説明

複層塗膜形成方法及び塗装物品

【課題】金属素材(MM)上に、高光輝性、高硬度、高付着性のメタリック複層塗膜を形成する方法、及びその方法による塗膜を有する塗装物品の提供。
【解決手段】メラミン樹脂(MR)と水酸基価50〜100mgKOH/g、かつTg50〜100℃の水酸基含有アクリル樹脂(AR)と、セルロース系樹脂(CR)及び/又はミクロゲル(MG)と、光輝性顔料とを含有し、ARとMRとの比率が、固形分質量比で、50:50〜90:10であり、かつ、CR及び/又はMGの比率が、AR及びMRの全固形分に対して、固形分で1〜20質量%であるベースコート塗料(BC)を、MMの表面に、塗装する工程、MRと水酸基価50〜100mgKOH/gであり、かつ、Tg70〜100℃であるARとを含有し、ARとMRとの比率が、固形分質量比で、50:50〜90:10であるクリヤーコート塗料(CC)を塗装する工程、前記BCと前記CCとを同時に焼付ける工程を有することを特徴とする複層塗膜形成方法とその塗装物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜形成方法及び塗装物品に関し、更に詳細には、家電製品、OA機器、モバイル機器、自動車部品等における金属素材例えばマグネシウム合金、アルミニウム合金、及びステンレス等の金属素材の表面に、光輝性を有し、高硬度で、しかも付着性に優れた複層塗膜を形成することのできる複層塗膜形成方法及び塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金成形品を塗装する方法として、化成処理後に、光輝材を含有した2液ウレタン塗料の下塗塗料を塗装し、ついで、光輝材を含有した2液ウレタン塗料の中塗塗料を塗装し、最後に、UV硬化性樹脂塗料を上塗塗料として塗装する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、この方法では、下塗、中塗塗料に2液ウレタン塗料を使用していて、2液調合と可使時間の制約があること、及び、下塗、中塗の各工程に焼付工程が入り、上塗においてはUV照射工程が必要であり、工程短縮が困難であるという欠点があった。
【0004】
また、マグネシウム又はマグネシウム合金を被塗物として、発色性に優れたメタリック塗装として、光反射性フレークを含むベースコート上に、着色顔料を有するクリヤコートを施した2コート2ベーク(「2C2B」と標記されることもある。)タイプのメタリック塗装が知られている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2には、ベースコートに使用される樹脂としてアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキル樹脂、フッ素樹脂などが例示され、これらの樹脂がアミノ樹脂やブロックポリイソシアネート化合物などの架橋剤と混合して使用されることが、開示されている(特許文献2の段落番号0019参照)。また、この特許文献2には、クリヤーコート層を形成する塗料に用いる樹脂として、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネイト樹脂及びこれらの変性樹脂などから選ばれた少なくとも1種の熱硬化性樹脂と、アミノ樹脂及び/又はポリイソシアネート化合物などの架橋剤と混合したものが、開示されている(特許文献2の段落番号0023参照)。この特許文献2では、さらに、実施例においてベースコート塗装として変性エポキシ樹脂と変性ウレタンとを含有する樹脂を含む塗料が開示され、また、クリヤーコート塗装としてアクリル樹脂、メラミン樹脂及びエポキシ樹脂を含む塗料が開示されている(特許文献2の実施例欄参照)。この特許文献2に記載のメタリック塗装は、発色性に優れた塗装を目指す(特許文献2の実施例欄及び段落番号0047欄参照)。
【0005】
しかしながら、この方法では、ベースコート、クリヤーコートの各工程にセットおよび焼付工程(乾燥工程とも称される。)が必要であり、工程短縮が難しいこと、及び、各焼付条件のバラツキによってはベースコートとクリヤーコートの層間付着不良が懸念される。
【0006】
また、金属材表面被覆方法として、化成処理後に、アクリル樹脂系粉体塗料をプライマーとし、有色溶剤型塗料をベースコートとし、アクリル樹脂系粉体クリヤーコート塗料をトップコートとする方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、この方法では、下塗、上塗塗装に粉体塗料を使用していることから各塗装工程において焼付工程が入り工程短縮が難しいこと、及び、各焼付条件のバラツキによっては中塗と上塗の層間付着不良が懸念されること、さらに、トップコートとしてアクリル樹脂系粉体クリヤーコート塗料を使用しているため要求する平滑性を得るためにプライマーおよびトップコートをある程度厚膜にしなければならないという欠点があった。
【0008】
さらには、車両用ホイールではあるが、めっき調外観を得る塗装方法として、アルミニウム合金、マグネシウム合金等を基材とし、光沢を有する塗膜を形成することのできる粉体塗料を下塗塗装した後、厚さ0.01〜0.1μm、直径1〜60μmの超薄膜鱗片状アルミニウムを含有する中塗用塗料組成物を乾燥後の膜厚が0.1〜3μmとなるように中塗塗装し、さらに、着色又は非着色の粉体クリヤーコート塗料を上塗塗装する方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
しかしながら、この方法では、下塗、上塗塗装に粉体塗料を使用していることから各塗装工程において焼付工程が入り工程短縮が難しいこと、及び、各焼付条件のバラツキによっては中塗と上塗の層間付着不良が懸念されるという欠点があった。
【0010】
また、プラスチック成形品への塗装方法として、(a)ポリエステル樹脂、(b)メチルメタクリレートを30〜80重量%含有するモノマー混合物を共重合して得られる、ガラス転移温度20〜90℃、重量平均分子量5,000〜50,000、水酸基価30〜150mgKOH/gであるアクリル樹脂、及び(c)ブロックポリイソシアネートを、特定の比率で含有する1液型ベースコート塗料(A)を塗装し、次いでその上に、(d)メチルメタクリレートを15〜50重量%含有するモノマー混合物を共重合して得られるガラス転移温度20〜90℃、重量平均分子量3,000〜20,000、水酸基価30〜150mgKOH/gであるアクリル樹脂、及び(e)ポリイソシアネートを含有する2液型クリヤーコート塗料(B)を塗装することが知られている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、この方法では、トップコートクリヤーに2液型を使用していることから可使時間に制約があること、ウレタン結合により成膜していることから鉛筆硬度3H以上という高硬度塗膜は期待できないという欠点があった。
【0011】
さらに、2コート1ベーク方式で上塗り塗膜形成方法として、ベースコート塗料として、特定の(d)ビニル共重合体40〜80重量%、(e)アルキルエーテル化メラミン樹脂10〜50重量%、(f)ブロック化ポリイソシアネート0〜40重量%、(g)セルロース系樹脂0〜20重量%、(h)有機架橋微粒子0〜30重量%から成るものを用い、クリヤーコート塗料として、(a)(メタ)アクリル酸のシクロアルキルエステル20重量%以上含有するビニル系単量体混合物の共重合体40〜90重量%、(b)アルキルエーテル化メラミン樹脂5〜50重量%、(c)ブロック化ポリイソシアネート5〜50重量%から成るものを用いることが知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0012】
