説明

規則化されたカーボン・ナノチューブを選択的に製造する方法

【課題】気体状態の炭素源を鉄を含む少なくとも一種の遷移金属の酸化されていない金属の被覆を有する多孔質アルミナ担体から成る少なくとも一種の担持固体触媒と接触させる、炭素源の分解によって規則化されたカーボンナノチューブを選択的に製造する方法。
【解決方法】使用する担持固体触媒が25μm〜2.5mmの平均粒径を有し、鉄合金皮膜がアルミナ担体のマクロ形状の表面の75%以上を被覆している触媒粒子から主として成る。鉄合金皮膜は複数の互いに凝集した金属球から成るクラスタの形をしていることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、規則化されたカーボン・ナノチューブ(nanotubes de carbone ordonne)の製造方法に関するものである。
本発明の規則化されたカーボン・ナノチューブは0.4〜30nmの直径と、直径の100倍以上、特に1000〜100000倍の長さ有する管状(tubulaire)構造を有している。
本発明の規則化されたカーボン・ナノチューブは金属触媒粒子と組み合わせた形でも、この金属触媒粒子なしの形(精製後)でもよい。
【背景技術】
【0002】
カーボン・ナノチューブは古い文献(下記文献参照)に記載されているが、工業的スケールで開発されることはなかった。
【非特許文献1】S. Iijima "Helical nanotubes of graphitic carbon", Nature, 354, 56 (1991)
【0003】
カーボンナノチューブは多くの用途で使用でき、特に、複合材料、フラットディスプレー、原子力顕微鏡のチップ、水素、その他のガスの貯槽、触媒担体等の分野で極めて有利に使用できる。
【0004】
下記文献には、粒径が約120μmまたは150μmのアルミナ粒子上にCVDによって良く分散させた1〜5重量の原子鉄から成る、アルミナ上に鉄を有する担体触媒の存在下で、流動床中で規則化されたカーボン・ナノチューブを選択的に製造する方法が記載されている。
【特許文献1】国際特許第WO 03/002456号公報
【0005】
分散、付着される鉄粒子の寸法は約3〜6nmである。この方法を用いることによって炭素源に対して選択性および収率(90%以上)に優れたカーボン・ナノチューブを得ることができる。
【0006】
炭素源を気相で熱分解してカーボンナノチューブを作る際の触媒として酸化された金属を用いる場合には、支持体粒子上に不連続金属触媒サイトを可能な限り分散させて多数作る必要があり、分散した金属サイトの寸法は製造するナノチューブの直径に対応させる必要があると考えられてきた。極めて多くの研究がこの考えで行なわれてきた。
【0007】
別の解決方法は形成すべきナノチューブの直径に相当する寸法を有する別々に分れた触媒粒子を使用する方法である。これは金属粒子が各ナノチューブの端部に捕らえられるためである。
【0008】
金属の量が少なく且つ極めて良く分散した触媒は優れた金属触媒活性A*(1グラムの金属で1時間当り形成されるナノチューブのグラム数)および適度な触媒活性A(1グラムの触媒組成物で1時間当り形成されるナノチューブのグラム数)を示すが、このような優れた活性は生産性1グラムの触媒組成物が形成するナノチューブのグラム数)を犠牲にしてしか得られない。特許文献1(国際特許第WO 03/002456号公報)に記載の方法では金属触媒活性A*は13.1、触媒活性Aは0.46であるが、生産性は0.46にしかならない。
【0009】
現在では、経済的および産業的な観点から、ナノチューブの場合には(すなわち他の形状のカーボン、例えば煤、繊維等とは違って)、反応の選択性や反応活性が高く、反応が速いだけでなく、生産性が高く、コストのかかる精製を必要とせず、ナノチューブから触媒を分離する必要がないことが望ましい。
【0010】
最近、沈殿・共沈または含浸によって製造した鉄または鉄/コバルト含有量の高いアルミナ触媒の使用が提案されている(下記文献参照)
【非特許文献2】Lyudmila B. Avdeeva et al in "Iron-containing catalysts of methane decomposition: accumulation of filamentous carbon", Applied Catalysis A: General 228, 53-63 (2002)
【0011】
最高の結果はFe/Co/Al2O3触媒(鉄50重量%、コバルト6重量%)で得られ、40時間後の生産性は52.4で、金属触媒活性A*はが2.34、触媒活性Aは1.31である。得られた材料はカーボンナノチューブとその他の繊維構造物を含み、選択性が悪い。
【0012】
