説明

計測データの補正方法、光断層計測装置及びプログラム

【課題】試料に投与して蛍光物質が励起光により発する蛍光を用いて、光断層画像の再構築を行うときに、計測データを補正することにより適正な光断層画像の再構築が行われるようにする。
【解決手段】コントロールマウスの計測が開始されると計測データDr(x、θ、m)を読み込み、サンプルマウスの計測が開始されると計測データDs(x、θ、m)を読み込む(ステップ200〜ステップ210)。この後、補正係数の設定に用いる計測データDr、Dsが設定されると、計測データDsによって計測データDrを相殺する補正係数αを設定し(ステップ212〜ステップ218)、この補正係数αに基づいて、計測データDr(x、θ、m)、Ds(x、θ、m)から、光断層画像の再構築に用いる補正計測データDS(x、θ、m)を生成する(ステップ220)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光トモグラフィー(Tomography)を適用して、生態などを計測対象とした断層画像を生成するための計測データの補正方法、光断層計測装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織は、近赤外線などの所定波長の光に対して透過性を有する。ここから、病理分野では、例えば、生体に蛍光物質を投与し、投与した蛍光物質から発せられる蛍光を二次元的に計測し、生態組織に対する蛍光物質の分布状態などを可視画像(断層画像)として再現する。
【0003】
計測データから適正な画像を再現するためには、各種の画像処理が行われる。例えば、特許文献1では、一次元の画像データを用いて補間処理を施すことにより等間隔の画像データを生成して、二次元画像を再現するように提案している。
【0004】
また、特許文献2では、シェーディングデータを記憶し、計測により得られる画像データを、シェーディングデータを用いて補正することにより、濃度ムラのない画像を再現するように提案している。
【0005】
ところで、生体内では、近赤外線などの所定波長の光が等方的に散乱しながら伝播する。ここから、病理学的な実験分野では、小動物などの生体を計測対象として、腫瘍部分などの病変部位に特異的に付着する抗体に蛍光物質を含ませて、計測対象に投与する。この後に、計測対象に外部から励起光を照射することにより、蛍光物質から発せられる蛍光を受光し、受光した蛍光から蛍光物質の分布を再現(再構築)した断層画像を生成する蛍光を用いた光トモグラフィー(Tomography)の提案がなされている。
【0006】
これにより、再構築された光断層画像から、計測対象内での病変部位を明確に視認することができる。
【0007】
蛍光トモグラフィーでは、生体の表面の一点へ向けて励起光を照射し、この励起光によって体内の蛍光物質から発せられて体外に射出される蛍光を同一平面(計測面)上の複数箇所で計測する。このときに、生体の周囲に沿って励起光の照射位置を移動させながら、それぞれの照射位置で、蛍光を計測することによりより得られる計測データを用いて、蛍光物質の位置及び濃度を演算する。これにより、計測面を切断面とした蛍光物質(蛍光)の濃度分布を示す二次元の断層画像が生成される。
【0008】
一方、計測対象へ向けて励起光を照射しながら、計測対象から放出される蛍光を受光する場合、蛍光物質から発せられた蛍光のみでなく、励起光の反射光などの各種の不要光が受光され、計測データには、これらの不要光のデータが含まれてしまう。このような不要光は、適正な光断層画像の再構築の妨げとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−125605号公報
【特許文献2】特開2008−51773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、蛍光トモグラフィーなどにおいて、受光手段によって受光されて得られる計測データから不要光成分を除去して適正な光断層画像の再構築を行い得る計測データの補正方法、光断層計測装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の計測データの補正方法は、生体を試料として、試料に投与した蛍光物質から励起光によって発せられる蛍光を、前記試料の注目部位を通過する平面上で試料の周囲の複数箇所で受光手段により受光され、前記注目部位を通過する平面に沿う前記試料の光断層画像の再構築に用いられる計測データの補正方法であって、前記注目部位を通過する平面上での計測データとする第1の計測データ及び、前記試料の前記注目部位と異なる関心部位を通過する平面上での計測データとする第2の計測データを取得すると共に、前記試料に対して予め設定された基準試料を用いて、前記注目部位の平面に対応する平面上の計測データとする第1の基準計測データ及び、前記関心部位の平面に対応する計測データとする第2の基準計測データを取得し、前記試料の前記関心部位に対応する前記第2の計測データと前記第2の基準計測データとを用い、前記第2の基準計測データを前記第2の計測データで相殺する補正係数を設定し、前記補正係数を用いて、前記第1の計測データと前記第1の基準計測データから、前記試料の前記注目部位を通過する平面に沿う光断層画像の再構築に用いる計測データとする補正計測データを生成する。
【0012】
また、光断層計測装置は、生体を試料として、試料に投与した蛍光物質から励起光によって発せられる蛍光を、前記試料の注目部位を通過する平面上で試料の周囲の複数箇所で受光手段により受光することにより得られる計測データから、前記注目部位を通過する平面に沿う前記試料の光断層画像の再構築を行う光断層計測装置であって、前記受光手段により前記注目部位を通過する平面上での計測データとする第1の計測データ及び、前記試料の前記注目部位と異なる関心部位を通過する平面上での計測データとする第2の計測データを取得する第1の取得手段と、前記試料に対して予め設定された基準試料を用いて、前記受光手段により前記注目部位を含む平面に対応する平面上の計測データとする第1の基準計測データ及び、前記関心部位を含む平面に対応する計測データとする第2の基準計測データを取得する第2の取得手段と、前記試料の前記関心部位に対応する前記第2の計測データと前記第2の基準計測データとを用い、前記第2の基準計測データを前記第2の計測データで相殺する補正係数を設定する補正係数設定手段と、前記補正係数を用いて、前記第1の計測データと前記第1の基準計測データから、前記試料の前記注目部位を通過する平面に沿う光断層画像の再構築に用いる計測データとする補正計測データを生成する補正手段と、を含む。
【0013】
さらに、本発明のプログラムは、生体を試料として、試料に投与した蛍光物質から励起光によって発せられる蛍光を、前記試料の注目部位を通過する平面上で試料の周囲の複数箇所で受光手段により受光することにより得られる計測データから、前記注目部位を通過する平面に沿う前記試料の光断層画像の再構築を行う光断層計測装置に設けられるコンピュータを、前記受光手段により前記注目部位を通過する平面上での計測データとする第1の計測データ及び、前記試料の前記注目部位と異なる関心部位を通過する平面上での計測データとする第2の計測データを取得する第1の取得手段と、前記試料に対して予め設定された基準試料を用いて、前記受光手段により前記注目部位を含む平面に対応する平面上の計測データとする第1の基準計測データ及び、前記関心部位を含む平面に対応する計測データとする第2の基準計測データを取得する第2の取得手段と、前記試料の前記関心部位に対応する前記第2の計測データと前記第2の基準計測データとを用い、前記第2の基準計測データを前記第2の計測データで相殺する補正係数を設定する補正係数設定手段と、
前記補正係数を用いて、前記第1の計測データと前記第1の基準計測データから、前記試料の前記注目部位を通過する平面に沿う光断層画像の再構築に用いる計測データとする補正計測データを生成する補正手段と、して機能させる。
【0014】
上記構成の本発明は、試料に対して予め設定された条件となる生体を基準試料とし、試料の計測データを取得すると共に、基準試料の計測データを基準計測データとして取得する。
【0015】
計測データ及び基準計測データを取得すると、試料上の関心部位の計測データである第2の計測データと、関心部位に対応する基準試料の計測データである第2の基準計測データから、第2の計測データで第2の基準計測データを相殺する係数を補正係数に設定する。
【0016】
この後、補正係数と、注目部位に対応する第1の計測データ及び第2の基準計測データから、試料の注目部位を含む光断層画像の再構築に用いる計測データとする補正計測データを生成する。このときに、補正係数が、第1の計測データによって第1の基準計測データを相殺するように設定されていることにより、基準試料と試料の計測時のそれぞれで生じる不要光の成分が除去された補正計測データが得られる。
【0017】
これにより、試料上で基準試料と異なる蛍光による光断層画像の再構築が可能となる。
【0018】
