試料を酸化またはハロゲン化する装置を備えるイオン源
【解決手段】開示されるイオン源において、試料導入用キャピラリー管(2)を介して、イオン源の試料チャンバ(1)内に、気相で試料を導入する。酸化銅等の酸化剤で被覆された加熱表面(6)に導入された試料を入射することにより、試料に含まれる炭素が酸化されて、二酸化炭素が形成される。形成された二酸化炭素分子を、電子ビーム(3)を用いた電子衝撃イオン化によりイオン化する。得られたイオンを質量分析器に送り、質量分析を行なう。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源、質量分析計、元素分析計、試料のイオン化方法、質量分析方法、及び、試料の元素分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計は、主に、未知の物質から生成されるイオンの質量対電荷比を求めて、物質の同定に役立つ情報を得るために用いられる。未知の物質が1つ以上の有機化合物を含む場合には、通常、これらの化合物の元素組成を決める必要がある。この情報は、未知の物質中に存在する有機化合物の同定に役立ち、かつ、多くの場合、必要不可欠である。
【0003】
有機化合物の質量を測定するだけでは、ほとんどの場合、化合物の元素組成を決定することはできない。炭素は、(有機化等物の最も一般的な構成元素である)水素、窒素、酸素、イオウ、リン、フッ素、塩素及び臭素のいずれか又はすべてと、多くの異なる比率で結合可能であるため、ある公称分子量を持つ有機化合物には多数の可能な元素組成が存在する。
【0004】
さまざまな元素のさまざまな同位体の質量は、ちょうどぴったり整数の質量値をもつわけではなく、その公称すなわち整数質量値に対して(+/−数百質量ユニットの単位で)小さなプラスマイナスがある。したがって、有機分子の正確な質量は、整数値ではなく、同じ公称すなわち整数質量値を有する他の有機分子の正確な質量と、通常は完全に一致するわけではない。分子量の測定を高精度で行なうことができれば、同じ公称すなわち整数質量値を有する多くの可能な元素組成を候補から除くことができる。質量の正確な測定可能な元素組成の数を減らすことができ、質量測定の精度が上がれば上がるほど、可能な元素組成の数を減らすことができる。
【0005】
分子イオンの同位体分布を調べることによっても、可能な元素組成の数を減らすことができる。たとえば、塩素及び臭素は、非常にわかりやすい同位体分布を有しているため、塩素及び/又は臭素が存在するか否かは、通常、容易に判定できる。塩素の同位体比Cl35/Cl37は約3であり、臭素の同位体比Br79/Br81は約1であるが、この2つの同位体比は、有機化合物中に普通に存在する他の元素の同位体比とは大きく異なっている。イオウも、また、比較的わかりやすい同位体分布を有している。イオウの同位体比S32/S34は約22.5であり、分子イオンの同位体比を注意深く測定することにより、分子中にイオウ原子が存在するか否か、また、存在する場合には、どのくらいの数存在するかの判定が可能な場合もある。ただし、対象となる分子に塩素及び臭素のいずれか又は両方が含有されている場合には、イオウが存在するか否かを判定することは非常に難しくなる。分子中に存在している可能性がある塩素原子及び臭素原子の数に関する情報、又は、塩素及び臭素が存在しない場合には分子中に存在している可能性があるイオウ原子の数の範囲に関する情報は、質量分析法による分析対象である未知の有機分子に関して可能な元素組成の数を減らすのに有用である。
【0006】
各分子に含まれている可能性のある塩素及び/又は臭素原子の数を求める、又は、塩素及び臭素が存在しない場合には各分子中に存在するイオウ原子の数を近似的に低い精度で求める以外、分子イオン同位体分布から、有機化合物中に普通に存在する他の元素の存在やその相対的な数に関する非常に有益な情報を得ることは非常に難しいし、不可能に近い。特に、フッ素及びリンには1つの同位体しか存在せず、また、水素、窒素、及び酸素の第2の同位体の存在度は非常に低いため、分子イオン同位体分布では、有機分子中におけるこれらの同位体の存在は明らかにならない。
【0007】
未知の有機化合物の元素組成の決定には、通常、必要に応じて他の手法が組み合わせて用いられる。たとえば、分子中に所定種類の元素が存在しているか否かを、元素分析を用いて決めることができる。
【0008】
いくつか周知の元素分析方法がある。一般的に用いられている元素分析計では、分析対象の試料を、使い捨てのスズ又はアルミニウムのカプセルに秤量する。秤量した試料を高温炉内に注入し、静止状態で純粋な酸素内で燃焼させる。燃焼期間の最後に、酸素の噴流を加えて、すべての無機物質及び有機物質を完全に燃焼させる。スズのカプセルを試料の容器として用いる場合には、最初の発熱反応で、燃焼温度が1800℃以上に上がる。
【0009】
得られた燃焼生成物を専用試薬に通して、元素状の炭素、水素及び窒素から二酸化炭素(CO2)、水(H2O)、窒素(N2)及び窒素酸化物を生成させる。また、この試薬により、ハロゲン、イオウ及びリン等、他の妨害物質もすべて取り除かれる。処理後の気体を銅に晒すことにより、余分な酸素が除かれ、窒素酸化物が元素状の窒素に還元される。
【0010】
処理後の気体混合物を、たとえば、ガスクロマトグラフィーにより分離、及び/または、所定の検出器を用いて分析、するようにしてもよい。各々が熱伝導性セル対を含有する高精度熱伝導率検出器を用いて、気体混合物を測定するようにしてもよい。最初の2つのセルの間に、水トラップを配置する。セル間の差分信号は、元々の試料に含まれる水素量の関数である水の濃度に比例する。次の2つのセルの間には、二酸化炭素トラップを配置する。最後に、ヘリウムを標準として用いて、窒素を測定する。
【0011】
イオウは、通常、燃焼試薬及び還元試薬を取り替えて、二酸化イオウとして別に測定される。酸素は、通常、白金メッキ炭素の存在下で、熱分解により別に測定される。酸素は、最終的には二酸化炭素として測定される。
【0012】
周知の元素分析計の感度は、質量分析計の通常の感度と比べて特に高いとはいえない。元素分析には、通常、1から5mgの試料が必要であり、炭素の含有量が低い場合には、もっと多くの試料が必要となる。分析時間はかなり長く、一般的に、炭素、水素及び窒素の分析に5分程度かかる。したがって、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーに直接接続して用いるのには、元素分析は時間がかかりすぎる。このため、分析する前に、試料を別に精製する必要がある。さらに、試料が溶液の場合には、液体クロマトグラフィーによる分離の場合と同様に、元素分析を行なう前に、試料を単離して、採取した後、再び溶媒に溶かす必要がある。
【0013】
最近開発されたガスクロマトグラフィー燃焼同位体比質量分析法(GCC−IRMS)は、有機物質の混合物をガスクロマトグラフィーで分離し、二酸化炭素、水、その他酸化物の形に燃焼後、同位体比質量分析法で13C/12C同位体比を測定する。ガスクロマトグラフィー用キャピラリーカラムからの流出物は、いったん電動弁に導入して、燃焼反応器が早々と干上がらないように、溶媒を残留物に分流する。キャピラリーカラムから溶出した被分析物を、酸化銅(CuO)、酸化ニッケル(NiO)又は酸化亜鉛(ZnO)等の酸化剤を充填したアルミナ又は石英の燃焼管に入れる。混合酸化剤を用いてもよいし、触媒物質を加えてもよい。たとえば、銅と白金とニッケルの撚線を燃焼管に充填するようにしてもよい。燃焼管は、通常、900℃ないし950℃に加熱され、酸素を定期的に再充填することにより、銅線の表面層を酸化銅に、ニッケル線の表面層を酸化ニッケルに変換する。燃焼完了後、流出物をナフィオン(RTM)製水トラップ又は極低温水トラップ内で乾燥させて、乾燥した流出物を同位体比質量分析計にかける。
【0014】
元素分析同位体比質量分析法(EA−IRMS)と比べて、GCC−IRMSで必要な被分析物の量は少なく、炭素量として、マイクロモルレベルに対してナノモルレベルである。また、気相の燃焼プロセスがミリ秒単位であるため、GCC−IRMSのほうが処理が速い。GCC−IRMSは、高速のGC検出に適しており、オンラインでの成分単離に便利である。しかし、この方法は、有機化合物中に普通に存在する元素すべての同位体比を測定できるわけではなく、同様の理由により、有機化合物の元素分析には適していない。
【発明の概要】
【0015】
すなわち、質量分析法を用いて有機化合物の正確な質量を測定しても、それ自体では、有機化合物の元素組成を決定することはできない場合が多い。元素組成の決定には、元素分析計を用いた測定から得られる情報等、別の測定から得られる情報が必要となる。ただし、元素分析計は、比較的感度が悪く、比較的測定に時間がかかる。大部分の試料がそうであるように、試料が有機化合物の混合物である場合、元素分析を行なう前に混合物中の化合物を単離する必要がある。元素分析計の処理速度が比較的遅いため、クロマトグラフィーにオンラインで接続することは難しい。さらに、液体クロマトグラフィーの場合には、液体クロマトグラフィーからの流出物質を元素分析計に導入する前に、溶媒を除去する必要がある。GCC−IRMSで用いられる方法ならば、ガスクロマトグラフィーにオンラインで接続することができ、感度を上げることもできるが、元素分析には適していない。また、GCC−IRMSで用いられる方法は、燃焼室内に流出物質を導入する前にすべての溶媒物質を除去する必要がある液体クロマトグラフィーには適していない。さらに、イオン化された有機分子の元素分析や、有機分子のフラグメント(断片)イオン、娘イオンや分解または反応プロダクトイオン(生成イオン)の元素分析に適した方法はない。
【0016】
したがって、有機化合物の元素組成を決定する、及び/又は、有機化合物内に存在する1つ以上の元素の同位体比を決定する装置及び方法が求められている。
【0017】
本発明の1つの態様は、イオン源であって、
ソースチャンバと、
ソースチャンバ内に設置される第1の装置であって、使用時にソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第1の装置と、を備える。
【0018】
試料は、望ましくは有機試料である。
【0019】
好適な実施形態において、試料分子又は試料イオンは、望ましくは加熱される第1の装置に衝突して燃焼されることが望ましい。試料分子又は試料イオンに含まれる元素の少なくとも一部は、完全に酸化される。すなわち、炭素は二酸化炭素分子に変換され、水素は水分子に変換される。
【0020】
本発明の別の態様は、装置であって、チャンバと、チャンバ内に設置されて、第1の装置に衝突する試料分子又は試料イオンを酸化、フッ素化、塩素化、又はハロゲン化するように配置及び構成される第1の装置と、を備える。ここで、チャンバ及び/又は第1の装置は、大気圧未満の圧力に、望ましくは10-5mbar(10-6kPa)以下の圧力に、維持される。大気圧に通常維持される従来の燃焼発生源と比べて、本発明の態様の装置は、かなり低い圧力に維持される。装置が、さらに、チャンバ内に電子ビームを備え、第1の装置による試料分子又は試料イオンの酸化、フッ素化、塩素化、又はハロゲン化の結果得られた気体生成物をイオン化する構成が望ましい。
【0021】
イオン源は、望ましくは、さらに、ソースチャンバ内に設置される第2の装置であって、使用時にソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第2の装置を備える。第2の装置は第1の装置と離間して配置され、あるいは、第1の装置の分離領域又は部分を備える構成が望ましい。
【0022】
本明細書で、「試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化する」という表現は、(一酸化炭素ではなく)二酸化炭素に完全に変換される炭素を含有する試料分子又は試料イオンを含むことを意味する。
【0023】
好適な実施形態において、望ましくは、ソースチャンバは、使用時に、(i)10-5mbar以下、(ii)10-6mbar以下、(iii)10-7mbar以下、(iv)10-8mbar以下、及び(v)10-9mbar以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置される。
【0024】
第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、試料を酸化するための1種類以上の酸化剤を備える。1種類以上の酸化剤は、(i)酸化アンチモン(Sb2O3)、(ii)酸化ヒ素(As2O5)、(iii)酸化コバルト(Co3O4)、(iv)酸化銅(CuO)、(v)酸化イリジウム(IrO2)、(vi)酸化鉄(Fe3O4)、(vii)四酸化三鉛(Pb3O4)、(viii)二酸化鉛(PbO2)、(ix)酸化パラジウム(PdO)、(x)酸化カリウム(K2O)、(xi)酸化ロジウム(Rh2O3)、(xii)酸化銀(Ag2O)、(xiii)過酸化ナトリウム(Na2O2)、(xiv)酸化テルル(TeO2)、(xv)酸化スズ(SnO)、(xvi)酸化クロム(iv)(CrO2)、(xvii)酸化クロム(Cr2O5)、(xviii)酸化ゲルマニウム(GeO)、(xix)酸化イリジウム(Ir2O3)、(xx)酸化鉛(Pb2O3)、(xxi)酸化マンガン(III)(Mn2O3)、(xxii)二酸化マンガン(MnO2)、(xxiii)酸化モリブデン(MoO2)、(xxiv)酸化ニッケル(Ni2O3)、(xxv)酸化白金(PtO)、(xxvi)酸化レニウム(IV)(ReO2)、(xxvii)酸化レニウム(VI)(ReO3)、(xxviii)酸化ルビジウム(Rb2O)、(xxix)酸化ルテニウム(RuO2)、(xxx)酸化タングステン(WO2)、及び(xxxi)酸化亜鉛(ZnO)、からなる群から選択される。
【0025】
好適な実施形態において、第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、試料をフッ素化するための1種類以上のフッ素化剤を備える。1種類以上のフッ素化剤は、(i)フッ化銅(CuF2)、(ii)フッ化イリジウム(IrF3)、(iii)フッ化マンガン(MnF3)、(iv)フッ化ニオブ(NbF4)、(v)フッ化ルテニウム(RuF3)、(vi)フッ化タリウム(TlF3)、(vii)フッ化チタン(TiF3)、(viii)フッ化タングステン(WF3)、(ix)フッ化バナジウム(VF4)、及び(x)フッ化ニッケル(NiF6、NiF4、NiF3)、からなる群から選択される。
【0026】
好適な実施形態において、第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、試料を塩素化するための1種類以上の塩素化剤を備える。
【0027】
好適な実施形態において、第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、試料をハロゲン化するための1種類以上のハロゲン化剤を備える。
【0028】
好適な実施形態において、第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、触媒物質を備える。触媒物質は、(i)ニッケル、(ii)白金、(iii)パラジウム、(iv)ロジウム及び(v)遷移元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む。
【0029】
好適な実施形態において、第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、多孔質である、又は、焼結されている。
【0030】
好適な実施形態において、第1の装置は、(i)150度以上、(ii)200度以上、(iii)250度以上、(iv)300度以上、(v)350度以上、(vi)400度以上、(vii)450度以上、(viii)500度以上、(ix)550度以上、(x)600度以上、(xi)650度以上、(xii)700度以上、(xiii)750度以上、(xiv)800度以上、(xv)850度以上、(xvi)900度以上、(xvii)950度以上、及び(xviii)1000度以上、からなる群から選択される温度に第1の装置の表面を加熱する発熱体を備える。
【0031】
好適な実施形態において、第2の装置は、(i)150度以上、(ii)200度以上、(iii)250度以上、(iv)300度以上、(v)350度以上、(vi)400度以上、(vii)450度以上、(viii)500度以上、(ix)550度以上、(x)600度以上、(xi)650度以上、(xii)700度以上、(xiii)750度以上、(xiv)800度以上、(xv)850度以上、(xvi)900度以上、(xvii)950度以上、及び(xviii)1000度以上、からなる群から選択される温度に第2の装置の表面を加熱する発熱体を備える。
【0032】
イオン源は、望ましくは、さらに、電子ビームを発生させる電子ビーム発生部を備え、電子ビームは、第1の装置及び/又は第2の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された試料分子又は試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される。
【0033】
イオン源は、望ましくは、さらに、第1のキャピラリー管又は導入管であって、
(i)使用時に、ソースチャンバに液体状態又は気体状態の試料を導入する、及び/又は
(ii)ソースチャンバへの試料の導入前に、導入と同時に、又は導入後に、運転モードで、パージガスを導入する、及び/又は
(iii)運転モードで、酸素及び/又はフッ素及び/又は塩素及び/又はハロゲンを導入して、第1の装置及び/又は第2の装置の表面に再充填させる、
第1のキャピラリー管又は導入管を備える。
【0034】
イオン源は、望ましくは、さらに、第2のキャピラリー管又は導入管であって、
(i)使用時に、ソースチャンバに液体状態又は気体状態の試料を導入する、及び/又は
(ii)ソースチャンバへの試料の導入前に、導入と同時に、又は導入後に、運転モードで、パージガスを導入する、及び/又は
(iii)運転モードで、酸素及び/又はフッ素及び/又は塩素及び/又はハロゲンを導入して、第1の装置及び/又は第2の装置の表面に再充填させる、
第2のキャピラリー管又は導入管を備える。
【0035】
イオン源は、さらに、ソースチャンバに固体を導入する真空挿入プローブを備える構成も可能である。真空挿入プローブは、使用時に加熱される構成が望ましい。
【0036】
好適な実施形態において、イオン源は、さらに、イオン源に試料イオンを導入するための第1のイオン投入口を備える。試料イオンは、望ましくは、第1のイオン投入口を介してイオン源に導入され、第1の装置及び/又は第2の装置に入射される。ここで、第1の装置及び/又は第2の装置は、試料イオンを酸化、フッ素化、塩素化、又はハロゲン化するように配置及び構成される。
【0037】
第1の運転モードにおいて、試料イオンは、ソースチャンバに入るように構成され、試料イオンの少なくとも一部、すなわち、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%が、第1の装置及び/又は第2の装置に入射される。また、第2の運転モードにおいて、試料イオンは、ソースチャンバに入るように構成され、試料イオンの少なくとも一部、すなわち、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%が、第1の装置及び/又は第2の装置に入射されることなく、ソースチャンバを透過するように構成される。
【0038】
イオン源は、望ましくは、さらに、第1の装置及び/又は第2の装置に試料イオンを入射する1つ以上の電極を備える。
【0039】
好適な実施形態において、運転モードにおいて、望ましくは1つ以上の電極により、(i)15度未満、(ii)15度ないし30度、(iii)30度ないし45度、(iv)45度ないし60度、(v)60度ないし75度、又は(vi)75度より大きい(望ましくは、第1の装置及び/又は第2の装置の表面に対して測定された)入射角で、第1の装置及び/又は第2の装置に試料イオンが入射される。
【0040】
好適な実施形態において、運転モードにおいて、望ましくは1つ以上の電極により、(i)1eV未満、(ii)3eV未満、(iii)10eV未満、(iv)30eV未満、(v)100eV未満、(vi)300eV未満、(vii)1000eV未満、(viii)1eVより大きい、(ix)3eVより大きい、(x)10eVより大きい、(xi)30eVより大きい、(xii)100eVより大きい、(xiii)300eVより大きい、及び(xiv)1000eVより大きい、からなる群から選択されるイオンエネルギーで、第1の装置及び/又は第2の装置に試料イオンが入射される。
【0041】
試料イオンは、試料物質のフラグメント(断片)イオン、娘イオン、又はプロダクトイオン(生成イオン)でもよい。
【0042】
本発明の別の態様は、上述したイオン源を備える質量分析計又は元素分析計である。
【0043】
本発明のまた別の態様は、試料をイオン化する方法であって、
ソースチャンバを準備し、
ソースチャンバに試料を導入し、
ソースチャンバ内に設置される第1の装置を用いて、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化することを備える。
【0044】
本発明のさらに別の態様は、上述した方法を備える質量分析方法である。
【0045】
本発明の別の態様は、試料を分析する方法であって、
イオン源に試料を導入し、
第1の装置を用いて、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化して、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成し、
酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化して、複数の被分析物イオンを形成することを備える。
【0046】
試料を分析する方法は、望ましくは、さらに、被分析物イオンを質量分析することを備えても良い。
【0047】
試料は、望ましくは、有機試料である。
【0048】
一実施形態において、試料を分析する方法は、さらに、被分析物イオンの質量分析結果から、試料中に存在する1つ以上の元素の同位体比を求めることを備えても良い。ここで、元素は、(i)炭素、(ii)水素、(iii)窒素、(iv)酸素、及び(v)イオウからなる群から選択される。元素が塩素又は臭素を含むような実施形態も可能である。
【0049】
一実施形態において、同位体比は、(i)C12、(ii)C13、及び(iii)C14からなる群から選択される2つ以上の同位体の比である。
【0050】
一実施形態において、
(i)第1の装置は、試料の少なくとも一部を完全に酸化するように配置及び構成される、及び/又は、
(ii)酸化された気体生成物は、二酸化炭素(CO2)を含む、及び/又は、
(iii)同位体比は、C14/C12の比である、及び/又は、
(iv)同位体比は、公称質量対電荷比44を有するC12O162の強度に対する公称質量対電荷比46を有するC14O162の強度を分析することにより決定される。
【0051】
C14/C13及び/又はC13/C12及び/又はC14/C13/C12の比のように、他の比を決定する実施形態でもよい。
【0052】
好適な実施形態において、天然同位体及び人工的に試料に導入可能なC14等の人工同位体の両方を測定することができる。たとえば、C14同位体は、試料の化学的研究又は代謝研究の一部として試料に導入されたものでもよい。
【0053】
一実施形態において、
(i)第1の装置は、試料の少なくとも一部を完全にフッ素化するように配置及び構成される、及び/又は、
(ii)酸化された気体生成物は、四フッ化炭素(CF4)を含む、及び/又は、
(iii)同位体比は、C14/C12の比である、及び/又は、
(iv)同位体比は、公称質量対電荷比88を有するC12F194の強度に対する公称質量対電荷比90を有するC14F194の強度を分析することにより決定される。
【0054】
C14/C13及び/又はC13/C12及び/又はC14/C13/C12の比のように、他の比を決定する実施形態でもよい。
【0055】
一実施形態において、
(i)第1の装置は、試料の少なくとも一部を完全にヨウ素化するように配置及び構成される、及び/又は、
(ii)酸化された気体生成物は、四ヨウ化炭素(CI4)を含む、及び/又は、
(iii)同位体比は、C14/C12の比である、及び/又は、
(iv)同位体比は、公称質量対電荷比520を有するC12I1274の強度に対する公称質量対電荷比522を有するC14I1274の強度を分析することにより決定される。
【0056】
C14/C13及び/又はC13/C12及び/又はC14/C13/C12の比のように、他の比を決定する実施形態でもよい。
【0057】
試料を分析する方法は、望ましくは、さらに、対象となる各質量対電荷比を有するイオンのイオン電流を測定することを備えても良い。
【0058】
試料を分析する方法は、望ましくは、さらに、
(a)バックグラウンドスペクトル又はバックグラウンドイオン電流を引く、及び/又は、
(b)異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動に対するイオン電流測定値の補正を行なう、
ことにより、
対象となる各質量対電荷比を有するイオンのイオン電流測定値を処理することを備えても良い。
【0059】
本発明の別の実施形態において、試料を分析する方法は、さらに、試料の元素分析方法を備えても良い。
【0060】
試料を分析する方法は、望ましくは、さらに、有機分子中又は有機分子に由来するイオン中に存在するさまざまな元素の一部又は全部の相対存在量を測定、決定、又は、推定することを備えても良い。
【0061】
一実施形態において、試料を分析する方法は、さらに、有機分子中に存在するさまざまな元素の一部または全部の相対存在量の測定、決定、又は推定結果を用いて、有機分子又は有機分子に由来するイオンの測定質量又は正確な質量から導き出された元素組成の演算結果を限定する、又は、元素組成の演算結果をフィルタリングすることを備えても良い。
【0062】
この元素は、望ましくは、(i)炭素、(ii)水素、(iii)窒素、(iv)酸素、(v)イオウ、(vi)リン、(vii)フッ素、(viii)塩素、及び(ix)臭素、からなる群から選択される。
【0063】
本発明の一つの態様は、試料を分析する装置であって、
使用時に試料が導入されるイオン源と、
試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化して、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成する第1の装置と、
酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化して、複数の被分析物イオンを形成するイオン化部と、
を備える。
【0064】
試料を分析する装置は、望ましくは、さらに、被分析物イオンの質量分析を行なう質量分析器を備える。
【0065】
本発明の別の態様は、上述した装置を備える同位体比質量分析計である。
【0066】
本発明のまた別の態様は、上述した装置を備える元素分析計である。
【0067】
本発明のさらに別の態様は、ソースチャンバを有するイオン源と、ソースチャンバ内に設置される第1の装置とを備える質量分析計の制御システムにより実行可能なコンピュータプログラムである。
コンピュータプログラムは、ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を、制御システムを介して、第1の装置により完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させるように構成される。
【0068】
本発明の別の態様は、質量分析計の制御システムにより実行可能なコンピュータプログラムである。
コンピュータプログラムは、制御システムを介して、
(i)第1の装置により、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させて、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成させ、
(ii)イオン化部により、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化させて、複数の被分析物イオンを形成させ、
(iii)質量分析器により、被分析物の質量分析を行なわせる、ように構成される。
【0069】
本発明のさらに別の態様は、コンピュータにより実行可能な命令が格納されるコンピュータ読み取り可能な媒体である。
命令は、ソースチャンバを有するイオン源と、ソースチャンバ内に設置される第1の装置とを備える質量分析計の制御システムにより実行可能に構成される。
コンピュータにより実行可能な命令は、ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を、制御システムを介して、第1の装置により完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させるように構成される。
【0070】
本発明のまた別の態様は、コンピュータにより実行可能な命令が格納されるコンピュータ読み取り可能な媒体である。
命令は、質量分析計の制御システムにより実行可能に構成される。
コンピュータにより実行可能な命令は、制御システムを介して、
(i)第1の装置により、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させて、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成させ、
(ii)イオン化部により、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化させて、複数の被分析物イオンを形成させ、
(iii)質量分析器により、被分析物の質量分析を行なわせる、ように構成される。
【0071】
コンピュータ読み取り可能な媒体は、望ましくは、(i)ROM、(ii)EAROM、(iii)EPROM、(iv)EEPROM、(v)フラッシュメモリ、(vi)光ディスク、(vii)RAM、及び(viii)ハードディスクドライブからなる群から選択される。
【0072】
本発明の別の態様は、装置であって、
ソースチャンバと、
使用時に、ソースチャンバに試料イオンを導入するための第1のイオン投入口と、
ソースチャンバ内に設置されて、試料イオンの少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第1の装置であって、ソースチャンバは、使用時に、(i)10-5mbar以下、(ii)10-6mbar以下、(iii)10-7mbar以下、(iv)10-8mbar以下、及び(v)10-9mbar以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置され、
第1の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される電子ビームを発生させる電子ビーム発生部と、を備える。
【0073】
本発明のさらに別の態様は、方法であって、
ソースチャンバを準備し、
ソースチャンバに試料イオンを導入し、
ソースチャンバ内に設置される第1の装置を用いて、試料イオンの少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化し、ソースチャンバは、(i)10-5mbar以下、(ii)10-6mbar以下、(iii)10-7mbar以下、(iv)10-8mbar以下、及び(v)10-9mbar以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置され、
第1の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される電子ビームを発生させることを備える。
【0074】
本発明の化学分析方法は、質量分析計の真空系内で、有機物質の有機分子又は有機分子に由来のイオンを化学薬品と反応させて、有機分子又は有機分子に由来のイオンの1つ以上の構成原子と、化学薬品の1つ以上の原子と、からなる複数の小さな分子(たとえば、二酸化炭素)を生成する。たとえば、有機分子のかなりの割合を完全に酸化させて、有機分子を構成する炭素原子の酸化により得られる二酸化炭素など、複数の比較的小さな気体分子を生成する。複数の小さな分子を質量分析計で分析することが望ましい。
【0075】
