説明

記録装置

【課題】長期の使用にわたって、供給される液体の濃度を初期の値に近い値に維持できるようにする。
【解決手段】液体供給システムは、密閉されたメインタンク200と、その下方に配置され、大気に開放され、液体を供給するための孔351が形成されたサブタンク300を有している。メインタンク200とサブタンク300の間には、中空針303とシリンダ307、および中空針304とシリンダ308によって第1、第2の接続流路形成部材が形成されている。シリンダ307,308はサブタンク300内に突出しており、シリンダ307の、開口した下端部は、シリンダ308の、開口した下端部より上方にある。シリンダ308内には、そのサブタンク300側を塞いだ状態でその内部を減圧することができるピストンユニット330が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続および分離可能な接続部を通して液体を供給する液体供給システム、および、それを備える記録装置、特にインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録に使用されるインクとしては、染料を用いたものと、顔料を用いたものが知られている。このうち、顔料を色材としたインクは、それによる記録物を耐候性や耐光性に優れたものとすることができる。このため、この種のインクは、野外掲示プリント物などの、耐候性や耐光性が求められる記録物用のインクとして実用化されている。
【0003】
顔料を色材としたインクでは、顔料が溶解されているのではなく、分散されているため、顔料粒子の沈降が起こる。そのため、例えば、インクタンクをインクジェット記録装置に装着した状態で、それが長期間使用されなかった場合などには、インクタンク内部で顔料粒子の沈降が徐々に進行し、インクタンクの底部と上部の間で顔料粒子の濃度傾斜が発生する。すなわち、底部には顔料粒子濃度が高く過度に色の濃い層が生じ、上部には顔料粒子濃度が低く過度に色の薄い層が生じる。そこで、インクタンク底部よりインク収納室のインクを導出する構成のインクタンクからインクを供給すると、最初に顔料粒子濃度の高い層からインクが供給されることになる。このため、最初のうちは過度に色の濃い印刷物が形成され、インクタンク使用初期と使用後期で記録物の濃度に差が生じる。このような濃度差は、特に、色の濃淡によって画像を形成するカラー印刷において目立ちやすく、この濃度差が目視され得るほどにならないようにすることが求められる。
【0004】
このために、特許文献1に開示されるように、インクタンクのインク供給口からインクタンク内に延び複数の孔が開けられた管状パイプをインクの供給に用いる技術が知られている。この管状パイプを用いることによって、インクを供給する際に、インクタンク内部のインク供給口近くの部分からのみではなく、インクタンク内の上下方向にわたる多数の個所からインクを吸引することができる。そして、それぞれの高さ位置において吸引するインク量を孔の大きさを変えることによって調整することができる。その結果、複数個所で吸引されたインクが、調製された割合で混合されることによって、その濃度が適正になるようにすることができる。
【0005】
また、特許文献2に開示されるように、インクタンクから記録ヘッドまでの流路に開閉可能な遮断弁を設け、遮断弁とインクタンクの間にインク逆流手段を設けた構成が知られている。この構成では、インクタンク内の、顔料粒子の沈降が進行したインクを、逆流インクで撹拌することで適正濃度を維持することができる。
【0006】
また、インクジェット記録装置としては、固定式の大容量の第1の液体収容容器(以後メインタンクと記載)と、それと記録ヘッドの間に設けられた第2の液体収容容器(以後サブタンクと記載)を有する構成のものが知られている。この構成では、メインタンクのインクがなくなった場合、これが交換されるが、交換中にも、サブタンクのインクで記録を続行することができる。それによって、大量の記録を連続して行うことが可能となる。
【0007】
特許文献3には、このようなメインタンクとサブタンクを有する記録装置において、メインタンクとサブタンクを連結する流路にポンプを設けた構成が開示されている。メインタンクには、プロペラ状の撹拌フィンが設けられている。この場合、循環撹拌を行うことによって、インクの凝集、沈降を抑制することが可能となる。
【特許文献1】特開2005−007855号公報
【特許文献2】特開2004−243667号公報
【特許文献3】特開平11−10902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に示す構成では、孔付管状パイプの、下から2番目の孔をインク水位が下回ってからは最下段の孔のみからインクを供給することになり、複数個所から吸引したインクの混合の機能は働かなくなる。したがって、この技術のみでは、記録濃度の調整に限界が生じる。
【0009】
また、特許文献2は、メインタンクとサブタンクの両方のインクを撹拌する技術を開示するものではない。
