説明

誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害剤及び飲食品

【課題】副作用が少なく、気軽に摂取することのできる誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害剤及び誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害機能を有する飲食品を提供すること。
【解決手段】この誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害剤は、オリーブ果実ポリフェノールを有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリーブ果実ポリフェノールを有効成分とする誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害剤及び、誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害機能を発揮する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素は生体組織において幅広い作用を発揮している。血圧調節や情報伝達のコントロールといった生体防御の役割を担っている一方で、過剰に合成されると炎症や発癌の原因になる。一酸化窒素は、生体組織内で複数の一酸化窒素合成酵素によって合成されており、特に誘導型一酸化窒素合成酵素が多量の一酸化窒素を合成することが知られている。
【0003】
一方、一酸化窒素の過剰合成を制御しうる化学物質を探索すれば、発癌や炎症を抑止できる可能性が高く、興味深い。特に天然素材で食品に該当するものであれば作用が穏やかで、幅広い患者層に対して摂取を勧めることができる。また、健常者についても、日常的に摂取することで発癌や炎症から派生する糖尿病や動脈硬化などの多くの疾患を予防できる可能性が高まる。
【0004】
なお、一酸化窒素合成酵素の阻害作用を有する医薬及び阻害作用を利用した治療方法等について開示されたものがある(例えば、特許文献1、2を参照。)。また、天然素材であって、一酸化窒素合成酵素の阻害作用を有するものについて開示されたものもある(例えば、特許文献3〜6を参照。)。
【0005】
オリーブは地中海地方原産の植物で、その果実は食経験が豊富である。多種類のポリフェノールを含み、抗酸化活性が強いことから、古来より健康の維持や増進によいとされてきた。特に果汁中のポリフェノールに関する研究では、血中の低密度リポプロテインの酸化を抑制する活性をはじめ、体内のあらゆる組織における幅広い抗酸化活性が認められている。実際に地中海地方の人々が肉や脂っこい食事を好むのに動脈硬化などの血管疾患が低い理由として、オリーブ果汁中のポリフェノールの頻繁な摂取が挙げられるようになった。その他にも、糖尿病や癌、アルツハイマーやパーキンソン病などの脳神経疾患、肌あれ、などの予防に効果があるという報告がなされている。
【特許文献1】特開2003−137776
【特許文献2】特表2005−506986
【特許文献3】特開2004−161664
【特許文献4】特開2005−213242
【特許文献5】特開2006−83149
【特許文献6】特開2005−35981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、オリーブ果実ポリフェノールが誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害作用を有することは知られていない。
【0007】
本発明は、特許文献1に記載の次没食子酸ビスマスが有する副作用等、例えば便秘の人、結腸瘻増設術を受けた患者又は消化管憩室のある患者が摂取した場合の嘔吐、食欲不振、歯肉炎、さらに重篤な場合における精神神経障害等が少なく、作用が穏やかで、気軽に摂取することのできる誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害剤及び誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害機能を有する飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害作用というオリーブ果実ポリフェノールについての従来未知の属性を発見し、その属性によりオリーブ果実ポリフェノールが新たな用途(例えば、炎症や発癌の予防、抑制)への使用に適することを見出したことに基づき本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の例示的側面としての誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害剤は、オリーブ果実ポリフェノールを有効成分とすることを特徴とする。
【0010】
