説明

誘導装置

【課題】生物の認知地図のメカニズムを模倣して、移動体を誘導する誘導装置を提供する。
【解決手段】進行方向及び速度を含む移動指示に基づいて移動する移動体を誘導する誘導装置であって、移動体の周囲の地形特徴を検知する画像認識部101と、移動目標となる地形特徴の選択を受け付ける移動目標セレクタ15と、移動目標が選択されていない時に進行方向及び速度を時間経過に応じて変化させて移動指示を出力する固有移動指示部103と、移動目標が選択されていない時に移動指示の時間変化の履歴と移動中に検知された画像認識部101の検知結果とを関連付けて認知記憶情報として記録する空間−時間情報生成部111と、移動目標が選択されている時に認知記憶情報に基づいて、移動体を移動目標へ誘導する移動指示を出力する誘導移動指示部113とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を移動目標へ誘導する誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘導装置は、航空機、船舶、自動車等の移動体のナビゲーションに利用されている。これらの用途の従来の誘導装置は、実空間を直交座標系にモデル化した座標地図を用いたナビゲーションを行う。座標地図を用いたナビゲーションとは、具体的には、移動体が位置する座標を座標地図上で逐次特定し、座標地図上で移動目標の座標への経路を選択するというものである。
【非特許文献1】Juan Liu、「Temporal coding of spatial knowledge for mobile robot navigation」、ROBOTICS AND MACHINE PERCEPTION、SPIE International Technical Group Newsletter、September 2003、vol.12、No.2、p.3,11
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、技術の進歩にともないロボットの利用分野が拡大しているが、利用分野によっては、これまでにない視点での機能が要求されることがある。例えばペット用、玩具用の用途では、生物的な振る舞いが重要視されている。そこでペット用、玩具用等のロボットには、ナビゲーションについても生物の能力を模倣した機能が求められる。
しかしながら、座標地図を用いたナビゲーションは、実空間において人間を始めとする生物が移動目標への経路を決定する能力の基礎となる唯一のメカニズムではない。むしろ、人間等の生物が移動目標への経路を直感的に決定する際には、認知地図に基づくメカニズムが重要であると考えられている。
【0004】
認知地図とは、人間が実空間を移動するとき、視聴覚等により連続的に知覚した周囲の状況と、自らの移動動作とを対応づけることで、実世界の空間構造を経験的に把握したものである。
本発明はかかる点に着目し、生物の認知地図のメカニズムを模倣して、移動体を誘導する誘導装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る移動体は、進行方向及び速度を含む移動指示に基づいて移動する移動体を誘導する誘導装置であって、移動体の周囲の地形特徴を検知する検知手段と、移動目標となる地形特徴の選択を受け付ける選択受付手段と、移動目標が選択されていないときに、進行方向及び速度を時間経過に応じて変化させて移動指示を出力する徘徊移動指示手段と、移動目標が選択されていないときに、前記移動指示の時間変化の履歴と移動中に検知された前記検知手段の検知結果とを関連付け、認知記憶情報として記録する記憶手段と、移動目標が選択されているときに、前記検知手段により検知される地形特徴と前記認知記憶情報とに基づいて、移動体を移動目標へ誘導する移動指示を出力する誘導移動指示手段とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記の構成により、本発明に係る誘導装置は、センサ等の検知手段の検知結果と移動の時間的な対応付けにより空間知識を認知記憶情報として蓄積し、蓄積した認知記憶情報に基づいて移動体を移動目標へ誘導することができる。従って、生物が直感的な経路決定に用いる認知地図のメカニズムを模倣した移動体の誘導が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施形態)
図1は、本発明に係る移動体1の使用形態を示す図である。移動体1は、複数のランドマークが平面上に配置された探索空間で、車輪を駆動させて移動する玩具である。本実施形態では、青、赤、緑、黄の4色に塗り分けられたコーンB、R、G、Yがランドマークとして配置されている。
【0008】
