説明

触媒担持用セラミックフィルタ及びその製造方法

【課題】無機微粒子塗膜形成前のプレコート処理を必要とすることなく、低い熱膨張係数が得られる触媒担持用セラミックフィルタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】表面に触媒を担持するための触媒担持用セラミックフィルタであって、平均アスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)が1.3以上であるチタン酸アルミニウムから形成されたセラミックフィルタ本体と、セラミックフィルタ本体の比表面積を高めるためセラミックフィルタ本体の表面上に直接設けられる無機微粒子膜とを備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸アルミニウムを用いた触媒担持用セラミックフィルタ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン酸アルミニウムは、低熱膨張性で耐熱衝撃性に優れ、かつ融点が高いため、自動車の排ガス処理用触媒担体や、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等に用いられる多孔質材料として期待され、種々の開発が行われている。
【0003】
特許文献1においては、チタン酸アルミニウムが有する高融点、低熱膨張性を損なうことなく、高強度を有し、繰り返しの熱履歴に対して機械的強度の劣化が少ないチタン酸アルミニウム焼結体を得るため、チタン酸アルミニウムに、酸化マグネシウム及び酸化ケイ素を添加したものを焼結することが提案されている。
【0004】
特許文献2においては、柱状チタン酸アルミニウムを用いて排ガスフィルタを製造することが開示されており、柱状粒子の長手方向が負の熱膨張係数であるとき長手方向と垂直な方向が正の熱膨張係数であるか、あるいは柱状粒子の長手方向が正の熱膨張係数であるとき長手方向と垂直な方向が負の熱膨張係数である排ガスフィルタを製造することが提案されている。
【0005】
しかしながら、柱状チタン酸アルミニウムの具体的な製造方法については開示されていない。
【0006】
チタン酸アルミニウムからなるセラミックフィルタを触媒担持用セラミックフィルタとして用いる場合、比表面積を高めるため、セラミックフィルタの表面にアルミナなどの無機微粒子からなる膜を設けることが行われている。無機微粒子膜は、無機微粒子を含有する溶液を塗布することにより、一般に形成されているが、このような無機微粒子膜を設けると、チタン酸アルミニウムの構造的微少亀裂内に、無機微粒子が入り込むという問題があった。微少亀裂は、チタン酸アルミニウムの低熱膨張性に寄与するものであり、微少亀裂内に無機微粒子が入り込むと、チタン酸アルミニウムが有する低熱膨張性を得ることができないという問題があった。
【0007】
特許文献3においては、上記のような問題を解消するため、無機微粒子膜を設ける前に、プレコート処理を施し、チタン酸アルミニウムの微少亀裂内にプレコートを予め充填させておくことにより、無機微粒子が微少亀裂内に入り込むのを防止することが提案されている。
【0008】
しかしながら、このようなプレコート処理を施すことにより、触媒担持用セラミックフィルタの生産効率が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−249657号公報
【特許文献2】特開平9−29023号公報
【特許文献3】特表2007−526117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、無機微粒子膜形成前のプレコート処理を必要とすることなく、低い熱膨張係数が得られる触媒担持用セラミックフィルタ及びその製造方法を提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、表面に触媒を担持するための触媒担持用セラミックフィルタであって、平均アスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)が1.3以上であるチタン酸アルミニウムから形成されたセラミックフィルタ本体と、セラミックフィルタ本体の比表面積を高めるためセラミックフィルタ本体の表面上に直接設けられる無機微粒子膜とを備えることを特徴としている。
【0012】
本発明の触媒担持用セラミックフィルタにおいては、平均アスペクト比が1.3以上であるチタン酸アルミニウムを用いて、セラミックフィルタ本体を形成している。平均アスペクト比が1.3以上であるチタン酸アルミニウムを用いることにより、セラミックフィルタ本体の表面に、プレコート膜を形成することなく、無機微粒子膜を直接設けた場合にも、低い熱膨張係数を有する触媒担持用セラミックフィルタとすることができる。