従って、高い比率の金属を有する触媒を含浸または沈殿で作ると、生産性は増加できるが、活性および/またはナノチューブ生産の選択性が悪くなる。
いずれにせよ、カーボンナノチューブを製造する触媒の作用に関するメカニズムはほとんど説明されておらず、ほとんど制御されていない。これまでのプロセスおよび触媒は基本的に経験的な方法で定義されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、驚くような高い性能を有する触媒を用いかプロセスを提供することによって従来の課題を解決することにある。
本発明の一つの目的は、高い生産性、特に約25以上の生産性と、高い活性、特に約10以上の活性と、生産されるカーボンナノチューブ(特に多重壁(multiwalled)ナノチューブ)の極めて高い選択性、特に90%以上さらには100%に近い選択性とを同時に達成できる方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、工業的スケールで製造するという制約を満足するような生産速度と収率で、規則化されたカーボンナノチューブ、特に多重壁ナノチューブを製造できるプロセスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、気体状態の炭素源を、鉄を含む少なくとも一種の遷移金属の酸化されていない金属の被覆(鉄金属皮膜という)を有する多孔質アルミナ担体から成る、粒子の形をした少なくとも一種の担持固体触媒(触媒粒子という)と接触させる、炭素源の分解によって規則化されたカーボンナノチューブを選択的に製造する方法において、
使用する担持固体触媒が(1)25μm〜2.5mmの平均粒径を有し、(2)上記鉄合金皮膜がアルミナ担体のマクロ形状の表面の75%以上(気孔率は考えない)を被覆している触媒粒子から主として成ることを特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の鉄金属皮膜は、複数の凝集した金属球から成る少なくとも一つのクラスタから成るのが有利である。本発明の鉄金属皮膜は、金属球から成る均一な連続した鉄合金の表面層を形成するのが有利である。各クラスタ、特に鉄合金の層は小球(bulbs)すなわち相互に凝集して丸くなった小球(globules)から成る。
【0017】
理解し難いことであり、また、従来技術の教えとは完全に矛盾するが、本発明者は、酸化されていない鉄金属皮膜から成る触媒、特にアルミナ担体の75%以上を覆った小球のクラスタの形または連続層の形で作られた触媒は公知の触媒に比べてはるかに高い性能を有し、特に、高い活性および高い生産性と、ほぼ100%に近いカーボンナノチューブ生産の選択性とを同時に有するという事実を見出した。
【0018】
本発明では、鉄金属皮膜はアルミナ担体の気孔にアクセスできないようにアルミナ担体を被覆するように設計されるのが好ましい。この気孔(メソ多孔質なアルミナの場合にはメソ気孔、mesopores)が金属被覆によってアクセスできないようなるということは、鉄金属皮膜の存在によって比表面積が変化することを測定するか、および/または、残留するメソ気孔および/またはミクロ気孔の容積を計算して簡単に確認でき、および/または、アルミナ担体の成分元素が表面にアクセスできなくなっていることはXPS分析で証明できる。特に、本発明組成物は気孔にアクセスできない粒子に対応する比表面積を有している。
【0019】
本発明の各触媒粒子は多孔質アルミナのコアの周りの閉表面の少なくとも一部を覆った均一な連続した表面層を形成する酸化されていない鉄金属の皮膜を有するのが好ましい。
【0020】
「連続」層とは、他の性質、種類の部分(特に酸化されていない鉄金属皮膜を含まない部分)を通らないでその層の全表面を連続して通ることができるということを意味する。従って、鉄金属皮膜は各アルミナ粒子の表面上に分散しているのではなく、連続層を形成し、そのみかけの面積は実質的に粒子の面積に対応する。また、この層は鉄または鉄を含む複数の金属から成り、その全容積が全く同じ固形組成を有するという意味で「均一」であるともいえる。
【0021】
「閉表面」とはこの学術用語の意味で用いられる。すなわち、これは粒子のコアである有限な内部空間を区画し、取り囲む表面を意味し、種々の異なる形状(球、多面体、プリズム、トーラス、円筒、コーン、その他)をとることができる。
【0022】
鉄金属皮膜は、触媒粒子の製造直後およびその後に触媒を酸化媒体中に存在させないかぎり、触媒粒子の外側層を形成する。触媒組成物を大気と接触させた場合には外周に酸化物層ができることになる。この酸化物層は必要に応じて、触媒粒子の使用前に、還元処理で除去することができる。
【0023】
