説明

試料ホルダー

【課題】
本発明は、上記問題点を解決すべく、ホルダー本体の長手方向に直交する軸回りの傾斜を大幅に改善可能な試料ホルダーを提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の試料ホルダーは、ホルダー本体と、試料を保持するための試料固定台と、前記ホルダー本体の長手方向に直交する軸回りに回転可能な軸傾斜機構とを有し、前記軸傾斜機構は、前記長手方向に直交する所望の軸回りに回転させるための支点保持部材とは無関係に軸傾斜可能な機構であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ホルダーに関し、特に、支点保持部材とは無関係に軸傾斜可能な機構を有する試料ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
ホルダー本体の長手方向に直交する軸回りの傾斜(以下では、β傾斜ともいう。)や試料ホルダー軸の軸回りの傾斜(以下では、α傾斜ともいう。)を有する試料ホルダーの概略を図1に示す。このような試料ホルダーは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron
Microscope)(TEM)、走査透過型電子顕微鏡(Scanning
Transmission Electron Microscope)(STEM)などの電子顕微鏡に主として使用されている。
【0003】
例えば、試料ホルダーとしては、主として、ホルダー本体と、試料を保持するための試料保持台と、試料押さえとから構成されており、試料ホルダー軸の軸回りの傾斜についてはかなり制限を受けることから、試料台自体に角度を持たせたものが知られている(特開2001-15056)。
【0004】
【特許文献1】特開2001-15056
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図1に示すような支点保持部材を必須とする従来技術においては、電子顕微鏡の試料ホルダーにあるβ傾斜試料台16の支点保持部材15が、電子線顕微鏡の対物レンズのポールピース上極13と下極14との制約された空間ギャップにおいて、当該部材15が干渉するため大きな傾斜角度が確保できなかった。すなわち、電子顕微鏡で観察する際に、試料ホルダー軸のα傾斜軸の回転駆動に加え、β軸傾斜機構を備えた試料ホルダーにおいて、図1のように、電子線光軸上に有る対物収束電子線レンズのポールピース(以降P−Pと記す)上極13と下極14の間に存在する焦点面11に挿入された試料ホルダーの先端部に固定した試料17を、電子線光軸10と焦点面11交差した位置でα軸傾斜した際、支点保持部材15がP−P上極13およびP−P下極14と接触するため、大きな傾斜角度が確保できなかった。
【0006】
また、特性X線分析においては、支点保持部材15が特性X線放出経路の障壁となるので、避けるためのα傾斜が必要であった。すなわち、特性X線分析においては、観察試料の形状や結晶方位によりα傾斜軸とβ軸傾斜との合成傾斜が必要であるが、特性X線分析装置を電子顕微鏡に組み込める位置は、上極のP-P13と焦点面11との間にあり、一般的に12の方向に特性X線放出を向ける必要があるので、支点保持部材15は特性X線放出経路の障壁となり、避けるためのα傾斜が必要であった。
【0007】
さらに、β傾斜試料台16は支点保持部材15に組み込まれているため、容易に試料台16のみを脱着し別の試料台に交換することがでない。すなわち、電子顕微鏡の特性X線分析においては、試料に照射する収束された電子線以外にもバックグラウンドの電子線が存在し、また試料に照射された電子線はさらに散乱され、試料台にも間接的に電子線が照射されることで、試料台からも特性X線がバックグラウンドとして発生するので、試料台部材の材質を換えることでバックグラウンド特性X線情報の差を把握し正確な特性X線分析を行えるが、試料台16はβ軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材15に組み込まれているので、各種材料で作られた試料台15が組み込まれたホルダーを複数準備する必要があった。
【0008】
以上の問題点については、上記特許文献1においても同様であった。すなわち、特許文献1においては、ホルダー軸の軸回りに傾斜されるのに試料保持面に角度をつけているものの、万一、これにホルダー本体の長手方向に直交する軸回りの傾斜をさせる手段を付加するには、従来技術と同様に、やはり当該軸を維持するために支点保持部材が必須である。なぜなら、当該支点保持部材がなければ、通常試料固定台は宙に浮いた形となって支えがなくなり、所望の軸傾斜を達成できないからである。
【0009】
