説明

複層塗膜形成方法

【課題】環境への負荷が少ない化成処理剤、および優れた顔料沈降安定性およびつきまわり性を有する電着塗料組成物を用いた、複層塗膜形成方法を提供すること。
【解決手段】化成処理剤を用いて被塗物に化成処理膜を形成する化成処理膜形成工程、および、化成処理膜が形成された被塗物をカチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗膜を形成する電着塗膜形成工程、を包含する、複層塗膜形成方法であって;この方法で用いられるカチオン電着塗料組成物は電導度制御剤を含有し、そしてこのカチオン電着塗料組成物は電気電導度900〜2000μS/cm、および塗料固形分濃度0.5〜9.0重量%であり、ならびに;この化成処理剤は、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(A)、フッ素(B)、密着性および耐食性付与剤(C)を含有する、複層塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境への負荷が少ない化成処理剤、および優れた顔料沈降安定性およびつきまわり性を有する電着塗料組成物を用いた、複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料組成物中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる塗装方法である。この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。さらに電着塗装は、被塗物に高い防食性を与えることができ、被塗物の保護効果にも優れている。
【0003】
このようなカチオン電着塗装を施す被塗物には、通常、電着塗装の前に化成処理が施される。化成処理を施すことによって、耐食性、塗膜密着性等の性質を向上させることができる。しかしながら塗膜の密着性や耐食性をより向上させることができる観点から従来用いられてきたクロメート処理は、近年、クロムの有害性が指摘されるようになっており、クロムを含まない化成処理剤の開発が必要とされてきた。このようなクロムを含まない化成処理剤として、リン酸亜鉛を含む化成処理剤が用いられている(例えば、特開平10−204649号公報(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、リン酸亜鉛系処理剤は、金属イオン及び酸濃度が高くそして非常に反応性の強い処理剤であるため、排水処理における経済性および作業性が劣るという欠点がある。更に、リン酸亜鉛系処理剤を用いて金属表面処理を行う際には、水に不溶である塩類が生成して沈殿となって析出する。このような沈殿物は一般にスラッジと呼ばれる。リン酸亜鉛系処理剤を用いる場合は、塗装工程において発生するこのスラッジを除去し、廃棄するのに必要とされるコストの発生などが問題となっている。さらに、リン酸亜鉛系処理剤中に含まれるリン酸イオンは、環境に富栄養化をもたらすことがあり、これにより環境に対して負荷を与えるおそれがある。そのため、リン酸亜鉛系処理剤は、廃液の処理に際して多大な労力を必要とするという問題もある。更に、リン酸亜鉛系処理剤による金属表面処理においては、表面調整を行うことが必要とされており、工程が長くなるという問題もある。
【0005】
このようなリン酸亜鉛系処理剤又はクロメート化成処理剤以外の金属表面処理剤として、ジルコニウム化合物からなる金属表面処理剤が知られている(例えば、特開平7−310189号公報(特許文献2参照)。しかしながら、このようなジルコニウム化合物からなる金属表面処理剤により得られる化成処理膜では、被塗物と電着塗膜との間の密着性が悪く、特に鉄系基材に対する密着性が悪いという問題があった。
【0006】
ところで、一般的なカチオン電着塗料組成物は、塗料固形分濃度約20重量%を有する水性塗料組成物である。このようなカチオン電着塗料組成物は、撹拌せずに放置すると、顔料などが沈降し電着槽中に沈降物が生じる。そのため、カチオン電着塗料組成物で満たされた電着槽においては、通常は、電着塗料組成物をポンプで循環したり撹拌器で撹拌を行なうことにより、沈降物が生じないようにしている。
【0007】
しかしながら、このような電着槽は一般に、自動車車体が浸漬できるほどの大掛かりな設備である。そのため、電着塗料組成物の循環や撹拌にかかるエネルギー、それにかかわる設備、またその設備の維持にかかる費用は膨大なものとなる。そのような循環や撹拌を減らしたり、不要にすることはカチオン電着塗装における省エネルギーに多大な貢献をする。そのためにカチオン電着塗料組成物が沈降物を生じないか、沈降物の少ないものであること、具体的には低固形分あるいは低灰分のカチオン電着塗料組成物を使用することが有効であり、このようなカチオン電着塗料組成物が検討されはじめている。
【0008】
たとえば、特開2004−231989号公報(特許文献3)には、カチオン電着塗料組成物の顔料灰分が3〜10重量%および固形分濃度が5〜12重量%であるカチオン電着塗料組成物を用いた環境対応型電着塗装方法の開示が存在する。このカチオン電着塗料組成物は、沈降物が少なく、撹拌や循環にかかるエネルギーコストも少なく、優れたものということができるが、実際には、塗料固形分が少なくなっていくと、電導度が小さくなって、いわゆる「つきまわり性」と呼ばれる、電着塗装において被塗物の隅々まで塗膜が形成される性能が悪くなっていく。下塗り塗装である化成処理および電着塗装においては、高つきまわり性であることが求められる。
【0009】
塗料の電導度を適切な値に調整することで好適なつきまわり性を付与できることは一般的に知られている。特許文献として、塗料の電導度とつきまわり性について言及されたものは、特開2004−269627号公報(特許文献4)が存在する。このカチオン電着塗料組成物は、スルホニウム変性エポキシ樹脂を配合しており、膜抵抗のコントロールが必要である。
【0010】
カチオン電着塗料組成物の基体樹脂のアミン価について検討をしているものは、特開2005−232397号公報(特許文献5)および特開平7−150079号公報(特許文献6)などが存在する。特許文献5では、ウレタン樹脂(基体樹脂)のアミン価を20〜60mgKOH/g(換算すると、35.7〜107.0mmol/100g)が望ましいとされ、また特許文献6のカチオン電着性樹脂はアミン価3〜200mgKOH/g(換算すると、5.3〜356mmol/100g)が望ましい範囲として記載されている。これらは、従来のアミン価の値であって、基本的には低いものである。
【0011】
【特許文献1】特開平10−204649号公報
【特許文献2】特開平7−310189号公報
【特許文献3】特開2004−231989号公報
【特許文献4】特開2004−269627号公報
【特許文献5】特開2005−232397号公報
【特許文献6】特開平7−150079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、環境への負荷が少ない化成処理剤、および優れた顔料沈降安定性およびつきまわり性を有する電着塗料組成物を用いており、塗装コストをも大幅に削減することができる、複層塗膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
化成処理剤を用いて被塗物に化成処理膜を形成する化成処理膜形成工程、および
化成処理膜が形成された被塗物をカチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗膜を形成する電着塗膜形成工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、
この電着塗膜形成工程で用いられるカチオン電着塗料組成物は、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物からなる電導度制御剤を含有するカチオン電着塗料組成物であり、そしてこのカチオン電着塗料組成物は電気電導度900〜2000μS/cm、および塗料固形分濃度0.5〜9.0重量%であり、ならびに
この化成処理剤は、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(A)、フッ素(B)、密着性および耐食性付与剤(C)を含有する化成処理剤であって、
この密着性および耐食性付与剤(C)は、下記(a)〜(h):
亜鉛、マンガン、及び、コバルトイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオン(a)、
アルカリ土類金属イオン(b)、
13族元素の金属イオン(c)、
銅イオン(d)、
ケイ素含有化合物(e)、
ポリアミン水溶性樹脂(f)、
アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物(g)、並びに、
シランカップリング剤および/またはその加水分解物(h):
からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
複層塗膜形成方法、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0014】
上記アミノ基含有化合物がアミン変性エポキシ樹脂またはアミン変性アクリル樹脂であるのが好ましい。
【0015】
また、上記アミン変性エポキシ樹脂がエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基をアミン化合物で変性することにより得られるのが好ましい。
【0016】
さらに、上記アミン変性アクリル樹脂がエポキシ基を有するアクリル樹脂に含まれるエポキシ基をアミン化合物で変性することにより得られるのが好ましい。
【0017】
さらに、上記エポキシ樹脂が、ビスフェノール型、t−ブチルカテコール型、ノボラックフェノール型またはノボラッククレゾール型であり、数平均分子量500〜20000を有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複層塗膜形成方法によれば、環境への負荷が少ない化成処理剤を用いて、優れた塗膜物性を有する、化成処理膜および電着塗膜から構成される複層塗膜を得ることができる。さらに本発明の方法で用いられる電着塗料組成物は、長時間静置させた場合であっても沈殿物が少ないという特徴を有し、かつ、優れたつきまわり性をも有している。本発明の複層塗膜形成方法によって、電着塗料組成物の貯蔵における常時撹拌、および電着塗装における電着槽の常時撹拌を必要とせず、撹拌を省略したり断続的に撹拌させたりすることができる。本発明の方法はさらに、有害な重金属等を含まず、さらにスラッジも発生しない化成処理剤を用いて、優れた塗膜物性を有する複層塗膜を形成することができる。本発明の方法は、塗装における塗装コストを大幅に削減することができる。そしてさらに本発明によって、電着塗装後の水洗を容易に行うことが可能となり、これにより水洗工程を短縮化したり、2次タレの発生を防止することができるという利点も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の複層塗膜形成方法は、
化成処理剤を用いて被塗物に化成処理膜を形成する化成処理膜形成工程、および