好適な実施形態において、有機分子又は有機分子に由来のイオンと化学薬品との反応により生成され、有機分子又は有機分子に由来のイオンの2つ以上の構成原子からなる小さな分子は、同じ元素の構成原子から構成される(たとえば、有機分子を構成する水素原子の酸化により水分子が得られる)。
【0076】
好適な実施形態において、小さな分子を質量分析計で分析することにより、有機分子中又は有機分子に由来のイオン中に存在するさまざまな元素の一部または全部を決定するために利用可能な情報が得られ、さらに、有機分子中又は有機分子に由来のイオン中に存在する元素の相対存在量が推定できる。
【0077】
望ましくは、化学薬品が酸化剤であり、化学薬品の原子が酸素原子である。
【0078】
酸化剤は、望ましくは、(i)酸化アンチモン(Sb2O3)、(ii)酸化ヒ素(As2O5)、(iii)酸化コバルト(Co3O4)、(iv)酸化銅(CuO)、(v)酸化イリジウム(IrO2)、(vi)酸化鉄(Fe3O4)、(vii)四酸化三鉛(Pb3O4)、(viii)二酸化鉛(PbO2)、(ix)酸化パラジウム(PdO)、(x)酸化カリウム(K2O)、(xi)酸化ロジウム(Rh2O3)、(xii)酸化銀(Ag2O)、(xiii)過酸化ナトリウム(Na2O2)、(xiv)酸化テルル(TeO2)、(xv)酸化スズ(SnO)、(xvi)酸化クロム(iv)(CrO2)、(xvii)酸化クロム(Cr2O5)、(xviii)酸化ゲルマニウム(GeO)、(xix)酸化イリジウム(Ir2O3)、(xx)酸化鉛(Pb2O3)、(xxi)酸化マンガン(III)(Mn2O3)、(xxii)二酸化マンガン(MnO2)、(xxiii)酸化モリブデン(MoO2)、(xxiv)酸化ニッケル(Ni2O3)、(xxv)酸化白金(PtO)、(xxvi)酸化レニウム(IV)(ReO2)、(xxvii)酸化レニウム(VI)(ReO3)、(xxviii)酸化ルビジウム(Rb2O)、(xxix)酸化ルテニウム(RuO2)、(xxx)酸化タングステン(WO2)、及び(xxxi)酸化亜鉛(ZnO)から選択される1種類以上の酸化剤である。
【0079】
化学薬品がハロゲン化剤であり、化学薬品の原子がハロゲン原子でもよい。
【0080】
化学薬品がフッ素化剤であり、化学薬品の原子がフッ素原子でもよい。
【0081】
フッ素化剤は、望ましくは、(i)フッ化銅(CuF2)、(ii)フッ化イリジウム(IrF3)、(iii)フッ化マンガン(MnF3)、(iv)フッ化ニオブ(NbF4)、(v)フッ化ルテニウム(RuF3)、(vi)フッ化タリウム(TlF3)、(vii)フッ化チタン(TiF3)、(viii)フッ化タングステン(WF3)、(ix)フッ化バナジウム(VF4)、及び(x)フッ化ニッケル(NiF6、NiF4、NiF3)から選択される1種類以上のフッ素化剤である。
【0082】
化学薬品が塩素化剤であり、化学薬品の原子が塩素原子でもよい。
【0083】
本発明の一実施形態において、化学薬品は、表面層の形で、すなわち、表面上に、存在する。化学薬品は、加熱により分解するものが望ましい。化学薬品は、真空下で融解または昇華する温度未満の温度で熱分解するものが望ましい。表面は、粗面、多孔質面、又は焼結面であることが望ましい。表面は加熱されることが望ましく、具体的には、(i)200℃、(ii)250℃、(iii)300℃、(iv)350℃、(v)400℃、(vi)450℃、(vii)500℃、(viii)550℃、(ix)600℃、(x)650℃、(xi)700℃、(xii)750℃、(xiii)800℃、(xiv)850℃、(xv)900℃、(xvi)950℃、及び(xvii)1000℃のいずれかより高い温度まで加熱されることが望ましい。
【0084】
本発明の一実施形態において、化学薬品は、ディスペンサ型カソードの表面を形成する、すなわち、表面上に堆積される。
【0085】
本発明の別の実施形態において、表面が触媒物質を備える。触媒物質は、(i)ニッケル、(ii)白金、(iii)パラジウム、(iv)ロジウム及び(v)遷移元素から選択される1つ以上の元素を含むことが望ましい。
【0086】
本発明の好適な実施形態において、小さな分子は、質量分析計による分析の前に、イオン化されることが望ましい。電子衝撃(Electron Impact:EI)イオン化及び/又は熱イオン化(熱電離:Thermal Ionization:TI)により、小さな分子をイオン化するようにしてもよい。
【0087】
本発明の好適な実施形態において、加熱された化学反応性表面及びイオン化手段は、高真空に維持されることが望ましい。高真空は、(i)10-6mbar、(ii)10-7mbar、(iii)10-8mbar、及び(iv)10-9mbarのいずれかより低い圧力値が望ましい。
【0088】
本発明の別の実施形態において、加熱された化学反応性表面及びイオン化手段は、不活性ガス流又は非反応性ガス流で連続的にパージされることが望ましい。不活性ガス又は非反応性ガスは、望ましくは、(i)ヘリウム、(ii)ネオン、(iii)アルゴン、及び(iv)希ガスから選択される1種類以上のガスである。不活性ガス又は非反応性ガスは、(i)10-2mbar、(ii)10-3mbar、(iii)10-4mbar、及び(iv)10-5mbarのいずれかより低い圧力値が望ましい。
【0089】
本発明の好適な実施形態において、質量分析計を用いて、小さな分子から形成されるイオンの質量分析を行なう構成が望ましい。質量分析計の望ましい例としては、(i)四重極マスフィルタ(質量分析計)、(ii)3次元又はポール型(Paul)イオントラップ、(iii)リニア四重極イオントラップ、(iv)飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析計、(v)直交加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析計、(vi)磁気セクタ、(vii)フーリエ変換(Fourier Transform:FT)を利用した静電イオントラップ型質量分析器、(viii)フーリエ変換(Fourier Transform:FT)を利用した磁気イオントラップ、(ix)オービトラップ(RTM)、及び(x)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance:FT−ICR)質量分析計が挙げられる。
【0090】
質量分析計は、2つ以上の質量対電荷比の値を有するイオンを同時に検出可能な多重検出器を内蔵する磁気セクタを備える構成が望ましい。
【0091】
本発明の好適な実施形態において、質量分析計により得られた各質量対電荷比値を有するイオンのイオン電流測定値を、以下のいずれか又はすべての機能を果たすように、処理することが望ましい。(a)バックグラウンドスペクトル又はバックグラウンドイオン電流を引く。(b)異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動に対するイオン電流測定値の補正を行なう。ここで、異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動は、(i)イオン化効率の変動(ii)イオン透過効率の変動、(iii)相対的なイオンサンプリング時間又はイオン透過及び検出のデューティサイクルの変動、及び(iv)イオン検出効率の変動のいずれか、又は、すべての変動の積算値である。(c)有機分子中又は有機分子に由来のイオン中に存在するさまざまな元素を含有する小さな分子のイオンの相対存在量を測定する。(d)有機分子中又は有機分子に由来のイオン中に存在するさまざまな元素の一部又はすべての相対存在量を決定する、又は、推定する。(e)有機分子中に存在するさまざまな元素の一部またはすべての相対存在量の決定又は推定結果を利用して、有機分子又は有機分子に由来のイオンの測定質量又は望ましくは正確な質量から導き出された元素組成の演算結果を限定する、又は、元素組成の演算結果をフィルタリングする。
【0092】
本発明の他の実施形態において、質量分析計により得られた各質量対電荷比値を有するイオンのイオン電流測定値を、以下のいずれか又はすべての機能を果たすように、処理することも望ましい。(a)バックグラウンドスペクトル又はバックグラウンド電流を引く。(b)異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動に対する電流測定値の補正を行なう。ここで、異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動は、(i)イオン化効率の変動、(ii)イオン透過効率の変動、(iii)イオンサンプリング時間又はイオン透過及び検出のデューティサイクルの変動、及び(iv)イオン検出効率の変動のいずれか、又は、すべての変動の積算値である。(c)有機分子中又は有機分子に由来のイオン中に存在する元素のうちの一種類以上の元素の相対同位体存在量比を測定する。
【0093】
本発明の好適な実施形態において、質量分析計の真空系に有機分子を直接導入することが望ましい。有機分子は、質量分析計の真空系に、キャピラリー管又は1つ以上の開口部を介して導入されることが望ましい。有機分子の流れは、加熱された化学反応性表面に入射される分子ビームを形成することが望ましい。
【0094】
本発明の他の好適な実施形態において、有機分子をイオン化した後、加熱された化学反応性表面に当てる構成が望ましい。加熱された化学反応性表面にイオンを入射させることが望ましい。ここで、(i)15度未満、(ii)15度ないし30度、(iii)30度ないし45度、(iv)45度ないし60度、(v)60度ないし75度、又は(vi)75度より大きい(反応性表面に対して測定された)入射角で、加熱された化学反応性表面にイオンを衝突させることが望ましい。また、イオンのエネルギーは、望ましくは、(i)1eV未満、(ii)3eV未満、(iii)10eV未満、(iv)30eV未満、(v)100eV未満、(vi)300eV未満、(vii)1000eV未満、(viii)1eVより大きい、(ix)3eVより大きい、(x)10eVより大きい、(xi)30eVより大きい、(xii)100eVより大きい、(xiii)300eVより大きい、及び(xiv)1000eVより大きい、のいずれかである。
【0095】
本発明の別の好適な実施形態において、有機分子を加熱された化学反応性表面に当てる前に、(i)電子衝撃(Electron Impact:EI)イオン化、(ii)化学イオン化(Chemical Ionization:CI)、(iii)電界イオン化(Field Ionization:FI)、(iv)電界脱離(Field Desorption:FD)イオン化、(v)高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment:FAB)イオン化、(vi)液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry:LSIMS)イオン化、(vii)大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionization:API)、(viii)エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization:ESI)、(ix)大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization:APCI)、(x)大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionization:APPI)、(xi)レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionization:LDI)、(xii)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization:MALDI)、及び(xiii)脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorption Electrospray Ionization:DESI)のいずれかによってイオン化する構成が望ましい。
【0096】
本発明の他の実施形態において、加熱された化学反応性表面に当てる前に、有機分子に由来のイオンを以下のいずれかの方法で選択するようにしてもよい。(a)質量対電荷比値に従って選択する。ここで、質量対電荷比値に従うイオンの選択に(i)四重極マスフィルタ(質量分析計)、(ii)ウィーン(Wien)フィルタ、(iii)磁気セクタ、(iv)リニア又は3次元イオントラップ、又は(v)飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析計を用いる。(b)イオン移動度に従って選択する。ここで、イオン移動度に従うイオンの選択に(i)ドリフト管又は(ii)進行波を用いる。(c)微分イオン移動度に従って選択する。ここで、微分イオン移動度に従うイオンの選択に(i)微分移動度分光計(Differential Mobility Spectrometer:DMS)又は(ii)電界非対称イオン移動度分光計(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometer:FAIMS)を用いる。
【0097】
本発明の他の実施形態において、加熱された化学反応性表面に当てる前に、有機分子に由来のイオンを、部分的にフラグメント化(断片化)、分解、又は反応させるようにしてもよい。この場合、(i)気体分子又は原子衝突、(ii)不活性又は非反応性表面衝突、(iii)電子衝突、(iv)電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation:ECD)、(v)イオン衝突、(vi)電子移動解離(Electron Transfer Dissociation:ETD)、(v)準安定原子衝突、(vi)準安定分子衝突、及び(vii)準安定イオン衝突のいずれかにより、イオンを部分的にフラグメント化(断片化)、分解、又は反応させることが望ましい。
【0098】
本発明の他の実施形態において、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、又はキャピラリー電気泳動により、有機分子を最初に分離又は精製しておくようにしてもよい。
【0099】
本発明の一実施形態において、質量分析計が、(i)エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization:ESI)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionization:APPI)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization:APCI)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization:MALDI)イオン源、(v)レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionization:LDI)イオン源、(vi)大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionization:API)イオン源、(vii)シリコンを用いた脱離イオン化(Desorption Ionization on Silicon:DIOS)イオン源、(viii)電子衝撃(Electron Impact:EI)イオン源、(ix)化学イオン化(Chemical Ionization:CI)イオン源、(x)電界イオン化(Field Ionization:FI)イオン源、(xi)電界脱離(Field Desorption:FD)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment:FAB)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry:LSIMS)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorption Electrospray Ionization:DESI)イオン源、(xvi)ニッケル63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Atmospheric Pressure Matrix Assisted Laser Desorption Ionization:APMALDI)イオン源、(xviii)サーモスプレーイオン源、(xix)大気サンプリンググロー放電イオン化(Atmospheric Sampling Glow Discharge Ionization:ASGDI)イオン源、及び(xx)グロー放電(Glow Discharge:GD)イオン源、からなる群から選択されるイオン源をさらに備える構成でもよい。
【0100】
質量分析計が、さらに、1つ以上の連続又はパルスイオン源を備える構成が望ましい。
【0101】
質量分析計が、さらに、1つ以上のイオンガイドを備える構成も望ましい。
【0102】
質量分析計が、さらに、1つ以上のイオン移動度分離装置及び/又は電界非対称イオン移動度分光分析装置を備える構成も望ましい。
【0103】
質量分析計が、さらに、1つ以上のイオントラップ又は1つ以上のイオントラップ領域を備える構成も望ましい。
【0104】
質量分析計が、さらに、(i)衝突誘起解離(Collisional Induced Dissociation:CID)フラグメンテーション装置、(ii)表面誘起解離(Surface Induced Dissociation:SID)フラグメンテーション装置、(iii)電子移動解離(Electron Transfer Dissociation:ETD)フラグメンテーション装置、(iv)電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation:ECD)フラグメンテーション装置、(v)電子衝突(Electron Collision)又は電子衝撃解離(Electron Impact Dissociation)フラグメンテーション装置、(vi)光誘起解離(Photo Induced Dissociation:PID)フラグメンテーション装置、(vii)レーザー誘起解離(Laser Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(viii)赤外線誘起解離装置、(ix)紫外線誘起解離装置、(x)ノズル・スキマー・インターフェース・フラグメンテーション装置、(xi)インソースフラグメンテーション装置、(xii)インソース衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(xiii)熱源又は温度源フラグメンテーション装置、(xiv)電場誘起フラグメンテーション装置、(xv)磁場誘起フラグメンテーション装置、(xvi)酵素消化又は酵素分解フラグメンテーション装置、(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーション装置、(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーション装置、(xix)イオン−原子反応フラグメンテーション装置、(xx)イオン−準安定イオン反応フラグメンテーション装置、(xxi)イオン−準安定分子反応フラグメンテーション装置、(xxii)イオン−準安定原子反応フラグメンテーション装置、(xxiii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオン(生成イオン)を形成するイオン−イオン反応装置、(xxiv)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−分子反応装置、(xxv)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−原子反応装置、(xxvi)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定イオン反応装置、(xxvii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定分子反応装置、(xxviii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定原子反応装置、及び(xxix)電子イオン化解離(Electron Ionization Dissociation:EID)フラグメンテーション装置、からなる群から選択される1つ以上の衝突セル、フラグメンテーション(断片化)セル、又は反応セルを備える構成が望ましい。
【0105】
質量分析計が、さらに、(i)四重極質量分析器、(ii)2次元又はリニア四重極質量分析器、(iii)ポール(Paul)トラップ型又は3次元四重極質量分析器、(iv)ペニング(Penning)トラップ型質量分析器、(v)イオントラップ型質量分析器、(vi)磁場型質量分析器、(vii)二重収束磁場型質量分析器、(viii)イオンサイクロトロン共鳴(Ion Cyclotron Resonance:ICR)質量分析器、(ix)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance:FTICR)質量分析器、(x)静電またはオービトラップ型質量分析器、(xi)フーリエ変換(Fourier Transform)静電又はオービトラップ型質量分析器、(xii)フーリエ変換(Fourier Transform)質量分析器、(xiii)飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析器、(xiv)直交加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、(xv)線形加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、からなる群から選択される質量分析器を備える構成が望ましい。
【0106】
質量分析計が、さらに、1つ以上のエネルギー分析器又は静電エネルギー分析器を備える構成も望ましい。
【0107】
質量分析計が、さらに、1つ以上のイオン検出器を備える構成も望ましい。
【0108】
質量分析計が、さらに、(i)四重極マスフィルタ、(ii)2次元又はリニア四重極イオントラップ、(iii)ポール(Paul)又は3次元四重極イオントラップ、(iv)ペニング(Penning)イオントラップ、(v)イオントラップ、(vi)磁気セクタ型マスフィルタ、(vii)飛行時間型(Time of Flight:TOF)マスフィルタ、及び(viii)ウィーン(Wien)フィルタ、からなる群から選択される1つ以上のマスフィルタを備える構成も望ましい。
【0109】
質量分析計が、さらに、イオンをパルス化する装置又はイオンゲートを備える構成も望ましい。
【0110】
質量分析計が、さらに、ほぼ連続的なイオンビームをパルス状イオンビームに変換する装置を備える構成も望ましい。
【0111】
一実施形態において、質量分析計が、さらに、C型トラップと、外側たる形電極及び同軸の内側紡錘形電極を備えるオービトラップ型(RTM)質量分析器と、を備えるようにしてもよい。ここで、第1の運転モードにおいて、イオンは、C型トラップに送られ、次に、オービトラップ型(RTM)質量分析器に注入される。第2の運転モードにおいて、イオンは、C型トラップに、次に、衝突セル又は電子移動解離電子移動解離(Electron Transfer Dissociation)装置に送られて、少なくとも一部のイオンがフラグメント(断片)イオンにフラグメント化(断片化)される。フラグメントイオンは、C型トラップに送られた後、オービトラップ型(RTM)質量分析器に注入される。
【0112】
一実施形態において、質量分析計が、さらに、使用時にイオンを透過させる開口部を各々有する複数の電極を備える積層リング型イオンガイドを備えるようにしてもよい。ここで、積層リング型イオンガイドは、イオン通路の長さ方向に電極の間隔が増大し、イオンガイドの上流部に配置された電極の開口部が第1の直径を有する一方で、イオンガイドの下流部に配置された電極の開口部が第1の直径よりも小径の第2の直径を有し、使用時にAC(交流)電圧又はRF(無線周波数)電圧の逆位相が連続する電極に印加される、ように構成される。
【0113】
以下、例示を目的として、本発明のさまざまな実施例を添付の図面を参照して詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】モノアイソトピック質量が250.0ダルトンで最大9種類の特定元素を含有する有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数と、この有機化合物の分子中に存在可能なこれらの元素の原子数と、を示す表。
【図2】モノアイソトピック質量が500.0ダルトンで最大9種類の特定元素を含有する有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数と、この有機化合物の分子中に存在可能なこれらの元素の原子数と、を示す表。
【図3】モノアイソトピック質量が250.0ダルトンで最大7種類の特定元素を含有する有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数と、この有機化合物の分子中に存在可能なこれらの元素の原子数と、を示す表。
【図4】モノアイソトピック質量が500.0ダルトンで最大7種類の特定元素を含有する有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数と、この有機化合物の分子中に存在可能なこれらの元素の原子数と、を示す表。
【図5】本発明の一実施例において、試料を気相でイオン源に導入する様子を示す説明図。
【図6】キャピラリー管をさらに備える本発明の別の実施例を示す説明図。
【図7】本発明の他の実施例において、試料をイオン化してイオンビームの形でイオン源に導入する様子を示す説明図。
【図8A】本発明の他の実施例において、試料をイオン化してイオンビームの形でイオン源に導入した後、イオンビームが加熱された反応性表面に入射される様子を示す説明図。
【図8B】本発明の他の実施例において、試料をイオン化してイオンビームの形でイオン源に導入した後、イオンビームが加熱された反応性表面に入射されることなく、イオン源を透過する様子を示す説明図。
【図9】加熱された反応性表面が存在しない状態で、70eVの電子を用いた電子衝撃イオン化により得られたアセトフェノンの質量スペクトルを示す図。
【図10A】アセトフェノンの存在下で銅/酸化銅表面を200℃から700℃に加熱した際の質量対電荷比44(二酸化炭素)のクロマトグラムを示す図。
【図10B】アセトフェノンの存在下で銅表面を200℃から700℃に加熱した際の質量対電荷比44(二酸化炭素)の対応するクロマトグラムを示す図。
【図11A】銅/酸化銅表面を約325℃まで加熱した際のアセトフェノンのバックグラウンド除去スペクトルを示す図。
【図11B】銅表面を約325℃まで加熱した際のアセトフェノンの対応するバックグラウンド除去スペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0115】
本発明の実施例を以下説明する。図1に、モノアイソトピック質量(主同位体のみからの精密質量)が250.000ダルトンの有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数を示す。カラムAには、分子中に存在する可能性があると考えられる元素である炭素、水素、酸素、窒素、イオウ、リン、フッ素、塩素及び臭素の最小原子数と最大原子数の一覧を示す。また、ミリダルトン(mDa)及びppm(パーツ・パー・ミリオン)で表現される所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧も示す。1個から20個の範囲の炭素原子、最大40個の水素原子、最大10個の酸素原子、最大10個の窒素原子、最大10個のイオウ原子、最大10個のリン原子、最大10個のフッ素原子、最大10個の塩素原子、最大10個の臭素原子を含む分子のモノアイソトピック質量を算出した値をカラムAに示す。モノアイソトピック分子量が250.000ダルトンで+/−0.300Daの質量検索ウィンドウ内に入る分子の元素組成数の算出値は10,823であった。同様に、+/−0.050Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は4,827であり、+/−0.020Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は2,007であり、+/−0.010Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は1,005であり、+/−0.005Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は502であり、+/−0.002Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は216であり、+/−0.001Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は108であった。この結果から明らかなように、イオン質量の測定精度が上がると、質量検索ウィンドウを小さくすることができ、元素組成数を減らすことがができる。
【0116】
図1で検討対象とした元素に関して、公称質量が250Daの任意の分子の最大質量及び最小質量は、250.000+/−0.300Daの範囲内に入ると考えられる。したがって、+/−0.3Daの質量検索ウィンドウを用いて算出する場合には、250Daの公称質量を有する分子を生成可能ないかなる元素組成も除外することはできない。+/−0.05Daの検索ウィンドウを用いる場合には、可能な元素組成の約半分を除外することができ、+/−0.02Daの検索ウィンドウを用いる場合には、可能な元素組成の約80%を除外することができる。
【0117】
質量分析計の中には、約+/−1ppm(+/−1の標準偏差すなわち68%の信頼性に対応)の精度でイオン質量を測定可能なものもある。約+/−1ppmの質量精度(68%の信頼性)を実現するために十分な試料と十分な時間がある場合には、+/−4ppmすなわち+/−0.001Daの質量検索ウィンドウを設定することができる。この場合には、可能な元素組成数を108まで減らすことができる。ただし、可能な元素組成数が108というのは、たった1つの可能な元素組成を決めるという目標の達成にはほど遠い。
【0118】
塩素と臭素は、同じく検討対象となっている他の元素とは、同位体比が大きく異なっている。塩素の同位体比Cl35/Cl37は約3であり、臭素の同位体比Br79/Br81は約1である。このため、塩素原子及び/又は臭素原子が分子中に存在するか否かの判定が可能である場合が多い。塩素原子及び/又は臭素原子が分子中に存在する場合には、分子イオンの同位体比を測定することにより、一分子当たりのこれらの元素の原子数を求めることができる。図1のカラムBには、分子中に存在すると考えられる上記と同様の元素の最小原子数と最大原子数の一欄と、ミリダルトン(mDa)及びppm(パーツ・パー・ミリオン)で表現される所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧と、を示す。この例では、分子の同位体分布を測定した結果、分子には塩素原子や臭素原子が含有されていない、と仮定した。このように仮定すると、塩素や臭素を入れて算出した結果と比較して、可能な元素組成の数を、質量検索ウィンドウ毎に、約半分にすることができる。
【0119】
イオウは、塩素や臭素ほど特徴的ではないが、比較的特徴的な同位体比を有している。イオウの同位体比S32/S34は約22.5であり、分子イオンの同位体比を注意深く測定することにより、分子中にイオウ原子が存在するか否か、また、存在する場合には、どのくらいの数存在するかの判定が可能になる。図1のカラムCには、分子中に存在すると考えられる上記と同様の元素の最小原子数と最大原子数の一欄と、所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧と、を示す。この例では、分子の同位体分布を注意深く測定した結果、分子には塩素原子や臭素原子が含有されない一方で、1個から3個のイオウ原子が含有される、と仮定した。このように仮定すると、可能な元素組成の数を、質量検索ウィンドウ毎に、さらに約半分にすることができる。
