説明

誘導加熱容器

【課題】高周波磁界により渦電流が誘起されて発熱する誘導加熱発熱体を備えた誘導加熱容器であって、誘導加熱発熱体を誘導加熱により発熱させて、被加熱物に対して加熱処理を施すに際して、機器の操作によることなく、所定時間経過後に、被加熱物に対する加熱処理を自動で終わらせることができる誘導加熱容器を提供する。
【解決手段】液状の被加熱物を収容するようにされた容器本体2と、高周波磁界により渦電流が誘起されて発熱する誘導加熱発熱体3とを備え、容器本体2の内底面21には、中心部から外周縁部へ向かって延在する台地部211を平面部210から台地状に隆起するように形成し、台地部211を含む内底面21の面形状に倣って誘導加熱発熱体3を配置するとともに、台地部211の幅方向両端縁に沿って誘導加熱発熱体3を接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁調理器などが備える電磁誘導加熱コイルにより発生する高周波磁界によって渦電流が誘起され、そのジュール熱により発熱する誘導加熱発熱体を備えた誘導加熱容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガス機器が主流であった加熱調理機器に代わって、一般に、電磁調理器と称される加熱調理機器が、安全性、清潔性、利便性、経済性などの観点から、飲食業などにおける業務用のみならず、一般家庭においても広く普及するようになってきている。
【0003】
しかしながら、この種の電磁調理器は、内部に備えた電磁誘導加熱コイルにより高周波磁界を発生させ、誘起された渦電流によって生じるジュール熱により加熱対象物を加熱するというものである。このため、炎を使わずに加熱調理を行うことができる反面、その原理上、使用できる調理器具が限られてしまい、鉄、鉄ホーローなどの磁性金属からなる専用の調理器具を用いなければならないという不利があった。
【0004】
このような状況下、上記した電磁調理器の不利を解消し、電磁調理器による誘導加熱が可能な容器を安価に提供するために、例えば、特許文献1や、特許文献2では、非導電性の容器本体に、誘導加熱によって発熱する発熱体を設けた電磁調理器用の容器が提案されている。
【特許文献1】特開平7−296963号公報
【特許文献2】特開2003−111668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、食のインスタント化が進み、電子レンジで加熱するだけで食することができるようにされた種々の食品が、冷凍又は冷蔵されて市場に流通している。このような流通形態において、包装容器をそのまま調理容器として使用できれば便利であり、また、シューマイに代表されるような蒸し料理にあっては、本来の風味を損なわないためにも、電子レンジで加熱するのではなく、蒸気によって加熱するのが好ましい。このため、包装容器をそのまま蒸し器として利用できれば、非常に手軽で、便利である。
さらに、電磁調理器により包装容器を蒸し器として利用するにあたり、機器の操作によることなく、収容された調理対象に応じて、容器ごとに設定された時間で加熱処理を自動で終わらせることができれば、加熱不足や、過剰加熱を未然に防いで、常に適切な条件で調理対象を蒸して加熱できるようになることが期待される。
【0006】
本発明者らは、このような観点から鋭意検討を重ね、上記用途において、水に浸漬させた発熱体を誘導加熱によって発熱させ、加熱された水から発生する蒸気によって、蒸し器としての利用に供することを試みた。そして、このような利用態様にあっては、蒸気の発生に伴って水が減少し、発熱体の一部が水面から露出するところ、このとき、その露出した部位が過剰に発熱することで、発熱体に破断が生じ、これによって電磁調理器の安全機構が働いて、蒸気による加熱処理を自動的に終了させることができることを見出した。
しかしながら、本発明者らが、さらなる鋭意検討を重ねたところ、発熱体を破断させることによって加熱処理を自動的に終了させるには、次のような問題があるという知見を得るに至った。
【0007】
例えば、電磁調理器を設置した台が傾いているなどして、容器の接地面が水平になっていない場合には、発熱体のどの部位が水面から露出するかが一意に定まらず、発熱体が破断する部位や、破断するタイミングが一定しない。