しかも、このような支点保持部材は、ホルダー自体の機械的強度を確保するために通常必須であるが、所望の傾斜角度を確保するためには障壁となってしまうという問題点を有する。したがって、このような支点保持部材を使用することなしに、ホルダー本体の長手方向に直交する軸回りの傾斜を達成する技術が望まれているが、このような技術はこれまで知られていない。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題点を解決すべく、ホルダー本体の長手方向に直交する軸回りの傾斜を大幅に改善可能な試料ホルダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明者らは、試料ホルダーの構成について鋭意検討を行った結果、本発明を見出すに至った。
【0012】
すなわち、本発明の試料ホルダーは、ホルダー本体と、試料を保持するための試料固定台と、前記ホルダー本体の長手方向に直交する軸回りに回転可能な軸傾斜機構とを有し、前記軸傾斜機構は、前記長手方向に直交する所望の軸回りに回転させるための支点保持部材とは無関係に軸傾斜可能な機構であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記軸傾斜機構は、前記長手方向に直交する所望の軸位置を焦点面で保ちながら傾斜可能であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記試料固定台は、ホルダー本体と脱着可能であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記軸傾斜機構は、前記長手方向に直交する所望の軸回りに回転させるための駆動フレームを有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記駆動フレームが前記試料固定台と接続されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記駆動フレームは、軸として回転可能な少なくとも1つの支点と、前記駆動フレーム内で位置移動可能な支点とを有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記軸傾斜機構は、前記駆動フレームへ接続されるリンク部材を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記リンク部材が、前記ホルダー本体へ固定された支点を有し、前記駆動フレームの支点を介して接続されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記リンク部材が、1つ又は複数からなることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記リンク部材は、ホルダー軸上に支点を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記試料固定台は、前記ホルダー軸上に存在する仮想の支点を中心として、前記長手方向に直交する所望の軸回りに傾斜することを特徴とする。
【0023】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記ホルダー本体が、前記ホルダー軸回りに回転可能な軸傾斜機構を有することを特徴とする。
【0024】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、電子顕微鏡の試料駆動装置に観察試料を装填するための試料ホルダーの軸上傾斜機構(以降α傾斜と記す)に直交する軸傾斜機構(以降β傾斜と記す)において、β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材を必要とせずに、β傾斜軸位置を焦点面で保ちながら傾斜することを特徴とする。
【0025】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材を必要としないことにより、電子線光軸上に置かれた試料から発生する特性X線を当該電子顕微鏡にとりつけられたX線分析装置間の放出経路おいて、当該部材による障壁が軽減できることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材を必要としないことにより、試料を固定する台のみを容易に取り替え可能な構造とすることを特徴とする。
【0027】
一例を示せば、本発明は、上記の課題を解決するための手段として、電子顕微鏡の試料ホルダーにおいて、図3のように、β傾斜軸33の傾斜駆動の機構として、部材22の力点32を34の回転方向に駆動することで、部材25を傾斜させ、β傾斜軸33をホルダー軸38の高さを維持しながら回転させることで、図2ように支点保持部材15が不要となり、P-P13及びP-P14の空間ギャップを有効に使うことができるため、ホルダー軸のα軸傾斜範囲を大きく確保できる。
【0028】
また、例えば、試料固定部材25を、図4のように、試料傾斜駆動アーム部材35と試料台部材36に分割することで、試料台部材36のみを任意の材質や形状の部材に交換できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の試料ホルダーは、例えば、図2のように、β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材が不要なので、高傾斜まで回転可能な試料ホルダーを提供し得るという有利な効果を奏する。
