説明

試験装置及び電力貯蔵供給デバイスの安全性評価方法

【課題】排ガスの採取をしながら電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を行なう。
【解決手段】電力貯蔵供給デバイス100の安全性試験を行なうためのブース1と、電力貯蔵供給デバイス100から発生する排ガスを処理しうる排ガス処理部2と、排ガスをブース1から排ガス処理部2に排ガス処理部2の処理能力に応じて送出する排ガス送出部3と、排ガスを採取しうる排ガス採取部7とを備えて試験装置を構成し、さらに、排ガス採取部7が排ガスを吸収しうる吸収液を排ガスに接触できるように有するか、排ガス採取部7が排ガスをガス状態で採取しうる排ガス採取手段を備えるか、電力貯蔵供給デバイス100を破損させるプレス機13を備えるか、ブース1の容積を電力貯蔵供給デバイス100の体積の10〜105倍にするか、ブース1内の気相部を攪拌する攪拌機14を備えるか、排ガス採取部7に採取される前に排ガスを希釈する排ガス希釈部8を備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を行なうための試験装置及びそれを用いた電力貯蔵供給デバイスの安全性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力貯蔵供給デバイスとしては、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、リチウム電池等の各種電池の一次電池や二次電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ等のコンデンサ、燃料電池等の発電型電池などが開発され、工業的に広く用いられている。
上記のような電力貯蔵供給デバイスは、一般に高容量密度、高出力密度が求められる傾向にあり、より大きい電流において電力を貯蔵、供給することが望まれ、盛んに開発が進められている。
【0003】
電力貯蔵供給デバイスの開発の際には、その安全性を評価するため、電力貯蔵供給デバイスに対して加熱、短絡等の操作を行ない、それによって電力貯蔵供給デバイスがどのような挙動を示すかを調査することがなされる。例えば、電力貯蔵供給デバイスに対して加熱を行ない、意図的に爆発等を起こさせる加熱評価試験などが挙げられる。
【0004】
従来は、上記の電力貯蔵供給デバイスの安全性試験は放出形のブース内で行なわれていた。このような試験装置の例としては、宝泉社製 Li−Ion二次電池安全評価試験装置などが挙げられる。この試験装置では排気ダクトを有していて、安全性評価試験時にブース内でガスが発生した場合、そのガスを試験装置外に放出できるようになっている(非特許文献1参照)。
【0005】
【非特許文献1】宝泉株式会社、製品カタログ、[online]、[平成16年10月28日検索]、インターネット<URL:http://www.hohsen.co.jp/jp/products/bat/23/index.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電力貯蔵供給デバイスについて安全性試験を行なった場合、電力貯蔵供給デバイスから排ガスが発生する場合がある。例えば、釘刺し試験、過充電試験、加熱試験などでは、電力貯蔵供給デバイスを意図的に爆発させてその安全性評価を行なうことがあるが、その際には、通常、電力貯蔵供給デバイスから急激に排ガスが発生する。
【0007】
ところが、非特許文献1記載の試験装置をはじめ、従来の試験装置は上記のような排ガスを試験装置外に単に排出するように構成されていた。例えば「リチウムイオン電池(小型電池)の安全性に関する国際的な認証」UL1642などの電力貯蔵供給デバイスの試験についての認証規定にも、特に電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を密閉系にて行なうべきであるとの記載はなく、一般的に、上記のような安全性試験はブース内が外部に開放された放圧系で行なうものと認識されていた。
【0008】
しかしながら、電力貯蔵供給デバイスの大型化に伴い、安全性試験も大型の電力貯蔵供給デバイスで行われるようになってきており、それに応じて、電力貯蔵供給デバイスから生じる排ガスの量も増えてきている。排ガスの量が増えた場合、単に試験装置外に排出するのみでは排ガスが外部環境や生体に与える影響を無視しえない。そのため、排ガスの採取を行なうのに際して、安全性試験の安全性を高めることが望まれる。
【0009】
また、前記の排ガスは、電力貯蔵供給デバイスの安全性に関する様々な情報を含んでいるものと考えられるため、その成分を分析することにより、より充実した安全性試験を行なえるものと期待される。分析のためには排ガスの採取を行なうことになるが、従来、排ガスの成分の採取に適した試験装置はなく、分析のために排ガスを適切に採取することは困難であった。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、排ガスの採取を適切に行ないながら、電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を安全に行なうことができるようにした試験装置及びそれを用いた電力貯蔵供給デバイスの安全性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を行なうための試験装置に、排ガスを処理しうる排ガス処理部と排ガスを排ガス処理部に送る排ガス送出部とを設け、上記排ガスを該排ガス処理部に入る前に一時的に保持する排ガス保持部を設けて排ガス処理部の処理能力に合わせて排ガスをゆっくりと排ガス処理部に送るようにし、更に、排ガスを採取しうる排ガス採取部とを備えると共に、(a)上記排ガス採取部が、上記排ガスを吸収しうる吸収液を、上記排ガスに接触できるように有するか、または、上記排ガスをガス状態で採取しうる排ガス採取手段を備えるか、(b)上記電力貯蔵供給デバイスを破損させるプレス機を備えるか、(c)該ブースの容積が、上記電飾貯蔵供給デバイスの体積の10倍以上105倍以下であるか、(d)該ブース内の気相部を攪拌する攪拌機を備えるか、(e)該排ガス採取部に採取される前に上記排ガスを希釈する排ガス希釈部を備えることにより、排ガスの採取を適切に行ないながら、電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を安全に行なうことができるようになることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を行なうためのブースと、上記電力貯蔵供給デバイスから発生する排ガスを処理しうる排ガス処理部と、上記排ガスを、該ブースから該排ガス処理部に、該排ガス処理部の処理能力に応じて送出する排ガス送出部と、上記排ガスを採取しうる排ガス採取部とを備え、下記(a)〜(e)よりなる群から選ばれる少なくとも一つの要件を満たすことを特徴とする、試験装置に存する(請求項1)。
(a)該排ガス採取部が、上記排ガスを吸収しうる吸収液を、上記排ガスに接触できるように有するか、または、上記排ガスをガス状態で採取しうる排ガス採取手段を備える。
(b)上記電力貯蔵供給デバイスを破損させるプレス機を備える。
(c)該ブースの容積が、上記電飾貯蔵供給デバイスの体積の10倍以上105倍以下である。
(d)該ブース内の気相部を攪拌する攪拌機を備える。
(e)該排ガス採取部に採取される前に上記排ガスを希釈する排ガス希釈部を備える。
【0013】
このとき、該試験装置において、該ブースは、下記ブース耐圧A以上の耐圧性を有するように構成することが好ましい。特に、該試験装置は、該ブース内を不活性ガスで置換しうる不活性ガス置換部を備えると共に、該ブースが、下記ブース耐圧A以上の耐圧性を有するように構成することが好ましい(請求項2)。
ブース耐圧A:薬量を、電力貯蔵供給デバイスの加熱時の総発熱量相当のTNT薬量にTNT収率を掛けた値として、ホプキンソンの3乗根則により求められる爆風圧に、安全率を掛けた圧力。
【0014】
また、該試験装置において、該ブースは、下記ブース耐圧B以上の耐圧性を有するように構成することも好ましい。特に、該試験装置は、該ブース内を空気で置換しうる空気置換部を備えると共に、該ブースが、下記ブース耐圧B以上の耐圧性を有するように構成することが好ましい(請求項3)。
ブース耐圧B=初期圧×(Tb/T0)×安全率
(ただし、初期圧は安全性試験時の排ガス発生前のブース内圧を表わし、Tbは安全性試験時の燃焼火炎温度を表わし、T0は安全性試験時の排ガス発生前のブース内の雰囲気温度を表わす。)
【0015】
さらに、該試験装置は、該ブース内を8kPa以下に減圧させうる減圧部を備えることが好ましい(請求項4)。
また、該試験装置は、該ブース内の温度を低下させる冷却部(冷却媒ライン)を備えることが好ましい(請求項5)。
【0016】
さらに、該試験装置は、該排ガス採取部が採取した排ガスを分析する排ガス分析部を備えることが好ましい(請求項6)。
さらに、該試験装置は、電力貯蔵供給デバイスの爆発が生じた場合に、上記爆発の爆風圧を測定する爆風圧センサを備えることが好ましい(請求項7)。
【0017】
また、本発明の別の要旨は、上記試験装置(請求項1〜7)を用いて電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を行ない、該試験結果に基づいて、電力貯蔵供給デバイスの安全性評価を行なうことを特徴とする、電力貯蔵供給デバイスの安全性評価方法に存する(請求項8)。
この安全性評価方法における安全性試験は、釘刺し試験、過充電試験、加熱試験、外部短絡試験、落下試験、圧壊試験、過放電試験、熱衝撃試験、及び、振動試験から選ばれるものが好ましい(請求項9)。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、排ガスの採取を適切に行ないながら電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を安全に行なうことができる試験装置及びそれを用いた電力貯蔵供給デバイスの安全性評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実施形態を示して本発明について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0020】
[I.試験装置]
[I−1.第1実施形態]
[I−1−1.電力貯蔵供給デバイス]
電力貯蔵供給デバイスとは、電力を貯蔵又は供給することが可能なデバイスを広く意味する。電力貯蔵供給デバイスの具体例としては、アルカリ電池、リチウム電池等の一次電池、鉛酸電池、ニカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の非水系電解液二次電池を含む二次電池、燃料電池等の発電型電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなどが挙げられる。これらの電力貯蔵供給デバイスは、その安全性試験を行なう場合にしばしば排ガスを排出することがあり、本発明は、この排ガスを処理しつつ安全性試験を行なうようにするものである。
【0021】
[I−1−2.排ガス]
電力貯蔵供給デバイスから排出される排ガスは、主に、電力貯蔵供給デバイスを構成する材料が反応、分解、或いは単に放出されること等により生じるものである。
その例を挙げると、例えば電力貯蔵供給デバイスの一種であるリチウムイオン電池の場合、電解液に使用している有機溶媒の蒸気、水蒸気、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、フッ化水素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、酸素などが排ガスとして生じうる。また、気体ではないものの、気相に分散するため気体同様に処理すべきものの例として、電解液のミストや、電極、集電体、電池の缶等それぞれの微細な破片及び粉塵、並びに、これらが熱分解した結果発生する固体(粉塵)などが挙げられる。これらは全て、排ガスとして処理すべきことが好ましい。
【0022】
上記の排ガスは、主として以下のようなメカニズムにより発生しているものと推察される。即ち、電力貯蔵供給デバイスが高温にさらされると、構成部材が熱分解し、その分解熱によりさらに電力貯蔵供給デバイスの温度が上昇する。その結果、熱分解による排ガス発生が加速されていく、いわゆる熱暴走状態となる。この熱暴走状態では急激に熱分解や反応等が進行するため、それに伴う排ガスの発生速度も極めて速い。
【0023】
なお、上記のように電力貯蔵供給デバイスが高温にさらされる原因としては、単に電力貯蔵供給デバイスが高温下におかれ全体的に加熱されることのみでなく、例えば、電力貯蔵供給デバイスの内部で短絡が生じ、電力貯蔵供給デバイス自身が有する放電のエネルギーや、電力貯蔵供給デバイスに接続されている充放電器のエネルギーが短絡部に集中して、ジュール熱によって局所的に高温になることなどが挙げられる。
【0024】
また、電力貯蔵供給デバイスが電解液を用いている場合、熱によって電解液の気化が発生するため、その気化によっても排ガスは生じることとなる。例えば、リチウム一次電池や電気二重層キャパシタには通常は電解液として有機溶媒が使用されており、この有機溶媒が気化して排ガスとなる。また、例えばニッケル水素電池は電解液として水系溶媒を用いており、この場合、排ガスとして水素が発生する。なお、電解液のような液体を用いた電力貯蔵供給デバイスでは、蒸気圧が温度とともに上昇する。
