触媒付きパティキュレートフィルタ
【課題】COの排出量を増大させることなく、フィルタ再生時間の短縮とフィルタの昇温抑制とを両立する。
【解決手段】入口側が開放され出口側が封止された複数の入口側セル4Aと、出口側が開放されて入口側が封止された複数の出口側セル4Bとが、多孔質性の隔壁2により区画されて交互に配置され、入口側セル4Aは、PM燃焼触媒10が担持された第1入口側セル4A1と、PM燃焼触媒10に加えてCO酸化触媒11が担持された第2入口側セル4A2とを含み、第2入口側セル4A2に担持されたPM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11の合計の担持量が、第1入口側セル4A1に担持されたPM燃焼触媒10よりも多く設定され、出口側セル4Bには、第2入口側セル4A2に担持される触媒と同種の触媒が担持されている。
【解決手段】入口側が開放され出口側が封止された複数の入口側セル4Aと、出口側が開放されて入口側が封止された複数の出口側セル4Bとが、多孔質性の隔壁2により区画されて交互に配置され、入口側セル4Aは、PM燃焼触媒10が担持された第1入口側セル4A1と、PM燃焼触媒10に加えてCO酸化触媒11が担持された第2入口側セル4A2とを含み、第2入口側セル4A2に担持されたPM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11の合計の担持量が、第1入口側セル4A1に担持されたPM燃焼触媒10よりも多く設定され、出口側セル4Bには、第2入口側セル4A2に担持される触媒と同種の触媒が担持されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気通路に設けられ、排気通路を流通する排気ガス中のパティキュレートを捕集するとともに、内部に担持した触媒の作用により上記パティキュレートを燃焼処理する触媒付きパティキュレートフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやリーンバーンガソリンエンジン等の希薄燃焼式エンジンでは、炭素質成分(スート)を主成分とするパティキュレート(Particulate Matter:PM)が排気ガス中に多く含まれる。このため、上記のような希薄燃焼式エンジンの排気通路には、一般に、パティキュレートを捕集するためのパティキュレートフィルタが配設される。
【0003】
パティキュレートフィルタは、例えばハニカム構造体からなり、その内部には、多孔質性の隔壁(5〜20μm程度の径の多数の細孔が形成された隔壁)により区画された多数のセルが、排気ガスの流れ方向に沿って設けられている。上記セルとしては、排気ガスの入口側が開放されて出口側が封止された入口側セルと、出口側が開放されて入口側が封止された出口側セルとが設けられ、これら入口側および出口側セルが交互に(市松模様状に)配置されている。
【0004】
排気ガス中に含まれるパティキュレートは、各セルを区画する隔壁の表面や、隔壁内の細孔に堆積し、捕集されるため、この捕集されたパティキュレートを燃焼除去するための触媒(PM燃焼触媒)が、上記隔壁の表面および細孔の内壁面にコーティング(担持)される。
【0005】
上記捕集されたパティキュレートを燃焼させる際には、一般に、エンジンの膨張行程で燃焼室に燃料を噴射するいわゆるポスト噴射が実行される。ポスト噴射が実行されると、排気ガス中に燃料の未燃成分(HC成分)が添加されるため、上記パティキュレートフィルタよりも上流側に配設された酸化触媒等で上記未燃成分が酸化されて、排気ガスの高温化が図られる。そして、この高温化した排気ガスがパティキュレートフィルタに流入することで、上記パティキュレートフィルタに担持された触媒によるパティキュレートの酸化反応(燃焼)が促進され、堆積していたPMが除去される。
【0006】
パティキュレートフィルタでは、その内部に堆積するパティキュレートの量が過剰にならないように、上記のようなポスト噴射によるパティキュレートの燃焼処理(フィルタ再生処理)を定期的に行う必要がある。ただし、フィルタ再生処理中は、パティキュレートの酸化反応による熱発生があるため、パティキュレートフィルタはかなりの高温に晒される。このため、パティキュレートフィルタの材質としては、SiC、Si3N4等のセラミック材料が使用されることが多い。しかしながら、このような耐熱性材料を用いた場合でも、条件によっては、パティキュレートフィルタの温度が急激に高まって、部分的な溶損や割れが発生する場合もある。
【0007】
もちろん、フィルタ再生処理の要否を判断するための閾値(パティキュレート堆積量の上限値)を小さく設定すれば、パティキュレートの堆積量が比較的少ない段階でフィルタ再生処理が開始されるため、上記のような溶損等の不具合が起きることはまずないと考えられる。しかしながら、上記堆積量の閾値をあまりに小さくすれば、フィルタ再生処理が頻繁に行われることとなり、ポスト噴射により消費される燃焼が増大するため、燃費が大幅に悪化するという問題が生じる。
【0008】
パティキュレートをなるべく速く燃焼させることが可能な触媒を用いれば、燃費の悪化は抑制されるが、単にパティキュレートの高速燃焼を狙っただけでは、上述した溶損等の不具合を招くおそれがあるだけでなく、不完全燃焼による未燃ガス(CO)が大量に発生することが懸念される。
【0009】
このような問題に対し、例えば下記特許文献1に開示されたパティキュレートフィルタが提案されている。同文献のパティキュレートフィルタでは、排気ガスの流入側(上流側)の所定範囲に、パティキュレートを燃焼処理するための触媒層がコートされるとともに、排気ガスの流出側(下流側)の所定範囲に、CO等の有害成分を浄化するためのガス浄化触媒層がコートされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−220029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に開示されたパティキュレートフィルタによれば、パティキュレートの酸化反応(燃焼)のスピードが緩やかになり、未燃ガス(CO)の排出量が低減されることが期待される。しかしながら、フィルタ再生処理の時間短縮や、フィルタの昇温抑制の点ではまだ十分とは言えず、このような課題をより効果的に解決することが可能な技術が求められていた。
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、COの排出量を増大させることなく、フィルタ再生時間の短縮とフィルタの昇温抑制とを両立することが可能なパティキュレートフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジンの排気通路に設けられ、排気通路を流通する排気ガス中のパティキュレートを捕集するとともに、内部に担持した触媒の作用により上記パティキュレートを燃焼処理する触媒付きパティキュレートフィルタであって、上記排気ガスの流れ方向上流側にあたる入口側が開放されかつ反対側の出口側が封止された複数の入口側セルと、出口側が開放されて入口側が封止された複数の出口側セルとを備え、上記入口側および出口側セルが多孔質性の隔壁により区画されて交互に配置されており、上記入口側セルは、捕集されたパティキュレートを燃焼させてCOを生成するPM燃焼触媒が担持された第1入口側セルと、上記PM燃焼触媒に加えて、COを酸化するためのCO酸化触媒が担持された第2入口側セルとを含み、上記第2入口側セルに担持されたPM燃焼触媒およびCO酸化触媒の合計の担持量が、上記第1入口側セルに担持された上記PM燃焼触媒よりも多く設定され、上記出口側セルには、上記第2入口側セルに担持される触媒と同種の触媒が担持されていることを特徴とするものである(請求項1)。
【0014】
本発明によれば、排気ガスが流入する入口側セルを、第1入口側セルおよび第2入口側セルにつくり分け、第1入口側セルにはPM燃焼触媒のみを、第2入口側セルにはPM燃焼触媒およびCO酸化触媒の両方を担持させるとともに、排気ガスが流出する出口側セルには、第2入口側セルと同種の触媒(PM燃焼触媒およびCO酸化触媒)を担持させたため、COの排出量を増大させることなく、フィルタ再生時間の短縮とフィルタの昇温抑制とを両立させることができる。
【0015】
すなわち、PM燃焼触媒およびCO酸化触媒の両方が担持され、合計の担持量も多い第2入口側セルでは、堆積したパティキュレートのほとんどが完全に酸化されてCO2に変化するが、そもそも上記両触媒の合計担持量が多いことに伴って隔壁の細孔が狭くなっている関係からパティキュレートが堆積し難い(パティキュレートの堆積量が少なく済む)ため、トータルとしての熱発生量は低く抑えられる。
【0016】
一方、PM燃焼触媒のみが担持され、合計の担持量も少ない第1入口側セルでは、パティキュレートの堆積量が多く、比較的急速にパティキュレートの酸化反応が進行するものの、COまでしか変化しない不完全な酸化反応が比較的多く起きることで、やはり熱発生量は低く抑えられる。また、ここで発生したCOは、出口側セルに担持された触媒(CO酸化触媒を含む)によりCO2へと酸化されるため、フィルタ下流に排出されるCOの量が増大することもない。
