説明

角膜疾患を処置するための点眼剤の形態の医薬の調製におけるL−カルニチンの使用

角膜浮腫の処置のための、点眼剤の形態の眼科用生理学的栄養補助剤または医薬の調製における、L-カルニチンまたはその製薬的に許容される塩の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は角膜疾患の処置に有用な点眼剤の形態の生理学的栄養補助剤または医薬に関する。
【0002】
特に、本発明は、角膜浮腫を処置するための生理学的栄養補助剤または医薬の調製に有用な、増湿剤、例えばヒアルロン酸ナトリウム;抗酸化剤、例えばビタミンE;無機および有機成分、例えば亜鉛、マンガン、ナトリウム、カリウムおよびタウリンと組み合わせて、活性成分としてL-カルニチン、またはその製薬的に許容される塩を含む、眼科用途のための点眼剤の形態の生理学的栄養補助剤または医薬に関する。
【背景技術】
【0003】
角膜は、眼の前面を覆う透明なドーム形の窓である。眼の焦点を合わせる力の2/3を提供する強力な屈折面である。それは時計の上のクリスタルのように、見通すための清澄な窓を提供する。
【0004】
角膜は非常に敏感であり、角膜には身体の他のどの部分よりも多い神経終末がある。
【0005】
成人の角膜は約1/2ミリメートルのみの厚さであり、3つの主な領域または層に配置されている:
−上皮:主に外来物質、例えば粉塵または水の、眼および角膜の他の層への通過を阻止するよう機能し酸素および涙に含まれる他の必要な細胞の栄養分を吸収する滑らかな表面を提供する。この層は、約5細胞の深さであり、何千もの小さな神経終末で満たされており、これが擦ったり引掻いた際の痛みに対して角膜を非常に敏感にしている。
【0006】
−角膜実質:上皮の後ろに位置する。角膜実質は角膜の約90%を構成する。角膜実質は主に水および層になったタンパク質繊維(これらが角膜に、その強さ、弾力および形態を与える)、および角膜実質を育む細胞からなる。それらのタンパク質繊維の独特の形、配置、および間隔が、角膜の光を伝導する透明度を作り出すのに不可欠である。
【0007】
−内皮:細胞群のこの単一層は角膜実質と眼房水の間に位置する。角膜実質は水を吸収しやすいので、内皮の主な仕事は角膜実質から過剰な水を吸い出すことである。この吸い出す働きがないと、角膜実質は水によって膨潤し、霞がかかったようになり、最終的に不透明となるであろう。
【0008】
角膜の浮腫または膨脹は、角膜が自身を清澄に保てなくなる時、および液体が角膜の中に蓄積され始める時に起こる。角膜の内側の裏打ちは角膜を清澄に保つ役割をしており、この層が損傷されると角膜浮腫の症状が起こり得る。
【0009】
角膜浮腫の原因には、以下が含まれる:(a)角膜の内側の層の障害、例えばフックス角膜内皮変性症;眼科手術、例えば白内障手術;眼外傷;非常に高い眼圧による急性緑内障;または(b)以下により引き起こされる神経麻痺性角膜症(neurotrophic keratopathy):例えばヘルペスウイルスまたはハンセン菌(mycobacterium leprae)による感染;外傷的損傷、外科的(chirurgic)損傷、腫瘍、動脈瘤または遺伝的要因による、第V脳神経の病変;糖尿病またはビタミンA欠乏による代謝的障害;眼科およびレーザー手術(chirurgy)、コンタクトレンズ、放射線治療による医原性障害;局所麻酔の乱用、低浸透圧性点眼薬、非ステロイド性抗炎症薬、点眼薬保存料、例えば塩化ベンザルコニウムの慢性的使用による毒性障害;化学的または物理的物質、例えば煙、酸、アルカリ、紫外線角膜炎(attinic keratitis)への暴露;眼瞼炎、春季カタル(springs keratoconjunctivitis)、巨大乳頭(giantopapillar)角結膜炎、アトピー性角結膜炎による慢性炎症;眼瞼の位置の変化、例えば甲状腺性眼障害(thyroideal ophthalmopathy)、眼瞼内反および眼瞼外反、発熱性兎眼症。
【0010】
角膜浮腫の処置はその原因に依拠する。軽症の浮腫は高浸透圧性の点眼剤および軟膏剤により処置することができる。これは角膜から涙へと液体を引き出し、角膜を清澄にするのを助ける。より重症の浮腫、特に疱疹(水疱)形成を伴う浮腫は、直すのに角膜移植を必要とし得る。
【0011】