移動体1には、カメラ11、センサー12、探索指示ボタン13、リセットボタン14、移動目標セレクタ15が設けられており、カメラ11及びセンサー12により移動体1の周囲の地形特徴を検知しつつ、探索指示ボタン13、リセットボタン14、及び移動目標セレクタ15に対するユーザ操作に応じて、探索空間の探索と移動目標への移動とを行う。
【0009】
図2は、移動体1において探索空間の探索と移動目標への移動とを実現する構成を示す図である。
移動体1は、内部に画像認識部101、障害物検出部102、固有移動指示部103、障害物回避指示部104、時系列処理部105、切替部106、運転部107、方位センサ108を備える。
【0010】
画像認識部101は、カメラ11からの画像データを解析し、画像データにランドマークが写っている場合にランドマークの色を示す検知信号を出力する。
障害物検出部102は、センサー12により障害物との接触が検知された場合に障害物検知信号を出力する。
固有移動指示部103は、探索指示ボタン13が押下されたON状態にある時(以下、徘徊モード)に移動指示を時系列処理部105へ出力する。本実施形態において移動指示とは、移動体1の方向転換、及び直進を指示する情報であって、固有移動指示部103は、ランダムに進行方向α、及び速度vを決定して方向転換、及び直進を交互に指示する。
【0011】
障害物回避指示部104は、障害物検出部102からの障害物が検知されたことを示す障害物検知信号に応じて、障害物を回避するように進行方向α、速度vを設定した移動指示を出力する。具体的には、現在の進路から180°向きを変えた進行方向αを設定した方向転換の指示の出力後、所定速度を設定した直進の指示を所定時間出力する。
時系列処理部105は、平面上を移動したことにより移動体周囲の地形特徴を経験的に得られる認知記憶情報を蓄積し、蓄積した情報に基づいて空間を認知、誘導する機構を再現する機能ブロックである。
この時系列処理部105は、図3に示すように、内部に空間−時間情報生成部111、空間−時間情報保持部112、誘導移動指示部113、及び選択部114を含み、空間−時間情報の蓄積と、空間−時間情報に基づいたナビゲーションを制御する。
【0012】
空間−時間情報生成部111は、認知記憶情報である空間−時間情報を生成する機能ブロックであり、画像認識部101からの検知信号と固有移動指示部103からの入力に基づいて、あるランドマークから移動を開始してから、他のランドマークが検知されるまでの移動指示の履歴を、空間−時間情報として空間−時間情報保持部112に記録させる。
この空間−時間情報保持部112は、具体的にはHD等の記録装置であり、空間−時間情報生成部111が生成した空間−時間情報が記録される。空間−時間情報保持部112では、複数の空間−時間情報が記録される場合には、空間−時間情報生成部111により生成された順番と対応付けて管理される。また、空間−時間情報保持部112に記録されている空間−時間情報は、リセットボタン14が押下された場合に消去される。
【0013】
図4は、空間−時間情報のデータ構造を示す図である。空間−時間情報は、始点及び終点のランドマークを示す情報と、移動指示の履歴とからなる。各空間−時間情報に含まれる移動指示の数は、始点のランドマークから終点のランドマークまで移動体が移動する間に、固有移動指示部103が進行方向α、速度vを変更した回数と同数である。ここで進行方向αは、北を0°として時計回りに値を増加させた方位角を用いる。移動指示のうち前進を指示したものは、速度vと、一定の値の速度vが継続して空間−時間情報生成部111に入力された時間とを対応付けて記録される。
【0014】
誘導移動指示部113は、探索指示ボタン13がOFF状態にある時(以下、誘導モード)に、移動目標セレクタ15により選択された移動目標のランドマークまで移動体1を誘導するように進行方向α、速度vを設定した移動指示を出力する。
選択部114は、徘徊モード時には固有移動指示部103が出力する移動指示を、誘導モード時には誘導移動指示部113が出力する移動指示を運転部107へ出力する。
【0015】
図2の切替部106は、タイマ及び単極単投スイッチからなり、障害物検出部102から障害物検知信号が出力された場合に、運転部107へ入力する進行方向α、速度vを、タイマTに設定されている所定時間の間、時系列処理部105が出力されるものから、障害物回避指示部104が出力するものへ切り替える。
運転部107は、障害物検出部102、または時系列処理部105から出力される移動指示に基づいて、車輪を駆動させ移動体を移動させる機能ブロックである。
【0016】
方位センサ108は磁気コンパスであり、移動体1の進路の方位を取得する。
以上が移動体1の構成についての説明である。