【0017】
以上のようなしくみにより、本発明にかかるパティキュレートフィルタでは、堆積したパティキュレートを迅速に燃焼させてフィルタ再生処理の時間短縮を図りながらも、フィルタ温度の上昇を効果的に抑制でき、しかもCOの排出量の増大を防止することができる。
【0018】
本発明のパティキュレートフィルタにおいて、上記各セルの対角方向に沿った2つの交差線を第1の対角線および第2の対角線とすると、上記第1入口側セルと第2入口側セルとが、上記第1および第2の対角線の両方に沿って交互に配置されることが好ましい(請求項2)。
【0019】
同じく、好ましい形態として、上記第1入口側セルと第2入口側セルとが、上記第1および第2の対角線のうちの一方の対角線に沿って交互に配置されるとともに、他方の対角線に沿って同種の入口側セルが連続して配置されていてもよい(請求項3)。
【0020】
これらの態様によれば、第1入口側セルおよび第2入口側セルを、偏りなく均一に配置することができ、上述した作用効果を適正に確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明のパティキュレートフィルタによれば、COの排出量を増大させることなく、フィルタ再生時間の短縮とフィルタの昇温抑制とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態にかかるパティキュレートフィルタの全体構成を示す図である。
【図2】パティキュレートフィルタの平面図である。
【図3】パティキュレートフィルタの縦断面図である。
【図4】パティキュレートフィルタの上流側端部を拡大して示す模式図である。
【図5】図4のV−V線に沿った断面図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】カーボン燃焼実験により得られたカーボン残存割合の変化を実施例と比較例とで対比して示すグラフである。
【図8】上記実験時に得られた出口ピーク温度を実施例と比較例とで対比して示すグラフである。
【図9】上記実験時に得られたCOのピーク濃度を実施例と比較例とで対比して示すグラフである。
【図10】パティキュレートフィルタにパティキュレートが堆積した状態を示す図である。
【図11】本発明の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)パティキュレートフィルタの構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるパティキュレートフィルタ1の全体構成を示している。本図に示されるパティキュレートフィルタ1は、排気ガスが流通するエンジンの排気通路に配設されるものであり、図例では、外形が円筒状に形成されたハニカム構造体から構成されている。このパティキュレートフィルタ1は、格子状に配置された隔壁2を備え、この隔壁2により区画された断面矩形状の多数のセル4が、排気ガスの流れ方向(図中の白抜き矢印の方向)に沿って平行に配置されている。
【0024】
上記隔壁2は、例えばSiCやSi3N4等のセラミックス、またはコーディエライト等の、微細な(例えば5〜20μm程度)の径の多数の細孔2b(図5、図6参照)を有する多孔質性の材料により構成されている。
【0025】
また、図2および図3に示すように、上記隔壁2により区画形成された多数のセル4は、封止部材6によって入口側および出口側が互い違いに目封じされている。すなわち、多数のセル4のうち、一部のセルについては、入口側(排気ガスの流れ方向上流側)の端部のみが封止部材6によって目封じされ、出口側は開放されている。一方、残余のセルについては、出口側(排気ガスの流れ方向下流側)の端部のみが封止部材6によって目封じされ、入口側は開放されている。
【0026】
出口側が封止されて入口側が開放されたセルを入口側セル4A、入口側が封止されて出口側が開放されたセルを出口側セル4Bとすると、入口側セル4Aおよび出口側セル4Bは、同種のセルが平面視で縦横いずれの方向にも隣接しないように交互に(市松模様状に)配置されている。
【0027】
以上の構成によると、パティキュレートフィルタ1に流れ込む排気ガスは、図3の矢印に示すように、まず入口側セル4Aに流入した後、入口側セル4Aと出口側セル4Bとを区画する多孔質性の隔壁2を通って、出口側セル4Bに流出する。このような過程を経ることで、排気ガス中に含まれるパティキュレート(炭素質成分を主成分とする粒子)が、各セルを囲む隔壁2の表面2aや、その内部の細孔2b(図5、図6)の内壁面に付着、堆積し、それによってパティキュレートが捕集されるようになっている。
【0028】
図5および図6に示すように、上記隔壁2の表面2aおよび細孔2bの内壁面には、捕集されたパティキュレートを燃焼(酸化)させるためのPM燃焼触媒10と、パティキュレートの燃焼により生じるCOを酸化するためのCO酸化触媒11とが層状に担持(コーティング)されている。
【0029】
PM燃焼触媒10としては、酸素イオン伝導性を有する複合酸化物として、例えばジルコニウム酸化物(ZrO2)を主成分とする複合酸化物や、セリウム酸化物(CeO2)を主成分とする複合酸化物等が好適に用いられる。この複合酸化物には、三価の希土類金属、例えば、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、イッテルビウム(Yb)、スカンジウム(Sc)等が含有されるのが好ましい。ジルコニウム酸化物(ZrO2)を主成分とし、上記三価の希土類金属を含む複合酸化物の場合、ZrO2を60mol%以上80mol%以下とし、上記三価の希土類金属より選ばれる少なくとも1種の酸化物を20mol%以上40mol%以下で含ませるのが好ましい。
【0030】
CO酸化触媒11としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の触媒貴金属をγ−アルミナ(Al2O3)などの比較的安定で比表面積の大きな酸化物に担持させたものが好適に用いられる。
【0031】
上記PM酸化触媒10は、パティキュレートフィルタ1における略全ての隔壁2の表面2aと、細孔2bの内壁面に担持される。一方、上記CO酸化触媒11は、一部の入口側セル4Aに対応する隔壁2には担持されておらず、残余の入口側セル4Aと、出口側セル4Bとに対応する隔壁2に担持される。以下では、入口側セル4Aのうち、隔壁2の表面2aにPM酸化触媒10のみが担持される(CO酸化触媒11が担持されない)一部の入口側セル4Aを第1入口側セル4A1、隔壁2の表面2aにPM酸化触媒10およびCO酸化触媒11の両方が担持される残余の入口側セル4Aを第2入口側セル4A2と称する。出口側セル4Bについては、第2入口側セル4A2と同じく、PM酸化触媒10およびCO酸化触媒11の両方が担持される。
【0032】
図4は、パティキュレートフィルタ1の上流側端部(入口部)を拡大して示す模式図である。本図では、第1入口側セル4A1と第2入口側セル4A2とを区別するために、第1入口側セル4A1の外周を1本の実線で、第2入口側セル4A2の外周を2重線で示している。また、両セルに担持される触媒の相違を表すため、第2入口側セル4A2の回りの隔壁2のみをグレーで着色して表示している。
【0033】
図4において、断面矩形状をなす各セルの対角方向に沿った2つの交差線をそれぞれ第1の対角線L1および第2の対角線L2とすると、上記第1入口側セル4A1と第2入口側セル4A2とは、上記第1対角線L1に沿って交互に配置されるとともに、第2対角線L2に沿っても交互に配置されている。
【0034】
上記のような構造のパティキュレートフィルタ1は、例えば次のようにして作製される。すなわち、まず第1入口側セル4A1の上流側端部をマスキングし(このとき、第2入口側セル4A2の上流側端部は開放されており、出口側セル4Bの上流側端部は封止部材6で封止されている)、その状態でCO酸化触媒11のスラリー(触媒の粉末やバインダーとイオン交換水との混合液)にパティキュレートフィルタ1を上流側から浸漬する。これにより、第2入口側セル4A2のみからCO酸化触媒11のスラリーが流入する。
【0035】
その後、下流側からアスピレータにより吸引しスラリーを下流端まで引き上げ、さらに上流側からエアブローをかけるが、このとき、第1入口側セル4A1および第2入口側セル4A2の下流側端部は封止部材6により封止されており、出口側セル4Bの下流側端部のみが開放されているので、余分なCO酸化触媒11のスラリーは、吸引およびエアブローによる圧力により、隔壁2内の細孔2bを通って出口側セル4Bへと導出され、出口側セル4Bの下流側端部から排出される。このように、CO酸化触媒11のスラリーが第2入口側セル4A2から流入して出口側セル4Bへと流出することにより、第2入口側セル4A2および出口側セル4Bをそれぞれ囲む隔壁2の表面2aと、これら両セル4A2,4Bの間の隔壁2における細孔2bの内壁面とに、それぞれCO酸化触媒11の層がコーティングされる。