本発明の他の例示的側面としての飲食品は、誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害機能を発揮するオリーブ果実ポリフェノールを添加してなることを特徴とする。
【0011】
オリーブ果実ポリフェノールの重量比が飲食品の全体重量に対して20%以下であることがより望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の、オリーブ果実ポリフェノールを有効成分とする誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害剤及び誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害機能を発揮するオリーブ果実ポリフェノールを添加してなる飲食品は、毒性及び副作用が少なく、動脈硬化や高血圧などの血管疾患、アトピー性皮膚炎や日焼け、やけどなどの皮膚疾患、アレルギー性角結膜炎、虹彩炎、毛様体炎、光障害、強膜炎などの炎症性眼疾患、糸球体腎炎、腎盂腎炎、前立腺炎、気管支炎、肺炎、胃腸炎、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、大腸癌、ベーチェット病、膠原病などの自己免疫性疾患等免疫疾患の予防、症状緩和に有用である。
【0013】
また、オリーブ果実ポリフェノールが添加された飲食品を摂取するだけで各種炎症や癌の予防等ができるので、わざわざ予防薬を摂取するよりも簡単である。飲食品として気軽に日々摂取することができ、摂取を習慣付けることも容易になる。摂取量を厳しく気にかける必要もない。
【0014】
さらに、オリーブ果実ポリフェノールは苦味を有しているので、飲食品に添加した場合にその飲食品の味に深みを与え、高級感を増す効果もある。オリーブ果実ポリフェノールの添加量を一定量以下にすることで、飲食品の風味を損なわずに適度な苦味を有する誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害用飲食品とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の有効成分であるオリーブ果実ポリフェノールは、オリーブ果実に、還元剤を添加した水を果実重量と同等重量だけ加えて圧搾し、果肉の絞りかすと油分を除去して得られた水層をエバポレーション、スプレードライ、凍結乾燥などの方法で乾燥して得られる。果実に加える水に還元剤を添加するのは、オリーブ果実ポリフェノールの酸化や酸化に伴うオリーブ果実ポリフェノールの褐変を防止することを目的としている。還元剤はその目的にかなうものであれば何でも利用でき、ビタミンC・システイン・クエン酸などが適したものとして挙げられる。ここで実際に試験に用いたオリーブ果実ポリフェノール標品は、クエン酸濃度を1%とした水をオリーブ果実に加えて圧搾し、水層を分離したのちに、その水層を凍結乾燥して得られたものである。飲食品用途には、この凍結乾燥したオリーブ果実ポリフェノールを用いることが可能である。別の乾燥方法としてスプレードライなどの方法も用いることができる。
【0016】
本発明に係るオリーブ果実ポリフェノールを有効成分とする誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害剤は抗炎症作用のほか、例えばその免疫調節作用等により、免疫調節剤等として有用である。予防又は症状緩和可能な適用疾患として、アレルギー性角結膜炎、虹彩炎、毛様体炎、強膜炎、光障害による角膜炎、白内障、加齢黄斑変性症などの網膜疾患全般、炎症性眼疾患、アトピー性皮膚炎、花粉症、糸球体腎炎、腎盂腎炎、前立腺炎、気管支炎、肺炎、胃腸炎、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、大腸癌、ベーチェット病、膠原病などの自己免疫性疾患や癌、疲労による眼科での調節痙攣、眼精疲労等を挙げることができる。
【0017】
本発明に係るオリーブ果実ポリフェノールを有効成分とする誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害剤は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、溶解剤等の添加剤とともに公知の製剤技術により、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、注射剤等の剤型とすることができる。
【0018】
また、本発明に係る飲食品は、誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害機能を発揮するオリーブ果実ポリフェノールを各種の飲食品に添加することにより製造することができる。例えば、飲食品としては、清涼飲料、菓子、冷菓、乳製品、酒類、肉類等を挙げることができる。オリーブ果実ポリフェノールには多少の苦味があるので、元来その味に苦味がある飲食品(例えばチョコレートやココア等)、味が濃い飲食品(例えば洋酒等)、刺激を有する飲食品(例えば炭酸飲料等)の方が、オリーブ果実ポリフェノール添加による味の変化を相対的に小さくできるので、より望ましい。
