説明

親水性樹脂粒子の製造方法

【課題】安定した流動性を有し、かつ親水性の高い樹脂粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】 水溶性高分子分散安定剤を含む水性媒体中、重合性単量体を重合させて形成した樹脂粒子を含む水性分散液から、樹脂粒子を分離して洗浄するか洗浄しないで得られたウェットケーキを、撹拌翼の回転直径(d1)と槽内径(d2)の比d1/d2が0.6≦d1/d2<1である撹拌翼を備える乾燥機を用いて、ウェットケーキの水分量が1.0〜5.0重量%となるまで撹拌翼先端周速度4.0〜6.0m/sで一次乾燥し、次いで、撹拌翼先端周速度1.0〜4.0未満m/sで二次乾燥することからなる、2段階の異なる条件下で乾燥して親水性樹脂粒子を得ることを特徴とする親水性樹脂粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性樹脂粒子の製造方法に関する。より具体的には、本発明は、良好な粉体流動性を有し、かつ水分散性に優れた親水性樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工業分野では環境対応から水系の溶媒を使用することが多くなり、それに混ぜる樹脂粒子においても親水化、粒子の流動性の向上が求められている。
【0003】
そこで、例えば、特開平7−228608号には、重合性ビニルモノマーを転化率90%以上に重合した後、親水性モノマー10〜90重量%を含む重合性ビニルモノマーを添加して重合するポリマー微粒子の製造方法が開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、特開平7−149993には、アルキル基の炭素数が1〜4のアルキルメタクリレート、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレートおよび芳香族ビニルモノマーから選ばれた少なくとも1種以上の非架橋性モノマー100重量部に、架橋性モノマー0.5〜50重量部を配合後重合して得られた微粒子上の架橋性重合体100重量部に対し、分子構造中に1個以上の二重結合を有する重合性ポリ(アルキレンオキシド)グリコール系単量体を0.01〜25重量部、または重合性スルホン酸塩を0.01〜10重量部配合後重合させ、該架橋性重合体の表面を被覆させて得られる帯電防止性微粒子が開示されている(特許文献2)。
【0005】
また、特許第3423287号では微粒子状合成樹脂を乾燥する際に撹拌翼先端周速度が0.1〜10m/sで乾燥を行う微粒子状合成樹脂の製造方法が示されている(特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−228608号
【特許文献2】特開平7−149993号
【特許文献3】特許第3423287号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1および2に記載の方法では、重合後期或いは重合後に親水性の重合性ビニルモノマーを添加すると、親水性の重合性単量体単独の樹脂粒子が生成し、親水性重合性単量体が水相に移行して重合に関与しないので、親水性の高い樹脂粒子を製造することは困難である。
また、上記の特許文献3に記載の周速度の条件下では、水溶性高分子を分散安定剤として用いる樹脂粒子の製造する場合に、安定した流動性をもった粒子が得られない。
そこで、安定した流動性を有し、かつ親水性の高い樹脂粒子の製造方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、水溶性高分子分散安定剤を含む水性媒体中で重合性単量体を重合させ得られた樹脂粒子の乾燥方法に関して、鋭意努力、研究を重ねた結果、撹拌翼を供えた乾燥機で、2段階の撹拌翼の特定の速度下において樹脂粒子を乾燥することにより、安定した流動性を有し、かつ親水性の高い樹脂粒子の製造方法を見出し、本発明を完成した。
【0009】
かくして、本発明によれば、水溶性高分子分散安定剤を含む水性媒体中、重合性単量体を重合させて形成した樹脂粒子を含む水性分散液から、樹脂粒子を分離して洗浄するか洗浄しないで得られたウェットケーキを、撹拌翼の回転直径(d1)と槽内径(d2)の比d1/d2が0.6≦d1/d2<1である撹拌翼を備える乾燥機を用いて、ウェットケーキの水分量が1.0〜5.0重量%となるまで撹拌翼先端周速度4.0〜6.0m/sで一次乾燥し、次いで、撹拌翼先端周速度1.0〜4.0未満m/sで二次乾燥することからなる、2段階の異なる条件下で乾燥して親水性樹脂粒子を得ることを特徴とする親水性樹脂粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の親水性樹脂粒子の製造方法により、単分散性に優れ、親水性、粒子流動性が高く、水性媒体中への分散性に優れた親水性樹脂粒子を簡便に得ることができる。