【0030】
さらに、本発明の試料ホルダーは、例えば、図2のように、β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材が不要なので、特性X線分析における特性X線放出経路の障壁を軽減した試料ホルダーを提供し得るという有利な効果を奏する。
【0031】
さらに、本発明の試料ホルダーは、例えば、図2のように、β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材が不要なので、試料台のみを交換することができる試料ホルダーを提供し得るという有利な効果を奏する。したがって試料台を光軸に直交する面で回転させて取り付けることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
まず、本発明の軸傾斜機構の有効性について説明すると以下のようである。すなわち、従来のように支点保持部材の存在は、以下のようなわずかな寸法のものであっても障壁となっている。すなわち、試料とX線検出部の表面積(通常15〜33mm)との立体角に対して、4〜5mmのポールピースギャップにある厚み(通常1.5〜2.5mm)を持ったホルダ部材が、存在するだけで、X線取り込み立体角に対し壁となる。したがってそれを避けるための、検出器が有る方へのα軸の傾斜が有効になる。
【0033】
これについて詳述すると以下のようである。すなわち、電子線が試料に照射されると特性X線が発生するが、それは照射された試料より、全方向に散乱する。その分布は不均一で、電子線が上から当たるので直行方向、つまり水平方向が最も少なく、ラジアル上で電子線照射方向に近づくほど、強度は高くなる。また、試料が結晶性のものであれば、結晶方位にたいして入射電子線の角度でも、発生強度の変化が見られ、X線散乱角に強度変化がある。電子顕微鏡では、対物レンズポールピースのギャップが限られその間に試料を装填し、X線を得なければならないが、ポールピースのギャップ幅を広げると、分解能が落ちるという不具合が生じる。つまり出来るだけ狭い方が、分解能は高くなる。そして一般に、分解能優先タイプの電顕の場合、2.0〜3mmに設計されている。分解能を若干犠牲にしたタイプの電顕の場合、3〜5mm程度で、これが材料系研究分野では最も普及しているタイプである。そのほか分解能を犠牲にしたものがあり、これなら5〜8mm程度はあるものの、通常生物系に利用されるもので、材料系で分解能が低すぎて実質使用不可能である。したがって、材料分析向けの電顕では一般的に4〜5mmである。つまり、ポールピースが存在するため、X線検出部(直径8〜15mm)を光軸まで寄せることは出来無い(通常光軸から13〜20mmまで寄せるのが限界である)。尚、X線検出部の表面積(通常15〜33mm)に対し、光軸(ポールピース)から離すほど立体角が下がるので、立体角が下がることは、X線の取り込みの際にその分不利になる。
【0034】
したがって、上記のようにポールピースの物理的な制約上、X線検出部中心と電子線に照射された光軸上の試料位置との関係は、X線検出検器を、ほぼ水平に配置するか、または少々光軸(ポールピース)から離してポールピース上極に寄せることで、微小に角度を稼ぐことが可能である。これらの妥協点から、結局のところ、一般的には15〜20度の角度で上から試料を睨むことになる。
【0035】
以上の理由から、試料とX線検出部の表面積(通常15〜33mm)との立体角に対して、4〜5mmのポールピースギャップにある厚み(通常1.5〜2.5mm)を持ったホルダ部材が存在するだけで、X線取り込み立体角に対し壁となり、それゆえ、これを避けるための、検出器が有る方へのα軸の傾斜が有効になることが分かる。
【0036】
なお、X線の検出効率が低い場合その分時間を長くすれば、その分情報は多く得ることは出来るが、その分電子線で試料が痛んでしまい、さらにはコンタミネーションが付き、本来とは違った元素が検出されてしまう。よって、出来るだけ短時間で、効率よく検出する必要がある。また、マッピング(元素分布)を取得する場合、一点一点当たりの時間は出来るだけ短時間で実行しないと、とんでもない時間が掛かることになる。たとえばXY角100点(100×100=10000)の場合、一点を1秒で取り込んでも10000秒かかる事になる。したがって、少しでも多くX線を取り込む工夫は重要な技術であるといえる。
【0037】
このような有効な軸傾斜機構を備えた本発明の試料ホルダーは、ホルダー本体と、試料を保持するための試料固定台と、前記ホルダー本体の長手方向に直交する軸回りに回転可能な軸傾斜機構とを有し、前記軸傾斜機構は、前記長手方向に直交する所望の軸回りに回転させるための支点保持部材とは無関係に軸傾斜可能な機構である。試料ホルダーには、このほか、試料を冷却する機構を有するものや、試料を加熱する機構を有するものや、試料を引っ張る機構を有するものや、さらにこれらの機構を組み合わせたものがあるが、本発明において言及する試料ホルダーは、これらの試料ホルダーを含み特に限定されることを意図するものではない。