本発明では、鉄金属皮膜はアルミナ担体上に元素金属を析出する(すなわち、一種または複数の金属を元素状態すなわち原子またはイオン状態で析出する)単一段階で作るのが好ましい。従って、鉄合金層は固体アルミナ担体上に単一段階で形成される元素状の鉄金属皮膜の一部を形成する。この単一段階で形成される元素金属の被覆は真空蒸着(PVD)または化学気相成長(CVD)または電気メッキで形成することができる。
【0024】
上記被覆は液相で複数の工程で実行する方法では得られない。特に、沈殿法、含浸法、融解状態で析出し、凝固する方法、さらには一種または複数の金属酸化物を析出させ、その後に金属酸化物を還元する方法では得られない。本発明方法で使用される触媒組成は純金属部品を冶金的方法でミリング(研磨)して得られる組成物とは全く相違する。すなわち、単一段階で作られる元素金属の被覆は金属の結晶性ミクロドメインから形成される。この元素金属の被覆は互いに凝集(会合)した金属小球(丸くなった小球)から成る。
【0025】
本発明では、上記小球が10nm〜1μmの平均寸法を有するのが好ましく、特に30nm〜100nmの平均寸法を有するのが好ましい。
【0026】
本発明では、鉄金属皮膜が粒子(これ自身が閉表面)のマクロ形状(肉眼で見える形状)の表面(気孔率を考慮に入れないエンベロープ表面)の90%〜100%を被覆するのが好ましい。鉄金属皮膜によるアルミナ担体の表面の上記被覆率はXPS分析で決定することができる。すなわち、鉄金属皮膜は閉表面の90%〜100%を覆って延びている。
【0027】
本発明では鉄金属皮膜は0.5μm以上の厚さ、特に約2〜20μmの厚さを有しているのが好ましい。さらに、本発明の各触媒粒子の鉄金属皮膜の見掛けの平均表面積(粒子の外側表面上の)は2×103μm2以上であるのが好ましい。特に、本発明では各触媒粒子の鉄金属皮膜の見掛けの平均表面積は104μm2〜1.5×105μm2であるのが好ましい。
【0028】
さらに、本発明では、各触媒粒子の酸化されていない鉄金属皮膜の展開全平均寸法(developed overall mean dimension)は35μm以上であるのが好ましい。この展開全平均寸法は鉄金属皮膜を一つの面内に展開したときの鉄金属皮膜を累積したディスクの相当半径(equivalent radius)である。本発明では、各触媒粒子の酸化されていない鉄金属皮膜の展開全平均寸法は200μm〜400μmであるのが好ましい。
【0029】
本発明方法の特徴は、流動床が形成できるような形状および寸法を有する触媒粒子の形をした担体触媒を使用し、反応器中で流動床を形成し、この反応器中に炭素源を連続的に供給して、触媒粒子のベッドが流動化され且つ分解反応とナノチューブの生成が行われるのに適した条件下で、触媒粒子と接触させる点にある。
【0030】
特に、本発明で使用する担体触媒の平均粒径(D50)は100μm〜200μmであるのが好ましい。触媒粒子の形は全体が実質的に球形であってもなくてもよい。本発明は触媒粒子が相対的にフラットな形(フレーク、平板等)および/または細長い形(シリンダ、ロッド、リボン等)にも適用できる。
【0031】
本発明では各粒子がアルミナのコアを上記の鉄金属皮膜から成るシェルで被覆したものから成るのが好ましい。すなわち、本発明では上記鉄金属皮膜が多孔質アルミナ担体の全表面を被覆し、その気孔にアクセスできないようにする金属のシェルを形成している。各粒子の形はアルミナのコアの形状と、このコア上に形成される鉄金属皮膜の成膜条件に依存する。
【0032】
本発明では、アルミナの比表面積は100m2/g以上であるが、担体触媒の比表面積は25m2/g以下である。
鉄金属皮膜の厚さの少なくとも一部は多気孔質アルミナコアの厚さの内部まで延びており、および/または、多孔質性コアに対して少なくとも部分的に過剰な厚さ(overthickness)である点に留意する必要がある。
しかし、精密に、そして、明らかに鉄金属皮膜を注入される多孔質アルミナのコアとアルミナのコアから外に形成された純粋な鉄合金の層との間の界面や、両者の相対位置を決定するのは必ずしも簡単なことではない。
【0033】
本発明で使用する担体触媒は鉄金属皮膜を20重量%以上、特に約40重量%含むのが好ましい。
本発明の鉄金属皮膜は鉄のみから成るのが好ましい。
本発明の変形例では、鉄金属皮膜は鉄と、ニッケルおよびコバルトの中から選択される少なくとも一種の金属とから成るのが好ましい。その理由は、Fe/NiまたはFe/Coの二元金属触媒は他の全ての条件を同じにして鉄のみから成る触媒と類似した結果を与えるということが知られているからである。鉄金属皮膜は鉄を主体とするのが好ましい。
【0034】
本発明方法で使用する担体触媒組成は上記の粒子を主にして構成する、すなわち、上記粒子を50重量%以上、好ましくは90重量%以上含むのが好ましい。
【0035】
