説明

計量背圧設定手段を有する射出成形機

【課題】データベースに背圧データが無い場合、樹脂メーカの推奨値が分からない場合などでも、適切な背圧を設定できる計量背圧設定手段を有する射出成形機を提供すること。
【解決手段】背圧の初期値として背圧Bpを設定し(SA100)、ノズルが金型から離れた状態で手動計量を開始し、所定時間が経過したか否かを判断し、所定時間が経過すると、スクリュが計量位置まで下がるか否かを判断し(SA101〜SA103)、計量位置まで下がる場合には、背圧Bpにαを加算した値を、新たな背圧Bpとし、シリンダ内の溶融樹脂を排出し、計量位置まで下がらない場合には、成形条件の背圧Bpを設定する(SA104〜SA106)、計量背圧設定手段を備えた射出成形機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形機に関し、特に、計量背圧設定手段を有する射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、加熱シリンダ内で加熱され溶融した樹脂を、高い圧力で射出して金型装置内のキャビティ空間に充填し、該キャビティ空間内において冷却して固化させた後、成形品を金型内から取り出すようになっている。
【0003】
前記射出成形機は、金型装置、型締装置、および射出装置を備える。前記金型装置は、固定金型及び可動金型を備え、前記型締装置は、固定プラテン及び可動プラテンを備え、型締用モータを駆動することによって可動プラテンを進退させることによって、型閉じ、型締め及び型開きを行う。
【0004】
前記射出装置は、ホッパから供給された樹脂を加熱して溶融させる前記加熱シリンダ、及び溶融した樹脂を射出する射出ノズルを備え、前記加熱シリンダ内にスクリュが進退自在に、かつ、回転自在に配設される。
【0005】
計量工程時に、計量用モータを駆動することによってスクリュを回転させると、樹脂が計量され、加熱シリンダ内におけるスクリュによりシリンダの前方に樹脂が溜められ、射出工程時に、射出用モータを駆動することによってスクリュを前進させると、前方に溜められた溶融樹脂が射出ノズルから、型締めが行われた状態の金型装置のキャビティ空間に充填される。
【0006】
そして、前記キャビティ空間内の溶融樹脂が冷却された成形品になり、型開きが行われると、エジェクタ装置の突き出し用モータが駆動され、エジェクタピンが前進させられ、前記成形品が突き出され、離型される。
【0007】
射出成形機を自動運転することによって、連続的に成形品を成形するにあたり、計量工程において樹脂を計量するための背圧などの成形条件の設定、換言すれば、計量設定が行われる。スクリュを回転させると樹脂がシリンダの前方に運ばれる。その結果、スクリュが後方に押され、後ろに下がる。この時、スクリュが後ろに下がらないようにスクリュを前方に押す。この力を背圧という。この背圧が無ければ、シリンダ内の樹脂に空気が混入してしまう。
【0008】
従来の背圧の設定方法においては、樹脂の種類、樹脂の噛み込み状態に関係なく、作業者の経験、樹脂メーカの推奨値などを元に一律に3Mpa、5Mpaなどと設定されることが多い。しかし、樹脂の種類や樹脂の噛み込み状態などによって背圧設定の適正値が異なることから、このようにして一律に設定された背圧設定が適切でない場合もある。
【0009】
例えば、背圧設定が低い場合には、シリンダ内の樹脂密度が低くなり、気泡やシルバーの発生を招き、逆に、背圧設定が高い場合にはシリンダ内の樹脂密度が高くなり、せん断発熱による焼けの発生を招くこともあり、適切な背圧設定でないために成形不良を発生することも多い。
【0010】
そして、このような成形不良が発生すると背圧設定を調整して対応していた。このようなことから、適切な背圧設定方法を見出すことが望まれていた。
【0011】
特許文献1には、樹脂の種類に対応した成形条件(背圧、スクリュ回転速度、シリンダ温度など)をデータベースとして記憶しておき、樹脂の種類が指定されたら成形条件を読み出して背圧等を自動設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−147226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1に開示された技術では、データベースに記憶されていない樹脂の種類には対応できない問題がある。
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、データベースに背圧データが無い場合、樹脂メーカの推奨値が分からない場合などでも、適切な背圧を設定できる計量背圧設定手段を有する射出成形機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願の請求項1に係る発明は、射出成形機において、ノズルを開放した状態で設定背圧により計量を行う計量制御手段と、計量を行った際に所定時間内に計量位置まで計量動作が完了するか否かを判別する計量動作完了判別手段と、を備え、設定背圧を第一所定圧として計量を行い、所定時間内に計量位置まで計量動作が完了するか否かを判別し、スクリュが所定時間内に計量位置まで計量動作を完了する場合は設定背圧に第二所定圧を加算して新たな設定背圧として計量を行い、所定時間内に計量位置まで計量動作が完了するか否かを判別することを繰り返し、スクリュが所定時間内に計量位置まで後退しなかった時の設定背圧を計量時の背圧として設定することを特徴とする計量背圧設定手段を有する射出成形機である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、データベースに背圧データが無い場合、樹脂メーカの推奨値が分からない場合などでも、適切な背圧を設定できる計量背圧設定手段を有する射出成形機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態である射出成形機の概略図である。
【図2】背圧を設定する本発明のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施形態である射出成形機の概略図である。符号Mは射出成形機である。符号Mcは型締部、符号Miは射出部、符号Mbは機台である。射出成形機Mは、機台Mb上に型締部Mcおよび射出部Miを備える。
【0018】
