説明

試験装置および試験方法

【課題】電波信号を受信して反応する電子装置の通信限界距離を高精度で簡単に求めることができる試験装置および試験方法を提供する。
【解決手段】RFIDタグに対して電波信号を発信するストリップラインセルにその電波信号に相当する電気信号を供給する、固有の出力特性を有するリーダライタに出力レベルを指定する制御装置300において、RFIDタグにおける反応の有無を確認するレスポンス解析部310と、リーダライタに指定した出力レベルから、そのリーダライタの出力特性を用いてRFIDタグで受信される電波信号の電界強度を求め、その電界強度を、所定のアンテナが所定の出力で電波信号を発信してRFIDタグがその電界強度と同じ電界強度で受信する状況におけるそのアンテナとそのRFIDタグとの距離に換算する距離計算処理部312とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の電波信号を受信して反応する電子装置の性能試験を行う試験装置、および、そのような性能試験の試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リーダライタに代表される外部機器との間で、電波によって非接触で情報のやり取りを行う種々のタイプのRFID(Radio Frequency Identification:無線自動識別)タグが注目されている。このRFIDタグの一種として、プラスチックや紙からなるベースシート上に電波通信用のアンテナパターンとICチップが搭載された構成のものが提案されている。このようなタイプのRFIDタグについては、物品などに貼り付けられ、その物品に関する情報を外部機器とやり取りすることで物品の識別などを行うという利用形態が考えられ、例えば、農業、漁業、製造業、物流、サービス、医療、福祉、公共、行政、交通、運輸など、あらゆる分野でRFIDタグを利用したシステムが実用化され、あるいは検討されている。
【0003】
このようなRFIDタグの主要な性能の1つに、所定出力で電波信号を発する外部機器と通信が可能な最長距離に相当する通信限界距離がある。RFIDタグの開発時や製造時には、この通信限界距離の測定が行なわれるが、従来、通信限界距離の測定は、例えば、外部機器から通信可能な距離だけ離れているRFIDタグをこの外部機器から徐々に遠ざけて通信不能となる距離を求める、あるいは、逆に、外部機器から通信不能な距離に離れているRFIDタグをこの外部機器に徐々に近づけて通信可能となる距離を求めること等によって行われている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、このような測定方法では、測定中、RFIDタグを細かに移動させなければならず非常に煩雑であり、RFIDタグの開発や製造の効率化を妨げる一因になっている。
【0004】
そこで、所定出力で電波信号を発する外部機器からの距離と電波信号の電界強度との対応関係、および、外部機器における出力の大きさと外部機器から所定距離だけ離れた地点における電波信号の電界強度との対応関係を予め測定しておき、通信限界距離の測定は、RFIDタグを外部機器から所定距離だけ離れた定位置から動かすことなく、外部機器における出力の大きさを増減させることで行うという技術が考えられている。通信限界距離の測定では、まず、外部機器における出力の大きさを、RFIDタグが通信可能な大きさから徐々に減じて通信不能となる大きさを求め、あるいは、逆に、RFIDタグが通信不能な大きさから徐々に増やして通信可能となる大きさを求める。そして、その求めた大きさを、上記のように予め測定しておいた2種類の対応関係を使って外部機器からの距離に換算する。このような一連の処理を経ることで、RFIDタグを外部機器から所定距離だけ離れた定位置から動かすことなく通信限界距離を求めることができる。
【特許文献1】特開2006−322915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の技術では、RFIDタグを動かすことなく求めた通信限界距離が、RFIDタグの実際の通信限界距離と一致しないことがしばしばあり、この技術には、通信限界距離の測定精度が低いという問題がある。
【0006】
尚、ここまで、RFIDタグを例に挙げて、通信限界距離の測定についての問題を説明したが、このような問題は、RFIDタグに限らず電波信号を受信して反応する電子装置の通信限界距離の測定について共通に生じ得る問題である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、電波信号を受信して反応する電子装置の通信限界距離を高精度で簡単に求めることができる試験装置および試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する試験装置の基本形態は、
固有の出力特性を有し、複数の出力レベルのうちいずれかの出力レベルが指定されると、その指定された出力レベルにその出力特性において対応する電力で所定の電気信号を出力する信号出力部と、
上記信号出力部に上記出力レベルを指定する指定部と、
上記信号出力部が出力した電気信号が供給され、その電気信号に相当する電波信号を、その電波信号を受信して反応する電子装置に、距離ゼロであることも許容された所定距離から発信する発信部と、
上記電子装置における反応の有無を確認する反応確認部と、
上記指定部が指定した出力レベルから、上記信号出力部の出力特性を用いて上記電子装置で受信される電波信号の電界強度を求め、その電界強度を、所定のアンテナが所定の出力で電波信号を発信して上記電子装置がその電界強度と同じ電界強度で受信する状況におけるそのアンテナとその電子装置との距離に換算する換算部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
この基本形態によれば、上記指定部が指定した出力レベルから上記電子装置で受信される電波信号の電界強度が求められ、さらに、その電界強度が、上記アンテナとその電子装置との距離に換算される。そのため、例えば上記反応確認部で反応の有無を確認しながら上記出力レベルを徐々に上げる等といった簡単な運用により、その電子装置の通信限界距離を、その電子装置を移動させることなく求めることができる。ここで、この運用で求まる通信限界距離の精度は、出力レベルから電界強度を求める精度、および電界強度から距離に換算する精度に依存する。このうち、電界強度から距離への換算は、例えば電波の伝播距離と電界強度との対応関係を表わす一般的な物理法則等に従って正確に行うことができるので、通信限界距離の精度は、上記指定部が指定した出力レベルから上記電子装置で受信される電波信号の電界強度をどの程度正確に求めることができるかに主に依存する。この基本形態によれば、この電界強度は、上記信号出力部が有する固有の出力特性に基づいて求められるので、極めて正確に求められることになり、その結果、上記換算部において高精度に通信限界距離を求めることができる。つまり、この基本形態によれば、電波信号を受信して反応する電子装置の通信限界距離を高精度で簡単に求めることができる。
【0010】
上記基本形態に対し、
「上記信号出力部が、複数の信号出力部のうちから選択されたものであり、
上記複数の信号出力部それぞれの出力特性を定義した特性テーブルを記憶する記憶部を備え、
上記換算部は、操作によって上記複数の信号出力部のうちから信号出力部を指定され、上記記憶部に記憶されている特性テーブルのうち、その指定された信号出力部の出力特性を定義した特性テーブルを用いて電界強度を求めるものである」という応用形態は好適である。
【0011】
この好適な応用形態によれば、上記記憶部には、上記複数の信号出力部それぞれの出力特性を定義した特性テーブルが記憶されているので、信号出力部として、上記複数の信号出力部のうちの任意の信号出力部を自在に選択し、その選択した信号出力部で通信限界距離を高精度に求めることができる。
【0012】
また、上記基本形態に対し、
「上記換算部が、操作によって上記発信部を経て上記電子装置に至るまでの電磁的な減衰率を与えられ、その与えられた減衰率を用いて電界強度を求めるものである」という応用形態も好適である。
【0013】
この好適な応用形態によれば、上記換算部が上記出力レベルから上記電界強度を求める際に上記減衰率が使われるが、この減衰率が操作によって与えられる。このため、この好適な応用形態によれば、この減衰率を適宜に調整すること等が可能となり、通信限界距離を一層高精度に求めることができる。
【0014】
また、上記基本形態に対し、
「上記発信部が、上記電子装置の幅以上の幅を有する、外部から上記電波信号に相当する電気信号が供給される第1導体板と、その第1導体板に対向する第2導体板とを有し、その電気信号が有する電力に応じた出力でその電波信号を発信する、上記第1導体板の、上記第2導体板に対向する対向面とは反対側に上記電子装置が配置されるストリップラインセルであり、上記信号出力部が出力した電気信号が上記第1導体板に供給されるものである」という応用形態も好適である。
【0015】
上記ストリップラインセルによれば、上記第1導体板における上記電子装置が配置される側に、伝播範囲が極めて限定された状態で電波信号を発信することができる。その結果、この好適な応用形態によれば、例えば電波暗室等といった大掛かりな設備を用いなくても、周辺環境に電磁的な影響を与えることなく上記電子装置に向けて電波信号を発信することができることとなる。
【0016】
また、上記基本形態に対し、
「上記換算部による換算によって所定の基準距離に換算されるべき基準電界強度についての入力を受け付ける基準電界強度入力部を備え、
上記換算部は、電界強度を距離に換算する換算関係の初期関係を有し、その初期関係を、上記基準電界強度入力部が入力を受け付けた基準電界強度が上記基準距離に換算されるように修正して修正済関係を得、上記指定部が指定した出力レベルから求めた電界強度を、その修正済関係に従って上記アンテナと上記電子装置との距離に換算するものである」という応用形態も好適である。
【0017】
この好適な応用形態によれば、例えば実測等によって正確に求めた基準電界強度によって上記初期関係を修正することで一層精度の高い換算を行うことができる。
【0018】
また、上記基本形態に対し、
「上記換算部による換算によって所定の基準電界強度が換算されるべき基準距離についての入力を受け付ける基準距離入力部を備え、
上記換算部は、電界強度を距離に換算する換算関係の初期関係を有し、その初期関係を、上記基準距離入力部が入力を受け付けた基準距離に上記基準電界強度が換算されるように修正して修正済関係を得、上記指定部が指定した出力レベルから求めた電界強度を、その修正済関係に従って上記アンテナと上記電子装置との距離に換算するものである」という応用形態も好適である。
【0019】
この好適な応用形態によれば、例えば通信限界距離が分かっている電子機器と同種の電子機器について通信限界距離を求める場合等に、その予め分かっている通信限界距離を上記基準距離として使い上記初期関係を修正することで一層精度が高い換算を、その同種の電子機器について行うことができる。
【0020】
また、上記基本形態に対し、
「上記換算部による換算結果を表示する換算結果表示部を備えた」という応用形態も好適である。
【0021】
この好適な応用形態によれば、上記換算結果を目視確認することができるので、上記の通信限界距離の測定を一層簡単に行うことができる。
【0022】
また、上記基本形態に対し、
「上記指定部が、複数の出力レベルそれぞれを順次に上記信号出力部に指定するものであり、
上記反応確認部が、上記複数の出力レベルそれぞれに対する上記電子装置の反応を確認するものである」という応用形態も好適である。
【0023】
この好適な応用形態によれば、順次に指定される各出力レベルに対する上記電子装置の反応を確認することで、上記の通信限界距離の測定が自動的に行われることとなる。
【0024】
また、この好適な応用形態に対し、
「前記反応確認部によって前記電子装置の反応が確認された出力レベルのうち最小の出力レベルに対して前記換算部で換算された距離を、該電子装置の通信限界距離として表示する通信限界距離表示部を備えた」という応用形態はさらに好適である。
【0025】
このさらに好適な応用形態によれば、自動的に測定された通信限界距離を目視確認することができる。
【0026】
また、上記目的を達成する試験方法の基本形態は、
固有の出力特性を有し、複数の出力レベルのうちいずれかの出力レベルが指定されると、その指定された出力レベルにその出力特性において対応する電力で所定の電気信号を出力する信号出力部に上記出力レベルを指定する指定過程と、
上記指定過程によって指定された出力レベルに対応する電力で上記信号出力部が出力した電気信号に相当する電波信号が、その電波信号を受信して反応する電子装置に、距離ゼロであることも許容された所定距離からその電波信号を発信する発信部から発信されたときの、その電子装置における反応の有無を確認する反応確認過程と、
上記指定部が指定した出力レベルから、上記信号出力部の出力特性を用いて上記電子装置で受信される電波信号の電界強度を求め、その電界強度を、所定のアンテナが所定の出力で電波信号を発信して上記電子装置がその電界強度と同じ電界強度で受信する状況におけるそのアンテナとその電子装置との距離に換算する換算過程とを有することを特徴とする。
【0027】
この基本形態によれば、上述した試験装置と同様に、電波信号を受信して反応する電子装置の通信限界距離を高精度で簡単に求めることができる。
【0028】
尚、試験方法については、ここではその基本形態のみを示すに止めるが、これは単に重複を避けるためであり、この試験方法には、上記の基本形態のみではなく、前述した試験装置の各応用形態に対応する各種の応用形態が含まれる。
【発明の効果】
【0029】
以上、説明したように、試験装置および試験方法の上記基本形態によれば、電波信号を受信して反応する電子装置の通信限界距離を高精度で簡単に求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
基本形態および応用形態について上記に説明した試験装置および試験方法に対する具体的な実施形態を、以下図面を参照して説明する。
【0031】
まず、試験装置の具体的な第1実施形態について説明する。
【0032】
図1は、試験装置の具体的な第1実施形態であるRFIDタグ試験装置を示す図である。
【0033】
この図1に示すRFIDタグ試験装置1は、電波通信用のアンテナパターンとICチップが搭載され所定の通信規格に則ったコマンド信号を電波信号として受信すると、そのコマンド信号に対する応答を電波信号(応答信号)として返信するRFIDタグT1について、後述の通信限界距離を測定するという、通信性能についての性能試験を行うものである。また、本実施形態のRFIDタグ試験装置1で取り扱われるRFIDタグT1は、動作電源を内蔵せず、動作のための電力が外部から電波信号として供給されるいわゆるパッシブタイプのRFIDタグである。
【0034】