【0013】
本発明においてセラミックフィルタ本体を形成するために用いるチタン酸アルミニウムは、平均アスペクト比が1.3以上である柱状チタン酸アルミニウムである。本発明において用いるチタン酸アルミニウムの平均アスペクト比は、さらに好ましくは1.5以上であり、平均アスペクト比の上限値は、特に限定されないが、一般には5以下である。平均アスペクト比の高いチタン酸アルミニウムを用いることにより、触媒担持用セラミックフィルタの熱膨張係数をより低くすることができるとともに、セラミックフィルタの強度を高めることができる。
【0014】
セラミックフィルタ本体の表面上に設ける無機微粒子膜は、セラミックフィルタ本体100重量部に対し、5〜50重量部の範囲内であることが好ましく、10〜30重量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0015】
無機微粒子膜を形成する無機微粒子としては、アルミナ、ジルコニアなどが挙げられる。無機微粒子の平均粒子径としては、0.1〜5μmの範囲であることが好ましい。
【0016】
無機微粒子膜は、無機微粒子を含むゾルなどの溶液を塗布することにより形成することができる。
【0017】
本発明の触媒担持用セラミックフィルタは、その表面に銀などの触媒を担持して用いることができる。
【0018】
本発明において、柱状チタン酸アルミニウムの個数平均短軸径は、10μm以下であることが好ましい。個数平均短軸径は、5〜10μmの範囲内であることがさらに好ましい。また、個数平均長軸径は、7〜17μmの範囲内であることが好ましい。
【0019】
柱状チタン酸アルミニウムの個数平均長軸径及び個数平均短軸径は、例えば、フロー式粒子像分析装置により測定することができる。
【0020】
本発明の柱状チタン酸アルミニウムを製造する方法としては、チタン源、アルミニウム源、及びマグネシウム源を含む原料をメカノケミカルに粉砕しながら混合する工程と、粉砕した混合物を焼成する工程とを備える方法が挙げられる。
【0021】
チタン源、アルミニウム源、及びマグネシウム源を含む原料を、ケミカルに粉砕しながら混合した粉砕混合物を用い、この粉砕混合物を焼成することにより、平均アスペクト比が1.3以上である柱状のチタン酸アルミニウムを製造することができる。
【0022】
粉砕混合物を焼成する温度としては、1300〜1600℃の範囲内の温度であることが好ましい。このような温度範囲内で焼成することにより、本発明の柱状チタン酸アルミニウムをより効率的に製造することができる。
【0023】
焼成時間は、特に限定されるものではないが、0.5時間〜20時間の範囲内で行うことが好ましい。
【0024】
メカノケミカルな粉砕としては、物理的な衝撃を与えながら粉砕する方法が挙げられる。具体的には、振動ミルによる粉砕が挙げられる。振動ミルによる粉砕処理を行うことにより、混合粉体の摩砕による剪断応力によって、原子配列の乱れと原子間距離の減少が同時に起こり、異種粒子の接点部分の原子移動が起こる結果、準安定相が得られると考えられる。これにより、反応活性の高い粉砕混合物が得られ、この反応活性の高い粉砕混合物を焼成することにより、上記本発明の柱状チタン酸アルミニウムを製造することができる。
【0025】
本発明におけるメカノケミカルな粉砕は、一般に、水や溶剤を用いない乾式処理として行われる。
【0026】
メカノケミカルな粉砕による混合処理の時間は特に限定されるものではないが、一般には0.1時間〜6時間の範囲内であることが好ましい。
【0027】
本発明において用いる原料には、チタン源、アルミニウム源、及びマグネシウム源が含まれる。チタン源としては、酸化チタンを含有する化合物を用いることができ、具体的には、酸化チタン、ルチル鉱石、水酸化チタンウェットケーキ、含水チタニアなどが挙げられる。
【0028】
アルミニウム源としては、加熱により酸化アルミニウムを生じる化合物を用いることができ、具体的には、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。これらの中でも、特に酸化アルミニウムが好ましく用いられる。
【0029】
チタン源とアルミニウム源の混合割合としては、Ti:Al=1:2(モル比)の割合を基本とするが、それぞれ±10%程度であれば変化させても支障はない。
【0030】
マグネシウム源としては、加熱により酸化マグネシウムを生じる化合物を用いることができ、具体的には、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。これらの中でも、特に水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムが好ましく用いられる。
【0031】
