説明

誘電体セラミックおよびその製造方法ならびに積層セラミックコンデンサ

【課題】積層セラミックコンデンサにおいて、誘電体セラミック層の厚みを1μm未満と薄くしても、良好な寿命特性が得られるようにする。
【解決手段】誘電体セラミック層2を構成する誘電体セラミックとして、主成分がBaTiO系であり、副成分としてLiを含み、Li含有量e[モル部]が、主成分100モル部に対し、0.5≦e≦6.0であり、当該誘電体セラミックのグレインについて、グレイン径の平均値Rg[μm]が0.06<Rg<0.17、より好ましくは0.06<Rg<0.14であり、その標準偏差σg[μm]がσg<0.075であるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、誘電体セラミックおよびその製造方法ならびに積層セラミックコンデンサに関するもので、特に、積層セラミックコンデンサにおける誘電体セラミック層のより薄層化を図るための改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、積層された複数の誘電体セラミック層と誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成される複数の内部電極とをもって構成される、コンデンサ本体を備えている。コンデンサ本体のたとえば互いに対向する各端面上には、複数の内部電極を互いに電気的に接続する外部電極が形成される。内部電極は、一方の外部電極に電気的に接続されるものと他方の外部電極に電気的に接続されるものとがあり、一方の外部電極に電気的に接続される内部電極と他方の外部電極に電気的に接続される内部電極とが積層方向に関して交互に配置されている。
【0003】
内部電極に含まれる導電材料としては、低コストを目的とし、通常、Niが用いられている。積層セラミックコンデンサを製造するにあたって、焼結した状態にある誘電体セラミック層を得るため、コンデンサ本体を焼成する工程が実施されるが、この焼成工程は、コンデンサ本体に内部電極を内蔵した状態で実施されなければならない。しかしながら、内部電極に含まれるNiは卑金属であるため、上述の焼成工程では、還元性雰囲気が適用されなければならない。
【0004】
他方、誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミックとしては、通常、高い誘電率が得られるBaTiO系のものが用いられる。
【0005】
積層セラミックコンデンサでは、単位体積あたりの静電容量を増やすため、誘電体セラミック層の薄層化が進められている。
【0006】
誘電体セラミック層の薄層化を進めるためには、内部電極の薄層化をも進めた方が効果的であるが、内部電極を薄くすると、還元性雰囲気下での焼成時に、内部電極が球状化しやすく、その結果、内部電極が切れやすくなる。このような不都合を回避するためには、より低温での焼成によって誘電体セラミックを焼結させることが有効である。低温での焼結を可能にするには、たとえばSiOを含む焼結助剤を、焼成されるべきセラミック材料に含ませておくことが有効であり、より効果的な低温焼結化を図るため、特開2001−89231号公報(特許文献1)には、リチウムを含ませておくことが開示されている。
【0007】
すなわち、特許文献1には、BaTiOに換算して89〜97モル%のチタン酸バリウムと、Yに換算して0.1〜10モル%の酸化イットリウムと、MgOに換算して0.1〜7モル%の酸化マグネシウムと、Vに換算して0.01〜0.3モル%の酸化バナジウムと、MnOに換算して0.5モル%以下の酸化マンガンと、(Ba・Ca)SiOに換算して0.5〜7モル%の珪酸バリウム・カルシウムとを含む主成分を有する誘電体セラミック組成物であって、上記主成分100モル%に対して、リチウム化合物をLiOに換算して0.01〜5.0重量%含むものが開示されている。
【0008】
上記特許文献1に記載の誘電体セラミック組成物において、リチウムは、焼結助剤としての作用をなすとともに、誘電体セラミックの誘電率温度特性の向上に寄与するとされている。
【0009】