しかしながら、この方法では、トップコートクリヤーにウレタン結合に基づくゴム弾性を有していることから鉛筆硬度3H以上という高硬度塗膜は期待できないという欠点があった。
【0013】
【特許文献1】特開2006−150261号公報
【特許文献2】特開2001−191020号公報
【特許文献3】特開平10−024524号公報
【特許文献4】特開2000−140748号公報
【特許文献5】特開2004−154625号公報
【特許文献6】特開平6−142598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、金属素材、特に、マグネシウム合金、アルミニウム合金、又はステンレスの素材上に形成されるところの、光輝性を有し、高硬度で、しかも付着性に優れたメタリック塗料を用いた複層塗膜形成方法、及びその複層塗膜形成方法により塗膜を形成してなる塗装物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決する手段として、
請求項1は、
「(1)(a)メラミン樹脂と水酸基価が50〜100mgKOH/gであり、かつ、ガラス転移温度(Tg)が50〜100℃である水酸基含有アクリル樹脂と、セルロース系樹脂及び/又はミクロゲルと、光輝性顔料とを含有し、
(b)水酸基含有アクリル樹脂とメラミン樹脂との比率が、固形分質量比で、50:50〜90:10であり、かつ、セルロース系樹脂及び/又はミクロゲルの比率が、水酸基含有アクリル樹脂及びメラミン樹脂の全固形分に対して、固形分で1〜20質量%であるベースコート塗料を、金属素材の表面に、塗装する工程、
(2)(a)メラミン樹脂と水酸基価が50〜100mgKOH/gであり、かつ、ガラス転移温度(Tg)が70〜100℃である水酸基含有アクリル樹脂とを含有し、
(b)水酸基含有アクリル樹脂とメラミン樹脂との比率が、固形分質量比で、50:50〜90:10であるクリヤーコート塗料を塗装する工程、
(3)前記ベースコート塗料と前記クリヤーコート塗料とを同時に焼付ける工程、
を有することを特徴とする複層塗膜形成方法」であり、
請求項2は、
「前記金属素材の表面は、化成処理が行われ、次いで、プライマーが塗装されて成る前記請求項1に記載の複層塗膜形成方法」であり、
請求項3は、
「前記請求項1又は2に記載の複層塗膜形成方法により得られた塗装物品」である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、金属素材の表面に、特に、マグネシウム合金、アルミニウム合金、ステンレスの表面に、高硬度で優れた光輝性を有したメタリック塗膜を付着性よく形成することができる複層塗膜形成方法を提供することができる。
【0017】
本発明によると、ベースコート塗料につき、水酸基含有アクリル樹脂とメラミン樹脂との固形分比を特定の範囲に限定し、かつセルロース系樹脂及び/又はミクロゲルの固形分比を特定の範囲に限定しているので、優れたベースコート層とクリヤーコート層とのセパレート性を有し、アルミ配向性、及びクリヤー平滑性に優れた塗膜外観を得ることのできる複層塗膜形成方法を提供することができる。
【0018】
本発明によると、クリヤーコート塗料につき、水酸基含有アクリル樹脂とメラミン樹脂との固形分比を特定の範囲に限定しているので、リコートする際のベースコート層とクリヤーコート層との付着性に優れ、かつ充分な硬度を有する塗膜を形成することのできる複層塗膜形成方法を提供することができる。
本発明によると、金属素材の表面を化成処理し、しかもプライマー処理しているので、金属素材の表面と複層塗膜との密着性をいっそう向上させることができる。
本発明によると、本発明に係る複層塗膜形成方法により形成された、高硬度で優れた光輝性を有したメタリック塗膜を有する塗装物品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の複層塗膜形成方法で使用されるベースコート塗料に含まれる水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は50〜100mgKOH/gであり、好ましくは70〜90mgKOH/gである。水酸基価が50mgKOH/g未満では十分な硬度を有するベースコート層が得られず、水酸基価が100mgKOH/gを超えるとベースコート層が脆くなるので好ましくない。
【0020】
また、ベースコート塗料に含まれる水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、50〜100℃であり、より好ましくは55〜90℃であり、特に好ましくは60〜90℃である。水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度が50℃未満では塗膜硬度が不十分となり、100℃を超えると塗膜が脆くなるので好ましくない。
【0021】
ここで、ガラス転移温度とは下記に示した式から計算された数値である。
1/Tg=Σ(mi/Tgi)
Tg:水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度
mi:モノマーi成分のモル分率
Tgi:モノマーi成分を単独重合して得られるホモポリマーのガラス転移温度(K)
また、ベースコート塗料に含まれる水酸基含有アクリル樹脂の重量平均分子量は7,000〜20,000が好ましく、より好ましくは、9,000〜15,000である。水酸基含有アクリル樹脂の重量平均分子量が7,000未満では光輝性顔料の配向ムラが生じ易くなり、20,000を超えると霧化塗装時の微粒化が悪くなり、得られる塗膜の平滑性が低下するので好ましくない。
【0022】
本発明の複層塗膜形成方法で使用されるベースコート塗料に含まれる水酸基含有アクリル樹脂は、ラジカル重合法などの公知の方法を用いて得られる。
【0023】
水酸基を有する共重合可能なラジカル重合性単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、アリルアルコール、アクリル酸とバーサチック酸グリシジルエステルの付加物、メタクリル酸とバーサチック酸グリシジルエステルとの付加物;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。水酸基を有するラジカル重合性単量体は、1種又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0024】
その他の共重合可能なラジカル重合性単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらの単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0025】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、4,4'−アゾビス−4−シアノ吉草酸、1−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレートなどのアゾ化合物;メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノンペルオキシド、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)オクタン、t−ブチルヒドロペルオキンド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、イソブチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシネオデカネート、t−ブチルペルオキシラウレート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシアセテートなどの有機過酸化物などが挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
