説明

誘導加熱調理器

【課題】吹き零れによる汁などの侵入による機器の破損の防止及び使用者の安全性の向上を図る誘導加熱調理器を得る。
【解決手段】赤外線センサー1は被加熱物3の側面から放射される赤外線を直接受光して赤外線量に比例した温度信号を出力し、温度検知手段6は赤外線センサー1からの温度信号を温度情報に変換する。制御手段8は温度検知手段6によって検出された温度情報を取得し、この温度情報と記憶手段9に記憶された前回の温度情報とに基づいて温度減少量を算出する。制御手段8はさらに算出された温度減少量が予め設定された閾値(下限値)を超えた場合には吹き零れが発生したと判定し、誘導加熱コイル2に流れる電流を削減する、もしくは供給停止するようにインバーター5を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁誘導を利用して加熱調理を行う誘導加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、天板の下方に配置された誘導加熱コイルの略中央部に接触型温度センサー(サーミスタなど)を配置し、あるいは天板の下方に非接触型温度センサーを配置して、この接触型温度センサーあるいは非接触型温度センサーを用いて天板上に載置された鍋やフライパンなどの調理容器(以下被加熱物という)の温度を検出し、この検出結果に基づいて不足電力を算出し、その分追加加熱を行なうと共に予め設定された被調理物の水量に応じて予め設定した調理時間熱源を作動させることで比較的安価に且つより短時間に湯沸し調理を行う電磁調理器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−347217号公報(第4頁〜第6頁、図3、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
然しながら、特許文献1に記載された従来の電磁調理器では、接触型温度センサー(サーミスタなど)や非接触型温度センサーは天板を透過した上で温度検知を行うため、低温検知の場合には高精度を得ることができず、被加熱物外への吹き零れを検知することは困難であった。また、接触型温度センサーであるサーミスタでは温度追従速度が遅いので迅速かつ正確に温度を検知することが困難であり、吹き零れなどの急激な温度低下を伴う場合には異常を即座に検知して対応処理をすることができなった。そのため、吹き零れによる汁が誘導加熱調理器の本体内部に侵入することで機器の故障を招いたり、使用者に吹き零れた煮汁などがかかって火傷を負ったりするなどの虞があった。
【0005】
本発明は、上記のような問題を解決するために為されたものであり、吹き零れによる煮汁などの侵入による機器の破損の防止及び使用者の安全性の向上を図る誘導加熱調理器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る誘導加熱調理器は、被加熱物を加熱する誘導加熱コイルと、誘導加熱コイルの上方で被加熱物を載置する天板と、被加熱物の側面から放射される赤外線を天板を介さずに直接受光し、この赤外線に基づいて被加熱物の温度を検出する温度検知部と、温度検知部の出力に応じて誘導加熱コイルに供給する電力を制御するインバーターと、温度検知部の出力情報を記憶する記憶部と、インバーターを制御する制御手段と、を備え、制御手段は温度検知部によって検出された温度情報を取得し、この温度情報と記憶部に記憶された前回の温度情報とに基づいて温度の低下量を算出し、さらに算出された温度の低下量が予め設定された閾値を超えた場合には吹き零れが発生したと判定するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、温度検知部は被加熱物の側面から放射される赤外線を天板を介さずに直接受光し、制御手段は温度検知部によって検知された被加熱物の温度と前回の被加熱物温度とから温度低下量を算出し、この温度低下量が予め設定された閾値を超えた場合には吹き零れが発生したと判定するので、迅速で高精度な吹き零れ検知が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1、14における誘導加熱調理器の構成を示すブロック図である。
【図2】図1中の赤外線センサー1を複眼センサーとした場合の各温度検知素子の配列の一例を示した図である。
【図3】複眼センサーの各温度検知素子と温度検知領域との対応関係を示す図である。
