説明

誘導加熱ユニット、定着装置及び画像形成装置

【課題】巻回状態のリッツ線の表面を樹脂で被覆して形状を固定化した励磁コイル体のリード線部分に外力が加わっても破損しにくい誘導加熱ユニットを提供する。
【解決手段】誘導加熱ユニット170であって、定着ベルトを誘導加熱する励磁コイル体173と、励磁コイル173を保持するコイルボビン部171とを備え、励磁コイル体173は、導線が巻回された巻線部181aと、巻線部181aから引き出されたリード線部181b、181cと、リード線部181b、181cの一部および巻線部181aを覆って、巻線部181aがコイルボビン部171の保持面に沿った状態となるように形状を固定する耐熱性の樹脂体182とを有し、リード線部181b、181cの根元側の少なくとも一部が、それぞれ弾性体からなる被覆部材183、184で覆われ、これの巻線部181a側の部分が、樹脂体182に固定されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱ユニット、定着装置及び画像形成装置に関し、特に、誘導加熱ユニットにおける励磁コイルの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタ等の画像形成装置では、従来のハロゲンヒータを利用するものに比べて省エネルギー化が図れる電磁誘導加熱方式の定着装置が普及しつつある。
このような定着装置は、励磁コイルを有する誘導加熱ユニットによって交番磁界を発生させて、定着回転体に設けられた金属発熱層を誘導加熱するように構成される。
通常、励磁コイルは、リッツ線を巻き付け治具に巻き付けることにより形成され、その後コイルボビンに装着されるが、そのコイル形状が崩れると金属発熱層に作用する交番磁界が不均一になり、発熱むらが発生するおそれがある。
【0003】
そのため、従来は、リッツ線の表面を熱融着剤でコーティングしておき、巻き付け治具に巻回した状態で、当該リッツ線に定着時よりも大きな電流を供給してジュール発熱により熱融着剤を一時的に溶融し、隣り合うリッツ線の熱融着剤同士を融着させて形状を固定してから、コイルボビンに装着するようにしている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−139448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、定着時の通電によっても多少はジュール熱が発生するので、その熱により熱融着剤が柔らかくなり、その際に励磁コイルに外力が加えられたり、励磁コイル自身の熱膨張などにより、融着部分が剥離してコイル形状が崩れやすいという問題がある。
そこで、本願発明者は、巻回されたコイルを金型に設置して樹脂でインサート成形することを考案した。
【0006】
図8(a)は、このような励磁コイルをインサート成形したもの(以下、「励磁コイル体」という。)の一部切欠部分平面図であり、図8(b)は、その側面図である。
同図8(a)に示すように、励磁コイル体573は、リッツ線581が巻回されている巻回部581aの全部と、当該巻回部581aから引き出されているリード線部581b、581cの根元部分一部とが、樹脂部材582により被覆されている。
【0007】
このように作成された励磁コイル体573は、寸法精度が高く、定着時に発生するジュール熱によってコイル形状が変形することもないので、発熱むらが生じにくい。
ところが、上記構成の励磁コイル体573では、部品搬送時や組み付け時において、リード線部581aおよび581bに対し、例えば、図8(a)の矢印のような方向に外力が加わると、これらの根元部分が破損するおそれがある。
【0008】
本発明は、上述のような課題に鑑みて為されたものであって、巻回状態の導線の表面を樹脂で覆って形状を固定して、寸法精度および組み付け精度を向上すると共に、そのリード線部の根元部分が破損しにくい誘導加熱ユニット、定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る誘導加熱ユニットは、導電性の発熱回転体を電磁誘導加熱して、記録シートにトナー像を熱定着する定着装置における誘導加熱ユニットであって、通電により前記発熱回転体を電磁誘導加熱する励磁コイル体と、当該励磁コイル体を保持するコイルボビンとを備え、前記励磁コイル体は、導線が巻回された巻線部と、当該巻線部から引き出されたリード線部と、前記リード線部の一部および前記巻線部を覆って当該巻線部が前記コイルボビンのコイル装着面に沿った状態となるように形状を固定する耐熱性の樹脂体とからなり、前記リード線部の根元側の少なくとも一部が、弾性体からなる被覆部材で覆われ、当該被覆部材の巻線部側の部分が、前記樹脂体に固定されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