【0038】
ホルダー本体の材質は、ホルダー自体の機械的な強度を確保できれば特に限定されることはない。試料固定台は、試料を保持するためのもので、試料押さえなどを用いて試料を固定してもよい。この場合、試料は、試料固定台及び試料押さえとの間に挟まれて保持される。また、試料固定台は、試料を保持できれば、特に形状、材質等は限定されない。例えば、長方形、正方形などの多角形、円形など種々の形状を採用できる。好ましい実施態様において、前記試料固定台は、ホルダー本体と脱着可能である。従来では、試料固定台と支点保持部材とは組み込まれて一体として製造されており、試料固定台のみを脱着して別の試料台に容易に交換することができなかったが、本発明の態様によれば、容易に交換可能である。
【0039】
ホルダー本体の長手方向に直交する軸回りに回転可能な軸傾斜機構は、支点保持部材とは無関係に軸傾斜可能である。言い換えれば、本発明において、回転させようとする軸を保持する支点保持部材は、必ずしも必要ではない。これにより、本発明において、支点保持部材の使用をカットすることができたので、ホルダー本体の長手方向に平行な軸(ホルダー軸ともいう)回りに回転させるときに、支点保持部材が障壁とならず、軸傾斜範囲を大幅に改善することができるという優れた効果を有する。
【0040】
また、前記軸傾斜機構は、好ましくは、前記長手方向に直交する所望の軸位置を焦点面で保ちながら傾斜可能である。このように所望の軸位置を焦点面で保ちながら、傾斜できることにより、試料固定台が、ホルダー軸方向へ平行移動したとしても、その移動分を例えば試料ステージにて試料ホルダー軸方向に補正駆動することができるので、正確な測定が引き続き可能である。
【0041】
好ましい実施態様において、前記軸傾斜機構は、前記長手方向に直交する所望の軸回りに回転させるための駆動フレームを有する。さらに、好ましい態様において、前記駆動フレームが前記試料固定台と接続されていることを特徴とする。
【0042】
例えば、前記駆動フレームは、軸として回転可能な少なくとも1つの支点と、前記駆動フレーム内で位置移動可能な支点とを有することにより、ホルダー本体の長手方向に直交する所望の軸回りに回転させることが可能である。また、好ましい実施態様において、前記軸傾斜機構は、前記駆動フレームへ接続されるリンク部材を有してもよい。例えば、ホルダー本体内の部材による往復運動を最終的に軸回りの傾斜運動に変換させる場合には、リンク部材を通じて運動の伝達を行うことが可能である。一例を挙げれば、前記リンク部材が、前記ホルダー本体へ固定された支点を有し、前記駆動フレームの支点を介して接続することにより、ホルダー本体内の部材による往復運度を傾斜運動へ変換可能である。当該リンク部材は、1つ又は複数からなることができ、特に限定されるものではない。また、前記リンク部材は、ホルダー軸上に支点を有していてもよい。
【0043】
このようにして、試料固定台は、前記ホルダー軸上に存在する仮想の支点を中心として、前記長手方向に直交する所望の軸回りに傾斜することが可能である。
【0044】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記ホルダー本体が、前記ホルダー軸回りに回転可能な軸傾斜機構を有する。これは、電子顕微鏡の電子線光軸上に置かれた試料の特性X線分析や、三次元画像解析のための連続的傾斜像を取得の際、試料台を電子線光軸に対し任意に傾斜させるには、試料ホルダーは、試料ホルダー軸のα傾斜軸(以降α傾斜と記す)に回転させるが、結晶性試料などの場合、β軸傾斜を補償することが必要となるので、β軸傾斜機構(以降β傾斜と記す)を備える必要があることからである。
【0045】
さらに、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、電子顕微鏡の試料駆動装置に観察試料を装填するための試料ホルダーの軸上傾斜機構(以降α傾斜と記す)に直交する軸傾斜機構(以降β傾斜と記す)において、β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材を必要とせずに、β傾斜軸位置を焦点面で保ちながら傾斜する。
【0046】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材を必要としないことにより、電子線光軸上に置かれた試料から発生する特性X線を当該電子顕微鏡にとりつけられたX線分析装置間の放出経路おいて、当該部材による障壁が軽減できることを特徴とする。
【0047】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材を必要としないことにより、試料を固定する台のみを容易に取り替え可能な構造とすることを特徴とする。
【0048】
本発明をより詳細に説明するために、以下では、図面を用いて本発明の一例を説明するが、本発明は下記例に限定して解釈されることを意図するものではない。