【図4】吹き零れ試験実行時の複眼センサーを有する赤外線センサーの各温度検知素子の検出温度と調理時間との関係を示すグラフである。
【図5】図4における8個の温度検知素子中の最大温度を検知する素子7と隣接する素子8について拡大して示したグラフである。
【図6】素子7の毎秒の温度変化を傾きとして示したグラフである。
【図7】本発明の実施の形態1における制御手段の動作を示すフローチャートである(その1)。
【図8】本発明の実施の形態1における制御手段の動作を示すフローチャートである(その2)。
【図9】本発明の実施の形態2における誘導加熱調理器の構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施の形態2における制御手段の動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態3における誘導加熱調理器の構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の実施の形態3における制御手段の動作を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態4における制御手段の動作を示すフローチャートである(その1)。
【図14】本発明の実施の形態4における制御手段の動作を示すフローチャートである(その2)。
【図15】本発明の実施の形態5における誘導加熱調理器の構成を示すブロック図である。
【図16】本発明の実施の形態5における制御手段の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
被加熱物である鍋の側面から発生する赤外線を天板を介さずに直接受光する赤外線センサーを用いて温度検知を行うことで、鍋外への吹き零れの検知が可能となる。本実施の形態1ではこのような形態について説明する。
【0010】
図1は本発明の実施の形態1における誘導加熱調理器の構成を示すブロック図である。
図1に示すように誘導加熱調理器は、赤外線温度センサー1と、誘導加熱コイル2と、誘導加熱コイル2と電磁結合によって加熱調理される被加熱物3と、この被加熱物3を載置する天板4と、誘導加熱コイル2に高周波の交流電力を供給するインバーター5と、このインバーター5を制御する制御手段8と、赤外線センサー1からの赤外線検知信号を温度情報に変換する温度検知手段6と、制御手段8と、記憶部9と、から構成される。赤外線センサー1は被加熱物3の側面から発する赤外線を天板4を介さずに直接検知してこの赤外線量に比例した信号を出力する。また、温度検知手段6は、赤外線センサー1からの赤外線検知信号を増幅かつ温度信号に変換し、さらにA/D変換して制御手段8が取り扱える温度情報に変換する。記憶部9は温度検知手段6によって検知された温度情報を記憶するためのものである。なお、赤外線温度センサー1と温度検知手段6は温度検知部を構成する。
【0011】
また、図2は、図1中の赤外線センサー1を複眼センサーとした場合の各温度検知素子(以下、素子ということもある)の配列の一例を示した図であり、図2(a)は各温度検知素子を上下一列に並べた場合の複眼センサー、図2(b)は各温度検知素子を上限だけでなく水平方向にも複数並べて千鳥格子状に構成した場合の複眼センサーを示している。
また、図3は複眼センサーの各温度検知素子と温度検知領域との対応関係を示す図であり、図2の複眼センサーを用いて被加熱物3の側面(以下、鍋肌と呼ぶ場合がある)、エッジ領域(被加熱物3の底部の縁、即ち被加熱物の底面と天板4の境界部をエッジと呼び、このエッジを含む近傍領域(鍋肌の一部領域及び、天板の一部領域)をエッジ領域という)および被加熱物3と赤外線センサー1との間の天板領域の温度を8個の温度検知素子に対応させて8つの領域に区分したものを示しており、この8つの領域の内、塗りつぶし領域であるエッジ領域を検知する温度検知素子が最大の赤外線エネルギーを入力することになる。
【0012】
また、図4は、吹き零れ試験実行時の複眼センサーを有する赤外線センサーの各温度検知素子の検出温度と調理時間との関係を示すグラフであり、具体的には蕎麦投入時のホーロー鍋で吹き零れの試験を行なった場合の8個の温度検知素子(以下、これらを素子1〜素子8とする)から構成される複眼センサーを有する赤外線センサーの各温度検知素子の検出温度と調理時間との関係を示すグラフである。図4において、8個の温度検知素子の内、素子7と素子8に吹き零れ時に急激な温度低下が発生することが示されている。図5は図4における吹き零れ時に急激な温度低下が発生する素子7と素子8について拡大して示したグラフである。