ラジカル重合開始剤の配合量には、特に制限はないが、ラジカル重合性単量体の全量に対して0.01〜20質量%にすることが好ましい。また、ラジカル重合温度は、ラジカル重合開始剤の種類によってよって異なるが、50〜200℃の条件で行うことが好ましく、80〜160℃の条件で行うことがさらに好ましい。
【0027】
上記水酸基含有アクリル樹脂の製造において用いられる有機溶剤は、例えば、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、芳香族ナフサ等の芳香族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、メトキシプロピルアセテート、酢酸イソブチル、酢酸3−メトキシブチル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)等のエステル系溶剤、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン等のエーテル系溶剤、アセトニトリル、バレロニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等の含窒素系溶剤が挙げられる。有機溶剤は1種単独であっても、あるいは2種以上の複数種類の混合溶剤であっても差し支えない。この際、水酸基含有アクリル樹脂の固形分濃度は樹脂の分散安定性を損なわない範囲において任意に選ぶことができるが、通常固形分濃度で10〜70質量%である。
【0028】
本発明の複層塗膜形成方法に使用されるベースコート塗料に含まれるメラミン樹脂は、従来公知のものが使用でき、ブチルエーテル化メラミン樹脂、メチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルメチル混合エーテル化メラミン樹脂などが挙げられる。
【0029】
ブチルエーテル化メラミン樹脂の市販されている例としては、ユーバン21R(商品名、三井化学(株)製)、スーパーベッカミンG−821−60(商品名、大日本インキ化学工業(株)製)などがあり、メチルエール化メラミン樹脂及びブチルメチルエーテル化メラミン樹脂の市販されている例としては、サイメル327(商品名、日本サイテックインダストリーズ(株)製)、ニカラックMS−11(商品名、(株)三和ケミカル製)などを挙げることができる。
ベースコート塗料に用いる水酸基含有アクリル樹脂及びメラミン樹脂との混合割合は、樹脂固形分比(質量比)で50/50〜90/10(水酸基含有アクリル樹脂/メラミン樹脂)であり、好ましくは70/30〜90/10である。全固形分中のメラミン樹脂の量が50質量%を超えると、リコート時に下地となるクリヤーコート層との付着性が不十分となり、10質量%未満では、プライマー層に対する十分な付着性が得られない。ここで、リコートは、クリヤーコート層の上に更にベースコート塗料を塗布してベースコート層を形成する塗装操作をいう。このリコートは、塗装時に付着した異物による外観不良、塗料に含まれる凝集物による外観不良、及びベースコート塗膜の表面に生じたクリヤーコート塗料のはじきによる外観不良等の最終塗膜表面に生じた外観不良により不良品と評価された製品を再塗装することにより良品とするといった場合に行われることがある。
【0030】
また、本発明の複層塗膜形成方法に使用されるベースコート塗料に含まれるセルロース系樹脂及び/又はミクロゲルは、2コート1ベーク塗装法を容易に行うことを目的として用いるものである。ここで、2コート1ベーク塗装法は、ウェットオンウェット方式の塗装方法とも称され、ベースコート塗料を塗布することにより形成され、しかも未だ未硬化の状態となっている塗料層の表面に、クリヤーコート塗料を塗布することにより塗料層を形成し、ベースコート塗料による塗料層とクリヤーコート塗料による塗料層とを同時に焼き付けすることによりベースコート層とクリヤーコート層とからなる複層の塗工膜を形成する方法を挙げることができる。
【0031】
セルロース系樹脂としては、天然高分子である繊維素をベースとした熱可塑性プラスチック、特にセルロースをカルボン酸で変性して成るカルボン酸変性セルロース樹脂等を挙げることができ、例えば、セルロースアセテートプロピオネート樹脂(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)等を好適例として挙げることができ、例えばCAB−381−0.5、同381−2、同531−1、同551−0.5(商品名、イーストマンコダック社製)などの市販のセルロースアセテートブチレート樹脂を好適に採用されることができる。
【0032】
本発明におけるミクロゲルとしては、例えば、多官能性モノマー及びそれと共重合可能なアクリル系又はビニル系モノマーを乳化重合することにより製造される重合体非水分散液中に含まれる、ミクロン単位又はそれ以下の粒子径を有するポリマー微粒子を挙げることができる。
乳化重合を行う場合は、無機過硫酸塩、水溶性の有機過酸化物、アゾ化合物等の重合開始剤と、アニオン系、カチオン系、両性イオン系等の乳化剤が使用される。多官能性(架橋性)モノマーとしては、グリコールジアクリレート、ペンタエリストールテトラアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。またアクリル系又はビニル系単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、スチレン等が挙げられる。代表的な共重合体組成としては、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、アクリル酸アルキル・ジビニルベンゼン共重合体、アクリル酸アルキル・エチレングリコール・ジメタクリレート共重合体がある。
本発明における好適なミクロゲルとしては、特開平1−279902号公報に記載された方法により製造される重合体非水分散液に含まれる重合体微粒子を、挙げることができる。
この好適なミクロゲルを含む重合体非水分散液は、特開平1−279902号公報に記載されているように、
(1)次の各成分、
(a)水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体、
(b)多官能α,β−エチレン性不飽和単量体、及び
(c)(a)及び(b)以外のα,β−エチレン性不飽和単量体
を、ソープフリー系もしくはエステル基含有界面活性剤の存在下で、水溶性重合開始剤を用いて乳化重合を行わせ、生成した重合体水系分散液に有機溶剤を加えた後、塩基性化合物触媒または酸性化合物触媒を添加し、懸濁状態のまま95℃以下で前記エステル基含有界面活性剤および水溶性重合開始剤を完全に加水分解する工程と、
(2)該懸濁液に酸性化合物または塩基性化合物を加えて前記塩基性化合物触媒または酸性化合物触媒を中和し、次いで分散安定化樹脂を加えた後、有機酸アミン塩を添加して静置し、系を有機層と水層との2層に分離させ水層を除去した後、水を加えて有機層を洗浄し、有機酸アミン塩を加えて静置し水層を分離除去する工程と、
