説明

複層ガラス

【課題】複層ガラスに特有の共鳴透過現象の発生による、特に低周波域での音響透過損失の落ち込みを効果的に抑制し、構造が簡便で作製が容易な断熱性能および遮音性能に優れた複層ガラスを提供する。
【解決手段】3枚のガラス板G1,G2,G3が周縁端部に配設されているスペーサー4を介して隔置され、ガラス板G1,G2,G3の間に密封された中空層1,2が形成されている複層ガラスG1,G2,G3において、前記複層ガラスを構成する内部のガラス板G2を、両側2枚のガラス板G1,G3の共鳴透過現象の力学的平衡点から外した位置に設け、共鳴透過現象による低周波領域での音響透過損失の落ち込みを抑制することを特徴とする複層ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層ガラスに関する。特に、共鳴透過現象による低周波領域における遮音性能の低下を抑制した複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
複層ガラスは、一般に、複数枚のガラス板を、スペーサーを用いて隔置し、ガラス板とスペーサーとで密閉空間である中空層を形成せしめた構成であり、複層ガラスは中空層があることで断熱性能が高まり、結露防止、室内側冷暖房の負荷軽減などの利点があり、ガラスサッシとして一般住宅用を主として広く使われることが知られている。
【0003】
このように、複層ガラスは中空層を有するため断熱性能には優れるが、この中空層が存在することによって、中空層を含めた同厚のガラス板に比較すると遮音性能は低い。このことは、密度の大きい物体ほど音を吸収減衰しやすく、また、固体抵抗により振動し難いので、ガラスの方が、気体であり分子が動き易い空気より、音の吸収減衰が大きいためである。特に、複層ガラスは、ドアや窓材として使用されるようになってきており。断熱性能とともに防音性能を十分に有するものが求められる。
【0004】
複層ガラスの遮音性能を低下させる要因についてはいくつかの現象が知られており、複層ガラスにおける遮音性能を向上させるには、主にコインシデンス効果と共鳴透過現象の二つの現象を抑制することが重要となることが知られている。
【0005】
コインシデンス効果とは、板状の材料において特有の周波数で透過損失が小さくなる、言い換えれば、遮音性能が低下する現象である。具体的には、音が板面に対し斜めに入射すると、板面上の位置によって音圧に位相差ができるため、板面にそって固有の屈曲強制振動を生じ、ある周波数で音の透過が大きくなり遮音性能が低下する現象である。
【0006】
また、共鳴透過現象とは、図2に示すように、複層ガラスにおいて、1対のガラスが中空層をバネとして共振し、中空層のある部分(力学的平衡点)を境にして右側の系と左側の系が同じ振動数で振動する現象である。この2つの系はエネルギー的に等価であることになり互いに共鳴し、複層ガラスはこの振動数の元では遮音性能が低下する。
【0007】
これまで、複層ガラスの遮音性を向上させるために、複層ガラスを構成するそれぞれのガラス板の厚さ設計変更する方法や、中空層に封入するガスの種類を選定する方法など、種々の対策が検討されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、断熱性能、遮音性能を有する複層ガラスについて記載されており、複層ガラスを構成する3枚のガラス板の板厚を全て異ならせることによって、ある特定の周波数でガラス板同士が共振現象を抑制し、遮音性能を向上させた複層ガラスが開示されている。
【0009】
また、特許文献2において、本出願人らは、対称構造を特徴とした複層ガラスにおいて、それぞれの中空層に異なるガス、具体的には、それぞれの中空層に音の吸収に優れたヘリウムガスと空気を封入し、内部のガラス板からみて、音響的に非対称にすることによって遮音性能を向上させた複層ガラスを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−60141号公報
【特許文献2】特開2010−6684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1および特許文献2に記載されるように、複層ガラスを構成するガラス板の厚さの違いや中空層のガスを組み合わせることによって、遮音性能を向上させることは可能であるが、これらの構成では、共鳴透過現象による、特に低周波数における音響透過損失の落ち込みを十分に抑制できないという問題点があった。また、これまで、共鳴透過現象に関する有効な対策方法についても詳細に報告された例は少ない。
【0012】
特に、JIS規格(「サッシ」JIS A4706:2000参照)のT−等級による性能表示では、特に、100〜500Hzにおける低周波領域での共鳴透過現象による遮音性の落ち込みがT−等級を決定するため、この対策が不可欠となる。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、複層ガラスにおける共鳴透過現象の発生による特に低周波域での音響透過損失の落ち込みを効果的に抑制し、構造が簡便で作製が容易な断熱性能および遮音性能に優れた複層ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、複層ガラスを構成する内部のガラス板を、両側2枚のガラス板の共鳴透過現象の力学的平衡点から外した位置に設けることによって、特に低周波域での共鳴透過現象のバランスを崩し、音響透過損失の落ち込みをより効果的に抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明は、3枚のガラス板が周縁端部に配設されているスペーサーを介して隔置され、ガラス板の間に密封された中空層が形成されている複層ガラスにおいて、前記複層ガラスを構成する内部のガラス板を、両側2枚のガラス板の共鳴透過現象の力学的平衡点から外した位置に設け、共鳴透過現象による低周波領域での音響透過損失の落ち込みを抑制することを特徴とする複層ガラスである。
【0016】
また、本発明は、前記両側2枚のガラス板の共鳴透過現象の力学的平衡点が、下記一般式(1)
【0017】
【数1】