吹き零れ時において、出力値が急激に低下する素子7、8の2素子は主に被加熱物(鍋)3のエッジ領域及びこのエッジ領域に隣接する天板を検知しており、吹き零れによる温度変化を正確に捉えていることが分かる。
また、図6は、素子7の毎秒の温度変化を傾きとして示したグラフである。
図5に示す実験では、調理開始から386秒後に蕎麦を投入し、さらに調理開始から441秒後に吹き零れが発生すると、その直後(調理開始から457〜460秒後)に2つの温度検知素子が温度低下を検出している。このとき図6に示すように温度の低下量(傾き)がかなり大きくなっていることが分かる。そして、これに基づき調理開始から464秒後に誘導加熱コイルへの通電を停止している。
【0013】
次に、本実施の形態1の動作を説明する。
本実施の形態1では、被加熱物3の底部の温度を天板4の下部から測定できるように温度測定用の赤外線センサーを天板4下部に配置するのではなく、被加熱物3の側面を直接測定できるように赤外線センサー1を天板4の隅あるいはその外側(以下、これをまとめて側方という)且つ上方に配置する。天板4の側方且つ上方に配置された赤外線センサー1により天板4に載置された被加熱物3の側面から発せられる赤外線を検知して信号を出力し、温度検知手段6が赤外線センサー1からの信号を温度情報に変換する。そして、制御手段8は温度検知手段6からの温度情報を所定の周期で(例えば1秒毎に)取得し、この温度情報から単位時間当たり(例えば1秒毎)の温度変化を算出する。そして、制御手段8はこの温度変化が予め定められた閾値を下回った場合には、吹き零れが発生したと判定してコイル電流を削減または通電停止を行う。
【0014】
なお、吹き零れ量が被加熱物3の側面を伝わる間に乾燥して留まる程度に少なければ調理に悪影響を与えないので、本願発明の対象としない。吹き零れた煮汁などの内容物の液体が被加熱物3の側面を伝って下部へ垂れ落ち、被加熱物の最下端である天板に到達すると、液体自身の持つ表面張力により被加熱物3のエッジに沿って広がり被加熱物3のエッジ全体に回りこむ。このため、このエッジ全体に広がった液体を一方向から検知するように構成すれば天板4の側方且つ上方に配置された赤外線センサー1でも吹き零れを検知可能である。この程度に吹き零れ量が多いと、調理に悪影響を与えるので、このような場合を吹き零れと呼び、本願発明の対象とする。
このように被加熱物3の外部に吹き零れが発生した場合には、調理中に200〜400℃であった被加熱物3のエッジ温度が吹き零れた汁によって100℃以下に急激に冷やされる。しかしながら、従来のセンサーは天板下部に配置されていたため、温度検知の際には天板4を通して検知する必要があった。従って、急激な温度変化に即座に追従することができず、吹き零れを検知することが困難であった。
そこで、本実施の形態1では、赤外線センサー1を天板4の側方且つ上方に配置することにより被加熱物3の側面特に被加熱物3の下部側面の温度を直接測定することが可能となるため、吹き零れによる急激な温度低下に即座に追従して高精度な検知が可能であり、この急激な温度低下に基づいて吹き零れが発生したと判定することができる。
【0015】
図7は、本発明の実施の形態1における制御手段の動作を示すフローチャートである。
次に、本実施の形態1における制御手段の動作について図1〜図7を用いて説明する。
吹き零れが発生したか否かを判定するには、上記図4及び図5から被加熱物3のエッジ領域の温度を検知する温度検知素子である素子7の出力(以下、Taとする)の温度低下量(負の値であり、以下、ΔTaとする)と、エッジ領域に隣接する天板4の領域の温度を検出する素子8の出力(以下、Tbとする)の温度低下量(負の値であり、以下、ΔTbとする)を監視すればよい。
制御手段8は先ず、インバーター5を制御して誘導加熱コイル2に通電させることで加熱調理を開始する(ステップS71)。温度検知手段6から2つ領域の温度情報Ta、Tbを一定の周期で(例えば1秒毎に)取得し(ステップS72)、この温度情報を記憶部9に記憶する。次に、前回の温度情報を記憶部9から読み込み(ステップS73)、この前回の温度情報から今回温度検知手段6から取得した温度情報を引き算して差分を1秒毎の温度変化量ΔTa、ΔTbとして算出する(ステップS74)。そして、制御手段8はこの温度変化量ΔTa、ΔTbと予め記憶部9に記憶しておいた閾値ΔT(負の値)とを比較し(ステップS75)、ΔTa(温度低下量)、ΔTb(温度低下量)の少なくとも一方が閾値ΔTより大きければ、制御手段8は異常なしと判定して引き続きインバーター5を制御して誘導加熱コイル2に通電させて加熱調理を継続し(ステップS76)、ステップS72に戻って同様の動作を繰り返す。また、ΔTa(温度低下量)、ΔTb(温度低下量)の両方とも閾値ΔTを超えた(下回った)場合には吹き零れなどの異常が発生したと判定してコイル電流を削減または通電停止を行うようにインバーター5を制御する(ステップS77)。