【0019】
オリーブ果実ポリフェノールの適正摂取量は、経口摂取の場合、成人一人当たり50〜5000mg/日であり、好ましくは、100〜1000mg/日の有効摂取範囲であるが、各種疾患の予防や症状緩和のために摂取する者の状態に応じて、適宜増減することができる。
【0020】
また、本発明に係る飲食品における誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害機能の有効成分としてのオリーブ果実ポリフェノールの含有量としては、飲食品としての1日の通常摂取量で上記の適正摂取量又は有効摂取量を満たすように含有量を規定することができる。一方、飲食品への添加量が増加すると苦味が強くなり飲食品元来の味に悪影響を与える可能性が高くなるため、オリーブ果実ポリフェノールの添加量は飲食品の全体重量に対し、20%以下の重量比に抑えることが望ましい。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
<オリーブ果実ポリフェノールの誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害作用の確認>
試験群として、マウスマクロファージ由来細胞であるRAW264.7細胞を24ウェルプレートの1ウェル当たり細胞数5×10個になるよう調整し、それらに対し、オリーブ果実ポリフェノールの終濃度が1μg/ml,10μg/ml,100μg/mlとなるように調整された1%ジメチルスルホキシド(DMSO)含有培養液を、それぞれ添加した。そして、この培養液添加後のRAW264.7細胞を37℃、5%CO存在下であらかじめ24時間培養した。なお、DMSO含有培養液は2mMグルタミン、100U/mlのペニシリン、100mlのストレプトマイシンを添加したRPMI−1640培地に非動化した牛胎児血清を10分の1容量混合したものである。
【0022】
RAW264.7細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄後、同濃度のオリーブ果実ポリフェノール存在下で1mlの培養液当たり10μgのリポポリサッカライド(LPS:Salmonella typhimurium Sigma−Aldrich)を添加した。24時間培養して細胞(マクロファージ)を刺激した。
【0023】
その後、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現をウエスタンブロティング法にて検討した。LPSで刺激はするがオリーブ果実ポリフェノールを添加しない群(以下、P群という。)及びLPSで刺激せずまたオリーブ果実ポリフェノールも添加しない対照群(以下、Q群という。)も設けた。いずれの場合にもDMSOを最終濃度0.01%になるように添加した。24時間の刺激の後、培地中へのTNF−アルファの放出と、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を調べた。なお、TNF−アルファの放出は、細胞が刺激された場合に特異的に増加が認められるものである。TNF−アルファ濃度はELISA法により、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現量はウエスタンブロティング法によって解析した。
【0024】
図1は、TNF−アルファ濃度の検出結果を示したものである。対照群としてのQ群に比べ、P群ではTNF−アルファ濃度が著しく上昇しており、LPSによる細胞の刺激によってTNF−アルファが放出されることが認められた。一方、オリーブ果実ポリフェノール添加群(以下、A群という。)ではオリーブ果実ポリフェノール添加量の増加に伴ってTNF−アルファ濃度が低下しており、オリーブ果実ポリフェノールが、濃度依存的にTNF−アルファの培地中への放出を抑制することが確認された。なお、A群のうちオリーブ果実ポリフェノールの添加量が1μg/mlの群をA1群、オリーブ果実ポリフェノールの添加量が10μg/mlの群をA2群、オリーブ果実ポリフェノールの添加量が100μg/mlの群をA3群とした。
【0025】
図2は、各試験群(A群、P群、Q群)における誘導型一酸化窒素合成酵素の発現量を指標する発現量マーク21〜25を示すものである。この図2において、発現量マークが小さいほど、誘導型一酸化窒素合成酵素が阻害されて発現量が小さくなったことを示している。なお、発現量マーク21は対照群としてのQ群、発現量マーク22はP群、発現量マーク23はオリーブ果実ポリフェノール添加群としてのA1群、発現量マーク24はオリーブ果実ポリフェノール添加群としてのA2群、発現量マーク25はオリーブ果実ポリフェノール添加群としてのA3群に対応している。
【0026】
P群に対応する発現量マーク22に比べ、A1群,A2群,A3群に対応する発現量マーク23,24,25の方が小さくなっており、オリーブ果実ポリフェノールに誘導型一酸化窒素合成酵素の発現抑制機能が認められた。以上の結果より、オリーブ果実ポリフェノールによってTNF−アルファの放出が抑制されるとともに誘導型一酸化窒素合成酵素の発現が阻害されることが確認された。