一方、積層セラミックコンデンサの小型化に対する要求がより厳しくなりつつあって、誘電体セラミック層の薄層化を、厚み1μm未満のレベルにまで進めたいという要望がある。誘電体セラミック層が薄層化されるに従って、誘電体セラミック層に印加される電界がより大きくなるので、上記のような要望を満たすためには、誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミックに対して、これまで以上の高い絶縁性および寿命特性が必要となってくる。ところが、前述の特許文献1に記載の組成を有する誘電体セラミックを用いると、十分な寿命特性を得ることができないという問題があった。
【特許文献1】特開2001‐89231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、誘電体セラミックおよびその製造方法ならびに上記誘電体セラミックを用いて構成される積層セラミックコンデンサを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、主成分がBaTiO系である誘電体セラミックにまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、副成分としてLiを含み、Li含有量e[モル部]が、主成分100モル部に対し、0.5≦e≦6.0であり、当該誘電体セラミックのグレインについて、グレイン径の平均値Rg[μm]が0.06<Rg<0.17であり、その標準偏差σg[μm]がσg<0.075であることを特徴としている。
【0012】
この発明に係る誘電体セラミックは、好ましくは、組成式:100(Ba1-xCaTiO+aRO3/2+bMgO+cMO+dSiO+eLiO1/2 (m、a、b、c、dおよびeはモル比を示す。RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、LuおよびYから選ばれる少なくとも1種を含有する。Mは、MnおよびVの少なくとも一方を含有する。)で表され、かつ、
0.96≦m≦1.03、
0≦x≦0.2、
0.2≦a≦5.0、
0≦b≦2.0、
0.2≦c≦1.0、および
0.5≦d≦4.0
の各条件を満足する。
【0013】
この発明に係る誘電体セラミックは、グレイン径の平均値Rg[μm]が0.06<Rg<0.14であり、その標準偏差σg[μm]がσg<0.075であるといったより限定的な条件を満たすことが好ましい。
【0014】
この発明は、また、積層された複数の誘電体セラミック層、および前記誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された複数の内部電極をもって構成される、コンデンサ本体と、コンデンサ本体の外表面上の互いに異なる位置に形成され、かつ内部電極の特定のものに電気的に接続される、複数の外部電極とを備える、積層セラミックコンデンサにも向けられる。
【0015】
この発明に係る積層セラミックコンデンサは、内部電極の積層方向に隣り合うものの間に位置する誘電体セラミック層の厚みが1μm未満であり、かつ、誘電体セラミック層は、上述したこの発明に係る誘電体セラミックからなることを特徴としている。
【0016】
この発明は、さらに、誘電体セラミックの製造方法にも向けられる。
【0017】
この発明に係る誘電体セラミックの製造方法は、BaTiO系を主成分とするBaTiO系セラミック粉末を用意する工程と、Li化合物を含む副成分を用意する工程と、上記BaTiO系セラミック粉末に上記副成分を混合することによって、セラミック原料粉末を得る工程と、セラミック原料粉末を成形することによって、セラミック成形体を得る工程と、セラミック成形体を焼成することによって、誘電体セラミックを得る工程とを備え、上記セラミック原料粉末において、Li含有量e[モル部]が、主成分100モル部に対し、0.5≦e≦6.0であり、上記BaTiO系セラミック粉末において、粒径の平均値Rb[μm]が0.06<Rb<0.17であり、その標準偏差σb[μm]がσb<0.065であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係る誘電体セラミックによれば、副成分としてLiを含むとともに、グレイン径が十分に小さく、かつ、粗大粒もないため、これを、積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層を構成するために用いたとき、誘電体セラミック層の厚みが1μm未満というに薄層化が進められても、良好な寿命特性を与えることができる。
【0019】
この発明に係る誘電体セラミックが、組成式:100(Ba1-xCaTiO+aRO3/2+bMgO+cMO+dSiO+eLiO1/2で表され、かつ、