この後、処理を終了する。再度の駆動開始はユーザーが吹き零れた調理物およびその原因を取除いた後にユーザーの再開操作によって行われる。
【0016】
なお、本フローチャートではエッジ領域の温度を検知する2つの温度検知素子の出力の温度低下量がすべて閾値を超えた時に、吹き零れが発生したと判定すると説明したが、この判定内容は図4及び図5に示す繰り返し実験の結果に基づいて作成したものであり、検知領域の粗密の条件によって判定内容が異なる。例えば、エッジ領域に近いほど検知領域を狭く絞り、エッジ周辺に割り当てる素子の数を増やし、エッジ領域から離れるに連れて素子の検知領域を広く粗くして素子の数を少なくするように構成すると吹き零れ時に急激な温度低下を示す素子の数も増える。この場合には、例えば繰り返し実験の結果、吹き零れ発生時に急激な低下を示す素子がエッジ領域の温度を検知する温度検知素子7、エッジ領域に隣接する鍋肌領域の温度を検知する温度検知素子6、エッジに隣接する天板の温度を検知する温度検知素子8の3つであれば、フローチャートでは、この3つの領域の温度低下量がすべて閾値を超えた時に、吹き零れが発生したと判定するように構成する。同じように繰り返し実験の結果、吹き零れ発生時に急激な低下を示す素子がエッジ領域を中心とする連続する4つの領域の温度を検知する4つの温度検知素子であれば、フローチャートでは、この4つの領域の温度低下量の少なくとも一方が閾値を超えた時に、吹き零れが発生したと判定するように構成する。
【0017】
以上を踏まえて、上記内容を動的に適用できるようにするために以下のように構成する。
事前に吹き零れ試験を実施し、この吹き零れ試験において、複眼センサーを構成する複数の温度検知素子のそれぞれの過去の温度特性に基づいてそれぞれの温度低下量を算出し、この温度低下量が所定の下限値を超えるものの識別子を記憶部9に記憶しておく。なお、これらはすべて手動操作で実行する。
実際の加熱調理運転時に、制御手段8は、周期的に記憶部9から上記選択された温度検知素子の識別子を読み出してこれらを認識し、この選択された温度検知素子によって検知された温度情報を温度検知手段6を介して取得し、さらに選択された全ての温度検知素子の前回の検知温度情報と今回取得した検知温度情報に基づいてそれぞれの温度低下量を算出し、これらの温度低下量をそれぞれ上記の閾値と比較し、これらの温度低下量の少なくとも一方が閾値(下限値)を超えた場合、吹き零れなどの異常が前記誘導加熱調理器に発生したと判定する。
【0018】
本実施の形態1によれば、赤外線センサーを天板4の側方且つ上方に配置したので、吹き零れなどの異常を高精度に検知することが可能であり、吹き零れなどの異常を検知した場合には、即座に火力低減または通電停止を行うので、煮汁の内部への侵入による機器の故障や天板へのこびりつきを防止することが可能である。
【0019】
以上のように、赤外線センサー1は単眼でも吹き零れをエッジの温度変化から検知可能であるが、赤外線センサー1を複眼とすることで、鍋肌(被加熱物の側面)から鍋底(エッジ)、天板4までの温度を独立に測定可能となる。また、各素子の検出領域を区分し、各素子の出力値を比較することで、どの素子がどの位の温度変化を検出したかを判定することで、幅広い検知が可能となる。これにより、制御手段の認識性能を高めれば、吹き零れ以外の異常による急激な温度変化が発生してもこれを吹き零れであると誤検知する虞を減らすことができるため、単眼の赤外線センサー1による吹き零れ検知よりもさらに高精度な吹き零れ検知が可能になる。
また、赤外線センサー1の検出領域を狭く絞る(密度を高くする)ことでさらに高精度な検知が可能となる。即ち、複眼センサーを構成する複数の温度検知素子を凹面部の上部に取り付ければ、検出領域を密に絞ることができ、逆に凹面部の下部に取り付ければ、検出領域を広く検出することができる。又複眼センサーを構成する複数の温度検知素子を凸面部の下部に取り付ければ、検出領域を密に絞ることができ、逆に凸面部の上部に取り付ければ、検出領域を広く検出することができる。従って、この特性を利用して所望以外の領域の検出精度を粗くし、所望の検出領域に温度検知素子を数多く割り当てを密に検出するように構成すれば検知領域を高い精度で検知することができる。