化成処理膜が形成された被塗物をカチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗膜を形成する電着塗膜形成工程、
を包含する方法である。以下、各工程において用いられる化成処理剤およびカチオン電着塗料組成物について、順次記載する。
【0020】
化成処理剤
本発明で用いることができる化成処理剤は、
ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(A)、フッ素(B)、密着性および耐食性付与剤(C)を含有する化成処理剤であって、
密着性および耐食性付与剤(C)は、下記(a)〜(h):
亜鉛、マンガン、及び、コバルトイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオン(a)、
アルカリ土類金属イオン(b)、
13族元素の金属イオン(c)、
銅イオン(d)、
ケイ素含有化合物(e)、
ポリアミン水溶性樹脂(f)、
アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物(g)、並びに、
シランカップリング剤および/またはその加水分解物(h):
からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
化成処理剤、である。この化成処理剤は、リン酸イオンや、有害な重金属イオンを実質的に含有しないという特徴を有する。
【0021】
ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(A)
上記化成処理剤に含まれるジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(A)は、化成処理膜形成成分である。ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(A)を含む化成処理膜が被塗物に形成されることにより、被塗物の耐食性や耐磨耗性を向上させ、更に、次に形成される塗膜との密着性を高めることができる。
【0022】
上記ジルコニウムの供給源としては特に限定されず、例えば、KZrF等のアルカリ金属フルオロジルコネート;(NHZrF等のフルオロジルコネート;HZrF等のフルオロジルコネート酸等の可溶性フルオロジルコネート等;フッ化ジルコニウム;酸化ジルコニウム等を挙げることができる。
【0023】
上記チタンの供給源としては特に限定されず、例えば、アルカリ金属フルオロチタネート、(NHTiF等のフルオロチタネート;HTiF等のフルオロチタネート酸等の可溶性フルオロチタネート等;フッ化チタン;酸化チタン等を挙げることができる。
【0024】
上記ハフニウムの供給源としては特に限定されず、例えば、HHfF等のフルオロハフネート酸;フッ化ハフニウム等を挙げることができる。上記ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(A)の供給源としては、被膜形成能が高いことからZrF2−、TiF2−、HfF2−からなる群より選択される少なくとも一種を有する化合物が好ましい。
【0025】
上記化成処理剤に含まれる、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(A)の含有量は、金属換算で下限20ppm、上限10000ppmの範囲であることが好ましい。上記下限未満であると得られる化成処理膜の性能が不充分であり、上記上限を超えると、それ以上の効果は望めず経済的に不利である。上記下限は50ppmがより好ましく、上記上限は2000ppmがより好ましい。
【0026】
フッ素(B)
上記化成処理剤に含まれるフッ素(B)は、被塗物のエッチング剤としての役割を果たすものである。上記フッ素の供給源としては特に限定されず、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化ホウ素酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム等のフッ化物を挙げることができる。また、錯フッ化物としては、例えば、ヘキサフルオロケイ酸塩が挙げられ、その具体例としてケイフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸亜鉛、ケイフッ化水素酸マンガン、ケイフッ化水素酸マグネシウム、ケイフッ化水素酸ニッケル、ケイフッ化水素酸鉄、ケイフッ化水素酸カルシウム等を挙げることができる。
【0027】
密着性および耐食性付与剤(C)
本発明において用いることができる化成処理剤は、さらに、密着性および耐食性付与剤(C)を含有する。本発明において密着性および耐食性付与剤(C)とは、下記(a)〜(h)からなる群より選択される少なくとも一種を含有するものである。密着性および耐食性付与剤(C)を配合することにより、化成処理膜の安定性及び塗膜密着性を改善し、従来のジルコニウム化合物からなる表面処理剤による処理が不適であった鉄系基材に対しても良好な化成処理膜を形成することができる。
【0028】
亜鉛、マンガン、及び、コバルトイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオン(a)
上記亜鉛イオン、マンガンイオン、及び、コバルトイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオン(a)は、それぞれ2価又は3価の価数を有する金属イオンである。上記イオンのなかでも、亜鉛イオンが好ましい。上記化成処理剤における含有量は、下限1ppm、上限5000ppmの範囲内であることが好ましい。1ppm未満であると、得られる化成処理膜の耐食性が低下して好ましくない。5000ppmを超えると、それ以上の効果の向上はみられず経済的に不利であり、塗装後密着性が低下するおそれがある。上記下限は、20ppmがより好ましく、上記上限は、2000ppmがより好ましい。
【0029】
アルカリ土類金属イオン(b)
上記アルカリ土類金属イオン(b)としては特に限定されず、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオン等を挙げることができるが、なかでも、マグネシウムイオンが好ましい。上記アルカリ土類金属イオンの含有量は、下限1ppm、上限5000ppmの範囲内であることが好ましい。1ppm未満であると、得られる化成処理膜の耐食性が低下して好ましくない。5000ppmを超えると、それ以上の効果の向上はみられず経済的に不利であり、塗装後密着性が低下するおそれがある。上記下限は、20ppmがより好ましく、上記上限は、2000ppmがより好ましい。
【0030】
13族元素の金属イオン(c)
上記13族元素の金属イオン(c)としては、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、インジウムイオンを挙げることができるが、なかでもアルミニウムイオンが好ましい。上記周期律表13族元素の金属イオンの含有量は、下限1ppm、上限5000ppmの範囲内であることが好ましい。1ppm未満であると、得られる化成処理膜の耐食性が低下して好ましくない。5000ppmを超えると、それ以上の効果の向上はみられず経済的に不利であり、塗装後密着性が低下する場合もある。上記下限は、5ppmがより好ましく、上記上限は、2000ppmがより好ましい。
【0031】
銅イオン(d)
上記銅イオン(d)の含有量は、下限0.5ppm、上限100ppmの範囲内であることが好ましい。0.5ppm未満であると、得られる化成処理膜の耐食性が低下して好ましくない。100ppmを超えると、亜鉛系基材及びアルミニウム系基材に対して負の作用をもたらすおそれがある。上記下限は、2ppmがより好ましく、上記上限は、50ppmがより好ましい。上記銅イオンは、特に、被塗物表面に置換めっきすることにより化成処理膜を安定化する効果が高いため、他の成分と比較して少量で高い効果を得ることができると推測される。
【0032】
上記(a)、(b)、(c)及び(d)の各成分の供給源としては特に限定されず、例えば、硝酸化物、硫酸化物、又は、フッ化物等として化成処理剤に配合することができる。なかでも、化成反応に悪影響を与えないため、硝酸化物が好ましい。
【0033】
ケイ素含有化合物(e)
上記ケイ素含有化合物(e)としては特に限定されず、例えば、水分散性シリカ等のシリカ、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等の水溶性ケイ酸塩化合物、ケイ酸エステル類、ジエチルシリケート等のアルキルシリケート類等を挙げることができる。なかでも、化成処理膜のバリアー性を高める効果があることからシリカが好ましく、化成処理剤中での分散性が高いことから水分散性シリカがより好ましい。上記水分散性シリカとしては特に限定されず、例えば、ナトリウム等の不純物が少ない、球状シリカ、鎖状シリカ、アルミ修飾シリカ等を挙げることができる。上記球状シリカとしては特に限定されず、例えば、「スノーテックスN」、「スノーテックスO」、「スノーテックスOXS」、「スノーテックスUP」、「スノーテックスXS」、「スノーテックスAK」、「スノーテックスOUP」、「スノーテックスC」、「スノーテックスOL」(いずれも日産化学工業株式会社製)等のコロイダルシリカや、「アエロジル」(日本アエロジル株式会社製)等のヒュームドシリカ等を挙げることができる。上記鎖状シリカとしては特に限定されず、例えば、「スノーテックスPS−M」、「スノーテックスPS−MO」、「スノーテックスPS−SO」(いずれも日産化学工業株式会社製)等のシリカゾル等を挙げることができる。上記アルミ修飾シリカとしては、「アデライトAT−20A」(旭電化工業株式会社製)等の市販のシリカゾル等を挙げることができる。上記ケイ素含有化合物は、単独で用いるものであってもよいが、上述した(a)〜(d)の金属イオンと組み合わせて使用したときによりすぐれた効果を発揮する。
【0034】
上記ケイ素含有化合物(e)の含有量は、ケイ素成分として、下限1ppm、上限5000ppmの範囲内であることが好ましい。1ppm未満であると、得られる化成処理膜の耐食性が低下して好ましくない。5000ppmを超えると、それ以上の効果の向上はみられず経済的に不利であり、塗装後密着性が低下するおそれがある。上記下限は、5ppmがより好ましく、上記上限は、2000ppmがより好ましい。なお、上記(a)〜(e)の密着性付与成分は、同時に耐食性を付与する効果もあると考えられる。
【0035】
ポリアミン水溶性樹脂(f)
上記ポリアミン水溶性樹脂(f)は、下記式(1)
【0036】
【化1】

【0037】
および/または、下記式(2)
【0038】
【化2】

【0039】
で表される構成単位を、樹脂骨格の少なくとも一部として有する樹脂である。上記樹脂からなる化成処理膜は、上記樹脂に含まれるアミノ基の作用により、被塗物及び塗膜との密着性が高くなる化成処理膜を形成することができると考えられる。上記水溶性樹脂(f)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法によって製造することができる。
【0040】
上記水溶性樹脂(f)は、下記式(1)
【0041】
【化3】

【0042】