マグネシウム源は、チタン源及びアルミニウム源の合計に対してそれぞれの酸化物換算で0.5〜2.0重量%の範囲内となるように原料中に含まれていることが好ましい。0.5重量%未満であると、低い熱膨張係数及び高い機械的強度を有する焼結体が得られない場合がある。また、2.0重量%より多くなると、平均アスペクト比が1.3以上である柱状チタン酸アルミニウムが得られない場合がある。
【0032】
また、本発明の製造方法においては、原料中にケイ素源がさらに含まれていても良い。
【0033】
ケイ素源が含有させることにより、チタン酸アルミニウムの分解を抑制することができ、高温安定性に優れた柱状チタン酸アルミニウムを製造することができる。
【0034】
ケイ素源としては、酸化ケイ素、ケイ素などが挙げられる。これらの中でも、特に酸化ケイ素が好ましく用いられる。ケイ素源の原料中における含有量は、チタン源及びアルミニウム源の合計に対してそれぞれの酸化物換算で、0.5〜10重量%の範囲内であることが好ましい。このような範囲内とすることにより、柱状チタン酸アルミニウムをより安定して製造することができる。
【0035】
本発明においては、セラミックフィルタ本体の押出方向における30〜800℃の間の熱膨張係数が0.5×10−6/℃以下であり、上記押出方向に対するC軸の結晶配向比が0.75以上であることが好ましい。熱膨張係数が0.5×10−6/℃以下であることにより、耐熱衝撃性に優れた特性を得ることができる。熱膨張係数の下限値は、特に限定されるものではないが、一般に−1.0×10−6/℃以上である。
【0036】
上記押出方向に対するC軸の結晶配向比が0.75以上であることにより、上記押出方向における熱膨張係数を小さくすることができる。
【0037】
本発明におけるフィルタ本体押出方向に対するC軸の結晶配向比は、以下の式から求めることができる。
【0038】
フィルタ本体押出方向のC軸の結晶配向比=A/(A+B)
A:フィルタ本体押出方向のC軸配向度=I002/(I002+I230
B:フィルタ本体垂直方向のC軸配向度=I002/(I002+I230
【0039】
002及びI230は、押出方向については押出面を、垂直方向については垂直面をX線回折したときの(002)面のピーク強度(I002)及び(230)面のピーク強度(I230)である。
【0040】
本発明の柱状チタン酸アルミニウムは、柱状体の長手方向に沿ってC軸が延びている。このため、フィルタ本体を押出成形した際、押出方向にC軸が整列するため、押出方向の熱膨張係数を低くすることができる。
【0041】
本発明の触媒担持用セラミックフィルタを製造する方法は、上記柱状のチタン酸アルミニウムを含む原料を押出成形した後、焼成することによりセラミックフィルタ本体を作製する工程と、セラミックフィルタ本体の表面上に無機微粒子膜を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0042】
チタン酸アルミニウムを含む原料は、チタン酸アルミニウムに、例えば、造孔剤、バインダー、分散剤、及び水を添加して調製することができる。この原料を、例えば押出成形機を用いてハニカム構造体となるように成形し、セルの開口が市松模様となるように片側の目封止を行った後、乾燥して得られた成形体を焼成し、セラミックフィルタ本体を作製することができる。焼成温度としては、例えば、1400〜1600℃が挙げられる。
【0043】
造孔剤としては、黒鉛、グラファイト、木粉、ポリエチレンが挙げられる。また、バインダーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコールが挙げられる。分散剤としては、脂肪酸石鹸、エチレングリコールが挙げられる。造孔剤、バインダー、分散剤、及び水の量は適宜調整することができる。
【0044】
セラミックフィルタ本体を作製した後、セラミックフィルタ本体の表面上に無機微粒子膜を形成する。無機微粒子膜は、例えば上述のように、無機微粒子を含む溶液を塗布することにより、形成するとことができる。無機微粒子を含む膜としては、ゾル溶液などが挙げられる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、無機微粒子膜形成前のプレコート処理を必要とすることなく、低い熱膨張係数を有する触媒担持用セラミックフィルタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に従う実施例において得られた柱状チタン酸アルミニウムを示す走査型電子顕微鏡写真。
【図2】ハニカム焼結体を示す斜視図。
【図3】ハニカム焼結体から切り出した測定サンプルを示す斜視図。
【図4】ハニカム焼結体の曲げ強度の測定方法を説明するための模式図。
【図5】ハニカム焼結体から切り出した測定サンプルを示す斜視図。
【図6】ハニカム焼結体を示す斜視図。
【図7】ハニカム焼結体から切り出した押出面のX線回折を測定するための測定サンプルを示す斜視図。
