説明

試料ホルダー

【目的】二次イオン質量分析装置などの試料ホルダーにおいて、測定窓より小さな複雑な形状を持つ試料や微小試料を安定に保持して分析ができる試料ホルダーを提供する。
【解決手段】試料ホルダー100の試料設置部4aに導電性を持つ熱可塑性樹脂4a−1を配し、試料設置部4aを加熱し、該樹脂4a−1が変形可能となった時点で試料5の下部を埋め込み、冷却、硬化させることで、測定窓8より小さな粒子や微小試料など複雑な形状の試料5を容易に固定することが出来るようになり、二次イオン質量分析を行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二次イオン質量分析装置などの真空分析装置に使用される試料ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
二次イオン質量分析方法は、試料に一次イオンを照射して、試料から放出された二次イオンの質量を分析し、試料の元素分析を行う方法であり、一次イオンで試料のスパッタエッチングを行って固体試料の深さ方向に掘り進み、深さ方向の元素分布(元素の濃度分布)を得ることができる。質量分析計には、磁場型質量分析計,四重極型質量分析計,飛行時間型質量分析計等が知られている。
図3は、磁場型二次イオン質量分析計を示す構成図である。一次イオン源であるセシウムイオン源13および酸素イオン源14から発生した一次イオンビーム15をレンズ系で細く絞り、試料室内の試料ホルダーに取り付けた試料18に照射し、発生した二次イオン16を質量分離装置20で分離した後、目的の二次イオンを二次イオン検出器17で検出する。絶縁性試料の場合、必要に応じて一次イオンビーム照射と共に電子線19を試料に照射し、チャージアップを防止する。試料室は排気装置で真空に保持される。
図4〜図6は、従来の二次イオン質量分析装置に使用されている二次イオン質量分析用試料ホルダーの構成図であり、図4は測定面を上方から見た平面図、図5は断面図、図6は試料を保持した断面図である。
この試料ホルダー200は、測定面の薄板(金属製)に対して複数個の試料5を押圧部材により押し付けて保持するように構成されたものであり、ホルダー本体201と押し板10、スプリング12およびネジ11で構成される。また、ホルダー本体7は、外枠7と薄板9で構成される。
【0003】
試料ホルダー本体201は、試料ホルダー200の測定面に数個(表示した例では3個)の測定窓8を設けた薄板9を外枠7に固定した構造で、試料5は測定窓8の背面に設置し、それをスプリング12および押さえ板10により測定面の薄板9に押し付けた状態で押さえ板10をネジ11などでホルダー本体7に固定する。ネジ11は外枠7に形成されたネジ孔11aに螺合される。また、図中の40は外枠7の内壁の口径である。
また、特許文献1には、測定窓より小さな固体試料を二次イオン質量分析装置で分析する場合の試料の固定方法において、固体試料表面と平行な2方向から挟み固定する固定部を備える方法が開示されている。
また、特許文献2には、試料を保持するための試料台を高さ調節自在に設けたホルダー基台に設けられた高さ合わせ用台に位置決めして取り付けた試料高さ調節台の試料の高さ調節面により試料の測定検査面を予め位置決めし、この位置決めされた試料に向けて、上記試料台を進めて、上記位置決めされた試料を上記試料台で保持する。そして、試料高さ調節台を取り外すことで、試料高さを正確に定めることができることが開示されている。
また、特許文献3には、二次イオン質量分析方法において、供試サンプルの端の箇所を分析する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭62−83637号公報
【特許文献2】特開2003−98131号公報
【特許文献3】特開2005−172587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の試料ホルダー200では、幅の狭いウェハ断面試料や粒子のような試料底面の形状が平坦でない試料、また、測定窓8よりも微小な試料の場合、試料底面をスプリング12および押さえ板20により測定面薄板押し付けて安定に保持することは困難である。
また、特許文献1では、側面が平坦でない粒子や、微小な試料などでは安定に固定するのは難しい。
