説明

計測機能付きチャック装置及びロボットチャック装置

【課題】計測機構が小型軽量で且つ適切に収容され、計測精度を向上できると共に、安価に製造できる計測機能付きチャック装置及びロボットチャック装置を提供すること。
【解決手段】一方の電極11に対し、他方の電極12が、所要の間隔を保ちつつスライド可能に配されたセンサー部10と、両電極11、12に関する静電容量を検出する容量検出素子40と、容量検出素子40によって得られた信号に基づいて一方の電極11に対する他方の電極12の変位に関する計測情報を出力する計測情報出力回路50と、一方の電極11が固定されると共に、計測と同時に保持されるべきワークの一端側に当接されるストッパ部22を有するチャック用基部20と、他方の電極12が装着されて一体となってストッパ部22に対して接離動可能に設けられ、前記ワークの他端側に当接されるチャック用可動爪部30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量式変位センサーを利用した計測機能付きチャック装置及びロボットチャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、計測機能付きチャック装置としては、例えば、組立機械の丸棒部を持つパーツのチャック動作において、同時に外形検査ができる組立機械用チャックが提案されている(特許文献1参照)。このチャックでは、スライド部に固定されているブロックと固定側のブロックでワークを挟み、検査用のセンサーが固定側と同じブロックに固定されており、スライド側と固定側の挟み込みにより測定する寸法差は、スライド側の測定面とセンサー検出面との隙間に現れ、検査ワークの寸法差がセンサーの感度設定により検査できる。ここに用いられるセンサーは、一対のセンサー面同士の間隔が変化することで、静電容量が変化することを検出する静電容量式変位センサーとすることができる。しかし、このような機構のセンサーでは、計測精度をより高めること、及び装置をより小型化することについて限界があった。
【0003】
また、寸法測定機構として差動トランスが用いられた寸法測定機構付き把持装置が提案されている(特許文献2参照)。この把持装置では、差動トランスの差動コイルを把持装置の固定部に取り付けるとともに、差動トランスのコアを、コアの軸線方向と把持爪の動作方向とを一致させ、かつコアの軸線方向におけるコアと把持爪との相対位置を変更可能に、把持爪を取り付けてある。
【0004】
なお、この把持装置の寸法測定機構としては、差動トランスの他に、可動機構部と固定機構部からなり、これらの両機構部の相対変位量を検出するものであれば、接触式、非接触式を問わず、すべての寸法測定機構を採用できる。例えば、光電スイッチ、近接スイッチ、ポテンシャルメータ、磁気式位置検出装置を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−138452号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2001−105376号公報(第1頁、[0056])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
計測機能付きチャック装置及びロボットチャック装置に関して解決しようとする問題点は、差動トランスを用いたセンサーによれば計測精度を向上できるが、装置が大型化し、製造コストも高くなりやすいという点にある。特に、ロボットチャック装置としてロボットのアーム先端等に取り付けられるものは、スペースや重量等の設計上の制約があり、計測機構が小型軽量で且つ適切に収容される必要がある。
そこで本発明の目的は、計測機構が小型軽量で且つ適切に収容され、計測精度を向上できると共に、安価に製造できる計測機能付きチャック装置及びロボットチャック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために次の構成を備える。
本発明にかかる計測機能付きチャック装置の一形態によれば、一方の電極に対し、他方の電極が、所要の間隔を保ちつつスライド可能に配されることによって両電極の重なり合う面積を可変できるように設けられたセンサー部と、前記両電極に関する静電容量を検出する容量検出素子と、該容量検出素子によって得られた信号に基づいて前記一方の電極に対する前記他方の電極の変位に関する計測情報を出力する計測情報出力回路と、前記一方の電極が固定されると共に、計測と同時に保持されるべきワークの一端側に当接されるストッパ部を有するチャック用基部と、前記他方の電極が装着されて一体となって前記ストッパ部に対して接離動可能に設けられ、前記ワークの他端側に当接されるチャック用可動爪部とを備える。
