説明

触媒温度算出装置

【課題】電気加熱式の触媒の温度を高精度で算出可能な触媒温度算出装置を提供する。
【解決手段】通電している時の触媒抵抗値Rehcを検出し、その検出値に基づき中央R−T特性を用いて触媒温度Tehcを算出する触媒温度算出装置において、触媒(EHC)への通電を停止している通電停止期間中の触媒温度を、触媒抵抗値とは別の物理量に基づき学習用温度Tgとして推定する温度推定手段S16と、その通電停止期間中に瞬時通電させ、その時の触媒抵抗の検出値を学習用抵抗値Rgとして取得する抵抗取得手段S17とを備える。そして、学習用温度Tg及び学習用抵抗値Rgに基づき補正した中央R−T特性を用いて、通電発熱時に検出した触媒抵抗値Rehcに基づき通電発熱時の触媒温度Tehcを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気を浄化する触媒であって、通電されて発熱する電気加熱式の触媒に適用された、触媒温度算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気管には、排気中の有害物質を浄化する触媒が備えられているのが一般的であるが、内燃機関の始動時等、触媒の温度が活性化温度に達していない場合には、早期に触媒を加熱して活性化させることが要求される。その加熱手法として特許文献1には、触媒に電流を流して触媒自体を発熱させる電気加熱式触媒(以下、EHCと記載)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3602614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EHCが活性化温度にまで上昇したか否かの判定や、EHCが損傷するほどに過剰に昇温しているかを判定するには、触媒温度Tを取得することが必要となる。そして、EHCへ通電している時の触媒抵抗値Rと触媒温度Tとは相関(図4に示すR−T特性参照)があるため、通電時の抵抗値Rを検出すれば触媒温度Tを算出することができ、温度センサを不要にできる。
【0005】
但し、EHCの個体差ばらつきや経年劣化によりR−T特性は異なってくるので、R−T特性を定期的に学習する必要がある。しかしながら、EHCに、部分的に抵抗が低くなっている箇所が存在していると、その箇所に集中して電流が流れることとなる。すると、その箇所だけ温度が高くなるとともに、検出される触媒抵抗値RはR−T特性よりも低い値になるため、この場合にはR−T特性を誤学習してしまう。よって、検出した触媒抵抗値Rに基づきR−T特性を用いて触媒温度Tを算出するにあたり、その算出精度が低下する。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電気加熱式の触媒の温度を高精度で算出可能な触媒温度算出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明では、内燃機関の排気を浄化する触媒のうち、通電されて発熱する電気加熱式の触媒に適用され、前記触媒への通電を停止している通電停止期間中の前記触媒の温度を、前記触媒の電気抵抗値とは別の物理量に基づき学習用温度として推定する温度推定手段と、前記温度推定手段による推定時に前記触媒へ瞬時通電させ、その時に検出された前記触媒の電気抵抗値を学習用抵抗値として取得する抵抗取得手段と、通電して発熱させている時の前記触媒の電気抵抗値を検出し、その検出値と、前記学習用温度及び前記学習用抵抗値とに基づき、通電発熱時の触媒温度を算出する触媒温度算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば要するに、通電停止期間中の学習用温度及び学習用抵抗値を推定又は取得し、これらの学習値を用いて、通電発熱時の触媒抵抗値に基づき通電発熱時の触媒温度を算出する。そのため、低抵抗の箇所に集中して電流が流れることのない状況下(低抵抗の箇所だけ温度が高くなっていることのない状況下)での触媒温度及び触媒抵抗値に基づき、例えば相関特性を補正し、その補正した相関特性を用いて触媒抵抗値に基づき通電発熱時の触媒温度を算出することができる。よって、通電発熱時の触媒温度を高精度で算出できる。
【0010】
請求項2記載の発明では、前記温度推定手段は、前記通電停止期間中のうち前記内燃機関を停止させている時の触媒温度を前記学習用温度の1つとして推定することを特徴とする。