さらに、電力貯蔵供給デバイスに用いられる電極は、一般に粉末や微小な粒子等を用いて作製される場合が多い。したがって、これらの粉末や粒子等は、熱分解反応時に、電力貯蔵供給デバイスの破損や破裂等にともなって粉末となり、気相に分散して排ガスとなる。
【0025】
特に、電力貯蔵供給デバイスを大型化した場合、その構成部材の使用量も増加し、その比表面積が小さくなって除熱能力が低下して高温になりやすくなる。さらに、電力貯蔵供給デバイスを大型化した場合には電力貯蔵供給デバイス自身が有する電気エネルギーや接続される充電器が大きくなって短絡が生じた場合に集中するエネルギーが大きくなるため、電力貯蔵供給デバイスの種類にかかわらず熱暴走状態になりやすい。したがって、電力貯蔵供給デバイスを大型化すると、上記の排ガスの発生量が大きくなる傾向がある。
【0026】
上記のように発生する排ガスは、電力貯蔵供給デバイスの安全性に関する様々な情報を含んでいるものと考えられる。そこで、本発明の試験装置を用いた安全性試験においては、排ガスの組成などを分析することにより、より一層充実した安全性試験を行ない、電力貯蔵供給デバイスについて精密な安全性評価を行なう。この分析に用いるため、本発明の試験装置は、上述したように発生する排ガスの採取を行なうとともに、排ガスの処理を行なうことによって安全性試験を安全に行なうことが可能であることを、利点の一つとしている。
【0027】
[I−1−3.試験]
本発明の試験装置を用いて行なう安全性試験に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、通常は、当該安全性試験によって電力貯蔵供給デバイスから排ガスが発生するような安全性試験を行なうようにすると、排ガスの処理が可能であるという本発明の効果を有効に活用することができるため、好ましい。
【0028】
このような電力貯蔵供給デバイスの安全性試験の具体例を挙げると、例えば、釘刺し試験が挙げられる。釘刺し試験は、油圧プレス機等のプレス機(押圧手段)に釘を取り付け、所定の速度でその釘を動かすことで、固定された試験用の電力貯蔵供給デバイスに釘を刺し込むことにより行なう。釘を刺し込まれることにより、電力貯蔵供給デバイスには内部短絡が発生する。釘刺し試験では、この内部短絡が発生した際の電力貯蔵供給デバイスの電圧、表面温度、電解液の漏れ、発煙、破損の程度などを測定する。
【0029】
また、安全性試験の具体例としては、過充電試験も挙げられる。過充電試験では、試験用の電力貯蔵供給デバイスに対して通常の充電容量以上に充電を継続させる。このことによって電力貯蔵供給デバイスに異常な発熱が発生することがある。過充電試験では、この異常な発熱が発生した際の電力貯蔵供給デバイスの電圧、電流、表面温度、電解液の漏れ、発煙、破損の程度などを測定する。なお、過充電試験を行なう際、充電電流や上限電圧などの試験条件は適宜設定することができる。
【0030】
さらに、安全性試験の具体例としては、加熱試験も挙げられる。加熱試験では、試験用の電力貯蔵供給デバイスをオーブンやホットプレート等を用いて高温にさらし、電力貯蔵供給デバイスの全体又は一部を加熱する。加熱試験では、この加熱時の電力貯蔵供給デバイスの電圧、表面温度、電解液の漏れ、発煙、破損の程度などを測定する。
また、それ以外にも、本発明の試験装置を用いて行なうことができる電力貯蔵供給デバイスの安全性試験としては、例えば、外部短絡試験、落下試験、圧壊試験、過放電試験、熱衝撃試験、振動試験なども挙げられる。
【0031】
[I−1−4.試験装置]
図1に、本実施形態の試験装置の概要を模式的に表わすブロック図を示す。この図1に示すように、本実施形態の試験装置は、ブース1と、排ガス処理部2と、排ガス送出部としての排ガス送出ライン3と、室内ガス置換ライン4と、減圧部としての減圧ライン5と、冷却部としての冷却媒ライン6と、排ガス採取部としての排ガス採取ライン7と、排ガス希釈部としての希釈ライン8とを備える。なお、図1において、配管内を流れる排ガス並びに冷媒の向きを、矢印で示す。
【0032】
[I−1−4−1.ブース]
ブース1は、その内部で電力貯蔵供給デバイス100の安全性試験を行なうためのものであり、内部に安全性試験を行なう場となる空間を有する容器である。その形状に制限は無く、箱状、円筒状、球状等の任意の形状として形成することができる。さらに、その寸法も内部に設置する安全性試験用の試験機器や試験の対象物である電力貯蔵供給デバイス100の寸法に応じて適宜設定することができる。その容積は、例えば、大型の試験装置の場合、好ましくは50リットル以上、より好ましくは400リットル以上、また、好ましくは5000リットル以下、より好ましくは500リットル以下であり、特に好ましくは450リットル程度とすることが適切である。また、小型の試験装置の場合、好ましくは2リットル以上、より好ましくは5リットル以上、また、好ましくは40リットル以下、より好ましくは20リットル以下であり、特に好ましくは10リットル程度とすることが適切である。
【0033】
また、ブース1を形成する材料も任意であるが、気密性、耐圧性、耐久性などを考慮すると、金属で形成することが好ましい。特に、安全性試験においては腐食性の強いガス、液体、固体等がブース1内において飛散することが多いため、防錆性の良好な材料で形成すればより好ましい。好適な材料の具体例としては、ステンレス、ハステロイ、インコネル等が挙げられる。さらに、耐食性を付与するためのテフロン(登録商標)等の耐食性の物質をコーティングやライティングして、任意の金属表面に保護層を形成したものでブース1を形成しても好ましい。
【0034】
さらに、ブース1の耐圧性を向上させる観点からは、ブース1に対して何らかの補強を施すことも好ましい。例えば、公知の耐圧容器、耐圧ドアなどを任意に用いてブース1を形成し、耐圧性を高めるようにすれば良い。また、ブース1の周囲を鉄筋コンクリート等で補強した補強構造となるように構成することもできる。
また、ブース1は、高い気密性を備えていることが望ましい。具体的には、ブース1内を設計圧まで減圧して30分放置後、ブース1内の変化が無いようにすることが好ましい。これにより、ブース1内に大気が浸入したり、ブース1内の排ガスが外部に漏れ出したりすることを防止できる。
【0035】
さらに、ブース1には、ブース1の内部に試験機器や試験サンプルを搬入したり上記試験機器のメンテナンスをしたりするためのドア(図示せず)を設けておくと好ましい。ドアの形状は任意であり、例えば、ブース1が箱状であれば、その箱形状の側面のひとつをそのままドアとして形成しても良い。また、ドアの寸法は、ブース1に試験機器等を自由に出し入れできる程度の大きさであれば任意である。通常は、ドアの面積は0.1m2以上とするとよい。
【0036】
このドアを通じて、試験機器や試験サンプルの搬入や、メンテナンスなどを行なうことができる。なお、ここでメンテナンスとは、試験機器の検査、ブースの破損等の有無の検査、配線の不具合の検査、配管の不具合の検査、試験機器の交換、試験機器の修理、ブース1内の清掃などのことをいう。
【0037】
また、ドア(以下適宜、「大ドア」という)の一部に、さらにドア(以下適宜、「小ドア」という)を設けるようにしてもよい。上述したような大ドアは、通常は重く開閉に難がある。安全性試験時にはブース1内の気密を維持するためにドアの開閉は速やかに行なうことが好ましいが、大ドアが重いと、その開閉に時間がかかる。それに対し、小ドアを設けるようにすれば、小ドアは一般に開閉が大ドアよりも開閉が容易であるため、速やかに開閉を行なうことができ、ブース1内の気密性を損なうことは無い。
【0038】
小ドアの形状は任意であり、四角形、円形など、適当な形状に形成することができる。
また、小ドアの寸法も任意であり、電力貯蔵供給デバイス100の大きさや、小ドアを通じてブース1に出し入れする部品類の大きさなどに応じて適切な寸法に設定することができる。例えば、小ドアの面積は、通常、0.04m2〜0.1m2とするとよい。なお、ブース1に小ドアを設ける場合、通常は、ブース1内部に試験サンプルを出し入れするためには小ドアを用い、ブース1内部に試験機器の出し入れやそのメンテナンスを行なう場合には大ドアを用いることになる。しかし、小ドア及び大ドアの両方の機能を備えた単一のドアをブース1に設けるようにしてもよい。
【0039】
さらに、ブース1内に設けられる試験用の空間は、外部から隔離して気密性を備えることができればその形状に制限は無く、試験機材や安全性試験の目的等に応じて任意に設定することができる。例えば、上記の試験用の空間の形状の具体例としては、四角柱状、円柱状、球状などが挙げられる。
【0040】
さらに、ブース1内には、通常、安全性試験に用いる試験機器や配線等が設置される。これらの試験機器や配線等としては、安全性試験の種類に応じて適当な種類の機材を任意に設置することが可能である。通常用いられるものの具体例を挙げると、ヒータ、釘刺し試験用プレス機等の試験機器、並びに、それらを制御するための配線及びそれらに電力を供給するための電源などが挙げられる。なお、ヒータを用いる場合には、−40℃〜+350℃の温度範囲で加熱を行なうことができるものを用いることが好ましい。
また、安全性試験中の内部の様子を観察、録画するために、CCDカメラなどの観察用機器を設置しておくこともある。ただし、この場合、SUS(ステンレス)等で形成した保護ケースなどで観察用機器を保護するようにすることが好ましい。
【0041】
また、ブース1内には、安全性試験時に使用するセンサ類を設置しておくことが好ましい。センサ類の種類に制限は無く、安全性試験の目的に応じて適切なものを任意に用いることができる。例えば、図1に示すように、ブース1内外に圧力センサ11、12を設けてもよい。これにより、安全性試験により発生した排ガスの発生量や、安全性試験時に爆発が生じた場合に上記爆発の爆風圧を測定することができる。また、ブース1内の雰囲気の置換のための減圧度と不活性ガスによる復圧度を検知し、より安全にブース内のガス置換を行うことができる。
圧力センサはブース1内外の任意の位置に適宜設置することができる。圧力センサ11のようにブース1の内壁に設置したものでもよく、圧力センサ12のように配管12aで取り出しブース1外に設置したものでもよい。
【0042】
また、圧力センサの種類に制限は無く、本発明の効果を損なわない限り任意の圧力センサを用いることができるが、圧力変動による歪みを感知するタイプ(歪みゲージ式)が好ましい。このタイプ圧力センサは絶対圧力タイプであり、負圧の検知も可能であり、また精度もよい。これにより、圧力変動から発生したガスの容積を推測することができる。また、ブース1の内圧の変化、昇圧速度、最高到達圧力などから電力貯蔵供給デバイス100の安全性を評価する場合は、通常10Hz以上の高い周波数で(即ち、短い測定間隔で)圧力を測定できる仕様の圧力センサを用いるようにすることが好ましい。
なお、ブース1内の圧力に応じてブース1の壁部、底部、天井部などにひずみが生じる場合には、そのひずみを測定するひずみゲージを設置し、それにより測定されるひずみの大きさから圧力を算出するようにしても良い。
【0043】
また、この他用いられるセンサ類の例としては、温度センサが挙げられる。温度センサとしては、安全性試験の種類や目的に応じて、ブース1内の雰囲気温度、電力貯蔵供給デバイス100の表面温度や内部温度などを測定できるものなどを適宜用いることができる。特に、温度センサはヒータと共に用いることが多い。
さらに、例えば、釘刺し試験用プレス機13を用いる場合は、釘刺し位置や釘刺し深さ等を制御するための位置センサを用いるようにすることが好ましい。
【0044】
また、本発明の試験装置では、安全性試験により電力貯蔵供給デバイス100から発生する排ガスを、排ガス処理部2に入る前に一時的に保持するようにする。即ち、通常の排ガス処理部2には処理能力(処理速度)に所定の限界があるが、安全性試験では一般にその処理能力以上の量の排ガスが生じるため、何ら対策を講じない場合は排ガス処理部2で安全性試験により生じた排ガスを処理しきれなくなる可能性がある。また、処理能力が十分に大きい排ガス処理部2を用意することも考えられるが、この場合は設備コストが非常に大きくなる。そこで、本実施形態の試験装置では、上記の点を解決するため、排ガス処理部2の排ガス処理能力に応じた速度で排ガスを排ガス処理部2に送出可能な排ガス送出ライン3を設け、送出する前の排ガスを一時的に保持するようにするのである。排ガス処理部2の上流であればどこで排ガスを保持するようにしても良く、例えば排ガス送出部2に排ガス保持用のタンクを設けるようにしてもよいが、通常は、ブース1自体を排ガス保持部として用い、ブース1内で排ガスを一時的に保持するようにする。
【0045】
ここで、ブース1が排ガスを一時的に保持する場合、どれだけの時間保持するかは排ガス処理部2の排ガス処理能力に応じて任意であるが、ブース1から排ガス処理部2に送出される排ガスの量が排ガス処理部2の処理能力を超えないよう、排ガス処理部2の処理能力に応じて保持するようにすることが望ましい。具体的には、通常20分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上保持できるようにする。
【0046】
ところで、ブース1に排ガスを保持させるようにするには、排ガスの保持が可能となるよう、安全性試験の条件に応じた耐圧性をブース1に備えさせるようにすることが望ましい。詳しくは、ブース1が備える耐圧性は、少なくともブース内のガス置換が可能な程度の密閉性を保持し得る耐圧性を有していることが望ましい。安全性試験の条件や種類によっては、大量の排ガスが発生することがあるため、その排ガスを保持するには充分な耐圧性をブース1に備えさせておくことが望ましいためである。この場合、ブース1が備えるべき耐圧は、後述する通り、安全性試験時のブース1内の雰囲気に応じて決定することが好ましく、具体的には、ブース1内の雰囲気が不活性雰囲気である場合と空気雰囲気である場合とは区別するようにすることが好ましい。