リード線部の根元側の少なくとも一部が、弾性体からなる被覆部材で覆われ、当該被覆部材の巻線部側の部分が樹脂体に固定されているため、万一リード線部を曲げようとする外力が加わっても、その曲げ応力を被覆部材で被覆されている部分に分散させることができ、当該リード線の根元部分での応力集中が避けられる。これによりリード線の破損を防止することができる。
【0011】
また、前記被覆部材は、誘導加熱ユニットが定着装置に組み込まれたときに、定着対象となる最大サイズの記録シートにおける画像形成領域より発熱回転体の軸方向外側となる位置において前記樹脂体に固定されていることが望ましい。
ここで、前記被覆部材は、巻線部側端部が前記樹脂体に埋設されて固定されていることが望ましい。
【0012】
もしくは、前記固定は、前記被覆部材の巻線部側の一部を前記樹脂体に貼着することにより行われるとしてもよい。
また、前記貼着は、粘着テープを介して行われるとしてもよい。
もしくは、前記固定は、前記被覆部材の巻線部側の一部を前記樹脂体に接着することにより行われるとしてもよい。
【0013】
また、前記被覆部材は、リード線部に外挿される円筒状のものであって、耐熱繊維からなるチューブに、シリコーン系、ポリイミド系およびアラミド系の耐熱樹脂のうち、少なくとも1つを含浸させてなることが望ましい。
また、前記巻線部と前記被覆部材の巻線部側の端部を金型のキャビティ内にセットし、流動状態の樹脂材料を充填して、励磁コイル体をインサート成形することにより、前記被覆部材の巻線部側端部の前記樹脂体への埋設がなされていることが望ましい。
【0014】
もしくは、励磁コイル体は、前記巻線部に流動状態の樹脂材料を塗布した後、硬化させることにより形成されており、前記巻線部と前記被覆部材の巻線部側端部を重ねた状態で、前記被覆部材の巻線部側端部を覆うようにして前記樹脂材料を塗布することにより、前記被覆部材の巻線部側端部の前記樹脂体への埋設がなされているとしてもよい。
また、前記コイルボビンおよび前記励磁コイル体は、それぞれ係合部と当該係合部と係合する被係合部とを有しており、前記係合に伴い、前記励磁コイル体の位置決めが行われることが望ましい。
【0015】
さらに、前記係合に伴い、前記コイルボビンが前記励磁コイル体に固定されることが望ましい。
なお、本発明は、上記誘導加熱ユニットを備えた定着装置としてもよく、さらに、当該定着装置を備えた画像形成装置としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る誘導加熱ユニットを備える画像形成装置の一例であるタンデム型カラープリンタの構成を説明するための概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る定着装置の構成を示す一部切欠き斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る定着ベルトの構成を例示する断面図である。
【図4】(a)は、本発明の実施の形態に係る誘導加熱ユニットの構成を示す一部切欠き平面図であり、(b)および(c)は、その要部拡大図である。
【図5】(a)は、本発明の実施の形態に係る定着装置の断面図であり、(b)は、その要部拡大図である。
【図6】(a)は、本発明の変形例に係る励磁コイルの構成を例示する一部切欠き平面図であり、(b)は、その側面図であり、(c)は、(b)のE矢視図である。
【図7】本発明の変形例に係る弾性部材の構造を例示する斜視図である。
【図8】(a)は、インサート成形により作製された励磁コイル体の構成を示す概略断面図であり、(b)は、その側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る誘導加熱ユニット、定着装置及び画像形成装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
<画像形成装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る誘導加熱ユニットを備える画像形成装置の一例であるタンデム型カラープリンタ(以下、単に「プリンタ」という)の構成を説明するための概略図である。
【0018】