【0008】
また、本発明にかかる計測機能付きチャック装置の他の一形態によれば、一方の電極に対し、他方の電極が、所要の間隔を保ちつつスライド可能に配されることによって両電極の重なり合う面積を可変できるように設けられたセンサー部と、前記両電極に関する静電容量を検出する容量検出素子と、該容量検出素子によって得られた信号に基づいて前記一方の電極に対する前記他方の電極の変位に関する計測情報を出力する計測情報出力回路と、複数の前記一方の電極が固定された装置の基部と、該一方の電極のそれぞれに対応して配され、前記他方の電極が装着されて一体となって移動可能に設けられ、計測と同時に保持されるべきワークに複数の方向から当接して該ワークを保持できるように配された複数のチャック用可動爪部とを備える。
【0009】
また、本発明にかかる計測機能付きチャック装置の一形態によれば、前記センサー部が、両極の重なり合う面積を円形の内周面と円形の外周面によって可変できるように、前記一方の電極が円形の穴状に設けられ、前記他方の電極が円柱状に設けられている丸型であることを特徴とすることができる。
【0010】
また、本発明にかかる計測機能付きチャック装置の一形態によれば、前記一方の電極及び前記他方の電極から構成される前記センサー部と、該センサー部に対応して設けられた前記チャック用可動爪部とが3箇所に配され、該チャック用可動爪部のそれぞれが前記ワークに係る保持中心の1点に対して接離動するように移動可能に設けられていることを特徴とすることができる。
また、本発明にかかる計測機能付きチャック装置の一形態によれば、前記容量検出素子が、複数の前記センサー部から可及的に等距離の位置であって、複数の前記センサー部及び複数の前記チャック用可動爪部で囲まれた内側の位置に配されていることを特徴とすることができる。
【0011】
また、本発明にかかる計測機能付きチャック装置の一形態によれば、前記一方の電極と前記他方の電極とが対向するそれぞれの対峙面が櫛歯状に形成されていることを特徴とすることができる。
【0012】
また、本発明にかかる計測機能付きチャック装置の一形態によれば、前記一方の電極及び前記他方の電極から構成される前記センサー部がカバー部材によって内包され、該カバー部材の内部の空気圧を陽圧状態に維持するように、清浄な圧縮空気を供給する圧縮空気供給源が前記カバー部材の内部に接続されていることを特徴とすることができる。
【0013】
また、本発明にかかるロボットチャック装置によれば、以上のいずれかに記載の計測機能付きチャック装置を、ロボットのワーク把持ヘッドとして搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる計測機能付きチャック装置によれば、計測機構が小型軽量で且つ適切に収容され、計測精度を向上できると共に、安価に製造できるという特別有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る計測機能付きチャック装置の形態例を示す側面図である。
【図2】本発明に係る計測装置のセンサー部とその動作を説明する断面図である。
【図3】本発明に係る計測装置による測定値の直線性を示すグラブである。
【図4】本発明に係る計測機能付きチャック装置の他の形態例を示す説明図である。
【図5】図4の形態例の計測機能付きチャック装置を説明するブロック図である。
【図6】本発明に係る計測機能付きチャック装置の実施例を示す斜視図である。
【図7】図6の実施例の分解構造を示す組立展開斜視図である。
【図8】図6の実施例の内部構造を部分的に拡大して示す分解斜視図である。
【図9】図6の実施例の内部構造を示す断面図である。
【図10】ワーク半径を算出する際の座標について説明する模式図である。
【図11】ワーク中心のずれと測定誤差の関係を示すグラフである。
【図12】外径計測の工程の流れを説明するフロー図である。
【図13】測定方法と処理手順の関係を説明するフロー図である。
【図14】本発明に係る計測機能付きチャック装置の三つジョーを備える他の実施例を示す斜視図である。
【図15】本発明に係る計測機能付きチャック装置の二つジョーを備える実施例を示す斜視図である。
【図16】本発明に係るロボットチャック装置の形態例を示す斜視図である。
【図17】本発明に係るロボットチャック装置の他の形態例を示す斜視図である。
【図18】本発明に係る計測装置の他のセンサー部を説明する断面図である。
【図19】本発明に係る計測装置の他のセンサー部とその動作の原理を説明する斜視図である。
【図20】本発明に係る計測機能付きチャック装置の他の形態例であってチャック用可動爪部が装着された一つのセンサー部を説明する断面図である。