ハイドロゲルコンタクトレンズを装着中の角膜浮腫の発生がよく確認されている;しかしながら、レンズが誘発する膨脹の規模は、低酸素症に対する反応の観点において、完全には説明できていない。
【0012】
ヒアルロン酸ナトリウムは、特にドライアイ症候群またはシェーグレン症候群を有する患者において、角膜上皮細胞を保護するのに用いられるとてもよく知られた化合物である。ヒアルロン酸ナトリウムの作用は、涙の産生が減少した状況において、その粘弾性の結果として上皮細胞上に発揮された機械的な種類の保護的な役割に因るのみならず、角膜上皮細胞の遊走を刺激することによる角膜上皮細胞に対するその特定の生物学的機能の正の効果にも因る(Exp. Eye Res., 1991;53:753-758)。
【0013】
タウリン(または2-アミノエタンスルホン酸)は、アミノ酸の特徴であるカルボキシル基(COOH)を有さずSO3Hを有するのであるが、アミノ酸と考えられている。タウリンは動物の領域にのみ存在し、一方植物性食品はこのアミノ酸を有さない。
【0014】
ビタミンEは細胞膜の主な抗酸化物質であり、ヒトの身体においてα-トコフェノール、β- トコフェノール、γ-トコフェノールおよびδ-トコフェノールからなる4つの形態にて見られる。これらのうちα形態は網膜および血漿に最も頻繁に存在し、最も強い抗酸化剤活性およびフリーラジカル除去活性を有するものである。
【0015】
無機成分の使用は医学分野においてよく知られており、これらの多くは涙膜の安定性に不可欠である(Pescosolido 2000)。
【0016】
眼科分野におけるL-カルニチンの使用はこれまでにすでに知られている。
【0017】
Eur. J. Ophthalmol. 2003 Jan-Febの13(l):80-5には、L-カルニチンが虚血再灌流後の網膜損傷を防ぐのに有用であることが報告されている。
【0018】
J. Ocul, Pharmacol. 1994 Winterの10(4):643-51には、遊離のカルニチンおよび酸可溶性アシルカルニチンは、ウサギの眼の様々な組織に存在し、筋肉の性質の細胞が存在する眼のそれらの組織において重要な役割を果たし、エステル化の後に重要なエネルギー貯蔵を表し得ることが報告されている。
【0019】
Res 1992; 18(8):355-365には、心臓病学的領域におけるL-カルニチンの使用が記載されている。
【0020】
上記に引用した特許または出版物のいずれにも、角膜浮腫の処置のためのL-カルニチンの使用は、記載または示唆されていない。
【0021】
医療分野において、上記の角膜疾患の処置に有用な治療薬または生理学的栄養補助剤が利用可能になることの必要性がいまだ強く認識されている。
【発明の概要】
【0022】
本発明において、増湿剤、例えばヒアルロン酸ナトリウム;抗酸化剤、例えばビタミンE;無機および有機成分、例えば亜鉛、マンガン、ナトリウム、カリウムおよびタウリン;および必要に応じて1以上の眼科学的に許容される賦形剤および/または希釈剤と合わせて、活性成分としてL-カルニチン、またはその製薬的に許容される塩を含む、眼科用途のための、点眼剤の形態の、生理学的栄養補助剤または医薬は、角膜浮腫の処置のための医薬または生理学的栄養補助剤を調製するのに有用であることを発見した。
【0023】
L-カルニチンの製薬的に許容される塩が意味するものは、毒性作用または副作用を生じない酸とのL-カルニチンのいずれかの塩である。
【0024】
これらの酸は薬理学者および薬学における専門家によく知られている。かかる塩の非限定的な例には以下のものがある:塩化物、臭化物、オロト酸塩、アスパラギン酸塩、酸アスパラギン酸塩、酸クエン酸塩、クエン酸マグネシウム塩、リン酸塩、酸リン酸塩、フマル酸塩および酸フマル酸塩、フマル酸マグネシウム塩、乳酸塩、マレイン酸塩および酸マレイン酸塩、シュウ酸塩、酸シュウ酸塩、パモ酸塩、酸パモ酸塩、硫酸塩、酸硫酸塩、グルコースリン酸塩、酒石酸塩および酸酒石酸塩、グリセロリン酸塩、ムチン酸塩、酒石酸マグネシウム塩、2-アミノ-エタンスルホン酸塩、2-アミノ-エタンスルホン酸マグネシウム塩、メタンスルホン酸塩、コリン酒石酸塩、トリクロロ酢酸塩、およびトリフルオロ酢酸塩。
【0025】