さらに赤外線センサーの取り付け位置の高さを適当な高さに調整することで各領域の温度をさらに高精度に検知することが可能となる。さらに複眼センサーを構成する温度検知素子の配置を上下方向及び水平方向に並べて千鳥格子状に構成することにより、死角をなくすことができる。
また、上記の例では、前回の検知温度との差分を調べて吹き零れの有無を判定する方法について説明したが、複数の過去の検出温度の平均値を記憶手段9に記憶させておき、この平均値と、今回温度検知手段から取得した温度情報とに基づいて算出される温度低下量が閾値を超えたか否かで吹き零れの有無を判定するように構成しても良い。
この場合のフローチャートを図8に示す。図8は図7のステップS73をステップS81に置き換えたものであり、それ以外は図7と同じである。
なお、上記の例では、8個の温度検知素子で構成された複眼センサーについて説明したが、8個に限る必要はないことはいうまでもない。
また、上記の例では、連続する4つの領域の温度を検知する4つの温度検知素子であれば、フローチャートでは、この4つの領域の温度低下量の少なくとも一方が閾値を超えた時に、吹き零れが発生したと判定したが、4つの領域の温度低下量の全てが閾値を超えた時に、吹き零れが発生したと判定しても良い。この場合には判定精度が上記の場合よりも向上する。
【0020】
実施の形態2.
実施の形態1では赤外線センサー単体で吹き零れの発生を検知する場合について説明したが、本実施の形態2では,赤外線などの非接触型温度センサーだけでなく天板4の下部に設置された接触型温度センサーの検出結果とを併せて、吹き零れ判定を行う場合について説明する。
【0021】
図9は本発明の実施の形態2における誘導加熱調理器の構成を示すブロック図である。
図9において、図1と同符号は同一または相当部分を示す。
天板4を介して被加熱物3の下部(図1では誘導加熱コイルの中心)に配置された接触型温度センサー(サーミスタ)11が追加されている以外は図1と同様である。また、制御手段8は赤外線センサー単体だけでなく、接触型温度センサー(サーミスタ)11の信号との比較による吹き零れ検出を行う。
吹き零れ発生時には、天板4の側方且つ上方に配置された赤外線センサー1によって検出された温度に急激な低下が起こるが、被加熱物3の下部に配置されたサーミスタ11によって検出された温度には急激な低下は見られない。例えば、被加熱物3を移動させた場合などに移動に伴う揺れによって調理物が被加熱物3から零れた場合に赤外線センサー1の検出値が急激に低下するが、その場合にはサ−ミスタ11も少し遅れつつ同様に低下する。従って、赤外線センサーとサーミスタの出力値を組合せることでより高精度な吹き零れ検知が可能となる。
図10は、本発明の実施の形態2における制御手段の動作を示すフローチャートである。図10において、ステップS101〜S103が追加されている以外は図7と同じである。
次に、本実施の形態3における制御手段の動作について図9〜図10を用いて説明する。
吹き零れが発生するまで制御手段8は実施の形態1と同様に動作し(ステップS71〜S76)、吹き零れが発生した時、制御手段8は実施の形態1と同様に動作した(ステップS71〜S75)後、接触型センサー11の出力を読み込み(ステップS101)、この値を記憶部9に記録した後、さらに前回の接触型温度センサー11の出力を記憶部9から読み込む(ステップS102)。次に、制御手段8は接触型温度センサー11の出力から前回の接触型温度センサー11の出力を差し引いて差分値を算出し、また、予め設定した閾値を記憶部9から読み出して、算出した差分値と閾値とを比較する(ステップS103)。比較の結果、差分値が閾値以上の場合にはステップS103に戻り、再び同様の動作を行う。また、ステップS103の比較の結果、差分値が閾値より小さくなった場合には、吹き零れが発生したと判断して、図7のステップS77と同様の処理を行う。
接触型温度センサー11は赤外線センサー1よりも温度追従性能が劣るため、急激な温度下降をすぐには検出できないが、赤外線センサー1より少し遅れて接触型温度センサー11も急激な温度下降を検出できるようになる。
【0022】
このように、天板の側方且つ上方に配置された赤外線センサーによる温度低下量だけでなく、サーミスタからの検出信号も組合せることで高精度な吹き零れ検知が可能となる。
【0023】
実施の形態3.
