説明

誘電体の製造方法、及びその前駆体組成物とその製造方法

【課題】 SnTiO系の酸化物誘電体の製造方法において、高純度で均一な前駆体組成物及びその製造方法を提供することと、この前駆体組成物を低温で熱処理することにより低コストで生成でき、かつ比誘電率ε及び品質係数Q値が高く、温度安定性に優れた酸化物誘電体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 前駆体組成物は、Sn及びTiを構成元素とするパイロクロア型酸化物からなり、化学式がSnTiで表される。この前駆体組成物を製造するには、スズ塩化物又はフッ化物とチタン塩化物又はアルコキシドとをアンモニア水あるいは水酸化カリウム溶液の溶媒中で混合し、反応させた後乾燥・焼成する。化学式SnTiOで表される誘電体を製造方法するには、前記前駆体組成物を用い、その前駆体を800℃以下の温度で熱処理することにより生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波誘電体の製造方法、及びその前駆体組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信や衛星通信等の利用の拡大に伴い、各種のマイクロ波及びミリ波帯域を利用した通信システムが急速に発展しつつある。
【0003】
マイクロ波帯域を利用する機器においては、マイクロ波誘電体材料が広く利用されている。既知のこのような材料の一つとして、SnTiO系酸化物誘電体が挙げられるが、この材料は結晶中への不純物の混入等で、比誘電率εや無負荷品質係数Q(Q)、共振周波数の温度係数τといった特性が著しく低下するという問題がある。
【0004】
SnTiO系酸化物誘電体の製造方法として、例えば、非特許文献1には、99.9%以上の純度を有する酸化チタン及び酸化スズを原料として用いることが開示されている。その製造工程は、上記の原料を所定量秤量して6時間湿式混合し、1100℃での仮焼を施した後、1450℃の温度で24時間焼成し急冷して焼結させる、というものである。
【0005】
しかしながら、この工程においては、湿式粉砕混合であるため、例えばボールミルを用いる場合には、ボールを構成するジルコニアやアルミナなどの不純物が混入するおそれがある。さらに、粉砕、混合に6時間もの長時間を要すること、1100℃での仮焼を要すること、仮焼後に微粉砕工程を要すること、焼結温度に1450℃の高温を要することなどから、設備コスト、ランニングコストの低減が困難である。このように不純物混入の抑制による材料特性の改善及びコスト低減が、課題となっている。
【0006】
一般的に、高純度の金属酸化物を得る方法として、ゾル・ゲル法等の溶液中での合成方法が挙げられる。これを誘電体に応用した技術が、多数開示されているものの、SnTiO合成については実施例がない。
【0007】
特許文献1には、パイロクロア型SnTiを前駆体としてそれを酸素ガスまたは酸素ガスと不活性ガスの混合ガス中で熱処理することによりSnTiOを生成する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、上記前駆体SnTiを得るためには、900℃〜1000℃で5〜20時間の焼成を要し、焼成試料中に不純物として金属Snが含まれてしまうといった問題点がある。
【0009】
【非特許文献1】Hirata,T.;Ishioka,K.;Kitajima,M.;Doi,H., Physical Review B, vol.53(1996),pp.8442−8448.