【0036】
次に、上記第1入口側セル4A1のマスキングを取り除き、全ての入口側セル(第1および第2入口側セル4A1,4A2)の上流側から、PM燃焼触媒10のスラリーを流入させた後、吸引およびエアブローを行う。これにより、PM燃焼触媒10のスラリーが、第1および第2入口側セル4A1,4A2から出口側セル4Bへと導出され、全ての隔壁2の表面2aおよび細孔2bの内壁面に、PM燃焼触媒10の層がコーティングされる。
【0037】
以上のような処理を経ることで、第2入口側セル4A2を囲む隔壁2の表面2aと、そこから所定の深さ範囲における細孔2bの内壁面には、図6に示すように、CO酸化触媒11の層と、PM燃焼触媒10の層とが、この順に下から重ねてコーティングされることになる。また、図5および図6に示すように、出口側セル4Bについては、CO酸化触媒11およびPM燃焼触媒10の層が、主に隔壁2の表面2aに(一部は比較的浅い範囲の細孔2bの内壁面に)コーティングされる。
【0038】
一方、図5に示すように、第1入口側セル4A1を囲む隔壁2の表面2aと、そこから所定の深さ範囲における細孔2bの内壁面には、PM燃焼触媒10の層のみがコーティングされ、CO酸化触媒11の層はコーティングされない。
【0039】
以上説明したように、当実施形態のパティキュレートフィルタ1は、排気ガスの入口側が開放されて出口側が封止された複数の入口側セル4Aと、出口側が開放されて入口側が封止された複数の出口側セル4Bとからなる多数のセル4を備える。このうち、入口側セル4Aは、第1入口側セル4A1と第2入口側セル4A2とに分類され、第1入口側セル4A1にはPM燃焼触媒10のみが担持される一方、第2入口側セル4A2には、PM燃焼触媒10に加えてCO酸化触媒11が担持されている。また、出口側セル4Bについては、第2入口側セル4A2と同様に、PM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11が担持されている。
【0040】
本願発明者による研究によれば、このような構成のパティキュレートフィルタ1を用いることで、COの排出量を増大させることなく、フィルタ再生時間の短縮とフィルタの昇温抑制とを両立させることが可能である。次に、このような作用効果を発見するに至った確認実験の内容について説明する。
【0041】
(2)確認実験
(2−1)実施例
まず、上記実施形態の構成を実現した実験用のサンプル品を実施例として説明する。
【0042】
・製造方法
パティキュレートフィルタ1の実施例としては、セル密度が12mil/300cpsiで、大きさがφ17mm×50mmLのSiC製のフィルタを用い、上記(1)の実施形態の説明で例示したのと同様の製造方法に基づいて、PM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11の層を内部にコーティングした。これにより、図1〜図6に示したのと同様の構造の触媒付きパティキュレートフィルタ1を実施例として作製し、実験に使用した。
【0043】
・触媒の成分
CO酸化触媒11としては、Ptを担持したPt−Al2O3を使用し、該Al2O3には酸化Laを4wt%添加した。この触媒の粉末を10g/L含有したスラリーを、第2入口側セル4A2のみから流し込み、吸引およびエアブローを行うことにより、第2入口側セル4A2および出口側セル4BにCO酸化触媒11の層をコーティングし、150℃下での乾燥を2時間、500℃下での焼成処理を2時間行った。なお、アルミナへのPtの担持量は0.5g/Lとし、Ptを担持させる処理は、Al2O3(酸化La4wt%添加品)の粉末に対し、ジニトロジアンミンPt硝酸溶液およびイオン交換水を混合後、蒸発乾固させ、電気炉で500℃に加熱して2時間焼成処理することで行った。
【0044】
PM燃焼触媒10としては、ジルコニウム系の複合酸化物であるZrO2−12mol%Nd2O3−18mol%Pr2O3を使用した。この触媒の粉末を10g/L含有したスラリーを、全ての入口側セル4A(第1入口側セル4A1および第2入口側セル4A2)から流し込み、吸引およびエアブローを行うことにより、全ての入口側セル4Aおよび出口側セル4BにPM燃焼触媒10の層をコーティングし、150℃下での乾燥を2時間、500℃下での焼成処理を2時間行った。なお、上記ZrO2系複合酸化物にはPtは担持させなかった。
【0045】
(2−2)比較例
上記実施例と比較するための比較例としては、以下の比較例1,2を使用した。
【0046】
・比較例1
比較例1としては、パティキュレートフィルタ1の全ての入口側セル4A(第1および第2入口側セル4A1,4A2)および出口側セル4Bに、PM燃焼触媒10とCO酸化触媒11とを均一に混合した触媒の層をコーティングしたものを使用した。
【0047】
比較例1の作製にあたっては、上記実施例と同じ成分のPM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11の粉末を均一に混合したスラリー、つまり、PM燃焼触媒10を10g/L、CO酸化触媒11を10g/Lそれぞれ含有したスラリーを、全ての入口側セル4Aから流し込み、吸引およびエアブローを行った後、さらに150℃下での乾燥を2時間、500℃下での焼成処理を2時間行った。これにより、全ての入口側セル4Aおよび出口側セル4Bに、上記両触媒10,11を均一に含んだ触媒の層がコーティングされる。
【0048】
・比較例2
比較例2としては、パティキュレートフィルタ1の全ての入口側セル4A(第1および第2入口側セル4A1,4A2)および出口側セル4Bに、CO酸化触媒11の層とPM燃焼触媒10の層とをこの順に下から2層にコーティングしたものを使用した。
【0049】
比較例2の作製にあたっては、まず、上記実施例と同じ成分のCO酸化触媒11の粉末を10g/L含有したスラリーを、全ての入口側セル4Aから流し込み、吸引およびエアブローを行った後、さらに乾燥、焼成処理した。その後、上記実施例と同じ成分のPM酸化触媒10の粉末を10g/L含有したスラリーを、全ての入口側セル4Aから流し込んで吸引およびエアブローし、乾燥、焼成処理した。これにより、全ての入口側セル4Aおよび出口側セル4Bに、CO酸化触媒11(下層)およびPM燃焼触媒10(上層)からなる2層の触媒がコーティングされる。
【0050】
(2−3)評価
上記実施例、および比較例1,2を用いて、下記の条件で、カーボン燃焼性能、過昇温特性、およびCO浄化性能を評価する実験を行った。
【0051】
・カーボン燃焼性能
まず、パティキュレートフィルタ1にパティキュレート(PM)が堆積した状態を擬似的につくり出すため、パティキュレートの代替としてのカーボンブラックの粉末を分散させたイオン交換水に、パティキュレートフィルタ1を入口側セル4A側から浸漬させた後、下流側から水分をアスピレータにより吸引して、その後十分に乾燥させることで、カーボンをフィルタ内に5g/L堆積させる。そして、このようにカーボンが堆積したパティキュレートフィルタ1に、高温の模擬排気ガスを流通させることにより、堆積したカーボンを燃焼させ、そのときの燃焼速度を測定した。
【0052】
具体的には、パティキュレートフィルタの入口部の温度が640℃で安定するまで、高温の窒素ガス(N2)を流通させた後、N2に7.5%のO2と300ppmのNO2を加えた同じ温度の模擬排気ガスを流通させ、その時点からのカーボン残存量の変化を調べた。なお、窒素ガスを流通させるときの空間速度(SV値)は42000/h、模擬ガスを流通させるときの空間速度は44000/hとした。
【0053】
また、堆積したカーボンがどの程度燃焼したかは、カーボン燃焼中のCO及びCO2の濃度をリアルタイムで測定し、得られる濃度を用いて下記の計算式から算出されるカーボンの燃焼速度から、1秒ごとの燃焼カーボン重量の積算値を算出することで、どの程度の割合のカーボンが残存しているかを推定し、その変化を調べた。図7に、このカーボン残存割合(%)の変化を示す。
【0054】
カーボン燃焼速度(g/h)
={ガス流速(L/h)×[(CO+CO2)濃度(ppm)/(1×106)]}×12(g/mol)/22.4(L/mol)
【0055】
図7によれば、実施例のパティキュレータフィルタ1を用いたときのカーボン残存割合の低下速度が、比較例1,2のいずれよりも速いことが分かる。特に、カーボン残存割合が約70%未満10%以上になる時期については、実施例のものが明らかに早く、比較例1,2と比べてより早い段階で多くのカーボンが燃焼している。このことから、実施例のカーボン燃焼性能が最も優れているといえる。
【0056】
・過昇温特性
過昇温特性としては、模擬排気ガスを流通させてカーボンを燃焼させている間、パティキュレートフィルタ1の出口側端部の中心の温度を熱電対で測定し、そのピーク値(フィルタ出口ピーク温度)を調べた。その結果を図8に示す。
【0057】