【0011】
また、本発明の親水性樹脂粒子の製造方法により、LCDスペーサー・銀塩フィルム用表面改質剤・磁気テープ用フィルム用改質剤・感熱紙走行安定剤等の電子工業分野、レオロジーコントロール剤・艶消し剤等の塗料・インク・接着剤等の化学分野、抗原抗体反応検査用粒子等の医療分野、滑り剤、体質顔料などの化粧品分野、不飽和等ポリエステルなどの樹脂の低収縮化剤、紙、歯科材料、アンチブロッキング剤、光拡散剤、マット化剤、樹脂改質剤等の一般工業分野など多種の分野への応用が可能な親水性樹脂粒子が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において用いられる用語「ウェットケーキ」とは、水溶性高分子分散安定剤を含む水性媒体中、重合性単量体を重合させて形成した樹脂粒子を含む水性分散液から樹脂粒子を分離し、洗浄するか洗浄しないで得られた未乾燥の、水性媒体を含有する樹脂粒子の集合体、すなわち湿ったケーキ状の樹脂粒子の集合体を意味する。
【0013】
また、本発明で用いられる用語「撹拌翼先端周速度」とは、以下の式:
撹拌翼先端周速度(m/s)=撹拌翼の回転直径(d1)(m)×π×撹拌回転数(rpm)/60
で表すことができる。
【0014】
上記の分散液は、重合性単量体と重合開始剤とを、水溶性高分子分散安定剤を含む水性媒体中に加え重合に付される。この重合方法としては、例えば汎用の懸濁重合法、シード重合法などの方法が用いられる。
上記の水性媒体としては、精製水、イオン交換水、蒸留水ならびにこれらの水と混和し、かつ重合反応に影響を及ぼさないメタノール、エチルアルコールおよび1,4−ジオキサンなどが挙げられる。
【0015】
上記の重合性単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン系単量体;塩化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体;アクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類等の単官能性単量体の他、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等の多官能性単量体が挙げられる。上記の単量体は単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。なお、上記の(メタ)アクリとは、アクリまたはメタクリを意味する。
【0016】
上記の重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサカルボニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物などが挙げられる。
【0017】
上記の重合開始剤は、通常、上記の重合性単量体100重量部に対して0.1〜5.0重量部の割合で用いられる。
【0018】
また、上記の水溶性高分子分散安定剤としては、100gの水に対して0.1g以上溶解する安定剤を使用でき、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリビニルピロリドン、ゼラチンおよびデンプンなどが挙げられる。またトリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子も併用することができる。
【0019】
これらのうち、重合度400〜4000のポリビニルアルコール、および重量平均分子量6000〜300万のポリビニルピロリドンが好ましく、特に、ケン化度80〜98%、重合度50〜3000のポリビニルアルコールが好ましい。
なお、高分子分散安定剤の添加量は、重合性単量体100重量部に対して1〜10重量部が好ましい。
【0020】
上記の重合は、通常、水性媒体100重量部に対して、重合性単量体10〜100重量部、水溶性高分子分散安定剤0.1〜10重量部及び重合開始剤0.01〜5重量部が用いられる。
また、上記の重合には、単分散性の粒子を得るためにシード重合法が好適に用いられる。
【0021】
上記のシード重合法に用いられるシード粒子としては、スチレン系単量体、スチレン・ブタジエン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、酢酸ビニル系単量体、スチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体の共重合体等の重合体が挙げられる。
これらのシード粒子としては、平均粒子径0.1〜10μmで、且つCV値〔(粒子径標準偏差/平均粒子径)×100で表される〕が、15%以下の非架橋型の粒子が好ましい。
