた複合金属多孔体10を形成する方法について説明する。
【0021】
まず、図4に示す一対の型板20、21間に形成されたキャビティ22に、インサート部品として金属部11を配置し、その後、ランナ23からゲート24を通じて射出した溶融樹脂25をキャビティ22内に充填する。そして、この溶融樹脂25を冷却固化することによって、金属部11と樹脂部12とが一体とされた複合金属多孔体10を形成する。
ここで、型閉時のキャビティ22の厚さ(型開閉方向の大きさ)は、金属部11よりも若干小さくし、型閉時に型板20、21間で金属部11が3〜90%圧縮されるようにすると、金属部11が、溶融樹脂の射出圧によりキャビティ23に対して移動させられることを防止することができるとともに、金属部11の平坦度を向上させることができる。
【0022】
また、このようなインサート成形により複合金属多孔体10を形成する際に、金属部11の気孔径を10μm〜2mm程度とするとともに、気孔率を40〜98%程度として、樹脂部12をポリプロピレンにより形成する場合には、成形温度180℃、80kNで型締めし、成形圧25MPaで射出成形することによって、金属部11の側部に開口する気孔中、5μm〜1000μm程度の深さまで溶融樹脂25が含浸して固化し(アンカー効果)、かつ金属部11が、溶融樹脂25の成形圧や冷却固化時の収縮挙動により変形しないことが確認できた。
なお、金属部11の気孔径や気孔率が小さすぎると、溶融樹脂25が気孔中に入り込めず前記アンカー効果が不十分となり、樹脂部12との接合強度が十分に得られないおそれがある。一方、気孔径や気孔率が大きすぎると、金属部11自体の強度が不足し、溶融樹脂25の成形圧や冷却固化時の収縮挙動に耐えられず変形するおそれがある。
【0023】
また、樹脂部12の材質は、ポリプロピレンに限られず、熱可塑性樹脂、エラストマーなど、射出成形可能な材質であればよいので、耐熱温度や硬度等を考慮し、用途に応じて適宜選択すればよい。さらに、樹脂部12は、図1に示すような平坦であってもよいが、ねじ挿通孔用の穴や、装置に対する嵌合用の溝形状、強度向上のためのリブ形状、ボスなどを樹脂成形時に設けておいてもよい。また、金属部11に予め穴を設けておき、ここに溶融樹脂を充填するように射出することにより、金属部11の端部だけでなく中程にも樹脂部12を有する複合金属多孔体10を製造することができる。
【0024】
ここで、金属部11と樹脂部12との接合部分は、前述したように、ミクロ的視野で狭い空間10aを多数含有する構成となっているので、複合金属多孔体10を後述するように例えば空気中や塩素ガス等の腐食性のガス中に置いたとき、あるいはこれらのガス等や水分が金属部11を通過した際、前記接合部分においては、物質が拡散し難いことから、酸素イオンや腐食性イオンに濃度差が生じ、前記骨部11aに電位差が生ずることによって局部電池として作用することとなる。このため、前記接合部分における金属部11にいわゆるすきま腐食が発生し、該金属部11から樹脂部12が剥れるおそれがある。
【0025】
しかしながら、本実施形態の複合金属多孔体10では、このような金属部11がチタンまたはチタン合金により形成されているので、例えばステンレス鋼と比べて前記すきま腐食の発生を抑制することが可能になり、この複合金属多孔体10の使用環境にかかわらず、金属部11の耐腐食性を向上させることが可能になり、金属部11と樹脂部12との良好な接合を長期にわたって維持することができる。
【0026】
このようにして製造された複合金属多孔体10は、次のような用途に用いられる。
図5に、複合金属多孔体10をフィルタ40として備える空気清浄機等の多層フィルタ装置において、フィルタ40を収容するフィルタユニット41を示す。
フィルタユニット41は、樹脂や金属からなるフィルタボックス42に、複数枚のフィルタ40を挿入し、フィルタボックス42に蓋部材43を取り付けた構成である。
【0027】
このフィルタユニット41では、フィルタ40の樹脂部11をエラストマー等の弾性部材で形成することにより、フィルタボックス42および蓋部材43に対して気密性を持たせ、ろ過対象となる流体をもれなく金属部11部分に通過させることができる。なお、酸化チタンなどの光触媒を担持させて金属部11を製造すれば、フィルタに捕捉されたガス状汚染物質を光の照射により分解することができ、より空気清浄効果を高めることができる。
【0028】
図6に、複合金属多孔体10を充填物支持板50として備える充填塔51を示す。充填塔51は、垂直な円筒形シェル52内に充填物53を充填したもので、充填物53の上部に配置された液分散板54を通じて上方から均一に分散された液が充填物53の表面を流下するとともに、下方から送り込まれたガスが充填物53の間隙を流れて液と接触しながら上昇する構造により、ガス中の成分を液中に吸収させる装置であり、脱臭、排ガスの洗浄等を行うことができる。
この充填塔51において、充填物支持板50としての複合金属多孔体10は、固定用穴が設けられた樹脂部12がシェル52にねじ止め等により固定されて、金属部11で液体およびガスを通過させながら充填物を支持している。
【0029】
図7に、複合金属多孔体10を吸水部材60として備える加湿器61を示す。
この加湿器61は、水を保持するタンク62の底部63に吸水部材60を立設した構成を有し、微細な連通気孔の浸透圧により吸水部材60の気孔中にタンク62から水を吸い上げさせ、表面積の大きい金属部11から蒸発させることにより、空気中の湿度を高めることができる。この加湿器61において、吸水部材60としての複合金属多孔体10は、タンク62の底部63に形成された溝部64に樹脂部12を挿入させることにより固定され、多孔質の金属部11の一部が水没している。