L-カルニチンの製薬的に許容される塩が意味するものはまた、FDAにより承認された塩およびInt. J. of Pharm. 33 (1986), 201-217(参照により本明細書に組み込まれる)に列挙されている塩である。本発明のさらなる対象は、活性成分として以下を含む、眼科用途のための、点眼剤の形態の生理学的栄養補助剤または医薬である:
−5-15%の用量のL-カルニチン;好ましい用量は10%である;
−0.05-4%の用量のタウリン、好ましい用量は2%である;
−0.05-1.5%の用量のヒアルロン酸ナトリウム、好ましい用量は0.2%である;
−0.05-1.0%の用量のビタミンE、好ましい用量は0.2%である;
−0.01-0.1 mg/Lの用量のマンガン、好ましい用量は0.051 mg/Lである;
−0.5-1.5 mg/mLの用量の亜鉛、好ましい用量は1.02 mg/mLである;
−5-5000 mg/Lの用量のナトリウム、好ましい用量は30 mg/Lである;
−1-1000 mg/Lの用量のカリウム、好ましい用量は9 mg/Lである。
【0026】
本発明のさらなる対象は、(a)フックス角膜内皮変性症による角膜の内側の層の障害;眼科手術、例えば白内障手術;眼外傷;非常に高い眼圧による急性緑内障;または(b)以下により引き起こされる神経麻痺性角膜症:例えばヘルペスウイルスまたはハンセン菌による感染;外傷的損傷、外科的損傷、腫瘍、動脈瘤、または遺伝的要因による、第V脳神経の病変;糖尿病またはビタミンA欠乏による代謝的障害;眼科およびレーザー手術、コンタクトレンズ、放射線治療による医原性障害;局所麻酔の乱用、低浸透圧性点眼薬、非ステロイド性抗炎症薬、点眼薬保存料、例えば塩化ベンザルコニウムの慢性的使用による毒性障害;化学的または物理的物質、例えば煙、酸、アルカリ、紫外線角膜炎への暴露;眼瞼炎、春季カタル、巨大乳頭角結膜炎、アトピー性角結膜炎による慢性炎症;眼瞼の位置の変化、例えば甲状腺性眼障害、眼瞼内反および眼瞼外反、発熱性兎眼症、により生じる角膜浮腫の予防または処置のための生理学的栄養補助剤または医薬の調製のための本発明の点眼剤の使用である。
【0027】
本発明による点眼剤は、さらなる抗酸化剤、例えばビタミンC、ビタミンA;ボリジオイル;上皮形成および抗血管形成剤;シチコリン;増湿剤;無機成分;細胞モル浸透圧濃度の制御因子;抗生物質;抗ウイルス剤;抗真菌剤;および/または、アセチル、プロピオニル、バレリル、イソバレリル、ブチリルおよびイソブチリルL-カルニチンからなる群から選択される1以上のアルカノイルL-カルニチン、またはそれらの製薬的に許容される塩をさらに含有し得る。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の実施例は本発明を例証するものである。
【実施例1】
【0029】
角膜浮腫(滴状角膜による)を有する15人の患者を本発明の点眼剤により1ヶ月間処置した。
【0030】
以下の実験を用いて本発明の点眼剤の投与前および後に患者をモニターした(毎週):
・電気的角膜厚測定
・共焦点顕微鏡法
・対比感度
【0031】
角膜厚測定を用いて角膜の中央および中心傍の厚さをミクロン単位にて測定した。5の角膜層を共焦点顕微鏡法により調べ、内皮細胞の数、それらの面積別分布(polymegathism)および角形別分布(pleomorphism)を評価した。角膜実質細胞および上皮細胞も同じ手順を用いて調べた。最後に、機能的試験として、対比感度曲線を0.5〜12の度数ごとに種々のサイクルにてプロットした。
【0032】
結果
角膜厚測定を用いて本発明の点眼剤の投与前および後に得られた値の分析から、中心および中心傍帯の両方において角膜の厚さが約25%減少することが分かり、これは投与後約4-6時間持続した。
【0033】
共焦点顕微鏡法を用いて行った評価から、角膜実質細胞縁がより良好に決定され、浮腫の有意な減少があったという明確な徴候が明らかになった。同様にこの減少は上皮細胞においても明らかであった。
【0034】
機能的試験は形態学的データを裏付けており、感度曲線の値の有意な増加が見られ、これにより生理学的な値が回復していた。
【0035】
これらの治療効果は続く定期的な医学的機器試験の間、確認され/維持された。
【0036】
L-カルニチンは既知の化合物であり、その調製は米国特許出願公開第4,254,053号明細書に記載されている。