次に、上述のように構成された移動体1の動作について説明する。先ず、徘徊モードにおける各機能ブロックの動作を説明する。
図5は、徘徊モードにおける固有移動指示部103の処理の流れを示すフローチャートである。
【0017】
固有移動指示部103は、徘徊モードが設定されている期間(ステップS11:Yes)、ステップS11〜ステップS15のループ処理を繰り返し実行する。
ステップS12の処理では、固有移動指示部103は進行方向αを決定し、方向転換を指示する移動指示を出力する。続いて継続時間tを決定した後(ステップS13)、速度vを決定して前進を指示する移動指示を出力する(ステップS14)。その後、ステップS13で決定した継続時間tが経過するか、画像認識部101から何れかのランドマークが検知された検知信号が出力されるまで、前進を指示する移動指示の出力を継続し、継続時間tが経過、若しくは、検知信号が出力された場合(ステップS15:Yes)、ステップS11から処理を繰り返す。以上の処理により、徘徊モードでは、固有移動指示部103から方向転換と前進とを指示する移動指示が交互に出力される。
【0018】
図6は、徘徊モードにおける空間−時間情報生成部111の処理の流れを示すフローチャートである。
空間−時間情報生成部111は、徘徊モードが設定されている期間(ステップS21:Yes)、ステップS21〜ステップS27のループ処理を繰り返し実行する。
空間−時間情報生成部111は、先ず、ステップS22にて画像認識部101から何れかのランドマークが検知された検知信号が出力されるのを待ち受け、検知信号が出力されると(ステップS22:Yes)、受け付けた検知信号により示されるランドマークを始点に登録した空間−時間情報を生成する(ステップS23)。
【0019】
その後、次のランドマークが検知されたことを示す検知信号を画像認識部101から受けうけるまで、ステップS24〜ステップS26のループ処理を繰り返して、その期間中に固有移動指示部103から出力される移動指示を、空間−時間情報へ順に登録する(ステップS24、25)。
次のランドマークが検知された検知信号が出力されると(ステップS26:Yes)、空間−時間情報生成部111は、この検知されたランドマークを空間−時間情報の終点に登録し、この空間−時間情報を空間−時間情報保持部112へ記録する(ステップS27)。以上の処理により、移動体1が2つのランドマーク間を移動する間に出力された移動指示の履歴が空間−時間情報として蓄積される。
【0020】
次に、誘導モードにおける誘導移動指示部113の動作を説明する。
図7は、誘導移動指示部113の処理の流れを示すフローチャートである。
誘導移動指示部113は、誘導モードが設定されると(ステップS31:Yes)、画像認識部101からの検知信号に基づいて、現在何れかのランドマークが検知されているか否かを判定する(ステップS32)。
【0021】
現在何れのランドマークも検知されていない場合には(ステップS32:No)、固有移動指示部103に移動指示を出力させる(ステップS33)。その後、何らかのランドマークが検知されるまで、ステップS31〜ステップS33の処理が繰り返し実行される。
ステップS32の判定で、現在何れかのランドマークが検知されていると判定された場合には(ステップS32:Yes)、空間−時間情報保持部112に蓄積されている複数の空間−時間情報のうち、始点及び終点の何れかが、移動目標セレクタ15により選択されているランドマーク(以下、移動目標という)と一致するものを選択する(ステップS34)。
【0022】
次に、空間−時間情報保持部112に記録されている空間−時間情報のうち、ステップS34で選択したものより前、もしくは後に記録された空間−時間情報に、始点及び終点の何れかが現在検知されているランドマークと一致するものがあるか否かを判定する(ステップS35、ステップS36)。
ステップS34で選択したものより前に、始点及び終点の何れかが現在検知されているランドマークと一致する空間−時間情報が記録されていた場合には(ステップS35:Yes)、ステップS37及びステップS38の処理が実行される。
【0023】
ステップS37の処理では、ステップS35で検出された現在位置のランドマークを含む空間−時間情報からステップS34で選択した移動目標を含む空間−時間情報までの間に記録されている空間−時間情報のうち、移動経路が重複している区間に相当する空間−時間情報を除外したものを読み出し対象に選択する。ステップS38の処理では、重複区間を除外した後の読み出し対象の空間−時間情報を、空間−時間情報保持部112に記録されている順に読出し、それぞれの空間−時間情報に登録されている移動指示を、空間−時間情報に登録されている順に運転部107へ出力する。このとき、前進を指示する移動指示については、空間−時間情報に記録されている速度vの値を、空間−時間情報に記録されている時間tの期間、出力する。