【0049】
図3、及び図4のように、β傾斜軸33の傾斜駆動の機構として、ホルダー本体21aの先端に設けたフレーム部材21に固定したピン26を支点とする部材22の駆動力点32を34の回転方向に駆動することにより、部材21に固定したピン27を支点とした部材23及び部材24に伝達され、ピン30とピン31位置が移動することで部材25(試料固定台を含む。)が駆動し、β傾斜軸33は試料ホルダー軸38上を保ちながら傾斜する。この例では、回転を用いて34の回転方向へ駆動して、β傾斜させているが、その他の遠方操作によって、実質的に回転軸の支点保持部材を有することなしに、傾斜させることができれば、本発明は特に限定されることはない。
【0050】
なお、34の方向へ回転運動させるための手段としても特に限定されることはなく、例えば、棒状の部材によって、ホルダー軸方向に平行な往復運動をさせることによっても回転運動させることが可能である。
【0051】
フレーム部材21に固定したピン27を軸とした部材24を回転駆動した際、部材24に取り付けたピン30の位置移動によりβ傾斜軸33は、部材25の傾斜と共にホルダー軸方向に平行移動するが、その移動分を試料ステージにて試料ホルダー軸方向に補正駆動することで、光軸10上でもβ傾斜軸33の傾斜が可能である。
【0052】
これにより、P-P上極13およびP-P下極14の空間ギャップを有効に使うことができるため、α傾斜軸の傾斜範囲大きく確保できる。
【0053】
図3の部材25を、図4のように、試料傾斜駆動フレームアーム部材35と試料台部材(試料固定台)36に分割することで、試料台部材36の部材のみを脱着可能とすることで任意材質や形状の部材に交換できる。
【0054】
なお試料駆動フレームアーム部材35と試料固定部材36の連結にネジ37を用いているが、連結可能な機構なら特に当該構造である必要はなく、例えば、フレームアーム部材35先端をピンセット型構造、つまり試料固定部材36を挟み込む構造にすることで、試料固定部材36のみを、光軸に直交する、面上に対し、回転させて挟むことも可能である。
【0055】
駆動力点32への駆動力の入力においては、試料ホルダーの本体内21aに同軸上に空けられた孔に、先端を楔形状に斜面加工した駆動力の入力用棒部材39を、試料ホルダーの本体の対して挿入することで駆動力点32持ち上げ、逆に当該部材39を引き出す場合には、スプリング40の力で駆動力点32押し戻すことで、試料傾斜駆動フレームアーム35を駆動するが、駆動力の入力手段、及び入力を駆動力点32への伝達する際の構造を限定する必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
近年、電子顕微鏡を利用して材料のサブナノメータの精度での3次元立体構造を解析する技術が普及してきたが、正確な立体情報を構築する場合、理想的には試料を360度回転させながら観察した複数の画像が必要である。本発明の試料ホルダーでは、支点軸を保持する部材を省くことができることにより、P-P上極13及びP-P下極14の空間ギャップを有効に利用できることで、試料ホルダーの軸α傾斜範囲を高められ、高傾斜までの情報得ることが可能なので、3次元立体構築の際に情報欠損により発生する虚像を減らす効果がある。さらに、結晶材料に必要な方位合わせのためにβ軸傾斜の補償を可能にしながら3次元立体構築が可能となる。
【0057】
電子顕微鏡を利用して微小領域の特性X線分析を行う場合、試料から発生する特性X線は微小なため、より良い検出効率が求められている。本発明では、β軸傾斜軸上に支点軸を保持するための部材を省略することができ、つまり、特性X線分析におけるX線の飛散経路の妨げとなる障壁を無くすことができ、ひいては回避のための傾斜が不要となる。したがって、任意の試料方位(結晶方位)に対して、電子線入射角の選択の自由性が向上する効果がある。
【0058】
電子顕微鏡を利用して特性X線分析を行なう場合、本発明は、試料台のみを容易に交換することができるので、従来のように数種類の試料ホルダーを準備する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】背景技術の構成を示す試料挿入部近傍のα傾斜軸方向から見た電子顕微鏡および試料台の断面図である。
【図2】本発明の構成の一例を示す試料挿入部近傍のα傾斜軸方向から見た電子顕微鏡および試料台の断面図である。
【図3】本発明の構成の一例を示すβ傾斜軸方向から見たβ軸駆動構成の概念図である。
【図4】本発明の構成の一例を示す試料ホルダー先端部の斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
10 電子顕微鏡の電子線光軸
11 焦点面、および ホルダー挿入軸面
12 一般的なX線検出器の取り付け角軸
13 対物用の電子線レンズのポールピース(P−P)上極
14 対物用の電子線レンズのポールピース(P−P)下極
15 β傾斜軸の支点保持部材(背景の技術)
16 β傾斜が可能な試料台(背景の技術)