同図に示すように、このプリンタ1は、画像プロセス部3、給紙部4、定着部5、光学部10および制御部60を備えており、ネットワーク(例えばLAN)に接続されて、外部の端末装置(不図示)からのプリントジョブの実行指示を受け付けると、その指示に基づいてイエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックからなるトナー像を形成し、これらを多重転写してフルカラーの画像形成を実行する。
【0019】
以下、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各再現色をY、M、C、Kと表し、各再現色に関連する構成部分の番号にこのY、M、C、Kを添字として付加する。
画像プロセス部3は、Y〜K色のそれぞれに対応する作像部30Y、30M、30C、30K、光学部10、中間転写ベルト11などを備えている。
作像部30Yは、感光体ドラム31Y、その周囲に配設された帯電器32Y、現像器33Y、一次転写ローラ34Y、感光体ドラム31Yを清掃するためのクリーナ35Yなどを備えており、感光体ドラム31Y上にY色のトナー像を作像する。他の作像部30M〜30Kについても、作像部30Yと同様の構成になっており、同図では符号を省略している。
【0020】
中間転写ベルト11は、無端状のベルトであり、駆動ローラ12と従動ローラ13に張架されて矢印A方向に回転駆動される。
光学部10は、レーザダイオードなどの発光素子を備え、制御部60からの駆動信号によりY〜K色の画像形成のためのレーザ光Lを発し、感光体ドラム31Y〜31Kを露光走査させる。
【0021】
この露光走査により、帯電器32Y〜32Kにより帯電された感光体ドラム31Y〜31K上に静電潜像が形成される。各静電潜像は、現像器33Y〜33Kにより現像されて感光体ドラム31Y〜31K上にY〜K色のトナー像が、中間転写ベルト11上の同じ位置に重ね合わせて一次転写されるようにタイミングをずらして実行される。
一次転写ローラ34Y〜34Kにより作用する静電力により中間転写ベルト11上に各色のトナー像が順次転写されフルカラーのトナー像が形成され、さらに二次転写位置46方向に移動する。
【0022】
一方、給紙部4は、記録シートSを収容する給紙カセット41と、給紙カセット41内の記録シートSを搬送路43上に1枚ずつ繰り出す繰り出しローラ42と、繰り出された記録シートSを二次転写位置46に送り出すタイミングをとるためのタイミングローラ対44などを備えており、中間転写ベルト11上のトナー像の移動タイミングに合わせて給紙部4から記録シートSを二次転写位置に給送し、二次転写ローラ45の作用により中間転写ベルト11上のトナー像が一括して記録シートS上に二次転写される。
【0023】
二次転写位置46を通過した記録シートSは、定着部5に搬送される。
定着部5は電磁誘導加熱方式の定着器であって、記録シートS上のトナー像(未定着画像)を加熱、溶融して、記録シートSに定着させる。
トナー像が定着された記録シートSは、排出ローラ対71を介して排出トレイ72上に排出される。
<定着部の構成>
次に、定着部5の構成について説明する。
【0024】
図2は、上記定着部5の構成を示す部分断面斜視図である。
同図に示すように、定着部5は、押圧ローラ150と、加圧ローラ160と、定着ベルト154と、誘導加熱ユニット170とを備える。
押圧ローラ150は、定着ベルト154に遊挿されると共に、押圧ローラ150と加圧ローラ160とが平行に配置されており、定着ベルト154を介して加圧ローラ160を不図示の付勢機構で押圧ローラ150側に付勢することにより、定着ベルト154と加圧ローラ160との間に定着ニップが形成され、この定着ニップを記録シートSが通過することにより記録シートS上に形成されたトナー像Tが溶融・加圧されて定着するようになっている。
【0025】
以下、各部の詳細について説明する。
<加圧ローラの構成>
図2に示すように、加圧ローラ160は、ローラ軸161、弾性層162および離型層163を備えている。
ローラ軸161は、例えば、アルミニウム製のシャフトであり、不図示の駆動機構により回転駆動される。
【0026】
弾性層162は、シリコーンスポンジゴムなどからなる円筒状の弾性体である。
離型層163は、PFA等のフッ素系樹脂からなる樹脂層である。
<押圧ローラの構成>
押圧ローラ150は、図2に示すように、ローラ軸152、断熱弾性層153およびガイドプレート157を備えている。
【0027】
ローラ軸152は、例えば、アルミ製のシャフトであり、両端部が不図示の軸受によって支持されている。
断熱弾性層153は、高弾性及び高断熱性を有するシリコーンゴムのスポンジ体であって、ローラ軸152の両端部を除く部分を覆うように設けられている。