【0047】
さらに、ブース1においては、以下の要件(b)、(c)及び(d)の少なくとも一つを満たすことが望ましい。
〔要件(b)〕
要件(b):本実施形態の試験装置は、電力貯蔵供給デバイス100を破損させるプレス機(押圧手段)13を有していることが好ましい。プレス機13は、通常、釘刺し試験、圧壊試験などにおいて用いられるものであり、先に例示した試験機器の一種である。釘刺し試験の場合、プレス機13により釘13aを電力貯蔵供給デバイス100に刺し込むようにする。また、圧壊試験においては、プレス機13で電力貯蔵供給デバイス100を押圧し、電力貯蔵供給デバイス100を圧壊させるようにする。プレス機13を設けることにより、電力供給デバイスの強度に応じた荷重をかけることができるので、殆どの電力供給デバイスにおける釘刺し試験や圧壊試験が、試験者の安全を確保しながら確実に実施可能となる。
【0048】
プレス機13の種類に制限は無く、任意である。例えば、油圧式、エアー式、電動式などを用いることが可能である。また、手動式のものを用いても構わない。
【0049】
プレス機13は、ブース1の内部に設けても良く、ブース1の外部から押圧可能なように設けても良い。但し、ブース1の外部から押圧可能なようにプレス機13を設ける場合は、ブース1に内外を連通する孔13bを設けて当該孔13bを通じてブース1内の物体を押圧できるようにするが、この際、前記孔13bはシールして、ブース1内の排ガスが当該孔13bを通じてブース1の外に漏れないようにする。
【0050】
プレス機13をブース1の外部から押圧可能なように設けるのは、以下の理由による。即ち、ブース1の容積が電力貯蔵供給デバイス100の体積よりも過大であることは好ましいことではないため、電力貯蔵供給デバイス100が小さい場合には、ブース1の容積も小さくなることがある。その場合は、ブース1内に設置できるほど小さいプレス機13が入手困難であれば、プレス機13はブース1の外部から押圧可能なように設けてもよい。これにより、安全性試験に要するコストを抑制することができる。
【0051】
なお、プレス機13は通常は1つのみを設けるが、具体的な安全性試験の内容や、電力貯蔵供給デバイス100の種類などに応じて、2つ以上設けても良い。また、プレス機13の種類に制限は無く、任意のものを使用することができる。
【0052】
〔要件(c)〕
要件(c):ブース1の容積は、試験対象である電力貯蔵供給デバイス100の体積の、通常10倍以上、好ましくは20倍以上、より好ましくは100倍以上、また、通常105倍以下、好ましくは104倍以下、より好ましくは103倍以下である。
ブース1の容積を、前記要件(c)の範囲内に収めることにより、発生ガスの濃度を分析の信頼できる範囲に維持できるという利点が得られる。
【0053】
なお、「電力貯蔵供給デバイス100の体積」は、それが立方体の場合には「縦×横×厚み」、円筒の場合には「断面積(円形)×長さ」より計算して求める。
【0054】
〔要件(d)〕
要件(d):本実施形態の試験装置は、ブース1内の気相部を攪拌する攪拌手段として攪拌機14を設けることが好ましい。攪拌機14によってブース1内の気相部を攪拌するようにすれば、排ガスを均一化することが可能となり、これにより、排ガス分析の信頼性を向上させることができる。
【0055】
攪拌機14の種類に制限は無く、手動のものを用いても構わないが、通常は、モータにより回転駆動される羽根を有する扇風機を用いる。
また、攪拌機14の数及び設置位置にも制限は無い。ただし、攪拌機14の攪拌により正確なブース1の内圧を測定できなくなることは好ましくないため、攪拌機14は、圧力センサ11から離れて設けることが好ましい。
【0056】
本実施形態では、ブース1は排ガスの保持が可能となる程度の耐圧性を有するとともに、ブース1内に圧力センサ11を備えているものとする。また、ブース1が前記のとおり耐圧性を備えるため、本実施形態の試験装置では、ブース1が排ガス保持部として機能しうるようになっている。
【0057】
また、本実施形態では、ブース1には開閉弁12bを設けられた配管12aによって圧力センサ12が接続されている。さらに、ブース1には、孔13bを通じて電力貯蔵供給デバイス100に釘13aを刺し込むことができるように、ブース1の外部に設けられたプレス機13が備えられている。また、ブース1の内壁には、図示しないモータにより駆動される羽根を有する攪拌機14が取り付けられている。さらに、ブース1の容積は、上記の要件(c)を満たすように設定されているものとする。
【0058】
[I−1−4−2.排ガス処理部]
排ガス処理部2は、安全性試験で発生した排ガスに処理(以下適宜、「無害化処理」という)を行ない、系外に放出しても無害な状態にするためのものである。排ガスの無害化処理が可能であれば具体的な構成に制限は無く、生じる排ガスの種類に応じて任意の構成とすることができる。本実施形態では、排ガス処理部2は、フッ素除去手段であるフッ素吸着塔21、水洗手段である水洗塔22、活性炭処理手段である活性炭処理槽23、及び、ブロア24、並びに、各部を連結する配管25,26,27から構成されているものとする。
【0059】
フッ素吸着塔21は、フッ化物吸着材が充填された吸着塔であり、このフッ素吸着塔21内を通すことによって排ガス中に含まれるフッ化物をフッ化物吸着材に吸着させて除去できるようになっている。ここで除去されるフッ化物の具体例としては、例えば、フッ化水素等が挙げられる。なお、フッ化物の除去のためのフッ化物除去手段としては、例えば、フッ素吸着塔21に代えて(又は併用して)、水酸化ナトリウム水溶液を洗浄液とするスクラバーを用いることもできる。
また、フッ素吸着塔21を通過した排ガスは、配管25を通って水洗塔22に送出されるようになっている。
【0060】
水洗塔22は排ガスを水洗するもので、この水洗塔22を通すことによって、電極材料粉末等の排ガス中の固相成分を水洗して除去したり、水に容易に溶ける成分などを溶かして除去したりできるようになっている。また、水洗塔22を通過した排ガスは、配管26を通って活性炭処理槽23に送られるようになっている。
【0061】
活性炭処理槽23は、活性炭が充填された容器であり、この活性炭処理槽23を通すことによって有機ガス等を活性炭に吸着させて除去できるようになっている。したがって、活性炭処理槽23は、有機ガス除去手段として機能する。また、活性炭処理槽23を通過した排ガスは、配管27を通ってブロア24に送られるようになっている。
【0062】
ブロア24は、送られてきた排ガスを系外に放出させるためのものである。このブロア24から放出される排ガスは、フッ素吸着塔21、水洗塔22及び活性炭処理槽23で処理されているために系外に放出して問題となる成分を含有しておらず、したがって、安全性試験により発生した排ガスが環境などに害を与えることを抑制することができる。
【0063】
なお、排ガス処理部2の排ガス処理速度に制限は無い。仮に処理速度の限界以上の排ガスが安全性試験において発生したとしても、ブース1を排ガス保持部として用いて排ガスを一時的に保持できるため、排ガス処理部2の処理能力に応じた速度で排ガスを排ガス処理部2に送出することができるからである。
【0064】
また、無害化処理によって排ガス中の有害物質がどの程度除去されるかについては制限は無いが、排ガス処理部2から系外に排出される排ガス中における有害物質の濃度が、通常5重量%以下、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1重量%以下となるようにすることが望ましい。なお、ここで言う有害物質とは、例えば、含フッ素化合物、炭化水素、含リン化合物、粉塵などを指す。
【0065】
[I−1−4−3.排ガス送出ライン]
排ガス送出ライン3は、排ガスを、ブース1から排ガス処理部2に、排ガス処理部2の処理能力に応じて送出するものである。詳しくは、排ガス処理部2の処理速度の限界を超えないように排ガスの流量を調整しながら、排ガスをブース1から排ガス処理部2に送出するものである。本実施形態では、排ガス処理ライン3は、配管31と、開閉弁32,33,34,35とを備えている。また、配管31には、配管36を介してガスボンベ37が接続されている。
【0066】
具体的には、ブース1と排ガス処理部2のフッ素吸着塔21とは配管31によって連結されていて、開閉弁32,33,34,35を開ければブース1と排ガス処理部2とが連通してブース1内の排ガスをフッ素吸着塔21に送出することができ、開閉弁32,33,34,35を閉めれば上記送出を止めることができるようになっている。なお、開閉弁32,33,34,35は、ブース1に近い方から前記の順に設けられている。
【0067】
また、ブース1内で排ガスが発生した際には、通常はブース1内は排ガスの発生により排ガス処理部2内よりも高圧となっているために、ブース1内の排ガスはその圧力差によって排ガス処理部2に送出されるようになっている。さらに、配管31はブロア24の吸引されているため、これにより、ブース1内の排ガスはより確実に配管31を通って排ガス処理部2に送られるようになっている。したがって、ブロア24は排ガス吸引手段として機能するようになっている。
【0068】
さらに、このブロア24の吸引を利用して、ブース1内の排ガスがドアから外部へ放出されることを防止することも可能である。即ち、例えばドアの開閉中に開閉弁32,33,34,35を開けておけば、ブロア24の吸引によって配管31内がブース1内よりも負圧となり、したがって配管31がブース1内のガスを吸引するようになるため、ブース1内の圧力は試験装置の外部圧力よりも低くなり、このため、試験装置外部に排ガス等のブース1内のガスが漏れ出すことを抑制することができる。
【0069】
また、排ガス送出ライン3には、排ガス処理部2の処理能力に応じて送出する排ガスの流量を調整する流量調整手段を設け、排ガス処理部2の排ガス処理速度の限界値を超える流入速度で排ガスが排ガス処理部2に流入しないようにしておく。どのようにして調整を行なうかは任意であるが、例えば、しぼりを設けるようにすることが好ましい。具体例としては、配管31の内径を所定値以下とし、排ガス処理部2の処理能力に応じた流量の排ガスだけを流通させられるようにして、配管31自体をしぼりとして機能させることができる。これにより、排ガス処理部2に流入する排ガスの流入速度は、排ガス処理部2の排ガス処理速度の限界を超えないように保たれるので、排ガス処理部2で処理しきれない排ガスが無害化されずに系外に放出されることを防止することができる。
【0070】
また、例えば、排ガスの流量調整の方法としては、配管31の径を調整する以外にも、絞り弁を設けるようにしてもよい。この際にも、絞り弁の絞り程度は任意であるが、絞り弁の流量調整機能により、排ガスの流量が排ガス処理部2の排ガス処理速度の範囲内に収まるようにすることが好ましい。これによっても、排ガス流量が排ガス処理部2の処理能力の限界を確実に超えないようにすることができる。
【0071】
さらに、排ガス送出部3が単位時間に排ガス処理部2に送出する排ガスの量は、排ガス処理部2の処理能力を超えない限り任意である。ただし、確実に排ガスの無害化処理を行なう観点からは、排ガス処理部2の処理速度の限界値に対して、通常90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは50%以下の排ガスが排ガス処理2に流入するよう、排ガスの流量調整を行なうようにすることが望ましい。
また、配管31内に排ガスの流量を検出する流量センサと安全弁とを設け、流量センサで上記範囲を超える排ガス流量を検出した場合に安全弁が閉まったり流路を絞ったりするように構成することも好ましい。
【0072】
また、試験時の安全性を更に高めるため、何らかの流量制御手段を設けるようにしても良い。例えば、排ガス送出ライン3に所定の時間毎に開閉を繰り返す開閉弁を設け、その開閉弁が開いている時間と閉まっている時間との比率を調整することにより排ガスの流量制御を行なうようにしてもよい。
さらに、排ガス送出ライン3を流通する排ガスの流量を検出する流量センサと、この流量センサが検知する排ガスの流量が特定値以上となった場合には開度をしぼる絞り弁とを設け、これにより排ガスの流量制御を行なうようにしてもよい。この際、上記特定値を排ガス処理部2の排ガス処理速度の限界値以下にしておけば、排ガス処理部2に対する排ガスの流入速度が上記限界値を超えることを防止できる。
【0073】
このように排ガス送出ライン3で排ガスの流量を調整するようにすることによって、排ガス送出部3により送出される前の排ガスはブース1内に保持されることになる。しかしこの場合でも、上述したようにブース1が充分な耐圧性を備えているために、排ガス処理部2に送出される前の排ガスを一時的に保持してもブース1が破損したりする可能性は無い。
【0074】
なお、本実施形態では、排ガス処理部2の排ガス処理能力に応じた内径を有する配管31を用いて排ガス送出ライン3を形成しているものとする。さらに、本実施形態においては、上記開閉弁32が絞り量(バルブ開度)を調整できる絞り弁としても機能するようになっていて、この開閉弁32の絞り量を調整することによっても、排ガス処理部2に流入する排ガスの流入速度を調整できるようになっているものとする。ただし、配管31と開閉弁32のいずれか一方のみによっても排ガスの流量制御は可能である。
【0075】
さらに、本実施形態では、配管31の開閉弁32,33の間の部位には、配管36を介してガスボンベ37が接続されている。また、ガスボンベ37には窒素ガス等の不活性ガスが貯蔵されている。さらに、配管36には開閉弁38が設けられていて、開閉弁38を開けることにより、ガスボンベ37から不活性ガスを配管31に供給できるようになっている。