本発明はさらに、不純物を除いて上記粒子のみから成る担体触媒組成物、すなわち上記または以下で定義する特徴の全てまたはいくつかを有する触媒粒子組成物を使用する、規則化されたカーボンナノチューブの選択的製造方法に関するものである。上記の高性能担体触媒を使用することで最初の炭素源の量をかなり増加させることができる。
【0036】
従って、本発明方法では、担体触媒の金属の量、特に反応器中に存在する時の量に対する最初の炭素源の質量、特に1時間当りに反応器中に供給されるカーボンの量の比が100以上になるような炭素源の量が使用される。本発明の炭素源はエチレンであるのが好ましい。他のカーボン含有ガスを使用することもできる。
【0037】
本発明の上記以外の目的、特徴および利点は添付図面を参照した実施例に関する以下の説明から明らかになるであろう。
【0038】
[図1]は本発明の微細な固体触媒組成物の製造方法を実施するための設備の図である。この設備は化学蒸着法(CVD)によって触媒組成物を合成するための沈着反応器(deposition reactor)20とよばれる反応器を備えている。この反応器は有機金属先駆体が導入されるガラス昇華器1を備えている。この昇華器1は焼結板を有し、熱浴2によって所望温度まで加熱することができる。有機金属先駆体の蒸気を随伴する不活性キャリヤーガス3(例えばヘリウム)はボトルに貯蔵され、流量調整弁(図示せず)を介して昇華器1に送られる。
【0039】
昇華器1は反応器の焼結板を備えた下側ガス室4に連結され、この下側ガス室4には有機金属先駆体の分解を活性化させる役目をする水蒸気が導入される。水の存在によって不純物を全く含まない酸化されていない金属被膜(気体/水置換反応による)、従って、高活性な触媒を得ることができる。下側ガス室4は温度調整器(図示せず)によって調節可能な温度にサーモスタット制御されたジャケットを有する。水蒸気は不活性キャリヤーガス5、例えば窒素に随伴される。キャリヤーガス5はボトルに貯蔵され、流量調整弁(図示せず)を介して下側ガス室4へ送られる。また、不活性キャリヤーガス6、例えば窒素を必要な流量に調整して供給して流動化状態を達成する。この不活性キャリヤーガス6はボトルに貯蔵され、流量調節弁(図示せず)を介して下側ガス室4中に供給される。
【0040】
下側ガス室4の頂部をガラス流動カラム7(例えば直径5cm)に密封状態で連結する。このガラス流動カラム7は底部にガス分配器を備え、温度調整器8によって調節可能な温度にサーモスタット制御されるジャケットを有している。ガラス流動カラム7の頂部はトラップを介して真空ポンプ9に連結され、放出された分解ガスが回収される。
【0041】
CVDによる本発明触媒の製造実施例の操作手順は下記の通りである。
質量Mpの先駆体を昇華器1に導入する。質量Mgの支持体粒子をカラム7に注入し、シリンジを用いて所定量(例えば約20g)の水を下側ガス室4に導入する。下側ガス室4とカラム7とから成る組立体の内部を排気し、流動床の温度をT1に上げる。
昇華器1を温度Tsに加熱し、キャリヤーガス3、5、6(全流量Q)を導入して装置全体の圧力を値Paに設定する。デポジション(析出、沈着)プロセスが開始し、時間Tdの間、デポジションプロセスが続く。
【0042】
デポジションの最後にゆっくり冷しながら温度を室温に戻し、真空ポンプ9を停止する。システムが室温・大気圧に戻った後に、触媒の粒状組成物を不活性ガス雰囲気(例えば窒素雰囲気)下にカラム7から取出す。この組成物は直ちに使用でき、例えば成長反応器30中でナノチューブの製造に使用できる。
【0043】
成長反応器30は石英の流動カラム10(例えば直径2.6cm)で構成され、その中間部には分配板11(石英フリットから成る)が設けられている。この分配板11上に触媒の粒状組成物を置く。流動カラム10は外部オーブン12を用いて所望温度に加熱できる。この外部オーブン12は流動カラム10に沿って垂直方向へスライドさせることができる。このオーブン12は流動床を加熱しない高い位置か流動床を加熱する低い位置かのいずれかの位置で用いられる。流動カラムに供給されるガス13(ヘリウムと炭素源と水素のような不活性ガス)はボトルに貯蔵され、流量調節弁14を介して供給される。
【0044】
流動カラム10の頂部はトラップ15に密封状態で連結されて、触媒粒状組成物または触媒粒状組成物/ナノチューブ混合物の全ての微粉末を回収する。
流動カラム10の高さは、運転中に触媒粒子の流動床を収用できるような高さに合わされている。特に、流動カラム10の高さはガスの高さの少なくとも10〜20倍に等しく、加熱帯域に対応していなければならない。実施例では全高が70cmのカラム10が用いられ、その60cmの高さが外部オーブン12によって加熱される。
【0045】
ナノチューブを製造するための本発明実施例の運転手順は下記の通りである:
質量Mcの触媒(本発明の粒状組成物)を不活性ガスの雰囲気と一緒に流動カラム10中に導入する。外部オーブン12が触媒床に対して低い位置にあるときにその温度を所望温度Tnに加熱して、不活性ガス雰囲気中または不活性ガス/水素(反応性ガス)混合物中でナノチューブを合成する。
【0046】
上記温度に達したときに炭素源、水素および追加の不活性ガスを流動カラム10に導入する。触媒床の温度Tnで排出なしにバブリング状態が確保されるような全流量QTにする。次に、ナノチューブの成長を開始し、それを時間tnの間続ける。成長後、外部オーブン12を触媒床に対して高い位置へ位置させ、炭素源と水素とに対応するガスの流れを止め、温度をゆっくりと冷して室温に戻す。
【0047】
金属粒子と結合し、支持体粒子に析出、付着したカーボンナノチューブを成長反応器30から取出し、貯蔵する。これは特別な注意なしに行なうことができる。析出、付着した炭素の量は秤量および熱重量分析して決定する。
こうして製造したナノチューブの寸法および分散度は透過電子顕微鏡法(TEM)および走査電子顕微鏡法(SEM)で測定し、ナノチューブの結晶性の評価はX線結晶学およびラマン分光法の解析で行なった。
【実施例】
【0048】
実施例1
上記のした流動層CVD法で24重量%Fe/Al2O3を含む触媒組成物を調製した。キャリヤーガスは窒素にした。有機金属先駆体はカルボニルペンタ鉄にし、支持体は120μm〜150μmの間の粒子を分級したメソ多孔質のγ-アルミナ(気孔容積:0.54cm3/g)で、比表面積は160m2/gである。
運転条件は以下の通り:
Mg=50g、
Mp=15.8g、
T1=220℃、
Pa=40トール、
Ts=35℃、
Q=250cm3/分、
td=95分
【0049】
得られた組成物は鉄球のクラスタで被覆されたアルミナ粒子から成り(鉄球の平均寸法は約20nmである)、XPS分析(図3)で測定したアルミナ表面はアルミニウムを22%含む表面組成で被覆されていた。
【0050】
実施例2
例1において、指示を出したように、この例の目的はアルミナ(Al2O3)上の40のwt%鉄から成っている担体触媒組成を調製することである、以下の操作条件以外を有する:
Mg=25g、
Mp=58.5g、
T1=220℃、
Pa=40トール、
Ts=35℃、
Q=250cm3/分、
td=200分
得られた組成物は寸法が30nm〜300nmの鉄の小球のクラスタから成る鉄のシェルで完全に覆われたアルミナ粒子から成る([図4]および[図5])。最終材料の比表面積は8m2/gで、XPS分析から表面にアルミニウムはもはや存在しないことが示された。
【0051】
実施例3
[図2]の設備で実施例1の24%Fe/Al2O3触媒を用い、炭素源としてエチレンガスを用いて、多重壁カーボンナノチューブを製造した。運転条件は以下の通り:
Mc=0.100 g、
Tn=650℃、
Q(H2)=100cm3/分、
Q(C2H4)=200cm3/分、
Z=500(反応器中に存在する鉄の量に対する1時間に導入したカーボンの量の比)、
tn =120分:
A=13.4 (1時間当り1gの触媒組成物が生産するナノチューブ1g当りの活性)、
P=26.8 (1gの触媒組成物が生産するナノチューブの生産性、グラム表示)。
多重壁ナノチューブに対する選択性はほぼ100%に近い。
【0052】
実施例4
[図2]の設備で実施例2の40%Fe/Al2O3触媒を用い、炭素源としてエチレンガスを用いて、多重壁カーボンナノチューブを製造した。運転条件は以下の通り:
Mc=0.100 g、
Tn=650℃、
Q(H2)=100cm3/分、
Q(C2H4)=200cm3/分、
Z=300
tn =120分の場合:A=15.6、P=30.3
tn =240分の場合:A= 9.9、P=39.6
いずれの場合でも多重壁ナノチューブに対する選択性はほぼ100%に近い。
【0053】
いずれの場合でも得られたものは10以上の高い触媒活性A(1時間当り1gの触媒組成物が生産するナノチューブのグラム数で表される)を示すと同時に、25以上の高い生産性P(1gの触媒組成物が生産するナノチューブのグラム数で表す)を示し、ナノチューブの選択性も100%に近い。
【0054】
この結果は極めて驚くべきものである。すなわち、公知の全ての触媒では優れた活性A*が得られたときには生産性が低くなる(支持体上の金属の比率が低い触媒の場合)か、反対に高い生産性が得られるが活性が低くなる(金属の比率が高い触媒の場合)かのいずれかである。これらのパラメータは両方とも現在の工業的生産ラインでは重要である。選択性と生産性との両方が良くなることで後の精製段階を省略することが可能になる。また、高い活性によって反応時間を最小にすることができる。
【0055】