で表される構成単位のみからなる重合体であるポリビニルアミン樹脂、
及び/又は、下記式(2)
【0043】
【化4】

【0044】
で表される構成単位のみからなる重合体であるポリアリルアミン樹脂、
が特に好ましい。上記ポリビニルアミン樹脂及びポリアリルアミン樹脂は、特に、密着性を向上する効果に優れているという利点を有する。上記ポリビニルアミン樹脂としては特に限定されず、PVAM−0595B(三菱化学株式会社製)等の市販のポリビニルアミン樹脂を使用することができる。上記ポリアリルアミン樹脂としては特に限定されず、例えば、PAA−01、PAA−10C、PAA−H−10C、PAA−D11HCl(いずれも日東紡株式会社製)等の市販のポリアリルアミン樹脂を使用することができる。また、ポリビニルアミン樹脂とポリアリルアミン樹脂とを併用して使用するものであってもよい。
【0045】
上記ポリアミン水溶性樹脂(f)は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記ポリビニルアミン樹脂及び/又はポリアリルアミン樹脂のアミノ基の一部をアセチル化する等の方法によって修飾したもの、アミノ基の一部又は全部が酸により中和されたもの、溶解性に影響を与えない範囲で架橋剤によって架橋したもの等も使用することができる。
【0046】
上記ポリアミン水溶性樹脂(f)は、樹脂100g当たり、下限0.01モル、上限2.3モルの範囲内のアミノ基を有することが好ましい。0.01モル未満であると、充分な効果が得られず好ましくない。2.3モルを超えると、目的とする効果が得られないおそれがある。上記下限は、0.1モルがより好ましい。
【0047】
本発明にかかる化成処理剤における上記ポリアミン水溶性樹脂(f)の含有量は、固形分で下限5ppm、上限5000ppmの範囲内であることが好ましい。5ppm未満であると、充分な塗膜密着性を有する化成処理膜が得られず好ましくない。5000ppmを超えると、被膜形成を阻害するおそれがある。上記下限は、10ppmがより好ましく、上記上限は、500ppmがより好ましい。
【0048】
上記ポリアミン水溶性樹脂(f)は、数平均分子量が下限500、上限500000の範囲内であることが好ましい。500未満であると、充分な塗膜密着性を有する化成処理膜が得られず好ましくない。500000を超えると、被膜形成を阻害するおそれがある。上記下限は、5000がより好ましく、上記上限は、70000がより好ましい。
【0049】
アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物(g)
上記アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物(g)としては、必要量を化成処理剤中に溶解できる程度の溶解性を有するものであれば、特に限定されない。上記アミノ基としては特に限定されず、例えば、−NH基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノヒドロキシアミノ基、ジヒドロキシアミノ基、その他1級〜3級のアミンを有する化合物等を挙げることができる。
【0050】
上記アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物(g)は、エポキシ樹脂を骨格とするものであってよい。上記エポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加型エポキシ樹脂、ビスフェノールFプロピレンオキサイド付加型エポキシ樹脂等を挙げることができる。なかでも、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールFエピクロルヒドリン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0051】
上記骨格を形成するエポキシ樹脂にアミノ基を導入する反応としては特に限定されるものではなく、溶媒中でエポキシ樹脂とアミン化合物とを混合する方法等を挙げることができる。
【0052】
上記化成処理剤は、上記アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物(g)を固形分で、下限が20ppm、上限5000ppmの範囲内で含有することが好ましい。20ppm未満であると、得られる化成処理膜中において、適正な塗装後性能が得られないおそれがあり、5000ppmを超えると、効率的に化成処理膜が形成されないおそれがある。より好ましい下限は50ppm、より好ましい上限は1000ppmである。
【0053】
上記アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物(g)は、更に、イソシアネート基を有するものであることが好ましい。上記イソシアネート基を有することによって、エポキシ化合物との間に架橋反応を生じ、これによって被膜の物性が向上する点で好ましい。上記イソシアネート基は、ブロック剤でブロックされたブロックイソシアネート基であることが好ましい。ブロックされていることによって、化成処理剤中に安定に配合することができる。
【0054】
上記ブロックイソシアネート基は、イソシアネート基の一部がブロックされたポリイソシアネート化合物をエポキシ化合物と反応させることによってエポキシ化合物中に導入することができる。上記ポリイソシアネートとしては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環族ポリイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0055】
上記ブロック剤としては特に限定されず、例えば、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(又は芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムに代表されるラクタム類等を挙げることができる。オキシム類及びラクタム類のブロック剤は低温で解離するため、樹脂硬化性の観点からより好ましい。
【0056】
上記アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物(g)としては、アデカレジンEM−0436シリーズ、アデカレジンEM−0436Fシリーズ、アデカレジンEM0718シリーズ(いずれも旭電化工業社製)等の市販の製品を使用することもできる。
【0057】
シランカップリング剤および/またはその加水分解物(h)
上記シランカップリング剤、及び/又は、その加水分解物(h)を化成処理剤に配合することによって、得られる化成処理膜と被塗物が水素結合的に吸着し、安定性及び密着性が向上すると考えられる。
【0058】
上記シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、信越化学工業、日本ユニカー、チッソ、東芝シリコーン等から販売されているビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカブトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。なかでも、密着性の向上において特に優れた効果を有することから、アミノ基を有するアミノシランカップリング剤を使用することがより好ましい。
【0059】
上記シランカップリング剤の加水分解物は、従来公知の方法、例えば、上記アミノ基含有シランカップリング剤をイオン交換水に溶解し、任意の酸で酸性に調整する方法等により製造することができる。上記シランカップリング剤の加水分解物としては、KBP−90、KBP−60、KBP−40、KBP−41、KBP−43、KBP−44、X−12−414(いずれも信越シリコーン社製)等の市販の製品を使用することもできる。なかでも、密着性向上の観点から、KBP−90が好ましい。
【0060】
本発明にかかる化成処理剤における上記シランカップリング剤、及び/又は、その加水分解物(h)の含有量は、下限5ppm、上限5000ppmの範囲内であることが好ましい。5ppm未満であると、充分な密着性を有する化成処理膜が得られず好ましくない。5000ppmを超えると、被膜形成を阻害するおそれがある。上記下限は、30ppmがより好ましく、上記上限は、2000ppmがより好ましい。
【0061】
上記(a)〜(h)の各成分は、単独で使用するものであってもよいが、必要に応じて2以上の成分を併用して使用するものであってもよい。2以上の成分を同時に使用する場合、各成分毎の含有量がそれぞれ上記範囲内にあることが好ましく、各成分の合計量は、特に限定されるものではない。特に好ましい組み合わせとしては、(a)+(b)、(a)+(b)+(d)+(f)、(a)+(b)+(c)+((f)又は(g))、(a)+(b)+((e)、(f)又は(h))、(a)+(b)+(e)+((f)、(g)又は(h))を挙げることができる。
【0062】
化成反応促進剤
本発明にかかる化成処理剤は、必要に応じてさらに化成反応促進剤を含有してもよい。化成反応促進剤を含有することにより、得られる化成処理膜の膜厚が場所によって不均一になるという問題を解決することができる。従来のジルコニウム化合物からなる表面処理剤により、エッジ部を有する被塗物を処理すると、エッジ部でアノード溶解反応が選択的に生じるため、カソード反応がエッジ部近傍で起こりやすくなり、結果としてエッジ部近傍に被膜が析出しやすくなる。一方、被塗物の平面部では、アノード溶解反応が起こりにくいため、被膜の析出が抑制される。このため、得られる化成処理膜にムラが生じる。本発明における化成反応促進剤は、上述したような問題を解決するために使用される化合物であり、化成処理剤に配合することによって、上述したエッジ部及び平面部における化成処理反応の差を生じることなく化成処理を行うことができるようにする性質を有するものである。
【0063】
上記化成反応促進剤は、亜硝酸イオン、ニトロ基含有化合物、硫酸ヒドロキシルアミン、過硫酸イオン、亜硫酸イオン、次亜硫酸イオン、過酸化物、鉄(III)イオン、クエン酸鉄化合物、臭素酸イオン、過塩素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、並びに、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種であるが、なかでも、エッチング反応を効率よく促進するため、酸化作用を有するもの又は有機酸が好ましい。これらの化成反応促進剤を化成処理剤に配合することにより、被膜析出の偏りを調整し、被塗物のエッジ部及び平面部においてもムラのない良好な化成処理膜を得ることができる。
【0064】
上記亜硝酸イオンの供給源としては特に限定されず、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸アンモニウム等を挙げることができる。上記ニトロ基含有化合物としては特に限定されず、例えば、ニトロベンゼンスルホン酸、ニトログアニジン等を挙げることができる。上記過硫酸イオンの供給源としては特に限定されず、例えば、Na、K等を挙げることができる。上記亜硫酸イオンの供給源としては特に限定されず、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム等を挙げることができる。上記次亜硫酸イオンの供給源としては特に限定されず、例えば、次亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸カリウム、次亜硫酸アンモニウム等を挙げることができる。上記過酸化物としては特に限定されず、例えば、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム等を挙げることができる。