【特許文献1】特開2004−344733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の技術的課題は、SnTiO系の酸化物誘電体の製造方法において、高純度で均一な前駆体組成物及びその製造方法を提供することと、該前駆体組成物を従来の方法よりも低温で熱処理することにより低コストで生成でき、かつ比誘電率ε及び品質係数Q値が高く、温度安定性に優れた酸化物誘電体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水または有機溶媒中に原料を溶融させ高温高圧下での反応を利用することにより合成された化合物を前駆体とし、それを焼成に供することを検討した結果なされたものである。
【0012】
即ち、本発明は、Sn及びTiを構成元素とするパイロクロア型酸化物からなる前駆体であって、その化学式がSnTiで表されることを特徴とする前駆体組成物である。
【0013】
また、本発明は、前記前駆体組成物を製造する方法であって、スズ塩化物又はフッ化物とチタン塩化物又はアルコキシドとをアンモニア水あるいは水酸化カリウム溶液の溶媒中で混合し、反応させた後乾燥・焼成することを特徴とする前駆体組成物の製造方法である。
【0014】
また、本発明は、化学式SnTiOで表される誘電体の製造方法において、請求項1に記載の前駆体組成物を用い、その前駆体を300℃以上の温度で熱処理することにより誘電体を生成することを特徴とする誘電体の製造方法である。
【0015】
さらに、本発明によれば、前記誘電体の製造方法において、前記誘電体粉末を成形して焼結することを特徴とする誘電体の製造方法が得られる。
【0016】
本発明では、従来方法である、出発原料の仮焼及び焼結による固相拡散で粒成長する反応と異なり、溶液中の均一系反応により酸化物が生成でき、高純度で均一な粒成長の抑制されたSnTi系酸化物誘電体粉末が得られる。高純度で粒度分布が狭い微粉末が得られることから、従来の方法に比較して低い焼成温度でも十分に緻密化し、製造コストを低減することができる。また、このようにして得られた焼結体は、均一な組織を有し、高特性発現に繋がる、と言える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スズ塩化物又はフッ化物及びチタン塩化物又はアルコキシドをアンモニア水又は水酸化カリウム溶液の溶媒中で混合し、高温高圧下での反応を利用することにより合成された化合物を前駆体とし、それを熱処理して生成した酸化物粉末を用いることで、従来と比べて極めて低温での焼結においても十分に緻密化し、比誘電率ε、Q、共振周波数の温度係数τといった特性が優れたマイクロ波誘電体SnTiOの製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明についてさらに詳しく説明する。
【0019】
本発明の前駆体動組成物は、Sn及びTiを構成元素とするパイロクロア型酸化物からなり、その化学式がSnTiで表される構成である。この前駆体組成物を製造するには、スズ塩化物又はフッ化物とチタン塩化物又はアルコキシドとをアンモニア水あるいは水酸化カリウム溶液の溶媒中で混合し、反応させた後乾燥することによる。この方法は、溶液中の均一系反応により酸化物が生成でき、高純度で均一な粒成長の抑制されたSnTi系酸化物誘電体粉末からなる前駆体動組成物が得られる。
【0020】
さらに、本発明の誘電体の製造方法は、この前駆体組成物を用いて、300℃以上の温度で熱処理することによって、化学式SnTiOで表される誘電体粉末を製造する方法である。
【0021】
さらに、この誘電体粉末を成形して焼結して酸化物誘電体として用いても良い。その場合、前駆体組成物を300℃で熱処理したSnTiO粉末を用いることにより、800℃での焼結が可能であり、従来の方法に比較して低温で十分に緻密化したSnTiO焼結体が得られる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0023】
(実施例1)
1mol/lのSnF水溶液10mlと、1mol/lのTi(i−CO)エタノール溶液10mlとを混合し充分に攪拌した。この混合溶液にアンモニア水を溶媒として加えたものをオートクレーブへ移し、180℃で1時間のマイクロ波加熱を伴うソルボサーマル合成を行った後、ろ過・水洗を行い、105℃で一昼夜乾燥することにより、本発明の前駆体組成物SnTiを得た。この粉末のX線回折測定結果を図1に示す。
【0024】
得られた前駆体組成物をアルミナ坩堝に投入し、大気雰囲気中300℃で2時間かけて熱処理を行った。熱処理後の粉末についてX線回折装置(CuKα線を使用)を用いて構造同定を行った結果、SnTiOであることが確認された。またこの粉末の粒度分布を測定したところ、D50値が0.10μmであり、粒度形状は非常に小さく、分布も極めて狭いものであった。続いてこの酸化物粉末を、バインダー混合、成形し、800℃で2時間焼結した。
