説明

誘導加熱装置

【課題】 アルミ、非磁性ステンレス、銅などの誘導加熱しにくい金属に対して高周波渦電流を利用した誘導加熱を実現するための構成法および駆動法を提供する。
【解決手段】 加熱対象の金属負荷の近傍に加熱コイルを配置して、その加熱コイルを駆動する手段としてそれぞれ異なる位相の交流電流又はパルス電流を発生させる少なくとも2つの電流発生回路が相互に並列に接続された並列電流発生回路を使用することで、スイッチング周波数は低いままに誘導される渦電流周波数を高める。2つの電流発生回路が発生させる電流の位相差を180度にすれば、その2倍の周波数の渦電流を誘起することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流又はパルス電流を発生させるスイッチング素子などの電流発生装置における損失(スイッチング損失)を増大させることなく、スイッチング周波数の高い周波数帯域においても高効率で金属負荷を加熱することができる誘導加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱調装置は、高周波の電流をコイルに流して近傍に配置した金属負荷に渦電流を発生させ、金属負荷内で生じるジュール熱によって自己発熱することで、金属負荷を効率よく加熱するものであり、その利用分野としては、調理器具を加熱する誘導加熱調理器や歯車などの金属部材の焼き入れを行うための高周波焼入装置などが挙げられる。
【0003】
誘導加熱調理器に関しては、近年、高齢化社会の到来によってガスコンロや電熱ヒータによる調理器具に対して、誘導加熱調理器は安全性や温度制御性に優れた点が社会で評価されて調理器の置き換えが進んでいる。
【0004】
従来は、金属負荷として鉄鍋などの磁性金属のみ加熱できたが、近年ではアルミ鍋や非磁性ステンレス、銅鍋も加熱できるような誘導加熱装置が提案されている。
【0005】
それらは、金属負荷の材質によって加熱コイルの巻き数を変更して加熱効率を上昇させるものである。
【0006】
また、特許文献1では、負荷の状態を検出して加熱に適した共振回路と加熱コイルの組み合わせによりアルミ等の加熱を実現している。
【0007】
さらに特許文献2では、2つ以上の加熱コイルに位相の異なる電流を流すことでスイッチング周波数およびコイル電流周波数のコイル個数倍の渦電流周波数を得ている。
【特許文献1】特開2005−93089号公報
【特許文献2】特開2007−73400号公報
【特許文献3】特開2001−68260号公報
【特許文献4】特開2001−160484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来例においては、少なくとも以下の2つの課題が生じる。
【0009】
第1の課題:負荷の種類に応じて共振コンデンサと加熱コイルを組み合わせたり単に巻き数を多くするだけでは、金属負荷である鍋底に誘起される渦電流の周波数は低いままであり、大きな電流を流さないとアルミ等を加熱できるだけのエネルギーが得られず、損失が大きくならざるを得ない。
【0010】
第2の課題:加熱コイルを2つ以上用いる方式ではそれぞれのコイルに位相の異なる電流を印加して合成磁界がコイル個数倍の周波数になるように設定するため、それぞれのコイル利用率が低く、また加熱コイルを配置する空間のコイル電線の占有面積的に考えても金属負荷とそれぞれのコイルの距離を同一に保つためには巻き数を減少させざるを得ない等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、それぞれ異なる位相の交流電流又はパルス電流を発生させる少なくとも2つの電流発生回路が相互に並列に接続された並列電流発生回路と、前記並列電流発生回路に接続された金属負荷を加熱するための加熱コイルとを有することを特徴とする誘導加熱装置である。
【0012】
本発明では、それぞれ異なる位相の交流電流を発生させる少なくとも2つの電流発生回路(第1、第2の電流発生回路)を相互に並列に接続した並列電流発生回路を使用することにより、個々の電流発生回路が発生させる電流周波数よりも高い周波数の電流を加熱コイルに発生させることが可能である。従って、本発明によれば、電流発生装置における損失(スイッチング損失など)を増大させることなく、金属負荷に誘起させる渦電流の高周波化を達成することが可能となる。
【0013】
本発明における電流発生回路は、スイッチング素子を用いて実現することが可能である。
【0014】
本発明における第1、第2の電流発生回路が発生させる交流電流又はパルス電流の位相差の好ましい範囲は160〜200度であり、特にこの位相差を180度にすれば、コイル電流周波数および金属負荷に誘起される渦電流の周波数は、個々の電流発生回路が発生させる電流周波数の2倍になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電流発生回路における電流周波数を増大させることなく金属負荷に誘起される渦電流周波数を増大させることが可能であるため、金属負荷の表皮効果が顕著になり、鍋底の等価抵抗が増してジュール熱による加熱が促進される。従って、アルミや銅などの低い周波数では加熱しにくい金属も表皮効果によって加熱が実現できるため、誘導加熱調理器として本発明による効果は大きい。
【0016】
また電流発生回路において発生させる電流周波数を増大させなくとも上記の効果が達成されることからスイッチング損失を軽減し、かつ加熱コイルの利用率が向上するため限られた空間に高密度な加熱コイル配置を行うことで出力増強を同時に実現可能ですることができる。
【0017】
従来技術を本発明に適用することでさらなる効果の向上が可能になり、例えば、特許文献3および4で示されている加熱コイルと共振方法を本発明に適用すれば、特許文献3および4で示されている60kHzおよび90kHzの渦電流を2倍の120kHzおよび180kHzにまで増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面をもとに説明する。