【0010】
さらには、特許文献3に示されている、メインタンクとサブタンクを循環撹拌させる構成は大規模であり、コストが高くなり、また循環機構のための設置スペースが大きくなりがちである。また、メインタンクに撹拌フィンを設けた場合、交換容器であるメインタンクが高価になってしまう。また、メインタンクについては、有効な撹拌効果が期待できるが、サブタンク内のインクの撹拌が循環だけで十分であるのかは不明であった。
【0011】
また、昨今の交換タンク構成では、メインタンクのゴムキャップと、これに、メインタンクの装着時に差し込まれる、本体の中空管を用いてメインタンクと本体側とのインク流通が行われる場合が多い。この場合、ゴムキャップからのインク漏れを防ぐために、差し込む中空管の径はできる限り小さくすることが求められる。このため、中空管の流路抵抗が大きくなりがちであり、特に、粘性が大きくなりがちな顔料インクを使用した記録装置においては、中空管を介したインク供給量を高めることが求められる場合がある。
【0012】
本発明は、このような技術的課題を解決すべく考案されたものである。すなわち、本発明の主要な目的は、顔料のような、時間経過に伴って沈降する内容物を含有するインクなどの液体を貯留し、これを供給する構成において、長期の使用にわたって、供給される液体の濃度を初期の値に近い値に維持できるようにすることにある。この際、供給される液体の濃度を維持する機構を簡素で省スペースに構成することも本発明の1つの目的である。
【0013】
また、本発明の他の目的は、インクなどの供給液体の粘性が高い場合、および/または、インクの消費量が多い場合でも、十分な量の液体を良好に供給可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明の液体供給システムは、密閉された第1の液体収容容器と、第1の液体収容容器の下方に配置され、大気に開放され、液体供給孔が形成された第2の液体収容容器と、第1の液体収容容器内と第2の液体収容容器内を接続し、第2の液体収容容器内に突出した第1および第2の接続流路形成部材であって、第1の接続流路形成部材の、第2の液体収容容器内における開口の位置が第2の接続流路形成部材の、第2の液体収容容器内における開口の位置よりも下方にある、第1および第2の接続流路形成部材と、第1の接続流路形成部材の、第2の液体収容容器側を塞いだ状態で第1の接続流路形成部材内を減圧することができる減圧機構と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明の構成によれば、減圧機構を作動させることによって、第1の液体収容容器と第2の液体収容容器との間で液体を循環させ、液体の撹拌作用を得ることができる。それによって、顔料のような、時間経過に伴って沈降する内容物を含有するインクなどの液体を貯留し、これを供給する構成において、長期の使用にわたって、供給される液体の濃度を初期の値に近い値に維持することができる。この際、本発明における減圧機構は、簡素で省スペースな構成とすることができる。
【0016】
さらに、本発明における減圧機構は、第1の液体収容容器から液体を強制的に第2の液体収容容器に流出させる機構としても機能する。したがって、接続流路形成部材における流抵抗が大きかったり、供給する液体の粘性が大きかったりする場合でも、第1の液体収容容器から第2の液体収容容器への液体の流出速度を向上させることができる。それによって、同一色における記録密度が高くインク吐出量の多い記録を連続的に行う場合など、液体の供給量が多い場合、減圧機構を動作させることによって、供給量をまかなえるだけの液体流出速度を確保できる。その結果、液体の供給量が多い場合でも、第2の液体収容容器内の液面の低下を抑制し、良好な液体供給を継続することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0018】
図1は、本発明の特徴を有する第1および第2の液体収容容器であるメインタンク200およびサブタンク300を有するインク供給システム(液体供給システム)を、それによってインクなどの液体を供給される記録ヘッド100と共に示す図である。なお、本実施形態において扱うことができる液体は、インクに限られることはなく、記録画像を調整する薬剤などであってもよいが、以下ではこれらを代表してインクを用いた場合を説明する。
【0019】
本実施形態における記録ヘッド100は、インクジェット記録方式の記録機構である。すなわち、詳細には示さないが、記録ヘッド100は、微細な複数の吐出口を有し、各吐出口からインク滴を飛翔させ、そのインク滴を記録媒体に着弾させることにより所望の記録を行うものである。
【0020】