ガイドプレート157は、定着ベルト154の縁に当接して、当該定着ベルト154の幅方向(ローラ軸152の軸方向)における位置を規制する鍔状の部材であり、ローラ軸151の他方の端部にも装着される。
<定着ベルトの構成>
図3は、定着ベルト154の積層構造を示す断面図である。
【0028】
定着ベルト154は、同図に示されるように、内周面に近い方から金属発熱層154c、弾性層154b及び離型層154aが積層されてなる。
金属発熱層154cは、Ni電鋳スリーブからなっており、誘導加熱ユニット170が発生させる交番磁束により誘導電流が流れることによってジュール発熱する。
弾性層154bは、例えば、シリコーンゴムからなり、離型層154aはPFA樹脂チューブなどからなる。
【0029】
<誘導加熱ユニット>
誘導加熱ユニット170は、図2に示すように、コイルボビン部171、サイド磁性体コア172、励磁コイル体173、アーチ磁性体コア174および蓋部175などからなる。
コイルボビン部171は、液晶ポリマーなど温度による寸法変化の少ない樹脂などの絶縁材料からなり、定着ベルト154の外表面に沿って湾曲し、励磁コイル173体を載置する保持面179を有している。
【0030】
つまり、当該保持面179とこれと対向している定着ベルト154の部分との距離が略一定に保たれている。
さらに、コイルボビン部171は、長手方向(押圧ローラ150の回転軸方向)と直交する平面で切断した断面に着目すると、当該断面の両端部が、それぞれ定着ベルト154から遠ざかる方向(以下、「外方」という。)に向かうように、1対のフランジ部177が立設されており、また、当該保持面179の周方向の中央部には、1対の縦壁部176aおよび176bが同じく外方に向けて立設されている。
【0031】
縦壁部176aおよび176bは、コイルボビン部171の長手方向における両端部において繋がっており、1つの中央縦壁部176を構成する。
ここで、上述の保持面179は、中央縦壁部176を取り囲む位置に存在する。
さらに、当該保持面179において、1対のフランジ部177に沿って、後述の爪状リブ171aが複数立設している。
【0032】
サイド磁性体コア172およびアーチ磁性体コア174は、いずれも励磁コイル173から発生する交番磁束の磁路を構成する部材である。
このうちサイド磁性体コア172は、強磁性材からなる長尺状のコアであって、コイルボビン部171の各フランジ部177の内壁に沿って配設される。
アーチ磁性体コア174も強磁性材からなり、1対のサイド磁性体コア172に跨るようにして配設されている。
【0033】
蓋部175は、樹脂などの絶縁材料からなり、サイド磁性体コア172、励磁コイル173及びアーチ磁性体コア174を収容したコイルボビン部171に蓋をするためのものである。
図4(a)は、誘導加熱ユニット170の構造を示す一部切欠き平面図であり、説明の都合上、蓋部175を省略している。
【0034】
また、図4(b)および(c)は、図4(a)の要部拡大図である。
励磁コイル体173は、不図示の高周波インバータに接続され、10〜100〔kHz〕、100〜2000〔W〕の高周波電力が供給されることによって、交番磁界を発生させるものである。
本実施の形態においては、励磁コイル体173は、素線径φ0.15の素線を115本撚ったリッツ線181を、図4(b)に示すように、10ターンさせて(以下、「コイル本体181h」という。)、リード線部181b、181cを除く大部分をインサート成形により樹脂体182で被覆したものを用いている。
【0035】
具体的に、コイルボビンのコイル保持面とほぼ同形状の湾曲面を有する巻き付け治具を兼ねた下金型内に、上記リッツ線181を巻回してコイル部を形成し、そのリード線部をキャビティから導出させた状態で、コイル部を上から押さえ込むようにして上金型を被せ、当該金型内に熱融着剤よりも融点の高い流動状態の樹脂を流し込み、これを固化することにより励磁コイル体173が形成される。
【0036】
励磁コイル体173の中央のコイル本体181hの存在していない部分には、中央縦壁部176が挿入される中央孔173bが設けられている。
同図4(b)および(c)に示すように、コイル本体181hは、リッツ線181が巻回されている巻線部181aと、その両端から巻回方向以外の方向に引き出されているリード線部181b、181cとからなる。
【0037】
ここで、巻回方向以外の方向に引き出されているとは、隣り合うリッツ線181から分離して、隣り合うリッツ線181と異なる方向に延びていることを意味する。
本実施の形態における励磁コイル173では、リード線部181bおよび181cの根元側の一部は、それぞれ耐熱性および弾性を有する被覆部材183および184により被覆されていると共に、当該被覆部材183および184の巻線部181a側の部分が、樹脂体182内に埋め込まれている。
