説明

角速度センサ

【課題】 振動子素子を角速度センサとして使用する場合、周囲の温度変化、電源電圧の変化などによって励振振幅が安定していないと良好なセンサ特性(励振振幅を一定に保つのは困難)が得られにくく励振回路で振幅を調整する方法が採られていたが、励振回路に依存せず素子自体の励振振幅を安定する素子の実現を目的とする。
【解決手段】振動子素子の励振電極の存在するアームに、励振電極とは別に励振振幅検出用電極を形成する。励振電極に印加された励振振動信号によって、振動子素子の励振アーム内には交流電界が発生し、励振アームは所定の方向に振動し始める。この交流電界の変化を、励振振幅検出用電極で検出すると、励振振幅に応じた電圧となる。この電圧を励振回路の振幅比較手段に帰還させ、励振振幅調整手段を通して励振振動信号を調整することにより、励振振幅を安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
【0002】この発明は、励振電極に交流電圧(励振振動信号)を印加することによって振動子がX軸方向あるいはZ軸方向に励振しているとき、この振動子のY軸方向の回りに作用する回転角速度を角速度検出用電極に生ずる電荷量に基づいて検出する圧電振動式角速度センサに関するものである。
【0003】
【従来の技術】従来、角速度を検出するセンサとして様々なジャイロスコープ(以下、ジャイロという)が開発されている。その種類は大まかに機械式のコマジャイロ、流体式のガスレートジャイロ、音片・音叉の振動を用いる振動ジャイロ、光学式の光ファイバジャイロとリングレーザージャイロに分類される。光学式のジャイロはサニャック効果、それ以外のものは回転体の角運動量保存則の表れであるコリオリ力を用いて角速度の検出を行っており、使用用途により精度と価格、寸法等が勘案され使用センサが選択されている。
【0004】圧電振動式角速度センサを車両や航空機等に搭載し、その走行あるいは飛行軌跡を記録したり、旋回時に発生するヨーレイト(鉛直線を中心とする大地に水平な面内での回転の角速度)を検出することが行われている。自動車用途ではシャシー系の制御やナビゲーションシステムの方位算出等に用いられる。例えば急旋回時の車両姿勢制御の場合には、車両の姿勢情報としてヨーレイトやロールレイト(車両進行方向を軸とする回転の角速度)を制御システム側にフィードバックし、姿勢制御性能を向上させるために用いられる。またナビゲーションシステムの場合には、ヨーレイトを時間積分することによって車両の旋回角度を算出するために用いられる。また、この角速度センサをロボットに搭載して、その姿勢制御等にも応用されている。
【0005】近年では、単結晶シリコンや水晶などの素材にマイクロマシニング微細加工技術を適用して形成した、超小型の角速度センサも実用化されている。図1は水晶を用いた音叉型角速度センサの要部を示す図である。同図において1は振動子素子(水晶板)、4−1〜4−4は励振用電極(励振電極)、5−1〜5−4は角速度検出用電極(検出電極)であり、励振電極4−1〜4−4は振動子素子1の対向する2本のアーム2−1および2−2の先端側の前後および左右の面に、角速度検出電極5−1〜5−4は振動子素子1の対向する2本のアーム2−1および2−2の根元側の左右の面に設けられている。
【0006】この角速度センサにおいて、図2に示すように励振電極4−1と4−4が端子P1に接続され、励振電極4−2と4−3が端子P2に接続される。また図3R>3に示すように、角速度検出電極5−1と5−4が端子P3に接続され、角速度検出電極5−2と5−3が端子P4に接続される。
【0007】ここで振動子素子1の短辺方向をX軸方向、長辺方向をY軸方向、X−Y平面と直交する方向(振動子素子の板面に垂直な方向)をZ軸方向とする。ここで、端子P1とP2との間に交流電圧(励振振動信号)eを印加すると、水晶内に図2中に示すような電界が発生する。このとき励振アーム内には、電界のX軸方向成分の向きと大きさで決定される応力がY軸方向に発生する。次には逆方向の電界が発生することにより、振動子素子1の2本のアーム2−1および2−2はX軸方向に逆相で振動することとなる。
【0008】このとき、Y軸方向の回りに回転角速度が作用すると、すなわち振動子素子1がY軸中心に回転すると、コリオリの力によりZ軸方向の振動成分が生じる。この振動成分の大きさはコリオリの力に比例しているので、振動子素子1の2本のアーム2−1および2−2には回転角速度に比例した大きさで振動の方向に応じた極の電荷が発生する。
【0009】これにより、図3に示すように端子P3と端子P4との間に、あるときには矢印の方向、次には逆方向の電荷が発生し、コリオリの力に応じた電圧信号es が得られる。この電圧信号esの大きさによって、Y軸方向の回りに作用する回転角速度の大きさを知ることができる。また、この電圧信号esは基本的にサインカーブとして得られ、この電圧信号esの波形と交流電圧eの波形(励振波形)とを位相比較することにより、その位相の進み遅れで回転角速度の方向を知ることができる。