また、発熱体の定められた部位が、常に水面から露出するようにできたとしても、沸騰する水の水面は激しく波打っていることも考慮しなければならない。すなわち、水面から露出した部位に、沸騰による水しぶきがかかって熱が奪われると、破断するタイミングが遅れてしまったり、当該部位が破断するに至らずに、別の部位が破断してしまったりすることもある。
このように、発熱体の破断によって加熱処理が自動で終わるようにするためには、解決すべき課題が残されている。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、高周波磁界により渦電流が誘起されて発熱する誘導加熱発熱体を備えた誘導加熱容器であって、誘導加熱発熱体を誘導加熱により発熱させて、被加熱物に対して加熱処理を施すに際して、機器の操作によることなく、所定時間経過後に、被加熱物に対する加熱処理を自動で終わらせることができる誘導加熱容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る誘導加熱容器は、液状の被加熱物を収容するようにされた容器本体と、高周波磁界により渦電流が誘起されて発熱する誘導加熱発熱体と、を備え、前記容器本体の内底面には、中心部から外周縁部へ向かって延在し、かつ、平面部から台地状に隆起する台地部が形成され、前記台地部を含む前記内底面の面形状に倣って、前記誘導加熱発熱体を配置するとともに、前記台地部の幅方向両端縁に沿って前記誘導加熱発熱体を接着した構成としてある。
【0010】
このような構成とした本発明に係る誘導加熱容器にあっては、容器本体の内底面に台地状に隆起する台地部を形成し、そのような内底面の面形状に倣って誘導加熱発熱体を配置することで、被加熱物の液位が下がったときに、台地部上に位置する誘導加熱発熱体が露出するようになっており、また、台地部の幅方向両端縁に沿って誘導加熱発熱体を接着することで、台地部と誘導加熱発熱体との間に被加熱物が入り込んでしまわないようにすることができる。これにより、誘導加熱発熱体の露出した部位から被加熱物への熱の流れを確実に途絶えさせることができ、当該露出した部位が、所定のタイミングで過剰に発熱し、熱溶融によって破断するようになる。このため、誘導加熱発熱体が破断するまでの時間の管理が容易となり、機器の操作によらずとも、所定時間経過後に、被加熱物に対する加熱処理を自動的に終わらせることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、機器の操作によらずとも、所定時間経過後に、被加熱物に対する加熱処理を自動で終わらせることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
[第一実施形態]
まず、本発明に係る誘導加熱容器の第一実施形態について説明する。
なお、図1(a)は、本実施形態に係る誘導加熱容器の概略を示す平面図であり、図1(b)、図2、図3のそれぞれは、図1(a)のA−A断面図、B−B断面図、C−C断面図である。
【0014】
上記各図に示す容器1は、水などの液状の被加熱物を収容するようにされた容器本体2と、高周波磁界により渦電流が誘起されて発熱する誘導加熱発熱体3とを備えている。そして、誘導加熱発熱体3は、図示するように、容器本体2の内底面21を覆うようにして、容器本体2に取り付けられる。
【0015】
また、図示する例において、容器本体2は、ほぼ円形状とされた内底面21を有しており、この内底面21の外周縁部から立ち上がる側壁部22が、方形状とされた開口端縁23へと連続する容器形状となっている。このため、側壁部22は、開口端縁23の対角位置に向かうほど大きく傾斜している(図2参照)。
ここで、容器1は、一般に、市販の電磁調理器の上に置いて使用されることから、容器本体2の内底面21や、内底面21を覆う誘導加熱発熱体3の大きさは、使用する電磁調理器が備える加熱コイルの大きさに応じて設定することができる。例えば、市販の家庭用電磁調理器が備える一般的な加熱コイルは、内径5cm程度、外径20cm程度であり、業務用のものであれば、これよりも大きいものもあるが、使用が想定される電磁調理器に応じて大きさを適宜定めておくものとする。
【0016】