【0011】
温度推定手段は、通電停止期間中の触媒温度を、前記電気抵抗値とは別の物理量に基づき学習用温度として推定しなければならないが、内燃機関が停止中であり十分に冷やされた状態であれば、例えば外気温度や機関冷却水温度等が触媒温度と同一温度になっているとみなすことができる。よって、上記発明によれば、通電停止期間中の触媒温度(学習用温度)を高精度で推定できる。
【0012】
請求項3記載の発明では、前記温度推定手段は、前記通電停止期間中のうち前記内燃機関を定常運転させている時の触媒温度を前記学習用温度の1つとして推定することを特徴とする。
【0013】
温度推定手段は、通電停止期間中の触媒温度を、前記電気抵抗値とは別の物理量に基づき学習用温度として推定しなければならないが、内燃機関を定常運転させている時であれば、例えば排気温度や吸気温度、外気温度、機関冷却水温度、排気流量等に基づき触媒温度を高精度で推定できる。よって、上記発明によれば、通電停止期間中の触媒温度(学習用温度)を高精度で推定できる。
【0014】
ちなみに、上記「定常運転」とは、内燃機関の負荷が一定である状態が所定時間以上継続した運転の状態であり、例えば、排気温度を検出し、その検出値の振れ幅が所定温度以内であれば定常運転であるとみなしてもよい。
【0015】
請求項4記載の発明では、前記温度推定手段は、前記内燃機関を定常運転させている時の触媒温度を推定するにあたり、前記触媒にて排気を浄化させる時に生じる反応熱による触媒温度上昇分を加味して推定することを特徴とする。
【0016】
内燃機関を運転させている時には、触媒は排気を浄化するよう作用しているため、酸化反応又は還元反応が触媒上で発生している。この点を考慮した上記発明では、反応熱による触媒温度上昇分を加味して触媒温度(学習用温度)を推定するので、その推定精度を向上できる。
【0017】
請求項5記載の発明では、前記温度推定手段が推定に用いる前記物理量とは、外気温度センサ、機関冷却水温度センサ、吸気温度センサ、及び排気温度センサによる検出値の少なくとも1つであることを特徴とする。
【0018】
これらのセンサによる検出値は、例えば内燃機関を停止させている時や定常運転させている時には触媒温度と相関が高いので、これらの検出値を用いれば容易に触媒温度を推定でき、好適である。
【0019】
請求項6記載の発明では、前記触媒には、導電性のセラミック触媒が適用されていることを特徴とする。
【0020】
ここで、金属触媒の場合には、触媒温度が変化しても電気抵抗値は大きく変化しないので、電気抵抗値に基づき触媒温度を高精度で算出することは困難である。これに対し上記発明の如く導電性のセラミック触媒を適用した場合には、触媒温度の変化に対する電気抵抗値の変化が大きく現れるので、電気抵抗値に基づき触媒温度を高精度で算出することができる。しかも、セラミック触媒は金属触媒に比べて耐熱性が高いので、触媒が熱損傷する懸念を低減できる。また、セラミック触媒は金属触媒に比べて電気抵抗値が高いので、僅かな電流を流すだけで所望の発熱量を得ることができる。よって、電力供給手段を構成する各種電気部品に安価な部品を選定できる。
【0021】
請求項7記載の発明では、前記セラミック触媒は、温度が上昇するほど電気抵抗値が低下する特性(NTC(Negative Temperature Coefficient)特性)を有するものであることを特徴とする。
【0022】
このようなNTC特性を有したセラミック触媒の場合、低抵抗箇所に集中して電流が流れると、その箇所の温度が上昇し、その温度上昇に伴いその箇所の電気抵抗値がさらに低くなる。そのため、低抵抗箇所での電流が増大していき、温度が急上昇して温度分布のばらつきが顕著となる。よって、「通電停止期間中の学習用温度及び学習用抵抗値を用いて、通電発熱時の触媒温度を算出する」といった要旨の請求項1〜6のいずれか1つに記載の発明を、このようなNTC特性のセラミック触媒に適用すれば、低抵抗の箇所に集中して電流が流れることのない状況下での触媒温度及び触媒抵抗値を用いて、通電発熱時の触媒温度を高精度で算出できるといった先述の効果が好適に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態を示す触媒温度算出装置が適用される触媒と、その触媒の内燃機関に対する取付け位置を示す図。
