説明

視覚障害者支援装置

【課題】 社会的インフラストラクチャに依存せず、また付添い人の介護も必要とせず、単独で安全に視覚障害者が横断歩道を渡るための携帯型視覚障害者支援装置を提供する。
【解決手段】 ケーブルあるいはワイヤレス方式で、眼鏡5などに装着された超小型カメラ1とポケットサイズモバイルコンピュータ2を接続し、スイッチ4を押したときに取得された横断歩道の画像情報を、このポケットサイズモバイルコンピュータ2にインストールされているコンピュータ・ビジョンに基づくソフトウェアによって処理・解析・解釈し、得られた必要な情報を小型スピーカ3により視覚障害者に伝達する。横断歩道を安全に渡るために必要な3つの情報: 1) 眼前の道路領域が横断歩道か否か, 2) 道路幅, 3) 信号灯の色, を視覚障害者に音声で伝達することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚障害者が単独で安全に横断歩道を渡るための携帯型の視覚障害者支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
視覚障害者が市街を歩行するとき通常、白杖を用いる。また、盲導犬を伴うこともある。一方、エレクトロニクス技術によって開発された視覚障害者支援装置に2つのタイプ、すなわち、携帯型支援装置と、社会的インフラストラクチャに依存する支援装置がある。
【0003】
まず、携帯型支援装置として、SONICGUIDE, Mowat Sensor, Laser Caneがある。SONICGUIDE, Mowat Sensorは機器から発信された超音波の障害物による反射を利用して、障害物までの距離を計測して視覚障害者に音の高低や振動の周波数によってその距離情報を視覚障害者に伝達するものである(例えば、非特許文献1、2参照。)。
【0004】
Laser Caneは装置から発射されたレーザ光が障害物から反射するのを、発光レーザに対して幾何学的配置の異なる3つの受光センサで受光することによって、障害物までの距離を計測して、音の高低や振動の周波数によって距離情報を視覚障害者に伝達するものである(例えば、非特許文献3参照。)。
【0005】
一方、社会的インフラストラクチャに依存する支援装置として音声案内装置と視覚障害者誘導システムがある。警察庁を中心とする国家プロジェクトとして、横断歩道の設備をバリアフリー化する目的で音声案内装置を信号灯に併設することが検討されている。この音声案内装置に反応する特殊な機器を携帯する視覚障害者が横断歩道に近づいたとき、視覚障害者の接近を感知した音声案内装置から信号灯の色の状態に関する情報が視覚障害者の携帯する装置に送信され音声で伝達される。
【0006】
また、視覚障害者誘導システムは視覚障害者が携帯するカメラとGPS端末の情報が無線で遠隔地にいる誘導者に送られ、それを見ながら誘導者が無線を使って指示を視覚障害者に送り返して音声で誘導するシステムである。
【非特許文献1】L.Kay,A sensor and to enhance spatial perception of the blind, engineering design and evaluation,Radio and Electron. Eng., Vol.44(1974)pp.605-29.
【非特許文献2】D.L.Morrissette et al. ,A follow-up study of the mowat sensor's applications, frequency of use, and maintenance reliability,J. Vis. Impairment and Blindness, Vol.75(1981) pp.244-7.