【0030】
なお、この吸水部材60において、樹脂部12は装置に複合金属多孔体10を固定するための部分であるので、金属部11の強度はあまり要求されない場合には樹脂部11が金属部11の全周に設けられている必要はなく、たとえば矩形の金属部11の1辺のみに設けるだけでもよい。
【0031】
図8に、電極70およびフィルタ71として複合金属多孔体10を備え、塵埃を帯電させて集塵する集塵装置72を示す。この集塵装置72では、複合金属多孔体10である電極70と電極73との間に電圧を印加して放電させ、これら電極間で帯電した塵埃をフィルタ71で集塵させることができる。複合金属多孔体10である電極70およびフィルタ71は、樹脂部12に穴等の固定用形状が設けられ、装置にねじ止め等により固定されている。
【0032】
この電極70およびフィルタ71は、樹脂部12の部分で装置に固定することができるので、樹脂部12を電気絶縁性材料で形成することにより容易に絶縁でき、装置構成を単純化することができる。また、電極70において金属部11と電源とを接続するために、樹脂部12を導電性樹脂で形成したり、樹脂部12の表面に金属配線をプリントしたりしてもよい。
【0033】
図9に、放熱体80として複合金属多孔体10を備えるクーラーユニット81を示す。
このクーラーユニット81は、基板部82に樹脂部12を固定されて並列する複合金属多孔体10の金属部11がヒートシンクを構成しており、ファン83の送風で金属部11が冷却されることにより、基板部82側に配置されたコンピュータのCPU等を冷却するための装置である。この場合、樹脂部12には熱伝導性樹脂が使用される。複合金属多孔体10は金属部11の表面積が大きく軽量であるので、このようなCPUクーラの他、種々の装置における放熱体に好適である。
【0034】
図10に、固体高分子型燃料電池のガス拡散電極90、91に適用された複合金属多孔体10を示す。このガス拡散電極90、91は、複数枚の金属部11が面方向に間隔をおいて配置された状態で、各金属部11間を埋めるとともに全体の外周を囲むように樹脂部12が設けられている。そして、各金属部11の一端には、樹脂部12の外周まで延びる金属薄板タブ92が接続されている。金属薄板タブ92は、インサート成形前の各金属部11に溶着されていて、インサート成形により樹脂部12と一体とされている。
【0035】
この燃料電池は、図11に示すように、陽極のガス拡散電極(空気極)90と陰極のガス拡散電極(燃料極)91との間に電解質膜93を挟んだ層状構造となっていて、各ガス拡散電極90、91の金属部11の表面には、電解質膜93に接する触媒94が塗布形成されている。電解質膜93を挟んで対向する空気極90および燃料極91は、各金属部11が交互に直列に接続されるように、各金属薄板タブ92が配線97により接続されており、直列の両端に位置する金属部11(金属薄板タブ92)が電池の陽極95、陰極96として機能する。
【0036】
ここで、燃料極91に燃料を供給する燃料供給部98は、毛管作用により燃料を供給保持する多孔質部99と、シールのために外周に設けられた樹脂部100とからなる構造となっている。燃料供給部98と燃料極91とは、燃料供給部98の樹脂部100と燃料極91の樹脂部12とをたとえば超音波接合することにより固定される。
【0037】
また、本発明の複合金属多孔体10は、図12および図13に示すような構成の燃料電池においても、ガス拡散電極110として用いることもできる。
このガス拡散電極110(10)は、複数枚の金属部11が面方向に間隔をおいて配置された状態で、各金属部11間を埋めるとともに全体の外周を囲むように樹脂部12が設けられていて、各金属部11の一方の面に触媒層(図示せず)が形成されている。そして燃料電池は、2枚のガス拡散電極110間に電解質層111を挟み込み、各ガス拡散電極110の触媒層を電解質層111に臨ませて、各金属部11を順次直接に配線する構成となっている。
【0038】
図12に示す構成は、金属部11に食い込む突起112aを有する導電性コ字状の接続部材112によって、互いに対向して配置された金属部11をたすきがけ状に順次接続するものである。
また、図13に示す構成は、対向する2対の金属部11近傍の樹脂部12部分を挟み込む挟持部113aと、この挟持部113aから金属部11へ向かって延びる接続部113bとを有する導電性クリップ状の接続部材113によって、互いに対向して配置された金属部11をたすきがけ状に順次接続するものである。
このような接続部材112、113を用いて金属部11を接続する構成とすれば、図10に示すような別部材の金属薄板タブ92を設ける必要がない。
【0039】
さらに、本発明の複合金属多孔体10は、電極120、電解質層121およびセパレータ板122を多層に積層する構成のスタック型の固体高分子型燃料電池(図14)におけるガス拡散電極120として用いることもできる。なお、セパレータ板122は、空気や燃料となるガスまたは液体を通過させず、導電性を有するたとえばカーボン板や耐食性のある金属板などで形成されている。
【0040】