【0065】
上記鉄(III)イオンの供給源としては特に限定されず、例えば、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)等を挙げることができる。上記クエン酸鉄化合物としては特に限定されず、例えば、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸鉄カリウム等を挙げることができる。上記臭素酸イオンの供給源としては特に限定されず、例えば、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、臭素酸アンモニウム等を挙げることができる。上記過塩素酸イオンの供給源としては特に限定されず、例えば、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0066】
上記塩素酸イオンの供給源としては特に限定されず、例えば、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、塩素酸アンモニウム等を挙げることができる。上記亜塩素酸イオンの供給源としては特に限定されず、例えば、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸アンモニウム等を挙げることができる。上記アスコルビン酸及びその塩としては特に限定されず、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸アンモニウム等を挙げることができる。上記クエン酸及びその塩としては特に限定されず、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸アンモニウム等を挙げることができる。上記酒石酸及びその塩としては特に限定されず、例えば、酒石酸、酒石酸アンモニウム、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウム等を挙げることができる。上記マロン酸及びその塩としては特に限定されず、例えば、マロン酸、マロン酸アンモニウム、マロン酸カリウム、マロン酸ナトリウム等を挙げることができる。上記コハク酸及びその塩としては特に限定されず、例えば、コハク酸、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、コハク酸アンモニウム等を挙げることができる。上述した化成反応促進剤は、単独で使用するものであってもよいが、必要に応じて2以上の成分を使用するものであってもよい。
【0067】
本発明にかかる化成処理剤における上記化成反応促進剤の配合量は、下限1ppm、上限5000ppmの範囲内である。1ppm未満であると、充分な効果が得られず好ましくない。5000ppmを超えると、被膜形成を阻害するおそれがある。上記下限は、3ppmが好ましく、5ppmがより好ましい。上記上限は、2000ppmが好ましく、1500ppmがより好ましい。
【0068】
化成処理剤の調製
化成処理剤は、上記成分(A)、(B)および(C)を水性溶媒中に混合することによって調製することができる。水性溶媒としては、水道水、イオン交換水、純水などを特に制限なく用いることができる。水性溶媒は、必要に応じて少量のアルコール類などを含んでいてもよい。なお、本発明にかかる化成処理剤は、実質的にリン酸イオンを含有しないものであることが好ましい。実質的にリン酸イオンを含まないとは、リン酸イオンが化成処理剤中の成分として作用する程含まれていないことを意味する。本発明にかかる化成処理剤は、実質的にリン酸イオンを含まないことから、環境負荷の原因となるリンを実質的に使用することがなく、リン酸亜鉛処理剤を使用する場合に発生するリン酸鉄、リン酸亜鉛等のようなスラッジの発生を抑制することができる。
【0069】
本発明にかかる化成処理剤は、pHが下限1.5、上限6.5での範囲内であることが好ましい。1.5未満であると、エッチング過剰となり充分な被膜形成ができなくなる。6.5を超えると、エッチングが不充分となり良好な被膜が得られない。上記下限は、2.0がより好ましく、上記上限は、5.5がより好ましい。上記下限は、2.5が更に好ましく、上記上限は、5.0が更に好ましい。pHを調整するために、硝酸、硫酸等の酸性化合物、及び、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性化合物を使用することができる。
【0070】
化成処理膜形成工程
上記化成処理剤を用いて被塗物の表面に化成処理膜を形成する方法は、特に限定されるものではなく、通常の処理条件によって化成処理剤と被塗物表面とを接触させることによって行うことができる。上記化成処理における処理温度は、下限20℃、上限70℃の範囲内であることか好ましい。上記下限は30℃であることがより好ましく、上記上限は50℃であることがより好ましい。上記化成処理における化成時間は、下限5秒、上限1200秒の範囲内であることが好ましい。上記下限は30秒がより好ましく、上記上限は120秒がより好ましい。化成処理方法としては特に限定されず、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコート法等を挙げることができる。
【0071】
被塗物の表面は、化成処理を行う前に、予め脱脂処理、脱脂後水洗処理を行っておくのが好ましい。また、化成処理後には化成後水洗処理を行うのが好ましい。ここで脱脂処理は、被塗物の表面に付着している油分や汚れを除去するために行われるものであり、無リン・無窒素脱脂洗浄液等の脱脂剤により、通常30〜55℃において数分間程度の浸漬処理がなされる。所望により、脱脂処理の前に、予備脱脂処理を行うことも可能である。
【0072】
脱脂後水洗処理は、脱脂処理後の脱脂剤を水洗するために、水洗水によって1回又はそれ以上スプレー処理を行うことにより行われるものである。
【0073】
化成後水洗処理は、その後の各種塗装後の密着性、耐食性等に悪影響を及ぼさないようにするために、1回又はそれ以上により行われるものである。この場合、最終の水洗は、純水で行われることが適当である。この化成後水洗処理においては、スプレー水洗又は浸漬水洗のどちらでもよく、これらの方法を組み合わせて水洗することもできる。また、本発明にかかる化成処理剤を使用する化成処理は、従来より実用化されているリン酸亜鉛系化成処理剤を用いて処理する方法において、必要となっている表面調整処理を行わなくてもよいため、より少ない工程で被塗物に化成処理膜を形成することが可能となる。
【0074】
本発明にかかる化成処理剤を使用する化成処理においては、上記化成後水洗処理の後における乾燥工程は必ずしも必要ではない。乾燥工程を行わず化成処理膜がウェットな状態のまま、塗装を行っても得られる性能に影響は与えない。また、乾燥工程を行う場合は、冷風乾燥、熱風乾燥等を行うことが好ましい。熱風乾燥を行う場合、有機分の分解を防ぐためにも、300℃以下が好ましい。
【0075】
本発明にかかる化成処理剤は、従来のジルコニウム等からなる化成処理剤での前処理が不適であった鉄系基材に対しても、充分な塗膜密着性を付与することができるという利点を有する。本発明にかかる化成処理剤は、少なくとも一部に鉄系基材を含む被処理物の処理にも使用することができる点において優れた性質を有するものである。
【0076】
本発明にかかる化成処理剤により得られる化成処理膜は、被膜量が化成処理剤に含まれる金属の合計量とエポキシ化合物に含まれる炭素量との合計量で下限0.1mg/m、上限500mg/mの範囲内であることが好ましい。0.1mg/m未満であると、均一な化成処理膜が得られず好ましくない。500mg/mを超えると、経済的に不利である。上記下限は、5mg/mがより好ましく、上記上限は、200mg/mがより好ましい。
【0077】
カチオン電着塗料組成物
本発明の方法は、まず被塗物に化成処理膜を形成し、次いでカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗膜を形成する。本発明において用いられるカチオン電着塗料組成物は、水性溶媒、水性溶媒中に分散するかまたは溶解した、カチオン性エポキシ樹脂およびブロックイソシアネート硬化剤を含むバインダー樹脂、電導度制御剤、中和酸、有機溶媒、そして必要に応じた顔料を含む。なお本発明における「電導度制御剤」は、カチオン電着塗料組成物中においては、塗膜形成成分であるカチオン性エポキシ樹脂およびブロックイソシアネート硬化剤を含むバインダー樹脂、および顔料、とは別のエマルションとして存在している。そのためこの電導度制御剤は、バインダー樹脂および顔料以外の、第3成分として機能する。
【0078】
電導度制御剤
本発明のカチオン電着塗料組成物に含まれる電導度制御剤は、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物から構成される。本発明における電導度制御剤は、アミン価が上記範囲を有すれば、どのようなアミノ基含有物であってもよいが、通常はアミン変性エポキシ樹脂もしくはアミン変性アクリル樹脂が好ましい。また、本発明の電導度制御剤は必要に応じて、酸により中和されていても良い。アミン価は好ましくは250〜450mmol/100gであり、もっとも好ましくは300〜400mmol/100gである。アミン価が200mmol/100gよりも小さいと、低固形分濃度のカチオン電着塗料組成物の電気電導度を最適値に調整するための必要添加量が多くなり、耐食性を損なう恐れがある。また、500mmol/100gを超えると、析出性を低下させ、所望のつきまわり性が得られないといった欠点を有する。また亜鉛鋼板適性も低下する。
【0079】
本発明における上記電導度制御剤としてのアミノ基含有化合物は、低分子のものから高分子のものまで考えられるが、通常アミン変性エポキシ樹脂やアミン変性アクリル樹脂などの高分子量のものの化合物が挙げられる。低分子量アミノ基含有化合物は、たとえばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルブチルアミンなどが挙げられる。
【0080】
本発明では、高分子量のアミノ基含有化合物、特にアミン変性エポキシ樹脂およびアミン変性アクリル樹脂が好ましい。アミン変性エポキシ樹脂はエポキシ樹脂のエポキシ基をアミン化合物で変性することにより得られる。エポキシ樹脂は、一般的なものが使用できるが、ビスフェノール型エポキシ樹脂、t−ブチルカテコール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂であって、数平均分子量が500〜20000を有するものが好適である。これらのエポキシ樹脂の中で、フェノールノボラック樹脂およびクレゾールノボラック型樹脂がもっとも望ましい。特に、これらのエポキシ樹脂は市販されている。たとえば、ダウケミカルジャパン社製フェノールノボラック樹脂DEN−438、東都化成社製クレゾールノボラック樹脂YDCN−703などがあげられる。