このRFIDタグ試験装置1は、ストリップラインセル100と、リーダライタ200と、制御装置300とを備えている。リーダライタ200は制御装置300に第1ケーブル41で接続され、ストリップラインセル100は、リーダライタ200に第2ケーブル42で接続されている。ここで、RFIDタグT1が、上述した試験装置の基本形態における電子装置の一例に相当し、ストリップラインセル100が基本形態における発信部と上述した試験装置の応用形態におけるストリップラインセルとを兼ねた一例に相当する。また、リーダライタ200は、上述した試験装置の基本形態における信号出力部の一例に相当する。
【0035】
ここで、RFIDタグT1の通信限界距離とは、そのRFIDタグT1との実際の通信に用いる所定のアンテナがリーダライタ200に繋がれ、さらにそのアンテナが実際の通信に用いる所定の出力で電波信号を発信し、RFIDタグT1がその電波信号を受信するという状況下で、そのRFIDタグT1が応答することができる距離のうちの最長の距離である。この状況下では、RFIDタグT1が受信する電波信号の電界強度は、RFIDタグT1がアンテナから遠ざかるほど減少し、逆にアンテナに近づくほど増加する。本実施形態のRFIDタグ試験装置1では、この電界強度の増減を、後述するようにリーダライタ200の出力レベルの増減によって模擬し、RFIDタグT1が応答することができた出力レベルのうち最小の出力レベルを上記の状況下におけるアンテナとRFIDタグT1との距離に換算することで通信限界距離が求められる。
【0036】
ストリップラインセル100は、試験対象のRFIDタグT1の幅以上の幅を有する第1導体板101と、第1導体板101に対向する第2導体板102とを有している。第1導体板101の一端は第2ケーブル42に接続され、この一端を介して、リーダライタ200から上記のコマンド信号が第1導体板101に供給される。また、第1導体板101の他端は終端抵抗103に接続されている。このストリップラインセル100では、リーダライタ200からコマンド信号が第1導体板101に供給されると、そのコマンド信号が、そのコマンド信号の電力に応じた出力の電波信号として、所定の伝播エリアA1に発信される。本実施形態では、試験対象のRFIDタグT1は、この伝播エリアA1内に配置される。また、このストリップラインセル100は、RFIDタグT1が、上記のコマンド信号を受信して応答信号を返信するとその応答信号を受信する。その受信された応答信号は第2ケーブル42を介してリーダライタ200に送られる。
【0037】
リーダライタ200は、制御装置300から、RFIDタグT1に対するコマンドを受け取り、そのコマンドに基づいて、所定の通信規格に従った符号化および変調によってコマンド信号を生成する。また、リーダライタ200は、制御装置300から、ストリップラインセル100に対する出力レベルを指定される。
【0038】
本実施形態では、リーダライタ200に対しては最大レベルに対応する「0」から最小レベルに対応する「62」までの63種類の指定値によって63段階の出力レベルの指定が可能であり、制御装置300から、いずれかの指定値によって出力レベルが指定されると、リーダライタ200は、コマンド信号を生成する際には、その指定された出力レベルに応じた電力のコマンド信号を生成する。また、リーダライタ200は、固有の出力特性を有しており、出力レベルが指定されると、その出力特性においてその指定された出力レベルに対応する電力のコマンド信号を生成してストリップラインセル100に供給する。尚、リーダライタ200の出力特性は、上記の最大レベルから最小レベルまで線形に変化するものではなく、指定値「0」の近傍において最大レベルでほぼ一定となり、指定値「62」の近傍において最小レベルでほぼ一定となる非線形な特性となっている。
【0039】
ここで、このリーダライタ200は、互いに出力特性が異なる複数のリーダライタのうちから選択されてこのRFIDタグ試験装置1に組み込まれたものである。
【0040】
このリーダライタ200は、コマンド信号の供給後は、RFIDタグT1に電力を供給するための信号を後述のようにストリップラインセル100に供給するとともに、所定の待機時間に亘って、RFIDタグT1からの応答信号がストリップラインセル100から送られてくるのを待ち続ける。この待機時間内に応答信号がストリップラインセル100から送られて来た場合には、その応答信号を上記の通信規格に従って復調し解読することで制御装置300向けのレスポンスを生成し、待機時間経過後にそのレスポンスを制御装置300に送る。また、待機時間内に応答信号が送られて来なかった場合には、RFIDタグT1がコマンドに対して無応答である旨を表わすレスポンスを生成し、待機時間経過後にそのレスポンスを制御装置300に送る。
【0041】
制御装置300は、RFIDタグT1に対するコマンドをリーダライタ200に送るととともに、リーダライタ200に対して、上記の指定値で出力レベルを指定するレベル指定信号を送る。さらに、制御装置300は、リーダライタ200に送ったレベル指定信号が指定する出力レベル(指定値)を、RFIDタグT1との実際の通信に用いる所定のアンテナをリーダライタ200に繋いだときの、そのアンテナとRFIDタグT1との距離に換算して表示装置300aに表示する。
【0042】
本実施形態では、制御装置300は、ユーザによる所定操作あるいは制御装置300自身の内部処理によって上記の出力レベルを順次に増加あるいは順次に減少させる。尚、本実施形態では、上述したように指定値「0」が最大出力レベルに対応し、指定値「62」が最小出力レベルに対応しているので、出力レベルの増加とは実質的には指定値の減少を意味し、逆に、出力レベルの減少とは実質的には指定値の増加を意味する。
【0043】
この出力レベルの増減は、ストリップラインセル100が発信しRFIDタグT1が電波信号として受信するコマンド信号の電界強度の増減をもたらす。一方で、上記のアンテナがリーダライタ200に繋がれ、さらにそのアンテナが実際の通信に用いる所定の出力でこのコマンド信号を電波信号として発信し、RFIDタグT1がそのコマンド信号を受信するという状況下では、そのアンテナに対するRFIDタグT1の接離も、そのRFIDタグT1が受信するコマンド信号の電界強度の増減をもたらす。本実施形態では、リーダライタ200の出力レベルを順次に増加あるいは順次に減少させ、さらに各出力レベル(指定値)を上記の距離に換算することで、実際の通信用のアンテナを用いず、さらにRFIDタグT1を移動させることなく、そのアンテナに対するRFIDタグT1の接離が模擬されている。
【0044】
そして、この制御装置300は、上記の増減における各出力レベルについてRFIDタグT1からの応答の有無を確認し、さらに、各出力レベルに対応する上記の距離を算出して表示装置300aに表示する。
【0045】
ここで、RFIDタグT1の通信限界距離は、上述したように上記の状況下で、そのRFIDタグT1が応答信号を返すことができた距離のうちの最長の距離である。本実施形態では、上記のアンテナに対するRFIDタグT1の接離が、リーダライタ200の出力レベルの増減によって模擬されているので、この通信限界距離が、RFIDタグT1が応答信号を返すことができた出力レベルのうちの最小の出力レベル(最大の指定値)からの換算結果として得られることとなる。この換算結果の距離が、RFIDタグT1の通信限界距離として、表示装置300aに表示される。尚、この通信限界距離の取得に係る処理については後で詳細に説明する。
【0046】
RFIDタグ試験装置1は、概略このように構成されている。
【0047】
次に、リーダライタ200の詳細について説明する。
【0048】
図2は、図1のRFIDタグ試験装置1を、リーダライタ200の内部構成に注目して示す機能ブロック図である。
【0049】
このリーダライタ200は、インタフェース手段201と、コマンド送信手段202と、送信電力レベル制御手段203と、送受信波分離手段204と、レスポンス受信手段205とを備えている。
【0050】
インタフェース手段201は、制御装置300から、RFIDタグT1に対するコマンドを受け取ると、そのコマンドをコマンド送信手段202に送り、制御装置300から、リーダライタ200の出力レベルを上記の指定値で指定するレベル指定信号を受け取ると、そのレベル指定信号を送信電力レベル制御手段203に送る。さらに、インタフェース手段201は、コマンドをコマンド送信手段202に送った後は、そのコマンドに対する制御装置300へのレスポンスを、所定の待機時間に亘って待ち続ける。そして、その待機時間内にレスポンス受信手段205からレスポンスが送られて来たときには、そのレスポンスを制御装置300に送る。また、待機時間内にレスポンスが送られて来なかった場合には、インタフェース手段201は、無応答である旨を表わすレスポンスを生成して制御装置300に送る。
【0051】
コマンド送信手段202は、インタフェース手段201からコマンドを受け取ると、そのコマンドを所定の通信規格によって予め規定されている通信手順やデータ形式に従って符号化することでタイミング信号を生成し、そのタイミング信号を送信電力レベル制御手段203に送る。
【0052】
送信電力レベル制御手段203は、インタフェース手段201からレベル指定信号を受け取ると、そのレベル指定信号が指定する出力レベルに応じた電力のキャリア信号を生成する。さらに、送信電力レベル制御手段203は、コマンド送信手段202から上記のタイミング信号を受け取ると、そのタイミング信号を使って上記のキャリア信号を所定の変調方式に従って変調することで、制御装置300からのコマンドに相当するコマンド信号を生成する。そして、送信電力レベル制御手段203は、その生成したコマンド信号を送受信波分離手段204に送るとともに、そのコマンド信号を送った後は、そのコマンド信号の生成に用いたキャリア信号を、上記の待機時間に亘って送受信波分離手段204に送り続ける。
【0053】
送受信波分離手段204は、送信電力レベル制御手段203からコマンド信号を受け取ると、そのコマンド信号をストリップラインセル100に向けて出力し、さらに、コマンド信号に続いて上記の待機時間に亘って送られてくるキャリア信号を、ストリップラインセル100に向けて出力する。また、RFIDタグT1からの応答信号をストリップラインセル100から受け取ると、その応答信号をレスポンス受信手段205に送る。
【0054】
レスポンス受信手段205は、送受信波分離手段204から応答信号を受け取ると、その応答信号を上記の通信規格に従って復調し解読することで制御装置300向けのレスポンスを生成してインタフェース手段201に送る。
【0055】
次に、制御装置300の詳細について説明する。
【0056】
図3は、図1に示す制御装置300の詳細を示す機能ブロック図である。
【0057】
この制御装置300は、テキスト入力部301と、トリガー入力部302と、入力受付部303とを備えている。テキスト入力部301には、キーボード等を介してテキスト情報が入力され、トリガー入力部302には、マウスのクリック操作やキーボード上の所定キーに対する押圧操作等を介して所定処理の実行指示等といったトリガー指示が入力され、入力受付部303では、各入力部における入力が受け付けられる。
【0058】
また、制御装置300は、内部タイマ304と、出力レベル設定部305とを備えている。内部タイマ304は、所定時間が経過する度にその旨を制御装置300内の各所に通知するものであり、出力レベル設定部305は、リーダライタ200の出力レベルを後述の出力レベル/コマンド組立部306に上記の指定値で設定するものである。本実施形態では、ユーザによる所定操作が実行されその旨が入力受付部303から通知される度、あるいは内部タイマ304から上記の時間経過の通知がある度に出力レベル設定部305が、出力レベル/コマンド組立部306に設定する出力レベルを、上記の指定値で「1」ずつ増減させる。これにより、上記の状況下におけるアンテナに対するRFIDタグT1の接離が模擬されることとなる。
【0059】
出力レベル/コマンド組立部306は、出力レベル設定部305によって設定された出力レベルを上記の指定値で指定するレベル指定信号を生成するとともに、RFIDタグT1に対するコマンドを組み立てるものである。さらに、この出力レベル/コマンド組立部306は、出力レベル設定部305から送られてきた出力レベルを、後述の距離計算処理部312に送る。
【0060】
また、制御装置300は、出力レベル/コマンド送信部307と、R/Wインタフェース部308とを備えている。出力レベル/コマンド送信部307は、レベル指定信号およびコマンドをR/Wインタフェース部308を介してリーダライタ200に送信するものである。また、出力レベル/コマンド送信部307は、その送信したコマンドと同じコマンドを後述のレスポンス受信部309に渡す。R/Wインタフェース部308は、リーダライタ200と各種信号の遣り取りを行うものである。出力レベル/コマンド送信部307が送信したコマンドは、このR/Wインタフェース部308を介してリーダライタ200に送られ、そのコマンドに対するレスポンスは、このR/Wインタフェース部308を介して後述のレスポンス受信部309に送られる。
【0061】
制御装置300は、レスポンス受信部309と、レスポンス解析部310とを備えている。レスポンス受信部309は、コマンドに対するレスポンスをR/Wインタフェース部308を介してリーダライタ200から受け取るものであり、レスポンス解析部310は、そのレスポンスがRFIDタグT1からの応答の有無どちらを示すものであるかの解析等を行うものである。レスポンス受信部309には、上述したように出力レベル/コマンド送信部307から、その出力レベル/コマンド送信部307が送ったコマンドと同じコマンドが渡される。レスポンス受信部309は、上記のレスポンスを受け取ると、その受け取ったレスポンスとコマンドとのセットをレスポンス解析部310に渡す。レスポンス受信部309は、渡されたレスポンスの解析の際に通信エラーの発生の有無等についても解析する。解析結果は、後述の表示処理部313に送られる。
【0062】
ここで、上述の出力レベル設定部305と出力レベル/コマンド組立部306と出力レベル/コマンド送信部307とR/Wインタフェース部308とを合せたものが、上述した試験装置の基本形態における指定部の一例に相当し、R/Wインタフェース部308とレスポンス受信部309とレスポンス解析部310とを合せたものが、基本形態における反応確認部の一例に相当する。
【0063】
また、制御装置300は、電界強度記憶部311を備えている。この電界強度記憶部311には、リーダライタ200に対して指定可能な63段階の出力レベルそれぞれを表わす「0」から「62」までの各指定値と、各指定値によって出力レベルがリーダライタ200に指定されたときにストリップラインセル100が電波信号として発信するコマンド信号の電界強度との一対一の対応関係が記載された電界強度テーブルが記憶される。この電界強度記憶部311は、上述した試験装置の応用形態における記憶部の一例に相当する。
【0064】
図4は、電界強度テーブルの一例を示す図である。
【0065】