【0076】
即ち、配管31とガスボンベ37とは開閉弁38を備えた配管36により接続されている。したがって、開閉弁33,34,35がいずれも開いている場合、開閉弁38を開いてガスボンベ34から排ガス処理部2に不活性ガスを供給することにより、排ガス処理部2の系内に存在する酸素を追い出して、排ガスを導入した際に排ガス処理部2内の酸素濃度が爆発範囲に入らないようなっている。また、同様に、ガスボンベ37より下流の各部位(減圧ライン5、排ガス採取ライン7及び排ガス希釈ライン8など)においても、系内に存在する酸素を追い出して、排ガスを導入した際に当該部位の酸素濃度が爆発範囲に入らないようにできる。
【0077】
[I−1−4−4.室内ガス置換ライン]
室内ガス置換ライン4は、ブース1内を不活性ガスで置換するものである。ここでは、室内ガス置換ライン4は、不活性ガスを貯蔵したガスボンベ41が、開閉弁42を備えた配管43によってブース1に接続されることにより構成されている。これにより、開閉弁42を開けるとガスボンベ41内の不活性ガスがブース1に送出され、ブース1内の雰囲気を不活性ガスで置換することが可能になっている。即ち、本実施形態の不活性ガス置換ライン4は、不活性ガス置換部として機能するようになっている。
【0078】
不活性ガスとしては、排ガスとの反応性が小さい種類の気体を任意に用いることができる。具体例としては、アルゴン、ヘリウム等の希ガスや、窒素などが挙げられる。特に、電力貯蔵供給デバイス100として組成にリチウムを含有するものを用いる場合、リチウムは窒素と反応する可能性があるため、不活性ガスとしては希ガスを用いることが好ましい。なお、これらの不活性ガスは1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0079】
ここで、ブース1内を不活性ガスに置換するのは、電力貯蔵供給デバイス100から放出される排ガスがブース1内の空気中の酸素等によって燃焼または爆発し、それにより、排ガスの組成分析ができなくなったり、ブース1の内圧がブース1の耐圧以上の圧力となってブース1が破壊されたりすることを防止するためである。したがって、ブース1内の不活性ガスによる置換を行なうのは、排ガスの組成を分析したい場合などに行なうようにすることが好ましい。
本実施形態では、不活性ガスとして希ガスを用いるようにして室内ガス置換ライン4を構成しているものとする。
【0080】
[I−1−4−5.減圧ライン]
減圧ライン5は、ブース1内を減圧させるためのものであり、真空ポンプ51と、真空ポンプ51を排ガス送出ライン3に接続する配管52と、配管52に設けられた開閉弁53とを備えている。また、本実施形態では、配管52は、開閉弁33と開閉弁34との間の部位(開閉弁33より下流且つ開閉弁34より上流の部位)において、配管31に接続されているものとする。したがって、開閉弁32,33を開けている場合、開閉弁53を開けることにより、ブース1と真空ポンプ51とが連通してブース1内が減圧されるようになっている。また、真空ポンプ51の下流側には配管54が接続され、この配管54は配管31の開閉弁35よりも下流に接続されている。そして、配管54には開閉弁55が設けられていて、この開閉弁55を開けている場合には、真空ポンプ51に引かれたガスは配管54を通って排ガス処理部2に送られ、排ガス処理部2を通じて系外に送出されるようになっている。また、ブース1内を効率的に減圧するためには、ブース1の減圧時には開閉弁34,35,38,42,83は閉めておくものとする。
【0081】
ここで、ブース1内の減圧を行なうようにするのは、ブース1内の雰囲気を室内ガス置換ライン4によって置換する際に、ブース1内を減圧した状態でガスボンベ41から不活性ガスを供給するようにすることで、効率的に置換を行なうことができるようにするためである。また、ブース1内の雰囲気の置換時にブース1内に仮に排ガスが残留していたとしても、上記のようにブース1内を減圧しておけば、ブース1内の排ガス濃度を薄めることができるので、仮に大気と排ガスとが混合した場合であっても排ガス濃度が爆発範囲に入ることを抑制することができる。
【0082】
さらに、減圧ライン5を設けたことにより、減圧下での安全性試験を可能とすることも可能である。
また、減圧ライン5により、フッ化物を含む有害ガスや蒸気等を効果的に処理するために排気量を制御することができる。即ち、真空ポンプ51の出力や、開閉弁53,55の開度を調整することにより、真空ポンプ51を用いて、排ガス処理部2に送る排ガスの送出量をコントロールすることができる。
なお、減圧ライン5はブース1内を減圧する他、減圧ライン5を通じてブース1内の排ガスを排ガス処理部2に送出するために用いることも可能である。
【0083】
さらに、減圧ライン5を用いてブース1内を減圧する場合、試験装置の外部圧力(通常は大気圧)よりも減圧することが可能であればどの程度減圧できるかは任意であるが、通常8kPa以下まで減圧できるようにすることが好ましい。
本実施形態でも、減圧ライン5を用いてブース1内の圧力を8kPa以下まで減圧できるようになっているとする。
【0084】
[I−1−4−6.冷却媒ライン]
試験装置には、ブース1内の温度を調整するため、温度調整手段を設けることができる。通常、電力貯蔵供給デバイス100の安全性試験においては試験機器としてヒータを用いることがあるため、温度調整を行なおうとする場合、ヒータによって上昇した温度を強制的に低下させるための冷却手段を設けるようにすればよい。本実施形態においては、ブース1に冷却媒ライン6を設け、これにより、ブース1内の温度調整ができるようになっている。
【0085】
冷却媒ライン6は、内部に冷媒が流通する配管であり、この冷却媒ライン6内を低温の冷媒が流通することで、ブース1内の温度を低下させることができるようになっている。なお、冷媒に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。
【0086】
また、ブース1の雰囲気温度を下げるだけでなく、ブース1内の所定の位置を冷却するように冷却媒ラインを設けることが好ましい。例えば、ブース1内の電力貯蔵供給デバイス100を設置する箱や台101を冷却しようとする場合には、その箱や台101を冷却できるように冷却媒ライン6を設け、その箱内や台101の上に電力貯蔵供給デバイス100を設置して安全性試験を行なうようにすることも可能である。
本実施形態では、冷却媒ライン6はブース1内の雰囲気温度を低下させるように設けられているものとする。
【0087】
[I−1−4−7.排ガス採取ライン]
排ガス採取ライン7は、安全性試験により発生した排ガスを採取する排ガス採取手段として機能するものである。この排ガス採取ライン7で、排ガス処理部2で処理される以前に排ガスを採取し、別途採取した排ガスを分析することにより、電力貯蔵供給デバイス100に対する詳しい分析が可能となる。
【0088】
本実施形態では、排ガス採取ライン7は排ガス送出ライン3から分岐した配管71を備えていて、この配管71には、排ガスを採取するための採取部72と、排ガスを排ガス送出ライン3から抜き出すための真空ポンプ73と、採取部72の上流に設けられた開閉弁74とが設けられている。なお、配管71は、開閉弁34と開閉弁35との間の部位(即ち、開閉弁34より下流かつ開閉弁35より上流の部位)において、配管31に接続されている。
【0089】
採取部72は、排ガスを採取することができるものであればどのような構成であってもよい。ただし、以下の要件(a)を満たすものが好ましい。
〔要件(a)〕
要件(a):排ガス採取部7が、排ガスを吸収しうる吸収液を、排ガスに接触できるように有するか、または、上記排ガスをガス状態で採取しうる排ガス採取手段を備えることが好ましい。
即ち、本実施形態においては、採取部72において、排ガスを吸収しうる吸収液を有すると共に、この吸収液が、排ガスに接触できるようになっていることが好ましい(要件(a1))。これにより、排ガスを吸収液に吸収させて採取することが可能となる。このように吸収液に吸収させるようにして排ガスの採取を行なえば、発生したガスに同伴される溶媒滴(例えばミスト)を吸収でき、また排ガスのみでなく、ガスとして存在しにくい物質も吸収することにより、デバイスから発生、飛散してくるすべての成分の組成を把握できるという利点が得られる。
【0090】
ここで、吸収液としては、排ガスを吸収するものであれば任意の液体を使用することができる。ただし、ガスクロマトグラフ等の分析において、他の成分と重ならず、測定に影響を及ぼす事が少ないものが吸収液として好適である。その例を挙げると、NaOH水溶液、ジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。また検出される成分に影響しなければ、エタノール等の極性有機溶媒も吸収液として利用できる。
NaOH水溶液を使用すれば、排ガス中のフッ化水素などの酸性物質を吸収、採取することができる。DMFを使用すれば、排ガス中にガスとして存在はしないがガスに同伴されるミスト(電解液成分)などを吸収、採取することができる。
【0091】
また、吸収液は1箇所のみに貯蔵されていても良いが、2箇所以上に貯蔵されていることが好ましい。例えば、吸収液を2つ以上の容器に貯蔵し、各容器において吸収液と排ガスとが接触できるようにすることが好ましい。これにより、最初の吸収液の採取量が確認可能となるとともに、排ガス成分の回収効率を向上させることができるという利点が得られる。
【0092】
また、この場合、容器は直列に接続されていてもよく、並列に接続されていてもよく、直列及び並列を組み合わせて接続されていても良い。ただし、容器を直列に接続すると、排ガス成分の回収効率を向上させることができるため、好ましい。
【0093】
さらに、吸収液を貯蔵する容器は、密閉されていることが好ましい。このような密閉容器に吸収液を封入することにより、容器内に外気が浸入することを抑制し、排ガスに外気が混じって排ガスの純度が低下することを抑制できる。
【0094】
採取部72の具体的な構成の一例を、図2に模式的に示す。図2において、採取部72は、吸収液721a,722aを貯蔵した容器(ここでは、洗気瓶)721,722及びトラップ723を有している。これらの洗気瓶721,722及びトラップ723は配管71によって直列に接続されていて、排ガスは、配管71を通じて洗気瓶721、洗気瓶722及びトラップ723の順に流通するようになっている。なお、洗気瓶721,722はいずれも配管71に着脱可能に設けられている。
【0095】
洗気瓶721,722は、内部に吸収液721a,722aを貯蔵した容器である。これらの洗気瓶721,722において、配管71は、入口側(上流側)の端部(図2のA部参照)が吸収液721a,722aの中に位置するように設けられ、出口側(下流側)の端部(図2のB部参照)が吸収液721a,722aの上部に位置するように設けられている。これにより、洗気瓶721,722に流入する排ガスは、吸収液721a,722a内を通過し、その際に吸収液721a,722aに接触してから、下流に流れていくようになっている。このように、排ガスが吸収液721a,722a内を通過しながら接触するように構成したことで、吸収液721a,722aが排ガスを効率よく吸収できるようになっている。
【0096】
トラップ723は、洗気瓶722から送出された排ガスを冷却するためのものである。ここでは、トラップ723はドライアイスを入れたエタノール浴723aに浸されていて、トラップ723内の排ガスを冷却できるようになっている。このように排ガスを冷却してトラップすることにより、真空ポンプ73に吸収液のミストが混入してポンプが腐食するのを防止することができる。
【0097】
このように構成された採取部72では、真空ポンプ73により配管71に排ガスを流通させるようにしているので、排ガスは、洗気瓶721、722内の吸収液721a、722a中を通過し、排ガスに同伴される溶媒滴(例えばミスト)やデバイスから発生、飛散してくるガスとして存在し難い成分などが、吸収液721a、722aに吸収される。吸収されなかった排ガスはトラップ723を透過し、真空ポンプ73(図1参照)を通って系外に送出される。
【0098】
また、排ガス採取部7には、排ガスをガス状態で採取しうる排ガス採取手段を設けることも好ましい(要件(a2))。この場合、排ガス採取手段によって、排ガス中のガス成分を、ガス状態で採取できる。この排ガス採取手段の例を、図3、4に模式的に示す。
例えば、図3に示すように、排ガス採取手段としてシリンジ724を使用するようにしてもよい。図3の構成においては、配管71には開閉弁725,726が設けられていて、当該開閉弁725と開閉弁726との間の部位において、配管71には配管727が接続されている。配管727にはシリンジ724が着脱可能に接続されていて、このシリンジ724内に、排ガスを採取するようになっている。
【0099】
なお、シリンジ724のプランジャー724aには内部を軸方向に貫通する孔724bが形成されていて、孔724bの外側端部には弁724cを有する管724dが接続されている。さらに、シリンジ724の先端部には弁724eが設けられ、シリンジ724の取り外し時にシリンジ724の先端部から排ガスが漏れ出さないようになっている。
【0100】
したがって、図3に示す採取部72において排ガスを採取する際には、まず、真空ポンプ73(図1参照)により配管71内に排ガスを導入する。この際、弁724c,724eはいずれも閉まっているものとする。