【非特許文献3】J.M.Benjamin,The new C-5 laser cane for the blind,Proc. Carnahan Conf. on Electronic Prosthetics, (1973) pp.77-82.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、白杖は障害物検知範囲が狭いという欠点を有する。その上、横断歩道を渡ろうとするとき必要な3つの情報: 1) 眼前の道路領域が横断歩道か否か, 2) 道路幅(横断歩道の長さ), 3) 信号灯の色, を白杖によって得ることができない。
【0008】
また、盲導犬は訓練するのに非常に長い時間を要し、絶対数が少ないという欠点を有する。さらに、犬を好まない視覚障害者には不向きである。
【0009】
また、SONICGUIDEは眼鏡に設置された超音波発信・受信器から得られた障害物までの距離情報を音の高低によってイアホンで伝えるものである。それ故、視覚障害者にとって重要な残存感覚である聴覚をイアホンによって塞ぐことになるのが欠点である。
【0010】
また、Mowat Sensorは超音波発信・受信器を手に持ち前方を走査しながら障害物を検知するものである。白杖とMowat Sensorを併用するときこれらの2つを手に持たなければならないので、両手が塞がり他の荷物を持つことができない不便さが欠点である。
【0011】
また、Laser Caneは発光レーザと受光センサ方向の交わる領域の障害物のみを検知できるもので、検知したい障害物までの距離が変われば、それに応じて発光レーザと受光センサの相対的方向を変えて設置しなければならないという欠点がある。
【0012】
上記のSONICGUIDE, Mowat Sensor, Laser Caneはいずれも白杖と同様、横断歩道を渡るときに必要な3つの情報: 1) 眼前の道路領域が横断歩道か否か, 2) 道路幅(横断歩道の長さ), 3) 信号灯の色, を得ることができないという欠点も有する。
【0013】
また、音声案内装置も横断歩道を渡るときに必要な上記3つの情報のうち、横断歩道の位置と信号灯の色の2つの情報しか得られない。更に、音声案内装置は全国全ての横断歩道に設置されているわけでなく、全ての横断歩道に普及するまでには国家予算と工事の関係で相当長い時間が掛かると思われる。
【0014】
また、無線誘導システムは付添い人が視覚障害者のそばで誘導する代わりに遠隔地に居ながら誘導するシステムであり、視覚障害者が単独で安全に歩行することを可能とするものではない。更に、この無線誘導システムはGPS(Global Positioning System)の情報に頼るシステムであるので、ニューヨークのようにビルが林立するような大都会ではGPSの電波が届かない場合がある。そのため、場所によっては有効でないという重大な欠点を有する。
【0015】
そこで、本発明は、このような課題を解決するため、社会的インフラストラクチャに依存せず、また付添い人の介護も必要とせず、単独で安全に視覚障害者が横断歩道を渡るための携帯型の視覚障害者支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る視覚障害者支援装置は、環境を撮像する撮像部と、前記撮像部で得られた撮像情報から横断歩道の検知を行う横断歩道検知部とを備えることを特徴とする。
【0017】
さらに、前記横断歩道検知部は、前記横断歩道のゼブラパターンの特徴点をフィッシャー規範(Fisher criterion)の局所最大点によって抽出することを特徴とする。
【0018】
さらに、前記横断歩道検知部は、複数の前記特徴点から射影不変量を複数個算出し、前記複数の射影不変量のうち参照値からのずれが前記参照値の所定の割合以内にある前記射影不変量の個数が所定値以上のとき、前記横断歩道が存在すると判断することを特徴とする。
【0019】
さらに、前記横断歩道検知部での検知結果を音声に変換する音声変換部を備えることを特徴とする。
【0020】
さらに、前記撮像部で得られた撮像情報から信号灯及び信号灯の色を検知する信号検知部を備え、前記音声変換部は、前記信号検知部での検知結果を音声に変換することを特徴とする。
【0021】
さらに、前記撮像部で得られた撮像情報から前記横断歩道の道路幅を計測する道路幅計測部をさらに備え、前記音声変換部は、前記道路幅計測部での計測結果を音声に変換することを特徴とする。
【0022】
さらに、前記撮像部は単眼方式であることを特徴とする。
【0023】
さらに、前記撮像部をユーザに装着する装着部を備えることを特徴とする。
【0024】
さらに、動作の開始を検出する操作部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る視覚障害者支援装置により、視覚障害者が横断歩道を単独で安全に渡ることができるようになる。本発明の携帯型視覚障害者支援装置は、操作部を簡単に操作するだけで渡ろうとする道路に関して3つの情報:1) 眼前の道路領域が横断歩道か否か, 2) 道路幅, 3) 信号灯の色, を得ることができる。そのため、自動車が頻繁に往来する危険な横断歩道を単独で安全に渡ることができる。その上、Mowat Sensorのように手に持つ必要がないため両手を塞ぐことがない。