【図2】図1に示す触媒の構成を示す斜視図。
【図3】図1及び図2の等価回路図。
【図4】図1〜図3に示すセラミック担体の温度(触媒温度T)と、触媒抵抗値Rとの相関特性(R−T特性)を示すグラフ。
【図5】図1の制御装置により実行される学習処理の手順を示すフローチャート。
【図6】図5の処理で学習される各々の学習ポイントを示す図。
【図7】触媒温度、EHC通電状態、及び触媒温度安定状態についての変化を示すタイムチャート。
【図8】図1の制御装置により実行される触媒温度Tehcの算出処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1は、触媒温度算出装置の適用対象となる触媒の内燃機関に対する取付け位置を示す図である。この内燃機関10は、火花点火式のガソリンエンジンを想定したものであり、車両に搭載されて走行駆動源として機能する。また、本実施形態の車両は、走行用モータ(図示せず)を備えており、内燃機関10及び走行用モータを駆動源として走行する。
【0026】
内燃機関10の排気管11には、電気加熱式の触媒装置(EHC20(Electrically Heated Catalyst))と、EHC20の下流側に位置して通電されることのない三元触媒30とが取り付けられている。これらEHC20及び三元触媒30は、排気中のHCを酸化させるとともに、CO、NOxを還元させて浄化するものである。なお、EHC20は三元触媒30よりも浄化量が少ない小型である。このように小型にすることで、EHC20が活性化温度にまで上昇するのに要する時間の短縮を図っている。
【0027】
図2は、EHC20の構成を示す斜視図であり、EHC20は、導電性のセラミック担体21に触媒を担持させて構成されている。また、セラミック担体21には一対の電極22,23が取り付けられている。電源装置24から電極22,23へ電力供給すると、プラス電極22からセラミック担体21を通じてマイナス電極23へ電流が流れる(符号I1〜I5参照)。これによりセラミック担体21自体が発熱して温度上昇する。
【0028】
制御装置25は、EHC20への通電オンと通電オフを切り替えるよう電源装置24のスイッチ24a(図3参照)の作動を制御する装置である。なお、本実施形態にかかる車両は、走行用モータへ電力供給する走行モータ用バッテリ24b(例えば図3に示すリチウム蓄電池)を備えており、電源装置24は、走行モータ用バッテリ24bの高電圧(例えば400V)を電極22,23へ印加するよう構成されている。
【0029】
図3は、図1及び図2の等価回路である。セラミック担体21は、その部位によって電気抵抗値(電流の流れ易さ)が異なる。つまり、異なる複数の抵抗R1〜R5を並列接続した回路と等価である。なお、図2中の符号I1〜I5の各々は抵抗R1〜R5を流れる電流を表している。そして、例えば抵抗R1の抵抗値が最も低い場合には、抵抗R1を流れる電流I1が他の電流I2〜I5に比べて多くなる(図中の矢印参照)。すると、セラミック担体21のうち抵抗R1に相当する箇所(低抵抗箇所21p)の温度が、他の箇所よりも高くなる。しかも、本実施形態にかかるEHC20はNTC特性を有するので、低抵抗箇所21pは温度上昇してさらに抵抗が低くなり、低抵抗箇所の温度上昇が促進されていくといった、局所加熱の状態に陥る場合がある。
【0030】
また、電源装置24は、セラミック担体21へ供給する電流を検出する電流検出回路24cを有している。そして、検出した電流値は制御装置25へ出力される。また、走行モータ用バッテリ24bの蓄電量を制御する図示しないバッテリ制御装置は、走行モータ用バッテリ24bの端子電圧を検出し、検出した電圧は制御装置25へ出力される。そして、制御装置25は、入力されてくる電流値及びバッテリ端子電圧に基づき、セラミック担体21の抵抗値(触媒抵抗値R)を算出する。この触媒抵抗値Rは、R1〜R5の合成抵抗値に相当する。
【0031】
図4は、セラミック担体21の温度(触媒温度T)と、触媒抵抗値Rとの相関特性(R−T特性)を示すグラフである。このように触媒温度Tと触媒抵抗値Rとは相関がある。よって、予め試験により取得したR−T特性を、制御装置25が有するメモリに記憶させておけば、上述の如く算出した触媒抵抗値Rに基づきR−T特性を参照して触媒温度Tを算出することができる。なお、本実施形態にかかるセラミック担体21のR−T特性は、図4に示すように温度Tが上昇するほど抵抗値Rが低下するNTC特性である。