このような本発明では、前記試料には、前記蛍光物質として体内の特定部位に特異的に付着して蛍光を発する蛍光識別剤が投与され、前記特定部位を前記注目部位として、前記第1の計測データが取得されるものであても良い。
【0019】
このときに、本発明では、前記基準試料が、前記試料と同種の生体であり、かつ、前記特定部位への付着が抑制された状態の蛍光物質が投与された生体としても良く、前記蛍光識別剤の投与前の前記試料を前記基準試料としても良い。
【0020】
また、本発明は、前記蛍光識別剤が投与された前記試料を、該蛍光識別剤が体内に拡散され、かつ、前記特定部位に付着する前のタイミングで前記基準試料として用いても良い。
【0021】
さらに、本発明では、前記基準試料は、前記励起光に対して蛍光が発せられない材質で、かつ、光に対する表面状態が前記試料の光に対する表面状態にあわせられた前記試料の模型とすることができ、このとき、前記模型の光に対する吸収係数を含む光学特性が、前記試料の光に対する吸収係数を含む光学的特性に合わせられていることがより好ましい。
【0022】
また、本発明では、前記特定部位に付着することなく前記試料の体内で拡散されて蛍光を発する蛍光物質識を、前記試料に投与して前記基準試料としても良い。
【0023】
また、本発明が適用される光断層計測装置は、前記試料で前記関心部位を選択する選択手段を含み、前記第1の取得手段が、前記試料の前記注目部位を含む平面及び該平面と平行でかつそれぞれが前記試料を通過する複数の平面のそれぞれに沿う計測データを取得し、前記第2の取得手段が、前記第1の取得手段により取得される前記複数の平面のそれぞれに対応する平面に沿う補正計測データを取得すると共に、前記補正係数設定手段が、前記選択手段により選択された前記関心部位を含む平面に対応する計測データ及び補正計測データを、前記第2の計測データ及び前記第2の補正計測データとして前記補正係数を設定する。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように本発明によれば、試料の計測データとして第1及び第2の計測データを取得すると共に、基準試料を用いた計測データとして第1及び第2の基準計測データを取得し、関心部位に対応する第2の計測データで第2の基準計測データを相殺する補正係数を設定する。この補正係数に基づいて、光断層画像を再構築する部位である注目部位に対応する第1の計測データと第1の基準計測データから補正計測データを生成する。
【0025】
これにより、不要光成分が除去された計測データ(補正計測データ)が得られ、この計測データを用いることにより、適正な光断層画像の再構築がなされるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施の形態に係る光断層計測システムの要部の構成図である。
【図2】光計測装置の制御部とデータ処理装置の要部を示す概略構成図である。
【図3】光計測装置の外観を示す斜視図である。
【図4】図3でスライドドアを開いた状態を示す光計測装置の要部の斜視図である。
【図5】検体ホルダとマウスを示す概略斜視図である。
【図6】(A)は検体ホルダの一端を支持する先端ブラケットを示す概略斜視図、(B)は検体ホルダの他端を支持する後端ブラケットを示す概略斜視図、(C)は後端ブラケットの取り付けを示す(B)と異なる方向から見た概略斜視図である。
【図7】光計測装置の前面側から見た計測ユニットの概略図である。
【図8】装填部側から見た計測ユニットの概略斜視図である。
【図9】装填部内での検体ホルダの装填位置近傍を示す概略図である。
【図10】検体ホルダに対する計測位置を示す概略図である。
【図11】データ処理装置で計測データの処理に対する機能ブロック図である。
【図12】計測データの補正処理の一例を示す流れ図である。
【図13】(A)は補正係数の設定に用いる計測データDr(x、θ、m)を示し、(B)は補正係数の設定に用いる計測データDs(x、θ、m)を示し、(C)は補正係数に基づいて生成される補正計測データDS(x、θ、m)を示す線図である。
【図14】(A)は所定部位の計測データDr(x、θ、m)を示し、(B)は(A)と同等部位の計測データDs(x、θ、m)を示し、(C)は補正係数に基づいて(A)及び(B)から生成される補正計測データDS(x、θ、m)を示す線図である。
【図15】(A)及び(B)は、光断層画像の一例を示す概略図であり、(A)は、図13(B)の計測データに基づいた光断層画像を示し、(B)は、図13(C)の補正計測データに基づいた光断層画像を示す。
【図16】(A)及び(B)は、光断層画像の一例を示す概略図であり、(A)は、図14(B)の計測データに基づいた光断層画像を示し、(B)は、図14(C)の補正計測データに基づいた光断層画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。図1及び図2には、本実施の形態に係る光断層計測システム10の概略構成が示されている。この光断層計測システム10では、例えば、ヌードマウスなどの小動物等の生体を計測対象とし、この計測対象に投与した蛍光物質の体内における濃度分布を示す断層画像を生成する(光断層画像の再構築)。なお、以下では、計測対象をマウス12(図5参照)として、このマウス12の光断層画像の再構築を行うものとして説明する。
【0028】
光断層計測システム10は、光計測装置14とデータ処理装置16とを含んで構成されている。図3に示されるように、光計測装置14は、略矩形箱体形状に形成された筐体18を備え、この筐体18内に、マウス12が装填される装填部20及び、装填されたマウス12から発せられる蛍光を計測する計測部22が設けられている。なお、以下では、図3及び図4の紙面手前側を光計測装置14の前面(装置手前側)とし、紙面奥側を装置の奥側として説明する。
【0029】
筐体18は、上面(図3の紙面上方側の面)に、上方へ向けて凸となるように円弧状に形成されたカバー24が設けられている。光計測装置14は、このカバー24の円弧の軸方向の一端側が装填部20とされ、他端側が計測部22とされている。図4に示されるように、カバー24には、装填部20側に平面視で矩形形状となる装填口26が形成され、この装填口26にスライドドア28が設けられている。
【0030】
光計測装置14では、例えば、ハンドル28Aを把持してスライドドア28を円弧の周方向へ移動することにより、装填口26が開放される。また、光計測装置14は、スライドドア28によって装填口26が閉止されることにより、筐体18内が遮光される。
【0031】
図4に示されように、光計測装置14では、マウス12を装填するときに、検体ホルダ30が用いられる。図5に示されるように、検体ホルダ30は、上型ブロック32と下型ブロック34とによって構成され、上型ブロック32と下型ブロック34とが重ね合わせられることにより、所定の外径の略円柱状となる。
【0032】
マウス12は、体長方向が検体ホルダ30の軸方向に沿うように配置されて検体ホルダ30に収容されるようになっており、上型ブロック32及び下型ブロック34には、収容されるマウス12の体型に合わせた凹部32A及び凹部34Aが形成されている。また、下型ブロック34には、一対の係合突部36Aが形成され、上型ブロック32には、係合突部36Aに対応する係合凹部36Bが形成されている。
【0033】
検体ホルダ30は、下型ブロック34にマウス12が載せられることにより、このマウス12の下側が凹部34Aに収容される。このとき、マウス12の計測部位となる胸部から腰部が一対の係合突部36Aによって抑えられ、表皮が凹部34A上からはみだしてしまうのが防止される。
【0034】
検体ホルダ30では、この状態で、下型ブロック34に上型ブロック32が重ねられる。このときに、下型ブロック34の係合突部36Aが上型ブロック32の係合凹部36Bに嵌め込まれ、マウス12は、その表皮が上型ブロック32の凹部32Aの内面及び下型ブロック34の凹部34Aの内面に密着された状態で収容される。
【0035】
また、この検体ホルダ30では、マウス12の頭部側の端面が基準面38とされており、マウス12は、検体ホルダ30に収容されたときに、体型(大きさ)に応じて各臓器の基準面38に対する位置が定まるようにされている。なお、以下では、基準面38側を検体ホルダ30の先端側(先端部)とし、基準面38と反対側を後端側(後端部)として説明する。また、光計測装置14では、検体ホルダ30を、マウス12の体長方向である軸方向に沿って移動して、装填部20から計測部22へ送り込むようにしており、以下では、この方向を矢印A方向として示す。
【0036】
本実施の形態では、マウス12が、麻酔剤が投与された状態(生きたままの状態)で検体ホルダ30に収容されるようになっており、検体ホルダ30には、マウス12の頭部側となる先端部に空気孔40が形成され、検体ホルダ30内に収容されたマウス12の呼吸が可能とされている。
【0037】
また、検体ホルダ30には、マウス12の下半身側(頭部と反対側)に、貫通孔42が形成されており、マウス12の尾が検体ホルダ30から突出可能となっていると共に、マウス12の排泄物が検体ホルダ30内から流出可能となるようにしている。これにより、検体ホルダ30に収容されたマウス12が排泄しても、排泄物が検体ホルダ30内に溜まってしまうのが防止されている。なお、下型ブロック34には、貫通孔42と別に、排泄物の排出口を設けても良い。