【図21】図20の形態例のセンサー部を用いた三方締めの計測機能付きチャック装置を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る計測機能付きチャック装置について、最良の形態例を添付図面(図1〜13)に基づいて詳細に説明する。
図1に示す計測機能付きチャック装置は、一個のセンサー部10が配設されたものであり、静電容量の変化を検出して変位を計測するための基本構成を備えている。
【0017】
センサー部10は、一方の電極11と他方の電極12とによって構成されている。このセンサー部10は、一方の電極11に対し、他方の電極12が、所要の間隔を保ちつつスライド可能に配されることによって両電極11、12の重なり合う面積を可変できるように設けられている。なお、一方の電極11と他方の電極12との間隔や、一方に対して他方がスライドする長さは、計測を行う対象物に対応させて適宜選択的に設定すればよい。例えば、その両電極11、12の間隔は、測定範囲が500μmで、その分解能が0.1μm程度の場合に、10μm程度とすることができる。
【0018】
この両電極11、12は、導電体である金属材によって形成されており、図2に示すように一定の間隔を保ちつつ平行移動可能に対峙している。これによれば、両者の金属面の重なり合う面積が広くなればその面積の広さに比例して静電容量が大きくなり、その面積が狭くなれば比例して静電容量が小さくなる。従って、図2(a)に示す状態が、両電極11、12における最小容量の位置関係であり、図2(b)に示す状態が最大容量の位置関係になる。
【0019】
なお、一方の電極11と他方の電極12とは、相対的に一方に対して他方がスライド可能に配されていればよい。従って、図1に示す形態例では、一方の電極11が固定され、他方の電極12が移動するように構成されているが、これに限定されるものではない。反対に一方の電極11の方が移動するように設けられてよいし、両方が移動できる構成とすることも可能である。
【0020】
また、本形態例では、一方の電極11と他方の電極12とが対向するそれぞれの対峙面が櫛歯状に形成されている。さらに具体的には、櫛歯15の形状が矩形に形成されており、山面部15aと谷面部15bとが等間隔で且つ平面状に設けられている。換言すれば、四角い断面形状の櫛歯15が、所定の同一ピッチで複数並んだ形状になっている。なお、櫛歯15の1ピッチとは、一つの山面部15aと一つの谷面部15bを足し合わせた長さである。
【0021】
このような櫛歯15の形態によれば、一方の電極11と他方の電極12との相対的な変位(長さ)と比較して、重なり合う面積の変化を大きくすることができる。つまり、電極の幅と相対的な変位とを乗じた値(櫛歯一つ当たりの重なり合う面積の変化値)に、櫛歯15の数を乗じた値が、重なり合う面積の変化の総面積値になる。従って、所定の相対的な変位に対して、変化し得る静電容量が大きくなり、センサーとしての感度を高めることができる。
【0022】
また、このように一方の電極11と他方の電極12とが櫛歯状に形成される場合、計測装置としての最大変位量(変位長さ)を、櫛歯15の1/2ピッチ以内とすることで、測定範囲の出力の直線性を適切に利用できる。図3に示す測定範囲と直線性のグラフから明らかなように、一方の電極11と他方の電極12との相対的な変位量を櫛歯15の歯幅w(図2参照)以内にした場合、デプスマイクロの読みと、本形態例によって出力される測定値との関係が正比例することが確認された。この範囲で変位に関する計測をする限りにおいては、直接的な変位量の情報を出力することができる。
【0023】
なお、図3に示すデータは、櫛歯15の歯幅w(櫛歯の1/2ピッチ)を500μmと設定して、実際に計測した測定範囲と直線性の関係を示してある。これによれば、歯幅に依存して測定範囲が設定されることになる。
これに対して、測定範囲を広げるためには、例えば、静電容量が変化するサイクルをカウントする手段を設ければよい。これによれば、絶対値測定が可能な計測装置を構成することもできる。なお、この場合、図18に示すように櫛歯の数の少ない一方の電極11を、二つ位相をずらした状態で並べて固定し、その二つの一方の電極11(検出電極A、B)に対して櫛歯数を多く有する長い他方の電極12をスライド移動させる形態にすることができる。検出電極Aの波形がピークのときは、検出電極Bの測定が最も安定する場所にあり、両者の出力の測定不能箇所を相互に補償することができる。
【0024】
また、本形態例では、一方の電極11が、固定電極になっていると共に、静電容量式変位センサーの検出電極となっている。そして、他方の電極12が、移動電極になっていると共に、基部20に接地されたグランド(GND)電極となっている。このように各電極11、12が設けられているのは、装置の構成を簡単にして製造し易くするものである。つまり、各電極11、12の相互の関係は相対的なものであり、一方の電極11を移動電極として他方の電極12を固定電極としてもよい。