また、容器本体2の開口端縁23には、その内周縁の全周に沿って段部24を設けてある。この段部24には、図2及び図3に一点破線で示すトレー4や、図示しない蓋体などが支持されて、容器本体2の開口部を覆うようになっている。後述するように、トレー4には調理対象が載置されるが、図示する例では、容器本体2の中心部から円柱状に立ち上がる中心凸部25に、トレー4の中心部に形成された凹部45を当接させることで、調理対象の重みでトレー4が撓んでしまわないようにしている。
【0017】
また、容器本体2の内底面21には、その中心部から外周縁部に向かって延在する台地部211が、平面部210から台地状に隆起するようにして形成されている。台地部211は、図示するように、長手方向(内底面21の中心部から外周縁部に向かって台地部211が延在する方向)に沿って平面部210に対してほぼ垂直に立ち上がる側面211a,211bと、幅方向に沿ってアーチ状に緩やかに湾曲する上面211cと、長手方向両端に位置する端面211d,211eとを有しており、通常、側面211a,211bの高さTが0.1〜10mm、幅Wが2〜50mmとなるように形成することができる。
【0018】
このような容器本体2は、ポリスチレン等のポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂などの合成樹脂材料、さらには、紙や、ガラスなど、種々の汎用の非磁性材料にて形成することができる。これらの材料にて容器本体2を形成することにより、電磁調理器で使用可能な誘導加熱容器を安価に提供することが可能となる。
【0019】
一方、誘導加熱発熱体3は、電磁調理器などが備える電磁誘導加熱コイルから発生する高周波磁界により渦電流が誘起され、その電気抵抗によりジュール熱が生じて発熱し得る導電性材料を用いて形成される。例えば、アルミニウム,ニッケル,金,銀,銅,白金,鉄,コバルト,錫,亜鉛などの金属、又はこれらの合金、あるいは、導電性を付与した樹脂フィルムや紙など、高周波磁界による誘導加熱によって発熱する種々の導電性材料を用いて形成することができる。
【0020】
より具体的には、例えば、金属材料としてアルミニウムを用いる場合、誘導加熱発熱体3は、好ましくは0.10〜100μm程度、より好ましくは1〜15μm程度の厚みのアルミニウム箔を用いて形成することができる。誘導加熱発熱体3には、アルミニウム箔などの金属箔を用いて形成するのが好ましく、容器本体2に取り付ける際に、ヒートシールによる接着が可能となるように、容器本体2に用いた材料に対してヒートシール性を有する樹脂層をラミネートすることもできる。
なお、誘導加熱発熱体3を容器本体2に取り付けるに際しては、ヒートシールのほか、接着テープや接着剤などを用いてもよい。
【0021】
誘導加熱発熱体3を容器本体2に取り付けるにあたり、容器本体2の内底面21を覆う誘導加熱発熱体3は、台地部211を含む内底面21の面形状に倣って配置される(図1(b)参照)。このとき、金属箔を用いて誘導加熱発熱体3を形成した場合には、このような内底面21への配置が容易になるように、台地部211の形状に対応する折り癖を付けておくのが好ましい。
【0022】
また、誘導加熱発熱体3は、内底面21の面形状に倣って配置された状態で、容器本体2に部分的に接着される。誘導加熱発熱体3を容器本体2に部分的に接着することで、容器本体2に収容された被加熱物が、誘導加熱発熱体3の裏面側、すなわち、容器本体2と誘導加熱発熱体3との間にも行き渡るようになり、これによって、被加熱物に対する加熱効率を高めるとともに、誘導加熱発熱体3からの熱によって容器本体2が損傷するのを有効に回避することができる。
【0023】
また、誘導加熱発熱体3を容器本体2に部分的に接着するにあたり、台地部211に対しては、その上面211cの幅方向両端縁のそれぞれに沿った接着部位3aにおいて、誘導加熱発熱体3が接着されるようにし、接着部位3a以外では非接着となるようにする。このとき、台地部211の上面211cの幅方向両端縁のそれぞれには、接着部位3aとなる部位及びその近傍に、図示するような平坦部が、上面211cの幅方向両端縁のそれぞれに形成されるようにするのが好ましいが、台地部211の上面211cは、湾曲しながら側面211a,211bの上端に連なるように形成してもよい。
なお、台地部211に対する接着部位3aを、上記のような特定の部位とすることによる効果については後述する。
【0024】