【0032】
但し、EHC20の個体差ばらつきや経年劣化により、R−T特性は異なってくる。例えば図4中の一点鎖線は、個体差ばらつきや経年劣化が生じていない時の中央R−T特性を示す。これに対し図4中の実線は、実際のR−T特性を示すものであり、個体差ばらつき及び経年劣化により、中央R−T特性に対してずれが生じている。したがって、検出した触媒抵抗R及びその時の実際の温度Tと、中央R−T特性とのずれ(差分)を定期的に学習し、その学習結果を加味して触媒温度を算出することが必要となる。
【0033】
しかしながら、図3中の矢印を用いて先述したように、実際にはR1〜R5にばらつきが存在するので、セラミック担体21上の部位によって温度が異なる。つまり温度分布にばらつきが生じている。特に先述した局所加熱に陥っている場合には温度分布ばらつきが大きくなる。そのため、電流検出回路24cで検出した電流値に基づき算出した抵抗値(検出抵抗値)を用いて、R−T特性を参照して触媒温度Tを算出すると、その触媒温度Tは実際の温度と異なる値となる。よって、このような温度分布ばらつきが生じている状態で上記学習を実施すると、R−T特性を誤学習してしまい、触媒温度Tを算出するにあたりその算出精度が低下する。
【0034】
そこで本実施形態では、学習用の触媒温度Tg及び触媒抵抗値Rgを、EHCへの通電を停止させている期間中に取得して、R−T特性を補正(学習)させる。以下、当該学習の手順を、図5のフローチャートを参照しつつ説明する。図5は、制御装置25が有するマイクロコンピュータによる上記学習の処理手順を示すフローチャートであり、所定周期で繰り返し実行される。
【0035】
先ず、図5に示すステップS10において、EHC20への電力供給を所定時間以上停止させるよう、スイッチ24aを通電オフさせているか否かを判定する。所定時間以上通電オフさせていると判定されれば(S10:YES)、先述した温度分布むらが生じていない(温度均一)とみなすことができ、ステップS11へ進む。一方、所定時間以上通電オフさせていない場合(S10:NO)には、次のステップS14において、触媒温度が不均一の状態であると判定する。
【0036】
ステップS11では、内燃機関10を所定時間以上停止させているか否かを判定する。肯定判定されれば(S11:YES)、次のステップS12において、実際の触媒温度Tは変動することなく安定した状態であると判定する。また、内燃機関10が運転している最中であっても(S11:NO)、定常運転している状態であれば(S13:YES)、ステップS12に進んで触媒温度Tは変動することなく安定した状態であると判定する。定常運転でないと判定(S13:NO)されれば、次のステップS15において、触媒温度Tは短時間で大きく変化する不安定な状態であると判定する。
【0037】
なお、定常運転であるか否かの判定は、機関負荷が一定である状態が所定時間以上継続している場合に定常運転であると判定すればよい。或いは、排気温度センサにより検出される排気温度の変化が、所定温度範囲内での変化であれば定常運転であると判定すればよい。
【0038】
要するに、上記学習を行うためには、温度分布ばらつきが生じていない時の触媒抵抗値Rと、その触媒抵抗値Rとは別の物理量に基づき推定される触媒温度Tとを、学習用抵抗値Rg及び学習用温度Tgとして取得する必要がある。したがって、その取得条件として、触媒温度に分布ばらつきが生じていない温度均一状態であること、及び触媒温度Tを推定可能にすべく触媒温度が安定していることを、学習用抵抗値Rg及び学習用温度Tgを取得する条件としている。
【0039】
そして、これらの条件を満たしてステップS12で温度均一かつ安定と判定された場合に、続くステップS16(温度推定手段)では、その時の触媒温度を推定してその推定温度を学習用温度Tgとして取得する。以下、触媒温度を推定する具体例を列挙する。
【0040】
例えば、所定時間以上エンジン停止している場合(S11:YES)には、外気温度センサ(図示せず)により検出される外気温度と、触媒温度Tとは同じになっているとみなし、外気温度を触媒温度Tとして推定すればよい。或いは、機関冷却水温度センサ(図示せず)により検出される冷却水温度と、触媒温度Tとは同じになっているとみなしてもよい。或いは、吸気温度センサ又は排気温度センサ(図示せず)により検出される温度と触媒温度Tとは同じになっているとみなしてもよい。