【図8】ハニカム焼結体を示す斜視図。
【図9】ハニカム焼結体から切り出した垂直面のX線回折を測定するための測定サンプルを示す斜視図。
【図10】本発明に従う実施例1で得られた柱状チタン酸アルミニウムのX線回折チャートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を具体的な実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
〔チタン酸アルミニウムの製造〕
酸化チタン360.0g、酸化アルミニウム411.1g、水酸化マグネシウム9.7g、及び酸化ケイ素19.0gを振動ミルにて粉砕しながら、2.0時間混合した。
【0049】
以上のようにして得られた粉砕混合物500gをルツボに充填し、電気炉にて1500℃で4時間焼成した。
【0050】
得られた生成物について、X線回折にて結晶相を同定した。また得られた生成物について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて形状を確認し、フロー式粒子像分析にてアスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0051】
図1は、本実施例において得られたチタン酸アルミニウムを示すSEM写真である。図1において示すように、本実施例において得られたチタン酸アルミニウムが柱状形状を有することがわかる。
【0052】
図10は、本実施例において得られたチタン酸アルミニウムのX線回折チャートを示す図である。
【0053】
〔ハニカム焼結体の製造〕
上記実施例で得られたチタン酸アルミニウムを用いて、以下のようにしてハニカム焼結体を製造した。
【0054】
チタン酸アルミニウム100重量部に対し、黒鉛20重量部、メチルセルロース10重量部、脂肪酸石鹸0.5重量部を配合し、さらに水を適当量添加して混練し、押出成形可能な坏土を得た。
【0055】
得られた坏土を押出成形機にてハニカム構造体となるように押し出して成形し、次に熱風乾燥機で乾燥した後、得られた成形体を1500℃で焼成し、セラミックフィルタ本体であるハニカム焼結体を得た。
【0056】
〔ハニカム焼結体の評価〕
得られたハニカム焼結体について気孔率、曲げ強度、熱膨張係数、及び結晶配向比を以下のようにして測定した。
【0057】
(気孔率)
図2は、ハニカム焼結体を示す斜視図である。図2に示すように、ハニカム焼結体1は、8×8セルを有し、端面1aは、縦1.8cm、横1.8cmの大きさを有している。矢印Aは、押出方向を示しており、矢印Bは押出方向Aに対し垂直な方向を示している。
【0058】
気孔率は、上記の8×8セルのハニカム焼結体1の中心部2から、2×2セルに相当する部分を、押出方向Aに沿う長さが2cm程度となるように切り出し、測定サンプルとした。
【0059】
図3は、測定サンプル3を示す斜視図である。図3に示す測定サンプル3を用い、JIS R1634に準拠して気孔率を測定した。
【0060】
(曲げ強度)
図4に示すように、上記の8×8セルのハニカム焼結体1を、支持点11及び12に支持した状態で、焼結体1の中心部を押圧棒10で押圧することにより、JIS R1601に準拠して、曲げ強度を測定した。
【0061】
(熱膨張係数)
図2及び図3を参照して説明した、気孔率の測定サンプル3と同様にして、8×8セルのハニカム焼結体1の中心部2から、押出方向Aに沿う長さが2cm程度となるように切り出し、測定サンプル3とした。図5に示すように、測定サンプル3の押出方向Aにおける線膨張係数を、JIS R1618に準拠して測定した。
【0062】
(結晶配向比)
得られたハニカム焼結体についてのC軸結晶配向比を、結晶配向比とした測定した。
【0063】
結晶配向比は、以下の式に示すように、押出方向の結晶配向度と、押出方向と垂直な方向の結晶配向度(垂直方向の結晶配向度)から算出した。
【0064】
結晶配向比=押出方向の結晶配向度/(押出方向の結晶配向度+垂直方向の結晶配向度)
【0065】
結晶配向度は、X線回折により求めた。押出方向の結晶配向度は、ハニカム焼結体の押出面のX線回折を測定し、(002)面の回折強度(=I(002))及び(230)面の回折強度(=I(230))より、以下の式により算出した。
【0066】
結晶配向度=I(002)/{I(002)+I(230)}
【0067】
垂直方向の結晶配向度は、ハニカム焼結体の垂直面のX線回折を測定し、上記と同様にして、I(002)及びI(230)を求めることにより算出した。
【0068】
なお、(002)面の回折強度は、2θ=50.8°付近に現れるピークであり、(230)面の回折ピークは、2θ=33.7°付近に現れるピークである。
【0069】