【0024】
ステップS34で選択したものより後に、始点及び終点の何れかが現在検知されているランドマークと一致する空間−時間情報が記録されていた場合には(ステップS36:Yes)、ステップS39及びステップS40の処理が実行される。
ステップS39の処理では、ステップS34で選択した移動目標を含む空間−時間情報からステップS36で検出された現在位置のランドマークを含む空間−時間情報までの間に記録されている空間−時間情報のうち、移動経路が重複している区間に相当する空間−時間情報を除外したものを読み出し対象に選択する。ステップS40の処理では、重複区間を除外した後の読み出し対象の空間−時間情報を、空間−時間情報保持部112に記録されている順と逆の順番で読出し、読み出した空間−時間情報に登録されている移動指示を、移動経路を遡るように運転部107へ出力する。
【0025】
空間−時間情報に登録されている移動指示を、移動経路を遡るように移動指示を出力するとは、具体的には、空間−時間情報に登録されている移動指示を、2n−1番目、2n番目、2n−3番目、2n−2番目、・・・3番目、4番目、1番目、2番目の順に移動指示を出力する。ここで、本実施形態において、空間−時間情報に奇数番目に登録されている移動指示は、方向転換を指示するものであり、偶数番目に登録されている移動履歴は、前進を指示するものである。また、このとき、誘導移動指示部113は、移動指示のうち方向転換を指示するものについては、空間−時間情報に登録されている進行方向αの向きを180°変えた値を設定して出力し、前進を指示するものについては、空間−時間情報に記録されている速度vのそのまま値を、空間−時間情報に記録されている時間tの期間、出力する。
【0026】
以上の処理により、現在検知されているランドマークから、移動目標セレクタ15により選択されているランドマークまで移動体1を誘導するように進行方向α、速度vを設定した移動指示が出力される。
以下に、上述のように構成された移動体1の動作例を、図8〜10を用いて説明する。
先ず、徘徊モードが設定されると移動体1は、固有移動指示部103が値をランダムに設定して出力した移動指示に基づいて探索空間内を徘徊する。図8(a)は、徘徊モードが設定された移動体1の移動軌跡の一例を示す図である。図8(a)の例では、移動体1は、固有移動指示部103がランダムに出力する移動指示に基づいて“START”の位置からP1、P2、P3、及びP4を経由して“STOP”の位置まで移動する。
【0027】
この移動中に、画像認識部101では、P1の位置で緑色(G)のランドマーク、P2及びP3の位置で青色(B)のランドマーク、P4の位置で黄色(Y)のランドマークを検知して検知信号を出力する。この結果、図8(a)に示すように移動体1が移動する間に、空間−時間情報保持部112には、図9に示す空間−時間情報がd1〜d3の順に記録される。d1の空間−時間情報は、移動体1がP1の位置からP2の位置へ移動する間に生成される空間−時間情報であり、d2は移動体1がP2からP3へ移動する間に生成されるものであり、d3は移動体1がP3からP4へ移動する間に生成されるものである。これらd1〜d3の空間−時間情報に含まれる移動指示の履歴には、始点のランドマークにおける方向転換を指示する移動指示が先頭に登録され、前進を指示する移動指示であって、この移動指示に基づく移動の結果、終点のランドマークが検知される位置に達するものが履歴の末尾に登録されている。また、移動体1が“STOP”の位置にきた時点で、空間−時間情報生成部111では、d4の状態の空間−時間情報が生成途中で保持されている。このd4の空間−時間情報は終点が未登録である。
【0028】
次に、図8(a)の“STOP”の位置にきたときに動作モードが徘徊モードから誘導モードに切り替えられた場合の移動体1の動作について説明する。
移動体1は、誘導モードに切り替えられると、移動目標セレクタ15により設定された移動目標への移動を開始する。ただし、誘導モードに切り替えられた位置で、移動体1の周囲に何れのランドマークも検知されていない場合、移動体1は、誘導モードへの切換え後も固有移動指示部103が出力する移動指示に基づく移動を継続し、何れかのランドマークが検知された時点から、そのランドマークを起点として誘導移動指示部113による誘導に基づいた移動を開始する。
【0029】
ここでは先ず、移動目標セレクタ15により移動目標として黄色のランドマークが指定されている場合の動作について説明する。