また、記録装置は、記録ヘッド100をキャリッジに搭載し、それによって、記録媒体の記録面上を移動可能な構成を有している。そして、記録装置は、記録媒体を搬送する機構をさらに有し、記録媒体の所定量の搬送と、キャリッジを移動させながら記録ヘッド100を駆動することによる所定幅の記録とを繰り返すことによって、記録媒体の全面に記録を行う。すなわち、この記録装置は、いわゆるシリアル型のプリンタである。しかし、キャリッジの移動などの機構は本発明とは直接関係がないので詳述は割愛する。
【0021】
あるいは、記録ヘッド100は、記録媒体の全幅もしくは一部をカバーする長さを有し、固定されたものであってもよい。この場合、記録装置は、記録ヘッド100の駆動のみによって所定幅の記録を行うことができ、これと、記録媒体の所定量の搬送とを繰り返すことによって、記録媒体の全面に記録を行う。すなわち、この記録装置は、いわゆるラインプリンターであり、本発明は、このような記録装置に対しても適用可能である。
【0022】
メインタンク200は、詳細には示さないが着脱可能な構成となっており、インクを収容する部分であるタンクボディ201と、その開口部に取り付けられたキャップ202を有している。キャップ202は、サブタンク300との接続時に、サブタンク300に設けられた中空針303,304が差し込まれるゴム栓204を保持するタガー203を収容している。タンクボディ201は、タガー203によって密閉されて、インクを保持している。
【0023】
メインタンク200は、キャップ202が下方に位置する状態でサブタンク300に向かって装着され、それによって、中空針303,304がゴム栓204を貫通して、サブタンクと接続される。中空針303,304は、このようにしてゴム栓204を容易に貫通するように、上方に延びている一端が先端先細りになっている。
【0024】
タガー203は、このように差し込まれた一方の中空針303が挿入される中空管状の沈降パイプ205を有している。沈降パイプ205には、複数の孔205A,205B,205C,205Dが側面の様々な高さ位置のところに開口している。
【0025】
サブタンク300はサブタンクベース301とサブタンクカバー302で液体収容部を形成しており、前述の中空針303,304が、サブタンク300の上壁を貫通して保持されている。また、サブタンク300は、大気開放孔306と、メインタンク200から供給されたインクを記録ヘッド100に供給するための孔(液体供給孔)351を有している。この孔351はチューブ350を介して、記録ヘッド100に接続されている。
【0026】
図2に、より詳細に示すように、中空針303,304の、サブタンク300内部に貫通した部分は、その周囲をシリンダ307,308によってそれぞれ囲まれている。シリンダ307,308の下端はそれぞれ開口している。シリンダ307の開口の位置は、シリンダ308の開口(チキンフィード口)308Bの位置よりも重力方向に下方にあり、サブタンク300の底面に近接している。このようにして、中空針303とシリンダ307、および中空針304とシリンダ308は、それぞれ協働して、サブタンク300内における開口の、重力方向に見た高さ位置が互いに異なる第1、第2の接続流路形成部材を形成している。なお、図2では、これらの接続流路形成部材の構成を分かりやすくするために、後述する回転カム318などの記載を省略している。図5が、全ての部品を組み立てた状態の斜視図である。
【0027】
シリンダ307内には、このシリンダ307内の圧力の減圧機構を構成するピストンユニット330が挿入されている。次に、この減圧機構およびそれと連動する撹拌機構の構成について、図3(a),(b)および図4を用いて説明する。
【0028】
図3(a),(b)において示すように、ピストンユニット330は、円板形状のピストン320を有している。このピストン320には、ピストン320を上下方向に貫通する孔320Aが形成されており、この孔320Aを開閉する開閉弁321が取り付けられている。開閉弁321は、ピストンピン320Dの周りにピストン320の円板形状に沿って半周ほどにわたって延びる柔らかいシート材によって形成されている。開閉弁321は、一端をピストン320に形成された爪320Bに固定されて、図4に示すように中空針303側とは逆側、すなわちピストン320の下面側に取り付けられている。開閉弁321は、ピストン320の下面に押し付けられると孔320Aを塞ぐ位置まで延びており、力が加わっていない状態では、孔320Aから離れて孔320Aを開放状態にしている。この開放状態とは、インクが孔320Aを通じて自然落下できる状態である。開閉弁321は、後述するように、ピストン320の上下動に伴って、孔320Aを閉じた状態と、開放状態とに弾性変形してスムースに変位可能なものであり、その素材としては、柔軟な素材、特にPETシートが好適である。
【0029】
ピストンユニット330のピストンピン320Dには、突起320Cが形成されている。この突起320Cは、図4において示すように、回転カム318の、上下に波打つ溝内で案内されている。回転カム318の下面には、回転方向と直行するように形成され、すなわち半径方向に延び、サブタンク300内のインクを撹拌するヒレ状の撹拌フィン319が形成されている。