【0041】
例えば、定常運転している場合(S13:YES)には、エンジン運転状態に基づき触媒温度Tを推定できる。具体的には、エンジンの運転状態に応じて推定される排気温度に基づき触媒温度Tを推定する。この場合、EHC20の触媒上では酸化還元反応による反応熱が生じているので、その反応熱を排気温度に加算した値を触媒温度Tとして推定すればよい。
【0042】
続くステップS17(抵抗取得手段)では、その時の触媒抵抗値を学習用抵抗値Rgとして検出する。具体的には、EHC20への通電オフ時にスイッチ24aを瞬時通電させ、その時の電流検出回路24cで検出された電流値及びバッテリ端子電圧に基づき、触媒抵抗値(R1〜R5の合成抵抗値)を算出し、その値を学習用抵抗値Rgとする。
【0043】
続くステップS18では、ステップS17で検出した学習用抵抗値Rgに基づき、制御装置25に予め記憶された中央R−T特性を参照して中央特性の触媒温度Tbを算出する。
【0044】
続くステップS19では、ステップS18で算出した中央特性触媒温度Tbと、ステップS16で取得した実際の触媒温度(学習用温度Tg)との偏差ΔTを算出する。この偏差ΔTが、先述したEHC20の個体差ばらつき及び経年劣化によるずれ量に相当する。
【0045】
続くステップS20では、ステップS19で算出した偏差ΔTと、その時の学習用抵抗値Rgとの組み合わせを、制御装置25が有するメモリに学習値として記憶する。但し、この偏差ΔT(ずれ量)は、その時の抵抗値(学習用抵抗値Rg)又は温度(学習用温度Tg)に応じて異なる値となるため、複数のポイント毎に、学習用抵抗値Rgの検出及び学習用温度Tgの推定を実施して学習値として記憶させる。図4の例では、学習用抵抗値Rg1,Rg2,Rg3の各々について偏差ΔT1,ΔT2,ΔT3を算出している。
【0046】
図6は、各々の学習ポイント(Rg1,ΔT1)(Rg2,ΔT2)(Rg3,ΔT3)を示しており、各ポイント間の値については、図6に示すように線形補間される。以上により、図5の学習処理を終了する。
【0047】
図7は、触媒温度、EHC20への通電状態、及び触媒温度安定状態についての変化を示すタイムチャートである。先ず、車両運転者がイグニッションスイッチをオン操作するt1時点から、EHC20への通電を開始するt2時点までの間は、電源装置24からEHC20への電力供給を実施していない状態であるため、EHC20への通電状態はオフになっている。また、前回通電オフさせてからt1時点までの間に十分な時間(所定時間)が経過しているため、t1時点ではステップS10にて肯定判定され、温度均一の状態であると判定される(S12)。
【0048】
また、前回エンジンを停止させてからt1時点までの間に十分な時間(所定時間)が経過しているため、t1時点ではステップS11にて肯定判定され、触媒温度は安定した状態であると判定される(S12)。したがって、t1時点からt2時点までの期間は、学習用温度Tg1の推定(S16)及び学習用抵抗値Rg1の検出(S17)が実施され、これらのTg1,Rg1を学習値として記憶させる(S20)。
【0049】
次に、t2時点において、エンジンを始動させるに先立ち、スイッチ24aを通電作動させてEHC20へ電力供給する。これにより、触媒温度TはTg1から上昇していく。そして、触媒温度Tが活性化温度Tthにまで上昇したt3時点で、EHC20の暖機を終了させるべくスイッチ24aを通電オフにする。
【0050】
t3時点からt4時点までは高温の排ガスによりEHC20は加熱されて、触媒温度は上昇していく。そして、t4時点では定常運転により触媒温度はTg2で安定している。したがって、t2〜t3の期間はステップS10で否定判定され、t3〜t4の期間はステップS13で否定判定される。よって、t2〜t4の期間において上記学習を実施しない。
【0051】
その後、EHC20への通電がオフであり、かつ、定常運転しているt4時点以降では、ステップS13で肯定判定される。よって、学習用温度Tg2の推定(S16)及び学習用抵抗値Rg2の検出(S17)が実施され、これらのTg2,Rg2を学習値として記憶させる(S20)。
【0052】