【0022】
これらのシード粒子は、水性媒体中、当業者に周知のソープフリー乳化重合または分散重合法などを用いて製造されるが、これらの方法に限定されず公知の技術が適用可能である。
また、シード粒子の製造には、アルキルメルカプタン類、例えば、ノルマルオクチルメルカプタンまたは四塩化炭素などの連鎖移動剤を用いることができる。
【0023】
また、シード粒子の製造には、シード粒子の分散安定性を向上させるために界面活性剤や水溶性高分子分散安定剤を用いることができる。
上記の界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0024】
また、上記の水溶性高分子分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デンプン、などである。またトリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンが好ましい。
上記の高分子分散安定剤の添加量は、上記単量体100重量部に対して1〜10重量部が好ましい。
【0025】
得られたシード粒子を、水溶性高分子分散安定剤および重合性単量体を含む水性媒体中に加え、重合開始剤の存在下、重合性単量体をシード重合させて樹脂粒子が製造される。
【0026】
本発明のシード重合における重合性単量体の添加量は、シード粒子1重量部に対して5〜200重量部が好ましい。これは、重合性単量体の添加量が、シード粒子1重量部に対して、5重量部より少なくなると重合による粒子径の増加は小さく、また、200重量部より多くなくなると完全にシード粒子に吸着されず、水性媒体中で独自に懸濁重合し異常粒子を生成し易くなるからである。
【0027】
以下、単分散性に優れた本発明による親水性樹脂粒子の製造方法について具体的に説明する。
先ず、重合開始剤を含む重合性単量体を、水溶性高分子分散安定剤を含む水性媒体に混合しホモジナイザー、超音波処理機、ナノマイザー等の微細乳化機により微分散させ、微分散エマルジョンを得る。
【0028】
上記の微分散エマルジョンを調製する際に、重合性単量体および重合開始剤を予め混合して微分散させてもよいし、両者を別々に微分散させたものを混合してもよい。
得られた微分散エマルジョンの粒子径は、シード粒子よりも小さい方が、シード粒子に効率よく吸収されるので好ましい。
【0029】
上記の微分散エマルジョンと、シード粒子を水性媒体中に分散させたもの(以下、シード粒子分散液という)とを混合し、撹拌しながらシード粒子に重合性単量体、重合開始剤を吸収させ、シード粒子を膨潤させた後で、重合性単量体の重合を行う。
この吸収操作では、通常、上記の微分散エマルジョンとシード粒子分散液とを混合し、室温で1〜12時間撹拌する方法が採用されるが、両者の混合液を30〜50℃程度に加温することにより吸収を促進することができる。
【0030】
上記のシード粒子の膨潤度は、上記の微分散エマルジョンとシード粒子分散液との混合比率を変えることにより調節することが可能である。
上記のシード粒子の膨潤度とは、膨潤前のシード粒子に対する膨潤後のシード粒子の体積比で定義される。
【0031】
なお、上記の微分散エマルジョンの吸収の終了は光学顕微鏡により、シード粒子を観察し、その粒子径を確認することにより判定できる。
通常、シード粒子1重量部に対して重合性単量体を5〜200重量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0032】
この重合反応は、上記のシード粒子に重合性単量体、重合開始剤を完全に吸収させた後に、昇温して行うのが好ましい。
上記の重合反応の温度は、重合性単量体、重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができるが、通常、25〜100℃が好ましく、より好ましくは50〜90℃である。
上記の重合工程において、樹脂粒子の分散安定性を向上させるために、前記の界面活性剤を添加してもよい。
【0033】
上記の界面活性剤は、シード粒子に重合性単量体、水溶性高分子分散安定剤および重合開始剤を吸収させた後で添加してもよいし、上記の重合性単量体、水溶性高分子分散安定剤および重合開始剤を微分散させる時に添加してもよい。上記の界面活性剤を微分散時に添加することによって、微分散時の安定化と重合時の分散安定化との両方を得ることができる。
【0034】
上記の重合方法により得られる樹脂粒子の粒子径は、用いられるシード粒子の粒子径、上記の重合性単量体とシード粒子の混合割合によって自由に設計可能であるが、特に、上記の重合方法は粒子径1〜50μm、CV値15%以下の単分散樹脂粒子の製造に好適である。
【0035】
重合完了後、形成された樹脂粒子を含む水性分散液から、樹脂粒子を分離してウェットケーキが得られる。