【0081】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0082】
アミン変性アクリル樹脂としては、たとえばアミノ基含有モノマーであるジメチルアミノエチルメタクリレートのホモポリマーまたは他の重合性モノマーとの共重合体をそのまま用いても良いし、グリシジルメタクリレートのホモポリマーまたは他の重合性モノマーとの共重合体のグリシジル基をアミン化合物で変性することにより得ることができる。
【0083】
エポキシ樹脂またはエポキシ基を含有するアクリル樹脂にアミノ基を導入する化合物としては、一級アミン、二級アミン、三級アミンなどが挙げられる。それらの具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ブチルアミン、ジメチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフイド・酢酸混合物などの外、アミノエチルエタノールアミンのジケチミン、ジエチルヒドロアミンのジケチミンなどの一級アミンのブロックした二級アミンが挙げられる。アミン類は複数のものを使用してもよい。
【0084】
前述のとおり、これらアミン変性エポキシ樹脂およびアミン変性アクリル樹脂の数平均分子量は500〜20000が好適である。数平均分子量が500よりも小さいと、耐食性を損なう恐れがあり、また理由は定かではないが、つきまわり性の低下および亜鉛鋼板適性の低下が見られる。数平均分子量が20000よりも大きいと仕上がり外観の低下を引き起こす恐れがある。
【0085】
これらアミン変性エポキシ樹脂およびアミン変性アクリル樹脂は、あらかじめ中和酸により中和させて用いることもできる。中和に用いる酸は、塩酸、硝酸、リン酸、スルファミン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。
【0086】
本発明において用いられるカチオン電着塗料組成物は、上記電導度制御剤を含むことを特徴とする。そしてこの電導度制御剤が含まれることによって、塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%と低固形分型カチオン電着塗料組成物であるにも関わらず、優れたつきまわり性が確保されることとなる。この電導度制御剤を用いることによって、電導度を適正値に制御することが可能となり、その結果、十分なつきまわり性を確保することが可能となる。そしてこのカチオン電着塗料組成物は、塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%と低固形分型であるため、長時間静置させた場合であっても沈殿物が少ないという特徴も有している。さらに、電着塗装後に通常行われる水洗もより容易に行うことができ、これにより2次タレの発生を防止することができるという利点も有している。
【0087】
カチオン性エポキシ樹脂(塗膜形成性成分としてのカチオン性エポキシ樹脂)
代表的なカチオン性エポキシ樹脂として、アミン変性エポキシ樹脂が挙げられる。アミン変性エポキシ樹脂は、電着塗料組成物において一般に使用されるアミンで変性されたエポキシ樹脂を特に制限なく用いることができる。アミン変性エポキシ樹脂として、当業者に公知のアミン変性エポキシ樹脂および市販のエポキシ樹脂をアミン変性したものなどを使用することができる。
【0088】
好ましいアミン変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の樹脂骨格中のオキシラン環を有機アミン化合物で変性して得られるアミン変性エポキシ樹脂である。一般に、アミン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミンおよび/またはその酸塩等のアミン類との反応によって開環して製造される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などである。
【0089】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0090】
【化5】

【0091】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を、アミン変性エポキシ樹脂の調製に用いて、アミン変性オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を調製してもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このアミン変性オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0092】
出発原料であるエポキシ樹脂は、必要に応じて、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸等により鎖延長して用いることができる。
【0093】
また、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良等を目的として、エポキシ樹脂の一部のオキシラン環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルなどのモノヒドロキシ化合物を付加して用いることもできる。
【0094】
エポキシ樹脂のオキシラン環を開環し、アミノ基を導入する際に使用することができるアミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンなどの1級アミン、2級アミンまたは3級アミンおよび/もしくはその酸塩を挙げることができる。また、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンなどのケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミン、ジエチレントリアミンジケチミンも使用することができる。これらのアミン類は、全てのオキシラン環を開環させるために、オキシラン環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0095】
上記アミン変性エポキシ樹脂の数平均分子量は1500〜5000の範囲であるのが好ましく、1600〜3000の範囲であるのがより好ましい。数平均分子量が1500未満の場合は、硬化形成塗膜の耐溶剤性および耐食性等の物性が劣ることがある。また5000を超える場合は、樹脂溶液の粘度制御が難しく合成が困難となるおそれがあり、さらに得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となることがある。さらに高粘度であるがゆえに加熱、硬化時のフロー性が悪く、塗膜外観を損ねる場合がある。
【0096】
上記アミン変性エポキシ樹脂は、アミン価が50〜200mmol/100gの範囲となるように分子設計することが好ましい。アミン価が50mmol/100g未満では下記で詳説する酸処理による水媒体中での乳化分散不良を招くおそれがある。一方、200mmol/100gを超えると硬化後に塗膜中に過剰のアミノ基が残存し、その結果、耐水性が低下することがある。
【0097】
ブロックイソシアネート硬化剤
カチオン電着塗料組成物には、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られるブロックイソシアネート硬化剤が含まれる。ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0098】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0099】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤として使用してよい。
【0100】
脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0101】
ブロックイソシアネート硬化剤は、イソシアネート基末端前駆体の遊離のイソシアネート基を活性水素基含有化合物(ブロック剤)と反応させて常温では不活性としたものであり、これを加熱するとブロック剤が解離してイソシアネート基が再生されるという性質を持つものである。
【0102】
ブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤として、例えば1−クロロ−2−プロパノール、n−プロパノール、フルフリルアルコール、アルキル基置換フルフリルアルコールなどの脂肪族または複素環式アルコール類、フェノール、m−クレゾール、p−ニトロフェノール、p−クロロフェノール、ノニルフェノールなどのフェノール類、メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、アセトンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム類、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、マロン酸エチルなどの活性メチレン化合物、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのカプロラクタム類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルなど、を挙げることができる。なおこれらのブロック剤は、1種のみ単独で用いてもよく、また2種以上のものを併用してもよい。
【0103】
顔料
本発明で用いられる電着塗料組成物は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用できる顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、安息香酸ビスマス、クエン酸ビスマス、ケイ酸ビスマスのような防錆顔料等、が挙げられる。
【0104】
本発明におけるカチオン電着塗料組成物においては、顔料は、電着塗料組成物の全固形分に対して2〜7重量%、好ましくは3〜5重量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0105】
顔料分散ペースト
顔料を電着塗料組成物の成分として用いる場合、一般に顔料を顔料分散樹脂と呼ばれる樹脂と共に予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0106】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は5〜40重量部、顔料は10〜30重量部の固形分比で用いる。
【0107】
上記顔料分散樹脂および顔料を混合し、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0108】
他の成分