【0120】
この場合、質量を正確に測定でき、かつ、検索ウィンドウを+/−4ppmすなわち+/−0.001Daに設定できた場合には、可能な元素組成数を30まで減らすことができる。これは、最初に算出した可能な元素組成数である108よりもかなり少ないが、それでも、たった1つの可能な元素組成を決めるという目標には届いていない。
【0121】
図2に示す表は、図1に示す表と同様のものであるが、モノアイソトピック質量が500.000ダルトンの有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数を示す。図1と同様に、図2のカラムAには、分子中に存在すると考えられる元素である炭素、水素、酸素、窒素、イオウ、リン、フッ素、塩素及び臭素の最小原子数と最大原子数の一覧と、ミリダルトン(mDa)及びppm(パーツ・パー・ミリオン)で表現される所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧と、を示す。1個から40個の範囲の炭素原子、最大80個の水素原子、最大10個の酸素原子、最大10個の窒素原子、最大10個のイオウ原子、最大10個のリン原子、最大10個のフッ素原子、最大10個の塩素原子、最大10個の臭素原子を含む分子のモノアイソトピック質量を算出した値をカラムAに示す。モノアイソトピック分子量が500.000+/−0.600Daの分子の元素組成数の算出値は534,676であった。また、モノアイソトピック分子量が500.000+/−0.001Daの分子の元素組成数の算出値は1828であった。この結果から明らかなように、質量測定の許容誤差が同じならば、分子の質量が増加するにつれて、可能な元素組成の数が急激に増大する。
【0122】
図2で検討対象とした元素に関して、公称質量が500Daの任意の分子の最大質量及び最小質量は、500.000+/−0.600Daの範囲内に入ると考えられる。したがって、+/−0.6Daの質量検索ウィンドウを用いて算出する場合には、500Daの公称質量を有する分子を生成可能ないかなる元素組成も除外することはできない。約+/−1ppm(+/−1の標準偏差すなわち68%の信頼性に対応)の精度でイオン質量を測定可能な場合には、質量検索ウィンドウを+/−4ppmすなわち+/−0.002Daに設定することは無理なことではない。この場合には、可能な元素組成の数を3662まで減らすことができる。
【0123】
図2のカラムBには、分子中に存在すると考えられる上記と同様の元素の最小原子数と最大原子数の一欄と、所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧と、を示す。この例では、分子の同位体分布を測定した結果、分子には塩素原子や臭素原子が含有されていない、と仮定した。このように仮定すると、塩素や臭素を入れて算出した結果と比較して、可能な元素組成の数を、質量検索ウィンドウ毎に、約4分の1から約3分の1にすることができる。
【0124】
図2のカラムCには、分子中に存在すると考えられる上記と同様の元素の最小原子数と最大原子数の一欄と、所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧と、を示す。この例では、分子の同位体分布を注意深く測定した結果、分子には塩素原子や臭素原子が含有されない一方で、0個から3個のイオウ原子が含有される、と仮定した。このように仮定すると、可能な元素組成の数を、質量検索ウィンドウ毎に、さらに減らすことができるが、減少率は約20%に過ぎない。
【0125】
この場合、質量を正確に測定でき、検索ウィンドウを+/−4ppmすなわち+/−0.002Daに設定できた場合には、可能な元素組成数を989まで減らすことができる。これは、最初に算出した可能な元素組成数である3662よりもかなり少ないが、それでも、たった1つの可能な元素組成を決めるという目標の達成にはほど遠い。
【0126】
図3及び図4に示す表は、質量測定値がそれぞれ250.000Da及び500.000Daの分子に関する同様の表であるが、これらの表には、本明細書に記載する本発明の好適な実施例に従って測定を行なった結果、分子中に含まれるさまざまな元素の相対原子数をより狭い範囲で決定した場合のカラムが含まれる。
【0127】
図3の表は図1の表と同様のものであり、図3のカラムB及びカラムCは、それぞれ、図1のカラムB及びカラムCのデータと同一である。図3のカラムDには、炭素、水素、窒素、イオウ及びリンの相対原子数を約+/−40%の精度で求めた場合のデータの一欄を示す。すなわち、各分子に含まれる炭素原子の数が5個から10個の範囲、水素原子の数が8個から14個、窒素原子及びイオウ原子の数がそれぞれ1個から3個、リン原子の数が1個から2個であると仮定した。また、本発明の好適な実施例に従う測定の結果、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子は分子中に存在しないと仮定した。分子中に含まれる酸素原子の数に関しては、新たな仮定は加えられていない。この場合には、公称質量の測定結果から算出される可能な元素組成の数でも、たった27に過ぎない。約+/−2ppm(+/−1の標準偏差すなわち68%の信頼性に対応)の精度で質量の測定が可能であれば、+/−8ppmすなわち+/−0.002Daに質量検索ウィンドウを設定でき、元素組成を一意に決定することが可能になる。この場合に決定される元素組成は、250.0000ダルトンの質量を有するC7H11N2O2PS2である。
【0128】
上記の仮定では、分子中に含まれる他の元素の相対原子数を求めるために、分子は完全に酸化又は燃焼された、と仮定しているため、分子中に含まれる酸素原子の数の範囲を狭めることはできなかった。しかし、必要に応じて、分子を完全にフッ素化して、分子中に含まれる酸素原子の相対数を求めることもできる。図3のカラムDには、存在する酸素原子の総対数を求めるための測定を行なった場合、すなわち、分子に1個から3個の範囲で酸素原子が含まれると仮定した場合のデータの一欄を示す。この場合には、公称質量の測定結果から算出される可能な元素組成の数は、たった16に過ぎない。ただし、この新たな情報を加えても、実際の元素組成を一意に決定するために必要な質量測定の要求精度は変わらない。
【0129】
図4の表は図2の表と同様のものであり、図4のカラムB及びカラムCは、それぞれ、図2のカラムB及びカラムCのデータと同一である。図4のカラムDには、炭素、水素、窒素、イオウ及びリンの相対原子数を約+/−30%の精度で求めた場合のデータの一欄を示す。すなわち、各分子に含まれる炭素原子及び水素原子の数がそれぞれ13個から22個の範囲、窒素原子及びリン原子の数がそれぞれ2個から5個、イオウ原子の数が1個から2個であると仮定した。また、本発明の好適な実施例に従う測定の結果、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子は分子中に存在しないと仮定した。分子中に含まれる酸素原子の数に関しては、新たな仮定は加えられていない。この場合には、公称質量の測定結果から算出される可能な元素組成の数は183である。約+/−1ppm(+/−1の標準偏差すなわち68%の信頼性に対応)の精度で質量の測定が可能であれば、+/−4ppmすなわち+/−0.002Daに質量検索ウィンドウを設定でき、可能な元素組成数の算出値を7まで減らすことができる。これは、先に説明した最適条件下における可能な元素組成数の算出値である989よりもかなり少ないが、それでも、元素組成を一意に決定することはできない。
【0130】
図4のカラムEには、約+/−15%という、より高い精度で炭素及び酸素の相対原子数を求めた場合のデータの一欄を示す。すなわち、各分子に含まれる炭素原子及び水素原子の数をそれぞれ15個から20個の範囲と仮定した。この場合、分子に含まれる窒素原子とリン原子の数はそれぞれ2個から5個、また、イオウ原子の数は1個から2個と、先の仮定と変わらない。この場合には、公称質量の測定結果から算出される可能な元素組成の数は60である。約+/−1ppm(+/−1の標準偏差すなわち68%の信頼性)の精度で質量の測定が可能であれば、+/−4ppmすなわち+/−0.002ダルトンに質量検索ウィンドウを設定でき、可能な元素組成数の算出値を2まで減らすことができる。検索ウィンドウを+/−2ppmすなわち+/−0.001ダルトン(+/−2の標準偏差すなわち95%の信頼性に対応)に設定できれば、元素組成を一意に決定することが可能になる。この場合に決定される元素組成は、500.0000ダルトンの質量を有するC17H17N3O7P3Sである。
【0131】
上述の例から、分子の正確な質量測定、分子中に存在する元素の種類を特定する測定、及び、分子中に存在する様々な元素の相対原子数近似値の測定を組み合わせることにより、有機分子の元素組成を一意に決定できることがわかる。分子の質量の増加に伴い、分子の元素組成を一意に決めるために必要となる分子質量の要求測定精度及び分子中に存在する様々な元素の相対原子数近似値の要求決定精度が増大する。
【0132】
本発明の好適な実施例の電子衝撃イオン化源を図5を参照して説明する。試料は、試料導入用キャピラリー管2を介して、イオン源のソースチャンバ1に、気相で導入される。イオン源は、さらに、電子ビーム3と、イオン出射孔5を有する出射板4と、修飾されたイオン反射電極6と、を備える。電子ビーム3は、望ましくは電子の移動方向に維持される(図示しない)磁場によって閉じ込められていることが望ましい。また、イオン反射電極6を修飾して、酸化銅(CuO)及び/又は酸化ニッケル(NiO)及び/又は酸化亜鉛(ZnO)などの1種類以上の酸化剤でその表面を被覆することが望ましい。イオン反射電極6は、望ましくは、さらに、イオン反射電極6を加熱するための発熱素子7を備える。一実施例において、イオン反射電極6の表面をフッ素化剤などの1種類以上の化学薬品で被覆するようにしてもよい。
【0133】
真空の外側チャンバ内に設置された試料導入用キャピラリー管2を介して、試料をソースチャンバ1内に導入する構成が望ましい。試料を直接ソースチャンバ1内に導入してもよいし、ヘリウム等のキャリアガスを用いて導入してもよい。イオン反射電極6の高温酸化表面に晒された試料が酸化されることによって、試料分子中に含有される元素の酸化物が生成される。たとえば、有機分子中に含まれる炭素が、1種類以上の炭素酸化物、望ましくは二酸化炭素に変換される。同様に、水素は水に、窒素は1種類以上の窒素酸化物に変換される。また、イオウは1種類以上のイオウ酸化物(たとえば、二酸化イオウ)に、リンは1種類以上のリン酸化物に変換される。さらに、フッ素は1種類以上のフッ化酸素(たとえば、二フッ化酸素)に、塩素は1種類以上の塩素酸化物(たとえば、二酸化塩素)に変換される。臭素は、1種類以上の臭素酸化物又は遊離臭素に変換される。酸化処理で得られた分子を電子ビーム3を用いた電子衝撃イオン化によりイオン化して、得られたイオンをイオン出射孔5を介してソースチャンバ1から抽出した後、質量分析計に送って、質量分析を行なう。
【0134】
イオン源の下流側の質量分析計は、たとえば、四重極マスフィルタ又は四重極イオントラップを備えるものでもよい。ただし、複数種類のプロダクトイオン(生成イオン)がほぼ同じ公称質量を有する可能性もあるので、高分解能質量分析計が特に望ましい。たとえば、二酸化炭素(CO2)と亜酸化窒素(N2O)の公称質量はいずれも44である。ただし、正確な質量は、それぞれ、43.990と44.001であるため、質量分解能が4000あればこれらのイオンの識別が可能である。好適な実施例において、二重収束磁場型質量分析器、飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析器、直交加速飛行時間型(orthogonal acceleration Time of Flight:oa−TOF)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance:FT−ICR)質量分析器、又は、オービトラップ型(Orbitrap:RTM)質量分析器等のフーリエ変換(Fourier Transform)静電トラップ型質量分析器等を、高分解能質量分析計として用いることができる。特に、飛行時間型(TOF)、FT−ICR及びオービトラップ型(RTM)の装置は、並列検出が可能であり、質量スペクトルを非常に高感度で記録可能なため、好適である。
【0135】
好適な実施例において、ソースチャンバ1を加熱することが望ましく、さらに詳しくは、少なくとも400℃まで加熱することが望ましい。非常に低い圧力に維持される真空チャンバ内にソースチャンバ1を収容することが望ましい。真空度を、10-6mbar以下の圧力、好適には10-7mbar以下の圧力、より好適には10-8mbar以下の圧力、もっと好適には10-9mbar以下の圧力に維持することが望ましい。高真空にすれば、マススペクトルに影響を与え、試料の酸化に起因するピークに干渉する恐れのある残留バックグラウンドガスの圧力を最小限にすることができるため望ましい。特に、水のバックグラウンド圧力は、有機化合物の酸化により生成される水の信号に干渉する。ヘリウム等のキャリアガスをパージガスとして用いて、ソースチャンバ1から残留バックグラウンドガスを除くことが望ましい。パージガスとして用いるキャリアガスは、高純度の乾燥したガスが望ましい。
【0136】
酸化剤はゆっくりと変性する可能性があるため、本発明の一実施例において、酸化表面を定期的に再充填するようにしてもよい。この場合、酸化表面を適当な温度に維持した状態で、試料又はパージガスの導入管2を介して、所定期間、酸素を導入することにより再充填するようにしてもよい。いったん真空を解除すると、真空状態を回復させるためにかなりの時間がかかるため、この再充填方法は、電極を真空チャンバから取り出して再充填する方法よりも望ましい。
【0137】
得られた質量スペクトルを解析することにより、生成すべき有機化合物の元素組成を近似的に決めることが可能になる。一実施例において、残留バックグラウンドガスに起因するバックグラウンドスペクトルを引いて、有機化合物の酸化に起因する真のスペクトルを求めるようにしてもよい。必要に応じて、適当な基準物質又は標準を用いて、イオン化源及び質量スペクトルに含まれる各成分に対する質量分析器の応答のキャリブレーション(較正)を行なう。このようなキャリブレーションを行なうことにより、各成分に対する応答因子を求めることができ、この結果、さまざまな応答因子に対して各測定値の補正を行なうことが可能になる。元素組成が近似的に決まれば、有機化合物の分子の質量測定値、望ましくは、有機化合物の正確な質量測定値と、この情報とを組み合わせて、有機化合物の元素組成を最終的に決定することができる。
【0138】
図5に示す本発明の実施例の電子衝撃イオン化イオン源は、加熱可能なように修飾されたイオン反射電極6を備える。電極6は、その表面に、酸化銅等の酸化剤を備える。このような構成により、有機物質である試料の一部は、高温酸化表面6に衝突した後に酸化されるのではなく、電子衝撃により直接イオン化される。
【0139】
図6に、試料を電子衝撃イオン化により直接的にイオン化するのではなく、試料を高温酸化表面に衝突させる構成の別の実施例を示す。この実施例のイオン源は、ソースチャンバ1と、試料導入用キャピラリー管2と、電子ビーム3と、イオン出射孔5を有する出射板4と、を備える。電子ビーム3は、望ましくは電子の移動方向に維持される(図示しない)磁場によって閉じ込められていることが望ましい。試料は、気相で導入され、加熱された酸化表面8に向けて入射される。酸化表面8は、酸化銅(CuO)及び/又は酸化ニッケル(NiO)及び/又は酸化亜鉛(ZnO)などの1種類以上の酸化剤を備えるものでもよい。酸化表面は、多孔質表面構造でも焼結表面構造でもよい。この実施例において、加熱された酸化表面は、ディスペンサー型カソードと同様な形態で、少なくとも800℃、より好適には950℃以上に加熱されることが望ましい。ただし、ディスパンサー型カソードが主に熱的放出電子源として作用するように構成されているのに対して、加熱表面8は、表面に衝突した任意の有機分子を酸化させるのが主な目的であるという違いがある。
【0140】
図6に示す実施例が、別のキャピラリー管9を備え、必要に応じて、必要な時に加熱酸化表面8の再充填をするために酸素を供給する構成としてもよい。この別のキャピラリー管9を用いて、ヘリウム等のパージガスを送り、残留バックグラウンドガスの量を減少させるようにしてもよい。あるいは、別のガス導入用キャピラリー管9を用いて、酸化ガスとパージガスの混合ガスを導入するようにしてもよい。
【0141】
図7に示す別の実施例は、図6に示す実施例と類似の構成であるが、有機試料物質が酸化の前にイオン化されているという違いがある。試料は、イオンビーム10の形で加熱酸化表面8に導入される。イオンビーム10のほぼ全体が加熱酸化表面8に衝突するように、イオンビーム10を集束させるようにしてもよい。最適な又は所望の衝突速度で加熱酸化表面8にイオンが衝突するように、イオンエネルギーを変化させる又は制御するようにしてもよい。また、必要なイオンビーム集束、イオン画像サイズ及び衝突のイオンエネルギー又は速度が得られるように、ソースチャンバ1、加熱酸化表面8を形成する修飾ディスペンサー型カソード8、及び、(図示しない)有機試料イオン源における電位を調節するようにしてもよい。
【0142】
イオンビーム10の形の有機試料物質を導入することにより、本発明の好適な実施例に従い分析可能な被分析種の範囲及び多様性を著しく増大させることができる。有機物質の化学的極性、揮発性及び安定性に関係なく、ほぼすべての有機物質をイオン化して、真空チャンバを透過させることが可能である。図5及び図6に示す実施例の場合、イオン源に有機物質を気相で導入するためには、有機物質が適度に揮発性で安定であり、化学的極性がゼロか低い必要がある。一方、図7に示す実施例のように、ソースチャンバ1内に有機物質を導入する前に有機物質をイオン化する場合には、このような制限はない。
【0143】
有機試料の特性に応じて、以下に挙げる真空で利用可能なイオン化法のうち1種類以上のイオン化法で試料物質をイオン化するようにしてもよい。電子衝撃(Electron Impact:EI)イオン化、光イオン化(Photo Ionization:PI)、電界イオン化(Field Ionization:FI)、電界脱離(Field Desorption:FD)イオン化、化学イオン化(Chemical Ionization:CI)、高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment:FAB)イオン化、表面イオン化質量分析(Surface Ionization Mass Spectrometry:SIMS)イオン化、液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry:LSIMS)イオン化、及びプラズマ脱離(Plasma Desorption:PD)イオン化。さらに、サーモスプレーイオン化、レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionization:LDI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization:MALDI)、及びシリコンを用いた脱離イオン化(Desorption Ionization on Silicon:DIOS)も利用可能である。
【0144】
また、有機試料の特性に応じて、ほぼ大気圧における1種類以上のイオン化法で試料物質をイオン化するようにしてもよい。たとえば、エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization:ESI)、大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization:APCI)、大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionization:APPI)、大気圧レーザー脱離イオン化(Atmospheric Pressure Laser Desoprtion Ionization:AP−LDI)、大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desoprtion Ionization:AP−MALDI)、脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorption Electrospray Ionization:DESI)、リアルタイムでの直接分析(Direct Analysis in Real Time:DART)、大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionization:API)、Ni63イオン化及び大気圧で利用可能な他のサンプリング及びイオン化手法を用いることができる。
【0145】
試料がさまざまな有機化合物の混合物である場合には、必要に応じて、イオン化の前に、成分の分離を行なう。分離手法としては、たとえば、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、キャピラリー電気泳動(CE)、キャピラリー電気泳動クロマトグラフィー(Capillary Electrophoresis Chromatography:CEC)、イオン移動度分離(Ion Mobility Separation:IMS)、微分移動度分離(Differential Mobility Separation:DMS)、及び電界非対称イオン移動度分離(Field Asymmetric Ion Mobility Separation:FAIMS)やイオン化源に直接結合可能なその他の手法を用いることができる。エレクトロスプレーイオン化や大気圧化学イオン化等のイオン化手法により大気圧で試料をイオン化して、得られたイオンを質量分析計の第1の真空チャンバに送るという処理プロセスは、液体クロマトグラフィー及びキャピラリー電気泳動と質量分析法とを組み合わせるためのものとして知られている。有機試料が溶液の場合には溶媒を取り除く必要があるが、この処理プロセスを用いれば、質量分析計で分析をする前に有機試料物質から溶媒を取り除かなくてはならないという問題がなくなる。
【0146】
有機試料物質を加熱酸化表面8で酸化する前にイオン化することの利点として、さらに、イオンビーム10を、分析する前に、質量対電荷比及び/又はイオン移動度でフィルタリング可能であることが挙げられる。イオン源が、多くの異なるイオン種を含む場合もある。この場合には、四重極マスフィルタ、磁気セクタ、ウィーン(Wien)フィルタ等のマスフィルタを用いて、対象となる1つのイオン種だけを選択するようにしてもよい。さらに、必要に応じて、対象となるイオン種から1つの同位体ピークだけを選択するようにしてもよい。各同位体を選択することができれば、有機分子の酸化又はフッ素化生成物の質量スペクトルの解釈を明瞭に行なうことができる。
【0147】
有機試料物質を加熱酸化表面8で酸化する前にイオン化することの利点として、さらに、イオンビーム10をまずフラグメント化(断片化)して1つ以上の特徴的なフラグメント(断片)、娘イオン又はプロダクトイオン(生成イオン)を生成可能なことが挙げられる。フラグメントやプロダクトイオンはそれ自体が分析対象となる。フラグメントやプロダクトイオンの質量を正確に測定すると共に、本明細書に記載する好適な方法で元素分析を行なうようにしてもよい。このようなフラグメントやプロダクトイオンのような種は、他の手法では分析することができないため、元素分析にかけることができるのは、特に大きな利点である。イオンをフラグメント化する方法としては、望ましくはRFイオンガイドによる径方向のイオン閉じ込めを行なう、ガス衝突セル内での衝突誘起解離(Collisional Induced Dissociation:CID)が挙げられる。また、電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation:ECD)、電子移動解離(Electron Transfer Dissociation:ETD)、表面誘起解離(Surface Induced Dissociation:SID)や試薬原子、分子、イオン及び/又は準安定原子、準安定分子及び準安定イオンを利用するその他の周知の方法により、イオンのフラグメント化を行なうようにしてもよい。本発明の好適な実施例において、試料イオンのフラグメント化に続いて、分析する前に、質量対電荷比及び/又はイオン移動度に応じて1つのフラグメント、娘イオン又はプロダクトイオンを選択する構成も望ましい。四重極マスフィルタ、磁気セクタ、ウィーン(Wien)フィルタ等のマスフィルタを用いて、対象となる1つのイオン種のみを選択するようにしてもよい。これに代えて、又は、これに加えて、イオン移動度分離器を用いて、分析する前に、対象となるイオンを選択するようにしてもよい。
【0148】
図8A及び図8Bに、加熱酸化表面13及び14に2つの修飾ディスペンサー型カソードを適用する構成の他の実施例を示す。試料をイオン化して、イオンビーム11として導入すると、運転モードで、イオンビーム11が装置内をまっすぐに透過する構成でもよい(図8B参照)。あるいは、イオンビームが加熱酸化表面13の一表面に向かう構成でもよい(図8A参照)。イオン源は、望ましくは、加熱ソースチャンバ1と、(図示しない)軸方向磁場により径方向に閉じ込め可能な電子ビーム3と、イオン出射孔5を有するイオン出射板4と、酸素及び/又はヘリウム等のパージガスを導入するためのガス導入用キャピラリー管9と、イオン入射孔を有するイオン入射板15と、イオンビーム集束及び偏向電極対12と、加熱酸化表面を構成する2つの修飾ディスペンサー型カソード13及び14と、を備える。
【0149】
図8Aに示す構成では、分析対象の有機物質は、イオン化され、イオン入射孔を介してソースチャンバ1に導入される。得られたイオンは、集束された後、電極12により修飾ディスペンサー型カソード13の加熱酸化表面に向けられる。イオン源に適当な電圧を印加することにより、イオンビーム11を修飾ディスペンサー型カソード13に偏向させるようにしてよもい。たとえば、イオン入射板15及び/又はフォーカス(集束)/ステアリング電極12及び/又は2つの修飾ディスペンサー型電極表面13及び14及び/又はソースチャンバ1に、適当な電圧を印加するようにしてもよい。イオン入射板15及び/又はフォーカス/ステアリング電極12及び/又は電極表面13及び14及び/又はソースチャンバ1に印加される電圧を適切に調節することにより、加熱酸化表面13及び14にかかるイオン衝突エネルギー又はイオン衝突速度を制御又は最適化するようにしてもよい。加熱酸化表面13及び14は、酸化銅等の酸化剤を備え、有機分子のイオンが表面に十分に長い間付着されて、分子の酸化に必要な時間が確保できるように、多孔質化又は焼結化されていることが望ましい。イオン衝突エネルギーは、酸化表面13及び14の表面層に有機イオンを注入し、また、酸化より前に有機イオンのフラグメント化を誘導するのに十分なエネルギーであることが望ましい。酸化生成物は、加熱表面13及び14の温度条件では気体である。得られた気体分子は、加熱表面から離れ、電子ビーム3による電子衝撃によりイオン化されるように、キャリアガス、望ましくはヘリウムと共に運ばれる。得られたプロダクトイオンは、イオン出射孔5を介してソースチャンバ1から放出され、質量分析計に送られて、質量分析が行なわれる。
【0150】
イオン源の下流側の質量分析計は、たとえば、四重極マスフィルタ又は四重極イオントラップを備えるものでもよい。ただし、複数種類のプロダクトイオン(生成イオン)がほぼ同じ公称質量を有する可能性もあるので、高分解能質量分析計が望ましい。高分解能質量分析計の例としては、二重収束磁場型質量分析器、飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析器、直交加速飛行時間型(orthogonal acceleration Time of Flight:oa−TOF)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance:FT−ICR)質量分析器、及び、オービトラップ型(Orbitrap:RTM)質量分析器等のフーリエ変換(Fourier Transform)静電トラップ型質量分析器が挙げられる。
【0151】
図8Bに示す構成では、分析対象の有機物質は、イオン化され、イオン入射孔11を介してソースチャンバ1に導入され、動作モードで、まっすぐにイオンチャンバ1を透過後、イオン出射孔5を介してイオンチャンバ1から放出される。放出されたイオンは、質量分析計に送られ、質量分析が行なわれる。有機試料イオンの質量又は質量対電荷比を、正確な質量測定が可能な質量分析計により、高精度で測定することが望ましい。このような質量分析計の例としては、二重収束磁場型質量分析器、飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析器、直交加速飛行時間型(orthogonal acceleration Time of Flight:oa−TOF)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance:FT−ICR)質量分析器、及び、オービトラップ型(Orbitrap:RTM)質量分析器等のフーリエ変換(Fourier Transform)静電トラップ型質量分析器が挙げられる。
【0152】
好適な一実施例において、イオン源のソースチャンバ1は、少なくとも400℃まで加熱され、非常に低い圧力に維持される真空チャンバに収容される構成が望ましい。たとえば、真空度を、10-7mbar(10-6kPa)以下の圧力、好適には10-8mbar(10-9kPa)以下の圧力、もっと好適には10-9mbar(10-10kPa)以下の圧力に維持するようにしてもよい。高真空にすれば、残留バックグラウンドガスの圧力、特に水の分圧を最小限にすることができるため望ましい。高純度で乾燥したヘリウム等のキャリアガスをパージガスとして用いて、イオン源のソースチャンバ1から残留バックグラウンドガスを除くことが望ましい。
【0153】
酸化された有機試料の質量スペクトルを解析することにより、生成すべき有機化合物の元素組成を近似的に決めることが可能になる。必要に応じて、残留バックグラウンドガスに起因するバックグラウンドスペクトルを引いて、イオン化効率、質量分析器の透過効率および検出効率の差に起因する種々の応答因子を考慮して、ピーク強度の測定値を補正する。近似的に決められた元素組成を、対象となる有機化合物の質量又は質量対電荷比の測定値、望ましくは、質量又は質量対電荷比の正確な測定値と組み合わせることにより、有機化合物の元素組成を最終的に決定することができる。
【0154】
図8A及び図8Bに示す実施例の利点は、有機試料分子の質量又は質量対電荷比の測定と、元素組成を近似的に求めるための有機試料分子の酸化生成物の分析と、に同じ質量分析計を利用可能なことである。質量分析計が、上述したような大気圧又は真空で用いられる1つ以上のイオン化源を備えるようにしてもよいし、また、上述したような1種類以上の分離手法と組み合わせるようにしてもよい。質量分析計は、図8A及び図8Bに示す好適な構成の酸化イオン源の上流側に、1つ以上のイオンガイド、1つ以上のイオンフラグメント化領域、1つ以上のマスフィルタ、1つ以上のイオン移動度分離器、又はこれらの組み合わせが配置される構成でもよい。好適な構成のイオン源1の下流側に望ましくは配置される質量分析計は、高質量分解能で正確な質量測定が可能なものが望ましい。
【0155】
図8A及び図8Bに示す実施例の他の利点は、装置が交互に用いることができる2つの修飾ディスペンサー型カソード13及び14を備えることである。ディスペンサー型カソード13及び14を、両方とも、加熱酸化表面を与えるように修飾してもよい。あるいは、一方の修飾ディスペンサー型カソード13又は14を加熱酸化表面を与えるように修飾し、他方の修飾ディスペンサー型カソード13又は14を異なった化学反応が可能になるように修飾してもよい。たとえば、有機分子をフッ素化するように、又は、有機分子を塩素化するように、第2の修飾ディスペンサー型カソード14を修飾するようにしてもよい。これにより、酸化のみでは十分な情報が得られず、1つ以上の質量数でバックグラウンド値が大きくなる場合に特に有効な、有機分子の第2の元素分析法を行なうことが可能になる。異なる化学薬品を用いることにより、もっと適した、及び/又は、もっと多くの情報が得られる種々のプロダクトイオンを生成することができる。生成されたプロダクトイオンは、質量の干渉及び/又はバックグラウンドの干渉がより少ないものである可能性がある。