[図6]も実施例4で得られたナノチューブの直径は主として25nm〜約10nmであることを示している。これに対して触媒組成物粒子の直径は約150μmで、鉄の小球の寸法は30〜300nmである。この結果も再び驚くべきであり、全て従来の教え反しており、説明ができない。
【0056】
[図7a]と[図7b]は実施例4で作られたナノチューブでの高い選択性を示している。これまでの公知方法ではナノチューブ中に残った残留多孔質支持体を除去する必要があったが、本発明ではその比率が低いので、直接使うことができる。
比較例5
【0057】
実施例1に示すようにして得た5% Fe/Al2O3触媒から以下の運転条件で多重壁カーボンナノチューブを製造した:
Mg=100g、
Mp=18.45g、
td=21分
カーボンナノチューブは[図2]に示す設備を用い、炭素源としてエチレンガスを使用して製造した。ナノチューブを製造するための運転条件は以下の通り:
Mc=0.100 g、
Tn=650℃、
Q(H2)=100cm3/分、
Q(C2H4)=200cm3/分、
Z=2400
tn =30分の場合:A=1.6、P=0.8
この結果から分るように、粒子表面の被覆率が75%の付着量の少ない触媒を使用し場合にはナノチューブの選択性はほぼ100%近くに維持されるが、高い値のAとPを得ることはできない。
【0058】
比較例6
上記の流動層CVD法を用いて20重量%Fe/Al2O3触媒組成物を製造した。キャリヤーガスは窒素にした。有機金属先駆体はカルボニルペンタ鉄で、支持体は無孔のα-アルミナにした(比表面積(BET法):2m2/g)。運転条件は以下の通り:
Mg=50g、
Ma=14g、
T1=220℃、
Pa=40トール、
Ts=35℃、
Q=250cm3/分、
td=15分
得られた組成物はアルミナの表面を完全に被覆した鉄の小球のクラスタから成るシェルで覆われたアルミナ粒子で形成されているが、表面組成にアルミニウムが存在しないことはXPS分析で確認した。
【0059】
この鉄/無孔アルミナ触媒から[図2]に示す設備で炭素源としてエチレンガスを使用して多重壁カーボンナノチューブを製造した。運転条件は以下の通り:
Mc=0.100 g、
Tn=650℃、
Q(H2)=100cm3/分、
Q(C2H4)=200cm3/分、
Z=500
tn =60分の場合:A=0.9、P=0.2
【0060】
この結果は、本発明触媒(実施例1)で得られるものに比べて同じ運転条件下で30倍劣ることを示している。さらに、透過型電子顕微鏡および熱重量分析で評価した選択性も低かった。
以上の結果は、金属シェルのためにアクセスができらないコアが多孔質か無孔かの2つの触媒組成物の種類の差のみでは説明できない。
本発明は上記実施例以外の種々の変形例、適用例をも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明方法で使用可能な触媒組成物の製造設備の一つの実施例の概念図。
【図2】本発明方法でカーボンナノチューブを生産するための設備の一つの実施例の概念図。
【図3】実施例1で得られた本発明方法で使用可能な触媒組成物粒子表面の顕微鏡写真。
【図4】本発明方法で使用可能な実施例2で得られた触媒組成物粒子表面の顕微鏡写真。
【図5】本発明方法で使用可能な実施例2で得られた触媒組成物粒子表面の顕微鏡写真。
【図6】実施例4で得られたナノチューブの直径のブンプを示すグラフ。
【図7a】実施例4で得られたナノチューブの一つのスケールでの顕微鏡写真。
【図7b】実施例4で得られたナノチューブの別のスケールでの顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体状態の炭素源を、鉄を含む少なくとも一種の遷移金属の酸化されていない鉄金属皮膜とよばれる金属被覆を有する多孔質アルミナ担体から成る、触媒粒子とよばれる粒子の形をした少なくとも一種の担持固体触媒と接触させる、炭素源の分解によって規則化されたカーボンナノチューブを選択的に製造する方法において、
使用する担持固体触媒が
(1)25μm〜2.5mmの平均粒径を有し、
(2)上記鉄合金皮膜がアルミナ担体のマクロ形状の表面の75%以上を被覆している、
触媒粒子から主として成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
鉄金属皮膜が複数の互いに凝集した金属球から成るクラスタの形をしている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
鉄金属皮膜が金属球から成る均一な連続した鉄合金表面層を形成している請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