【0038】
一般に、マウス12等の生体では、光に対して異方性散乱媒質となっている。異方性散乱媒質は、入射された光が光浸達長(等価散乱長)に達するまでは、前方散乱が支配的な領域となっているが、光浸達長を超えた領域では、光の散乱が等方的となる(等方散乱領域)。この等方散乱領域では、光の偏向がランダムな多重散乱(等方散乱)が生じる。
【0039】
また、異方性散乱媒質同士が接している場合、一方の異方性散乱媒質で等方散乱を繰り返しながら伝播した光が、他方の異方性散乱媒質に入射されると、他方の異方性散乱媒質では、前方散乱が生じることなく等方散乱が継続される。
【0040】
さらに、高密度媒質内で光が散乱を受けながら伝播するときに、光強度の分布は、光子のエネルギーの流れを記述する基本的な方程式である光(光子)の輸送方程式で表されるが、検体ホルダ30内に収容したマウス12の体内を実質的に等方散乱領域とみなすことができ、マウス12の体内での光の散乱を等方散乱に近似することができる。
【0041】
これにより、拡散方程式を用いて光強度の分布を表すことができ、後述するデータ処理装置16では、光計測装置14の計測結果を用いて拡散方程式の解を演算することにより光(蛍光)の濃度分布を取得する。
【0042】
ここで、検体ホルダ30(上型ブロック32と下型ブロック34)は、収容したマウス12が実質的に等方散乱領域と見なされるように、異方性散乱媒質となる材質を用いて形成されている。本実施の形態では、この検体ホルダ30の材質として、光の透過散乱係数μ’が0.002m−1〜0.1m−1のポリアセタール樹脂(POM)を用いている。なお、検体ホルダ30を形成する材質は、これに限らず、異方散乱媒質であれば任意の材質を適用することができる。
【0043】
一方、図7及び図8に示されるように、光計測装置14は、基板44を備えている。この基板44は、筐体18(図6及び図7では図示省略)内の底部に設けられている。また、基板44には、セパレータ46が立設されている。これにより、図4に示されるように、光計測装置14では、筐体18内が装填部20と計測部22とに仕切られ、装填口26が開放された状態でも、装填口26から計測部22への光の入射が抑制されている。
【0044】
図8に示されるように、セパレータ46には、貫通孔48が形成されている。光計測装置14では、装填部20に装填された検体ホルダ30が、矢印A方向へ移動されて先端部側から貫通孔28へ挿入されて計測部22へ送られ、検体ホルダ30内に収容されているマウス12に対する計測処理が行われる。また、光計測装置14では、計測処理が終了すると検体ホルダ30が貫通孔48から装填部20に戻される。
【0045】
図7及び図8に示されるように、光計測装置14では、基板44上に計測ユニット50が設けられている。計測ユニット50は、円板状のヘッドベース52を備えている。このヘッドベース52は、セパレータ46に隣接して計測部22側に配置され、軸心部には、セパレータ46の貫通孔48と同軸に貫通孔52A(図1参照)が形成されている。
【0046】
また、図7に示されるように、セパレータ46とヘッドベース52の間には、ロータリーアクチュエータ54が配置されている。このロータリーアクチュエータ54は、セパレータ46の貫通孔48に対向する図示しない貫通孔が形成され、この貫通孔が貫通孔48と同軸となるようにセパレータ46に取り付けられている。
【0047】
ロータリーアクチュエータ54は、貫通孔の周縁部が、該貫通孔の周方向に沿って回動される回動部とされており、ヘッドベース52は、ロータリーアクチュエータ54の回動部に取り付けられている。これにより、ヘッドベース52は、ロータリーアクチュエータ54を介してセパレータ46に支持され、ロータリーアクチュエータ54の作動により矢印L方向及び矢印R方向(図1参照)へ回動される。なお、ロータリーアクチュエータ54の駆動源としては、ヘッドベース52を回動可能とする構成であれば、ステッピングモータなどのモータであっても良く、また、エアシリンダなどであっても良い。
【0048】
計測ユニット50には、このヘッドベース52にヘッドユニット56が設けられている。図1に示されるように、ヘッドユニット56は、励起光の照射手段とされる1つの光源ヘッド58と、受光手段とされる複数の受光ヘッド60を備え、光源ヘッド58及び受光ヘッド60が、ヘッドベース52に取り付けられている。光計測装置14では、光源ユニット58から30°ずつずらして11台の受光ヘッド60A、60B、60C、60D、60E、60F、60G、60H、60I、60J、60Kが、ヘッドベース52の軸心から放射状に配置されており、光源ヘッド58及び受光ヘッド60との間を検体ホルダ30が通過するようになっている。
【0049】
光源ヘッド58は、図示しない発光素子から所定波長の光を励起光として、検体ホルダ30へ照射する。また、受光ヘッド60は、図示しない受光素子を備え、検体ホルダ30内のマウス12の体内に投与された蛍光物質が励起光によって発光し、検体ホルダ30の外周部から射出される蛍光を受光し、受光量(蛍光の強度)に応じた電気信号を出力する。
【0050】
計測ユニット50では、光源ヘッド58の射出点及び受光ヘッド60の受光点が同一平面上となるように光源ヘッド58及び受光ヘッド60が配置されている。光計測装置14では、この平面が検体ホルダ30の移動方向と交差し、検体ホルダ30内のマウス12を通過する平面である計測面となっており、光断層計測システム10では、この計測面に沿った光断層画像の再構築を行う。
【0051】
計測ユニット50は、この計測面を通過する検体ホルダ30へ向けて光源ヘッド58から射出される励起光を照射し、検体ホルダ30の周囲から射出される蛍光を、各受光ヘッド60で受光する。また、計測ユニット50では、前記したロータリーアクチュエータ54によりヘッドベース52を所定の角度θずつ回転して、各回転位置で蛍光の計測を行う。なお、本実施の形態では、光源ヘッド58を30°(θ=30°)ずつ回動させながら、各位置で蛍光の計測を行うようになっており、一つの計測面に対して、12回の計測が行われる。
【0052】
一方、図8に示されるように、セパレータ46には、貫通孔48の下方に矩形状の開口部46Aが形成されている。図7及び図8に示されるように、計測ユニット50には、スライドベース62が設けられている。このスライドベース62は、帯板状に形成され、長手方向の一端側が計測部22側となり、他端側が装填部20側となるようにセパレータ46の開口部46Aに挿通されている。
【0053】
スライドベース62の下方には、スライダ64が配置されている。スライダ64は、ブラケット66A、66Bを介して基板44に取り付けられている。スライダ64は、図示しない送りねじ機構によって支持ベース64Aを、検体ホルダ30の移動方向(矢印A方向及び矢印A方向と反対方向)に沿って移動する。
【0054】
この支持ベース64Aには、スライドベース62が取り付けられている。これにより、スライダ64が図示しないステッピングモータなどのモータが駆動されることにより、スライドベース62が、矢印A方向及び矢印A方向と反対方向へ移動される。
【0055】
スライドベース62には、計測部22側の端部に脚部68が立設され、装填部20側の端部に脚部70が立設されている。脚部68には、平板状のアーム72が、装填部20側に向けられて設けられ、このアーム72の先端部に先端ブラケット74が取付けられている。また、脚部70には、先端ブラケット74に対向されて後端ブラケット76が取付けられている。
【0056】
図6(A)に示されるように、先端ブラケット74は、略円柱状に形成され、軸方向の一端部に、前記アーム72に固定される支持片74Aが延設されている。また、先端ブラケット74には、軸方向の他端部に、前記した検体ホルダ30の基準面38側の端部が挿入される凹部78が形成されていると共に、受部80が形成されている。検体ホルダ30は、先端部が先端ブラケット74の凹部78に挿入された状態で受部80に収容されて先端ブラケット74に支持される。
【0057】
また、この先端ブラケット74の受部80には、略三角形状の突起部80Aが形成されている。図5に示されるように、検体ホルダ30の下型ブロック34には、先端部及び後端部のそれぞれに、略三角形状の凹部34Aが形成されている(図5では、一方の図示を省略)。
【0058】
図6(A)に示される先端ブラケット74は、凹部78の底面が基準面78Aとされており、この基準面78Aが所定位置となるようにアーム72に取り付けられている。検体ホルダ30は、基準面38が先端ブラケット74の基準面78Aに当接されることにより軸方向(移動方向)の位置決めがなされ、凹部34A内に受部80の突起部80Aが嵌め込まれることにより回転方向(周方向)の位置決めがなされる。尚、先端ブラケット74には、検体ホルダ30の空気孔40に対向する貫通孔74Bが形成され、検体ホルダ30は、基準面38が先端ブラケット74の基準面78Aに当接された状態で、マウス12が収容される内部への通気が可能となっている。
【0059】