この図4に示す電界強度テーブルTb1は、各々が出力レベルを表わす「0」から「62」までの63個の指定値それぞれと、各指定値に対応する電界強度との一対一の対応関係を記載したものであり、上述した試験装置の応用形態における特性テーブルの一例に相当する。上述したように、本実施形態では指定値「0」が最大レベルに相当し、指定値「62」が最小レベルに相当する。ただし、上述したように、リーダライタの出力特性は、指定値「0」の近傍では最大レベルでほぼ一定となり、指定値「62」の近傍では最小レベルでほぼ一定となる非線形特性となっている。図4に示す電界強度テーブルTb1では、これを受けて、指定値「0」から指定値「6」ぐらいまでは最大の電界強度である「5.4(dBm)」でほぼ一定となっており、その後、指定値が増えるに従って電界強度が減少し、指定値「40」ぐらいから指定値「62」までは最小の電界強度である「−11.4(dBm)」でほぼ一定となっている。
【0066】
尚、この図4では、各電界強度を、RFIDタグT1との実際の通信に用いる所定のアンテナをリーダライタ200に繋いだときの、そのアンテナとRFIDタグT1との距離に換算したときの換算結果が電界強度テーブルTb1に隣接して示されている。この距離への換算については、後で詳細に説明する。
【0067】
この電界強度テーブルTb1に記載されている対応関係は、リーダライタ200が有する固有の出力特性が反映されたものである。そして、本実施形態では、上記の電界強度記憶部311に、図1のRFIDタグ試験装置1が構築される際に、このリーダライタ200の選択の基となった複数のリーダライタそれぞれについて、各リーダライタの固有の出力特性が反映された電界強度テーブルが記憶されている。尚、本実施形態では、図4に示すように、電界強度テーブルでは、電界強度が、後の計算における簡単化のために「dBm」を単位として記載されている。また、本実施形態では、各リーダライタについての電界強度テーブルは、実測によって得られたものである。この実測は、図1のRFIDタグ試験装置1に、上記の複数のリーダライタそれぞれを組み込み、上記のような63段階の出力レベルそれぞれについてストリップラインセル100が発信するコマンド信号の電界強度を標準ダイポールアンテナで測定することによって簡単に行うことができる。
【0068】
図3に示す制御装置300では、通信限界距離の測定に当たっては、ユーザが、電界強度記憶部311に電界強度テーブルが記憶されている複数のリーダライタの中から、図1のRFIDタグ試験装置1が有するリーダライタ200を指定する。すると、その指定内容が入力受付部303から電界強度記憶部311に送られ、電界強度記憶部311は、複数の電界強度テーブルの中から、指定されたリーダライタ200に対応する電界強度テーブルを選び出して後述の距離計算処理部312に渡す。
【0069】
この図3に示す距離計算処理部312は、出力レベル設定部305が設定した出力レベル(指定値)を、上記の所定のアンテナをリーダライタ200に繋いだときの、そのアンテナとRFIDタグT1との距離に換算するものである。この距離計算処理部312は、上述した試験装置の基本形態における換算部の一例に相当する。この距離計算処理部312による出力レベルから距離への換算が、詳細については後述するように上記の電界強度記憶部311から渡された電界強度テーブルを使って行われる。そして、距離計算処理部312は、その換算結果を後述の表示処理部313に渡す。
【0070】
また、制御装置300は、表示処理部313と、テキスト表示部314と、グラフィック表示部315とを備えている。表示処理部313は、図1に示す表示装置300aに表示する画面を生成するものであり、テキスト表示部314は、その画面の構成要素のうちのテキスト情報を表示装置300aに表示するものであり、グラフィック表示部315は、その画面の構成要素のうちグラフィック情報を表示するものである。本実施形態では、換算結果である距離や、レスポンス解析部310での解析結果等が、テキスト情報やグラフィック情報として表示装置300aに表示される。これら表示処理部313とテキスト表示部314とグラフィック表示部315とを合せたものが、上述した試験装置の応用形態における換算結果表示部の一例に相当する。
【0071】
また、図1のRFIDタグ試験装置1によるRFIDタグT1の通信限界距離の測定処理では、上述したように出力レベル設定部305が、ユーザによる所定操作が実行される度、あるいは内部タイマ304から上記の時間経過の通知がある度にリーダライタ200の出力レベルを上記の指定値で順次に増加あるいは順次に減少させる。そして、レスポンス解析部310が、各出力レベルについてRFIDタグT1からの応答の有無を確認し、さらに、距離計算処理部312が、各出力レベル(指定値)に対応する上記の距離を算出する。
【0072】
そして、上記の表示処理部313は、通信限界距離の測定処理の際に、レスポンス解析部310において応答有りが確認された出力レベルのうち最小の出力レベル(最大の指定値)に対して距離計算処理部312によって算出され距離を、処理対象のRFIDタグT1の通信限界距離としてテキスト表示部314とグラフィック表示部315とを介して表示装置300aに表示する。これにより、処理対象のRFIDタグT1が応答することができた距離のうちの最長の距離である通信限界距離が表示装置300aに表示されることとなる。これら表示処理部313とテキスト表示部314とグラフィック表示部315とを合せたものは、上述した試験装置の応用形態における通信限界距離表示部の一例も兼ねている。
【0073】
この制御装置300によるRFIDタグT1の通信限界距離の測定処理は、ユーザが不図示の初期画面において測定処理の実行を指示し、その指示を受けて表示装置300aに次のような測定処理用操作画面が表示されると開始される。
【0074】
図5は、通信限界距離の測定処理用操作画面を示す図である。
【0075】
本実施形態では、上述したように出力レベル設定部305がリーダライタ200の出力レベル(指定値)を順次に増加あるいは順次に減少させることで、上記の状況下におけるアンテナへのRFIDタグT1の接近あるいはアンテナからの離隔が模擬される。
【0076】
図5に示す測定処理用操作画面350には、通信限界距離の測定処理を、アンテナからの離隔を模擬して行うか、アンテナへの接近を模擬して行うかをユーザが指定するための測定方向指定部351が備えられている。測定方向指定部351には、この測定方向として、アンテナからRFIDタグT1を遠ざける離隔方向を指定するための離隔方向指定ボタン351aと、アンテナにRFIDタグT1を近づける接近方向を指定するための接近方向指定ボタン351bとが備えられている。
【0077】
また、本実施形態では、通信限界距離の測定処理において、所定のアンテナに対する順次の離隔あるいは接近、すなわちリーダライタ200の出力レベル(指定値)の順次の増加あるいは減少が、上述したように、ユーザによる所定操作が実行される度あるいは内部タイマ304から通知がある度に実行される。つまり、本実施形態では、通信限界距離の測定処理を、ユーザ操作を逐次に受けて行うマニュアルスキャンと、内部タイマ304からの通知を受けて行うオートスキャンとの2種類の測定方法が用意されている。
【0078】
図5に示す測定処理用操作画面350には、マニュアルスキャンが行われる際にユーザによって操作されるマニュアルスキャン部352と、オートスキャンが行われる際にユーザによって操作されるオートスキャン部353とが備えられている。マニュアルスキャン部352には、ユーザが逐次に操作する測定ボタン352aが備えられている。マニュアルスキャンでは、ユーザが測定ボタン352aを逐次に操作する度に、出力レベルの増加あるいは減少と、応答の有無の確認と、距離への換算とが行われる。また、オートスキャン部353には、出力レベルの順次の増加あるいは順次の減少と、各出力レベルについての応答の有無の確認と、各出力レベルの距離への換算との一連の処理の開始をユーザが告げるための開始ボタン353aが備えられている。
【0079】
本実施形態では、測定された通信限界距離を、その通信限界距離が記述されたファイルとして保存することができるが、本実施形態では、この保存の方法として、予め決められている所定のファイル名を付けて保存する自動保存と、所望のファイル名を付けて保存するマニュアル保存との2つが用意されている。
【0080】
図5に示す測定処理用操作画面350には、自動保存によって通信限界距離を保存するための自動保存部354と、マニュアル保存によって通信限界距離を保存するためのマニュアル保存部355とが備えられている。
【0081】
自動保存部354は、自動保存による保存を指定するための自動保存指定ボタン354aと、自動保存の際のファイル名を「UID/EPC.txt」と「Data.txt」との2つのうちから選択するためのラジオボタンからなるファイル名指定部354bとを備えている。本実施形態では、通信限界距離の測定処理の当初において、自動保存指定ボタン354aがクリック操作されると、その後の測定処理で得られた通信限界距離が、ファイル名指定部354bにおいて選択されたファイル名のファイルに自動的に記述されて保存される。また、本実施形態では、通信限界距離の測定処理の当初において、自動保存指定ボタン354aがクリック操作されなかった場合には、通信限界距離の保存はマニュアル保存によって行われることとなる。
【0082】
マニュアル保存部355は、現在保存されているファイルのファイル名の一覧が表示されるファイル名表示部355aと、所望のファイル名を入力するためのファイル名入力部355bと、その入力されたファイル名での保存を指示するための保存ボタン355cと、所望のファイルを開いてそのファイルに記述された通信限界距離の表示を指示するための開示ボタン355dと、所望のファイルの削除を指示するための削除ボタン355eと、開示ボタン355dに対するクリック操作によって開示するファイル、あるいは削除ボタン355eに対するクリック操作によって削除するファイルの指定を許可するための参照ボタン355fとを備えている。
【0083】
マニュアル保存による通信限界距離の保存は、この測定処理の最終段階においてファイル名入力部355bにユーザによって所望のファイル名が入力され、さらに保存ボタン355cがクリック操作されると実行され、測定処理で得られた通信限界距離が、その所望のファイル名のファイルに記述されて保存される。また、現在記憶されているファイルのうち所望のファイルに記述された通信限界距離の表示やそのファイルの削除を行う際には、ユーザは、まず参照ボタン355fをクリック操作する。すると、ファイル名表示部355aへのアクセスが許可され、その状態で、ファイル名表示部355aに表示されているファイル名のうち所望のファイルのファイル名にユーザがカーソルを合わせ、開示ボタン355dあるいは削除ボタン355eをクリック操作すると、そのファイルに記述された通信限界距離の表示やそのファイルの削除が実行される。
【0084】
また、図5に示す測定処理用操作画面350には、図1のRFIDタグ試験装置1が構築される際にリーダライタ200の選択の基となった複数のリーダライタの中から、このRFIDタグ試験装置1が有するリーダライタ200をユーザが指定するためのリーダライタ指定部356が備えられている。
【0085】
このリーダライタ指定部356は、ユーザによる指定操作が行われる操作部356aを備えている。この操作部356aは、メニューボタン356a_1を有しており、ユーザがこのメニューボタン356a_1をクリック操作すると上記の複数のリーダライタそれぞれの名称の一覧が記述されたプルダウンメニューが表示される。ユーザが上記のリーダライタ200の名称をクリック操作すると、そのリーダライタ200が指定され、その名称が表示される。また、このリーダライタ指定部356は、通信限界距離の測定処理中に、操作部356aで指定されたリーダライタ200についての電界強度テーブルを使って得られる電界強度が数値表示される強度表示部356bを備えている。通信限界距離の測定処理中は、上述したように、リーダライタ200の出力レベル(指定値)が順次に増加あるいは減少される。この強度表示部356bには、この順次に代わっていく出力レベルそれぞれについて電界強度テーブルを使って求められる電界強度が表示される。
【0086】
また、図5に示す測定処理用操作画面350には、制御装置300において、リーダライタ200と信号の遣り取りを行うための通信ポートの開放を指示するポート開放部356が備えられている。このポート開放部357は、ユーザが通信ポートの開放を指示するための開放ボタン357aを備えている。ユーザは、この開放ボタン357aをクリック操作することでこのRFIDタグ試験装置1に通信限界距離の測定処理を開始させることができ、さらに、測定処理中に、この開放ボタン357aをクリック操作することで、ユーザは、測定処理のやり直しを指示することもできる。
【0087】
また、図5に示す測定処理用操作画面350には、処理対象のRFIDタグの種別を入力するためのタグ種別入力部358が備えられており、このタグ種別入力部358には、ユーザが種別を入力する入力欄358aが備えられている。
【0088】
また、図5に示す測定処理用操作画面350には、リーダライタ200の出力レベル(指定値)の順次の増加あるいは減少を、決められた範囲内で行うトリミングの実行を指定するためのトリミング指定部359が備えられており、トリミング指定部359には、その指定をクリック操作によって行うためのトリミング指定ボタン359aが備えられている。また、このトリミングの実行を指定する際には、トリミング範囲における最大指定値と最小指定値との設定も行われるが、これらの設定については後述する。また、本実施形態では、トリミング指定ボタン359aがクリック操作されなかった場合には、出力レベルの増減における最大指定値は、最小の出力レベルに対応する指定値「62」となり、最小指定値は、最大の出力レベルに対応する指定値「0」となる。
【0089】
また、図5に示す測定処理用操作画面350には、測定処理によって得られた通信限界距離や、その他この測定処理に係る各種情報がテキスト表示されるテキスト表示画面361と、縦軸に上記のリーダライタ指定部356における強度表示部356bに数値表示される電界強度をとり横軸にリーダライタ200の出力レベル(指定値)をとって、出力レベル(指定値)の変化に対する電計強度の変化をグラフィック表示するグラフィック表示部362とを備えている。また、グラフィック表示部362では、通信限界距離に対応する出力レベルが縦線362aによって表示される。
【0090】
さらに、図5に示す測定処理用操作画面350には、現時点における電界強度をバー表示する電界強度バー363と、現時点における出力レベルをバー表示する出力レベル表示バー364と、その出力レベルから換算される距離を数値表示する距離表示部365とが備えられている。
【0091】
また、図5に示す測定処理用操作画面350には、トリミング範囲における最大指定値を設定するための第1の設定部366と、最小指定値を設定するための第2の設定部367とが備えられている。また、出力レベルの増減が始まると、第1の設定部366には、出力レベルの増加の際の各時点における指定値が数値表示され、第2の設定部367には、出力レベルの減少の際の各時点における指定値が数値表示される。