図6及び図7は、押出面のX線回折を測定するための測定サンプルの作製を示す斜視図である。
【0070】
図6に示すように、ハニカム焼結体1の端面1aを含む領域4を切り取り、図7に示す測定サンプルを作製した。図7に示す測定サンプル5を用い、この測定サンプル5の押出面5aのX線回折を測定した。
【0071】
図8及び図9は、垂直面、すなわち、押出面に垂直な方向の面のX線回折を測定するためのサンプルの作製を示す斜視図である。
【0072】
図8に示すように、ハニカム焼結体1の8×2セルに相当する領域6を、押出方向Aに沿って切り出し、図9に示す測定サンプル7を得た。この測定サンプル7の押出方向Aに沿う面(押出面)7aのX線回折の測定を行った。
【0073】
以上のようにして、ハニカム焼結体についての結晶配向比を算出し、結果を表1に示した。
【0074】
なお、(002)面はC軸に垂直な面であり、(002)面の強度が高いということは、C軸が配向していることを意味する。
【0075】
〔触媒担持用セラミックフィルタの製造〕
得られたハニカム焼結体(セラミックフィルタ本体)を、アルミナゾル中に浸漬させた後引き上げ、110℃にて3時間乾燥した。その後、電気炉で500℃にて1時間焼成し、ハニカム焼結体の表面にアルミナ塗膜を形成した。形成したアルミナ塗膜は、Al換算で、ハニカム焼結体100重量部に対し、15重量部であった。従って、アルミナ塗膜量は、15重量%であった。
【0076】
アルミナゾルは、アルミナ25重量%、水溶性セルロース10重量%、脱イオン水65重量%のスラリーを1時間撹拌しアルミナゾルを作製した。なお、アルミナの平均粒子径は、0.15μmであった。以上のようにして得られた触媒担持用セラミックフィルタについて、上記と同様にして熱膨張係数を測定した。測定結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
〔チタン酸アルミニウムの製造〕
酸化チタン354.7g、酸化アルミニウム405.0g、水酸化マグネシウム21.3g、及び酸化ケイ素19.0gを振動ミルにて粉砕しながら、2.0時間混合した。
【0078】
以上のようにして得られた粉砕混合物500gをルツボに充填し、電気炉にて1500℃で4時間焼成した。
【0079】
得られた生成物について、X線回折にて結晶相を同定した。また得られた生成物について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて形状を確認し、フロー式粒子像分析にてアスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0080】
〔ハニカム焼結体の製造及び評価〕
上記実施例で得られたチタン酸アルミニウムを用いて、実施例1と同様にしてハニカム焼結体を製造し、得られたハニカム焼結体について実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0081】
〔触媒担持用セラミックフィルタの製造〕
得られたハニカム焼結体(セラミックフィルタ本体)の表面上に、実施例1と同様にしてアルミナ塗膜を形成し、触媒担持用セラミックフィルタを製造した。
【0082】
また、得られた触媒担持用セラミックフィルタについて、実施例1と同様にして熱膨張係数を測定し、測定結果を表1に示した。
【0083】
(比較例1)
〔チタン酸アルミニウム及びハニカム焼結体の製造〕
実施例1と同様にして得られたチタン酸アルミニウムを用いて、実施例1と同様にしてハニカム焼結体(セラミックフィルタ本体)を製造した。
【0084】
〔触媒担持用セラミックフィルタの製造〕
得られたハニカム焼結体(セラミックフィルタ本体)を、10重量%のポリビニルアルコール水溶液中に浸漬させ、取り出した後、110℃にて3時間乾燥させて、プレコート処理を施した。プレコート処理としてのポリマー塗膜量が、ハニカム焼結体100重量部に対し5重量部となるようにポリマー塗膜を形成した。従って、ポリマー塗膜量は5重量%である。プレコート処理を施したハニカム焼結体に対し、実施例1と同様にしてアルミナゾル中に浸漬してアルミナ塗膜を形成し、触媒担持用セラミックフィルタを製造した。得られた触媒担持用セラミックフィルタの熱膨張率係数を上記と同様に測定し、測定結果を表1に示した。
【0085】
(比較例2)
実施例2で得られたハニカム焼結体に対し、比較例1と同様にプレコート処理を施し、その後アルミナ塗膜を形成して触媒担持用セラミックフィルタを製造した。
【0086】
上記と同様にして、触媒担持用セラミックフィルタの熱膨張係数を測定し、測定結果を表1に示した。
【0087】
(比較例3)
〔チタン酸アルミニウムの製造〕
酸化チタン340.1g、酸化アルミニウム388.3g、水酸化マグネシウム52.6g、及び酸化ケイ素19.0gを振動ミルにて粉砕しながら、2.0時間混合した。
【0088】