型締部Mcは、可動プラテン23を前後進させる可動プラテン前後進モータ20、リアプラテン21、成形品を金型から押し出すエジェクタピンを突き出すためのエジェクタ前後進モータ22、可動プラテン23、タイバー24、固定プラテン25、トグル機構33、エジェクタ機構34を備える。リアプラテン21と固定プラテン25とは複数のタイバー24で連結されており、可動プラテン23はタイバー24にガイドされるように配置されている。可動プラテン23に可動側金型,固定プラテン25に固定側金型の金型32が取り付けられる。
【0019】
射出部Miは、シリンダ27、シリンダ27内に樹脂のペレットを供給するホッパ28、ホッパ28からシリンダ27内への樹脂の供給を遮断するホッパシャッタ29、スクリュ回転モータ30、スクリュ前後進モータ31、スクリュ回転モータ30から伝動機構を介して回転させられるスクリュ26、を備える。これらの構成は従来からの射出成形機と相違するところはない。
【0020】
制御装置1は、射出成形機Mを制御し成形品の生産を制御する制御装置である。プロセッサ2は、バス3を介してサーボインタフェース4、システムプログラムを記憶するROM6、データの一時記憶や各種制御プログラムを記憶するRAM7、表示装置付入力装置用インタフェース8、表示装置付入力装置9と接続されている。ROM6は、本発明に係る計量背圧を設定するための処理プログラムを記憶している。
【0021】
サーボインタフェース4にはサーボアンプ5が接続されている。また、表示装置付入力装置用インタフェース8には表示装置付入力装置9が接続されている。表示装置付入力装置9は、タッチパネル式の液晶ディスプレイとキーボードなどで構成されている。表示装置付入力装置9によって各種指令、各種パラメータなどの設定などが可能である。表示装置付入力装置9のタッチパネル式の表示装置の表示画面に各種インタフェース画面を表示することで各種指令、各種パラメータの設定が可能である。
【0022】
プロセッサ2は、射出成形機全体を制御するプロセッサである。サーボアンプ5には、可動プラテン前後進モータ20、エジェクタ前後進モータ22、スクリュ回転モータ30、スクリュ前後進モータ31が接続される。図ではサーボアンプ5は1つとして図示されているが、前記それぞれのモータに各々サーボアンプが接続されている。また、各サーボモータには図示省略した位置・速度検出器が内蔵され、位置・速度検出信号が制御装置1にフィードバックされる。
【0023】
自動運転を行うにあたり、射出成形機Mは型閉動作から開始するが、その際においては、手動による計量、すなわち、手動計量が行われる。該手動計量においては、キャビティ空間内に成形された成形品がない状態であり、かつ、加熱シリンダ内に背圧は加えられない。したがって、スクリュの前方に溜められた樹脂は粗の状態になってしまい、その状態で、射出工程において樹脂を射出すると、キャビティ空間内に十分な量の樹脂を充填することができなくなり、成形品にショート等の成形不良が発生してしまう。
【0024】
そこで、本発明の実施形態においては、表示装置付入力装置9を操作して、自動運転を開始する前に本発明に係る計量背圧設定を行う処理を実行する。本発明における手動計量は、図1に示されるシリンダ27の先端に取り付けられたノズル35を金型32から離した状態で開始される。ノズル35を金型32から離して手動計量を行うのは、本発明に係る計量背圧設定の処理工程において、金型のキャビティ内に溶融樹脂が充填されるのを防ぐためである。計量背圧設定においてノズル35から排出される溶融樹脂は図示しない容器に回収される。
【0025】
図2は、背圧を設定する本発明のアルゴリズムを示すフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA100]背圧の初期値として背圧Bpを設定する。
●[ステップSA101]ノズルが金型から離れた状態で手動計量を開始する。
●[ステップSA102]所定時間が経過したか否かを判断し、所定時間が経過すると、ステップSA103へ移行する。
●[ステップSA103]スクリュが計量位置まで下がるか否か判断し、計量位置まで下がる場合にはステップSA104へ移行し、計量位置まで下がらない場合にはステップSA106へ移行する。
●[ステップSA104]背圧Bpにαを加算した値を、新たな背圧Bpとする。
●[ステップSA105]溶融樹脂を排出し、ステップSA101へ戻る。
●[ステップSA106]成形条件の背圧をBpに設定し、射出成形サイクルを開始する。
【符号の説明】
【0026】
1 制御装置
2 プロセッサ
3 バス
4 サーボインタフェース
5 サーボアンプ
6 ROM
7 RAM
8 表示装置付入力装置用インタフェース
9 表示装置付入力装置
20 可動プラテン前後進モータ
21 リアプラテン
22 エジェクタ前後進モータ
23 可動プラテン
24 タイバー
25 固定プラテン
26 スクリュ
27 シリンダ
28 ホッパ
29 ホッパシャッタ
30 スクリュ回転モータ
31 スクリュ前後進モータ
32 金型
33 トグル機構
34 エジェクタ機構
35 ノズル
M 射出成形機
Mb 機台
Mc 型締部
Mi 射出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形機において、
ノズルを開放した状態で設定背圧により計量を行う計量制御手段と、
計量を行った際に所定時間内に計量位置まで計量動作が完了するか否かを判別する計量動作完了判別手段と、
を備え、
設定背圧を第一所定圧として計量を行い、所定時間内に計量位置まで計量動作が完了するか否かを判別し、スクリュが所定時間内に計量位置まで計量動作を完了する場合は設定背圧に第二所定圧を加算して新たな設定背圧として計量を行い、所定時間内に計量位置まで計量動作が完了するか否かを判別することを繰り返し、スクリュが所定時間内に計量位置まで後退しなかった時の設定背圧を計量時の背圧として設定することを特徴とする計量背圧設定手段を有する射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−177928(P2011−177928A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42040(P2010−42040)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【特許番号】特許第4763081号(P4763081)
【特許公報発行日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】