【0092】
トリミング範囲における最大指定値と最小指定値との設定では、トリミング指定ボタン359aがクリック操作された後に、第1の設定部366あるいは第2の設定部367がクリック操作され、その設定部の表示が「<」あるいは「>」の表示から数値表示に変わる。その状態で、出力レベル表示バー364の指定値増加ボタン364aあるいは指定値減少ボタン364bが、各設定部における数値表示が所望の値を表わすまでクリック操作される。本実施形態では、指定値増加ボタン364aあるいは指定値減少ボタン364bが1回クリック操作される毎に、設定部における数値表示が「1」だけ増加あるいは減少する。設定部における数値表示が所望の数値表示となったところで、その設定部が再度クリック操作されると、最大指定値あるいは最小指定値が、その指定部に表示された値に確定される。このような操作が各設定部に対して行われることで最大設定値と最小設定値とのそれぞれが設定される。
【0093】
以上に説明した、測定処理用操作画面350を使って行われる通信限界距離の測定処理における処理の流れについて以下に説明する。尚、以下の説明では、図3および図5に示す各構成要素を特に図番を断らずに参照する。
【0094】
図6は、測定処理用操作画面350を使って行われる通信限界距離の測定処理における処理の流れを示すフローチャートである。
【0095】
この図6のフローチャートが示す処理は、試験方法の具体的な第1実施形態に相当する。
【0096】
まず、この図6の処理は、上述したように、ユーザが不図示の初期画面において測定処理の実行を指示し、その指示を受けて表示装置300aに次のような測定処理用操作画面が表示されると開始される。そして、処理がスタートすると、まず、ユーザによってポート開放部357の開放ボタン357aがクリック操作され、制御装置300において、リーダライタ200と信号の遣り取りを行うための通信ポートが開かれる(ステップS101)。すると、制御装置300は、以下の各種入力操作を受け付ける待機状態となり、この間に、測定処理用操作画面350を使ったユーザによる各種入力操作が行われる(ステップS102)。
【0097】
このステップS102の入力操作では、リーダライタ指定部356を介したこのRFIDタグ試験装置1が有するリーダライタ200の指定、タグ種別入力部358を介した処理対象のRFIDタグの種別の入力、トリミング指定部359を介したトリミング実行の指定、それに伴った出力レベル表示バー364と第1および第2の設定部366,367とを介したトリミング範囲の設定、自動保存部354を介した自動保存の実行の指定、および、測定方向指定部351を介した測定方向の指定が行われる。尚、トリミング実行の指定と自動保存の実行の指定とについては、ユーザがそれらを望む場合に行われる。ユーザがトリミング実行の指定を望まずトリミング実行が指定されなかった場合には、上述したように、「0」から「62」までの指定値の全範囲に亘る出力レベルの増加あるいは減少が実行され、ユーザが自動保存の実行を望まず自動保存の実行が指定されなかった場合には、上述したようにこの測定処理の最後にマニュアル保存部355を介した所望のファイル名での保存処理が行われる。
【0098】
ステップS102の入力操作でリーダライタ200の指定が行われると、電界強度記憶部311は、記憶されている複数の電界強度テーブルの中から、その指定されたリーダライタ200に対応する電界強度テーブルを選び出して距離計算処理部312に渡す。
【0099】
このステップS102の入力操作後は、制御装置300は、ユーザがマニュアルスキャン部352の測定ボタン352aをクリック操作するまで、あるいは、オートスキャン部353の開始ボタン353aをクリック操作するまで待機状態となる(ステップS103)。ユーザがこれらの操作を行うと(ステップS103におけるYes判定)、次の処理(ステップS104)に進む。
【0100】
ステップS104では、まず、出力レベル設定部305が、スタートの指定値を出力レベルとして出力レベル/コマンド組立部306に設定する。このスタートの指定値は、ステップS102においてトリミング実行の指定がなされているか否と、このステップS102において、所定のアンテナからRFIDタグを遠ざける離隔方向とアンテナにRFIDタグT1を近づける接近方向とのいずれの測定方向が指定されたか、即ち、出力レベルの減少と増加とのいずれが指定されたかによって次のように決められる。
【0101】
トリミング実行の指定がなされている場合、測定方向として離隔方向が指定されていたときには、第2の設定部367において設定された最小指定値がスタートの指定値となり、測定方向として接近方向が指定されていたときには、第1の設定部366において設定された最大指定値がスタートの指定値となる。
【0102】
一方、トリミング実行の指定がなされていない場合、測定方向として離隔方向が指定されていたときには「0」がスタートの指定値となり、測定方向として接近方向が指定されていたときには「62」がスタートの指定値となる。
【0103】
このようにスタートの指定値が決まると、ステップS104の処理では、出力レベル/コマンド組立部306が、そのスタートの指定値で出力レベルを指定するレベル指定信号を生成するとともに、RFIDタグT1に対するコマンドを組み立てる。そして、出力レベル/コマンド送信部307が、リーダライタ200に対してそれらのレベル指定信号およびコマンドを送信する。また、このステップS104では、出力レベル/コマンド組立部306は、出力レベル設定部305が設定したスタートの指定値を距離計算処理部312に渡す。このステップS104の処理が、上述した試験方法の基本形態における指定過程の一例に相当する。
【0104】
上述したように、リーダライタ200は、制御装置300から送られてきたコマンド信号をストリップラインセル100に供給した後は待機状態となり、その待機時間経過後に、応答あるいは無応答を表わすレスポンスを制御装置300に返す。一方、制御装置300では、リーダライタ200が待機状態にある間に、ステップS105の処理およびステップS106の処理を実行する。
【0105】
まず、ステップS105では、距離計算処理部312が、出力レベル設定部305が設定したスタートの指定値を、リーダライタ200にRFIDタグT1との実際の通信に用いる所定のアンテナを繋いだときの、そのアンテナとRFIDタグT1との距離に換算する(ステップS105)。このステップS105の処理が、上述した試験方法の基本形態における換算過程の一例に相当する。
【0106】
上述したように、距離計算処理部312には、ステップS102の処理で指定されたリーダライタ200に対応する電界強度テーブルが電界強度記憶部311から渡され、ステップS104の処理でリーダライタ200に送られたレベル指定信号が示すスタートの指定値が出力レベル/コマンド組立部306から渡される。
【0107】
ステップS105の処理では、まず、渡された電界強度テーブルにおいてスタートの指定値に対応している電界強度が求められる。
【0108】
次に、その求められた電界強度が、上記のアンテナとRFIDタグT1との距離に換算される。この換算は、電波の伝播距離と電界強度との対応関係に基づいて、アンテナからの距離「D(cm)」を、その距離だけ離れた地点での電界強度「P(dBm)」の関数として表わす次の換算式を使って行われる。
【0109】
【数1】

【0110】
ここで、この(1)式は、上記のアンテナから「100(cm)」だけ離れた地点での電界強度を「0.6(dBm)」としたときの式であり、「d」は、電界強度が「0.1(dBm)」だけ変化するときの距離の変化を表わす係数である。また、アンテナから「100(cm)」だけ離れた地点での電界強度「0.6(dBm)」は、リーダライタ200に実際にそのアンテナを繋いだときに、そのアンテナから「100(cm)」だけ離れた地点での電界強度が電波暗室において実測されることで得られた値である。
【0111】
次に、ステップS106では、ステップS105の処理によって、スタートの指定値から求められた電界強度が、リーダライタ指定部356の強度表示部356bに数値表示され、グラフィック表示部362にプロットされる。そして、そのスタートの指定値から換算された上記のアンテナとRFIDタグT1との距離が、距離表示部365に数値表示される。
【0112】
以上に説明したステップS105およびステップS106の処理が終了した後、リーダライタ200が上記の待機時間経過後にレスポンスを送ってくると、レスポンス解析部310がそのレスポンスを解析して、RFIDタグT1からの応答の有無等を判断し、解析結果を表示処理部313に送る(ステップS107)。このステップS107の処理が、上述した試験方法の基本形態における反応確認過程の一例に相当する。
【0113】
表示処理部313は、その解析結果を受け取り(ステップS108)、その解析結果が応答有りを示すものであった場合には(ステップS108におけるYes判定)、応答が有った旨をテキスト表示画面361に表示し(ステップS109)、無応答を示すものであった場合には(ステップS108におけるNo判定)、応答が無かった旨をテキスト表示画面361に表示する(ステップS110)。
【0114】
ここで、この図6のフローチャートが示す処理では、後述するように、ステップS104からステップS112に至る処理は繰り返し実行される。そして、上記のステップS109では、表示処理部313が、今回のステップS107での解析結果と前回のステップS107での解析結果とを比較し、両者が異なっていた場合に、今回のステップS105で算出された距離を、処理対象のRFIDタグT1の通信限界距離としてテキスト表示画面361に数値表示し、グラフィック表示部362において、この通信限界距離に対応する出力レベル(指定値)を縦線362aによって表示する。また、上記のステップS110では、表示処理部313が、上記のステップS109と同様の比較を行い、両者が異なっていた場合に、前回のステップS105で算出された距離を通信限界距離として数値表示し、通信限界距離に対応する出力レベル(指定値)を縦線362aによって表示する。つまり、ステップS109では、ステップS107で始めて応答有りの解析結果が得られたときに算出された距離が通信限界距離として表示され、ステップS110では、ステップS107で最後に応答有りの解析結果が得られたときに算出された距離が通信限界距離として表示されることとなる。
【0115】
制御装置300では、ステップS109あるいはステップS110の表示処理が終了すると待機状態となる(ステップS111)。
【0116】
このステップS111の待機状態は、上述したステップS103の待機状態がユーザによるマニュアルスキャン部352の測定ボタン352aのクリック操作で解除されていた場合には、ユーザによるこの測定ボタン352aの再度のクリック操作が行われるまで(ステップS111におけるYes判定)続く。また、上述したステップS103の待機状態がオートスキャン部353の開始ボタン353aのクリック操作で解除されていた場合には、このステップS111の待機状態は、内部タイマ304から所定時間の経過が通知されるまで(ステップS111におけるYes判定)続くこととなる。
【0117】
そして、測定ボタン352aの再度のクリック操作あるいは内部タイマ304からの通知によって待機状態が解除されると、出力レベル設定部305が、出力レベル(指定値)を、「1」だけ増加あるいは減少させ、ステップS104まで処理が戻る(ステップS112)。このステップS112では、上述したステップS102の処理で指定された測定方向が上記の離隔方向すなわち出力レベルを減少させる方向であった場合には、指定値が「1」だけ増やされ、指定された測定方向が上記の接近方向すなわち出力レベルを増加させる方向であった場合には、指定値が「1」だけ減らされる。
【0118】
この図6のフローチャートが表わす処理では、以上に説明したステップS104からステップS112に至る処理が、以下に説明するステップS113における終了条件が満たされるまで繰り返し実行される。
【0119】
ここで、上述したように、ステップS109では、ステップS107で始めて応答有りの解析結果が得られたときに算出された距離が通信限界距離として表示され、ステップS110では、ステップS107で最後に応答有りの解析結果が得られたときに算出された距離が通信限界距離として表示される。またステップS112では、上記の繰り返しの度に出力レベル(指定値)が「1」だけ増やされ、あるいは「1」だけ減らされる。つまり、ステップS109あるいはステップS110で表示される通信限界距離は、ステップS107で応答有りの解析結果が得られた出力レベル(指定値)のうち、最小の出力レベル(最大の指定値)から換算された距離であり、処理対象のRFIDタグT1が応答を返すことができた最長の距離となっている。
【0120】
ステップS113では、上述したステップS102の処理で指定された測定方向が上記の接近方向すなわち出力レベルを増加させる方向であり、かつ、そのステップS102においてトリミングの実行が指定されていた場合には、上記のステップS112において「1」だけ増加あるいは減少される指定値が、第2の設定部367で設定された指定値に達したとき上記の終了条件が満たされたと判定される。また、この測定方向が出力レベルを増加させる方向であり、かつ、トリミングの実行が指定されていなかった場合には、指定値が「0」に達したとき上記の終了条件が満たされたと判定される。
【0121】
また、指定された測定方向が上記の離隔方向すなわち出力レベルを減少させる方向であり、かつ、トリミングの実行が指定されていた場合には、上記の指定値が、第1の設定部366で指定された指定値に達したとき上記の終了条件が満たされたと判定される。また、この測定方向が出力レベルを減少させる方向であり、かつ、トリミングの実行が指定されていなかった場合には、指定値が「62」に達したとき上記の終了条件が満たされたと判定される。
【0122】
そして、このステップS113で終了条件が満たされたと判定されると(ステップS113におけるYes判定)、上記のステップS109あるいはステップS110で表示された通信限界距離の保存が行われる(ステップS114)。
【0123】
このステップS114での保存は、上記のステップS102において自動保存が指定されていた場合には、ファイル名指定部354bにおいてラジオボタンの選択によって指定されたファイル名が付されたファイルに通信限界距離が記述されることで自動的に行われる。
【0124】
一方、上記のステップS102において自動保存が指定されていなかった場合には、テキスト表示画面361に、ファイル名入力部355bへのファイル名の入力と、保存ボタン355cのクリック操作による保存の指示とを促すメッセージが表示される。そして、ユーザが、ファイル名入力部355bに所望のファイル名を入力し、保存ボタン355cをクリック操作すると、上記の通信限界距離の保存が、その所望のファイル名が付されたファイルに通信限界距離が記述されることで行われる。
【0125】
ステップS114の処理による通信限界距離の表示および保存が完了すると、この図6のフローチャートが示す処理が終了する。