図8によれば、実施例のパティキュレートフィルタ1を用いたときのピーク温度が最も低いことが分かる。すなわち、比較例2のピーク温度が743℃、比較例1のピーク温度が716℃であるのに対し、実施例のピーク温度は714℃であるから、実施例のピーク温度は、比較例2のピーク温度よりも大幅に低下しており、実施例よりも大幅にカーボンの燃焼が遅くピーク温度が上がりにくい特性を示す比較例1と比べても若干の低下が見られる。このことから、実施例のパティキュレートフィルタ1は、カーボンの燃焼時において最も高温になり難く、過昇温特性を抑制する機能が改善されているといえる。
【0058】
・CO浄化性能
CO浄化性能としては、カーボンの燃焼期間中、パティキュレートフィルタ1の出口側でCOの濃度を測定し、そのピーク値(ピーク濃度)を調べた。その結果を図9に示す。
【0059】
図9によれば、比較例1,2におけるCOのピーク濃度が、それぞれ26ppm、30ppmであるのに対し、実施例におけるCOのピーク濃度は26ppmであるから、実施例のパティキュレートフィルタ1は、COの浄化性能の点で比較例1,2に比べて同等かまたは優れており、十分なレベルの浄化性能を有していることが分かる。
【0060】
(2−4)考察
以上の結果から、実施例のパティキュレートフィルタ1によれば、パティキュレートをどれだけ速く燃焼させられるかを表すカーボン燃焼性能が、比較例1,2よりも優れており、しかも、燃焼によって上昇するフィルタの温度をより低く抑えることが可能である。また、COの浄化性能についても、比較例1,2と比べて遜色ない結果が得られることが分かった。以下に、このような作用効果を得ることができた理由について考察する。
【0061】
実施例のパティキュレートフィルタ1では、入口側セル4Aにおける第1入口側セル4A1に、PM燃焼触媒10の層のみが担持(コーティング)される一方、第2入口側セル4A2には、PM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11からなる2重の触媒層が担持されている。このような構成のパティキュレートフィルタ1に、その入口側(上流側)から排気ガスが流入した場合、入口側セル4Aの内部圧力は、より多量の触媒が担持されている第2入口側セル4A2で高くなり易く、触媒の担持量が少ない第1入口側セル4A1では高くなり難い。
【0062】
すなわち、第2入口側セル4A2を囲む隔壁2では、その内部の細孔2bが、多量の触媒の存在により狭小化しており、第2入口側セル4A2から出口側セル4Bへの排気ガスの流通が阻害されるため、第2入口側セル4A2は、相対的に触媒担持量の少ない第1入口側セル4A1よりも内部圧力が高くなり易い。このため、パティキュレートフィルタ1に流入する排気ガスは、その多くが第1入口側セル4A1に流入し、その結果、第1入口側セル4A1により多くのパティキュレートが堆積することになる。
【0063】
上記第1入口側セル4A1および第2入口側セル4A2にそれぞれパティキュートが堆積した状態を、図10を用いて模式的に示す。図10において、符号Pはパティキュレートの堆積物を表している。本図に示すように、実施例のパティキュレートフィルタ1では、第1入口側セル4A1に、第2入口側セル4A2よりも多量のパティキュレートが堆積することになる。
【0064】
このような状態で、燃料のポスト噴射等により排気ガスの温度を高めて、堆積したパティキュレートの燃焼処理(フィルタ再生処理)を開始すると、第1入口側セル4A1および第2入口側セル4A2のそれぞれでパティキュレートの酸化反応(燃焼)が始まるが、このうち、第2入口側セル4A2では、パティキュレートの堆積量が少ないため、燃焼により生じる熱量が小さく、パティキュレートフィルタ1の温度を大幅に上昇させる要因にはならない。
【0065】
すなわち、第2入口側セル4A2では、PM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11の両方が担持されているため、堆積していたパティキュレートは、そのほとんどがCO2まで完全に酸化されるものの、そもそも堆積しているパティキュレートの量が少ないことから、トータルとして発生する熱量が低く抑えられ、燃焼速度もあまり速くならない。これにより、第2入口側セル4A2でのパティキュレート燃焼の影響でパティキュレートフィルタ1の温度が大幅に上昇することが防止される。
【0066】
一方、パティキュレートの堆積量が多い第1入口側セル4A1では、ヒートマスが大きいことによる効果で、第2入口側セル4A2よりも急速にパティキュレートが燃焼する。しかしながら、第1入口側セル4A1には、PM燃焼触媒10のみが担持されており、CO酸化触媒11は存在しないため、比較的多くのパティキュレートが不完全な酸化反応を起こし、COまでしか反応が進行しない(CO2には変化しない)。
【0067】
ここで、パティキュレートが酸化されてCOに変化する反応(C+O→CO)は、COが酸化されてCO2に変化する反応(CO+O2→CO2)に比べて、熱発生量が小さい。したがって、上記第1入口側セル4A1では、比較的多くのパティキュレートがCOまでしか酸化されないことで、多量のパティキュレートが急速に燃焼しても、その燃焼により生じる熱量が比較的低く抑えられる。
【0068】
また、上記第1入口側セル4A1でのパティキュレート燃焼により生じたCOは、出口側セル4Bへと導出されるが、出口側セル4BにはCO酸化触媒11が担持されているため、そこでCO2へと酸化される。ただし、このCOからCO2への酸化反応は、主に出口側セル4Bの表面(出口側セル4Bを囲む隔壁2の表面2a)での反応であるため、そこで発生した反応熱は、多くが外部へと排出され、パティキュレートフィルタ1にはあまり吸収されない。
【0069】
以上のようなしくみによって、実施例のパティキュレートフィルタ1では、堆積したパティキュレートを迅速に燃焼させてフィルタ再生処理の時間短縮を図りながらも、フィルタ温度の上昇を効果的に抑制でき、しかもCOの排出量の増大を防止できたものと考えられる。
【0070】
(3)変形例
なお、上記実施形態では、図4に示したように、第1入口側セル4A1と第2入口側セル4A2とを、第1の対角線L1および第2の対角線L2の両方に沿って交互に配置したが、第1・第2入口側セル4A1,4A2を偏りなく均一に分布させることができる配置であればこれに限らず、例えば図10に示すような配置を採用してもよい。この図11の例では、第1入口側セル4A1と第2入口側セル4A2とが、第1の対角線L1に沿って交互に配置される一方、これと直交する第2の対角線L2に沿っては、同種の入口側セル(第1入口側セル4A1または第2入口側セル4A2)が連続して配置されている。
【0071】
また、上記実施形態では、第2入口側セル4A2および出口側セル4Bに、まずCO酸化触媒11を担持させ、その上にPM燃焼触媒10を重ねて担持させることにより、CO酸化触媒11の層(下層)とPM燃焼触媒10の層(上層)とからなる2重の触媒層を形成したが、これとは逆に、PM燃焼触媒10が下層でCO酸化触媒11が上層であってもよい。また、両触媒10,11を必ずしも2層に分ける必要はなく、PM燃焼触媒10とCO酸化触媒11とが混合された触媒層が少なくとも一部に存在してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 パティキュレートフィルタ
4A 入口側セル
4A1 第1入口側セル
4A2 第2入口側セル
4B 出口側セル
10 PM燃焼触媒
11 CO酸化触媒
L1 第1の対角線
L2 第2の対角線
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気通路に設けられ、排気通路を流通する排気ガス中のパティキュレートを捕集するとともに、内部に担持した触媒の作用により上記パティキュレートを燃焼処理する触媒付きパティキュレートフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやリーンバーンガソリンエンジン等の希薄燃焼式エンジンでは、炭素質成分(スート)を主成分とするパティキュレート(Particulate Matter:PM)が排気ガス中に多く含まれる。このため、上記のような希薄燃焼式エンジンの排気通路には、一般に、パティキュレートを捕集するためのパティキュレートフィルタが配設される。
【0003】
パティキュレートフィルタは、例えばハニカム構造体からなり、その内部には、多孔質性の隔壁(5〜20μm程度の径の多数の細孔が形成された隔壁)により区画された多数のセルが、排気ガスの流れ方向に沿って設けられている。上記セルとしては、排気ガスの入口側が開放されて出口側が封止された入口側セルと、出口側が開放されて入口側が封止された出口側セルとが設けられ、これら入口側および出口側セルが交互に(市松模様状に)配置されている。
【0004】
排気ガス中に含まれるパティキュレートは、各セルを区画する隔壁の表面や、隔壁内の細孔に堆積し、捕集されるため、この捕集されたパティキュレートを燃焼除去するための触媒(PM燃焼触媒)が、上記隔壁の表面および細孔の内壁面にコーティング(担持)される。
【0005】