【0037】
本発明による生理学的栄養補助剤または医薬は医学的処方箋があってもなくても購入し得る。
【0038】
本発明による生理学的栄養補助剤または医薬は、医学分野の技術者によく知られている活性成分から構成され、臨床診療においてすでに用いられており、それらの薬理毒性学的(pharmacotoxicological)特性は既知である。
【0039】
従って、これらは現在長い間市場にあり、ヒトまたは動物への投与に適したグレードの製品であるので、それらの獲得は非常に容易である。
【0040】
以下に本発明による組成物の非限定的な例を示す。
点眼剤(約1200 mOsm/L)
L-カルニチン 10%
タウリン 2%
ヒアルロン酸ナトリウム(sodium jaluronate) 0.2%
ビタミンE 0.2%
亜鉛 1.02 mg/L
マンガン 0.051 mg/L
ナトリウム 30 mg/L
カリウム 9 mg/L
ナトリウムメルチオレート 0.02 mg/mL
脱塩水体積 5 mL/バイアル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増湿剤;抗酸化剤;無機および有機成分、および必要に応じて1以上の眼科学的に許容される賦形剤および/または希釈剤と合わせて、活性成分としてL-カルニチン、またはその製薬的に許容されるいずれかの塩を含む、眼科用途のための、点眼剤の形態の、生理学的栄養補助剤または医薬。
【請求項2】
増湿剤がヒアルロン酸ナトリウム;抗酸化剤がビタミンE;無機および有機成分がマンガン、ナトリウム、カリウムおよびタウリンである、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
L-カルニチンの製薬的に許容される塩が以下を含む群から選択される、請求項1に記載の点眼剤:塩化物、臭化物、オロト酸塩、アスパラギン酸塩、酸アスパラギン酸塩、酸クエン酸塩、クエン酸マグネシウム塩、リン酸塩、酸リン酸塩、フマル酸塩および酸フマル酸塩、フマル酸マグネシウム塩、乳酸塩、マレイン酸塩および酸マレイン酸塩、シュウ酸塩、酸シュウ酸塩、パモ酸塩、酸パモ酸塩、硫酸塩、酸硫酸塩、グルコースリン酸塩、酒石酸塩および酸酒石酸塩、グリセロリン酸塩、ムチン酸塩、酒石酸マグネシウム塩、2-アミノ-エタンスルホン酸塩、2-アミノ-エタンスルホン酸マグネシウム塩、メタンスルホン酸塩、コリン酒石酸塩、トリクロロ酢酸塩、およびトリフルオロ酢酸塩。
【請求項4】
以下の組成を有する、請求項1に記載の点眼剤:
−L-カルニチン 10%
−タウリン 2%
−ヒアルロン酸ナトリウム 0.2%
−ビタミンE 0.2%
−亜鉛 1.02 mg/L
−マンガン 0.051 mg/L
−ナトリウム 30 mg/L
−カリウム 9 mg/L。
【請求項5】
角膜浮腫の予防または処置のための生理学的栄養補助剤または医薬の調製のための、請求項1〜4のいずれかに記載の点眼剤の使用。
【請求項6】
抗酸化剤、例えばビタミンC、ビタミンA;ボリジオイル;上皮形成および抗血管形成剤;シチコリン;増湿剤;無機成分;細胞モル浸透圧濃度の制御因子;抗生物質;抗ウイルス剤;抗真菌剤;および/または、アセチル、プロピオニル、バレリル、イソバレリル、ブチリルおよびイソブチリルL-カルニチンからなる群から選択される1以上のアルカノイルL-カルニチンまたはそれらの製薬的に許容される塩をさらに含む、請求項5に記載の使用。

【公表番号】特表2010−512363(P2010−512363A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540692(P2009−540692)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/062610
【国際公開番号】WO2008/071524
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(591043248)シグマ−タウ・インドゥストリエ・ファルマチェウチケ・リウニテ・ソシエタ・ペル・アチオニ (92)
【氏名又は名称原語表記】SIGMA−TAU INDUSTRIE FARMACEUTICHE RIUNITE SOCIETA PER AZIONI
【Fターム(参考)】