96≦m≦1.03、0≦x≦0.2、0.2≦a≦5.0、0≦b≦2.0、0.2≦c≦1.0、および0.5≦d≦4.0の各条件を満足するとき、寿命特性をさらに向上させることができる。
【0020】
また、この発明に係る誘電体セラミックにおいて、グレイン径の平均値Rg[μm]が0.06<Rg<0.14であり、その標準偏差σg[μm]がσg<0.075であるといったより限定的な条件を満たすと、寿命特性をさらに向上させることができる。
【0021】
この発明に係る誘電体セラミックの製造方法によれば、粒度分布がシャープな主成分粉末に、適切な量のLiを加えることによって、焼成による粒成長が適切に抑えられ、シャープな粒度分布をもつグレインが得られる。結果として、この製造方法によって得られた誘電体セラミックを、積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層を構成するために用いたとき、誘電体セラミック層の厚みが1μm未満というに薄層化が進められても、良好な寿命特性を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、この発明に係る誘電体セラミックが適用される積層セラミックコンデンサ1を示す断面図である。
【0023】
積層セラミックコンデンサ1は、積層された複数の誘電体セラミック層2と誘電体セラミック層2間の特定の界面に沿って形成される複数の内部電極3および4とをもって構成される、コンデンサ本体5を備えている。内部電極3および4は、たとえば、Niを主成分としている。
【0024】
コンデンサ本体5の外表面上の互いに異なる位置には、第1および第2の外部電極6および7が形成される。外部電極6および7は、たとえば、Cuを主成分としている。図1に示した積層セラミックコンデンサ1では、第1および第2の外部電極6および7は、コンデンサ本体5の互いに対向する各端面上に形成される。内部電極3および4は、第1の外部電極6に電気的に接続される複数の第1の内部電極3と第2の外部電極7に電気的に接続される複数の第2の内部電極4とがあり、これら第1および第2の内部電極3および4は、積層方向に関して交互に配置されている。
【0025】
このような積層セラミックコンデンサ1において、隣り合う第1の内部電極3と第2の内部電極4との間に位置する誘電体セラミック層2の厚みは、1μm未満とされる。
【0026】
誘電体セラミック層2を構成する誘電体セラミックは、主成分がBaTiO系であり、副成分としてLiを含み、Li含有量e[モル部]が、主成分100モル部に対し、0.5≦e≦6.0である。また、この誘電体セラミックのグレインについて、グレイン径の平均値Rg[μm]が0.06<Rg<0.17であり、その標準偏差σg[μm]がσg<0.075である。
【0027】
このように、誘電体セラミック層2を構成する誘電体セラミックが、Liを含むとともに、グレイン径が十分に小さく、かつ、粗大粒もないため、誘電体セラミック層2の厚みが1μm未満というに薄層化が進められても、積層セラミックコンデンサ1において、良好な寿命特性を得ることができる。
【0028】
寿命特性をより向上させるため、誘電体セラミックは、組成式:100(Ba1-xCaTiO+aRO3/2+bMgO+cMO+dSiO+eLiO1/2 (m、a、b、c、dおよびeはモル比を示す。RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、LuおよびYから選ばれる少なくとも1種を含有する。Mは、MnおよびVの少なくとも一方を含有する。)で表されるものとされ、かつ、
0.96≦m≦1.03、
0≦x≦0.2、
0.2≦a≦5.0、
0≦b≦2.0、
0.2≦c≦1.0、および
0.5≦d≦4.0
の各条件を満足するようにされることが好ましい。
【0029】
また、寿命特性をより向上させるため、グレイン径の平均値Rg[μm]が0.06<Rg<0.14であり、その標準偏差σg[μm]がσg<0.075であるというように、より限定されることが好ましい。
【0030】
積層セラミックコンデンサ1を製造するにあたって、コンデンサ本体5の生の状態のものが用意され、これを焼成することが行なわれる。生のコンデンサ本体5は、内部電極3または4となる導電性ペースト膜が形成されたセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートが積層されることによって得られる。セラミックグリーンシートは、焼成されたとき、コンデンサ本体5に備える誘電体セラミック層2となる。