【0038】
ここで、被覆部材183および184は、弾性および耐熱性を備えたチューブであって、より具体的には、耐熱繊維からなるチューブに、シリコーン系、ポリイミド系およびアラミド系の耐熱樹脂のうち、少なくとも1つを含浸させたものが好適である。
つまり、リード線部181bおよび181cの根元側の部分は、それぞれ弾性を有する被覆部材183および184を介して、樹脂体182に固定されている。
【0039】
インサート成形により励磁コイルを作製する際、単にリード線部をモールド部分から引き出した場合、リード線部の根元部分が破損し易かったのは、外力が加わったときに根元部分、特に樹脂体182との境界部分に曲げ応力が集中することに原因があると考えられる。
本実施の形態における励磁コイル173の構成では、上述のように、リード線部181bおよび181cの根元側の部分が、それぞれ弾性を有する被覆部材183および184を介して樹脂体182により挟持されて、固定されているため、これらを曲げるように外力が加わった場合であっても、変形が根元部分のみに生じるのではなく、被覆部分全体に分散して生じるので、根元部分に発生する曲げ応力も緩和され、破損の発生を抑制することができる。
【0040】
また、図4(c)に示すように、被覆部材183および184は、以下の理由により、定着対象となる最大サイズの記録シートにおける画像形成領域(以下、「画像形成領域」という。)よりも発熱回転体の軸方向外側となる位置に設けられている。
(理由)
被覆部材183および184は厚みを有しているため、リード線部181bおよび181cにおける被覆部分は、隣接するリッツ線181との間隔が、巻線部181aよりも大きくならざるを得ず、当該間隔の増加は、磁束密度の低下を招く。
【0041】
このため、被覆部材183および184は、隣接するリッツ線181同士の間隔が拡大し、磁束密度が低下しても定着品質に影響を及ぼし難い場所、即ち、画像形成領域の外方に設けられている。
また、本実施の形態における誘導加熱ユニット170は、励磁コイル173およびコイルボビン部171同士の位置決めを行いつつ係合する係合機構を有する。
【0042】
以下、この係合機構について説明する。
図4(a)に示すように、励磁コイル173の長手方向と直交する方向における両端部に、それぞれ矩形の切欠部173aが3つ設けられている。
図5(a)は、図4におけるD−D’の位置において定着部5を切断したときの断面図であり、図5(b)は、その要部拡大図である。
【0043】
同図5(a)および(b)に示すように、コイルボビン部171は、上述の切欠部173aと対応する位置に爪状リブ171aを有する。
励磁コイル173をコイルボビン部171に装着する場合、保持面179に向けて、励磁コイル173を上方から押し付けるだけで、図5(b)に示すように、爪状リブ171aが、誘導加熱ユニット170の切欠部173aにがたつき無く嵌り込み、励磁コイル173の位置決めが行われると共に、爪状リブ171aに設けられた爪部171bが、切欠部173aの縁部173cに掛かり、固定される構成となっている。
【0044】
<変形例>
本発明は、上述のような実施の形態に限られるものではなく、次のような変形例であってもよい。
(1)上記実施の形態においては、リード線部181bおよび181cの根元側の一部は、それぞれ弾性体からなる被覆部材183および184により被覆されていると共に、当該被覆部材183および184の巻線部181a側の部分が、樹脂体182内に埋め込まれているとしたが、被覆部材183および184は、必ずしも樹脂体182に埋め込まれていなくても構わない。
【0045】
図6(a)は、このような構成の一例を示す平面図であり、図6(b)は、その側面図であり、また、図6(c)は、図6(b)におけるE矢視図である。
同図6(a)、(b)および(c)に示すように、インサート成形後に、リード線部181bおよび181cの根元部分を慎重に折り曲げ、それぞれをチューブ状の被覆部材193および194に挿入して、被覆部材193および194の巻線部181a側の端部を、それぞれ耐熱性の粘着テープ195および196によって樹脂体182表面に固定してもよい。
【0046】
このような構成においても、リード線部181bおよび181cに対して、これらを曲げるように外力が加わった場合であっても、リード線部181bおよび181cの変形が、それぞれ被覆部材193および194で被覆されており、かつ、耐熱性粘着テープ195および196で固定されていない部分全体で生じるため、発生する曲げ応力も緩和され、リード線部181bおよび181cの破損の発生を抑制することができる。