上記の樹脂粒子の分離方法としては、ろ過または遠心分離を用いることができる。
また、上記の水性分散液から分離した樹脂粒子は、反応に用いた水性媒体と同一の媒体で洗浄してもよく、さらに乾燥を促進するために、メタノール、エタノールおよびアセトンなどの樹脂粒子を溶解しない溶剤またはこれらの水溶液で洗浄してもよい。
【0036】
得られたウェットケーキの乾燥は、図1で示す、上下に回転して天地を逆にできる乾燥機1で行うことができる。
この乾燥機1は、内径d2が100cmであり、内容量が300Lであり、邪魔板(バッフル)を設けてもよく、撹拌翼を備えている。このような乾燥機は、例えば月島機械社から入手可能である。
【0037】
撹拌翼の形状については特に限定はなく、具体的な撹拌翼の例としては、例えばV型パドル翼、ファードラー翼、傾斜パドル翼、平パドル翼、プルマージン翼等のパドル翼、タービン翼、ファンタービン翼等のタービン翼、マリンプロペラ翼のようなプロペラ翼等が挙げられる。これら撹拌翼は、単段翼であっても多段翼であってもよい。
乾燥機1の1つの形態として、例えば図2および図3に示すような3枚羽のプロペラ翼の回転直径d1が95cmである撹拌翼を備えている乾燥機が挙げられる。
しかしながら、3枚羽に限定されず、例えば4枚羽または5枚羽であってもよく、また、羽の中が抜けた羽の枠だけの形状であってもよい。
【0038】
本発明の樹脂粒子の製造方法に用いられる樹脂粒子の製造装置の一例を図1に示す。図1に示したように、上下方向の略中央部にろ過材5が水平方向に張設されている。
なおろ過材としては、樹脂粒子が水系分散媒体中に分散してなる懸濁液から水系分散媒体をろ過分離することができれば、特に限定されず、例えば多孔体、織布、不織布等の濾布、焼結金属からなる金網、合成樹脂からなる網およびグラスフィルターなどが挙げられる。
【0039】
更に上記の容器の下端中央部には、ウェットケーキの乾燥時に撹拌するための撹拌翼16が配設されている。そして容器上部には貫通する給排気口11が貫設され、図示しない真空ポンプが接続されることにより、容器内を減圧状態とすることができる。
【0040】
また、乾燥機1の容器3とジャケット4との二重壁間は、加熱手段のために中空となっている。この空間内には、図示しない供給装置から供給管21を経て熱水、熱風、蒸気等の熱媒体がジャケット4の上部に設けた供給口22から供給可能となっており、空間内を一巡した熱媒体はジャケット4の底部に設けた排出口23から排出管24を通り、図示しないポンプにより排出される。
【0041】
ウェットケーキの一次乾燥における撹拌翼先端周速度は、4.0〜6.0m/sが好ましい。
撹拌翼先端周速度が4.0m/sより遅いと樹脂粒子の凝集が生じるため好ましくない。また、6.0m/sより速いと粒子表面に付着した水溶性高分子分散安定剤が部分的に剥がれることにより、粒子流動性が悪くなるため好ましくない。
【0042】
一次乾燥の水分量は1.0〜5.0重量%となった時点で終了することが好ましい。
水分量が5.0重量%より多いときに終了すると、二次乾燥に時間がかかり好ましくない。また、水分量が1.0重量%未満で上記の撹拌翼先端周速度で撹拌を行うと、樹脂粒子の飛散が生じるだけでなく、粒子表面に付着した水溶性高分子分散安定剤が部分的に剥がれることにより、流動性に優れた粒子が得られない。
【0043】
一次乾燥終了後、二次乾燥を行うが、二次乾燥の撹拌回転数は1.0〜4.0未満m/sが好ましい。
撹拌翼先端周速度が1.0m/s未満であると粒子を撹拌する能力が不足し、乾燥過程において樹脂粒子の凝集が生じるため好ましくない。また、水分が低い状態で撹拌回転数が4.0m/sを超えると樹脂粒子が破砕したり、樹脂粒子表面の水溶性高分子分散安定剤が部分的に剥がれ、粒子の流動性が悪くなり好ましくない。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明の重合性粒子の製造方法をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、下記実施例において「部」および「%」は、各々重量部および重量%を示す。
【0045】
(シード粒子の製造例)
温度計と窒素導入管とを装着した容器5リットルのオートクレーブに、単量体であるメタクリル酸エチル500gにノルマルオクチルメルカプタン10gを溶解したものにイオン交換水2800gを加え、これを攪拌しながら窒素気流中で70℃に昇温し、重合開始剤として過硫酸カリウム5gを投入し、70℃で12時間ソープフリーの重合反応を行い、平均粒子径が0.7μmの単分散ポリメタクリル酸エチルの分散液(シード粒子A)を得た。
【0046】