また、誘導加熱によって誘導加熱発熱体3を発熱させる際には、通常、誘導加熱発熱体3に斥力が作用する。そして、この斥力によって、誘導加熱発熱体3が浮かび上がってしまうと、電磁調理器の鍋釜確認機能に誘導加熱発熱体3が認識されずに、誘導加熱発熱体3が誘導加熱されなくなってしまう。誘導加熱発熱体3は、平面部210に対しても部分的に接着するものとし、その接着部位は特に図示しないが、上記の不都合が生じない程度に任意に設定することができる。平面部210に対する誘導加熱発熱体3の接着は、点状の部分接着でもよく、線状の部分接着でもよいが、その接着面積は、前述したように、誘導加熱発熱体3の裏面側にも被加熱物を行き渡らせることを考慮して設定する。
【0025】
以上のような本実施形態における容器1は、電磁調理器の上に置いて使用される。使用に際しては、例えば、所定量の水を容器本体2に注入して、誘導加熱発熱体3が水に浸されるようにしつつ、容器本体2の開口端縁23に設けられた段部24に、多数の蒸気孔が穿設されたトレー4を支持させる。次いで、このトレー4上に調理対象を載置して蓋体で覆ってから、誘導加熱発熱体3が水に浸漬した状態で電磁調理器を作動させ、誘導加熱によって誘導加熱発熱体3を発熱させる。これにより、誘導加熱発熱体3に接している水が加熱されて沸騰し、容器内に発生する蒸気によって調理対象を蒸すことができる。
【0026】
このように、容器1は、水を注入するだけで、電磁調理器により蒸し器として利用することができるが、容器内に蒸気が発生すると、これに伴って容器本体2に収容された水が減少する。そして、図4(a)に示すように、水7が減少して、その水位が下がって台地部211の上面211cよりも低くなると、台地部211上に位置する誘導加熱発熱体3が水面上に露出していく。
このとき、電磁調理器を設置した台が傾いているなどして、容器1の接地面が水平になっていなくても、平面部210から台地状に隆起する台地部211の高さ(側面211a,211bの高さT)を適切に調整することで、台地部211上に位置する誘導加熱発熱体3が、常に、最初に水面から露出するようにできる。
【0027】
また、本実施形態では、台地部211の上面211cをアーチ状に湾曲させている。このため、水7の水位が下がっていく際には、水7が台地部211の上面211cを伝って流れ落ちていくようになり、誘導加熱発熱体3と台地部211との間から水7を排除しやすくなっている。このとき、台地部211の上面211cは、幅方向のみならず、長手方向に沿ってもアーチ状に緩やかに湾曲させてもよい。このようにすることで、台地部211上の水7をより排除しやすくすることができる。さらに、台地部211の上面211cが平面になっていると、誘導加熱発熱体3からの熱によって当該上面211cが下方に窪むように撓んで、水7が上面211c上に溜まってしまうおそれがある。台地部211の上面211cをアーチ状に湾曲させるのは、このような不都合を避ける上でも有効であり、合成樹脂材料を用いて容器本体2を形成した場合に、特に好ましい。
これらのことから、台地部211の上面211cを湾曲させる程度は、上記した効果を妨げない程度に任意に設定することができる。
【0028】
また、本実施形態では、誘導加熱発熱体3は、台地部211に対しては、その上面211cの幅方向両端縁のそれぞれに沿った接着部位3aで接着されている。沸騰する水7の水面は激しく波打っているところ(図4(a)参照)、台地部211に対する接着部位3aをこのような特定の部位とすることで、沸騰する水7からの水しぶきが、誘導加熱発熱体3の裏面を伝わるなどして、台地部211の上面211cと誘導加熱発熱体3との間に入り込んでしまうのを有効に回避することができる。このような水しぶきの侵入をより確実に回避するためには、接着部位3aは、台地部211の上面211cの幅方向両端縁のそれぞれに沿って連続して形成されるようにするのが好ましい。
【0029】
このように、本実施形態の容器1を蒸し器として利用する際には、水7の水位が下がって台地部211の上面211cよりも低くなると、台地部211上に位置する誘導加熱発熱体3が水面上に露出する。そして、誘導加熱発熱体3が水面上に露出するときには、台地部211上に残留する水7や、沸騰する水7からの水しぶきによって熱が奪われることなく、誘導加熱発熱体3の当該露出した部位から水7への熱の流れを確実に途絶えさせることができる。
【0030】