上記捕集されたパティキュレートを燃焼させる際には、一般に、エンジンの膨張行程で燃焼室に燃料を噴射するいわゆるポスト噴射が実行される。ポスト噴射が実行されると、排気ガス中に燃料の未燃成分(HC成分)が添加されるため、上記パティキュレートフィルタよりも上流側に配設された酸化触媒等で上記未燃成分が酸化されて、排気ガスの高温化が図られる。そして、この高温化した排気ガスがパティキュレートフィルタに流入することで、上記パティキュレートフィルタに担持された触媒によるパティキュレートの酸化反応(燃焼)が促進され、堆積していたPMが除去される。
【0006】
パティキュレートフィルタでは、その内部に堆積するパティキュレートの量が過剰にならないように、上記のようなポスト噴射によるパティキュレートの燃焼処理(フィルタ再生処理)を定期的に行う必要がある。ただし、フィルタ再生処理中は、パティキュレートの酸化反応による熱発生があるため、パティキュレートフィルタはかなりの高温に晒される。このため、パティキュレートフィルタの材質としては、SiC、Si3N4等のセラミック材料が使用されることが多い。しかしながら、このような耐熱性材料を用いた場合でも、条件によっては、パティキュレートフィルタの温度が急激に高まって、部分的な溶損や割れが発生する場合もある。
【0007】
もちろん、フィルタ再生処理の要否を判断するための閾値(パティキュレート堆積量の上限値)を小さく設定すれば、パティキュレートの堆積量が比較的少ない段階でフィルタ再生処理が開始されるため、上記のような溶損等の不具合が起きることはまずないと考えられる。しかしながら、上記堆積量の閾値をあまりに小さくすれば、フィルタ再生処理が頻繁に行われることとなり、ポスト噴射により消費される燃焼が増大するため、燃費が大幅に悪化するという問題が生じる。
【0008】
パティキュレートをなるべく速く燃焼させることが可能な触媒を用いれば、燃費の悪化は抑制されるが、単にパティキュレートの高速燃焼を狙っただけでは、上述した溶損等の不具合を招くおそれがあるだけでなく、不完全燃焼による未燃ガス(CO)が大量に発生することが懸念される。
【0009】
このような問題に対し、例えば下記特許文献1に開示されたパティキュレートフィルタが提案されている。同文献のパティキュレートフィルタでは、排気ガスの流入側(上流側)の所定範囲に、パティキュレートを燃焼処理するための触媒層がコートされるとともに、排気ガスの流出側(下流側)の所定範囲に、CO等の有害成分を浄化するためのガス浄化触媒層がコートされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−220029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に開示されたパティキュレートフィルタによれば、パティキュレートの酸化反応(燃焼)のスピードが緩やかになり、未燃ガス(CO)の排出量が低減されることが期待される。しかしながら、フィルタ再生処理の時間短縮や、フィルタの昇温抑制の点ではまだ十分とは言えず、このような課題をより効果的に解決することが可能な技術が求められていた。
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、COの排出量を増大させることなく、フィルタ再生時間の短縮とフィルタの昇温抑制とを両立することが可能なパティキュレートフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジンの排気通路に設けられ、排気通路を流通する排気ガス中のパティキュレートを捕集するとともに、内部に担持した触媒の作用により上記パティキュレートを燃焼処理する触媒付きパティキュレートフィルタであって、上記排気ガスの流れ方向上流側にあたる入口側が開放されかつ反対側の出口側が封止された複数の入口側セルと、出口側が開放されて入口側が封止された複数の出口側セルとを備え、上記入口側および出口側セルが多孔質性の隔壁により区画されて交互に配置されており、上記入口側セルは、捕集されたパティキュレートを燃焼させてCOを生成するPM燃焼触媒が担持された第1入口側セルと、上記PM燃焼触媒に加えて、COを酸化するためのCO酸化触媒が担持された第2入口側セルとを含み、上記第2入口側セルに担持されたPM燃焼触媒およびCO酸化触媒の合計の担持量が、上記第1入口側セルに担持された上記PM燃焼触媒よりも多く設定され、上記出口側セルには、上記第2入口側セルに担持される触媒と同種の触媒が担持されていることを特徴とするものである(請求項1)。
【0014】
本発明によれば、排気ガスが流入する入口側セルを、第1入口側セルおよび第2入口側セルにつくり分け、第1入口側セルにはPM燃焼触媒のみを、第2入口側セルにはPM燃焼触媒およびCO酸化触媒の両方を担持させるとともに、排気ガスが流出する出口側セルには、第2入口側セルと同種の触媒(PM燃焼触媒およびCO酸化触媒)を担持させたため、COの排出量を増大させることなく、フィルタ再生時間の短縮とフィルタの昇温抑制とを両立させることができる。
【0015】
すなわち、PM燃焼触媒およびCO酸化触媒の両方が担持され、合計の担持量も多い第2入口側セルでは、堆積したパティキュレートのほとんどが完全に酸化されてCO2に変化するが、そもそも上記両触媒の合計担持量が多いことに伴って隔壁の細孔が狭くなっている関係からパティキュレートが堆積し難い(パティキュレートの堆積量が少なく済む)ため、トータルとしての熱発生量は低く抑えられる。
【0016】
一方、PM燃焼触媒のみが担持され、合計の担持量も少ない第1入口側セルでは、パティキュレートの堆積量が多く、比較的急速にパティキュレートの酸化反応が進行するものの、COまでしか変化しない不完全な酸化反応が比較的多く起きることで、やはり熱発生量は低く抑えられる。また、ここで発生したCOは、出口側セルに担持された触媒(CO酸化触媒を含む)によりCO2へと酸化されるため、フィルタ下流に排出されるCOの量が増大することもない。
【0017】
以上のようなしくみにより、本発明にかかるパティキュレートフィルタでは、堆積したパティキュレートを迅速に燃焼させてフィルタ再生処理の時間短縮を図りながらも、フィルタ温度の上昇を効果的に抑制でき、しかもCOの排出量の増大を防止することができる。
【0018】
本発明のパティキュレートフィルタにおいて、上記各セルの対角方向に沿った2つの交差線を第1の対角線および第2の対角線とすると、上記第1入口側セルと第2入口側セルとが、上記第1および第2の対角線の両方に沿って交互に配置されることが好ましい(請求項2)。
【0019】
同じく、好ましい形態として、上記第1入口側セルと第2入口側セルとが、上記第1および第2の対角線のうちの一方の対角線に沿って交互に配置されるとともに、他方の対角線に沿って同種の入口側セルが連続して配置されていてもよい(請求項3)。
【0020】
これらの態様によれば、第1入口側セルおよび第2入口側セルを、偏りなく均一に配置することができ、上述した作用効果を適正に確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明のパティキュレートフィルタによれば、COの排出量を増大させることなく、フィルタ再生時間の短縮とフィルタの昇温抑制とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態にかかるパティキュレートフィルタの全体構成を示す図である。
【図2】パティキュレートフィルタの平面図である。
【図3】パティキュレートフィルタの縦断面図である。
【図4】パティキュレートフィルタの上流側端部を拡大して示す模式図である。
【図5】図4のV−V線に沿った断面図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】カーボン燃焼実験により得られたカーボン残存割合の変化を実施例と比較例とで対比して示すグラフである。
【図8】上記実験時に得られた出口ピーク温度を実施例と比較例とで対比して示すグラフである。
【図9】上記実験時に得られたCOのピーク濃度を実施例と比較例とで対比して示すグラフである。
【図10】パティキュレートフィルタにパティキュレートが堆積した状態を示す図である。
【図11】本発明の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)パティキュレートフィルタの構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるパティキュレートフィルタ1の全体構成を示している。本図に示されるパティキュレートフィルタ1は、排気ガスが流通するエンジンの排気通路に配設されるものであり、図例では、外形が円筒状に形成されたハニカム構造体から構成されている。このパティキュレートフィルタ1は、格子状に配置された隔壁2を備え、この隔壁2により区画された断面矩形状の多数のセル4が、排気ガスの流れ方向(図中の白抜き矢印の方向)に沿って平行に配置されている。
【0024】