【0026】
また、カメラをステレオ方式でなく、単眼方式にしているため、構造的に簡単であり装着するときの重さの負担が軽くてすむ。更に、ステレオ方式では必要となるカメラ間のキャリブレーションの手間が省ける。
【0027】
また本発明は、信号灯に併設される音声案内装置のように特別に前もって設置されなければならない社会的インフラストラクチャに依存する必要がないため、社会的インフラストラクチャの設置を待つことなく、本視覚障害者支援装置を使用するだけですぐにでも視覚障害者が自由にまた、付添い人の介護も必要とせず単独で行動できる。更に、本視覚障害者支援装置を用いることによって視覚障害者が付添い人を必要としないため、彼らが付添い人に気兼ねする必要がなく自由に行動できる。それ故、彼らの行動範囲が自然と広がる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下では、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明を行う。
【0029】
図1に示すように、本発明に係る視覚障害者支援装置10は、眼鏡5など人間の目の高さ付近に装着されて横断歩道の画像情報を取得する超小型カメラ1と、超小型カメラ1とケーブルあるいはワイヤレス方式で接続されて、視覚障害者が視覚障害者支援装置10に動作の開始を伝えるためのスイッチ4等を備えるポケットサイズモバイルコンピュータ2と、視覚障害者の耳の近くに装着されて、ケーブルあるいはワイヤレス方式でポケットサイズモバイルコンピュータ2に接続された小型スピーカ3とを備える。視覚障害者支援装置10は、ポケットサイズモバイルコンピュータ2にインストールされているコンピュータ・ビジョンに基づくソフトウェアによって処理・解析・解釈し、以下に示す3つの情報を得る(詳細は後述する。)。
1.横断歩道の検知: 横断歩道に存在する白色ラインのゼブラパターンの特徴を用いて、眼前の道路領域が横断歩道か否かを検知する。
2.道路幅の計測: 横断歩道に存在する白色ラインのエッジ線から、カメラ座標系を用いた射影幾何学により単眼画像情報から三次元情報を抽出する手法で道路幅(横断歩道の長さ)を画像計測する。
3.信号灯の色の検知: 信号灯の赤、緑の色類似度を用いて、画像情報から信号灯候補領域を抽出し、候補領域での色類似度パターンの規範(例えば、アフィン不変量の参照辞書値からの距離など)によって真の信号灯領域を選別し、現在の点灯している色(赤か緑か)を検知する。
【0030】
最終的に、ポケットサイズモバイルコンピュータ2にインストールされているコンピュータ・ビジョンに基づくソフトウェアで得られた上記3つの情報を、音声に変換し、視覚障害者の耳の近くに装着された小型スピーカ3から音声を伝達する。
【0031】
次に、横断歩道の検知について説明を行う。
【実施例1】
【0032】
図2に、横断歩道の検知のためのフローチャートを示す。まず、スイッチ4が押されたとき、超小型カメラ1でカラー原画像を取得する(S1)。次に、横断歩道に存在する白色ラインのゼブラパターンの白と黒の情報を得るためにカラー原画像を濃淡画像に変換する(S2)。変換の際、色相H、彩度S、濃淡値Lから構成されるHSL(Hue Saturation Lightness)カラー空間における濃淡値Lを用いる。次に、ゼブラパターンの白と黒の変わり目の特徴点をフィッシャー規範(Fisher criterion)によって抽出し(S3)、射影不変量を算出し(S4)、横断歩道の検知を行う(S5)。この3つの処理(S3〜S5)の詳細を以下に示す。
【0033】
図3に示すように、フィッシャー規範(Fisher criterion)を算出するために、画像中の注目点21(図の○印)にウィンドウ22を設定する。注目点21の上側に同じ大きさ(幅の画素数1、長さの画素数win)のウィンドウ23〜25及び下側にも同様にウィンドウ26〜28を設定する。ただし、画素はデジタル画像の2次元座標空間を離散的に表現する単位である。上側ウィンドウ23〜25に属する画素の持つ濃淡値の集合を第1のクラスとする。また、下側ウィンドウ26〜28の同様の集合を第2のクラスとする。
【0034】