以上のようにして得られた粉砕混合物500gをルツボに充填し、電気炉にて1500℃で4時間焼成した。
【0089】
得られた生成物について、X線回折にて結晶相を同定した。また得られた生成物について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて形状を確認し、フロー式粒子像分析にてアスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0090】
〔ハニカム焼結体の製造及び評価〕
本比較例で得られたチタン酸アルミニウムを用いる以外は、上記実施例1と同様にしてハニカム焼結体を製造し、評価した。
【0091】
評価結果を表1に示す。
【0092】
〔触媒担持用セラミックフィルタの製造〕
実施例1と同様にして、得られたハニカム焼結体の上に直接アルミナ塗膜を形成し、触媒担持用セラミックフィルタを製造した。
【0093】
触媒担持用セラミックフィルタの熱膨張係数を測定し、測定結果を表1に示した。
【0094】
(比較例4)
比較例3と同様にしてハニカム焼結体を製造した。得られたハニカム焼結体に対し、比較例1と同様にしてプレコート処理を施した後、アルミナ塗膜を形成して触媒担持用セラミックフィルタを製造した。
【0095】
触媒担持用セラミックフィルタの熱膨張係数を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示すように、本発明に従う実施例1及び実施例2の触媒担持用セラミックフィルタは、プレコート処理を施さずとも、触媒担持用セラミックフィルタとして好ましい熱膨張係数である0に近い熱膨張係数を示している。これは、アスペクト比が1.3以上である柱状のチタン酸アルミニウムを用いることにより、セラミックフィルタ本体の押出方向における熱膨張係数を低くすることができるため、チタン酸アルミニウムの微少亀裂(マイクロクラック)内にアルミナが入り込んでも、0に近い低い熱膨張係数を得ることができるためである。
【0098】
比較例3及び比較例4の比較から明らかなように、アスペクト比が1.3未満であるチタン酸アルミニウムを用いた場合には、プレコート処理をしなければ低い熱膨張係数が得られない。
【0099】
従って、本発明によれば、生産効率に優れた触媒担持用セラミックフィルタとすることができる。
【符号の説明】
【0100】
1…ハニカム焼結体(セラミックフィルタ本体)
1a…ハニカム焼結体の端面
2…ハニカム焼結体の中心部
3…ハニカム焼結体から切り出した測定サンプル
4…ハニカム焼結体の端面近傍の領域
5…ハニカム焼結体の押出面をX線回折測定するためのサンプル
5a…押出面
6…ハニカム焼結体の8×2セルの領域
7…ハニカム焼結体の垂直面をX線回折測定するためのサンプル
7a…垂直面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に触媒を担持するための触媒担持用セラミックフィルタであって、
平均アスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)が1.3以上であるチタン酸アルミニウムから形成されたセラミックフィルタ本体と、
前記セラミックフィルタ本体の比表面積を高めるため前記セラミックフィルタ本体の表面上に直接設けられる無機微粒子膜とを備えることを特徴とする触媒担持用セラミックフィルタ。
【請求項2】
前記無機微粒子膜がアルミナ膜であることを特徴とする請求項1に記載の触媒担持用セラミックフィルタ。
【請求項3】
前記セラミックフィルタ本体の押出方向における30〜800℃の間の熱膨張係数が0.5×10−6/℃以下であり、前記押出方向に対するC軸の結晶配向比が0.75以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒担持用セラミックフィルタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒担持用セラミックフィルタを製造する方法であって、
前記チタン酸アルミニウムを含む原料を押出成形した後、焼成することにより前記セラミックフィルタ本体を作製する工程と、
前記セラミックフィルタ本体の表面上に無機微粒子膜を形成する工程とを備えることを特徴とする触媒担持用セラミックフィルタの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−1227(P2011−1227A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146425(P2009−146425)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000206901)大塚化学株式会社 (55)
【Fターム(参考)】