【0030】
さらに、サブタンク300内には、同じように回転方向と直行するように形成されたヒレ状の撹拌フィン317Aを有する撹拌子317が配置されている。撹拌子317の軸は、図2,5に示すようにサブタンク300の上壁から突出しており、この突出した部分にウォームホイール316が配置されている。このウォームホイール316には、不図示の駆動部の回転駆動力がロッドギア314を介して伝達されるようになっている。この際、図示の例では、ロッドギア314からの回転力は、その軸線と直行する軸線を中心とする回転に変換されてウォームホイール316に伝達される。この伝達機構には、傘歯歯車などの一般的な技術を用いることができ、詳細な説明は割愛する。
【0031】
また、撹拌子317は、詳細には示さないが、サブタンク300内に延びる部分にギア部を形成されており、回転カム318に対するアイドラギアとして働く。すなわち、回転カム318は、ロッドギア314と撹拌子317を介して回転駆動され、それによって、撹拌子317とは反対方向に回転するようになっている。
【0032】
以上、メインタンク200とサブタンク300が1つずつの系における構成を説明した。しかし、記録装置には、カラー記録などのために、複数種類(複数色)のインクが用いられ、それに対応して複数のメインタンク200とサブタンク300が設けられるのが普通である。このような場合、各サブタンク300に、上記のような減圧機構(およびそれと連動する撹拌機構)を設けることができる。この際、各減圧機構は、それぞれ独立に駆動可能な構成としてもよいが、単独の駆動機構を用いて複数の減圧機構の駆動を行う構成としてもよい。図6,7は、このように、単独の駆動機構を用いて複数の減圧機構の駆動を行う構成例を示している。図6は、インク供給システム310全体の斜視図、図7は、そのうちの1つのサブタンク300部分のみを拡大して示す斜視図である。
【0033】
図6に示す例では、複数のサブタンク300は一列に並んで配置されている。各サブタンク300の上面には、メインタンク200を適切な位置に誘導するのに役立つタンクスロット315が形成されている。また、各サブタンク300におけるウォームホイール316は、一直線上に並ぶように配置されている。
【0034】
駆動機構としては、駆動モーター311が設けられており、そのギヤトレイン(不図示)と共にモーターベース312に保持されている。モーターベース312はインク供給システム310のフレーム(不図示)に固定されている。駆動モーター311の回転はギヤトレインを介してメインウォーム313に伝達され、アイドラホイール(不図示)により回転方向を直交させ、それぞれのサブタンク300上の各ロッドギア314に伝達されるようになっている。複数のロッドギア314は単一の軸に形成され、各サブタンク300のウォームホイール316に接続されている。したがって、単一の駆動モーター311によって、各サブタンク300の減圧機構を同時に動作させることができる。
【0035】
次に、上記の減圧機構(およびそれと連動する撹拌機構)の動作について説明する。
【0036】
ロッドギア314が回転駆動されると、回転カム318の回転によりピストン320の動きを制御する突起320Cが回転カム318の溝の中を摺動することでピストン320がシリンダ307の中を上下動する。
【0037】
ピストン320の上方向の動作時、開閉弁321は開放状態のままである。一方、ピストン320の下方向の動作時には、開閉弁321は、その下面上に、相対的なインク流速による圧力を受けて弾性変形しピストン320の孔320Aを塞ぐ。このように孔320Aが塞がれた状態でピストン320が下方向に動作することによって、シリンダ307とピストン320で囲まれた内空間331(図1参照)の圧力が下がる。それによって、中空針303からメインタンク200のインクが引き出されることになる。
【0038】
この時、メインタンク200内の圧力は、インクが流出した分だけ低くなる。そこで、開口308Bがインクに完全には浸されていない状態を考えると、この場合、中空針304から大気が吸引されてメインタンク200内に導入される。
【0039】
その後、ピストン320が上方向に動作すると、内空間331は狭められ、開閉弁321は再び開放状態になる。この時、引き出されたインクはピストン320の孔320Aを通り、サブタンク300内に流出する。この繰り返しにより、メインタンク200のインクをサブタンク300へ効率的に流出させることができる。
【0040】
サブタンク300へインクが流れ込んでいくと、やがて、サブタンク300内のインクの液面は開口308Bに到達する。その後のピストン320の動作では、初めは大気を取り込んでいた中空針304から、今度はインクが吸引されるようになり、メインタンク200からサブタンク300へ流出したインクがメインタンク200へ再び還流することになる。
【0041】