(3)有機層中の残存水分を除去する工程と、
を行うことにより製造されることができる。
【0033】
セルロース系樹脂及び/又はミクロゲルの配合量は、水酸基含有アクリル樹脂及びメラミン樹脂の全樹脂固形分100質量部に対して1〜20質量%、好ましくは5〜15質量%である。
【0034】
セルロース系樹脂及び/又はミクロゲルの配合量が、1質量%未満では、ベースコートの乾燥性が十分でなく、クリヤーコート塗膜とのセパレート性が良くない。20質量%を超えると、ベースコート塗膜とクリヤーコート塗膜との層間付着性が良くない。ここで,セパレート性とは、金属素材の表面にベースコート塗料の塗工により形成されたベースコート塗膜の表面に、そのベースコート塗膜が乾燥しないうちにクリヤーコート塗料を塗工した場合に、塗工したクリヤーコート塗料に前記ベースコート塗膜内の塗料成分が拡散しにくい特性を言う。したがって、クリヤーコート塗膜のセパレート性が良好であると、ベースコート層にクリヤーコート塗料を塗工した場合に、ベースコート塗膜にクリヤーコート塗膜を形成する成分が浸透し難くなって、クリヤーコート層による透明性及び高光沢性を実現することができる。もっとも、一般的にいうと、ベースコート層とクリヤーコート層のセパレート性を向上させると、ベースコート層とクリヤーコート層とが剥離しやすくなるところ、本発明においては良好なセパレート性と良好な付着性とを有する複層塗膜を形成することができる。
【0035】
さらに、本発明の複層塗膜形成方法で使用されるベースコート塗料は、光輝性顔料を含有する。
【0036】
前記光輝性顔料としては、金属粉顔料及び/又はパール顔料があり、金属粉顔料としては、アルミニウム粉、ブロンズ粉、銅粉、錫粉、鉛粉、亜鉛末、リン化鉄、パール状金属コーティング雲母粉、マイカ状酸化鉄などが挙げられる。
【0037】
前記ベースコート塗料は、上記光輝性顔料のほかに着色顔料、体質顔料などの顔料類を含有し、必要に応じて紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、表面調整剤、顔料分散剤、硬化触媒、沈降防止剤などの塗料用添加剤を含有することができる。
【0038】
前記着色顔料としては、酸化チタン等の白色顔料、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、鉄黒、アニリンブラックなどの黒色顔料、黄色酸化鉄、チタンイエロー、モノアゾイエロー、縮合アゾイエロー、アゾメチンイエロー、ビスマスバナデート、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ベンジジンイエロー、パーマネントイエロー等の黄色顔料、パーマネントオレンジ等の橙色顔料、赤色酸化鉄、ナフトールAS系アゾレッド、アンサンスロン、アンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール、ウォッチングレッド、パーマネントレッド等の赤色顔料、コバルト紫、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット等の紫色顔料、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、スレンブルーなどの青色顔料、フタロシアニングリーンなどの緑色顔料などが挙げられる。
【0039】
前記体質顔料は塗膜の補強、増量の目的で用いられる。この発明においては体質顔料として知られている顔料を適宜に前記ベースコート塗料に含有させることができる。この体質顔料としては、バリタ粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシム、石膏、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、珪藻土、タルク、炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、マイカ粉などが挙げられる。
【0040】
本発明の複層塗膜形成方法では、クリヤーコート塗料が用いられる。クリヤーコート塗料に用いられる水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は50〜100mgKOH/gであり、好ましくは70〜90mgKOH/gである。水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価が50mgKOH/g未満では光沢感が不十分で塗膜外観が低下し、100mgKOH/gを超えるとリコート時のクリヤーコート層へのベースコート塗膜の付着性が不十分となるので好ましくない。
【0041】
また、高硬度の複合塗膜を得るためには最表層膜を形成するクリヤーコート層は各塗膜層の中でも最も硬い塗膜層であることが要求される。したがって、クリヤーコート層を形成するために使用されるクリヤーコート塗料に含有される水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度はベースコート塗料に含有される水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度より、より高い範囲にあることが好ましい。具体的にはベースコート塗料に含有される水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度が好ましくは50〜100℃であるのに対し、クリヤーコート塗料に含有される水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度は、70〜100℃が好ましく、より好ましくは70〜90℃である。
【0042】
クリヤーコート塗料に含有される水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度が70℃未満では塗膜硬度が不十分となり、100℃を超えると塗膜が脆くなるので好ましくない。
【0043】
また、クリヤーコート塗料に含有される水酸基含有アクリル樹脂の重量平均分子量は7,000〜15,000が好ましく、より好ましくは、9,000〜15,000である。水酸基含有アクリル樹脂の重量平均分子量が7,000未満では塗膜の耐湿性が不十分となり、15,000を超えると塗膜の平滑性が低下するので好ましくない。
【0044】
また、水酸基含有アクリル樹脂の酸価は、5〜15mgKOH/gの範囲内が好ましい。酸価が5mgKOH/g未満では塗膜硬度が不十分となり、15mgKOH/gを超えるとリコート時の付着性が低下するので好ましくない。
【0045】
クリヤーコート塗料に含有されるメラミン樹脂は、従来公知のものが使用でき、上述のベースコート塗料として用いるメラミン樹脂と同一であってもよい。
【0046】
本発明の複層塗膜形成方法に使用されるクリヤーコート塗料における水酸基含有アクリル樹脂とメラミン樹脂との混合割合は、樹脂固形分比(水酸基含有アクリル樹脂/メラミン樹脂の質量比)で50/50〜90/10であり、より好ましくは60/40〜80/20である。
【0047】
水酸基含有アクリル樹脂とメラミン樹脂との全固形分中のメラミン樹脂量が50質量%を超えるとリコート時の付着性が得られず、10質量%未満では、十分な塗膜硬度が得られない。
【0048】
クリヤーコート塗料は、透明性を阻害しない程度に着色顔料、アルミ、パール顔料などを含有することができ、また、艶消し剤としてシリカ、樹脂ビーズなどを含有することができ、さらに必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、表面調整剤、硬化触媒などの塗料用添加剤を含有することができる。