【0126】
また、本実施形態では、ステップS102からステップS114に至るまでの処理の実行中であっても、上述したように、ユーザが、ポート開放部357の開放ボタン357aをクリック操作すると、それまでの実行内容がリセットされ、処理がステップS102からやり直されることとなる。
【0127】
このように、本実施形態では、ユーザ指示により、RFIDタグT1に対するコマンド信号の送信と応答の確認とが、出力レベルを指定値で「1」ずつ増減しながら繰り返し実行される。これは、所定の出力でコマンド信号を発信するアンテナに対し、RFIDタグT1を、十分に離れた地点から、このRFIDタグT1の応答を確認しながら徐々に近づけること、あるいは、徐々に遠ざけることに相当する。そして、最小の出力レベル(最大の指定値)から換算された距離が、このRFIDタグT1の通信限界距離となる。
【0128】
つまり、本実施形態のRFIDタグ試験装置1によれば、マニュアルスキャンによって通信限界距離を得る場合には、ユーザは、表示画面300aに表示される距離と応答の有無とを見ながら、ステップS111のユーザ指示を繰り返すことで、RFIDタグT1を移動させることなく簡単に通信限界距離を得ることができる。さらに、オートスキャンによって通信限界距離を得る場合にはそのような指示すら行うことなく、簡単に通信限界距離を得ることができる。
【0129】
さらに、本実施形態では、ステップS104の処理について説明したように、出力レベル(指定値)から距離への換算が、このRFIDタグ試験装置1が有するリーダライタ200の出力特性が反映された電界強度テーブルを使って行われる。このため、このRFIDタグ試験装置1では、この距離への換算が、リーダライタ200の実際の出力特性が反映されて極めて正確に行われ、その結果、RFIDタグT1の通信限界距離を高精度で求めることができる。また、このRFIDタグ試験装置1では、このような電界強度テーブルが、このRFIDタグ試験装置1が有するリーダライタ200以外の複数のリーダライタについても記憶される。これにより、仮に、このRFIDタグ試験装置1が有するリーダライタ200を他のリーダライタに交換したとしても、その交換後のリーダライタを指定することで通信限界距離を高精度に求めることができる。
【0130】
また、本実施形態では、制御装置300がリーダライタ200に指定する出力レベル(指定値)から、上記電界強度テーブルを使って、ストリップラインセル100が発信するコマンド信号の電界強度を求め、その電界強度が数式を使って距離に換算される。
【0131】
ここで、電界強度から距離への換算を、本実施形態のように数式を使わずに、所定出力でコマンド信号を発信するアンテナからの距離と電界強度との関係を予め実測で求めておいて、その実測結果に基づいて行うということも考えられる。この方法では、例えば電波暗室等の中で、アンテナから電界強度計を徐々に離しながら電界強度を測定すること等により、アンテナからの距離と電界強度との関係が実測されることとなる。このとき、この距離と電界強度との実測された関係を使う換算では、予め電界強度が実測された距離より長い距離への換算を行うことができないので、換算可能な距離が、電波暗室の広さ等といった、上記の実測が行われる場所の広さに限定されてしまう。このため、試験対象のRFIDタグが有する通信限界距離が、この換算可能な距離の上限を超えている場合等には通信限界距離を求めることが出来なくなってしまう。
【0132】
しかしながら、本実施形態のRFIDタグ試験装置1では、電界強度から距離への換算が数式を使って行われることから換算可能な距離の上限がないので、非常に長い通信限界距離でも求めることができる。
【0133】
また、本実施形態のRFIDタグ試験装置1では、電波信号としてのコマンド信号の発信にストリップラインセル100が使われる。上述したように、ストリップラインセル100からは、伝播範囲が極めて限定された状態で電波信号が発信される。このため、本実施形態では、電波暗室等といった大掛かりな設備を用いなくても周辺環境に電磁的な影響を与えることなくRFIDタグT1に向けてコマンド信号を発信することができる。
【0134】
このように、本実施形態のRFIDタグ試験装置1によれば、試験対象のRFIDタグの通信限界距離を高精度で簡単に求めることができる。
【0135】
次に、試験装置の具体的な第2実施形態について説明する。
【0136】
第2実施形態は、図1に示す第1実施形態のRFIDタグ試験装置1とは、制御装置のみが異なっている。以下では、第2実施形態について、この相違点に注目して説明を行う。
【0137】
図7は、試験装置の具体的な第2実施形態であるRFIDタグ試験装置を示す図である。
【0138】
尚、この図7では、図1の構成要素と同等な構成要素については、図1と同じ符号を付して示し、以下では重複説明を省略する。
【0139】
この図7に示すRFIDタグ試験装置2では、制御装置500に、上記の複数のリーダライタについて、上記の電界強度テーブルに替えて、各リーダライタに指定する複数段階の出力レベル(指定値)と、各出力レベル(指定値)に応じたリーダライタの出力電力との一対一の対応関係を表わす特性テーブルが記憶されている。
【0140】
また、本実施形態では、制御装置500が、第2ケーブル42での損失率、およびストリップラインセル100での減衰率について、それぞれユーザからの入力を受ける。そして、リーダライタ200に指定する出力レベル(指定値)から、ストリップラインセル100が発信するコマンド信号の電界強度を求める際には、制御装置500は、そのリーダライタ200に対応する特性テーブルと、第2ケーブル42での損失率およびストリップラインセル100での減衰率を使って電界強度を求める。この電界強度の求め方については後で詳細に説明する。
【0141】
また、本実施形態では、RFIDタグT1との実際の通信に用いる所定のアンテナがリーダライタ200に繋がれ、さらにそのアンテナが実際の通信に用いる所定の出力で電波信号を発信し、RFIDタグT1がその電波信号を受信するという状況下におけるそのアンテナとRFIDタグT1との距離に、上記のように求められた電界強度を換算するための換算式についての修正が可能となっている。この修正は、後述の基準電界強度あるいは基準距離を使って行われるが、本実施形態では、これらの基準電界強度や基準距離が、ユーザから制御装置500に入力される。この換算式の修正についても後で詳細に説明する。
【0142】
図8は、図7に示す制御装置500の詳細を示す機能ブロック図である。
【0143】
尚、この図8では、図3に示す第1実施形態の制御装置100の構成要素と同等な構成要素については図3と同じ符号が付されており、以下では、これらの構成要素については重複説明を省略する。
【0144】
この本実施形態の制御装置500は、複数のリーダライタについて上記の特性テーブルを記憶する出力特性記憶部501と、ユーザから入力された図7の第2ケーブル42での損失率を記憶する損失率記憶部502と、ユーザから入力された図7のストリップラインセル100での減衰率を記憶する減衰率記憶部503と、ユーザから入力された後述の基準電界や基準距離を記憶する基準電界/距離記憶部504と、上記の特性テーブル、損失率、および減衰率を用いるとともに、ユーザから基準電界や基準距離が入力された場合に換算式の修正を行いその修正済みの換算式を使って上記の距離への換算を行う距離計算処理部505とを備えている。
【0145】
ここで、入力受付部303と基準電界/距離記憶部504とを合せたものが、上述した試験装置の応用形態における基準電界強度入力部と基準距離入力部とを兼ねた一例に相当し、距離計算処理部505が、上述した試験装置の基本形態における換算部の一例に相当する。
【0146】
次に、上記の特性テーブルについて説明する。
【0147】
図9は、特性テーブルの一例について前半部分を示す図であり、図10は、特性テーブルの一例について後半部分を示す図であり、図11は、図9および図10に示す特性テーブルの内容をグラフに示した図である。
【0148】
この図9に示す特性テーブルTb2aは、各々が出力レベルを表わす「0」から「30」までの31個の指定値それぞれと、各指定値に応じたリーダライタ200の出力電力との一対一の対応関係を記載したものであり、図10示す特性テーブルTb2bは、「31」から「62」までの32個の指定値それぞれと出力電力との一対一の対応関係を記載したものである。ここでは、図示のために1つのリーダライタについての特性テーブルが便宜上図9と図10に分けて示されているが、図8の出力特性記憶部501には、1つのリーダライタについて、「0」から「62」までの63個の指定値それぞれと出力電力との一対一の対応関係を記載した1つの特性テーブルが記憶される。
【0149】
また、図9および図10に示す特性テーブルTb2a,Tb2bでは、各指定値に応じてリーダライタ200が実際に出力した電力を計測して得られた実測値と、リーダライタ200の構成から理論上予測した電力である期待値とが示されているが、期待値については比較のために図示されたものであり、図8の出力特性記憶部501に記憶される特性テーブルには指定値と出力電力の実測値のみが記載されている。
【0150】
また、図11に示すグラフG1は、上記のように図9および図10に示す特性テーブルTb2a,Tb2bの内容を示したものであり、横軸に「0」から「62」までの63個の指定値がとられ、縦軸にリーダライタ200の出力電力がとられている。そして、この図11のグラフG1では、63個の指定値と上記の期待値との対応関係が黒四角印を結ぶラインL1で示され、63個の指定値と上記の実測値との対応関係が白菱形印を結ぶラインL2で示されている。
【0151】
ここで、本実施形態でも、図9および図10に示す特性テーブルTb2a,Tb2bでは、上述の第1実施形態と同様に指定値「0」が出力レベルにおける最大レベルに対応しており、指定値「62」が最小レベルに対応している。また、リーダライタ200の実際の出力特性は、図11のグラフG1においてラインL1が示すように最大レベルから最小レベルまで線形に変化するものではなく、第1実施形態と同様に非線形であり、ラインL2が示すように、指定値「0」から指定値「6」ぐらいまでは最大レベル「25.4(dBm)」でほぼ一定となり、その後、指定値が増えるに従って出力電力が減少し、指定値「40」ぐらいから指定値「62」までは最小レベル「8.0(dBm)」でほぼ一定となる非線形な特性となっている。
【0152】
図8の出力特性記憶部501には、このような出力特性が異なる複数のリーダライタそれぞれについての特性テーブルが記憶されている。
【0153】
また、図9および図10では、リーダライタ200に出力レベルが各指定値で指定されたときにストリップラインセル100が発信する電波信号の電界強度が、リーダライタ200からRFIDタグT1に至るまでの総損失が互いに異なる3つの場合(総損失が15(dB)の場合、20(dB)の場合、および10(dB)の場合)について示されている。
【0154】
ここで、上記の総損失とは、図7のRFIDタグ試験装置2における第2ケーブル42での損失率とストリップラインセル100での減衰率との合計のように、リーダライタからRFIDタグT1に至るまでの経路上における損失のことである。本実施形態では、RFIDタグ試験装置2における第2ケーブル42を、損失率が異なる別のケーブルに取り替えたり、ストリップラインセル100を、減衰率が異なる別のストリップラインセルに取り替えたりすることが可能である。図9および図10における3つの総損失は、リーダライタ200からRFIDタグT1に至るまでのケーブルやストリップラインセルが互いに異なる3つの場合における損失である。
【0155】
ここで、本実施形態では、上述したように、上記のケーブルでの損失率、およびストリップラインセルでの減衰率がユーザから与えられ、これらの合計として上記の総損失が得られる。また、本実施形態では、これらの損失率や減衰率が「dB」の単位で与えられる。これにより、リーダライタ200に出力レベルが各指定値で指定されたときにストリップラインセルが発信する電波信号の「dBm」の単位で表わされる電界強度が、上記の特性テーブルにおいて各指定値に対応し「dBm」の単位で表わされる出力電力から、「dB」の単位で与えられる損失率と減衰率との合計値を減算することで得られる。
【0156】
図9および図8において、上記の3つの場合について示されている電界強度のうち、総損失が20(dB)の場合、および10(dB)の場合についての電界強度は、このように算出されたものである。例えば、総損失が20(dB)の場合に、リーダライタ200に出力レベルが指定値「0」で指定されたときにストリップラインセルが発信する電波信号の電界強度は、その指定値「0」に対応する出力電力(実測値)「25.4(dBm)」から、総損失「20(dB)」を減算した「5.4(dBm)」となる。
【0157】
また、図9および図8では、これら2つの場合との比較のために、総損失が15(dB)の場合についての電界強度として、出力電力の期待値から総損失「15(dB)」を減算して得られた電界強度の期待値が示されている。
【0158】
また、図9および図10では、上記の3つの場合それぞれについて、電界強度から換算される距離も示されているが、この換算については後述する。
【0159】
次に、本実施形態の制御装置500における通信限界距離の測定処理用操作画面について説明する。
【0160】
図12は、図8の制御装置500における通信限界距離の測定処理用操作画面を示す図である。
【0161】
尚、この図12では、図5に示す第1実施形態の測定処理用操作画面350の構成要素と同等な構成要素については図5と同じ符号が付されており、以下では、これらの構成要素については重複説明を省略する。
【0162】
上述したように、本実施形態では、出力レベル(指定値)から電界強度を求めるに当たり、図7のリーダライタ200の特性テーブルと、第2ケーブル42での損失率、およびストリップラインセル100での減衰率が使われる。特性テーブルについては、第1実施形態と同様に、ユーザによる指定操作によって図7のリーダライタ200が指定されることで得られる。他方、第2ケーブル42での損失率、およびストリップラインセル100での減衰率については、上述したように、ユーザから数値入力されるようになっており、図12の測定処理用操作画面550には、これらの損失率および減衰率がパラメータとして入力されるパラメータ設定部551が備えられている。
【0163】
このパラメータ設定部551には、第2ケーブル42での損失率が数値入力される損失率入力部551aと、ストリップラインセル100での減衰率が数値入力される減衰率入力部551bとが備えられている。これら2つの入力部551a,551bでの入力は、基本的には不図示のキーボードを介した数値入力によって行われる。ただし、本実施形態では、これらの入力部551a,551bで数値入力された損失率と減衰率が、それぞれ図8の損失率記憶部502と減衰率記憶部503に記憶される。そして、これらの損失率と減衰率を再度入力する際には、各入力部551a,551bが有しているメニューボタン551a_1,551b_1に対する操作によって簡単に入力することができるようになっている。すなわち、各メニューボタン551a_1,551b_1がクリック操作されると、損失率記憶部502に記憶されている損失率の一覧や、減衰率記憶部503に記憶されている減衰率の一覧が表示され、ユーザが、これらの一覧中における所望の損失率や減衰率にカーソルを合せることで損失率と減衰率が入力されることとなる。