上記隔壁2は、例えばSiCやSi3N4等のセラミックス、またはコーディエライト等の、微細な(例えば5〜20μm程度)の径の多数の細孔2b(図5、図6参照)を有する多孔質性の材料により構成されている。
【0025】
また、図2および図3に示すように、上記隔壁2により区画形成された多数のセル4は、封止部材6によって入口側および出口側が互い違いに目封じされている。すなわち、多数のセル4のうち、一部のセルについては、入口側(排気ガスの流れ方向上流側)の端部のみが封止部材6によって目封じされ、出口側は開放されている。一方、残余のセルについては、出口側(排気ガスの流れ方向下流側)の端部のみが封止部材6によって目封じされ、入口側は開放されている。
【0026】
出口側が封止されて入口側が開放されたセルを入口側セル4A、入口側が封止されて出口側が開放されたセルを出口側セル4Bとすると、入口側セル4Aおよび出口側セル4Bは、同種のセルが平面視で縦横いずれの方向にも隣接しないように交互に(市松模様状に)配置されている。
【0027】
以上の構成によると、パティキュレートフィルタ1に流れ込む排気ガスは、図3の矢印に示すように、まず入口側セル4Aに流入した後、入口側セル4Aと出口側セル4Bとを区画する多孔質性の隔壁2を通って、出口側セル4Bに流出する。このような過程を経ることで、排気ガス中に含まれるパティキュレート(炭素質成分を主成分とする粒子)が、各セルを囲む隔壁2の表面2aや、その内部の細孔2b(図5、図6)の内壁面に付着、堆積し、それによってパティキュレートが捕集されるようになっている。
【0028】
図5および図6に示すように、上記隔壁2の表面2aおよび細孔2bの内壁面には、捕集されたパティキュレートを燃焼(酸化)させるためのPM燃焼触媒10と、パティキュレートの燃焼により生じるCOを酸化するためのCO酸化触媒11とが層状に担持(コーティング)されている。
【0029】
PM燃焼触媒10としては、酸素イオン伝導性を有する複合酸化物として、例えばジルコニウム酸化物(ZrO2)を主成分とする複合酸化物や、セリウム酸化物(CeO2)を主成分とする複合酸化物等が好適に用いられる。この複合酸化物には、三価の希土類金属、例えば、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、イッテルビウム(Yb)、スカンジウム(Sc)等が含有されるのが好ましい。ジルコニウム酸化物(ZrO2)を主成分とし、上記三価の希土類金属を含む複合酸化物の場合、ZrO2を60mol%以上80mol%以下とし、上記三価の希土類金属より選ばれる少なくとも1種の酸化物を20mol%以上40mol%以下で含ませるのが好ましい。
【0030】
CO酸化触媒11としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の触媒貴金属をγ−アルミナ(Al2O3)などの比較的安定で比表面積の大きな酸化物に担持させたものが好適に用いられる。
【0031】
上記PM酸化触媒10は、パティキュレートフィルタ1における略全ての隔壁2の表面2aと、細孔2bの内壁面に担持される。一方、上記CO酸化触媒11は、一部の入口側セル4Aに対応する隔壁2には担持されておらず、残余の入口側セル4Aと、出口側セル4Bとに対応する隔壁2に担持される。以下では、入口側セル4Aのうち、隔壁2の表面2aにPM酸化触媒10のみが担持される(CO酸化触媒11が担持されない)一部の入口側セル4Aを第1入口側セル4A1、隔壁2の表面2aにPM酸化触媒10およびCO酸化触媒11の両方が担持される残余の入口側セル4Aを第2入口側セル4A2と称する。出口側セル4Bについては、第2入口側セル4A2と同じく、PM酸化触媒10およびCO酸化触媒11の両方が担持される。
【0032】
図4は、パティキュレートフィルタ1の上流側端部(入口部)を拡大して示す模式図である。本図では、第1入口側セル4A1と第2入口側セル4A2とを区別するために、第1入口側セル4A1の外周を1本の実線で、第2入口側セル4A2の外周を2重線で示している。また、両セルに担持される触媒の相違を表すため、第2入口側セル4A2の回りの隔壁2のみをグレーで着色して表示している。
【0033】
図4において、断面矩形状をなす各セルの対角方向に沿った2つの交差線をそれぞれ第1の対角線L1および第2の対角線L2とすると、上記第1入口側セル4A1と第2入口側セル4A2とは、上記第1対角線L1に沿って交互に配置されるとともに、第2対角線L2に沿っても交互に配置されている。
【0034】
上記のような構造のパティキュレートフィルタ1は、例えば次のようにして作製される。すなわち、まず第1入口側セル4A1の上流側端部をマスキングし(このとき、第2入口側セル4A2の上流側端部は開放されており、出口側セル4Bの上流側端部は封止部材6で封止されている)、その状態でCO酸化触媒11のスラリー(触媒の粉末やバインダーとイオン交換水との混合液)にパティキュレートフィルタ1を上流側から浸漬する。これにより、第2入口側セル4A2のみからCO酸化触媒11のスラリーが流入する。
【0035】
その後、下流側からアスピレータにより吸引しスラリーを下流端まで引き上げ、さらに上流側からエアブローをかけるが、このとき、第1入口側セル4A1および第2入口側セル4A2の下流側端部は封止部材6により封止されており、出口側セル4Bの下流側端部のみが開放されているので、余分なCO酸化触媒11のスラリーは、吸引およびエアブローによる圧力により、隔壁2内の細孔2bを通って出口側セル4Bへと導出され、出口側セル4Bの下流側端部から排出される。このように、CO酸化触媒11のスラリーが第2入口側セル4A2から流入して出口側セル4Bへと流出することにより、第2入口側セル4A2および出口側セル4Bをそれぞれ囲む隔壁2の表面2aと、これら両セル4A2,4Bの間の隔壁2における細孔2bの内壁面とに、それぞれCO酸化触媒11の層がコーティングされる。
【0036】
次に、上記第1入口側セル4A1のマスキングを取り除き、全ての入口側セル(第1および第2入口側セル4A1,4A2)の上流側から、PM燃焼触媒10のスラリーを流入させた後、吸引およびエアブローを行う。これにより、PM燃焼触媒10のスラリーが、第1および第2入口側セル4A1,4A2から出口側セル4Bへと導出され、全ての隔壁2の表面2aおよび細孔2bの内壁面に、PM燃焼触媒10の層がコーティングされる。
【0037】
以上のような処理を経ることで、第2入口側セル4A2を囲む隔壁2の表面2aと、そこから所定の深さ範囲における細孔2bの内壁面には、図6に示すように、CO酸化触媒11の層と、PM燃焼触媒10の層とが、この順に下から重ねてコーティングされることになる。また、図5および図6に示すように、出口側セル4Bについては、CO酸化触媒11およびPM燃焼触媒10の層が、主に隔壁2の表面2aに(一部は比較的浅い範囲の細孔2bの内壁面に)コーティングされる。
【0038】
一方、図5に示すように、第1入口側セル4A1を囲む隔壁2の表面2aと、そこから所定の深さ範囲における細孔2bの内壁面には、PM燃焼触媒10の層のみがコーティングされ、CO酸化触媒11の層はコーティングされない。
【0039】
以上説明したように、当実施形態のパティキュレートフィルタ1は、排気ガスの入口側が開放されて出口側が封止された複数の入口側セル4Aと、出口側が開放されて入口側が封止された複数の出口側セル4Bとからなる多数のセル4を備える。このうち、入口側セル4Aは、第1入口側セル4A1と第2入口側セル4A2とに分類され、第1入口側セル4A1にはPM燃焼触媒10のみが担持される一方、第2入口側セル4A2には、PM燃焼触媒10に加えてCO酸化触媒11が担持されている。また、出口側セル4Bについては、第2入口側セル4A2と同様に、PM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11が担持されている。
【0040】
本願発明者による研究によれば、このような構成のパティキュレートフィルタ1を用いることで、COの排出量を増大させることなく、フィルタ再生時間の短縮とフィルタの昇温抑制とを両立させることが可能である。次に、このような作用効果を発見するに至った確認実験の内容について説明する。
【0041】
(2)確認実験
(2−1)実施例
まず、上記実施形態の構成を実現した実験用のサンプル品を実施例として説明する。
【0042】
・製造方法
パティキュレートフィルタ1の実施例としては、セル密度が12mil/300cpsiで、大きさがφ17mm×50mmLのSiC製のフィルタを用い、上記(1)の実施形態の説明で例示したのと同様の製造方法に基づいて、PM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11の層を内部にコーティングした。これにより、図1〜図6に示したのと同様の構造の触媒付きパティキュレートフィルタ1を実施例として作製し、実験に使用した。
【0043】
・触媒の成分