図15および図16に、本実施形態の複合金属多孔体10(ガス拡散電極120)を示す。このガス拡散電極120は、金属部11の周囲を囲み面方向に延びる樹脂部12とからなる板状の部材で、金属部11に隣接して樹脂部12を貫通し、金属部11の気孔に連通する2つの連通孔120a、120bと、金属部11から離れた位置に設けられて樹脂部12を貫通する2つの貫通孔120c、120dと、樹脂部12の四隅に設けられて固定用のボルト等を挿通させるボルト挿通孔120eとを有している。これら連通孔120a、120b、貫通孔120c、120d、120eは、複合金属多孔体10の製造時に金型によって成形することができる。
【0041】
電解質層121には、ガス拡散電極120の各孔に連通する貫通孔が設けられている。
すなわち、電解質層121には、ガス拡散電極の連通孔120a、120bおよび貫通孔120c、120dに連通する貫通孔121aと、ボルト挿通孔120eに連通するボルト挿通孔(図示せず)が形成されている。
また、セパレータ板122にも、ガス拡散電極120の各孔に連通する貫通孔が設けられている。すなわち、セパレータ板122には、ガス拡散電極の連通孔120a、120bおよび貫通孔120c、120dに連通する貫通孔122aと、ボルト挿通孔120eに連通するボルト挿通孔(図示せず)が形成されている。
【0042】
積層されたガス拡散電極120、電解質層121およびセパレータ板122は、各ボルト挿通孔にボルトを挿通させてナットで固定することにより、一体に固定することができる。
【0043】
電解質層121を挟んで積層された2枚のガス拡散電極120は、表裏を異ならせて配置され、一方が燃料極120A、他方が空気極Bとなっている。
すなわち、燃料極120Aの連通孔120aと空気極120Bの貫通孔120d、燃料極120Aの連通孔120bと空気極120Bの貫通孔120cとが連通して、燃料電池の厚さ方向(図14の左右方向)に延びる燃料供給路F1および燃料排出路F2が形成される。燃料供給路F1に供給された燃料は、各燃料極120Aの金属部11の連通気孔中を通過しながら電解質層121と触媒層の界面に水素を供給し、残ガスは燃料排出路F2を通じて排出される。図14は、図15に示すA−A線に沿う断面図であり、燃料の供給経路のみを示している。
【0044】
同様に、燃料極120Aの連通孔120cと空気極120Bの貫通孔120bとが連通して、燃料電池の厚さ方向に延びる空気供給路(図示せず)が形成されるとともに、燃料極120Aの連通孔120dと空気極120Bの貫通孔120aとが連通して、燃料電池の厚さ方向(図14の左右方向)に延びる空気排出路(図示せず)が形成される。空気供給路に供給された空気は、各空気極120Bの金属部11の連通気孔中を通過しながら電解質層121と触媒層の界面に酸素を供給し、反応により生成した水とともに空気排出路を通じて排出される。
【0045】
すなわち、本実施形態の燃料電池は、2枚のガス拡散電極120間に電解質層121を挟み、これらの両面をセパレータ板122に覆うことにより、単独のセルが構成されている。そして、セパレータ板122を挟んで燃料極120Aと空気極120Bとを配置することにより、これら燃料極120Aと空気極120Bとを気密に隔てるとともにセパレータ板122を通じて電子のやりとりが行われる構成とすることができ、複数のセルを直列に接続した燃料電池を構成することができる。
【0046】
なお、以上の実施形態において示した各構成部材、その諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求に基づき種々変更可能である。例えば、前記実施形態では、金属部11をグリーンシートGに基づいて形成したが、これに限らず例えば金属不織布でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
金属多孔体の有効使用面積を確保しつつ、その取り扱い性の向上が図られた複合金属多孔体およびその製造方法を提供する。
【符号の説明】
【0048】
10 複合金属多孔体
11 金属部
12 樹脂部
40 フィルタ(複合金属多孔体)
50 充填物支持板(複合金属多孔体)
60 吸水部材(複合金属多孔体)
70 電極(複合金属多孔体)
71 フィルタ(複合金属多孔体)
80 放熱体(複合金属多孔体)
90、91、110、120 ガス拡散電極(複合金属多孔体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目構造を有する多孔体からなるシート状の金属部と、該金属部の面方向に延びる樹脂部とが一体に形成されるとともに、前記金属部はチタンまたはチタン合金により形成されたことを特徴とする複合金属多孔体。
【請求項2】
前記金属部をインサート部品として、該金属部の縁部に連なるように前記樹脂部を射出成形するインサート成形を行うことにより、請求項1記載の複合金属多孔体を製造することを特徴とする複合金属多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−178175(P2011−178175A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109845(P2011−109845)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【分割の表示】特願2004−335079(P2004−335079)の分割
【原出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】