【0018】

(ここに、frmdは、複層ガラスの共鳴透過周波数(Hz)、dは中空層の厚さ(mm)、ρは中空層に封入されるガスの密度(kg/m3)、m1 、m2はガラス板の面密度(kg/m2)、cはガスの音速(m/s)である。)

によって算出されることを特徴とする上述の複層ガラスである。
【0019】
上記一般式(1)に基づき、複層ガラスの共鳴透過現象の力学的平衡点を算出することができる。また、ここで言う力学的平衡点とは、複層ガラスを構成する2枚のガラス板とその間にはさまれるガス層(中空層)における共鳴透過現象の境界点を表し、この力学的平衡点を境にして、複層ガラスの右側の系と左側の系が同じ固有周波数で振動する。
【0020】
また、本発明は、前記3枚のガラス板の面密度がそれぞれ同じであり、かつ、それぞれの中空層に封入されるガスが同じである複層ガラスであって、前記それぞれの中空層に封入されるガスが、アルゴンまたはクリプトンから選ばれ、前記複層ガラスの総厚さが17mm以上、24mm以下であり、一方の中空層の厚さが2.0mm以上、12.5mm以下、他方の中空層の厚さが2.0mm以上、12.5mm以下であり、さらに、熱貫流率が2.37W/m2・K以下であることを特徴とする上述の複層ガラスである。
【0021】
また、本発明は、3枚のガラス板が周縁端部に配設されているスペーサーを介して隔置され、ガラス板の間に密封された中空層が形成されている複層ガラスにおいて、前記複層ガラスを構成する内部のガラス板を、両側2枚のガラス板の共鳴透過現象の力学的平衡点から外した位置に設け、共鳴透過現象による低周波領域での音響透過損失の落ち込みを抑制することを特徴とする複層ガラスの設計手法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の複層ガラスの構成によれば、複層ガラスに特有の共鳴透過現象の発生による、特に低周波域での音響透過損失の落ち込みを効果的に抑制し、構造が簡便で作製が容易な断熱性能および遮音性能に優れた複層ガラスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の複層ガラスの一例の部分拡大断面図を示す。
【図2】一対のガラス板における共鳴透過現象の概念図である。
【図3】第一の実施形態の概念図である。
【図4】第二の実施形態の概念図である。
【図5】第一の実施形態に係る複層ガラスの遮音性能曲線グラフである。
【図6】第二の実施形態に係る複層ガラスの遮音性能曲線グラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1に、本発明の複層ガラスの一例の部分拡大断面図を示す。
【0025】
図1に示すように、本発明の複層ガラスは、3枚のガラス板G1、G2、G3がスペーサー6を介して隔置され、3枚のガラスG1、G2、G3とスペーサー6で密閉された空間である2つの中空層1、2が形成される。
【0026】
さらに、スペーサー6の両側にはブチルゴム接着剤などの一次シール材7が貼着され、3枚のガラスG1、G2、G3を一次シール材7で接着一体化し、3枚のガラスG1、G2、G3を隔置して密閉された中空層1、2を形成する。中空層1、2にはゼオライトなどの乾燥剤が充填される。尚、3枚のガラスG1、G2、G3とスペーサー6に囲まれた凹部の形状を有する二次シール部8には、水分などが浸入しないように、シリコーンシーラントやポリサルファイドシーラントなどが充填される。
【0027】
本発明の複層ガラスの構成は、複層ガラスを構成する内部のガラス板G2を、両側2枚のガラス板G1、G3の共鳴透過現象の力学的平衡点から外した位置に設けることによって、共鳴透過現象のバランスを崩し、共鳴透過現象による低周波域の遮音性能の落ち込みを解消することで、遮音性能が向上させることを特徴としている。
【0028】
共鳴透過現象とは、1対のガラス板が中空層をバネとして共振する現象であり、図2に示すように、この現象は、2枚のガラス板が中空層のガスのバネでつながれた力学モデルで近似することができ、中空層のある部分を力学的平衡点とし、この力学的平衡点を境にして右側の系と左側の系が同じ振動数で振動する。この2つの系はエネルギー的に等価であることになり互いに共鳴し、複層ガラスはこの振動数の元では遮音性能が低下する。
【0029】
3枚のガラス板G1、G2、G3を有する複層ガラスの場合、特に、両側2枚のガラス板G1、G3の間において、中空層を介して、上記説明した共鳴透過現象が起こり、その際、ガラス板G1、G3の間に共鳴透過現象の力学的平衡点が存在する。特に、その力学的平衡点に内部のガラス板G2が接触するように配置すると、複層ガラスを構成するガラス板G1、G2、G3が共に共振することによって、特定の共振周波数において、共鳴透過現象が起こり、遮音性能が著しく低下してしまう(後述の比較例1−1、比較例2−1参照)。
【0030】
そのため、本発明の複層ガラスは、複層ガラスを構成する内部のガラス板G2を、両側2枚のガラス板G1、G3の共鳴透過現象の力学的平衡点から外した位置に設けることによって、ガラス板G1、G3の共鳴透過現象のバランスを崩し、共鳴透過現象による低周波域の遮音性能の落ち込みを解消することで、遮音性能が向上することを特徴としている。
【0031】
以下の一般式1を用いて共鳴透過現象の力学的平衡点について説明する。なお、共鳴透過現象の起きる周波数は以下で示される。
【0032】
【数2】