こうして、減圧機構であるピストン320の上下動により、中空針303をメインタンク200からサブタンク300への供給側の流路とし、中空針304をサブタンク300からメインタンク200への還流側流路とする、インクの循環が生じる。この循環によって、撹拌作用を得ることができ、すなわち、本実施形態における減圧機構(および循環流路を構成する部材)は、撹拌機構の1つとしての機能を有している。
【0042】
また、本実施形態の構成では、上記のピストン320の上下動と同時に、撹拌フィン319と撹拌子317によるサブタンク300内のインクの撹拌が行われる。すなわち、回転カム318は、上記のようにピストン320の上下動を制御するために回転運動させられる。この回転運動によって、回転カム318の下面に形成された撹拌フィン319により、サブタンク300内のインクに流れを発生させて底部からインクを撹拌することができる。さらに、撹拌子317は、回転カム318のアイドラギアとして回転カム318とは反対方向に回転する。この撹拌子317の回転と撹拌フィン319の回転との協働によって、サブタンク300内のインクに乱流を発生させ、効果的な撹拌作用を得ることができる。
【0043】
このような本実施形態のインク供給システムを有するインクジェット記録装置では、記録動作が行われていない時や通常の記録動作時には、インク供給システム(減圧機構)を駆動しなくてよい。ピストン320は、このような非動作の状態では、その孔320Aが開放状態にある。この時、サブタンク300内のインクは、通常、その液面が開口308Bをちょうど塞ぐ定常液位(チキンフィード液面)308Aにある。
【0044】
すなわち、記録装置の使用開始時など、サブタンク300にインクが無い状態で、初めてメインタンク200を装着すると、メインタンク200のインクは自然落下してサブタンク300内に導入される。この時、メインタンク200からサブタンク300に導入されるインクの量に対応する量の空気がサブタンク300からメインタンク200に導入される。このように密閉されたメインタンク200に対して液体が導出される代わりに気体が導入されるプロセスを気液交換と称する。このような気液交換によって、サブタンク300内のインクの液面は上昇していくが、定常液位308Aに到達すると、メインタンク200に空気が導入されなくなるので、液面の上昇は停止する。その結果、サブタンク300内のインクの液位は、定常状態では、一定の定常液位308Aに保たれる。
【0045】
このように、本実施形態では、密閉されたメインタンク200から気液交換によってサブタンク300にインクが流出し、この気液交換が、メインタンク200の下方に配置されたサブタンク300内の液位によって制御される構成を用いている。この構成では、少なくとも、メインタンク200をサブタンク300の重力方向上方に配置する必要があるが、その細部は図示したものに限られることはい。
【0046】
インクジェット方式の記録ヘッド100においては、一般に、記録ヘッド100に充填されたインクが、インク吐出前段階では、吐出口の所定の位置にメニスカスを張った状態になるように、吐出口内は所定の微小な負圧に保たれる。それによって、非駆動時にインクが吐出口から漏れ出さず、インク吐出動作時にのみ、良好にインクが吐出されることが保障される。本実施形態の記録装置では、図1に示すように、記録ヘッド100におけるこの負圧は、定常液位308Aと記録ヘッド100の高さの差(水頭差)Hによって生じている。
【0047】
記録動作時、記録ヘッド100からインクが吐出されると、その分だけインクが記録ヘッド100に供給される。それに伴うサブタンク300内のインクの減少によって、開口308Bが大気に解放されることになる。すると、開口308Bから空気がメインタンク200内に導入されることでメインタンク200からのインクの自然落下が発生し、再び液面は定常液位308Aまで回復する。こうして、記録動作時にも、通常、サブタンク300内のインクの液位は一定の定常液位308Aに実質的に保たれる。
【0048】
本実施形態のインク供給システムにおける減圧機構は、必要時に駆動可能な構成とすることができる。この駆動は、記録装置の制御部が、記録動作の履歴や、記録画像における記録密度、環境温度などの保存データや測定信号に基づいて適宜行うようにすることができる。また、ユーザーが、プリンタドライバや記録装置に設けられた操作部を介して減圧機構の動作を選択できるようにしてもよい。
【0049】
このようにして減圧機構を動作させる適切な時期としては、メインタンク200が装着されてからインクが若干使用されてインクの液面が沈降パイプ205の、下方から2番目の孔205Bの位置を下回り、その後、かなりの時間が経過した時を挙げられる。
【0050】
すなわち、本実施形態の構成では、メインタンク200内で、インクの顔料粒子の沈降がある程度進んでも、沈降パイプ205の作用によって、サブタンク300に供給されるインクの濃度があまり変動しないようになっている。より詳細に言えば、沈降パイプ205の、位置と大きさが適切に選択された複数の孔205A、205B、205C、205Dから吸い出されるインクが混合されることによって、その濃度が適切な濃度となるようになっている。