図6(B)に示されるように、後端ブラケット76は、略円柱状に形成され、検体ホルダ30が対向される軸方向の一端部に、凹部82が形成されると共に、受部84が形成されている。また、受部84には、検体ホルダ30の凹部34Aに対向される略三角形状の突起部84Aが形成されている。
【0060】
検体ホルダ30は、後端部が後端ブラケット76の凹部82に嵌めこまれて受部84に載せられることにより支持される。このとき、受部84の突起部84Aが、下型ブロック34に形成された凹部34Aに入り込むことにより、検体ホルダ30の回動が阻止される。これにより、検体ホルダ30が、光計測装置14内で位置決めされる。なお、後端ブラケット76には、軸方向に沿って溝状に凹部76Aが形成されており、検体ホルダ30から突出したマウス12の尾がこの凹部76A内に収容される。
【0061】
図6(B)及び図6(C)に示されるように、後端ブラケット76は、下面側に断面矩形状となる基部86が形成されている。図6(B)に示されるように、この基部86には、貫通方向が後端ブラケット76の軸方向と交差する方向となる貫通孔88が形成されている。貫通孔88は、後端ブラケット76の軸方向が長手方向とされた長孔とされている。
【0062】
図8及び図9に示されるように、脚部70には、矩形形状の板材90が設けられており、この板材90上に台座92が取付けられている。図6(C)に示されるように、台座92には、一対のフランジ部92Aが形成され、このフランジ部92が板材90に固定されて取付けられている。
【0063】
台座92には、一対の立壁94(図6(C)では一方の図示を省略)によってレール状に形成された受部材96が設けられ、後端ブラケット76は、この受部材96の立壁94の間に基部86が嵌め込まれる。また、後端ブラケット76は、貫通孔88(図6(B)参照)へ挿入されたピン98によって受部材96に取り付けられる。このときに、貫通孔88が長孔とされていることにより、後端ブラケット76は、軸方向に沿って移動可能となっている。また、受部材96には、後端ブラケット76の端部に対向して押え板96Aが取り付けられ、後端ブラケット76には、この押え板96Aが入り込む凹部76Bが形成されている。
【0064】
後端ブラケット76は、凹部76B内に配置されるコイルばねなどの図示しない付勢手段により、検体ホルダ30の移動方向(矢印A方向)である先端ブラケット74へ向けて付勢されている。これにより、先端ブラケット74と後端ブラケット76との間に装着された検体ホルダ30は、後端ブラケット76によって先端ブラケット74へ向けて付勢されて保持される。また、検体ホルダ30は、後端ブラケット76を付勢手段の付勢力に抗して移動させることにより、先端ブラケット74と後端ブラケット78の間から取り出し可能となる。
【0065】
一方、図4.図8及び図9に示されるように、装填部20には、装置奥側にガイド板100が設けられていると共に、手前側にガイド板102が設けられている。図9に示されるように、ガイド板100は、装置奥側(図9の紙面左側)が凸状となるように折曲され、ガイド板102は、装置奥側が低くなるように装置手前側(図9の紙面右側)から傾斜されている。
【0066】
図4に示されるように、ガイド板100及びガイド板102の上端部は、挿入口26の周縁部に達しており、これにより、検体ホルダ30は、このガイド板100、102の間で先端ブラケット74と後端ブラケット76との間で保持される。なお、ガイド板100、102は、計測部22側がブラケット104によってセパレータ46に固定され、計測部22と反対側が図示しないフレームに固定されている。
【0067】
図8及び図9に示されるように、脚部70には、上端部に立壁106が対で設けられ、この立壁106の上端のフランジ部106Aに、板材90の下面側が固定されている。一対の立壁106の間には、底板108が設けられている。
【0068】
図4及び図8に示されるように、底板108は、帯板状に形成されて、長手方向が、検体ホルダ30の移動方向に沿うように配置されている。また、図9に示されるように、底板108は、ブラケット104に支持され、幅方向の両端部が、ガイド板100、102の下方側へ延設され、さらに、先端部が上方へ向けて折曲されている。
【0069】
すなわち、底板108は、ガイド板100及びガイド板102のそれぞれの下方側へ延設され、装填部20に装填された検体ホルダ30は、ガイド板100、底板108及びガイド板102に囲われる。
【0070】
また、図8及び図9に示されるように、後端ブラケット76を支持する板材90は、両端部がガイド板100と底板108との間及び、ガイド板102と底板108との間に挿入されている。また、図9に示されるように、脚部70上の一対の立壁106は、底板108の外方(底板108の装置手前側及び装置奥側)に配置されており、板材90とフランジ部106Aとがガイド板100、102の下方で連結されている。
【0071】
これにより、底板108の下方を脚部70が移動することにより、検体ホルダ30が、ガイド板100、102の間で、底板108上を移動される。
【0072】
光計測装置14では、検体ホルダ30が、ガイド板100、底板108及びガイド板102に囲われた空間内に配置されることにより、例えば、検体ホルダ30内のマウス12が排泄するなどして、この排泄物が検体ホルダ30から流れ落ちても、底板108上に回収されるため、装置内部を汚してしまうことがなく、また、装置内部の清掃も容易となっている。
【0073】
一方、図1に示されるように、光計測装置14には、制御部110が設けられ、この制御部110によって蛍光の計測が制御される。また、制御部110は、計測データを取得すると、取得した計測データをデータ処理装置16へ出力される。
【0074】
図2に示されるように、データ処理装置16は、CPU112、ROM114、RAM116、記憶手段とされるHDD118、キーボード120(図1参照)やマウスなどの入力デバイス122、モニタ124等がバス126に接続された一般的構成のコンピュータが形成されている。
【0075】
また、データ処理装置16には、入出力インターフェイス(I/O IF)128が設けられており、この入出力インターフェイス128が、光計測装置14の制御部110に設けている入出力インターフェイス130に接続されている。なお、光計測装置14とデータ処理装置16との接続は、RS−232Cなどの公知の規格のみならず任意の規格を適用することができる。
【0076】
データ処理装置16では、CPU112が、RAM116をワークメモリとして用い、ROM114又はHDD118に記憶されたプログラムを実行することにより、光計測装置14の作動を制御し、マウス12から発せられる蛍光の強度を計測する。また、データ処理装置16では、光計測装置14において計測により得られた計測データを読み込み、この計測データに基づいて蛍光の強度分布を示す断層画像の再構築が行われる。
【0077】
一方、光計測装置14の制御部110には、図示しないマイクロコンピュータを備えたコントローラ132が設けられ、このコントローラ132が、入出力インターフェイス130を介してデータ処理装置16に接続されている。
【0078】
また、制御部110には、光源ヘッド58を駆動する発光駆動回路134、受光ヘッド60のそれぞれから出力される電気信号を増幅する増幅器(amp)136、増幅器136から出力される電気信号(アナログ信号)に対してA/D変換を行うことによりアナログ信号に応じたデジタル信号を生成するA/D変換器138を備えている。
【0079】
また、制御部110には、ロータリーアクチュエータ54の図示しないモータを駆動する駆動回路140、スライダ64の図示しないモータを駆動する駆動回路142及び、光計測装置14の作動状態を表示する表示パネル144が設けられ、これらがコントローラ132に接続されている。なお、図3及び図4に示されるように、表示パネル144は、カバー24の装置前面側などに設けられる。また、光計測装置14は、例えば、スライドドア28の開閉を検出するリミットスイッチなどが設けられ、スライドドア28が開かれている状態では、検体ホルダ30を停止状態に保持するインターロック機構が設けられていることが好ましい。
【0080】
ところで、光断層計測システム10に設けている光計測装置14では、検体ホルダ30を保持する先端ブラケット74に設定している基準面78Aの位置が予め把握されている。この基準面78Aには、検体ホルダ30の基準面38が当接されるようになっている。ここから、図10に示されるように、光計測装置14では、基準面38を基準位置xとして、所定間隔毎、又は、予め設定された複数位置を計測位置xとして、それぞれの計測位置xで検体ホルダ30の移動を停止し、蛍光強度の計測を行う。
【0081】
このとき、光計測装置14では、光源ヘッド58を予め設定された原位置から所定の角度θずつ回動し、原位置及びそれぞれの回動位置で、11台の受光ヘッド60を用いて、蛍光強度の計測を行う。すなわち、光源ヘッド58の位置を角度θ、θ、・・・、θ12として、それぞれの角度θで、受光ヘッド60A〜60Kの出力信号である計測データD(m)(mは受光ヘッド60A〜60Kを特定する)を読み込む。これにより、計測データD(x、θ、m)が得られる。このときに、計測位置xが同じであれば、その計測データD(x、θ、m)は、検体ホルダ30の移動方向に対して交差する同一平面上のデータとなる。