【0156】
図9、図10及び図11に、図5に示すイオン源と同様のイオン源を用いて得られた質量スペクトルを示す。ステンレス鋼製イオン反射電極を端部径が5.8mmの銅製イオン反射電極6に置き換えることにより、GC(ガスクロマトグラフィー)TOF−MS質量分析計の電子衝撃(EI)イオン源を修飾した。図5に示すものと同様の構成でイオン反射電極6の本体内に発熱素子(ヒーター)を挿入可能なように、イオン反射電極6を修飾した。120mmの長さで0.25mmの直径のタンタル線を6穴セラミック管内を往復させて巻きつけることにより発熱素子(ヒーター)を形成した。ヒーター電流は、0アンペアから1.9アンペアの範囲で変動した。イオン反射電極6の電子ビーム3側端部と反対側の端部に熱電対を取り付けた。電子衝撃イオン源のソースチャンバ1を400℃の温度まで加熱した。イオン源のソースチャンバ1を400℃まで加熱すると、ヒーター電流が1.9アンペアの場合に、イオン反射電極6に取り付けた熱電対が約700℃の温度を検知した。このような条件下では、イオン反射電極6の電子ビーム3側端部の温度が700℃を超えると考えられる。
【0157】
質量分析計の真空系における有機分子の燃焼を調べるために、アセトフェノンを用いて実験を行なった。アセトフェノンは、室温で液体であるが、かなり揮発性が高く、100℃に加熱された真空容器に少量を導入すると気体になる。図9に、本発明の一実施例に従い、70eVの電子を用いた電子衝撃(EI)イオン化によりアセトフェノンをイオン化した際に得られたアセトフェノンの質量スペクトルを示す。イオン源の温度が200℃で、銅製イオン反射電極6を350℃に加熱した条件でスペクトルを記録した。この図からわかるように、アセトフェノンの電子衝撃スペクトルは、質量対電荷比44又は質量対電荷比28にピークが存在しない。
【0158】
銅製イオン反射電極6に酸化銅(CuO)表面を形成するために、通常はCI(化学イオン化)試薬ガスを導入するために用いるガス導入管から酸素をイオン源1に導入した。真空下における酸化銅の熱分解温度は、大気圧における熱分解温度よりも有意に低いことが知られている(Thermal decompsoition of cupric oxide in vacuo(真空での酸化銅の熱分解):Proc.Phys.Soc.,B70,1005-1008,1957参照)。このため、真空下で銅が効率的に酸化されるという保証はない。したがって、銅表面を酸化するために、温度を変えて、低圧の酸素ガスに銅表面を晒した。真空ハウジング内に設置したペニングゲージ(真空計)で測定した酸素の圧力は10-5mbarであり、イオン源のソースチャンバ1内の酸素圧力は約10-3mbarであると推定された。イオン源のソースチャンバ1とイオン反射電極6とを約400℃で約1時間加熱した後、温度を約300℃に低下させて1時間保持し、さらに、温度を約200℃に低下させて1時間保持した。その後、イオン源への酸素ガスの流入を停止させた。
【0159】
加熱された細いキャピラリー管2を介して、アセトフェノン(C8H8O)を加熱容器からイオン源1に連続的に導入した。イオン源のソースチャンバ1を200℃に保持した。銅/酸化銅イオン反射電極6を約20分の時間をかけて200℃から700℃まで徐々に加熱しながら、2秒毎にスペクトルを記録した。
【0160】
図10Aに、質量対電荷比が44の二酸化炭素の実験中のプロファイルを示す。スキャン数90に対応する時点でアセトフェノンを導入し、スキャン数150に対応する時点における0.8アンペアからスキャン数750に対応する1.9アンペアまでヒーター電流を段階的に増加させた。その後、さらに10分間、ヒーター電流を1.9アンペアで保持した。アセトフェノン導入後すぐに、二酸化炭素に対応する小さな信号が現れた。イオン反射電極6を加熱すると、このイオン電流の信号は増大し、スキャン数215で最大値に達した。この時点におけるイオン反射電極6の温度は約325℃であった。二酸化炭素信号は、その後、減少し、スキャン数500に対応する時点で約0になった。この時点におけるイオン反射電極6の温度は約500℃であった。
【0161】
図11Aに、二酸化炭素信号の強度が最大になった時間におけるバックグラウンド除去スペクトルを示す。二酸化炭素信号がゼロまで減衰した時点である実験終了時のバックグラウンドスペクトルを引くことにより、このバックグラウンド除去スペクトルが得られた。したがって、図11Aは、イオン源1で二酸化炭素が生成される場合のスペクトルと生成されない場合のスペクトルの差スペクトルを示す。
【0162】
比較のために、銅製イオン反射電極6を酸化するために酸素を導入する工程を除いて、同じ実験を繰り返した。この実験で得られた、対応する二酸化炭素のプロファイルを図10Bに、また、対応するバックグラウンド除去スペクトルを図11Bに示す。酸化工程を省略した以外は、第1の実験と同じ工程で実験を行ない、スキャン数に対するイオン反射電極のヒーター電流も同じようにプログラムした。図10Bのクロマトグラムと図11Bのスペクトルは、それぞれ対応する図10Aのクロマトグラムと図11Aのスペクトルと同じスケールでプロットした。
【0163】
図10Aに示す二酸化炭素のクロマトグラムと図10Bに示す二酸化炭素のクロマトグラムとを比較することにより、非常に明白な挙動の差がわかる。図10Aのみに二酸化炭素の信号が存在することから、銅製イオン反射電極の表面が酸化されて200℃ないし400℃に加熱される場合に、アセトフェノンが少なくとも部分的に燃焼されて二酸化炭素が生成されることがわかる。
【0164】
図11A及び図11Bに示す2つのバックグラウンド除去スペクトルを比較することにより、明白な差がわかる。図11Bのスペクトルと比較して、図11Aのスペクトルでは、アセトフェノンの電子衝撃イオン化によるピークの減少が見られ(主に、質量対電荷比が120、105、77、51、50及び43)、逆に、質量対電荷比44では(二酸化炭素による)ピークが、また、質量対電荷比28では(一酸化炭素による)ピークが出現している。さらに、水の存在によるピークの増大が質量対電荷比18及び17で見られる。2つのスペクトルのこのような差異は、銅/酸化銅加熱表面が存在することにより、真空下で、アセトフェノンが部分的に炭素及び水素の酸化物に変換されたことを示している。
【0165】
大気圧での酸化銅の熱分解温度と比較して真空下での酸化銅の熱分解温度が低いことは、Goswami及びTrehanによる報告結果(Thermal decompsoition of cupric oxide in vacuo(真空での酸化銅の熱分解):Proc.Phys.Soc.,B70,1005-1008,1957)と一致する。真空下での熱分解温度がもっと高い他の酸化表面を用いるほうが好ましい場合もある。この方法で問題となるのは、水の存在に起因するバックグラウンド信号である。一実施例において、加熱されたフッ素化反応性表面を用いるようにすれば、この問題に対処可能である。
【0166】
本発明の好適な態様は、主に、より高い感度で、かつ、より高速に、有機化合物の元素組成を近似的に求める普遍的な手段を提供すること、及び、この情報を対象となる有機分子の質量の測定値と共に用いて、最終的に元素組成を決定すること、を目的としている。ただし、有機化合物に含まれる元素の同位体比の測定に本発明を適用することも好適である。有機化合物を望ましくは酸化して、構成元素の酸化物を生成し、これを質量分析にかける。あるいは、有機化合物をフッ素化又は塩素化するようにしてもよい。これにより、構成元素の同位体比の測定が可能になる。
【0167】
図7及び図8に示す本発明の実施例に従うイオン源は、酸化の前に有機試料をイオン化するため、非常に汎用的な有機分子の同位体分析方法を提供するものである。有機物質の化学的極性、揮発性及び安定性に関係なく、ほぼすべての有機物質をイオン化して、真空チャンバを透過させることが可能である。図5及び図6に示す実施例の場合、イオン源に有機物質を気相で導入するためには、有機物質が適度に揮発性で安定であり、一般に化学的極性がゼロか低い必要がある。一方、図7及び図8に示す構成のように、イオン源に有機物質を導入する前に有機物質をイオン化する場合には、このような制限はない。
【0168】
さらに、試料がさまざまな有機化合物の混合物である場合には、必要に応じて、イオン化の前に、成分の分離を行なう。分離手法としては、たとえば、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、キャピラリー電気泳動(CE)やその他周知の手法を用いることができる。エレクトロスプレーイオン化(ESI)や大気圧化学イオン化(APCI)等のイオン化手法により大気圧で試料をイオン化する処理プロセスは、液体クロマトグラフィー及びキャピラリー電気泳動と質量分析法とを組み合わせる方法として確立されている。この処理プロセスには、溶液の有機試料から溶媒を取り除く工程が組み込まれているため、構成元素の同位体比を分析する前に有機試料物質から溶媒を取り除かなくてはならないという問題がなくなる。
【0169】
同位体比の測定が必要となる用途の場合には、各々が測定対象となる同位体質量を検出するための複数の検出器を備える磁場型質量分析計を用いることが望ましい。この方法ならば、対象となるすべての同位体ピークを同時に測定することが可能である。ただし、四重極質量分析計や他の種類の質量分析計を用いて、同位体比測定を行なうこともできる。
【0170】
以上、本発明をその好適な実施例を参照して詳述したが、本発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、当業者には自明のことであるが、特許請求の範囲に記載される本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の形態及び態様において実施することが可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源、質量分析計、元素分析計、試料のイオン化方法、質量分析方法、及び、試料の元素分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計は、主に、未知の物質から生成されるイオンの質量対電荷比を求めて、物質の同定に役立つ情報を得るために用いられる。未知の物質が1つ以上の有機化合物を含む場合には、通常、これらの化合物の元素組成を決める必要がある。この情報は、未知の物質中に存在する有機化合物の同定に役立ち、かつ、多くの場合、必要不可欠である。
【0003】
有機化合物の質量を測定するだけでは、ほとんどの場合、化合物の元素組成を決定することはできない。炭素は、(有機化等物の最も一般的な構成元素である)水素、窒素、酸素、イオウ、リン、フッ素、塩素及び臭素のいずれか又はすべてと、多くの異なる比率で結合可能であるため、ある公称分子量を持つ有機化合物には多数の可能な元素組成が存在する。
【0004】
さまざまな元素のさまざまな同位体の質量は、ちょうどぴったり整数の質量値をもつわけではなく、その公称すなわち整数質量値に対して(+/−数百質量ユニットの単位で)小さなプラスマイナスがある。したがって、有機分子の正確な質量は、整数値ではなく、同じ公称すなわち整数質量値を有する他の有機分子の正確な質量と、通常は完全に一致するわけではない。分子量の測定を高精度で行なうことができれば、同じ公称すなわち整数質量値を有する多くの可能な元素組成を候補から除くことができる。質量の正確な測定可能な元素組成の数を減らすことができ、質量測定の精度が上がれば上がるほど、可能な元素組成の数を減らすことができる。
【0005】
分子イオンの同位体分布を調べることによっても、可能な元素組成の数を減らすことができる。たとえば、塩素及び臭素は、非常にわかりやすい同位体分布を有しているため、塩素及び/又は臭素が存在するか否かは、通常、容易に判定できる。塩素の同位体比Cl35/Cl37は約3であり、臭素の同位体比Br79/Br81は約1であるが、この2つの同位体比は、有機化合物中に普通に存在する他の元素の同位体比とは大きく異なっている。イオウも、また、比較的わかりやすい同位体分布を有している。イオウの同位体比S32/S34は約22.5であり、分子イオンの同位体比を注意深く測定することにより、分子中にイオウ原子が存在するか否か、また、存在する場合には、どのくらいの数存在するかの判定が可能な場合もある。ただし、対象となる分子に塩素及び臭素のいずれか又は両方が含有されている場合には、イオウが存在するか否かを判定することは非常に難しくなる。分子中に存在している可能性がある塩素原子及び臭素原子の数に関する情報、又は、塩素及び臭素が存在しない場合には分子中に存在している可能性があるイオウ原子の数の範囲に関する情報は、質量分析法による分析対象である未知の有機分子に関して可能な元素組成の数を減らすのに有用である。
【0006】
各分子に含まれている可能性のある塩素及び/又は臭素原子の数を求める、又は、塩素及び臭素が存在しない場合には各分子中に存在するイオウ原子の数を近似的に低い精度で求める以外、分子イオン同位体分布から、有機化合物中に普通に存在する他の元素の存在やその相対的な数に関する非常に有益な情報を得ることは非常に難しいし、不可能に近い。特に、フッ素及びリンには1つの同位体しか存在せず、また、水素、窒素、及び酸素の第2の同位体の存在度は非常に低いため、分子イオン同位体分布では、有機分子中におけるこれらの同位体の存在は明らかにならない。
【0007】
未知の有機化合物の元素組成の決定には、通常、必要に応じて他の手法が組み合わせて用いられる。たとえば、分子中に所定種類の元素が存在しているか否かを、元素分析を用いて決めることができる。
【0008】
いくつか周知の元素分析方法がある。一般的に用いられている元素分析計では、分析対象の試料を、使い捨てのスズ又はアルミニウムのカプセルに秤量する。秤量した試料を高温炉内に注入し、静止状態で純粋な酸素内で燃焼させる。燃焼期間の最後に、酸素の噴流を加えて、すべての無機物質及び有機物質を完全に燃焼させる。スズのカプセルを試料の容器として用いる場合には、最初の発熱反応で、燃焼温度が1800℃以上に上がる。
【0009】
得られた燃焼生成物を専用試薬に通して、元素状の炭素、水素及び窒素から二酸化炭素(CO2)、水(H2O)、窒素(N2)及び窒素酸化物を生成させる。また、この試薬により、ハロゲン、イオウ及びリン等、他の妨害物質もすべて取り除かれる。処理後の気体を銅に晒すことにより、余分な酸素が除かれ、窒素酸化物が元素状の窒素に還元される。
【0010】
処理後の気体混合物を、たとえば、ガスクロマトグラフィーにより分離、及び/または、所定の検出器を用いて分析、するようにしてもよい。各々が熱伝導性セル対を含有する高精度熱伝導率検出器を用いて、気体混合物を測定するようにしてもよい。最初の2つのセルの間に、水トラップを配置する。セル間の差分信号は、元々の試料に含まれる水素量の関数である水の濃度に比例する。次の2つのセルの間には、二酸化炭素トラップを配置する。最後に、ヘリウムを標準として用いて、窒素を測定する。
【0011】
イオウは、通常、燃焼試薬及び還元試薬を取り替えて、二酸化イオウとして別に測定される。酸素は、通常、白金メッキ炭素の存在下で、熱分解により別に測定される。酸素は、最終的には二酸化炭素として測定される。
【0012】
周知の元素分析計の感度は、質量分析計の通常の感度と比べて特に高いとはいえない。元素分析には、通常、1から5mgの試料が必要であり、炭素の含有量が低い場合には、もっと多くの試料が必要となる。分析時間はかなり長く、一般的に、炭素、水素及び窒素の分析に5分程度かかる。したがって、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーに直接接続して用いるのには、元素分析は時間がかかりすぎる。このため、分析する前に、試料を別に精製する必要がある。さらに、試料が溶液の場合には、液体クロマトグラフィーによる分離の場合と同様に、元素分析を行なう前に、試料を単離して、採取した後、再び溶媒に溶かす必要がある。
【0013】
最近開発されたガスクロマトグラフィー燃焼同位体比質量分析法(GCC−IRMS)は、有機物質の混合物をガスクロマトグラフィーで分離し、二酸化炭素、水、その他酸化物の形に燃焼後、同位体比質量分析法で13C/12C同位体比を測定する。ガスクロマトグラフィー用キャピラリーカラムからの流出物は、いったん電動弁に導入して、燃焼反応器が早々と干上がらないように、溶媒を残留物に分流する。キャピラリーカラムから溶出した被分析物を、酸化銅(CuO)、酸化ニッケル(NiO)又は酸化亜鉛(ZnO)等の酸化剤を充填したアルミナ又は石英の燃焼管に入れる。混合酸化剤を用いてもよいし、触媒物質を加えてもよい。たとえば、銅と白金とニッケルの撚線を燃焼管に充填するようにしてもよい。燃焼管は、通常、900℃ないし950℃に加熱され、酸素を定期的に再充填することにより、銅線の表面層を酸化銅に、ニッケル線の表面層を酸化ニッケルに変換する。燃焼完了後、流出物をナフィオン(RTM)製水トラップ又は極低温水トラップ内で乾燥させて、乾燥した流出物を同位体比質量分析計にかける。
【0014】
元素分析同位体比質量分析法(EA−IRMS)と比べて、GCC−IRMSで必要な被分析物の量は少なく、炭素量として、マイクロモルレベルに対してナノモルレベルである。また、気相の燃焼プロセスがミリ秒単位であるため、GCC−IRMSのほうが処理が速い。GCC−IRMSは、高速のGC検出に適しており、オンラインでの成分単離に便利である。しかし、この方法は、有機化合物中に普通に存在する元素すべての同位体比を測定できるわけではなく、同様の理由により、有機化合物の元素分析には適していない。
【発明の概要】
【0015】
すなわち、質量分析法を用いて有機化合物の正確な質量を測定しても、それ自体では、有機化合物の元素組成を決定することはできない場合が多い。元素組成の決定には、元素分析計を用いた測定から得られる情報等、別の測定から得られる情報が必要となる。ただし、元素分析計は、比較的感度が悪く、比較的測定に時間がかかる。大部分の試料がそうであるように、試料が有機化合物の混合物である場合、元素分析を行なう前に混合物中の化合物を単離する必要がある。元素分析計の処理速度が比較的遅いため、クロマトグラフィーにオンラインで接続することは難しい。さらに、液体クロマトグラフィーの場合には、液体クロマトグラフィーからの流出物質を元素分析計に導入する前に、溶媒を除去する必要がある。GCC−IRMSで用いられる方法ならば、ガスクロマトグラフィーにオンラインで接続することができ、感度を上げることもできるが、元素分析には適していない。また、GCC−IRMSで用いられる方法は、燃焼室内に流出物質を導入する前にすべての溶媒物質を除去する必要がある液体クロマトグラフィーには適していない。さらに、イオン化された有機分子の元素分析や、有機分子のフラグメント(断片)イオン、娘イオンや分解または反応プロダクトイオン(生成イオン)の元素分析に適した方法はない。
【0016】
したがって、有機化合物の元素組成を決定する、及び/又は、有機化合物内に存在する1つ以上の元素の同位体比を決定する装置及び方法が求められている。
【0017】
本発明の1つの態様は、イオン源であって、
ソースチャンバと、
ソースチャンバ内に設置される第1の装置であって、使用時にソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第1の装置と、を備える。
【0018】
試料は、望ましくは有機試料である。
【0019】
好適な実施形態において、試料分子又は試料イオンは、望ましくは加熱される第1の装置に衝突して燃焼されることが望ましい。試料分子又は試料イオンに含まれる元素の少なくとも一部は、完全に酸化される。すなわち、炭素は二酸化炭素分子に変換され、水素は水分子に変換される。
【0020】
本発明の別の態様は、装置であって、チャンバと、チャンバ内に設置されて、第1の装置に衝突する試料分子又は試料イオンを酸化、フッ素化、塩素化、又はハロゲン化するように配置及び構成される第1の装置と、を備える。ここで、チャンバ及び/又は第1の装置は、大気圧未満の圧力に、望ましくは10-5mbar(10-6kPa)以下の圧力に、維持される。大気圧に通常維持される従来の燃焼発生源と比べて、本発明の態様の装置は、かなり低い圧力に維持される。装置が、さらに、チャンバ内に電子ビームを備え、第1の装置による試料分子又は試料イオンの酸化、フッ素化、塩素化、又はハロゲン化の結果得られた気体生成物をイオン化する構成が望ましい。
【0021】
イオン源は、望ましくは、さらに、ソースチャンバ内に設置される第2の装置であって、使用時にソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第2の装置を備える。第2の装置は第1の装置と離間して配置され、あるいは、第1の装置の分離領域又は部分を備える構成が望ましい。
【0022】
本明細書で、「試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化する」という表現は、(一酸化炭素ではなく)二酸化炭素に完全に変換される炭素を含有する試料分子又は試料イオンを含むことを意味する。
【0023】
好適な実施形態において、望ましくは、ソースチャンバは、使用時に、(i)10-5mbar以下、(ii)10-6mbar以下、(iii)10-7mbar以下、(iv)10-8mbar以下、及び(v)10-9mbar以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置される。
【0024】
第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、試料を酸化するための1種類以上の酸化剤を備える。1種類以上の酸化剤は、(i)酸化アンチモン(Sb2O3)、(ii)酸化ヒ素(As2O5)、(iii)酸化コバルト(Co3O4)、(iv)酸化銅(CuO)、(v)酸化イリジウム(IrO2)、(vi)酸化鉄(Fe3O4)、(vii)四酸化三鉛(Pb3O4)、(viii)二酸化鉛(PbO2)、(ix)酸化パラジウム(PdO)、(x)酸化カリウム(K2O)、(xi)酸化ロジウム(Rh2O3)、(xii)酸化銀(Ag2O)、(xiii)過酸化ナトリウム(Na2O2)、(xiv)酸化テルル(TeO2)、(xv)酸化スズ(SnO)、(xvi)酸化クロム(iv)(CrO2)、(xvii)酸化クロム(Cr2O5)、(xviii)酸化ゲルマニウム(GeO)、(xix)酸化イリジウム(Ir2O3)、(xx)酸化鉛(Pb2O3)、(xxi)酸化マンガン(III)(Mn2O3)、(xxii)二酸化マンガン(MnO2)、(xxiii)酸化モリブデン(MoO2)、(xxiv)酸化ニッケル(Ni2O3)、(xxv)酸化白金(PtO)、(xxvi)酸化レニウム(IV)(ReO2)、(xxvii)酸化レニウム(VI)(ReO3)、(xxviii)酸化ルビジウム(Rb2O)、(xxix)酸化ルテニウム(RuO2)、(xxx)酸化タングステン(WO2)、及び(xxxi)酸化亜鉛(ZnO)、からなる群から選択される。
【0025】
好適な実施形態において、第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、試料をフッ素化するための1種類以上のフッ素化剤を備える。1種類以上のフッ素化剤は、(i)フッ化銅(CuF2)、(ii)フッ化イリジウム(IrF3)、(iii)フッ化マンガン(MnF3)、(iv)フッ化ニオブ(NbF4)、(v)フッ化ルテニウム(RuF3)、(vi)フッ化タリウム(TlF3)、(vii)フッ化チタン(TiF3)、(viii)フッ化タングステン(WF3)、(ix)フッ化バナジウム(VF4)、及び(x)フッ化ニッケル(NiF6、NiF4、NiF3)、からなる群から選択される。
【0026】
好適な実施形態において、第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、試料を塩素化するための1種類以上の塩素化剤を備える。
【0027】
好適な実施形態において、第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、試料をハロゲン化するための1種類以上のハロゲン化剤を備える。
【0028】
好適な実施形態において、第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、触媒物質を備える。触媒物質は、(i)ニッケル、(ii)白金、(iii)パラジウム、(iv)ロジウム及び(v)遷移元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む。
【0029】
好適な実施形態において、第1の装置及び/又は第2の装置の少なくとも1つの表面は、多孔質である、又は、焼結されている。
【0030】
好適な実施形態において、第1の装置は、(i)150度以上、(ii)200度以上、(iii)250度以上、(iv)300度以上、(v)350度以上、(vi)400度以上、(vii)450度以上、(viii)500度以上、(ix)550度以上、(x)600度以上、(xi)650度以上、(xii)700度以上、(xiii)750度以上、(xiv)800度以上、(xv)850度以上、(xvi)900度以上、(xvii)950度以上、及び(xviii)1000度以上、からなる群から選択される温度に第1の装置の表面を加熱する発熱体を備える。
【0031】
好適な実施形態において、第2の装置は、(i)150度以上、(ii)200度以上、(iii)250度以上、(iv)300度以上、(v)350度以上、(vi)400度以上、(vii)450度以上、(viii)500度以上、(ix)550度以上、(x)600度以上、(xi)650度以上、(xii)700度以上、(xiii)750度以上、(xiv)800度以上、(xv)850度以上、(xvi)900度以上、(xvii)950度以上、及び(xviii)1000度以上、からなる群から選択される温度に第2の装置の表面を加熱する発熱体を備える。
【0032】
イオン源は、望ましくは、さらに、電子ビームを発生させる電子ビーム発生部を備え、電子ビームは、第1の装置及び/又は第2の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された試料分子又は試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される。
【0033】
イオン源は、望ましくは、さらに、第1のキャピラリー管又は導入管であって、
(i)使用時に、ソースチャンバに液体状態又は気体状態の試料を導入する、及び/又は
(ii)ソースチャンバへの試料の導入前に、導入と同時に、又は導入後に、運転モードで、パージガスを導入する、及び/又は
(iii)運転モードで、酸素及び/又はフッ素及び/又は塩素及び/又はハロゲンを導入して、第1の装置及び/又は第2の装置の表面に再充填させる、
第1のキャピラリー管又は導入管を備える。
【0034】
イオン源は、望ましくは、さらに、第2のキャピラリー管又は導入管であって、
(i)使用時に、ソースチャンバに液体状態又は気体状態の試料を導入する、及び/又は
(ii)ソースチャンバへの試料の導入前に、導入と同時に、又は導入後に、運転モードで、パージガスを導入する、及び/又は
(iii)運転モードで、酸素及び/又はフッ素及び/又は塩素及び/又はハロゲンを導入して、第1の装置及び/又は第2の装置の表面に再充填させる、
第2のキャピラリー管又は導入管を備える。
【0035】
イオン源は、さらに、ソースチャンバに固体を導入する真空挿入プローブを備える構成も可能である。真空挿入プローブは、使用時に加熱される構成が望ましい。
【0036】
好適な実施形態において、イオン源は、さらに、イオン源に試料イオンを導入するための第1のイオン投入口を備える。試料イオンは、望ましくは、第1のイオン投入口を介してイオン源に導入され、第1の装置及び/又は第2の装置に入射される。ここで、第1の装置及び/又は第2の装置は、試料イオンを酸化、フッ素化、塩素化、又はハロゲン化するように配置及び構成される。
【0037】
第1の運転モードにおいて、試料イオンは、ソースチャンバに入るように構成され、試料イオンの少なくとも一部、すなわち、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%が、第1の装置及び/又は第2の装置に入射される。また、第2の運転モードにおいて、試料イオンは、ソースチャンバに入るように構成され、試料イオンの少なくとも一部、すなわち、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%が、第1の装置及び/又は第2の装置に入射されることなく、ソースチャンバを透過するように構成される。
【0038】
イオン源は、望ましくは、さらに、第1の装置及び/又は第2の装置に試料イオンを入射する1つ以上の電極を備える。
【0039】
好適な実施形態において、運転モードにおいて、望ましくは1つ以上の電極により、(i)15度未満、(ii)15度ないし30度、(iii)30度ないし45度、(iv)45度ないし60度、(v)60度ないし75度、又は(vi)75度より大きい(望ましくは、第1の装置及び/又は第2の装置の表面に対して測定された)入射角で、第1の装置及び/又は第2の装置に試料イオンが入射される。
【0040】
好適な実施形態において、運転モードにおいて、望ましくは1つ以上の電極により、(i)1eV未満、(ii)3eV未満、(iii)10eV未満、(iv)30eV未満、(v)100eV未満、(vi)300eV未満、(vii)1000eV未満、(viii)1eVより大きい、(ix)3eVより大きい、(x)10eVより大きい、(xi)30eVより大きい、(xii)100eVより大きい、(xiii)300eVより大きい、及び(xiv)1000eVより大きい、からなる群から選択されるイオンエネルギーで、第1の装置及び/又は第2の装置に試料イオンが入射される。
【0041】
試料イオンは、試料物質のフラグメント(断片)イオン、娘イオン、又はプロダクトイオン(生成イオン)でもよい。
【0042】
本発明の別の態様は、上述したイオン源を備える質量分析計又は元素分析計である。
【0043】
本発明のまた別の態様は、試料をイオン化する方法であって、
ソースチャンバを準備し、
ソースチャンバに試料を導入し、
ソースチャンバ内に設置される第1の装置を用いて、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化することを備える。
【0044】
本発明のさらに別の態様は、上述した方法を備える質量分析方法である。
【0045】
本発明の別の態様は、試料を分析する方法であって、
イオン源に試料を導入し、
第1の装置を用いて、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化して、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成し、
酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化して、複数の被分析物イオンを形成することを備える。
【0046】
試料を分析する方法は、望ましくは、さらに、被分析物イオンを質量分析することを備えても良い。
【0047】
試料は、望ましくは、有機試料である。
【0048】
一実施形態において、試料を分析する方法は、さらに、被分析物イオンの質量分析結果から、試料中に存在する1つ以上の元素の同位体比を求めることを備えても良い。ここで、元素は、(i)炭素、(ii)水素、(iii)窒素、(iv)酸素、及び(v)イオウからなる群から選択される。元素が塩素又は臭素を含むような実施形態も可能である。
【0049】
一実施形態において、同位体比は、(i)C12、(ii)C13、及び(iii)C14からなる群から選択される2つ以上の同位体の比である。
【0050】
一実施形態において、
(i)第1の装置は、試料の少なくとも一部を完全に酸化するように配置及び構成される、及び/又は、
(ii)酸化された気体生成物は、二酸化炭素(CO2)を含む、及び/又は、
(iii)同位体比は、C14/C12の比である、及び/又は、
(iv)同位体比は、公称質量対電荷比44を有するC12O162の強度に対する公称質量対電荷比46を有するC14O162の強度を分析することにより決定される。
【0051】
C14/C13及び/又はC13/C12及び/又はC14/C13/C12の比のように、他の比を決定する実施形態でもよい。
【0052】