その後、開閉弁725,726を閉めと共に、シリンジ724の先端の弁724eを開けてプランジャー724aを引き、シリンジ724内に排ガスを導入する。次いで、弁724eを閉めてから弁724cを開け、プランジャー724aを押し込んでプランジャー724a内の孔724bを通じてシリンジ724内の排ガスを送出する。これにより、シリンジ724内が排ガスにより置換され、仮にシリンジ724内に排ガス以外の他のガスが存在していたとして当該他のガスを排除し、より純粋な排ガスを採取できるようになっている。
【0101】
その後、弁724c,724eを閉め、開閉弁725,726を開けて、真空ポンプ73によって再度配管71内に排ガスを導入する。そして、開閉弁725,726を閉めと共に、シリンジ724の先端の弁724eを開け、プランジャー724aを引いてシリンジ724内に排ガスを導入する。これにより、高純度の排ガスをシリンジ724内にガス状態で採取することができるようになっている。この後、通常は弁724eを閉めてシリンジ724を取り外し、排ガスの分析に移ることになる。
【0102】
また、例えば、図4のようにして排ガスを採取してもよい。即ち、図4の構成においては、図3に示した場合と同様に配管71には開閉弁725,726が設けられている。ただし、図4の構成においては、当該開閉弁725と開閉弁726との間の部位には排ガス採取手段としてサンプル容器728が着脱可能に設置されている。
【0103】
したがって、図4に示す採取部72において排ガスを採取する際には、まず、サンプル容器728の上流の開閉弁725を閉め、下流の開閉弁726を開けて真空ポンプ73を稼動させてサンプル容器728内を減圧する。次いで、下流の開閉弁726を閉め、上流の開閉弁725を開けてサンプル容器728内に排ガス送出ライン3から排ガスを取り込む。これを1回又は2回以上繰り返してサンプル容器728内を排ガスで充たすことにより、サンプル容器728内に排ガスをガス状態で採取できるようになっている。
【0104】
本実施形態においては、採取部72は試験装置に対して着脱可能となるようにユニット化されていて、図2,3で示した採取部72をそれぞれ必要に応じて装着して使用できるようになっている。
【0105】
また、前記のようにして採取された排ガスは、排ガス分析部において、組成分析、毒性試験、燃焼性試験などの分析を適宜行なわれることになる。分析の方法及び使用する分析装置に制限は無く、安全性試験の目的に応じて任意に分析を行なうようにすればよい。
分析装置の例を挙げると、質量分析(MS)、熱伝導度検出(TCD)、水素炎イオン化検出(FID)、原子発光(AED)、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、イオンクロマトグラフなどのガス組成分析用装置、ISO−10156−1996に記載の燃焼試験用装置などが挙げられる。
上記排ガス分析部は、排ガス採取部72と一体化して設けても良いが、一体化していなくともよい。通常、採取された排ガスは、目的に応じた装置により分析が行われる。これらの分析装置も排ガス分析部を構成するものと見なされる。
【0106】
[I−1−4−8.排ガス希釈ライン]
排ガス希釈ライン8は、ブース1から送出される排ガスを希釈するためのものである。特に、排ガスが高濃度の場合、排ガス採取ライン7において採取される前の排ガスを分析に適した濃度に希釈し、希釈後の排ガスを採取するようにすれば、より効率的に排ガスの分析をすることができる。
【0107】
したがって、本試験装置は、以下の要件(e)を満たすことが好ましい。
〔要件(e)〕
要件(e):排ガス採取ライン7において採取される前に、排ガスを希釈する排ガス希釈ライン8を備える。
【0108】
このとき、排ガス希釈ライン8は、排ガス採取ライン7よりもブース1の近く(即ち、上流側)に設けるようにする。採取される前に排ガスの希釈を行なうためである。本実施形態では、開閉弁32と開閉弁33との間の部位において、排ガス希釈ライン8は配管31に接続されているものとする。
【0109】
本実施形態において、排ガス希釈ライン8は、希釈容器81と、希釈容器81を配管31に接続する配管82と、配管82に設けられた開閉弁83と、希釈容器81に接続された圧力センサ84とを備えて構成されている。
【0110】
ここで、希釈容器81は、配管31から排ガスを導入し、圧力センサ84によって希釈容器81内の圧力を検知しながら希釈容器81内で排ガスの圧力を調整(通常は、減圧)することにより、導入した排ガスを希釈するためのものである。希釈容器81の形状、容積等に制限は無く、任意である。ただし、希釈容器81内における希釈の最中に、希釈容器81内で排ガスの成分が滞らないよう、希釈容器81内にはスターラー85などの攪拌手段を設けておくことが好ましい。
また、圧力センサ84は、希釈容器81内の圧力を検知するものである。
【0111】
したがって、排ガスを希釈する際には、開閉弁83を開けて、希釈容器81内の圧力が所望の圧力となる量だけ排ガスを希釈容器81内に導入し、その後、開閉弁83を閉じる。この際、圧力センサ84を用いて希釈容器81内の圧力を検知しながら排ガスの導入を行なうことによって希釈容器81に導入する排ガスの量を調整することで、排ガスの希釈を行なうようになっている。また、この際、スターラー85を駆動して希釈容器81内の排ガスの攪拌も行なうようになっている。
なお、希釈後、開閉弁83を開け、排ガス送出ライン3を通じて希釈された排ガスを排ガス採取ライン7に送り、排ガスの採取を行なうようになっている。
【0112】
[I−1−5.使用方法]
本実施形態の試験装置は以上のように構成されているので、上記の試験装置を使用する場合、まず、ブース1内に安全性試験の対象である電力貯蔵供給デバイス100を設置する。本実施形態では、電力貯蔵供給デバイス100として電池を用い、電力貯蔵供給デバイス100を台101上に置いた状態で、ブース1内に電力貯蔵供給デバイス100を設置するものとする。なお、当初は、開閉弁32〜35,38,42,53,55,74,83は閉められているものとする。さらに、採取部72には図3に示した構成の採取部が着脱可能に設置されているものとする。
【0113】
電力貯蔵供給デバイス100の設置後、ブース1のドアを閉めて、減圧ライン5によりブース1内を減圧する。具体的には、開閉弁32,33,53,55を開き、真空ポンプ51を稼動させてブース1内を減圧する。通常は、ブース1内の圧力が20kPaとなるように減圧すればよい。また、ブース1内の圧力は圧力センサ11または圧力センサ12で検出するようにすれば良い。これにより、ブース1内が減圧される。
【0114】
減圧後、減圧ライン5によるブース1内の減圧を停止し、室内ガス供給ライン4からブース1内の雰囲気を置換する。具体的には、開閉弁32,33,53,55を閉めた後、開閉弁42を開けてガスボンベ41内の不活性ガスをブース1内に供給して、ブース1内の雰囲気を不活性ガス雰囲気とする。この際、安全性試験に適切な圧力となるように圧力センサ11でブース1内の圧力を検出しながらガスボンベ41からのガス供給量を調整するようにすることが好ましい。これによりブース1内の雰囲気が不活性ガスで置換される。
【0115】
なお、ブース1内での排ガスの爆発を抑制するだけであれば上記のブース1内の減圧及び雰囲気置換は1回行なえば十分であるが、排ガスの組成を正確に測定したい場合などには上記のブース1内の減圧及び雰囲気置換を通常2回以上、好ましくは6回以上行なうようにすればよい。これにより、ブース1内の酸素濃度を充分に低く(例えば、50ppm以下に)することができ、排ガスが雰囲気ガスと反応をすることによって排ガスの組成が変化することを防止できる。また、電力貯蔵供給デバイスの外部で排ガスが燃焼や爆発をすると、電力貯蔵供給デバイス100の内部で発生した熱量の検出が良好に行えなくなり安全性試験を精密に行なえなくなる可能性もあるが、排ガスの燃焼や爆発を抑制することにより、上記の可能性を無くすことができる。
【0116】
さらに、それとは別に、開閉弁33〜35及び開閉弁38を開けて、上述したようにガスボンベ37から排ガス処理部2に不活性ガスを供給し、排ガス処理部2の系内に存在する酸素を追い出しておく。
また、冷却媒ライン6やブース1内のヒータ(図示省略)を用いてブース1内の温度を調整しておく。調整後、冷却媒ライン6やヒータによる温度調整は停止させる。
【0117】
以上の準備ができた後、開閉弁32〜35,38,42,53,55,74,83を閉めてブース1を密閉した状態で、ブース1内で釘刺し試験などの安全性試験を行ない、ブース1内の試験機器やセンサ類を用いて、必要なデータの測定を行なう。具体的には、プレス機13で釘13aを押圧して電力貯蔵供給デバイス100に釘13aを差込む。この際、安全性試験により電力貯蔵供給デバイス100から排ガスが発生する。しかし、本実施形態の試験装置では、ブース1が充分な気密性及び耐圧性を有しているため、生じた排ガスはブース1内に保持され、系外に放出されることは無い。なお、圧力センサ11で排ガスが発生した際の爆風圧を検知し、これも分析に用いることができる。さらに、弁12bを開けておけば、圧力センサ12でガスが発生した際のブース1の内圧を検知できる。
【0118】
排ガスの発生後、攪拌機14でブース1内の排ガスの攪拌を開始する。攪拌を行なうことにより、排ガス中の微粒子成分などがブース1内に堆積し、排ガス採取ライン7で採取される排ガスの成分に偏りが生じることを抑制できる。
【0119】
そして、当該攪拌を行ないながら、排ガス希釈ライン8で排ガスを適切な圧力に希釈した後、排ガス採取ライン7により、当該排ガスの採取を行なう。具体的には、圧力センサ84で希釈容器81の内圧を検知し、希釈容器81の圧力が所望の圧力となるように量を制御しながら、開閉弁32,83を開けて希釈容器81内に排ガスを導入し、排ガスの希釈を行なう。この際、スターラー85で排ガスの攪拌を行なうようにする。
【0120】
その後、開閉弁32を閉め、開閉弁33,34,74,83を開けて、希釈した排ガスを排ガス採取ライン7に導入する。そして、排ガス採取ライン7に導入された排ガスを、採取部72において、図3を用いて説明したようにしてシリンジ724内に採取する。
次に、採取部72に装着するユニットを変更して、採取部72の構成を図2に示したものに変更する。そして、排ガス採取ライン7に導入された排ガスを、採取部72において、図2を用いて説明したようにして吸収液721a、722aに吸収させることにより、採取する。なお、図2の構成における排ガスの採取は、吸収液としてNaOH水溶液を用いた採取と、吸収液としてDMFを用いた採取とを別々に行なっているものとする。これは、前記の通りガスに同伴する全ての成分を効率的に採取するためである。
採取された排ガスは、分析機器等でその内部の排ガスを分析することができる。なお、排ガスの採取後、開閉弁74,83は閉める。
【0121】
排ガスの採取後、バルブ開度を調整しながら開閉弁32,35を開き、ブース1内の排ガスを排ガス処理部2に送出する。この際、排ガス送出ライン3が排ガス処理部2の処理能力に応じて送出する排ガスの流量を調整できるよう、配管31が上記のようにいわばしぼりとして機能するように形成され、さらに、開閉弁32が絞り弁としても機能するようになっているので、ブース1内に排ガスを一時的に保持することができ、したがって、排ガス処理部2に流入した排ガスは確実に無害化処理を施されることになる。具体的には、フッ素吸着塔21、水洗塔22及び活性炭処理槽23それぞれの処理能力を超えない範囲の量の排ガスが排ガス処理部2に送られ、フッ素吸着塔21、水洗塔22及び活性炭処理槽23で順に処理をされ、無害化される。そして、無害化された排ガスはブロア24から系外に放出される。
以上のようにして、本実施形態の試験装置を用いた安全性試験が行なわれる。
【0122】
[I−1−6.効果]
以上のように、本実施形態の試験装置を用いれば、排ガスの処理を可能としながら電力貯蔵供給デバイス100の安全性試験を行なうことができる。また、電力貯蔵供給デバイス100に対して釘刺し試験、過充電試験、加熱試験などの安全性試験を行なうと、急激に大量の排ガスが発生するが、本実施形態の試験装置では、ガス送出ライン3が排ガス処理部2の処理能力に応じて送出する排ガスの流量を調整するため、排ガス処理部2に排ガスが流入する前に排ガスを一時的に保持して、処理能力に応じて排ガス処理部2に排ガスを流入させることができる。したがって、排ガス処理部2に処理能力を超える排ガスが流入して排ガスの無害化処理を行なうことができなくなる可能性は無く、安全に安全性試験を行なうことができる。また、特に大型電池等の大量の排ガスを放出する電力貯蔵供給デバイス100は、従来の技術を用いた場合には排ガス処理に困難を生じる可能性が高いため、上記の試験装置を用いることによる利点が大きい。
【0123】
さらに、本実施形態の試験装置は、ブース1に耐圧性を有するように構成してあるため、排ガスを確実にブース1に保持することが可能である。さらに、ブース1が耐圧性を有していることにより、安全性試験を不活性ガス雰囲気下で行なう際に急激に排ガスが発生したり、また、ブース1内に排ガスを一時的に保持させたりしてもブース1が破損等することは無く、試験の安全性を更に向上させることができる。
【0124】
さらに、本実施形態の試験装置は、要件(a)を満たすように構成したため、排ガスに同伴する全ての成分やガスそのものを効率的に確実に採取できるという利点が得られる。
また、本実施形態の試験装置は、要件(b)を満たすように構成したため、試験者が安全かつ確実に電力貯蔵供給デバイスを破損することができるという利点が得られる。
さらに、本実施形態の試験装置は、要件(c)を満たすように構成したため、発生するガスの濃度を分析の信頼できる範囲内に維持できるという利点が得られる。