このため、水7の減少に伴って誘導加熱発熱体3の当該露出した部位が、所定のタイミングで過剰に発熱し、図4(b)に示すように、熱溶融によって破断するようになるが、このとき、誘導加熱発熱体3には、図4(a)中矢印で示す方向に浮かび上がるように斥力が作用し、誘導加熱発熱体3には張力が及ぼされるため、誘導加熱発熱体3の熱溶融による破断が促進される。
そして、誘導加熱発熱体3が破断すると、安全機構が働いて電磁調理器が停止し、水7の沸騰も終了する。
【0031】
ここで、図4(b)において、誘導加熱発熱体3の破断部位を符号Cで示す。前述したように、容器本体2に用いた材料に対してヒートシール性を有する樹脂層を誘導加熱発熱体3にラミネートしてあると、誘導加熱発熱体3が熱溶融によって破断する際に当該樹脂層も溶融してしまい、異臭を発してしまうことがある。このため、誘導加熱発熱体3の破断部位及びその近傍からは、当該樹脂層を除去又はラミネートしないでおくのが好ましい。さらに、誘導加熱発熱体3に作用する斥力によって、その破断を促進する上でも、誘導加熱発熱体3の破断部位及びその近傍に、当該樹脂層が存在しないのが好ましい。
【0032】
以上のように、本実施形態の容器1によれば、調理対象を蒸すのに要する時間に応じて、容器本体2に注入する水の量などを適宜調整することにより、誘導加熱発熱体3を発熱させてから、誘導加熱発熱体3が破断するまでの時間を管理して、電磁調理器の操作によらずとも、所定時間経過後に、加熱処理を自動的に終わらせることができる。
その結果、収容された調理対象に応じて、容器ごとに設定された時間で加熱処理を自動で終わらすことができ、加熱不足や、過剰加熱を未然に防いで、常に適切な条件で調理対象を蒸して加熱処理できる。
【0033】
[第二実施形態]
次に、本発明に係る誘導加熱容器の第二実施形態について説明する。
なお、図5(a)は、本実施形態に係る誘導加熱容器の概略を示す平面図であり、図5(b)は、図5(a)のD−D断面図である。
【0034】
本実施形態にあっては、誘導加熱発熱体3の平面部210上に位置する部位と台地部211上に位置する部位とに、他の部位よりも選択的に過剰に発熱するようにした部位31,32を設けるとともに、当該部位31,32と容器本体2との間に、敷設部材5を介在させた点において、前述した第一実施形態と異なっている。本実施形態の容器1は、これらの相違に基づく機能として、容器本体2に水7を注入し忘れたまま、電磁調理器を作動させて空焚きしてしまったときに、誘導加熱発熱体3の平面部210上に位置する部位32が破断して空焚きを防止する機能と、他の部位よりも選択的に過剰に発熱するようにした部位31,32からの熱により、容器本体2が損傷を受けるのを防止する機能とを備えている。
【0035】
本実施形態において、誘導加熱発熱体3は、例えば、図6などに示すようにして形成することができる。
すなわち、図6(a)に示すようなトラック形状にアルミニウム箔30を打ち抜き、山折り線MLと谷折り線VLとにより、図6(b)に示すように立ち上がり片310,320が形成されて円形状となるように折り曲げる。次に、図6(c)に示すように、一方の立ち上がり片310の上縁を切断して、図7(a),(b),(c)に順に示すように、切断した上縁側を図中矢印方向に折り返していき、端縁折り返し部31とする。次いで、図8(a),(b),(c)に順に示すように、他方の立ち上がり片320を不規則に折り畳んでいき、アルミニウム箔30が多重に折り重なり合うようにして押し固められた多重積層部32とする。
なお、図7は、図6(c)のE−E断面に相当する部位を示し、図8は、同F−F断面に相当する部位を示している。また、容器本体2に対するヒートシール性樹脂層を誘導加熱発熱体3にラミネートする場合には、その加工を考慮すると、端縁折り返し部31や多重積層部32を形成する部位及びその近傍からは、当該樹脂層を除去又はラミネートしないでおくのが好ましい。
【0036】
図5に示す例において、誘導加熱発熱体3は、端縁折り返し部31が台地部211上に位置するように配置される。端縁折り返し部31は、その切断された端面31a,31b又はその近傍との間に、誘導加熱発熱体3に誘起された渦電流が流れる電流路が形成されることとなり、この部位における抵抗値が最大となる。このため、端縁折り返し部31での発熱量が最も大きくなり、選択的に過剰に発熱するようになる。そして、被加熱物中に浸漬されている間は被加熱物に熱が奪われていくが、被加熱物から露出すると、その過剰な発熱に伴って、端面31a,31b又はその近傍で放電し、放電による溶断によって破断が生じることとなり、これによって安全機構が働いて電磁調理器が停止する。