【0031】
上述したセラミックグリーンシートを作製するため、まず、BaTiO系を主成分とするBaTiO系セラミック粉末が用意される。このBaTiO系セラミック粉末は、その粒径の平均値Rb[μm]が0.06<Rb<0.17であり、その標準偏差σb[μm]がσb<0.065であるようにされる。
【0032】
他方、Li化合物を含む副成分が用意される。
【0033】
そして、上記BaTiO系セラミック粉末に上記副成分が混合される。これによって、セラミック原料粉末が得られる。このセラミック原料粉末において、Li含有量e[モル部]が、主成分100モル部に対し、0.5≦e≦6.0であるようにされる。
【0034】
次に、セラミック原料粉末にバインダおよび有機溶剤を加えて混合することによって、セラミックスラリーを作製し、このセラミックスラリーをシート状に成形することによって、セラミックグリーンシートを得ることができる。
【0035】
上述のように、セラミックグリーンシートに含まれる、粒度分布がシャープなBaTiO系セラミック粉末に、適切な量のLiを加えることによって、コンデンサ本体5を得るための焼成工程において、粒成長が適切に抑えられ、シャープな粒度分布をもつグレイン(焼結体の粒子)が得られる。したがって、前述したように、誘電体セラミック層2の厚みが1μm未満というに薄層化が進められても、積層セラミックコンデンサ1において、良好な寿命特性を得ることができる。
【0036】
なお、この発明が適用される積層セラミックコンデンサは、図1に示すような構造を有するものに限らず、たとえば、複数の内部電極がコンデンサ本体内部において直列容量を形成する構造のもの、あるいは、アレイ状の積層セラミックコンデンサまたは低ESL化された積層セラミックコンデンサのような多端子構造のものであってもよい。
【0037】
以下に、この発明に基づいて実施した実験例について説明する。
【0038】
[実験例1]
実験例1では、グレインの粒度分布およびLi添加量が、寿命特性に与える影響を調べた。
【0039】
(A)誘電体原料配合物の作製
まず、主成分の出発原料として、BaCOおよびTiOを用いて、表1に示す平均粒子径(Rb)および標準偏差(σb)を有するBa1.007TiO粉末を準備した。平均粒子径(Rb)および標準偏差(σb)は、FE−SEMにて観察し、300個の粒子から、平均円相当径として解析し、算出した。次に、副成分と混合するに先立って、出発原料のBa1.007TiO粉末を秤量した後、水を媒体としてボールミルにより湿式混合し、凝集体を解砕した。
【0040】
他方、副成分として、Dy、MgCO、MnCO、SiOおよびLiCOの各粉末を準備し、これらを、
組成式:100Ba1.007TiO+1.0DyO3/2+0.7MgO+0.3MnO+1.5SiO+eLiO1/2
で表され、かつ上記組成式中の係数eが表1に示す「Li添加量e」となるように、上記Ba1.007TiO粉末と配合し、水を媒体としてボールミルにより混合した。その後、蒸発乾燥により試料1〜18の各々に係る誘電体原料配合物を得た。なお、試料1〜9と試料10〜18とは、平均粒子径(Rb)および標準偏差(σb)ならびにLi添加量eの各々については互いに同じであるが、以下に進める積層セラミックコンデンサの作製工程において、セラミック層の厚みが異ならされた点で異なっている。
【0041】
【表1】

【0042】
(B)積層セラミックコンデンサの作製
上記誘電体原料配合物に、ポリビニルブチラール系バインダおよびエタノールを加えて、ボールミルにより湿式混合し、セラミックスラリーを得た。このセラミックスラリーをリップコータによりシート成形し、セラミックグリーンシートを得た。このとき、後述するように、セラミックグリーンシートとして、焼成後の厚みが0.9μmとなるものと1.0μmとなるものとの2種類の厚みのものを作製した。
【0043】
次に、上記セラミックグリーンシート上に、Niを主成分とする導電ペーストをスクリーン印刷し、内部電極を構成するための導電ペースト膜を形成した。
【0044】