【0025】
(実施例2)
1mol/lのSnCl・2HO水溶液10mlと、1mol/lのTi(i−CO)エタノール溶液10mlとを混合し充分に攪拌した。この混合溶液に水酸化カリウム溶液を溶媒として加えたものをオートクレーブへ移し、200℃で1時間のマイクロ波加熱を伴うソルボサーマル合成を行った後、ろ過・水洗を行い、105℃で一昼夜乾燥することにより、本発明の前駆体組成物SnTiを得た。
【0026】
得られた前駆体組成物をアルミナ坩堝に投入し、実施例1と同様に大気雰囲気中300℃で2時間かけて熱処理を行った。熱処理後の粉末についてX線回折装置を用いて構造同定を行った結果、SnTiOであることが確認された。この粉末の粒度分布を測定したところ、D50値が0.11μmであり、粒度形状は非常に小さく、分布も極めて狭いものであった。続いてこの酸化物粉末を、バインダー混合、成形し、800℃で2時間焼結した。
【0027】
(比較例1)
純度が99.9%以上のSnO、TiOをSnTiOの組成となるように秤量し、ボールミルを用いて20時間混合し、1100℃で仮焼を施した。続いて、仮焼粉をボールミルで24時間粉砕し、平均粒径が1.2μmの酸化物粉末を得た。この酸化物粉末を、実施例と同様に、バインダー混合、成形し、1450℃の温度で5時間焼成した。なお、焼結工程において、1450℃に満たない温度での焼成では単相SnTiO焼結体を得ることはできなかった。
【0028】
(比較例2)
純度が99.9%以上のSnO、TiOをSnTiOの組成となるように秤量し、ボールミルを用いて20時間混合し、1100℃で仮焼を施した。続いて、仮焼粉をボールミルで36時間粉砕し、平均粒径が1.0μmの酸化物粉末を得た。比較例1と同様にして、酸化物誘電体を作製した。なお、この場合においても、1450℃に満たない温度での焼成では単相SnTiO焼結体を得ることはできなかった。
【0029】
このようにして得られた、実施例、比較例の各酸化物誘電体について、焼結温度、及び、焼結体の平均の結晶粒径、比誘電率ε、品質係数Q、共振周波数の温度係数τをそれぞれ評価した。焼結密度はアルキメデス法により測定した。また、τは23〜80℃の温度領域で測定し、τ=(f80−f23)/(f23×ΔT)、ΔT=80℃−23℃=57℃にて算出した。これらの結果を次の表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
上記表1の結果によれば、本発明の製造方法を用いることによって結晶粒径の増加が抑制されるとともに、焼結密度の向上が認められる。また、ε、Q、τのいずれの特性についても比較例よりも優れた特性を発現していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上の説明の通り、本発明の前駆体組成物、その製造方法、それを用いた誘電体の製造方法は、マイクロ波誘電体の製造に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】SnFとTi(i−CO)を出発原料としアンモニア水を溶媒としてマイクロ波加熱を伴うソルボサーマル合成を行うことにより生成した前駆体SnTiのX線回折測定結果を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn及びTiを構成元素とするパイロクロア型酸化物からなる前駆体であって、その化学式がSnTiで表されることを特徴とする前駆体組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の前駆体組成物を製造する方法であって、スズ塩化物又はフッ化物とチタン塩化物又はアルコキシドとをアンモニア水あるいは水酸化カリウム溶液の溶媒中で混合し、反応させた後乾燥・焼成することを特徴とする前駆体組成物の製造方法。
【請求項3】
化学式SnTiOで表される誘電体の製造方法において、請求項1に記載の前駆体組成物を用い、その前駆体を300℃以上の温度で熱処理することにより誘電体粉末を生成することを特徴とする誘電体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の誘電体の製造方法において、前記誘電体粉末を成形して焼結することを特徴とする誘電体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−18982(P2009−18982A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233113(P2007−233113)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】