【0025】
なお、装置の基部20全体がグランドされるため、グランド電極は、装置の基部20全体と電気的に接続することになる。金属の場合は、単に機械的にネジで固定することで容易に接続できる。チャック装置の機械的な構造を考えたとき、周り(装置の基部20)から絶縁したものを動かすより、絶縁しなくても良い物を動かす方が、構造が簡単になりやすい。また、グランド電極への配線は、装置の基部20のどこへ接続しても良いので動く部分へ直接的に配線をしなくても済む。このため、本形態例では、グランド電極が移動電極である他方の電極12となっている。
【0026】
これに対して、検出電極は、装置全体(グランド電位)から電気的に絶縁する必要があり、絶縁物を挟むなど、構造が複雑になる。このため、本形態例では、検出電極が固定電極である一方の電極11になっている。
【0027】
40は容量検出素子であり、両電極11、12に関する静電容量を検出する。
本形態例で使用されている容量検出素子40は、静電容量を検出してデジタル信号を出力するLSI素子であり、容量検出回路が極めてコンパクトに収納された素子である。
【0028】
また、この容量検出素子40は、容量デジタルコンバータとも称されるものであり、静電容量をデジタル値に変換し、そのデジタル信号を出力できる変換器になっている。なお、この容量検出素子40は、携帯音楽プレーヤー等のタッチスイッチにも利用されている。
この容量検出素子40は、例えば4mm角程度の小部品であり、狭いスペースに適切に搭載可能であると共に、安価に提供される部品である。しかも、極めて高い検出精度を実現でき、その精度は従来の差動トランスと比較しても遜色がない。
【0029】
50は計測情報出力回路であり、容量検出素子40によって得られた信号に基づいて一方の電極11に対する他方の電極12の変位に関する計測情報を出力する。この計測情報出力回路50によれば、変位算出回路としての機能や、測定結果に基づいて連携する機械装置を制御する機能を奏する。
【0030】
20はチャック用基部であり、図1に示すように、一方の電極11が固定されると共に、計測と同時に保持されるべきワークの一端側に当接されるストッパ部22を有する。本形態例では、チャック用基部20の一方側で固定電極である一方の電極11が固定された面から突起した部分がストッパ部22になっている。また、この一方の電極11は、絶縁材21を介して固定されており、基部20とは電気的に接続されていない。
【0031】
30チャック用可動爪部であり、他方の電極12が装着されて一体となってストッパ部22に対して接離動可能に設けられ、前記ワークの他端側に当接されるように配されている。
これによれば、ストッパ部22とチャック用可動爪部30とによってワークの外側から当接する場合は、そのワークを挟持して保持すると共にその外形について計測することができる。また、ストッパ部22とチャック用可動爪部30とによってワークの内側から当接する場合は、そのワーク保持すると共にその内形について計測することができる。
【0032】
次に、複数のジョー(チャック用可動爪部30)を有する計測機能付きチャック装置の形態例について、図4〜13に基づいて詳細に説明する。
この形態例によれば、複数の一方の電極11が固定された装置の基部20と、その一方の電極11のそれぞれに対応して配され、他方の電極12が装着されて一体となって移動可能に設けられ、計測と同時に保持されるべきワークに複数の方向から当接してそのワークを保持できるように配された複数のチャック用可動爪部30とを備える。
【0033】
図示された形態例は、一方の電極11及び他方の電極12から構成されるセンサー部10と、そのセンサー部10に対応して設けられたチャック用可動爪部30とが3箇所に配されている。さらに具体的には、チャック用可動爪部30が、円周3等分の位置、すなわち120度の角度間隔をおいて配されている。なお、図4(a)は3つ爪の計測機能付きチャック装置の形態例の側面図であり、図4(b)はその平面図である。
そして、そのチャック用可動爪部30のそれぞれが前記ワークに係る保持中心の1点に対して接離動するように移動可能に設けられている。つまり、3つのチャック用可動爪部30が放射状に往復動できるように設けられている。図示された形態例では、3つのチャック用可動爪部30によって、ワークの外側から当接して挟持する形態になっている。なお、チャック用可動爪部30の形態は、これに限定されるものではなく、例えば筒状のワークの場合、内側から当接して保持できる形態とすればよい。
【0034】
