説明

誘導弾システム

【課題】 妨害波を発射しながら進入する航空機等の目標に対して、システム規模を増大させることなく、かつ1つの射撃単位のシステム構成で対処する誘導弾システムを得る。
【解決手段】 射撃統制装置2内のレーダ波送受信部(1)21からのレーダ波により対象目標を探知し、その目標情報を信号処理部22で取得し、さらに目標位置予測部23を設けて、目標情報から対象目標の位置を得る。そして、対象目標からレーダ波に対する妨害波が発射され目標情報の取得が妨害されている状況では、妨害波の到来角度情報を継続して取得し、これを既に妨害波のない状況で取得済みの位置に対する予測処理のパラメータとして適用することによって、継続的に対象目標の位置を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導弾システムに係り、特に、妨害波を発射しながら進入する航空機等の目標に対処する誘導弾システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、進入する航空機等の対象目標を地上からレーダ等で探知し、誘導弾を発射してこれら対象目標に対処する誘導弾システムが知られている。この種の誘導弾システムは、例えば、レーダ等により対象目標を探知・追尾するとともに誘導弾の射撃を統制する射撃統制装置を主要部とし、さらに誘導弾ならびに誘導弾の発射装置等によって1つの射撃単位が構成される。そして、進入する航空機等の対象目標に対して、例えば、次のような手順により対処がなされる。
【0003】
すなわち、まず、進入する航空機等の対象目標を、レーダ等により遠距離にて探知する。次に、これら対象目標の位置情報、角度情報、及び速度情報等の目標情報を継続的に取得しながら、さらにその進入経路や要撃範囲への接近状況を監視する。ここで、誘導弾による対処が必要と判断されると誘導弾が発射される。あるいは、誘導弾による対象目標の捕捉状況が確認された後に、誘導弾が発射される場合もある。そして、誘導弾は、自身を対象目標に向けて誘導し、対象目標に会合する。
【0004】
一方、進入する航空機等は、上記したような誘導弾システムによる対処を回避するために、妨害波を発射して、レーダ等による継続的な目標情報の取得を妨害しながら進入・接近を試みることがある。このため、従来の誘導弾システムでは、このような対象目標から発射される妨害波の存在する環境においても、その目標情報を確実かつ継続的に取得できるように種々の手法が用いられている。
【0005】
これら手法の一例として、対象目標からのレーダ反射波のレベルが、同目標から発射される妨害波の受信レベルを上回るようにレーダを構成することによって目標情報の取得を継続する、バーンスルーという手法がある(例えば、非特許文献1参照)。また、1つの射撃単位内に複数のレーダを備え、それらを異なった場所に配置しておき、それぞれのレーダで観測した対象目標の方向からその目標情報を取得する手法もある(例えば、特許文献1参照)。
【非特許文献1】Merrill I. Skolnik著、「Introduction to RADAR SYSTEMS」、McGraw-Hill、1962年、p.566
【特許文献1】特開2001−263997号公報(第3ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
妨害波を発射しながら進入する航空機等の目標に対して誘導弾システムにより対処するには、対象目標の目標情報を継続的に取得することが必要である。しかしながら、上記したバーンスルーによる手法では、レーダの送信電力の高出力化やアンテナの大型化等を伴い、誘導弾システム内のレーダの規模が増大していた。また、特許文献1に開示された手法では、複数の射撃単位で誘導弾システムを構成することが必要となり、結果としてシステム全体の規模の増大が避けられなかった。
【0007】
本発明は、上述の事情を考慮してなされたものであり、特に、妨害波を発射しながら進入する航空機等の目標に対して、システム規模を増大させることなく、かつ1つの射撃単位のシステム構成で対処する誘導弾システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の誘導弾システムは、対象目標を探知してその目標情報を取得するとともに、取得した目標情報に基づいて前記対象目標に対する誘導弾による射撃を統制する射撃統制装置と、この射撃統制装置による統制のもとで前記対象目標に向けてホーミング飛翔する誘導弾とを備えた誘導弾システムであって、前記射撃統制装置は、第1のレーダ波を送信するとともにその反射波及び前記第1のレーダ波に対する前記対象目標による妨害波を受信する第1のレーダ波送受信部と、前記妨害波が受信されない場合に前記第1のレーダ波送受信部で受信した反射波から前記対象目標を検出しその目標情報として距離情報、角度情報、及び速度情報を取得するとともに、前記妨害波が受信された場合にこの妨害波の到来角度情報を取得する信号処理部と、前記目標情報からさらに前記対象目標の位置を取得するとともに、この取得した位置に基づいて前記妨害波の到来角度情報をパラメータとする位置予測処理を実行して前記妨害波到来中における前記対象目標の位置を継続的に予測する目標位置予測部と、この予測結果に基づいて前記対象目標が要撃可能範囲に存在するか否かを判定する要撃演算を実行し、前記誘導弾の発射を管制する要撃管制部とを有し、前記誘導弾は、第2のレーダ波を送信するとともにその反射波あるいは前記第2のレーダ波に対する前記対象目標による妨害波を受