図8(b)は誘導モード時に移動目標として黄色のランドマークが指定された場合の移動軌跡の一例を示す図である。図8(b)の例では、誘導モードへの切換え後、固有移動指示部103が出力するランダムな移動指示に基づくいて、誘導モードに切り替えられた位置から青色のランドマーク近傍のP5の位置へ移動する。
【0030】
その後、P5の位置において誘導移動指示部113が空間−時間情報保持部112に記録されている空間−時間情報を検索し、現在位置で検知されている青色のランドマークから移動目標である黄色のランドマークへの移動の履歴であるd3の空間−時間情報を検出し、d3の空間−時間情報に登録されている移動指示に従って、図10(a)に示すように、移動指示を1〜4の順に出力する。この結果、移動体1は、P5の位置から黄色のランドマークの近傍まで移動する。
【0031】
次に、図8(a)の“STOP”の位置で、移動目標セレクタ15により移動目標として緑色のランドマークが指定されている場合の動作について説明する。
図8(c)は誘導モード時に移動目標として緑色のランドマークが指定された場合の移動軌跡の一例を示す図である。先ず、移動体1は、図8(b)の例と同様に、固有移動指示部103が出力するランダムな移動指示に基づいて、誘導モードに切り替えられた位置から青色のランドマーク近傍のP5の位置へ移動する。
【0032】
その後、P5の位置において誘導移動指示部113が空間−時間情報保持部112に記録されている空間−時間情報を検索し、移動目標である緑色のランドマークから現在位置で検知されている青色のランドマークへの移動の履歴であるd1の空間−時間情報を検出する。検出されたd1の空間−時間情報は、移動目標から現在位置への移動の経験に基づいて記録された情報であるため、誘導移動指示部113は、d1の移動経路を遡るように、図10(b)の1〜4の順に移動指示を出力する。ここで、図10(b)の1の移動指示は、d1に含まれる移動指示3の進行方向を180°逆に設定したものであり、図10(b)の2の移動指示は、d1に含まれる移動指示4に基づいたものであり、図10(b)の3の移動指示は、d1に含まれる移動指示1の進行方向を180°逆に設定したものであり、図10(b)の4の移動指示は、d1に含まれる移動指示2に基づいたものである。これらの移動指示に基づいて、移動体1は、P5の位置から緑色のランドマークの近傍まで移動する。
【0033】
以上、本実施形態によれば、人間が実空間における空間−時間的経験を、認知記憶情報に変換して記憶し、認知記憶情報に基づいて移動経路を決定するする能力を模擬的に再現することが出来る。
尚、本実施形態では、誘導モードで移動体の周囲にランドマークが検知されていない状態であれば、固有移動指示部103にランダムな移動指示を出力させて、何れかのランドマークが検知されるまで移動することで、誘導の起点となるランドマークへ移動するとした。このような構成によれば、空間−時間情報を蓄積した後の移動体を、誘導モードに設定して探索空間内の任意の位置に置いた場合にも、移動目標へ移動が可能であるという特徴がある。
【0034】
しかし、徘徊モードでの移動の途中に探索指示ボタン13、及び移動目標セレクタ15を操作して誘導モードに切り替える場合には、徘徊モードでの移動により直前に通過したランドマークへ引き返すことで、固有移動指示部103が出力する移動指示に基づいたランダムな移動の必要が無く、より確実に移動目標へ移動することができる。
図8(d)は、徘徊モードでの移動の途中で誘導モードに切り替えられた時に、周囲にランドマークが検知されない場合、直前に通過したランドマークへ引き返してから移動目標へ移動する変形例の移動軌跡を示す図である。ここでは、緑色のランドマークが移動目標に設定されているものとする。
【0035】
このような変形例では、誘導モードに切り替えられた時に、移動体の周囲にランドマークが検知されていない状態であれば、誘導移動指示部113は、先ず、図9(d)に示す空間−時間情報生成部111が生成中のd4の空間−時間情報に基づいて、d4の移動経路を遡るように、図10(c)の1、2の移動指示を出力する。図10(c)の1の移動指示は、d4に含まれる移動指示1の進行方向を180°逆に設定したものであり、図10(c)の2の移動指示は、d4に含まれる移動指示2に基づいたものである。この2つの移動指示に基づいて、変形例に係る移動体は、黄色のランドマークの近傍へ移動することができる。
【0036】
その後、黄色のランドマークの近傍位置において誘導移動指示部113が空間−時間情報保持部112に記録されている空間−時間情報を検索し、青色のランドマークから現在位置で検知されている黄色のランドマークへの移動の履歴であるd3の空間−時間情報、及び、移動目標である緑色のランドマークから青色のランドマークへの移動の履歴であるd1の空間−時間情報を順に読み出す。