次に、導電ペースト膜が形成されたセラミックグリーンシートを、導電ペースト膜の引き出されている側が互い違いになるように複数枚積層し、生のコンデンサ本体を得た。次に、この生のコンデンサ本体を、N雰囲気中にて300℃の温度に加熱し、バインダを燃焼させた後、酸素分圧10-10MPaのH−N−HOガスからなる還元性雰囲気中にて1025℃の温度で2時間焼成し、焼結したコンデンサ本体を得た。
【0045】
次に、上記コンデンサ本体の両端面に、B−LiO−SiO−BaOガラスフリットを含有するCuペーストを塗布し、N雰囲気中において800℃の温度で焼き付け、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成し、各試料に係る積層セラミックコンデンサを得た。
【0046】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、長さ2.0mm、幅1.2mm、厚さ1.0mmであり、内部電極間に介在する誘電体セラミック層の厚みは、表2の「セラミック層厚み」の欄に示すとおりであった。また、有効誘電体セラミック層の数は100であり、1層当たりの対向電極面積は1.4mmであった。
【0047】
(C)特性評価およびセラミック微構造観察
特性評価として、誘電率、誘電損失(DF)、容量温度特性、および高温負荷寿命特性を評価した。
【0048】
誘電率を求めるための静電容量および誘電損失(DF)は、温度25℃、1kHz、およびAC電圧0.5Vrmsの条件下で測定した。
【0049】
容量温度特性は、温度変化に対する静電容量の変化率を求めたもので、25℃での静電容量を基準とした−55℃〜85℃の範囲での変化率の最大の値を採用した。−55℃〜85℃の範囲での変化率が±15%以内であれば、EIA規格のX5R特性を満足することになる。
【0050】
高温負荷寿命特性を求めるため、温度150℃にて、12.5Vの直流電圧を印加して、絶縁抵抗の経時変化を測定する、加速信頼性試験を実施した。この加速信頼性試験において、絶縁抵抗値が10Ω以下になった時点を故障と判定し、この故障に至るまでの時間の平均値、すなわち平均故障時間を求めた。
【0051】
また、セラミック微構造を観察した。すなわち、試料となる積層セラミックコンデンサの破断面をFE−SEMにて観察し、300個のグレインから、平均円相当径として解析し、平均グレイン径Rgおよびその標準偏差σgを算出した。
【0052】
以上の特性評価およびセラミック微構造観察の結果が表2に示されている。
【0053】
【表2】

【0054】
まず、表2に示した試料のすべてについて、比誘電率が1500以上であり、DFが5%未満であり、温度特性がX5R特性を満たしていた。
【0055】
セラミック層厚みが0.9μmの試料1〜9のうち、Li添加量e[モル部]が0.5≦e≦6.0であるという条件と、平均グレイン径Rg[μm]が0.06<Rg<0.17であるという条件と、その標準偏差σg[μm]がσg<0.075であるという条件との3つの条件をすべて満たす試料1において、良好な寿命特性が得られた。このことから、上記Rg、σgおよびeの3要素の相乗効果により、セラミック層の厚みが1μm未満といった薄層品においても、良好な寿命特性が得られることが明らかとなった。
【0056】
これは、次のように推測される。副成分中にLiが0.5≦e≦6.0の範囲内で存在することにより、Liが、インヒビターとしてグレイン成長を抑制し、グレイン径分布を狭くするように作用する。グレイン径分布が狭くなることにより、信頼性が改善する。さらに、副成分中にLiが0.5≦e≦6.0の範囲内で存在するときに、平均粒子径Rb[μm]が0.06<Rb<0.17であって、標準偏差σb[μm]がσb<0.065である、チタン酸バリウム系セラミック粉末を主成分として含むセラミック原料粉末を用いると、焼結後の誘電体セラミック中のグレインの粒度分布が大幅に狭くなり、セラミック層の厚みが1.0μm未満の薄層であっても、加速信頼性試験における平均故障時間が100時間以上と信頼性を向上させることができる。
【0057】
なお、セラミック層の厚みが1.0μmの試料10〜18においても、試料1のように、Li添加量e[モル部]が0.5≦e≦6.0であるという条件と、平均グレイン径Rg[μm]が0.06<Rg<0.17であるという条件と、その標準偏差σg[μm]がσg<0.075であるという条件との3つの条件をすべて満たせば、試料10のように、良好な寿命特性が得られた。しかしながら、寿命特性について、セラミック層の厚みが1μm以上の試料間で比較する場合に比べて、セラミック層の厚みが1.0μm未満の試料間で比較する場合の方が、上記3つの条件を満たす試料とそうでない試料との差がより顕著であった。