それぞれのクラスにおける濃淡値(grayscale)の頻度分布(histogram)を求めると図4のようになる。もし、図3のように注目点21が白と黒の境界29にあるならば、第1のクラスの頻度分布は濃淡値の高い位置にピークをもち、第2のクラスの頻度分布は濃淡値の低い位置にピークを持つ。第1のクラスおよび第2のクラスの頻度分布のばらつきを表す2つの分散の平均をクラス内分散と呼ぶ。また、第1のクラスおよび第2のクラスの頻度分布の2つの平均m1とm2の差の2乗に第1のクラスおよび第2のクラスの出現確率を乗じた値をクラス間分散と呼ぶ。クラス間分散のクラス内分散に対する比をフィッシャー規範(Fisher criterion)と呼ぶ。すなわち、フィッシャー規範(Fisher criterion)は2つのクラスの頻度分布の分離の度合いを表す。もし、注目点21が白と黒の境界29から離れた場合、2つのクラスの頻度分布は重なりフィッシャー規範(Fisher criterion)は小さな値を持つ。もし、注目点21が白と黒の境界29にあれば、フィッシャー規範(Fisher criterion)は大きな値を持つ。したがって、フィッシャー規範(Fisher criterion)が局所的に最大となる点を見つけることによって白と黒の境界29の上の点である特徴点(すなわち、図3の注目点21)を抽出する。
【0035】
このように、フィッシャー規範(Fisher criterion)という評価式(目標関数)を最大にする最適手法を用いているため、本発明の手法は曇天や晴天に左右されることなく照明条件にロバストな特徴点抽出ができるという長所を有する。このように抽出された特徴点の例を図5に示す。図5では、画像の中央縦線に沿ってウィンドウを走査して特徴点31〜39を抽出した。
【0036】
3次元空間中の対象物を2次元の画像で観察するとき、非線形変換である射影変換を受ける(例えば3次元空間での平行線は画像中では平行にはならない。また、3次元空間で等間隔な点列は画像中では等間隔にはならない)。射影変換を受けても値が一定である量を射影不変量という。カメラの視点によって画像中の特徴点の位置関係は変化するが、射影不変量はこの変化の影響をうけずに一定な値を保持する。故に、射影不変量を横断歩道の検知に利用する。
【0037】
図6に示すような一直線上の4つの特徴点x1〜x4(例えば、図5における特徴点31〜34,32〜35など)から射影不変量が以下のように構成される。図6に示す特徴点x1と特徴点x2の間の距離をL12で表すとき、次式のIは射影不変量となることがわかっている[I..Weiss,Geometric invariants and object recognition,Int. J. of Comp. Vision, Vol.10(1993)pp.207-31. ]。
I = L 12L 34 /L 13L 24
図5に示す連続する4つの特徴点x1〜x4からこのIを算出し、参照辞書パターンでの射影不変量(0.25)と照合することによって、眼前の道路領域が横断歩道か否かを検知する。表1は図5に対応する4つの特徴点x1〜x4から算出された射影不変量を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
この実施例では、画面内に横断歩道が存在するので表1においては射影不変量が参照辞書の0.25に近いことを示している。特徴点の数をnとするとき、(n−3)個の射影不変量が得られるが、(n−3)個の射影不変量のうち参照辞書値からのずれが参照値の10%以内にある個数がmax[[(n-3)/5],1]以上のとき横断歩道が存在すると判断する。ここで[x]はx以下の最大整数を示す。また、max[a,b]はaとbのうち大きい方を示す。
【実施例2】
【0040】
次に、道路幅の計測について説明を行う。
【0041】
図7に、道路幅の計測のためのフローチャートを示す。カラー原画像の取得(S11)及びカラー原画像の濃淡画像への変換(S12)の各処理は、上記と同様である。次に、濃淡画像において閾値を設定し、閾値以上の濃淡値を白とし、閾値未満の濃淡値を黒として、横断歩道に存在する白色ラインを抽出する(S13)。次に、水平エッジラインの処理(S14)、垂直エッジラインの処理(S15)及び道路幅の計測(S16)を行う。この3つの処理(S14〜S16)の詳細を以下に示す。
【0042】
道路幅を計測するためには以下に定義する5本のエッジライン(L 1, L 2, L 3, L 4, L e)を用いる。図8に示すように、水平エッジラインL 1, L 2, L eをそれぞれ画像中の手前から第1番目、第2番目、最も遠くに観測される白色ラインのエッジラインとする。また、垂直エッジラインL 3, L 4を白色ラインの左右の境界を通る線とする。
【0043】
図9にカメラレンズの中心を原点Oとし、カメラ光軸をZ軸とするカメラ座標系を示す。X-Y面と平行で原点Oから焦点距離fの位置にある平面が画像面である。原点Oと水平エッジラインL 1,L 2を含む平面の面方位m1、m2が示されている。ここに面方位m1、m2は平面に垂直で単位長さのベクトルで定義される。面方位m1と面方位m2のベクトル外積をとり、長さを1に規格化したベクトルは水平エッジラインに対応する3次元空間での方向を表す図9に示すベクトルuとなる。なお、図9において表示されている記号の下付記号のiはi = 1, 2, eのように変わるものとする。
【0044】
ベクトルuと同様にして、垂直エッジラインL 3, L 4に対応する3次元空間での方向を表す図9に示すベクトルvは原点Oと垂直エッジラインL 3, L 4を含むそれぞれの平面の面方位m3、m4から求められる。
【0045】