【0027】
[実施例2]
<オリーブ果実ポリフェノールのラットエンドトキシン(LPS)誘発ぶどう膜炎に対する炎症抑制効果の確認>
【0028】
<ぶどう膜炎の誘発とオリーブ果実ポリフェノールの投与>
6週令のルイス雄性ラット(体重200〜250g)の両後肢足蹠皮下に200μlの滅菌蒸留水に溶解させた200μgのLPSを投与してぶどう膜炎を誘発した。その後、ラットの体重1kg当たり2mlのPBS(0.1%ジメチルスルホキシド含有)にオリーブ果実ポリフェノールを溶解させてラットに投与した。オリーブ果実ポリフェノールの投与量はラットの体重1kg当たりにそれぞれ1mg,10mg,100mgとなるように調整し、LPS投与直後に尾静脈投与してこれを投与群(以下、B群という。)とした。なお、B群のうちラットの体重1kg当たり1mgのオリーブ果実ポリフェノールを投与した群をB1群、ラットの体重1kg当たり10mgのオリーブ果実ポリフェノールを投与した群をB2群、ラットの体重1kg当たり100mgのオリーブ果実ポリフェノールを投与した群をB3群とした。LPSを投与しない対照群(以下、R群という。)及びオリーブ果実ポリフェノールを投与しない非投与群(以下、S群という。)にはラット体重1kg当たり2mlのPBS(0.1%ジメチルスルホキシド含有)を、B群と同様のタイムスケジュールで投与した。例数は1群当たり8匹とした。ぶどう膜炎を誘発すると前房水中にマクロファージやTリンパ球などの炎症細胞が浸潤(増加)するとともに、タンパク質濃度が上昇する。ここで、ラットエンドトキシン(LPS)はリポポリサッカライド(LPS)と同義である。
【0029】
<オリーブ果実ポリフェノールの炎症抑制効果>
LPS投与後24時間後に前房水を採取して炎症細胞数を血球計算板で計測した。その計測結果を図3に示す。
【0030】
LPSを投与してぶどう膜炎を誘発すると前房水中に著しい炎症細胞の増加が認められた(図3中S群を参照。)。対照群としてのR群では前房水1ml当たりの炎症細胞数が0.0±0.0×10個だったのに対し、S群では50.9±15.9×10個に増加した。一方オリーブ果実ポリフェノールを投与した投与群(B群)では投与量の増加に対応するように、浸潤する炎症細胞数が抑制された。すなわちB1群では前房水1ml当たりの炎症細胞数は42.1±13.9×10個、B2群では2.5±2.1×10個、B3群では0.5±0.4×10個であった。
【0031】
さらに、ピアス社製の簡易タンパク質測定キットを用いてタンパク質濃度を測定した。その測定結果を図4に示す。
【0032】
前房水中のタンパク質濃度は、対照群としてのR群では1ml当たり0.3±0.1mgであったのに対し、S群では20.3±3.6mgと約70倍に増加した。一方、投与群(B群)では投与量の増加に対応するように、とりわけB2群、B3群において、前房水中のタンパク質濃度の抑制効果が認められた。すなわち、B2群では前房水1ml当たり10.6±3.4mgのタンパク質濃度、B3群では前房水1ml当たり5.8±1.4mgのタンパク質濃度であった。
【0033】
実施例1の結果は、オリーブ果実ポリフェノールが、細胞レベルでLPSの刺激によって誘導される誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を抑制するとともに、刺激された細胞に特異的に認められるTNF−アルファの放出を抑制することを示している。また、実施例2の結果は、オリーブ果実ポリフェノールが、LPSの刺激によって誘発されたラットのぶどう膜炎を顕著に抑制することを示している。したがって、オリーブ果実ポリフェノールが誘導型一酸化窒素合成酵素の過剰発現を抑制し、さらには炎症反応を抑制するというメカニズムを提唱することができた。
【0034】
[実施例3]
<人に対する投与試験>
【0035】
<血管年齢の改善効果の確認>
オリーブ果実ポリフェノールの血管年齢に及ぼす効果を、人ボランティアを対象として解析した。錠剤に加工したオリーブ果実ポリフェノールを、成人ボランティアに一人1日当たり300mg投与し、投与群とした。投与開始前と、投与開始から1ヶ月後とで血管年齢を測定した。一方、オリーブ果実ポリフェノールを投与しない対照群も設け、投与群と同様のスケジュールで血管年齢を測定した。投与群は54名、対照群は26名であった。
【0036】
測定装置は、加速度脈波計(BLOOD CIRCULATION CHECKER:FUTURE WAVE製)を用いた。本装置は末梢血液循環の状態を測定するものである。測定結果は血管年齢が若い方から、A+、A、A−、B+、B+X、B、BX、C+、C、B−、B−X、C−、C−−、E+、E、D+、D、D−、E−、F/F−、G/G−、の21段階で評価される。各評価にAからG/G−まで20点から0点までの点数を付けて統計処理した。オリーブ果実ポリフェノールを1ヶ月投与後のスコアから投与開始前のスコアを減じ、差がプラスになった人を血管年齢が若返った人、つまり血管年齢が改善した人として、その割合を調べた。