信する第2のレーダ波送受信部と、これら第2のレーダ波送受信部で受信した反射波あるいは第2のレーダ波に対する前記対象目標による妨害波に基づいて自身を前記対象目標にホーミング誘導する誘導部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、システム規模を増大させることなく、かつ1つの射撃単位のシステム構成で、妨害波を発射しながら進入する航空機等の目標に対処することのできる誘導弾システムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明に係る誘導弾システムを実施するための最良の形態について、図1乃至図3を参照して説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明に係る誘導弾システムの一実施例を示すブロック図である。この誘導弾システム1は、射撃統制装置2、及び誘導弾3から構成されている。
【0012】
射撃統制装置2は、対象目標を探知してその目標情報を取得するとともに、取得した目標情報に基づいて対象目標に対する誘導弾3による射撃を統制する。ここに、射撃統制装置2は、レーダ波送受信部(1)21、信号処理部22、目標位置予測部23、及び要撃管制部24から構成されている。
【0013】
レーダ波送受信部(1)21は、所定の諸元を有する第1のレーダ波を送信するとともに、その反射波及び第1のレーダ波に対する対象目標による妨害波を受信処理して信号処理部22に送出する。信号処理部22は、妨害波が受信されない場合には、受信処理された反射波から対象目標を検出しその目標情報を取得する。取得する目標情報は、対象目標の距離情報、角度情報、及び速度情報としている。同時に、信号処理部22は、対象目標から放射される妨害波を受信した場合には、その到来角度情報を取得し、目標情報と併せて目標位置予測部23に送出する。
【0014】
目標位置予測部23は、受けとった目標情報からさらに対象目標の位置を取得するとともに、この取得した位置と妨害波の到来角度情報とに基づいて対象目標に対する位置予測処理を実行し、妨害波到来中における対象目標の位置を継続的に予測してその結果を要撃管制部24に送出する。要撃管制部24は、この予測結果に基づいて対象目標に対する要撃演算を実行し、誘導弾3の発射を管制する。
【0015】
また、誘導弾3は、対象目標に向けてホーミング飛翔する。ここに、誘導弾3は、レーダ波送受信部(2)31、及び誘導部32から構成されている。レーダ波送受信部(2)31は、所定の諸元を有する第2のレーダ波を送信するとともに、その反射波及び第2のレーダ波に対する対象目標による妨害波を受信処理して誘導部32に送出する。誘導部32は、この受信処理された反射波あるいは妨害波に基づいて、自身を対象目標にホーミング誘導する。
【0016】
次に、前述の図1、ならびに図2の概念図及び図3のフローチャートを参照して、上述のように構成された本発明に係る誘導弾システムの動作を説明する。図2は、この説明における誘導弾システム1と航空機等の対象目標4との関係をモデル化して示す概念図である。すなわち、図2に示すとおり、以降の説明においては、一例として、進入する対象目標4を誘導弾システム1が探知してその目標情報を取得後、さらに妨害波を発射しながら要撃範囲への進入を継続する対象目標4に対処するために、誘導弾3を発射してこれを対象目標4に誘導し、会合させるまでの動作を取り上げている。
【0017】
図3は、上記した場面における、本発明に係る誘導弾システム1の動作を説明するためのフローチャートである。まず、射撃統制装置2内のレーダ波送受信部(1)21から対象領域内に第1のレーダ波が放射され、その反射波が、同じくレーダ波送受信部(1)21で受信される。受信された反射波は、増幅、周波数変換、フィルタリング、及び検波等の受信処理が施され、受信エコー信号として信号処理部22に送出される。信号処理部22は、この受信エコー信号のレベル等を検定して、進入する対象目標4の存在を探知する(ST1)。
【0018】
次に、信号処理部22は、受信エコー信号に対して測距処理、測角処理及び速度抽出処理を行ない、探知した対象目標4の目標情報、すなわち、その距離情報、角度情報、及び速度情報を取得する。取得した目標情報は、目標位置予測部23に送出される(ST2)。この後、進入する対象目標4からは、射撃統制装置2による探知及び目標情報の取得を妨害するために、第1のレーダ波に対する妨害波の発射が開始される。対象目標4は、この妨害波の発射を継続しながら進入を続ける(ST3)。
【0019】
射撃統制装置2のESM機能により、対象目標4の妨害波発射が判定され、この場合に、受信した妨害波は受信処理され、信号処理部22に送られる。信号処理部22は、この妨害波の到来角度情報を取得する。取得した妨害波の到来角度情報は、目標位置予測部23に送出される(ST4)。
【0020】
目標位置予測部23は、信号処理部22から対象目標4の目標情報及び対象目標4から発射された妨害波の到来角度情報を受けとり、これら情報に基づいて対象目標4の位置を継続的に予測する。すなわち、対象目標4の目標情報(距離情報、角度情報、及び速度情報)が取得されている状況では、これら目標情報に基づいて対象目標4の位置を特定する。そして、新たに取得された目標情報により対象目標4の位置を継続的に更新しながら、その進入経路を予測する。
【0021】