なお、放電によって生じる火花や、誘導加熱発熱体3の破片の飛散による影響を考慮して、図示する例では、端面31a,31b又はその近傍を内側に折り返している。
【0037】
一方、多重積層部32は、図示するように、中心凹部25を挟んで端縁折り返し部31と対称となる平面部210上の位置に設けられるようにしてある。多重積層部32も、端縁折り返し部31と同様に、他の部位よりも選択的に過剰に発熱するようになっているが、これは、アルミニウム箔30の表面が、多重に折り重なり合って一定領域に集中して発熱することと、密に押し固められたアルミニウム箔30間における蓄熱作用とによるものと推測される。
【0038】
端縁折り返し部31と、多重積層部32とを同じ条件で誘導加熱したときには、通常、端縁折り返し31の方が過加熱状態になりやすいが、本実施形態では、台地部211上に端縁折り返し部31が位置している。このため、台地部211が平面部21から隆起した分だけ、誘導加熱コイルから離れた状態で端縁折り返し部31が誘導加熱されることとなり、端縁折り返し部31の発熱量は相対的に低減する。
これにより、誤って空焚きしてしまったときには、多重積層部32において誘導加熱発熱体3が破断することとなり、容器1の空焚きを防止することができる。
【0039】
ここで、他の部位よりも選択的に過剰に発熱するように、誘導加熱発熱体3に設ける部位の具体的な形態は、上記の例に限定されない。
当該部位は、(1)誘導加熱発熱体3の中心から外周縁までの長さを部分的に短くし、この部位での渦電流密度が高くなるようにして、選択的に過剰に発熱するようにしたもの、(2)誘導加熱発熱体3の所定の部位に電気抵抗の大きい金属片を貼り付けるなどして、当該部位が選択的に過剰に発熱するようにしたもの、(3)誘導加熱発熱体3の一部を立ち上げて、被加熱物の液面が下がってきたときに、他の部位よりも先に液面上に露出して、被加熱物により熱が奪われ難くなるようにすることで、選択的に過剰に発熱するようしたものなど、種々の形態とすることができる。これらのうち、台地部211上に位置させるものとしては、上記(1)〜(3)の全てが適用でき、空焚き防止のために平面部210に位置させるものとしては、上記(1)、(2)が適用できる。
【0040】
また、図5に示す例では、他の部位よりも選択的に過剰に発熱するようにした部位31,32からの熱によって、容器本体2が損傷を受けるのを防止するために、当該部位31,32と容器本体2との間に、敷設部材5を介在させてある。
敷設部材5としては、誘導加熱発熱体3が発熱する際の熱を遮り、容器本体2が誘導加熱発熱体3からの熱によって損傷しないようにすることができるものであれば、種々の材料を用いて形成することができる。例えば、誘導加熱発熱体3と同様の金属箔を用いて形成することができる。敷設部材5の形状も、誘導加熱発熱体3が過剰に発熱する部位31,32及びその近傍と、容器本体2との間に介在させて、当該部位31,32からの熱を遮ることができれば、図示するような矩形状に限らず任意の形状とすることができる。
【0041】
容器本体2に対する敷設部材5の取り付け方は特に問わない。例えば、敷設部材5の周縁に沿って容器本体2に対して部分的に接着するようにすることができる。ただし、容器本体2に敷設部材5を取り付けた部位においては、容器本体2と誘導加熱発熱体3とは非接着とし、誘導加熱発熱体3と敷設部材5との間で接着がなされてないようにする。特に、金属箔を用いて敷設部材5を形成した場合、誘導加熱発熱体3と敷設部材5との間に、電気的な接続が生じてしまわないようにする。
【0042】
また、図5(b)に示すように、台地部211の上面211cに敷設部材5を取り付けた場合、敷設部材5に金属箔を用いると敷設部材5がわずかながらに発熱し、台地部211上に位置する誘導加熱発熱体3が水面上に露出したときに、台地部211上に残留する水7の蒸発を促して、誘導加熱発熱体3の当該露出した部位から水7への熱の流れをより確実に途絶えさせることができることが期待される。
【0043】
本実施形態が第一実施形態と異なるのは、以上の点であり、それ以外は同様の構成を備えているので、他の構成についての詳細な説明は省略する。