【0082】
一方、図11に示されるように、データ処理装置16には、読込部150、演算処理部152、評価部154、更新処理部156、断層情報生成部158及び画像構築部160が形成されている。
【0083】
読込部150は、光計測装置14で計測された計測データD(x、θ、m)を読み込む。演算処理部152では、マウス12の体内に投与した蛍光物質の光に対する吸収係数を含む予め設定されている光学的特性値に基づいて光拡散方程式を用いた順問題計算によって蛍光の強度を演算する。
【0084】
評価部154では、演算された蛍光の強度と計測データから得られる蛍光の強度の差分を評価する。また、更新処理部156では、光拡散方程式の逆問題計算を行うことにより、評価部154の評価結果から得られる差分を減少させるように蛍光の強度から蛍光体の濃度分布に基づく吸収係数を設定する。さらに、演算処理部152では、更新処理部156で蛍光物質の濃度分布に基づく吸収係数の更新が行われると、更新された蛍光物質の濃度分布に基づく吸収係数を用いて蛍光の強度の演算が行われる。
【0085】
このようにして蛍光の強度の更新と評価が繰り返され、例えば、演算された蛍光の強度と計測データとが一致したと評価されると、断層情報生成部158では、そのときの蛍光体の濃度分布に基づく吸収係数から光断層情報である蛍光物質の濃度分布を生成し、画像構築部160では、この光断層情報に基づいて光断層画像を生成する。
【0086】
このようにデータ処理装置16では、光計測装置14から読み込んだ計測データD(x、θ、m)に対して、所定のデータ処理を行った後、この処理結果に基づいた画像処理を行うことにより、計測データD(x、θ、m)に基づいたマウス12の光断層画像を再構築する。
【0087】
なお、光断層画像の再構築は、蛍光物質の蛍光強度を計測し、これにより得られる計測データD(x、θ、m)に基づいて光輸送方程式ないし光拡散方程式に基づいた演算結果を用いる構成であれば任意の構成を適用することができる。
【0088】
一方、光断層計測システム10では、マウス12の光断層画像を形成するときに、計測対象となるマウス12(以下、サンプルマウス12Aとする)の計測に先立って、補正基準とする計測データ(以下、計測データDr(x、θ、m)とする)を取得し、この計測データDr(x、θ、m)と、サンプルマウス12Aの計測データ(以下、計測データDs(x、θ、m)とする)とに基づいて、サンプルマウス12Aの計測データDs(x、θ、m)を補正した補正計測データDS(x、θ、m)を生成する。光断層計測システム10では、この補正計測データDS(x、θ、m)を用いて光断層画像の再構築を行う。
【0089】
図11に示されるように、データ処理装置16には、計測データ記憶部162、補正係数設定部164、補正係数設定UI部166及び補正処理部168が形成されている。
【0090】
補正データ記憶部162は、光計測装置14から読み込んだ補正用の計測データDr(x、θ、m)と、サンプルマウス12Aの計測データDs(x、θ、m)とを記憶する。補正係数設定部164は、計測データDr(x、θ、m)と計測データDs(x、θ、m)とに基づいて、計測データDs(x、θ、m)を補正するときの補正係数αを設定する。
【0091】
このとき、補正係数設定UI部166は、選択手段を形成しており、例えばモニタ124に所定のUI(ユーザーインターフェイス)を表示し、補正係数αを設定するときの関心部位を含む平面を関心領域とし、この関心領域に対応するマウス12上の計測位置x(以下、計測位置xnとする)を選択する。また、補正係数設置UI部166では、選択された計測位置xnにおける光源ヘッド58の角度θ及び受光ヘッド60A〜60Kの何れのデータD(m)を用いるかを設定する。
【0092】
補正係数設定部164は、関心領域として設定された計測位置xnでの計測データDr(xn、θ、m)の何れかのデータDr(m)を第2の計測データとし、計測データDs(xn、θ、m)でのデータDs(m)(光源ヘッド58の角度θが同じで、同じ受光ヘッド60から出力される計測データ)を第2の補正計測データとして、計測データDr(m)で計測データDs(m)を相殺する補正係数αを設定する。すなわち、Dr(m)−α・Ds(m)=0となる補正係数αを設定する。
【0093】
補正処理部168では、補正係数設定部164で設定された補正係数αに基づいて、計測データDs(x、θ、m)を補正して、画像再構築に用いる計測データとする補正計測データDS(x、θ、m)を生成する。このときに、補正処理部168では、例えば、
DS(x、θ、m)=Dr(x、θ、m)−α・Ds(x、θ、m)
などとして演算する。データ処理装置16では、補正処理部166で補正処理された補正計測データDS(x、θ、m)を用いて、光断層画像の再構築が行われる。
【0094】
以下に、計測データの補正の一例を説明する。光断層計測システム10において計測対象とされるマウス12(サンプルマウス12A)は、予め腫瘍細胞などの病変細胞を注入するなどして、腫瘍などの病変部位を生じ(発現)させる。なお、病変部位の生成は、公知の任意の手法を適用することができる。
【0095】
光断層計測システム10では、サンプルマウス12Aに形成した病変部位に特異的に付着する抗体を用い、この抗体に蛍光物質を付与して蛍光識別剤とし、この蛍光物質を付与した抗体(蛍光識別剤)を、サンプルマウス12Aに投与する。なお、このときの抗体及び蛍光物質は、公知のものを適用でき、ここでは、その例示を省略する。
【0096】
蛍光識別剤が投与されたサンプルマウス12Aでは、血液循環などによって蛍光識別剤が体内に分散され、病変部位の周囲の蛍光識別剤が抗原抗体反応によって病変部位に付着する。これにより、サンプルマウス12Aでは、病変部位に蛍光物質が特異的に付着される。この状態で、サンプルマウス12Aに励起光を照射することにより、サンプルマウス12Aの体内の病変部位に付着している蛍光物質が蛍光を発する。
【0097】
光断層計測システム10では、蛍光識別剤を投与したサンプルマウス12Aを検体ホルダ30に収容して、所定のタイミングで光計測装置14に装填し、蛍光物質から発せられる蛍光の強度の計測(計測データDr(x、θ、m)の取得)が行われる。なお、光計測装置14でサンプルマウス12Aの計測を行うタイミングは、サンプルマウス12Aに蛍光識別剤を投与してからの経過時間から、病変部位に蛍光物質が付着するタイミングを予測して行われる。
【0098】
ところで、受光ヘッド60A〜60Kには、装置に起因する不要光、計測対象に起因する不要光が少なからず入射されることがある。装置に起因する不要光としては、
a 光源ヘッド58に発光素子として用いている半導体レーザから発せられる副発光。
【0099】
b 励起光のカットフィルタの特性などに起因して生じる光源ヘッド58から射出される励起光の漏れ。
【0100】
c 電気ノイズ。
などがある。
【0101】
また、計測対象に起因する不要光としては、
e 計測対象自体が発する蛍光。
【0102】
f 蛍光物質又は蛍光物質を付与した抗体が、非特異的な部位に蓄積ないし拡散して発せられる蛍光。
【0103】
g 計測対象の消化器官などの内容物に起因する散乱光や蛍光。
などがある。
【0104】
これらの不要光が、受光ヘッド60で受光されて計測データに含まれると、適正な光断層画像の再構築が困難となるばかりでなく、光断層画像の再構築そのものが不可能となってしまう。なお、計測対象の消化器官の内容物に起因する不要光は、食物の付与を調整したり、薬剤等によって強制的に排出することにより除去すれば良い。
【0105】
ここで、光断層計測システム10では、サンプルマウス12Aの計測に先立って、補正用の計測データDr(x、θ、m)の生成を行う。この補正用の計測データDr(x、θ、m)の生成には、サンプルマウス12Aと同等の体格(同等の体型)のマウス(以下、コントロールマウス12Bとする)を用いる。コントロールマウス12Bとして用いるマウス12は、サンプルマウス12Aとして用いるマウス12と、生後何週間が経過したかを示す月齢(年齢)が略同じなどのように、体格(体長、体重など)が同じマウス12を用いる。すなわち、体内の臓器や各器官の位置が略同じマウス12を、サンプルマウス12A及びコントロールマウス12Bとして用いる。
【0106】
本実施の形態において、サンプルマウス12Aとコントロールマウス12Bの間では、サンプルマウス12Aに病変部位を生じさせるのに対して、コントロールマウス12Bには、病変組織を注入せず、病変部位が生じていない点で異なる。また、サンプルマウス12Aには、蛍光識別剤が投与されるのに対して、コントロールマウス12Bには、蛍光物質を含む抗体(蛍光識別剤など)が投与されていないものとする。
【0107】