また、本形態例によれば、容量検出素子40が、複数のセンサー部10から可及的に等距離の位置であって、その複数のセンサー部10及び複数のチャック用可動爪部30で囲まれた内側の位置に配されている。
このように、容量検出素子40が、計測機能付きチャック装置の中央部に位置していることによって、各電極との配線を最短にすることが可能であり、配線の対称性を高めることができる。これによれば、ノイズが入りにくい配線形態になり、計測感度を高めることができる。
【0035】
図5は、本形態例における各構成間の配置や配線の関係及び各構成の動作について模式化して示したブロック図である。
ジョー(チャック用可動爪部30)が、GND(グランド)電極である他方の電極12に電気的に接続され、その他方の電極12が、容量検出素子40に接続されている。また、検出電極である一方の電極11は、基部20とは絶縁されてその基部20固定され、容量検出素子40に接続されている。このようにして、一方の電極11と他方の電極12によって構成された3組のセンサー部10のそれぞれが、容量検出素子40に接続されている。
【0036】
また、図6〜9に示すように、一方の電極11及び他方の電極12から構成されるセンサー部10がカバー部材25によって内包されている。そして、そのカバー部材25の内部25a(図9参照)の空気圧を陽圧状態に維持するように、清浄な圧縮空気を供給する圧縮空気供給源71がカバー部材25の内部25aに接続されている(図5参照)。
【0037】
カバー部材25の内部25aが、陽圧状態に密閉されていることで、加工油等の汚染物質が入ることを防止でき、計測精度を適切に維持できる。すなわち、上記のようにパージ用エアを導入することで、センサー部10の両電極11、12間に汚染物質が入って静電容量が急激に変化することで計測精度が低下することを、未然に防止できる。さらに、カバー部材25によれば、容量検出素子40をシールド状態に内蔵することができる。このため、外部からのノイズをカットすることができ、装置の信頼性を向上できる。
なお、両電極間が汚れないためには、例えば電極表面に厚さ数ミクロンのセラミック等の薄膜を形成し、この薄膜同士が接触した状態で電極同士が相対的に移動する機構とし、その両電極から成るセンサー部をゴムのような伸縮材料でシールする構造とすることができる。このような構造を採用すれば、上記形態例のようなエアパージを用いなくともよい。
【0038】
図5に示した点線の四角内には、カバー部材25によって形成された保護ケース状の内部25aに配置され、汚染から保護される構成を示してある。そして、図5に示した2点線鎖線の四角内には、上記の構成に3つのチャック用可動爪部30を加えたものであり、3つ爪チャック本体を構成する部材を示してある。
また、図5に示すように、容量検出素子40は計測情報出力回路50に接続され、計測情報出力回路50は工作機械55の制御手段や表示手段に接続されている。
【0039】
この計測情報出力回路50では、図10に示すようにワークの中心を出さないで3つのチャック用可動爪部30によってワーク60を保持した場合に対応して、各チャック用可動爪部30にX、Yの座標を持たせて計算によって、そのワーク60の直径を割り出す方法をとることができる。なお、図10に示した小さな円はワークの外径61であり、大きな円はチャック中心に対する同心円35である。
例えば、図10に示すように、rはワークの半径、c1は第1のチャック用可動爪部30aの爪先端がワーク60に接触している点とチャック中心との距離、c2は第2のチャック用可動爪部30bの爪先端がワーク60に接触している点とチャック中心との距離、c3は第3のチャック用可動爪部30cの爪先端がワーク60に接触している点とチャック中心との距離であって、各チャック用可動爪部30は120度間隔で配され、チャックは幾何学的に完全と仮定する。このように設定した際の、ワーク中心座標及びワーク半径rの数式を以下に示す。
【0040】
【数1】

【0041】
なお、ワーク中心のずれが、所定の範囲内で小さい場合には、誤差が小さく、爪位置の平均を算出する簡易計算によっても、ワーク60の外径を計測することができる。
図11に、ワーク60の直径が20〜100mmでの場合で、ワーク中心のずれ(mm)と、誤差(μm)との関係を示す。例えば、ワーク60の直径が40mmの場合で、ワーク中心のずれが0.2mmのとき、誤差が0.5μmとなる。
【0042】
次に、図12に基づいて、上記の構成を備える計測機能付きチャック装置によるワークの外径計測の流れを説明する。