ベクトルuとベクトルvのベクトル外積から道路平面の面方位nが求められる。道路平面の点をカメラ座標(X,Y,Z)で表し、ベクトルnの成分を(nx, ny, nz)で表せば、道路平面はカメラ座標系において次式で示される。
nxX + nyY + nzZ + d = 0
ただし、dはカメラ座標原点(レンズの中心O)の道路平面からの高さを示す。
【0046】
図10に示すようにカメラ座標原点Oと画像中のエッジラインL eを含む平面と道路平面の交線はエッジラインL eに対応する3次元空間での直線である。この直線と、カメラ座標原点Oを通り面方位がuである平面との交点Reは最も遠い水平エッジラインL eに対応する3次元空間の直線(横断歩道の端)までの最短距離の点である。原点Oから交点Reまでの距離とカメラ原点Oの道路平面からの高さdから水平距離he(道路幅)が計算される。
【0047】
このようにエッジラインからカメラ座標系を用いた射影幾何学とベクトル解析により道路幅を画像計測する(三次元計測は一般にカメラ2台以上でなければ不可能であるが、本発明では以上のように単眼方式で三次元計測する特別な工夫[T. Shioyama, H. Wu, N. Nakamura and S. Kitawaki,Measurement of the length of pedestrian crossings and detection of traffic lights from image data, Meas. Sci. Technol., Vol.13 (2002) pp.1450-1457. ]を施している)。図11に本実施例の32の結果を示す。真の道路幅の距離に対するその絶対誤差が示されている。
【実施例3】
【0048】
次に、信号灯の色の検知について説明を行う。
【0049】
図12に、信号灯の色の検知のためのフローチャートを示す。カラー原画像の取得(S21)の後、信号灯色類似度の算出(S22)、信号灯候補領域の抽出(S23)、アフィン不変量の算出(S24)及び信号灯色検知(S25)を行う。この4つの処理(S22〜S25)の詳細を以下に示す。
【0050】
カラー原画像の或る画素の持つ色をHSLカラー空間の色相Hと彩度Sで決まる2次元カラー空間(H-S平面)で表す。典型的な信号灯の色がこのH-S平面内のどの位置にあるかをポケットサイズモバイルコンピュータ2に辞書として記憶させておく。実際には信号灯の色の存在する可能性のある点はH-S平面内の1点ではなく平均値の付近に広がりを持って分布する。この分布の高い位置では信号灯の色との類似度が高いという。このように信号灯の赤と緑に対する類似度分布を辞書として用意しておく。典型的な信号灯の例を図13に示す。図13(a)は信号灯が赤色のときの、図13(b)は緑色のときの様子である。
【0051】
図14(a)に示すテスト画像中の画素の持つ色の信号灯色類似度を辞書から求めた例を図14(b)に示す。次に、信号灯色類似度の画像から閾値操作を施し、画像中の信号灯候補領域を抽出する。図15は抽出された候補領域の例を示す。緑色の信号灯の領域が抽出されている。
【0052】
3次元空間における平面状物体が画像で観測されるとき、一般にカメラの視点に依存して画像中の対象物の形状が変化するが、カメラから対象物までの距離が十分に離れていれば、この形状変化はアフィン変換に従う。このアフィン変換を受けても不変な量がアフィン不変量と呼ばれる。アフィン不変量は次式で与えられることがわかっている[J.Flusser and T.Suk,Pattern Recognition by Affine Moment Invariants,Pattern Recognition, Vol.26, No.1 (1993) pp.167-174. ]。
【0053】
【数1】

【0054】
ただし、(x,y)は画像中の点の座標であり、ρ(x,y)は座標(x,y)の画素の持つ画像情報であり、色類似度画像の場合は色類似度を表し、濃淡画像の場合は濃淡値を表す。また、閾値操作によって2値化された画像の場合は1か0の二通りの値をとり、(x,y)∈Dの時に1、その他のときに0となる。なお、Dは対象領域である。あらかじめ、典型的な信号灯領域におけるアフィン不変量を求めておき、参照辞書値として保存しておく。
【0055】
次に、抽出された複数の信号灯候補領域のアフィン不変量を算出し、参照辞書値との距離が最小となる候補を求めることにより、真の信号灯領域を見つけ、その信号灯の点灯している色を検知する。図16は検知された信号灯の例を示している。検知された信号灯の緑領域50が白い枠で示されている。
【0056】
なお、本視覚障害者支援装置の処理時間については、スイッチ4が押されてから小型スピーカ3から音声が出力されるまで1秒程度で達成されており、十分な実用性を備える。また、本実施例では超小型カメラ1と小型スピーカ3を、図1に示したように眼鏡5に装着したが、例えば頭部に装着する帽子状、鉢巻状のもの等であってももちろんよい。また、視覚障害者の頭部付近に装着する専用の装着部に超小型カメラ1と小型スピーカ3を固定してももちろんよい.