【0033】
(ここに、frmdは、複層ガラスの共鳴透過周波数(Hz)、dは中空層(mm)、 ρは中空層に封入されるガスの密度(kg/m3)、m1 、m2はガラス板の面密度(kg/m2)、cはガスの音速(m/s)である。)
この一般式1より、1対のガラス板が中空層をバネとして共振する現象である共鳴透過現象の力学的平衡点は、構成するガラス板の面密度、中空層に封入するガスの密度や音速、などによって決定されると考えられる。
【0034】
一般式1より、種々の構成を有する複層ガラスの共鳴透過現象の力学的平衡点を算出できるが、本明細書では、本発明の複層ガラスに係る実施形態として、一例を挙げ、上記の力学的平衡点の算出について説明する。
【0035】
本発明の適用可能な一例として、複層ガラスを構成するガラス板G1、G2、G3の面密度がそれぞれm、m、mであり、それぞれの中空層1、2に同一のガスを封入した複層ガラスを設計する場合を第一の実施形態として図3を用いて説明する。
【0036】
両側2枚のガラス板G1、G3の共鳴透過現象は、図3に示すように、共鳴透過現象の力学的を境界点として、中空層がバネに相当し、左右の系は同じ周波数で振動する。この際、面密度mのガラス板G1とつながる中空層がバネに相当し、m/(m+m)に対応する分だけ、縮んで蓄えられたエネルギーと面密度mのガラス板G3につながるバネがm/(m+m)だけ縮んで蓄えられたエネルギーは等価である。
【0037】
すなわち、図3に示すように、両側2枚のガラス板G1(面密度m)とG3(面密度m)の共鳴透過現象は、ガラス板G1の内部側の表面から力学的平衡点までの距離dL(ただし、内部側の表面から力学的平衡点までの距離dLにおいて、ガラス板がある場合、その厚さ分は含まない)と、ガラス板G3の内部側の表面から力学的平衡点までの距離dRが、ガラス板G3の面密度とガラス板G1の面密度の比に対応する割合の関係(dL:dR =m:m)となる力学的平衡点を境界点として発生する。
【0038】
例えば、このとき、ガラス板G1、G3の面密度m、mが同一である場合(m= m)、複層ガラスを構成する両側のガラス板G1、G3の共鳴透過現象の力学的平衡点はガラス板G1からG3の距離における中心点となる。そこで、内部のガラス板G2を、この共鳴透過現象の力学的平衡点から外した位置に設けることによって、共鳴透過現象のバランスを崩し、遮音性能の低下を抑制することが可能となる(後述の実施例1−1参照)。
【0039】
また、本発明の適用可能な他の例として、複層ガラスを構成するガラス板G1、G2、G3の面密度がそれぞれ、m、m、mであり、それぞれの中空層1、2に異なるガスを封入した複層ガラスを設計する場合を第二の実施形態として図4を用いて説明する。
【0040】
両側のガラス板G1、G3の面密度がそれぞれ同じ(m= m)であり、一方の中空層と、他方の中空層に封入されるガスが異なる複層ガラスを設計する場合、一般式(1)において、ガラス板の面密度からm=mであるため、一般式1は、以下の一般式(2)となる。一般式(2)において、dは、ガラス板G1(面密度m)とガラス板G3(面密度m3)の複層ガラスを想定した場合における、ガラス板G1の内部側の表面から、ガラス板G3の内部側の表面までの距離である。
【0041】
【数3】