上記カチオン電着塗料組成物は、上記成分の他にブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤解離のための解離触媒を含んでもよい。このような解離触媒として、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物や、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩が使用できる。解離触媒の濃度は、カチオン電着塗料組成物中のカチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤合計の100固形分重量部に対し0.1〜6重量部であるのが好ましい。
【0109】
カチオン電着塗料組成物の調製
電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤、電導度制御剤及び顔料分散ペーストを水性媒体中に分散することによって調製される。また、通常、水性媒体にはカチオン性エポキシ樹脂の分散性を向上させるために中和剤を含有させる。中和剤は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。その量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0110】
硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級又は/及び3級アミノ基、水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂の硬化剤に対する固形分重量比で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。カチオン性エポキシ樹脂と硬化剤とを含むバインダー樹脂は、一般に、電着塗料組成物の全固形分の25〜85重量%、好ましくは40〜70重量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0111】
カチオン電着塗料組成物に含まれる電導度制御剤の量は、特に限定されるものではないが、具体的には、カチオン電着塗料組成物の塗料固形分に基づいて0.5〜30重量%であるのが好ましく、1〜30重量%であるのがより好ましく、1〜15重量%であるのがさらに好ましい。電導度制御剤の量は0.5重量%より少なくてもよいが、十分な電気電導度が得られないことがある。また、電導度制御剤の量は30重量%を超えてもよいが、添加量に比例した電気電導度の増加が見られなくなる。
【0112】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上記記載の成分を含むものであれば、特に限定するものではないが、本発明の電導度制御剤が有効に作用するカチオン電着塗料組成物は低固形分型のものである。また、本発明のカチオン電着塗料組成物は、低灰分型であってもよい。
【0113】
低固形分型のカチオン電着塗料組成物は、固形分濃度が従来の20重量%程度より少ない固形分濃度、特に0.5〜9重量%であり、より好ましい下限は3重量%である。0.5重量%を下回ると、下塗り塗膜としての電着塗膜が得られないおそれがある。一方、固形分濃度は9重量%を超える場合は、静置した無撹拌状態においてカチオン電着塗料組成物中に含まれる顔料成分が沈降するおそれがある。また、電導度制御剤を添加して塗料の電気電導度を調整する必要が無くなる可能性がある。
【0114】
カチオン電着塗料組成物の塗料固形分濃度を減少する方法として、顔料成分を減少する方法を採る場合、塗料中の灰分(即ち、塗料を燃焼した場合に残存する固体状灰の重量を塗料の固形分重量で割って、100をかけたもの)が減少することになる。従って、本発明で用いるカチオン電着塗料組成物は、低灰分型ということもできる。灰分は通常のカチオン電着塗料組成物の場合、15〜40重量%であるので、低灰分型のカチオン電着塗料組成物の灰分量は好ましくは2〜7重量%、より好ましくは3〜5重量%である。
【0115】
電着塗膜形成
一般的な電着塗装工程は、電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。通電時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。印加電圧は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常50〜450Vの電圧が印加される。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となるおそれがあり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となるおそれがある。電着塗装時における電着槽中の塗料組成物の液温度は、通常10〜45℃に調節される。電着塗膜の膜厚は10〜25μm、より好ましくは10〜20μmとすることが好ましい。膜厚が10μm未満であると、防錆性が不充分であり、25μmを超えると、塗料の浪費につながる。電着塗装した後、必要に応じた水洗処理などを行う。次いで、通常は140〜180℃で10〜30分間焼き付けることによって、硬化電着塗膜が形成される。
【0116】
本発明の複層塗膜形成方法は、リン酸イオン、有害な重金属イオンなどを含有しない化成処理剤を用いつつ、優れたつきまわり性を発揮するという特徴を有している。なお、リン酸イオン、有害な重金属イオンなどを含有しない化成処理剤として、例えば、従来から用いられていた、密着性付与剤を含有しないジルコニウム含有化成処理剤が挙げられる。このようなジルコニウム含有化成処理剤を用いて被塗物を処理する場合は、化成処理剤中に溶出した金属イオンがZrF2−のフッ素イオンを引き抜き、または、界面pHの上昇により、ジルコニウムの水酸化物又は酸化物が生成され、このジルコニウムの水酸化物又は酸化物が被塗物表面に析出すると考えられる。
【0117】
ところがこのようなジルコニウム含有化成処理剤を用いる場合は、化成処理膜の厚みムラの発生や、特に鉄系基材においては充分な密着性が得られない等の問題がある。このような被膜の厚みムラの不具合は、被塗物のエッジ部及び平面部等のように形状の違う部位における被膜析出量が異なることに由来する。
【0118】
また、化成処理方法として汎用されているリン酸亜鉛処理に代えて、密着性付与剤を含有しないジルコニウム含有化成処理剤により被処理物を処理する場合は、特に鉄系基材においては充分な塗膜密着性が得られない等の不具合がある。本発明にかかる化成処理剤を用いることによって、上記のような問題は解決され、そして被膜のムラを引き起こさず、鉄系基材に対しても充分な安定性及び塗膜密着性を有する化成処理膜を形成することができる。
【0119】
本発明にかかる化成処理剤は、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種、そして密着性および耐食性付与剤を被膜形成成分として含有する化成処理剤である。本発明にかかる化成処理剤は、化成処理膜の安定性を改善すると思われることから、従来ジルコニウム等からなる化成処理剤での前処理が不適であった冷延鋼板または亜鉛めっき鋼板などの鉄系基材に化成処理膜を良好に形成することができる。そしてさらに本発明における電着塗料組成物を用いることによって、優れたつきまわり性が発揮されることとなる。
【0120】
上記化成処理剤はさらに、リン酸イオンを実質的に含まないため、環境に対する負荷が少なく、スラッジ(汚泥)も発生しないという利点も有している。さらに、上記化成処理剤を使用する化成処理は、表面調整工程を必要としないため、より少ない工程で被塗物の化成処理を行うことができる。
【0121】
本発明の方法により、上記化成処理剤を用いて被塗物に化成処理膜を形成して、次いで電着塗膜を形成することにより、化成処理膜および硬化電着塗膜からなる複層塗膜を形成することができる。そして本発明の方法で用いられる電着塗料組成物は、長時間静置させた場合であっても沈殿物が少ないという特徴を有し、かつ、優れたつきまわり性をも有している。本発明の複層塗膜形成方法は、上記利点に加えて、電着塗料組成物の貯蔵における常時撹拌、および電着塗装における電着槽の常時撹拌を必要とせず、撹拌を省略したり断続的に撹拌させたりすることができるという利点をも有している。このような本発明の方法を用いることによって、塗装における塗装コストを大幅に削減することができる。
【実施例】
【0122】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0123】
製造例1 電導度制御剤(1)の調製
還流冷却器、撹拌機を備えたフラスコに、メチルイソブチルケトン(以下「MIBK」と略す。)295部、メチルエタノールアミン37.5部、ジエタノールアミン52.5部を仕込み、撹拌しながら100℃に保持した。これにクレゾールノボラックエポキシ樹脂(東都化成製、商品名YDCN−703)205部を徐々に加え、全量加え終えたのち3時間反応させた。数平均分子量を測定したところ、2100であった。得られたアミノ変性樹脂のアミン価(MEQ(B))を測定したところ、340mmol/100gであった。
【0124】
得られたアミノ変性樹脂溶液140部に、ギ酸5.5部と脱イオン水1254.5部を加えて80℃に保持しながら30分間撹拌した。減圧下において有機溶剤を除去し固形分7.0%の電導度制御剤(1)を得た。
【0125】
製造例2 電導度制御剤(2)の調製
還流冷却器、撹拌機を備えたフラスコに、MIBK255部、メチルエタノールアミン75部、を仕込み、撹拌しながら100℃に保持した。これにフェノールノボラック樹脂(ダウケミカルジャパン社製、商品名DEN−438)180部を徐々に加え、全量加え終えたのち3時間反応させた。数平均分子量を測定したところ、1000であった。得られたアミノ変性樹脂のアミン価(MEQ(B))を測定したところ、390mmol/100gであった。
【0126】
得られたアミノ変性樹脂溶液140部に、スルファミン酸14部と脱イオン水1247部を加えて80℃に保持しながら30分間撹拌した。減圧下において有機溶剤を除去し固形分7.0%の電導度制御剤(2)を得た。
【0127】
製造例3 電導度制御剤(3)の調製
還流冷却器、窒素導入管、滴下ロート、撹拌機を備えたフラスコにメチルイソブチルケトン(MIBK)を50部仕込み、撹拌しながら100℃に保持した。メタクリル酸グリシジル100部、およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2部からなる混合液を滴下ロートより2時間で等速滴下した。100℃に保ち30分間撹拌を続けた。その後、MIBK52.5部、AIBN0.5部の混合液を1時間かけて滴下した。さらに1時間撹拌を続けて反応を終了させた。
【0128】
還流冷却器、撹拌機を備えたフラスコに、MIBK47.5部、メチルエタノールアミン52.8部を仕込み、撹拌しながら100℃に保持した。これに上記で得られた反応物205部を徐々に加え、全量加え終えたのち3時間反応させた。数平均分子量を測定したところ、9800であった。得られたアミノ変性樹脂のアミン価(MEQ(B))を測定したところ、450mmol/100gであった。
【0129】
こうして得られたアミノ変性樹脂溶液140部に、乳酸25.2部と脱イオン水1234.8部を加えて80℃に保持しながら30分間撹拌した。減圧下において有機溶剤を除去し、固形分7.0%の電導度制御剤(3)を得た。