本実施の形態3では、吹き零れ時において、音声ガイド並びに操作部に配置されたLEDの発光パターンなどで使用者に対して危険を報知する場合について説明する。
図11は本発明の実施の形態3における誘導加熱調理器の構成を示すブロック図である。
図11において、図1と同符号は同一または相当部分を示す。
音声報知手段12が追加されている以外は図1と同様である。
【0024】
次に、本実施の形態3の動作を説明する。
図12は、本発明の実施の形態3における制御手段の動作を示すフローチャートである。図12において、ステップS121が追加されている以外は図7と同じである。
次に、本実施の形態3における制御手段の動作について図11〜図12を用いて説明する。
吹き零れが発生した時、制御手段8は実施の形態1と同様に動作した(ステップ71〜S77)後、音声報知手段12並びに操作部に配置されたLEDの発光パターンなどの表示手段7に危険の旨を示すメッセージを出力して音声ガイドで報知するとともに表示して使用者の注意を喚起する(ステップS121)。
【0025】
これにより、吹き零れが発生したら即座にこれを検知して使用者に危険を認識させることができるので、使用者の安全性が向上する。
【0026】
実施の形態4.
上記実施の形態では、吹き零れ検知を常時行う場合について説明したが、吹き零れ検知を常時行う必要はなく、特定の調理モードのときに吹き零れ検知を行うように構成してもよい。本実施の形態4では、このような場合について説明する。
【0027】
図1は本実施の形態4でも用いられる。
次に、本実施の形態4の動作を説明する。
使用者が操作部から麺茹でモードや湯沸かしモードなどの特殊な使用モードを選択すると、選択されたモードに連動して吹き零れ検知を行う。
湯沸しモードを設定した場合の動作について以下に説明する。
図13及び図14は、本発明の実施の形態3における制御手段の動作を示すフローチャートである。図14において、ステップS141が追加されている以外は図7と同じである。
次に、本実施の形態3における制御手段の動作について図13〜図14を用いて説明する。
使用者が操作部から麺茹でモードや湯沸かしモードなどの特殊な使用モードを選択すると、制御手段8は図13に示すように湯沸しスイッチが操作されたかを調べる(スイッチS131)。使用者が操作部から麺茹でモードや湯沸かしモードなどの特殊な使用モードを選択すると、選択信号が制御手段8へ送られ、制御手段8は湯沸しスイッチ湯沸しスイッチが操作されたことを認識して湯沸しモードを設定する(ステップS132)。次に、制御手段8は、図14に示すフローに従い、加熱調理を開始した(ステップS71)後、湯沸しモードが選択されたか否かを調べ(スイッチS141)、湯沸しモードが選択されなければ、ステップS76に進んで加熱調理を継続し、ステップS72へ戻り、同じ動作を繰返す。ステップS131において、湯沸しモードが選択されると、ステップS72に進み、以降は図12と同様に動作する。これにより、湯沸しモードに連動して吹き零れ検知を行う。
このように、吹き零れが発生し易い、又は吹き零れを防ぎたいなどの特殊な使用モードと連動して吹き零れ検知機能を動作させることで、吹き零れ検知をより効果的に活用でき、使用者の調理時における利便性の向上が図られる。
【0028】
これにより、使用者は麺茹でや湯沸かし等の吹き零れを防ぎたいときにのみ、吹き零れ検知機能を適用することができ、温度検知機能の精度が向上する。
なお、麺茹でモードについても上記湯沸しモードと同様である。
また、上記の麺茹でモードや湯沸かしモードに代えて吹き零れ検知モードを備えるようにしても良い。吹き零れ検知モードを標準的に備えることで、加熱調理運転と吹き零れ検知モードを連動させることで、加熱調理運転中は常時吹き零れを検知するので、使用者は麺茹でや湯沸かし等のモードを意識することなく簡易に加熱調理を行うことができる。
【0029】
実施の形態5.