図12には、本実施の形態に係る計測処理(補正処理)の概略が示されている。補正処理を行うときには、計測データDs(x、θ、m)に加えて、計測データDr(x、θ、m)を取得する。このフローチャートでは、最初のステップ200で、コントロールマウス12Bの計測が行われるか否かを確認し、コントロールマウス12Bの計測開始が指示されると、ステップ200で肯定判定されてステップ202へ移行する。このステップ202では、光計測装置14から出力される計測データDr(x、θ、m)を読み込み、読み込んだ計測データDr(x、θ、m)を、計測データ記憶部162に格納する(ステップ204)。
【0108】
次に、ステップ206では、サンプルマウス12Aの計測が行われるか否かを確認する。サンプルマウス12Aの計測を行う場合、蛍光識別剤を投与してから予め設定された時間が経過した後に行われる。なお、このときの時間は、マウス12の種類、体格などによって定まり、予め計測しておくことができる。
【0109】
サンプルマウス12Aの計測開始が指示されると、ステップ206で肯定判定されてステップ208へ移行する。このステップ208では、光計測装置14から出力される計測データDs(x、θ、m)を読み込み、読み込んだ計測データDs(x、θ、m)を、計測データ記憶部162に格納する(ステップ210)。
【0110】
このようにして、コントロールマウス12Bの計測データDr(x、θ、m)及び、サンプルマウス12Aの計測データDs(x、θ、m)を取得すると、次のステップ212では、補正係数αの設定に用いる計測データD(m)の指定を行う。
【0111】
この計測データD(m)の指定は、ステップ212で、所定のUIを用いて、例えば、図10に示されるように、検体ホルダ30及びマウス12のモデルをモニタ124に表示し、入力デバイス122を用い、この表示上からマウス12上の関心領域とする計測位置xnを選択して指定する。
【0112】
この計測位置xnを指定するときには、サンプルマウス12Aで、例えば、図10の計測位置xsなどのように病変部位が含まれない(蛍光物質が付着していない)計測位置xを選択する。このとき、選択する計測位置xnは、病変部位の近傍であることがより好ましい。
【0113】
計測位置xnを指定すると、次に、計測位置xnに対応する計測データDr(xn、θ、m)及びDs(xn、θ、m)をモニタ124に表示する。
【0114】
図13(A)及び図13(B)には、このときの一例が示されている。なお、図13(A)には、コントロールマウス12Bから得られる計測データDr(xn、θ、m)を示し、図13(B)には、サンプルマウス12Aから得られる計測データRs(xn、θ、m)を示している。また、図13及び図14では、光源ヘッド58の位置をθ〜θ12で示し、そのときの受光ヘッド60A〜60Kの出力(計測値:計測データD(m))を、順に示している。すなわち、光源ヘッド58が角度θの位置での受光ヘッド60A〜60Kの出力を、角度θからθの間で、受光ヘッド60Aから順に示されている。
【0115】
ここで、補正係数αを設定する計測データD(m)を選択するときには、補正用の計測データDr(xn、θ、m)で、最も大きい値が好ましく、図13(A)では、光源ヘッド58が角度θの位置で、受光ヘッド60Aの出力値を選択することが好ましい(以下、計測データDr(m)と計測データDs(m)と表記する)。
【0116】
後述するように、補正係数αは、計測データDs(m)に対する計測データDr(m)の比としているため、出力値が小さいと、その出力値から求めた補正係数αを用いて補正を行うと誤差が大きくなってしまうことがある。ここから、設定された計測位置xnにおける最大値または、予め設定された基準値より大きい値の何れかを選択することが好ましい。
【0117】
なお、これに限らず、光源ヘッド58の任意の位置での任意の受光ヘッド60の出力を適用することができる。また、本実施の形態では、もの他124に表示した検体ホルダ30及びマウス12のモデル及び計測データDr(x、θ、m)、Ds(x、θ、m)から計測データDr(m)、Ds(m)を選択するようにしたが、これに限らず、例えば、予め設定された計測位置x、受光ヘッド60の出力を用いるなど任意の構成を適用することができる。
【0118】
ここで、サンプルマウス12A及びコントロールマウス12Bとして、体格が同等のマウス142を用いているので、サンプルマウス12及びコントロールマウス12Bのそれぞれで同等の部位に対する計測データDr(m)、Ds(m)を用いることができる。
【0119】
このようにして計測データが指定されると、図12のフローチャートでは、ステップ214で計測データの指定(計測位置xn及び受光ヘッド60の指定)を読み込み、ステップ216へ移行する。このステップ216では、計測データDr(x、θ、m)及び計測データDs(x、θ、m)から該当する計測データDr(m)、Ds(m)を読み出す。このとき、角度θにおける受光ヘッド60Aの出力が指定されると、計測データDr(xn、θ、m)及び計測データDs(xn、θ、m)から該当する計測データ(出力値)が計測データDr(m)、Ds(m)として読み出される。
【0120】
次のステップ218では、読み出した計測値(計測データDr(m)、Ds(m))を用いて補正係数αを設定する。例えば、計測データDr(xn、θ、m)上での計測データ(出力値)Dr(m)が、3.222(mV)、計測データDs(xn、θ、m)上での計測データ(出力値)Ds(m)が、3.409(mV)であれば、補正係数αは、
α=Ds(m)/Dr(m)=3.409/3.222=1.058
として得られる。
【0121】
このようにして補正係数αが設定されると、ステップ220では、この補正係数αを用いた計測データDs(x、θ、m)に対する補正処理が行われ、補正計測データDS(x、θ、m)が演算される。
【0122】
ここでの補正処理は、計測データDs(x、θ、m)の全てのデータに対して行われ、補正計測データDS(x、θ、m)は、
DS(x、θ、m)=Dr(x、θ、m)−α・Ds(x、θ、m)
として演算される。図13(C)には、補正係数αの設定するときに指定された計測位置xnにおける補正計測データDS(xn、θ、m)が示されている。
【0123】
ここで、補正計測データDS(xn、θ、m)を含む補正計測データDS(x、θ、m)は、DS(x、θ、m)≧0であることが好ましいが、負の値のデータを含んでいても良い。
【0124】
なお、受光ヘッド60の出力が負となることがないので、補正計測データDS(x、θ、m)に負の値が含まれるときには、計測データDr(x、θ、m)及び計測データDs(x、θ、m)から新たな関心領域(計測位置xnを設定して、新たな補正係数αを求め、この補正係数αを用いて補正計測データDS(x、θ、m)を演算するようにしても良い。この場合でも、補正計測データDS(x、θ、m)に負の値(データ)が含まれてしまうときには、負のデータを、「0」に置換して、DS(x、θ、m)≧0となるようにしても良い。
【0125】
また、これに限らず、補正計測データDS(x、θ、m)に負の値が含まれるときには、該当データをゼロとしても良い。
【0126】
このようにして、コントロールマウス12Bの計測データDr(x、θ、m)及び、サンプルマウス12の計測データDs(x、θ、m)から、補正計測データDS(x、θ、m)を生成すると、この補正計測データDS(x、θ、m)を用いて、蛍光を用いた光断層画像の再構築を行う。
【0127】
図15(A)には、補正係数αを設定した計測位置xnにおいて、補正していない計測データDs(xn、θ、m)を用いて再構築した光断層画像170の概略を示し、図15(B)には、補正係数αに基づいて補正した補正計測データDS(xn、θ、m)を用いて再構築した光断層画像172の概略が示されている。なお、光断層画像170、172は、例えば、蛍光の強度に応じた濃度で表される。また、光断層画像170、172では、検体ホルダ30内と検体ホルダ30の周縁との間、検体ホルダ30内のマウス12(サンプルマウス12A)とサンプルマウス12Aの周縁との間では、濃度差が生じることから、この濃度差によって、検体ホルダ30及び検体ホルダ30内のサンプルマウス12Aとが識別される。
【0128】
図15(A)及び図15(B)に示されるように、サンプルマウス12Aの該当計測位置xnには、蛍光物質が実質的に存在しない。このために、図15(A)に示され計測データDs(xn、θ、m)を用いて再構築した光断層画像170及び、図15(B)に示される補正計測データDS(xn、θ、m)を用いて再構築した光断層画像172の間では、内部の画像に差異が少ない。
【0129】
しかし、図15(A)に示されるように、計測データDs(xn、θ、m)を用いて再構築した光断層画像170では、計測データDs(xn、θ、m)に不要光成分が含まれることにより、画像周縁部でアーチファクト(artifact)が生じてしまう。これにより、光断層画像170では、検体ホルダ30の周縁部に対応する部位に乱れ(図14(B)のアーチファクト部170A)が生じる。
【0130】
これに対して、図15(B)に示されるように、補正計測データDS(xn、θ、m)に基づいて再構築した光断層画像172では、検体ホルダ30の周縁部に対応する部位のアーチファクトが抑えられ、アーチファクトが現れることがない。
【0131】