先ず、チャック用可動爪部30によってワーク外径を把持することで、変位センサー(電極)の面積変化が生じる。これにより、センサー部10の静電容量変化が生じて、容量検出素子40によって計測信号化がなされ、そのデータが計測情報出力回路50へ送られる。次に、計測情報出力回路50によって変位換算がなされ、外径寸法が算出される。そして、その計測情報出力回路50から判定信号出力がなされ、その出力によって最終的に計測結果が表示され、或いは判定出力による動作移行などの装置制御がなされる。
【0043】
次に、図13に基づいて、上記の構成を備える計測機能付きチャック装置による測定方法と処理手順について説明する。
本形態例の計測機能付きチャック装置によれば、外径ゲージ(マスターワーク)によって校正作業を行う。このチャック装置は、そのマスターワークとの関係で相対的な寸法の計測を行う装置システムになっている。マスターワークを使った校正によって、計測精度を確認すると共に計測する範囲が設定される。このようにして設定された計測条件と、ワークを計測した際のデータを相対比較することによって、外径寸法が算出され、ワークが基準となる範囲に入っている場合は、自動処理によってワークが次の工程に送られるように運転がなされる。
なお、マスターゲージはマイクロメータ測定等で管理がなされる。また、比較測定によってワークが基準となる範囲から外れている場合は、機外へ搬出後、人為的処理がなされる。
【0044】
次に、図19〜21に基づいて、本発明に係る計測機能付きチャック装置であって丸型のセンサー部を備える形態例について説明する。
この形態例では、図19に示すように、センサー部10Aが、両極の重なり合う面積を円形の内周面13と円形の外周面14によって可変できるように、一方の電極11Aが円形の穴状に設けられ、他方の電極12Aが円柱状に設けられている丸型である。
このセンサー部10Aは、一方の電極11Aに対し、他方の電極12Aが、所要の間隔を保ちつつスライド可能に配されることによって両電極11A、12Aの重なり合う面積を可変できるように設けられている。前述したフラットなセンサー部10の場合の平面同士関係とは異なり、円形帯状の内周面12と円形帯状の外周面14との間で、その周面同士が所要の間隔で対峙しつつスライドできるように設けられている。
【0045】
これによれば、両者の金属面の重なり合う面積が広くなればその面積の広さに比例して静電容量が大きくなり、その面積が狭くなれば比例して静電容量が小さくなる。従って、図19(a)に示す状態が、両電極11A、12Aにおける最小容量の位置関係であり、図19(b)に示す状態が最大容量の位置関係になる。
なお、図19〜21の形態例では、円筒内側面に相当する内周面13と、円筒外側面に相当する外周面14とが、一対一に単純に形成されたものを示しているが、これに限定されるものではない。図2に示した形態と同様に、櫛歯状となるように、内周面13と外周面14のそれぞれに軸長方向に等間隔に円周溝を設けてもよい。
【0046】
図20は、一つの丸型のセンサー部10Aにチャック用可動爪部が装着されて設けられた計測機能付きチャック装置の一部を説明する断面図である。この構成によっても、図4(a)示したフラット型のセンサー部10を有する装置と基本的に同様の機能を有する。
【0047】
また、図21は、丸型のセンサー部10Aを備える形態例における各構成間の配置や配線の関係及び各構成の動作について模式化して示したブロック図である。
ジョー(チャック用可動爪部30)が、GND(グランド)電極である他方の電極12Aに電気的に接続され、その他方の電極12Aが、容量検出素子40に接続されている。また、検出電極である一方の電極11Aは、基部20とは絶縁されてその基部20固定され、容量検出素子40に接続されている。このようにして、一方の電極11Aと他方の電極12Aによって構成された3組のセンサー部10Aのそれぞれが、容量検出素子40に接続されている。この構成によっても、図5に示したフラット型のセンサー部10を有する装置と基本的に同様の機能を有する。
【0048】
そして、この丸型のセンサー部10Aを備える計測機能付きチャック装置によれば、以下の利点がある。
フラット型のセンサー部10では、一方の平面(電極面)と他方の平面(電極面)とを等間隔に維持した状態で相対的にスライドする形態であって、繰返し往復運動することで一方の電極面に対して他方の電極面が傾斜してテーパ状になる口開き現象が生じやすい。これに対して、丸型のセンサー部10Aは、全周に渡って均等化するため、口開き現象は基本的に生じない。これによれば、測定条件を安定的に維持でき、測定精度を高めることができる。
また、丸型のセンサー部10Aは、電極面が円周面になっているため、コンパクトに形成できると共にその形態的性質から塵埃の侵入を防止できる形状となっている。さらに、他方の電極12Aは、円柱状であるから、その円柱状の先端部や後端部においてそのスライド動作を案内するための軸受を設置し易い。その案内用の軸受によれば、スライド動作の精度を向上できると共に、シール性を向上して塵埃の侵入を防止できる。このため、測定条件を安定的に維持でき、測定精度を高めることができる。