【0010】また、端子P1とP2との間に印加される交流電圧eに対して、端子P3とP4との間に得られる電圧信号es は桁違いに小さい。従来から用いるられる角速度センサは、振動子素子1をX軸方向に励振させて、Y軸中心に回転したときの、コリオリの力によるZ軸方向の振動成分を回転角速度として検出する場合を示したが、振動子素子1をZ軸方向に励振させて、Y軸中心に回転したときの、コリオリの力によるX軸方向の振動成分を回転角速度として検出することも可能である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】振動子素子1を角速度センサとして使用する場合、励振振幅を一定に保つことが非常に重要となる。これは、角速度検出は検出アームの振動速度に比例し、検出アームの振動速度は励振振幅に影響されるためである。励振振幅が安定していないと良好なセンサ特性が得られない。
【0012】ところが、端子P1とP2の間に印加される励振振動信号eの振幅は、周囲の温度変化、電源電圧の変化などによって、一定の振幅に保つことができない。さらに振動子素子1を量産した場合には、素子の諸定数、振動姿態が変化するので、励振振幅を一定に保つのは困難である。従って時間経過によるセンサ特性の変動や、個々の振動子素子間でのセンサ特性のバラツキが生じることとなる。
【0013】この問題を解消するために励振回路で励振振動信号eの振幅を調整する方法(AGC:自動利得制御)が一般的であるが、オペアンプ等の温度特性などが原因で励振振幅が安定しにくい。
【0014】
【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するために本願発明は、振動子素子1の励振電極(端子P1およびP2)の存在するアームに、励振電極とは別に励振振幅検出用電極(端子P5およびP6)を形成する。励振電極の端子P1とP2の間に印加された励振振動信号eによって、振動子素子の励振アーム2−1および2−2内には交流電界が発生し、励振アームはXまたはZ軸方向に逆相で振動し始める。この交流電界の変化を、励振振幅検出用電極の端子P5とP6の間で検出すると、励振振幅に応じた電圧信号eaが得られ、励振回路の振幅比較手段に帰還させ、励振振幅調整手段を通して励振振動信号eを調整することにより、励振振幅比較手段に予め定めておいた値に励振振幅を安定させることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】図4は励振振幅検出用電極を設けた、水晶H型角速度センサの要部を示す図である。同図において1は振動子素子(水晶板)、4−1〜4−4は励振用電極(励振電極)、5−1〜5−4は角速度検出用電極(角速度検出電極)であり、6−1〜6−4は励振振幅検出用電極(振幅検出電極)である。励振電極4−1〜4−4は振動子素子1の一方の対向する2本のアーム2−1および2−2の左右の面に、角速度検出電極5−1〜5−4は振動子素子1の他方の対向する2本のアーム3−1および3−2の上下および左右の面に設けられている。振幅検出電極6−1〜6−4は励振電極の存在するアーム2−1および2−2の上下の面(対面)に設けられている。
【0016】この角速度センサにおいて、図5に示すように励振電極4−1と4−4が端子P1に接続され、励振電極4−2と4−3が端子P2に接続される。さらに、振幅検出電極6−1と6−4が端子P5に接続され、励振電極6−2と6−3が端子P6に接続される。また図6に示すように、角速度検出電極5−1と5−4が端子P3に接続され、角速度検出電極5−2と5−3が端子P4に接続される。
【0017】ここで振動子素子1の短辺方向をX軸方向、長辺方向をY軸方向、X−Y平面と直交する方向(振動子素子の板面に垂直な方向)をZ軸方向とする。端子P1とP2との間に交流電圧(励振振動信号)eを印加すると、水晶内に図5中に示すような電界が発生する。このとき励振アーム内には、電界のX軸方向成分の向きと大きさで決定される応力がY軸方向に発生する。次には逆方向の電界が発生することにより、振動子素子1の励振アーム2−1および2−2はZ軸方向に逆相で振動することとなる。
【0018】ここで、振動子素子1の交流電界の変化は、励振振幅検出用電極の端子P5とP6の間で検出すると、励振振幅に応じた電圧信号eaとして得られる。図7に本発明の角速度センサを駆動する回路構成例を示す。図5で描画する振幅検出電極を設けた角速度センサのアーム断面電極および結線図に示すようにP1、P2の信号は励振回路の振幅調整を経て角速度センサの励振電極に印加される。一方、振動子の励振側アームのZ軸方向への励振振幅を検出する信号としてP5、P6を励振回路の振幅比較を経由し上記の振幅調整に励振振幅検出用電極から帰還信号として印加することにより、振動子のZ軸方向への励振を振動子の励振特性や、励振の漏れ信号を低減し安定した(Z軸方向の)励振振幅を得ることを可能にする。
【0019】また出力については、励振電極に交流電圧(励振振動信号)を印加することによって振動子がX軸方向あるいはZ軸方向に励振しているとき、この振動子のY軸方向の回りに作用する回転角速度の微少信号(P3、P4)を、角速度検出回路により増幅と整流し角速度センサとしての出力信号を得るものである。