【0049】
本発明の複層塗膜形成方法においては、金属素材の表面に直接に前記ベースコート塗料を塗装してもよいが、金属素材の表面に対するベースコート層の塗膜密着性を向上させることを目的とするならば、その金属素材の表面に化成処理を行い、更にその化成処理を行った金属素材の表面にプライマーを塗工するプライマー処理を行うのが、好ましい。
本発明の複層塗膜形成方法に用いるプライマーは、金属素材の表面とベースコート層との密着性を向上させることができる限り種々のプライマーを採用することができ、中でもエポキシ樹脂及び硬化剤を含有するプライマーが好ましい。
【0050】
プライマーに含まれるエポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有するものが好ましく、液状エポキシ樹脂、固体状エポキシ樹脂など従来から公知のエポキシ樹脂を特に制限なしに使用することができる。この発明においては、エポキシ樹脂は変性剤を用いて変性された変性エポキシ樹脂を含む。変性剤としては、例えば、炭素数1〜18の直鎖状又は分岐したところの不飽和炭化水素鎖又は飽和炭化水素鎖を有するモノカルボン酸、コハク酸及びその無水物、マレイン酸及びその無水物、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、及びダイマー酸等のジカルボン酸、無水トリメリット酸、及び無水ピロメリット酸等の多価カルボン酸、カルボキシル基含有のビニル系共重合体等のカルボキシル基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、並びにカプロラクトン等の環状エステル化合物等を挙げることができる。また、固体状エポキシ樹脂を使用する場合には、この固体状エポキシ樹脂を溶解もしくは分散可能な有機溶剤に溶解もしくは分散して使用することができる。
【0051】
この発明に使用することのできる市販のエポキシ樹脂としては、JER1001、同左1002、同左1003、同左1055、同左1004、同左1007、(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)エポトートYD−134、同011、同左012、同左013、同左014、同左017、同左7011R、同左907、(以上、東都化成(株)製)D.E.R662E、663UE、664U、667E、(以上、ダウケミカル社製)等のビスフェノール/エピクロルヒドリン型エポキシ樹脂など、変性されたエポキシ樹脂としては、エピクロンP−439、同左H−305−45(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、アラキード9201N、同左9203N、同左9208、(以上、荒川化学工業(株)製)などが挙げられる。
プライマーに含有される硬化剤としては、メラミン樹脂及びブロック化ポリイソシアネート化合物、及びポリアミド樹脂、アミン化合物などから選ばれた少なくとも1種を好適例として挙げることができる。硬化剤が、メラミン樹脂及びブロック化ポリイソシアネート化合物である場合には、プライマーは1液型塗料として取り扱われ、硬化剤が、ポリアミド樹脂、アミン化合物である場合には、2液型塗料として取り扱われる。
【0052】
プライマーに含有される、硬化剤としてのメラミン樹脂は、ベースコート塗料、クリヤーコート塗料として用いるメラミン樹脂と同一であってもよい。
【0053】
プライマーに含有される、硬化剤としてのブロック化ポリイソシアネート化合物としては、例えば無黄変のポリイソシアネート化合物がブロック剤によりブロックされて成る化合物を挙げることができ、具体的にはヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素化ジフェルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物及びこれらのアダクト例えば、前記各種のイソシアネート化合物と水酸基含有化合物との付加反応により形成された付加反応生成物、ビューレット例えば尿素結合とイソシアネート基との付加反応により得られる結合を有する付加反応生成物、及びこれらの二量体(ウレチジオン)若しくは三量体(イソシアヌレート)を通常のイソシアネートブロック化剤、例えばフェノール、m−クレゾール、キシレノールなどのフェノール類、メタノール、エタノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類、カプロラクタム、メチルエチルケトンオキシム、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチルなどの活性水素含有化合物によりブロック化したものなどを挙げることができる。
【0054】
プライマーに含有される、硬化剤としてのポリアミド樹脂としては、通常、脂肪酸2量体(ダイマー酸)とジアミンとを反応させた両末端にアミノ基を有する樹脂で、ダイマー酸とアミンとのモル比で分子量が調整される。
【0055】
プライマーに含有される、硬化剤としてのアミン系化合物としては、ポリアミン、アミドポリアミン、環状アミン、芳香族アミンなどが用いられる。
【0056】
本発明のプライマーに含有される、エポキシ樹脂と硬化剤との含有比率は固形分比(エポキシ樹脂/硬化剤)で60/40〜90/10が好ましく、75/25〜85/15であることが特に好ましい。
【0057】
プライマーに含まれる前記硬化剤の含有割合が、固形分比で10質量%未満の場合には、素材への付着性が不十分となることがあり、40質量%を超える場合には、ベースコート塗膜の付着性が不十分となることがあり。
【0058】
プライマーは、塗膜の耐食性を向上させる目的で、防錆顔料を含有することができる。防錆顔料としては、通常、下塗塗料に用いる顔料が使用できる。
【0059】
具体的な防錆顔料としては、例えば、ジンククロメート、ストロンチウムクロメートなどのクロム系顔料、及びクロムを含まない無公害型の防錆顔料のいずれも使用できるが、環境保全の点から無公害型防錆顔料が好ましい。
【0060】
無公害型防錆顔料としては、例えば(1)リン酸亜鉛系防錆顔料、リン酸マグネシウム系防錆顔料、燐酸アルミニウム系防錆顔料、リン酸カルシウム系防錆顔料、亜燐酸亜鉛系防錆顔料、亜燐酸マグネシウム系防錆顔料、亜燐酸カルシウム系防錆顔料、及び亜燐酸アルミニウム系防錆顔料等の縮合燐酸塩系防錆顔料、(2)縮合燐酸塩から成る粒子の表面を金属化合物で処理した顔料、(3)モリブデン酸亜鉛系防錆顔料、シアナミド亜鉛系防錆顔料、及びシアナミド亜鉛カルシウム系防錆顔料等の亜鉛系防錆顔料、並びに(4)シリカ等が挙げられる。これらは単独で使用することができ、又は2種類以上を併用することもできる。
【0061】
プライマーには、防錆顔料以外の無機顔料、有機顔料、加工顔料等、従来から塗料用として使用される顔料が必要に応じて含有される。有機顔料としては、例えば、アゾレーキ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等が挙げられる。また、無機顔料としては、例えば、黄色酸化鉄、べんがら、二酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。
【0062】