一方、光断層計測システム10は、サンプルマウス12Aの病変部位を注目部位として、この注目部位の光断層画像の再構築を行う。このときには、第1の計測データが、この注目部位が含まれる計測位置xに対応する計測データDs(x、θ、m)が第1の計測データとされ、計測位置xに対応する計測データDr(x、θ、m)が第1の補正計測データとされる。
【0132】
図14(B)には、病変部位が含まれる計測位置xに対応するサンプルマウス12Aの計測データDs(x、θ、m)を示し、図14(A)には、同一部位におけるコントロールマウス12Bの計測データDr(x、θ、m)を示している。さらに、図14(C)には、補正係数αを用いて得られた補正計測データDS(x、θ、m)が示されている。
【0133】
図14(A)及び図14(B)に示されるように、計測データDr(x、θ、m)と計測データDs(x、θ、m)との間では、受光ヘッド60の出力値(計測データ)の間に、差が生じていることはわかるが、近似した出力値となっている。これに対して、図14(C)に示される補正計測データDS(x、θ、m)は、見た目においても、計測データDr(x、θ、m)と異なることは勿論、計測データDs(x、θ、m)とも異なる。
【0134】
すなわち、サンプルマウス12Aとコントロールマウス12Bとの間では、光計測装置14上での計測条件が同じとなっているので、装置に起因する不要光成分は、計測データDr(x、θ、m)、Ds(x、θ、m)の何れにも含まれる。ここから、計測データDr(m)と計測データDs(m)との差分をゼロとする補正係数αを設定し、この補正係数αを用いることにより、装置に起因する不要光成分(バックグラウンドノイズ)を相殺した補正計測データDS(x、θ、m)を生成することができる。
【0135】
また、サンプルマウス12Aには、蛍光物質が含まれているのに対して、コントロールマウス12Bには、蛍光物質が含まれていない。このために、補正係数αを用いることにより、生体(マウス12)自体に起因する不要光成分を相殺することができる。
【0136】
図16(A)は、図14(B)の計測データDs(x、θ、m)に基づいて再構築された光断層画像174の概略を示し、図16(B)は、図14(C)の計測データDS(x、θ、m)に基づいて再構築された光断層画像176の概略を示している。
【0137】
図16(A)に示されるように、この光断層画像174では、外周部が内部側に窪んだアーチファクト部174Aが生じる。
【0138】
また、サンプルマウス12Aでは、病変部位が含まれることにより、この病変部位に蛍光物質が付着する。これにより、病変部位での蛍光の強度が高くなり、この画像濃度が濃くなることにより、病変部位の特定が可能となる。
【0139】
一般に、計測データDs(x、θ、m)(図16(A)参照)を用いて再構築した光断層画像では、病変部位の周縁部の蛍光の強度が低下し、病変部位の相対的な蛍光の濃度も低くなっている。
【0140】
これにより、図16(A)に示されるように、計測データDs(x、θ、m)を用いて再構築した光断層画像174では、外周部に、病変部位の分解能が低下し、病変部位(蛍光物質が付着している部位)の画像178の形状が不明瞭となっている。
【0141】
これに対して、図16(B)に示されるように、補正計測データDS(x、θ、m)を用いて再構築した光断層画像176では、病変部位、すなわち、蛍光物質が付着している部位の画像180が明確となっている。
【0142】
このように、病変部位が存在せず、かつ、蛍光物質を投与していないコントロールマウス12Bを用いて補正用の計測データDr(x、θ、m)を取得し、この補正用の計測データDr(x、θ、m)を用いてサンプルマウス12Aの計測データDs(x、θ、m)を補正することにより、計測データDs(x、θ、m)から、バックグラウンドノイズとなっている不要光の成分を除去できる。これにより、光断層計測システム10では、サンプルマウス12Aに対して高品質の光断層画像の再構築が可能となる。
【0143】
一方、特定部位に特異的に付着する抗体に付与された蛍光物質は、マウス12の体内に投与されると、血流などにより体内に循環されて拡散され、特定部位の周囲の抗体が特定部位に付着することにより、蛍光物質も特定部位に付着して特定部位の蛍光濃度が高くなる。これに対して、特定部位特定部位に特異的に付着する抗体に付与していない蛍光物質(以下、単に蛍光物質とする)は、マウス12の体内に投与されると、血流などにより循環されて拡散されるが、特定部位の周囲の蛍光物質が特定部位に付着することがないので、特定部位の蛍光濃度は、低い状態に維持される。
【0144】
ここから、体型が同等のマウス12の一方には、病変部位を生じさせた後、病変部位に特異的に付着する抗体に蛍光物質を担持させた蛍光識別剤を投与して、サンプルマウス12Aとして用い、他方のマウス12には、病変部位などの特定部位に特異的に付着することのない蛍光物質を投与して、コントロールマウス12Bとして用いるようにすることができる。
【0145】
この場合、コントロールマウス12Bとして用いるマウス12に対しては、蛍光物質を投与し、この蛍光物質が体内に拡散されたタイミングで光計測装置14に装填し、計測データDr(x、θ、m)を取得する。また、サンプルマウス12Aとして用いるマウス12に対しては、蛍光識別剤を投与した後、蛍光識別剤が特定部位に付着するタイミングで、タイミングで光計測装置14に装填し、計測データDs(x、θ、m)を取得する。
【0146】
このようにして取得した計測データDr(x、θ、m)を用いることにより、サンプルマウス12Aの体内に拡散されている蛍光物質が発する蛍光の影響を抑えた補正計測データDS(x、θ、m)が得られる。したがって、特定部位の解像度が高い光断層画像の再構築を行うことができる。
【0147】
一方、以上の説明では、サンプルマウス12Aと別にコントロールマウス12Bを用いたが、これに限らず、例えば、マウス12をサンプルマウス12Aとして用いる前に、このマウス12をコントロールマウス12Bとして用い、計測データDr(x、θ、m)を取得しておくようにしても良い。
【0148】
すなわち、マウス12に病変組織を注入する前などの病変部位が生じさせる前に、このマウス12をコントロールマウス12Bとして用いて、計測データDr(x、θ、m)を取得する。次に、このマウス12に病変組織を注入するなどして病変部位を生じさせる。この後に、このマウス12に蛍光物質(蛍光識別剤)を投与し、投与した蛍光物質が病変部位に付着するタイミングで、マウス12をサンプルマウス12Aとして計測データDs(x、θ、m)を取得するようにしても良い。
【0149】
サンプルマウス12Aとコントロールマウス12Bとして別々のマウス12を用いる場合、個々のマウス12に自家蛍光があると、個別の自家蛍光の除去は困難となる。個別の自家蛍光を除去するためには、同一のマウス12を、サンプルマウス12A及びコントロールマウス12Bとして用いることにより、自家蛍光の除去が可能となる。
【0150】
この場合、マウス12には、病変部位が生じていても良い。このときには、蛍光物質を含む抗体(蛍光識別剤)を投与する前に、蛍光物質のみを投与して計測データDr(x、θ、m)を取得し、この後に、蛍光識別剤を投与して計測データDs(x、θ、m)を取得する。これにより、マウス12の自家蛍光を含めた不要光成分の除去が可能となる。なお、マウス12に蛍光識別剤を投与するタイミングは、先に投与した蛍光物質が体外へ排泄された後であることが好ましいが、少なくとも、蛍光識別剤が特定部位に付着するまでに蛍光識別剤が体外に排出されるタイミングであれば良い。
【0151】
さらに、マウス12に蛍光物質を含む抗体を投与すると、この蛍光物質を含む抗体が体内を循環して拡散され、この後、順次、蛍光物質が病変部位へ付着する。このために、マウス12をサンプルマウス12Aとして使用するのに時間がかかり、この時間を利用して基準試料として用いても良い。
【0152】
このとき、マウス12に蛍光識別剤とする蛍光物質を含む抗体を投与した後、先ず、蛍光識別剤が体内に拡散された状態で、このマウス12を基準試料として用いて計測データDr(x、θ、m)を取得し、この後、蛍光識別剤が病変部位に付着したタイミングで、このマウス12を試料とするサンプルマウス12Aとして計測データDs(x、θ、m)を取得する。
【0153】
この場合においても、同一のマウス12をサンプルマウス12Aとして用いると共に、基準試料とするコントロールマウス12Bして用いるので、個々のマウス12の自家蛍光により生じる不要光の除去が可能となる。
【0154】
一方、装置に起因する不要光のみの除去を目的とするものであれば、基準試料としては、サンプルマウス12Aと同じ生体を用いる必要はない。すなわち、光学的特性(例えば、光の透過散乱係数μ’など)がサンプルマウス12Aとするマウス12と同等の材質(異方散乱媒質)を用いて、マウス12の模型(以下、ファントムマウスとする)を製作し、このファントムマウスを検体ホルダ30に収容して、基準資料として用いても良い。
【0155】