【0058】
[実験例2]
実験例2は、寿命特性向上にとって、より好ましい組成範囲を規定するために実施したものである。
【0059】
(A)誘電体原料配合物の作製
まず、主成分の出発原料として、BaCO、CaCOおよびTiOの各粉末を準備し、これら粉末を、表3に示されたmおよびxをそれぞれ有する(Ba1-xCaTiOの組成になるように秤量し、次いで、熱処理し、表3に示す平均粒子径(Rb)および標準偏差(σb)を有する(Ba1-xCaTiO粉末を得た。次に、副成分と混合するに先立って、出発原料の(Ba1-xCaTiO粉末を秤量した後、水を媒体としてボールミルにより湿式混合し、凝集体を解砕した。
【0060】
他方、副成分として、R(Rは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、LuおよびYから選ばれる1種である。)、Mg、M(Mは、MnおよびVの少なくとも一方である。)、SiおよびLiの各々の酸化物または炭酸塩の各粉末を準備し、これらを、
組成式:100(Ba1-xCaTiO+aRO3/2+bMgO+cMO+dSiO+eLiO1/2
で表され、かつ表3にそれぞれ示す、M成分およびR成分をそれぞれ用いながら、係数a、b、c、dおよびeを有する組成となるように、上記(Ba1-xCaTiO粉末と配合し、水を媒体としてボールミルにより混合した。その後、蒸発乾燥により試料101〜128の各々に係る誘電体原料配合物を得た。
【0061】
【表3】

【0062】
(B)積層セラミックコンデンサの作製
実験例1の場合と同様の操作を経て、各試料に係る積層セラミックコンデンサを得た。誘電体セラミック層の厚みは、0.8μmとした。
【0063】
(C)特性評価およびセラミック微構造観察
実験例1の場合と同様の特性評価およびセラミック微構造観察を行なった。その結果が表4に示されている。
【0064】
【表4】

【0065】
まず、表4に示した試料のすべてについて、この発明の範囲内にあり、DFが5%未満であり、110時間以上の平均故障時間を示した。
【0066】
しかしながら、表4に示した試料のうち、特に試料101〜118については、
組成式:100(Ba1-xCaTiO+aRO3/2+bMgO+cMO+dSiO+eLiO1/2において、
0.96≦m≦1.03、
0≦x≦0.2、
0.2≦a≦5.0、
0≦b≦2.0、
0.2≦c≦1.0、および
0.5≦d≦4.0
の各条件を満足しており、その結果、比誘電率が1500以上であり、温度特性がX5R特性を満足し、平均故障時間が150時間以上であって寿命特性がより向上している。
【0067】
これらに対して、mに関して、m<0.960である試料119では、平均故障時間が150時間未満と短く、他方、m>1.030である試料120では、比誘電率が1500未満と低く、平均故障時間が150時間未満と短い。
【0068】
また、xに関して、x>0.20である試料121では、平均故障時間が150時間未満と短い。
【0069】
また、aに関して、a<0.2である試料122では、平均故障時間が150時間未満と短く、他方、a>5.0である試料123では、誘電率の温度変化率の絶対値が15%以上と大きく、平均故障時間が150時間未満と短い。
【0070】
また、bに関して、b>2.0である試料124では、平均故障時間が150時間未満と短い。
【0071】
また、cに関して、c<0.2である試料125では、平均故障時間が150時間未満と短く、他方、c>1.0である試料126でも、平均故障時間が150時間未満と短い。
【0072】
また、dに関して、d<0.5である試料127では、平均故障時間が150時間未満と短く、他方、d>4.0である試料128では、誘電率の温度変化率の絶対値が15%以上と大きく、平均故障時間が150時間未満と短い。
【0073】
[実験例3]
実験例3は、平均グレイン径について、より好ましい範囲を求めようとするものである。
【0074】
(A)誘電体原料配合物の作製
表5に示す平均粒子径(Rb)および標準偏差(σb)を有するBaTiO系粉末を用いたことを除いて、実験例1における試料1に係る誘電体原料配合物の場合と同様にして、試料201および202の各々に係る誘電体原料配合物を得た。