【0020】なお、図8には3脚のアームを持つ角速度センサの斜視図(図8(a))とアーム電極の断面図(図8(b))を示したもので、図8(a)は全体の概念図で図8(a)の断面A−Aあるいは、断面B−Bの電極構成を図8(b)に示したものである。前述する電極構成と同様に励振電極(4−1〜4−6)、角速度検出用電極(5−1〜5−6)、励振振幅検出用電極(6−1〜6−6)を配置するアームに関して、図8(b)中にも矢印で描画するように、励振に関しては両端のアームが同相で振動子のZ軸方向に振れ、中央アームはその逆相で振動する(断面B−B)。このとき、振動子の励振側アームのZ軸方向への励振振幅を励振振幅検出用電極(6−1〜6−6)で検出し、帰還信号として振動振幅を補償する形態となる。一方、角速度検出については、両端のアームが同相で振動子のX軸方向に振れ、中央アームはその逆相で振動する(断面A−A)。以上のような3脚のアームを持つ角速度センサの形態であっても前述の角速度センサと同様に動作し、振動子のZ軸方向への励振を振動子の励振特性や、励振の漏れ信号を低減し安定した(Z軸方向の)励振振幅を得ることを可能にする。
【0021】
【発明の効果】本発明のように励振電極の端子P1とP2の間に交流電圧(励振振動信号)eを印加し、励振振幅検出用電極の端子P5とP6の間で検出した電圧信号eaを励振回路にフィードバックさせた交流電圧(励振振動信号)eを調整することにで、素子単体での励振振幅を安定して出力させることにより、素子自体の品質を向上し製造工程における歩留まりをも改善することができる。また、素子と接続する発振回路の構成も容易にすることができ、設計時間の短縮も図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の角速度センサ(音叉型)の斜視図である。
【図2】従来の角速度センサの励振アーム断面電極および結線図である。
【図3】従来の角速度センサの検出アーム断面電極および結線図である。
【図4】振幅検出電極を設けた角速度センサ(H型)の斜視図である。
【図5】振幅検出電極を設けた角速度センサの励振アーム断面電極および結線図である。
【図6】振幅検出電極を設けた角速度センサの検出アーム断面電極および結線図である。
【図7】本発明の角速度センサを駆動する一例を示す回路構成図である。
【図8】3脚のアームを持つ角速度センサの斜視図とアーム電極の断面図である。
【符号の説明】
1 振動子素子
2−1、2−2、2−3 励振アーム
3−1、3−2 検出アーム
4−1、4−2、4−3、4−4、4−5、4−6 励振電極
5−1、5−2、5−3、5−4、5−5、5−6 角速度検出用電極
6−1、6−2、6−3、6−4、6−5、6−6 励振振幅検出用電極
P1、P2 励振電極端子
P3、P4 角速度検出用電極端子
P5、P6 励振振幅検出用電極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】 振動子素子とこの振動子素子に形成された励振電極および角速度検出用電極とを備えた振動子の前記励振電極に交流電圧を印加することにより前記振動子をX軸方向に励振させながら、Y軸中心に回転させたとき前記角速度検出用電極に生ずる電荷量に基づいて回転角速度を検出する角速度センサにおいて、前記振動子の励振側アームのX軸方向への励振振幅を検出する励振振幅検出用電極と、この励振振幅検出用電極により検出されるX軸方向への励振電圧に基づき、このX軸方向への励振振幅を予め定められた値とするための前記励振電極に印加する交流電圧の大きさを調整する励振振幅調整手段とを備えたことを特徴とする角速度センサ。
【請求項2】 振動子素子とこの振動子素子に形成された励振電極および角速度検出用電極とを備えた振動子の前記励振電極に交流電圧を印加することにより前記振動子をZ軸方向に励振させながら、Y軸中心に回転させたとき前記角速度検出用電極に生ずる電荷量に基づいて回転角速度を検出する角速度センサにおいて、前記振動子の励振側アームのZ軸方向への励振振幅を検出する励振振幅検出用電極と、この励振振幅検出用電極により検出されるZ軸方向への励振電圧に基づき、このX軸方向への励振振幅を予め定められた値とするための前記励振電極に印加する交流電圧の大きさを調整する励振振幅調整手段とを備えたことを特徴とする角速度センサ。
【請求項3】 請求項1または2において該振動子素子が、1つの対向する2本のアーム部を有し、一方あるいは双方のアーム部に励振電極または角速度検出用電極を有していて、かつ励振電極の存在するアームに励振振幅検出用電極が形成されていることを特徴とする角速度センサ。
【請求項4】 請求項1または2において振動子素子が、1つの対向する3本のアーム部を有し、少なくとも1本のアーム部に励振電極または角速度検出用電極を有していて、かつ励振電極の存在するアームに励振振幅検出用電極が形成されていることを特徴とする角速度センサ。
【請求項5】 請求項1または2において振動子素子が、対向する2本のアーム部が同一平面(X−Y平面)内に複数個直列あるいは並列されていて、少なくとも1本のアーム部に励振電極または角速度検出用電極を有していて、かつ励振電極の存在するアームに励振振幅検出用電極が形成されていることを特徴とする角速度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2002−39760(P2002−39760A)
【公開日】平成14年2月6日(2002.2.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−226532(P2000−226532)
【出願日】平成12年7月27日(2000.7.27)
【出願人】(000104722)キンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】