【0047】
なお、上述のように、リード線部181bおよび181cの根元部分を、慎重に1回折り曲げる程度では、これらが破損に至ることはない。
また、耐熱性粘着テープ195および196は、帯状のアラミド繊維にシリコーン系粘着剤を塗布したものが好適である。
もしくは、このような耐熱性粘着テープ195および196を使用せずに、接着剤により、被覆部材193および194を樹脂体182表面に直接接着してもよい。
【0048】
(2)上記実施の形態では、被覆部材183、184、193および194は、いずれもチューブ状としたが、これに限るものではない。
例えば、帯状のシリコーン系シートの一方の面にシリコーン系粘着剤を塗布し、これを図7に示すように、リード線部181bおよび181cに巻きつけて貼着してもよい。
(3)上記実施の形態では、励磁コイル173の製法として、金型等の大掛かりな装置を用いるインサート成形を採用するとしたが、これに限らず、単に巻線部181aの表面にポリイミドワニスを塗布して、乾燥させることなどによって励磁コイル173を作製してもよい。
【0049】
このような製法は、励磁コイル173を少量生産する場合において、製造コストを下げるのに好適である。
(4)上記実施の形態では、励磁コイル173の巻線部181aを10ターンとしたが、この構成に限られない。
何故なら、実際には、加熱対象となる定着ベルト154の金属発熱層154cの材質などによっても励磁コイル173のインダクタンスの値は変動するからである。
【0050】
このため、シミュレーションや試験等を実施し、励磁コイルのインダクタンス値が設計上の値に近づくように、励磁コイル173に流す電流の周波数、リッツ線181の素線の径、本数およびターン数などが設定されるべきものである。
(5)上記実施の形態では、定着ベルト154に押圧ローラ150が遊挿されている構成としたが、これに限られない。
【0051】
例えば、定着ベルト154の周回に伴って回転せず、固定された状態で、定着ベルト154を周回方向に案内しつつ、加圧ローラ160により定着ベルト154を介して押圧される押圧部材が定着ベルト154の周回経路内側に遊挿されている構成であってもよい。
もしくは、定着ベルト154を設ける代わりに、押圧ローラ150の断熱弾性層153の外表面に金属発熱層154cを設けてもよい。
【0052】
(6)上記実施の形態では、誘導加熱ユニット170は、励磁コイル173およびコイルボビン部171同士の位置決めを行いつつ係合する係合機構を有するとしたが、位置決めもしくは係合の一方のみを行っても構わない。
位置決めだけを行う場合には、爪状リブ171aの爪部171bは不要であり、例えば、接着剤等を使用して、励磁コイル173をコイルボビン部171に固定すればよい。
【0053】
また、係合だけを行う場合には、励磁コイル173とコイルボビン部171との係合の際に、多少のがたつきが生じても構わない。
さらに、コイルボビン部171の係合部および励磁コイル173の被係合部は、それぞれ切欠部と爪状リブ171aであるとしたが、これに限らず、例えば、貫通孔と突起などの組み合わせであってもよい。
【0054】
(7)なお、上記実施の形態では、本発明に係る画像形成装置をタンデム型カラーデジタルプリンタに適用した場合の例を説明したが、これに限られず、誘導加熱により定着ベルトを加熱して記録シート上の未定着画像を熱定着させる誘導加熱ユニットを備えた全ての定着装置および画像形成装置に適用することができる。
また、上記実施の形態および上記変形例の内容をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、誘導加熱により定着ベルトを加熱して記録シート上の未定着画像を熱定着させる誘導加熱ユニット、定着装置および画像形成装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 プリンタ
3 画像プロセス部
30Y,30M,30C,30K 作像部
4 給紙部
5,105 定着部
10 光学部
11 中間転写ベルト
12 駆動ローラ
13 従動ローラ
31 感光体ドラム
32 帯電器
33 現像器
34 一次転写ローラ
35 クリーナ
41 給紙カセット
42 ローラ
43 搬送路
44 タイミングローラ対
45 二次転写ローラ
46 二次転写位置
60 制御部
71 排出ローラ対
72 排出トレイ
150 押圧ローラ
152 ローラ軸
153 断熱弾性層
154 定着ベルト
154 誘導発熱層
154a 離型層
154b 弾性層
154c 金属発熱層