本発明における、被塗物としての金属素材の形状は、板状であっても、成型されたものであってもよい。金属素材の種類としては、マグネシウム合金、アルミニウム合金、ステンレスが挙げられ、特にマグネシウム合金が好適である。ここでいうマグネシウム合金とは、JIS規格のAZ91Dなどが挙げられ、アルミニウム合金とは、JIS規格のADC12などが挙げられ、ステンレスとはJIS規格のSUS304などが挙げられる。
本発明の複層塗膜形成方法により塗装物品としては、例えば、携帯電話、デジタルカメラ、AV機器、電子部品、車両の内外装パーツ、化粧品容器等が挙げられる。
【0063】
これらの金属素材は、金属表面に対するベースコート層の密着性を向上させることを目的として、プライマーの塗装に先立ち、金属の種類に応じた化成処理をしておくのが、好ましい。
マグネシウム合金に対しては、溶剤、アルカリ、エマルション等による脱脂処理、さらに、酸洗い処理を経て、クロム酸系、リン酸マンガン系、有機吸着型等の化成処理を行うのが好ましい。
アルミニウム、アルミニウム合金に対しては、脱脂処理、水洗処理、表面調整工程を経て、アルカリ-クロム酸塩系、クロム酸塩系、リン酸クロム酸塩系、リン酸亜鉛系の化成処理を行うことが好ましい。
【0064】
また、ステンレスに対しては、脱脂処理、水洗処理後、クロメート処理、研磨、ショットブラスト、酸洗等を行うことが好ましい。さらに各化成処理済金属素材に必要に応じ粉体プライマー塗装などを行ってもよい。
【0065】
本発明の複層塗膜形成方法では、金属素材の表面に、好ましくは化成処理をした金属素材の表面に更にプライマーを塗装してこれを焼付けることにより形成されたプライマー層の表面に、ベースコート塗料を塗装し、ベースコート塗料を焼付け硬化させることなく、ウェットオンウェット方式で、クリヤーコート塗料を塗装し、ベースコート塗料とクリヤーコート塗料とを同時に焼付ける。
【0066】
プライマー、ベースコート塗料、クリヤーコート塗料を塗装する方法としては、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、浸漬塗装などを挙げることができるが、中でもスプレー塗装が好ましい。スプレー塗装をする場合に用いる塗料の希釈溶剤としては、芳香族系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤などの従来公知の溶剤を挙げることができる。
【0067】
液状のプライマーの好適な粘度は、イワタカップNK2(20℃)で、10〜30秒に調製することが好ましく、プライマーの乾燥塗膜厚は、10〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0068】
ベースコート塗料の好適な粘度は、イワタカップNK2(20℃)で、7〜20秒に調製することが好ましく、乾燥塗膜厚は、5〜40μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0069】
クリヤーコート塗料の好適な粘度は、イワタカップNK2(20℃)で、10〜30秒に調製することが好ましく、乾燥塗膜厚は、10〜50μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。
【0070】
ベースコート塗料とクリヤーコート塗料とをウェットオンウェットで塗装する場合、ベースコート塗料を塗装後、常温で数分間放置してからクリヤーコート塗料を前記ベースコート塗料の塗膜の上に塗装することが好ましい。
また、ベースコートとクリヤーの両塗膜を同時に硬化させ場合、クリヤーコート塗料を塗装した後は、常温で5〜30分セッティングしてから、100〜180℃の温度で10〜120分間、好ましくは150〜170℃で15〜30分間加熱することが好ましい。
【実施例】
【0071】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、特に断らない限り、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0072】
<ベースコート塗料用アクリル樹脂B−1の製造>
温度計、撹拌器、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四つ口フラスコに、キシレン66.3部、ソルベッソ#100(商品名、エッソ化学(株)製、芳香族ナフサ)4部、n−ブタノール20部を仕込んだ。この四つ口フラスコに収容されている内容物を140℃に昇温した。次に、この四つ口フラスコ内に、メタクリル酸メチル71.4部、アクリル酸ブチル6.5部、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル21部、アクリル酸1.1部の重合性単量体の混合物と開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2.3部との混合物を、滴下ロートから、2時間かけて等速滴下した。滴下終了後、四つ口フラスコの内容物を1時間還流温度に保ち、次いでその内容物を105℃まで冷却した。105℃まで冷却した後、冷却された四つ口フラスコの内容物に、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.4部とキシレン7部とからなる混合溶液を、30分間かけて等速滴下した。その後、四つ口フラスコの内容物を105℃に3時間保ったところで重合反応を終了した。得られた重合反応生成液から、固形分50質量%、水酸基価82、酸価9、ガラス転移温度82℃、重量平均分子量12,000のベースコート塗料用アクリル樹脂B−1を得た。
【0073】
<ベースコート塗料用アクリル樹脂B−2〜6の製造>
表1に示した種類のモノマー(重合性単量体)に代えた以外は、B−1と同様にして製造し、ベースコート塗料用アクリル樹脂B−2〜B6を得た。また得られた樹脂の特性値は表1に示した。
【0074】
なお、表中の「プラクセルFM−1D」は、商品名でダイセル化学工業(株)製不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトンである。
【0075】
【表1】

【0076】
<ミクロゲル(重合体非水分散液)の製造>
特開平1−279902号公報の第12頁左下欄及び右下欄に「製造例A1」として記載された製造方法により、以下のようにして、重合体水分散液A1を調製した。
すなわち、攪拌装置、還流冷却器、2本の滴下ロート、窒素導入管および温度計を備えたフラスコ中に、脱イオン水380部及びラピゾールB90(日本油脂(株)製、ジ2−エチルへキシルスルホコハク酸ナトリウムの商品名、有効分90%)7.4部との混合物である界面活性剤水溶液を仕込み、窒素気流下で80℃に昇温し、重合開始剤水溶液(脱イオン水10部に過硫酸ナトリウム0.25部を溶解してなる水溶液)を加えた。再度80℃に達した後、フラスコ内の混合物の温度を80±2℃に保ちながら、粒子形成α,β−エチレン性不飽和単量体混合物(2−ヒドロキシエチルメタクリレート1.2部とエチレングリコールジメタクリレート3部とスチレン15部とn−ブチルメタクリレート80.8部との混合物)を3時間かけて滴下した。この単量体混合物の滴下中、滴下開始1時間後から重合開始剤水溶液(a)(脱イオン水10部に過硫酸ナトリウム0.25部を溶解してなる水溶液)を2時間かけて滴下した。粒子形成α,β−エチレン性不飽和単量体及び重合開始剤水溶液(a)の滴下終了後に、更に80℃に2時間加熱して重合を行うことにより重合体水系分散液A1を調製した。
次いで、「特開平1−279902号公報」の18頁〜19頁に記載された「製造例B1」の方法により、以下のようにしてミクロゲルが製造された。