【0042】
ここで、3枚のガラス板からなる3層複層ガラスを想定し、一方の中空層をL(左側の系)とし、他方の中空層をR(右側の系)とすれば、共鳴透過現象では、力学的平衡点を境にして一方の中空層の系と他方の中空層の系が同じ周波数であるため、一般式(2)は以下の一般式(3)となる。
【0043】
一般式(3)において、dは、力学的平衡点を境にした左側の系のガラス板の内部側の表面から、力学的平衡点までの距離であり、dは、力学的平衡点を境にした左側の系のガラス板の内部側の表面から、力学的平衡点までの距離である。また、一般式(2)におけるdは、dとdの和(d=d+d)である。
【0044】
【数4】

【0045】
さらに、この一般式(3)を変形すると、以下の一般式(4)になる。
【0046】
【数5】

【0047】
この一般式4より、それぞれの中空層に封入するガスが異なる場合において、複層ガラスを構成する両側のG1、G3の共鳴透過現象の力学的平衡点は、それぞれの中空層に封入されるガスの密度(同温同圧における単位体積当たりの質量)ρと音速cの二乗の積(ρc2)で決まることが分かる。
【0048】
すなわち、図4に示すように、両側2枚のガラス板G1(面密度m)とG3(面密度m)の共鳴透過現象は、ガラス板G1の内部側の表面から力学的平衡点までの距離dL(ただし、内部側の表面から力学的平衡点までの距離dLにおいて、ガラス板がある場合、その厚さ分は含まない)と、ガラス板G3の内部側の表面から力学的平衡点までの距離dRが、中空層1(左側の系)に封入される密度ρRと音速の二乗の積(ρRR2)と中空層2(右側の系)に封入される密度ρLと音速の二乗の積(ρLL2)の比に対応する割合の関係(dL:dR =ρLL2:ρRR2)となる力学的平衡点を境界点として発生する。
【0049】
以下に、参考として、複層ガラスの中空層に封入されうるガスの密度(同温同圧における単位体積当たりの質量)ρと音速c、および密度(同温同圧における単位体積当たりの質量)ρと音速cの二乗の積(ρc2)をまとめたものを表1として示す。
【0050】
【表1】