17 試料
18 試料の固定用部材(背景の技術)
19 β傾斜軸が可能な試料台
20 試料の固定用部材
21 フレーム部材(試料ホルダー主軸21aの先端に設けた一体の部材)
21a 試料ホルダー主軸
22 リンク部材1
23 リンク部材2
24 リンク部材3
25 リンク部材4 (β傾斜試料台フレームアーム)
26 固定ピン1
27 固定ピン2
28 移動ピン1
29 移動ピン2
30 組み付けピン1
31 移動ピン3
32 駆動力点
33 β回転軸位置
34 駆動力点の動き
35 β傾斜駆動フレームアーム
36 試料台
37 試料台とβ傾斜駆動フレームアームを連結固定するネジ
38 ホルダー挿入軸 及び
α傾斜軸
39 駆動力の入力用棒部材 (駆動力点を押し上げるため部材)
40 スプリング (駆動力点を押し下げるため部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルダー本体と、試料を保持するための試料固定台と、前記ホルダー本体の長手方向に直交する軸回りに回転可能な軸傾斜機構とを有し、前記軸傾斜機構は、前記長手方向に直交する所望の軸回りに回転させるための支点保持部材とは無関係に軸傾斜可能な機構であることを特徴とする試料ホルダー。
【請求項2】
前記軸傾斜機構は、前記長手方向に直交する所望の軸位置を焦点面で保ちながら傾斜可能である請求項1記載の試料ホルダー。
【請求項3】
前記試料固定台は、ホルダー本体と脱着可能である請求項1又は2項に記載の試料ホルダー。
【請求項4】
前記軸傾斜機構は、前記長手方向に直交する所望の軸回りに回転させるための駆動フレームを有することを特徴とする請求項1〜3項のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項5】
前記駆動フレームが前記試料固定台と接続されていることを特徴とする請求項1〜4項のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項6】
前記駆動フレームは、軸として回転可能な少なくとも1つの支点と、前記駆動フレーム内で位置移動可能な支点とを有することを特徴とする請求項1〜5項のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項7】
前記軸傾斜機構は、前記駆動フレームへ接続されるリンク部材を有することを特徴とする請求項1〜6項のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項8】
前記リンク部材が、前記ホルダー本体へ固定された支点を有し、前記駆動フレームの支点を介して接続されていることを特徴とする請求項7項記載の試料ホルダー。
【請求項9】
前記リンク部材が、1つ又は複数からなる請求項7又は8項に記載の試料ホルダー。
【請求項10】
前記リンク部材は、ホルダー軸上に支点を有する請求項7〜9項のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項11】
前記試料固定台は、前記ホルダー軸上に存在する仮想の支点を中心として、前記長手方向に直交する所望の軸回りに傾斜する請求項1〜10項のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項12】
前記ホルダー本体が、前記ホルダー軸回りに回転可能な軸傾斜機構を有する請求項1〜11項のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項13】
電子顕微鏡の試料駆動装置に観察試料を装填するための試料ホルダーの軸上傾斜機構(以降α傾斜と記す)に直交する軸傾斜機構(以降β傾斜と記す)において、β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材を必要とせずに、β傾斜軸位置を焦点面で保ちながら傾斜することを特徴とする電子顕微鏡の試料ホルダー。
【請求項14】
β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材を必要としないことにより、電子線光軸上に置かれた試料から発生する特性X線を当該電子顕微鏡にとりつけられたX線分析装置間の放出経路おいて、当該部材による障壁が軽減できることを特徴とする請求項13記載の試料ホルダー。
【請求項15】
β軸傾斜軸上に支点軸を保持する部材を必要としないことにより、試料を固定する台のみを容易に取り替え可能な構造とすることを特徴とする請求項13記載の試料ホルダー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−115666(P2007−115666A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235120(P2006−235120)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(505391986)
【Fターム(参考)】