一方、対象目標から妨害波が発射されて目標情報の取得が妨害されている状況では、妨害波の到来角度情報に基づいて、対象目標4の位置を予測する。すなわち、すでに取得済みの目標情報によって特定あるいは予測された対象目標4の位置及び進入経路に対して、順次取得される妨害波の到来角度情報をパラメータとする、統計的な手法による予測フィルタ処理を施すことによって、妨害波到来中における対象目標4の位置を継続的に予測する。そして、これらの予測結果は、順次、要撃管制部24に送出される(ST5)。
【0022】
要撃管制部24は、目標位置予測部23から送られてくる対象目標4の予測位置を受けとると、それが所定の要撃範囲内か否かを判定する。要撃範囲内になければ、引き続き妨害波が到来する状況の中で、その到来角度情報に基づいて対象目標4の位置の予測が継続される(ST6のN)。
【0023】
一方、対象目標4が要撃範囲内にある場合には(ST6のY)、誘導弾3は、第2のレーダ波に対する反射波あるいは妨害波を取得し、対象目標4の捕捉を確認する(ST7)。これを受け、要撃管制部24から誘導弾3に対して発射を指示することにより、誘導弾3が対象目標4に向けて発射される(ST8)。
【0024】
この後、誘導弾3は飛翔しながら継続してレーダ波送受信部(2)31を動作させ、第2のレーダ波を送信し得られる反射波を受信して取得した対象目標4の目標情報あるいは妨害波の到来角度情報に基づいて、誘導部32にて誘導演算を継続的に実行し、自身を対象目標4に向けてホーミング誘導する(ST9)。そして、誘導弾3は対象目標4に接近し、会合する(ST10)。
【0025】
以上説明したように、本実施例における誘導弾システムにおいては、射撃統制装置2内のレーダ波送受信部(1)21からのレーダ波により対象目標を探知し、その目標情報を信号処理部22で取得し、さらに目標位置予測部23を設けて、目標情報から対象目標の位置を得ている。そして、対象目標からレーダ波に対する妨害波が発射され目標情報の取得が妨害されている状況では、妨害波の到来角度情報を継続して取得し、これを既に妨害波のない状況で取得済みの位置に対する予測処理のパラメータとして適用することによって、対象目標の位置を継続的に得ている。これにより、妨害波を発射しながら進入する航空機等の目標に対しても、妨害波レベルを上回るようなレーダのパワーを備えることなく対象目標の位置を得ることができ、システム規模の増大を抑えることができる。
【0026】
また、1つの射撃単位の射撃統制装置のレーダ波送受信部(1)21及び信号処理部22によって取得される妨害波の到来角度情報を用いて、目標位置予測部23で距離予測処理が行えるため、異なる場所に設置された別の射撃単位や他システムからの角度情報等を必要としない。これにより、1つの射撃単位による構成で、妨害波を発射しながら進入する航空機等の目標に対処することのできる誘導弾システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る誘導弾システムの一実施例を示すブロック図。
【図2】図1の誘導弾システムと対象目標との関係の一例をモデル化して示す概念図。
【図3】図1の誘導弾システムの動作を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0028】
1 誘導弾システム
2 射撃統制装置
3 誘導弾
4 対象目標
21 レーダ波送受信部(1)
22 信号処理部
23 目標位置予測部
24 要撃管制部
31 レーダ波送受信部(2)
32 誘導部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象目標を探知してその目標情報を取得するとともに、取得した目標情報に基づいて前記対象目標に対する誘導弾による射撃を統制する射撃統制装置と、この射撃統制装置による統制のもとで前記対象目標に向けてホーミング飛翔する誘導弾とを備えた誘導弾システムであって、
前記射撃統制装置は、
第1のレーダ波を送信するとともにその反射波及び前記第1のレーダ波に対する前記対象目標による妨害波を受信する第1のレーダ波送受信部と、
前記妨害波が受信されない場合に前記第1のレーダ波送受信部で受信した反射波から前記対象目標を検出しその目標情報として距離情報、角度情報、及び速度情報を取得するとともに、前記妨害波が受信された場合にこの妨害波の到来角度情報を取得する信号処理部と、
前記目標情報からさらに前記対象目標の位置を取得するとともに、この取得した位置に基づいて前記妨害波の到来角度情報をパラメータとする位置予測処理を実行して前記妨害波到来中における前記対象目標の位置を継続的に予測する目標位置予測部と、
この予測結果に基づいて前記対象目標が要撃可能範囲に存在するか否かを判定する要撃演算を実行し、前記誘導弾の発射を管制する要撃管制部とを有し、
前記誘導弾は、
第2のレーダ波を送信するとともにその反射波あるいは前記第2のレーダ波に対する前記対象目標による妨害波を受信する第2のレーダ波送受信部と、
これら第2のレーダ波送受信部で受信した反射波あるいは第2のレーダ波に対する前記対象目標による妨害波に基づいて自身を前記対象目標にホーミング誘導する誘導部とを有することを特徴とする誘導弾システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−214699(P2006−214699A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30548(P2005−30548)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】