このときのファントムマウスとしては、例えば、光源ヘッド58から発する励起光に対して蛍光を発しない材質でかつ、励起光に対して表面の反射率を一定としたものを用いることが好ましい。また、表面の反射率を含む表面状態は、サンプルマウス12Aと同等の表面状態とすることが好ましい。
【0156】
このようなファントムマウスを用いることにより、ファントムマウスの計測データDr(x、θ、m)と、サンプルマウス12の計測データDs(x、θ、m)から、少なくとも装置に起因する不要光を除去する補正係数αが得られる。すなわち、励起光又は蛍光に対してマウス12と異なる拡散などが生じて、受光ヘッド60(60A〜60K)で受光される光に影響が生じてしまうのが防止される。
【0157】
このように、光断層計測システム10では、単にサンプルマウス12Aを試料として計測データDs(x、θ、m)を取得して、この計測データDs(x、θ、m)に基づいて、光断層画像の再構築を行うのではなく、予め設定された条件の基準試料を用いて補正用の計測データDr(x、θ、m)を取得し、この計測データDr(x、θ、m)と計測データDs(x、θ、m)を用いて、補正係数αを設定し、この補正係数αを用いて、光断層画像の再構築に適用する計測データとする補正計測データDS(x、θ、m)を生成する。
【0158】
これにより、計測データから受光ヘッド60で受光される不要光成分を抑制する計測データが得られるので、試料に合った適正な光断層画像の再構築が可能となる。
【0159】
なお、以上説明した本実施の形態は本発明の構成を限定するものではない。例えば、本実施の形態では、データ処理装置16で補正計測データを生成するようにしたが、これに限らず、光計測装置14で、補正計測データを生成して、この補正計測データを出力するようにしても良い。
【0160】
また、本実施の形態では、試料としてマウス12を例に説明したが、本実施の形態に係る光断層計測システムは、任意の生体を計測対象として用いることができる。
【0161】
さらに、本発明は、光断層計測システム10に限らず、励起光を試料に照射し、試料から射出される光を検出し、その光の強度に基づいて断層画像を再構築する任意の構成の光断層計測装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0162】
10 光断層計測システム(光断層計測装置)
12 マウス(生体)
12A サンプルマウス(試料)
12B コントロールマウス(基準試料)
14 光計測装置(第1及び第2の取得手段)
16 データ処理装置
30 検体ホルダ
50 計測ユニット
58 光源ヘッド
60(60A〜60K) 受光ヘッド(受光手段)
150 読込部(第1及び第2の取得手段)
158 断層情報生成部
160 画像構築部
162 計測データ記憶部
164 補正係数設定部
168 補正処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体を試料として、試料に投与した蛍光物質から励起光によって発せられる蛍光を、前記試料の注目部位を通過する平面上で試料の周囲の複数箇所で受光手段により受光され、前記注目部位を通過する平面に沿う前記試料の光断層画像の再構築に用いられる計測データの補正方法であって、
前記注目部位を通過する平面上での計測データとする第1の計測データ及び、前記試料の前記注目部位と異なる関心部位を通過する平面上での計測データとする第2の計測データを取得すると共に、
前記試料に対して予め設定された基準試料を用いて、前記注目部位の平面に対応する平面上の計測データとする第1の基準計測データ及び、前記関心部位の平面に対応する計測データとする第2の基準計測データを取得し、
前記試料の前記関心部位に対応する前記第2の計測データと前記第2の基準計測データとを用い、前記第2の基準計測データを前記第2の計測データで相殺する補正係数を設定し、
前記補正係数を用いて、前記第1の計測データと前記第1の基準計測データから、前記試料の前記注目部位を通過する平面に沿う光断層画像の再構築に用いる計測データとする補正計測データを生成する、
計測データの補正方法。
【請求項2】
前記試料には、前記蛍光物質として体内の特定部位に特異的に付着して蛍光を発する蛍光識別剤が投与され、前記特定部位を前記注目部位として、前記第1の計測データが取得される、請求項1に記載の計測データの補正方法。
【請求項3】
前記基準試料が、前記試料と同種の生体であり、かつ、前記特定部位への付着が抑制された状態の蛍光物質が投与された生体である、請求項2に記載の計測データの補正方法。
【請求項4】
前記蛍光識別剤の投与前の前記試料を前記基準試料とする、請求項2に記載の計測データの補正方法。
【請求項5】
前記蛍光識別剤が投与された前記試料を、該蛍光識別剤が体内に拡散され、かつ、前記特定部位に付着する前のタイミングで前記基準試料として用いる、請求項2に記載の計測データの補正方法。
【請求項6】
前記基準試料は、前記励起光に対して蛍光が発せられない材質で、かつ、光に対する表面状態が前記試料の光に対する表面状態にあわせられた前記試料の模型である、請求項2に記載の計測データの補正方法。
【請求項7】
前記模型の光に対する吸収係数を含む光学特性が、前記試料の光に対する吸収係数を含む光学的特性に合わせられている、請求項6に記載の計測データの補正方法。
【請求項8】
前記特定部位に付着することなく前記試料の体内で拡散されて蛍光を発する蛍光物質識を、前記試料に投与して前記基準試料としている、請求項2記載の計測データの補正方法。
【請求項9】
生体を試料として、試料に投与した蛍光物質から励起光によって発せられる蛍光を、前記試料の注目部位を通過する平面上で試料の周囲の複数箇所で受光手段により受光することにより得られる計測データから、前記注目部位を通過する平面に沿う前記試料の光断層画像の再構築を行う光断層計測装置であって、
前記受光手段により前記注目部位を通過する平面上での計測データとする第1の計測データ及び、前記試料の前記注目部位と異なる関心部位を通過する平面上での計測データとする第2の計測データを取得する第1の取得手段と、
前記試料に対して予め設定された基準試料を用いて、前記受光手段により前記注目部位を含む平面に対応する平面上の計測データとする第1の基準計測データ及び、前記関心部位を含む平面に対応する計測データとする第2の基準計測データを取得する第2の取得手段と、
前記試料の前記関心部位に対応する前記第2の計測データと前記第2の基準計測データとを用い、前記第2の基準計測データを前記第2の計測データで相殺する補正係数を設定する補正係数設定手段と、
前記補正係数を用いて、前記第1の計測データと前記第1の基準計測データから、前記試料の前記注目部位を通過する平面に沿う光断層画像の再構築に用いる計測データとする補正計測データを生成する補正手段と、
を含む光断層計測装置。
【請求項10】
前記試料で前記関心部位を選択する選択手段を含み、
前記第1の取得手段が、前記試料の前記注目部位を含む平面及び該平面と平行でかつそれぞれが前記試料を通過する複数の平面のそれぞれに沿う計測データを取得し、
前記第2の取得手段が、前記第1の取得手段により取得される前記複数の平面のそれぞれに対応する平面に沿う補正計測データを取得すると共に、
前記補正係数設定手段が、前記選択手段により選択された前記関心部位を含む平面に対応する計測データ及び補正計測データを、前記第2の計測データ及び前記第2の補正計測データとして前記補正係数を設定する、
請求項9に記載の光断層計測装置。
【請求項11】
生体を試料として、試料に投与した蛍光物質から励起光によって発せられる蛍光を、前記試料の注目部位を通過する平面上で試料の周囲の複数箇所で受光手段により受光することにより得られる計測データから、前記注目部位を通過する平面に沿う前記試料の光断層画像の再構築を行う光断層計測装置に設けられるコンピュータを、
前記受光手段により前記注目部位を通過する平面上での計測データとする第1の計測データ及び、前記試料の前記注目部位と異なる関心部位を通過する平面上での計測データとする第2の計測データを取得する第1の取得手段と、
前記試料に対して予め設定された基準試料を用いて、前記受光手段により前記注目部位を含む平面に対応する平面上の計測データとする第1の基準計測データ及び、前記関心部位を含む平面に対応する計測データとする第2の基準計測データを取得する第2の取得手段と、
前記試料の前記関心部位に対応する前記第2の計測データと前記第2の基準計測データとを用い、前記第2の基準計測データを前記第2の計測データで相殺する補正係数を設定する補正係数設定手段と、
前記補正係数を用いて、前記第1の計測データと前記第1の基準計測データから、前記試料の前記注目部位を通過する平面に沿う光断層画像の再構築に用いる計測データとする補正計測データを生成する補正手段と、
して機能させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−69716(P2011−69716A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220931(P2009−220931)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】