CO酸化触媒11としては、Ptを担持したPt−Al2O3を使用し、該Al2O3には酸化Laを4wt%添加した。この触媒の粉末を10g/L含有したスラリーを、第2入口側セル4A2のみから流し込み、吸引およびエアブローを行うことにより、第2入口側セル4A2および出口側セル4BにCO酸化触媒11の層をコーティングし、150℃下での乾燥を2時間、500℃下での焼成処理を2時間行った。なお、アルミナへのPtの担持量は0.5g/Lとし、Ptを担持させる処理は、Al2O3(酸化La4wt%添加品)の粉末に対し、ジニトロジアンミンPt硝酸溶液およびイオン交換水を混合後、蒸発乾固させ、電気炉で500℃に加熱して2時間焼成処理することで行った。
【0044】
PM燃焼触媒10としては、ジルコニウム系の複合酸化物であるZrO2−12mol%Nd2O3−18mol%Pr2O3を使用した。この触媒の粉末を10g/L含有したスラリーを、全ての入口側セル4A(第1入口側セル4A1および第2入口側セル4A2)から流し込み、吸引およびエアブローを行うことにより、全ての入口側セル4Aおよび出口側セル4BにPM燃焼触媒10の層をコーティングし、150℃下での乾燥を2時間、500℃下での焼成処理を2時間行った。なお、上記ZrO2系複合酸化物にはPtは担持させなかった。
【0045】
(2−2)比較例
上記実施例と比較するための比較例としては、以下の比較例1,2を使用した。
【0046】
・比較例1
比較例1としては、パティキュレートフィルタ1の全ての入口側セル4A(第1および第2入口側セル4A1,4A2)および出口側セル4Bに、PM燃焼触媒10とCO酸化触媒11とを均一に混合した触媒の層をコーティングしたものを使用した。
【0047】
比較例1の作製にあたっては、上記実施例と同じ成分のPM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11の粉末を均一に混合したスラリー、つまり、PM燃焼触媒10を10g/L、CO酸化触媒11を10g/Lそれぞれ含有したスラリーを、全ての入口側セル4Aから流し込み、吸引およびエアブローを行った後、さらに150℃下での乾燥を2時間、500℃下での焼成処理を2時間行った。これにより、全ての入口側セル4Aおよび出口側セル4Bに、上記両触媒10,11を均一に含んだ触媒の層がコーティングされる。
【0048】
・比較例2
比較例2としては、パティキュレートフィルタ1の全ての入口側セル4A(第1および第2入口側セル4A1,4A2)および出口側セル4Bに、CO酸化触媒11の層とPM燃焼触媒10の層とをこの順に下から2層にコーティングしたものを使用した。
【0049】
比較例2の作製にあたっては、まず、上記実施例と同じ成分のCO酸化触媒11の粉末を10g/L含有したスラリーを、全ての入口側セル4Aから流し込み、吸引およびエアブローを行った後、さらに乾燥、焼成処理した。その後、上記実施例と同じ成分のPM酸化触媒10の粉末を10g/L含有したスラリーを、全ての入口側セル4Aから流し込んで吸引およびエアブローし、乾燥、焼成処理した。これにより、全ての入口側セル4Aおよび出口側セル4Bに、CO酸化触媒11(下層)およびPM燃焼触媒10(上層)からなる2層の触媒がコーティングされる。
【0050】
(2−3)評価
上記実施例、および比較例1,2を用いて、下記の条件で、カーボン燃焼性能、過昇温特性、およびCO浄化性能を評価する実験を行った。
【0051】
・カーボン燃焼性能
まず、パティキュレートフィルタ1にパティキュレート(PM)が堆積した状態を擬似的につくり出すため、パティキュレートの代替としてのカーボンブラックの粉末を分散させたイオン交換水に、パティキュレートフィルタ1を入口側セル4A側から浸漬させた後、下流側から水分をアスピレータにより吸引して、その後十分に乾燥させることで、カーボンをフィルタ内に5g/L堆積させる。そして、このようにカーボンが堆積したパティキュレートフィルタ1に、高温の模擬排気ガスを流通させることにより、堆積したカーボンを燃焼させ、そのときの燃焼速度を測定した。
【0052】
具体的には、パティキュレートフィルタの入口部の温度が640℃で安定するまで、高温の窒素ガス(N2)を流通させた後、N2に7.5%のO2と300ppmのNO2を加えた同じ温度の模擬排気ガスを流通させ、その時点からのカーボン残存量の変化を調べた。なお、窒素ガスを流通させるときの空間速度(SV値)は42000/h、模擬ガスを流通させるときの空間速度は44000/hとした。
【0053】
また、堆積したカーボンがどの程度燃焼したかは、カーボン燃焼中のCO及びCO2の濃度をリアルタイムで測定し、得られる濃度を用いて下記の計算式から算出されるカーボンの燃焼速度から、1秒ごとの燃焼カーボン重量の積算値を算出することで、どの程度の割合のカーボンが残存しているかを推定し、その変化を調べた。図7に、このカーボン残存割合(%)の変化を示す。
【0054】
カーボン燃焼速度(g/h)
={ガス流速(L/h)×[(CO+CO2)濃度(ppm)/(1×106)]}×12(g/mol)/22.4(L/mol)
【0055】
図7によれば、実施例のパティキュレータフィルタ1を用いたときのカーボン残存割合の低下速度が、比較例1,2のいずれよりも速いことが分かる。特に、カーボン残存割合が約70%未満10%以上になる時期については、実施例のものが明らかに早く、比較例1,2と比べてより早い段階で多くのカーボンが燃焼している。このことから、実施例のカーボン燃焼性能が最も優れているといえる。
【0056】
・過昇温特性
過昇温特性としては、模擬排気ガスを流通させてカーボンを燃焼させている間、パティキュレートフィルタ1の出口側端部の中心の温度を熱電対で測定し、そのピーク値(フィルタ出口ピーク温度)を調べた。その結果を図8に示す。
【0057】
図8によれば、実施例のパティキュレートフィルタ1を用いたときのピーク温度が最も低いことが分かる。すなわち、比較例2のピーク温度が743℃、比較例1のピーク温度が716℃であるのに対し、実施例のピーク温度は714℃であるから、実施例のピーク温度は、比較例2のピーク温度よりも大幅に低下しており、実施例よりも大幅にカーボンの燃焼が遅くピーク温度が上がりにくい特性を示す比較例1と比べても若干の低下が見られる。このことから、実施例のパティキュレートフィルタ1は、カーボンの燃焼時において最も高温になり難く、過昇温特性を抑制する機能が改善されているといえる。
【0058】
・CO浄化性能
CO浄化性能としては、カーボンの燃焼期間中、パティキュレートフィルタ1の出口側でCOの濃度を測定し、そのピーク値(ピーク濃度)を調べた。その結果を図9に示す。
【0059】
図9によれば、比較例1,2におけるCOのピーク濃度が、それぞれ26ppm、30ppmであるのに対し、実施例におけるCOのピーク濃度は26ppmであるから、実施例のパティキュレートフィルタ1は、COの浄化性能の点で比較例1,2に比べて同等かまたは優れており、十分なレベルの浄化性能を有していることが分かる。
【0060】
(2−4)考察
以上の結果から、実施例のパティキュレートフィルタ1によれば、パティキュレートをどれだけ速く燃焼させられるかを表すカーボン燃焼性能が、比較例1,2よりも優れており、しかも、燃焼によって上昇するフィルタの温度をより低く抑えることが可能である。また、COの浄化性能についても、比較例1,2と比べて遜色ない結果が得られることが分かった。以下に、このような作用効果を得ることができた理由について考察する。
【0061】
実施例のパティキュレートフィルタ1では、入口側セル4Aにおける第1入口側セル4A1に、PM燃焼触媒10の層のみが担持(コーティング)される一方、第2入口側セル4A2には、PM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11からなる2重の触媒層が担持されている。このような構成のパティキュレートフィルタ1に、その入口側(上流側)から排気ガスが流入した場合、入口側セル4Aの内部圧力は、より多量の触媒が担持されている第2入口側セル4A2で高くなり易く、触媒の担持量が少ない第1入口側セル4A1では高くなり難い。
【0062】
すなわち、第2入口側セル4A2を囲む隔壁2では、その内部の細孔2bが、多量の触媒の存在により狭小化しており、第2入口側セル4A2から出口側セル4Bへの排気ガスの流通が阻害されるため、第2入口側セル4A2は、相対的に触媒担持量の少ない第1入口側セル4A1よりも内部圧力が高くなり易い。このため、パティキュレートフィルタ1に流入する排気ガスは、その多くが第1入口側セル4A1に流入し、その結果、第1入口側セル4A1により多くのパティキュレートが堆積することになる。
【0063】
上記第1入口側セル4A1および第2入口側セル4A2にそれぞれパティキュートが堆積した状態を、図10を用いて模式的に示す。図10において、符号Pはパティキュレートの堆積物を表している。本図に示すように、実施例のパティキュレートフィルタ1では、第1入口側セル4A1に、第2入口側セル4A2よりも多量のパティキュレートが堆積することになる。
【0064】