次に重合性単量体としてメチルメタクリレート550gに重合開始剤としてジメチル2,2'−アゾビスイソブチルニトリル5.5g、ノルマルオクチルメルカプタン5.5g溶解し、得られた単量体混合物を界面活性剤としてコハクスルホン酸ナトリウム5.5gが含まれたイオン交換水2100gと混合しT.Kホモミキサー(プライミクス社製)にて8000rpmで10分間処理して乳化液を得た。
【0047】
この乳化液に上記で得た平均粒径が0.7μmのシード粒子の分散液34gを加え3時間攪拌をおこなった。更に分散安定剤としてポリビニルピロリドン(PVP−K90 ISP社製)20gの水溶液1100gをオートクレーブに入れ、攪拌しながら60℃で6時間重合を行った。得られた重合体粒子(シード粒子B)の粒度分布をコールター社製のコールターカウンターで測定したところ、平均粒子径が3.3μmで偏差係数(CV値)が9.0%であり、粒径が非常に良く揃っていることを認めた。
【0048】
(平均粒子径測定方法)
測定方法はCoulter Electronics Limited発行のREFERENCE MANUAL FOR THE COULTER MULTISIZER(1987)に従って、50μm又は100μmアパチャーを用いてキャリブレーションを行い測定した。
具体的には、樹脂粒子0.1gを0.1%ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、花王社製:レオドールTW―L120)溶液10ml中にタッチミキサーおよび超音波を用いて予備分散させ、これを本体備え付けの、ISOTON II(ベックマンコールター社製:測定用電解液)を満たしたビーカー中に、緩く撹拌しながらスポイドで滴下して、本体画面の濃度計の示度を10%前後に合わせた。次にマルチサイザーII本体にアパチャーサイズ100μm、電流(Current)を1600、ゲインを2、極性(Polarity)を+又はアパチャーサイズ50μm、電流(Current)を800、ゲインを4、極性を+と入力してマニュアルで測定を行った。粒子径10μm以上は100μmのアパチャーを用い、粒子径10μm未満は50μmのアパチャーを用いた。測定中はビーカー内を気泡が入らない程度に緩く撹拌しておき、樹脂粒子を10万個測定した点で測定を終了した。
【0049】
変動係数(CV値)とは標準偏差(σ)および前記平均粒子径(x)から以下の式により算出された値である。
CV値(%)=(σ/x)×100
【0050】
(親水性の評価方法)
親水性の評価は次の方法により評価した。イオン交換水90g、エタノール10gと長さ30mmの攪拌子とを200mlビーカーに入れマグネティックスターラー(柴田科学機器工業製 MGP−301型 目盛設定6)により液面が流動する程度攪拌する。その後樹脂粒子1gを投入し、液面下に沈降分散するまでの時間を測定した。180秒(3分)以内に液中に完全に沈降分散したものは親水性が強く、180秒(3分)経っても液面に樹脂粒子が観察されるものは親水性が弱いと評価した。
【0051】
(流動性の評価方法)
流動性の評価は安息角を用いて行った。
なお、安息角は、26mmφの円のテーブルの上に、一定高さからふるいを通して少しずつ粒子を落下させた。粒子の山が崩壊する直前で粒子の供給を停止した。円テーブルの上にできた粒子の山の底角を安息角として測定した。
【0052】
(水分量の測定方法)
JIS K0113「電位差・電流・電量 カールフィシャー滴定方法通則」に準拠してカールフィシャー法により電量滴定を行い、水分量を測定した。樹脂粒子の水分は0.2%以下を乾燥終点とした。
【0053】
(樹脂粒子の電子顕微鏡写真)
樹脂粒子の電子顕微鏡写真は、JSM−6360LV(日本電子データム社製)を用い、加速電圧5kv、観察倍率3000倍にて樹脂粒子の観察を行った。
【0054】
実施例1
重合性単量体としてメチルメタクリレート14kg、エチレングリコールジメタクリレート6kg部に重合開始剤としてジメチル2,2'−アゾビスイソブチルニトリル0.12kg、ベンゾイルパーオキサイド0.12kgを溶解し、得られた単量体混合物を界面活性剤としてコハクスルホン酸ナトリウム0.1kgが含まれたイオン交換水20kgと混合しT.Kホモミキサー(プライミクス社製)にて8000rpmで10分間処理して乳化液を得た。この乳化液に上記で得た平均粒径が3.3μmのシード粒子Bの分散液を1.3kg攪拌しながら加えた。
【0055】
攪拌を3時間継続後、分散液を光学顕微鏡で観察したところ、乳化液中の単量体はシード粒子に吸収されていることを認めた。その後、分散安定剤としてポリビニルアルコール(クラレ社製 PVA−224E)1kgを溶解した水溶液60kgをオートクレーブに入れ、攪拌しながら70℃で4時間重合を行った。得られた重合体粒子の粒度分布をコールター社製のコールターカウンターで測定したところ、平均粒子径が14.5μmで変動係数(CV値)が9.8%であった。
【0056】