【0077】
攪拌装置、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えたフラスコ中に、前記重合体水分散液A1を100部、メチルペンチルケトン400部および3規定水酸化ナトリウム水溶液45.3部を仕込んだ。このフラスコの内容物を85℃にまで昇温し、85±2℃で3時間加水分解反応を行った。次いで温度を80℃にまで下げ、3規定塩酸水溶液45.3部をフラスコの内容物に加えて中和した後、粒子分散安定化樹脂としてアクリル樹脂Aの溶液143部をフラスコの内容物に加えて10分間攪拌した後、酢酸トリエチルアミン塩の20%水溶液50部を加えて直ちに攪拌を止め静置すると、重合体粒子の分散した有機層が上層に、下方には水層が分離したので下層の水層を除去した。残った重合体粒子の分散した有機層に脱イオン水400部を加え、攪拌下70℃まで昇温し、70℃に至った時点で酢酸トリエチルアミン塩の20%水溶液を25部加え、直ちに攪拌を止め静置した。再度、重合体粒子が分散した有機層が上層に、水層が下層に2層分離したので下層の水層を除去した。残った有機層中には、カールフィッシャー水分計により2.6質量%の水分が残留していた。次に、有機層の温度を50℃まで冷却し、オルト蟻酸メチル114部を滴下ロートより30分間かけて滴下した後、50℃で30分間反応を統けた。その後、キシレン200部を加え、還流冷却器とフラスコの間に新たにディーンスタークトラップを装着し、還流冷却器上部とアスピレーターを結合し、加熱攪拌下フラスコ内を減圧状態とし、300±100mmHg、80±10℃の条件下で504部の溶剤を留去し、ミクロゲル(重合体非水分散液)を得た。得られたミクロゲルの加熱残分は50.2%、20℃60rpmにおけるブルックフィールド型粘度計による粘度は543cps、マルヴェルン社製「オートサイザー(商品名)」による平均粒径は83nm、カールフィッシャー水分計による水分量は0.1%であった。
【0078】
なお、前記アクリル樹脂Aは、以下のようにして調製された。すなわち、攪拌装置、還流冷却器、滴下ロート、窒素導入管および温度計を備えた反応器中に、キシレン42部を仕込んだ。この反応器に窒素ガスを導入しながらこの反応器内の内容物を撹拌しながら加熱し、その内容物の温度が140℃に到達した時点で、n−ブチルメタクリレート36.4部と2−エチルヘキシルメタクリレート11.7部と2−ヒドロキシエチルメタクリレート11.1部とアクリル酸0.8部とからなる単量体混合物と重合開始剤であるt−ブチルペルオキシベンゾエート3.0部との混合液63.0部を、反応器内に、反応器の内容物を140℃に維持しつつ滴下ロートにより、2時間かけて等速滴下した。滴下後に140℃に2時間維持した後、冷却して反応器内の内容物を取り出した。この内容物からアクリル樹脂Aを分離した。このアクリル樹脂Aの加熱残分は60%であり、数平均分子量が6500であった。
<クリヤー塗料用アクリル樹脂C−1の製造>
表2に示した原料に代えた以外は、B−1と同様にして製造し、クリヤーコート塗料用アクリル樹脂C−1〜C−6を得た。また得られた樹脂の特性値は表2に示した。
【0079】
【表2】

【0080】
<ベースコート塗料BC−1の作成>
有機溶剤15部にてウェットさせることによりペースト状にしたアルミニウム顔料(アルミニウムペースト6340NS;商品名、東洋アルミニウム(株)製)9部を、ベースコート塗料用アクリル樹脂B−1 48.6部に、攪拌しながら徐々に加えて、均一な混合物を調製した。次に、メラミン樹脂(サイメル325;商品名、日本サイテック(株)製)8部と、エポキシ樹脂(エピコート1001P;商品名、ジャパンエポキシレジン(株)製)の60%溶液2.2部と、CAB(CAB531−1;商品名、イーストマンコダック社製)の20%溶液14部と、沈降防止剤としてBYK−410(商品名、ビックケミー社製)0.2部と、表面調整剤としてアジトールXL480(商品名、サイテックサーフェススペシャリティー社製)の10%溶液3部とを順次混合して均一になるように撹拌し、ベースコート塗料BC−1を作成した。
【0081】
<ベースコート塗料BC−2〜BC−11の作成>
表3に示した原料に代えた以外は、BC−1と同様にして製造し、ベースコート塗料BC−2〜BC−11を得た。
【0082】
【表3】

【0083】
<クリヤー塗料CC−1〜CC−8の作成>
表4に示す原料を順次混合し、均一に攪拌してクリヤーコート塗料CC−1〜CC−8を作成した。
【0084】
【表4】

【0085】
表3,4中の注記
1)メラミン樹脂:「サイメル325」、日本サイテック(株)製、商品名、固形分80%
2)エポキシ樹脂溶液:ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名「エピコート1001P」の60%キシレン溶液
3)セルロース:セルロースアセテートブチレート(CAB)、イーストマンコダック社製、商品名「CAB531−1」の20%酢酸エチル溶液
4)ミクロゲル:特開平1−279902号の第5表製造例B1より製造される有機架橋微粒子重合体非水分散液、加熱残分50%
5)アルミニウム顔料:「アルミニウムペースト6340NS」、東洋アルミニウム(株)製、商品名、加熱残分70質量%
6)沈降防止剤:「BYK−410」、ビックケミー社製、商品名
7)表面調整剤:日本サイテック インダストリーズ(株)製、商品名「アジトールXL480」の10%キシレン溶液
8)希釈溶剤:キシレン/酢酸ブチル=70/30混合溶液
<塗膜試験方法>
(1)ベースコート指触乾燥性
ベースコート塗料を塗装し、室温にて3分間放置した後、塗膜表面を指で接触し、塗膜表面の乾燥性を評価する。
○: 表面が乾燥し、指にべとつきがない
×: 表面の乾燥が不十分で、指にべとつきが残る
(2)外観性(アルミ配向性)
視覚の方向により変化する明度差を表す指標であるフリップフロップ性(FF値)により評価した。測定装置としては市販のメタリック感評価装置(ALCOP LMR100、富士工業(株)製)を使用した。
○:FF値1.7以上
×:FF値1.7未満
(3)外観性(クリヤー平滑性)
目視で総合塗膜表面の平滑性を判断した。
○:かなり平滑性がある(塗膜の凹凸がほとんど見られない)
△:平滑性の低下(塗膜の凹凸が見られる)
×:平滑性のかなりの低下(塗膜の凹凸が著しい)
(4)付着性
塗膜面に素地に達するようにカッターで切り込み線を入れ、縦1.0mm、横1.0mmのマス目を100個作り、その表面に粘着セロハンテープを貼着し、20℃においてそれを急激に剥離した後のマス目の残存塗膜数を調べる。この付着性は、プライマ−塗膜層、ベースコート層、及びクリヤーコート層の相互の付着性を評価するものである。
○:100個全てが残存
△:99〜95個が残存
×:94個以下が残存
(5)鉛筆硬度
塗膜面に対し、3Hの鉛筆硬度の表示がある日本塗料検査協会が認定した三菱ユニを45度に保ちながら約1kgの荷重で前方に約10mm押し出し、塗膜の剥がれ、割れおよび傷の発生を調べる。
○:5回の繰り返しで、塗膜の剥がれ、割れおよび傷の発生が1回もないこと
×:5回の繰り返しで、塗膜の剥がれ、割れおよび傷の発生が1回以上あること
(6)リコート性
実施例1で示した要領で作成された試験板を1日間室温にて放置し、クリヤーコート塗料の塗膜の上に、サンディングをすることなく、試験板に用いたのと同じベースコート塗料とクリヤーコート塗料とを試験板を作成したのと同じ条件で、ウェットオンウェットで塗装し、焼付けて、リコート性試験の試験板を得る。この試験板を室温で3日間放置した後、上記の付着性試験に供する。評価基準は、付着性試験と同一である。このリコート性試験は、主としてクリヤーコート層とその上に塗装されたベースコート層との付着性を調べる試験方法である。