このような状態で、燃料のポスト噴射等により排気ガスの温度を高めて、堆積したパティキュレートの燃焼処理(フィルタ再生処理)を開始すると、第1入口側セル4A1および第2入口側セル4A2のそれぞれでパティキュレートの酸化反応(燃焼)が始まるが、このうち、第2入口側セル4A2では、パティキュレートの堆積量が少ないため、燃焼により生じる熱量が小さく、パティキュレートフィルタ1の温度を大幅に上昇させる要因にはならない。
【0065】
すなわち、第2入口側セル4A2では、PM燃焼触媒10およびCO酸化触媒11の両方が担持されているため、堆積していたパティキュレートは、そのほとんどがCO2まで完全に酸化されるものの、そもそも堆積しているパティキュレートの量が少ないことから、トータルとして発生する熱量が低く抑えられ、燃焼速度もあまり速くならない。これにより、第2入口側セル4A2でのパティキュレート燃焼の影響でパティキュレートフィルタ1の温度が大幅に上昇することが防止される。
【0066】
一方、パティキュレートの堆積量が多い第1入口側セル4A1では、ヒートマスが大きいことによる効果で、第2入口側セル4A2よりも急速にパティキュレートが燃焼する。しかしながら、第1入口側セル4A1には、PM燃焼触媒10のみが担持されており、CO酸化触媒11は存在しないため、比較的多くのパティキュレートが不完全な酸化反応を起こし、COまでしか反応が進行しない(CO2には変化しない)。
【0067】
ここで、パティキュレートが酸化されてCOに変化する反応(C+O→CO)は、COが酸化されてCO2に変化する反応(CO+O2→CO2)に比べて、熱発生量が小さい。したがって、上記第1入口側セル4A1では、比較的多くのパティキュレートがCOまでしか酸化されないことで、多量のパティキュレートが急速に燃焼しても、その燃焼により生じる熱量が比較的低く抑えられる。
【0068】
また、上記第1入口側セル4A1でのパティキュレート燃焼により生じたCOは、出口側セル4Bへと導出されるが、出口側セル4BにはCO酸化触媒11が担持されているため、そこでCO2へと酸化される。ただし、このCOからCO2への酸化反応は、主に出口側セル4Bの表面(出口側セル4Bを囲む隔壁2の表面2a)での反応であるため、そこで発生した反応熱は、多くが外部へと排出され、パティキュレートフィルタ1にはあまり吸収されない。
【0069】
以上のようなしくみによって、実施例のパティキュレートフィルタ1では、堆積したパティキュレートを迅速に燃焼させてフィルタ再生処理の時間短縮を図りながらも、フィルタ温度の上昇を効果的に抑制でき、しかもCOの排出量の増大を防止できたものと考えられる。
【0070】
(3)変形例
なお、上記実施形態では、図4に示したように、第1入口側セル4A1と第2入口側セル4A2とを、第1の対角線L1および第2の対角線L2の両方に沿って交互に配置したが、第1・第2入口側セル4A1,4A2を偏りなく均一に分布させることができる配置であればこれに限らず、例えば図10に示すような配置を採用してもよい。この図11の例では、第1入口側セル4A1と第2入口側セル4A2とが、第1の対角線L1に沿って交互に配置される一方、これと直交する第2の対角線L2に沿っては、同種の入口側セル(第1入口側セル4A1または第2入口側セル4A2)が連続して配置されている。
【0071】
また、上記実施形態では、第2入口側セル4A2および出口側セル4Bに、まずCO酸化触媒11を担持させ、その上にPM燃焼触媒10を重ねて担持させることにより、CO酸化触媒11の層(下層)とPM燃焼触媒10の層(上層)とからなる2重の触媒層を形成したが、これとは逆に、PM燃焼触媒10が下層でCO酸化触媒11が上層であってもよい。また、両触媒10,11を必ずしも2層に分ける必要はなく、PM燃焼触媒10とCO酸化触媒11とが混合された触媒層が少なくとも一部に存在してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 パティキュレートフィルタ
4A 入口側セル
4A1 第1入口側セル
4A2 第2入口側セル
4B 出口側セル
10 PM燃焼触媒
11 CO酸化触媒
L1 第1の対角線
L2 第2の対角線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路に設けられ、排気通路を流通する排気ガス中のパティキュレートを捕集するとともに、内部に担持した触媒の作用により上記パティキュレートを燃焼処理する触媒付きパティキュレートフィルタであって、
上記排気ガスの流れ方向上流側にあたる入口側が開放されかつ反対側の出口側が封止された複数の入口側セルと、出口側が開放されて入口側が封止された複数の出口側セルとを備え、上記入口側および出口側セルが多孔質性の隔壁により区画されて交互に配置されており、
上記入口側セルは、捕集されたパティキュレートを燃焼させてCOを生成するPM燃焼触媒が担持された第1入口側セルと、上記PM燃焼触媒に加えて、COを酸化するためのCO酸化触媒が担持された第2入口側セルとを含み、上記第2入口側セルに担持されたPM燃焼触媒およびCO酸化触媒の合計の担持量が、上記第1入口側セルに担持された上記PM燃焼触媒よりも多く設定され、
上記出口側セルには、上記第2入口側セルに担持される触媒と同種の触媒が担持されていることを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。
【請求項2】
請求項1記載の触媒付きパティキュレートフィルタにおいて、
上記各セルの対角方向に沿った2つの交差線をそれぞれ第1の対角線および第2の対角線としたときに、上記第1入口側セルと第2入口側セルとが、上記第1および第2の対角線の両方に沿って交互に配置されたことを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。
【請求項3】
請求項1記載の触媒付きパティキュレートフィルタにおいて、
上記各セルの対角方向に沿った2つの交差線をそれぞれ第1の対角線および第2の対角線としたときに、上記第1入口側セルと第2入口側セルとが、上記第1および第2の対角線のうちの一方の対角線に沿って交互に配置されるとともに、他方の対角線に沿って同種の入口側セルが連続して配置されたことを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。
【請求項1】
エンジンの排気通路に設けられ、排気通路を流通する排気ガス中のパティキュレートを捕集するとともに、内部に担持した触媒の作用により上記パティキュレートを燃焼処理する触媒付きパティキュレートフィルタであって、
上記排気ガスの流れ方向上流側にあたる入口側が開放されかつ反対側の出口側が封止された複数の入口側セルと、出口側が開放されて入口側が封止された複数の出口側セルとを備え、上記入口側および出口側セルが多孔質性の隔壁により区画されて交互に配置されており、
上記入口側セルは、捕集されたパティキュレートを燃焼させてCOを生成するPM燃焼触媒が担持された第1入口側セルと、上記PM燃焼触媒に加えて、COを酸化するためのCO酸化触媒が担持された第2入口側セルとを含み、上記第2入口側セルに担持されたPM燃焼触媒およびCO酸化触媒の合計の担持量が、上記第1入口側セルに担持された上記PM燃焼触媒よりも多く設定され、
上記出口側セルには、上記第2入口側セルに担持される触媒と同種の触媒が担持されていることを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。
【請求項2】
請求項1記載の触媒付きパティキュレートフィルタにおいて、
上記各セルの対角方向に沿った2つの交差線をそれぞれ第1の対角線および第2の対角線としたときに、上記第1入口側セルと第2入口側セルとが、上記第1および第2の対角線の両方に沿って交互に配置されたことを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。
【請求項3】
請求項1記載の触媒付きパティキュレートフィルタにおいて、
上記各セルの対角方向に沿った2つの交差線をそれぞれ第1の対角線および第2の対角線としたときに、上記第1入口側セルと第2入口側セルとが、上記第1および第2の対角線のうちの一方の対角線に沿って交互に配置されるとともに、他方の対角線に沿って同種の入口側セルが連続して配置されたことを特徴とする触媒付きパティキュレートフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図4】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図4】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−208526(P2011−208526A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75198(P2010−75198)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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