また、本実施形態の試験装置は、要件(d)を満たすように構成したため、発生ガスの均一性を維持できるという利点が得られる。
さらに、本実施形態の試験装置は、要件(e)を満たすように構成したため、発生したガスが高濃度であっても分析に最適な濃度とすることができるという利点が得られる。
【0125】
また、本実施形態の試験装置は減圧ライン5を備えているため、ブース1内のガスを別のガスに置換する際に減圧を行ない、効率的にガスの置換を行なうことができる。また、減圧下での安全性試験を行なうことができるようにすることも可能である。
さらに、本実施形態の試験装置は、ブース1内の温度を低下させる冷却媒ライン6を備えているため、適切に温度調整を行なうことができ、また、低温下での安全性試験を行なうことが可能となる。
【0126】
また、本実施形態の試験装置は圧力センサ11を備えているため、安全性試験時に排ガス発生に伴って生じる爆発の爆風圧を測定することもできる。
【0127】
[I−2.第2実施形態]
本発明の第2実施形態としての試験装置は、ブース1の耐圧性がブース耐圧A以上の耐圧性を備えるように構成されている他は、第1実施形態と同様である。
【0128】
したがって、本実施形態においても、電力貯蔵供給デバイス、排ガス及び安全性試験は、それぞれ第1実施形態と同様である。
また、試験装置についても、図1に示すように、排ガス処理部2、排ガス送出ライン3、室内ガス置換ライン4、減圧ライン5、冷却媒ライン6、排ガス採取ライン7及び排ガス希釈ライン8は、それぞれ第1実施形態と同様である。よって、試験装置は、要件(a),(e)を満たしている。
【0129】
さらに、ブース1についても、ブース耐圧がブース耐圧A以上になる以外は、第1実施形態と同様である。
即ち、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、排ガス送出ライン3が排ガス処理部2の処理能力に応じて排ガスを送出するようになっているため、ブース1に排ガスを一時的に保持させることができ、これにより、排ガス処理部2の排ガス処理速度の限界値を超える流入速度で排ガスが排ガス処理部2に流入しないようになっている。さらに、ブース1は、上述した要件(b)〜(d)を満たしている。
【0130】
また、本実施形態でも、安全性試験を不活性ガス雰囲気下で行なうように構成している。このため、ブース1もそれに応じた耐圧性を備えるようになっている。
具体的には、本実施形態で行なっているように、室内ガス置換ライン4でブース1内の雰囲気を不活性ガスで置換しうる場合など、ブース1内を不活性雰囲気として安全性試験を行なう場合には、ブース1は、下記ブース耐圧A以上の耐圧性を有するように構成することが好ましい。
ブース耐圧A:薬量を、電力貯蔵供給デバイスの加熱時の総発熱量相当のTNT薬量にTNT収率を掛けた値として、ホプキンソンの3乗根則により求められる爆風圧に、安全率を掛けた圧力。
【0131】
通常、爆薬を爆源とする爆風圧と爆源からの距離との関係は、爆風圧と換算距離とについてホプキンソンの3乗根則による相関が、スケール則として広い範囲で成り立つ。このホプキンソンの3乗根則とは、換算距離、即ち「爆薬の薬量の3乗根で除した爆薬中心からの距離」において、爆発により生じた爆圧の爆風圧が同一となることを示すものであり、特に爆薬としてトリニトロトルエン(以下適宜、「TNT」という)を用いた場合については信頼性が高いことが知られている。
【0132】
ブース耐圧Aを求める場合には、上記TNTの薬量を用いた換算距離によるスケール則であるホプキンソンの3乗根則を利用して、電力貯蔵供給デバイスを爆源とする爆風圧の強さを推算し、これに安全率を掛けた圧力値を算出する。この際、換算距離の算出に用いる薬量(以下適宜、「換算薬量」という)としては、ガス爆発の際に発生する熱量と同等の熱量を爆発において発生するTNT薬量に対しTNT収率を掛けた値を用いる。
【0133】
上記TNT収率は、爆発の激しさの尺度であり、排ガスとして爆轟しやすいガスが発生する場合にはTNT収率は高くなる。したがって、排ガスの種類に関わらず、安全性試験で生じうる激しい爆発に対応できる試験装置を構成する場合には、上記ブース耐圧Aの算出に用いるTNT収率は、通常0.01%以上、好ましくは0.1%以上、より好ましくは1%以上、また、通常20%以下、好ましくは10以下、より好ましくは5%以下とすることが望ましい。
【0134】
具体的なTNT収率の求め方は任意であるが、例えば、以下のようにして理論値に対する実測値の割合を測定することで求めることができる。即ち、試験サンプルと同様の電力貯蔵供給デバイスを実際に熱分解又は爆発させる実験(以下適宜、「測定用実験」という)を行ない、試験サンプルからある距離における圧力を測定し、測定される圧力の最大値と同じ圧力を爆発時に発生させるTNT火薬の質量(以下適宜、「TNT当量」という)を求める。このTNT当量の、「試験サンプルの熱分解や、これにともなう破裂、爆発等の、当該測定用実験の際に発生する可能性があった総熱量と同等の熱量を爆発において発生するTNT薬量」に対する比率(通常は、百分率)からTNT収率を求めることができる。測定用実験で圧力を測定する距離は任意であり、測定しやすい適当な距離を適宜設定することができる。例えば、熱分解あるいは爆発の中心から1メートルの距離を測定位置と決め、その測定位置での圧力推移を評価する測定用実験を行なうようにすればよい。また、測定用実験は密閉容器内で行なってもよく、開放系で行なってもよい。
【0135】
また、安全率は、ブース1が安全であることの確実性の程度を表わす値である。この値が大きいほど、より確実にブース1は安全であるといえる。この安全性の値は、通常1以上、また、通常2以下、好ましくは5以下である。
【0136】
具体的には、ブース耐圧Aは、以下のようにして求めることができる。即ち、(1)安全性試験において電力貯蔵供給デバイスから発生する総発熱量を求め、(2)その総発熱量に相当するTNT薬量を特定し、(3)このTNT薬量に上記TNT収率を乗じて換算薬量を算出する。(4)また、別途ブース1の寸法等から電力貯蔵供給デバイスからブース1の内壁の対象部位までの距離を求めておく。(5)そして、電力貯蔵供給デバイスからブース1の内壁の対象部位までの距離を換算薬量の3乗根で除して換算距離を求める。(6)さらに、上記のようにして求めた換算距離から対応する爆風圧を特定する。(7)最後に、この爆風圧に安全率を乗じてブース耐圧Aを算出する。
【0137】
以下、具体的な事例を示してブース耐圧Aの算出方法を説明する。
(1)総発熱量の見積もり
ブース耐圧Aを算出する際には、安全性試験において電力貯蔵供給デバイスから発生される総発熱量を求める。この際、総発熱量として文献値や想定値を用いても良いが、ブース耐圧Aの信頼性を高めるには、実験的に求めた総発熱量の実験値を用いるようにすることが好ましい。
【0138】
上記総発熱量の実験的な求め方は任意である。例えば、安全性試験を行なう対象である電力貯蔵供給デバイスと全く同じ構成の試験用デバイスを用いて実験を行ない、総発熱量を見積もっても良い。ただし、操作を簡単にするためには、電力貯蔵供給デバイスと同様の組成や構成要素を有し寸法が異なる試験用デバイスを用意し、この試験用デバイスを用いて単位体積当たりの発熱量を実験により測定した上で、求めた単位体積当たりの発熱量を電力貯蔵供給デバイスの体積倍して総発熱量を求めるようにすることが好ましい。なお、総発熱量の求め方の説明においては、上記総発熱量を求める実験に用いる電力貯蔵供給デバイスを「試験用デバイス」と呼び、安全性試験に用いる電力貯蔵供給デバイスと区別するようにする。
【0139】
本事例では、試験用デバイスに対して実際に加熱試験を行ない、これにより総発熱量を求めるものとして説明を行なう。加熱試験により総発熱量を求める場合、試験用デバイスとして用いる電力貯蔵供給デバイスの容量は、0.3アンペアアワー(Ah)から2Ah程度の容量のものが好ましい。電力貯蔵供給デバイスの寸法が小さすぎず、且つ、大きすぎないので、発熱速度の評価精度を向上させることができ、また、安全性を高めることができるからである。
【0140】
また、安全性試験においては、上記の試験用デバイスよりも大きい容量を有する電力貯蔵供給デバイスの安全性評価を行なうことが多い。したがって、通常は、上記のように、安全性試験に用いる電力貯蔵供給デバイスとは異なる寸法の試験用デバイスを用いて単位体積当たりの熱量を求め、それを実際の安全性試験に用いる電力貯蔵供給デバイスの寸法に合わせて体積倍して総発熱量を求めることになる。よって、本事例においても、加熱試験で用いる試験用デバイスの電極や電解液などの構成要素は、実際に安全性試験に用いる電力貯蔵供給デバイスと同様にするものとする。
【0141】
加熱試験の条件は想定する安全性試験の条件に合わせて任意に設定すれば良い。具体的な条件の例を示すと、例えば、加熱は常温から通常200℃〜300℃程度まで昇温して行ない、また、その昇温速度は通常1K/min〜2K/minとする。
さらに、加熱に用いる機器も任意であるが、通常はオーブンを用いる。その場合、具体的には、試験用デバイスをオーブン内に設置し、オーブンの内部の温度を室温から昇温させながら、表面温度及びオーブン内雰囲気温度を測定することになる。この際用いるオーブンに制限は無く、任意のオーブンを用いることができるが、昇温速度を設定できる(プログラマブルである)ものが好ましい。
【0142】
また、加熱試験の際には、試験用デバイス自体の温度及び試験用デバイスの雰囲気温度の時間推移をそれぞれ測定しておくようにする。試験用デバイス自体の温度には、その表面温度と内部温度とのいずれを採用しても良く、適宜、測定しやすい方の温度を採用することができる。本事例では、試験用デバイス自体の温度としてその表面温度を用いた場合について説明するが、内部温度を試験用デバイス自体の温度として採用する場合も、同様に行なうことができる。
【0143】
加熱試験後、測定した温度推移から試験用デバイスの発熱速度を求め、発熱速度を時間で積分して試験用デバイスからの総発熱量を求める。
上記発熱速度は、加熱試験により得られた試験用デバイス自体の温度の時間変化、即ち、ここでは試験用デバイスの表面温度の時間変化を用いて算出する。具体的には、まず、試験用デバイスの表面温度及び雰囲気温度を用いて、測定した試験用デバイスの熱伝達係数を求める。この熱伝達係数は、試験用デバイスの表面と試験用デバイスの外部との熱交換速度を評価するパラメータであり、表面温度を発熱速度に変換するために用いる係数である。
【0144】
一般に、加熱試験の結果については、下記式1が成立する。
【数1】

ただし、式1において、各記号が表わす値は、次の通りである。
ρ : 試験用デバイスの密度
Cp : 試験用デバイスの比熱
T : 試験用デバイスの温度
t : 時間
U : 熱伝達係数
A : 比表面積
surface : 試験用デバイスの表面温度
ambient : 試験用デバイスの雰囲気温度
heat : 発熱速度
【0145】
ここで、加熱試験中で、発熱が生じていない温度領域においては、上記式1における発熱速度(heat)はゼロである。
したがって、下記式2が成立し、この式2から、熱伝達係数(U)を求めることができる。ここで、式2において、各記号が表わす値は、上記式1と同様である。また、式2から熱伝達係数を求める際に用いる試験用デバイスの密度(ρ)、比熱(Cp)、比表面積(A)などは、別途予め求めておくことが好ましい。
【数2】

【0146】
なお、得られる熱伝達係数(U)は、温度によらず平均値を用いてもよいが、ブース耐圧Aの精度を上げるためには、関数化して表わすことが好ましい。
また、ここでは試験用デバイスを用いて式2により熱伝達係数(U)を求めたが、熱伝達係数(U)を求める方法に制限は無く、任意の方法で求めることができる。例えば、試験用デバイスの代わりに、試験用デバイスと同様の表面構成部材を用いた他の部材(例えば、評価対象である電力貯蔵供給デバイスのケースに鉛ビーズを詰めたもの等)を用いて上記方法により式2を用いて熱伝達係数(U)を求めるようにしても良い。また、例えば、場合によっては、適切な文献値を用いることもできる。
【0147】
次に、求めた熱伝達係数(U)を用いて、熱分解による発熱が発生している温度領域において、上記式1を用いることにより、オーブン加熱試験により測定された試験用デバイスの表面温度(Tsurface)を、発熱速度(heat)に変換する。具体的には、加熱試験で得た試験用デバイスの表面温度(Tsurface)及び雰囲気温度(Tambient)、並びに、上述したようにして求めた熱伝達係数(U)を用いて、試験用デバイスの発熱速度対温度の関係を導出する。なお、密度(ρ)、比熱(Cp)、比表面積(A)などは、式2と同様のものを用いることができる。
【0148】
次に、上記のように電力貯蔵供給デバイスの表面温度を変換して得られた発熱速度(heat)を、試験用デバイスの体積当たりの発熱速度[W/m3]に規格化する。なお、通常、試験用デバイスは電極捲回体や積層体として形成されているが、この体積は予め測定しておくことが好ましい。また、規格化は他の段階において行なっても良く、例えば、発熱速度を時間で積分して発熱量に変換した後に行なうようにしてもよい。さらに、「試験用デバイスの体積」とは、試験用デバイスにおいて発熱が生じる部分の体積のことであり、試験用デバイスの中の外装(例えば、缶やラミネート)や余分な隙間は含まない。
【0149】
次に、上記のようにして得られた発熱速度[W/m3]を、加熱試験を行なった時間で積分し、試験用デバイスの単位体積当たりの発熱量を求める。