また、丸物の部品で構成できるため、加工性や組み込み性を向上でき、精度の高いものを低コストで製造することができる利点もある。
【実施例1】
【0049】
次に、以上に説明した3つ爪の計測機能付きチャック装置の具体的な実施例について、図7〜9に基づいて、その構造を説明する。なお、既に説明した構成と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
チャック用可動爪部30は、往復動のための駆動力が直接的に負荷されるマスタージョー31、その上に固定されるジョーアタッチメント32、及びトップジョー33によって構成されている。そして、ジョーアタッチメント32の内側に他方の電極12が一体的に形成されている。図面上では、ジョーアタッチメント32の上面側に櫛歯状の凹凸面(複数の櫛歯15)が形成されている(図8、9参照)。
なお、各チャック用可動爪部30の駆動手段は、圧縮エア駆動式或いは電動式のアクチュエータなど、既存の技術を用いることができ、説明を省略する。
【0050】
これに対して、一方の電極11は、基部20に固定された支持板部23(図7参照)の下面に絶縁材を介して固定されている。
また、図6、7に示すように、70はパージ用継手であり、基部20のケース部24がカバー部材25によって覆われることで形成された内部25aの空間へ、パージ用エアを導入するための圧縮空気供給源71からの接続口になっている。
【0051】
図8には、容量検出素子40と、一方の電極11、他方の電極12及び計測情報出力回路50との電気配線の具体例が示されている。41は容量検出素子40と一方の電極11
を接続する配線、42は容量検出素子40と他方の電極12を接続する配線、43は容量検出素子40と装置の外部に配設された計測情報出力回路50を接続する配線である。なお、配線42は、他方の電極12のグランドが取られていれば、省略することもできる。
【実施例2】
【0052】
また、図14に示すように、チャック装置の取付けスペースについて許容される場合は、センサー部10をチャック装置の外周部に設置することも可能である。
この形態例のチャック用可動爪部30は、ワークのインナー計測と、アウター計測の両方を適切にできるように形成されている。トップジョー33の先端部の内側面33aが平面に形成されており、ワークに外側から接して好適に計測できる形状になっている。また、トップジョー33の先端部の外側面33bが曲面に形成されており、筒状等のワークに内側から接して好適に計測できる形状になっている。
【実施例3】
【0053】
また、図15に示すような2つ爪の計測機能付きチャック装置にも、本発明に係る構成を好適に適用することができる。
この形態の計測機能付きチャック装置によれば、2つのチャック用可動爪部30で、ワークを挟持することになる。これによれば、3つ爪の計測機能付きチャック装置で説明したような円形の外周を備えるワーク60に限らず、他の形態のワークについても好適に保持すると共にその寸法について計測することができる。
【実施例4】
【0054】
また、図16に示すように、本発明にかかる計測機能付きチャック装置100を、ロボットの一種である工作機械用ローダーハンド200のワーク把持ヘッドとして搭載すればよい。これによれば、ワークを搬送中にそのワークの計測を行うことができ、計測工程を省略することができる。従って、ワークの加工工程を簡素化でき、生産性を向上できる。
【0055】
この計測機能付きチャック装置100による計測結果の出力としては、製品寸法のOK・NG信号、良品数と不良数のカウント信号、寸法絶対値の出力信号(時系列寸法変化の確認)、ワークの有無信号及び異常検出によるアラーム信号、切粉等の噛み込みで寸法測定が不可能な場合などの製品径異常信号、径の補正等のためにNC工作機側への補正信号、その補正信号に係るバイナリー出力、クランプ・アンクランプ信号出力(クランプで別機器を動かす)などがある。
【実施例5】
【0056】
また、図17に示すように、本発明にかかる計測機能付きチャック装置100を、ロボットの一種である多関節ロボットハンド300のワーク把持ヘッドとして搭載すればよい。これによれば、ワークの受け渡し中にそのワークの計測を行うことができ、連続する作業工程中において計測工程を省略することができる。従って、作業工程を簡素化でき、生産性を向上できる。
【0057】
以上、本発明につき好適な形態例を挙げて種々説明してきたが、本発明はこの形態例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのは勿論のことである。