好適な実施形態において、天然同位体及び人工的に試料に導入可能なC14等の人工同位体の両方を測定することができる。たとえば、C14同位体は、試料の化学的研究又は代謝研究の一部として試料に導入されたものでもよい。
【0053】
一実施形態において、
(i)第1の装置は、試料の少なくとも一部を完全にフッ素化するように配置及び構成される、及び/又は、
(ii)酸化された気体生成物は、四フッ化炭素(CF4)を含む、及び/又は、
(iii)同位体比は、C14/C12の比である、及び/又は、
(iv)同位体比は、公称質量対電荷比88を有するC12F194の強度に対する公称質量対電荷比90を有するC14F194の強度を分析することにより決定される。
【0054】
C14/C13及び/又はC13/C12及び/又はC14/C13/C12の比のように、他の比を決定する実施形態でもよい。
【0055】
一実施形態において、
(i)第1の装置は、試料の少なくとも一部を完全にヨウ素化するように配置及び構成される、及び/又は、
(ii)酸化された気体生成物は、四ヨウ化炭素(CI4)を含む、及び/又は、
(iii)同位体比は、C14/C12の比である、及び/又は、
(iv)同位体比は、公称質量対電荷比520を有するC12I1274の強度に対する公称質量対電荷比522を有するC14I1274の強度を分析することにより決定される。
【0056】
C14/C13及び/又はC13/C12及び/又はC14/C13/C12の比のように、他の比を決定する実施形態でもよい。
【0057】
試料を分析する方法は、望ましくは、さらに、対象となる各質量対電荷比を有するイオンのイオン電流を測定することを備えても良い。
【0058】
試料を分析する方法は、望ましくは、さらに、
(a)バックグラウンドスペクトル又はバックグラウンドイオン電流を引く、及び/又は、
(b)異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動に対するイオン電流測定値の補正を行なう、
ことにより、
対象となる各質量対電荷比を有するイオンのイオン電流測定値を処理することを備えても良い。
【0059】
本発明の別の実施形態において、試料を分析する方法は、さらに、試料の元素分析方法を備えても良い。
【0060】
試料を分析する方法は、望ましくは、さらに、有機分子中又は有機分子に由来するイオン中に存在するさまざまな元素の一部又は全部の相対存在量を測定、決定、又は、推定することを備えても良い。
【0061】
一実施形態において、試料を分析する方法は、さらに、有機分子中に存在するさまざまな元素の一部または全部の相対存在量の測定、決定、又は推定結果を用いて、有機分子又は有機分子に由来するイオンの測定質量又は正確な質量から導き出された元素組成の演算結果を限定する、又は、元素組成の演算結果をフィルタリングすることを備えても良い。
【0062】
この元素は、望ましくは、(i)炭素、(ii)水素、(iii)窒素、(iv)酸素、(v)イオウ、(vi)リン、(vii)フッ素、(viii)塩素、及び(ix)臭素、からなる群から選択される。
【0063】
本発明の一つの態様は、試料を分析する装置であって、
使用時に試料が導入されるイオン源と、
試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化して、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成する第1の装置と、
酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化して、複数の被分析物イオンを形成するイオン化部と、
を備える。
【0064】
試料を分析する装置は、望ましくは、さらに、被分析物イオンの質量分析を行なう質量分析器を備える。
【0065】
本発明の別の態様は、上述した装置を備える同位体比質量分析計である。
【0066】
本発明のまた別の態様は、上述した装置を備える元素分析計である。
【0067】
本発明のさらに別の態様は、ソースチャンバを有するイオン源と、ソースチャンバ内に設置される第1の装置とを備える質量分析計の制御システムにより実行可能なコンピュータプログラムである。
コンピュータプログラムは、ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を、制御システムを介して、第1の装置により完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させるように構成される。
【0068】
本発明の別の態様は、質量分析計の制御システムにより実行可能なコンピュータプログラムである。
コンピュータプログラムは、制御システムを介して、
(i)第1の装置により、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させて、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成させ、
(ii)イオン化部により、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化させて、複数の被分析物イオンを形成させ、
(iii)質量分析器により、被分析物の質量分析を行なわせる、ように構成される。
【0069】
本発明のさらに別の態様は、コンピュータにより実行可能な命令が格納されるコンピュータ読み取り可能な媒体である。
命令は、ソースチャンバを有するイオン源と、ソースチャンバ内に設置される第1の装置とを備える質量分析計の制御システムにより実行可能に構成される。
コンピュータにより実行可能な命令は、ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を、制御システムを介して、第1の装置により完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させるように構成される。
【0070】
本発明のまた別の態様は、コンピュータにより実行可能な命令が格納されるコンピュータ読み取り可能な媒体である。
命令は、質量分析計の制御システムにより実行可能に構成される。
コンピュータにより実行可能な命令は、制御システムを介して、
(i)第1の装置により、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させて、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成させ、
(ii)イオン化部により、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化させて、複数の被分析物イオンを形成させ、
(iii)質量分析器により、被分析物の質量分析を行なわせる、ように構成される。
【0071】
コンピュータ読み取り可能な媒体は、望ましくは、(i)ROM、(ii)EAROM、(iii)EPROM、(iv)EEPROM、(v)フラッシュメモリ、(vi)光ディスク、(vii)RAM、及び(viii)ハードディスクドライブからなる群から選択される。
【0072】
本発明の別の態様は、装置であって、
ソースチャンバと、
使用時に、ソースチャンバに試料イオンを導入するための第1のイオン投入口と、
ソースチャンバ内に設置されて、試料イオンの少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第1の装置であって、ソースチャンバは、使用時に、(i)10-5mbar以下、(ii)10-6mbar以下、(iii)10-7mbar以下、(iv)10-8mbar以下、及び(v)10-9mbar以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置され、
第1の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される電子ビームを発生させる電子ビーム発生部と、を備える。
【0073】
本発明のさらに別の態様は、方法であって、
ソースチャンバを準備し、
ソースチャンバに試料イオンを導入し、
ソースチャンバ内に設置される第1の装置を用いて、試料イオンの少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化し、ソースチャンバは、(i)10-5mbar以下、(ii)10-6mbar以下、(iii)10-7mbar以下、(iv)10-8mbar以下、及び(v)10-9mbar以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置され、
第1の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される電子ビームを発生させることを備える。
【0074】
本発明の化学分析方法は、質量分析計の真空系内で、有機物質の有機分子又は有機分子に由来のイオンを化学薬品と反応させて、有機分子又は有機分子に由来のイオンの1つ以上の構成原子と、化学薬品の1つ以上の原子と、からなる複数の小さな分子(たとえば、二酸化炭素)を生成する。たとえば、有機分子のかなりの割合を完全に酸化させて、有機分子を構成する炭素原子の酸化により得られる二酸化炭素など、複数の比較的小さな気体分子を生成する。複数の小さな分子を質量分析計で分析することが望ましい。
【0075】
好適な実施形態において、有機分子又は有機分子に由来のイオンと化学薬品との反応により生成され、有機分子又は有機分子に由来のイオンの2つ以上の構成原子からなる小さな分子は、同じ元素の構成原子から構成される(たとえば、有機分子を構成する水素原子の酸化により水分子が得られる)。
【0076】
好適な実施形態において、小さな分子を質量分析計で分析することにより、有機分子中又は有機分子に由来のイオン中に存在するさまざまな元素の一部または全部を決定するために利用可能な情報が得られ、さらに、有機分子中又は有機分子に由来のイオン中に存在する元素の相対存在量が推定できる。
【0077】
望ましくは、化学薬品が酸化剤であり、化学薬品の原子が酸素原子である。
【0078】
酸化剤は、望ましくは、(i)酸化アンチモン(Sb2O3)、(ii)酸化ヒ素(As2O5)、(iii)酸化コバルト(Co3O4)、(iv)酸化銅(CuO)、(v)酸化イリジウム(IrO2)、(vi)酸化鉄(Fe3O4)、(vii)四酸化三鉛(Pb3O4)、(viii)二酸化鉛(PbO2)、(ix)酸化パラジウム(PdO)、(x)酸化カリウム(K2O)、(xi)酸化ロジウム(Rh2O3)、(xii)酸化銀(Ag2O)、(xiii)過酸化ナトリウム(Na2O2)、(xiv)酸化テルル(TeO2)、(xv)酸化スズ(SnO)、(xvi)酸化クロム(iv)(CrO2)、(xvii)酸化クロム(Cr2O5)、(xviii)酸化ゲルマニウム(GeO)、(xix)酸化イリジウム(Ir2O3)、(xx)酸化鉛(Pb2O3)、(xxi)酸化マンガン(III)(Mn2O3)、(xxii)二酸化マンガン(MnO2)、(xxiii)酸化モリブデン(MoO2)、(xxiv)酸化ニッケル(Ni2O3)、(xxv)酸化白金(PtO)、(xxvi)酸化レニウム(IV)(ReO2)、(xxvii)酸化レニウム(VI)(ReO3)、(xxviii)酸化ルビジウム(Rb2O)、(xxix)酸化ルテニウム(RuO2)、(xxx)酸化タングステン(WO2)、及び(xxxi)酸化亜鉛(ZnO)から選択される1種類以上の酸化剤である。
【0079】
化学薬品がハロゲン化剤であり、化学薬品の原子がハロゲン原子でもよい。
【0080】
化学薬品がフッ素化剤であり、化学薬品の原子がフッ素原子でもよい。
【0081】
フッ素化剤は、望ましくは、(i)フッ化銅(CuF2)、(ii)フッ化イリジウム(IrF3)、(iii)フッ化マンガン(MnF3)、(iv)フッ化ニオブ(NbF4)、(v)フッ化ルテニウム(RuF3)、(vi)フッ化タリウム(TlF3)、(vii)フッ化チタン(TiF3)、(viii)フッ化タングステン(WF3)、(ix)フッ化バナジウム(VF4)、及び(x)フッ化ニッケル(NiF6、NiF4、NiF3)から選択される1種類以上のフッ素化剤である。
【0082】
化学薬品が塩素化剤であり、化学薬品の原子が塩素原子でもよい。
【0083】
本発明の一実施形態において、化学薬品は、表面層の形で、すなわち、表面上に、存在する。化学薬品は、加熱により分解するものが望ましい。化学薬品は、真空下で融解または昇華する温度未満の温度で熱分解するものが望ましい。表面は、粗面、多孔質面、又は焼結面であることが望ましい。表面は加熱されることが望ましく、具体的には、(i)200℃、(ii)250℃、(iii)300℃、(iv)350℃、(v)400℃、(vi)450℃、(vii)500℃、(viii)550℃、(ix)600℃、(x)650℃、(xi)700℃、(xii)750℃、(xiii)800℃、(xiv)850℃、(xv)900℃、(xvi)950℃、及び(xvii)1000℃のいずれかより高い温度まで加熱されることが望ましい。
【0084】
本発明の一実施形態において、化学薬品は、ディスペンサ型カソードの表面を形成する、すなわち、表面上に堆積される。
【0085】
本発明の別の実施形態において、表面が触媒物質を備える。触媒物質は、(i)ニッケル、(ii)白金、(iii)パラジウム、(iv)ロジウム及び(v)遷移元素から選択される1つ以上の元素を含むことが望ましい。
【0086】
本発明の好適な実施形態において、小さな分子は、質量分析計による分析の前に、イオン化されることが望ましい。電子衝撃(Electron Impact:EI)イオン化及び/又は熱イオン化(熱電離:Thermal Ionization:TI)により、小さな分子をイオン化するようにしてもよい。
【0087】
本発明の好適な実施形態において、加熱された化学反応性表面及びイオン化手段は、高真空に維持されることが望ましい。高真空は、(i)10-6mbar、(ii)10-7mbar、(iii)10-8mbar、及び(iv)10-9mbarのいずれかより低い圧力値が望ましい。
【0088】
本発明の別の実施形態において、加熱された化学反応性表面及びイオン化手段は、不活性ガス流又は非反応性ガス流で連続的にパージされることが望ましい。不活性ガス又は非反応性ガスは、望ましくは、(i)ヘリウム、(ii)ネオン、(iii)アルゴン、及び(iv)希ガスから選択される1種類以上のガスである。不活性ガス又は非反応性ガスは、(i)10-2mbar、(ii)10-3mbar、(iii)10-4mbar、及び(iv)10-5mbarのいずれかより低い圧力値が望ましい。
【0089】
本発明の好適な実施形態において、質量分析計を用いて、小さな分子から形成されるイオンの質量分析を行なう構成が望ましい。質量分析計の望ましい例としては、(i)四重極マスフィルタ(質量分析計)、(ii)3次元又はポール型(Paul)イオントラップ、(iii)リニア四重極イオントラップ、(iv)飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析計、(v)直交加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析計、(vi)磁気セクタ、(vii)フーリエ変換(Fourier Transform:FT)を利用した静電イオントラップ型質量分析器、(viii)フーリエ変換(Fourier Transform:FT)を利用した磁気イオントラップ、(ix)オービトラップ(RTM)、及び(x)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance:FT−ICR)質量分析計が挙げられる。
【0090】
質量分析計は、2つ以上の質量対電荷比の値を有するイオンを同時に検出可能な多重検出器を内蔵する磁気セクタを備える構成が望ましい。
【0091】
本発明の好適な実施形態において、質量分析計により得られた各質量対電荷比値を有するイオンのイオン電流測定値を、以下のいずれか又はすべての機能を果たすように、処理することが望ましい。(a)バックグラウンドスペクトル又はバックグラウンドイオン電流を引く。(b)異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動に対するイオン電流測定値の補正を行なう。ここで、異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動は、(i)イオン化効率の変動(ii)イオン透過効率の変動、(iii)相対的なイオンサンプリング時間又はイオン透過及び検出のデューティサイクルの変動、及び(iv)イオン検出効率の変動のいずれか、又は、すべての変動の積算値である。(c)有機分子中又は有機分子に由来のイオン中に存在するさまざまな元素を含有する小さな分子のイオンの相対存在量を測定する。(d)有機分子中又は有機分子に由来のイオン中に存在するさまざまな元素の一部又はすべての相対存在量を決定する、又は、推定する。(e)有機分子中に存在するさまざまな元素の一部またはすべての相対存在量の決定又は推定結果を利用して、有機分子又は有機分子に由来のイオンの測定質量又は望ましくは正確な質量から導き出された元素組成の演算結果を限定する、又は、元素組成の演算結果をフィルタリングする。
【0092】
本発明の他の実施形態において、質量分析計により得られた各質量対電荷比値を有するイオンのイオン電流測定値を、以下のいずれか又はすべての機能を果たすように、処理することも望ましい。(a)バックグラウンドスペクトル又はバックグラウンド電流を引く。(b)異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動に対する電流測定値の補正を行なう。ここで、異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動は、(i)イオン化効率の変動、(ii)イオン透過効率の変動、(iii)イオンサンプリング時間又はイオン透過及び検出のデューティサイクルの変動、及び(iv)イオン検出効率の変動のいずれか、又は、すべての変動の積算値である。(c)有機分子中又は有機分子に由来のイオン中に存在する元素のうちの一種類以上の元素の相対同位体存在量比を測定する。
【0093】
本発明の好適な実施形態において、質量分析計の真空系に有機分子を直接導入することが望ましい。有機分子は、質量分析計の真空系に、キャピラリー管又は1つ以上の開口部を介して導入されることが望ましい。有機分子の流れは、加熱された化学反応性表面に入射される分子ビームを形成することが望ましい。
【0094】
本発明の他の好適な実施形態において、有機分子をイオン化した後、加熱された化学反応性表面に当てる構成が望ましい。加熱された化学反応性表面にイオンを入射させることが望ましい。ここで、(i)15度未満、(ii)15度ないし30度、(iii)30度ないし45度、(iv)45度ないし60度、(v)60度ないし75度、又は(vi)75度より大きい(反応性表面に対して測定された)入射角で、加熱された化学反応性表面にイオンを衝突させることが望ましい。また、イオンのエネルギーは、望ましくは、(i)1eV未満、(ii)3eV未満、(iii)10eV未満、(iv)30eV未満、(v)100eV未満、(vi)300eV未満、(vii)1000eV未満、(viii)1eVより大きい、(ix)3eVより大きい、(x)10eVより大きい、(xi)30eVより大きい、(xii)100eVより大きい、(xiii)300eVより大きい、及び(xiv)1000eVより大きい、のいずれかである。
【0095】
本発明の別の好適な実施形態において、有機分子を加熱された化学反応性表面に当てる前に、(i)電子衝撃(Electron Impact:EI)イオン化、(ii)化学イオン化(Chemical Ionization:CI)、(iii)電界イオン化(Field Ionization:FI)、(iv)電界脱離(Field Desorption:FD)イオン化、(v)高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment:FAB)イオン化、(vi)液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry:LSIMS)イオン化、(vii)大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionization:API)、(viii)エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization:ESI)、(ix)大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization:APCI)、(x)大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionization:APPI)、(xi)レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionization:LDI)、(xii)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization:MALDI)、及び(xiii)脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorption Electrospray Ionization:DESI)のいずれかによってイオン化する構成が望ましい。
【0096】
本発明の他の実施形態において、加熱された化学反応性表面に当てる前に、有機分子に由来のイオンを以下のいずれかの方法で選択するようにしてもよい。(a)質量対電荷比値に従って選択する。ここで、質量対電荷比値に従うイオンの選択に(i)四重極マスフィルタ(質量分析計)、(ii)ウィーン(Wien)フィルタ、(iii)磁気セクタ、(iv)リニア又は3次元イオントラップ、又は(v)飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析計を用いる。(b)イオン移動度に従って選択する。ここで、イオン移動度に従うイオンの選択に(i)ドリフト管又は(ii)進行波を用いる。(c)微分イオン移動度に従って選択する。ここで、微分イオン移動度に従うイオンの選択に(i)微分移動度分光計(Differential Mobility Spectrometer:DMS)又は(ii)電界非対称イオン移動度分光計(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometer:FAIMS)を用いる。
【0097】
本発明の他の実施形態において、加熱された化学反応性表面に当てる前に、有機分子に由来のイオンを、部分的にフラグメント化(断片化)、分解、又は反応させるようにしてもよい。この場合、(i)気体分子又は原子衝突、(ii)不活性又は非反応性表面衝突、(iii)電子衝突、(iv)電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation:ECD)、(v)イオン衝突、(vi)電子移動解離(Electron Transfer Dissociation:ETD)、(v)準安定原子衝突、(vi)準安定分子衝突、及び(vii)準安定イオン衝突のいずれかにより、イオンを部分的にフラグメント化(断片化)、分解、又は反応させることが望ましい。
【0098】
本発明の他の実施形態において、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、又はキャピラリー電気泳動により、有機分子を最初に分離又は精製しておくようにしてもよい。
【0099】
本発明の一実施形態において、質量分析計が、(i)エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization:ESI)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionization:APPI)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization:APCI)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization:MALDI)イオン源、(v)レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionization:LDI)イオン源、(vi)大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionization:API)イオン源、(vii)シリコンを用いた脱離イオン化(Desorption Ionization on Silicon:DIOS)イオン源、(viii)電子衝撃(Electron Impact:EI)イオン源、(ix)化学イオン化(Chemical Ionization:CI)イオン源、(x)電界イオン化(Field Ionization:FI)イオン源、(xi)電界脱離(Field Desorption:FD)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment:FAB)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry:LSIMS)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorption Electrospray Ionization:DESI)イオン源、(xvi)ニッケル63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Atmospheric Pressure Matrix Assisted Laser Desorption Ionization:APMALDI)イオン源、(xviii)サーモスプレーイオン源、(xix)大気サンプリンググロー放電イオン化(Atmospheric Sampling Glow Discharge Ionization:ASGDI)イオン源、及び(xx)グロー放電(Glow Discharge:GD)イオン源、からなる群から選択されるイオン源をさらに備える構成でもよい。
【0100】
質量分析計が、さらに、1つ以上の連続又はパルスイオン源を備える構成が望ましい。
【0101】
質量分析計が、さらに、1つ以上のイオンガイドを備える構成も望ましい。
【0102】
質量分析計が、さらに、1つ以上のイオン移動度分離装置及び/又は電界非対称イオン移動度分光分析装置を備える構成も望ましい。
【0103】
質量分析計が、さらに、1つ以上のイオントラップ又は1つ以上のイオントラップ領域を備える構成も望ましい。
【0104】
質量分析計が、さらに、(i)衝突誘起解離(Collisional Induced Dissociation:CID)フラグメンテーション装置、(ii)表面誘起解離(Surface Induced Dissociation:SID)フラグメンテーション装置、(iii)電子移動解離(Electron Transfer Dissociation:ETD)フラグメンテーション装置、(iv)電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation:ECD)フラグメンテーション装置、(v)電子衝突(Electron Collision)又は電子衝撃解離(Electron Impact Dissociation)フラグメンテーション装置、(vi)光誘起解離(Photo Induced Dissociation:PID)フラグメンテーション装置、(vii)レーザー誘起解離(Laser Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(viii)赤外線誘起解離装置、(ix)紫外線誘起解離装置、(x)ノズル・スキマー・インターフェース・フラグメンテーション装置、(xi)インソースフラグメンテーション装置、(xii)インソース衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(xiii)熱源又は温度源フラグメンテーション装置、(xiv)電場誘起フラグメンテーション装置、(xv)磁場誘起フラグメンテーション装置、(xvi)酵素消化又は酵素分解フラグメンテーション装置、(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーション装置、(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーション装置、(xix)イオン−原子反応フラグメンテーション装置、(xx)イオン−準安定イオン反応フラグメンテーション装置、(xxi)イオン−準安定分子反応フラグメンテーション装置、(xxii)イオン−準安定原子反応フラグメンテーション装置、(xxiii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオン(生成イオン)を形成するイオン−イオン反応装置、(xxiv)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−分子反応装置、(xxv)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−原子反応装置、(xxvi)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定イオン反応装置、(xxvii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定分子反応装置、(xxviii)イオンの反応により付加イオン又はプロダクトイオンを形成するイオン−準安定原子反応装置、及び(xxix)電子イオン化解離(Electron Ionization Dissociation:EID)フラグメンテーション装置、からなる群から選択される1つ以上の衝突セル、フラグメンテーション(断片化)セル、又は反応セルを備える構成が望ましい。
【0105】
質量分析計が、さらに、(i)四重極質量分析器、(ii)2次元又はリニア四重極質量分析器、(iii)ポール(Paul)トラップ型又は3次元四重極質量分析器、(iv)ペニング(Penning)トラップ型質量分析器、(v)イオントラップ型質量分析器、(vi)磁場型質量分析器、(vii)二重収束磁場型質量分析器、(viii)イオンサイクロトロン共鳴(Ion Cyclotron Resonance:ICR)質量分析器、(ix)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance:FTICR)質量分析器、(x)静電またはオービトラップ型質量分析器、(xi)フーリエ変換(Fourier Transform)静電又はオービトラップ型質量分析器、(xii)フーリエ変換(Fourier Transform)質量分析器、(xiii)飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析器、(xiv)直交加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、(xv)線形加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、からなる群から選択される質量分析器を備える構成が望ましい。
【0106】
質量分析計が、さらに、1つ以上のエネルギー分析器又は静電エネルギー分析器を備える構成も望ましい。
【0107】
質量分析計が、さらに、1つ以上のイオン検出器を備える構成も望ましい。
【0108】
質量分析計が、さらに、(i)四重極マスフィルタ、(ii)2次元又はリニア四重極イオントラップ、(iii)ポール(Paul)又は3次元四重極イオントラップ、(iv)ペニング(Penning)イオントラップ、(v)イオントラップ、(vi)磁気セクタ型マスフィルタ、(vii)飛行時間型(Time of Flight:TOF)マスフィルタ、及び(viii)ウィーン(Wien)フィルタ、からなる群から選択される1つ以上のマスフィルタを備える構成も望ましい。
【0109】
質量分析計が、さらに、イオンをパルス化する装置又はイオンゲートを備える構成も望ましい。
【0110】
質量分析計が、さらに、ほぼ連続的なイオンビームをパルス状イオンビームに変換する装置を備える構成も望ましい。
【0111】