そして、この単位体積当たりの発熱量から、換算薬量の算出に用いる総発熱量[J/m3]を求める。なお、ここで「電力貯蔵供給デバイスの体積」も、電力貯蔵供給デバイスにおいて発熱が生じる部分の体積のことであり、電力貯蔵供給デバイスの中の外装(例えば、缶やラミネート)や余分な隙間は含まない。
【0150】
即ち、加熱試験で求めた単位体積当たりの発熱量に、ブース1内で安全性試験を行なう電力貯蔵供給デバイスの体積を掛けて、実際に安全性試験で生じる総発熱量[J]を求める。具体例を示すと、上記単位体積当たりの発熱量が1.8×109[J/m3]であり、電力貯蔵供給デバイスの体積が7.2×10-5[m3]である場合には、安全性試験の対象となる電力貯蔵供給デバイスが安全性試験時に生じる熱量の総発熱量は、
(1.8×109[J/m3])×(7.2×10-5[m3])= 1.3×105[J]
となる。
【0151】
なお、電力貯蔵供給デバイスとしてリチウムイオン電池等の特定のデバイスを用いる場合には、上記の加熱試験を行なう代わりに、電力貯蔵供給デバイスの電力容量[J]に、通常30%以上100%以下の適当な係数値を掛けた値を総発熱量とすることもできる。例えば、容量10Ah、平均電圧3.7Vの電池を安全性試験の対象とした場合、その電力容量は
10×3.7×3600=1.3×105[J]
となる。したがって、これに30%〜100%の係数値を掛けた値を、この電池の総発熱量とみなし、上記(2)〜(6)の計算を行なうようにしても、ブース耐圧Aを算出することができる。なお、電力容量に掛ける係数値は実験的に求めればよい。
また、総発熱量としては、想定値や文献値などを用いても良い。ただし、信頼性を高める観点からは、実験値を用いることが好ましい。
【0152】
(2)安全性試験時に生じる総発熱量に相当するTNT薬量の特定
安全性試験時に生じる総発熱量が判明すれば、次に、その総発熱量に相当するTNT薬量を特定する。TNTの爆発時発熱量は2.6×109[J/ton]であるので、具体的には、当該総発熱量を2.6×109J/tonで除すればよい。上記加熱試験の具体例の場合、安全性試験時に生じる総熱量は1.3×105[J]であるので、それに相当するTNT薬量は
(1.3×105[J])/(2.6×109[J/ton])
=5×10-5[ton]
=0.05[kg]
である。
【0153】
(3)換算薬量の算出
総発熱量に相当するTNT薬量が判明すれば、次に、そのTNT薬量に前述のTNT収率をかけ、ホプキンソンの3乗根則に適用する変換薬量を算出する。上記加熱試験の具体例の場合、上記総発熱量に相当するTNT薬量が0.05[kg]であるので、TNT収率を5%とした場合、換算薬量は
(0.05[kg])×(0.05)=2.5×10-3[kg]
となる。
【0154】
(4)内壁までの距離の特定
また、別途、ブース1内の電力貯蔵供給デバイスからブース1の内壁の対象部位までの距離を求めておく。この距離は、後の換算距離の計算に用いる。上記加熱試験の具体例においては、この距離は、0.35mであるとする。なお、ここで対象部位とは、ブース耐圧A以上の耐圧性を備えさせようとする部位のことをいう。
【0155】
(5)換算距離の算出
換算薬量と、電力貯蔵供給デバイスからブース1の内壁の対象部位までの距離とから、換算距離を求める。具体的には、電力貯蔵供給デバイスからブース1の内壁の対象部位までの距離を換算薬量の3乗根で除して換算距離を算出する。また、ブース1の内壁においては電力貯蔵供給デバイスからの距離が最も小さい部位が最も高い圧力を受けることから、電力貯蔵供給デバイスと内壁との最短距離を用いて換算距離を求め、内壁で電力貯蔵供給デバイスからの距離が最も小さい部位に必要とされる耐圧に、ブース1全体の耐圧を合わせるようにすると、試験の安全性をより高めることができ、好ましい。上記加熱試験の具体例の場合、換算距離は、
(0.35[m])/{(2.5×10-3[kg])(1/3)
=2.6[m/kg(1/3)
となる。
【0156】
(6)爆風圧の特定
上記のようにして求めた換算距離を基に、その換算距離に対応する爆風圧を特定する。具体的には、ホプキンソンの3乗根則における換算距離と爆風圧との関係を表わす図5に示す相関図を用い、横軸の換算距離に対応する縦軸の爆風圧を特定する。したがって、上記加熱試験の具体例においては、横軸の換算距離2.6[m/kg(1/3)]に対応する縦軸の値2[Kgf/cm2]が、ブース1の当該部位における爆風圧となる。
【0157】
(7)ブース耐圧Aの算出
さらに、上記の爆風圧に安全率を掛けて、ブース1の対象部位におけるブース耐圧Aを算出する。したがって、安全率を1とした場合、上記加熱試験の具体例における対象部位のブース耐圧Aは
2[Kgf/cm2]×1(安全率)=2[Kgf/cm2
となる。
【0158】
したがって、安全性試験を不活性雰囲気下で行なう場合、ブース1は、ブース1を構成する壁部、底部、天井部などの少なくとも一部、好ましくは全体が、上述したブース耐圧A以上の耐圧性を有し、上記ブース耐圧Aまでの内圧に耐えることができるように構成することが望ましい。
本実施形態においては、ブース1は圧力センサ11を備え、さらに、その全体が上記のようにして算出したブース耐圧A以上の耐圧性及び気密性を有して構成されているものとする。また、ブース1がブース耐圧A以上の耐圧性を備えるため、本実施形態の試験装置では、ブース1が排ガス保持部として機能しうるようになっている。
【0159】
本実施形態の試験装置は以上のように構成されているので、第1実施形態と同様にして安全性試験を行ない、排ガスの採取を行なうことができる。
以上のように、本実施形態の試験装置を用いれば、排ガスの処理を可能としながら電力貯蔵供給デバイス100の安全性試験を行なうことができる。また、電力貯蔵供給デバイス100に対して釘刺し試験、過充電試験、加熱試験などの安全性試験を行なうと、急激に大量の排ガスが発生するが、本実施形態の試験装置では、排ガス送出ライン3が排ガス処理部2の処理能力に応じて送出する排ガスの流量を調整するため、排ガス処理部2に排ガスが流入する前に一時的に保持して、処理能力に応じて排ガス処理部2に排ガスを流入させることができる。したがって、排ガス処理部2に処理能力を超える排ガスが流入して排ガスの無害化処理を行なうことができなくなる可能性は無く、安全に安全性試験を行なうことができる。
【0160】
また、本実施形態の試験装置は、ブース1を、ブース耐圧A以上の耐圧性を有するように構成してあるため、安全性試験を不活性ガス雰囲気下で行なう際に急激に排ガスが発生したり、また、ブース1内に排ガスを一時的に保持させたりしてもブース1が破損等することを、より確実に防止することができ、試験の安全性を更に向上させることができる。
また、その他、第1実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。
【0161】
[I−3.第3実施形態]
本発明の第3実施形態としての試験装置は、室内ガス置換ライン4が空気でブース1内を置換し、また、ブース1の耐圧性がブース耐圧B以上の耐圧性を備えるように構成されている他は、第1実施形態と同様である。
【0162】
したがって、本実施形態においても、電力貯蔵供給デバイス、排ガス及び安全性試験は、それぞれ第1実施形態と同様である。
また、試験装置についても、図1に示すように、排ガス処理部2、排ガス送出ライン3、減圧ライン5、冷却媒ライン6、排ガス採取ライン7及び排ガス希釈ライン8は、それぞれ第1実施形態と同様である。よって、試験装置は、要件(a),(e)を満たしている。
【0163】
さらに、ブース1についても、上述した要件(b)〜(d)を満たしている他、ブース耐圧がブース耐圧B以上になる以外は、第1実施形態と同様である。
即ち、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、排ガス送出ライン3が排ガス処理部2の処理能力に応じて排ガスを送出するようになっているため、ブース1に排ガスを一時的に保持させることができ、これにより、排ガス処理部2の排ガス処理速度の限界値を超える流入速度で排ガスが排ガス処理部2に流入しないようになっている。ただし、本実施形態ではブース1内を空気雰囲気として安全性試験を行なうため、試験の安全性を高めるためには、ブース1もそれに応じた耐圧性を備えることが好ましい。
【0164】
空気雰囲気下で安全性試験を行ない、その安全性試験で排ガスが発生した場合、空気中で排ガスの可燃性成分が燃焼することが考えられる。しかし、その燃焼の燃焼火炎温度は、通常は、一般的な有機系の可燃性ガスが空気中で燃焼するときの概略値である2500Kを超えることは無い。したがって、ブース1の容積に比して発生する排ガスの量が非常に小さいため、排ガス自体の発生によるブース1の内圧の増加量は充分に小さくなる。即ち、空気雰囲気下で安全性試験を行ない、且つ、発生する排ガスが燃焼する場合には、電力貯蔵供給デバイスから発生する排ガスの量による影響よりも、排ガス発生後にその排ガスが燃焼してブース1内温度が上昇することによる熱膨張の影響の方が大きくなるのである。このため、空気雰囲気下で安全性試験を行なう場合に、排ガスの発生に伴って生じる爆発に耐える耐圧性をブース1に備えさせる場合には、排ガスの可燃性成分が燃焼したことによる「温度上昇のみによる影響」に耐える耐圧性を備えればよい。
【0165】
したがって、具体的には、室内ガス置換ライン4でブース1内の雰囲気を空気で置換しうる場合など、ブース1内を空気雰囲気として安全性試験を行なう場合には、ブース1は、下記ブース耐圧B以上の耐圧性を有するように構成することが好ましい。
ブース耐圧B=初期圧×(Tb/T0)×安全率
(ただし、初期圧は安全性試験時の排ガス発生前のブース1の内圧を表わし、Tbは安全性試験時の燃焼火炎温度を表わし、T0は安全性試験時の排ガス発生前のブース1内の雰囲気温度を表わす。また、安全率は、第2実施形態で説明したのと同様の値である。なお、Tb,T0はそれぞれ絶対温度での値を表わす。)
【0166】
ここで、燃焼火炎温度Tbは、排ガス燃焼時の雰囲気温度であり、その測定方法は任意である。
具体的な事例を示して説明すると、例えば、初期圧が0.1MPaであり、安全性試験時の排ガス発生前のブース1内の雰囲気温度T0が25℃(298K)であり、安全性試験時の燃焼火炎温度(2500K)がTbであり、安全率を1とする場合には、ブース耐圧Bは
ブース耐圧B=0.1MPa×2500(K)/298(K)×1=0.8MPa
となる。
【0167】
また、第2実施形態と同様に、ホプキンソンの3乗根則を用いて爆風圧を算出し、その爆風圧に第2実施形態と同様に安全率を掛けて、ブース1にその爆風圧以上の耐圧性を備えさせるようにしても良い。
なお、特に電力貯蔵供給デバイスが電池である場合には、電解液の質量の10倍を、第2実施形態で説明した爆風圧の算出方法における、総発熱量に相当するTNT薬量として用いることができる。また、この際の電解液の質量としては、簡便には、電池の体積の1/3に、密度1000kg/m3を掛けた値を用いることができる。
【0168】
さらに、電解液の燃焼熱が分かる場合は、TNTの爆発時発熱量2.6×109J/tonを用いて上記のTNT薬量を求めてもよい。具体的には、電解液の燃焼熱をTNTの爆発時発熱量で割ってTNT薬量を算出することができる。
また、空気雰囲気下で安全性試験を行なう場合のブース1の備えるべき耐圧性をホプキンソンの3乗根則を用いて求める場合、そのTNT収率は第2実施形態と同様である。さらに、TNT収率として実測値を用いても良い。
【0169】
ただし、通常、安全性試験において発生する排ガスが空気中において可燃性である場合には、ホプキンソンの3乗根則を用いて求めた爆風圧よりも大きい爆風圧が安全性試験において生じることが多い。したがって、空気雰囲気下での安全性試験を行なうためのブース1を構成する場合、当該安全性試験において発生する排ガスが空気中で可燃性で無い場合にはホプキンソンの3乗根則を用いて求めたブース耐圧Aをブース1に備えさせるようにしても良いが、安全性試験において発生する排ガスが空気中で可燃性である場合、又は、発生する排ガスが不明である場合には、本実施形態で説明したブース耐圧Bをブース1に備えさせるようにすることが好ましい。
【0170】
なお、安全性試験を、第1,第2実施形態のように不活性雰囲気下で行なう場合と、第3実施形態のように空気雰囲気下で行なう場合とでブース1に要求される耐圧性が異なるのは、次のような理由による。すなわち、不活性雰囲気下では、排ガス中の可燃性ガスの分解や燃焼反応に利用される酸素は、電力貯蔵供給デバイス内にもともと酸素として存在していたか、或いは、構成部材が分解して発生した酸素のみである。これに対し、空気雰囲気下で安全性試験を行なう場合には、上記の酸素にさらに空気中の酸素も加わる。したがって、空気中で安全性試験を行なう場合のほうが、不活性雰囲気下で安全性試験を行なう場合よりも分解、燃焼反応がより進行し、このため、要求される耐圧性に違いが生じるのである。
なお、本実施形態では、ブース1は上述したブース耐圧B以上の耐圧性を有して構成されているものとする。
【0171】
さらに、本実施形態の試験装置では、室内ガス置換ライン4は、第1実施形態で用いられていた不活性ガスの代わりに、空気で置換を行なうようになっている。したがって、室内ガス置換ライン4はブース1内を空気で置換しうる空気置換部として機能する。
このように、ブース1内を空気で置換して安全性試験を空気雰囲気下で行なうようにすることにより、電力貯蔵供給デバイスを実際の使用状態に近い状態で評価することが可能となる。また、電力貯蔵供給デバイスの外部の要因で、排ガスがどのように燃焼や爆発をするか分析することも可能である。なお、酸素がブース1内に存在しているため、通常は、空気雰囲気下における安全性試験時に生じる圧力は、不活性雰囲気下における安全性試験時に生じる圧力よりも高くなるが、その分ブース1の耐圧性を高めてあるため、排ガスの保持ができなくなったり、ブース1が破損したりする可能性は無い。