【0051】
しかしながら、メインタンク200内のインクの液面が沈降パイプ205の、下方から2番目の孔205Bの位置を下回った後では、インクは1番下の孔205Aのみから吸い出される。したがって、沈降パイプ205による、供給インク濃度の調整機能は働かなくなる。そして、その後かなりの時間が経過することによって、メインタンク200とサブタンク300内のインクは、顔料成分が沈降し、場合によっては2層に分離してしまうことが考えられる。このままでは、メインタンク200から供給されるインクは下方のものから順に供給されるため濃いインクが優先されることになる。
【0052】
ここでピストン320を上下動させ、強制的にメインタンク200からインクを引き出し、サブタンク300内のインクを開口308Bからメインタンク200に還流させる。この際、同時に、サブタンク300内の2層インクは撹拌子317と撹拌フィン319により発生する乱流で回転撹拌される。したがって、メインタンク200に還流されるインクは、サブタンク300内で撹拌されたインクである。この動作をある程度継続すると、サブタンク300内での回転撹拌と、両タンク間での還流による撹拌作用との相乗効果によって、やがては両タンクとも、その中のインクを実質的に完全に混ぜ合わせ、均一な濃度のインクとすることができる。このように、インク濃度を均一化した後、記録ヘッド100へのインクの供給を開始することによって、使用初期と実質的に同一の、適切な濃度での記録が可能となる。
【0053】
ここで、インク吐出に関わる水頭差を一定に保つ液位は、制御された気液交換を用いる技術で一定であり、これは、本実施形態の減圧機構を動作させた時にも同様である。そこで、電源の余裕さえあればインク吐出による記録動作と、減圧機構による撹拌動作を同時に動作可能なように電気回路を構成することで、記録動作中にも撹拌動作を行うことが可能となる。それによって、記録ヘッド100に供給するインク濃度、したがって、記録画像における画像濃度の、よりいっそうの均一化を図ることができる。
【0054】
また、記録動作と同時に減圧機構を動作させることができる構成の場合に、減圧機構を動作させるのに適切な他の時期としては、単色で塗りつぶされた画像部(単色フルべた画像部)の形成時など、インクの消費量が多い時を挙げられる。また、低温環境下での記録動作時に減圧機構を動作させることも考えられる。
【0055】
すなわち、自然落下での、メインタンク200からサブタンク300への、単位時間当たりのインク流出量は、メインタンク200とサブタンク300を接続する中空針303の流路抵抗やインクの粘性や表面張力などで決まってくる。また、このインク流出量は、サブタンク300内のインクの液面が低い時は、高低差があるため比較的大きいが、液面が定常液位308A付近の時、もっとも小さくなる。本実施形態におけるような構成では、典型的には、この最小時のインク流出量は、約0.1cc/秒である。
【0056】
一方、昨今の写真画像出力を可能にするなどの要求に対応して、記録ヘッド100の吐出口はより高密度にされる傾向があり、また、記録速度の高速化も同時に求められている。このため、写真画像などにおける単色で塗りつぶされた画像部などを記録するために、記録ヘッドから吐出させることが求められるインク量は飛躍的に増大してきており、例えば、0.3cc/秒にも達することが考えられる。この場合、上記の、自然落下によるインク流出だけでは、インク供給量をまかなえないことになる。したがって、このようにインク吐出量の多い状態での記録が継続されると、サブタンク200内のインクの液面が、一定の定常液位308Aから低下し、さらには、インクが無くなって、記録動作に影響を生じてしまうことが危惧される。
【0057】
そこで、このような場合に、上記の減圧機構を動作させる。すると、シリンダ307内の減圧によって、中空針303から強制的にインクが吸い出され、自然落下のみによる場合よりも、インクの流出量を増加させることができる。例えば、自然落下によるインク導出量が、上記のように0.1cc/秒である構成において、本実施形態の減圧機構を作動させることによって、0.8cc/秒の流出量を確保することが可能なことが確認された。したがって、記録ヘッド100からのインクの最大吐出量が、上記のように、例えば0.3cc/秒であったとしても、減圧機構を動作させれば十分にインク供給をまかなえることになる。この際、インク流出量の余剰分は、上述したように、メインタンク200へ還流されるため、サブタンク200内のインクの液面は、一定の定常液位308Aに保たれる。
【0058】