また、前記特許文献2、3では、測定窓より小さな試料の分析については記載されていない。
この発明の目的は、前記の課題を解決して、二次イオン質量分析装置などの試料ホルダーにおいて、測定窓より小さな複雑な形状を持つ試料や微小試料を安定に保持して分析ができる試料ホルダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するために、イオンを試料に照射して分析を行う真空分析装置の試料ホルダーにおいて、該試料ホルダーの試料保持部に導電性を持つ熱可塑性樹脂を有し、該樹脂内に試料の下部を埋め込んで前記試料を保持する試料ホルダーとする。
また、一次イオンを固体試料に照射して、試料から放出される二次イオンの分析を行う二次イオン質量分析装置用の試料ホルダーにおいて、該試料ホルダーの試料保持部に導電性を持つ熱可塑性樹脂を有し、該樹脂内に試料の下部を埋め込んで前記試料を保持する試料ホルダーとする。
また、一次イオンを試料に照射して、該試料から放出される二次イオンの分析を行う二次イオン質量分析用の試料ホルダーにおいて、複数のネジ孔からなる試料台取り付け部を有する底板と一定の高さの外枠とからなるホルダー本体と、前記試料台取り付け部に上下動可能に取り付けられる複数の試料ホルダーとを備え、前記試料ホルダーは、凹部形状の外枠と該凹部内に設けられた導電性の熱可塑性樹脂とからなる試料設置部を備え、前記熱可塑性樹脂内に前記試料の下部を埋め込んで前記試料を保持する試料ホルダーとする。
また、前記導電性を持つ熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系、エチレンビニルアセテート系、ポリアミド系もしくはポリエステル系の熱可塑性樹脂に、導電性物質を加えた樹脂であるとよい。
【0006】
また、前記導電性物質が、カーボンもしくは銀フィラーであるとよい。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、試料ホルダーの試料設置部に導電性を持つ熱可塑性樹脂を配し、試料設置部を加熱し、該樹脂が変形可能となった時点で試料下部を樹脂内に埋め込み、樹脂を冷却、硬化させることで、測定窓より小さな粒子や微小試料など複雑な形状の試料を容易に固定することが出来るようになり、二次イオン質量分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
発明の実施の形態を以下の実施例で説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、この発明の実施例1の試料ホルダーの構成図であり、同図(a)は測定面を上方から見た要部平面図、同図(b)は同図(a)のX−X線で切断した要部断面図、同図(c)は同図(a)のA部拡大図である。本実施例では試料台を2個とした。
試料ホルダー本体101は外枠1と底板2からなる。外枠1は図3に示す二次イオン質量分析装置に取り付けられるようになっている。底板2にはネジ孔3が形成され、ネジ孔3には周囲にネジ山3aが形成され、試料設置部4aと円柱状のネジ部材4bで形成された試料台4が螺合されている。ネジ部材4bにはネジ山4cが形成されている。試料設置部4aは導電性熱可塑性樹脂部4a−1とそれを囲む枠4a−2からなる。また、試料台4のネジ部材4bの底面は、ネジ孔3に形成したネジ山3aとネジ部材4bに形成したネジ山4cとの螺合位置を調整するためのドライバや六角レンチなどの工具を差し込む溝(図示せず)が形成されている。尚、開口部30は図4の測定窓8に相当する。
図2は、この発明の試料ホルダーを用いた場合の試料設置方法を示す工程図であり、同図(a)〜同図(d)は工程順に示した要部工程図である。
試料は、厚さ250μmのウェハから切り出した3mm×5mmの小片で断面を分析面とするもの(試料A)および直径1mmφのシリコン球(試料B)を用いた。
【0010】
同図(a)において、円柱状のネジ部材4bを取り外す。
同図(b)において、試料設置部4aをヒーターに乗せ、導電性熱可塑性樹脂部4a−1の温度を上昇させる。樹脂4a−1が変形可能な状態になったら、試料5を埋め込む。この際、測定面が樹脂4a−1の表面よりも高い位置になるように設置する。