156 離型層
160 加圧ローラ
161 ローラ軸
162 弾性層
163 離型層
170 誘導加熱ユニット
171 コイルボビン部
171a 爪状リブ
171b 爪部
172 サイド磁性体コア
173 励磁コイル
173a 切欠部
173b 中央孔
173b 縁部
174 アーチ磁性体コア
175 蓋部
176 中央縦壁部
176a、176b 縦壁部
177 フランジ部
179 保持面
181 リッツ線
181a 巻線部
181b リード線部
181h コイル本体
182 樹脂体
183 被覆部材
193 被覆部材
195 耐熱性粘着テープ
207 励磁コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の発熱回転体を電磁誘導加熱して、記録シートにトナー像を熱定着する定着装置における誘導加熱ユニットであって、
通電により前記発熱回転体を電磁誘導加熱する励磁コイル体と、
当該励磁コイル体を保持するコイルボビンと
を備え、
前記励磁コイル体は、
導線が巻回された巻線部と、当該巻線部から引き出されたリード線部と、前記リード線部の一部および前記巻線部を覆って当該巻線部が前記コイルボビンのコイル装着面に沿った状態となるように形状を固定する耐熱性の樹脂体とからなり、
前記リード線部の根元側の少なくとも一部が、弾性体からなる被覆部材で覆われ、当該被覆部材の巻線部側の部分が、前記樹脂体に固定されてなる
ことを特徴とする誘導加熱ユニット。
【請求項2】
前記被覆部材は、誘導加熱ユニットが定着装置に組み込まれたときに、定着対象となる最大サイズの記録シートにおける画像形成領域より発熱回転体の軸方向外側となる位置において前記樹脂体に固定されていること
を特徴とする請求項1に記載の誘導加熱ユニット。
【請求項3】
前記被覆部材は、巻線部側端部が前記樹脂体に埋設されて固定されていること
を特徴とする請求項2に記載の誘導加熱ユニット。
【請求項4】
前記固定は、前記被覆部材の巻線部側の一部を前記樹脂体に貼着することにより行われることを特徴とする請求項2に記載の誘導加熱ユニット。
【請求項5】
前記貼着は、粘着テープを介して行われることを特徴とする請求項4に記載の誘導加熱ユニット。
【請求項6】
前記固定は、前記被覆部材の巻線部側の一部を前記樹脂体に接着することにより行われることを特徴とする請求項2に記載の誘導加熱ユニット。
【請求項7】
前記被覆部材は、リード線部に外挿される円筒状のものであって、耐熱繊維からなるチューブに、シリコーン系、ポリイミド系およびアラミド系の耐熱樹脂のうち、少なくとも1つを含浸させてなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の誘導加熱ユニット。
【請求項8】
前記巻線部と前記被覆部材の巻線部側の端部を金型のキャビティ内にセットし、流動状態の樹脂材料を充填して、励磁コイル体をインサート成形することにより、前記被覆部材の巻線部側端部の前記樹脂体への埋設がなされていることを特徴とする請求項3に記載の誘導加熱ユニット。
【請求項9】
励磁コイル体は、前記巻線部に流動状態の樹脂材料を塗布した後、硬化させることにより形成されており、
前記巻線部と前記被覆部材の巻線部側端部を重ねた状態で、前記被覆部材の巻線部側端部を覆うようにして前記樹脂材料を塗布することにより、前記被覆部材の巻線部側端部の前記樹脂体への埋設がなされていることを特徴とする請求項3に記載の誘導加熱ユニット。
【請求項10】
前記コイルボビンおよび前記励磁コイル体は、それぞれ係合部と当該係合部と係合する被係合部とを有しており、
前記係合に伴い、前記励磁コイル体の位置決めが行われることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の誘導加熱ユニット。
【請求項11】
前記係合に伴い、前記コイルボビンが前記励磁コイル体に固定されることを特徴とする請求項10に記載の誘導加熱ユニット。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の誘導加熱ユニットを備える
ことを特徴とする定着装置。
【請求項13】
請求項12に記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−118137(P2012−118137A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265629(P2010−265629)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】