加熱調理運転中に大量の吹き零れが発生した場合には、誘導加熱調理器本体が振動する場合がある。そこで、誘導加熱調理器本体の振動を検出し、上記実施の形態で説明した吹き零れ検出と組合せることも可能である。本実施の形態5では、このような形態について説明する。
【0030】
図15は本発明の実施の形態5における誘導加熱調理器の構成を示すブロック図である。図15において、図1と同符号は同一または相当部分を示す。
振動センサー13及び振動検知手段14が追加されている以外は図1と同様である。振動センサー13は天板4の下部に設けられ、振動センサー13は、吹き零れなどが発生した場合には天板の何らかの振動、または重量物の重心の移動などを感知して信号を出力するものである。この振動センサー13として例えばコンデンサー容量の変化を捉えて信号を出力する容量センサーや重量センサーなどが用いられる。振動検知手段14は振動センサー13からの信号を増幅してA/D変換して制御手段8が処理できる信号に変換するものである。
【0031】
次に、本実施の形態5の動作を説明する。
振動センサー13は運転開始前の被加熱物を設置したり、移動したりする場合にも動作するので、そのような場合の誤検知を防止する必要がある。そこで、調理運転開始前には振動検知手段14から振動検知信号を出力しないように構成してもよいし、あるいは制御手段8が調理開始前には振動検知信号を取得しないように構成してもよい。前者の場合には、調理開始モ−ド信号を振動検知手段14に出力することで振動検知手段14が動作を開始するように構成すればよい。また後者の場合には制御手段8が調理開始後に振動検知手段14の出力を取得するように構成すればよい。
【0032】
以下では後者の場合について説明する。
使用者が被加熱物を天板に載置した後、操作部を操作して調理を開始すると、制御手段は、被加熱物の振動が予め設定した閾値以内に安定したら吹き零れ検知モードの動作を開始する。通常運転中、制御手段8は振動検知手段14の出力を閾値と比較して閾値以内であれば、吹き零れなしと判定して加熱調理を継続する。吹き零れが発生すると、振動センサー13は通常加熱では起こり得ない大きな振動を連続的に検知し、振動検知手段も対応する検知信号を出力する。
制御手段8は、前記振動検知手段14からの振動検知信号を連続的に検知し、さらに温度検知手段6の出力から算出される温度低下量により急激な温度低下を検出すると、吹き零れなどの異常が発生したと判定してコイル電流を削減または通電停止を行う。
【0033】
図16は、本発明の実施の形態5における制御手段の動作を示すフローチャートである。図15において、ステップS161〜S162が追加されている以外は図12と同じである。
次に、本実施の形態5における制御手段の動作について図15〜図16を用いて説明する。
まず、制御手段は、まず、加熱調理を開始し(ステップS71)、次に、振動検知手段14の出力を取得し(ステップS161)、予め設定されている閾値を記憶手段9から読み込んでこの閾値を振動検知手段14の出力と比較する(ステップS162)。閾値以内であれば、ステップS72に進み、以後は図12と同様に動作する。また、閾値より大きければ、ステップS76に進む。
【0034】
本実施の形態5によれば、上記のように振動検知手段の出力を実施の形態1〜3及び実施の形態4と組み合わせることにより、さらに精度の高い吹き零れ検知が可能となる。
なお、吹き零れなどの異常を検知した場合には、火力低減または通電停止する場合について説明したが、これに限る必要はなく、システム本体の電源OFFを行うように構成してもよい。これにより、上記と同様の効果を奏することができる。
【0035】
なお、上記の例では、調理モードでソフト的に被加熱物からの吹き零れの判定をON/OFF制御するように構成したが、ハード的に吹き零れの判定をON/OFF制御するように構成しても良い。即ち、吹き零れの判定をON/OFF制御する判定スイッチを操作部に追加的に設ける。このスイッチをONすれば、吹き零れの判定機能が有効になり、OFFすれば、吹き零れの判定機能が無効になるように構成しておく。
これにより、例えば天板4の加熱口に載置する被加熱物3を取り換えるなどの急な温度低下が発生しても、これを吹き零れによる急激な温度低下と誤判定する虞がなくなる。
【符号の説明】
【0036】
1 赤外線センサー、2 誘導加熱コイル、3 被加熱物、4 天板、5 インバーター、6 温度検知手段、7 表示手段、8 制御手段、9 記憶部、10 操作部、11 接触型温度センサー(サーミスタ)、12 音声報知手段、13 振動センサー、14 振動検知手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を加熱する誘導加熱コイルと、
前記誘導加熱コイルの上方で前記被加熱物を載置する天板と、
前記被加熱物の側面から放射される赤外線を直接受光し、この赤外線に基づいて前記被加熱物の温度を検出する温度検知部と、
前記温度検知部の出力に応じて前記誘導加熱コイルに供給する電力を制御するインバーターと、
前記温度検知部の出力情報を記憶する記憶部と、
前記インバーターを制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記温度検知部によって検出された温度情報を取得し、