【0164】
また、パラメータ設定部551には、上述した第1実施形態の測定処理用操作画面350のリーダライタ指定部356が備える操作部356aおよび強度表示部356bと同様の、リーダライタ200を指定するための操作部356aと、通信限界距離の測定処理中に電界強度が数値表示される強度表示部356bも備えられている。
【0165】
ここで、本実施形態では、電界強度を、上述した状況下における所定のアンテナとRFIDタグT1との距離に換算するための換算式として次式が用いられる。
【0166】
【数2】

【0167】
この(2)式では、「D(cm)」が、所定のアンテナとRFIDタグT1との距離であり、「d」が、電界強度が「0.1(dBm)」だけ変化するときの距離の変化を表わす係数であり、「P(dBm)」が電界強度であり、「Pr(dBm)」が後述の基準電界強度であり、「Dr(cm)」が後述の基準距離である。
【0168】
上記の基準電界強度は、この(2)式によって基準距離に換算されるべき電界強度である。本実施形態では、この基準電界強度として、デフォルト状態では「0(dBm)」が与えられているが、ユーザはこの基準電界強度を適宜に修正することができる。また、基準距離は、この(2)式によって基準電界強度が換算されるべき距離である。本実施形態では、この基準距離として、デフォルト状態では「100(cm)」が与えられているが、ユーザはこの基準距離を適宜に修正することができる。ここで、基準電界強度「Pr(dBm)」が「0(dBm)」であり、基準距離「Dr(cm)」が「100(cm)」であるときの(2)式の換算式が示す換算関係が、上述した試験装置の応用形態における初期関係の一例に相当する。また、基準電界強度「Pr(dBm)」と基準距離「Dr(cm)」とのうち少なくとも一方がユーザからの修正値であるときの(2)式の換算式が示す換算関係が、上述した試験装置の応用形態における修正済関係の一例に相当する。
【0169】
上述した図9および図10における、総損失が互いに異なる3つの場合についての距離は、基準電界強度「Pr(dBm)」がユーザからの修正値である「0.6(dBm)」、基準距離「Dr(cm)」がデフォルトの基準距離「100(cm)」であるときの(2)式による換算によって得られたものである。
【0170】
図13は、図9および図10に示す電界強度と距離との関係をグラフに示した図である。
【0171】
この図13に示すグラフG2では、横軸に距離がとられ、縦軸に電界強度がとられている。このグラフG2には、基準電界強度「Pr(dBm)」を「0.6(dBm)」、基準距離「Dr(cm)」を「100(cm)」とした(2)式がラインL3で記載されている。そして、そのラインL3上に、総損失が15(dB)の場合に電界強度の期待値と距離との関係が白三角印でプロットされ、総損失が20(dB)の場合における電界強度と距離との関係が白丸印でプロットされ、総損失が10(dB)の場合における電界強度と距離との関係が白四角印でプロットされている。
【0172】
このラインL3から分かるように、上記の(2)式は、距離が2倍になると電界強度が6(dB)減少する、すなわち大きさが約4分の1になるという関係を表わしており、所定の電波源を発し自由空間を伝播する電波の電界強度と電波源からの距離との関係における物理法則に基づいたものである。
【0173】
ここで、本実施形態では、制御装置500が、上記の(2)式を使って換算を行なう動作モードとして、以下に説明する電界参照モードと距離参照モードとの2つのモードを有している。
【0174】
電界参照モードは、基準距離「Dr(cm)」をデフォルト状態の「100(cm)」に固定し、基準電界強度「Pr(dBm)」として、デフォルト状態の「0(dBm)」もしくはユーザからの修正値を用いて上記の換算を行うモードである。一方、距離参照モードは、基準電界強度「Pr(dBm)」と基準距離「Dr(cm)」との双方にユーザからの修正値を用いて上記の換算を行うモードである。これら2つのモードにおける修正値については後で詳細に説明する。
【0175】
図12の測定処理用操作画面550には、電界参照モードの実行指示、基準電界強度「Pr(dBm)」の修正要求、および基準電界強度「Pr(dBm)」の入力を行うための電界参照モード設定部552と、距離参照モードの実行指示、基準距離「Dr(cm)」の修正要求、および基準距離「Dr(cm)」の入力を行うための距離参照モード設定部553とが備えられている。
【0176】
電界参照モード設定部552には、電界参照モードの実行指示および基準電界強度「Pr(dBm)」の修正要求を行うための電界参照モード要求ボタン552aと、電界参照モード用の基準電界強度「Pr(dBm)」の入力を行うための電界参照モード用基準電界強度入力部552bとが備えられている。ここで、電界参照モード用基準電界強度入力部552bへの入力は、電界参照モード要求ボタン552aがクリック操作されると許可される。
【0177】
また、距離参照モード設定部553には、距離参照モードの実行指示および基準距離「Dr(cm)」の修正要求を行うための距離参照モード要求ボタン553aと、基準距離「Dr(cm)」の入力を行うための基準距離入力部553bと、距離参照モード用の基準電界強度「Pr(dBm)」の入力を行うための距離参照モード用基準電界強度入力部553cとが備えられている。そして、基準距離入力部553bおよび距離参照モード用基準電界強度入力部553cへの入力は、距離参照モード要求ボタン553aがクリック操作されると許可される。
【0178】
また、図12の測定処理用操作画面550には、出力レベル表示バー364にバー表示される現時点における出力レベルから換算される距離を、現時点における動作モードとともに表示する距離表示部554が備えられている。ここで、本実施形態では、電界参照モードでの通信限界距離の測定処理の途中で、基準電界強度「Pr(dBm)」を修正したり、動作モードを距離参照モードに変更したりすることが可能となっている。基準電界強度「Pr(dBm)」が修正された場合、あるいは、動作モードが距離参照モードに変更された場合には、換算される距離が、測定処理の当初の条件で換算される距離とは異なった値となる可能性が高い。距離表示部554には、この当初の条件で換算される距離が括弧書きで表示される。図12の例では、動作モードが電界参照モードであり、処理途中での基準電界強度「Pr(dBm)」の修正等がなされていないため、現時点における出力レベルから換算される距離と括弧書きで表示される距離とが互いに一致している。
【0179】
以上に説明した、測定処理用操作画面550を使って行われる通信限界距離の測定処理における処理の流れについて以下に説明する。尚、以下の説明では、図8および図12に示す各構成要素を特に図番を断らずに参照する。
【0180】
図14は、測定処理用操作画面550を使って行われる通信限界距離の測定処理における処理の流れを示すフローチャートである。
【0181】
この図14のフローチャートが示す処理は、試験方法の具体的な第2実施形態に相当する。
【0182】
尚、この図14では、図6のフローチャートにおける処理過程と同等な処理過程については、図6と同じ符号を付して示し、以下では重複説明を省略する。
【0183】
この図14のフローチャートが示す処理がスタートし、ユーザによるポート開放部357の開放ボタン357aのクリック操作によって、制御装置500において通信ポートが開かれると(ステップS101)、制御装置500は、以下の各種入力操作を受け付ける待機状態となる(ステップS201)。
【0184】
このステップS202の入力操作では、このRFIDタグ試験装置2が有するリーダライタ200の指定、第2ケーブル42での損失率の入力、ストリップラインセル100での減衰率の入力、動作モードの指定、基準電界強度「Pr(dBm)」の入力、基準距離「Dr(cm)」の入力、処理対象のRFIDタグの種別の入力、トリミング実行の指定、それに伴ったトリミング範囲の設定、自動保存の実行の指定、および、測定方向の指定が行われる。
【0185】
ここで、トリミング実行の指定および自動保存の実行の指定は、ユーザが望む場合に行われるが、基準電界強度「Pr(dBm)」や基準距離「Dr(cm)」の入力についてもユーザが望む場合に行われる。
【0186】
上記の動作モードの指定は、電界参照モード要求ボタン552aと距離参照モード要求ボタン553aとのうちのいずれかのボタンをユーザがクリック操作することによって行われる。電界参照モード要求ボタン552aがクリック操作された場合には、動作モードとして電界参照モードが指定され、距離参照モード要求ボタン553aクリック操作された場合には、動作モードとして距離参照モードが指定される。
【0187】
また、上述したように、電界参照モードが指定された場合には、電界参照モード用基準電界強度入力部552bを介した基準電界強度「Pr(dBm)」の入力が可能となり、距離参照モードが指定された場合には、基準距離入力部553bを介した基準距離「Dr(cm)」の入力と距離参照モード用基準電界強度入力部553cを介した基準電界強度「Pr(dBm)」の入力とが可能となる。ステップS202で、これらの入力部を介して、基準電界強度「Pr(dBm)」や基準距離「Dr(cm)」が入力された場合には、上記の(2)式にそれらの値が代入された換算式が使われ、そのような入力が無かった場合には、上記の(2)式にデフォルトの基準電界強度「0(dBm)」やデフォルトの基準距離「100(cm)」が代入された換算式が使われる。
【0188】
このステップS201の入力操作後は、制御装置300は待機状態となり(ステップS103)、ユーザが、マニュアルスキャン部352の測定ボタン352a、あるいはオートスキャン部353の開始ボタン353aをクリック操作すると(ステップS103におけるYes判定)、次の処理(ステップS104)に進む。ステップS104では、スタートの指定値で出力レベルを指定するレベル指定信号の生成、RFIDタグT1に対するコマンドの組立て、レベル指定信号とコマンドとの送信が行われる。
【0189】
ステップS104の処理が終了すると、距離計算処理部312が、出力レベル設定部305が設定したスタートの指定値を、リーダライタ200にRFIDタグT1との実際の通信に用いる所定のアンテナを繋いだときの、そのアンテナとRFIDタグT1との距離に換算する(ステップS202)。本実施形態では、このステップS202の処理が、上述した試験方法の基本形態の換算過程の一例に相当する。
【0190】
このステップS202の処理では、距離計算処理部505に、ステップS201の処理で指定されたリーダライタ200に対応する特性テーブルが出力特性記憶部501から渡され、ステップS102の処理で入力された第2ケーブル42での損失率およびストリップラインセル100での減衰率が、それぞれ損失率記憶部502および減衰率記憶部503から渡される。さらに、ステップS201の処理で入力された基準電界強度「Pr(dBm)」や基準距離「Dr(cm)」、あるいはデフォルトの基準電界強度「0(dBm)」やデフォルトの基準距離「100(cm)」が基準電界/距離記憶部504から渡され、上記のスタートの指定値が出力レベル/コマンド組立部306から渡される。
【0191】
ステップS202の処理では、まず、渡された特性テーブルにおいてスタートの指定値に対応している出力電力が求められる。そして、その出力電力から、上記の損失率と減衰率との合計である総損失が減算されることで、ストリップラインセル100が発信しRFIDタグT1で受信されるコマンド信号の電界強度が求められる。
【0192】
次に、その求められた電界強度が、上記のアンテナとRFIDタグT1との距離に換算される。
【0193】
この換算は、上述した(2)式を使って行われるが、ステップS201において動作モードとして電界参照モードが指定されている場合には、まず、(2)式における基準距離「Dr(cm)」がデフォルトの基準距離「100(cm)」に固定される。そして、ステップS201において電界参照モード用の基準電界強度「Pr(dBm)」の入力があった場合には、(2)式における基準電界強度「Pr(dBm)」に、その入力値が代入され、入力が無かった場合には、デフォルトの基準電界強度「0(dBm)」が代入される。
【0194】
また、ステップS201において動作モードとして距離参照モードが指定されている場合で、ステップS201において距離参照モード用の基準電界強度「Pr(dBm)」や基準距離「Dr(cm)」の入力があった場合には、(2)式における基準電界強度「Pr(dBm)」や基準距離「Dr(cm)」にそれらの入力値が代入され、入力が無かった場合には、デフォルトの基準電界強度「0(dBm)」やデフォルトの基準距離「100(cm)」が代入される。
【0195】
そして、このような代入を経て換算式が確定すると、その確定した換算式を使って上記の電界強度が距離に換算される。
【0196】
ステップS202での換算が終了すると、スタートの指定値から求められた電界強度が、パラメータ設定部551の強度表示部356bに数値表示され、グラフィック表示部362にプロットされる。そして、そのスタートの指定値から換算された上記のアンテナとRFIDタグT1との距離が、距離表示部554に数値表示される。尚、本実施形態では、距離表示部554には、換算された距離が括弧書きでも表示される。
【0197】
ステップS202およびステップS106の処理が終了した後、リーダライタ200が送ってくるレスポンスに対する解析によって、RFIDタグT1からの応答の有無等が判断され、解析結果が表示処理部313に送られる(ステップS107)。
【0198】
表示処理部313は、その解析結果を受け取り(ステップS108)、その解析結果が応答有りを示すものであった場合には(ステップS108におけるYes判定)、応答が有った旨をテキスト表示画面361に表示し(ステップS203)、無応答を示すものであった場合には(ステップS108におけるNo判定)、応答が無かった旨をテキスト表示画面361に表示する(ステップS204)。
【0199】
ここで、この図14のフローチャートが示す処理では、後述するように、ステップS104からステップS112に至る処理が繰り返し実行される。そして、上記のステップS204では、表示処理部313が、今回のステップS107での解析結果と前回のステップS107での解析結果とを比較し、両者が異なっていた場合に、今回のステップS202で算出された距離を、処理対象のRFIDタグT1の通信限界距離としてテキスト表示画面361に数値表示し、グラフィック表示部362において、この通信限界距離に対応する出力レベル(指定値)を縦線362aによって表示する。また、上記のステップS204では、表示処理部313が、上記のステップS109と同様の比較を行い、両者が異なっていた場合に、前回のステップS202で算出された距離を通信限界距離として数値表示し、通信限界距離に対応する出力レベル(指定値)を縦線362aによって表示する。