図8は、上述の如く学習したR−T特性を用いて、検出した触媒抵抗Rehcに基づき触媒温度Tehcを算出する処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、制御装置25が有するマイクロコンピュータにより、所定周期で繰り返し実行される。
【0053】
なお、図7を用いて先述したように、EHC20への通電を開始したt2時点から、触媒温度が活性化温度Tthに達するt3時点までの期間に、EHC20へ電力供給して加熱させることにより、EHC20の早期活性化を図る。そして、この電力供給期間中に、図8の処理により触媒温度Tehcを算出する。そして、算出した触媒温度Tehcは、活性化温度Tthに達したか否かの判定に用いられる。
【0054】
また、電力供給期間中でない場合においても、スイッチ24aを瞬時通電させて触媒抵抗値Rehcを検出して、その時の触媒温度Tehcを図8の処理により算出する。そして、触媒温度Tehcが上限温度にまで上昇している場合には、EHC20の熱損傷を回避すべく、排気温度を低下させるようにエンジン運転状態を制御する。
【0055】
先ず、図8に示すステップS30において、図5の処理による学習点数が2点以上であるか否かを判定する。2点以上でないと判定されれば(S30:NO)、図6に示す線形補間が実施できないため、触媒温度Tehcを算出することなく図8の処理を一旦終了させる。
【0056】
2点以上学習されていると判定されれば(S30:YES)、続くステップS31では、図5のステップS17と同様にして、その時の電流検出回路24cで検出された電流値及びバッテリ端子電圧に基づき、触媒抵抗値Rehc(R1〜R5の合成抵抗値)を算出する。
【0057】
続くステップS32では、ステップS31で検出した触媒抵抗値Rehcに基づき、中央R−T特性に対応する触媒温度Tbを算出する。続くステップS33(補正手段)では、図5のステップS20で記憶した学習値に基づき作成された、図6に示す線形補間演算式、つまり補正量Tcと触媒抵抗Rehcとの関係式に基づき、触媒抵抗値Rehcに対応する温度補正量Tcを算出する。続くステップS34(触媒温度算出手段)では、ステップS32で算出した中央特性の触媒温度Tbに、ステップS33で算出した温度補正量Tcを加算することで、触媒温度Tehcを算出する。
【0058】
以上詳述した本実施形態によれば、要するに、学習用抵抗値Rg及び学習用温度Tgを、EHC20への通電停止期間中に取得するとともに、触媒温度Tehcの算出に用いる中央R−T特性を取得したRg及びTgに基づき補正していると言える。
【0059】
したがって、低抵抗箇所21pに集中して電流が流れることのない状況下(低抵抗箇所21pだけ温度が高くなっていることのない状況下)での触媒温度及び触媒抵抗値に基づき中央R−T特性を補正できる。よって、前記補正を高精度で実施することができるので、このような補正を加味して得られた通電時の触媒抵抗値Rehcに基づき触媒温度Tehcを算出する本実施形態によれば、高精度で触媒温度Tehcを算出できる。
【0060】
また、図5の学習処理では、通電停止期間中の触媒温度を、抵抗値とは別の物理量に基づき学習用温度Tgとして推定しなければならないが、エンジン停止期間中であれば、例えば外気温度や機関冷却水温度等が触媒温度Tgと同一温度になっているとみなすことができるので、触媒温度を高精度で推定できる。この点を鑑みた本実施形態によれば、所定時間以上エンジンを停止させている時の学習用温度Tg1及び学習用抵抗値Rg1を用いて中央R−T特性を補正していると言えるので、その補正を高精度にできる。
【0061】
また、エンジンの定常運転時であれば、例えば排気温度や吸気温度、外気温度、機関冷却水温度等に基づき触媒温度を高精度で推定できる。この点を鑑みた本実施形態によれば、定常運転時の学習用温度Tg2(つまり高精度で推定されている触媒温度)及び学習用抵抗値Rg2を用いて相関特性を補正していると言えるので、その補正を高精度にできる。
【0062】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0063】
・上述した図5のステップS16(温度推定手段)では、エンジンの運転状態に応じて排気温度を推定し、その推定した排気温度に基づき触媒温度T(学習用温度Tg)を推定しているが、排気温度センサにより排気温度を直接検出し、その検出した排気温度に基づき触媒温度Tを推定するようにしてもよい。