また、低温環境下では、インクの粘性が増加する。すると、メインタンク200の接続部におけるインク漏れの抑制などのために細い径とすることが求められる中空針304において、流路抵抗が増大する。そのため、メインタンク200からサブタンク300へのインクの自然落下によるインク流出量は低下する。この場合にも、本実施形態における減圧機構を動作させて、メインタンク200からサブタンク300へインクを強制的に流出させることによって、十分なインク供給量を確保することができる。さらに、このような低温環境下で、かつ、記録密度が高い画像の記録において多量のインク供給量が求められる場合でも、本実施形態における減圧機構の作用によって、良好なインク供給が可能となる。
【0059】
また、減圧機構を動作させるのに適切な他の時期としては、記録装置の使用開始時、メインタンク200を初めて装着した時も考えられる。この場合、減圧機構を動作させることによって、メインタンク200のインクの、サブタンク300への流出速度を速くし、記録の準備を短時間で行うことが可能となる。また、この際、インタンク200内のインクにおいて、顔料粒子の沈降が進行していることが予想される場合には、サブタンク300へのインクの充填完了後も継続して減圧機構を動作させることによって、充填と撹拌を含む記録準備を効率的に行うことができる。
【0060】
(第2の実施形態)
図8に、第2の実施形態のインク供給システムを示す。同図において、第1の実施形態と同様の部分には同一の符号を付し詳細な説明は省略する。
【0061】
本実施形態は、沈降パイプが削除されている点で第1の実施形態と異なっている。この構成では、インクは、メインタンク200から記録ヘッド100に直接供給されるのではなく、サブタンク300を介して供給される。したがって、メインタンク200における顔料粒子の沈降の影響が記録ヘッド100への供給インクに直接及ぶことはない。そして、サブタンク300に減圧機構が設けられているので、メインタンク200とサブタンク300の間のインク循環によって、特にメインタンク200内のインクについて、十分な撹拌作用を得ることができる。したがって、メインタンク200からサブタンク300に供給されるインクの濃度を調整する沈降パイプが無くても、減圧機構を適宜駆動することによって、記録ヘッド100への供給インクの濃度の均一化を図ることができる。それによって、記録画像における濃度むらの発生を抑制することができる。
【0062】
以上説明した各実施形態によれば、メインタンク200とサブタンク300を接続しサブタンク300内に延びる第1の接続流路形成部材を構成するシリンダ307内に減圧機構を設けることによって、簡素な構成でインク循環による撹拌作用を得ることができる。この減圧機構としては、開閉弁321が取り付けられ上下動するピストン320を基本的な構成要素とする、簡素で省スペースな構成とすることが可能な機構を用いることができる。
【0063】
また、メインタンク200とサブタンク300の循環による撹拌と、サブタンク300内にインクの流れを発生させることによる撹拌とを併用することによって、特に有効なインク撹拌作用を得ることができる。すなわち、循環による撹拌は、特に、メインタンク200内のインクに対して十分な効果が期待できる。そして、これとサブタンク300内のインクの撹拌機構を併用することによって、メインタンク200とサブタンク300の両方におけるインク中の顔料粒子の沈降に対して、撹拌による対策を講じることができる。それによって、インク中の顔料粒子の沈降が進行した場合であっても、記録ヘッド100へ供給するインクの濃度を初期の値に近い値に維持することができる。したがって、記録物の画像の濃度変化を抑制して所定の記録濃度を維持し、良好な記録を可能とすることができる。
【0064】
サブタンク300内のインクの撹拌機構としては、ピストン320の上下動と連動して回転する回転体である回転カム318に設けたヒレ状の撹拌フィン319や撹拌子317を用いることができる。それによって、装置を全体として省スペースに構成することができる。また、回転カム318と撹拌フィン319を互いに反対方向に回転するように構成することによって、インクに乱流を生じさせることができ、それによって、特に効果的な撹拌作用を得ることができる。
【0065】
また、各実施形態における減圧機構は、メインタンク200からサブタンク300へインクを強制的に流出させる機構としても働く。それによって、メインタンク200とサブタンク300を接続する第1の接続流路形成部材の中空針303の径が制限されるために、自然落下のみでは、メインタンク200からのインク流出量が制限される場合であっても、インク流出量を増やすことができる。したがって、記録ヘッド100でのインク消費量が多い場合、減圧機構を作動させることによって、インク消費量をまかなえるだけのインクをメインタンク200から流出させることができる。それによって、サブタンク300内のインクの液面の低下を抑制し、インク消費量が多い場合であっても、良好なインク供給を行い、良好な記録動作を可能とすることができる。
【0066】
本発明は、インクを吐出して記録をおこなうインクジェット記録装置に適した技術であり、とりわけ色材として顔料などの沈降しやすいインクを使用した記録装置に有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施形態のインク供給システムを示す断面図。