【0130】
比較製造例1 電導度制御剤(4)の調製
ガラスビーカーに脱イオン水463.4部、ギ酸13.5部を加え撹拌し、撹拌しながら、分子量が89であるジメチルエタノールアミン23.1部を徐々に加えた。有効成分のアミン価(MEQ(B))が740mmol/100g、有効成分濃度7%の、電導度制御剤(4)を得た。
【0131】
製造例5 カチオン電着塗料組成物の調製
製造例5−1 アミン変性エポキシ樹脂の調製
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)92部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)95部およびジブチル錫ジラウレート0.5部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール21部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル50部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物に、ビスフェノールA−プロピレンオキシド5モル付加体53部を添加した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0132】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。
【0133】
続いて、ビスフェノールA61部およびオクチル酸33部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1190となった。その後、反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン11部、N−エチルエタノールアミン24部およびアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79重量%MIBK溶液25部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、アミン変性エポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0134】
製造例5−2 ブロックイソシアネート硬化剤の調製
ジフェニルメタンジイソシアナート1250部およびMIBK266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチル錫ジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてブロックイソシアネート硬化剤を得た。
【0135】
製造例5−3 顔料分散樹脂の調製
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここヘジブチル錫ジラウレート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
【0136】
次いで、適当な反応容器に、ジメチルエタノールアミン87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0137】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ、初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させ、次いで、120℃に冷却した後、先に調製した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0138】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、エポキシ−ビスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、4級アンモニウム塩部分を有する顔料分散用樹脂を得た(樹脂固形分50%)。
【0139】
製造例5−4 顔料分散ペーストの調製
サンドグラインドミルに製造例5−3で得た顔料分散用樹脂を100部、二酸化チタン100.0部およびイオン交換水100.0部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分50%)。
【0140】
製造例5−5 バインダー樹脂エマルションの調製
製造例5−1で得られたアミン変性エポキシ樹脂と製造例5−2で得られたブロックイソシアネート硬化剤とを固形分比で80/20で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルションを得た。
【0141】
製造例6 化成処理剤(1)の調製
ジルコンフッ化水素酸、硝酸亜鉛およびアミノ基含有シランカップリング剤(h)であるKBM−603(N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン:有効濃度100%:信越化学工業株式会社製)を使用して化成処理剤を調製した。これらを、ジルコニウム濃度250ppm、アミノ基含有シランカップリング剤濃度100ppm、亜鉛濃度500ppmとなるように、イオン交換水に加えて混合し、さらにクエン酸鉄(III)アンモニウムを化成反応促進剤として、濃度200ppmとなるように添加し、次いで水酸化ナトリウムを用いてpH4に調整することによって、化成処理剤(1)を得た。
【0142】
比較製造例2 化成処理剤(2)の調製
ジルコンフッ化水素酸を使用して化成処理剤を調製した。ジルコニウム濃度250ppmとなるように、イオン交換水に加えて混合し、さらにクエン酸鉄(III)アンモニウムを化成反応促進剤として、濃度200ppmとなるように添加し、次いで水酸化ナトリウムを用いてpH4に調整することによって、化成処理剤(2)を得た。
【0143】
比較製造例3 化成処理剤(3)の調製
リン酸亜鉛系化成処理剤であるサーフダインSD−6350(日本ペイント社製)を、化成処理剤(3)として用いた。
【0144】
実施例1
カチオン電着塗料組成物の調製
上記製造例5−5で得られたバインダー樹脂エマルション158部および製造例5−4で得られた顔料分散ペースト8部と、イオン交換水831部と10%酢酸セリウム水溶液2部およびジブチル錫オキサイド1部とを混合して、塗料固形分7%のカチオン電着塗料組成物を得た。カチオン電着塗料組成物の顔料濃度は5重量%であり、電気電導度は890μS/cmであった。なお塗料固形分は、180℃で30分間加熱した後の残渣の重量の、元の重量に対する百分率として求めることができる(JIS K5601に準拠)。
【0145】
得られたカチオン電着塗料組成物1000部に対して、製造例1で得られた電導度制御剤(1)を6部加えることにより、電気電導度を1200μS/cmに調整したカチオン電着塗料組成物を得た。なお、カチオン電着塗料組成物の電気電導度の測定は、導電率計(東亜電波工業(株)社製CM−305)を用いて、液温25℃の条件にて測定した。
【0146】
複層塗膜形成
脱脂処理した冷延鋼板を、製造例6の化成処理剤(1)(温度40℃)中に60秒間浸漬処理して化成処理膜を形成した。化成処理膜の被膜量は、40mg/mであった。なお被膜量は、水洗処理後の冷延鋼板を電気乾燥炉において、80℃で5分間乾燥したうえで「XRF1700」(島津製作所製蛍光X線分析装置)を用いて、化成処理剤に含まれる金属の合計量として分析した。この「化成処理膜の被膜量」は、化成処理剤に含まれる金属の合計量とエポキシ化合物に含まれる炭素量との合計量を示している。
こうして化成処理膜が形成された被塗物を、次いで水道水で30秒間スプレー処理し、更にイオン交換水で10秒間スプレー処理した。
【0147】
その後、乾燥工程を特に経ることなく、風乾のみ行い、その後電着塗装を行った。上記調製により得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、液温30℃で、硬化電着塗膜の膜厚が15μmとなる塗装電圧にて電着塗装した。水洗した後、170℃で25分間焼き付け、硬化電着塗膜を得た。
【0148】
実施例2
製造例1で得られた電導度制御剤(1)を6部用いる代わりに、製造例2で得られた電導度制御剤(2)を8部用いること以外は、実施例1と同様にして、電気電導度を1300μS/cmに調整したカチオン電着塗料組成物を調製した。
【0149】
こうして得られたカチオン電着塗料組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。
【0150】
実施例3
製造例1で得られた電導度制御剤(1)を6部用いる代わりに、製造例3で得られた電導度制御剤(3)を3部用いること以外は、実施例1と同様にして、電気電導度を1100μS/cmに調整したカチオン電着塗料組成物を調製した。
【0151】
こうして得られたカチオン電着塗料組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。
【0152】
実施例4
上記製造例5−5で得られたバインダー樹脂エマルション158部および製造例5−4で得られた顔料分散ペースト8部と、イオン交換水831部と10%酢酸セリウム水溶液2部およびジブチル錫オキサイド1部とを混合して、塗料固形分7%のカチオン電着塗料組成物を得た。こうして得られたカチオン電着塗料組成物1000部に対して、イオン交換水400部をさらに加えた。得られたカチオン電着塗料組成物の塗料固形分濃度は5重量%であり、電気電導度は640μS/cmであった。
【0153】
こうして得られたカチオン電着塗料組成物1400部に対して、製造例1で得られた電導度制御剤(1)を8部加えることにより、電気電導度を1100μS/cmに調整したカチオン電着塗料組成物を得た。
【0154】
こうして得られたカチオン電着塗料組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。
【0155】
比較例1
上記製造例5−5で得られたバインダー樹脂エマルション319部および製造例5−4で得られた顔料分散ペースト133部と、イオン交換水543部と10%酢酸セリウム水溶液2部およびジブチル錫オキサイド3部とを混合して、塗料固形分20%のカチオン電着塗料組成物を得た。このカチオン電着塗料組成物の塗料固形分に含まれる顔料の濃度は23重量%であり、電気電導度は1600μS/cmであった。
【0156】
こうして得られたカチオン電着塗料組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。
【0157】
比較例2
上記製造例5−5で得られたバインダー樹脂エマルション158部および製造例5−4で得られた顔料分散ペースト8部と、イオン交換水831部と10%酢酸セリウム水溶液2部およびジブチル錫オキサイド1部とを混合して、塗料固形分7%のカチオン電着塗料組成物を得た。顔料濃度は5重量%であり、電気電導度は890μS/cmであった。
【0158】
こうして得られたカチオン電着塗料組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。
【0159】