【0037】
図5(a),(b)に結果を示すように、オリーブ果実ポリフェノールを投与した投与群では血管年齢が若返った人の割合が64.8%だったのに対し、投与しなかった対照群では血管年齢が若返った人の割合は50%に過ぎなかった。
【0038】
人に対する投与試験から、オリーブ果実ポリフェノールが血管年齢の改善をもたらし、動脈硬化や高血圧等の血管疾患の予防や症状緩和に有用であることが確認された。
【0039】
[実施例4]
<日焼けによる色素沈着の改善効果の確認>
フナコシ株式会社製のUVイルミネータTM20(波長302nm、電圧100V、出力8WのUVランプ6本を搭載した平面型光源)を用いて、被験者の腕にUVを照射して、日焼けによる色素沈着の改善効果の確認を行った。
【0040】
連続的に孔を12個開けた黒色のラバーシート(図示せず)で被験者の一方の腕を覆い、腕から26cm離れた距離から3分間UVを照射した(対照試験)。照射前に全部の孔を粘着性のテープで隠し、孔の下の肌がUVに照射されないようにした。15秒間隔で一つずつ孔の粘着テープを剥がして肌を露出させ、孔の順番に従ってUVの照射時間が長くなるようにした。各孔位置に対応するこの腕のUV照射部位を照射時間の短い方から順に照射部位1p〜照射部位12pとした。
【0041】
照射後7時間後に照射部位1p〜12pを観察し、日焼けによる炎症を確認した。この対照試験では12箇所の照射部位の内、照射時間の長い方から9箇所、すなわち照射部位4p〜12pで炎症反応が認められた(図6(a)参照)。1ヶ月放置し、その後、照射部位の日焼けによる色素沈着を観察したところ、炎症反応が認められた9箇所の照射部位4p〜12pの皮膚すべてに色素沈着が認められた(図6(b)参照)。この1ヶ月の間に、この被験者にオリーブ果実ポリフェノールを投与していない。
【0042】
その後、同じ被験者の他方の腕に同様の条件でUV照射を行い(効果確認試験)、炎症反応を確認した。ここで各孔位置に対応するこの他方の腕のUV照射部位を照射時間の短い方から順に照射部位1q〜照射部位12qとした。対照試験の場合と同様に照射時間の長い方から9箇所、すなわち照射部位4q〜12qで炎症反応が認められた(図6(c)参照)。効果確認試験では炎症反応の確認後から、被験者に1日当たり300mgのオリーブ果実ポリフェノールを1ヶ月間投与し、1ヶ月後に照射部位の色素沈着を調べた。オリーブ果実ポリフェノールを投与した効果確認試験では、色素沈着を起こしていたのは照射時間が長い方から7箇所、すなわち照射部位6q〜12qの皮膚に過ぎず、全体に沈着している色素の量も顕著に抑制されていた(図6(d)参照)。
【0043】
[実施例5]
<オリーブ果実ポリフェノールを添加したマーブルクッキー>
以下、本発明に係る誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害機能を発揮するオリーブ果実ポリフェノールを添加してなる飲食品の例としてのマーブルクッキーを製造する方法について説明する。なお、このマーブルクッキーには元来苦味を有するココアパウダーが使用されており、オリーブ果実ポリフェノールを添加してココア生地を作成してもクッキーの味の変化を相対的に低く抑えることができるばかりでなく、クッキーの味に一層深みと高級感を与えることができて好都合である。
【0044】
<オリーブ果実ポリフェノールを添加したマーブルクッキーの原材料及びその重量比>
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
<オリーブ果実ポリフェノールを添加したマーブルクッキーの製造方法>
1.バターを白っぽいクリーム状になるまでよく混ぜる(プレーン生地、ココア生地とも)。
2.混ぜながらそれぞれに砂糖を2〜3回に分けて加え、滑らかになったら食塩、卵黄をそれぞれ加える。
3.プレーン生地の方は、1/3量の薄力粉をふるいながらバターに加える。ココア生地の方は、あらかじめ薄力粉とココアパウダーを混合後、1/3量をふるいながらバターに加える。
4.残りの薄力粉又は薄力粉とココアパウダーを混合したものもふるいながら加え、粉っぽさがなくなるまで、さっくりと混ぜる。
5.それぞれの生地をボールから取り出し、冷蔵庫で40分ほど冷やす。
6.冷やした2種類の生地を3〜4等分にちぎって、一緒にする(プレーン生地:ココア生地=1:1)。
7.生地を直径3〜4cmの円筒状にし、冷凍庫に入れて固める。
8.生地がよく冷えて硬くなったら、幅7mmに切る。
9.180℃のオーブンに入れ、10〜15分ほど焼く。
【0048】
本実施例5において、オリーブ果実ポリフェノールのココア生地に対する重量比は0.35%としているが、20%を超えるとオリーブ果実ポリフェノールの苦味が強くなりすぎて、マーブルクッキーの風味が損なわれる。
【0049】
[実施例6]