【0019】
図1は本発明の実施形態を示す要部ブロック図である。
【0020】
図1において、本発明は金属負荷1を誘導加熱するための手段として加熱コイルLAが金属負荷1の下部に配置され、信号生成部2が生成する信号により駆動されるインバータI1およびI2から加熱コイルLAに交流電流またはパルス電流が供給される。
【0021】
ここで、インバータI1およびI2は、スイッチング素子などから構成される周知の高周波電流発生回路であり、この2つのインバータI1、I2が相互に並列に接続されることにより並列電流発生回路PIが構成され、当該並列電流発生回路PIはコイルLAに対して直列に接続されている。
【0022】
加熱コイルLAは金属負荷1の下部に配置されており、インバータI1およびI2からの電流が加熱コイルLAを流れることで金属負荷1内部に誘導が起こり、高周波渦電流が誘起されて自己発熱する。
【0023】
信号生成部2は、インバータI1、12から所定の位相および周波数の電流を発生させるためのコンピュータその他から構成される制御手段である。
【0024】
図2は、インバータI1およびI2から加熱コイルLAに流れる電流波形と金属負荷1上に誘起される渦電流波形を示しており、インバータI1およびI2に位相の異なる駆動信号が印加されると、それに対応した電流IL1およびIL2が流れ、この電流IL1およびIL2が交互に加熱コイルLAに流れることでスイッチング周波数の2倍周波数のコイル電流が加熱コイルLAに流れ、金属負荷1にスイッチング周波数の2倍周波数の渦電流が誘導される。
【0025】
なお、図示の例では、最も周波数が高く、整った波形の合成渦電流が得られる場合として、電流IL1およびIL2のデューティー比が約25%であり、両電流の位相差が約180度である場合を示しているが、これらデューティー比および/または位相差がそれぞれ25%および/または180度以外の値であっても、合成渦電流の波形が図示の態様とは異なることにはなるものの、電流IL1およびIL2の電流の周波数よりも高い周波数の合成渦電流が得られることに変わりはない。
【0026】
信号生成部2によってインバータI1およびI2を駆動し電流IL1およびIL2となる図2に示す電流の位相が180度ずれた2つの信号は、たとえばコンピュータを使用して図3のようなフローチャートのプログラムを用いて生成することができる。
【0027】
サブルーチンBとして、ある一定時間をカウントするプログラムを用意する。
【0028】
メインプログラムAは、コンピュータの入出力端子の設定等をするため、はじめに初期設定(ST−1)を行う。
【0029】
インバータI1およびI2に接続されるコンピュータの端子をクリアにして、サブルーチンBを呼び出す(ST−2)。
【0030】
サブルーチンBで上記一定時間が経過したらメインプログラムAに戻り、インバータI1から加熱コイルLA1に電流を出力させる(ST−3)。
【0031】
続いてサブルーチンBを呼び出して一定時間継続して電流を出力させ(ST−4)、再びメインプログラムAに戻って電流出力を停止させる(ST−5)。
【0032】
続くST6〜9では、上記と同様にしてインバータI2から加熱コイルLA2への電流出力が行われる。
【0033】
以後、ST−2〜9を繰り返して実行することで図2に示しているIL1およびIL2の波形を生成する。
【0034】
インバータI1、I2に使用されるスイッチング素子は、IGBTやMOS−FETなどの半導体スイッチング素子で構成され、実施形態としてはハーフブリッジやフルブリッジが適用され、スイッチング損失の低減のためにソフトスイッチングが行われる。
【0035】
つまり、本発明は、金属負荷に対して、位相の異なった2つの信号を2つのインバータに供給することによって高周波コイル電流を生成し高周波渦電流を金属負荷に誘起して誘導加熱を実現するものであり、スイッチング周波数は低いままなのでスイッチング損失を小さくできる利点がある。
【0036】
上記実施形態では、2つのインバータ(電流発生回路)を用いる場合を例として説明したが、3つ以上のインバータ(電流発生回路)を並列に接続し、それぞれが位相の異なる電流を発生させることでも本発明の効果を達成することは可能であり、そのような誘導加熱器もまた本発明の範囲に含まれる。
【0037】
本発明の誘導加熱装置は、電磁調理器や高周波焼入装置など、金属負荷に誘導電流を誘起して自己発熱させる任意の装置として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態の要部ブロック図である。
【図2】本発明のスイッチング周期と渦電流を示す図である。
【図3】本発明の誘導加熱器の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
1 金属負荷
2 信号生成部
I1 加熱コイル駆動用のインバータ
I2 加熱コイル駆動用のインバータ
LA 加熱コイル
IL1 第1の電流
IL2 第2の電流



【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ異なる位相の交流電流又はパルス電流を発生させる少なくとも2つの電流発生回路が相互に並列に接続された並列電流発生回路と、
前記並列電流発生回路に接続された金属負荷を加熱するための加熱コイルとを有することを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記金属負荷が加熱調理器具であることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−87796(P2009−87796A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257136(P2007−257136)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】