鉄金属皮膜が、アルミナ担体の気孔にアクセスできないように、アルミナ担体を覆っている請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アルミナ担体上に元素金属を単一ステップで析出させて鉄金属皮膜を形成する請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記の金属球が10nm〜1μmの平均寸法、特に30nm〜100nmの平均寸法を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
各触媒粒子の酸化されていない鉄金属皮膜の展開全平均寸法が35μm以上である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
各触媒粒子の酸化されていない鉄金属皮膜の展開全平均寸法が200μm〜400μmである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
各触媒粒子の鉄金属皮膜の見掛けの平均表面積が2×103μm2 以上である請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
各触媒粒子の鉄金属皮膜の見掛けの平均表面積が104μm2 〜1.5×105μm2である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
流動床が形成できるような形状および寸法を有する触媒粒子の形をした担体触媒を使用し、反応器中で流動床を形成し、この反応器中に炭素源を連続的に供給して、触媒粒子のベッドが流動化され且つ分解反応とナノチューブの生成が行われるのに適した条件下で、触媒粒子と接触させる請求項1〜10の一つに記載の方法。
【請求項12】
担体触媒の平均粒径が100μm〜200μmである請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
鉄金属皮膜が粒子の表面の90%〜100%を被覆している請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
鉄金属皮膜が金属シェルを形成し、この金属シェルは気孔にアクセスできないように多孔質アルミナ担体の全表面を被覆している請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
鉄金属皮膜の厚さが0.5μm以上、特に、約2〜20μmである請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
多孔質アルミナのコアが100m2/g以上の比表面積を有し、担体触媒の比表面積が25m2/g以下である請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
酸化されていない鉄金属皮膜の比率が20重量%以上である担体触媒を使用する請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
鉄金属皮膜が主として鉄から成る請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
鉄金属皮膜が鉄のみから成る請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
鉄金属皮膜が鉄とニッケルおよびコバルトから選択される少なくとも一種の金属とから成る請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
出発時に供給する1時間当りの炭素源のカーボンの質量の担体触媒の金属の質量に対する比が100以上となるような炭素源の量を使用する請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
炭素源がエチレンである請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−503435(P2008−503435A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517354(P2007−517354)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001542
【国際公開番号】WO2006/008385
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(506428713)アンスティテュ ナショナル ポリテクニーク ドゥ トゥールーズ (5)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】