上記で得た分散液を固液分離後、水洗浄を行い、固形分75%のウェットケーキを得た。これを上述した製造装置(d1/d2=0.97)に入れ、ジャケット温度60℃、真空圧を0.095Mpaに設定し一次乾燥を撹拌翼先端周速度3.1m/s(撹拌回転数60rpm)で5時間行った。その時の樹脂サンプルの水分を測定すると4.8%であった。更に二次乾燥を撹拌翼先端周速度2.6m/s(撹拌回転数50rpm)で4時間行った。その時の樹脂サンプルの水分は0.1%であった。
得られた樹脂粒子の電子顕微鏡写真を図4に示す。
上記の実施例1で得られた樹脂粒子の電子顕微鏡写真から、実施例1による樹脂粒子は、ほぼ真球で、その表面は、極めて滑らかであることが判明した。
【0057】
実施例2
一次乾燥時の撹拌翼先端周速度を5.8m/s(撹拌回転数110rpm)、二次乾燥時の撹拌翼先端周速度を1.0m/s(撹拌回転数20rpm)とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0058】
実施例3
一次乾燥時の撹拌翼先端周速度を4.7m/s(撹拌回転数90rpm)、二次乾燥時の撹拌翼先端周速度を3.7m/s(撹拌回転数70rpm)とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0059】
実施例4
乾燥機撹拌翼の外径(d1)と槽径(d2)の比d1/d2を0.6とした以外は実施例2と同様に実施した。
【0060】
実施例5
分散安定剤としてポリビニルピロリドン(PVP−K120 ISP社製)を25部とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0061】
比較例1
一次乾燥時の撹拌翼先端周速度を6.3m/s(撹拌回転数120rpm)、二次乾燥時の撹拌翼先端周速度を3.1m/s(撹拌回転数60rpm)とした以外は実施例1と同様に実施した。
得られた樹脂粒子の電子顕微鏡写真を図5に示す。
上記の比較例1で得られた樹脂粒子の電子顕微鏡写真から、比較例1による樹脂粒子は、ほぼ真球であるものの、その表面には、突起が観察され、樹脂粒子の表面が滑らかでなく、また、安息角を測定したところ安息角が高く、流動性が悪いことが判明した。
【0062】
比較例2
一次乾燥時の周速度を1.6m/s(撹拌回転数30rpm)、二次乾燥時の撹拌翼先端周速度を2.6m/s(撹拌回転数50rpm)とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0063】
比較例3
一次乾燥時の周速度を4.7m/s(撹拌回転数90rpm)、二次乾燥時の周速度を4.7m/s(撹拌回転数60rpm)とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0064】
比較例4
一次乾燥時の周速度を3.1m/s(撹拌回転数60rpm)、二次乾燥時の周速度を0.8m/s(撹拌回転数15rpm)とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0065】
比較例5
一次乾燥時の周速度を4.7m/s(撹拌回転数90rpm)、二次乾燥時の周速度を3.1m/s(撹拌回転数60rpm)とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0066】
比較例6
一次乾燥時の周速度を2.1m/s(撹拌回転数40rpm)、二次乾燥時の周速度を3.1m/s(撹拌回転数60rpm)とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0067】
比較例7
乾燥機撹拌翼の外径(d1)と槽径(d2)の比d1/d2を0.45とした以外は実施例2と同様に実施した。
【0068】
比較例8
温度計と窒素導入管を備えた重合機にラウリル硫酸ナトリウム3.6gを溶解させたイオン交換水90kgを入れ、そこへ第三リン酸カルシウム9kgを分散させた。これに予め調整しておいたメタクリル酸メチル12.6kg、エチレングリコールジメタクリレート5.4kg、2−ヒドロキシブチルメタクリレート0.18kgの重合性単量体成分に過酸化ベンゾイル90g、アゾビスイソブチロニトリル90gを溶解させた混合液をいれて、その液をT.Kホモミキサー(プライミクス社製)にて4000rpmで10分間攪拌した。次に、重合器を65℃に加熱して攪拌しながら懸濁重合を行った後、冷却した。上記で得た分散液を固液分離後、水洗浄を行い、固形分78%のウェットケーキを得た。得られた重合体粒子の粒子径は14.2μmであった。乾燥条件は実施例1と同様に行った。
【0069】
上記の実施例1〜5および比較例1〜8における1次乾燥および2次乾燥の乾燥条件、ならびに得られたそれぞれの樹脂の親水性、流動性および凝集の有無について測定した結果を、以下の表にまとめて示す。