一実施形態において、質量分析計が、さらに、C型トラップと、外側たる形電極及び同軸の内側紡錘形電極を備えるオービトラップ型(RTM)質量分析器と、を備えるようにしてもよい。ここで、第1の運転モードにおいて、イオンは、C型トラップに送られ、次に、オービトラップ型(RTM)質量分析器に注入される。第2の運転モードにおいて、イオンは、C型トラップに、次に、衝突セル又は電子移動解離電子移動解離(Electron Transfer Dissociation)装置に送られて、少なくとも一部のイオンがフラグメント(断片)イオンにフラグメント化(断片化)される。フラグメントイオンは、C型トラップに送られた後、オービトラップ型(RTM)質量分析器に注入される。
【0112】
一実施形態において、質量分析計が、さらに、使用時にイオンを透過させる開口部を各々有する複数の電極を備える積層リング型イオンガイドを備えるようにしてもよい。ここで、積層リング型イオンガイドは、イオン通路の長さ方向に電極の間隔が増大し、イオンガイドの上流部に配置された電極の開口部が第1の直径を有する一方で、イオンガイドの下流部に配置された電極の開口部が第1の直径よりも小径の第2の直径を有し、使用時にAC(交流)電圧又はRF(無線周波数)電圧の逆位相が連続する電極に印加される、ように構成される。
【0113】
以下、例示を目的として、本発明のさまざまな実施例を添付の図面を参照して詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】モノアイソトピック質量が250.0ダルトンで最大9種類の特定元素を含有する有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数と、この有機化合物の分子中に存在可能なこれらの元素の原子数と、を示す表。
【図2】モノアイソトピック質量が500.0ダルトンで最大9種類の特定元素を含有する有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数と、この有機化合物の分子中に存在可能なこれらの元素の原子数と、を示す表。
【図3】モノアイソトピック質量が250.0ダルトンで最大7種類の特定元素を含有する有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数と、この有機化合物の分子中に存在可能なこれらの元素の原子数と、を示す表。
【図4】モノアイソトピック質量が500.0ダルトンで最大7種類の特定元素を含有する有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数と、この有機化合物の分子中に存在可能なこれらの元素の原子数と、を示す表。
【図5】本発明の一実施例において、試料を気相でイオン源に導入する様子を示す説明図。
【図6】キャピラリー管をさらに備える本発明の別の実施例を示す説明図。
【図7】本発明の他の実施例において、試料をイオン化してイオンビームの形でイオン源に導入する様子を示す説明図。
【図8A】本発明の他の実施例において、試料をイオン化してイオンビームの形でイオン源に導入した後、イオンビームが加熱された反応性表面に入射される様子を示す説明図。
【図8B】本発明の他の実施例において、試料をイオン化してイオンビームの形でイオン源に導入した後、イオンビームが加熱された反応性表面に入射されることなく、イオン源を透過する様子を示す説明図。
【図9】加熱された反応性表面が存在しない状態で、70eVの電子を用いた電子衝撃イオン化により得られたアセトフェノンの質量スペクトルを示す図。
【図10A】アセトフェノンの存在下で銅/酸化銅表面を200℃から700℃に加熱した際の質量対電荷比44(二酸化炭素)のクロマトグラムを示す図。
【図10B】アセトフェノンの存在下で銅表面を200℃から700℃に加熱した際の質量対電荷比44(二酸化炭素)の対応するクロマトグラムを示す図。
【図11A】銅/酸化銅表面を約325℃まで加熱した際のアセトフェノンのバックグラウンド除去スペクトルを示す図。
【図11B】銅表面を約325℃まで加熱した際のアセトフェノンの対応するバックグラウンド除去スペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0115】
本発明の実施例を以下説明する。図1に、モノアイソトピック質量(主同位体のみからの精密質量)が250.000ダルトンの有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数を示す。カラムAには、分子中に存在する可能性があると考えられる元素である炭素、水素、酸素、窒素、イオウ、リン、フッ素、塩素及び臭素の最小原子数と最大原子数の一覧を示す。また、ミリダルトン(mDa)及びppm(パーツ・パー・ミリオン)で表現される所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧も示す。1個から20個の範囲の炭素原子、最大40個の水素原子、最大10個の酸素原子、最大10個の窒素原子、最大10個のイオウ原子、最大10個のリン原子、最大10個のフッ素原子、最大10個の塩素原子、最大10個の臭素原子を含む分子のモノアイソトピック質量を算出した値をカラムAに示す。モノアイソトピック分子量が250.000ダルトンで+/−0.300Daの質量検索ウィンドウ内に入る分子の元素組成数の算出値は10,823であった。同様に、+/−0.050Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は4,827であり、+/−0.020Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は2,007であり、+/−0.010Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は1,005であり、+/−0.005Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は502であり、+/−0.002Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は216であり、+/−0.001Daの質量検索ウィンドウ内に入る元素組成数の算出値は108であった。この結果から明らかなように、イオン質量の測定精度が上がると、質量検索ウィンドウを小さくすることができ、元素組成数を減らすことがができる。
【0116】
図1で検討対象とした元素に関して、公称質量が250Daの任意の分子の最大質量及び最小質量は、250.000+/−0.300Daの範囲内に入ると考えられる。したがって、+/−0.3Daの質量検索ウィンドウを用いて算出する場合には、250Daの公称質量を有する分子を生成可能ないかなる元素組成も除外することはできない。+/−0.05Daの検索ウィンドウを用いる場合には、可能な元素組成の約半分を除外することができ、+/−0.02Daの検索ウィンドウを用いる場合には、可能な元素組成の約80%を除外することができる。
【0117】
質量分析計の中には、約+/−1ppm(+/−1の標準偏差すなわち68%の信頼性に対応)の精度でイオン質量を測定可能なものもある。約+/−1ppmの質量精度(68%の信頼性)を実現するために十分な試料と十分な時間がある場合には、+/−4ppmすなわち+/−0.001Daの質量検索ウィンドウを設定することができる。この場合には、可能な元素組成数を108まで減らすことができる。ただし、可能な元素組成数が108というのは、たった1つの可能な元素組成を決めるという目標の達成にはほど遠い。
【0118】
塩素と臭素は、同じく検討対象となっている他の元素とは、同位体比が大きく異なっている。塩素の同位体比Cl35/Cl37は約3であり、臭素の同位体比Br79/Br81は約1である。このため、塩素原子及び/又は臭素原子が分子中に存在するか否かの判定が可能である場合が多い。塩素原子及び/又は臭素原子が分子中に存在する場合には、分子イオンの同位体比を測定することにより、一分子当たりのこれらの元素の原子数を求めることができる。図1のカラムBには、分子中に存在すると考えられる上記と同様の元素の最小原子数と最大原子数の一欄と、ミリダルトン(mDa)及びppm(パーツ・パー・ミリオン)で表現される所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧と、を示す。この例では、分子の同位体分布を測定した結果、分子には塩素原子や臭素原子が含有されていない、と仮定した。このように仮定すると、塩素や臭素を入れて算出した結果と比較して、可能な元素組成の数を、質量検索ウィンドウ毎に、約半分にすることができる。
【0119】
イオウは、塩素や臭素ほど特徴的ではないが、比較的特徴的な同位体比を有している。イオウの同位体比S32/S34は約22.5であり、分子イオンの同位体比を注意深く測定することにより、分子中にイオウ原子が存在するか否か、また、存在する場合には、どのくらいの数存在するかの判定が可能になる。図1のカラムCには、分子中に存在すると考えられる上記と同様の元素の最小原子数と最大原子数の一欄と、所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧と、を示す。この例では、分子の同位体分布を注意深く測定した結果、分子には塩素原子や臭素原子が含有されない一方で、1個から3個のイオウ原子が含有される、と仮定した。このように仮定すると、可能な元素組成の数を、質量検索ウィンドウ毎に、さらに約半分にすることができる。
【0120】
この場合、質量を正確に測定でき、かつ、検索ウィンドウを+/−4ppmすなわち+/−0.001Daに設定できた場合には、可能な元素組成数を30まで減らすことができる。これは、最初に算出した可能な元素組成数である108よりもかなり少ないが、それでも、たった1つの可能な元素組成を決めるという目標には届いていない。
【0121】
図2に示す表は、図1に示す表と同様のものであるが、モノアイソトピック質量が500.000ダルトンの有機化合物において可能な原子価則に従う元素組成の数を示す。図1と同様に、図2のカラムAには、分子中に存在すると考えられる元素である炭素、水素、酸素、窒素、イオウ、リン、フッ素、塩素及び臭素の最小原子数と最大原子数の一覧と、ミリダルトン(mDa)及びppm(パーツ・パー・ミリオン)で表現される所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧と、を示す。1個から40個の範囲の炭素原子、最大80個の水素原子、最大10個の酸素原子、最大10個の窒素原子、最大10個のイオウ原子、最大10個のリン原子、最大10個のフッ素原子、最大10個の塩素原子、最大10個の臭素原子を含む分子のモノアイソトピック質量を算出した値をカラムAに示す。モノアイソトピック分子量が500.000+/−0.600Daの分子の元素組成数の算出値は534,676であった。また、モノアイソトピック分子量が500.000+/−0.001Daの分子の元素組成数の算出値は1828であった。この結果から明らかなように、質量測定の許容誤差が同じならば、分子の質量が増加するにつれて、可能な元素組成の数が急激に増大する。
【0122】
図2で検討対象とした元素に関して、公称質量が500Daの任意の分子の最大質量及び最小質量は、500.000+/−0.600Daの範囲内に入ると考えられる。したがって、+/−0.6Daの質量検索ウィンドウを用いて算出する場合には、500Daの公称質量を有する分子を生成可能ないかなる元素組成も除外することはできない。約+/−1ppm(+/−1の標準偏差すなわち68%の信頼性に対応)の精度でイオン質量を測定可能な場合には、質量検索ウィンドウを+/−4ppmすなわち+/−0.002Daに設定することは無理なことではない。この場合には、可能な元素組成の数を3662まで減らすことができる。
【0123】
図2のカラムBには、分子中に存在すると考えられる上記と同様の元素の最小原子数と最大原子数の一欄と、所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧と、を示す。この例では、分子の同位体分布を測定した結果、分子には塩素原子や臭素原子が含有されていない、と仮定した。このように仮定すると、塩素や臭素を入れて算出した結果と比較して、可能な元素組成の数を、質量検索ウィンドウ毎に、約4分の1から約3分の1にすることができる。
【0124】
図2のカラムCには、分子中に存在すると考えられる上記と同様の元素の最小原子数と最大原子数の一欄と、所定の質量検索ウィンドウ内に入るモノアイソトピック分子量を有する元素組成の数の一覧と、を示す。この例では、分子の同位体分布を注意深く測定した結果、分子には塩素原子や臭素原子が含有されない一方で、0個から3個のイオウ原子が含有される、と仮定した。このように仮定すると、可能な元素組成の数を、質量検索ウィンドウ毎に、さらに減らすことができるが、減少率は約20%に過ぎない。
【0125】
この場合、質量を正確に測定でき、検索ウィンドウを+/−4ppmすなわち+/−0.002Daに設定できた場合には、可能な元素組成数を989まで減らすことができる。これは、最初に算出した可能な元素組成数である3662よりもかなり少ないが、それでも、たった1つの可能な元素組成を決めるという目標の達成にはほど遠い。
【0126】
図3及び図4に示す表は、質量測定値がそれぞれ250.000Da及び500.000Daの分子に関する同様の表であるが、これらの表には、本明細書に記載する本発明の好適な実施例に従って測定を行なった結果、分子中に含まれるさまざまな元素の相対原子数をより狭い範囲で決定した場合のカラムが含まれる。
【0127】
図3の表は図1の表と同様のものであり、図3のカラムB及びカラムCは、それぞれ、図1のカラムB及びカラムCのデータと同一である。図3のカラムDには、炭素、水素、窒素、イオウ及びリンの相対原子数を約+/−40%の精度で求めた場合のデータの一欄を示す。すなわち、各分子に含まれる炭素原子の数が5個から10個の範囲、水素原子の数が8個から14個、窒素原子及びイオウ原子の数がそれぞれ1個から3個、リン原子の数が1個から2個であると仮定した。また、本発明の好適な実施例に従う測定の結果、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子は分子中に存在しないと仮定した。分子中に含まれる酸素原子の数に関しては、新たな仮定は加えられていない。この場合には、公称質量の測定結果から算出される可能な元素組成の数でも、たった27に過ぎない。約+/−2ppm(+/−1の標準偏差すなわち68%の信頼性に対応)の精度で質量の測定が可能であれば、+/−8ppmすなわち+/−0.002Daに質量検索ウィンドウを設定でき、元素組成を一意に決定することが可能になる。この場合に決定される元素組成は、250.0000ダルトンの質量を有するC7H11N2O2PS2である。
【0128】
上記の仮定では、分子中に含まれる他の元素の相対原子数を求めるために、分子は完全に酸化又は燃焼された、と仮定しているため、分子中に含まれる酸素原子の数の範囲を狭めることはできなかった。しかし、必要に応じて、分子を完全にフッ素化して、分子中に含まれる酸素原子の相対数を求めることもできる。図3のカラムDには、存在する酸素原子の総対数を求めるための測定を行なった場合、すなわち、分子に1個から3個の範囲で酸素原子が含まれると仮定した場合のデータの一欄を示す。この場合には、公称質量の測定結果から算出される可能な元素組成の数は、たった16に過ぎない。ただし、この新たな情報を加えても、実際の元素組成を一意に決定するために必要な質量測定の要求精度は変わらない。
【0129】
図4の表は図2の表と同様のものであり、図4のカラムB及びカラムCは、それぞれ、図2のカラムB及びカラムCのデータと同一である。図4のカラムDには、炭素、水素、窒素、イオウ及びリンの相対原子数を約+/−30%の精度で求めた場合のデータの一欄を示す。すなわち、各分子に含まれる炭素原子及び水素原子の数がそれぞれ13個から22個の範囲、窒素原子及びリン原子の数がそれぞれ2個から5個、イオウ原子の数が1個から2個であると仮定した。また、本発明の好適な実施例に従う測定の結果、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子は分子中に存在しないと仮定した。分子中に含まれる酸素原子の数に関しては、新たな仮定は加えられていない。この場合には、公称質量の測定結果から算出される可能な元素組成の数は183である。約+/−1ppm(+/−1の標準偏差すなわち68%の信頼性に対応)の精度で質量の測定が可能であれば、+/−4ppmすなわち+/−0.002Daに質量検索ウィンドウを設定でき、可能な元素組成数の算出値を7まで減らすことができる。これは、先に説明した最適条件下における可能な元素組成数の算出値である989よりもかなり少ないが、それでも、元素組成を一意に決定することはできない。
【0130】
図4のカラムEには、約+/−15%という、より高い精度で炭素及び酸素の相対原子数を求めた場合のデータの一欄を示す。すなわち、各分子に含まれる炭素原子及び水素原子の数をそれぞれ15個から20個の範囲と仮定した。この場合、分子に含まれる窒素原子とリン原子の数はそれぞれ2個から5個、また、イオウ原子の数は1個から2個と、先の仮定と変わらない。この場合には、公称質量の測定結果から算出される可能な元素組成の数は60である。約+/−1ppm(+/−1の標準偏差すなわち68%の信頼性)の精度で質量の測定が可能であれば、+/−4ppmすなわち+/−0.002ダルトンに質量検索ウィンドウを設定でき、可能な元素組成数の算出値を2まで減らすことができる。検索ウィンドウを+/−2ppmすなわち+/−0.001ダルトン(+/−2の標準偏差すなわち95%の信頼性に対応)に設定できれば、元素組成を一意に決定することが可能になる。この場合に決定される元素組成は、500.0000ダルトンの質量を有するC17H17N3O7P3Sである。
【0131】
上述の例から、分子の正確な質量測定、分子中に存在する元素の種類を特定する測定、及び、分子中に存在する様々な元素の相対原子数近似値の測定を組み合わせることにより、有機分子の元素組成を一意に決定できることがわかる。分子の質量の増加に伴い、分子の元素組成を一意に決めるために必要となる分子質量の要求測定精度及び分子中に存在する様々な元素の相対原子数近似値の要求決定精度が増大する。
【0132】
本発明の好適な実施例の電子衝撃イオン化源を図5を参照して説明する。試料は、試料導入用キャピラリー管2を介して、イオン源のソースチャンバ1に、気相で導入される。イオン源は、さらに、電子ビーム3と、イオン出射孔5を有する出射板4と、修飾されたイオン反射電極6と、を備える。電子ビーム3は、望ましくは電子の移動方向に維持される(図示しない)磁場によって閉じ込められていることが望ましい。また、イオン反射電極6を修飾して、酸化銅(CuO)及び/又は酸化ニッケル(NiO)及び/又は酸化亜鉛(ZnO)などの1種類以上の酸化剤でその表面を被覆することが望ましい。イオン反射電極6は、望ましくは、さらに、イオン反射電極6を加熱するための発熱素子7を備える。一実施例において、イオン反射電極6の表面をフッ素化剤などの1種類以上の化学薬品で被覆するようにしてもよい。
【0133】
真空の外側チャンバ内に設置された試料導入用キャピラリー管2を介して、試料をソースチャンバ1内に導入する構成が望ましい。試料を直接ソースチャンバ1内に導入してもよいし、ヘリウム等のキャリアガスを用いて導入してもよい。イオン反射電極6の高温酸化表面に晒された試料が酸化されることによって、試料分子中に含有される元素の酸化物が生成される。たとえば、有機分子中に含まれる炭素が、1種類以上の炭素酸化物、望ましくは二酸化炭素に変換される。同様に、水素は水に、窒素は1種類以上の窒素酸化物に変換される。また、イオウは1種類以上のイオウ酸化物(たとえば、二酸化イオウ)に、リンは1種類以上のリン酸化物に変換される。さらに、フッ素は1種類以上のフッ化酸素(たとえば、二フッ化酸素)に、塩素は1種類以上の塩素酸化物(たとえば、二酸化塩素)に変換される。臭素は、1種類以上の臭素酸化物又は遊離臭素に変換される。酸化処理で得られた分子を電子ビーム3を用いた電子衝撃イオン化によりイオン化して、得られたイオンをイオン出射孔5を介してソースチャンバ1から抽出した後、質量分析計に送って、質量分析を行なう。
【0134】
イオン源の下流側の質量分析計は、たとえば、四重極マスフィルタ又は四重極イオントラップを備えるものでもよい。ただし、複数種類のプロダクトイオン(生成イオン)がほぼ同じ公称質量を有する可能性もあるので、高分解能質量分析計が特に望ましい。たとえば、二酸化炭素(CO2)と亜酸化窒素(N2O)の公称質量はいずれも44である。ただし、正確な質量は、それぞれ、43.990と44.001であるため、質量分解能が4000あればこれらのイオンの識別が可能である。好適な実施例において、二重収束磁場型質量分析器、飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析器、直交加速飛行時間型(orthogonal acceleration Time of Flight:oa−TOF)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance:FT−ICR)質量分析器、又は、オービトラップ型(Orbitrap:RTM)質量分析器等のフーリエ変換(Fourier Transform)静電トラップ型質量分析器等を、高分解能質量分析計として用いることができる。特に、飛行時間型(TOF)、FT−ICR及びオービトラップ型(RTM)の装置は、並列検出が可能であり、質量スペクトルを非常に高感度で記録可能なため、好適である。
【0135】
好適な実施例において、ソースチャンバ1を加熱することが望ましく、さらに詳しくは、少なくとも400℃まで加熱することが望ましい。非常に低い圧力に維持される真空チャンバ内にソースチャンバ1を収容することが望ましい。真空度を、10-6mbar以下の圧力、好適には10-7mbar以下の圧力、より好適には10-8mbar以下の圧力、もっと好適には10-9mbar以下の圧力に維持することが望ましい。高真空にすれば、マススペクトルに影響を与え、試料の酸化に起因するピークに干渉する恐れのある残留バックグラウンドガスの圧力を最小限にすることができるため望ましい。特に、水のバックグラウンド圧力は、有機化合物の酸化により生成される水の信号に干渉する。ヘリウム等のキャリアガスをパージガスとして用いて、ソースチャンバ1から残留バックグラウンドガスを除くことが望ましい。パージガスとして用いるキャリアガスは、高純度の乾燥したガスが望ましい。
【0136】
酸化剤はゆっくりと変性する可能性があるため、本発明の一実施例において、酸化表面を定期的に再充填するようにしてもよい。この場合、酸化表面を適当な温度に維持した状態で、試料又はパージガスの導入管2を介して、所定期間、酸素を導入することにより再充填するようにしてもよい。いったん真空を解除すると、真空状態を回復させるためにかなりの時間がかかるため、この再充填方法は、電極を真空チャンバから取り出して再充填する方法よりも望ましい。
【0137】
得られた質量スペクトルを解析することにより、生成すべき有機化合物の元素組成を近似的に決めることが可能になる。一実施例において、残留バックグラウンドガスに起因するバックグラウンドスペクトルを引いて、有機化合物の酸化に起因する真のスペクトルを求めるようにしてもよい。必要に応じて、適当な基準物質又は標準を用いて、イオン化源及び質量スペクトルに含まれる各成分に対する質量分析器の応答のキャリブレーション(較正)を行なう。このようなキャリブレーションを行なうことにより、各成分に対する応答因子を求めることができ、この結果、さまざまな応答因子に対して各測定値の補正を行なうことが可能になる。元素組成が近似的に決まれば、有機化合物の分子の質量測定値、望ましくは、有機化合物の正確な質量測定値と、この情報とを組み合わせて、有機化合物の元素組成を最終的に決定することができる。
【0138】
図5に示す本発明の実施例の電子衝撃イオン化イオン源は、加熱可能なように修飾されたイオン反射電極6を備える。電極6は、その表面に、酸化銅等の酸化剤を備える。このような構成により、有機物質である試料の一部は、高温酸化表面6に衝突した後に酸化されるのではなく、電子衝撃により直接イオン化される。
【0139】
図6に、試料を電子衝撃イオン化により直接的にイオン化するのではなく、試料を高温酸化表面に衝突させる構成の別の実施例を示す。この実施例のイオン源は、ソースチャンバ1と、試料導入用キャピラリー管2と、電子ビーム3と、イオン出射孔5を有する出射板4と、を備える。電子ビーム3は、望ましくは電子の移動方向に維持される(図示しない)磁場によって閉じ込められていることが望ましい。試料は、気相で導入され、加熱された酸化表面8に向けて入射される。酸化表面8は、酸化銅(CuO)及び/又は酸化ニッケル(NiO)及び/又は酸化亜鉛(ZnO)などの1種類以上の酸化剤を備えるものでもよい。酸化表面は、多孔質表面構造でも焼結表面構造でもよい。この実施例において、加熱された酸化表面は、ディスペンサー型カソードと同様な形態で、少なくとも800℃、より好適には950℃以上に加熱されることが望ましい。ただし、ディスパンサー型カソードが主に熱的放出電子源として作用するように構成されているのに対して、加熱表面8は、表面に衝突した任意の有機分子を酸化させるのが主な目的であるという違いがある。
【0140】
図6に示す実施例が、別のキャピラリー管9を備え、必要に応じて、必要な時に加熱酸化表面8の再充填をするために酸素を供給する構成としてもよい。この別のキャピラリー管9を用いて、ヘリウム等のパージガスを送り、残留バックグラウンドガスの量を減少させるようにしてもよい。あるいは、別のガス導入用キャピラリー管9を用いて、酸化ガスとパージガスの混合ガスを導入するようにしてもよい。
【0141】
図7に示す別の実施例は、図6に示す実施例と類似の構成であるが、有機試料物質が酸化の前にイオン化されているという違いがある。試料は、イオンビーム10の形で加熱酸化表面8に導入される。イオンビーム10のほぼ全体が加熱酸化表面8に衝突するように、イオンビーム10を集束させるようにしてもよい。最適な又は所望の衝突速度で加熱酸化表面8にイオンが衝突するように、イオンエネルギーを変化させる又は制御するようにしてもよい。また、必要なイオンビーム集束、イオン画像サイズ及び衝突のイオンエネルギー又は速度が得られるように、ソースチャンバ1、加熱酸化表面8を形成する修飾ディスペンサー型カソード8、及び、(図示しない)有機試料イオン源における電位を調節するようにしてもよい。
【0142】
イオンビーム10の形の有機試料物質を導入することにより、本発明の好適な実施例に従い分析可能な被分析種の範囲及び多様性を著しく増大させることができる。有機物質の化学的極性、揮発性及び安定性に関係なく、ほぼすべての有機物質をイオン化して、真空チャンバを透過させることが可能である。図5及び図6に示す実施例の場合、イオン源に有機物質を気相で導入するためには、有機物質が適度に揮発性で安定であり、化学的極性がゼロか低い必要がある。一方、図7に示す実施例のように、ソースチャンバ1内に有機物質を導入する前に有機物質をイオン化する場合には、このような制限はない。
【0143】
有機試料の特性に応じて、以下に挙げる真空で利用可能なイオン化法のうち1種類以上のイオン化法で試料物質をイオン化するようにしてもよい。電子衝撃(Electron Impact:EI)イオン化、光イオン化(Photo Ionization:PI)、電界イオン化(Field Ionization:FI)、電界脱離(Field Desorption:FD)イオン化、化学イオン化(Chemical Ionization:CI)、高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment:FAB)イオン化、表面イオン化質量分析(Surface Ionization Mass Spectrometry:SIMS)イオン化、液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry:LSIMS)イオン化、及びプラズマ脱離(Plasma Desorption:PD)イオン化。さらに、サーモスプレーイオン化、レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionization:LDI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization:MALDI)、及びシリコンを用いた脱離イオン化(Desorption Ionization on Silicon:DIOS)も利用可能である。
【0144】
また、有機試料の特性に応じて、ほぼ大気圧における1種類以上のイオン化法で試料物質をイオン化するようにしてもよい。たとえば、エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization:ESI)、大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization:APCI)、大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionization:APPI)、大気圧レーザー脱離イオン化(Atmospheric Pressure Laser Desoprtion Ionization:AP−LDI)、大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desoprtion Ionization:AP−MALDI)、脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorption Electrospray Ionization:DESI)、リアルタイムでの直接分析(Direct Analysis in Real Time:DART)、大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionization:API)、Ni63イオン化及び大気圧で利用可能な他のサンプリング及びイオン化手法を用いることができる。
【0145】
試料がさまざまな有機化合物の混合物である場合には、必要に応じて、イオン化の前に、成分の分離を行なう。分離手法としては、たとえば、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、キャピラリー電気泳動(CE)、キャピラリー電気泳動クロマトグラフィー(Capillary Electrophoresis Chromatography:CEC)、イオン移動度分離(Ion Mobility Separation:IMS)、微分移動度分離(Differential Mobility Separation:DMS)、及び電界非対称イオン移動度分離(Field Asymmetric Ion Mobility Separation:FAIMS)やイオン化源に直接結合可能なその他の手法を用いることができる。エレクトロスプレーイオン化や大気圧化学イオン化等のイオン化手法により大気圧で試料をイオン化して、得られたイオンを質量分析計の第1の真空チャンバに送るという処理プロセスは、液体クロマトグラフィー及びキャピラリー電気泳動と質量分析法とを組み合わせるためのものとして知られている。有機試料が溶液の場合には溶媒を取り除く必要があるが、この処理プロセスを用いれば、質量分析計で分析をする前に有機試料物質から溶媒を取り除かなくてはならないという問題がなくなる。
【0146】
有機試料物質を加熱酸化表面8で酸化する前にイオン化することの利点として、さらに、イオンビーム10を、分析する前に、質量対電荷比及び/又はイオン移動度でフィルタリング可能であることが挙げられる。イオン源が、多くの異なるイオン種を含む場合もある。この場合には、四重極マスフィルタ、磁気セクタ、ウィーン(Wien)フィルタ等のマスフィルタを用いて、対象となる1つのイオン種だけを選択するようにしてもよい。さらに、必要に応じて、対象となるイオン種から1つの同位体ピークだけを選択するようにしてもよい。各同位体を選択することができれば、有機分子の酸化又はフッ素化生成物の質量スペクトルの解釈を明瞭に行なうことができる。
【0147】