比較例3
製造例1で得られた電導度制御剤(1)を6部用いる代わりに、比較製造例1で得られた電導度制御剤(4)を1部用いること以外は、実施例1と同様にして、電気電導度を1200μS/cmに調整したカチオン電着塗料組成物を調製した。
【0160】
こうして得られたカチオン電着塗料組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。
【0161】
比較例4
比較製造例2の化成処理剤(2)を用いたこと以外は全て実施例1と同様にして、実施例1で調製したカチオン電着塗料組成物を用いて複層塗膜を形成した。なお化成処理膜の被膜量は、45mg/mであった。
【0162】
比較例5
比較製造例3の化成処理剤(3)を用いた。脱脂処理した冷延鋼板を、サーフファイン5N−8M(日本ペイント社製)を用いて室温で30秒間表面処理を行い、次いで比較製造例3の化成処理剤(3)(温度35℃)中に120秒間浸漬処理して化成処理膜を形成した。化成処理膜の被膜量は、2200mg/mであった。なお被膜量は、水洗処理後の冷延鋼板を電気乾燥炉において、80℃で5分間乾燥したうえで「XRF1700」(島津製作所製蛍光X線分析装置)を用いて、化成処理剤に含まれる金属の合計量として分析した。化成処理膜が形成された被塗物を、次いで水道水で30秒間スプレー処理し、更にイオン交換水で10秒間スプレー処理した。
【0163】
その後、乾燥工程を特に経ることなく、風乾のみ行い、その後、実施例1で調製したカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装を行った。電着塗装は、液温30℃で、硬化電着塗膜の膜厚が15μmとなる塗装電圧にて電着塗装した。水洗した後、170℃で25分間焼き付け、硬化電着塗膜を得た。
【0164】
上記実施例および比較例について、下記評価を行った。
【0165】
つきまわり性の評価
つきまわり性は、いわゆる4枚ボックス法により評価した。すなわち、図1にしめすように、各実施例および比較例で使用した化成処理剤で処理した4枚の冷延鋼鈑(JIS G3141 SPCC−SD)11〜14を、立てた状態で間隔20mmで平行に配置し、両側面下部および底面を布粘着テープ等の絶縁体で密閉したボックス10を調製した。なお、鋼鈑14以外の鋼鈑11〜13には下部に8mmφの貫通穴15が設けられている。
【0166】
各実施例および比較例記載のカチオン電着塗料組成物4リットルを塩ビ製容器に移して第1の電着槽とした。図2に示すように、上記ボックス10を、被塗装物として電着塗料21を入れた電着塗料容器20内に浸漬した。この場合、各貫通穴15からのみ塗料21がボックス10内に侵入する。
【0167】
マグネチックスターラー(非表示)で塗料21を攪拌した。そして、各鋼鈑11〜14を電気的に接続し、最も近い鋼鈑11との距離が150mmとなるように対極22を配置した。各鋼鈑11〜14を陰極、対極22を陽極として電圧を印加して、化成処理を行った冷延鋼板にカチオン電着塗装を行なった。塗装は、印加開始から5秒間で鋼鈑11のA面に形成される塗膜の膜厚が15μmに達する電圧まで昇圧し、その後通常電着では175秒間その電圧を維持することにより行った。
【0168】
塗装後の各鋼鈑は、水洗した後、170℃で25分間焼き付けし、空冷後、対極22から最も近い鋼鈑11のA面に形成された塗膜の膜厚と、対極22から最も遠い鋼鈑14のG面に形成された塗膜の膜厚とを測定し、膜厚(G面)/膜厚(A面)の比(G/A値)によりつきまわり性を評価した。一般に、この値が50%を超えた場合は良好であり、この値が50%以下の場合を不良と判断できる。
【0169】
亜鉛鋼鈑適性
各実施例および比較例で使用した化成処理剤を用いて、各実施例および比較例記載の方法と同様に化成処理を行った合金化溶融亜鉛めっき鋼鈑に、各実施例および比較例記載のカチオン電着塗料組成物を用いて、220Vまで5秒で昇圧後、175秒で電着したのち水洗し、170℃で25分間焼き付けし、塗膜状態を観察した。塗膜異常が認められない場合を良好(凡例;○)、わずかに異常が認められる場合を、異常あり(凡例;△)、著しい異常が認められる場合を不良(凡例;×)と判断した。
【0170】
水平外観
各実施例および比較例で使用した化成処理剤を用いて、実施例1記載の方法と同様に化成処理を行った冷延鋼板を、各実施例および比較例記載のカチオン電着塗料組成物を用いて、無攪拌状態のカチオン電着塗料組成物中に水平状態に置いて電着塗装を行い、電着塗装板の焼付け後の外観を目視評価した。
○:問題なく良好、△:顔料が少し沈降し、ややザラザラ感がある、×:顔料が沈降し、外観不良。
【0171】
スラッジ性
各実施例および比較例で使用した化成処理剤1L当たり1mの金属基材を処理した後、化成処理剤中の濁りを目視観察した。
〇:濁りなし
×:濁りあり
【0172】
塩水試験(SDT)
各実施例および比較例で得られた試験板に、素地まで達する縦平行カットを2本入れた後、5%NaCl水溶液中において50℃で480時間浸漬した。その後、カット部をテープ剥離し、塗料の剥離を観察した。
◎:剥離なし
〇:若干剥離
×:剥離幅3mm以上
【0173】
【表1】

【0174】
【表2】


【0175】
実施例1〜4においては、カチオン電着塗料組成物を無撹拌の状態において電着塗装を行っているにもかかわらず、水平外観が良好である。そしてカチオン電着塗料組成物の電気電導度が適正範囲にあることによって、つきまわり性に欠陥は見られない。さらに、化成処理においてスラッジの発生なども生じていない。一方、比較例1は通常の塗料固形分(20重量%)のカチオン電着塗料組成物を用いた例である。電気電導度は適性範囲にあるが、塗料固形分が高いため水平外観が悪くなるという不具合がある。比較例2は塗料固形分濃度が7重量%と低いカチオン電着塗料組成物を用いた例である。この場合は、電着塗料組成物の電気電導度が不足して、つきまわり性が低下するという不具合がある。比較例3は、アミノ基含有化合物のアミン価が本発明の範囲を超えているアミノ基含有化合物を、比較例2のカチオン電着塗料組成物に配合した例である。この場合は、つきまわり性も亜鉛鋼板適正も劣っていた。比較例4は、密着性および耐食性付与剤を含まない化成処理剤を用いた例である。この場合は、スラッジ性には優れるものの、塩水試験結果が悪く、耐食性などに劣ることが確認できる。比較例5は、通常用いられるリン酸亜鉛化成処理剤を用いた例である。この場合は、塩水試験結果は良好であり耐食性などは優れる一方で、スラッジ性は劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明の複層塗膜形成方法によれば、環境への負荷が少ない化成処理剤を用いて、優れた塗膜物性を有する、化成処理膜および電着塗膜から構成される複層塗膜を得ることができる。さらに本発明の方法で用いられる電着塗料組成物は、長時間静置させた場合であっても沈殿物が少ないという特徴を有し、かつ、優れたつきまわり性をも有している。本発明の複層塗膜形成方法によって、電着塗料組成物の貯蔵における常時撹拌、および電着塗装における電着槽の常時撹拌を必要とせず、撹拌を省略したり断続的に撹拌させたりすることができる。本発明の方法は、有害な重金属等を含まず、さらにスラッジも発生しない化成処理剤を用いて、優れた塗膜物性を有する複層塗膜を形成することができる。本発明の方法はまた、塗装における塗装コストを大幅に削減することができる。以上より本発明の方法は、産業上において非常に有用な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】つきまわり性を評価する際に用いるボックスの一例を示す斜視図である。
【図2】つきまわり性の評価方法を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0178】
10:ボックス、
11〜14:化成処理鋼板、
15:貫通穴、
20:電着塗装容器、
21:電着塗料、
22:対極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化成処理剤を用いて被塗物に化成処理膜を形成する化成処理膜形成工程、および
化成処理膜が形成された被塗物をカチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗膜を形成する電着塗膜形成工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、
該電着塗膜形成工程で用いられるカチオン電着塗料組成物は、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物からなる電導度制御剤を含有するカチオン電着塗料組成物であり、そして該カチオン電着塗料組成物は電気電導度900〜2000μS/cm、および塗料固形分濃度0.5〜9.0重量%であり、ならびに
該化成処理剤は、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(A)、フッ素(B)、密着性および耐食性付与剤(C)を含有する化成処理剤であって、
該密着性および耐食性付与剤(C)は、下記(a)〜(h):
亜鉛、マンガン、及び、コバルトイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオン(a)、
アルカリ土類金属イオン(b)、
13族元素の金属イオン(c)、
銅イオン(d)、
ケイ素含有化合物(e)、
ポリアミン水溶性樹脂(f)、
アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物(g)、並びに、
シランカップリング剤および/またはその加水分解物(h):
からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記アミノ基含有化合物がアミン変性エポキシ樹脂またはアミン変性アクリル樹脂である、請求項1記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記アミン変性エポキシ樹脂がエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基をアミン化合物で変性することにより得られる、請求項2記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記アミン変性アクリル樹脂がエポキシ基を有するアクリル樹脂に含まれるエポキシ基をアミン化合物で変性することにより得られる、請求項2記載の複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂が、ビスフェノール型、t−ブチルカテコール型、ノボラックフェノール型またはノボラッククレゾール型であり、数平均分子量500〜20000を有する、請求項3記載の複層塗膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−184620(P2008−184620A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16295(P2007−16295)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】