【図2】図1のインク供給システムのサブタンククの、メインタンクとの接続部の部分を拡大して示す斜視図。
【図3】図2のピストンユニットの斜視図。
【図4】図1のインク供給システムのサブタンクの、メインタンクとの接続部に配置された機構部材を示す斜視図。
【図5】図4の機構部を組み立てた状態を示す斜視図。
【図6】図1のインク供給システムの、複数種類のインクを扱う場合の構成例を示す斜視図。
【図7】図6のサブタンクの1つの部分を拡大して示す斜視図。
【図8】本発明の第2の実施形態のインク供給システムを示す断面図。
【符号の説明】
【0068】
200 メインタンク(第1の液体収容容器)
300 サブタンク(第2の液体収容容器)
303,304 中空針(第1、第2の接続流路形成部材の構成部材)
307,308 シリンダ(第1、第2の接続流路形成部材の構成部材)
330 ピストンユニット(減圧機構の構成部材)
318 回転カム(減圧機構の構成部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉された第1の液体収容容器と、
前記第1の液体収容容器の下方に配置され、大気に開放され、液体供給孔が形成された第2の液体収容容器と、
前記第1の液体収容容器内と前記第2の液体収容容器内を接続し、前記第2の液体収容容器内に突出した第1および第2の接続流路形成部材であって、前記第1の接続流路形成部材の、前記第2の液体収容容器内における開口の位置が、前記第2の接続流路形成部材の、前記第2の液体収容容器内における開口の位置よりも下方にある、第1および第2の接続流路形成部材と、
前記第1の接続流路形成部材の、前記第2の液体収容容器側を塞いだ状態で前記第1の接続流路形成部材内を減圧することができる減圧機構と、
を有する液体供給システム。
【請求項2】
前記減圧機構は、
前記第1の接続流路形成部材内に配置され、貫通した孔が形成されたピストンと、
前記ピストンの下面に、前記孔から離れた状態で取り付けられ、前記孔を塞ぐように弾性変形可能な開閉弁と、
前記ピストンを上下動させる機構と、
を有する、請求項1に記載の液体供給システム。
【請求項3】
前記第2の液体収容容器内の液体の撹拌機構をさらに有する、請求項1または2に記載の液体供給システム。
【請求項4】
前記第2の液体収容容器内の液体の撹拌機構をさらに有し、
前記減圧機構は、
前記第1の接続流路形成部材内に配置され、孔が形成されたピストンと、
前記ピストンの下面に、前記孔から離れた状態で取り付けられ、前記孔を塞ぐように弾性変形可能な開閉弁と、
前記ピストンを上下動させる機構と、
を有し、
前記撹拌機構は、
前記ピストンを上下動させる機構と連動して回転する回転体と、
該回転体に形成された撹拌フィンと、
を有する、請求項1に記載の液体供給システム。
【請求項5】
前記ピストンを上下動させる機構は回転カムを有し、前記撹拌フィンが前記回転カムに形成されている、請求項4に記載の液体供給システム。
【請求項6】
前記撹拌機構は、前記第2の液体収容容器内の液体に乱流を生じさせる機構である、請求項3から5のいずれか1項に記載の液体供給システム。
【請求項7】
前記撹拌機構は、
互いに反対方向に回転する2つの回転体と、
該回転体のそれぞれに形成された撹拌フィンと、
を有する、請求項6に記載の液体供給システム。
【請求項8】
第1の液体収容容器と、
該第1の液体収容容器に接続され、液体供給孔が形成された第2の液体収容容器と、
前記第1の液体収容容器と前記第2の液体収容容器の間に液体の循環を生じさせる機構と、
前記第2の液体収容容器内の液体の撹拌機構と、
を有する液体供給システム。
【請求項9】
前記第1の液体収容容器は着脱自在である、請求項1から8のいずれか1項に記載の液体供給システム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の液体供給システムと、
前記液体供給システムから供給された液体を記録媒体に付着させる記録ヘッドと、
を有する記録装置。
【請求項11】
前記記録ヘッドは、液体を吐出するインクジェット記録ヘッドである、請求項10に記載の記録装置。
【請求項12】
前記液体供給システムは前記減圧機構を有し、記録動作中に前記減圧機構を作動させる、請求項10または11に記載の記録装置。
【請求項13】
前記液体供給システムは、液体の循環を生じさせる前記機構を有し、記録動作中に、液体の循環を生じさせる前記機構を作動させる、請求項10または11に記載の記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−261160(P2007−261160A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91013(P2006−91013)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】