この温度情報と前記記憶部に記憶された前回の温度情報に基づいて温度の低下量を算出し、さらに算出された温度の低下量が予め設定された閾値を超えた場合には吹き零れが発生したと判定することを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項2】
前記温度検知部は前記被加熱物の側面、前記被加熱物のエッジ及びこのエッジと前記温度検知部自身との間の前記エッジ近傍の天板に至るまでの領域を区分して得られる複数領域のそれぞれを検知する複数の温度検知素子からなる複眼センサーであり、
前記制御手段は、前記複数の温度検知素子の内、予め実施される吹き零れ試験において選択され吹き零れ発生時に前記閾値を超える温度減少量を検知する少なくとも1つの温度検知素子のそれぞれについて、前記記憶部に記憶された前回の検知温度情報と、加熱調理運転において今回取得した検知温度情報に基づいて温度減少量を算出し、さらにこれらの温度減少昇量を前記閾値と比較し、全ての温度減少量が前記閾値を超えた場合、吹き零れなどの異常が発生したと判定することを特徴とする請求項1記載の誘導加熱調理器。
【請求項3】
前記記憶部は、前記選択された温度検知素子のそれぞれについて過去に検知した複数の温度情報の平均値を記憶し、
前記制御手段に代えて、
前記複数の温度検知素子の内、予め実施される吹き零れ試験において選択され、吹き零れ発生時に前記閾値を超える温度減少量を検知する少なくとも1つの温度検知素子のそれぞれについて、前記記憶部に記憶された平均値と前記選択された温度検知素子から取得した検知温度情報とに基づいて温度減少量を算出し、さらにこれらの温度減少量を前記閾値と比較し、全ての温度上昇量が前記閾値を超えた場合、吹き零れなどの異常が前記誘導加熱調理器に発生したと判定する制御手段を備えたことを特徴とする請求項2記載の誘導加熱調理器。
【請求項4】
前記複眼センサーは前記複数の温度検知素子を上下方向に並べて配置したことを特徴とする請求項2記載の誘導加熱調理器。
【請求項5】
前記複眼センサーは前記複数の温度検知素子を上下方向および水平方向に並べて千鳥格子状に配置したことを特徴とする請求項2記載の誘導加熱調理器。
【請求項6】
前記複眼センサーは、前記検知領域に粗密がつくように前記複数の温度素検知子を配置することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の誘導加熱調理器。
【請求項7】
前記複眼センサーは、前記複数の温度検知素子を凹面部の上部又は凸面部の下部に取り付けて構成されることを特徴とする請求項6記載の誘導加熱調理器。
【請求項8】
天板の下部に配置され、天板に載置された被加熱物の温度を検知する接触型温度センサーを備え、
前記制御手段は、前記接触型温度センサーから温度検知信号を取得し、この接触型温度センサーの温度検知信号と前記温度検知手段から取得した検知温度情報とに基づいて吹き零れなどの異常が発生したと判定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の誘導加熱調理器。
【請求項9】
天板の振動を検知する振動検知手段を備え、
前記制御部は、前記振動検知手段から振動検知信号を取得し、且つ前記赤外線検知手段からの検知信号が所定値を超えると吹き零れなどの異常が発生していると判定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の誘導加熱調理器。
【請求項10】
前記制御手段は、前記温度検知部から取得した検知温度情報による判定機能を有効にする調理モードを備えたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の誘導加熱調理器。
【請求項11】
前記制御手段は、前記温度検知部から取得した検知温度情報による判定機能を有効または無効にする切替手段を備えたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の誘導加熱調理器。
【請求項12】
前記制御手段は、吹き零れなどの異常が発生していると判定した時には、前記誘導加熱コイルに流れる電流を削減する、もしくは供給停止するように前記インバーターを制御することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の誘導加熱調理器。
【請求項13】
音声報知手段を備え、
前記制御手段は、吹き零れなどの異常が発生していると判定した時には、前記音声報知手段に異常が発生している旨を出力することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の誘導加熱調理器。
【請求項14】
表示手段を備え、
前記制御手段は、吹き零れなどの異常が発生していると判定した時には、前記表示手段に異常が生じている旨を出力することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の誘導加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−287438(P2010−287438A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140468(P2009−140468)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】