【0044】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0045】
例えば、容器本体2の内底面21は、図示するような円形状とするほか、矩形状とするなど、任意の形状とすることができる。また、誘導加熱発熱体3の形状も、内底面21の形状に応じて任意の形状とすることができる。
さらに、台地状に隆起するようにして形成される台地部211の形状も、本発明の効果が損なわれない範囲で任意の形状とすることができる。すなわち、図示する例では、台地部211の上面211cが矩形状となるようにしてあるが、例えば、扇形状、楕円形状、円形状などの任意の平面形状とすることができ、その断面形状(図1(b)に示す断面に相当する断面形状)も、水しぶき(被加熱物)の侵入を抑止する観点から、側縁において波形とするなど、種々の形状とすることができる。
また、台地部211を形成する数も一つに限らず、必要に応じて二つ以上形成してもよい。
【0046】
また、前述した実施形態では、被加熱物として水を容器本体2に収容し、容器1を蒸し器として使用して、調理対象を蒸して加熱処理する例を示したが、被加熱物を直接に加熱するための加熱容器として使用するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明は、市販の電磁調理器により誘導加熱発熱体を発熱させて、被加熱物を加熱する誘導加熱容器を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る誘導加熱容器の第一実施形態の概略を示す説明図である。
【図2】図1(a)のB−B断面図である。
【図3】図1(a)のC−C断面図である。
【図4】誘導加熱発熱体が破断する際の説明図である。
【図5】本発明に係る誘導加熱容器の第二実施形態の概略を示す説明図である。
【図6】誘導加熱発熱体の一例を示す説明図である。
【図7】図6(c)のE−E断面に相当する部位を示す説明図である。
【図8】図6(c)のF−F断面に相当する部位を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 容器
2 容器本体
21 内底面
210 平面部
211 台地部
211c 上面
3 誘導加熱発熱体
3a 接着部位
31 端縁折り返し部
32 多重積層部
5 敷設部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の被加熱物を収容するようにされた容器本体と、
高周波磁界により渦電流が誘起されて発熱する誘導加熱発熱体と、
を備え、
前記容器本体の内底面には、中心部から外周縁部へ向かって延在し、かつ、平面部から台地状に隆起する台地部が形成され、
前記台地部を含む前記内底面の面形状に倣って、前記誘導加熱発熱体を配置するとともに、前記台地部の幅方向両端縁に沿って前記誘導加熱発熱体を接着したことを特徴とする誘導加熱容器。
【請求項2】
前記台地部の上面をアーチ状に湾曲させた請求項1に記載の誘導加熱容器。
【請求項3】
前記誘導加熱発熱体が、金属箔を用いて形成され、前記台地部の形状に対応する折り癖が付けられた請求項1〜2のいずれか1項に記載の誘導加熱容器。
【請求項4】
前記平面部に対して、前記誘導加熱発熱体を部分的に接着した請求項1〜3のいずれか1項に記載の誘導加熱容器。
【請求項5】
前記誘導加熱発熱体の前記平面部上に位置する部位と、前記誘導加熱発熱体の前記台地部上に位置する部位とに、他の部位よりも選択的に過剰に発熱するようにした部位を設けた請求項1〜4のいずれか1項に記載の誘導加熱容器。
【請求項6】
前記誘導加熱発熱体に、他の部位よりも選択的に過剰に発熱するようにした部位を設けるとともに、前記過剰に発熱するようにした部位と、前記容器本体との間に、敷設部材を介在させた請求項1〜5のいずれか1項に記載の誘導加熱容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−95420(P2009−95420A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268048(P2007−268048)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000223193)東罐興業株式会社 (90)
【Fターム(参考)】