【0075】
【表5】

【0076】
(B)積層セラミックコンデンサの作製
実験例1の場合と同様の操作を経て、各試料に係る積層セラミックコンデンサを得た。誘電体セラミック層の厚みは、0.9μmとした。
【0077】
(C)特性評価およびセラミック微構造観察
実験例1の場合と同様の特性評価およびセラミック微構造観察を行なった。特性評価の結果が表6に示されている。
【0078】
【表6】

【0079】
表6に示すように、平均グレイン径Rg[μm]が0.06<Rg<0.14の範囲内にある試料201の方が、この範囲から外れる試料202に比べて、寿命特性がさらに良好である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】この発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1 積層セラミックコンデンサ
2 誘電体セラミック層
3,4 内部電極
5 コンデンサ本体
6,7 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分がBaTiO系である誘電体セラミックであって、
副成分としてLiを含み、Li含有量e[モル部]が、主成分100モル部に対し、0.5≦e≦6.0であり、
当該誘電体セラミックのグレインについて、グレイン径の平均値Rg[μm]が0.06<Rg<0.17であり、その標準偏差σg[μm]がσg<0.075である、
誘電体セラミック。
【請求項2】
組成式:100(Ba1-xCaTiO+aRO3/2+bMgO+cMO+dSiO+eLiO1/2 (m、a、b、c、dおよびeはモル比を示す。RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、LuおよびYから選ばれる少なくとも1種を含有する。Mは、MnおよびVの少なくとも一方を含有する。)で表され、かつ、
0.96≦m≦1.03、
0≦x≦0.2、
0.2≦a≦5.0、
0≦b≦2.0、
0.2≦c≦1.0、および
0.5≦d≦4.0
の各条件を満足する、請求項1に記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
グレイン径の平均値Rg[μm]が0.06<Rg<0.14であり、その標準偏差σg[μm]がσg<0.075である、請求項1または2に記載の誘電体セラミック。
【請求項4】
積層された複数の誘電体セラミック層、および前記誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された複数の内部電極をもって構成される、コンデンサ本体と、
前記コンデンサ本体の外表面上の互いに異なる位置に形成され、かつ前記内部電極の特定のものに電気的に接続される、複数の外部電極と
を備え、
前記内部電極の積層方向に隣り合うものの間に位置する前記誘電体セラミック層の厚みは1μm未満であり、かつ、
前記誘電体セラミック層は、請求項1ないし3のいずれかに記載の誘電体セラミックからなる、
積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
BaTiO系を主成分とするBaTiO系セラミック粉末を用意する工程と、
Li化合物を含む副成分を用意する工程と、
前記BaTiO系セラミック粉末に前記副成分を混合することによって、セラミック原料粉末を得る工程と、
前記セラミック原料粉末を成形することによって、セラミック成形体を得る工程と、
前記セラミック成形体を焼成することによって、誘電体セラミックを得る工程と
を備え、
前記セラミック原料粉末において、Li含有量e[モル部]が、主成分100モル部に対し、0.5≦e≦6.0であり、
前記BaTiO系セラミック粉末において、粒径の平均値Rb[μm]が0.06<Rb<0.17であり、その標準偏差σb[μm]がσb<0.065である、
誘電体セラミックの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−52964(P2010−52964A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217585(P2008−217585)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】