【0200】
制御装置500では、ステップS203あるいはステップS204の表示処理が終了すると待機状態となる(ステップS111)。
【0201】
このステップS111の待機状態は、上述したステップS103の待機状態がユーザによるマニュアルスキャン部352の測定ボタン352aのクリック操作で解除されていた場合には、ユーザによるこの測定ボタン352aの再度のクリック操作が行われるまで(ステップS111におけるYes判定)続く。また、上述したステップS103の待機状態がオートスキャン部353の開始ボタン353aのクリック操作で解除されていた場合には、このステップS111の待機状態は、内部タイマ304から所定時間の経過が通知されるまで(ステップS111におけるYes判定)続くこととなる。
【0202】
ここで、本実施形態では、ステップS111の待機状態の間に、ユーザは、電界参照モード要求ボタン552aや距離参照モード要求ボタン553aのクリック操作によって、動作モードの変更要求等を行うことができる。
【0203】
次に、測定ボタン352aの再度のクリック操作あるいは内部タイマ304からの通知によって待機状態が解除されると、出力レベル設定部305が、出力レベル(指定値)を、「1」だけ増加あるいは減少させ、ステップS104まで処理が戻る(ステップS112)。
【0204】
この図14のフローチャートが表わす処理では、以上に説明したステップS104からステップS112に至る処理が、以下に説明するステップS113における終了条件が満たされるまで繰り返し実行される。
【0205】
ステップS113では、上記のステップS112において「1」だけ増加あるいは減少される指定値が、トリミングの指定の有無および指定された測定方向によって決まるエンドの指定値に達しているか否かが判定され、達していた場合に(ステップS113におけるYes判定)、上記の繰り返しが止まり次の処理(ステップS114)に進む。
【0206】
一方、上記のステップS112において「1」だけ増加あるいは減少される指定値が、エンドの指定値に達していない場合には(ステップS113におけるNo判定)、以下に説明するステップS205およびステップS206の処理を経て、ステップS104からステップS112に至る処理が繰り返される。
【0207】
まず、ステップS205では、ステップS111の待機状態の間に、ユーザから、動作モードの変更要求等がなされていたか否かが判定される。
【0208】
要求がなされていない場合には(ステップS205におけるNo判定)、処理がステップS111の待機状態に戻る。一方、要求がなされていた場合には(ステップS205におけるYes判定)、ユーザによる各要求に応じた入力処理が実行され(ステップS206)、その後に、処理がステップS111の待機状態に戻る。
【0209】
ここで、動作モードの変更要求等があった場合には、その後に実行されるステップS202での換算が、変更後の動作モードで、ステップS206で入力された基準電界強度「Pr(dBm)」や基準距離「Dr(cm)」を使って行われる。さらに、本実施形態では、この動作モードの変更以前に行われた換算についても、動作モードが変更された段階で再度換算がやり直される。そして、この変更以前に、ステップS203やステップS204の処理において、通信限界距離が表示されていた場合には、その表示が、その再度やり直された換算に基づいた値に変更される。
【0210】
ステップS114では、通信限界距離の保存が、ステップS201での指定内容に基づいて自動保存もしくはマニュアル保存部355を介したマニュアル保存によって行われる。そして、このステップS114の処理による通信限界距離の表示および保存が完了すると、この図14のフローチャートが示す処理が終了する。
【0211】
ここで、以上に説明した図14のフローチャートが示す処理では、ステップS202での距離に換算される換算用の電界強度は、上述したようにリーダライタ200の特性テーブル、第2ケーブル42の損失率、およびストリップラインセル100の減衰率から求められる。
【0212】
本実施形態では、これら特性テーブル、損失率、および減衰率は、いずれも実測に基づいている。このとき、本実施形態では、リーダライタ200の特性テーブルについては、そのリーダライタ200について実際に計測された特性テーブルが上記の出力特性記憶部501に記憶されており、電界強度を求めるに当たってはその特性テーブルが使われる。これに対し、第2ケーブル42の損失率、およびストリップラインセル100の減衰率については、いずれもユーザが既知の値を入力することとなっている。これらの値についても実測値が入力されることが前提であるが、これらユーザが入力する値は、このRFIDタグ試験装置2の第2ケーブル42およびストリップラインセル100そのものについての実測値ではない可能性がある。例えば、第2ケーブル42およびストリップラインセル100と同種ではあるが別のケーブルやストリップラインセルについて得られた値等といった場合である。このような場合には、特性テーブル、損失率、および減衰率から求められ、強度表示部356bに表示される換算用の電界強度と、ストリップラインセル100が実際に発信している電波信号の電界強度との間にズレが生じるおそれがある。そして、両者の間にズレが生じていると、電界強度からの換算によって求められる距離、延いてはこのRFIDタグ試験装置2で求められる通信限界距離の精度が低下してしまう。
【0213】
このような通信限界距離の精度の低下について、具体例を挙げて説明する。
【0214】
例えば、実際の通信限界距離が「110(cm)」のRFIDタグT1について、上記のような一連の処理を経て通信限界距離が測定されると仮定する。このとき、その実際の使用状況では、通信限界距離「110(cm)」でRFIDタグT1が受信する電波信号の電界強度が「−1.0(dBm)」であると仮定する。
【0215】
また、ユーザは、図14のステップS201では動作モードとして電界参照モードを指定し、基準電界強度「Pr(dBm)」の入力は特に行わなかったものとする。この結果、ステップS202の換算では、上記の(2)式にデフォルトの基準電界強度「0(dBm)」が代入されることとなる。
【0216】
さらに、図7のRFIDタグ試験装置2では、換算用の電界強度が「0(dBm)」であるときに、ストリップラインセル100が実際に発信している電波信号の電界強度が「−1.0(dBm)」であると仮定する。
【0217】
図15は、デフォルトの基準電界強度「0(dBm)」を使った電界強度と距離との換算関係をグラフで示した図である。
【0218】
この図15のグラフG3には、デフォルトの基準電界強度「0(dBm)」を使った(2)式の換算関係が、白菱形印を結ぶラインL4で示されている。尚、このグラフG3は、横軸に距離が対数目盛でとられた対数グラフである。
【0219】
このラインL4が示す換算関係では、換算用の電界強度が「0(dBm)」のときに距離「100(cm)」が得られる。しかし、上記の仮定では、このときの実際の電界強度が、RFIDタグT1によって通信限界距離が「110(cm)」のときに受信される電波信号の電界強度である「−1.0(dBm)」となる。このため、このRFIDタグ試験装置2で得られる通信限界距離は、実際の通信限界距離「110(cm)」とは異なる通信限界距離「100(cm)」となってしまう。
【0220】
本実施形態では、このような電界強度のズレが、上記のステップS201において適切な基準電界強度「Pr(dBm)」や基準距離「Dr(cm)」が入力されることで解消される。
【0221】
まず、適切な基準電界強度「Pr(dBm)」を入力して上記のズレを解消する方法について説明する。
【0222】
この方法は、上述した電界参照モードの際に行われる。
【0223】
換算用の電界強度と実際の電界強度との間のズレは、上述したように、ユーザが入力した第2ケーブル42の損失率およびストリップラインセル100の減衰率が不正確であることに起因している。換算用の電界強度を求めるに当たっては、これらの損失率および減衰率が固定的に使われるので、上記のズレは、全ての換算用の電界強度について同じように生じることとなる。
【0224】
上記の(2)式では、基準電界強度「Pr(dBm)」から、換算用の電界強度「P(dBm)」が減算される。また、上記のズレは、全ての換算用の電界強度「P(dBm)」について同じである。従って、基準電界強度「Pr(dBm)」として、このズレの値を打ち消すような値を入力することで、計算上、換算用の電界強度「P(dBm)」を、実際の電界強度に補正して換算することができる。
【0225】
ここで、上記のズレの値を打ち消すような適切な基準電界強度「Pr(dBm)」を入力するためには、このズレの具体的な値を知る必要がある。しかしながら、現実には、ユーザは、通信限界距離の測定を行う段階では、このようなズレの値を把握していないことが多い。本実施形態では、このズレの具体的な値が、次のような手順で求められる。
【0226】
まず、ストリップラインセル100の上に、RFIDタグT1に替えて、電界強度計測用の標準ダイポールアンテナが載置される。そして、動作モードとして電界参照モードを指定し、基準電界強度「Pr(dBm)」の入力は特に行わずデフォルトの基準電界強度「0(dBm)」を使い、オートスキャンあるいはマニュアルスキャンによって、距離表示部554での距離の表示が「100(cm)」になるまで処理が進められる。そして、その表示が「100(cm)」となったときにストリップラインセル100が発信する電波信号の実際の電界強度が、上記の標準ダイポールアンテナで計測される。
【0227】
このような一連の処理により、デフォルトの基準距離「100(cm)」に換算されるときの実際の電界強度が計測される。この計測された実際の電界強度に対応する換算用の電界強度「P(dBm)」は、デフォルトの基準電界強度「0(dBm)」である。そして、この実際の電界強度とデフォルトの基準電界強度「0(dBm)」との差を算出することでズレの具体的な値が求められる。
【0228】
そしてこの求められたズレの値を、デフォルトの基準電界強度「0(dBm)」に加算することで、ズレの値を打ち消すような適切な基準電界強度「Pr(dBm)」が求められる。
【0229】
例えば、上記の仮定では、デフォルトの基準距離「100(cm)」に換算されるときの実際の電界強度が「−1.0(dBm)」である。従って、ズレの値は、両者の差である「1.0(dBm)」となる。そして、デフォルトの基準電界強度「0(dBm)」ににこのズレの値「1.0(dBm)」が加算されて、適切な基準電界強度「1.0(dBm)」が得られる。
【0230】
このように得られた適切な基準電界強度「Pr(dBm)」が、図14のステップS201において入力されることで、距離への換算では、ズレの値「1.0(dBm)」が適切に打ち消されることとなる。
【0231】
図15のグラフG3では、白菱形印を結ぶラインL4が、デフォルトの基準電界強度「0(dBm)」とデフォルトの基準距離「100(cm)」を使った(2)式の換算関係(当初の換算関係)を示し、適切な基準電界強度「1.0(dBm)」を使った(2)式の換算関係(修正済の換算関係)が破線のラインL5で示されている。これら2本のラインを見比べれば分かるように、修正済の換算関係は、当初の換算関係を、上記のズレの値(ここでの例では「1.0(dBm)」)だけ、矢印A方向に平行移動したものに相当する。また、このことは、当初の換算関係で得られる距離を、グラフG3の横軸の目盛を矢印Bが示す方向にずらして読み替えることにも相当する。
【0232】
このように、図14のステップS201において適切な基準電界強度「Pr(dBm)」を入力して実行される通信限界距離の測定処理では、換算用の電界強度と実際の電界強度とのズレが計算上で解消される。
【0233】
上記の仮定では、実際の通信限界距離が「110(cm)」であり、その通信限界距離「110(cm)」でRFIDタグT1が受信する電波信号の電界強度が「−1.0(dBm)」である。さらに、換算用の電界強度が「0(dBm)」のときの実際の電界強度が「−1.0(dBm)」である。このとき、本実施形態では、当初の換算関係では「100(cm)」に換算される電界強度「0(dBm)」が、修正済の換算関係によって「110(cm)」に換算されることとなる。これにより、当初の換算関係を使った測定処理では、誤って「100(cm)」と求められた通信限界距離が、正しく「110(cm)」と求められることとなる。
【0234】
以上に説明したように、適切な基準電界強度「Pr(dBm)」を入力してズレを解消する方法では、ユーザは、RFIDタグT1の通信限界距離の測定処理に先立って、上記のような一連の処理を経てズレの具体的な値を計測し、そのズレの値を打ち消すような適切な基準電界強度「Pr(dBm)」を求めておく。そして、RFIDタグT1の通信限界距離の測定処理の際には、動作モードとして電界参照モードを指定して、基準電界強度「Pr(dBm)」として、その適切な基準電界強度「Pr(dBm)」を入力することで正確な通信限界距離を得ることができる。
【0235】
次に、適切な基準距離「Dr(cm)」と適切な基準電界強度「Pr(dBm)」とを入力して上記のズレを解消する方法について説明する。
【0236】
この方法は、上述した距離参照モードによって行われる。
【0237】
距離参照モードでは、図14のステップS201において、基準距離「Dr(cm)」と、その基準距離「Dr(cm)」に換算されるべき基準電界強度「Pr(dBm)」とがユーザによって入力される。ここで、これら基準距離「Dr(cm)」と基準電界強度「Pr(dBm)」として相互に対応することが確実に分かっている適切な値が入力されると、仮に、換算用の電界強度と実際の電界強度との間に上記のようなズレがあったとしても、そのようなズレを打ち消した高精度の換算が行われることとなる。
【0238】
本実施形態では、相互に対応することが確実に分かっている適切な基準距離「Dr(cm)」と適切な基準電界強度「Pr(dBm)」とが、実際の通信限界距離の測定に先立って次のような処理によって求められる。
【0239】
まず、予め通信限界距離が分かっている標準のRFIDタグT1が用意され、その標準のRFIDタグT1について通信限界距離の測定処理が行われる。その際、図14のステップS201では、動作モードとして距離参照モードが指定され、基準距離「Dr(cm)」および基準電界強度「Pr(dBm)」は入力されず、それぞれのデフォルトの値を使った処理が行われる。そして、このような処理において通信限界距離がテキスト表示画面361に表示されたときに、強度表示部356bに表示される換算用の電界強度が記録される。ここで記録される換算用の電界強度は、標準のRFIDタグT1が反応することができる最小の電界強度であり、予め分かっている実際の通信限界距離に換算すべき電界強度である。即ち、この予め分かっている実際の通信限界距離と上記の換算用の電界強度とは、相互に対応することが確実な距離と電界強度であると言える。