【0037】
誘導移動指示部113は、これら読み出した、空間−時間情報に基づいて、d3の移動経路を遡るように、図10(c)の3〜6の順に移動指示を出力し、続いて、d1の移動経路を遡るように、図10(c)の7〜10の順に移動指示を出力する。これらの移動指示に基づいて、移動体1は、黄色のランドマークの近傍から緑色のランドマークの近傍まで移動する。
【0038】
ここでd1の終点、及びd3の始点が共に青色のランドマークであるため、d1及びd3の間に記録されている空間−時間情報、即ちd2の空間−時間情報は、移動経路が重複した区間に相当する空間−時間情報であるとして、誘導移動指示部113による読み出し対象から除外されている。
(その他の変形例)
本発明を上記の実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の実施形態に限定されないのはもちろんである。以下のような場合も本発明に含まれる。
【0039】
(1)本発明は、各実施形態で説明したフローチャートの処理手順が開示するコンテンツの記録方法であるとしてもよい。また、前記処理手順でコンピュータを動作させるプログラムコードを含むコンピュータプログラムであるとしてもよいし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。
また、本発明は、前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号をコンピュータ読み取り可能な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray Disc)、半導体メモリなど、に記録したものとしてもよい。
【0040】
また、本発明は、前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号を、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク等を経由して伝送するものとしてもよい。
また、前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号を前記記録媒体に記録して移送することにより、又は前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号を前記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
【0041】
(2)移動指示の時間変化に対応させて認知記憶情報に記録する地形特徴としては、コーン等のランドマークに限らず検知手段により検知される地形特徴であれば他のものを用いてもよい。例えば、検知手段としてカメラ及び画像認識部101に加えて重力センサ等を移動体に追加し、路面の傾斜角度を地形特徴としてとらえ、検知した傾斜角度の変化を移動履歴の時間変化に対応させて記録することで、本発明を適用することができる。
【0042】
(3)検知手段の有効範囲は、移動体の大きさ及び速度から決定することができる。障害物の検知後に移動体が障害物に衝突することなくその移動を制動できる程度の距離を有効範囲とするとよい。ただし、有効範囲を広く取りすぎると、認知記憶情報として移動体からはなれたランドマークの検出も記録されるようになるため、これを用いて移動体を誘導する際に、誘導の精度が低下することになる。そこで、有効範囲の異なる複数のセンサを設け、有効範囲の広いものの検知結果を障害物の回避に用い、有効範囲の狭いものの検知結果を、認知記憶情報の蓄積及び移動体の誘導に用いるとしてもよい。これにより、障害物を適切に回避しつつ、誘導の精度を高めることができる。尚、ここで有効範囲とは、センサの検知距離、方向を示す。上記実施形態では、移動体正面に設けたカメラを認知記憶情報の蓄積及び誘導に用い、移動体側面を検知するセンサを障害物の回避に用いている。
【0043】
(4)上記の実施形態では、移動指示の履歴はランドマークを検知した区間毎に空間−時間情報として分割して記録したが、移動指示の履歴は移動体の全ての行動を連続的に記録した1のレコードであってもよい。
(5)上記実施形態では、移動指示における進行方向の指定に、方位角を用いたが、進行方向の指定には、進行方向をそれまでの針路から変更する角度や操舵角を用いることも可能である。
【0044】
(6)誘導モードにおける空間−時間情報の検索は移動目標側から開始しても現在位置側から開始してもよい。さらに、移動目標と現在位置との双方から空間−時間情報保持部112の記録内容を検索開始し、双方から同一の空間−時間情報へ達するルートを用いて移動体を誘導するとしてもよい。