【0051】
したがって、3枚のガラス板G1、G3が同じ面密度であり、かつ、中空層1、2に封入するガスが異なる複層ガラスを設計する場合、複層ガラスを構成する両側のガラス板G1、G3の共鳴透過現象の力学的平衡点は図4に示すような、ガラス板G1からG3の距離において、ガスの密度(同温同圧における単位体積当たりの質量)ρと音速cの二乗の積(ρc2)によって決まることになる。そこで、内部のガラス板G2を、この共鳴透過現象の力学的平衡点から外した位置に設けることによって、共鳴透過現象による遮音性能の低下を抑制することが可能となる(後述の実施例2−1参照)。
【0052】
このように、内部のガラス板G2を、両側のガラス板G1、G3の共鳴透過現象における力学的平衡点から外すことによって共鳴透過現象のバランスを崩すことが可能であり、両側のガラス板G1、G3の共鳴透過現象における力学的平衡点がガラス板G2の中心部にならなければ、共鳴透過現象のバランスを崩すことに有効であると考えられるが、できるだけ、内部のガラス板G2が力学的平衡点に接触しないようにすることが好ましい。
【0053】
また、一般式1より、共鳴透過周波数は、中空層厚さ、ガラス板の面密度、中空層に封入されるガスの密度、音速など物性に依存するため、この一般式1より、複層ガラスを構成する要素である中空層厚さやガラス板の面密度などを適宜設計することによって、共鳴透過周波数の位置(周波数領域)を調整することが好ましい。
【0054】
また、本発明の複層ガラスに適用されるガラス板と2つの中空層に封入されるガスは特に限定されないが、複層ガラスの製造工程において、それぞれ異なる厚さのガラス板や、2つの中空層に異なるガスを封入する場合、材料の調達が煩雑であり、製造工程が複雑さを考慮すると、3枚のガラス板G1、G2、G3の厚さ、面密度がそれぞれ同一であり、2つの中空層1、2にはそれぞれ同一のガスが封入されることが特に好ましい。
【0055】
本発明の複層ガラスに適用されるガラス板の厚さは、特に限定されないが、ガラス板の厚さが厚くなると、複層ガラスをサッシ枠に適用した際に、一般用複層ガラスサッシ枠では対応できずに、特注となり、価格が上昇するため、総厚の薄い複層ガラスが好ましい。そのため、それぞれのガラスの厚さが薄いものを用いることが好ましいが、複層ガラスの強度や、遮音性、断熱性などを考慮して適宜設計されることが好ましい。
【0056】
また、本発明の複層ガラスに設けられるそれぞれの中空層1、2に封入するガスの種類は、一般的な複層ガラスに用いられる公知のガスを用いることができ、例えば、空気、窒素、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、六フッ化イオウなどおよびそれらの混合ガスが挙げられる。所望の断熱性や遮音性の目標値を考慮し、適宜ガス種を選定することが好ましい。
【0057】
なお、上記説明のそれぞれの中空層1、2に異なる封入ガスを用いる場合、それぞれのガスの密度(同温同圧における単位体積当たりの質量)ρと音速cの二乗の積(ρc2)が大きく異なるガスを封入することが特に好ましい。例えば、一方の中空層に、アンモニア、メタン、空気、アルゴンなどの密度ρと音速cの二乗の積(ρc2)が小さいガスを、他方の中空層には、六フッ化イオウとアルゴンの混合ガス、クリプトンなど、密度ρと音速cの二乗の積(ρc2)が大きいガスを封入することが好ましい。
【0058】
本発明の複層ガラスに適用されるガラス板G1、G2、G3には、フロート法等で製造された後、何ら後処理がなされていない生板ガラス、製造後、風冷強化または化学強化等の強化処理がなされた強化ガラス等が使用され、着色ガラスでもよい。また、本発明の複層ガラスを構成する3枚のガラス板の内の少なくとも1枚に熱伝達を抑制する低放射膜をコーティングしたLow−Eガラスを用いることももちろん可能である。
【0059】
また、上述で説明したように、一般的な3層の複層ガラスの構成は、3枚のガラス板と2つのスペーサーと二次シール8により互いに固定、拘束されている構造となっている。これらの端部の構造、剛性が同じであると複層ガラスの端部拘束部の2次モーメントが同じことより、それぞれの固有振動が一致し共振が起こり遮音性能の低下につながるという問題点がある。
【0060】
そのため、複層ガラスの端部拘束部での共振による遮音性能の低下を避けるためには、端部拘束部の構造をそれぞれ異なる構造にすることが好ましい。例えば、複層ガラスの一方に設けられるスペーサーと、他方に設けられるスペーサーの形状や、剛性などの材質を異なるものにすることが好ましい。
【0061】
端部拘束部の構造をそれぞれ異なる構造にする一例として、一方に設けられるスペーサーの材質を断面2次モーメントと固有振動数が小さい樹脂スペーサーを、他方に設けられるスペーサーの材質を断面2次モーメントと固有振動数が大きい金属スペーサーを用いる方法などが挙げられる。
【0062】
樹脂製のスペーサーの材質としては、例えば、ブチルゴムやポリイソブチレンまたは少なくともポリイソブチレンを一成分とする共重合体を樹脂成分とする熱可塑性エラストマーに乾燥剤を含有させたもの、EVA系(エチレン酢酸ビニル共重合体)にゼオライトなどの乾燥剤を含有させた、樹脂スペーサーなどが挙げられ、金属製のスペーサーの材質としては、アルミやステンレス鋼製等を挙げることができる。
【0063】
また、本発明の複層ガラスは、ドアおよび窓のサッシに直付けまたは嵌め込み用に予め製作および調整されたサッシ枠に、直にまたはグレージングチャンネル等の取り付け部材である枠を介して取り付けられることができ、固定窓、可動窓等の窓や、開閉ドア等のドアとして、1つの構成材として扱うことができる。
【実施例】
【0064】
本発明に係る複層ガラスの、特に1000Hz以下における低周波数領域における遮音性能に関する試験を行った。
【0065】
遮音性能試験は、「サッシ」JIS A4706:2000に準拠し、「実験室における音響透過損失の測定方法」JIS A 1416に基づき行った。その際、前記JISに基づいて、規程の1/3オクターブ中心周波数における音響透過損失を測定した。尚、測定において音源はガラス板G1側におき、測定器はガラス板G3側に設置した。
【0066】
[実施例1−1]
第一の実施形態に係る例として、図1に示されるような複層ガラスにおいて、総厚は21.1mmであって、構成するガラス板G1、G2、G3の板厚がそれぞれ3mmのフロートガラス(それぞれ同一な密度)を用い、一方の中空層1の厚みを10mm、他方の中空層2の厚みを2mm、中空層1、2に封入ガスとしてクリプトンを用いた構成の複層ガラス(FL3+Kr10+FL3+Kr2+FL3)を用いて遮音特性の測定を行った。なお、測定した複層ガラスの大きさは、1230mm×1480mmで同様の大きさである。
【0067】
[比較例1−1]
また同様に、内部のガラス板G2を、両側2枚のガラス板G1、G3の共鳴透過現象の力学的平衡点に設置する複層ガラスを比較例として、一方の中空層1の厚みを6mm、他方の中空層2の厚みを6mm、とした以外は実施例1−1と同じ条件の複層ガラス(FL3+Kr6+FL3+Kr6+FL3)を用いて遮音特性の測定を行った。
【0068】
表1、および図5に、実施例1−1および比較例1−1におけるそれぞれの構成の複層ガラスの遮音性能結果を示す。
【0069】
【表2】