【符号の説明】
【0058】
10 センサー部
10A センサー部
11 一方の電極
11A 一方の電極
12 他方の電極
12A 他方の電極
13 内周面
14 外周面
15 櫛歯
20 基部
21 絶縁材
22 ストッパ部
25 カバー部材
25a 内部
30 チャック用可動爪部
40 容量検出素子
50 計測情報出力回路
60 ワーク
70 パージ用継手
71 圧縮空気供給源
100 計測機能付きチャック装置
200 工作機械用ローダーハンド
300 多関節ロボットハンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の電極に対し、他方の電極が、所要の間隔を保ちつつスライド可能に配されることによって両電極の重なり合う面積を可変できるように設けられたセンサー部と、
前記両電極に関する静電容量を検出する容量検出素子と、
該容量検出素子によって得られた信号に基づいて前記一方の電極に対する前記他方の電極の変位に関する計測情報を出力する計測情報出力回路と、
前記一方の電極が固定されると共に、計測と同時に保持されるべきワークの一端側に当接されるストッパ部を有するチャック用基部と、
前記他方の電極が装着されて一体となって前記ストッパ部に対して接離動可能に設けられ、前記ワークの他端側に当接されるチャック用可動爪部とを備えることを特徴とする計測機能付きチャック装置。
【請求項2】
一方の電極に対し、他方の電極が、所要の間隔を保ちつつスライド可能に配されることによって両電極の重なり合う面積を可変できるように設けられたセンサー部と、
前記両電極に関する静電容量を検出する容量検出素子と、
該容量検出素子によって得られた信号に基づいて前記一方の電極に対する前記他方の電極の変位に関する計測情報を出力する計測情報出力回路と、
複数の前記一方の電極が固定された装置の基部と、
該一方の電極のそれぞれに対応して配され、前記他方の電極が装着されて一体となって移動可能に設けられ、計測と同時に保持されるべきワークに複数の方向から当接して該ワークを保持できるように配された複数のチャック用可動爪部とを備えることを特徴とする計測機能付きチャック装置。
【請求項3】
前記センサー部が、両極の重なり合う面積を円形の内周面と円形の外周面によって可変できるように、前記一方の電極が円形の穴状に設けられ、前記他方の電極が円柱状に設けられている丸型であることを特徴とする請求項1又は2記載の計測機能付きチャック装置。
【請求項4】
前記一方の電極及び前記他方の電極から構成される前記センサー部と、該センサー部に対応して設けられた前記チャック用可動爪部とが3箇所に配され、該チャック用可動爪部のそれぞれが前記ワークに係る保持中心の1点に対して接離動するように移動可能に設けられていることを特徴とする請求項2又は3記載の計測機能付きチャック装置。
【請求項5】
前記容量検出素子が、複数の前記センサー部から可及的に等距離の位置であって、複数の前記センサー部及び複数の前記チャック用可動爪部で囲まれた内側の位置に配されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の計測機能付きチャック装置。
【請求項6】
前記一方の電極と前記他方の電極とが対向するそれぞれの対峙面が櫛歯状に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の計測機能付きチャック装置。
【請求項7】
前記一方の電極及び前記他方の電極から構成される前記センサー部がカバー部材によって内包され、該カバー部材の内部の空気圧を陽圧状態に維持するように、清浄な圧縮空気を供給する圧縮空気供給源が前記カバー部材の内部に接続されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の計測機能付きチャック装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の計測機能付きチャック装置を、ロボットのワーク把持ヘッドとして搭載したことを特徴とするロボットチャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−240833(P2010−240833A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61811(P2010−61811)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(509078643)株式会社小林製作所 (2)
【出願人】(391001619)長野県 (64)
【Fターム(参考)】