【0172】
本実施形態の試験装置は以上のように構成されているので、安全性試験の準備時に室内ガス置換ライン4を用いてブース1内を空気で置換するようにする他は、第1実施形態と同様にして安全性試験を行なうことができる。
【0173】
以上のように、本実施形態の試験装置を用いれば、排ガスの処理を可能としながら電力貯蔵供給デバイス100の安全性試験を行なうことができる。また、電力貯蔵供給デバイス100に対して釘刺し試験、過充電試験、加熱試験などの安全性試験を行なうと、急激に大量の排ガスが発生するが、本実施形態の試験装置では、排ガス送出ライン3が排ガス処理部2の処理能力に応じて送出する排ガスの流量を調整するため、排ガス処理部2に排ガスが流入する前に一時的に保持して、処理能力に応じて排ガス処理部2に排ガスを流入させることができる。したがって、排ガス処理部2に処理能力を超える排ガスが流入して排ガスの無害化処理を行なうことができなくなる可能性は無く、安全に安全性試験を行なうことができる。
【0174】
また、本実施形態の試験装置は、ブース1を、ブース耐圧B以上の耐圧性を有するように構成してあるため、安全性試験を空気雰囲気下で行なう際に急激に排ガスが発生したり、また、ブース1内に排ガスを一時的に保持させたりしてもブース1が破損等することは無く、試験の安全性を更に向上させることができる。
また、その他、第1実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。
【0175】
[I−4.その他]
以上、本発明の試験装置について実施の形態を示して説明したが、本発明の試験装置は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変形して実施することができる。
例えば、上記の第1、第2又は第3実施形態で説明した各構成要素は、それぞれ任意に組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0176】
例えば、本実施形態では、上述した要件(a)〜(e)を全て満たした試験装置を用いて説明を行なったが、本発明の試験装置は、上記要件(a)〜(e)からなる群より選ばれる少なくとも一つの要件を満たすように構成されていれば良い。また、2又は3以上の要件を任意に組み合わせて構成しても良い。
【0177】
さらに、例えば、室内ガス置換ライン4に不活性ガスを供給するガスボンベと空気を供給するガスボンベとの両方を備えさせ、不活性ガス及び空気のいずれか一方で選択的にブース1内を置換することができるように構成しても良い。この際、室内ガス置換ライン4を2本以上設けるようにしてもよく、切替弁等を用いて単一の室内ガス置換ライン4で不活性ガス又は空気でブース1内を置換できるようにしても良い。なお、この場合、ブース1の耐圧性は、不活性雰囲気下で安全性試験を行なう場合に備えるべき耐圧性と、空気雰囲気下で安全性試験を行なう場合に備えるべき耐圧性とのうちで、より高い方の耐圧性を備えるようにすることが望ましい。
【0178】
また、例えば、特に第3実施形態のように空気雰囲気下で安全性試験を行なう場合、専用の室内ガス置換ライン4を設けず、単にブース1に設けたドアを通じてブース1内を空気雰囲気に置換をするようにしてもよい。
さらに、冷却媒ライン6を設ける代わりに、冷却媒で充たしたバスをブース1内に設置してブース1内を冷却するようにしても良い。
【0179】
さらに、例えば、上記の実施形態では排ガス採取ライン7を、排ガス送出ライン3から排ガスを抜き出すようにしたが、ブース1に直接接続された専用配管を備えるように構成しても良い。
【0180】
さらに、例えば、試験装置に分析機器(排ガス分析部)を設け、当該分析機器で排ガスを分析するようにしてもよい。具体例を挙げると、前記の分析機器と採取部72とを配管で連結するようにして、試験装置が排ガス採取ライン7で採取した排ガスを分析できるようにしてもよい。これにより、排ガスの分析をより簡単に行なうことができる。
また、例えば、排ガス採取ライン7を通った後の排ガスを、再び排ガス送出ライン3に戻すようにしてもよい。これにより、処理しないまま系外に放出される排ガスの量をより低減することができる。
【0181】
また、ブース1には上記実施形態で例示したもの以外の試験設備を設置するようにしても良い。例えば、電力貯蔵供給デバイスの充放電用配線、電流電圧測定用配線、試験機制御用配線、試験機電力供給用配線、電灯用電源、攪拌機用電源、CCDカメラ用電源、映像音声信号用ライン、電力貯蔵供給デバイス内の圧力測定センサ用ライン、ブース内の圧力測定センサ用ラインなどの電気測定系試験設備;ブース内雰囲気温度、電力貯蔵供給デバイス表面温度、電力貯蔵供給デバイス内部温度等を測定するための温度測定系試験設備などが挙げられる。
さらに、ブース1に安全弁や圧抜きバルブ等を設け、さらに安全性を高めるようにしてもよい。
【0182】
また、室内ガス置換ライン4が設けられていない場合や、室内ガス置換ライン4によりブース1内の雰囲気が不活性ガスや空気以外の気体の雰囲気とされる場合に、ブース1に上記のブース耐圧Aやブース耐圧Bを備えさせるようにするようにしても良い。さらに、例えば安全性試験によって発生する排ガスがブース1内の雰囲気に存在する気体と反応しない場合などには、室内ガス置換ライン4によってブース1内の雰囲気を空気雰囲気とする場合にブース1にブース耐圧Aを備えさせるようにしても良い。また、例えば試験装置に汎用性をもたせるため、安全性試験時のブース1内の雰囲気に存在する雰囲気に関わらず、ブース1にブース耐圧Bを備えさせるようにしても良い。このように、ブース1にブース耐圧A及びブース耐圧Bのいずれを備えさせるかは、適宜、任意に設定することができる。
【0183】
[II.安全性評価方法]
上述した本発明の試験装置を用いれば、電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を行ない、当該安全性試験の試験結果に基づいて、電力貯蔵供給デバイスの安全性評価を行なうことができる。この際、安全性試験の種類に制限は無いが、例えば、釘刺し試験、過充電試験、加熱試験、外部短絡試験、落下試験、圧壊試験、過放電試験、熱衝撃試験、振動試験から選ばれる試験を行なうことができる。
【0184】
具体的な安全性評価方法の内容は任意であるが、上記に基づき、例えば「リチウムイオン電池(小型電池)の安全性に関する国際的な認証」UL1642、「電池工業会指針SBA G1101 リチウム二次電池安全性評価基準ガイドライン」など認証規定に従って行なうことができる。
この際、本発明の試験装置は、耐圧性(密閉性)を有しているので、これを用いれば、特にガス発生量やガスの組成をより正確に分析することができる。したがって、この分析結果を用いて、破壊や内部短絡に際しても、ガス発生等がより少なく安全な電力貯蔵供給デバイスを設計・作製することができる。
【0185】
各種の評価試験における測定項目は、ブースに設置された各種のセンサ等により測定することができる。
例えば、電力貯蔵供給デバイスの表面温度や、ブース内のガス温度は熱電対をはじめとする温度センサにより測定することができる。
また、例えば、ガスの発生量は、気体の状態方程式によって算出することができる。なお、前記の状態方程式は、圧力センサによって得られる安全性試験前後のブース内圧の変化および温度センサによって得られるブース内ガス温度から得られる。
さらに、例えば、排ガスの成分(組成)は、排ガス採取ラインから採取したガスについて、ガスクロマトグラフィーや質量分析装置など既知の分析装置や方法により分析して求めることができる。
また、例えば、ブース内にビデオカメラおよびビデオカメラによる撮影に必要な照明器具を備えれば、評価試験中の視覚的な挙動をとらえることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明は、電力貯蔵供給デバイスの安全性試験に用いて好適であり、例えば、電池やキャパシタなどの研究開発に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】本発明の第1〜第3実施形態としての試験装置を表わす模式的なブロック図である。
【図2】本発明の第1〜第3実施形態について説明する図で、採取部の具体的な構成の一例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第1〜第3実施形態について説明する図で、採取部の具体的な構成の一例を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第1〜第3実施形態について説明する図で、採取部の具体的な構成の一例を模式的に示す図である。
【図5】ホプキンソンの3乗根則における換算距離と爆風圧との関係を表わす相関図である。
【符号の説明】
【0188】
1 ブース(排ガス保持部)
2 排ガス処理部
3 排ガス送出ライン(排ガス送出部)
4 室内ガス置換ライン(不活性ガス置換部、空気置換部)
5 減圧ライン(減圧部)
6 冷却媒ライン(冷却部)
7 排ガス採取ライン(排ガス採取部)
8 排ガス希釈ライン(排ガス希釈部)
11,12,84 圧力センサ
13 プレス機
13a 釘
13b,724b 孔
14 攪拌機
21 フッ素吸着塔
22 水洗塔
23 活性炭処理槽
24 ブロア
25,26,27,31,36,43,52,71,82,724 配管
32〜35,38,42,53,74,83,725,726,724c,724e 開閉弁
37,41 ガスボンベ
51,73 真空ポンプ
72 採取部
81 希釈容器
85 スターラー
100 電力貯蔵供給デバイス
721,722 洗気瓶
721a,722a 吸収液
723 トラップ
723a エタノール浴
724 シリンジ
724a プランジャー
724d 管
728 サンプル容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を行なうためのブースと、
上記電力貯蔵供給デバイスから発生する排ガスを処理しうる排ガス処理部と、
上記排ガスを、該ブースから該排ガス処理部に、該排ガス処理部の処理能力に応じて送出する排ガス送出部と、
上記排ガスを採取しうる排ガス採取部とを備え、
下記(a)〜(e)よりなる群から選ばれる少なくとも一つの要件を満たす
ことを特徴とする、試験装置。
(a)該排ガス採取部が、上記排ガスを吸収しうる吸収液を上記排ガスに接触できるように有するか、または、上記排ガスをガス状態で採取しうる排ガス採取手段を備える。
(b)上記電力貯蔵供給デバイスを破損させるプレス機を備える。
(c)該ブースの容積が、上記電力貯蔵供給デバイスの体積の10倍以上105倍以下である。
(d)該ブース内の気相部を攪拌する攪拌機を備える。
(e)該排ガス採取部に採取される前に上記排ガスを希釈する排ガス希釈部を備える。
【請求項2】
該ブース内を不活性ガスで置換しうる不活性ガス置換部を備えると共に、
該ブースが、下記ブース耐圧A以上の耐圧性を有する
ことを特徴とする、請求項1記載の試験装置。
ブース耐圧A:薬量を、電力貯蔵供給デバイスの加熱時の総発熱量相当のTNT薬量にTNT収率を掛けた値として、ホプキンソンの3乗根則により求められる爆風圧に、安全率を掛けた圧力。
【請求項3】
該ブース内を空気で置換しうる空気置換部を備えると共に、
該ブースが、下記ブース耐圧B以上の耐圧性を有する
ことを特徴とする、請求項1記載の試験装置。
ブース耐圧B=初期圧×(Tb/T0)×安全率
(ただし、初期圧は安全性試験時の排ガス発生前のブース内圧を表わし、Tbは安全性試験時の燃焼火炎温度を表わし、T0は安全性試験時の排ガス発生前のブース内の雰囲気温度を表わす。)
【請求項4】
該ブース内を8kPa以下に減圧させうる減圧部を備える
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の試験装置。
【請求項5】
該ブース内の温度を低下させる冷却部を備える
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の試験装置。
【請求項6】
該排ガス採取部が採取した排ガスを分析する排ガス分析部を備える
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の試験装置。
【請求項7】
上記電力貯蔵供給デバイスの爆発が生じた場合に、上記爆発の爆風圧を測定する爆風圧センサを備える
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の試験装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の試験装置を用いて電力貯蔵供給デバイスの安全性試験を行ない、該試験結果に基づいて、上記電力貯蔵供給デバイスの安全性評価を行なう
ことを特徴とする、電力貯蔵供給デバイスの安全性評価方法。
【請求項9】
上記安全性試験が、釘刺し試験、過充電試験、加熱試験、外部短絡試験、落下試験、圧壊試験、過放電試験、熱衝撃試験、及び、振動試験から選ばれる
ことを特徴とする、請求項8に記載の電力貯蔵供給デバイスの安全性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−39459(P2008−39459A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210799(P2006−210799)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】