【0070】
図5のグラフに示すように、実施例1−1の構成の複層ガラス(FL3+Kr10+FL3+Kr2+FL3、総厚23.1mm)では、比較例1−1の構成(FL3+Kr6+FL3+Kr6+FL3)の複層ガラスに比べ、特に1000Hz以下における低周波領域での音響透過損失に顕著な差が認められる。
【0071】
これらの結果より、複層ガラスの内部の板ガラスG2を共鳴透過現象の力学的平衡点上に配置すると、低周波領域での音響透過損失の落ち込みが生じていることが分かり、複層ガラスの内部の板ガラスG2を共鳴透過現象の力学的平衡点から外すことによって、低周波領域での音響透過損失の落ち込みを効果的に抑制することがよく分かる。
【0072】
[実施例2−1]
第二の実施形態に係る例として、図1に示されるような複層ガラスにおいて、総厚は23.1mmであって、構成する両側のガラス板G1、G3の板厚がそれぞれ6mmのフロートガラスを用い、内部のガラス板G2の板厚が4mmのフロートガラスを用い、中空層1に封入ガスとして、アルゴンを用い、中空層1の厚みを4mmとして、他方の中空層2に封入ガスとして、六フッ化イオウを用い、中空層2の厚みを4mmとした構成の複層ガラス(FL6+Ar4+FL4+SF4+FL6)を用いて遮音特性の測定を行った。なお、測定した複層ガラスの大きさは、1230mm×1480mmで同様の大きさである。
【0073】
[比較例2−1]
また同様に、内部のガラス板G2を、両側2枚のガラス板G1、G3の共鳴透過現象の力学的平衡点に設置する複層ガラスを比較例2−1として、中空層1に封入ガスとして、六フッ化イオウを用いる以外は、実施例1と同じ条件の複層ガラス(FL6+SF4+FL4+SF4+FL6)を用いて、同じ条件で遮音特性の測定を行った。
【0074】
[参考例2−1]
また、参考例1として、2枚の複層ガラスの中空層に、封入ガスとして六フッ化イオウを用い、両側のガラス板の厚さを、それぞれ6mm、中空層の厚さを12mmとした構成の複層ガラス(FL6+SF12+FL6)を用いて、同じ条件で遮音特性の測定を行った。
【0075】
表2、および図6に、実施例2−1、比較例2−1、及び、参考例2−1におけるそれぞれの構成の複層ガラスの遮音性能結果を示す。
【0076】
【表3】