【0240】
本実施形態では、標準のRFIDタグT1を使った処理で得られるこのような距離と電界強度が、適切な基準距離「Dr(cm)」と適切な基準電界強度「Pr(dBm)」として使われる。
【0241】
以下、具体例を挙げて、距離参照モードによるズレの解消についてさらに詳細に説明する。
【0242】
まず、標準のRFIDタグT1の実際の通信限界距離が「140(cm)」であり、上記の処理で得られ、この通信限界距離が「140(cm)」との対応が確実な換算用の電界強度が「−5.0(dBm)」であると仮定する。
【0243】
図16は、距離参照モードによってズレが解消される様子を示す図である。
【0244】
この図16に示すグラフG4は、上述の図15に示すグラフG3と同様に、横軸に距離が対数目盛でとられた対数グラフである。そして、このグラフG4には、図15と同様に、基準電界強度「Pr(dBm)」が「0(dBm)」で基準距離「Dr(cm)」が「100(cm)」である修正前の換算式が示す換算関係が、白菱形印を結ぶラインL4で示されている。
【0245】
このラインL4から分かるように、換算用の電界強度が「−5.0(dBm)」のときにテキスト表示画面361に表示される通信限界距離は「170(cm)」であり、予め分かっている通信限界距離「140(cm)」よりも「30(cm)」だけ長くなっている。ユーザは、この通信限界距離「170(cm)」が表示されるときに、強度表示部356bに表示される換算用の電界強度「−5.0(dBm)」を記録する。
【0246】
そして、実際の通信限界距離の測定処理の際には、図14のステップS201において、動作モードとして距離参照モードが指定され、標準のRFIDタグT1の通信限界距離「140(cm)」が適切な基準距離「Dr(cm)」として入力され、上記の処理で記録された換算用の電界強度「−5.0(dBm)」が適切な基準電界強度「Pr(dBm)」として入力される。
【0247】
図16のグラフG4には、これら適切な値が代入された(2)式が示す換算関係(修正済みの換算関係)が、破線のラインL6で示されている。この破線のラインL6が示す換算関係では、上記のように換算用の電界強度「−5.0(dBm)」が、距離「140(cm)」に換算される。この破線のラインL6が示す修正済みの換算関係は、上記のラインL4が示す換算関係(修正前の換算関係)が、距離「140(cm)」における電界強度のズレの値fだけ、矢印C方向に平行移動したものに相当する。このように、相互に対応することが確実に分かっている距離と電界強度とを基準距離と基準電界強度として用いることで、換算用の電界強度と実際の電界強度との間に上記のようなズレがあったとしても、そのようなズレを打ち消した高精度の換算が行われることとなる。
【0248】
以上に説明したように、本実施形態では、電界参照モードにおいて適切な基準電界強度を用いることで換算用の電界強度と実際の電界強度との間におけるズレを解消することができ、距離参照モードで適切な基準距離と適切な基準電界強度とを用いることで上記のズレを解消することができる。
【0249】
また、本実施形態では、図14のステップS111の待機時間に、動作モードの変更を要求することができる。また、通信限界距離の表示後に動作モードの変更があった場合には、通信限界距離が、その変更後の動作モードによる換算に基づいた値に変更される。これにより。例えば、適切な基準電界強度に基づく電界参照モードで通信限界距離が得られたときに、動作モードを距離参照モードに変更して、適切な基準距離と適切な基準電界強度とに基づく距離参照モードでの通信限界距離を表示させ、2つの動作モードでの通信限界距離を相互に比較して、測定による通信限界距離の精度を確認すること等ができる。
【0250】
以上に説明したように、本実施形態のRFIDタグ試験装置2によれば、上述した第1実施形態のRFIDタグ試験装置1と同様に、RFIDタグT1の通信限界距離を高精度で簡単に得ることができ、さらに、上述した電界参照モードで適切な基準電界強度を用いたり、距離参照モードで適切な基準距離と適切な基準電界強度とを用いることで通信限界距離をさらに高精度で得ることができる。
【0251】
尚、上記では、上述した試験装置の基本形体における発信部の一例としてストリップラインセル100を例示したが、この発信部はこれに限るものではない。発信部は、例えば、RFIDタグとの実際の通信に用いるアンテナ等であっても良い。この場合、上述した試験装置の応用形体における特性テーブルの一例としての電界強度テーブルは、リーダライタに対する出力レベルの複数の指定値と、例えばアンテナから「1(m)」離れた地点における、各指定値に対応する電界強度との一対一の対応関係を記載したもの等になる。また、上記のように発信部としてアンテナを用いる場合、特性テーブルの一例としては上述の第2実施形態のようにリーダライタの出力特性を記載した特性テーブルを用い、アンテナにおけるアンテナゲインや、アンテナから「1(m)」離れた地点までの空間減衰率等がユーザから数値入力されるように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0252】
【図1】試験装置の具体的な第1実施形態であるRFIDタグ試験装置を示す図である。
【図2】図1のRFIDタグ試験装置1を、リーダライタ200の内部構成に注目して示す機能ブロック図である。
【図3】図1に示す制御装置300の詳細を示す機能ブロック図である。
【図4】電界強度テーブルの一例を示す図である。
【図5】通信限界距離の測定処理用操作画面を示す図である。
【図6】測定処理用操作画面350を使って行われる通信限界距離の測定処理における処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】試験装置の具体的な第2実施形態であるRFIDタグ試験装置を示す図である。
【図8】図7に示す制御装置500の詳細を示す機能ブロック図である。
【図9】特性テーブルの一例について前半部分を示す図である。
【図10】特性テーブルの一例について後半部分を示す図である。
【図11】図9および図10に示す特性テーブルの内容をグラフに示した図である。
【図12】図8の制御装置500における通信限界距離の測定処理用操作画面を示す図である。
【図13】図9および図10に示す電界強度と距離との関係をグラフに示した図である。
【図14】測定処理用操作画面550を使って行われる通信限界距離の測定処理における処理の流れを示すフローチャートである。
【図15】デフォルトの基準電界強度「0(dBm)」を使った電界強度と距離との換算関係をグラフで示した図である。
【図16】距離参照モードによってズレが解消される様子を示す図である。
【符号の説明】
【0253】
1,2 RFIDタグ試験装置
41 第1ケーブル
42 第2ケーブル
100 ストリップラインセル
101 第1導体板
102 第2導体板
103 終端抵抗
200 リーダライタ
201 インタフェース手段
202 コマンド送信手段
203 送信電力レベル制御手段
204 送受信波分離手段
205 レスポンス受信手段
300 制御装置
300a 表示装置
301 テキスト入力部
302 トリガー入力部
303 入力受付部
304 内部タイマ
305 出力レベル設定部
306 出力レベル/コマンド組立部
307 出力レベル/コマンド送信部
308 R/Wインタフェース部
309 レスポンス受信部
310 レスポンス解析部
311 電界強度記憶部
312 距離計算処理部
313 表示処理部
314 テキスト表示部
315 グラフィック表示部
350 測定処理用操作画面
351 測定方向指定部
351a 離隔方向指定ボタン
351b 接近方向指定ボタン
352 マニュアルスキャン部
352a 測定ボタン
353 オートスキャン部
353a 開始ボタン
354 自動保存部
354a 自動保存指定ボタン
354b ファイル名指定部
355 マニュアル保存部
355a ファイル名表示部
355b ファイル名入力部
355c 保存ボタン
355d 開示ボタン
355e 削除ボタン
355f 参照ボタン
356 リーダライタ指定部
356a 操作部
356a_1 メニューボタン
356b 強度表示部
357 ポート開放部
357a 開放ボタン
358 タグ種別入力部
358a 入力欄
359 トリミング指定部
359a トリミング指定ボタン
361 テキスト表示画面
362 グラフィック表示部
362a 縦線
363 電界強度バー
364 出力レベル表示バー
364a 指定値増加ボタン
364b 指定値減少ボタン
365 距離表示部
366 第1の設定部
367 第2の設定部
500 制御装置
501 出力特性記憶部
502 損失率記憶部
503 減衰率記憶部
504 基準電界/距離記憶部
505 距離計算処理部
550 測定処理用操作画面
551 パラメータ設定部
551a 損失率入力部
551a_1 メニューボタン
551b 減衰率入力部
551b_1 メニューボタン
552 電界参照モード設定部
552a 電界参照モード要求ボタン
552b 電界参照モード用基準電界強度入力部
553 距離参照モード設定部
553a 距離参照モード要求ボタン
553b 基準距離入力部
553c 距離参照モード用基準電界強度入力部
554 距離表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有の出力特性を有し、複数の出力レベルのうちいずれかの出力レベルが指定されると、その指定された出力レベルに該出力特性において対応する電力で所定の電気信号を出力する信号出力部と、
前記信号出力部に前記出力レベルを指定する指定部と、
前記信号出力部が出力した電気信号が供給され、該電気信号に相当する電波信号を、該電波信号を受信して反応する電子装置に、距離ゼロであることも許容された所定距離から発信する発信部と、
前記電子装置における反応の有無を確認する反応確認部と、
前記指定部が指定した出力レベルから、前記信号出力部の出力特性を用いて前記電子装置で受信される電波信号の電界強度を求め、該電界強度を、所定のアンテナが所定の出力で電波信号を発信して前記電子装置が該電界強度と同じ電界強度で受信する状況における該アンテナと該電子装置との距離に換算する換算部とを備えたことを特徴とする試験装置。
【請求項2】
前記信号出力部が、複数の信号出力部のうちから選択されたものであり、
前記複数の信号出力部それぞれの出力特性を定義した特性テーブルを記憶する記憶部を備え、
前記換算部は、操作によって前記複数の信号出力部のうちから信号出力部を指定され、前記記憶部に記憶されている特性テーブルのうち、その指定された信号出力部の出力特性を定義した特性テーブルを用いて電界強度を求めるものであることを特徴とする請求項1記載の試験装置。
【請求項3】
前記換算部が、操作によって前記発信部を経て前記電子装置に至るまでの電磁的な減衰率を与えられ、その与えられた減衰率を用いて電界強度を求めるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の試験装置。
【請求項4】
前記発信部が、前記電子装置の幅以上の幅を有する、外部から前記電波信号に相当する電気信号が供給される第1導体板と、該第1導体板に対向する第2導体板とを有し、該電気信号が有する電力に応じた出力で該電波信号を発信する、前記第1導体板の、前記第2導体板に対向する対向面とは反対側に前記電子装置が配置されるストリップラインセルであり、前記信号出力部が出力した電気信号が前記第1導体板に供給されるものであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の試験装置。
【請求項5】
前記換算部による換算によって所定の基準距離に換算されるべき基準電界強度についての入力を受け付ける基準電界強度入力部を備え、
前記換算部は、電界強度を距離に換算する換算関係の初期関係を有し、その初期関係を、前記基準電界強度入力部が入力を受け付けた基準電界強度が前記基準距離に換算されるように修正して修正済関係を得、前記指定部が指定した出力レベルから求めた電界強度を、その修正済関係に従って前記アンテナと前記電子装置との距離に換算するものであることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項記載の試験装置。
【請求項6】
前記換算部による換算によって所定の基準電界強度が換算されるべき基準距離についての入力を受け付ける基準距離入力部を備え、
前記換算部は、電界強度を距離に換算する換算関係の初期関係を有し、その初期関係を、前記基準距離入力部が入力を受け付けた基準距離に前記基準電界強度が換算されるように修正して修正済関係を得、前記指定部が指定した出力レベルから求めた電界強度を、その修正済関係に従って前記アンテナと前記電子装置との距離に換算するものであることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項記載の試験装置。
【請求項7】
前記換算部による換算結果を表示する換算結果表示部を備えたことを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1項記載の試験装置。
【請求項8】
前記指定部が、複数の出力レベルそれぞれを順次に前記信号出力部に指定するものであり、
前記反応確認部が、前記複数の出力レベルそれぞれに対する前記電子装置の反応を確認するものであることを特徴とする請求項1から7のうちいずれか1項記載の試験装置。
【請求項9】
前記反応確認部によって前記電子装置の反応が確認された出力レベルのうち最小の出力レベルに対して前記換算部で換算された距離を、該電子装置の通信限界距離として表示する通信限界距離表示部を備えたことを特徴とする請求項8記載の試験装置。
【請求項10】
固有の出力特性を有し、複数の出力レベルのうちいずれかの出力レベルが指定されると、その指定された出力レベルに該出力特性において対応する電力で所定の電気信号を出力する信号出力部に前記出力レベルを指定する指定過程と、
前記指定過程によって指定された出力レベルに対応する電力で前記信号出力部が出力した電気信号に相当する電波信号が、該電波信号を受信して反応する電子装置に、距離ゼロであることも許容された所定距離から該電波信号を発信する発信部から発信されたときの、該電子装置における反応の有無を確認する反応確認過程と、
前記指定部が指定した出力レベルから、前記信号出力部の出力特性を用いて前記電子装置で受信される電波信号の電界強度を求め、該電界強度を、所定のアンテナが所定の出力で電波信号を発信して前記電子装置が該電界強度と同じ電界強度で受信する状況における該アンテナと該電子装置との距離に換算する換算過程とを有することを特徴とする試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−222590(P2009−222590A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68172(P2008−68172)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】