以上のように、本発明に係る視覚障害者支援装置は視覚障害者の耳の近くに装着された小型スピーカ3から、横断歩道を安全に渡るために必要な3つの情報: 1) 眼前の道路領域が横断歩道か否か, 2) 道路幅, 3) 信号灯の色, を視覚障害者に音声で伝達することができるため、視覚障害者の残存感覚である聴覚をイアホンで塞ぐことがない。また, 両手を塞ぐこともない。本発明はこのように軽い装着によって必要な情報を得ることができ、自動車が頻繁に往来する危険な横断歩道を単独で安全に渡ることができる。さらに、従来技術の全ての欠点を解決することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、単独で安全に視覚障害者が横断歩道を渡るための携帯型支援装置等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る視覚障害者支援装置の構成図である。
【図2】横断歩道検知のためのフローチャートである。
【図3】特徴点抽出のためのウィンドウを示す図である。
【図4】濃淡値の頻度分布を示す図である。
【図5】フィッシャー規範(Fisher criterion)によって抽出された特徴点の例を示す図である。
【図6】1直線上の4個の特徴点を示す図である。
【図7】道路幅計測のためのフローチャートである。
【図8】横断歩道の白色ラインのエッジラインを示す図である。
【図9】カメラ座標系と白色ラインのエッジラインを示す図である。
【図10】道路幅計測のための3平面を示す図である。
【図11】道路幅の計測例を示す図である。
【図12】信号灯色検知のためのフローチャートである。
【図13】典型的な信号灯の例を示す図である。
【図14】(a)は信号灯を含む原画像を示す図、及び、(b)は色類似度の例を示す図である。
【図15】信号灯候補領域の例を示す図である。
【図16】検知された信号灯領域の例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 超小型カメラ
2 ポケットサイズモバイルコンピュータ
3 小型スピーカ
4 スイッチ
5 眼鏡
10 視覚障害者支援装置
21 注目点
22〜28 ウィンドウ
29 白と黒の境界
31〜39、x1〜x4 特徴点
50 信号灯検知領域
L 1, L 2, L e 水平エッジライン
L 3, L 4 垂直エッジライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境を撮像する撮像部と、
前記撮像部で得られた撮像情報から横断歩道の検知を行う横断歩道検知部と
を備えることを特徴とする視覚障害者支援装置。
【請求項2】
前記横断歩道検知部は、前記横断歩道のゼブラパターンの特徴点をフィッシャー規範(Fisher criterion)の局所最大点によって抽出する
ことを特徴とする請求項1記載の視覚障害者支援装置。
【請求項3】
前記横断歩道検知部は、複数の前記特徴点から射影不変量を複数個算出し、前記複数の射影不変量のうち参照値からのずれが前記参照値の所定の割合以内にある前記射影不変量の個数が所定値以上のとき、前記横断歩道が存在すると判断する
ことを特徴とする請求項2記載の視覚障害者支援装置。
【請求項4】
前記横断歩道検知部での検知結果を音声に変換する音声変換部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の視覚障害者支援装置。
【請求項5】
前記撮像部で得られた撮像情報から信号灯及び信号灯の色を検知する信号検知部をさらに備え、
前記音声変換部は、前記信号検知部での検知結果を音声に変換する
ことを特徴とする請求項4記載の視覚障害者支援装置。
【請求項6】
前記撮像部で得られた撮像情報から前記横断歩道の道路幅を計測する道路幅計測部をさらに備え、
前記音声変換部は、前記道路幅計測部での計測結果を音声に変換する
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の視覚障害者支援装置。
【請求項7】
前記撮像部は単眼方式である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の視覚障害者支援装置。
【請求項8】
前記撮像部をユーザに装着する装着部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の視覚障害者支援装置。
【請求項9】
動作の開始を検出する操作部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の視覚障害者支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−251596(P2006−251596A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70462(P2005−70462)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (i) 発行者: IOP出版 (ii) 刊行物名、号数: 計測科学と技術(Measurement Science and Technology)、15号 (iii) 発行年月日: 2004年11月19日 (iv) 該当頁: 2400〜2405
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】