以下、本発明に係る誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害機能を発揮するオリーブ果実ポリフェノールを添加してなる飲食品の他の例としての生チョコレートを製造する方法について説明する。なお、この生チョコレートには元来苦味を有する板チョコレートやココアパウダー、味の濃いラム酒が使用されており、オリーブ果実ポリフェノールを添加しても味の変化を相対的に低く抑えることができるばかりでなく、生チョコレートの味に一層深みと高級感を与えることができて好都合である。
【0050】
<オリーブ果実ポリフェノールを添加した生チョコレートの原材料及びその重量比>
【0051】
【表3】

【0052】
<オリーブ果実ポリフェノールを添加した生チョコレートの製造方法>
1.板チョコレートを刻む。
2.生クリームを温め、刻んだ板チョコレートを加えてクリーム状にする。
3.オリーブ果実ポリフェノール、ラム酒を加えて5℃で30分間冷やす。
4.冷やしたものを小分けして丸める。
5.ココアパウダーをまぶす。
【0053】
本実施例6において、オリーブ果実ポリフェノールの重量比は0.35%としているが、20%を超えるとオリーブ果実ポリフェノールの苦味が強くなりすぎて、生チョコレートの風味が損なわれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、オリーブ果実ポリフェノールを有効成分とする誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害作用を目的とした医薬品、飲食品を人間及び動物に提供することができる。その医薬品、飲食品を人に摂取させれば、目の炎症を緩和したり、末梢血管の状態を改善したり、日焼け後の色素沈着を抑制したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例1の結果を説明する図であって、マウスマクロファージ由来細胞であるRAW264.7細胞において、LPSで刺激された細胞からのTNF―アルファの放出をオリーブ果実ポリフェノールが抑制することを表す図である。
【図2】本発明の実施例1の結果を説明する図であって、マウスマクロファージ由来細胞であるRAW264.7細胞において、LPSで刺激された細胞中の誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を、オリーブ果実ポリフェノールが抑制することを表す図である。
【図3】本発明の実施例2の結果を説明する図であって、6週令のルイス雄性ラット(体重200〜250g)の両後肢足蹠皮下に200μlの滅菌蒸留水に溶解した200μgのLPSを投与して誘発したぶどう膜炎において、前房水中への炎症細胞の浸潤を、オリーブ果実ポリフェノールが抑制することを表す図である。
【図4】本発明の実施例2の結果を説明する図であって、6週令のルイス雄性ラット(体重200〜250g)の両後肢足蹠皮下に200μlの滅菌蒸留水に溶解した200μgのLPSを投与して誘発したぶどう膜炎において、前房水中のタンパク質濃度の増加を、オリーブ果実ポリフェノールが抑制することを表す図である。
【図5】本発明の実施例3の結果を説明する図であって、オリーブ果実ポリフェノールを1ヶ月間投与した複数人数の投与群において、オリーブ果実ポリフェノールを投与しない複数人数の対照群と比較して、際だった血管年齢の改善が認められたことを示す図である。
【図6】本発明の実施例4の結果を説明する図であって、オリーブ果実ポリフェノールを1ヶ月間投与した場合に、日焼けによる色素沈着が顕著に低減される様子を表した図である。
【符号の説明】
【0056】
1p〜12p:照射部位
1q〜12q:照射部位
21〜25:発現量マーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリーブ果実ポリフェノールを有効成分とする、誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害剤。
【請求項2】
誘導型一酸化窒素合成酵素の阻害機能を発揮するオリーブ果実ポリフェノールを添加してなる飲食品。
【請求項3】
前記オリーブ果実ポリフェノールの重量比が全体重量に対して20%以下であることを特徴とする請求項2に記載の飲食品。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−342161(P2006−342161A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2006−155274(P2006−155274)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年4月28日にオルガノ株式会社が発行した「オルエスト オリーブ・アフロディーテ」(サプリメント商品)に関するパンフレット1枚。
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【出願人】(306020335)株式会社アイアンビシャス (2)
【Fターム(参考)】