【0086】
(実施例1)
リン酸マンガン系化成処理剤(マグボンドP10:商品名、パーカー加工(株)製)で化成処理の施された市販のマグネシウム合金(Mg−Al−Zn系合金、JIS AZ91D相当)の表面に、ベルファインプライマーNo.5000(商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製、エポキシ樹脂/メラミン架橋型プライマー)を乾燥塗膜厚が20μmとなるようにエアスプレーにて塗装することにより、プライマー塗膜を形成した。このプライマー塗膜を、160℃で20分間焼付けた。次に、ベースコート塗料BC−1の粘度を、希釈溶剤(キシレン/酢酸ブチル=50/50混合溶液)を添加混合することにより、イワタカップNK2で12秒(20℃)となるように調整した。粘度調整されたベースコート塗料BC−1を、前記プライマー層の表面に、エアスプレーにより、乾燥膜厚が15μmとなるように塗装した。ベースコート塗料の塗膜を常温にて3分間セッティングした後、未硬化の状態のベースコート塗料の塗膜の上に、クリヤーコート塗料CC−1の粘度を、希釈溶剤(キシレン/酢酸ブチル=50/50混合溶液)を添加混合することにより、イワタカップNK2で16秒(20℃)となるように調整してなるクリヤーコート塗料CC−1を、エアスプレーにより乾燥膜厚が25μmになるように塗装した。このベースコート塗料の塗膜とこの塗膜の上に形成されているクリヤーコート塗料の塗膜とを、160℃で20分間焼付けて、試験板を得た。塗膜試験結果を表5に示した。
【0087】
【表5】

注:表5において、BCはベースコート層を示し、CCはクリヤーコート層を示し、ACはアクリル樹脂を示し、MFはメラミン樹脂を示す。
【0088】
(実施例2〜5、比較例1〜14)
表5〜7に示したベースコート塗料及びクリヤーコート塗料に代えた以外は、実施例1と同様にして試験板を作成した。試験結果を表5〜表7に示した
(実施例6)
素材を市販アルミニウム合金(Al−Si−Cu系合金、JIS ADC12相当)に、化成処理を有機金属塩系(パルコート3753:商品名、日本パーカライジング(株)製)に代えた以外は、実施例1と同様にして試験板を作成した。塗膜試験結果を表5に示した
(実施例7)
素材を市販ステンレス(オーステナイト系、JIS SUS304相当)に、化成処理をクロメート系(パルクロムR282:商品名、日本パーカライジング(株)製)に、プライマーをエポキシ樹脂/アミドポリアミン架橋型(ベルファインプライマーNo.2000:商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製)に代えた以外は、実施例1と同様にして試験板を作成した。塗膜試験結果を表5に示した
【0089】
【表6】

【0090】
【表7】

注:表6及び表7において、BCはベースコート層を示し、CCはクリヤーコート層を示し、ACはアクリル樹脂を示し、MFはメラミン樹脂を示す。
<まとめ>
表5〜表7に示す結果から明らかなように、本発明に従う実施例1〜7は、塗膜外観、付着性、リコート性において、優れていることがわかる。
【0091】
比較例1は、ベースコート塗料に用いる水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価が50mgKOH/g未満であって付着性、鉛筆硬度、リコート性に劣り、比較例2は、水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価が100mgKOH/gを超えており、付着性、リコート性に劣った。比較例3では、ベースコート塗料に用いる水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)が50℃未満であるため、鉛筆硬度が劣り、比較例4では100℃以上であるため、リコート性に劣った。また、比較例5ではベースコート塗料のセルロース系樹脂の配合量が、水酸基含有アクリル樹脂及びメラミン樹脂の全樹脂固形分100質量部に対して1質量%未満であるため、ベースコート塗料塗装後の指触乾燥性に劣り、25質量%以上である比較例6では層間付着性、リコート性に劣った。さらに、比較例7は、ベースコート塗料に用いる水酸基含有アクリル樹脂とメラミン樹脂の全固形分中のメラミン樹脂量が10質量%未満では、付着性、鉛筆硬度に劣り、比較例8は、メラミン樹脂量が50質量%を超えており、リコート性に劣った。比較例9は、クリヤーコート塗料に用いるアクリル樹脂とメラミン樹脂の全固形分中のメラミン樹脂量が50質量%を超えており、平滑性、リコート性に劣り、メラミン樹脂量が10質量%未満である比較例10では、十分な塗膜硬度が得られなかった。比較例11は、クリヤーコート塗料に用いる水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価が50mgKOH/g未満で、鉛筆硬度、リコート性に劣り、比較例12は、水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価が100mgKOH/gを超えており、塗膜外観の低下、リコート性に劣った。比較例13では、クリヤーコート塗料に用いる水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)が70℃未満であるため、鉛筆硬度が劣り、比較例14では100℃以上であるため、リコート性に劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(a)メラミン樹脂と水酸基価が50〜100mgKOH/gであり、かつ、ガラス転移温度(Tg)が50〜100℃である水酸基含有アクリル樹脂と、セルロース系樹脂及び/又はミクロゲルと、光輝性顔料とを含有し、
(b)水酸基含有アクリル樹脂とメラミン樹脂との比率が、固形分質量比で、50:50〜90:10であり、かつ、セルロース系樹脂及び/又はミクロゲルの比率が、水酸基含有アクリル樹脂及びメラミン樹脂の全固形分に対して、固形分で1〜20質量%であるベースコート塗料を、金属素材の表面に、塗装する工程、
(2)(a)メラミン樹脂と水酸基価が50〜100mgKOH/gであり、かつ、ガラス転移温度(Tg)が70〜100℃である水酸基含有アクリル樹脂とを含有し、
(b)水酸基含有アクリル樹脂とメラミン樹脂との比率が、固形分質量比で、50:50〜90:10であるクリヤーコート塗料を塗装する工程、
(3)前記ベースコート塗料と前記クリヤーコート塗料とを同時に焼付ける工程、
を有することを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記金属素材の表面は、化成処理が行われ、次いで、プライマーが塗装されて成る前記請求項1に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の複層塗膜形成方法により得られた塗装物品。

【公開番号】特開2009−28607(P2009−28607A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193837(P2007−193837)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(599076424)BASFコーティングスジャパン株式会社 (59)
【Fターム(参考)】