【0070】
【表1】

【0071】
上記の結果から、実施例1〜5で得られた樹脂粒子は、いずれも親水性および流動性において優れ、かつ樹脂粒子が凝集していないことが判った。
一方、比較例1、3、5および8で得られた樹脂粒子は、いずれも樹脂粒子の凝集こそ起こしていないものの、親水性が本発明による樹脂粒子よりも親水性が著しく劣っており、さらに流動性も低いことが判明した。
他方、比較例2、4、6および7で得られた樹脂粒子は、いずれも樹脂粒子どうしが凝集し、親水性も安息角も測定不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の親水性樹脂粒子の製造方法により得られる樹脂粒子は、単分散性に優れ、親水性、粒子流動性が高く、水性媒体中への分散性に優れているので、LCDスペーサー・銀塩フィルム用表面改質剤・磁気テープ用フィルム用改質剤・感熱紙走行安定剤等の電子工業分野、レオロジーコントロール剤・艶消し剤等の塗料・インク・接着剤等の化学分野、抗原抗体反応検査用粒子等の医療分野、滑り剤、体質顔料などの化粧品分野、不飽和等ポリエステルなどの樹脂の低収縮化剤、紙、歯科材料、アンチブロッキング剤、光拡散剤、マット化剤、樹脂改質剤等の一般工業分野など多種の分野への応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明で用いた乾燥機の模式図である。
【図2】乾燥機が備える撹拌翼の上面図である。
【図3】乾燥機が備える撹拌翼の側面図である。
【図4】実施例1で得られた樹脂粒子の電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例1で得られた樹脂粒子の電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0074】
1 乾燥機
2 円形胴部
3 容器
4 ジャケット
5 ろ過材
6 ろ過室
7 乾燥室
8 回転軸
9 乾燥物排出口
10 スラリー供給口
11 給排気口
12 ろ液排出管
13 撹拌機構
14 モータ
15 回転軸
16 撹拌翼
18 熱媒体供給管
19 熱媒体供給口
20 熱媒体排出口
21 供給管
22 供給口
23 排出口
24 排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子分散安定剤を含む水性媒体中、重合性単量体を重合させて形成した樹脂粒子を含む水性分散液から、樹脂粒子を分離して洗浄するか洗浄しないで得られたウェットケーキを、撹拌翼の回転直径(d1)と槽内径(d2)の比d1/d2が0.6≦d1/d2<1である撹拌翼を備える乾燥機を用いて、ウェットケーキの水分量が1.0〜5.0重量%となるまで撹拌翼先端周速度4.0〜6.0m/sで一次乾燥し、次いで、撹拌翼先端周速度1.0〜4.0未満m/sで二次乾燥することからなる、2段階の異なる条件下で乾燥して親水性樹脂粒子を得ることを特徴とする親水性樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記親水性樹脂粒子が、前記水溶性高分子分散安定剤で被覆された表面を有する請求項1に記載の親水性樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性高分子分散安定剤が、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンである請求項1または2に記載の親水性樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
前記重合が、シード重合であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の親水性樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄が、精製水、イオン交換水、蒸留水か、または樹脂を溶解しないメタノール、エタノール、アセトンおよびこれらの水溶液からなる群から選択される1以上の媒体で行なわれる請求項1〜4のいずれか一つに記載の親水性樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥機が、減圧手段及び加熱手段を備える請求項1〜5のいずれか一つに記載の親水性樹脂粒子の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−242632(P2009−242632A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91598(P2008−91598)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】