【0077】
図6のグラフに示すように、実施例2−1の構成(FL6+Ar4+FL4+SF4+FL6、総厚23.1mm)と、比較例1の構成(FL3+Kr6+FL3+Kr6+FL3)や参考例1の構成(FL6+SF12+FL6)の複層ガラスを比較すると、特に1000Hz以下における低周波領域での音響透過損失に顕著な差が認められる。
【0078】
これらの結果より、比較例2−1に示すように、複層ガラスの内部の板ガラスG2を共鳴透過現象の力学的平衡点上に配置すると、低周波領域での音響透過損失の落ち込みが生じていることが分かり、実施例2−1に示すように、複層ガラスの内部の板ガラスG2を共鳴透過現象の力学的平衡点から外すことによって、低周波領域での音響透過損失の落ち込みを効果的に抑制することがよく分かる。
【0079】
尚、略号FLはガラス原料をスズ浴上に熔融展開して連続製造したフロートガラスの意であり、略号後の数値は呼び厚さであり、単位はmmである。呼び厚さはJIS R 3202−1996により、表4に示す許容差となる。実施例に付いては、許容差において、下限側の厚さのガラス板を使用した。例えば、FL6の板ガラスは実測値5.7mmの板ガラス、FL5の板ガラスは実測値4.7mmの板ガラス、FL4の板ガラスは実測値3.7mmの板ガラスおよびFL3の板ガラスは実測値2.7mmの板ガラスを使用した。
【0080】
【表4】

【符号の説明】
【0081】
G1、G2、G3 ガラス板
1、2 中空層
3 乾燥剤
4 スペーサー
5 1次シール材
6 2次シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3枚のガラス板が周縁端部に配設されているスペーサーを介して隔置され、ガラス板の間に密封された中空層が形成されている複層ガラスにおいて、
前記複層ガラスを構成する内部のガラス板を、両側2枚のガラス板の共鳴透過現象の力学的平衡点から外した位置に設け、共鳴透過現象による低周波領域での音響透過損失の落ち込みを抑制することを特徴とする複層ガラス。
【請求項2】
前記両側2枚のガラス板の共鳴透過現象の力学的平衡点が、下記一般式(1)

【数6】


(ここに、frmdは、複層ガラスの共鳴透過周波数(Hz)、dは中空層の厚さ(mm)、 ρは中空層に封入されるガスの密度(kg/m3)、m1 、m2はガラス板の面密度(kg/m2)、cはガスの音速(m/s)である。)

によって算出されることを特徴とする請求項1に記載の複層ガラス。
【請求項3】
前記3枚のガラス板の面密度がそれぞれ同じであり、かつ、それぞれの中空層に封入されるガスが同じである複層ガラスであって、
前記それぞれの中空層に封入されるガスが、アルゴンまたはクリプトンから選ばれ、前記複層ガラスの総厚さが17mm以上、24mm以下であり、一方の中空層の厚さが2.0mm以上、12.5mm以下、他方の中空層の厚さが2.0mm以上、12.5mm以下であり、さらに、熱貫流率が2.37W/m2・K以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複層ガラス。
【請求項4】
3枚のガラス板が周縁端部に配設されているスペーサーを介して隔置され、ガラス板の間に密封された中空層が形成されている複層ガラスにおいて、前記複層ガラスを構成する内部のガラス板を、両側2枚のガラス板の共鳴透過現象の力学的平衡点から外した位置に設け、共鳴透過現象による低周波領域での音響透過損失の落ち込みを抑制することを特徴とする複層ガラスの設計手法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−236083(P2011−236083A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108932(P2010−108932)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】