有機試料物質を加熱酸化表面8で酸化する前にイオン化することの利点として、さらに、イオンビーム10をまずフラグメント化(断片化)して1つ以上の特徴的なフラグメント(断片)、娘イオン又はプロダクトイオン(生成イオン)を生成可能なことが挙げられる。フラグメントやプロダクトイオンはそれ自体が分析対象となる。フラグメントやプロダクトイオンの質量を正確に測定すると共に、本明細書に記載する好適な方法で元素分析を行なうようにしてもよい。このようなフラグメントやプロダクトイオンのような種は、他の手法では分析することができないため、元素分析にかけることができるのは、特に大きな利点である。イオンをフラグメント化する方法としては、望ましくはRFイオンガイドによる径方向のイオン閉じ込めを行なう、ガス衝突セル内での衝突誘起解離(Collisional Induced Dissociation:CID)が挙げられる。また、電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation:ECD)、電子移動解離(Electron Transfer Dissociation:ETD)、表面誘起解離(Surface Induced Dissociation:SID)や試薬原子、分子、イオン及び/又は準安定原子、準安定分子及び準安定イオンを利用するその他の周知の方法により、イオンのフラグメント化を行なうようにしてもよい。本発明の好適な実施例において、試料イオンのフラグメント化に続いて、分析する前に、質量対電荷比及び/又はイオン移動度に応じて1つのフラグメント、娘イオン又はプロダクトイオンを選択する構成も望ましい。四重極マスフィルタ、磁気セクタ、ウィーン(Wien)フィルタ等のマスフィルタを用いて、対象となる1つのイオン種のみを選択するようにしてもよい。これに代えて、又は、これに加えて、イオン移動度分離器を用いて、分析する前に、対象となるイオンを選択するようにしてもよい。
【0148】
図8A及び図8Bに、加熱酸化表面13及び14に2つの修飾ディスペンサー型カソードを適用する構成の他の実施例を示す。試料をイオン化して、イオンビーム11として導入すると、運転モードで、イオンビーム11が装置内をまっすぐに透過する構成でもよい(図8B参照)。あるいは、イオンビームが加熱酸化表面13の一表面に向かう構成でもよい(図8A参照)。イオン源は、望ましくは、加熱ソースチャンバ1と、(図示しない)軸方向磁場により径方向に閉じ込め可能な電子ビーム3と、イオン出射孔5を有するイオン出射板4と、酸素及び/又はヘリウム等のパージガスを導入するためのガス導入用キャピラリー管9と、イオン入射孔を有するイオン入射板15と、イオンビーム集束及び偏向電極対12と、加熱酸化表面を構成する2つの修飾ディスペンサー型カソード13及び14と、を備える。
【0149】
図8Aに示す構成では、分析対象の有機物質は、イオン化され、イオン入射孔を介してソースチャンバ1に導入される。得られたイオンは、集束された後、電極12により修飾ディスペンサー型カソード13の加熱酸化表面に向けられる。イオン源に適当な電圧を印加することにより、イオンビーム11を修飾ディスペンサー型カソード13に偏向させるようにしてよもい。たとえば、イオン入射板15及び/又はフォーカス(集束)/ステアリング電極12及び/又は2つの修飾ディスペンサー型電極表面13及び14及び/又はソースチャンバ1に、適当な電圧を印加するようにしてもよい。イオン入射板15及び/又はフォーカス/ステアリング電極12及び/又は電極表面13及び14及び/又はソースチャンバ1に印加される電圧を適切に調節することにより、加熱酸化表面13及び14にかかるイオン衝突エネルギー又はイオン衝突速度を制御又は最適化するようにしてもよい。加熱酸化表面13及び14は、酸化銅等の酸化剤を備え、有機分子のイオンが表面に十分に長い間付着されて、分子の酸化に必要な時間が確保できるように、多孔質化又は焼結化されていることが望ましい。イオン衝突エネルギーは、酸化表面13及び14の表面層に有機イオンを注入し、また、酸化より前に有機イオンのフラグメント化を誘導するのに十分なエネルギーであることが望ましい。酸化生成物は、加熱表面13及び14の温度条件では気体である。得られた気体分子は、加熱表面から離れ、電子ビーム3による電子衝撃によりイオン化されるように、キャリアガス、望ましくはヘリウムと共に運ばれる。得られたプロダクトイオンは、イオン出射孔5を介してソースチャンバ1から放出され、質量分析計に送られて、質量分析が行なわれる。
【0150】
イオン源の下流側の質量分析計は、たとえば、四重極マスフィルタ又は四重極イオントラップを備えるものでもよい。ただし、複数種類のプロダクトイオン(生成イオン)がほぼ同じ公称質量を有する可能性もあるので、高分解能質量分析計が望ましい。高分解能質量分析計の例としては、二重収束磁場型質量分析器、飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析器、直交加速飛行時間型(orthogonal acceleration Time of Flight:oa−TOF)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance:FT−ICR)質量分析器、及び、オービトラップ型(Orbitrap:RTM)質量分析器等のフーリエ変換(Fourier Transform)静電トラップ型質量分析器が挙げられる。
【0151】
図8Bに示す構成では、分析対象の有機物質は、イオン化され、イオン入射孔11を介してソースチャンバ1に導入され、動作モードで、まっすぐにイオンチャンバ1を透過後、イオン出射孔5を介してイオンチャンバ1から放出される。放出されたイオンは、質量分析計に送られ、質量分析が行なわれる。有機試料イオンの質量又は質量対電荷比を、正確な質量測定が可能な質量分析計により、高精度で測定することが望ましい。このような質量分析計の例としては、二重収束磁場型質量分析器、飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析器、直交加速飛行時間型(orthogonal acceleration Time of Flight:oa−TOF)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance:FT−ICR)質量分析器、及び、オービトラップ型(Orbitrap:RTM)質量分析器等のフーリエ変換(Fourier Transform)静電トラップ型質量分析器が挙げられる。
【0152】
好適な一実施例において、イオン源のソースチャンバ1は、少なくとも400℃まで加熱され、非常に低い圧力に維持される真空チャンバに収容される構成が望ましい。たとえば、真空度を、10-7mbar(10-6kPa)以下の圧力、好適には10-8mbar(10-9kPa)以下の圧力、もっと好適には10-9mbar(10-10kPa)以下の圧力に維持するようにしてもよい。高真空にすれば、残留バックグラウンドガスの圧力、特に水の分圧を最小限にすることができるため望ましい。高純度で乾燥したヘリウム等のキャリアガスをパージガスとして用いて、イオン源のソースチャンバ1から残留バックグラウンドガスを除くことが望ましい。
【0153】
酸化された有機試料の質量スペクトルを解析することにより、生成すべき有機化合物の元素組成を近似的に決めることが可能になる。必要に応じて、残留バックグラウンドガスに起因するバックグラウンドスペクトルを引いて、イオン化効率、質量分析器の透過効率および検出効率の差に起因する種々の応答因子を考慮して、ピーク強度の測定値を補正する。近似的に決められた元素組成を、対象となる有機化合物の質量又は質量対電荷比の測定値、望ましくは、質量又は質量対電荷比の正確な測定値と組み合わせることにより、有機化合物の元素組成を最終的に決定することができる。
【0154】
図8A及び図8Bに示す実施例の利点は、有機試料分子の質量又は質量対電荷比の測定と、元素組成を近似的に求めるための有機試料分子の酸化生成物の分析と、に同じ質量分析計を利用可能なことである。質量分析計が、上述したような大気圧又は真空で用いられる1つ以上のイオン化源を備えるようにしてもよいし、また、上述したような1種類以上の分離手法と組み合わせるようにしてもよい。質量分析計は、図8A及び図8Bに示す好適な構成の酸化イオン源の上流側に、1つ以上のイオンガイド、1つ以上のイオンフラグメント化領域、1つ以上のマスフィルタ、1つ以上のイオン移動度分離器、又はこれらの組み合わせが配置される構成でもよい。好適な構成のイオン源1の下流側に望ましくは配置される質量分析計は、高質量分解能で正確な質量測定が可能なものが望ましい。
【0155】
図8A及び図8Bに示す実施例の他の利点は、装置が交互に用いることができる2つの修飾ディスペンサー型カソード13及び14を備えることである。ディスペンサー型カソード13及び14を、両方とも、加熱酸化表面を与えるように修飾してもよい。あるいは、一方の修飾ディスペンサー型カソード13又は14を加熱酸化表面を与えるように修飾し、他方の修飾ディスペンサー型カソード13又は14を異なった化学反応が可能になるように修飾してもよい。たとえば、有機分子をフッ素化するように、又は、有機分子を塩素化するように、第2の修飾ディスペンサー型カソード14を修飾するようにしてもよい。これにより、酸化のみでは十分な情報が得られず、1つ以上の質量数でバックグラウンド値が大きくなる場合に特に有効な、有機分子の第2の元素分析法を行なうことが可能になる。異なる化学薬品を用いることにより、もっと適した、及び/又は、もっと多くの情報が得られる種々のプロダクトイオンを生成することができる。生成されたプロダクトイオンは、質量の干渉及び/又はバックグラウンドの干渉がより少ないものである可能性がある。
【0156】
図9、図10及び図11に、図5に示すイオン源と同様のイオン源を用いて得られた質量スペクトルを示す。ステンレス鋼製イオン反射電極を端部径が5.8mmの銅製イオン反射電極6に置き換えることにより、GC(ガスクロマトグラフィー)TOF−MS質量分析計の電子衝撃(EI)イオン源を修飾した。図5に示すものと同様の構成でイオン反射電極6の本体内に発熱素子(ヒーター)を挿入可能なように、イオン反射電極6を修飾した。120mmの長さで0.25mmの直径のタンタル線を6穴セラミック管内を往復させて巻きつけることにより発熱素子(ヒーター)を形成した。ヒーター電流は、0アンペアから1.9アンペアの範囲で変動した。イオン反射電極6の電子ビーム3側端部と反対側の端部に熱電対を取り付けた。電子衝撃イオン源のソースチャンバ1を400℃の温度まで加熱した。イオン源のソースチャンバ1を400℃まで加熱すると、ヒーター電流が1.9アンペアの場合に、イオン反射電極6に取り付けた熱電対が約700℃の温度を検知した。このような条件下では、イオン反射電極6の電子ビーム3側端部の温度が700℃を超えると考えられる。
【0157】
質量分析計の真空系における有機分子の燃焼を調べるために、アセトフェノンを用いて実験を行なった。アセトフェノンは、室温で液体であるが、かなり揮発性が高く、100℃に加熱された真空容器に少量を導入すると気体になる。図9に、本発明の一実施例に従い、70eVの電子を用いた電子衝撃(EI)イオン化によりアセトフェノンをイオン化した際に得られたアセトフェノンの質量スペクトルを示す。イオン源の温度が200℃で、銅製イオン反射電極6を350℃に加熱した条件でスペクトルを記録した。この図からわかるように、アセトフェノンの電子衝撃スペクトルは、質量対電荷比44又は質量対電荷比28にピークが存在しない。
【0158】
銅製イオン反射電極6に酸化銅(CuO)表面を形成するために、通常はCI(化学イオン化)試薬ガスを導入するために用いるガス導入管から酸素をイオン源1に導入した。真空下における酸化銅の熱分解温度は、大気圧における熱分解温度よりも有意に低いことが知られている(Thermal decompsoition of cupric oxide in vacuo(真空での酸化銅の熱分解):Proc.Phys.Soc.,B70,1005-1008,1957参照)。このため、真空下で銅が効率的に酸化されるという保証はない。したがって、銅表面を酸化するために、温度を変えて、低圧の酸素ガスに銅表面を晒した。真空ハウジング内に設置したペニングゲージ(真空計)で測定した酸素の圧力は10-5mbarであり、イオン源のソースチャンバ1内の酸素圧力は約10-3mbarであると推定された。イオン源のソースチャンバ1とイオン反射電極6とを約400℃で約1時間加熱した後、温度を約300℃に低下させて1時間保持し、さらに、温度を約200℃に低下させて1時間保持した。その後、イオン源への酸素ガスの流入を停止させた。
【0159】
加熱された細いキャピラリー管2を介して、アセトフェノン(C8H8O)を加熱容器からイオン源1に連続的に導入した。イオン源のソースチャンバ1を200℃に保持した。銅/酸化銅イオン反射電極6を約20分の時間をかけて200℃から700℃まで徐々に加熱しながら、2秒毎にスペクトルを記録した。
【0160】
図10Aに、質量対電荷比が44の二酸化炭素の実験中のプロファイルを示す。スキャン数90に対応する時点でアセトフェノンを導入し、スキャン数150に対応する時点における0.8アンペアからスキャン数750に対応する1.9アンペアまでヒーター電流を段階的に増加させた。その後、さらに10分間、ヒーター電流を1.9アンペアで保持した。アセトフェノン導入後すぐに、二酸化炭素に対応する小さな信号が現れた。イオン反射電極6を加熱すると、このイオン電流の信号は増大し、スキャン数215で最大値に達した。この時点におけるイオン反射電極6の温度は約325℃であった。二酸化炭素信号は、その後、減少し、スキャン数500に対応する時点で約0になった。この時点におけるイオン反射電極6の温度は約500℃であった。
【0161】
図11Aに、二酸化炭素信号の強度が最大になった時間におけるバックグラウンド除去スペクトルを示す。二酸化炭素信号がゼロまで減衰した時点である実験終了時のバックグラウンドスペクトルを引くことにより、このバックグラウンド除去スペクトルが得られた。したがって、図11Aは、イオン源1で二酸化炭素が生成される場合のスペクトルと生成されない場合のスペクトルの差スペクトルを示す。
【0162】
比較のために、銅製イオン反射電極6を酸化するために酸素を導入する工程を除いて、同じ実験を繰り返した。この実験で得られた、対応する二酸化炭素のプロファイルを図10Bに、また、対応するバックグラウンド除去スペクトルを図11Bに示す。酸化工程を省略した以外は、第1の実験と同じ工程で実験を行ない、スキャン数に対するイオン反射電極のヒーター電流も同じようにプログラムした。図10Bのクロマトグラムと図11Bのスペクトルは、それぞれ対応する図10Aのクロマトグラムと図11Aのスペクトルと同じスケールでプロットした。
【0163】
図10Aに示す二酸化炭素のクロマトグラムと図10Bに示す二酸化炭素のクロマトグラムとを比較することにより、非常に明白な挙動の差がわかる。図10Aのみに二酸化炭素の信号が存在することから、銅製イオン反射電極の表面が酸化されて200℃ないし400℃に加熱される場合に、アセトフェノンが少なくとも部分的に燃焼されて二酸化炭素が生成されることがわかる。
【0164】
図11A及び図11Bに示す2つのバックグラウンド除去スペクトルを比較することにより、明白な差がわかる。図11Bのスペクトルと比較して、図11Aのスペクトルでは、アセトフェノンの電子衝撃イオン化によるピークの減少が見られ(主に、質量対電荷比が120、105、77、51、50及び43)、逆に、質量対電荷比44では(二酸化炭素による)ピークが、また、質量対電荷比28では(一酸化炭素による)ピークが出現している。さらに、水の存在によるピークの増大が質量対電荷比18及び17で見られる。2つのスペクトルのこのような差異は、銅/酸化銅加熱表面が存在することにより、真空下で、アセトフェノンが部分的に炭素及び水素の酸化物に変換されたことを示している。
【0165】
大気圧での酸化銅の熱分解温度と比較して真空下での酸化銅の熱分解温度が低いことは、Goswami及びTrehanによる報告結果(Thermal decompsoition of cupric oxide in vacuo(真空での酸化銅の熱分解):Proc.Phys.Soc.,B70,1005-1008,1957)と一致する。真空下での熱分解温度がもっと高い他の酸化表面を用いるほうが好ましい場合もある。この方法で問題となるのは、水の存在に起因するバックグラウンド信号である。一実施例において、加熱されたフッ素化反応性表面を用いるようにすれば、この問題に対処可能である。
【0166】
本発明の好適な態様は、主に、より高い感度で、かつ、より高速に、有機化合物の元素組成を近似的に求める普遍的な手段を提供すること、及び、この情報を対象となる有機分子の質量の測定値と共に用いて、最終的に元素組成を決定すること、を目的としている。ただし、有機化合物に含まれる元素の同位体比の測定に本発明を適用することも好適である。有機化合物を望ましくは酸化して、構成元素の酸化物を生成し、これを質量分析にかける。あるいは、有機化合物をフッ素化又は塩素化するようにしてもよい。これにより、構成元素の同位体比の測定が可能になる。
【0167】
図7及び図8に示す本発明の実施例に従うイオン源は、酸化の前に有機試料をイオン化するため、非常に汎用的な有機分子の同位体分析方法を提供するものである。有機物質の化学的極性、揮発性及び安定性に関係なく、ほぼすべての有機物質をイオン化して、真空チャンバを透過させることが可能である。図5及び図6に示す実施例の場合、イオン源に有機物質を気相で導入するためには、有機物質が適度に揮発性で安定であり、一般に化学的極性がゼロか低い必要がある。一方、図7及び図8に示す構成のように、イオン源に有機物質を導入する前に有機物質をイオン化する場合には、このような制限はない。
【0168】
さらに、試料がさまざまな有機化合物の混合物である場合には、必要に応じて、イオン化の前に、成分の分離を行なう。分離手法としては、たとえば、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、キャピラリー電気泳動(CE)やその他周知の手法を用いることができる。エレクトロスプレーイオン化(ESI)や大気圧化学イオン化(APCI)等のイオン化手法により大気圧で試料をイオン化する処理プロセスは、液体クロマトグラフィー及びキャピラリー電気泳動と質量分析法とを組み合わせる方法として確立されている。この処理プロセスには、溶液の有機試料から溶媒を取り除く工程が組み込まれているため、構成元素の同位体比を分析する前に有機試料物質から溶媒を取り除かなくてはならないという問題がなくなる。
【0169】
同位体比の測定が必要となる用途の場合には、各々が測定対象となる同位体質量を検出するための複数の検出器を備える磁場型質量分析計を用いることが望ましい。この方法ならば、対象となるすべての同位体ピークを同時に測定することが可能である。ただし、四重極質量分析計や他の種類の質量分析計を用いて、同位体比測定を行なうこともできる。
【0170】
以上、本発明をその好適な実施例を参照して詳述したが、本発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、当業者には自明のことであるが、特許請求の範囲に記載される本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の形態及び態様において実施することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源であって、
ソースチャンバと、
前記ソースチャンバ内に設置される第1の装置であって、使用時に前記ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第1の装置と、
を備えるイオン源。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン源であって、さらに、
前記ソースチャンバ内に設置される第2の装置であって、使用時に前記ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第2の装置を備える、
イオン源。
【請求項3】
請求項2に記載のイオン源であって、
前記第2の装置は、前記第1の装置と離間されて配置され、あるいは、前記第1の装置の分離領域又は部分を備える、
イオン源。
【請求項4】
請求項1、2及び3のいずれかに記載のイオン源であって、
前記試料が有機試料である、
イオン源。
【請求項5】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記ソースチャンバが、使用時に、(i)10-5mbar以下、(ii)10-6mbar以下、(iii)10-7mbar以下、(iv)10-8mbar以下、及び(v)10-9mbar以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置される、
イオン源。
【請求項6】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、前記試料を酸化するための1種類以上の酸化剤を備える、
イオン源。
【請求項7】
請求項6に記載のイオン源であって、
前記1種類以上の酸化剤が、(i)酸化アンチモン(Sb2O3)、(ii)酸化ヒ素(As2O5)、(iii)酸化コバルト(Co3O4)、(iv)酸化銅(CuO)、(v)酸化イリジウム(IrO2)、(vi)酸化鉄(Fe3O4)、(vii)四酸化三鉛(Pb3O4)、(viii)二酸化鉛(PbO2)、(ix)酸化パラジウム(PdO)、(x)酸化カリウム(K2O)、(xi)酸化ロジウム(Rh2O3)、(xii)酸化銀(Ag2O)、(xiii)過酸化ナトリウム(Na2O2)、(xiv)酸化テルル(TeO2)、(xv)酸化スズ(SnO)、(xvi)酸化クロム(iv)(CrO2)、(xvii)酸化クロム(Cr2O5)、(xviii)酸化ゲルマニウム(GeO)、(xix)酸化イリジウム(Ir2O3)、(xx)酸化鉛(Pb2O3)、(xxi)酸化マンガン(III)(Mn2O3)、(xxii)二酸化マンガン(MnO2)、(xxiii)酸化モリブデン(MoO2)、(xxiv)酸化ニッケル(Ni2O3)、(xxv)酸化白金(PtO)、(xxvi)酸化レニウム(IV)(ReO2)、(xxvii)酸化レニウム(VI)(ReO3)、(xxviii)酸化ルビジウム(Rb2O)、(xxix)酸化ルテニウム(RuO2)、(xxx)酸化タングステン(WO2)、及び(xxxi)酸化亜鉛(ZnO)、からなる群から選択される、
イオン源。
【請求項8】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、前記試料をフッ素化するための1種類以上のフッ素化剤を備える、
イオン源。
【請求項9】
請求項8に記載のイオン源であって、
前記1種類以上のフッ素化剤が、(i)フッ化銅(CuF2)、(ii)フッ化イリジウム(IrF3)、(iii)フッ化マンガン(MnF3)、(iv)フッ化ニオブ(NbF4)、(v)フッ化ルテニウム(RuF3)、(vi)フッ化タリウム(TlF3)、(vii)フッ化チタン(TiF3)、(viii)フッ化タングステン(WF3)、(ix)フッ化バナジウム(VF4)、及び(x)フッ化ニッケル(NiF6、NiF4、NiF3)、からなる群から選択される、
イオン源。
【請求項10】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、前記試料を塩素化するための1種類以上の塩素化剤を備える、
イオン源。
【請求項11】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、前記試料をハロゲン化するための1種類以上のハロゲン化剤を備える、
イオン源。
【請求項12】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、触媒物質を備える、
イオン源。
【請求項13】
請求項12に記載のイオン源であって、
前記触媒物質が、(i)ニッケル、(ii)白金、(iii)パラジウム、(iv)ロジウム及び(v)遷移元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む、
イオン源。
【請求項14】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、多孔質である、又は、焼結されている、
イオン源。
【請求項15】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
(a)前記第1の装置が、(i)150度以上、(ii)200度以上、(iii)250度以上、(iv)300度以上、(v)350度以上、(vi)400度以上、(vii)450度以上、(viii)500度以上、(ix)550度以上、(x)600度以上、(xi)650度以上、(xii)700度以上、(xiii)750度以上、(xiv)800度以上、(xv)850度以上、(xvi)900度以上、(xvii)950度以上、及び(xviii)1000度以上、からなる群から選択される温度に前記第1の装置の表面を加熱する発熱体を備える、及び/又は、
(b)前記第2の装置が、(i)150度以上、(ii)200度以上、(iii)250度以上、(iv)300度以上、(v)350度以上、(vi)400度以上、(vii)450度以上、(viii)500度以上、(ix)550度以上、(x)600度以上、(xi)650度以上、(xii)700度以上、(xiii)750度以上、(xiv)800度以上、(xv)850度以上、(xvi)900度以上、(xvii)950度以上、及び(xviii)1000度以上、からなる群から選択される温度に前記第2の装置の表面を加熱する発熱体を備える、
イオン源。
【請求項16】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
さらに、電子ビームを発生させる電子ビーム発生部を備え、
前記電子ビームは、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された試料分子又は試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される、
イオン源。
【請求項17】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
さらに、第1のキャピラリー管又は導入管であって、
(i)使用時に、前記ソースチャンバに液体状態又は気体状態の試料を導入する、及び/又は
(ii)前記ソースチャンバへの前記試料の導入前に、導入と同時に、又は導入後に、運転モードで、パージガスを導入する、及び/又は
(iii)運転モードで、酸素及び/又はフッ素及び/又は塩素及び/又はハロゲンを導入して、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の表面に再充填させる、
第1のキャピラリー管又は導入管を備える、
イオン源。
【請求項18】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、さらに、
第2のキャピラリー管又は導入管であって、
(i)使用時に、前記ソースチャンバに液体状態又は気体状態の試料を導入する、及び/又は
(ii)前記ソースチャンバへの前記試料の導入前に、導入と同時に、又は導入後に、運転モードで、パージガスを導入する、及び/又は
(iii)運転モードで、酸素及び/又はフッ素及び/又は塩素及び/又はハロゲンを導入して、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の表面に再充填させる、
第2のキャピラリー管又は導入管を備える、
イオン源。
【請求項19】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、さらに、
前記ソースチャンバに固体を導入する真空挿入プローブを備える、
イオン源。
【請求項20】
請求項19に記載のイオン源であって、
前記真空挿入プローブが使用時に加熱される、
イオン源。
【請求項21】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、さらに、
使用時に前記イオン源に試料イオンを導入するための第1のイオン投入口を備える、
イオン源。
【請求項22】
請求項21に記載のイオン源であって、
前記イオン源に導入される試料イオンは、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に入射され、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置は、前記試料イオンを酸化、フッ素化、塩素化、又はハロゲン化するように配置及び構成される、
イオン源。
【請求項23】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
第1の運転モードにおいて、試料イオンは、前記ソースチャンバに入るように構成され、前記試料イオンの少なくとも一部、すなわち、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%が、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に入射され、
第2の運転モードにおいて、試料イオンは、前記ソースチャンバに入るように構成され、前記試料イオンの少なくとも一部、すなわち、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%が、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に入射されることなく、前記ソースチャンバを透過するように構成される、
イオン源。
【請求項24】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、さらに、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に試料イオンを入射する1つ以上の電極を備える、
イオン源。
【請求項25】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
運転モードにおいて、(i)15度未満、(ii)15度ないし30度、(iii)30度ないし45度、(iv)45度ないし60度、(v)60度ないし75度、又は(vi)75度より大きい入射角で、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に試料イオンが入射される、
イオン源。
【請求項26】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
運転モードにおいて、(i)1eV未満、(ii)3eV未満、(iii)10eV未満、(iv)30eV未満、(v)100eV未満、(vi)300eV未満、(vii)1000eV未満、(viii)1eVより大きい、(ix)3eVより大きい、(x)10eVより大きい、(xi)30eVより大きい、(xii)100eVより大きい、(xiii)300eVより大きい、及び(xiv)1000eVより大きい、からなる群から選択されるイオンエネルギーで、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に試料イオンが入射される、
イオン源。
【請求項27】
請求項21ないし26のいずれかに記載のイオン源であって、
前記試料イオンが、試料物質のフラグメント(断片)イオン、娘イオン、又はプロダクトイオン(生成イオン)である、
イオン源。
【請求項28】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源を備える質量分析計又は元素分析計。
【請求項29】
試料をイオン化する方法であって、
ソースチャンバを準備し、
前記ソースチャンバに試料を導入し、
前記ソースチャンバ内に設置される第1の装置を用いて、前記試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化すること、
を備える方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法を備える、質量分析方法。
【請求項31】
試料を分析する方法であって、
イオン源に試料を導入し、
第1の装置を用いて、前記試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化して、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成し、
前記酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化して、複数の被分析物イオンを形成し、
前記被分析物イオンを質量分析すること、
を備える方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法であって、