【0064】
・図8の触媒温度算出処理では、学習点数が2点以上であることを条件(S30:YES)として触媒温度Tehcの算出を実施しているが、例えば触媒温度を複数の領域に分割し、2つ以上の領域において学習が完了していることを条件として触媒温度Tehcの算出を実施するようにしてもよい。
【0065】
・図2に例示するセラミック担体21を用いたEHC20に本発明を適用させているが、金属製の担体を用いたEHCに本発明を適用させてもよい。
【0066】
・図2に例示するセラミック担体21には、温度Tが上昇するほど抵抗値Rが低下するNTC特性を有する担体を適用させているが、温度Tの上昇に伴い抵抗値Rも上昇する特性を有する担体を適用させてもよい。
【0067】
・図5のステップS20では、中央特性触媒温度Tbと学習用温度Tgとの偏差ΔTを学習値として記憶させているが、学習用温度Tgをそのまま記憶させてもよい。具体的には、各々の学習ポイント(Rg1,Tg1)(Rg2,Tg2)(Rg3,Tg3)を記憶させる。
【0068】
・図8のステップS32〜S34では、中央特性の触媒温度Tbを算出し、その算出値を学習値に基づき補正して触媒温度Tehcを算出しているが、中央R−T特性を学習値に基づき補正して、その補正後のR−T特性に基づき触媒温度Tehcを算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0069】
20…EHC(セラミック触媒)、25…制御装置(抵抗検出手段)、S16…温度推定手段、S17…抵抗取得手段、S33…補正手段、S34…触媒温度算出手段、Rg…学習用抵抗値、Tg…学習用温度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気を浄化する触媒のうち、通電されて発熱する電気加熱式の触媒に適用され、
前記触媒への通電を停止している通電停止期間中の前記触媒の温度を、前記触媒の電気抵抗値とは別の物理量に基づき学習用温度として推定する温度推定手段と、
前記温度推定手段による推定時に前記触媒へ瞬時通電させ、その時に検出された前記触媒の電気抵抗値を学習用抵抗値として取得する抵抗取得手段と、
通電して発熱させている時の前記触媒の電気抵抗値を検出し、その検出値と、前記学習用温度及び前記学習用抵抗値とに基づき、通電発熱時の触媒温度を算出する触媒温度算出手段と、
を備えることを特徴とする触媒温度算出装置。
【請求項2】
前記温度推定手段は、前記通電停止期間中のうち前記内燃機関を停止させている時の触媒温度を前記学習用温度の1つとして推定することを特徴とする請求項1に記載の触媒温度算出装置。
【請求項3】
前記温度推定手段は、前記通電停止期間中のうち前記内燃機関を定常運転させている時の触媒温度を前記学習用温度の1つとして推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒温度算出装置。
【請求項4】
前記温度推定手段は、前記内燃機関を定常運転させている時の触媒温度を推定するにあたり、前記触媒にて排気を浄化させる時に生じる反応熱による触媒温度上昇分を加味して推定することを特徴とする請求項3に記載の触媒温度算出装置。
【請求項5】
前記温度推定手段が推定に用いる前記物理量とは、外気温度センサ、機関冷却水温度センサ、吸気温度センサ、及び排気温度センサによる検出値の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の触媒温度算出装置。
【請求項6】
前記触媒には、導電性のセラミック触媒が適用されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の触媒温度算出装置。
【請求項7】
前記セラミック触媒は、温度が上昇するほど電気抵抗値が低下する特性を有するものであることを特徴とする請求項6に記載の触媒温度算出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−231709(P2011−231709A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103574(P2010−103574)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】