同図(c)において、試料設置部4aを冷却、樹脂4a−1を硬化させる。導電性熱可塑性樹脂4a−1は、例えば、ポリオレフィン系、エチレンビニルアセテート系、ポリアミド系、ポリエステル系などの熱可塑性樹脂に、カーボン、銀フィラーなどの導電性物質を加えたもので、分析中の試料の温度上昇で溶融することがなく、また目的とする不純物分布に影響を与えるような元素を含まないものであれば良い。
同図(d)において、試料A,Bを埋め込んだ試料設置部4aにネジ部材4bを取り付けた試料台4を、試料ホルダー本体底板2に取り付け、図1(a)のように外枠1の上面と試料5の測定面が等しくなるように高さを調節する。この高さの調節に当たっては、試料ホルダー100を上下逆にして外枠1を図示しない下に敷いた平板に接するように置き、試料台4を回転させて試料5を下げて図示しない平板に接触させることで行なわれる。
その後、本発明による試料ホルダー100に設置した試料5について二次イオン質量分析を行い、良好な分析が可能であることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施例1の試料ホルダーの構成図であり、(a)は測定面から見た要部平面図、(b)は(a)のX−X線で切断した要部断面図、(c)は(a)のA部拡大図
【図2】この発明の試料ホルダーを用いた場合の試料設置方法を示す工程図であり、(a)〜(d)は工程順に示した要部工程図
【図3】磁場型二次イオン質量分析計を示す構成図
【図4】従来の二次イオン質量分析装置に使用されている二次イオン質量分析用試料ホルダーの測定面を上方から見た平面図
【図5】図4のX−X線で切断した断面図
【図6】図4および図5の試料ホルダーに試料を保持したときの断面図
【符号の説明】
【0012】
1 試料ホルダー本体外枠
2 試料ホルダー本体底板
3 ネジ孔
3a ネジ山
4 試料台
4a 試料設置部
4a−1 導電性熱可塑性樹脂
4a−2 外枠
4b ネジ部材
4c ネジ山
5 試料
30 開口部
100 試料ホルダー
101 試料ホルダー本体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを試料に照射して分析を行う真空分析装置の試料ホルダーにおいて、該試料ホルダーの試料設置部に導電性を持つ熱可塑性樹脂を有し、該樹脂内に試料の下部を埋め込んで前記試料を保持することを特徴とする試料ホルダー。
【請求項2】
一次イオンを固体試料に照射して、試料から放出される二次イオンの分析を行う二次イオン質量分析装置用の試料ホルダーにおいて、
該試料ホルダーの試料設置部に導電性を持つ熱可塑性樹脂を有し、該樹脂内に試料の下部を埋め込んで前記試料を保持することを特徴とする試料ホルダー。
【請求項3】
一次イオンを試料に照射して、該試料から放出される二次イオンの分析を行う二次イオン質量分析用の試料ホルダーにおいて、
複数のネジ孔からなる試料台取り付け部を有する底板と一定の高さの外枠とからなるホルダー本体と、前記試料台取り付け部に上下動可能に取り付けられる複数の試料ホルダーとを備え、前記試料ホルダーは、凹部形状の外枠と該凹部内に設けられた導電性の熱可塑性樹脂とからなる試料設置部を備え、
前記熱可塑性樹脂内に前記試料の下部を埋め込んで前記試料を保持することを特徴とする試料ホルダー。
【請求項4】
前記導電性を持つ熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系、エチレンビニルアセテート系、ポリアミド系もしくはポリエステル系の熱可塑性樹脂に、導電性物質を加えた樹脂であることを特徴とする請求項2または3に記載の試料ホルダー。
【請求項5】
前記導電性物質が、カーボンもしくは銀フィラーであることを特徴とする請求項4に記載の試料ホルダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−198417(P2009−198417A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42495(P2008−42495)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】