前記試料は有機試料である、
方法。
【請求項33】
請求項31又は32のいずれかに記載の方法であって、さらに、
前記被分析物イオンの質量分析結果から、前記試料中に存在する1つ以上の元素の同位体比を求めることを備える、
方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法であって、
前記元素は、(i)炭素、(ii)水素、(iii)窒素、(iv)酸素、及び(v)イオウからなる群から選択される、
方法。
【請求項35】
請求項33又は34のいずれかに記載の方法であって、
前記同位体比は、(i)C12、(ii)C13、及び(iii)C14からなる群から選択される2つ以上の同位体の比である、
方法。
【請求項36】
請求項31ないし35のいずれかに記載の方法であって、さらに、
対象となる各質量対電荷比を有するイオンのイオン電流を測定することを備える、
方法。
【請求項37】
請求項36に記載の方法であって、さらに、
(a)バックグラウンドスペクトル又はバックグラウンドイオン電流を引く、及び/又は、
(b)異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動に対する前記イオン電流測定値の補正を行なう、
ことにより、
前記対象となる各質量対電荷比を有するイオンのイオン電流測定値を処理することを備える、
方法。
【請求項38】
請求項31又は32のいずれかに記載の方法であって、さらに、
前記試料の元素分析方法を備える、
方法。
【請求項39】
請求項38に記載の方法であって、さらに、
有機分子中又は有機分子に由来するイオン中に存在するさまざまな元素の一部又は全部の相対存在量を測定、決定、又は、推定することを備える、
方法。
【請求項40】
請求項39に記載の方法であって、さらに、
前記有機分子中に存在するさまざまな元素の一部または全部の前記相対存在量の測定、決定、又は推定結果を用いて、有機分子又は有機分子に由来するイオンの測定質量又は正確な質量から導き出された元素組成の演算結果を限定する、又は、元素組成の演算結果をフィルタリングすることを備える、
方法。
【請求項41】
請求項39又は40のいずれかに記載の方法であって、
前記元素は、(i)炭素、(ii)水素、(iii)窒素、(iv)酸素、(v)イオウ、(vi)リン、(vii)フッ素、(viii)塩素、及び(ix)臭素、からなる群から選択される、
方法。
【請求項42】
試料を分析する装置であって、
使用時に試料が導入されるイオン源と、
前記試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化して、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成する第1の装置と、
前記酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化して、複数の被分析物イオンを形成するイオン化部と、
前記被分析物イオンの質量分析を行なう質量分析器と、
を備える装置。
【請求項43】
請求項42に記載の装置を備える、同位体比質量分析計。
【請求項44】
請求項42に記載の装置を備える元素分析計。
【請求項45】
ソースチャンバを有するイオン源と、前記ソースチャンバ内に設置される第1の装置とを備える質量分析計の制御システムにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
前記ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を、前記制御システムを介して、前記第1の装置により完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させるように構成される、
コンピュータプログラム。
【請求項46】
質量分析計の制御システムにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
前記制御システムを介して、
(i)第1の装置により、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させて、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成させ、
(ii)イオン化部により、前記酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化させて、複数の被分析物イオンを形成させ、
(iii)質量分析器により、前記被分析物の質量分析を行なわせる、ように構成される、
コンピュータプログラム。
【請求項47】
コンピュータにより実行可能な命令が格納されるコンピュータ読み取り可能な媒体であって、
前記命令は、ソースチャンバを有するイオン源と、前記ソースチャンバ内に設置される第1の装置とを備える質量分析計の制御システムにより実行可能に構成され、
前記コンピュータにより実行可能な命令は、
前記ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を、前記制御システムを介して、前記第1の装置により完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させるように構成される、
コンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項48】
コンピュータにより実行可能な命令が格納されるコンピュータ読み取り可能な媒体であって、
前記命令は、質量分析計の制御システムにより実行可能に構成され、
前記コンピュータにより実行可能な命令は、
前記制御システムを介して、
(i)第1の装置により、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させて、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成させ、
(ii)イオン化部により、前記酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化させて、複数の被分析物イオンを形成させ、
(iii)質量分析器により、前記被分析物の質量分析を行なわせる、ように構成される、
コンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項49】
請求項47又は48のいずれかに記載のコンピュータ読み取り可能な媒体であって、
(i)ROM、(ii)EAROM、(iii)EPROM、(iv)EEPROM、(v)フラッシュメモリ、(vi)光ディスク、(vii)RAM、及び(viii)ハードディスクドライブからなる群から選択される、
コンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項50】
装置であって、
ソースチャンバと、
使用時に、前記ソースチャンバに試料イオンを導入するための第1のイオン投入口と、
前記ソースチャンバ内に設置されて、前記試料イオンの少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第1の装置であって、前記ソースチャンバは、使用時に、(i)10-5mbar(10-6kPa)以下、(ii)10-6mbar(10-7kPa)以下、(iii)10-7mbar(10-8kPa)以下、(iv)10-8mbar(10-9kPa)以下、及び(v)10-9mbar(10-10kPa)以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置される、第1の装置と、
電子ビームを発生させる電子ビーム発生部であって、前記電子ビームは、前記第1の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された前記試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される、電子ビーム発生部と、
を備える装置。
【請求項51】
方法であって、
ソースチャンバを準備し、
前記ソースチャンバに試料イオンを導入し、
前記ソースチャンバ内に設置される第1の装置を用いて、前記試料イオンの少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化し、前記ソースチャンバは、(i)10-5mbar以下、(ii)10-6mbar以下、(iii)10-7mbar以下、(iv)10-8mbar以下、及び(v)10-9mbar以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置され、
前記第1の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された前記試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される電子ビームを発生させること、
を備える方法。
【請求項1】
イオン源であって、
ソースチャンバと、
前記ソースチャンバ内に設置される第1の装置であって、使用時に前記ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第1の装置と、
を備えるイオン源。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン源であって、さらに、
前記ソースチャンバ内に設置される第2の装置であって、使用時に前記ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第2の装置を備える、
イオン源。
【請求項3】
請求項2に記載のイオン源であって、
前記第2の装置は、前記第1の装置と離間されて配置され、あるいは、前記第1の装置の分離領域又は部分を備える、
イオン源。
【請求項4】
請求項1、2及び3のいずれかに記載のイオン源であって、
前記試料が有機試料である、
イオン源。
【請求項5】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記ソースチャンバが、使用時に、(i)10-5mbar以下、(ii)10-6mbar以下、(iii)10-7mbar以下、(iv)10-8mbar以下、及び(v)10-9mbar以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置される、
イオン源。
【請求項6】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、前記試料を酸化するための1種類以上の酸化剤を備える、
イオン源。
【請求項7】
請求項6に記載のイオン源であって、
前記1種類以上の酸化剤が、(i)酸化アンチモン(Sb2O3)、(ii)酸化ヒ素(As2O5)、(iii)酸化コバルト(Co3O4)、(iv)酸化銅(CuO)、(v)酸化イリジウム(IrO2)、(vi)酸化鉄(Fe3O4)、(vii)四酸化三鉛(Pb3O4)、(viii)二酸化鉛(PbO2)、(ix)酸化パラジウム(PdO)、(x)酸化カリウム(K2O)、(xi)酸化ロジウム(Rh2O3)、(xii)酸化銀(Ag2O)、(xiii)過酸化ナトリウム(Na2O2)、(xiv)酸化テルル(TeO2)、(xv)酸化スズ(SnO)、(xvi)酸化クロム(iv)(CrO2)、(xvii)酸化クロム(Cr2O5)、(xviii)酸化ゲルマニウム(GeO)、(xix)酸化イリジウム(Ir2O3)、(xx)酸化鉛(Pb2O3)、(xxi)酸化マンガン(III)(Mn2O3)、(xxii)二酸化マンガン(MnO2)、(xxiii)酸化モリブデン(MoO2)、(xxiv)酸化ニッケル(Ni2O3)、(xxv)酸化白金(PtO)、(xxvi)酸化レニウム(IV)(ReO2)、(xxvii)酸化レニウム(VI)(ReO3)、(xxviii)酸化ルビジウム(Rb2O)、(xxix)酸化ルテニウム(RuO2)、(xxx)酸化タングステン(WO2)、及び(xxxi)酸化亜鉛(ZnO)、からなる群から選択される、
イオン源。
【請求項8】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、前記試料をフッ素化するための1種類以上のフッ素化剤を備える、
イオン源。
【請求項9】
請求項8に記載のイオン源であって、
前記1種類以上のフッ素化剤が、(i)フッ化銅(CuF2)、(ii)フッ化イリジウム(IrF3)、(iii)フッ化マンガン(MnF3)、(iv)フッ化ニオブ(NbF4)、(v)フッ化ルテニウム(RuF3)、(vi)フッ化タリウム(TlF3)、(vii)フッ化チタン(TiF3)、(viii)フッ化タングステン(WF3)、(ix)フッ化バナジウム(VF4)、及び(x)フッ化ニッケル(NiF6、NiF4、NiF3)、からなる群から選択される、
イオン源。
【請求項10】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、前記試料を塩素化するための1種類以上の塩素化剤を備える、
イオン源。
【請求項11】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、前記試料をハロゲン化するための1種類以上のハロゲン化剤を備える、
イオン源。
【請求項12】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、触媒物質を備える、
イオン源。
【請求項13】
請求項12に記載のイオン源であって、
前記触媒物質が、(i)ニッケル、(ii)白金、(iii)パラジウム、(iv)ロジウム及び(v)遷移元素からなる群から選択される1つ以上の元素を含む、
イオン源。
【請求項14】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の少なくとも1つの表面が、多孔質である、又は、焼結されている、
イオン源。
【請求項15】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
(a)前記第1の装置が、(i)150度以上、(ii)200度以上、(iii)250度以上、(iv)300度以上、(v)350度以上、(vi)400度以上、(vii)450度以上、(viii)500度以上、(ix)550度以上、(x)600度以上、(xi)650度以上、(xii)700度以上、(xiii)750度以上、(xiv)800度以上、(xv)850度以上、(xvi)900度以上、(xvii)950度以上、及び(xviii)1000度以上、からなる群から選択される温度に前記第1の装置の表面を加熱する発熱体を備える、及び/又は、
(b)前記第2の装置が、(i)150度以上、(ii)200度以上、(iii)250度以上、(iv)300度以上、(v)350度以上、(vi)400度以上、(vii)450度以上、(viii)500度以上、(ix)550度以上、(x)600度以上、(xi)650度以上、(xii)700度以上、(xiii)750度以上、(xiv)800度以上、(xv)850度以上、(xvi)900度以上、(xvii)950度以上、及び(xviii)1000度以上、からなる群から選択される温度に前記第2の装置の表面を加熱する発熱体を備える、
イオン源。
【請求項16】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
さらに、電子ビームを発生させる電子ビーム発生部を備え、
前記電子ビームは、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された試料分子又は試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される、
イオン源。
【請求項17】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
さらに、第1のキャピラリー管又は導入管であって、
(i)使用時に、前記ソースチャンバに液体状態又は気体状態の試料を導入する、及び/又は
(ii)前記ソースチャンバへの前記試料の導入前に、導入と同時に、又は導入後に、運転モードで、パージガスを導入する、及び/又は
(iii)運転モードで、酸素及び/又はフッ素及び/又は塩素及び/又はハロゲンを導入して、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の表面に再充填させる、
第1のキャピラリー管又は導入管を備える、
イオン源。
【請求項18】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、さらに、
第2のキャピラリー管又は導入管であって、
(i)使用時に、前記ソースチャンバに液体状態又は気体状態の試料を導入する、及び/又は
(ii)前記ソースチャンバへの前記試料の導入前に、導入と同時に、又は導入後に、運転モードで、パージガスを導入する、及び/又は
(iii)運転モードで、酸素及び/又はフッ素及び/又は塩素及び/又はハロゲンを導入して、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置の表面に再充填させる、
第2のキャピラリー管又は導入管を備える、
イオン源。
【請求項19】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、さらに、
前記ソースチャンバに固体を導入する真空挿入プローブを備える、
イオン源。
【請求項20】
請求項19に記載のイオン源であって、
前記真空挿入プローブが使用時に加熱される、
イオン源。
【請求項21】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、さらに、
使用時に前記イオン源に試料イオンを導入するための第1のイオン投入口を備える、
イオン源。
【請求項22】
請求項21に記載のイオン源であって、
前記イオン源に導入される試料イオンは、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に入射され、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置は、前記試料イオンを酸化、フッ素化、塩素化、又はハロゲン化するように配置及び構成される、
イオン源。
【請求項23】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
第1の運転モードにおいて、試料イオンは、前記ソースチャンバに入るように構成され、前記試料イオンの少なくとも一部、すなわち、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%が、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に入射され、
第2の運転モードにおいて、試料イオンは、前記ソースチャンバに入るように構成され、前記試料イオンの少なくとも一部、すなわち、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%が、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に入射されることなく、前記ソースチャンバを透過するように構成される、
イオン源。
【請求項24】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、さらに、
前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に試料イオンを入射する1つ以上の電極を備える、
イオン源。
【請求項25】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
運転モードにおいて、(i)15度未満、(ii)15度ないし30度、(iii)30度ないし45度、(iv)45度ないし60度、(v)60度ないし75度、又は(vi)75度より大きい入射角で、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に試料イオンが入射される、
イオン源。
【請求項26】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源であって、
運転モードにおいて、(i)1eV未満、(ii)3eV未満、(iii)10eV未満、(iv)30eV未満、(v)100eV未満、(vi)300eV未満、(vii)1000eV未満、(viii)1eVより大きい、(ix)3eVより大きい、(x)10eVより大きい、(xi)30eVより大きい、(xii)100eVより大きい、(xiii)300eVより大きい、及び(xiv)1000eVより大きい、からなる群から選択されるイオンエネルギーで、前記第1の装置及び/又は前記第2の装置に試料イオンが入射される、
イオン源。
【請求項27】
請求項21ないし26のいずれかに記載のイオン源であって、
前記試料イオンが、試料物質のフラグメント(断片)イオン、娘イオン、又はプロダクトイオン(生成イオン)である、
イオン源。
【請求項28】
前記いずれかの請求項に記載のイオン源を備える質量分析計又は元素分析計。
【請求項29】
試料をイオン化する方法であって、
ソースチャンバを準備し、
前記ソースチャンバに試料を導入し、
前記ソースチャンバ内に設置される第1の装置を用いて、前記試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化すること、
を備える方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法を備える、質量分析方法。
【請求項31】
試料を分析する方法であって、
イオン源に試料を導入し、
第1の装置を用いて、前記試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化して、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成し、
前記酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化して、複数の被分析物イオンを形成し、
前記被分析物イオンを質量分析すること、
を備える方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法であって、
前記試料は有機試料である、
方法。
【請求項33】
請求項31又は32のいずれかに記載の方法であって、さらに、
前記被分析物イオンの質量分析結果から、前記試料中に存在する1つ以上の元素の同位体比を求めることを備える、
方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法であって、
前記元素は、(i)炭素、(ii)水素、(iii)窒素、(iv)酸素、及び(v)イオウからなる群から選択される、
方法。
【請求項35】
請求項33又は34のいずれかに記載の方法であって、
前記同位体比は、(i)C12、(ii)C13、及び(iii)C14からなる群から選択される2つ以上の同位体の比である、
方法。
【請求項36】
請求項31ないし35のいずれかに記載の方法であって、さらに、
対象となる各質量対電荷比を有するイオンのイオン電流を測定することを備える、
方法。
【請求項37】
請求項36に記載の方法であって、さらに、
(a)バックグラウンドスペクトル又はバックグラウンドイオン電流を引く、及び/又は、
(b)異なる質量対電荷比値のイオンに応じた変動に対する前記イオン電流測定値の補正を行なう、
ことにより、
前記対象となる各質量対電荷比を有するイオンのイオン電流測定値を処理することを備える、
方法。
【請求項38】
請求項31又は32のいずれかに記載の方法であって、さらに、
前記試料の元素分析方法を備える、
方法。
【請求項39】
請求項38に記載の方法であって、さらに、
有機分子中又は有機分子に由来するイオン中に存在するさまざまな元素の一部又は全部の相対存在量を測定、決定、又は、推定することを備える、
方法。
【請求項40】
請求項39に記載の方法であって、さらに、
前記有機分子中に存在するさまざまな元素の一部または全部の前記相対存在量の測定、決定、又は推定結果を用いて、有機分子又は有機分子に由来するイオンの測定質量又は正確な質量から導き出された元素組成の演算結果を限定する、又は、元素組成の演算結果をフィルタリングすることを備える、
方法。
【請求項41】
請求項39又は40のいずれかに記載の方法であって、
前記元素は、(i)炭素、(ii)水素、(iii)窒素、(iv)酸素、(v)イオウ、(vi)リン、(vii)フッ素、(viii)塩素、及び(ix)臭素、からなる群から選択される、
方法。
【請求項42】
試料を分析する装置であって、
使用時に試料が導入されるイオン源と、
前記試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化して、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成する第1の装置と、
前記酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化して、複数の被分析物イオンを形成するイオン化部と、
前記被分析物イオンの質量分析を行なう質量分析器と、
を備える装置。
【請求項43】
請求項42に記載の装置を備える、同位体比質量分析計。
【請求項44】
請求項42に記載の装置を備える元素分析計。
【請求項45】
ソースチャンバを有するイオン源と、前記ソースチャンバ内に設置される第1の装置とを備える質量分析計の制御システムにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
前記ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を、前記制御システムを介して、前記第1の装置により完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させるように構成される、
コンピュータプログラム。
【請求項46】
質量分析計の制御システムにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
前記制御システムを介して、
(i)第1の装置により、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させて、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成させ、
(ii)イオン化部により、前記酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化させて、複数の被分析物イオンを形成させ、
(iii)質量分析器により、前記被分析物の質量分析を行なわせる、ように構成される、
コンピュータプログラム。
【請求項47】
コンピュータにより実行可能な命令が格納されるコンピュータ読み取り可能な媒体であって、
前記命令は、ソースチャンバを有するイオン源と、前記ソースチャンバ内に設置される第1の装置とを備える質量分析計の制御システムにより実行可能に構成され、
前記コンピュータにより実行可能な命令は、
前記ソースチャンバ内に導入される試料の少なくとも一部を、前記制御システムを介して、前記第1の装置により完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させるように構成される、
コンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項48】
コンピュータにより実行可能な命令が格納されるコンピュータ読み取り可能な媒体であって、
前記命令は、質量分析計の制御システムにより実行可能に構成され、
前記コンピュータにより実行可能な命令は、
前記制御システムを介して、
(i)第1の装置により、試料の少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化させて、酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物を生成させ、
(ii)イオン化部により、前記酸化、フッ素化、塩素化、又は、ハロゲン化された気体生成物の少なくとも一部をイオン化させて、複数の被分析物イオンを形成させ、
(iii)質量分析器により、前記被分析物の質量分析を行なわせる、ように構成される、
コンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項49】
請求項47又は48のいずれかに記載のコンピュータ読み取り可能な媒体であって、
(i)ROM、(ii)EAROM、(iii)EPROM、(iv)EEPROM、(v)フラッシュメモリ、(vi)光ディスク、(vii)RAM、及び(viii)ハードディスクドライブからなる群から選択される、
コンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項50】
装置であって、
ソースチャンバと、
使用時に、前記ソースチャンバに試料イオンを導入するための第1のイオン投入口と、
前記ソースチャンバ内に設置されて、前記試料イオンの少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化するように配置及び構成される第1の装置であって、前記ソースチャンバは、使用時に、(i)10-5mbar(10-6kPa)以下、(ii)10-6mbar(10-7kPa)以下、(iii)10-7mbar(10-8kPa)以下、(iv)10-8mbar(10-9kPa)以下、及び(v)10-9mbar(10-10kPa)以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置される、第1の装置と、
電子ビームを発生させる電子ビーム発生部であって、前記電子ビームは、前記第1の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された前記試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される、電子ビーム発生部と、
を備える装置。
【請求項51】
方法であって、
ソースチャンバを準備し、
前記ソースチャンバに試料イオンを導入し、
前記ソースチャンバ内に設置される第1の装置を用いて、前記試料イオンの少なくとも一部を完全に酸化、フッ素化、塩素化又はハロゲン化し、前記ソースチャンバは、(i)10-5mbar以下、(ii)10-6mbar以下、(iii)10-7mbar以下、(iv)10-8mbar以下、及び(v)10-9mbar以下、からなる群から選択される圧力に維持される真空チャンバ内に設置され、
前記第1の装置に衝突して、酸化及び/又はフッ素化及び/又は塩素化及び/又はハロゲン化された前記試料イオンから生成された気体生成物の少なくとも一部をイオン化するように構成される電子ビームを発生させること、
を備える方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【公表番号】特表2011−528120(P2011−528120A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517989(P2011−517989)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001753
【国際公開番号】WO2010/007368
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(509314666)マイクロマス・ユーケイ・リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】MICROMASS UK LIMITED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001753
【国際公開番号】WO2010/007368
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(509314666)マイクロマス・ユーケイ・リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】MICROMASS UK LIMITED
【Fターム(参考)】
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