(7)上記実施形態では、ランドマークが配置された平面上を水平移動する車両の誘導について説明したが、本発明は、車両に限らず、2速歩行、4速歩行等で平面上を移動する移動体に適用してもよい。更には、進行方向として水平方向及び上下方向の角度を指定する移動指示に基づいて、3次元空間内を移動する航空機等の誘導に、本発明を適用することもできる。
【0045】
(8)上記実施形態、及び上記変形例をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、移動体を移動目標へ誘導する技術として有用であり、特に、生物の認知地図のメカニズムを模倣して、移動体を誘導することにより、ペット用ロボット、玩具用ロボット等のナビゲーションに応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態に係る移動体1の使用形態を示す図
【図2】移動体1において探索空間の探索と移動目標への移動とを実現する構成を示す図
【図3】時系列処理部105の詳細な構成を示す図
【図4】空間−時間情報DBのデータ構造をを示す図
【図5】固有移動指示部103の処理の流れを示すフローチャート
【図6】空間−時間情報生成部111の処理の流れを示すフローチャート
【図7】誘導移動指示部113の処理の流れを示すフローチャート
【図8】(a)は徘徊モード時の移動軌跡の一例を示す模式図 (b)は誘導モード時に移動目標として黄色が指定された場合の移動軌跡の一例を示す模式図 (c)は誘導モード時に移動目標として緑色が指定された場合の移動軌跡の一例を示す模式図 (d)は誘導モード時に移動目標として緑色が指定された場合の変形例に係る移動軌跡を示す模式図
【図9】図8(a)に示す移動の結果生成される空間−時間情報を示す図
【図10】(a)は移動目標として黄色が指定された場合に誘導移動指示部113が出力する移動指示を示す図 (b)は移動目標として緑色が指定された場合に誘導移動指示部113が出力する移動指示を示す図 (c)は移動目標として緑色が指定された場合に変形例に係る誘導移動指示部113が出力する移動指示を示す図
【符号の説明】
【0048】
1 移動体
11 カメラ
12 センサー
13 探索指示ボタン
14 リセットボタン
15 移動目標セレクタ
101 画像認識部
102 障害物検出部
103 固有移動指示部
104 障害物回避指示部
105 時系列処理部
106 切替部
107 運転部
108 方位センサ
111 空間−時間情報生成部
112 空間−時間情報保持部
113 誘導移動指示部
114 選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向及び速度を含む移動指示に基づいて移動する移動体を誘導する誘導装置であって、
移動体の周囲の地形特徴を検知する検知手段と、
移動目標となる地形特徴の選択を受け付ける選択受付手段と、
移動目標が選択されていないときに、進行方向及び速度を時間経過に応じて変化させて移動指示を出力する徘徊移動指示手段と、
移動目標が選択されていないときに、前記移動指示の時間変化の履歴と移動中に検知された前記検知手段の検知結果とを関連付け、認知記憶情報として記録する記憶手段と、
移動目標が選択されているときに、前記検知手段により検知される地形特徴と前記認知記憶情報とに基づいて、移動体を移動目標へ誘導する移動指示を出力する誘導移動指示手段とを備えることを特徴とする誘導装置。
【請求項2】
前記誘導移動指示手段は、現在位置で検知される地形特徴と一致する地形特徴が検知された地点から前記移動目標である地形特徴が検知された地点までの区間の移動指示の履歴を、認知記憶情報から取得し、取得した履歴に示される移動指示を、当該履歴の順に出力することを特徴とする請求項1に記載の誘導装置。
【請求項3】
前記誘導移動指示手段は、前記移動目標である地形特徴が検知された地点から現在位置で検知される地形特徴と一致する地形特徴が検知された地点までの区間の移動指示の履歴を、認知記憶情報から取得し、取得した履歴に示される移動指示と進行方向が逆方向である移動指示を、当該履歴と逆の順に出力することを特徴とする請求項1に記載の誘導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−213293(P2007−213293A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32062(P2006−32062)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「人間情報コミュニケーションの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】